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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
管理番号 1361378
審判番号 不服2018-10147  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-25 
確定日 2020-04-14 
事件の表示 特願2015-249198「車両速度を決定するための方法およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 4日出願公開、特開2016-140235〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成27年12月22日(パリ条約による優先権主張 2014年12月29日、米国)の出願であって、平成28年11月11日付けの拒絶理由の通知に対し、平成29年2月16日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年7月27日付けの拒絶理由の通知に対し、同年10月26日付けで意見書が提出されたが、平成30年3月30日付けで拒絶査定がなされ(発送日 平成30年4月3日)、これに対して同年7月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同時に手続補正がなされ、その後、当審において、令和元年6月19日付けで拒絶理由が通知され、同年10月4日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1?13に係る発明は、令和元年10月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「車両(104)に搭載されて動作可能に配置されるように構成され、前記車両(104)に搭載されて動作可能に配置されたカメラ(110)の視野(108)における相異なる時間に得られる複数の画像データ(106)を受け取るように構成された1つまたは複数の分析プロセッサ(102)
を備えるシステム(100A、100B、116)であって、
前記1つまたは複数の分析プロセッサ(102)は、前記車両(104)が移動しているとき、前記複数の画像データ(106)の1つまたは複数の差に少なくとも部分的に基づいて前記車両(104)の速度(114)および進行方向を決定するようにさらに構成され、
前記速度の決定は、
前記画像データ(106)中の複数のフレーム(122a、122b、122c、500、700、800、1000、1100)にわたって調子を合わせて移動する前記画像データ(106)中の前記路線(112)の少なくとも1つの注目する特徴部位(502)を識別し、
前記少なくとも注目する特徴部位(502)が移動した全画素距離(124)を決定し、
前記全画素距離(124)と、前記画像データ(106)が捕捉されたフレームレートとに基づいて画素変化率を決定し、
前記画素変化率と、単位画素距離の単位路線距離との相関とに基づいて速度(114)を決定する、という工程により行われ、
前記車両(104)の進行方向が、1つまたは複数の注目する特徴部位(502)の移動方向又は進行方向を検出することおよび前記車両(104)の移動方向を識別することで決定され、
前記注目する特徴部位は、前記分析プロセッサ(102)により、視野中に水平に配列されているラインを含むものとして選択される、
システム(100A、100B、116)。」

第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由のうちの理由A及びBは、概略、次のとおりのものである。
A.本願の請求項1?3,6?22に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
B.本願の請求項1?22に係る発明は、本願の優先日前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用例1に記載された発明及び引用例2?4に記載された技術に基いて、また以下の引用例2に記載された発明並びに引用例1,3及び4に記載された技術に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1.特開2009-17462号公報
引用例2.特開2007-278951号公報
引用例3.特表2008-523417号公報
引用例4.特表2013-513155号公報

第4 引用例の記載及び引用発明

1.引用例1の記載及び引用発明
(1)引用例1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【請求項1】
移動体に取り付けられて前記移動体の周辺を撮影するカメラを備え、前記カメラから時系列で並ぶ複数のカメラ画像を取得して、前記カメラ画像から生成した表示用画像を表示装置に出力する運転支援システムにおいて、
前記複数のカメラ画像の内の基準カメラ画像から特徴点を抽出するとともに各カメラ画像における前記特徴点の位置を追跡処理によって検出することにより、異なるカメラ画像間における前記特徴点の移動ベクトルを導出する移動ベクトル導出手段と、
前記移動ベクトルに基づいて、前記移動体の移動速度と前記移動体の移動における回転角とを推定する推定手段と、を備え、
前記カメラ画像と推定された前記移動速度及び回転角とに基づいて、前記表示用画像を生成する
ことを特徴とする運転支援システム。」
イ.「【0001】
本発明は、運転支援システムに関する。特に、移動体に取り付けられたカメラの撮影画像から移動体の移動速度及び回転角を推定する技術に関する。また本発明は、その運転支援システムを利用した車両に関する。」
ウ.「【0019】
以下、本発明の実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。参照される各図において、同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分に関する重複する説明を原則として省略する。後に第1?第4実施例を説明するが、まず、各実施例に共通する事項又は各実施例にて参照される事項について説明する。」
エ.「【0020】
図1に、本発明の実施形態に係る運転支援システム(視界支援システム)の構成ブロック図を示す。図1の運転支援システムは、カメラ1と、画像処理装置2と、表示装置3と、を備える。カメラ1は、撮影を行い、撮影によって得られた画像(以下、撮影画像とも言う)を表す信号を画像処理装置2に出力する。画像処理装置2は、撮影画像を座標変換することによって鳥瞰図画像を生成し、更に鳥瞰図画像から表示用画像を生成する。」
オ.「【0023】
カメラ1は、車両100の周辺を撮影する。特に、車両100の後方側に視野を有するようにカメラ1は車両100に設置される。カメラ1の視野には、車両100の後方側に位置する路面が含まれる。」
カ.「【0024】
・・・(中略)・・・画像処理装置2は、例えば集積回路から形成される。」
キ.「【0025】
[鳥瞰図画像の生成方法]
画像処理装置2は、カメラ1の撮影画像を鳥瞰変換によって鳥瞰図画像に変換する。・・・(中略)・・・
【0039】
鳥瞰図画像は、実際のカメラ1の撮影画像を仮想カメラの視点(以下、仮想視点という)から見た画像に変換したものである。より具体的には、鳥瞰図画像は、実際のカメラ1の撮影画像を、地上面を鉛直方向に見下ろした画像に変換したものである。」
ク.「【0050】
以下に、図1の運転支援システムの動作内容を更に詳細に説明する実施例として、第1?第4実施例を説明する。或る実施例に記載した事項は、矛盾なき限り、他の実施例にも適用される。」
ケ.「【0051】
<<第1実施例>>
まず、第1実施例について説明する。図1の画像処理装置2は、カメラ1から所定の周期にて撮影画像を取り込み、順次得られる撮影画像から表示用画像を順次生成して、最新の表示用画像を表示装置3に対して出力する。これにより、表示装置3には、最新の表示用画像が更新表示される。
【0052】
図4を参照して、1つの表示用画像を生成するための動作の流れを説明する。図4は、この動作の流れを表すフローチャートである。図4に示すステップS11?S17の各処理は、図1の画像処理装置2にて実行される。」
コ.「【0053】
本発明に係る特徴的な表示用画像を生成するためには、異なる時刻で撮影された複数の撮影画像が必要である。そこで、画像処理装置2は、異なる時刻に撮影された複数の撮影画像を取り込み、この複数の撮影画像を後段の処理にて参照する(ステップS11)。今、取り込んだ複数の撮影画像が、時刻t1に撮影された撮影画像(以下、単に、時刻t1の撮影画像ともいう)と、時刻t2に撮影された撮影画像(以下、単に、時刻t2の撮影画像ともいう)と、時刻t3に撮影された撮影画像(以下、単に、時刻t3の撮影画像ともいう)と、を含むものとする。時刻t1の後に時刻t2が訪れ、時刻t2の後に時刻t3が訪れるものとし、時刻t1と時刻t2との間の時間間隔及び時刻t2と時刻t3との間の時間間隔を、Δtにて表す(Δt>0)。」
サ.「【0054】
続くステップS12において、時刻t1の撮影画像から特徴点が抽出される。特徴点とは、周囲の点と区別できる、追跡の容易な点のことである。このような特徴点は、水平及び垂直方向における濃淡変化量が大きくなる画素を検出する、周知の特徴点抽出器(不図示)を用いて自動的に抽出することができる。特徴点抽出器とは、例えば、Harrisのコーナ検出器、SUSANのコーナ検出器である。抽出されるべき特徴点は、例えば、路面上に描かれた白線の交点又は端点や、路面上の汚れ又は亀裂などであり、路面上の高さのない不動点を想定している。
・・・(中略)・・・
【0056】
本実施例では、車両100が真っ直ぐに後退していた場合を考える。・・・(中略)・・・
【0058】
ステップS12に続くステップS13では、特徴点の追跡処理がなされる・・・(中略)・・・
【0059】
時刻t1及びt2の撮影画像を夫々第1及び第2参照画像として取り扱って追跡処理を行えば、時刻t2の撮影画像における特徴点の位置が求まり、その後、時刻t2及びt3の撮影画像を夫々第1及び第2参照画像として取り扱って追跡処理を行えば、時刻t3の撮影画像における特徴点の位置が求まる。」
シ.「【0061】
ステップS13では、更に、時刻t1とt2の撮影画像間における各特徴点の移動ベクトル及び時刻t2とt3の撮影画像間における各特徴点の移動ベクトルを求める。2つの画像間における着目した特徴点の移動ベクトルは、その2つの画像間における該特徴点の移動の向き及び大きさを表す。」
ス.「【0062】
・・・(中略)・・・本実施例では、ステップS13に続くステップS14において、特徴点と特徴点の移動ベクトルを鳥瞰図座標上へマッピングする(投影する)。
・・・(中略)・・・
【0064】
・・・(中略)・・・尚、移動ベクトル251の始点及び終点の位置は、夫々、画像210a上における第1の特徴点の位置及び画像220a上における第1の特徴点の位置と合致する(移動ベクトル252?254についても同様)。」
セ.「【0065】
この後、ステップS15において、ステップS14で求められた鳥瞰図座標上の特徴点と移動ベクトルから、車両100の移動速度と車両100の移動における回転角を推定する。以下、車両100の移動速度を、車両速度と呼ぶ。上記の回転角は、車両100の操舵角に対応する。
【0066】
本実施例では、車両100が真っ直ぐ後退しているため、求められるべき回転角は0°である。具体的には、時刻t1及びt2の鳥瞰図画像間における第1の特徴点の移動ベクトルと、時刻t2及びt3の鳥瞰図画像間における第1の特徴点の移動ベクトルと、を対比し、両ベクトルの向きが同じである場合、回転角は0°であると推定する。・・・(中略)・・・
【0067】
車両速度の推定には、鳥瞰図座標が二次元地面座標をスケール変換したものであることを利用する(上記の式(4)又は(5)参照)。即ち、このスケール変換における変換率をKとし、鳥瞰図座標上における移動ベクトル251?254の何れかの大きさ、又は、移動ベクトル251?254の平均ベクトルの大きさをLとした場合、時刻t1-t2間における車両速度SPは、下記式(8)にて推定算出される。車両速度SPは、図3の2次元地面座標系X_(w) Z_(w) で定義される速度であり、式(5)より、K=H/f、である。尚、上述したように、時刻t1-t2間の時間間隔はΔtである。
【0068】
【数8】
SP=K×L/Δt ・・・(8)」
ソ.「【0075】
<<第2実施例>>
次に、第2実施例について説明する。第2実施例では、車両100が曲がりながら後退している場合を想定し、表示用画像を生成するための動作の流れを説明する。この動作の流れを表すフローチャートは、第1実施例における図4と同様であるため、本実施例でも図4を参照する。第1実施例にて記載された内容は、矛盾なき限り、全て第1実施例(当審注:「第2実施例」の誤記)にも適用される。」
タ.「【0076】
まず、ステップS11において、画像処理装置2は、異なる時刻に撮影された複数の撮影画像を取り込む(ステップS11)。第1実施例と同様、取り込んだ複数の撮影画像に、時刻t1?t3の撮影画像が含まれるものとする。」
チ.「【0077】
続くステップS12において、時刻t1の撮影画像から特徴点を抽出する。・・・(中略)・・・
【0078】
図10(a)、(b)及び(c)の画像310、320及び330は、夫々、車両100が曲がりながら後退していた場合における、時刻t1、t2及びt3の撮影画像を表す。図10(a)において、符号311?314が付された4つの点は、画像310から抽出された4つの特徴点であり、点311、312、313及び314が、夫々、第1、第2、第3及び第4の特徴点に対応するとする。
【0079】
ステップS12に続くステップS13では、第1実施例と同様、特徴点の追跡処理を行うことにより、画像320及び330の夫々における、第1?第4の特徴点の位置を求める。」
ツ.「【0080】
ステップS13では、更に、時刻t1とt2の撮影画像間における各特徴点の移動ベクトル及び時刻t2とt3の撮影画像間における各特徴点の移動ベクトルを求める。」
テ.「【0081】
続くステップS14では、第1実施例と同様、ステップS13で求められた各特徴点及び各移動ベクトルを鳥瞰図座標上へマッピングする(投影する)。」
ト.「【0083】
この後、ステップS15において、ステップS14で求められた鳥瞰図座標上の特徴点と移動ベクトルから、車両100の移動速度と車両100の移動における回転角を推定する。この推定手法を、図14を参照して説明する。図14には、図13に示すものと同じ移動ベクトル351及び352が示されている。ステップS14におけるマッピングによって、移動ベクトル351の始点位置は、鳥瞰図座標上の時刻t1における第1の特徴点の位置(即ち、図12(a)の鳥瞰図画像310a上における第1の特徴点の位置)と合致し、移動ベクトル351の終点位置及び移動ベクトル352の始点位置は、鳥瞰図座標上の時刻t2における第1の特徴点の位置(即ち、図12(b)の鳥瞰図画像320a上における第1の特徴点の位置)と合致し、移動ベクトル352の終点位置は、鳥瞰図座標上の時刻t3における第1の特徴点の位置(即ち、図12(c)の鳥瞰図画像330a上における第1の特徴点の位置)と合致する。
【0084】
図14では、説明の便宜上、1つの鳥瞰図画像360上に、移動ベクトル351及び352と、第1実施例で述べた車両100の後端部280、左端281、右端282及び中央点283と、を示している。移動ベクトル351と352が成す角度には、180度を超える角度と180未満の角度とが存在するが、これらの角度の内、180未満の角度をθ_(A)により表す。そして、角度θ_(A)の補角をΦにて表す(即ち、θ_(A)+Φ=180°)。この補角Φが、ステップS15において推定されるべき車両100の回転角である。今の例の場合、回転角Φは、時刻t2-t3間(又は時刻t1-t2間)における車両100の回転角である。
【0085】
更に、鳥瞰図画像360上における移動ベクトル351の終点を通り且つ角度θ_(A)を2等分する直線361と、車両100の後端部280を車幅方向に延長した線との交点をO_(A)にて表す。車両100の後端部280を車幅方向に延長した線とは、車両100の最後端を通り且つ画像の水平方向に平行な線である。図14は、車両100の後端部280を車幅方向に延長した線が画像の最も下側の水平ライン上に存在している場合を想定している。画像処理装置2は、交点O_(A)の位置を、鳥瞰図画像360上における車両100の回転中心の位置として推定する。以下、交点O_(A)を回転中心O_(A)と呼ぶ。
【0086】
また、鳥瞰図画像360上において、回転中心O_(A)と、Y_(au)軸方向における車両100の中心線を通る中央点283と、の距離をRにて表す。そうすると、ステップS15では、時刻t2-t3間(又は時刻t1-t2間)における車両100の移動距離Dを下記式(9)にて、時刻t2-t3間(又は時刻t1-t2間)における車両速度SPを下記式(10)にて推定することができる。移動距離D及び車両速度SPは、図3の2次元地面座標系X_(w) Z_(w) で定義される距離及び速度であり、Kは、上述したように、鳥瞰図座標と二次元地面座標との間のスケール変換の変換率である。
【0087】
【数9】
D=K×R×Φ ・・・(9)
【数10】
S(当審注:「SP」の誤記)=K×R×Φ/Δt ・・・(10)」
ナ.「【0123】
[注釈5]
図1の画像処理装置2及び図19の各部位の機能は、ハードウェア、ソフトウェア、またはハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって実現可能である。図1の画像処理装置2及び図19の各部位にて実現される機能の全部または一部を、プログラムとして記述し、該プログラムをコンピュータ上で実行することによって、その機能の全部または一部を実現するようにしてもよい。」
そして、記載ウ、ク及びソを踏まえて、記載ケ?トからみて、次の事項が理解できる。
ニ.画像処理装置2は、車両100が後退しているとき、異なる時刻に撮影された複数の撮影画像を取り込み、車両100の移動速度SPと回転角Φを推定する。
記載ウ、ク及びソを踏まえて、記載コ?セ及びチ?トからみて、次の事項が理解できる。
ヌ.画像処理装置2による車両100の移動速度SPの推定は、
時刻t1の撮影画像から特徴点を抽出し、時刻t2の撮影画像及び時刻t3の撮影画像における前記特徴点の位置を求め、
時刻t1とt2の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトル及び時刻t2とt3の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトルを求め、
前記特徴点及び前記移動ベクトルを鳥瞰図座標上へマッピングし、
車両100の移動速度SPを以下の式にて推定する
SP=K×L/Δt(車両100が真っ直ぐに後退している場合)、又は
SP=K×R×Φ/Δt(車両100が曲がりながら後退している場合)
ただし、Kは、鳥瞰図座標と二次元地面座標との間のスケール変換の変換率、Lは、鳥瞰図座標上における前記移動ベクトルの大きさ、Rは、鳥瞰図座標上における車両100の回転中心O_(A)と車両100の中央点283との距離、Δtは、時刻t1と時刻t2との間及び時刻t2と時刻t3との間の時間間隔
ことにより行われる。
記載ウ、ク及びソを踏まえて、記載ス、セ、テ及びトからみて、次の事項が理解できる。
ネ.画像処理装置2による車両100の回転角Φの推定は、鳥瞰図座標上にマッピングされた、時刻t1とt2の撮影画像間における特徴点の移動ベクトルの向きと、時刻t2とt3の撮影画像間における特徴点の移動ベクトルの向きと、を対比することにより行われる。
(2)そうすると、これらの事項からみて、本願の請求項1の記載に倣って整理すれば、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「車両100の後方側に視野を有するように車両100に設置されたカメラ1から異なる時刻に撮影された複数の撮影画像を取り込む画像処理装置2
を備える運転手支援システムであって、
画像処理装置2は、車両100が後退しているとき、異なる時刻に撮影された複数の前記撮影画像を取り込み、車両100の移動速度SPと回転角Φを推定し、
車両100の移動速度SPの推定は、
時刻t1の前記撮影画像から特徴点を抽出し、時刻t2の前記撮影画像及び時刻t3の前記撮影画像における前記特徴点の位置を求め、
時刻t1とt2の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトル及び時刻t2とt3の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトルを求め、
前記特徴点及び前記移動ベクトルを鳥瞰図座標上へマッピングし、
車両100の移動速度SPを以下の式にて推定する
SP=K×L/Δt(車両100が真っ直ぐに後退している場合)、又は
SP=K×R×Φ/Δt(車両100が曲がりながら後退している場合)
ただし、Kは、鳥瞰図座標と二次元地面座標との間のスケール変換の変換率、Lは、鳥瞰図座標上における前記移動ベクトルの大きさ、Rは、鳥瞰図座標上における車両100の回転中心O_(A)と車両100の中央点283との距離、Δtは、時刻t1と時刻t2との間及び時刻t2と時刻t3との間の時間間隔
ことにより行われ、
画像処理装置2による車両100の回転角Φの推定は、鳥瞰図座標上にマッピングされた、時刻t1とt2の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトルの向きと、時刻t2とt3の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトルの向きと、を対比することにより行われ、
前記特徴点は、水平及び垂直方向における濃淡変化量が大きくなる画素を検出する、
運転支援システム。」

2.引用例3の記載
引用例3には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【0024】
順次に続く2つの画像A,Bの撮影の間に、特にカメラの撮影速度により決定される時間間隔Δtがある。・・・(中略)・・・少なくとも部分的に水平に向けられるカメラの撮影範囲において、前方及び後方の撮影の際、車両周辺において物体Xとして、車道標識が確認可能である。
・・・(中略)・・・
【0026】
画像処理プロセスにより,例えばそれぞれ最も近くにある中心線部分が、物体Xとして、まず両方の画像A,Bにおいて確認される。その際例えば物体Xの相対位置及び大きさの変化が、パターン比較のために使用される。・・・(中略)・・・確認の際、両方の画像A,Bにおける物体Xの位置及び/又は大きさを求めることによって、物体Xの位置が突止められる。物体Xの位置又は大きさに関する相違は、図2に示すように変化2とし示される。
【0027】
図2には、明らかにするため、図1a及び1bの両方の画像A,Bが重ねて示されている。変化2は、最も近くにある中心線部分の移動及び拡大の形で認められる。
【0028】
求められる変化2から、両方の画像A,Bにおける物体Xの位置の間の速度ベクトル又は運動ベクトルが求められる。運動ベクトルは、所定のカメラ修正に基いて基準化される。それから運動ベクトル及び撮影される画像A,Bの時間間隔Δtに基いて、例えば車両1の縦速度及び/又は横速度が求められる。」
イ.「【0031】
急速かつ確実な画像処理のために、更に中心線部分の終わり及び/又は始まりの縁Kが、物体Xとして確認される。このため画像A,Bがまず高域フィルタにかけられる。図3は、撮影される画像の高域濾波の結果の例を示す。中心線部分の端部の縁Kが、よく見分けられかつ画像処置により容易に確認可能でありかつ位置を突止め可能である。」

第5 対比・判断

1.対比
本願発明と引用発明を対比する。
ア.引用発明において、カメラ1は、車両100の後方側に視野を有するように車両100に設置され、画像処理装置2は、カメラ1から撮影された複数の撮影画像を取り込んでいるから、カメラ1が車両100に設置されて動作可能に配置されるように構成されていることは、明らかである。そうすると、引用発明の「車両100の後方側に視野を有するように車両100に設置されたカメラ1」は、本願発明の「車両に搭載されて動作可能に配置されるように構成され、前記車両に搭載されて動作可能に配置されたカメラ」に相当する。
引用発明において、カメラ1の撮影画像が当該カメラの視野の画像データであることは明らかであるから、引用発明の、画像処理装置2がカメラ1から取り込む「異なる時刻に撮影された複数の撮影画像」は、本願発明の「カメラの視野における相異なる時間に得られる複数の画像データ」に相当する。
そうすると、引用発明の「車両100の後方側に視野を有するように車両100に設置されたカメラ1から異なる時刻に撮影された複数の撮影画像を取り込む画像処理装置2」と、本願発明の「車両に搭載されて動作可能に配置されるように構成され、前記車両に搭載されて動作可能に配置されたカメラの視野における相異なる時間に得られる複数の画像データを受け取るように構成された1つまたは複数の分析プロセッサ」は、少なくとも「車両に搭載されて動作可能に配置されるように構成され、前記車両に搭載されて動作可能に配置されたカメラの視野における相異なる時間に得られる複数の画像データを受け取るように構成された装置」(以下、単に「装置」という。)である点で一致する。
イ.引用発明の「車両100が後退しているとき」及び「車両100の移動速度SP」は、それぞれ、本願発明の「前記車両が移動しているとき」及び「前記車両の速度」に相当する。引用発明の車両100の回転角Φは、車両100の操舵角に対応しており(引用例1の記載セ参照)、車両は操舵の方向に沿って進行するから、引用発明の「車両100の」「回転角Φ」は、本願発明の「前記車両の」「進行方向」に相当する。
そして、引用発明は、画像処理装置2が、取り込んだ複数の前記撮影画像間における特徴点の移動ベクトルを求め、当該移動ベクトルに基いて車両100の移動速度SPと回転角Φを推定しており、前記移動ベクトルは、複数の前記撮影画像間の差にほかならない。
そうすると、引用発明の「車両100が後退しているとき、異なる時刻に撮影された複数の前記撮影画像を取り込み、車両100の移動速度SPと回転角Φを推定」することは、本願発明の「前記車両が移動しているとき、前記複数の画像データの1つまたは複数の差に少なくとも部分的に基づいて前記車両の速度および進行方向を決定するようにさらに構成され」ていることに相当する。
ウ.引用発明の「時刻t1の前記撮影画像」、「時刻t2の前記撮影画像」及び「時刻t3の前記撮影画像」は、合わせて、本願発明の「前記画像データ中の複数のフレーム」に相当する。引用発明は、カメラ1の視野には路面が含まれ、特徴点として前記路面上の不動点を想定しているから(引用例1の記載オ及びサ参照)、引用発明の、時刻t1の前記撮影画像から抽出され、時刻t2の前記撮影画像及び時刻t3の前記撮影画像におけるその位置を求められる「特徴点」は、本願発明の「前記画像データ中の複数のフレームにわたって調子を合わせて移動する前記画像データ中の前記路線の少なくとも1つの注目する特徴部位」に相当し、引用発明の「時刻t1の前記撮影画像から特徴点を抽出し、時刻t2の前記撮影画像及び時刻t3の前記撮影画像における前記特徴点の位置を求め」ることは、本願発明の「前記画像データ中の複数のフレームにわたって調子を合わせて移動する前記画像データ中の前記路線の少なくとも1つの注目する特徴部位を識別」することに相当する。
引用例1の記載シ、セ及びトからみて、引用発明において、車両100が真っ直ぐに後退している場合、鳥瞰図座標上における移動ベクトルの大きさLは、また車両100が曲がりながら後退する場合、鳥瞰図画像上における車両100の回転中心O_(A)と車両100の中央点283との距離Rと、車両100の回転角Φと、の積R×Φは、いずれも、鳥瞰図座標上における前記特徴点の移動の大きさを表している。そして、引用例1の記載セ及びトからみて、鳥瞰図座標上における前記特徴点の移動の大きさは、前記撮影画像を鳥瞰変換した鳥瞰図画像(引用例1記載キ参照)上における前記特徴点の移動の大きさであるから、本願発明の「前記少なくとも注目する特徴部位が移動した全画素距離」に相当し、引用発明の「鳥瞰図座標と二次元地面座標との間のスケール変換の変換率」は、本願発明の「単位画素距離の単位路線距離との相関」に相当する。そして、引用発明の「時刻t1と時刻t2との間及び時刻t2と時刻t3との間の時間間隔」は、本願発明の「前記画像データが捕捉されたフレームレート」に相当する。そうすると、引用発明の「時刻t1とt2の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトル及び時刻t2とt3の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトルを求め、
前記特徴点及び前記移動ベクトルを鳥瞰図座標上へマッピングし、
車両100の移動速度SPを以下の式にて推定する
SP=K×L/Δt(車両100が真っ直ぐに後退している場合)、又は
SP=K×R×Φ/Δt(車両100が曲がりながら後退している場合)
ただし、Kは、鳥瞰図座標と二次元地面座標との間のスケール変換の変換率、Lは、鳥瞰図座標上における前記移動ベクトルの大きさ、Rは、鳥瞰図座標上における車両100の回転中心O_(A)と車両100の中央点283との距離、Δtは、時刻t1と時刻t2との間及び時刻t2と時刻t3との間の時間間隔」は、本願発明の「前記少なくとも注目する特徴部位が移動した全画素距離を決定し、
前記全画素距離と、前記画像データが捕捉されたフレームレートとに基づいて画素変化率を決定し、
前記画素変化率と、単位画素距離の単位路線距離との相関とに基づいて速度を決定する」ことに相当する。
してみれば、引用発明の「車両100の移動速度SPの推定は、
時刻t1の前記撮影画像から特徴点を抽出し、時刻t2の前記撮影画像及び時刻t3の前記撮影画像における前記特徴点の位置を求め、
時刻t1とt2の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトル及び時刻t2とt3の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトルを求め、
前記特徴点及び前記移動ベクトルを鳥瞰図座標上へマッピングし、
車両100の移動速度SPを以下の式にて推定する
SP=K×L/Δt(車両100が真っ直ぐに後退している場合)、又は
SP=K×R×Φ/Δt(車両100が曲がりながら後退している場合)
ただし、Kは、鳥瞰図座標と二次元地面座標との間のスケール変換の変換率、Lは、鳥瞰図座標上における前記移動ベクトルの大きさ、Rは、鳥瞰図座標上における車両100の回転中心O_(A)と車両100の中央点283との距離、Δtは、時刻t1と時刻t2との間及び時刻t2と時刻t3との間の時間間隔
ことにより行われ」ることは、
本願発明の「前記速度の決定は、
前記画像データ中の複数のフレームにわたって調子を合わせて移動する前記画像データ中の前記路線の少なくとも1つの注目する特徴部位を識別し、
前記少なくとも注目する特徴部位が移動した全画素距離を決定し、
前記全画素距離と、前記画像データが捕捉されたフレームレートとに基づいて画素変化率を決定し、
前記画素変化率と、単位画素距離の単位路線距離との相関とに基づいて速度を決定する、という工程により行われ」ることに相当する。
エ.引用発明において、前記特徴点の移動ベクトルの向きは、前記特徴点の移動の向きを表しているから(引用例1記載シ参照)、引用発明の「時刻t1とt2の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトルの向き」及び「時刻t2とt3の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトルの向き」は、いずれも、本願発明の「1つまたは複数の注目する特徴部位の移動方向又は進行方向」に相当する。
そして、本願明細書の記載、例えば段落0033及び0036の記載を参照すると、本願発明において、「車両の移動方向」は、「車両の進行方向」と同一のものである。
してみれば、引用発明の「画像処理装置2による車両100の回転角Φの推定は、鳥瞰図座標上にマッピングされた、時刻t1とt2の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトルの向きと、時刻t2とt3の前記撮影画像間における前記特徴点の移動ベクトルの向きと、を対比することにより行われ」ることは、本願発明の「前記車両の進行方向が、1つまたは複数の注目する特徴部位の移動方向又は進行方向を検出することおよび前記車両の移動方向を識別することで決定され」ることに相当する。
オ.引用発明の「運転手支援システム」は、本願発明の「システム」に相当する。
カ.以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
車両に搭載されて動作可能に配置されるように構成され、前記車両に搭載されて動作可能に配置されたカメラの視野における相異なる時間に得られる複数の画像データを受け取るように構成された装置
を備えるシステムであって、
前記装置は、前記車両が移動しているとき、前記複数の画像データの1つまたは複数の差に少なくとも部分的に基づいて前記車両の速度および進行方向を決定するようにさらに構成され、
前記速度の決定は、
前記画像データ中の複数のフレームにわたって調子を合わせて移動する前記画像データ中の前記路線の少なくとも1つの注目する特徴部位を識別し、
前記少なくとも注目する特徴部位が移動した全画素距離を決定し、
前記全画素距離と、前記画像データが捕捉されたフレームレートとに基づいて画素変化率を決定し、
前記画素変化率と、単位画素距離の単位路線距離との相関とに基づいて速度を決定する、という工程により行われ、
前記車両の進行方向が、1つまたは複数の注目する特徴部位の移動方向又は進行方向を検出することおよび前記車両の移動方向を識別することで決定される、
システム。
【相違点1】
前記装置について、本願発明は、1つまたは複数の分析プロセッサであるのに対し、引用発明は、画像処理装置2である点。
【相違点2】
本願発明は、前記注目する特徴部位が、視野中に水平に配列されているラインを含むものとして選択されるのに対し、
引用発明は、前記注目する特徴部位(特徴点)が、水平及び垂直方向における濃淡変化量が大きくなる画素を検出する点。
(2)判断
ア.相違点1について検討する。
引用例1の記載カ及びナからみて、引用発明においても、画像処理装置2は、1つ又は複数のプロセッサで構成されているといえる。そうすると、相違点1は、実質的な相違点ではない。
仮に、相違点1が実質的な相違点であったとしても、引用発明において、画像処理装置2を1つ又は複数のプロセッサで構成すること、すなわち相違点1に係る本願発明を特定する事項を備えるようにすることは、引用例1に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。
イ.相違点2について検討する。
引用発明は、前記注目する特徴部位(特徴点)として、水平及び垂直方向における濃淡変化量が大きくなる画素を検出するものである。そして、引用例1には、そのような特徴点の例として、「路面上に描かれた白線の交点又は端点」が記載されている(記載サ参照)。
前記白線がカメラ(カメラ1)の視野中に水平に配列される場合、その側縁が、あるいは前記白線が前記視野中に垂直に配列される場合、その端縁が、それぞれ、前記視野中に水平に配列されているラインを構成し、当該白線の側縁と端面の交点においてにおいて水平及び垂直方向における濃淡変化量が大きくなることは明らかである。
そうすると、引用発明において、視野中に水平に配列されているラインは、当然、前記特徴点に含まれることとなり、相違点2は、実質的な相違点ではない。
仮に、相違点2が実質的な相違点であったとしても、注目する特徴部位として、視野中に水平に配列されているラインを選択することは、例えば引用例3に記載されているように、慣用手段であり、一方、前記のとおり、引用例1には、前記特徴点の例として、「路面上に描かれた白線の交点又は端点」が記載されている。そうすると、引用発明において、前記慣用手段を適用して、相違点2に係る本願発明を特定する事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
ウ.以上のとおり、本願発明と引用発明との間に実質的な差異は見いだすことができず、本願発明は、引用例1に記載された発明である。
仮に相違点1及び2が実質的な相違点であるとしても、本願発明の奏する効果に、引用例1に記載された事項及び前記慣用手段に基いて、当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。したがって、本願発明は、引用発明及び引用例1に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、または特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-11-08 
結審通知日 2019-11-21 
審決日 2019-12-03 
出願番号 特願2015-249198(P2015-249198)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 康  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 柿崎 拓
久保 竜一
発明の名称 車両速度を決定するための方法およびシステム  
代理人 荒川 聡志  
代理人 関口 一哉  
代理人 小倉 博  
代理人 田中 拓人  

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