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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1361472
異議申立番号 異議2018-700623  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-27 
確定日 2020-03-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6270362号発明「関節痛改善剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6270362号の明細書及び特許請求の範囲を令和 1年 9月13日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第6270362号の請求項3に係る発明についての特許異議申立てを却下する。 特許第6270362号の請求項〔1?2、4〕に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6270362号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年 7月17日に特許出願され、平成30年 1月12日に特許権の設定登録がされ、同年 1月31日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年 7月27日に特許異議申立人 矢部陽子により特許異議の申立てがなされ、平成30年11月15日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成31年 1月18日に意見書が提出された。その後、平成31年 2月 8日付け審尋に対し、その指定期間内である平成31年 4月16日に特許異議申立人により回答書が提出された。令和 1年 7月 8日付け取消理由<決定の予告>が通知され、その指定期間内である令和 1年 9月13日に意見書、訂正請求書が提出された。その後、令和 1年11月28日に特許異議申立人により意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求
本件訂正請求の趣旨及び訂正の内容は、それぞれ以下のとおりのものである。

1 訂正請求の趣旨
特許第6270362号の設定登録時の明細書、特許請求の範囲(以下、各々、「本件特許明細書」、「本件特許請求の範囲」という。)を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲(以下、各々、「本件訂正明細書」、「本件訂正特許請求の範囲」という。)のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求める。

2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)?(4)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「関節痛改善剤(ただし、下記(a)を除く。)。
(a)ツバキ種子エキス、N-アセチルグルコサミン及びアスタキサンチンを含有し、ツバキ種子エキス100質量部に対するN-アセチルグルコサミンの配合量が50質量部以上100質量部以下である経口組成物」と記載されているのを、
「関節痛改善剤(ただし、下記(a)及び(d)を除く。)。
(a)ツバキ種子エキス、N-アセチルグルコサミン及びアスタキサンチンを含有し、ツバキ種子エキス100質量部に対するN-アセチルグルコサミンの配合量が50質量部以上100質量部以下である経口組成物
(d)乳飲料または豆乳に添加して摂取されるもの」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1ないし3のいずれかに記載」と記載されているのを、
「請求項1または2に記載」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の段落0028に、
「本発明の関節痛改善剤は、食品や飲料に添加して接種してもよい。」と記載されているのを、
「本発明の関節痛改善剤は、食品や飲料に添加して摂取してもよい。」に訂正する。

3 訂正の適否の判断
(1)一群の請求項、明細書の訂正と関係する請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 一群の請求項について
訂正事項1?3に係る訂正は、いずれも訂正前の請求項1?4について訂正するものであるところ、請求項2は請求項1を、請求項3?4は請求項1を直接的及び又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正事項1?3に係る訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項についてされたものである。

イ 明細書の訂正と関係する請求項
訂正事項4は、一群の請求項である訂正前の請求項1?4についてする訂正事項1と関連してなされる訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合する。

ウ 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の関節痛改善剤に係る発明について、「(d)乳飲料または豆乳に添加して摂取されるもの」を除く、と特定するものである。また、訂正前の請求項2?4は、請求項1を引用するものであって、訂正事項1は、請求項2?4に係る発明についても、上記と同様に特定するものである。
そして、上記特定に関連する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「本発明の関節痛改善剤は、食品や飲料に添加して接種してもよい。」(段落0028)との記載があり、また、乳飲料や豆乳は典型的な飲料であるといえること、さらには、第4 4-1 2(3)ウに説示のとおり、本件出願日当時、乳飲料や豆乳にN-アセチルグルコサミンを添加して摂取することは広く行われていたことを考慮すれば、「(d)乳飲料または豆乳に添加して摂取される」関節痛改善剤であることも、「乳飲料または豆乳に添加」せずに摂取される関節痛改善剤であることも、本件特許明細書に記載されているものと認める。
したがって、上記特定により「(d)乳飲料または豆乳に添加して摂取されるもの」を除いた訂正後の請求項1?4の関節痛改善剤に係る発明は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、訂正事項1は新たな技術的事項を導入するものではないといえる。
よって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、上記した「(d)乳飲料または豆乳に添加して摂取される」関節痛改善剤と「乳飲料または豆乳に添加」せずに摂取される関節痛改善剤はともに訂正前の請求項1?4に係る発明に含まれていたものと認められるから、上記訂正事項1は、訂正前の請求項1?4に係る発明に含まれていたもののうち、「(d)乳飲料または豆乳に添加して摂取される」関節痛改善剤を除くことにより、訂正前の請求項1?4の関節痛改善剤を限定するものである。
よって、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(イ)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項3を削除するものである。
よって、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(ウ)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項2によって、請求項3を削除することに伴い、訂正前の請求項4に係る発明が訂正前の請求項1ないし3いずれかを引用していたものを、訂正後の請求項4に係る発明が訂正後の請求項1または2を引用するとしたものである。
よって、訂正事項3に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(エ)訂正事項4について
訂正事項4は、本件特許明細書の段落0028の「本発明の関節痛改善剤は、食品や飲料に添加して」「接種」とあるのを「摂取」と訂正するものである。
ところで、本発明の関節痛改善剤は、「N-アセチルグルコサミンを含」み、「被投与者に」「投与される」ものである(請求項1)。そうすると、本件特許明細書の上記「接種」との記載は、本発明の関節痛改善剤を投与することを表現する用語であると認められる。しかし、「接種」とは、一般に、「細菌・ウイルス・ワクチンなどを人体・動物体または培地に加えること」(必要であれば、新村出編 広辞苑第三版 1350頁 せっしゅ【接種】 株式会社岩波書店 1988年10月11日第六刷発行)を意味する用語であり、本発明のように、細菌・ウイルス・ワクチン等と全く異なる低分子化合物であるN-アセチルグルコサミンを含む関節痛改善剤を被投与者に投与することを表す表現として通常用いられない用語であること、また、関節痛改善剤を被投与者に投与するとは、該関節痛改善剤を被投与者の体内に取り入れることを意味するといえることから、上記「接種」との用語が、「取り入れて自分のものとすること。特に、栄養物を体内にとり入れること。」を意味する「摂取」という用語の誤記であることは明らかであるといえる。
そして、上記訂正に関連する記載として、本件の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明には、プラセボ対照ランダム二重盲検平行群間比較法による関節痛改善効果の評価やII型コラーゲン代謝マーカーによる関節痛改善効果の評価を、試験製剤を投与する被験者をN-アセチルグルコサミン摂取群、グルコサミン摂取群、プラセボ摂取群に分けて行ったことが記載されており(段落0032、0035、0036)、該記載によれば、本発明の関節痛改善剤が摂取されるものであることは本件の願書に最初に添付した明細書に記載されているものと認める。
よって、訂正事項4に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものであるし、また、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項の規定において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。
なお、本件特許異議申立事件においては、全ての請求項について特許異議の申立てがなされているから、上記訂正事項に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

第3 本件訂正発明
上記訂正の結果、本件特許第6270362号の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、請求項順に、「本件訂正発明1」、・・・「本件訂正発明4」ともいう。)は、本件訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
200?400mg/日の量で被投与者に少なくとも12週間投与されるN-アセチルグルコサミンを含む、関節痛改善剤(ただし、下記(a)及び(d)を除く。)。
(a)ツバキ種子エキス、N-アセチルグルコサミン及びアスタキサンチンを含有し、ツバキ種子エキス100質量部に対するN-アセチルグルコサミンの配合量が50質量部以上100質量部以下である経口組成物
(d)乳飲料または豆乳に添加して摂取されるもの
【請求項2】
下記(b)及び(c)を除く、請求項1に記載の関節痛改善剤。
(b)純粋サリゲニンもしくはその誘導体、またはサリゲニンに富むサリックスルブラ抽出物から選択されるそれらを含む抽出物と、実質的に純粋なボスウェリア酸もしくはその半合成誘導体、またはボスウェリア酸に富むフランキンセンス抽出物と、ヨーロッパブドウ由来もしくはカメリアシネンシス由来のプロシアニンジン、またはレインもしくはその親油性誘導体と、グルクロン酸またはグルクロノラクトンとを含む製剤 (c)サリゲニンもしくはその誘導体、またはサリゲニンを10?50%含むサリックスssp抽出物、実質的に純粋なアンドログラフォリド、またはアンドログラフォリドを5?30%含むアンドログラフォリドに富むアンドログラフィス・パニクラタ抽出物、および/またはグルクロン酸もしくはグルクロノラクトンを含む組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記関節痛改善剤は、膝関節痛改善剤である請求項1または2に記載の関節痛改善剤。」

第4 当審の判断
請求項3を削除することを含む令和 1年 9月13日提出の訂正請求は、前記第2 3記載のとおり認められた。したがって、請求項3に係る特許についての特許異議申立ては不適法な申立てであり、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項の規定において準用する同法第135条の規定により同請求項に係る発明についての特許異議申立てを却下する。
以下、訂正後の請求項1?2、4に係る特許についての当審の判断を示す。

4-1 取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由について
1 令和 1年 7月 8日付け取消理由<決定の予告>の概要
当合議体が、請求項1?4に係る特許に対して特許権者に通知した令和 1年 7月 8日付け取消理由<決定の予告>は、概略、次のとおりのものである。
理由
A 請求項1?4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明、刊行物1に記載された事項及び本件出願日当時の技術常識(刊行物2?4)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記発明に係る特許は取り消すべきものである。
B 請求項1?4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物4に記載された発明、刊行物4に記載された事項及び本件出願日当時の技術常識(刊行物2、3)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記発明に係る特許は取り消すべきものである。

刊行物一覧
刊行物1:特公平7-103033号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証に対応する特許公報である)
刊行物2:薬理と治療、Vol.38、No.5、p435-445、2010(特許異議申立人が提出した甲第2号証である)
刊行物3:薬理と治療、Vol.34、No.1、p149-165、2006(特許異議申立人が提出した甲第3号証である)
刊行物4:特開2005-80604号公報(特許異議申立人が提出した甲第4号証である)

2 刊行物の記載
(1)刊行物1の記載事項及び引用発明1
ア 刊行物1には、次のとおりの記載がある。
(1の1)「【請求項1】関節の並びに結合組織及び支持組織の退行性及び炎症疾性患及び関連疾患の治療のための、口腔内で使用可能なN-アセチルグルコサミン製剤。
【請求項2】固形のN-アセチルグルコサミンからなり、口腔内に長時間残る粉末、顆粒、錠剤、弾性又は塑性咀しゃく材料として使用可能なN-アセチルグルコサミン製剤。」(特許請求の範囲 請求項1、2)

(1の2)「人及び脊椎動物の関節は、はなはだ強くて変動的な、一部は文明に原因する一方的な負荷にさらされる。関節面に沿ったすこぶる滑らかな骨の表面、滑液の卓越した潤滑性、及び弾性的でしかも強度の機械的負荷に耐える軟骨と靭帯が、とりわけ若年時には完全な関節機能を保証する。既に中年期には、最も負担の大きな関節、膝、臀部、脊椎に退行性変化過程が観察され、多くの場合臨床的に著しい苦痛をもたらす。このような変化は、当初はとりわけ滑液と軟骨の質に関係し、その後の段階で骨自体の粗面化と糜爛が認められる。疼痛と運動能力の制限、遂には関節の完全な硬直がその結末である。
関節損傷過程が多くの外的影響により強められることがある。重い荷物の運搬、悪い姿勢、完全な運動不足、過度のスポーツ等々である。更に誤った栄養、代謝疾患、感染症、リューマチ病等が退行性関節疾患の急速な進行に関与し、又はこれを発症させることがある。高年期には同様の苦痛を免れる人はほとんどいない。」(p1第2欄6行?p2第3欄7行)

(1の3)「疼痛を伴い、一部では炎症も生じた症状の治療は、非ステロイド系消炎剤、例えばインドメタシンを用い、又はコルチコイドにより専ら対症的に行なうことが多い。・・・しかも、非ステロイド系消炎剤及びコルチコイドを使用するときは、グリコサミノグリカン(GAGs)の代謝を分解促進方向に変位させる危険がある。従って、疾患の症候例えば関節の疼痛及び運動不能の一時的鎮静の利点の一方で、他の危険と並んで疼痛の原因である退行過程を促進する恐れがある。
これに対して、グリコサミノグリカン即ちGAGsの構成単位の前駆体であるグルコサミンは、原因療法効果を発揮することが古くから知られている。この効果は、一方では当該構成単位をGAGsに組み入れることに基づき、他方では合成の前駆体の濃度を高めることによってGAGsの新規合成を刺激することによるものである。こうして、疾患の原因となる代謝過程に好都合な影響を与えると共に、疾患の根底にある退行過程の治癒又は少くとも抑制に寄与することが可能になる。
ところが、最後に述べた原因療法のために利用可能な薬物もやはり理想的ではない。・・・
天然GAGsの代わりに、硫酸グルコサミンも経口、筋肉内及び関節内投与され良好な治療成績が挙げられている。硫酸グルコサミンは、同一性、純度及び安定性に関して明確に定義し得る化合物であるという大きな利点がある。硫酸グルコサミンは、低分子天然物質としてアレルギーを引き起こさないし、必要な用量でほとんど中毒作用が予想されない。他方、例えばオプフェルマン・アルツナイミッテル社、5060ベルギッシュ・グラドバッハ2(Opfermann-Arzneimittel、5060 Bergisch Gladbach 2)の基礎情報ドナ(Dona)(R)(なお、この「(R)」の字は、原文では上付きの〇内にRの文字)200-Sから読み取れるように、硫酸グルコサミンにも重大な欠点がある。
即ち、経口的適用形態は明らかに静脈又は筋肉注射よりはるかに効果が低い。・・・効果が高い注射製剤は生理的pH値の溶液で十分に安定でないので、酸性pH値で調合、貯蔵及び供給され、使用前に医師が中和しなければならない。・・・
経口投与したグルコサミンの過少な効果と少い化学的安定性の欠点を防止するために、特殊な塩及び塩混合物が使用されている。・・・
すこぶる高い需要に拘らず、退行性及び/又は炎症性関節疾患又はその他の結合及び支持組織の疾患並びに他のグルコサミノグリカン欠乏症の治療のための最適の薬物がこれまで入手不能であることは明瞭である。
・・・グルコサミンの代わりにN-アセチルグルコサミンを使用すれば、長時間貯蔵の場合に安定性の問題がほとんどない。
しかし、患者が自分でたやすく適用できる製剤の単一の作用物質として使用するために十分に効果的な形のアミノ糖はまだない。
注射形態は長期治療にとって望ましくない。医師の頻繁な、従ってすこぶる高価な往診を必要とするからである。しかも、注射製剤はそれ自体高価であり、患者にとって不快である。」(p2第3欄14行?p3第5欄7行)

(1の4)「アミノ糖の中でN-アセチルグルコサミンは、安定であって、少くとも非経口的投与により退行性関節疾患に対して疑いなく有効であるという利点がある。
ところが、特別の服用方式により、経口的投与でもN-アセチルグルコサミンの効果が高められることが判明した。N-アセチルグルコサミンは、グルコサミンと異って味が意外に良く、純甘味があまり強くない。比較的高い分子量と分子のすこぶる親水性の性質に拘らず、既に口腔内で作用物質日の一部が吸収される。このため、全身循環系に到達する前に腸粘膜や肝臓で分解することが回避される。その結果、経口服用の場合、なるべく長時間口腔内に保持し、粘膜と接触させれば、N-アセチルグルコサミンがかなり良く生物的に利用可能となり、有効である。これはすこぶる簡単に達成することができる。粉末又は顆粒状のN-アセチルグルコサミンを服用するときに、液体で直ちに流し込まなければ、既に一部を口腔内で吸収することができる。
固定用量を含むしゃぶり錠剤又は咀しゃく材料の添加物としての服用は大変快適である。良好な効果、好ましい味覚や、面倒な静脈注射形態及び大きな錠剤の嚥下そのものを回避できることにより、新規な適用形態を退行性関節疾患の長期治療のための理想的な手段とすることができる。N-アセチルグルコサミンは相容性がすこぶる良好であり、代謝におけるこの天然物質の分解は老年患者の不利な前提条件下でも何ら問題がないことに別の利点が認められる。
口腔投与のためのN-アセチルグルコサミンは50mgないし1000mgの一日量で使用することができる。相容性が大変良いのでそれ以上の用量が可能であり、200mg-600mg/1日が好ましい。
毎日数回服用の場合は一回量が10mgないし500mgのN-アセチルグルコサミンを含むことが可能で、50mgないし250mgが好ましい。」(p3第5欄19?第6欄1行)

(1の5)「実施例
・・・
2.バッカル錠剤
2500gのN-アセチルグルコサミンをクエン酸250g及びポリビニルピロリドン100gと均一に混合し、80%エタノールで僅かに与湿して錠剤にプレスし、約40℃で空気流の中で乾燥する。
1錠当りの個別重量約117.5mg
1錠当りのN-アセチルグルコサミン含量:100mg
朝晩1-3錠を服用。錠剤を逐次服用し、口中でゆっくり溶解させる。」(p3第6欄17?33行)

(1の6)「図の説明
第1図は、20mgのN-アセチルグルコサミンの水溶液2mlの胃内(経口)及び口腔内投与の後のハムスターの血漿中濃度を比較したグラフである。
第2図は、200mgのN-アセチルグルコサミンの水溶液2mlの胃内(経口)及び口腔内投与の後のハムスターの血漿中濃度を比較したグラフである。

【第1図】


【第2図】


」(p3第6欄43?49行、第1図、第2図)

イ 上記アの記載(特に、摘示事項(1の5)の実施例 2.バッカル錠剤の項)によれば、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認める。

「2500gのN-アセチルグルコサミンをクエン酸250g及びポリビニルピロリドン100gと均一に混合し、80%エタノールで僅かに与湿して錠剤にプレスし、約40℃で空気流の中で乾燥することにより製造された、1錠当りの個別重量約117.5mg、1錠当りのN-アセチルグルコサミン含量100mgの口中でゆっくり溶解させるバッカル錠剤であって、朝晩1?3錠服用されるバッカル錠剤。」(以下、「引用発明1」という。)

(2)刊行物4の記載事項及び引用発明4
ア 刊行物4には、次のとおりの記載がある。
(4の1)「【請求項1】
N-アセチルグルコサミン80?90質量%、キチンオリゴ糖10?20質量%含有する糖組成物を、0.025?37.5質量%含有することを特徴とする乳飲料。
【請求項2】
N-アセチルグルコサミン80?90質量%、キチンオリゴ糖10?20質量%含有する糖組成物を、0.025?37.5質量%含有する乳飲料からなることを特徴とする変形性関節症改善剤。」(特許請求の範囲)

(4の2)「【0015】
本発明の変形性関節症改善剤は、乳飲料にN-アセチルグルコサミン及びキチンオリゴ糖を含有する糖組成物を配合したので、筋肉や骨を形成し、関節症の予防に役立つカルシウムやマグネシウム等のミネラルや良質なタンパク質とN-アセチルグルコサミンを一緒に摂取することができ、これらの成分の相乗効果により、優れた改善効果が期待できると共にキチンオリゴ糖によるビフィズス菌増殖作用や免疫調整機能等の生理機能も期待できる。また、N-アセチルグルコサミンは、グルコサミン塩に比べてpHや熱に対する安定性が高く、pHや熱による褐変や分解が起こることがないので保存安定性に優れている。更に、N-アセチルグルコサミンは良質な甘味を有しており、キチンオリゴ糖は難消化性の糖質であるので、乳飲料に配合しても製品の風味を損なったり、余分なカロリーを付与することもない。更にまた、乳飲料形態であるので、高齢の患者でも継続的に無理なく摂取することができる。」(段落0015)

(4の3)「【実施例】
【0037】
<実施例1>
10Lのガラス容器中で濃塩酸4Lにキチン1kgを撹拌しながら投入した。容器を外部から温水加熱して40℃に保ちながら加水分解反応を行った。4時間後、水2.5Lをゆっくりと投入し、反応を停止した。ソーダ灰でpH3?7に中和し、活性炭100gを投入後60分間撹拌、脱色を行った。ろ紙ろ過により活性炭を除去後、ろ液を電気透析脱塩装置(商品名「セレミオンCMV/AMV」、旭硝子株式会社製)により脱塩した。
【0038】
次いで脱塩液を、強酸性イオン交換樹脂(商品名「ダイヤイオンSK1-B」、三菱化学製)を充填した500ml容カラム、また弱塩基性イオン交換樹脂(商品名「ダイヤイオンWA-30」、三菱化学製)を充填した500ml容カラムに順番に通液し(SV=2)、共存するグルコサミン塩酸塩を除去した。
【0039】
さらに処理液に、市販の酵素製剤(商品名「ヘミセルラーゼアマノ90」、アマノエンザイム製)8gを添加し、50℃にて12時間処理した後、85℃まで昇温して酵素を失活させたてからスプレードライ法(ニロ社製スプレードライヤー)にて乾燥(乾燥温度:イン160℃、アウト95℃)し、白色粉末430gを得た。得られた粉末をHPLCにより分析した結果、質量組成比はN-アセチルグルコサミン82%、キチンオリゴ糖18%であり、グルコサミン塩酸塩は検出されなかった。
【0040】
<実施例2>
生乳15%、乳製品(脱脂粉乳等)10%、デキストリン1.45%、上記実施例1で得られた糖組成物を0.49質量%(糖組成物として4.9kg)に水を加えて1000Lとし、充分に撹拌溶解した後、140℃で3秒間殺菌し、250ml入りの紙パック容器に無菌的に充填した。充填後に製品中のN-アセチルグルコサミンの含有量を測定したところ、0.4質量%であった。この乳飲料は、通常の乳飲料に比べてほのかに甘く、良好な風味を有しており、保存安定性にも優れていた。また、高齢の患者でも継続的に無理なく摂取することができ、実施例5の臨床試験結果から、変形性関節症の治療に極めて有効であることが明らかとなった。
【0041】
<実施例3>
生乳15%、乳製品(脱脂粉乳等)10%、デキストリン0.98%、上記実施例1で得られた糖組成物を0.98質量%(糖組成物として9.8kg)に水を加えて1000Lとし、充分に撹拌溶解した後、140℃で3秒間殺菌し、低脂肪乳(脂肪分1%、無脂乳固形分10%)を調製し、250ml入りの紙パック容器に無菌的に充填した。充填後に製品中のN-アセチルグルコサミンの含有量を測定したところ、0.81質量%であった。この乳飲料は、通常の乳飲料に比べてほのかに甘く、良好な風味を有しており、保存安定性にも優れていた。また、高齢の患者でも継続的に無理なく摂取することができ、実施例5の臨床試験結果から、変形性関節症の治療に極めて有効であることが明らかとなった。
【0042】
<対照例>
生乳15%、乳製品(脱脂粉乳等)10%、デキストリン1.94%に水を加えて1000Lとし、充分に撹拌溶解した後、140℃で3秒間殺菌し、低脂肪乳(脂肪分1%、無脂乳固形分10%)を調製し、250ml入りの紙パック容器に無菌的に充填した。充填後に製品中のN-アセチルグルコサミンの含有量を測定したところ、0.01質量%であった。この乳飲料は、通常の乳飲料同様に良好な風味を有しており、保存安定性にも優れていた。」(段落0037?0042)

(4の4)「【0051】
<実施例5>
実施例2及び3で調製したN-アセチルグルコサミン含有乳飲料を用いて変形性膝関節症患者に対する臨床試験を行った。
【0052】
(対象患者)
対象は、臨床症状により変形性膝関節症と診断された整形外科外来受診中の患者31名である。年齢は74.4±8.3歳で、うち女性が24名であった(最終試験対象者。エントリーのうち1名が試験開始直後牛乳によるアレルギー症状を訴えたために除外した。)。対象者はいずれも消炎鎮痛貼り付け剤又は経口剤等医薬品の投与を受けた経験があり、安静時疼痛又は運動時疼痛が主症状として持続的に認められる患者である。
【0053】
(試験方法)
臨床投与試験はプラセボを対照とした並行群間試験法で行った。上記31名の患者を男女別に分けた後、無作為抽出法により3群に分け、それぞれプラセボ(N-アセチルグルコサミン無添加乳飲料:対照例)投与群、高用量(N-アセチルグルコサミン0.81質量%含有乳飲料:実施例3)投与群、低用量(N-アセチルグルコサミン0.4質量%含有乳飲料:実施例2)投与群とし、各々一日1本(125ml)、8週間服用してもらった。
【0054】
(評価方法)
変形性膝関節症の評価は、表4に示す日本整形外科学会制定の「変形性膝関節疾患治療成績判定基準」にしたがって行った。更に、日常生活動作、夜間自発痛、圧痛についても、どの程度改善されたかを評価した。
【0055】
【表4】

【0056】
評価は、各サンプルの投与開始直前及び投与終了後(摂取開始8週間後)、投与期間中は原則として4週間毎に主治医が診察して行い、試験開始前と試験終了後は体重、血圧測定及び血液検査も行った。なお、患者及び評価を行う医師には、飲用しているサンプルがどのサンプルであるかは一切知らせず、評価に際しては、担当した医師間で差が出ないように具体的な評価ポイントを作成した上で予めトレーニングを行い、統一した基準で評価できるよう配慮し、同一患者の評価は同じ医師によって行うようにした。
【0057】
具体的には、患者毎に、投与開始時に認められた症状項目について、サンプル投与前後で比較し、非常に改善された、あるいは症状が全く無くなった場合を「著明改善」、やや改善された場合を「改善」、変化のない場合を「不変」、やや悪化した場合を「悪化」、非常に悪化した、あるいは最重度に至った場合を「著明悪化」として判定を行った。
【0058】
(結果)
医師の診断による試験終了後の最終全般改善度を表5に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
表5から、プラセボ投与群に比べて、高用量投与群及び低用量投与群において改善率が高い傾向が認められることが分かる。特に、高用量投与群においては、プラセボ投与群に対して有意差(Mann-Whitney検定、p<0.1)が認められた。
【0061】
また、日本整形外科学会制定「変形性膝関節症治療成績判定」の総得点(満点:100点)の推移を図1に示す。図1から、高用量投与群では、サンプル投与後4週目以降から投与開始時に比べて有意な上昇が認められ、低用量投与群においてもサンプル投与後8週目に有意な上昇が認められることが分かる(Wilcoxon test、**:p<0.05)。一方、プラセボ投与群では、サンプル投与前後でほとんど変化が認められなかった。」(段落0051?0061)

(4の5)「【図1】

」(図1)

イ 上記ア(特に、摘示事項(4の4)の実施例5)に摘示したように、刊行物4には、安静時疼痛又は運動時疼痛が主症状として持続的に認められる変形性膝関節症患者を、プラセボ(N-アセチルグルコサミン無添加乳飲料:対照例)投与群、高用量(N-アセチルグルコサミン0.81質量%含有乳飲料:実施例3)投与群、低用量(N-アセチルグルコサミン0.4質量%含有乳飲料:実施例2)投与群の3群に分け、各投与群が、所定の飲料を一日1本(125ml)、8週間服用する臨床試験を行ったことが記載されている。そして、表4に示す日本整形外科学会制定の「変形性膝関節疾患治療成績判定基準」にしたがって評価を行い、患者毎に、投与開始時に認められた症状項目について、サンプル投与前後で比較し、非常に改善された、あるいは症状が全く無くなった場合を「著明改善」、やや改善された場合を「改善」、変化のない場合を「不変」、やや悪化した場合を「悪化」、非常に悪化した、あるいは最重度に至った場合を「著明悪化」として判定を行ったところ、表5から、プラセボ投与群に比べて、高用量投与群及び低用量投与群において改善率が高い傾向が認められることや、日本整形外科学会制定「変形性膝関節症治療成績判定」の総得点(満点:100点)の推移を示す図1から、高用量投与群では、サンプル投与後4週目以降から投与開始時に比べて有意な上昇が認められ、低用量投与群においてもサンプル投与後8週目に有意な上昇が認められることが分かる、と記載されている。
さらに、実施例2で調製されたN-アセチルグルコサミン含有乳飲料は、生乳15%、乳製品(脱脂粉乳等)10%、デキストリン1.45%、糖組成物(N-アセチルグルコサミン82%、キチンオリゴ糖18%)を0.49質量%(糖組成物として4.9kg)に水を加えて1000Lとし、充分に撹拌溶解した後、140℃で3秒間殺菌し、250ml入りの紙パック容器に無菌的に充填することにより調製された、N-アセチルグルコサミンの含有量が0.4質量%であるN-アセチルグルコサミン含有乳飲料であり、上記臨床試験においては、変形性膝関節症と診断された患者は該N-アセチルグルコサミン含有乳飲料を1日125ml服用したから、これを1日量に換算すると、500mgのN-アセチルグルコサミン服用量となる。また、プラセボは、実施例1で得られた糖組成物を加えていないから、N-アセチルグルコサミン及びキチンオリゴ糖を含まない乳飲料である。
以上の記載及び刊行物4の摘示事項(4の3)の実施例1、2の記載によれば、刊行物4には、次の発明が記載されていると認める。

「生乳15%、乳製品(脱脂粉乳等)10%、デキストリン1.45%、糖組成物(N-アセチルグルコサミン82%、キチンオリゴ糖18%)を0.49質量%(糖組成物として4.9kg)に水を加えて1000Lとし、充分に撹拌溶解した後、140℃で3秒間殺菌し、250ml入りの紙パック容器に無菌的に充填することにより調製された、N-アセチルグルコサミンの含有量が0.4質量%であるN-アセチルグルコサミン含有乳飲料からなる変形性膝関節症改善剤であって、N-アセチルグルコサミンが500mg/日の量で被投与者に投与される剤。」(以下、「引用発明4」という。)

(3)本件出願日当時の技術常識について
本件出願日前に頒布された刊行物2及び3には、次のとおりの記載がある。

ア 刊行物2の記載
(i)「I 対象および方法
1 被験者
年齢40歳以上85歳未満の男女を対象に、一足あるいは両足の膝関節痛が認められる者を被験者とした。・・・本試験参加に同意した被験者に、生活習慣アンケート、および膝、ひじ、肩、腰、股関節の疼痛の自覚症状を記入させ、膝関節痛の自覚症状が100mmのVAS(visual analogue scale)において20mm以上、かつ膝以外の関節痛のVASの総和が、膝のVASより小さい者を選択した。次いで、X線検査の所見によりKellgren-Lawrence分類のグレード判定^(14))のグレード0?IIIであった者を対象に、問診、計測、膝の可動域の測定、臨床検査およびII型コラーゲン代謝マーカーの測定を行った。・・・

2 試験食品
試験食品はGlcNAc(当審注:N-アセチルグルコサミン)を1200mg含有させた低脂肪タイプの乳飲料「グルコサミンパワー(R)(なお、この「(R)」の字は、原文では上付きの〇内にRの文字)(日本ミルクコミュニティ(株)」を使用した。・・・

3 試験スケジュールおよび摂取方法
試験は表2に示すスケジュールに従いオープン試験法により実施した。試験食品の摂取時刻は規定せず、1日100mLを連日摂取させた。摂取期間は16週間(112日間)とした。・・・」(p437左欄?p438左欄 I 対象および方法 1 被験者?3 試験スケジュールおよび摂取方法)

(ii)「要旨
【目的】GlcNAcは軟骨の構成成分の一つであることから、KOAに対する有効性が検討されている。本試験ではGlcNAcの軟骨代謝に及ぼす影響をヒトにおいて明らかにすることを目的に、GlcNAcを強化した乳飲料の摂取がII型コラーゲンの分解マーカー(CTX-II、C2C)、合成マーカー(CPII)、およびこれらの比(CTX-II/CPII、C2C/CPII)におよぼす影響について検討した。
【方法】年齢40歳以上85歳未満の男女で膝関節痛が認められる者20名を対象に、被験食品としてGlcNAc1200mgを配合した乳飲料(100mL/日)を16週間摂取させるオープン試験を実施した。評価項目はJOAスコア、JKOMスコア、膝疼痛の自覚症状(VAS)、およびII型コラーゲン代謝マーカーとした。
【結果】本試験の結果、JOA合計スコア、JKOM合計スコア、およびVASが摂取前に対して有意に改善された。また、II型コラーゲン代謝マーカーではC2C、およびCPIIが摂取前に対して有意に増加した。その一方で、CTX-II/CPII比は有意に減少し、C2C/CPII比は有意でないものの減少傾向を示した。・・・
【考察】本試験の結果から、被験食品の摂取により膝関節の痛みが緩和され、膝の機能が改善されるとともに、II型コラーゲンの分解に対して合成が相対的に増加するというII型コラーゲンの代謝改善の可能性が示唆された。以上から、本試験食品の継続摂取はKOAの症状の改善、および軟骨代謝の改善に有効であることが示唆された。」(p445左欄 要旨)

(iii)「







」(図1?4)

イ 刊行物3の記載
(i)「I 対象と方法
1 対象
対象となる被験者は、・・・ボランティアで、本試験の被験者となることを自発的に志願した成人男女である。これらのボランティアに対して、試験食の摂取開始4週間前にスクリーニング検査を実施し、表1に示す選択基準を満たし、かつ除外基準に該当しない78名を選択した。この78名を・・・無作為に2群に割り付けた。・・・





2 試験食
試験食は、近年健康飲料として定着しつつある豆乳をベースとし、1本200mLあたりN-アセチルグルコサミンを1000mg以上となるように配合した、N-アセチルグルコサミン配合調製豆乳(以下、被験食)、およびN-アセチルグルコサミンを配合していない調製豆乳(プラセボ食)の2種類を使用した。・・・

3 試験スケジュールおよび摂取方法
試験は、無作為化二重盲検法を採用し、プラセボを対照とした並行群間比較試験とした。・・・試験期間は、摂取前の観察期間4週間(前観察期間)、摂取期間12週間、摂取後の観察期間4週間(後観察期間)の合計20週間とした。摂取期間中は、被験者に、被験食またはプラセボ食を1日1回、1本(200mL)ずつ、毎日午前中に摂取させた。・・・

4 検査方法
・・・
1)膝関節症の自覚症状
膝関節症の自覚症状を調査するため、被験者に日誌を配布し自己記録させた。日誌は、visual analogue scale(VAS)法を採用し、起床時、階段のぼり、階段降り、正坐、安静の五つの状態における、痛み、こわばり、違和感を記録する形式とした。・・・」(p150?152 I 対象と方法 1 対象?4 検査方法、表2、表3)

(ii)「要旨
・・・加齢とともに生じる退行性変性疾患の一つである変形性膝関節症の原因の一つに、関節軟骨基質内のN-アセチルグルコサミンの減少があげられ、これを投与することにより関節症症状が軽減できるのではないかと考えられている。本研究ではN-アセチルグルコサミン配合調製豆乳の変形性膝関節症に対する有効性および安全性を検討するため、プラセボを対照とした二重盲検並行群間試験を実施した。対象は、膝関節に軽度の疼痛や、こわばり、違和感を有する未治療の者67名(男/女=27/40、平均年齢=54.3±12.8歳)で、被験食群にはN-アセチルグルコサミン1000mg以上/200mL/1本含有するN-アセチルグルコサミン配合調製豆乳を、対照群にはN-アセチルグルコサミンを含有しない調製豆乳を、それぞれ1日に1本、12週間連続で摂取させた。その結果、被験食群では、対照食群と比較して、摂取8週間後に、階段昇降時および安静時の膝関節の疼痛が有意に改善した。また、関節可動域検査においても、摂取8週間後以降、被験食群では対照食群と比較して、可動域の有意な改善が認められた。血液検査、診察および問診においては、臨床上問題となる異常所見は認められなかった。以上のことから、N-アセチルグルコサミン配合調製豆乳は、軽度の変形性膝関節症において、自覚症状および関節可動域を改善させ、同時に高い安全性を有することが明らかになった。」(p164 要旨)

(iii)「

」(表4-1)

ウ 上記アの記載(特に、図1?4)から、N-アセチルグルコサミン1200mgを配合した乳飲料の、膝関節痛が認められる被験者に対する摂取期間が4、8、12、16週間と長くなるにつれて、JOAスコアのうちの疼痛・歩行能及び疼痛・階段昇降能、JKOMスコアのうちの膝の痛みの程度及び膝の痛みやこわばりなど、安静時、歩行時、階段昇降時の膝関節痛の自覚症状についてのVASスコア、すなわち痛みの症状が改善する傾向にあることが読み取れる。
また、上記イの記載(特に、表4-1)から、N-アセチルグルコサミン配合豆乳の、膝関節に軽度の疼痛などの膝関節症の自覚症状を有する被験者に対する摂取期間が4、8、12、16週間と長くなるにつれて、VAS法で記録された自覚症状における変化率は、起床時、階段をのぼるとき、階段を降りるとき、正坐をしたとき、安静時、の痛みの概ね全ての項目において値が改善する傾向にあることが読み取れる。
さらに、刊行物4の記載(特に、摘示事項(4の5)の図1)から、安静時疼痛又は運動時疼痛が主症状として持続的に認められる変形性膝関節症と診断された患者のJOAスコア値が、N-アセチルグルコサミン含有乳飲料の8週間摂取後のほうが4週間摂取後に比べてより改善する傾向にあることが読み取れる。
以上によれば、膝関節痛の処置にあたり、N-アセチルグルコサミンを乳飲料や豆乳に添加して用いることは、本件出願日当時、広く行われていた周知技術であり、その際、N-アセチルグルコサミン添加乳飲料や豆乳の摂取期間が長くなるにつれて、膝関節痛が改善されることもまた技術常識であったといえる。

3 理由Aについて
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と引用発明1とを対比する。

本件訂正発明1の「関節痛改善剤」も引用発明1の「バッカル錠剤」もN-アセチルグルコサミンを含む剤である。また、引用発明1は同引用発明1に係るバッカル錠剤を必要とする者が服用するものであるから、本件訂正発明1の「被投与者に投与される」との発明特定事項を満足する。
また、引用発明1のバッカル錠は、1錠当りN-アセチルグルコサミン含量100mgの剤が、朝晩1?3錠服用されるものであるから、これを1日当りのN-アセチルグルコサミン量に換算すると、200mg、400mg、600mgのいずれかの量で被投与者に投与されるものである。
そして、引用発明1は、「ツバキ種子エキス、N-アセチルグルコサミン及びアスタキサンチンを含有」するものでも「乳飲料または豆乳に添加して摂取されるもの」でもないから、本件訂正発明1における「(a)ツバキ種子エキス、N-アセチルグルコサミン及びアスタキサンチンを含有し、ツバキ種子エキス100質量部に対するN-アセチルグルコサミンの配合量が50質量部以上100質量部以下である経口組成物」及び「(d)乳飲料または豆乳に添加して摂取されるもの」」「を除く」との発明特定事項を満足する。

そうすると、両者は、
「被投与者に投与されるN-アセチルグルコサミンを含む剤(ただし、下記(a)及び(d)を除く。)。
(a)ツバキ種子エキス、N-アセチルグルコサミン及びアスタキサンチンを含有し、ツバキ種子エキス100質量部に対するN-アセチルグルコサミンの配合量が50質量部以上100質量部以下である経口組成物
(d)乳飲料または豆乳に添加して摂取されるもの」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
1.本件訂正発明1が、「関節痛改善剤」と規定しているのに対し、引用発明1はそのような特定がされていない点
2.N-アセチルグルコサミンの被投与者への1日当りの投与量及び投与期間について、本件訂正発明1が、「200?400mg」で「少なくとも12週間投与」と規定しているのに対し、引用発明1は、200mg、400mg、又は600mgで投与されるものであって、投与期間については特定されていない点

イ 判断
(ア)相違点1について
刊行物1には、グルコサミノグリカンの構成単位であるグルコサミンが、関節等の疼痛に対して原因療法効果を発揮することは古くから知られているが(摘示事項(1の3))、経口投与したグルコサミンの効果が過少で化学的安定性が少ないという問題があったこと(摘示事項(1の3))、そのような状況下、種々のアミノ糖製剤が検討されて、N-アセチルグルコサミンが、安定で、少なくとも非経口的投与により退行性疾患に対して疑いなく有効であるという利点があること(摘示事項(1の4))が記載されているように、N-アセチルグルコサミンが関節痛の治療に有効な成分であることは本件出願日当時の技術常識であったといえる。
刊行物1には、さらに、高い需要に拘わらず、退行性及び/また又は炎症性関節疾患又はその他の結合及び支持組織の疾患並びに他のグルコサミノグリカン欠乏症の治療のための最適の薬物が入手不能な状況下(摘示事項(1の3))、特別の服用方式により、経口投与でもN-アセチルグルコサミンの効果が高められることが判明したことが記載されており(摘示事項(1の4))、N-アセチルグルコサミンをなるべく長時間口腔内に保持し、粘膜と接触させれば、かなり良く生物的に利用可能となることや(摘示事項(1の4))、ハムスターにN-アセチルグルコサミンを口腔内投与した場合、胃内投与した場合に比べて高い血漿中濃度を示した試験結果が記載されており(摘示事項(1の6))、刊行物1記載の口腔内投与により優れた生物的利用がなされることが動物試験によって確認されたことが理解される。刊行物1には、上記に加え、固定用量を含むしゃぶり錠剤又は咀しゃく材料の添加物としての服用は大変快適であり、良好な効果、好ましい味覚や、面倒な静脈注射形態及び大きな錠剤の嚥下そのものを回避できることにより、新規な適用形態を退行性関節疾患の長期治療のための理想的な手段とすることができるとの記載もある(摘示事項(1の4))。
以上の記載によれば、刊行物1記載の発明は、従来、多くの場合臨床的に苦しい苦痛をもたらす退行性関節疾患(摘示事項(1の2))、すなわち関節痛の治療のための有効成分として知られるN-アセチルグルコサミンの長期治療に理想的であり、良好な効果を達成することができる口腔内で使用可能な経口的投与製剤を提供しようとするものであるから、当業者であれば、引用発明1に係る剤を、N-アセチルグルコサミンがその治療に有効な成分であることが本件出願日当時既に技術常識であった、関節痛改善のために用いてその作用を確認することは、刊行物1の記載から格別の創意を要することなくなし得たものといえる。

(イ)相違点2について
刊行物1には、口腔投与のためのN-アセチルグルコサミンの好ましい1日量は200?600mgであることが記載されている(摘示事項(1の4))。そして、疾患の治療や症状の改善に必要な有効成分の投与量が被投与者の症状の程度等に応じて変化しうること、また、投与量を調節してその効果を好適化することは、本件出願日当時、医薬用途が期待される剤に関する技術分野の技術常識であるといえるから、上記引用発明1において、刊行物1に好ましい1日量として記載されている200?600mgの範囲内の任意の量を被投与者の1日当りの投与量とすることは、一見すると当業者が格別の創意を要することなくなし得たようにもみえる。
しかし、刊行物1には、ハムスターにN-アセチルグルコサミンを胃内(経口)に1回投与した場合の試験結果が記載されているにとどまり、繰り返し投与する等、一定期間にわたり複数回投与することに関し、具体的な記載や明示的な一般的記載はないから、上記刊行物1記載の好ましい1日量が、単回投与する場合の量であるのか、それとも一定期間投与する場合の量であるのか明らかでない。ところで、疾患の治療や症状の改善に際し、いかなる投与量でいかなる期間にわたり有効成分を投与するかは、総合的に検討されるものであるところ、刊行物1記載の上記1日量が一定期間投与する場合の量を含むのか判然としない以上、N-アセチルグルコサミンをいかなる量でいかなる投与期間投与すべきかは刊行物1の記載からは不明であるというほかない。もっとも、刊行物1の、注射形態は長期治療にとって望ましくない(摘示事項(1の3))、あるいは、固定用量を含むしゃぶり錠剤としての服用は大変快適であり、面倒な静脈注射形態を回避できることにより、退行性関節疾患の長期治療のための理想的な手段とすることができる(摘示事項(1の4))、との記載に接した当業者が、退行性関節疾患の治療は、通常長期間にわたるものであることを理解し得るとしても、やはり、いかなる用量でいかなる期間にわたり投与すべきかについては依然として不明であるというほかない。
そして、本件出願日当時の技術常識についてみても、N-アセチルグルコサミン添加乳飲料や豆乳を4週間?16週間といった一定期間摂取することや該摂取期間が長くなるにつれて、膝関節痛が改善されることは、前記2(3)ウで説示のとおり、技術常識であったといえるものの、乳飲料や豆乳に添加せずに摂取される関節痛改善剤にあっても、乳飲料や豆乳に添加して摂取される関節痛改善剤と同様の期間投与されるべきものであると直ちに認めることはできない。
刊行物4の、乳飲料にN-アセチルグルコサミンの配合による相乗効果が期待できるとの記載を参酌するならば(摘示事項(4の2))、乳飲料を添加した場合としない場合とでは、その効果に違いがあると推測されるから、
「(d)乳飲料または豆乳に添加して摂取されるものを除く」関節痛改善剤に係る本件訂正発明1にあっても、乳飲料や豆乳に添加した関節痛改善剤の投与期間による効果の変化と同様の傾向を示すことを期待して、出願日当時の当業界の技術常識に係る投与量と投与期間を適用しうると当業者が直ちに理解しうるものとはいえない。
そうすると、引用発明1において、相違点2に係る発明特定事項を採用することは当業者が格別の着想力を要することなくなし得たこととはいえない。

(ウ)効果について
本件訂正明細書には、N-アセチルグルコサミン300mg/日、12週間摂取群が、N-アセチルグルコサミン500mg/日、12週間摂取群と同様又はそれ以上に、医師の判断、自覚症状共に、膝関節痛改善効果を有することが示されたと記載されており(段落0041)、本件訂正発明1は、従来の500mg/日の量より少量で被投与者に投与されることによって、関節痛を改善できる、という効果を奏するものであり(段落0009、0019)、その結果、服用時の負担がより軽減されるという好ましい効果を奏するものである(段落0028)。さらに、低用量を長期にわたって服用することにより、関節痛の予防効果が期待できるというものである(段落0024)。これら効果は、引用発明1、あるいは本件出願日当時の技術常識から予測し得ないものである。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、刊行物1に記載された発明、刊行物1に記載された事項及び本件出願日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件訂正発明2、4について
本件訂正発明2、4は、本件訂正発明1をさらに特定したものである。
そして、本件訂正発明1が、刊行物1に記載された発明、刊行物1に記載された事項及び本件出願日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないことは既に前記(1)に説示のとおりであるから、それをさらに特定した本件訂正発明2、4は、本件訂正発明1と同様、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 理由Bについて
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と引用発明4とを対比する。

引用発明4は、「ツバキ種子エキス、N-アセチルグルコサミン及びアスタキサンチンを含有」するものではないから、本件請求項1に係る発明における「(a)ツバキ種子エキス、N-アセチルグルコサミン及びアスタキサンチンを含有し、ツバキ種子エキス100質量部に対するN-アセチルグルコサミンの配合量が50質量部以上100質量部以下である経口組成物」「を除く」との発明特定事項を満足する。

そうすると、両者は、
「被投与者に投与されるN-アセチルグルコサミンを含む剤(ただし、下記(a)を除く。)。
(a)ツバキ種子エキス、N-アセチルグルコサミン及びアスタキサンチンを含有し、ツバキ種子エキス100質量部に対するN-アセチルグルコサミンの配合量が50質量部以上100質量部以下である経口組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
1.本件訂正発明1が、「関節痛治療剤」と規定しているのに対し、引用発明4は、「変形性関節症改善剤」である点
2.N-アセチルグルコサミンの被投与者への1日当りの投与量及び投与期間について、本件訂正発明1が、「200?400mg」で「少なくとも12週間投与」と規定しているのに対し、引用発明4は、500mgで投与されるものであって、投与期間については特定されていない点
3.本件訂正発明1が、さらに、「ただし、(d)を除く、」と規定しているのに対し、引用発明4は「生乳15%、乳製品(脱脂粉乳等)10%、デキストリン1.45%、糖組成物(N-アセチルグルコサミン82%、キチンオリゴ糖18%)を0.49質量%(糖組成物として4.9kg)に水を加えて1000Lとし、充分に撹拌溶解した後、140℃で3秒間殺菌し、250ml入りの紙パック容器に無菌的に充填することにより調製された、N-アセチルグルコサミンの含有量が0.4質量%であるN-アセチルグルコサミン含有乳飲料からなる」ものである点

イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。

本件訂正発明1は「クレーム1(d)乳飲料または豆乳に添加して摂取されるものを除く、」ことを発明特定事項とするものであって、乳飲料または豆乳を含む関節痛改善剤が被投与者に投与される場合は、上記発明特定事項を満たさないから、乳飲料または豆乳を含む関節痛改善剤は本件訂正発明1には含まれないと認める。
これに対して、引用発明4は、N-アセチルグルコサミン含有乳飲料からなる変形性膝関節症改善剤であり(前記2(2)イ)、乳飲料を含むことは明らかである。
そして、刊行物4には、その特許請求の範囲に、同刊行物記載の発明が乳飲料であると記載されており(摘示事項(4の1))、また、いずれの実施例においても、生乳及び乳製品が含まれる乳飲料を患者に投与して、その変形性膝関節症改善効果が評価されている(摘示事項(4の3)?(4の5))。刊行物4には、さらに、乳飲料とN-アセチルグルコサミンとの配合により、筋肉や骨を形成し、関節症の予防に役立つカルシウムやマグネシウム等のミネラルや良質な蛋白質とN-アセチルグルコサミンを一緒に摂取することができ、これらの成分の相乗効果により、優れた改善効果が期待できることが記載されている(摘示事項(4の2))。上記記載に接した当業者であれば、乳飲料とN-アセチルグルコサミンとを併せて摂取することにより変形性関節症改善に相乗効果がもたらされることを理解するといえるから、引用発明4から、関節症改善に有効な成分としてN-アセチルグルコサミンとともに含まれている生乳や乳製品をあえて除くという構成を採用して、相違点3に係る発明特定事項とする動機付けは見いだせない。
そして、このことは、たとえ、N-アセチルグルコサミンが関節痛改善作用を有することが、本件出願日当時、周知の技術常識であったとしても、変わるものではない。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、相違点1、2について検討するまでもなく、刊行物4に記載された発明、刊行物4に記載された事項及び本件出願日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立人の申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、以下の甲第1号証?甲第6号証を提出の上、訂正前の請求項1?4に係る発明に関して(i)進歩性欠如を、訂正前の請求項1に係る発明に関して(ii)サポート要件違反を、並びに訂正前の請求項3に係る発明に関して(iii)サポート要件違反及び(iv)明確性要件違反を主張する。また、平成31年 4月16日に回答書を提出し、同回答書とともに、周知技術を示すものとして以下の参考資料1?参考資料2を提出する。さらに、令和 1年11月28日に意見書を提出し、同意見書とともに、訂正請求が不適法なものである旨主張し、その根拠として参考資料3を提出する。

甲第1号証:特表平4-502758号公報(前記4-1 1記載の刊行物1に対応する公表公報である)
甲第2号証:薬理と治療、Vol.38、No.5、p435-445、2010(同刊行物2である)
甲第3号証:薬理と治療、Vol.34、No.1、p149-165、2006(同刊行物3である)
甲第4号証:特開2005-80604号公報(同刊行物4である)
甲第5号証:新薬と臨床、Vol.62、No.9、p1758-1768、2013.9.13)
甲第6号証:特許庁審査基準、第VII部、第3章、p1-21、平成21年11月1日、特許庁
参考資料1:特表2007-513051号公報
参考資料2:特表2010-500301号公報
参考資料3:特許庁審査基準、第IV部、第2章、新規事項を追加する補正、p6下から7行?p8 20行、特許庁ホームページURL:https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/04_0200.pdf、更新日2019年5月7日

なお、請求項3を削除することを含む令和 1年 9月13日提出の訂正請求は、前記第2 3記載のとおり認められた。したがって、同請求項に係る特許についての特許異議申立ては不適法な申立てであり、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項の規定において準用する同法第135条の規定により同請求項に係る発明についての特許異議申立てを却下する。
また、以下においては、特許異議申立書における特許異議申立人の主張が本訂正発明1?4に対してなされているものと読み換えて検討する。

2 申立理由(iii)、(iv)について
上記申立理由(iii)、(iv)は、訂正前の請求項3に係る発明についてのものである。そして、同請求項に係る発明についての特許異議申立ては却下されたから、上記申立理由については判断を要しない。

3 申立理由(i)について
特許異議申立人が提出した、甲第1号証は、取消理由通知で引用した刊行物1に対応する公開公報であり、その記載事項は、摘示事項(1の1)の記載が以下の摘示事項(1の1’)のとおりである点を除き、摘示事項(1の2)?(1の5)と同じである。

(1の1’)「1.関節の並びに結合組織及び支持組織の退行性及び炎症性疾患及び関連疾患の治療のためのN-アセチルグルコサミンの口腔内適用。
2.固形のN-アセチルグルコサミンを口腔内に長時間残る粉末、顆粒、弾性又は塑性咀しゃく材料として使用することを特徴とする請求項1に記載のN-アセチルグルコサミンの使用。」(特許請求の範囲 請求項1、2)

上記摘示事項(1の1’)の記載は、刊行物1の対応記載である「N-アセチルグルコサミン製剤」に係る発明について、N-アセチルグルコサミンの使用の観点から表現したものであり、両者に、文言上の相違はあるものの実質的な相違はない。そして、前記4-1 2(1)イに説示のとおり、引用発明1は、専ら摘示事項(1の5)の実施例 2.バッカル錠剤の項の記載に基いて、刊行物1に引用発明1が記載されていると認定したのであり、該摘示事項は、上記のとおり、甲第1号証に記載されているから、甲第1号証の記載から、同様に上記引用発明1が記載されていると認定し得るといえる。また、甲第2号証?甲第4号証は、取消理由通知<決定の予告>で引用した刊行物2?4である。
そして、本件訂正発明1?2、4が、刊行物1に記載された発明、刊行物1に記載された事項及び本件出願日当時の技術常識(刊行物2?4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたといえるものでも、刊行物4に記載された発明、刊行物4に記載された事項及び本件出願日当時の技術常識(刊行物2、3)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたといえるものでもないことは、前記4-1 3、4に説示したとおりである。
したがって、本件訂正発明1?2、4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
特許異議申立人は、N-アセチルグルコサミンを含有する組成物を、関節リウマチまたは関節炎の症状が回復または緩和するまで、1日1回又は連日反復投与により長期間投与することは本件出願日当時の周知事項であったと主張し、参考資料1、2を提出する。しかし、参考資料1、2には、症状の回復又は緩和に適した、N-アセチルグルコサミンの1日用量及び投与期間について具体的な記載はないから、上記判断は、参考資料1、2の記載を参酌しても変わらないし、また、投与間隔・投与量等の治療の態様により特定しようとする医薬の発明に関する進歩性の判断の具体的な運用例に関する審査基準の記載の写しである甲第6号証や、本件出願後に頒布された刊行物である甲第5号証の記載により左右されない。

4 申立理由(ii)について
異議申立人は、本件訂正明細書には、300mg/日の量で投与した実験データしか記載されておらず、下限値の200mg/日や上限値の400mg/日の量を投与した場合においても、300mg/日の量を投与した場合と同様の効果が期待できるか否かは、当業者であっても予測し得ないことであるから、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1が200?400mg/日の投与範囲で所期の効果が奏されると当業者が認識し得るように発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない、と主張するので、以下検討する。
本件訂正明細書の発明の詳細な説明の段落0004、0008、0009、0028、0035及び0041の記載によれば、本件訂正発明1は、N-アセチルグルコサミンを継続摂取することにより、従来市場で販売されている、1日摂取量500mgより低用量の服用で関節症の症状を改善できる関節痛改善剤を提供することを発明の課題とするものであると認める。
本件訂正明細書には、N-アセチルグルコサミンを、従来用量である500mg/日より低用量である300mg/日の量、12週間の摂取により、関節痛改善効果を奏すること、すなわち、本件訂正発明1の上記発明の課題を達成し得ることが具体的に確認されている。
ところで、N-アセチルグルコサミンが関節痛の治療に有効な成分であることが本件出願日当時の技術常識であったと認められることは、前記4-1 3 イ(ア)に説示のとおりであり、N-アセチルグルコサミンを含む組成物はその程度の大きさに差はあるものの、関節痛改善効果を奏すると推認されるところ、この推認を覆す証拠は提出されていないから、本件訂正発明1が当業者が上記発明の課題を解決できると認識できない場合を包含しているとまでいうことはできない。
したがって、訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものであり、特許特許異議申立人によるサポート要件違反との主張は理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、請求項3に係る発明についてする特許異議申立ては、不適法な申立てであり、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項の規定において準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立人 矢部陽子が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?2、4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?2、4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
関節痛改善剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節痛改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
関節軟骨成分のヒアルロン酸の前駆体であるN-アセチルグルコサミン(NAG)やグルコサミンは、関節症の症状の改善効果が期待されている。特にグルコサミンは関節症状の予防や緩和に広く利用されている。N-アセチルグルコサミンとグルコサミンは同じ代謝経路によって代謝され、ヒアルロン酸などのグリコサミノグリカンを産生するが、その代謝においてN-アセチルグルコサミンはグルコサミンよりも先に進んでいる。そのため、N-アセチルグルコサミンは、グルコサミンと同様の効果が期待されている。
【0003】
N-アセチルグルコサミンは、関節痛の改善効果の他、美容に対する効果等の様々な効果を有すると考えられている。そのため、他の成分とともに様々な飲食品に含まれることもある。例えば、特許文献1には、皮膚の老化防止や関節炎を抑えるために、N-アセチルグルコサミン、グルコサミン、キトサンオリゴ糖等を含む飲料水が開示されている。また、特許文献2には、低タンパク澱粉食品の風味や食感等の品質改良剤として、N-アセチルグルコサミンやグルコサミンが添加され、加熱料理された低タンパク澱粉食品が開示されている。
【0004】
現在、市場においてサプリメントとして販売されているN-アセチルグルコサミンは、1日の摂取量を500mgとするものである。
【0005】
非特許文献1は、N-アセチルグルコサミンの関節症に対する効果を人において確認した報告である。1000mg/日又は500mg/日の用量で変形性膝関節症の患者における効果を確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-333750号公報
【特許文献2】特許第4958838号公報
【0007】
【非特許文献1】梶本ら 新薬と臨床 2003 52 p71-82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、グルコサミンと同等の効果が期待されるもののグルコサミンと比較して高価であり、利用が進んでいないN-アセチルグルコサミンを利用しやすい形で提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、N-アセチルグルコサミンの効果を検討する中で、継続摂取することにより、より低用量の服用で関節症の症状を改善することを見出し、完成させたものである。現在市販されている、グルコサミンでは1500mg/日、N-アセチルグルコサミンの500mg/日のサプリメントと比較して、300mg/日という、より低量の摂取によって、関節痛を改善できることを見出した。
より具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)10?400mg/日の量で被投与者に投与されるN-アセチルグルコサミンを含む、関節痛改善剤。
【0011】
(2)200?400mg/日の量で被投与者に投与されるN-アセチルグルコサミンを含む、(1)の関節痛改善剤。
【0012】
(3)前記量を少なくとも4週間投与することを特徴とする(1)又は(2)に記載の関節痛改善剤。
【0013】
(4)前記量を少なくとも8週間投与することを特徴とする(1)又は(2)に記載の関節痛改善剤。
【0014】
(5)前記量を少なくとも12週間投与することを特徴とする(1)又は(2)に記載の関節痛改善剤。
【0015】
(6)前記関節痛改善剤は、変形を伴わない関節痛の改善剤である(1)ないし(5)いずれかに記載の関節痛改善剤。
【0016】
(7)前記関節痛改善剤は、膝関節痛改善剤である(1)ないし(6)いずれかに記載の関節痛改善剤。
【0017】
(8)前記被投与者のBMIが25を越える(1)ないし(7)いずれかに記載の関節痛改善剤。
【0018】
(9)前記被投与者の年齢が20?49歳である(1)ないし(8)いずれかに記載の関節痛改善剤。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、N-アセチルグルコサミンがより低量の10?400mg/日の量で被投与者に投与されることによって、関節痛を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明が関節痛改善効果を有することを示す、JOAスコアの図である。
【図2】本発明が関節痛改善効果を有することを示す、VASスコアの図である。
【図3】本発明が、BMIが25を超える被投与者において特に関節痛改善効果を有することを示す、VASスコアの図である。
【図4】本発明が、年齢が20?49歳の被投与者において特に関節痛改善効果を有することを示す、VASスコアの図である。
【図5】本発明が関節痛改善効果を有することを示す、II型コラーゲン代謝マーカーの変化率の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の関節痛改善剤の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
本発明の関節痛改善剤は、10?400mg/日の量で、N-アセチルグルコサミンを被投与者に投与することによって、関節痛改善効果を与えることを特徴とする。また、本発明において、改善とは治療又は予防を意味する。
前述の非特許文献1において変形性膝関節症におけるN-アセチルグルコサミンの効果が示されているものの、変形を伴わない老化や運動過多による軽度の関節痛などにおけるN-アセチルグルコサミンの有効性については報告がなく、適切な投与量、投与期間なども知られていなかったため、期待されるものの、価格が高価なため、利用が進んでこなかった。本発明により、関節痛の症状によって、10?400mg/日の量でも十分な効果があることが確認された。
【0023】
投与される量は10?400mg/日、好ましくは200?400mg/日であれば特に限定されないが、より高い関節痛改善効果を与えるという点において、250mg/日以上の量で被投与者に投与されるのが好ましく、275mg/日以上の量で被投与者に投与されるのが最も好ましい。また、より少ない量で関節痛改善効果を与えるという点において、350mg/日以下の量で被投与者に投与されるのが好ましく、325mg/日以下の量で被投与者に投与されるのが最も好ましい。
【0024】
被投与者とは、N-アセチルグルコサミンが投与される対象の者を指す。投与は、一般的には経口投与により行うが、特にこれに限定されない。200?400mg/日の量で被投与者に投与されれば、1日1回の投与でもよく、または1日に複数回に分けて投与してもよい。例えば、朝食の後に一回のみ投与してもよい。本発明は、従来の500mg/日の量より低量の投与で関節痛改善効果を与えるので、複数回に分けて投与する場合、投与回数を減らすこともできる。
投与期間は少なくとも4週間、好ましくは8週間、さらに好ましくは12週間以上継続して投与するのが好ましい。低用量を長期にわたって服用することにより、関節痛の予防効果が期待できる。
【0025】
本発明における関節痛は、加齢やスポーツの実施等による関節の変形によって生じる、変形性関節症が原因となっているものや、炎症を起こした関節が原因となって生じる痛みであれば特に限定されない。好ましくは変形を伴わない関節症である。関節痛が生じ得る関節としては、具体的には、膝、股、腰、手指、足指、手首、足首、脊椎、肩、顎、首等の関節を指す。本発明の関節痛は、より高い関節痛改善効果を与えるという点において、膝関節痛であるのが好ましい。
【0026】
本発明において、BMIが25を超える被投与者に投与した場合、500mg/日量でN-アセチルグルコサミンを投与した場合に比較して、高い関節痛改善効果を有する。従って、本発明のN-アセチルグルコサミンは、BMIが25を超える被投与者に投与するのが好ましい。しかし、特にこれに限定されず、BMIが25以下である被投与者に投与してもよい。
【0027】
本発明において、年齢が20?49歳の被投与者に投与した場合、500mg/日量でN-アセチルグルコサミンを投与した場合に比較して、高い関節痛改善効果を有する。従って、本発明のN-アセチルグルコサミンは、年齢が20?49歳の被投与者に投与するのが好ましい。さらに、被投与者の年齢は、高い関節痛改善効果を有するという点において、より好ましくは30?49歳であり、さらに好ましくは、40?49歳である。しかし、特にこれに限定されず、年齢が19歳以下もしくは50歳以上である被投与者に投与してもよい。
【0028】
本発明の関節痛改善剤の剤形は特に限定されないが、例えば、硬カプセル剤、軟カプセル剤、錠剤、丸剤、顆粒剤、粉末剤、液剤等の剤形に製剤されてもよい。硬カプセル剤等の形状の大きい剤形は、経口する作業が負担になるが、従来の500mg/日の量より少量の経口で足りるので、その服用時の負担がより軽減されるという点において好ましい。本発明の関節痛改善剤は、食品や飲料に添加して摂取してもよい。N-アセチルグルコサミンはえぐみ等がなく、弱い甘味を有するだけなので、食品や飲料の風味に影響することなく添加することができる。
【0029】
本発明の関節痛改善剤は、N-アセチルグルコサミンの他、他の関節痛有効成分、例えば、コンドロイチン硫酸、コラーゲン、MSM(メチルスルフォニルメタン)、ヒアルロン酸、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤、着色料、香料、防腐剤等を含んでもよい。
【0030】
本発明の関節痛改善剤は、N-アセチルグルコサミンを10?400mg/日、好ましくは200?400mg/日の量で投与することによって十分な関節痛改善効果を得ることができるので、投与量を減らすことができるという点において、グルコサミンを含まないのが好ましい。グルコサミンを含んでもよいが、グルコサミンを含む場合、グルコサミンの投与量は1000mg/日以下の量である。よりグルコサミンの投与量を減らすことができるという点において、500mg/日以下の量が好ましく、250mg/日以下の量がより好ましく、100mg/日以下の量がさらに好ましく、10mg/日以下の量が最も好ましい。
本発明で用いるN-アセチルグルコサミンは、公知の方法で製造されるどのようなN-アセチルグルコサミンでもよい。グルコサミンやオリゴ糖を含まない純度95%以上のものが好ましい。
【実施例1】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
プラセボ対照ランダム化二重盲検平行群間比較法により、関節痛改善効果を測定した。年齢が40歳以上であり膝関節に違和感・痛みがある被験者を、136名選抜し、その後ランダムにスクリーニングを行い、半数の68名を除外した。その後、残った68名を、N-アセチルグルコサミン300mg/日摂取群としての17名に、N-アセチルグルコサミン500mg/日摂取群としての17名に、グルコサミン1500mg/日摂取群としての17名に、プラセボ摂取群としての17名にそれぞれ分けた。なお、試験に使用した製剤であるN-アセチルグルコサミン300mg、N-アセチルグルコサミン500mg、グルコサミン1500mg、プラセボのそれぞれの成分及び含有量(6粒あたり)を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
試験期間中に中止者1名が生じたため、試験完了被験者は67名であった。試験完了被験者のうち、鎮痛剤・湿布などの医薬品使用者11名、腰痛・体調不良・心理的苦痛があった者3名、試験の方法を理解しておらず結果の信頼性に欠ける者3名が有効性の解析除外対象と判断されたため、JOAスコア、VASスコアにおける有効性の解析は50名を対象とした。
【0035】
最終的に、N-アセチルグルコサミン300mg/日摂取群を12名(実施例1)、N-アセチルグルコサミン500mg/日摂取群を12名(比較例1)、グルコサミン1500mg/日摂取群を14名(比較例2)、プラセボ摂取群を12名(比較例3)として、1日1回朝食後にそれぞれを経口投与し、投与は連続して12週間行った。
【0036】
II型コラーゲン代謝マーカーによる関節痛改善効果の評価について、上記解析対象被験者の中からN-アセチルグルコサミン300mg/日摂取群、プラセボ摂取群の全有効解析対象被験者(各12名)と、N-アセチルグルコサミン500mg/日摂取群の有効解析対象被験者のうちVASスコアが上位であった6名を対象として解析を行った。
【0037】
<膝関節痛改善効果の評価>
膝関節痛改善効果の評価を、JOA(日本整形外科学会変形性膝関節疾患治療成績判定基準)に基づいて、医師による対面聞き取り式によって行った。具体的には、左右の膝について、疼痛・歩行能を7段階で、疼痛・階段昇降能を6段階で、屈曲角度及び強直・高度拘縮を6段落で、腫脹を3段階でそれぞれ点数をつけた。その結果を表2、図1に示す。実施例1は、比較例1、2と同様に、群内でJOAの合計スコアが改善したことが確認された。特に、「疼痛・階段昇降能力」「合計」のスコアで、実施例1は、比較例1より低量の300mg/日の量のN-アセチルグルコサミンしか投与していないにもかかわらず、比較例1及び2より比較例3(プラセボ群)との群間差において、膝関節痛が有意に改善したことが示された。
【0038】
【表2】

【0039】
膝関節痛改善効果の評価を、VAS(被験者自己評価)によって行った。具体的には、椅子から立ち上がる時の膝について、階段を上がる時の膝について、階段を下がる時の膝について、それぞれ評価した。その結果を表2、図2に示す。比較例1、比較例3において、「椅子から立ち上がる時の膝の痛み」、「階段を上がる時の膝の痛み」、「階段を下がる時の膝の痛み」の全てのスコアにおいて、摂取前と比較して6週目で群内で有意差がみられなかったのに対し、実施例1において、これら全てのスコアについて、摂取前と比較して6週目で膝の痛みの自覚症状が改善したことが確認された。特に、「椅子から立ち上がる時の膝の痛み」については、比較例1?3において4週目で群内で有意差がみられなかったのに対し、実施例1において4週目で群内で有意に改善したことが確認された。また、「普段より長時間もしくは長距離を歩行した時の膝の痛み」について評価したところ、表3に示すとおり(図示せず)、実施例1において、群内で有意に改善されたことが確認された。
【0040】
【表3】


【0041】
以上の結果より、N-アセチルグルコサミン300mg/日の量の投与により、N-アセチルグルコサミン500mg/日の量の投与や、グルコサミン1500mg/日の投与と同様又はそれ以上に、医師の判断、自覚症状共に、膝関節痛改善効果を有することが示された。また、この結果から、N-アセチルグルコサミンは、現在の健康食品の市場において主流となっているグルコサミンのわずか5分の1の量で膝関節痛改善効果を有することが確認された。
【0042】
実施例1及び比較例1における、BMIが25を超える被投与者についてのVASスコアを図3に示す。実施例1と比較例1を比較した場合、実施例1の方が高い膝改善効果を有することが確認された。この結果は、BMIが25を超える被投与者にN-アセチルグルコサミンを投与する場合、300mg/日の量で投与する方が、500mg/日の量で投与するより、高い膝改善効果を有することを示唆する。
【0043】
実施例1と比較例1における、年齢が20?49歳の被投与者についての、VASスコアを図4に示す。実施例1と比較例1を比較した場合、実施例1の方が高い膝改善効果を有することが確認された。特に、比較例1では、4週目以降において、0週目と比較して群内で有意差がみられなかったのに対し、実施例1では、0週目と比較して群内で、「椅子から立ち上がる時の膝の痛み」については6週目以降に、「普段より長時間歩行したときの膝の痛み」については、4週目以降に有意差がみられた。この結果は、年齢が20?49歳の被投与者にN-アセチルグルコサミンを投与する場合、300mg/日の量で投与する方が、500mg/日の量で投与するより、高い膝改善効果を有することを示唆する。
【0044】
<II型コラーゲン代謝マーカーによる関節痛改善効果の評価>
実施例1、比較例1及び比較例3において、II型コラーゲン代謝マーカーであるCTX-II(分解マーカー)とCPII(合成マーカー)を用いて、関節痛改善効果を評価した。
【0045】
CTX-IIはII型コラーゲンの分解量の指標とされている。また、CPIIはII型コラーゲンの合成量の指標とされている。つまり、CTX-IIとCPIIの比は、II型コラーゲンの合成反応に対する分解反応の相対的な強さを表す。そのため、CTX-II/CPIIの比が減少した場合に、軟骨合成の相対的亢進を示すものであると考えられており、CTX-II/CPIIの比は関節痛の客観的指標であることが知られている(例えば、「アスリートにおける関節バイオマーカーに及ぼすD-グルコサミン塩酸塩摂取の効果」グルコサミン研究 5 2009年9月発行 別刷 長岡ら、「N-アセチルグルコサミン含有乳飲料の膝関節痛、およびII型コラーゲン代謝マーカーに対する効果および安全性の検討」 薬理と治療(JPT) 2010年5月20日発行 vol.38 no.5 別刷 ライフサイエンス出版 勝野眞也ら)。すなわち、被験者のN-アセチルグルコサミン等の摂取の前後におけるCTX-II/CPIIをそれぞれ比較し、CTX-II/CPIIの比の減少量が多いほど、高い関節痛改善効果を有することを意味する。
【0046】
CTX-IIとCPIIのそれぞれの測定量から、CTX-II/CPIIを算出した。その結果を図5に示す。実施例1は、比較例1と比較して、摂取前後でCTX-II/CPIIの値が減少していることが確認された。上述のとおり、CTX-II/CPIIは関節症状の客観的な指標である。従って、この結果により、N-アセチルグルコサミンの300mg/日の摂取により関節痛が改善すること、及び、N-アセチルグルコサミンの300mg/日の摂取は、N-アセチルグルコサミンの500mg/日の摂取より関節痛改善効果が高いことが示された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
200?400mg/日の量で被投与者に少なくとも12週間投与されるN-アセチルグルコサミンを含む、関節痛改善剤(ただし、下記(a)及び(d)を除く。)。
(a)ツバキ種子エキス、N-アセチルグルコサミン及びアスタキサンチンを含有し、ツバキ種子エキス100質量部に対するN-アセチルグルコサミンの配合量が50質量部以上100質量部以下である経口組成物
(d)乳飲料または豆乳に添加して摂取されるもの
【請求項2】
下記(b)及び(c)を除く、請求項1に記載の関節痛改善剤。
(b)純粋サリゲニンもしくはその誘導体、またはサリゲニンに富むサリックスルブラ抽出物から選択されるそれらを含む抽出物と、実質的に純粋なボスウェリア酸もしくはその半合成誘導体、またはボスウェリア酸に富むフランキンセンス抽出物と、ヨーロッパブドウ由来もしくはカメリアシネンシス由来のプロシアニンジン、またはレインもしくはその親油性誘導体と、グルクロン酸またはグルクロノラクトンとを含む製剤
(c)サリゲニンもしくはその誘導体、またはサリゲニンを10?50%含むサリックスssp抽出物、実質的に純粋なアンドログラフォリド、またはアンドログラフォリドを5?30%含むアンドログラフォリドに富むアンドログラフィス・パニクラタ抽出物、および/またはグルクロン酸もしくはグルクロノラクトンを含む組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記関節痛改善剤は、膝関節痛改善剤である請求項1または2に記載の関節痛改善剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-02-28 
出願番号 特願2013-148608(P2013-148608)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 常見 優  
特許庁審判長 光本 美奈子
特許庁審判官 穴吹 智子
滝口 尚良
登録日 2018-01-12 
登録番号 特許第6270362号(P6270362)
権利者 日本水産株式会社
発明の名称 関節痛改善剤  
代理人 須藤 晃伸  
代理人 正林 真之  
代理人 正林 真之  
代理人 新山 雄一  
代理人 林 一好  
代理人 榛葉 貴宏  
代理人 新山 雄一  
代理人 榛葉 貴宏  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 鈴木 恵理子  
代理人 鈴木 恵理子  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 林 一好  
代理人 須藤 晃伸  

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