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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 D21H |
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管理番号 | 1360503 |
異議申立番号 | 異議2019-701056 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-12-24 |
確定日 | 2020-02-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6536795号発明「段ボール用中芯原紙及び段ボール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6536795号の請求項1?3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6536795号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年3月27日(優先権主張 平成26年3月28日)の出願であって、令和元年6月14日に特許権の設定登録がされ、令和元年7月3日に特許掲載公報が発行された。その特許について、令和元年12月24日に特許異議申立人亀崎伸宏(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1?3」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されると以下のおりのものである。 「【請求項1】 熱伝導率が0.222W/(m・K)以上である段ボール用中芯原紙(但し、水酸化アルミニウム粉末を含まない)。 【請求項2】 請求項1に記載の段ボール用中芯原紙とライナーからなる段ボール。 【請求項3】 前記段ボール用中芯原紙の熱伝導率の値yが0.222W/(m・K)≦y、且つ前記ライナーの熱伝導率の値xが0.221W/(m・K)≦x、且つy≧-3.993x+1.139を満足する範囲の値とした、請求項2に記載の段ボール。」 第3 当審の判断 1 異議申立理由の概要 申立人が主張する取消理由の概要は、以下のとおりである。 (実施可能要件)本件発明1?3に係る特許は、本件特許明細書の記載が、以下の点で不備であるため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (1)【0039】には、「<実施例2?9及び比較例1?6> 中芯原紙の熱伝導率および貼合するライナーを表1に示すように替えたこと以外は、実施例1と同様にして各段ボール中芯原紙を得た。」と記載されており、中芯原紙A?Eを製造するための原料や製造方法が同一であるにも関わらず、異なる熱伝導率を有する中芯原紙A?Eを製造できることは考えられない。 (2)「熱伝導率」は、その物質の種類によるものであり、紙の厚みによって調製できるものでない。また、密度を小さくすると、空隙率の高い紙となり、熱伝導率の悪い空気を多く含む紙となり、熱伝導率は小さくなる。 したがって、本件特許明細書中の【0002】、【0003】、【0014】及び【0018】の「熱伝導率」に関する記載は、単に「熱伝導」や「熱抵抗」もしくは「熱移動量」の概念である。 (3)中芯原紙の熱伝導率を高くする方法としては、一般的に、パルプよりも熱伝導率の高い材料を含有させる方法があるが、本件特許明細書に記載された古紙パルプを主成分とし、これに硫酸バンドやサイズ剤などの添加された副原料が熱伝導率にどのように影響するのかは、技術常識でない。 (4)本件特許明細書には、異なる熱伝導率を有する中芯原紙を製造する方法が一切記載も示唆もなく、出願時の技術常識を考慮しても、当業者が本件発明1?3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 2 取消理由についての判断 (1) 本件特許明細書には、熱伝導率について「 [熱伝導率測定方法] 熱伝導率は京都電子工業製GTM-T3を使用して測定した。方法は熱線プローブ法である。シリコーンゴム(熱伝導率0.238W/(m・K))の板上に段ボール用中芯原紙を6枚重積層し(約1.00mmの厚さ)、プローブをシート面に当て、熱伝導率を測定した。」(【0031】)と記載されており、当該熱伝導率の測定方法は、いわゆる熱伝導率の測定方法として一般に慣用されている測定方法である。 そして、本件特許明細書の中芯原紙A?E熱伝導率は、当該測定方法により測定されたものであるから、通常の意味での熱伝導率であることに何ら疑いはない。 (2) 確かに、申立人が主張するように「熱伝導率」は、その物質の種類によるものであり、紙の厚みによって調製できるものでなく、密度を小さくすると、空隙率の高い紙となり、熱伝導率の悪い空気を多く含む紙となり、通常熱伝導率が小さくなることが技術常識と考えられるところ、本件特許明細書中の【0002】、【0003】、【0014】及び【0018】の「熱伝導率」に関する記載が、当該技術常識に照らして正確でないとしても、紙において、熱伝導率の高いものも、低いものも周知であって、紙中にパルプよりも熱伝導率の高い材料を含有させることで、紙の熱伝導率を高くすることが可能であることを考慮すると、上記段落の記載が正確でないことをもって、本件特許発明が実施できないとまではいえない。 (3) 申立人は、中芯原紙A?Eを製造するための原料や製造方法が同一である旨主張するが、【0039】には、「中芯原紙の熱伝導率・・・を表1に示すように替えたこと以外は、実施例1と同様にして各段ボール中芯原紙を得た。」と記載されているのであるから、中芯原紙の熱伝導率を替えるための事項は実施例1と異なるのであって、上記技術常識に従えば、実施例1と原料や製造方法が同一であるとは理解できない。 ゆえに、申立人の当該主張は採用できない。 (4) さらに、申立人は、本件特許明細書に記載された古紙パルプを主成分としし、これに硫酸バンドやサイズ剤などの添加された副原料が熱伝導率にどのように影響するのかは、技術常識でない旨主張するが、通常、熱伝導率の高い原料を紙に多く混入させれば、紙の熱伝導率が高くなることが想定されるから、申立人の当該主張は採用できない。 (5) したがって、本件特許明細書は、本件特許発明を当業者が実施できる程度に記載されていないとする理由はない。 第4 むすび 以上のとおり、申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-02-20 |
出願番号 | 特願2015-67746(P2015-67746) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(D21H)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 長谷川 大輔 |
特許庁審判長 |
高山 芳之 |
特許庁審判官 |
佐々木 正章 中村 一雄 |
登録日 | 2019-06-14 |
登録番号 | 特許第6536795号(P6536795) |
権利者 | 新東海製紙株式会社 |
発明の名称 | 段ボール用中芯原紙及び段ボール |
代理人 | 森 隆一郎 |
代理人 | 実広 信哉 |