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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23B
管理番号 1361487
異議申立番号 異議2019-700631  
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-06 
確定日 2020-04-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6463554号発明「冷凍野菜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6463554号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6463554号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成30年(2018年)2月27日(優先権主張 平成29年(2017年)2月28日(JP)日本国)に出願され、平成31年1月11日にその特許権の設定登録がされ、平成31年2月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和元年8月6日に特許異議申立人杉本里佳(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年10月24日付け:取消理由通知
同年12月26日 :意見書の提出(特許権者)
令和2年 1月28日付け:審尋(申立人宛)、意見書副本の送付
同年 2月18日 :回答書の提出(申立人)

2.本件発明について
特許第6463554号の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表示した。
「[請求項1]
凍結前に乾熱処理を施した冷凍野菜であって、該冷凍野菜の自然解凍時のドリップ率が7.20%以下であり、かつ、該冷凍野菜の生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値が1.90以下であり、
ここで、自然解凍時のドリップ率は、
[数1]
自然解凍時のドリップ率(%)=自然解凍時のドリップ重量(g)/凍結製品の重量(g)×100
と定義され、
生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値は、
[数2]
生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値=自然解凍後のドリップを除いた嵩密度(g/ml)/原料処理済生鮮野菜の嵩密度(g/ml)
と定義される、冷凍野菜。
[請求項2]
前記自然解凍時のドリップ率が4.70%以下である、請求項1に記載の冷凍野菜。
[請求項3]
前記生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値が1.80以下である、請求項1または2に記載の冷凍野菜。
[請求項4]
加熱調理用である、請求項1?3のいずれか一項に記載の冷凍野菜。
[請求項5]
請求項1?4のいずれか一項に記載の冷凍野菜を含んでなる、冷凍食品。
[請求項6]
具材および/または調味成分をさらに含んでなる、請求項5に記載の冷凍食品。」

以下においては、本件発明1に記載された「自然解凍時のドリップ率」及び「生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値」を、それぞれ「ドリップ率」及び「嵩密度の変動値」と省略して記載することがある。

3.取消理由の概要
本件の請求項1?6に係る特許に対して令和元年10月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)理由I(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1?6についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ア 嵩密度の変動値について
イ 自然解凍時のドリップ率について
ウ 乾熱処理について

(2)理由II(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1?6についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ア 乾熱処理及び野菜について
イ 官能評価について
ウ ドリップ率及び嵩密度の変動値について
エ 調理方法について

(3)理由III(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1?6についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ア 乾熱処理及び野菜について
イ 官能評価について
ウ ドリップ率及び嵩密度の変動値について
エ 調理方法について

(4)理由IV(進歩性)
本件発明1?6は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献3、2、5?10に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<引用文献等一覧>
2.特開2006-271352号公報(甲第2号証)
3.特開2015-198587号公報(甲第3号証)
5.Charles H. Z. Kong, Nazimah Hamid, Tingting Liu, and Vijayalekshimi Sarojini, "Effect of Antifreeze Peptide Pretreatment on Ice Crystal Size, Drip Loss, Texture, and Volatile Compounds of Frozen Carrots", Journal of Agricultural and Food Chemistry, ACS Publications, 2016年, vol.64, No.21, p.4327-4335(甲第5号証)
6.国際公開第02/080690号(甲第6号証)
7.国際公開第2015/152320号(甲第7号証)
8.特開平5-68505号公報(甲第8号証)
9.特開2005-151939号公報(甲第9号証)
10.特開2008-271934号公報(甲第10号証)

4.取消理由通知に記載した取消理由についての判断
(1)理由I(明確性)について
ア 嵩密度の変動値について
本件発明1及び本件明細書の[0016]には、「嵩密度の変動値」が「自然解凍後のドリップを除いた嵩密度(g/ml)/原料処理済生鮮野菜の嵩密度(g/ml)」と定義されることが記載されており、本件明細書の[0017]には(i)?(vii)の工程からなる自然解凍後の嵩密度の測定方法が記載され、[0018]には(i)?(iv)の工程からなる生鮮野菜の嵩密度の測定方法が記載されている。そして、[0017]の工程(v)には、「網の上に残る固形分を200mlビーカー・・・に入れ、机上にてタッピングしながら(該ビーカーの底を机の上面に軽くたたきつけながら)、該ビーカーのすり切りまで入れた場合の該固形分の重量を測定し、該重量計測の3回の平均値を算出」することが記載されており、また、[0018]の工程(ii)には、「この試料を200mlビーカー・・・に入れ、机上にてタッピングしながら(該ビーカーの底を机の上面に軽くたたきつけながら)、該ビーカーのすり切りまで入れた場合の生鮮野菜の重量を測定し、重量計測の3回の平均値を算出」することが記載されている。
ここで、乙第1号証(本件特許権者作成に係る本件特許実施例再現実験結果)には、野菜の品目(6品目)に応じたカットサイズ(7種類)にカットされた各試料を用いて、本件明細書の[0016]?[0018]に記載された工程に従い、「原料処理済み生野菜かさ密度」及び「自然解凍後かさ密度」を測定し、嵩密度の変動値を算出した実験データが記載されており、「原料処理済み生野菜かさ密度」及び「自然解凍後かさ密度」の測定データとして、それぞれ3回の測定を2セットずつ行ったすべての測定データが記載されるとともに、各セット毎の平均値が算出されており、「原料処理済み生野菜かさ密度」については、セット間の標準偏差及び変動係数も算出されている。また、上記の各セットの平均値を用いて「嵩密度の変動値」がセット毎に算出され、セット間の標準偏差及び変動係数も算出されている。
そして、「原料処理済み生野菜かさ密度」、「自然解凍後かさ密度」及び「嵩密度の変動値」のばらつきを標準偏差及び変動係数等を勘案して検討すると、いずれの試料についても、3回の測定の平均値はセット毎に大きくばらつくことはなく、「嵩密度の変動値」を標準偏差にして最大0.07の幅に抑えて再現できたことが読み取れる。
そうすると、本件発明1の「嵩密度の変動値」は、乙第1号証等を参酌すると、本件明細書の[0017]及び[0018]に記載された工程に従って算出可能な明確なものと認められる。本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明2?6についても同様である。

イ 自然解凍時のドリップ率について
本件発明1及び本件明細書の[0014]には、「ドリップ率」が「自然解凍時のドリップ重量(g)/凍結製品の重量(g)×100」と定義されることが記載されており、本件明細書の[0015]には(i)?(v)の工程からなる凍結製品の重量及び自然解凍時のドリップ重量の測定方法が記載されている。そして、[0015]の工程(iii)には、「封をしたビニール袋に扇風機・・・で風速1?3m/sの風を当てながら室温で100分間放置して、試料を自然解凍させ」ることが記載されている。
ここで、上記「自然解凍」は、加熱処理を加えることなく、調理が行われるような通常の室内の温度において解凍することを意味するものと理解することができ、また、通常の室内の温度といえる範囲内であれば、扇風機の風を100分間当てた後に、試料の解凍がまったく進んでいなかったり、逆に微生物の繁殖等の解凍以外の理由で離水が増加していたりすることは考え難く、解凍後の状態に極端な差は生じないと解されるから、自然解凍に至るまでの熱履歴が厳密に定義されていなくても、自然解凍時のドリップ重量が不明確になる程、測定値がばらつくものではないと解される。
そうすると、本件発明1の「自然解凍時のドリップ重量(g)」及びそれから導かれる「ドリップ率」は、本件明細書の[0015]に記載された工程に従って測定及び算出が可能な明確なものと認められる。本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明2?6についても同様である。

ウ 乾熱処理について
本件発明1においては、「乾熱処理」について、加熱手段、加熱雰囲気、処理温度、処理時間等の具体的な処理条件は特定されていないが、例えば、乙第2号証(五十嵐脩、小林彰夫、田村真八郎編集代表,丸善食品総合辞典,丸善株式会社,平成10年3月25日,p.260,「乾熱」の項)に、「乾熱[dry heat] 加熱空気あるいは過熱蒸気のように乾燥状態にある熱.加熱殺菌中あるいは殺菌後に乾燥状態であることを希望するときに用いられる.」と記載されているように、「乾熱」の用語は食品分野において周知の技術用語であったと認められる。また、食品分野の特許出願においても、「乾熱処理」の用語は本件特許に係る出願の優先日前から用いられていたものと認められる(例えば、特開平1-281041号公報(乙第3号証)、特開2001-95511号公報(乙第4号証)、国際公開第2017/170995号(乙第6号証のパテントファミリー)等を参照。)。
そうすると、本件発明1における「乾熱処理」について、当業者は「加熱空気あるいは過熱蒸気のように乾燥状態にある熱による加熱処理」を意味するものと理解することができるといえ、実際、そのように解して本件発明1が不明確になるものとは認められないし、本件明細書の[0029]?[0038]に記載された実施例において、加熱手段としてオーブン又はジェットオーブンが用いられていることとも矛盾するものではない。
そうすると、本件発明1の「乾熱処理」は、周知の技術的事項を参酌することにより当業者がその範囲を明確に理解することができるものと認められる。本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明2?6についても同様である。

エ 申立人の主張について
(ア)嵩密度の変動値について
申立人は、令和2年2月18日に提出した回答書(2?3頁)において、「本件発明の『嵩密度』の測定試料(野菜)は、上述の通り、多種多様な形状・サイズであり粉体とは全く異なりますので、『机上にてタッピングしながら』との手法によって、ビーカー内の各試料(野菜)の重なり具合や、各試料間の空間は、決して一定になり得ません。・・・試料重量の複数回の測定結果に少なくないばらつきが生じることは、技術常識に照らして明らかです。その上、本件発明の『嵩密度』は、わずか『3回』の計測の平均値を算出したものであり、そのような少ないサンプル数の平均値にて、上記のばらつきが十分に吸収されて、再現性のある平均値が得られるとは、技術常識からみてとても考えられません。」と主張している。
しかし、上記4.(1)ア「嵩密度の変動値について」に記載したとおり、乙第1号証を参酌すると、3回の測定の平均値を用いることでばらつきが吸収され、再現性のある「嵩密度の変動値」を算出できることは、統計処理の結果によって支持されているといえる。また、各試料のカットサイズは、野菜の品目に照らしていずれも常識的なものといえ、申立人も甲第11号証において同様のカットサイズを採用していることを勘案すると、乙第1号証において試料の調製が恣意的に行われたとは解されない。また、甲第11号証において算出されてる「最小3回平均値」及び「最大3回平均値」は、単純な3回の試行の平均値とは異なることが明らかであるから、本件発明における「嵩密度の変動値」の解釈に直接影響するものではない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(イ)自然解凍時のドリップ率について
申立人は、令和2年2月18日に提出した回答書(9?10頁)において、「測定時の温度が異なれば解凍時のドリップの量が少なからず異なることも技術常識からみて明らかです。・・・『自然解凍』という用語は、『人為的な加熱や減圧(真空)等の処理を行わず、室温又は冷蔵庫内に放置して緩慢に解凍する』といった解凍手段を単に意味するのが相当です。自然解凍した後の状態は、その解凍条件(解凍温度、解凍時間)によって変化し、一義的に定まるものではありません。」と主張している。
しかし、上記4.(1)イ「自然解凍時のドリップ率について」に記載したとおり、本件明細書の[0015]の工程(iii)における、「封をしたビニール袋に扇風機・・・で風速1?3m/sの風を当てながら室温で100分間放置して、試料を自然解凍」との記載からみて、本件発明における「自然解凍」は、調理が行われるような通常の室内の温度において解凍することを意味するものと理解することができ、自然解凍した後の状態が一義的に定まらないとまではいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(ウ)乾熱処理について
申立人は、令和2年2月18日に提出した回答書(10?11頁)において、「『乾熱処理』について『加熱空気あるいは過熱蒸気のような乾燥状態にある熱による加熱処理』と理解し得たとしても、依然として・・・具体的な処理条件は特定されておりませんので、当該加熱処理が野菜の表面及び内部の細胞に対してどのような変化をもたらす処理を意味するのか明らかでありません。また、・・・野菜の表面及び内部の細胞に対してもたらされる具体的な変化が異なる複数の処理を包含する多義的な記載と解されることにも変わりありませんので、明確な記載とはいえません。・・・本件発明は『物(冷凍野菜)の発明』ですので、・・・乾熱処理によって野菜の表面及び内部の細胞に対してもたらされる具体的な変化が解明されることが、間違いなく必要です。」と主張している。
しかし、上記4.(1)ウ「乾熱処理について」に記載したとおり、本件発明1の「乾熱処理」は、周知の技術的事項を参酌することにより当業者がその範囲を明確に理解することができるものと認められるから、当該乾熱処理を施した結果として得られる物の範囲も明確であるということができ、野菜の表面及び内部の細胞に対してもたらされる具体的な変化が解明されることまでは、必ずしも求められないと解される。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

オ 理由I(明確性)のまとめ
以上まとめると、本件発明1?6は、いずれも明確であるから特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものであり、これらの発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、取消理由通知に記載した理由I(明確性)の理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

(2)理由II(サポート要件)について
ア 本件発明の課題について
本件明細書の[0003]には、背景技術として、「一般に、凍結解凍を経た野菜は、解凍時に離水を伴ってしんなりと萎びたような状態となり、見た目にも新鮮さを失ってしまい、食欲を減退させる。また、このような野菜は見た目の量が少なく見え、食味も水っぽいものとなり、冷凍野菜としての付加価値は大きく損なわれる。また、炒め、焼成、油ちょう等、沸点よりも高い温度帯で調理する際に、従来の冷凍野菜は、容易に加熱中に水分を放出してしまうため、その水分の蒸発潜熱が周囲を冷却し、高温短時間調理が実現し難いという問題がある」ことが記載され、[0004]には、従来技術について、解凍時に大量のドリップが発生するとともに、嵩が小さくなる、又は相当量の水分が失われ、本来の野菜感が失われている等の問題があったことが記載され、[0007]には、「従って、本発明は、ボリューム感に優れ、ドリップが抑えられ、水っぽさがなく、ハリのある食感を有する冷凍野菜を提供することを目的とする」ことが記載されている。
これらの記載及び請求項の記載を参酌すると、本件発明1?4は、「ボリューム感に優れ、ドリップが抑えられ、水っぽさがなく、ハリのある食感を有する冷凍野菜を提供する」ことを課題とするものであり、本件発明5及び6は、当該冷凍野菜を含んでなる冷凍食品を提供することを課題とするものといえる。

イ 本件発明1?6について
本件発明1?6は、上記2.「本件発明について」に記載した特許請求の範囲の請求項1?6に記載された発明特定事項により特定される発明である。

ウ 本件明細書の記載について
本件明細書には、上記課題を解決する手段に関し、以下のような事項が記載されている。
「[0006]
本発明者らは、乾熱処理を経て凍結された冷凍野菜について、所定の自然解凍時のドリップ率および所定の嵩密度の変動率を有する冷凍野菜が、ボリューム感に優れ、ドリップが抑えられ、水っぽさがなく、ハリのある食感を発揮することを見出した。」

「[0010]
また、本発明の冷凍野菜は、未凍結の生鮮野菜と同等の加熱調理後の品質を実現できる点で有利である。具体的には、嵩があり保形性や固形感が高いことやドリップが抑えられることにより、冷凍野菜であるにも関わらず比較的短時間で加熱調理を行うことができる点で有利である。さらに具体的には、本発明の冷凍野菜は、その保形力と保水力により、炒め、焼成や油ちょうなど、沸点よりも高い温度帯で調理する際に、未凍結品と同等の炒め感やロースト感のある品質を実現することができる点で有利である。また、嵩が保たれていることにより、表面の加熱媒体と触れる部分は比較的早く高温になり、内部は時間差で昇温する点で有利である。この効果により、表面では高温で起きる好ましい香味付与反応(メイラード反応)が進むとともに、全体として長い加熱調理による野菜へのダメージを最小限にとどめることが可能となる点で有利である。これらにより、良好な品質かつ多様な用途の調理用冷凍野菜を提供することができる点で有利である。」

「[0027]
前記乾熱処理においては、40?75℃の温度、および5?300分間の処理時間の中から、原料野菜の含水率、保水力、保形力等を考慮し、適切な処理条件を選択することができる。
[0028]
また、他の実施態様によれば、前記乾熱処理においては、35?140℃の温度、および0.5?300分間の処理時間の中から、原料野菜の含水率、保水力、保形力等を考慮し、適切な処理条件を選択することができる。
[0029]
例えば、冷凍ピーマンの製造においては、凍結前に、40?70℃に維持されたオーブンで、5?200分間加熱することにより、所定の自然解凍時のドリップ率および所定の生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値を満たす本発明の冷凍ピーマンを製造することができる。
[0030]
また、凍結前に、120?140℃に維持されたジェットオーブンで、0.5?2.5分間加熱することにより、所定の自然解凍時のドリップ率および所定の生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値を満たす本発明の冷凍ピーマンを製造することができる。
[0031]
また、冷凍タマネギの製造においては、凍結前に、60?75℃に維持されたオーブンで、5?90分間加熱することにより、所定の自然解凍時のドリップ率および所定の生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値を満たす本発明の冷凍タマネギを製造することができる。
[0032]
また、凍結前に、110?130℃に維持されたジェットオーブンで、1.5?3.5分間加熱することにより、所定の自然解凍時のドリップ率および所定の生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値を満たす本発明の冷凍タマネギを製造することができる。
[0033]
また、冷凍ニンジンの製造においては、凍結前に、55?65℃に維持されたオーブンで、5?50分間加熱することにより、所定の自然解凍時のドリップ率および所定の生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値を満たす本発明の冷凍タマネギを製造することができる。
[0034]
また、冷凍キャベツの製造においては、凍結前に、55?65℃に維持されたオーブンで、5?30分間加熱することにより、所定の自然解凍時のドリップ率および所定の生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値を満たす本発明の冷凍タマネギを製造することができる。
[0035]
また、冷凍赤パプリカの製造においては、凍結前に、35?45℃に維持されたオーブンで、30?150分間加熱することにより、所定の自然解凍時のドリップ率および所定の生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値を満たす本発明の冷凍赤パプリカを製造することができる。
[0036]
また、冷凍黄パプリカの製造においては、凍結前に、35?45℃に維持されたオーブンで、30?150分間加熱することにより、所定の自然解凍時のドリップ率および所定の生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値を満たす本発明の冷凍黄パプリカを製造することができる。
[0037]
また、冷凍ズッキーニの製造においては、凍結前に、60?100℃に維持されたオーブンで、5?50分間加熱することにより、所定の自然解凍時のドリップ率および所定の生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値を満たす本発明の冷凍ズッキーニを製造することができる。
[0038]
また、冷凍ゴーヤの製造においては、凍結前に、60?100℃に維持されたオーブンで、5?50分間加熱することにより、所定の自然解凍時のドリップ率および所定の生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値を満たす本発明の冷凍ゴーヤを製造することができる。」

「[0044]
本発明の冷凍野菜または冷凍食品は、家庭内で用いる以外に、業務用として、例えば、飲食店、弁当・仕出し、給食センター等の厨房等において用いることができる。本発明の冷凍野菜または冷凍食品は、解凍した後にそのまま喫食してもよいし、加熱処理した後に喫食してもよい。加熱処理としては、例えば、炒め、焼成、油ちょう、およびマイクロ波処理(電子レンジ)等が挙げられる。」

「[実施例]
[0045]
以下の例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
[0046]
実施例1.冷凍ピーマンの調製とその物性および官能評価
・・・
[0053]
(3)冷凍ピーマンの官能評価
(1)で得られた冷凍ピーマンのオーブン加熱品、オーブン未処理品、従来ボイル品、および低温ボイル品を、炒め調理を行った上で官能評価に供した。
[0054]
(i)炒め調理方法
煙が出るまで熱したフライパンにキャノーラ油8gを投入した。このフライパンに、各試験区における冷凍ピーマンサンプルを200gと、食塩1gとを投入し、中強火で2.5分間炒めた。
[0055]
(ii)官能評価方法
(i)の方法で炒め調理した各試験区の冷凍ピーマンを、専門パネル5名により、官能評価を行った。以下に評価項目およびその基準を述べる。
[0056]
(外観評価)
(a)ボリューム感
ある:+、ない:-。
(b)調理感(ここで、「調理感」とは、加熱調理、特に炒め調理により炒めた感じがあり、かつ、炒めものとして好ましい程度に焦げた部分を含む状態をいう。)
調理感があり非常に良い:4点、調理感があり良い:3点、生っぽく調理感がなくやや悪い:2点、生っぽく調理感がなく悪い:1点。
[0057]
(喫食評価)
(c)調理感(ここで、「調理感」とは、加熱調理、特に炒め調理により炒めた感じがあり、かつ、炒めものとして好ましい程度に焦げた部分を含む状態をいう。)
調理感があり非常に良い:4点、調理感があり良い:3点、生っぽく調理感がなくやや悪い:2点、生っぽく調理感がなく悪い:1点。
(d)ハリのある食感(ここで、ハリのある食感とは、やわらかすぎず、噛んだときの歯ざわりが好ましい状態をいう。)
ハリがあり非常に良い:4点、ハリがあり良い:3点、ハリがなくやや悪い:2点、ハリがなく悪い:1点。
(e)水っぽさ
水っぽくなく非常に良い:4点、水っぽくなく良い:3点、水っぽくやや悪い:2点、水っぽく悪い:1点。
[0058]
(総合評価)
(b)?(e)の官能評価点の平均点を以下の基準で判定し、総合評価とした。
3.5点以上:◎
2.5点以上:○
1.5点以上:△
1.5点未満:×
なお、2.5点以上を許容できるもの、2.5点未満を許容できないものとした。
[0059]
(4)結果
各試験区における冷凍ピーマンの物性および官能評価の結果は以下の表1の通りであった。
[表1]

[0060]
12?90分間、40?70℃のオーブン加熱処理を経たものをその後凍結した冷凍ピーマンは、物性としては、自然解凍時のドリップ率は0.10?1.20%を示し、生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値は1.52?1.67を示し、官能評価としては、総合評価は◎?○であった(試験区1?4)。次に、凍結前に100℃でオーブン加熱処理を経た冷凍ピーマンは、物性としては、生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値は2.00と高く、官能評価としては、ボリューム感がなく、ハリ感、水っぽさにおいて悪く、総合評価は△であった(試験区5)。次に、凍結前に加熱処理なしの冷凍ピーマンは、物性としては、自然解凍時のドリップ率が8.00%と高く、官能評価としては、ボリューム感がなく、調理感がなく、総合評価は△であった(試験区6)。最後に、従来技術(凍結前に沸騰ボイル、低温ボイル)で処理した冷凍ピーマンは、物性としては、自然解凍時のドリップ率が13.00?13.10%と高く、官能評価としては、ボリューム感がなく、調理感がなく、ハリ感、水っぽさにおいて悪く、総合評価は×であった(試験区7および8)。
[0061]
肉厚平均2mmのピーマンを縦に半割し、10mm幅に千切りし、洗浄し、水切りした以外は、試験区7の条件に従って調製した冷凍ピーマンを炒め調理したものは、嵩がなく、ボリューム感が認められない(図1)。一方、肉厚平均2mmのピーマンを縦に半割し、10mm幅に千切りし、洗浄し、水切りした以外は、試験区4の条件に従って調製した冷凍ピーマンを炒め調理したものは、嵩があり、ボリューム感が認められる(図2)。」

「[0062]
実施例2.冷凍タマネギの調製とその物性および官能評価
・・・
[0065]
(4)結果
各試験区における冷凍タマネギの物性および官能評価の結果は以下の表2の通りであった。
[表2]

・・・
[0068]
実施例3.冷凍ニンジンの調製とその物性および官能評価
・・・
[0071]
(4)結果
各試験区における冷凍ニンジンの物性および官能評価の結果は以下の表3の通りであった。
[表3]

・・・
[0073]
実施例4.冷凍キャベツの調製とその物性および官能評価
・・・

[0076]
(4)結果
各試験区における冷凍キャベツの物性および官能評価の結果は以下の表4の通りであった。
[表4]

・・・
[0079]
実施例5.冷凍ピーマンの調製とその物性および官能評価(その2:乾熱処理方法の影響の評価)
・・・
[0082]
(4)結果
試験区23における冷凍ピーマンの物性および官能評価の結果は以下の表5の通りであった。
[表5]

・・・
[0085]
実施例6.冷凍タマネギの調製とその物性および官能評価(その2:乾熱処理方法の影響の評価)
・・・
[0088]
(4)結果
試験区24における冷凍タマネギの物性および官能評価の結果は以下の表6の通りであった。
[表6]

・・・
[0091]
実施例7.冷凍赤パプリカの調製とその物性および官能評価
・・・
[0094]
(4)結果
各試験区における冷凍赤パプリカの物性および官能評価の結果は以下の表7の通りであった。
[表7]

・・・
[0097]
実施例8.冷凍黄パプリカの調製とその物性および官能評価
・・・
[0100]
(4)結果
各試験区における冷凍黄パプリカの物性および官能評価の結果は以下の表8の通りであった。
[表8]

・・・
[0103]
実施例9.冷凍ズッキーニの調製とその物性および官能評価
・・・
[0106]
(4)結果
各試験区における冷凍ズッキーニの物性および官能評価の結果は以下の表9の通りであった。
[表9]

・・・
[0109]
実施例10.冷凍ゴーヤの調製とその物性および官能評価
・・・
[0112]
(4)結果
各試験区における冷凍ゴーヤの物性および官能評価の結果は以下の表10の通りであった。
[表10]



エ サポート要件の判断
(ア)乾熱処理及び野菜について
(ア-1)ドリップ率及び嵩密度の変動値と本件発明1の課題について
本件発明1においては、冷凍野菜のドリップ率及び嵩密度の変動値が特定されているところ、これらは上記4.(1)イ「自然解凍時のドリップ率について」及び同ア「嵩密度の変動値について」における算出方法等の検討を踏まえると、解凍後の冷凍野菜の状態であるドリップの多少及びボリュームの維持を反映する指標として用いることができるものと解することができる。そして、本件明細書の[0045]?[0114]の実施例、特に、表1?表10等に記載されたドリップ率及び嵩密度の変動値と官能評価の結果とを参酌すると、本件発明1に特定されたドリップ率が7.20%以下かつ嵩密度の変動値が1.90以下の範囲であれば、解凍後の冷凍野菜は「ボリューム感に優れ、ドリップが抑えられ、水っぽさがなく、ハリのある食感を有する」と評価されることを理解することができる。
そうすると、凍結前の乾熱処理により、ドリップ率が7.20%以下であり、かつ嵩密度の変動値が1.90以下である冷凍野菜を得ることができれば、本件発明1の課題が解決されるといえる。

(ア-2)野菜の種類及び乾熱処理の条件について
本件発明1の冷凍野菜は、「凍結前に乾熱処理を施した冷凍野菜」であることが特定されているが、野菜の種類は特定されていない。また、「乾熱処理」については、上記4.(1)ウ「乾熱処理について」に記載したとおり、「加熱空気あるいは過熱蒸気のように乾燥状態にある熱による加熱処理」を意味するものと理解することができるが、加熱温度、加熱時間等の具体的な条件までは特定されていない。
しかし、本件明細書の[0029]?[0038]には、ピーマン、タマネギ、ニンジン、キャベツ、赤パプリカ、黄パプリカ、ズッキーニ及びゴーヤの8種類の野菜について、上記「乾熱処理」を行う代表的な手段であるオーブン又はジェットオーブンによる加熱の場合の好ましい加熱温度及び加熱時間が例示されており、また、本件明細書の[0045]?[0114]、特に、表1?表10等には、上記8種類の野菜について、実際にコンベクションオーブン又はジェットオーブンを用いて乾熱処理した実施例及び比較例が記載されており、これらの記載に基づいて当業者は、各野菜毎及び乾熱処理手段毎に適切な温度及び時間の範囲は異なるものの、主に加熱温度及び加熱時間を調整することにより、上記ドリップ率及び嵩密度の変動値を本件発明1に特定される範囲内に納めることができることを理解することができる。
そして、本件明細書の[0027]に、「前記乾熱処理においては、40?75℃の温度、および5?300分間の処理時間の中から、原料野菜の含水率、保水力、保形力等を考慮し、適切な処理条件を選択することができる」と記載され、[0028]に、「他の実施態様によれば、前記乾熱処理においては、35?140℃の温度、および0.5?300分間の処理時間の中から、原料野菜の含水率、保水力、保形力等を考慮し、適切な処理条件を選択することができる」と記載されているように、当業者は、本件明細書の実施例、比較例及び一般記載を参酌することにより、上記8種類の野菜とコンベクションオーブン又はジェットオーブンとの組合せに限らず、任意の野菜と乾熱処理手段との組合せにおいて、加熱温度及び加熱時間を適切に選択することにより、上記本件発明1におけるドリップ率及び嵩密度の変動値の要件を満たす冷凍野菜を得ることができると理解することができる。

(ア-3)本件発明1についての判断
以上のことから、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明において当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、本件発明1において乾熱処理の内容及び野菜の種類が特定されていないことを理由として、本件発明1が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(ア-4)本件発明2?6についての判断
本件発明2、3は、ドリップ率又は嵩密度の変動値が本件発明1より実施例に近い上限値に特定された発明であり、また、本件発明4?6は、本件発明1?3を直接又は間接的に引用し、本件発明1?3をさらに限定する発明であるから、本件発明1と同様の理由により当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものである。よって、本件発明2?6についても、乾熱処理の内容及び野菜の種類が特定されていないことを理由として、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(イ)官能評価について
本件明細書の[0055]?[0058]には、官能評価の評価項目及びその基準が記載され、外観評価では(a)ボリューム感及び(b)調理感、喫食評価では(c)調理感、(d)ハリのある食感及び(e)水っぽさが評価され、総合評価では(b)?(e)の官能評価(いずれも4点?1点の4段階評価)の平均点をもって判定され、3.5点以上(◎)及び2.5点以上(○)は許容できるもの、1.5点以上(△)及び1.5点未満(×)は許容できないものとした旨が記載されている。そして、(b)?(e)の個別の評点は、上記本件発明の課題である「ボリューム感に優れ、ドリップが抑えられ、水っぽさがなく、ハリのある食感を有する冷凍野菜を提供する」という課題の個別の項目に相当し、概ねそのすべてが許容可能な点数以上であれば、それらの平均点による総合評価も上がり、上記課題が解決されるといえると理解できる。
ここで、本件明細書の[0079]?[0114]に記載された実施例5?10においては、官能評価の結果は「総合評価」、「平均点」、「ボリューム感」が示されているにすぎず、「平均点」の算出の根拠となる上記(b)?(e)の個別の評点は記載されていないが、実施例5?10の官能評価の平均点は4点満点中3.8?3.4点という高い点数であるから、個別の評点についても高い点数であることが暗に反映されていると理解することができる。
そうすると、実施例5?10についても、本件発明1?6が本件発明の課題を解決することができるものであるかを検討する上で参酌することが可能なものであるといえ、具体的には、上記4.(2)エ(ア)(ア-2)「野菜の種類及び乾熱処理の条件について」に記載したとおりである。
よって、本件発明1?6は、本件明細書の発明の詳細な説明において当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、本件明細書の実施例5?10の官能評価において個別の点数が記載されていないことを理由として、本件発明1?6が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(ウ)ドリップ率及び嵩密度の変動値について
上記4.(2)エ(ア)(ア-1)「ドリップ率及び嵩密度の変動値と本件発明1の課題について」等に記載したとおり、本件発明1?6の発明特定事項であるドリップ率及び嵩密度の変動値は、その算出方法が明確に定義されたものであり、解凍後の冷凍野菜の状態であるドリップの多少及びボリュームの維持を反映する指標として用いることができるものと解することができる。
ここで、本件明細書の[0045]?[0114]に記載された実施例1?10のうち、ドリップ率の上限の参考になり得る例としては、試験区12(ドリップ率3.79%、総合評価3.1点(○))、個別の評点は不明であるが試験区27(ドリップ率4.51%、総合評価3.7点(◎))、試験区10(ドリップ率7.25%、総合評価2.2点(△))等が記載されており、総合評価が2.5点以上の場合に○と評価されることを勘案すると、ドリップ率の上限は試験区10付近にあるものと解することができる。
また、嵩密度の変動値の上限の参考になり得る例としては、試験区20(嵩密度の変動値1.78%、総合評価4.0点(◎))、試験区18(嵩密度の変動値1.91%、総合評価2.4点(△))等が記載されており、嵩密度の変動値の上限は試験区18付近にあるものと解することができる。
そうすると、当業者は、本件明細書に記載された実施例の実験データを参酌することにより、本件発明1におけるドリップ率(7.20%以下)及び嵩密度の変動値(1.90以下)を、官能評価(総合評価)が◎又は○となり上記課題を解決し得る範囲として適切に定められたものであると理解することができる。
また、本件発明2、3は、ドリップ率又は嵩密度の変動値が本件発明1より実施例に近い上限値に特定された発明であり、さらに、本件発明4?6は、本件発明1?3を直接又は間接的に引用し、本件発明1?3をさらに限定する発明であるから、本件発明1と同様の理由により当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものである。
よって、本件発明1?6は、本件明細書の発明の詳細な説明において当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、ドリップ率及び嵩密度の変動値の点で、本件発明1?6が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(エ)調理方法について
上記4.(2)エ(ア)「乾熱処理及び野菜について」等に記載したとおり、本件発明1におけるドリップ率及び嵩密度の変動値は、解凍後の冷凍野菜の状態であるドリップの多少及びボリュームの維持を反映する指標と解することができ、実施例及び比較例結果を参酌すると、本件発明1に特定されたドリップ率が7.20%以下かつ嵩密度の変動値が1.90以下の範囲であれば、解凍後の冷凍野菜は「ボリューム感に優れ、ドリップが抑えられ、水っぽさがなく、ハリのある食感を有する」と評価されることを理解することができる。
そして、解凍後の状態が「ボリューム感に優れ、ドリップが抑えられ、水っぽさがなく、ハリのある食感を有する」と評価されるものであるならば、本件明細書の[0003]?[0004]等に記載された従来技術の課題である「食味も水っぽいものとな」る、「水分の蒸発潜熱が周囲を冷却し、高温短時間調理が実現し難い」等の問題が改善され、[0010]に記載されているように、「比較的短時間で加熱調理を行うことができる」、「沸点よりも高い温度帯で調理する際に、未凍結品と同等の炒め感やロースト感のある品質を実現することができる」、「表面の加熱媒体と触れる部分は比較的早く高温になり、内部は時間差で昇温する」、「表面では・・・香味付与反応(メイラード反応)が進むとともに、全体として長い加熱調理による野菜へのダメージを最小限にとどめることが可能」等の効果が得られること、及びこれらの効果は加熱調理の方法を問わず、加熱調理一般において共通して好ましい仕上がりをもたらすものであることを、当業者は容易に理解することができる。また、解凍後の状態が「ボリューム感に優れ、ドリップが抑えられ、水っぽさがなく、ハリのある食感を有する」と評価されるものであれば、本件明細書の[0044]に記載されているように、「解凍した後にそのまま喫食してもよい」ことも明らかである。
そうすると、本件発明1の冷凍野菜は、上記課題解決の観点から解凍後の調理の方法が特段制限されるものではないと認められる。
また、本件発明2、3は、ドリップ率又は嵩密度の変動値が本件発明1より実施例に近い上限値に特定された発明であり、さらに、本件発明4?6は、本件発明1?3を直接又は間接的に引用し、本件発明1?3をさらに限定する発明であるから、本件発明1と同様である。
よって、本件発明1?6は、本件明細書の発明の詳細な説明において当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであり、調理方法が特定されていないことを理由として、本件発明1?6が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(オ)申立人の主張について
(オ-1)乾熱処理及び野菜について
申立人は、令和2年2月18日に提出した回答書(15?18頁)において、「特許権者の主張は、単に、本件発明の課題、発明特定事項、発明の効果を順に記載したに過ぎず・・・乾熱処理を施した野菜が、具体的にどのような状態であるのか・・・について、本質的に何の反論にもなっていません。」、「たった8種類の野菜の実験から、野菜全般について本願発明の課題を解決できるなどとは認識できません。・・・本件明細書の『原料野菜の含水率、保水力、保形力等を考慮し、適切な処理条件を選択することができる』との記載も、『適切』と判断される基準が記載されていませんので、・・・あらゆる種類の野菜において、本件発明の課題が解決できる加熱温度及び加熱時間を選択することは当業者といえども困難です。」、「本件発明1?6は、『野菜の種類及び乾熱処理の具体的な条件の違いに応じて、野菜の表面及び内部の細胞に対して生じた具体的な影響が異なる様々な野菜』を包含し、そのような野菜が、本件明細書の実施例に記載されるものと・・・必ず共通するとは決して理解できません。」と主張している。
しかし、上記4.(2)エ(ア)「乾熱処理及び野菜について」等に記載したとおり、当業者は、本件明細書の実施例、比較例及び一般記載を参酌することにより、上記8種類の野菜とコンベクションオーブン又はジェットオーブンとの組合せに限らず、任意の野菜と乾熱処理手段との組合せにおいて、加熱温度及び加熱時間を適切に選択することにより、上記本件発明1におけるドリップ率及び嵩密度の変動値の要件を満たす冷凍野菜を得ることができると理解することができる。
また、上記4.(1)ウ「乾熱処理について」に記載したとおり、本件発明1の「乾熱処理」は、周知の技術的事項を参酌することにより当業者がその範囲を明確に理解することができるものと認められるから、当該乾熱処理を施した結果として得られる物の範囲も明確であるということができ、野菜の表面及び内部の細胞に対してもたらされる具体的な変化が解明されることまでは、必ずしも求められないと解される。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(オ-2)官能評価について
申立人は、令和2年2月18日に提出した回答書(18頁)において、「実施例9(ズッキーニ)、実施例10(ゴーヤ)と、他の実施例・比較例・・・とは、用いた野菜の種類が異なり、また、そのような種類の異なる野菜について、本件発明の効果が同様の傾向を示すと理解できる技術常識も存在しません。さらに、官能評価の総合平均点・・・が2.5を上回っていても、その個別の評点は・・・必ずしも許容できるものとなるとは言えません。」と主張している。
しかし、上記4.(2)エ(ア)「乾熱処理及び野菜について」及び同(エ)「調理方法について」等に記載したとおり、本件発明1におけるドリップ率及び嵩密度の変動値は、解凍後の冷凍野菜の状態であるドリップの多少及びボリュームの維持を反映するものであって、調理後の品質の観点からも、野菜一般に共通する指標として理解することができるものといえる。また、同(イ)「官能評価について」に記載したとおり、官能評価の個別の評点が記載されていないとしても、平均点による総合評価が適切でないとまではいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(オ-3)ドリップ率及び嵩密度の変動値について
申立人は、令和2年2月18日に提出した回答書(19?21頁)において、「『ドリップ率』及び『嵩密度の変動値』は、上述の通り、いずれも定義が不明確です。」、「ドリップ率や嵩密度の変動値は、官能評価の平均点と比例関係等にあるものでありません。・・・当業者は、本件発明の課題を解決し得るドリップ率について、試験区10の比較例・・・に近い値・・・である等とは理解しませんし、・・嵩密度の変動値についても、試験区18の比較例・・・に近い値・・・である等と理解しません。」と主張している。
しかし、上記4.(2)エ(ア)「乾熱処理及び野菜について」等に記載したとおり、本件発明1におけるドリップ率及び嵩密度の変動値は、定義が不明確とまではいえず、解凍後の冷凍野菜の状態であるドリップの多少及びボリュームの維持を反映する指標として用いることができるものと理解することができる。また、官能評価の平均点との間に単純な比例関係がないといっても一定の傾向があることまで否定されるものではなく、これらの指標を系統的に増加ないし減少させた実施例及び比較例の官能評価結果を参酌して、指標の上限値を設定することができないとまではいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(オ-4)調理方法について
申立人は、令和2年2月18日に提出した回答書(21頁)において、「冷凍野菜には、炒め調理で調理したときの食感と、炒め調理以外の調理法・・・の食感とが、技術常識からみて、大きく変化するものが少なくないと考えられます」と主張している。
しかし、上記4.(2)エ(エ)「調理方法について」等に記載したとおり、本件発明1の冷凍野菜は、解凍後に「ボリューム感に優れ、ドリップが抑えられ、水っぽさがなく、ハリのある食感を有する」と評価されるものと理解できることから、加熱調理一般において好ましい仕上がりが得られると理解することができるものであり、また、解凍してそのまま喫食してもよいことも明らかである。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(カ)理由II(サポート要件)のまとめ
以上まとめると、本件発明1?6は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明において当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであり、これらの発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、取消理由通知に記載した理由II(サポート要件)の理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

(3)理由III(実施可能要件)について
ア 乾熱処理及び野菜について
上記4.(2)エ(ア)「乾熱処理及び野菜について」における検討を踏まえると、当業者は本件明細書の一般記載及び実施例の記載等を参酌することにより、本件発明1?6に含まれる任意の野菜と乾熱処理手段との組合せにおいて、加熱温度及び加熱時間を適切に選択することにより、上記ドリップ率及び嵩密度の変動値の要件を満たし、官能評価において良好と評価される冷凍野菜又は冷凍食品を過度の試行錯誤を要することなく製造することができ、かつ使用することができるといえる。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとすることができるから、乾熱処理の内容及び野菜の種類の点で発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

イ 官能評価について
上記4.(2)エ(イ)「官能評価について」における検討を踏まえると、本件明細書の[0079]?[0114]の実施例5?10に官能評価の個別の評点が記載されていないとしても、その平均点の高さ等から、当業者は実施例5?10も有用な実施例として理解することができ、それらを含めたる本件明細書の一般記載及び実施例の記載等を参酌することにより、本件発明1?6に相当する冷凍野菜又は冷凍食品を過度の試行錯誤を要する製造することができ、かつ使用することができるといえる。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとすることができるから、官能評価の点で発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

ウ ドリップ率及び嵩密度の変動値について
上記4.(2)エ(ウ)「ドリップ率及び嵩密度の変動値について」における検討を踏まえると、当業者は本件明細書の記載に基づいて本件発明1?6の発明特定事項であるドリップ率及び嵩密度の変動値の定義を明確に理解することができ、また、本件発明1におけるドリップ率(7.20%以下)及び嵩密度の変動値(1.90以下)を満たすように乾熱処理の温度及び時間等を調整することにより、官能評価(総合評価)が◎又は○となり、上記課題を解決し得る範囲ものと理解することができる。
そして、上記4.(2)エ(ア)「乾熱処理及び野菜について」における検討を踏まえると、当業者は本件明細書の一般記載及び実施例の記載等を参酌することにより、本件発明1?6に含まれる任意の野菜と乾熱処理手段との組合せにおいて、加熱温度及び加熱時間を適切に選択することにより、上記ドリップ率及び嵩密度の変動値の要件を満たし、官能評価において良好と評価される冷凍野菜又は冷凍食品を過度の試行錯誤を要することなく製造することができ、かつ使用することができるといえる。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとすることができるから、ドリップ率及び嵩密度の変動値の点で発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

エ 調理方法について
上記4.(2)エ(エ)「調理方法について」における検討を踏まえると、当業者は本件明細書の記載に基づいて、本件発明1?6のいずれについても加熱調理一般において好ましい仕上がりが得られ、解凍してそのまま喫食することもできることを理解することができるから、官能評価において良好と評価される冷凍野菜又は冷凍食品を過度の試行錯誤を要することなく製造することができ、かつ使用することができるといえる。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は当業者が本件発明1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとすることができるから、、調理方法の点で発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

オ 申立人の主張について
申立人は、令和2年2月18日に提出した回答書(22?25頁)において、理由II(サポート要件)と同様のことを主張しているが、上記4.(2)エ(オ)「申立人の主張について」における検討を踏まえると、いずれの主張も採用することはできない。

カ 理由III(実施可能要件)のまとめ
以上まとめると、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとすることができるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであり、これらの発明についての特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、取消理由通知に記載した理由III(実施可能要件)の理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

(4)理由IV(進歩性)について
ア 引用文献及びその記載事項
<引用文献等一覧>(再掲)
2.特開2006-271352号公報(甲第2号証)
3.特開2015-198587号公報(甲第3号証)
5.Charles H. Z. Kong, Nazimah Hamid, Tingting Liu, and Vijayalekshimi Sarojini, "Effect of Antifreeze Peptide Pretreatment on Ice Crystal Size, Drip Loss, Texture, and Volatile Compounds of Frozen Carrots", Journal of Agricultural and Food Chemistry, ACS Publications, 2016年, vol.64, No.21, p.4327-4335(甲第5号証)
6.国際公開第02/080690号(甲第6号証)
7.国際公開第2015/152320号(甲第7号証)
8.特開平5-68505号公報(甲第8号証)
9.特開2005-151939号公報(甲第9号証)
10.特開2008-271934号公報(甲第10号証)

(i)引用文献2には以下の事項が記載されている。
(2-1)「[0003]
野菜を生の状態で冷凍処理を行った場合・・・解凍時には組織がスポンジ化し、・・・水分が遊離し・・・解凍した野菜よりしみ出る現象がおこる。これを一般的にドリップという。また、解凍時のドリップは・・・酸化反応や加水分解等が促進され、食品の変色や風味の劣化を引き起こす原因となる。
・・・
[発明が解決しようとする課題]
[0006]
迅速な加熱処理や冷凍処理によって製造された冷凍食品の解凍時のドリップについては、従来のブランチング処理と比較して一定の効果は期待できるが、氷晶の粗大化による組織の損傷は完全に防止できないため、解凍時のドリップは抑えることはできない。また、添加物によるドリップの抑制については風味の劣化や変化、製品のべたつき、製品どうしの固着といった問題点が起きる。さらに添加物表示が必須となるため、最近の消費者からは敬遠される傾向がある。」

(2-2)「[0008]
本発明は野菜を過熱水蒸気で加熱処理を行うとともに、水分含量を特定の範囲内に低下させた後に凍結処理を行うことで解凍時のドリップを抑制する発見に基づくものである。・・・なお、最適な物性を得るための過熱水蒸気処理の条件は野菜の種類によって異なる。
・・・
[0013]
本発明では上記のカットした野菜を過熱水蒸気を用いて加熱処理を行うと同時に水分含量を60?90重量%(以下%と略する)、より好ましくは65?85%に低下させた後に凍結処理を施す。加熱処理後の水分含量が60%以下だと解凍時のドリップは発生しないが、組織の収縮が顕著になるため物性が硬くなる問題点や食感がゴムのようになる問題点が生ずる。さらに、製品ベースでの歩留まりの低下が問題となり実用的ではない。一方、加熱処理後の水分含量が90%以上では、水分の減少が十分でないため解凍時にドリップが発生するため本発明の効果が少ない。ただし、最適な物性を得るための過熱水蒸気処理の条件は野菜の種類によって異なる。」

(2-3)「[0020]
・・・
[実施例1]
[0021]
熱水ブランチングおよび過熱水蒸気による加熱処理により、それぞれ製造されたカットした野菜の解凍後のドリップおよび物性についてニンジンを用いて比較した。
・・・
[0023]
まず、過熱水蒸気処理を行った場合の重量変化についてカットしたニンジンを用いて検討した。試験ではニンジンの外皮を剥皮し、一辺を15?18mmにカット処理したニンジンを用いた。カット処理したニンジン300gをベルトコンベア式の連続式過熱水蒸気処理装置に通して加熱処理を行ない、時間経過における重量変化を求めた。過熱水蒸気の温度は140、160、200℃を用い、対照として90℃の熱水ブランチングを行った。
[0024]
・・・過熱水蒸気処理では時間の経過とともに重量が減少し、また、高温であるほど重量の減少は大きい結果となった。どの加熱温度帯においても加熱処理は4分程度が物性的に望ましいが、一方で220℃を超える高温の過熱水蒸気では加熱処理時にニンジンの先端が炭化する問題が起きたことから、製品品質を考慮するとあまり高温の過熱水蒸気は好ましくないことがわかった。
[0025]
次いで、解凍時のドリップの試験をカットしたニンジンを用いて行った。試験ではニンジンの外皮を剥皮し、一辺を15?18mmにカット処理したニンジンを用いた。カット処理したニンジン300gをベルトコンベア式の連続式過熱水蒸気処理装置に通して加熱処理を行ない重量を測定した。加熱処理後は速やかに冷却し、ポリプロピレン製の袋に全量を密封し、次いで空冷方式にて-20℃で凍結した。数日間の冷凍保存後、15℃の恒温室にて自然解凍を行ない、ドリップを排出した後の重量を測定した。対照として90℃の熱水ブランチングと90℃の蒸気ブランチングも行った。
・・・
[0028]
・・・170℃の過熱水蒸気処理を行ったサンブルでは、処理時間が長いほど、加熱処理後の重量減少が大きく、2分処理で12%、4分処理で17%、6分処理で27%の重量減少となった。また、解凍時のドリップは2分処理では加熱処理が十分に行われていなく、水分含量の減少も少ないことから5%程度のドリップが発生した。しかし、4分処理以上の条件では解凍時のドリップは1%以下とほとんど発生していない。これらの結果から、加熱処理時に水分を減少させることで解凍時のドリップを抑制できることが明らかとなった。また、8分以上の処理では解凍時のドリップはほとんど発生しなかったが、製品重量の減少が著しく、また乾燥によって食感がゴム化したことから、8分以上の加熱処理は好ましくないことがわかった。」

(2-4)「[請求項1]
カットした野菜に過熱水蒸気処理を行い、加熱処理と同時に水分を減少させた後に冷凍処理を行うことで、解凍時に発生するドリップを抑制することを特徴とする冷凍食品の製造方法
・・・
[請求項3]
過熱水蒸気処理によりカットした野菜の水分含量が60?90重量%に調整された請求項1記載の冷凍食品」

(ii)引用文献3には以下の事項が記載されている。
(3-1)「[請求項1]
野菜を、最も高温である部分が95℃以上になるまで昇温する第1の工程、及び第1の工程により得られた野菜を歩留りが70?90%の範囲内になるまで5分以内に脱水する第2の工程、及び第2の工程により得られた野菜を凍結する工程を含む、冷凍野菜の製造方法。
・・・
[請求項13]
請求項1?12のいずれか1項に記載の製造方法で製造された冷凍野菜を含む食品。」

(3-2)「[0002]
冷凍野菜の製造方法としては、一般的に野菜をボイル加熱してから凍結する方法が用いられている。しかしながら、ボイル加熱により野菜のペクチンが溶解し、次いで冷凍により野菜の組織が損傷し軟化することで、解凍後の食感が低下するという問題点がある。また、ボイルにより栄養成分が喪失するという問題点もある。」

(3-3)「[0006]
また、冷凍野菜の食感改善方法として、野菜を冷凍する前に半乾燥し、組織中の自由水を少なくして氷結晶を減少させる以下の技術が知られている。
・・・
[0008]
特許文献6には、温風により野菜を乾燥する方法が開示されている。しかしながら、野菜が室温以上の環境で長時間脱水されるため、酵素反応や熟成が進行し、品質や鮮度が低下する。
[0009]
特許文献7及び8には、過熱水蒸気により酵素活性を低減し、かつ水分を減少させる方法が開示されている。しかしながら、・・・品質が安定しない。また、・・・低温で長時間加熱され、脱水時間が長くなることにより組織への負荷が大きく・・・野菜の硬さを向上させる効果が低下するという問題点がある。」

(3-4)「[0013]
本発明は、喫食時の食感及び外観に優れ、栄養残存率が高く、かつ長期保存性を有する冷凍野菜及びそれらを含む食品の製造方法を提供することを目的とする。」

(3-5)「[0019]
本発明の冷凍野菜の原料として用いられる野菜としては、特に限定されるものではないが、例えば、キャベツ、ハクサイ、チンゲンサイ、ホウレンソウ、コマツナ等の葉菜類;タマネギ、ネギ、アスパラガス等の茎菜類;ピーマン、キュウリ、ナス、カボチャ等の果菜類;ニンジン、ダイコン、カブ、レンコン等の根菜類;ブロッコリー、カリフラワー等の花菜類;シイタケ、エノキダケ、シメジ、マッシュルーム等のキノコ類等が挙げられる。」

(3-6)「[0021]
第1の工程は、野菜を加熱むらが少ない状態、すなわち、野菜の品温差が30℃以内となるように、脱水が開始する直前の95℃以上になるまで昇温させる工程である。
本明細書において「野菜の品温差」とは、昇温させた野菜間での最も高温である部分と最も低温である部分の温度差を意味する(以下、本明細書において「野菜の品温差」を「加熱むら」と称することもある。)。本発明では、第1の工程終了時の野菜の品温差は30℃以内であり、好ましくは25℃以内である。
第1の工程における昇温速度は、平均6.0℃/s以下、好ましくは平均3.0℃/s以下、より好ましくは平均2.0℃/s以下、さらに好ましくは平均1.0℃/s以下である。一般的には昇温速度が遅い方が加熱むらは少ない。ただし、急速に昇温させる場合であっても、昇温後に恒温で調温したり、食品をむらなく昇温させる連続マイクロ波加熱機の様な加熱機器を用いることで、加熱むらを少なくすることができる。また、第1の工程における加熱手段は、特に限定されるものではないが、次の第2の工程で脱水する時間を短くするために、歩留りの変化率が小さい手段が好ましい。第1の工程における加熱手段としては、例えば、マイクロ波加熱又は蒸し加熱等が挙げられる。なお、マイクロ波加熱を行う場合は低出力(例えば、100?200W)で行うのが好ましい。
第1の工程における加熱時間は、酵素反応が進行する温度帯及び時間帯をできる限り短くして異味異臭を抑え、加熱により組織が損傷して軟化するのを抑える等の品質を向上させる観点から、好ましくは野菜の最も高温である部分が70℃を超えてから5分以内である。
[0022]
第2の工程は、第1の工程により得られた野菜を歩留りが70?90%の範囲内になるまで短時間(好ましくは、5分以内)で脱水する工程である。
本明細書において「歩留り」とは、脱水前の野菜の重量を100%とした場合における脱水後の重量の百分率を意味する。本発明では、第2の工程において歩留りが70?90%の範囲内になるまで脱水させる。
第2の工程における脱水手段としては、例えば、加熱による脱水が挙げられる。
第2の工程において加熱により脱水する場合の脱水速度は、0.05%/s以上、好ましくは0.1%/s以上、より好ましくは0.3%/s以上である。また、第2の工程における脱水させるための加熱手段は、特に限定されるものではないが、例えば、マイクロ波加熱又は過熱水蒸気による加熱等が挙げられる。なお、マイクロ波加熱を行う場合は高出力(例えば、700W以上)で行うのが好ましく、過熱水蒸気加熱を行う場合は高温(例えば200?250℃)で行うのが好ましい。
第2の工程において加熱して脱水する場合の加熱時間は、加熱により組織が損傷して軟化するのを抑える等の品質を向上させる観点から、好ましくは5分以内である。
[0023]
野菜の凍結工程は、例えば、IQF(Individual Quick Frozen、個別急速凍結)装置、エアーブラスト、及びブロック凍結装置等、当業者に周知の装置を用いることができる。野菜を凍結するときに設定される温度は、野菜の種類や品質等によっても異なるが、通常-18℃以下である。凍結速度の観点から、クラックが生じない程度に、より低温で行う方が好ましい。野菜の凍結は、使用する野菜の種類や量によっても異なるが、通常30分以内に中心温度が-5℃以下であればよい。」

(3-7)「[0031]
実施例1 昇温時の加熱むら及び脱水速度の検討
家庭用電子レンジを用いて40×30mmの大きさにカットしたキャベツを昇温した後、歩留り85%まで脱水した。この時、昇温及び脱水時のW数を200、500及び1000Wと変化させて、昇温速度及び脱水速度の異なる9種類の検体を作成した。コントロールとして、一般的な冷凍野菜の製法をモデルとした、98℃で2分間ボイル加熱した検体も作成した。これらの検体を凍結した後に自然解凍し、物性(応力)測定と官能評価を行った。
昇温時の加熱むらは、サーモグラフィー(チノー社製、CPA-E)を用いて測定した。各条件で加熱した後、サーモグラフィーで温度の分布を可視化し、最高温度と最低温度の差を加熱むらとした。
応力測定には、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製、TA-XT plus)を用いた。キャベツを繊維と垂直方向で幅20mmに切断し、5枚重ねてクリップで固定した。この時、極端に太い葉脈は入らないようにした。これを幅70mm、厚さ3mmくさび型プランジャーで0.3mm/s、strain 100%で繊維を断ち切る方向に破断し、得られた最大応力を測定値とした。
官能評価の方法としては、一般的な冷凍野菜の製法をモデルとした、98℃で2分間ボイル加熱した検体を基準(1点)とし、各テストで得られたキャベツを0.5刻みで1点(基準と同様)、2点(やや良好)、3点(良好)、4点(さらに良好)、5点(非常に良好)の尺度で評価した。なお、ここでは、キャベツの硬さや張りなど他の要素も加えた総合的な感覚で食感の良否を評価した。結果を表1に示す。また、昇温速度と応力との関係、及び脱水速度と応力との関係を図1に示す。
なお、以下の表中の官能評価(食感)において用いられる「シャキ感」又は「シャキシャキ」とは、野菜を口に入れて咀嚼した際に硬さや張りを感じ、歯切れよく噛み切れる感覚を意味する。」

(3-8)「[0063]
実施例9 種々の野菜を用いた、ボイル加熱又は急速加熱脱水処理の比較検討
タマネギ・・・ニンジン・・・ピーマン・・・ハクサイ・・・及びチンゲンサイ・・・を、1)98℃で2分間ボイル加熱、又は2)家庭用電子レンジを用いて500Wで昇温し、500Wで歩留り85%まで脱水した後凍結した。これを自然解凍し応力を測定した。・・・いずれの野菜でも、ボイル加熱を行った検体と比較して急速加熱脱水を行った検体の応力が向上した。」

(3-9)「[0074]
実施例13 中華丼の作成
急速加熱脱水及びエタノール処理を組み合わせて加工した野菜又はボイル加熱した野菜を用いて中華丼を作成した。具体的には、キャベツ及びハクサイを30×40mmにカットしたもの、モヤシはそのままの状態のものを用い、計300gの野菜をそれぞれ、1)連続式のマイクロ波加熱機を用い1.5kWで80秒間加熱し、歩留り85%まで脱水し、蒸し器で90秒間加熱したもの、又は2)98℃で2分間ボイル加熱したものを、30℃以下になるまで放冷し、これをエビ等の具材及びソースと混合した後、冷凍した。解凍後、加熱調理した中華丼の外観写真を図10に示す。
ボイル加熱した野菜を用いた中華丼は、野菜が軟化しているため、つぶれたような外観となった。一方、急速加熱脱水を行った野菜を用いた中華丼は、野菜の張りが維持されているため、立体感があり、外観品質の向上が見られた。」

(3-10)「[図4]



(3-11)「[0066]
実施例12 各種軟化防止技術による食感の比較検討
各技術を用いて製造した冷凍野菜の食感を比較した。キャベツ(40×30mm)100gを下記表11に示す工程でそれぞれ加工し、自然解凍後に応力測定を行った。応力測定は、実施例1と同様の方法で行った。結果を図7に示す。
[0067]
[表11]

・・・
[0070]
さらに、各技術で得られた検体の官能評価を行った。官能評価は、実施例1と同様の方法で行った。ただし、目標品質である未凍結品を基準(5点)とし、基準を上回る品質の場合は6点とし、各技術における食感(硬さ及び張り)、食味及び外観を評価項目として設定した。結果を表12に示す。
[0071]
[表12]



(iii)引用文献5には以下の事項が記載されている。なお、記載事項の認定は、申立人が提出した甲第5号証の抄訳に基づいて行った。
(5-1)「アブストラクト:氷晶形成は、冷凍食品業界にとって、一番の懸案事項である。本研究では、氷晶形成に対する不凍ペプチド(AFP)の効果を、凍結及び解凍中のニンジンで評価した。」(第4327頁)

(5-2)「構造解析. 食感は、食品の品質において重要な役割を果たす。・・・例えば凍結によって細胞膜が損傷を受けると、水及び可溶性物質が細胞から漏出し、組織の剛性が失われる。この膨圧の不可逆的な低下は、食品の食感特性に、劇的な影響を及ぼす。」(第4330頁左欄)

(5-3)「テクスチャ評価. ・・・氷結晶によって引き起こされる細胞壁の損傷による、不可逆的な膨圧の低下は、著しい組織の軟化を引き起こすことが知られており、解凍時に高いドリップロスを有する軟質の製品となる。」(第4331頁右欄)

(iv)引用文献6には以下の事項が記載されている。
(6-1)「冷凍野菜を製造する上で、凍結時に組織内の水分が凍結して氷晶が粗大し、組織破壊を引き起こすことにより・・・冷凍保管中に異臭の発生や退色が促進されるため、冷凍前に組織中の各種酸化酵素を失活させるための加熱、すなわちブランチングがほとんどの野菜に対し必須と言われている・・・。
しかしながら、ブランチングまたはブランチング後の凍結により組織が破壊されるため、冷凍解凍後に起る食感低下及びドリップ生成が高品質の冷凍野菜を生産する上で問題となっている。
・・・これを防ぐため、・・・ブランチング後の余熱等により組織中の水分を蒸発させて脱水させることにより組織中の自由水の含有量を低下させ、凍結に伴う氷結晶の成長による組織破壊を抑制し、解凍後の食感を保持させる低水分化の処方も用いられる・・・。しかし、特に葉柄組織が比較的硬く水分含量の高いチンゲン菜などの葉菜類、あるいは根菜類に比べ果肉部の水分含量が多い果菜類および茎菜類では十分に低水分化できず、ある程度食感保持に有効であるものの、より十分な食感保持を求めるのであれば強制乾燥させるための設備が必要となりコストがかさむ問題がある。」(第2?3頁)

(6-2)「本発明は、冷凍した後、解凍しても食感が保持される冷凍野菜の提供を課題とする。
本発明は、食感劣化が抑制された加熱調理済み野菜食品の提供を目的とする。
本発明は、主に解凍後、加熱調理して食されるか、サラダのように生のまま食される食感が保持された冷凍野菜類の提供を課題とする。
また、本発明は解凍後のチルド流通において食感劣化が抑えられる野菜の提供を目的とする。
上記目的を達成するために、・・・凍結に伴う氷結晶の成長による組織破壊を抑制する手段として、・・・発明者らは・・・過熱水蒸気で野菜をブランチングすることにより、組織破壊を抑制しつつ酵素を失活させ、その目的を達成できることを見いだした。
すなわち、発明者らは過熱水蒸気で野菜をブランチングすることにより、組織破壊を抑制しつつ酵素を失活させ、冷凍解凍後の食感劣化が抑制されることを見いだした。ここで述べる食感劣化とは組織の軟化、咀嚼時に水が分離して流れ出す離水感(水っぽさ)の上昇すなわちドリップ現象(保水性の低下)および多孔質状になりスポンジ現象を示す。また、本発明において、加熱調理済み野菜食品とは、凍結前に必須となるようなブランチングを含む加熱調理がなされたものである。」(第3?4頁)

(v)引用文献7には以下の事項が記載されている。
(7-1)「[0002]
野菜を加熱調理した場合、・・・加熱調理による野菜組織の損傷に起因して、離水(syneresis)と呼ばれる水分の流出が生じ、離水は野菜味成分の漏出を伴うばかりか不快な食感をもたらすことが多い。このように、加熱した野菜の食感を決定する要因には、細胞壁構造や細胞内構造がどの程度維持されているか、細胞からどの程度離水しているかの2点が挙げられる。シャキシャキとした良い食感はおいしい野菜炒めの特徴であり、食品産業上重要なファクターと言える。
[0003]
・・・また、例えば野菜をボイルした場合、熱水による細胞破壊により野菜の形状が崩壊しやすくなるため、食感及び外観の悪いものとなる場合が多い。このように、野菜炒めや茹で野菜の食感低下および離水を解決することは食品産業上きわめて重要な課題となっている。」

(7-2)「発明が解決しようとする課題
[0008]
本発明は、簡便に、青果(野菜又は果物)の加工、例えば加熱調理や冷凍・解凍処理の後の食感の向上、及び/又は、離水の防止が可能な青果の加工前処理剤を提供することを課題とする。」

(vi)引用文献8には以下の事項が記載されている。
(8-1)「[0002]
・・・野菜を加工する際に歯ごたえは重要な因子とされ、特に漬物の場合には、色、味、香り以上に重要視されてきた。・・・野菜類を生又は80℃以上のいわゆるブランチング熱処理を受けた後に調味液に漬けて出荷する場合には、輸送中に脱水収縮し、且つ歯ごたえの低下や製品歩留りの減少、調味液の希釈など好ましくない変化が進行し、製品寿命を短くする。・・・一方、野菜類の保存手段として冷凍が行われているが、歯ごたえを劣化させ、解凍時のドリップの増加と製品の収縮といった問題がある。又、従来、各種の野菜を加熱調理により各種の惣菜を製造する場合、煮たり、炒めたり、殺菌処理したりなどで80℃以上の長時間の高温加熱処理を受けるが、これにより、惣菜の歯ごたえが低下する。」

(8-2)「[0006]
従来、野菜類は、高温で水や調味液で煮ることが常識であり、低温で中途半端に煮ることは好ましくないとされていた。・・・本発明者は、従来、忌避されていたかゝる中途半端な加熱条件・・・むしろ野菜類を40?70℃の範囲で5分以上保持する中温加熱処理するときは、有利な加工食品をもたらすことを見出した。・・・即ち、野菜類を40?70℃の温度範囲に5分以上保持する中温加熱処理を惣菜及び漬物の製造法に組み込むことにより、歯ざわりの向上、製品歩留りの向上、ドリップの減少などの効果をもたらすことを知見した。尚、この中温加熱処理は、野菜類をかゝる中温の湯、調味料、蒸気、空気流のいずれで行っても良い。」

(8-3)「[0011]
上記表1及び表2から明らかなように、野菜類を塩漬け、高温加熱処理、漬物製造処理を夫々行うに当たり、中温加熱処理を施すときは、その硬度が著しく増大し、歯ざわりの良い惣菜、漬物が得られることが認められた。尚、表には示さなかったが、上記の冷凍処理したものを解凍したとき、該中温加熱処理したものは、処理しないものに比し、そのドリップ量、しおれが著しく少なかった上、歯ざわりが極めて良く、而も保水性に優れていた。これは、該中温加熱処理により、かなりの水切りができること、塩分添加後の組織の収縮が少ないことなどが原因するものと考えられる。」

(vii)引用文献9には以下の事項が記載されている。
(9-1)「[発明が解決しようとする課題]
[0010]
本発明は、上記問題点を改善し、硬度と機能性並びにうまみ成分を増加させると共に、大腸菌群陰性で保存性に優れた生食用野菜、および生食用半乾燥野菜を提供すると共に、これを原料とした調味野菜と冷凍傷害の起こらない調味冷凍野菜を提供する方法を開発し、特に発酵しやすく品質が変化しやすい浅漬やキムチの長期保存性の向上に最適な処理方法を提供するものである。
[課題を解決するための手段]
[0011]
本発明の請求項1記載の生食用野菜の製造方法は、成型して塩素剤などの除菌剤で洗浄・除菌した野菜類を30?50℃で、5?10分加熱して、硬度と機能性並びにうまみ成分を付与する第1の蒸気加熱工程を行なった後、55?80℃で、3?30分加熱して除菌する第2の蒸気加熱工程を行ない、次いで0?30℃に冷却した後、20?100℃の温風を通風して野菜類の水分を2?10%除去する乾燥工程を行ない、この後、直ちに0?15℃に冷却して保存することを特徴とするものである。」

(9-2)「[0012]
・・・野菜類を先ず適当な大きさにカットして成型した後、塩素剤などの除菌剤で洗浄・除菌する。次にこの野菜類を30?50℃で、5?10分加熱して、硬度と機能性並びにうまみ成分を付与する第1の蒸気加熱工程を行なう。
・・・
[0014]
このように、低温度で蒸気加熱することにより細胞の網状構造が緻密になり、組織構造が強固になり、後工程で行なう乾燥時の軟化や、冷凍時の冷凍傷害を低減させることができる。
・・・
[0017]
次に・・・第2の蒸気加熱は55?80℃で、3?30分加熱して野菜に付着している菌を除菌する。・・・
[0020]
このように第2の蒸気加熱工程で除菌を行なった野菜は、直ちに0?30℃に冷却する。この冷却により、菌の増殖を抑えることができると共に、硬度を保持することができる。
[0021]
この後、冷却した野菜に、温風を通風して野菜を乾燥させる。この乾燥工程では20?100℃の温風を通風して野菜類の水分を2?10%除去する。・・・
[0022]
この温風による乾燥工程を行なった後、直ちに0?15℃以下に冷却して、同様な温度帯で保存することが望ましい。・・・0℃未満の冷却保存では冷凍障害を起こし易く、また15℃を超える温度で冷却保存すると、細菌が増殖する恐れがある。」

(viii)引用文献10には以下の事項が記載されている。
(10-1)「[発明が解決しようとする課題]
[0005]
そこで、本発明者らは、解凍後にドリップの発生がなく、調理に使用しても歯応えがあり、食感が低下しない冷凍野菜を、比較的簡単に製造する方法を開発することを目的として鋭意検討した。
[課題を解決するための手段]
[0006]
その結果、本発明者らは、野菜類、きのこ類をそのままあるいは成型後、洗浄、殺菌し、加熱しないで30℃以下の風を当て、水分を10?40重量%除去した後に冷凍することにより、解凍後もドリップが発生せず、調理に使用しても歯ごたえがあり、食感を低下させることが少ないことを見いだし、本発明を完成するに至った。」

イ 引用文献3に記載された発明
引用文献3の請求項1(摘記3-1)には、「野菜を、最も高温である部分が95℃以上になるまで昇温する第1の工程、及び第1の工程により得られた野菜を歩留りが70?90%の範囲内になるまで5分以内に脱水する第2の工程、及び第2の工程により得られた野菜を凍結する工程を含む、冷凍野菜の製造方法。」が記載されており、実施例9(摘記3-8)には、「種々の野菜を用いた、ボイル加熱又は急速加熱脱水処理の比較検討」と題して、タマネギ、ニンジン、ピーマン、ハクサイ及びチンゲンサイを、「1)98℃で2分間ボイル加熱、又は2)家庭用電子レンジを用いて500Wで昇温し、500Wで歩留り85%まで脱水した後凍結した」こと、及びそれぞれの場合について、「自然解凍し応力を測定した」ことが記載されている。そうすると、引用文献3には、上記2)家庭用電子レンジを用いて昇温し、さらに脱水した場合に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。
「タマネギ、ニンジン、ピーマン、ハクサイ又はチンゲンサイを、家庭用電子レンジを用いて500Wで昇温し、最も高温である部分が95℃以上になるまで昇温する第1の工程、及び第1の工程により得られた野菜を歩留り85%になるまで5分以内に脱水する第2の工程、及び第2の工程により得られた野菜を凍結する工程を含む製造方法で製造された、冷凍タマネギ、冷凍ニンジン、冷凍ピーマン、冷凍ハクサイ又は冷凍チンゲンサイ。」(以下、「引用発明3」という。)

また、引用文献3の請求項13(摘記3-1)には、「請求項1?12のいずれか記載の製造方法で製造された冷凍野菜を含む食品」が記載され、また、実施例13(摘記3-9)には、急速加熱脱水を含む処理を施した野菜をエビ等の具材及びソースと混合した後、冷凍することにより、冷凍された中華丼を作製したことが記載されている。そうすると、引用文献3には以下の発明が記載されているものと認められる。
「引用発明3の冷凍タマネギ、冷凍ニンジン、冷凍ピーマン、冷凍ハクサイ又は冷凍チンゲンサイと、具材及びソースを含む、冷凍食品。」(以下、「引用発明3b」という。)

ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明3との対比
本件発明1と引用発明3とを対比すると、引用発明3における「タマネギ、ニンジン、ピーマン、ハクサイ又はチンゲンサイ」及び「野菜」、「凍結する工程を含む製造方法で製造された」、「冷凍タマネギ、冷凍ニンジン、冷凍ピーマン、冷凍ハクサイ又は冷凍チンゲンサイ」は、それぞれ本件発明1における「野菜」、「凍結」、「冷凍野菜」に相当し、引用発明3において「家庭用電子レンジを用いて500Wで昇温し、最も高温である部分が95℃以上になるまで昇温する第1の工程、及び第1の工程により得られた野菜を歩留り85%になるまで5分以内に脱水する第2の工程」を含む製造方法で製造された点は、本件発明1における「乾熱処理を施した」ことと、熱処理を施した点で共通する。また、引用発明3において「第2の工程により得られた野菜を凍結」した点は、本件発明1における凍結「前」に熱処理を施したことに相当する。
そうすると、両者は、
「凍結前に熱処理を施した冷凍野菜。」
の点で一致し、
相違点1:以下の[数1]で定義される冷凍野菜の「自然解凍時のドリップ率」が、本件発明1においては「7.20%以下」であることが特定されているのに対し、引用発明3においてはそのようなことが特定されていない点
[数1]
自然解凍時のドリップ率(%)=自然解凍時のドリップ重量(g)/凍結製品の重量(g)×100

相違点2:以下の[数2]で定義される冷凍野菜の「生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値」が、本件発明1においては「1.90以下」であることが特定されているのに対し、引用発明3においてはそのようなことが特定されていない点
[数2]
生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値=自然解凍後のドリップを除いた嵩密度(g/ml)/原料処理済生鮮野菜の嵩密度(g/ml)

相違点3:熱処理が、本件発明1においては「乾熱処理」であるのに対し、引用発明3においては「家庭用電子レンジを用いて500Wで昇温し、最も高温である部分が95℃以上になるまで昇温する第1の工程、及び第1の工程により得られた野菜を歩留り85%になるまで5分以内に脱水する第2の工程」からなる処理である点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点3について
事案に鑑みて、まず、相違点3について検討する。
本件発明1における「乾熱処理」は、上記4.(1)ウ「乾熱処理について」に記載したとおり、「加熱空気あるいは過熱蒸気のように乾燥状態にある熱による加熱処理」を意味するものと理解することができる。
これに対し、引用文献3の[0021](摘記3-6)には、相違点3に係る「第1の工程」について、「野菜を加熱むらが少ない状態、すなわち、野菜の品温差が30℃以内となるように、脱水が開始する直前の95℃以上になるまで昇温させる工程である」こと、及び「第1の工程における加熱手段としては、例えば、マイクロ波加熱又は蒸し加熱等が挙げられる」ことが記載されているが、「マイクロ波加熱」及び「蒸し加熱」は、いずれも「加熱空気あるいは過熱蒸気のように乾燥状態にある熱による加熱処理」ではないから、引用発明3における「家庭用電子レンジ」による昇温工程を「乾熱処理」に置き換えることは、引用文献3において記載も示唆もされていないといえる。
また、実際、引用文献3の[0066]?「0071](摘記3-11)には、キャベツについて、引用発明3に相当する「急速加熱脱水」処理を採用した場合と、他の処理を採用した場合との比較実験が記載されており、表11には比較対象の一つとして「加熱脱水」(150℃過熱水蒸気3分。-30℃急速凍結)が記載されているが、表12に記載された官能評価結果は、「加熱脱水」では「硬さや張り向上しているが目標との差は大きい」というものであり、引用発明3(急速加熱脱水)の場合の「硬さ、張りが向上し、立体感のある外観。異味もない。」という評価より劣っていることが明らかであるから、引用発明3における「家庭用電子レンジ」による昇温を、過熱水蒸気等による乾熱処理に置き換えることには阻害要因があるといえる。
そうすると、食品の加熱調理の手段として過熱水蒸気等による「乾熱処理」が周知の技術的事項(例えば、引用文献2(摘記2-2)、引用文献6(摘記6-2)、特開平1-281041号公報(乙第3号証)、特開2001-95511号公報(乙第4号証)、国際公開第2017/170995号(乙第6号証のパテントファミリー)等を参照。)であるとしても、引用発明3の第1の工程において、「家庭用電子レンジ」に代えて「乾熱処理」を採用することは当業者が容易に想到し得ることとは認められない。
また、取消理由通知で引用した他の引用文献(引用文献5、7?10)を精査しても、引用発明3の第1の工程において、「家庭用電子レンジ」に代えて「乾熱処理」を採用することを動機付ける記載は見出せない。
よって、上記相違点3については、引用文献3、引用文献2、5?10及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることとは認められない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(30頁)において、「甲3発明(1)?(3)における『加熱脱水処理(マイクロ波加熱処理)』は、水を熱媒体としない加熱処理であるから、本件特許発明1における『乾熱処理』に相当する。・・・また、仮にマイクロ波加熱処理が、本件特許発明1における『乾熱処理』に該当しないと仮定した場合であっても、・・・本件特許の請求項1は、いわゆる不真正プロダクト・バイ・プロセスクレームのため、新規性/進歩性の判断において・・・実質的な相違点ではない。」と主張している。
しかし、上記4.(1)ウ「乾熱処理について」に記載したとおり、本件発明1における「乾熱処理」は、「加熱空気あるいは過熱蒸気のように乾燥状態にある熱による加熱処理」を意味するものと理解することができるのに対し、引用発明3の第1工程における「家庭用電子レンジ」による加熱は、「マイクロ波加熱処理」と理解されるもので、例えば乙第7号証(社団法人日本食品工業学会編,「新版・食品工業総合事典」,株式会社光琳,平成5年4月30日,p.1211)の「まいくろはかねつ」の項に記載されているように、「マイクロ波による誘電加熱現象を利用した加熱処理法で,・・・内部発熱を起こすため,一般の外部加熱法と比較すると,内部まで比較的に,かつ迅速に加熱でき,加熱効率が高い」というものであるから、「乾燥状態にある熱による加熱処理」には当たらないことが明らかである。
また、過熱蒸気等を用いる野菜外部からの加熱と、マイクロ波による野菜内部からの加熱とでは、熱の伝わり方や加熱効率等が異なるから、熱処理後の状態も異なるといえ、そうすると、上記相違点3に係る「家庭用電子レンジ」の点は、本件発明1との間の実質的な相違点の一つと認められる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(エ)本件発明1の効果について
念のため、本件発明1の効果について、上記4.(2)エ「サポート要件の判断」を踏まえて検討すると、本件発明1は上記相違点1?3に係る発明特定事項を備えることにより、解凍後の冷凍野菜が「ボリューム感に優れ、ドリップが抑えられ、水っぽさがなく、ハリのある食感を有する」と評価されるものになるという好ましい効果を奏するものといえる。

(オ)本件発明1のまとめ
以上まとめると、上記相違点3については、引用文献3、引用文献2、5?10及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることとは認められないから、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明3及び引用文献2、3、5?10及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むとともに、さらなる発明特定事項により限定された発明であるところ、引用発明3との対比においては、少なくとも上記4.(4)ウ(ア)「本件発明1と引用発明3との対比」に記載した相違点3の点で相違するものと認められる。
そして、相違点3については、本件発明1と同じ理由により、引用文献3、引用文献2、5?10及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることとは認められないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2?6は、いずれも引用発明3及び引用文献2、3、5?10及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 理由IV(進歩性)のまとめ
以上まとめると、本件発明1?6は、いずれも引用文献3、引用文献2、5?10及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由通知に記載した理由IV(進歩性)の理由によっては、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立理由の概要
申立人が申し立てた特許異議申立理由は、以下のように整理することができる。
ア 理由1(新規性)
理由1-1(新規性):甲第1号証を主引例とする場合
本件発明1、2、4、5は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由1-2(新規性):甲第2号証を主引例とする場合
本件発明1?3、5は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由1-3(新規性):甲第3号証を主引例とする場合
本件発明1?3、5は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第3号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

イ 理由2(進歩性)
理由2-1(進歩性):甲第1号証を主引例とする場合
本件発明1?6は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証及び甲第2、3、5?10号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由2-2(進歩性):甲第2号証を主引例とする場合
本件発明1?6は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証及び甲第3、5?10号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明並びに周知の技術的事項(甲第1号証等)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由2-3(進歩性):甲第3号証を主引例とする場合
本件発明1?6は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第3号証及び甲第2、5?10号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明並びに周知の技術的事項(甲第1号証等)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

ウ 理由3(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1?6についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(i)乾熱処理及び野菜について
(ii)官能評価について
(iii)ドリップ率及び嵩密度の変動値について
(iv)調理方法について

エ 理由4(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1?6についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(i)乾熱処理及び野菜について
(ii)官能評価について
(iii)ドリップ率及び嵩密度の変動値について
(iv)調理方法について

オ 理由5(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件発明1?6についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(i)嵩密度の変動値について(甲第11号証参照)
(ii)自然解凍時のドリップ率について(甲第12、13号証参照)
(iii)乾熱処理について(プロダクト・バイ・プロセスクレームについて)

<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開平7-147892号公報
甲第2号証:特開2006-271352号公報(引用文献2)
甲第3号証:特開2015-198587号公報(引用文献3)
甲第4号証:杉本里佳が作成した2019年7月19日付け「実験成績報告書1」
甲第5号証:Charles H. Z. Kong, Nazimah Hamid, Tingting Liu, and Vijayalekshimi Sarojini, "Effect of Antifreeze Peptide Pretreatment on Ice Crystal Size, Drip Loss, Texture, and Volatile Compounds of Frozen Carrots", Journal of Agricultural and Food Chemistry, ACS Publications, 2016年, vol.64, No.21, p.4327-4335(引用文献5)
甲第6号証:国際公開第02/080690号(引用文献6)
甲第7号証:国際公開第2015/152320号(引用文献7)
甲第8号証:特開平5-68505号公報(引用文献8)
甲第9号証:特開2005-151939号公報(引用文献9)
甲第10号証:特開2008-271934号公報(引用文献10)
甲第11号証:杉本里佳が作成した2019年6月12日付け「実験成績報告書2」
甲第12号証:厚生労働省,「食品 添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)第2 添加物(平成29年11月30日現在)」,A.通則
甲第13号証:厚生労働省,「第十五改正日本薬局方」,通則,平成18年3月31日
なお、以下、「甲第1号証」?「甲第13号証」を、それぞれ「甲1」?「甲13」という。まとめて「甲号証」ということもある。

(2)取消理由通知に記載した取消理由との対応関係
上記特許異議申立理由と上記3.「取消理由の概要」に記載した取消理由との対応関係は、以下のとおりである。
イ 理由2(進歩性)
理由2-3(進歩性):甲第3号証を主引例とする場合
・取消理由通知の理由I(進歩性)に対応
ウ 理由3(実施可能要件)
・取消理由通知の理由III(実施可能要件)に対応
エ 理由4(サポート要件)
・取消理由通知の理由II(サポート要件)に対応
オ 理由5(明確性)の(i)、(ii)
・取消理由通知の理由I(明確性)のア、イに対応

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
ア 理由1-1(新規性)及び理由2-1(進歩性):甲第1号証を主引例とする場合について
(ア)甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。
(甲1-1)「[請求項1] カット処理したタマネギを凍結処理するに際し、予め水分含量が72?89重量%になるように乾燥処理し、次いで凍結処理を施すことを特徴とする冷凍タマネギの製造方法。
・・・
[請求項3] 乾燥処理が、熱風乾燥処理、マイクロ波加熱乾燥処理、過熱水蒸気処理又は減圧乾燥処理である請求項1記載の製造方法。」

(甲1-2)「[0003]
[発明が解決しようとする課題]本発明は、解凍して使用した場合に、新鮮なタマネギと同様の優れた食感を有するとともに、加熱調理後に繊維物が口の中に残らない優れた冷凍タマネギを製造できる方法を提供することを目的とする。」

(甲1-3)「[0006]本発明では、次いで、タマネギを凍結処理する前に、水分含量が72?89%、好ましくは80?87.5%になるように乾燥処理する。水分含量が72%に達しない場合には、カットしたタマネギの表面が過乾燥され硬くなってしまい、タマネギ本来のシャリシャリとした歯ごたえのある食感を得ることができない。また、加熱調理した場合に繊維物が残ってしまう。反対に、水分含量が89%を越える場合には、乾燥処理から凍結処理の間にタマネギからドリップが滲出し、タマネギの甘味成分等が消失してしまう。また、本発明では、上記した乾燥処理により上記水分含量に調整するに当たり、カット処理したタマネギの重量が40?90%、好ましくは60?80%になるように、つまり歩留りが上記値になるようにすればよい。乾燥処理方法としては、熱風乾燥処理、過熱水蒸気処理、マイクロ波加熱乾燥処理、減圧乾燥処理等が例示できる。このうち熱風乾燥処理により、上記水分含量に調整する場合には、100?150°Cで5?90分間、風速0.5?10mの熱風をカットしたタマネギに当てて行うのがよく、好ましくは110?130°Cで10?25分間、風速3?5mの条件で行うのがよい。」

(甲1-4)「[0009]
[実施例]
実施例1
外皮を剥皮し、芽及び根を除去したタマネギ(品種:もみじ3号)を、ダイサーを用いて13mm×20mm×20mmの大きさにカット処理した後、タマネギの品温が80°Cになるまで雰囲気温度100?101°Cの蒸気内で3分間保持し、カットタマネギにブランチング処理を施した。次に、得られたタマネギ1000重量部を、重量が600重量部(歩留り60%)になるまで(水分含量83.3%になるまで)、120°C、風速5m、20分間の条件で熱風乾燥処理し、これをパンチング板上にまんべんなく載せ、該パンチング板の下方から-16°Cの冷風を約10分間吹き上げ、冷凍タマネギを得た。
[0010]実施例2
ブランチング処理を施さないこと以外は、実施例1と同様の方法により冷凍タマネギを得た。」

(甲1-5)「[0011]・・・実施例1?4及び比較例1により得られた冷凍タマネギ100重量部と、油脂6重量部を約40分間混合加熱して得られた焙煎タマネギの食感について、以下の基準に基づき15人のパネルにより官能評価した平均値を表-1に示す。
(評価基準)
1 : 口中に繊維物が残り非常に悪い、
2 : 口中に繊維物が残り悪い、
3 : 普通、
4 : 口中に繊維物は感じられず良い、
5 : 口中に繊維物は感じられず非常によい
[0012]
[表1] 表-1
食感
実施例1 5
実施例2 3.5
実施例3 5
実施例4 4
比較例1 1」

(イ)甲1に記載された発明
甲1の請求項1及び3(摘記甲1-1)には、「カット処理したタマネギを凍結処理するに際し、予め水分含量が72?89重量%になるように乾燥処理し、次いで凍結処理を施すことを特徴とする冷凍タマネギの製造方法」及び「乾燥処理が、熱風乾燥処理、マイクロ波加熱乾燥処理、過熱水蒸気処理又は減圧乾燥処理である請求項1記載の製造方法」が記載されている。また、甲1の[0009]の実施例1(摘記甲1-4)には、タマネギをカット処理した後、「タマネギの品温が80℃になるまで雰囲気温度100?101℃の蒸気内で3分間保持し、カットタマネギにブランチング処理を施した。次に・・・歩留り60%・・・になるまで(水分含量83.3%になるまで)、120℃、風速5m、20分間の条件で熱風乾燥処理し、これをパンチング板上にまんべんなく載せ、該パンチング板の下方から-16℃の冷風を約10分間吹き上げ、冷凍タマネギを得た」ことが記載され、[0010]の実施例2(摘記1-4)には、「ブランチング処理を施さないこと以外は、実施例1と同様の方法により冷凍タマネギを得た」ことが記載されている。
そうすると、甲1には、実施例2等に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。
「カットタマネギを、歩留り60%(水分含量83.3%)になるまで、120℃、風速5m、20分間の条件で熱風乾燥処理し、次いで凍結処理を施した、冷凍タマネギ。」(以下、「甲1発明」という。)

(ウ)本件発明1について
(ウ-1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「カットタマネギ」、「凍結処理を施した」、「冷凍タマネギ」は、それぞれ本件発明1における「野菜」、「凍結」、「冷凍野菜」に相当し、甲1発明において「歩留り60%(水分含量83.3%)になるまで、120℃、風速5m、20分間の条件で熱風乾燥処理」した点は、本件発明1における「乾熱処理を施した」ことと、熱処理を施した点で共通する。また、甲1発明において「熱風乾燥処理し、次いで凍結処理を施した」点は、本件発明1における「凍結前に熱処理を施した」ことに相当する。
そうすると、両者は、
「凍結前に熱処理を施した冷凍野菜。」
の点で一致し、
相違点1’:以下の[数1]で定義される冷凍野菜の「自然解凍時のドリップ率」が、本件発明1においては「7.20%以下」であることが特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようなことが特定されていない点
[数1]
自然解凍時のドリップ率(%)=自然解凍時のドリップ重量(g)/凍結製品の重量(g)×100

相違点2’:以下の[数2]で定義される冷凍野菜の「生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値」が、本件発明1においては「1.90以下」であることが特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようなことが特定されていない点
[数2]
生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値=自然解凍後のドリップを除いた嵩密度(g/ml)/原料処理済生鮮野菜の嵩密度(g/ml)

相違点3’:熱処理が、本件発明1においては「乾熱処理」であるのに対し、甲1発明においては「歩留り60%(水分含量83.3%)になるまで、120℃、風速5m、20分間の条件で熱風乾燥」する処理である点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(ウ-2)相違点1’及び2’について
上記相違点1’及び2’に係る、本件明細書に記載された特定の工程に従って算出される「ドリップ率」及び「嵩密度の変動値」は、いずれも甲1に明示的に記載された事項ではない。
また、「ドリップ」について、甲1の[0006](摘記甲1-3)には、「水分含量が89%を越える場合には、乾燥処理から凍結処理の間にタマネギからドリップが滲出し、タマネギの甘味成分等が消失してしまう」と記載されているが、甲1に記載された「ドリップ」は「乾燥処理から凍結処理の間」に生じる可能性のあるドリップについて記載されたものであるから、冷凍野菜を自然解凍したときのドリップ量とは異なるものと解される。
さらに、本件発明1における「ドリップ率」及び「嵩密度の変動値」の特定は、「ボリューム感に優れ、ドリップが抑えられ、水っぽさがなくハリのある食感を有する冷凍野菜を提供できる」(本件明細書の[0009])という効果をもたらすものと解されるのに対し、甲1の[0003](摘記甲1-2)には、甲1発明が「解凍して使用した場合に、新鮮なタマネギと同様の優れた食感を有する」ことが一応記載されているが、甲1における「食感」は、「冷凍タマネギ100重量部と、油脂6重量部を約40分間混合加熱して得られた焙煎タマネギの食感について・・・官能評価した」(甲1の[0011]?[0012](摘記甲1-5))ものであるから、本件発明における「中強火で2.5分間炒めた」ものについての官能評価(上記4.(2)ウ「本件明細書の記載について」の[0054]等を参照。)とは、評価の方法及び基準が異なることが明らかである。
そうすると、上記相違点1’及び2’に係る「ドリップ率が7.20以下」であり「嵩密度の変動値が1.90以下」である点は、実質的にも甲1に記載された事項であるとは認められない。

(ウ-3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(18頁)において、「異議申立人は、甲第1号証の実施例1・・・の記載に基づいて冷凍タマネギを調製し、その自然解凍時のドリップ率及び生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値を、本件特許明細書の記載(段落[0014]?[0018])に基づいて実際に測定し、それぞれ本件特許請求項1に記載される定義に従って算出した。その結果、甲1発明の自然解凍時のドリップ率は「1.45%」であり、生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値は「1.85」であった(甲第4号証)。」と主張している。
しかし、甲4の実験成績報告書は、第三者機関が公正に実施した実験に基づいて作成されたものとは認められないから、甲4に基づく申立人の主張を採用することはできない。

(ウ-4)本件発明1の新規性についての判断
よって、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点1’及び2’の点で実質的に相違するものであるから、相違点3’について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。

(ウ-5)本件発明1の進歩性についての判断
上記5.(3)ア(ウ)(ウ-2)「相違点1’及び2’について」における検討を踏まえると、甲1には、甲1発明において、上記相違点1’及び2’に係る「ドリップ率」及び「嵩密度の変動値」の上限値を設定することについては、記載も示唆もされていないから、上記相違点1’及び2’は、甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることではない。
また、申立人が提示した他の証拠(甲2、3、5?10、記載事項は、上記4.(4)ア「引用文献及びその記載事項」を参照。)を併せて検討しても、当業者が甲1発明において上記相違点1’及び2’に係る発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載を見出すことはできない。
よって、上記相違点1’及び2’については、甲1及び甲2、3、5?10に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることとは認められない。
したがって、上記相違点3’について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1及び甲2、3、5?10に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むとともに、さらなる発明特定事項により限定された発明であるところ、甲1発明との対比においては、少なくとも上記5(3)ア(ウ)(ウ-1)「本件発明1と甲1発明との対比」に記載した相違点1’及び2’の点で相違するものと認められる。
そして、相違点1’及び2’については、本件発明1と同じ理由により、いずれも実質的な相違点と認められるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2、4、5はいずれも甲1に記載された発明ではない。
また、相違点1’及び2’については、本件発明1と同じ理由により、いずれも甲1及び甲2、3、5?10に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることとは認められないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2?6は、いずれも甲1及び甲2、3、5?10に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(オ)理由1-1(新規性)及び理由2-1(進歩性):甲第1号証を主引例とする場合のまとめ
以上まとめると、本件発明1、2、4、5は、いずれも甲1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号には該当しないから、特許を受けることができないものではない。
また、本件発明1?6は、いずれも甲1及び甲2、3、5?10に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由1-1(新規性)の申立理由によって、本件請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできず、また、同理由2-1(進歩性):甲第1号証を主引例とする場合の申立理由によって、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

イ 理由1-2(新規性)及び理由2-2(進歩性):甲第2号証を主引例とする場合について
(ア)甲2に記載された事項
甲2(引用文献2)には、上記4.(4)ア「引用文献及びその記載事項」の摘記2-1?摘記2-4に摘記した事項が記載されている。

(イ)甲2に記載された発明
甲2の請求項1及び3(摘記2-4)には、「カットした野菜に過熱水蒸気処理を行い、加熱処理と同時に水分を減少させた後に冷凍処理を行うことで、解凍時に発生するドリップを抑制することを特徴とする冷凍食品の製造方法」及び「過熱水蒸気処理によりカットした野菜の水分含量が60?90重量%に調整された請求項1記載の冷凍食品」が記載されている。また、甲2の[0021]?[0030]の実施例1(摘記2-3)には、カット処理したニンジンを、「ベルトコンベア式の連続式過熱水蒸気処理装置に通して加熱処理を行ない、時間経過における重量変化を求めた」こと、及び「ベルトコンベア式の連続式過熱水蒸気処理装置に通して加熱処理を行ない重量を測定した。加熱処理後は速やかに冷却し、ポリプロピレン製の袋に全量を密封し、次いで空冷方式にて-20℃で凍結した」ことが記載されている。
そうすると、甲2には、実施例1等に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。
「カット処理したニンジンを、ベルトコンベア式の連続式過熱水蒸気処理装置に通して加熱処理を行ない、次いで凍結した、冷凍ニンジン。」(以下、「甲2発明」という。)

(ウ)本件発明1について
(ウ-1)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「カット処理したニンジン」、「凍結した」、「冷凍ニンジン」は、それぞれ本件発明1における「野菜」、「凍結」、「冷凍野菜」に相当し、甲2発明において「ベルトコンベア式の連続式過熱水蒸気処理装置に通して加熱処理を行な」った点は、本件発明1における「乾熱処理を施した」ことに相当する。また、甲2発明において「加熱処理を行ない、次いで凍結した」点は、本件発明1における「凍結前に乾熱処理を施した」ことに相当する。
そうすると、両者は、
「凍結前に乾熱処理を施した冷凍野菜。」
の点で一致し、
相違点1”:以下の[数1]で定義される冷凍野菜の「自然解凍時のドリップ率」が、本件発明1においては「7.20%以下」であることが特定されているのに対し、甲2発明においてはそのようなことが特定されていない点
[数1]
自然解凍時のドリップ率(%)=自然解凍時のドリップ重量(g)/凍結製品の重量(g)×100

相違点2”:以下の[数2]で定義される冷凍野菜の「生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値」が、本件発明1においては「1.90以下」であることが特定されているのに対し、甲2発明においてはそのようなことが特定されていない点
[数2]
生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値=自然解凍後のドリップを除いた嵩密度(g/ml)/原料処理済生鮮野菜の嵩密度(g/ml)

で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(ウ-2)相違点1”及び2”について
上記相違点1”及び2”に係る、本件明細書に記載された特定の工程に従って算出される「ドリップ率」及び「嵩密度の変動値」は、いずれも甲2に明示的に記載された事項ではない。
また、甲2発明の解決しようとする課題は、甲2の[0006](摘記2-1)等の記載からみて、「解凍時のドリップ」の抑制及び「添加物によるドリップの抑制」の場合に生じる「風味の劣化や変化、製品のべたつき、製品どうしの固着」といった問題点の解決にあるものと認められるから、「ドリップ」については課題として認識されているといえるが、「嵩密度の変動」まで具体的に改善を意図しているものとはいえない。
さらに、「ドリップ」に関して、甲2の[0008]及び[0013](摘記2-2)には、「野菜を凍結処理するに際して、あらかじめ水分含量を60?90重量%、より好ましくは65?85重量%になるように過熱水蒸気処理を行なって自由水を減少させ、凍結時に問題となる氷晶の粗大化を防止することで、解凍時の物性劣化とドリップの防止を達成するものである」こと、及び「加熱処理後の水分含量が60%以下だと解凍時のドリップは発生しないが、組織の収縮が顕著になるため物性が硬くなる問題点や食感がゴムのようになる問題点が生ずる。・・・一方、加熱処理後の水分含量が90%以上では、水分の減少が十分でないため解凍時にドリップが発生するため本発明の効果が少ない」ことが記載されていることからみても、甲2発明は、ドリップの抑制を主な課題とするものであると解され、解凍後の状態については、「物性が硬くなる」こと及び「食感がゴムのようになる」ことを問題点とするに止まるものと解される。
これに対し、本件発明1における「ドリップ率」及び「嵩密度の変動値」の特定は、「ボリューム感に優れ、ドリップが抑えられ、水っぽさがなくハリのある食感を有する冷凍野菜を提供できる」(本件明細書の[0009])という効果をもたらすものであり、その外観や「ハリのある食感」等も官能評価の項目に含まれるものであるから(上記4.(2)ウ「本件明細書の記載について」の[0056]?[0057]等を参照。)、本件発明とは評価の方法及び基準が異なることが明らかである。
そうすると、上記相違点1”及び2”に係る「ドリップ率が7.20以下」であり「嵩密度の変動値が1.90以下」である点は、実質的にも甲2に記載された事項であるとは認められない。

(ウ-3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(26頁)において、「異議申立人は、甲第2号証の実施例1・・・の記載に基づいて冷凍ニンジンを調製し、その自然解凍時のドリップ率及び生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値を、本件特許明細書の記載(段落[0014]?[0018])に基づいて実際に測定し、それぞれ本件特許請求項1に記載される定義に従って算出した。その結果、甲2発明の自然解凍時のドリップ率は「0.00%」であり、生鮮品と比較したときの嵩密度の変動値は「1.11」であった(甲第4号証)。」と主張している。
しかし、甲4の実験成績報告書は、第三者機関が公正に実施した実験に基づいて作成されたものとは認められないから、甲4に基づく申立人の主張を採用することはできない。

(ウ-4)本件発明1の新規性についての判断
よって、本件発明1と甲2発明とは、上記相違点1”及び2”の点で実質的に相違するものであるから、本件発明1は甲2に記載された発明ではない。

(ウ-5)本件発明1の進歩性についての判断
上記5.(3)イ(ウ)(ウ-2)「相違点1”及び2”について」における検討を踏まえると、甲2には、甲2発明において、上記相違点1”及び2”に係る「ドリップ率」及び「嵩密度の変動値」の上限値を設定することについては、記載も示唆もされていないから、上記相違点1”及び2”は、甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることではない。
また、申立人が提示した他の証拠(甲3、5?10、記載事項は、上記4.(4)ア「引用文献及びその記載事項」等を参照。)及び周知技術(甲1)を併せて検討しても、当業者が甲2発明において上記相違点1”及び2”に係る発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載を見出すことはできない。
よって、上記相違点1”び2”については、甲2及び甲3、5?10に記載された事項並びに周知の技術的事項(甲1)に基づいて当業者が容易に想到し得ることとは認められない。
したがって、本件発明1は、甲2及び甲3、5?10並びに周知の技術的事項(甲1)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むとともに、さらなる発明特定事項により限定された発明であるところ、甲2発明との対比においては、少なくとも上記5(3)イ(ウ)(ウ-1)「本件発明1と甲2発明との対比」に記載した相違点1”及び2”の点で相違するものと認められる。
そして、相違点1”及び2”については、本件発明1と同じ理由により、いずれも実質的な相違点と認められるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2、3、5はいずれも甲2に記載された発明ではない。
また、相違点1”及び2”については、本件発明1と同じ理由により、いずれも甲2及び甲3、5?10に記載された事項並びに周知の技術的事項(甲1)に基づいて当業者が容易に想到し得ることとは認められないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2?6は、いずれも甲2及び甲3、5?10並びに周知の技術的事項(甲1)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(オ)理由1-2(新規性)及び理由2-2(進歩性):甲第2号証を主引例とする場合のまとめ
以上まとめると、本件発明1?3、5は、いずれも甲2に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号には該当しないから、特許を受けることができないものではない。
また、本件発明1?6は、いずれも甲2及び甲3、5?10並びに周知の技術的事項(甲1)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由1-2(新規性)の申立理由によって、本件請求項1?3、5に係る特許を取り消すことはできず、また、同理由2-2(進歩性):甲第2号証を主引例とする場合の申立理由によって、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

ウ 理由1-3(新規性):甲第3号証を主引例とする場合について
(ア)甲3に記載された事項及び甲3に記載された発明
甲3(引用文献3)に記載された事項及び甲3に記載された発明(引用発明3)は、上記4.(4)ア「引用文献及びその記載事項」及び同イ「引用文献3に記載された発明」に記載したとおりである。

(イ)本件発明1の新規性についての判断
上記4.(4)ウ「本件発明1について」に記載したとおり、本件発明1と引用発明3とを対比すると、両者は上記相違点1?3の点で相違し、相違点3については実質的な相違点と認められる。
よって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は甲3に記載された発明ではない。

(ウ)本件発明2、3、5について
本件発明2、3、5は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むとともに、さらなる発明特定事項により限定された発明であるところ、引用発明3との対比においては、少なくとも上記相違点3の点で実質的に相違するものと認められる。
そして、相違点3については、本件発明1と同じ理由により実質的な相違点と認められるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2、3、5はいずれも甲3に記載された発明ではない。

(エ)理由1-3(新規性):甲第3号証を主引例とする場合のまとめ
以上まとめると、本件発明1?3、5は、いずれも甲3に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号には該当しないから、特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由1-3(新規性):甲第3号証を主引例とする場合の申立理由によって、本件請求項1?3、5に係る特許を取り消すことはできない。

エ 理由5(明確性)の(iii)乾熱処理について(プロダクト・バイ・プロセスクレームについて)
申立人は、特許異議申立書(45頁)において、「請求項1・・・は、冷凍野菜の製造において実施される処理の順序を規定したものに他ならず、したがって、請求項1には、冷凍野菜の製造に関して、経時的な要素の記載がある。
したがって請求項1は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームであり、また不可能・非実際的事情が存在することについて、本件特許明細書に記載はないし、客観的に見てもそのような事情は存在しないと認められる。よって、請求項1は不明確である。
・・・また、請求項1を引用する本件特許発明2?6についても同様である。」と主張している。
しかし、本件発明1における「凍結」及び「乾熱処理」は、いずれも明確な技術用語であり、「凍結前に乾熱処理を施した冷凍野菜」という発明特定事項は、単に処理が施された状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないものと理解することができるから、本件発明1が不明確とまではいえない。本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むとともに、さらなる発明特定事項により限定された発明である本件発明2?6についても同様である。
よって、本件発明1?6は、いずれも明確であるから特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものであり、これらの発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
したがって、特許異議申立書に記載された理由5(明確性)の(iii)の申立理由によって、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-03-23 
出願番号 特願2018-516579(P2018-516579)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A23B)
P 1 651・ 121- Y (A23B)
P 1 651・ 113- Y (A23B)
P 1 651・ 537- Y (A23B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福澤 洋光  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 天野 宏樹
冨永 みどり
登録日 2019-01-11 
登録番号 特許第6463554号(P6463554)
権利者 株式会社ニチレイフーズ
発明の名称 冷凍野菜  
代理人 反町 洋  
代理人 中村 行孝  
代理人 永井 浩之  
代理人 池田 伸美  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 朝倉 悟  

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