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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02M |
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管理番号 | 1361033 |
審判番号 | 不服2018-15982 |
総通号数 | 245 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-12-03 |
確定日 | 2020-03-19 |
事件の表示 | 特願2014-249476「キャニスタ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月20日出願公開、特開2016-109090〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年12月10日の出願であって、平成30年3月15日付け(発送日:平成30年3月20日)で拒絶理由が通知され、平成30年4月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年9月19日付け(発送日:平成30年10月2日)で拒絶査定がされ、これに対して平成30年12月3日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において令和元年10月16日付け(発送日:令和元年10月29日)で拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和元年11月29日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明は、令和元年11月29日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 活性炭が設けられる内部容積の流れ方向の一端部にチャージポートおよびパージポートを備えるとともに、流れ方向の他端部にドレンポートを備えてなるキャニスタにおいて、 上記内部容積が、上記チャージポートおよびパージポート側の非加熱領域と、上記ドレンポート側の加熱領域と、に区分されているとともに、 上記加熱領域がさらに少なくとも2つの領域に区分されており、 ドレンポート側に位置する第1の領域には、ブタンワーキングキャパシティが6g/dL以上で10g/dL未満の活性炭が充填されており、 非加熱領域側に位置する第2の領域には、ブタンワーキングキャパシティが13g/dL以上の活性炭が充填されており、 上記第1の領域および上記第2の領域を含む上記加熱領域全体を加熱する電熱ヒータを有し、 上記第2の領域に充填された活性炭のブタンワーキングキャパシティは、上記非加熱領域における活性炭のブタンワーキングキャパシティよりも高い、 ことを特徴とするキャニスタ。」 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。 (進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項1に対して:引用文献等1ないし3 ・請求項2ないし4に対して:引用文献等1ないし4 引用文献等一覧 1.特開2013-177895号公報 2.特開2013-217243号公報 3.特開2005-35812号公報 4.特開2002-266710号公報 第4 引用文献、引用発明 1 引用文献1 当審拒絶理由において引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2013-177895号公報(以下「引用文献1」という。)には、「蒸発燃料処理装置」に関して、図面(特に、図1及び2を参照。)と共に次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。以下同様。 (1)「【0012】 図1,2に示すように、前記ケース2の一つの側部には、タンクポート3とパージポート4と大気ポート5が設けられ、前記ケース2内には、前記タンクポート3とパージポート4と連通する第1収納室6と、大気ポート5と連通する第2収納室7とが形成され、第1収納室6と第2収納室7は、大気ポート5側と反対側のケース2内に形成された空間8により連通し、タンクポート3から大気ポート5へと気体が流れる際には、空間8で折り返して略U字状に流れるようになっている。」 (2)「【0016】 図1,2に示すように、前記第2収納室7における第1円筒7aの大気ポート5側部内に、吸着材である活性炭13aを所定密度で充填して第1吸着材室13を形成し、該第1吸着材室13内の活性炭13aは、所定の平均粒子径の造粒炭で構成されている。なお、活性炭13aを破砕炭で構成しても良い。本実施例においては、第1吸着材室13内の活性炭13aとして、ASTMD5228によるブタンワーキングキャパシティー(BWC)が、約11g/dLの活性炭を用いた。前記第1吸着材室13の大気ポート5側端面は、不織布等からなるフィルタ14で覆われている。 【0017】 前記第2収納室7内における第1吸着材室13の空間8側の側方には、図1,2に示すように、吸着材が収納されていない空間室15が形成されている。この空間室15は、図1,2に示すように、内径D1の第1円筒7aと内径D2の第2円筒7bに亘って形成され、前記段差部7cが、空間室15に位置するように形成されている。従って、空間室15は、内径D1の小径部15aと、内径D2の大径部15bを有する。 【0018】 前記空間室15における空間8側の側方には、図1,2に示すように、吸着材である活性炭17aを所定密度で充填して第2吸着材室17を形成し、該第2吸着材室17の活性炭17aは、所定の平均粒子径の造粒炭で構成されている。なお、活性炭17aを破砕炭で構成しても良い。また、第2吸着材室17の活性炭17aとしては、その蒸発燃料の吸着量が、第1吸着材室13の活性炭13aにおける単位体積当りの蒸発燃料の吸着量よりも多い活性炭を用いることが好ましい。本実施例においては、第2吸着材室17の活性炭17aとして、ASTMD5228によるブタンワーキングキャパシティー(BWC)が、約15g/dLの活性炭を用いた。」 (3)「【0020】 前記第1収納室6内には、吸着材である活性炭11aを所定密度で充填して形成された第3吸着材室11が設けられている。この第3吸着材室11の活性炭11aは、所定の平均粒子径の造粒炭で構成されている。なお、活性炭11aを破砕炭で構成しても良い。本実施例においては、第3吸着材室11の活性炭11aとして、第2吸着材室17の活性炭17aと同じ、ASTMD5228によるブタンワーキングキャパシティー(BWC)が、約15g/dLの活性炭を用いた。」 上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 〔引用発明〕 「活性炭が設けられる内部容積の流れ方向の一端部にタンクポート3およびパージポート4を備えるとともに、流れ方向の他端部に大気ポート5を備えてなる蒸発燃料処理装置1において、 上記内部容積が、上記タンクポート3およびパージポート4側の第1収納室6と、上記大気ポート5側の第2収納室7と、に区分されているとともに、 上記第2収納室7がさらに少なくとも第1吸着材室13と第2吸着材室17に区分されており、 大気ポート5側に位置する第1吸着材室13には、ブタンワーキングキャパシティが約11g/dLの活性炭が充填されており、 第1収納室6側に位置する第2吸着材室17には、ブタンワーキングキャパシティが約15g/dLの活性炭が充填されており、 上記第2吸着剤室17に充填された活性炭のブタンワーキングキャパシティは、上記第1収納室6における活性炭のブタンワーキングキャパシティと同じである、 蒸発燃料処理装置1。」 2 引用文献2 当審拒絶理由において引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2013-217243号公報(以下「引用文献2」という。)には、「トラップキャニスタ」に関して、図面と共に次の事項が記載されている。 (1)「【0014】 [実施形態1] 実施形態1を説明する。本実施形態では、自動車等の車両に搭載される蒸発燃料処理装置について例示する。図1は蒸発燃料処理装置を示す断面図である。説明の都合上、図1の状態を基準としてメインキャニスタ及びトラップキャニスタの上下左右を定める。なお、車両に対するメインキャニスタ及びトラップキャニスタの搭載上の方向は適宜設定される。但し、トラップキャニスタの上下方向は、車両に対する搭載状態における天地方向に対応する。 図1に示すように、蒸発燃料処理装置10は、メインキャニスタ12とトラップキャニスタ14とを備えている。なお、メインキャニスタ12を説明した後でトラップキャニスタ14を説明する。」 (2)「【0015】 メインキャニスタ12を説明する。メインキャニスタ12はメインケース16を備えている。メインケース16は、樹脂製で、有底角筒状のメインケース本体17と、メインケース本体17の開口端面を閉鎖する蓋体18とにより構成されている。なお、本実施形態では、メインケース本体17の底壁側が左方へ向けられ、蓋体18が右方へ向けられている。メインケース本体17内は、隔壁19により上下2室に仕切られている。両室は、メインケース本体17と蓋体18との間に形成された連通路20によって相互に連通されている。これにより、上側の室と下側の室とを連通路20を介して連通するU字状のガス通路が形成されている。なお、メインケース本体17内で隔壁19により仕切られる2室は、相互に連通していればよく、上下方向に限らず、適当な方向に形成することができる。 【0016】 前記メインケース本体17の底壁(左端壁)には、上側の室に連通するタンクポート22及びパージポート23と、下側の室に連通する接続ポート24とが形成されている。タンクポート22は、蒸発燃料通路26を介して燃料タンク27(詳しくはタンク内の気層部)に接続されている。また、パージポート23は、パージ通路30を介してエンジン31の吸気通路32に接続されている。また、吸気通路32には、吸入空気量を制御するスロットルバルブ33が設けられている。また、パージ通路30は、吸気通路32に対してスロットルバルブ33の下流側(例えば、サージタンク)に接続されている。また、パージ通路30には、その通路30を開閉するパージ制御弁34が設けられている。エンジン31の運転中に、図示しない電子制御装置(いわゆるECU)によりパージ制御弁34が制御されることによってパージ制御が行われる。なお、エンジン31は本明細書でいう「内燃機関」に相当する。また、接続ポート24は、後述する接続通路80を介してトラップキャニスタ14と接続されている。 【0017】 前記上側の室の左端部は、仕切壁35によって、上下に二分すなわち前記タンクポート22に連通する部分と、前記パージポート23に連通する部分とに仕切られている。また、前記隔壁19及び仕切壁35で仕切れられた各部分の左端面には、フィルタ36がそれぞれ配置されている。また、隔壁19で仕切られた両室の開口端面(右端側の開口面)には、多孔板38がそれぞれ配置されている。多孔板38の内側面すなわち左側面には、フィルタ39がそれぞれ積層状に配置されている。また、各多孔板38と蓋体18との間には、コイルバネからなるバネ部材40がそれぞれ介装されている。バネ部材40は、多孔板38を左方へ付勢している。また、隔壁19で仕切られた上側の室における両フィルタ36,39の相互間が第1吸着室41となっており、その下側の室における両フィルタ36,39の相互間が第2吸着室42となっている。両フィルタ36,39は、例えば樹脂製の不織布、発泡ウレタン等により形成されている。また、前記メインケース本体17の底壁(左端壁)には、各フィルタ36を支持する多数のピン状の突起46が突出されている。これにより、メインケース本体17の底壁(左端壁)と各フィルタ39との間に各ポート側の空間部47がそれぞれ形成されている。 【0018】 前記第1吸着室41及び前記第2吸着室42には、蒸発燃料中のブタン等の蒸発燃料を吸着及び脱離可能な粒状の吸着体44がそれぞれ充填されている。吸着体44としては、例えば粒状の活性炭を用いることができる。さらに、粒状の活性炭としては、破砕した活性炭(破砕炭)、粒状あるいは粉末状の活性炭をバインダともに造粒した造粒炭等を用いることができる。さらに、吸着体44としては、例えば、ASTM法によるブタンワーキングキャパシティ(以下、「BWC」という)が12g/dL未満の活性炭が用いられている。」 (3)「【0022】 前記トラップケース本体51の小径筒部51bとテーパ状筒部51cとの間には、両筒部51a,51b内を仕切る通気性を有する仕切部材69が配置されている。仕切部材69には、弾性を有する発泡樹脂製のフィルタ、例えば発泡ウレタンにより形成されたフィルタが用いられている。また、仕切部材69は、前記吸着室67を左右2室に分割している。左側の室が大径側の分室70とされているとともに、右側の室が小径側の分室72とされている。なお、仕切部材69は、必要に応じて設けられるものであり、省略することもできる。 【0023】 前記吸着室67には、蒸発燃料中のブタン等の蒸発燃料を吸着及び脱離可能な粒状の吸着体74と、吸着体74の温度変化を潜熱により抑制する粒状の蓄熱体76とが混合状態で充填されている。吸着体74としては、例えば、粒状の活性炭を用いることができる。さらに、粒状の活性炭としては、破砕した活性炭(破砕炭)、粒状あるいは粉末状の活性炭をバインダともに造粒した造粒炭等を用いることができる。さらに、吸着体74としては、BWCが13g/dL以上の活性炭いわゆる高吸着能を有する活性炭が用いられている。吸着体74に用いられる高吸着能を有する活性炭は、一般的な活性炭(例えば、BWCが12g/dL未満の活性炭)と比べて、BWCが大きく、小さい細孔が多いため、蒸発燃料の残存成分との分子間力が強くなる。つまり、蒸発燃料の拡散量を低減でき、吹き抜け量を低減することができる。このため、吸着体74には、好ましくは、BWCが15g/dL以上の活性炭が良く、より好ましくは、BWCが17g/dL以上の活性炭が良い。また、吸着体74は、前記メインキャニスタ12(図1参照)のガス出口側の吸着室(第2吸着室42)に充填される粒状の吸着体44に比べて、BWCが大きい高吸着能を有する。なお、本明細書でいう「メインキャニスタ12のガス出口側の吸着室」とは、メインキャニスタ12の粒状の吸着体44が充填される吸着室41,42のうちで、接続ポート24(破過ガス出口側)に近い第2吸着室42のことをいう。 【0024】 前記蓄熱体76は、温度変化に応じて潜熱の吸収及び放熱を生じる相変化物質を有する潜熱蓄熱体であればよく、相変化物質、相変化物質を封入したマイクロカプセル、そのマイクロカプセル又は相変化物質を封入したペレット等を用いることができる。また、相変化物質としては、例えば、融点が22℃のヘプタデカン、融点が28℃のオクタデカン等のパラフィンを用いることができる。また、蓄熱体76の潜熱を利用して、蒸発燃料の吸着時の吸着体74の温度上昇を抑制することにより蒸発燃料の吸着を促進することができる一方、蒸発燃料の脱離時の吸着体74の温度低下を抑制することにより蒸発燃料の脱離を促進することができる。なお、蓄熱体76は本明細書でいう「温調手段」に相当する。」 (4)「【0026】 次に、前記蒸発燃料処理装置10(図1参照)の動作について説明する。給油時及び通常時(例えば駐車時)において、燃料タンク27内で発生した蒸発燃料を含む蒸発燃料ガスは、メインキャニスタ12のタンクポート22を介して第1吸着室41に導入される。蒸発燃料ガスは、第1吸着室41、連通路20、第2吸着室42を通る。その際、蒸発燃料ガス中の蒸発燃料は、第1吸着室41及び第2吸着室42の吸着体44に吸着される。そして、メインキャニスタ12から排出された破過ガスは、接続通路80を介してトラップキャニスタ14に導入される。破過ガスは、トラップキャニスタ14(図2参照)の吸着室67(詳しくは、ガス導入側の部分67a、断面積徐変部67c、大気開放側の部分67b)を通る。その際、破過ガス中の蒸発燃料は、吸着室67の吸着体74に吸着される。このとき、吸着室67の蓄熱体76の潜熱を利用して、蒸発燃料の吸着時の吸着体74の温度上昇が抑制されることにより、蒸発燃料の吸着が促進される。そして、最終的には、蒸発燃料を含まない空気あるいはほとんど含まない空気は、大気ポート56から大気に放出される。 【0027】 また、パージ時(エンジン31の運転中のパージ制御時)において、電子制御装置(ECU)によりパージ制御弁34が開弁されると、エンジン31の吸気負圧がメインキャニスタ12のパージポート23を介して第1吸着室41に導入されることにより、大気中の空気が、前記蒸発燃料ガスの流れとは逆方向に流れる。このため、トラップキャニスタ14の吸着室67の吸着体74から蒸発燃料が脱離(パージ)される。このとき、吸着室67の蓄熱体76の潜熱を利用して、蒸発燃料の脱離時の吸着体74の温度低下が抑制されることにより、蒸発燃料の脱離が促進される。また、蒸発燃料を含んだガスが、メインキャニスタ12の第2吸着室42及び第1吸着室41を通ることにより、両吸着室42,41の吸着体44からも蒸発燃料が脱離された後、パージポート23からエンジン31の吸気通路32にパージされる。 【0028】 前記したトラップキャニスタ14(図2参照)によると、次の作用・効果を得ることができる。 (1)吸着室67の大気開放側の部分67bの通路断面積がガス導入側の部分67aの通路断面積よりも小さく形成されていることにより、大気開放側の部分67bの通路断面積を小さくすることで吸着体74の吸着・脱離能力を向上し、これにともない増加する圧損を、ガス導入側の部分67aの通路断面積を大きくすることで抑制することができる。これにより、蒸発燃料の残存量を低減し、吹き抜けを低減しながら、圧損の増加を抑制することができる。すなわち、DBL性能を向上しながら、通気抵抗を抑制することができる。また、ガス導入側の部分67aの通路断面積を大きくし、トラップケース50の軸方向の長さを短縮することにより、車両に対する搭載性を向上することができる。 (2)また、吸着室67が通路断面積が徐々に変化する断面積徐変部67cを有するため、ガスをガス導入側の部分67aから大気開放側の部分67bへスムーズに流すことができる。これにより、圧損を低減することができる。 (3)また、吸着室67には、吸着体74の温度を調節する蓄熱体76が設けられている。したがって、蓄熱体76により吸着体74の温度を調節することによって、蒸発燃料の脱離量を向上し、蒸発燃料の残存量を低減できるため、吹き抜けを低減することができる。ひいては、DBL性能を向上することができる。 (4)また、吸着体74は、メインキャニスタ12(図1参照)のガス出口側の吸着室(第2吸着室42)に充填される粒状の吸着体44に比べて、BWCが大きい高吸着能を有する吸着体である。したがって、このような高吸着能を有する吸着体74と蓄熱体76とを併用することにより、高吸着能を有する吸着体74を用いても、蒸発燃料の脱離量を向上し、蒸発燃料の残存量を低減できるため、吹き抜けを低減することができる。ひいては、DBL性能を向上することができる。 (5)前記した(1)?(4)の相乗効果によって、吹き抜けの低減と圧損の低減とを両立することができる。」 (5)「【0037】 本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、トラップキャニスタ14の吸着室67は、円筒状に限らず、角筒状でもよい。また、メインキャニスタ12における吸着室67の数は、2室に限らず、1室又は3室以上でもよい。また、温調手段としては、蓄熱体76の他、電気ヒータを用いてもよい。また、蓄熱体76としては、粒状以外の形状の蓄熱体を用いてもよい。」 (6)上記(3)(特に、段落【0023】及び【0024】を参照。)から、蓄熱体76は、吸着室67全体の温度調節を行っているといえる。 そして、上記(5)の「また、温調手段としては、蓄熱体76の他、電気ヒータを用いてもよい。」との記載から、温調手段として電気ヒータを用いた場合は、該電気ヒータは、吸着室67全体を加熱するものといえる。 上記記載事項及び認定事項並びに図面の図示内容からみて、引用文献2には次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。 〔引用文献2記載事項〕 「活性炭が設けられる内部容積の流れ方向の一端部にタンクポート22およびパージポート23を備えるとともに、流れ方向の他端部に大気ポート56を備えてなる蒸発燃料処理装置10において、上記内部容積が、上記タンクポート22およびパージポート23側のメインキャニスタ12内の第1吸着室41及び第2吸着室42と、上記大気ポート56側のトラップキャニスタ14内の吸着室67と、に区分されているとともに、トラップキャニスタ14内の吸着室67が、分室70と分室72とに分割されており、分室70及び分室72を含む吸着室67全体を加熱する電気ヒータを有し、上記分室70に充填された活性炭のブタンワーキングキャパシティは、上記メインキャニスタ12内の第1吸着室41及び第2吸着室42における活性炭のブタンワーキングキャパシティよりも高いこと。」 3 引用文献3 当審拒絶理由において引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2005-35812号公報(以下「引用文献3」という。)には、「活性炭とキャニスタ」に関して、図面(特に、図9を参照。)と共に次の事項が記載されている。 (1)「【0063】 〔実施例5〕 ペレット状の石炭系原料を調整して、ペレット状の大きさがφ1.0?2.5mmで、10g?11g/100mlのブタン活性で、BWCが8g?9g/100ml、嵩比重が0.45のベース活性炭を製造し、後処理で前述のようにタールコートとして一定未満の小径の開口径の細孔を閉塞する。こうして得た活性炭の残存量は1.3g/100mlであった。なお、この実施例5の具体例では、ブタン活性は10.1g/100ml、BWCは8.8g/100mlであった。 【0064】 〔実施例3,4,5の具体例と、従来の活性炭2種との比較〕 上記実施例3,4,5の具体例と、従来の活性炭▲1▼と▲2▼との比較を次の〔表1〕に示す。 【0065】 【表1】 」 (2)「【0081】 〔実施例9〕 この実施例は図9に示すように、A,B,C層の3層構造のキャニスタ100のポート19にD層30を有するトラップキャニスタを接続したもので、トラップキャニスタ101の図示左端には、大気ポート19Aが開口している。 【0082】 この実施例9では、A層2とB層3に前記実施例3の活性炭を、C層4に前記実施例4の活性炭を、トラップキャニスタ101のD層30には、前記実施例5の活性炭を充填している。 【0083】 トラップキャニスタ101のD層30の活性炭が前記実施例5の活性炭を使用しているため残存量が大幅に低減できる(表1参照)。キャニスタ100は実施例6と同じであり、従来品より吹き抜け量を低減することができる。したがって、キャニスタ100からの吹き抜け量はわずかである。トラップキャニスタ101は微小のガソリン蒸気を吸着する必要があるが、D層30の活性炭に前記実施例5の活性炭を使用することで、微小のガソリン蒸気を吸着し、かつ吹き抜け量をほぼ零にすることができる。 【0084】 こうして、実施例9は吹き抜け量を実施例8より低減でき、結果的に、ガソリン蒸気の吸着量大で、吹き抜け量の大幅な低減が可能になる。すなわち、ガソリン蒸気の吸着量を従来品と同等にして、吹き抜け量を上記実施例8よりも更に低減できる効果がある。」 上記記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献3には、次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。 〔引用文献3記載事項〕 「大気ポート19Aが開口しているトラップキャニスタ101にBWCが8.8g/100mlの活性炭を充填すること。」 第5 対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「タンクポート3」は、その機能、構成又は技術的意義からみて本願発明における「チャージポート」に相当し、以下同様に、「パージポート4」は「パージポート」に、「大気ポート5」は「ドレンポート」に、「蒸発燃料処理装置1」は「キャニスタ」に、「第1吸着材室13」は「第1の領域」に、「第2吸着材室17」は「第2の領域」に、「ブタンワーキングキャパシティが約15g/dLの活性炭」は「ブタンワーキングキャパシティが13g/dL以上の活性炭」に、それぞれ相当する。 また、引用発明における「第1収納室6」と本願発明における「非加熱領域」とは、「一方の領域」という限りにおいて一致しており、以下同様に、「第2収納室7」と「加熱領域」とは、「他方の領域」という限りにおいて一致しており、「第2収納室7がさらに少なくとも第1吸着材室13と第2吸着材室17に区分されており、」と「加熱領域がさらに少なくとも2つの領域に区分されており、」とは、「他方の領域がさらに少なくとも2つの領域に区分されており、」という限りにおいて一致しており、「ブタンワーキングキャパシティが約11g/dLの活性炭」と「ブタンワーキングキャパシティが6g/dL以上で10g/dL未満の活性炭」とは、「ブタンワーキングキャパシティが所定値の活性炭」という限りにおいて一致している。 よって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。 〔一致点〕 「活性炭が設けられる内部容積の流れ方向の一端部にチャージポートおよびパージポートを備えるとともに、流れ方向の他端部にドレンポートを備えてなるキャニスタにおいて、 上記内部容積が、上記チャージポートおよびパージポート側の一方の領域と、上記ドレンポート側の他方の領域と、に区分されているとともに、 上記他方の領域がさらに少なくとも2つの領域に区分されており、 ドレンポート側に位置する第1の領域には、ブタンワーキングキャパシティが所定値の活性炭が充填されており、 上記一方の領域側に位置する第2の領域には、ブタンワーキングキャパシティが13g/dL以上の活性炭が充填されている、 キャニスタ。」 〔相違点1〕 本願発明においては、内部容積が、チャージポートおよびパージポート側の「非加熱領域」と、ドレンポート側の「加熱領域」と、に区分されているとともに、「加熱領域」がさらにドレンポート側に位置する第1の領域と非加熱領域側に位置する第2の領域とに区分されており、上記第1の領域および上記第2の領域を含む「加熱領域全体を加熱する電熱ヒータを有」し、「上記第2の領域に充填された活性炭のブタンワーキングキャパシティは、上記非加熱領域における活性炭のブタンワーキングキャパシティよりも高い」ものであるのに対して、引用発明においては、内部容積が、タンクポート3およびパージポート4側の第1収納室6と、大気ポート5側の第2収納室7と、に区分されているが、「非加熱領域」と「加熱領域」とに区分されておらず、「電熱ヒータ」を有しておらず、上記第2吸着剤室17に充填された活性炭のブタンワーキングキャパシティは、第1収納室6における活性炭のブタンワーキングキャパシティと「同じ」である点。 〔相違点2〕 ドレンポート側に位置する第1の領域に充填されている「ブタンワーキングキャパシティが所定値の活性炭」に関して、本願発明においては、ブタンワーキングキャパシティが「6g/dL以上で10g/dL未満」の活性炭であるのに対して、引用発明においては、ブタンワーキングキャパシティが約11g/dLの活性炭である点。 上記相違点1について検討する。 引用文献2記載事項は上記のとおり「活性炭が設けられる内部容積の流れ方向の一端部にタンクポート22およびパージポート23を備えるとともに、流れ方向の他端部に大気ポート56を備えてなる蒸発燃料処理装置10において、上記内部容積が、上記タンクポート22およびパージポート23側のメインキャニスタ12内の第1吸着室41及び第2吸着室42と、上記大気ポート56側のトラップキャニスタ14内の吸着室67と、に区分されているとともに、トラップキャニスタ14内の吸着室67が、分室70と分室72とに分割されており、分室70及び分室72を含む吸着室67全体を加熱する電気ヒータを有し、上記分室70に充填された活性炭のブタンワーキングキャパシティは、上記メインキャニスタ12内の第1吸着室41及び第2吸着室42における活性炭のブタンワーキングキャパシティよりも高いこと。」というものである。 本願発明と引用文献2記載事項とを対比すると、引用文献2記載事項における「タンクポート22」は、その機能、構成又は技術的意義からみて本願発明における「チャージポート」に相当し、以下同様に、「パージポート23」は「パージポート」に、「大気ポート56」は「ドレンポート」に、「蒸発燃料処理装置10」は「キャニスタ」に、「メインキャニスタ12内の第1吸着室41及び第2吸着室42」は「非加熱領域」に、「トラップキャニスタ14内の吸着室67」は「加熱領域」に、「トラップキャニスタ14内の吸着室67が分室70と分室72とに分割されており」は「加熱領域がさらに少なくとも2つの領域に区分されており」に、「電気ヒータ」は「電熱ヒータ」に、「分室70及び分室72を含む吸着室67全体を加熱する電気ヒータ」は「第1の領域および上記第2の領域を含む上記加熱領域全体を加熱する電熱ヒータ」に、「分室70」は「第2の領域」に、それぞれ相当する。 したがって、引用文献2記載事項は、本願発明の用語を用いると「活性炭が設けられる内部容積の流れ方向の一端部にチャージポートおよびパージポートを備えるとともに、流れ方向の他端部にドレンポートを備えてなるキャニスタにおいて、上記内部容積が、上記チャージポートおよびパージポート側の非加熱領域と、上記ドレンポート側の加熱領域と、に区分されているとともに、上記加熱領域がさらに少なくとも2つの領域に区分されており、第1の領域および上記第2の領域を含む上記加熱領域全体を加熱する電熱ヒータを有し、上記第2の領域に充填された活性炭のブタンワーキングキャパシティは、上記非加熱領域における活性炭のブタンワーキングキャパシティよりも高いこと。」ということができる。 引用発明と引用文献2記載事項とは、活性炭が設けられる内部容積の流れ方向の一端部にチャージポートおよびパージポートを備えるとともに、流れ方向の他端部にドレンポートを備えてなるキャニスタにおいて、上記内部容積が、上記チャージポートおよびパージポート側の領域と、上記ドレンポート側の領域と、に区分されている、という点で共通するとともに、蒸発燃料の大気への吹き抜け量を少なくするという共通の課題を有するものである(引用文献1の段落【0006】及び【0049】、引用文献2の段落【0005】を参照。)。 また、引用文献2記載事項はDBL性能を向上することができるものであるところ(引用文献2の段落【0028】の(3)を参照。)、DBL性能を向上させることは、キャニスタの分野において周知の課題である。 よって、引用発明において引用文献2記載事項を参酌する動機付けは存在するといえる。 そうすると、引用発明において引用文献2記載事項を参酌し、第1吸着材室13及び第2吸着材室17全体を加熱する電気ヒータを有するともに、第2吸着剤室17に充填された活性炭のブタンワーキングキャパシティが、第1収納室6における活性炭のブタンワーキングキャパシティよりも高い構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 したがって、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明において引用文献2記載事項を参酌することにより、当業者が容易になし得たものである。 上記相違点2について検討する。 引用文献3記載事項は上記のとおり「大気ポート19Aが開口しているトラップキャニスタ101にBWCが8.8g/100mlの活性炭を充填すること。」というものである。 引用発明における第1吸着材室13は、大気ポート5が開口しているという点で、引用文献3記載事項におけるトラップキャニスタ101と共通する。 また、引用文献1の段落【0049】には「また、第1吸着材室13の活性炭13aとして、その単位体積当りの蒸発燃料の吸着量が、第3吸着材室11と第2吸着材室17の活性炭11a,17aよりも少ない活性炭を用いた場合には、単位体積当りの吸着量がすべて同じ活性炭を用いた場合と比較して、第1吸着材室13内に吸着される蒸発燃料の吸着量を減らし、蒸発燃料の大気への吹き抜け量を少なくすることができる。」との記載があることから、第1吸着材室13の活性炭13aのBWCを小さくする動機付けは存在するといえる。 そうすると、引用発明において引用文献3記載事項を参酌し、第1吸着材室13に、ブタンワーキングキャパシティが6g/dL以上で10g/dL未満である8.8g/dLの活性炭を充填することは、当業者が容易になし得たことである。 したがって、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明において引用文献3記載事項を参酌することにより、当業者が容易になし得たものである。 そして、本願発明は全体としてみても、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。 したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 請求人の主張について 請求人は令和元年11月29日の意見書の「(3)本願の説明」において次のように主張している。 「このような本願発明1によれば、第2の領域の活性炭のBWCが非加熱領域の活性炭のBWCよりも高いので、DBL試験において、非加熱領域から拡散する燃料成分がBWCの低い活性炭を用いた第1の領域に達する前に、加熱によりパージがなされた第2の領域で確実に吸着されます(【0033】)。そして、第2の領域の下流側に第1の領域のBWCの低い活性炭(すなわち希薄ベーパの吸着特性に優れた活性炭)が存在するので、効果的に微小破過が抑制されます(【0034】)。 つまり、キャニスタ全体を電熱ヒータで加熱することなく、かつ非加熱領域のBWCを過度に高くせずに、少量の加熱領域によって効果的に微小破過を抑制することができます。」 上記主張について検討する。 本願の発明の詳細な説明には、第2の領域の活性炭のブタンワーキングキャパシティ(以下「BWC」という。)と非加熱領域の活性炭のBWCの値について、段落【0023】に、非加熱領域に充填された活性炭12のBWCが11.0g/dLであることが例として記載され、段落【0028】に加熱領域の第2の領域45に充填される第2の活性炭47のBWCが13g/dL以上、例えばBWCが15.3g/dLであることが記載されているのみである。そして、それ以外に、第2の領域の活性炭のBWCが非加熱領域の活性炭のBWCよりも高いという旨の記載はなく、第2の領域の活性炭のBWCが非加熱領域の活性炭のBWCよりも高いことによる作用効果についての記載も見出せない。 してみると、非加熱領域の活性炭のBWCを11.0g/dLとした点について、段落【0023】に「本発明においては、メインキャニスタ2に使用される吸着材は特に限定されるものではなく、いかなる種類の吸着材であってもよいが、一実施例としては、BWCが11.0g/dLの一般的な活性炭12が用いられている。」との記載からみて、「特に限定されるものではない」中から選択された一例に過ぎないといえる。 そうすると、請求人が主張するような上記作用効果は「小容量のバッファキャニスタ3のみが電熱ヒータ48によって加熱される」(段落【0031】)こと、及び、「第2の領域45よりも下流側に比較的少容量の第1の活性炭46を配置しておく」(段落【0034】)ことによる作用効果であって、第2の領域の活性炭のBWCが非加熱領域の活性炭のBWCよりも高いことによる作用効果とはいえないものであるから、かかる作用効果は、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項から、当業者が予測し得たものである。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1ないし引用文献3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-01-14 |
結審通知日 | 2020-01-21 |
審決日 | 2020-02-03 |
出願番号 | 特願2014-249476(P2014-249476) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F02M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 齊藤 彬、川口 真一 |
特許庁審判長 |
渋谷 善弘 |
特許庁審判官 |
水野 治彦 鈴木 充 |
発明の名称 | キャニスタ |
代理人 | 富岡 潔 |
代理人 | 小林 博通 |