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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08L |
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管理番号 | 1360927 |
審判番号 | 不服2019-5728 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-04-26 |
確定日 | 2020-04-07 |
事件の表示 | 特願2015- 45863「プロピレン系樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月15日出願公開、特開2016-166272、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年3月9日の出願であって、平成30年8月3日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月4日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、平成31年1月24日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年4月26日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成31年1月24日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1ないし4に係る発明は、以下の引用文献1及び2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2009-167407号公報 2.特開2015-17240号公報 第3 本願発明 本願請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ順に「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、平成30年10月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 プロピレン単位と、エチレン単位と、所望により炭素数4?8のα-オレフィンの少なくとも一種の単位と、を含むプロピレン・エチレンブロック共重合体(A):30?85質量部と、 プロピレン単独重合体(B):0?30質量部と、 エチレン単位と、炭素数4?8のα-オレフィンの少なくとも一種の単位と、を含むエチレン系エラストマー(C)(ただし、プロピレン単位を含まない):5?30質量部と、 平均粒子径が3?6μmであり、比表面積が15?20m^(2)/gであるタルク(D):10?40質量部と(ただし、(A)?(D)の合計は100質量部)、 を含有するプロピレン系樹脂組成物。」 なお、本願発明2ないし4は、本願発明1を減縮した発明である。 第4 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について (1)引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。 なお、下線は、当審で付与した。 ア 「【請求項1】 プロピレン系重合体(A)99?60重量部と、 平均粒子径が0.01?100μmの無機充填剤(B)1?40重量部と、 下記要件(a)、(b)及び(c)を満足するヒンダードアミン系光安定剤(C)0.05?5重量部とを含有する(ただし、前記プロピレン系重合体(A)と該無機充填剤(B)の合計量は100重量部である)ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。 要件(a): 式(I)で表される2,2,6,6-テトラメチルピペリジル基を有する。 要件(b): 8未満の酸解離定数(pka)を有する。 要件(c): 温度300℃かつ窒素ガス雰囲気下での熱重量分析により測定される重量減少率が10重量%未満である。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、揮発性有機化合物(VOC)の放散量及び成形時の金型汚染をより低減させることができ、かつ、耐光安定性、耐熱性に優れる成形体を提供することが可能なポリプロピレン系樹脂組成物、及びそれからなる成形体を提供することである。」 ウ 「【実施例】 【0093】 以下、実施例及び比較例によって本発明を説明する。実施例及び比較例で使用したプロピレン系ブロック共重合体、添加剤を以下に示した。 【0094】 (1)プロピレン系重合体(成分(A)) (A-1)プロピレン単独重合体 分子量分布が4.2であり、極限粘度[η]_(P)が1.45dl/gであり、アイソタクチック・ペンタッド分率が0.97であり、MFR(230℃)が13g/10分であるプロピレン単独重合体を用いた。 【0095】 (A-2)プロピレン-(プロピレン-エチレン)ブロック共重合体 プロピレン単独重合体成分(重合体成分(I))とプロピレン-エチレンランダム共重合体成分(重合体成分(II))とからなるブロック共重合体 ブロック共重合体のMFR:52g/10分 ブロック共重合体のエチレン含量:4.2重量% ブロック共重合体の極限粘度[η]_(total):1.4dl/g [η]_(II)/[η]_(I)=5.43 重合体成分(I):プロピレン単独重合体成分 重合体成分(I)の分子量分布:4.2 重合体成分(I)のアイソタクチック・ペンタッド分率:0.97 重合体成分(I)の極限粘度[η]_(I):0.92dl/g 重合体成分(II):プロピレン-エチレンランダム共重合体成分 重合体成分(II)の含有量:13重量% 重合体成分(II)のエチレン含有量:32重量% 重合体成分(II)の極限粘度[η]_(II):5.0dl/g ・・・ 【0097】 (2)無機充填材(B) (B-1)タルク(林化成社製 MWHST;平均粒子径:4.9μm) (B-2)タルク(カミタルク社製JR63;平均粒子径:5.3μm) (B-3)タルク(林化成社製 SM-P;平均粒子径:8.9μm) (B-4)繊維状マグネシウムオキシサルフェート(宇部マテリアルズ社製 モスハイジ A;平均繊維径:0.5μm、平均繊維径:10μm、アスペクト比:20) 【0098】 (3)ヒンダードアミン系光安定剤(成分(C)) (C-1) 製品名:UVINUL5050H:BASFジャパン株式会社製 立体障害アミンオリゴマー「N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)マレイン酸イミド、及びα-オレフィン(C20-24)からなる共重合体」 構造式: 分子量:3500 pKa:7.0 熱重量分析(TG-DTA)による重量減少率:2.2重量% ・・・ 【0104】 (4)エチレン-α-オレフィン共重合体(D) (D-1)エチレン-1-オクテンランダム共重合体 デュポンダウエラストマー社製 ENGAGE8842(密度:0.858g/cm^(3)、MFR(230℃):2g/10分) (D-2)エチレン-1-オクテンランダム共重合体 デュポンダウエラストマー社製 ENGAGE8200(密度:0.870g/cm3、MFR(230℃):8g/10分 ・・・ 【0116】 〔実施例1〕 ・・・ 【0119】 [造粒(溶融混練、濾過)] 得られたプロピレン-(プロピレン-エチレン)ブロック共重合体(A-2)の粉末50重量部と、プロピレン単独重合体(A-1)10重量部と、無機充填材(B-1)24重量部と、エチレン-オクテン-1ランダム共重合体(D-1)16重量部と配合し、加えて、この成分(A-1)、(A-2)、(B-1)、(D-1)の合計量100重量部に対し、ステアリン酸マグネシウムを0.05重量部、3,9-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(スミライザーGA80、住友化学製)0.05重量部、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(ウルトラノックスU626、GEスペシャリティーケミカルズ製)0.05重量部、エチレンビスステアリルアマイドを0.08重量部、ステアリン酸モノグリセリド(エレクトロストリッパーTS-5:花王(株)製)0.1重量部 さらに、光安定剤(C-1)0.1重量部配合し、タンブラーで均一に予備混合した後、二軸混練押出機(東芝機械株式会社製、3条タイプ二軸混練機TEM50A)を用いて、押し出し量30kg/hr、200℃、スクリュー回転数を250rpmで混練押出して、ポリプロピレン系樹脂組成物を製造した。」 (2)引用発明 したがって、上記(1)アないしウで摘示したところによれば、上記引用文献1には、実施例1に着目し、下線部も加味すれば、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「プロピレン単独重合体成分(重合体成分(I))とプロピレン-エチレンランダム共重合体成分(重合体成分(II))とからなるプロピレン-(プロピレン-エチレン)ブロック共重合体であって、 ブロック共重合体のMFR:52g/10分 ブロック共重合体のエチレン含量:4.2重量% ブロック共重合体の極限粘度[η]_(total):1.4dl/g [η]_(II)/[η]_(I)=5.43 重合体成分(I):プロピレン単独重合体成分 重合体成分(I)の分子量分布:4.2 重合体成分(I)のアイソタクチック・ペンタッド分率:0.97 重合体成分(I)の極限粘度[η]_(I):0.92dl/g 重合体成分(II):プロピレン-エチレンランダム共重合体成分 重合体成分(II)の含有量:13重量% 重合体成分(II)のエチレン含有量:32重量% 重合体成分(II)の極限粘度[η]_(II):5.0dl/g の物性を有するプロピレン-(プロピレン-エチレン)ブロック共重合体(A-2)の粉末50重量部と、 分子量分布が4.2であり、極限粘度[η]_(P)が1.45dl/gであり、アイソタクチック・ペンタッド分率が0.97であり、MFR(230℃)が13g/10分であるプロピレン単独重合体(A-1)10重量部と、 タルク(林化成社製 MWHST;平均粒子径:4.9μm)である無機充填材(B-1)24重量部と、 エチレン-オクテン-1ランダム共重合体(D-1)であるデュポンダウエラストマー社製 ENGAGE8842(密度:0.858g/cm^(3)、MFR(230℃):2g/10分)16重量部と配合し、 加えて、この成分(A-1)、(A-2)、(B-1)、(D-1)の合計量100重量部に対し、 ステアリン酸マグネシウムを0.05重量部、3,9-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(スミライザーGA80、住友化学製)0.05重量部、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(ウルトラノックスU626、GEスペシャリティーケミカルズ製)0.05重量部、エチレンビスステアリルアマイドを0.08重量部、ステアリン酸モノグリセリド(エレクトロストリッパーTS-5:花王(株)製)0.1重量部 さらに、 製品名:UVINUL5050H:BASFジャパン株式会社製 立体障害アミンオリゴマー「N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)マレイン酸イミド、及びα-オレフィン(C20-24)からなる共重合体(構造式については省略する。分子量:3500、pKa:7.0、熱重量分析(TG-DTA)による重量減少率:2.2重量%)である光安定剤(C-1)0.1重量部 を配合し混練押出して得られる、ポリプロピレン系樹脂組成物。」 2.引用文献2について (1)引用文献2の記載 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。 なお、下線は、当審で付与した。 ア 「【請求項1】 必須成分としてEPDMポリマー、カーボンブラック、電気絶縁性の無定形又は紡錘状フィラー、軟化剤、及び硫黄系加硫剤を含み、任意成分として電気絶縁性の板状フィラーを含むゴム組成物であって、その加硫物が下記の数式1及び数式2を満足するゴム組成物。 体積固有抵抗値≧1.0×10^(6)Ω・cm・・・数式1 (M_(30)〈100℃〉/M_(30)〈23℃〉-1)×100≧-15%・・・数式2 ここで、 M_(30)〈23℃〉:23℃での引張試験において伸び30%のときの引張応力 M_(30)〈100℃〉:100℃での引張試験において伸び30%のときの引張応力」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 そこで、本発明は、製造が容易な硫黄加硫系で、体積固有抵抗値が高く、高温での剛性の変化が小さいゴム組成物及びゴム製品を得ることを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、電気絶縁性のいわゆる白色フィラーについて検討したところ、白色フィラーの粒形の違いが剛性の温度依存性に影響すること、より具体的には板状又は針状フィラーよりも無定形又は紡錘状フィラーの方が剛性の温度依存性が抑えられることを見出して、本発明に至った。この理由としては、板状又は針状フィラーは高温時でポリマーの粘性的な動きに追従して粒形を変化させるが、無定形又は紡錘状フィラーは高温時でもポリマーの粘性的な動きに追従することなく粒形を維持するためではないかと考えられる。」 ウ 「【0016】 1.EPDMポリマー EPDM(エチレン-プロピレン-共役ジエンゴム)ポリマーは、特に限定はされないが、125℃におけるムーニー粘度ML_(1+4)(JIS K6300-1準拠)が40?200であるものが、良好な加工性等を確保することができて好ましい。この値が40未満では、混練等がしにくくなり、140を超えると、押出性が悪くなる。また、ジエン量が4?10質量%であるものが良好な製品を得られて好ましい。また、エチレン量が40?70質量%であるものが良好な製品を得られて好ましい。」 エ 「【0020】 3-2.板状フィラー 板状フィラーは、特に限定されないが、マイクロトラック法による平均粒径0.1?5.0μmのものが好ましい。この値が0.1μm未満では、混練時に分散不良しやすく、5.0μmを超えると、引張り強さ等の機械特性が劣る。また、BET法による比表面積が10?25m^(2)/gのものが好ましい。この値が10m^(2)/g未満では、引張り強さ等の機械特性が劣り、25m^(2)/gを超えると混練時に分散不良しやすい。 板状フィラーとしては、特に限定されないが、微紛タルク、ハードクレー、表面処理クレー、焼成クレー等を例示でき、この群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。」 (2)引用文献2に記載された技術的事項 したがって、上記(2)アないしエで摘示したところによれば、特に下線部を加味すれば、上記引用文献2には、「必須成分としてEPDM(エチレン-プロピレン-共役ジエンゴム)ポリマー、カーボンブラック、電気絶縁性の無定形又は紡錘状フィラー、軟化剤、及び硫黄系加硫剤を含むゴム組成物において、任意成分として配合する電気絶縁性の板状フィラーに関し、当該板状フィラーのBET法による比表面積は引張り強さ等の機械特性や混練時の分散不良を考慮して、10?25m^(2)/gのものが好ましいとされ、かつ当該板状フィラーの具体例として微紛タルクが例示される」という技術的事項が記載されているといえる。 なお、原査定では、拒絶理由通知書に記載したとおりとし、当該拒絶理由通知書には、「引用文献2に記載されるように、無機充填剤として添加するタルクにおいて、特定の比表面積を有するものを用いることにより、機械特性や混練時の分散性等が良好となることが知られている」と記載している。 しかしながら、引用文献2は、EPDMポリマーと電気絶縁性の無定形又は紡錘状フィラーなどを必須成分として含むゴム組成物に係るものであって、ポリプロピレン系樹脂組成物については記載されていない。そして、引用文献2でいう機械特性や混練時の分散性とはあくまでも当該ゴム組成物に係る機械特性や混練時の分散性と解されることに鑑みると、引用文献2において、任意成分にすぎない「板状フィラー」の比表面積に着目し、その例示された中から「タルク」を選択した場合について、さらにゴム組成物以外にまで一般化してなる、「無機充填剤として添加するタルクにおいて、特定の比表面積を有するものを用いることにより、機体特性や混練時の分散性等が良好となることが知られている」という普遍的な技術的事項が記載されているとまではいえない。 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明における「プロピレン単独重合体成分(重合体成分(I))とプロピレン-エチレンランダム共重合体成分(重合体成分(II))とからなるプロピレン-(プロピレン-エチレン)ブロック共重合体であって、 ブロック共重合体のMFR:52g/10分 ブロック共重合体のエチレン含量:4.2重量% ブロック共重合体の極限粘度[η]_(total):1.4dl/g [η]_(II)/[η]_(I)=5.43 重合体成分(I):プロピレン単独重合体成分 重合体成分(I)の分子量分布:4.2 重合体成分(I)のアイソタクチック・ペンタッド分率:0.97 重合体成分(I)の極限粘度[η]_(I):0.92dl/g 重合体成分(II):プロピレン-エチレンランダム共重合体成分 重合体成分(II)の含有量:13重量% 重合体成分(II)のエチレン含有量:32重量% 重合体成分(II)の極限粘度[η]_(II):5.0dl/g の物性を有するプロピレン-(プロピレン-エチレン)ブロック共重合体(A-2)」、「分子量分布が4.2であり、極限粘度[η]Pが1.45dl/gであり、アイソタクチック・ペンタッド分率が0.97であり、MFR(230℃)が13g/10分であるプロピレン単独重合体(A-1)」及び「エチレン-オクテン-1ランダム共重合体(D-1)であるデュポンダウエラストマー社製 ENGAGE8842(密度:0.858g/cm^(3)、MFR(230℃):2g/10分)」は、本願発明1における「プロピレン単位と、エチレン単位と、所望により炭素数4?8のα-オレフィンの少なくとも一種の単位と、を含むプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)」、「プロピレン単独重合体(B)」及び「エチレン単位と、炭素数4?8のα-オレフィンの少なくとも一種の単位と、を含むエチレン系エラストマー(C)(ただし、プロピレン単位を含まない)」にそれぞれ相当する。 イ 引用発明における「タルク(林化成社製MWHST;平均粒子径:4.9μm)である無機充填材(B-1)」は、本願発明1における「タルク(D)」に相当し、その平均粒子径についても4.9μmであるから、本願発明1における「3?6μm」と重複一致する。 ウ そして、引用発明におけるプロピレン-(プロピレン-エチレン)ブロック共重合体(A-2)、プロピレン単独重合体(A-1)、エチレン-オクテン-1ランダム共重合体(D-1)及び無機充填材(B-1)の各成分の含有割合と、本願発明1におけるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)、プロピレン単独重合体(B)、エチレン系エラストマー(C)及びタルク(D)の各成分の含有割合についてもそれぞれ重複一致する。 エ また、引用発明における「ポリプロピレン系樹脂組成物」は、本願発明1における「プロピレン系樹脂組成物」に相当する。 オ そして、引用発明において、さらにステアリン酸マグネシウムや光安定剤(C-1)などの他の成分を含有する点については、本願発明1において、「・・・を含有するプロピレン系樹脂組成物」と特定されていることから、他の成分を含有するものを包含しており、この点は相違点ではない。 カ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「プロピレン単位と、エチレン単位と、所望により炭素数4?8のα-オレフィンの少なくとも一種の単位と、を含むプロピレン・エチレンブロック共重合体(A):30?85質量部と、 プロピレン単独重合体(B):0?30質量部と、 エチレン単位と、炭素数4?8のα-オレフィンの少なくとも一種の単位と、を含むエチレン系エラストマー(C)(ただし、プロピレン単位を含まない):5?30質量部と、 平均粒子径が3?6μmであるタルク(D):10?40質量部と(ただし、(A)?(D)の合計は100質量部)、 を含有するプロピレン系樹脂組成物。」 (相違点) タルクに関し、本願発明1は、「比表面積が15?20m^(2)/gである」という構成を備えるのに対し、引用発明は、比表面積に関しての構成を備えていない点。 (2)相違点についての判断 上記相違点について以下に検討する。 ア 本願の明細書には、「タルク(D)の比表面積は15?20m^(2)/gである。該比表面積が15m^(2)/g未満である場合、剛性と耐衝撃性とのバランスが不十分となる。また、該平均粒子径が20m^(2)/gを超える場合、押出機での加工性が低下する。該比表面積は15?19m^(2)/gが好ましく、15?18m^(2)/gがより好ましく、15?17m^(2)/gがさらに好ましい。なお、該比表面積はBET法により測定した値である。」(段落【0061】)と記載されていることから、相違点に係る「比表面積が15?20m^(2)/gであるタルク(D)」という構成の本願発明1における技術的意義は、プロピレン系樹脂組成物における剛性と耐衝撃性とのバランス及び押出機での加工性を考慮したものであることが理解できる。 そうすると、本願発明1における解決課題は、「剛性と耐衝撃性とのバランスが良好なプロピレン系樹脂組成物を提供すること」(本願の明細書段落【0007】)であると認められるから、本願発明1における解決課題と相違点の内容であるタルク(D)の比表面積が15?20m^(2)/gであることとは密接に関係するものであるといえる。 イ これに対して、引用発明1は、本願発明1とポリプロピレン系樹脂組成物である点でこそ共通するものの、引用発明1における解決課題は、上記第4_1.(1)イで摘示したとおり、「揮発性有機化合物(VOC)の放散量及び成形時の金型汚染をより低減させることができ、かつ、耐光安定性、耐熱性に優れる成形体を提供することが可能なポリプロピレン系樹脂組成物を提供すること」である。 ウ そして、引用文献2にも、上記第4_2.(2)に記載のとおり、「必須成分としてEPDM(エチレン-プロピレン-共役ジエンゴム)ポリマー、カーボンブラック、電気絶縁性の無定形又は紡錘状フィラー、軟化剤、及び硫黄系加硫剤を含むゴム組成物において、任意成分として配合する電気絶縁性の板状フィラーに関し、当該板状フィラーのBET法による比表面積は引張り強さ等の機械特性や混練時の分散不良を考慮して、10?25m^(2)/gのものが好ましいとされ、かつ当該板状フィラーの具体例として微紛タルクが例示される」という技術的事項が記載されているものの、かかる技術的事項は、あくまでもEPDM(エチレン-プロピレン-共役ジエンゴム)ポリマーや電気絶縁性の無定形又は紡錘状フィラー、軟化剤、及び硫黄系加硫剤などを含むゴム組成物を前提とするものであり、ポリプロピレン系樹脂組成物に係るものではない。 エ 以上のとおり、引用文献1に記載された発明において、引用文献1に記載された課題と全く異なる課題を有する引用文献2に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けはあるとはいえない。 仮に、組み合わせたところで、本願発明1における相違点の技術的意義がポリプロピレン系樹脂組成物における剛性と耐衝撃性とのバランスを改善することであることに鑑みれば、本願発明1における相違点の「比表面積が15?20m^(2)/gであるタルク(D)」との技術的事項は、ポリプロピレン系樹脂組成物における剛性と耐衝撃性とのバランスを改善するために「比表面積が15?20m^(2)/gであるタルク(D)」を用いるという意味と解釈すべきであるところ、引用文献2には、上記第4_2.(2)で述べたとおり、「無機充填剤として添加するタルクにおいて、特定の比表面積を有するものを用いることにより、機体特性や混練時の分散性等が良好となることが知られている」という技術的事項が記載されているだけであるから、当業者といえども、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項から、相違点に係る本願発明1の「比表面積が15?20m^(2)/gであるタルク(D)」という構成を容易に想到することができるとはいえない。 オ また、本願発明1が、相違点に係る「比表面積が15?20m^(2)/gであるタルク(D)」という構成を備えることによって、剛性と耐衝撃性とのバランスに優れる、具体的には、曲げ弾性率が高く、常温シャルピー衝撃強度が大きく、かつ低温高速面衝撃試験において全吸収エネルギーが大きいという予期し得ない効果を奏していることは、本願の明細書の実施例と比較例との対比から明らかであって、これは、引用文献1及び2に記載された事項に比べて予測を超える効果であるといえる。 カ したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 2.本願発明2ないし4について 本願発明2ないし4も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1ないし4は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-03-24 |
出願番号 | 特願2015-45863(P2015-45863) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C08L)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 のぞみ |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
佐藤 健史 大▲わき▼ 弘子 |
発明の名称 | プロピレン系樹脂組成物 |
代理人 | 緒方 雅昭 |
代理人 | 宮崎 昭夫 |
復代理人 | 中野 廣己 |