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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2017800007 審決 特許
異議2017701044 審決 特許
不服20186287 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1361005
審判番号 不服2018-5437  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-19 
確定日 2020-03-18 
事件の表示 特願2014-554682「デュシェンヌ型及びベッカー型筋ジストロフィーの治療のための改善された特徴を有するRNA調節オリゴヌクレオチド」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 1日国際公開、WO2013/112053、平成27年 4月 2日国内公表、特表2015-509922〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年1月28日(パリ条約による優先権主張 2012年1月27日 欧州特許庁、2012年1月27日 米国、2012年3月19日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月23日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成29年8月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年12月11日付けで拒絶査定がなされた。その後の手続の経緯は次のとおりである。
平成30年 4月19日 拒絶査定不服審判請求書及び手続補正書の提出
平成30年 6月28日 手続補正書(審判請求書における請求の理由を変更するもの)の提出
平成30年 7月20日付け 前置報告書
平成31年 1月 7日 上申書の提出(前置報告書に対する意見を述べるもの)

第2 平成30年4月19日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年4月19日付の手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1と、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は、それぞれ次のとおりのものである。
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「2’-O-メチルRNAモノマー及びホスホロチオエート骨格を含み、
5-メチルウラシル及び/又は5-メチルシトシン塩基を含み、
ジストロフィンmRNA前駆体エクソン51の少なくとも一部に対して逆相補的である及び/又は結合する及び/又は標的化する及び/又はハイブリダイズする配列を含む又はからなり、
オリゴヌクレオチド部分が10?33ヌクレオチドを有する、
オリゴヌクレオチド。」
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(下線部は補正により追加された部分である。)
「2’-O-メチルRNAモノマー及びホスホロチオエート骨格を含み、
5-メチルウラシル及び/又は5-メチルシトシン塩基を含み、
ジストロフィンmRNA前駆体エクソン51の少なくとも一部に対して逆相補的である及び/又は結合する及び/又は標的化する及び/又はハイブリダイズする配列を含む又はからなり、
配列番号31、32、33、34、35、36、37及び38の1つの配列を含む若しくはからなるヌクレオチド若しくは塩基配列によって、又は配列番号31、32、33、34、35、36、37及び38の1つの配列の断片を含む若しくはからなるヌクレオチド配列によって表され、
オリゴヌクレオチド部分が10?33ヌクレオチドを有する、
オリゴヌクレオチド。」(以下、「本願補正発明」という。)

2 補正の適否
本件補正は、オリゴヌクレオチドのヌクレオチド若しくは塩基配列を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

(1)引用例の記載事項
ア 国際公開第2004/048570号(引用例1)
原査定の拒絶の理由において引用された、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である国際公開第2004/048570号(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア) 「本発明は、ジストロフィン遺伝子のエクソン19、41、45、46、44、50.55、51又は53内に存在するSESに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを改良することにより、適用範囲がより広く、効果がより高い治療薬を提供することを目的とする。
発明の開示
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意努力した結果、ジストロフィン遺伝子のエクソン19、41、45、46、44、50.55、51又は53のスキッピング効果がより高いヌクレオチド配列およびアンチセンスオリゴヌクレオチド化合物の設計・合成に成功し、本発明を完成させるに至った。」(第3頁第8?17行)
(イ) 「本発明において、「オリゴヌクレオチド」は、オリゴDNA、オリゴRNAのみならず、オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1個のD-リボフラノースが2’-O-アルキル化されたもの、オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1個のD-リボフラノースが2’-O,4’-C-アルキレン化されたもの、オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1個のリン酸がチオエート化されたもの、それらを組み合わせたものなども包含する。オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1個のD-リボフラノースが2’-O-アルキル化されたものや2’-O,4’-C-アルキレン化されたものは、RNAに対する結合力が高いこと、ヌクレアーゼに対する耐性が高いことから、天然型のヌクレオチド(すなわち、オリゴDNA、オリゴRNA)より高い治療効果が期待できる。また、オリゴヌクレオチドを構成する少なくとも1個のリン酸がチオエート化されたものも、ヌクレアーゼに対する耐性が高いことから、天然型のヌクレオチド(すなわち、オリゴDNA、オリゴRNA)より高い治療効果が期待できる。上記のような修飾された糖と修飾されたリン酸の両者を含むオリゴヌクレオチドは、ヌクレアーゼに対する耐性がより高いことから、さらに高い治療効果が期待できる。」(第162頁第1?17行)
(ウ) 「なお、本明細書において、A^(e1p)、G^(e1p)、C^(e1p)、T^(e1p)、A^(e2p)、G^(e2p)、C^(e2p)、T^(e2p)、A^(mp)、G^(mp)、C^(mp)、U^(mp)、A^(e1s)、G^(e1s)、C^(e1s)、T^(e1s)、A^(e2s)、G^(e2s)、C^(e2s)、T^(e2s)、A^(ms)、G^(ms)、C^(ms)、U^(ms)、Phは、下記に示す構造を有する基である。

」(第195頁第2行?第199頁)
(エ) 「図5は、エキソン41のスキッピングに対する、実施例17?25の化合物(AO55,AO56,AO57,AO76,AO77,AO78,AO79,AO80及びAO81)の効果を示す。」(第206頁第19?21行)
(オ) 「(実施例21) HO-T^(e2p)-T^(e2p)-G^(ms)-A^(ms)-G^(ms)-T^(e2p)-C^(e2p)-T^(e2p)-T^(e2p)-C^(e2p)-A^(ms)-A^(ms)-A^(ms)-A^(ms)-C^(e2p)-T^(e2p)-G^(ms)-A^(ms)-CH_(2)CH_(2)OHの合成(A077)(配列番号12)
実施例15の化合物と同様に目的配列を有する実施例21の化合物を合成した。・・・
本化合物の塩基配列は、dystrophin cDNA(Gene Bank accession No.NM_004006.1)のヌクレオチド番号6136-6153に相補的な配列である。」(第224頁第12行?第225頁第8行)
(カ) 「(実施例22) HO-T^(e2s)-T^(e2s)-G^(ms)-A^(ms)-G^(ms)-T^(e2s)-C^(e2s)-T^(e2s)-T^(e2s)-C^(e2s)-A^(ms)-A^(ms)-A^(ms)-A^(ms)-C^(e2s)-T^(e2s)-G^(ms)-A^(ms)-CH_(2)CH_(2)OHの合成(A078)(配列番号12)
実施例15の化合物と同様に目的配列を有する実施例22の化合物を合成した。・・・ 本化合物の塩基配列は、dystrophin cDNA(Gene Bank accession No.NM_004006.1)のヌクレオチド番号6136-6153に相補的な配列である。」(第225頁第9行?第226頁第5行)
(キ) 「(実施例24) HO-G^(ms)-T^(e2p)-G^(ms)-C^(e2p)-A^(ms)-A^(ms)-A^(ms)-G^(ms)-T^(e2p)-T^(e2p)-G^(ms)-A^(ms)-G^(ms)-T^(e2p)-C^(e2p)-T^(e2p)-T^(e2p)-C^(e2p)-CH_(2)CH_(2)OHの合成(A080)(配列番号13)
実施例15の化合物と同様に目的配列を有する実施例24の化合物を合成した。・・・ 本化合物の塩基配列は、dystrophin cDNA(Gene Bank accession No.NM_004006.1)のヌクレオチド番号6144-6161に相補的な配列である。」(第227頁第1?23行)
(ク) 「(実施例25) HO-G^(ms)-T^(e2s)-G^(ms)-C^(e2s)-A^(ms)-A^(ms)-A^(ms)-G^(ms)-T^(e2s)-T^(e2s)-G^(ms)-A^(ms)-G^(ms)-T^(e2s)-C^(e2s)-T^(e2s)-T^(e2s)-C^(e2s)-CH_(2)CH_(2)OHの合成(A081)(配列番号13)
実施例15の化合物と同様に目的配列を有する実施例25の化合物を合成した。・・・ 本化合物の塩基配列は、dystrophin cDNA(Gene Bank accession No.NM_004006.1)のヌクレオチド番号6144-6161に相補的な配列である。」(第227頁第24行?第228頁第22行)
(ケ) 「(試験例2)アンチセンスENAによるエクソンスキッピング誘導能解析法
・・・
4.PCR反応の反応産物を2%アガロースゲル電気泳動によって解析した。
泳動したゲルをエチジウムブロミドで染色し、得られたエキソンがスキップしたバンド(A)と、得られたエキソンがスキップしなかったバンド(B)をゲル撮影装置 ATTO社、Printgraph、型番号AE-6911FXFD(機種名、型番、社製)を用いて可視化し、ATTO densitograph ver.4.1 for the Macintoshによって定量した。
・・・
[結果]
図4及び5にエキソン41のスキッピングの結果を示した。実施例15から25の化合物でエキソン41のスキッピングが生じた。」(第296頁第1行?第300頁第28行)
(コ)「図5



イ 国際公開第2010/048586号(引用例2)
原査定のなお書き及び平成30年7月20日付け前置報告書において引用された、本願優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2010/048586号(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。なお、以下の日本語訳による摘記は、引用例に対応する日本語出願の公表公報である特表2012-506703号公報の記載に基づくものであり、その段落番号も便宜上そのまま記載した。
(ア) 「【0003】
発明の分野
本発明は、ヒトジストロフィン遺伝子におけるエキソンのスキップを容易にするために適切な新規なアンチセンス化合物および組成物に関する。本発明は、本発明の方法における使用のために適合されたアンチセンス組成物を使用してエキソンスキッピングを誘導するための方法もまた提供する。」
(イ) 「【0080】
個体(例えば、ヒトなどの哺乳動物)または細胞の「治療」または「治療すること」は、個体または細胞の天然の経過を変化させる試みにおいて使用される任意の型の介入を含んでもよい。治療には、薬学的組成物の投与が含まれるがこれに限定されず、予防的に、または病理的な事象の開始もしくは病因との接触に引き続いてのいずれかで実施されてもよい。・・・
【0081】
従って、その必要がある患者に、任意に、薬学的製剤または剤形の一部として、本発明の1種以上のアンチセンスオリゴマー(例えば、配列番号1?569および612?635、およびその改変体)を投与することによって、DMDおよびBMDなどの筋ジストロフィーを治療する方法が含まれる。1種以上のアンチセンスオリゴマーを投与することによって被験体においてエキソンスキッピングを誘導する方法もまた含まれ、ここでは、エキソンは、ジストロフィン遺伝子からのエキソン44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、および/または55の1つであり、好ましくはヒトジストロフィン遺伝子である。」
(ウ) 「【0221】
実施例1
エキソン51スキャン
ヒトジストロフィンエキソン51を標的とする重複する一連のアンチセンスPPMOを設計し、合成し、そしてヒト横紋筋肉腫細胞(RD細胞)または初代ヒト骨格筋細胞のいずれかを処理するために使用した。このストラテジーは「エキソンスキャン」と呼ばれ、以下に記載されるように、いくつかの他のジストロフィンエキソンについて類似して使用した。すべてのPPMOは、CP06062ペプチド(配列番号578)および3’末端PMO連結を使用して、ペプチド結合体化PMO(PPMO)として合成した。エキソン51については、図2Aに示されるように、各々が26塩基長である一連の26個のPPMOを作製した(配列番号:309?311、314、316、317、319、321、323、324、326、327、329?331、333、335、336、338?345)。これらのPPMOは、材料および方法において上記に記載されているように、種々の濃度においてRD細胞を処理することによって、エキソンスキッピング効力について評価した。3種のPPMO(配列番号324、326、および327)を、エキソンスキッピングを誘導する際に有効であると同定し、さらなる評価のために選択した。」
(エ) 「図2A



(2)引用発明
引用例1において、A^(mp)、G^(mp)、C^(mp)、U^(mp)、A^(ms)、G^(ms)、C^(ms)、及びU^(ms)は2’-O-メチルRNAモノマーであり、A^(e1s)、G^(e1s)、C^(e1s)、T^(e1s)、A^(e2s)、G^(e2s)、C^(e2s)、T^(e2s)、A^(ms)、G^(ms)、C^(ms)、及びU^(ms)はホスホロチオエート骨格を含み、T^(e1p)、T^(e2p)、T^(e1s)、及びT^(e2s)は5-メチルウラシル塩基を含み、C^(e1p)、C^(e2p)、C^(e1s)、及びC^(e2s)は5-メチルシトシン塩基を含むから(上記(1)ア(ウ))、実施例21の化合物A077、実施例22の化合物A078、実施例24の化合物A080、実施例25の化合物A081は、いずれも、2’-O-メチルRNAモノマー及びホスホロチオエート骨格を含み、5-メチルウラシル及び5-メチルシトシン塩基を含んでいる(上記(1)ア(オ)?(ク))。また、これら4つの化合物は、いずれも、ジストロフィンmRNA前駆体エクソン41の一部を標的化してエキソンスキッピングを生じさせる、オリゴヌクレオチド部分が18ヌクレオチドのものである(上記(1)ア(ア)、(エ)?(コ))。したがって、引用例1には、次のとおりの発明が記載されているといえる。
「2’-O-メチルRNAモノマー及びホスホロチオエート骨格を含み、
5-メチルウラシル及び/又は5-メチルシトシン塩基を含み、
ジストロフィンmRNA前駆体エクソン41の少なくとも一部に対して標的化する及び/又はハイブリダイズする配列を含む又はからなり、
オリゴヌクレオチド部分が18ヌクレオチドを有する、
オリゴヌクレオチド。」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、「2’-O-メチルRNAモノマー及びホスホロチオエート骨格を含み、5-メチルウラシル及び/又は5-メチルシトシン塩基を含み、ジストロフィンmRNA前駆体エクソンの少なくとも一部に対して標的化する配列を含み、オリゴヌクレオチド部分が18ヌクレオチドを有する、オリゴヌクレオチド。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点: 本願補正発明は、エクソン51を標的化する配列を含み、配列番号31、32、33、34、35、36、37及び38の1つの配列を含む若しくはからなるヌクレオチド若しくは塩基配列によって、又は配列番号31、32、33、34、35、36、37及び38の1つの配列の断片を含む若しくはからなるヌクレオチド配列によって表されるものであるのに対して、引用発明は、エクソン41を標的化する配列を含むものであって、ヌクレオチド若しくは塩基配列が本願補正発明と異なる点。

(4)判断
引用例1は、ジストロフィン遺伝子のエクソンスキッピングに用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドについて、糖及びリン酸からなる骨格を化学的に修飾してRNAに対する結合力が高いものやヌクレアーゼに対する耐性が高いものに変更したり、塩基として5-メチル化したものを用いることで、エクソン41のみならず、エクソン51を含む様々なエクソンを標的化した場合にスキッピング効率を向上させたことを開示する文献であるから(上記(1)ア(ア)、(イ))、引用発明において標的化するエクソンをエクソン51など任意のものに変更できることは引用例1から当業者が優に読み取れる程度のことである。そして、本願優先日当時、ジストロフィン遺伝子のエクソン51を標的化するアンチセンスオリゴヌクレオチド化合物を用いてエクソンスキッピングを誘導することは広く行われており(例えば、上記(1)ア(ア)、(1)イ(イ))、引用例2にはエクソン51の全域をカバーする26塩基長の一連のアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたエクソンスキャンにより網羅的に解析した結果、最も有効な配列の一つとして配列番号326が記載されており(上記(1)イ(ウ)、(エ))、これは本願補正発明の配列番号31を含むものであるのだから、本願補正発明のうち配列番号31を選択した場合は、引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。また、引用例2に記載されたエクソンスキャンを26塩基長とは異なる塩基長で行うなどしてエクソンスキッピングに有効な配列を選択することは当業者が適宜なし得る程度のことであるから、本願補正発明のうち配列番号31以外の場合についても、引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本願補正発明の効果について検討すると、本願明細書(実施例2、図4a)や平成30年6月28日付け手続補正書及び平成31年1月7日付け上申書に添付した参考資料には、本願補正発明のうち配列番号31においてウラシルやシトシンを5-メチル化したものはしていないものよりもスキッピング効率が高いと解されるデータが記載されている。しかし、上記(3)のとおり、ウラシルやシトシンを5-メチル化することは本願補正発明と引用発明の一致点である。本願補正発明と引用発明とは標的化するエクソン及び配列が異なるものの、本願明細書のその他の実施例のデータ(実施例1?3、図1a?c、図4a?b、図5a?c)に照らすと、ウラシルやシトシンを5-メチル化することでスキッピング効率が高くなるという効果は、標的化するエクソンやヌクレオチド配列には依存しない効果であることが明らかだから、当該効果は本願補正発明と引用発明の一致点の構成により生じる効果にすぎず、本願補正発明特有の有利な効果であるとは認められない。その他にも、本願補正発明が引用発明や引用例2記載の発明と比較して有利な効果を有しているとは認めることができない。
したがって、本願補正発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年4月19日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年8月31日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「2’-O-メチルRNAモノマー及びホスホロチオエート骨格を含み、
5-メチルウラシル及び/又は5-メチルシトシン塩基を含み、
ジストロフィンmRNA前駆体エクソン51の少なくとも一部に対して逆相補的である及び/又は結合する及び/又は標的化する及び/又はハイブリダイズする配列を含む又はからなり、
オリゴヌクレオチド部分が10?33ヌクレオチドを有する、
オリゴヌクレオチド。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりのものである。
本願発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である国際公開第2004/048570号(上記第2の2(1)アの「引用例1」である。)に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 引用例およびその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1およびその記載事項は、上記第2の2(1)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
引用例1には、上記第2の2(2)で認定したとおりの引用発明が記載されている。
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、「2’-O-メチルRNAモノマー及びホスホロチオエート骨格を含み、5-メチルウラシル及び/又は5-メチルシトシン塩基を含み、ジストロフィンmRNA前駆体エクソンの少なくとも一部に対して標的化する配列を含み、オリゴヌクレオチド部分が18ヌクレオチドを有する、オリゴヌクレオチド。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点: 本願発明は、エクソン51に対して標的化する配列を含むのに対して、引用発明は、エクソン41に対して標的化する配列を含むものである点。
上記第2の2(4)で判断したとおり、引用例1は、ジストロフィン遺伝子のエクソンスキッピングに用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドについて、糖及びリン酸からなる骨格を化学的に修飾してRNAに対する結合力が高いものやヌクレアーゼに対する耐性が高いものに変更したり、塩基として5-メチル化したものを用いることで、エクソン41のみならず、エクソン51を含む様々なエクソンを標的化した場合にスキッピング効率を向上させたことを開示する文献であるから(上記第2の2(1)ア(ア)、(イ))、引用発明において標的化するエクソンをエクソン51など任意のものに変更できることは引用例1から当業者が優に読み取れ、エクソン51を選択することは当業者が適宜なし得る程度のことである。そして、本願明細書及び図面や平成30年6月28日付け手続補正書及び平成31年1月7日付け上申書に添付した参考資料をみても、エクソン51を標的化したことによる本願発明特有の有利な効果を見出すことはできない。
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-10-17 
結審通知日 2019-10-23 
審決日 2019-11-06 
出願番号 特願2014-554682(P2014-554682)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 佳代子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 常見 優
長井 啓子
発明の名称 デュシェンヌ型及びベッカー型筋ジストロフィーの治療のための改善された特徴を有するRNA調節オリゴヌクレオチド  
代理人 野田 雅一  
代理人 阿部 寛  
代理人 池田 成人  
代理人 酒巻 順一郎  

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