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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1362289
審判番号 不服2019-3429  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-12 
確定日 2020-05-13 
事件の表示 特願2016-513398「DPP-4阻害薬とα-グルコシダーゼ阻害薬との組合せ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日国際公開、WO2014/184376、平成28年6月23日国内公表、特表2016-518438〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年5月16日(パリ条約による優先権主張 2013年5月17日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特許出願であって、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 3月19日付け :拒絶理由通知
平成30年 7月 2日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年10月31日付け :拒絶査定
平成31年 3月12日 :審判請求書及び手続補正書の提出
令和 1年 5月 7日付け :前置報告
令和 1年11月 8日 :上申書の提出

第2 平成31年3月12日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年3月12日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)補正後
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(なお、下線部は本件補正による変更箇所である。)。

「【請求項1】
それを必要とする患者において、1種または複数種の他の薬剤と併用されてもよい、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(リナグリプチン)又はその薬学的に許容される塩であるDPP-4阻害薬の医薬組成物であって、
ボグリボースであるα-グルコシダーゼ阻害薬と組合せて、
代謝疾患、特に糖尿病、とりわけ2型糖尿病を治療および/または予防すること、ならびに/あるいは
体重コントロールを改善すること、体重を減少させること、満腹感を誘発すること、胃内容排出を抑制すること、または食物摂取量を減少させること、ならびに/あるいは
α-グルコシダーゼ阻害薬に関連する副作用を予防する、それから保護する、その可能性もしくは発生を減少させる、または最小限にすること、
の1つまたは複数のために使用され、
前記患者が、肥満または過体重であるか、および/またはα-グルコシダーゼ阻害薬の用量減少を指示されたかまたは必要とする2型糖尿病患者である、
医薬組成物。」

(2)補正前
本件補正前の、平成30年7月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(なお、本件補正による変更箇所の変更前の記載に、当合議体が下線を付した。)。

「【請求項1】
それを必要とする患者において、1種または複数種の他の薬剤と併用されてもよい、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(リナグリプチン)又はその薬学的に許容される塩であるDPP-4阻害薬の医薬組成物であって、
ボグリボースであるα-グルコシダーゼ阻害薬と組合せて、
代謝疾患、特に糖尿病、とりわけ2型糖尿病を治療および/または予防すること、ならびに/あるいは
体重コントロールを改善すること、体重を減少させること、満腹感を誘発すること、胃内容排出を抑制すること、または食物摂取量を減少させること、ならびに/あるいは
α-グルコシダーゼ阻害薬に関連する副作用を予防する、それから保護する、その可能性もしくは発生を減少させる、または最小限にすること、
の1つまたは複数のために使用され、
前記患者が、肥満または過体重であるか、もしくはそのリスクがある、および/または腎機能障害(例えば、軽度、中等度、重度もしくはESRDステージのもの)を有するか、もしくはそのリスクがある、および/またはα-グルコシダーゼ阻害薬の用量減少を指示された2型糖尿病患者である、
医薬組成物。」

2 本件補正の適否
(1)補正の目的について
ア 本件補正による請求項1についての補正事項のうち、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、「2型糖尿病患者」についての補正は、本件補正後の請求項1において、「2型糖尿病患者」を限定する択一的な条件のうち、「腎機能障害(例えば、軽度、中等度、重度もしくはESRDステージのもの)を有するか、もしくはそのリスクがある」との選択肢を削除し、「2型糖尿病患者」を限定する別の択一的な条件である「肥満または過体重であるか、もしくはそのリスクがある」との選択肢から、「もしくはそのリスクがある」との選択肢を削除する補正を含むものである。

イ しかしながら、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するための事項である「2型糖尿病患者」についての補正は、上記アの補正事項に加えて、本件補正後の請求項1において、「2型糖尿病患者」を限定する条件の一つである「α-グルコシダーゼ阻害薬の用量減少を指示された」との選択肢について、さらに「(α-グルコシダーゼ阻害薬の用量減少を)必要とする」との選択肢を追加する補正も含むものである。

ウ そうすると、上記イの補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではなく、また、同法同条同項第1号、第3号又は第4号のいずれの事項を目的とするものにも該当しない。よって、本件補正は、同法第17条の2第5項に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない補正事項を含むものである。

(2)独立特許要件について
前記(1)のとおり、本件補正による請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に適合するものではないが、仮に、同補正が、同条同項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるとしても、同補正が適法であるというためには、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する(特許出願の際独立して特許を受けることができるものである)ことが必要である。
この点について、以下、検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(1)に記載したとおりのものである。

イ 引用文献の記載事項等
(ア)引用文献5
a 原査定の拒絶の理由において引用文献5として引用されたDiabetes Obes. Metab., 2013, Vol.15, No.9, pp.833-843,Epub:2013.05.03(以下「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている(和訳は、当合議体が付した。以下、同じ。)。

(摘記5a)
「Linagliptin provides effective, well-tolerated add-on therapy to pre-existing oral antidiabetic therapy over 1 year in Japanese patients with type 2 diabetes」(表題)
(和訳:
リナグリプチンは、2型糖尿病の日本人患者において、先行する経口抗糖尿病療法への有効かつ高忍容性の1年超の追加療法を提供する)

(摘記5b)
「Methods: This 52-week, multicentre, open-label, parallel-group study evaluated once-daily linagliptin 5mg as add-on therapy to one OAD [biguanide, glinide, glitazone, sulphonylurea (SU) or α-glucosidase inhibitors (A-GI)] in 618 patients.」(要約3?4行)
(和訳:
方法:52週間の多施設間、非盲検、並行群の本試験により、618人の患者において、1種の経口抗糖尿病薬(ビグアナイド薬、グリニド薬、グリタゾン薬、スルホニル尿素薬(SU)又はα-グルコシダーゼ阻害薬(A-GI))への追加療法としての1日1回のリナグリプチン5mg投与が評価された。)

(摘記5c)
「Significant reductions in glycated haemoglobin (HbA1c) levels (between -0.7 and -0.9%) occurred throughout the study period for the background therapy groups that received linagliptin (baseline HbA1c 7.9-8.1%).」(要約9?11行)
(和訳:
糖化ヘモグロビン(HbA1c)レベルの有意な減少(-0.7から-0.9%の間)は、リナグリプチンが投与されたバックグラウンド療法群(ベースラインHbA1c7.9-8.1%)の試験期間を通じて起こった。)

(摘記5d)
「Conclusions: Once-daily linagliptin showed safety and tolerability over 1 year and provided effective add-on therapy leading to significant HbA1c reductions, similar to metformin, over 52 weeks in Japanese patients.」(要約13?14行)
(和訳:
結論:1日1回のリナグリプチン投与は、1年以上にわたって安全性と忍容性を示し、日本人患者において、52週間にわたって、メトホルミンと同程度にHbA1cを有意に減少させる、有効な追加療法を提供した。)

(摘記5e)
「Sulphonylureas have been one of the most widely used firstline treatments for T2DM in Japan. Combination therapy, including biguanides, glinides, α-glucosidase inhibitors (A-GI) and thiazolidinediones, as well as insulin, is being increasingly used for patients with T2DM that is inadequately controlled by monotherapy [8].」(833頁右欄12?17行)
(和訳:
スルホニル尿素薬は、日本で最も広く使用されている2型糖尿病の第一選択薬の1つである。ビグアナイド薬、グリニド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬(A-GI)、チアゾリジンジオン、インスリン等を含む併用療法は、単剤療法では十分にコントロールできない2型糖尿病患者に多く使用されるようになっている[8]。)

(摘記5f)
「Linagliptin is the newest DPP-4 inhibitor that, unlike other agents in this class, has a xanthine-based structure and pharmacological properties that differ from other DPP-4 inhibitors [11]. Specifically, linagliptin is primarily excreted via the bile and gut [12], in contrast with other DPP-4 inhibitors that are mainly excreted in the urine. As a consequence, linagliptin does not require dose adjustment in patients with declining renal function [13].」(834頁左欄13?20行)
(和訳:
リナグリプチンは、このクラスの他の薬剤とは異なり、キサンチンベースの構造と他のDPP-4阻害薬とは異なる薬理学的特性を持つ最も新しいDPP-4阻害薬である[11]。具体的には、主に尿中に排泄される他のDPP-4阻害薬とは対照的に、リナグリプチンは主に胆汁と腸を介して排泄される[12]。結果として、リナグリプチンは、腎機能が低下している患者の用量調整を必要としない[13]。)

(摘記5g)
「Methods
Study Design
This was a 52-week, open-label, multicentre, parallel-group study evaluating linagliptin 5mg q.d. as add-on therapy to one approved OAD (in Japanese patients with T2DM and insufficient glycaemic control). Patients on SU or A-GI were randomized to receive either linagliptin (5mg q.d.) or metformin (twice or thrice daily, up to 2250 mg/day) as add-on therapy.」(834頁左欄50?同頁右欄1行)
(和訳:
方法
試験計画
この試験は、(日本人の2型糖尿病であって血糖コントロールが不十分な患者に対する、)1種類の承認済みOADへの追加療法としてのリナグリプチン5 mg毎日投与を評価するための、52週間の非盲検、多施設間、並行群試験である。SU又はA-GIの患者は、追加療法としてのリナグリプチン(5 mg毎日投与)又はメトホルミン(1日2回又は3回、最大2250 mg/日まで)のいずれかが投与されるように無作為に割り付けられた。)

(摘記5h)
「The study comprised a 2-week placebo run-in phase followed by a 52-week open-label treatment period. All patients received linagliptin add-on therapy (hereafter referred to as nonrandomized add-on). Patients on SU or A-GI, who had an estimated glomerular filtration rate (eGFR)>=60 ml/min (based on themodification of diet in renal disease formula),were randomized to receive either linagliptin (5 mg q.d.) or metformin (twice or thrice daily, up to 2250 mg/day) as add-on therapy (hereafter referred to as randomized add-on) (figure 1).」(834頁右欄18?26行)
(和訳:
この試験は、2週間のプラセボ導入相と、それに続く52週間の非盲検治療期間で構成されている。すべての患者はリナグリプチン追加療法(以下、非ランダム化追加療法という。)を受けた。また、(腎疾患処置の食事の修正に基づく)推算糸球体濾過量(eGFR)が60ml/min以上である、SU又はA-GI群の患者は、追加療法としてリナグリプチン(5 mg毎日投与)又はメトホルミン(1日2回又は3回、最大2250 mg/日まで)のいずれかが投与されるように無作為に割り付けられた(以下、ランダム化追加療法という。)(図1)。)

(摘記5i)


」(835頁、図1)

(摘記5j)
「Study Population
The study enrolled male and female patients, aged >=20 years, with T2DM and inadequate glycaemic control (defined as HbA1c >=7.0-<=10.5% at visit 1), despite a diet and exercise regimen and treatment with one OAD (biguanide, glinide, glitazone, SU or A-GI).」(834頁右欄46?51行)
(和訳:
試験対象の母集団
本試験では、1種の経口抗糖尿病薬(ビグアナイド薬、グリニド薬、グリタゾン薬、スルホニル尿素薬又はα-グルコシダーゼ阻害薬)を伴う、食事及び運動療法にもかかわらず、2型糖尿病であって血糖コントロールが不十分な(初来院時に、HbA1cが7.0%以上10.5%以下と定義する。)、20歳以上の男女の患者を登録した。)

(摘記5k)
「Study Endpoints
The objective of the trial was to evaluate the safety and efficacy of linagliptin in combination with an approved OAD as background therapy.
The secondary endpoint was the mean change in HbA1c from baseline after 52weeks of treatment. In this trial, ‘baseline’ refers to the last observation before the treatment period. Other endpoints, after 52 weeks of treatment, included: occurrence of treat-to-target efficacy response (i.e. HbA1c of <6.5 and <7.0%); occurrence of relative efficacy response (HbA1c lowering by >=0.5%); mean change from baseline in fasting plasma glucose (FPG); mean change from baseline in HbA1c and FPG over time; mean change from baseline in body weight and waist circumference over time and the use of rescue therapy. The safety endpoints included: incidents and intensity of adverse events (AEs), withdrawal because of AEs, hypoglycaemic events, significant AEs, changes from baseline in vital signs (blood pressure and pulse), changes from baseline in clinical laboratory values (including renal function tests) and findings from the 12-lead electrocardiogram.」(835頁左欄13?32行)
(和訳:
研究目的
この試験の目的は、バックグラウンド療法としての承認済経口抗糖尿病薬と組み合わされたリナグリプチンの安全性と有効性を評価することである。
2番目の目的は、52週間の治療後のベースラインからのHbA1cの平均変化である。この試験では、「ベースライン」は治療期間直前の測定値を意味する。52週間の治療後の、その他の目的には、以下が含まれる:目標達成に向けた治療の有効な結果の発生(例えば、HbA1c が6.5%未満、7.0%未満など); 相対的に有効な結果の発生(HbA1cが0.5%以上低下。); 空腹時血漿グルコース(FPG)のベースラインからの平均変化; HbA1cおよびFPGの経時的なベースラインからの平均変化、体重およびウエスト周囲長のベースラインからの経時的な変化、及び救援療法の使用。安全性の目的は、有害事象(AE)の発生と程度、AEによる中止、低血糖事象、重大なAE、バイタルサイン(血圧と脈拍)のベースラインからの変化、(腎機能試験を含む)臨床検査値のベースラインからの変化、及び12電極心電図による気づきを含む。)

(摘記5l)
「For the planned analyses, the treated set (TS) was defined as the set of patients who had received at least one dose of study drug. This analysis set was used for the baseline evaluations and safety analyses. The TS was divided into three subsets: patients who received linagliptin as treatment therapy; patients who were receiving SU background therapy and had an eGFR >=60 ml/min at screening; and patients who were receiving A-GI background therapy and had an eGFR >=60 ml/min at screening.」(835頁右欄8?16行)
(和訳:
解析計画において、被治療群(TS)は、少なくとも1種の本試験薬を投与された患者群として定義される。この解析群は、ベースライン評価と安全性分析に使用される。被治療群は以下の3つの部分集合に分けられた:治療のためにリナグリプチンを投与された患者群、SUバックグラウンド療法を受けており、スクリーニング時にeGFRが60 ml/min以上であった患者群、A-GIバックグラウンド療法を受けていて、スクリーニング時にeGFRが60 ml/min以上であった患者群。)

(摘記5m)
「Patients in all background treatment groups showed small, non-significant changes in body weight, in addition to nonsignificant reductions in waist circumference. Rescue therapy was required in 14 patients, most of whom [9 patients (6.4%)] were in the SU background therapy group.」(838頁左欄1?5行)
(和訳:
すべてのバックグラウンド治療群の患者は、ウエスト周囲長の有意とはいえない減少に加えて、体重の小さな、有意とはいえない変化を示した。救援療法は14人の患者に必要であり、そのほとんど[9人の患者(6.4%)]はSUバックグラウンド療法群に属していた。)

(摘記5n)
「Efficacy Results
At week 52, add-on therapy with linagliptin resulted in significant reductions in mean (±s.d.) HbA1c levels, ranging from -0.7% (0.7) (SU background group) to -0.9% (0.6) (A-GI background group), from baseline values between 7.9% (0.8) and 8.1% (0.8), in the five background treatment groups (Table 3).(838頁左欄7?13行)
有効性に関する結果
52週目に、リナグリプチンによる追加療法により、平均(±標準偏差)のHbA1cレベルが有意に低下し、その範囲は、5つのバックグラウンド治療群において、7.9%(0.8)から8.1%(0.8)の間のベースライン値から、-0.7%(0.7)(SUバックグラウンド群)ないし-0.9%(0.6)(A-GIバックグラウンド群)であった(表3)。

(摘記5o)


」(838頁、表3)

(摘記5p)
「A consistent and sustained decline in HbA1c levels at weeks 12, 24, 36 and 52 was shown for all background therapy groups that received add-on linagliptin (figure 2).」(838頁右欄8?10行)
(和訳:
追加のリナグリプチンを投与されたすべてのバックグラウンド療法群で、12、24、36及び52週目のHbA1cレベルの一貫した持続的な低下が示された(図2)。)

(摘記5q)


」(838頁、図2)

(摘記5r)
「The percentage of patients that achieved therapeutic targets (HbA1c <7.0%) with add-on linagliptin ranged from 31.4% (44 of 140 patients) in the SU group to 63.5% (54 of 85 patients) in the A-GI background therapy group.」(838頁右欄14行?839頁左欄2行)
(和訳:
追加療法のリナグリプチンで治療目標(HbA1c <7.0%)を達成した患者の割合は、SU群の31.4%(44/140人の患者)からA-GIバックグラウンド療法群の63.5%(54/85人の患者)の範囲であった。)

(摘記5s)
「The percentage of patients that achieved a relative HbA1c reduction of >=0.5% with add-on linagliptin ranged from 57.9% (81 of 140 patients) in the SU group to 82.4% (70 of 85 patients) in the A-GI background therapy group.」(839頁左欄6?9行)
(和訳:
追加療法のリナグリプチンで0.5%以上の相対的HbA1c減少を達成した患者の割合は、SU群の57.9%(81/140人の患者)からA-GIバックグラウンド療法群の82.4%(70/85人の患者)の範囲であった。)

(摘記5t)
「Significant reductions in FPG levels were shown in all groups after 52 weeks of add-on therapy with linagliptin, and in groups receiving background SU or A-GI therapy that were randomized to add-on linagliptin or metformin (Table 3).」(839頁左欄14?17行)
(和訳:
FPGレベルの有意な低下が、リナグリプチンによる52週間の追加療法後のすべての群及び追加療法のリナグリプチン又はメトホルミンについてランダム化されたバックグラウンドSU又はA-GI療法を受けた群で示された(表3)。)

(摘記5u)
「Predefined Subgroup Analysis Results
Subgroup analyses of the non-randomized add-on groups showed that the reduction in HbA1c between baseline and week 52 was consistent in different age groups (<65 and >=65 years) (data not shown), baseline BMI (<25 and >=25 kg/m2), time since diagnosis of diabetes (<1 and >1-5 years) (data not shown), baseline eGFR (>=90, >=60-<90 and >=30-<60 ml/min) or the presence of hepatobiliary disorders (Table 4). As expected, the reduction in HbA1c levels from baseline was greater in patients with HbA1c >=8.0% at baseline versus patients with HbA1c <8.0% at baseline (Table 4).」(839頁左欄19行?同頁右欄3行)
(和訳:
事前に定義された部分群の分析結果
ランダム化されていない追加療法群の部分群分析では、ベースラインと52週目のHbA1cの減少は、異なる年齢グループ(65歳未満と65歳以上)(データは示していない)、BMIベースライン(25未満と25kg/m^(2)以上)、糖尿病の診断からの経過時間(1年以下と1?5年以上)(データは示さず)、eGFRベースライン(90以上、60以上90未満、30以上60ml/min未満)または肝胆道障害の存在に関して、一致を示した(表4)。予想されたとおり、ベースラインからのHbA1cレベルの低下は、ベースラインでHbA1cが8.0%以上の患者の方が、ベースラインでHbA1cが8.0%未満の患者よりも大きかった(表4)。)

(摘記5v)


」(840頁、表4)

(摘記5w)
「The results of the add-on trial were supported by the recently published Japanese monotherapy trial of linagliptin, which showed a reduction in placebo-adjusted HbA1c of -0.9 for linagliptin 5 mg at week 12 [24].」(839頁右欄22?25行)
(和訳:
追加療法試験の結果は、最近公開されたリナグリプチンの日本人の単独療法試験によって支持された。同試験は、リナグリプチン5 mgのプラセボ調整HbA1cの12週目で-0.9の減少を示している[24]。)

(摘記5x)
「Interestingly, the findings from the five non-randomized add-on groups (figure 2) showed, numerically, that the greatest reduction in HbA1c was achieved with the combination of linagliptin plus A-GI.」(841頁左欄8?11行)
(和訳:
興味深いことに、5つの非ランダム化追加療法群の結果(図2)は、数値的に、HbA1cの最大の減少は、リナグリプチンにA-GIを追加した組み合わせによって達成されることを示している。)

(摘記5y)
「Preclinical studies have shown that the combination of DPP-4 inhibitor and A-GI resulted in higher plasma levels of active GLP-1 than either drug alone, following a meal tolerance test in high-fat diet-fed mice [29] and in prediabetic mice [30]. These findings are consistent with the observation in clinical trials that A-GIs produce a dose-dependent increase in GLP-1 [31,32] and, hence, the combination of DPP-4 inhibitor and A-GI is likely to have the dual effect of both preventing the inactivation of GLP-1 and enhancing its release, resulting in improvements in glycaemic control through their complementary modes of action. This observation from our study needs to be confirmed in future trials. 」(841頁左欄12?23行)
(和訳:
前臨床試験では、DPP-4阻害薬とA-GIの組み合わせにより、高脂肪食飼育マウス[29]及び前糖尿病マウス[30]の食事耐性試験後に、いずれの薬物単独よりも高い活性GLP-1の血漿レベルが得られることが示された。これらの知見は、A-GIが用量依存的にGLP-1を増加させるとの臨床試験の知見と一致している[31,32]。したがって、DPP-4阻害薬とA-GIの組み合わせは、GLP-1の不活性化の防止とその放出の強化の両方の効果があり、その結果、相乗的な作用機序による血糖コントロールの改善がもたらされるであろう。本試験からのこの洞察は、将来の試験で確認される必要がある。)

(摘記5z)
「Recently, a pooled analysis of data from four randomized, double-blind, 24-week, placebo-controlled trials with linagliptin 5 mg q.d., administered as monotherapy, or in combination with one or two oral antihyperglycaemic drugs, showed that this drug significantly reduced the urinary albumin-to-creatinine ratio (UACR) in patients with T2DM and early diabetic nephropathy (n=2472) receiving stable angiotensin-converting enzyme inhibitor/angiotensin II receptor blocker therapy, compared with placebo [40].」(841頁右欄21?29行)
(和訳:
最近、単独療法又は1種又は2種の経口抗高血糖薬と組み合わせたリナグリプチン5 mg 毎日投与による4つのランダム化、二重盲検、24週間、プラセボ対照試験のデータのプール分析により、この薬物が、2型糖尿病、及び、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンII受容体遮断薬療法を安定して受けている初期糖尿病性腎症(n = 2472)を有する患者において、プラセボと比較して、尿アルブミン対クレアチニン比(UACR)を有意に減少させることが示された[40]。)

b 上記aの記載によれば、引用文献5には、α-グルコシダーゼ阻害薬(A-GI)を伴う食事及び運動療法にもかかわらず、2型糖尿病であって血糖コントロールが不十分な、成人男女患者(摘記5j)に対して、2型糖尿病の追加療法として(摘記5a)、A-GIに追加して、DPP-4阻害薬であるリナグリプチンを、毎日5mg投与したことが開示されており(摘記5b,5f,5g)、その結果、糖化ヘモグロビン(HbA1c)レベル及びFPGレベルの有意な減少を示した(摘記5c,5n,5p,5t)ことが記載されている。また、上記投与は、上記患者のうち、BMI初期値が25kg/m^(2)以上の部分群に対しても、HbA1cの減少を示したことが記載されている(摘記5u)。上記追加療法において、リナグリプチンは医薬組成物として患者に投与されたことは明らかである。
また、引用文献5には、DPP-4阻害薬とA-GIとの組み合わせは、GLP-1の不活性化の防止とその放出の強化の両方の効果があり、その結果、相乗的な作用機序による血糖コントロールの改善がもたらされることが示唆されている(摘記5y)。

そうすると、引用文献5には、次の発明(以下「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。

「α-グルコシダーゼ阻害薬を伴う食事及び運動療法にもかかわらず血糖コントロールが不十分な、成人男女の2型糖尿病患者であって、BMI初期値が25kg/m^(2)以上である患者において、2型糖尿病の追加療法のために使用される、α-グルコシダーゼ阻害薬に追加して毎日5mg投与されるリナグリプチンであるDPP-4阻害薬の医薬組成物。」

(イ)引用文献3
原査定の拒絶の理由において引用文献3として引用されたJ. Diabetes Investig., 2011, Vol.2, No.3, pp.200-203(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(摘記3a)
「Synergistic effect of a-glucosidase inhibitors and dipeptidyl peptidase 4 inhibitor treatment」(表題)
(和訳:
α-グルコシダーゼ阻害薬とジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬による治療の相乗効果)

(摘記3b)
「ABSTRACT
Monotherapy of a-glucosidase inhibitor (a-GI) or dipeptidyl peptidase 4 (DPP4) inhibitor does not sufficiently minimize glucose fluctuations in the diabetic state. In the present study, we evaluated the combined effects of various of a-GI inhibitors (acarbose, voglibose or miglitol) and sitagliptin, a DPP4 inhibitor, on blood glucose fluctuation, insulin and active glucagon-like peptide-1 (GLP-1) levels after nutriment loading in mice.」(要約1-4行)
(和訳:
要約
α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)又はジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)阻害薬の単剤療法では、糖尿病症状のグルコース変動を十分に最小化することはできない。本研究では、さまざまなα-GI阻害薬(アカルボース、ボグリボース又はミグリトール)とDPP4阻害薬であるシタグリプチンの、マウスの栄養負荷後の血糖変動、インスリン及び活性グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)レベル、に対する組合せ効果を評価した。)

(摘記3c)
「All three of the combinations elicited a 2.5-4.9-fold synergistic increase in active GLP-1 (P < 0.05 vs control).」(要約6-7行)
(和訳:
3つの組み合わせすべてが、活性GLP-1の2.5から4.9倍の相乗的増加を引き起こした(対照群に対して、P <0.05)。)

(摘記3d)
「α‐Glucosidase inhibitors (acarbose 10 mg/kg, voglibose 0.1 mg/kg or miglitol 3 mg/kg) was given orally at the time of maltose or enteral nutrition‐loading, and sitagliptin (0.3 mg/kg) was given 0.5 h before oral loading.」(200頁右欄28行-201頁左欄1行)
(和訳:
α-グルコシダーゼ阻害薬(アカルボース10 mg/kg、ボグリボース0.1 mg/kg又はミグリトール3 mg/kg)がマルトース又は経腸栄養負荷時に経口投与され、シタグリプチン(0.3 mg/kg)が経口負荷の0.5時間前に投与された。)

(摘記3e)
「When enteral nutrition was orally loaded in mice fed a high‐fat diet, the plasma active GLP‐1 concentration was increased by 1.5?1.9‐fold after administration of sitagliptin compared with the control group. In contrast, a synergistic increase in the GLP‐1 concentration was observed after treatment with a combination of α‐GI and sitagliptin (2.5-4.9‐fold, P < 0.05 vs control; Table 1).」(201頁左欄38-44行)
(和訳:
高脂肪食を与えたマウスに経腸栄養を経口投与すると、シタグリプチン投与後の血漿中活性GLP-1濃度は、対照群と比較して1.5から1.9倍増加した。対照的に、α-GIとシタグリプチンの組み合わせによる治療後、GLP-1濃度の相乗的な増加が観察された(2.5から4.9倍、対照群に対して、P <0.05 ; 表1)。)

(摘記3f)


」(202頁、表1)

(ウ)引用文献4
原査定の拒絶の理由において引用文献4として引用されたJ. Pharmacol. Sci., 2007, Vol.104, No.1, pp.29-38(以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。

(摘記4a)
「Comparison of Efficacies of a Dipeptidyl Peptidase IV Inhibitor and α-Glucosidase Inhibitors in Oral Carbohydrate and Meal Tolerance Tests and the Effects of Their Combination in Mice」(表題)
(和訳:
マウスにおける、経口炭水化物及び食事耐性試験に対する、ジペプチジルペプチダーゼIV阻害薬とα-グルコシダーゼ阻害薬の有効性の比較とそれらの組み合わせの効果)

(摘記4b)
「Abstract. E3024 (3-but-2-ynyl-5-methyl-2-piperazin-1-yl-3,5-dihydro-4H-imidazo[4,5-d]pyridazin-4-one tosylate) is a dipeptidyl peptidase IV (DPP-IV) inhibitor.
」(要約1-2行)
(和訳:
要約 E3024(3-ブタ-2-イニル-5-メチル-2-ピペラジン-1-イル-3,5-ジヒドロ-4H-イミダゾ[4,5-d]ピリダジン-4-オントシレート)は、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)阻害薬である。)

(摘記4c)
「In this study, we compared the efficacy of E3024 and the α-glucosidase inhibitors, acarbose and voglibose, employing various oral carbohydrate tolerance tests and a meal tolerance test in normal mice.」(30頁左欄7-11行)
(和訳:
本研究では、通常マウスに各種の経口炭水化物耐性試験及び食事耐性試験を行い、E3024とα-グルコシダーゼ阻害薬であるアカルボース及びボグリボースの有効性を比較した。)

(摘記4d)
「Chemicals
E3024 and its trifluoroacetate salt form (ER-235516- 15) were synthesized in our laboratories. Acarbose (O-4,6-dideoxy-4-[[(1S,4R,5S,6S)-4,5,6-trihydroxy-3- (hydroxymethyl)-2-cyclohexene-1-yl]amino]-α-D-glucopyranosyl-( 1→4)-O-α-D-glucopyranosyl-(1→4)-D-glucopyranose) was purchased from Bayer Yakuhin, Ltd. (Osaka). Voglibose ((+)-1L-[1(OH),2,4,5/ 3]-5-[2- hydroxy-1-(hydroxymethyl)ethyl]amino-1-C-(hydroxymethyl- 1,2,3,4-cyclohexanetetrol) was purchased from Takeda Chemical Industries (Osaka) and Toronto Research Chemicals, Inc. (Ontario, Canada).」(30頁左欄24行-同頁右欄7行)
(和訳:
化学薬品
E3024及びそのトリフルオロ酢酸塩形態(ER-235516-15)は、我々の研究室で合成された。アカルボース(O-4,6-ジデオキシ-4-[[(1S、4R、5S、6S)-4,5,6-トリヒドロキシ-3-(ヒドロキシメチル)-2-シクロヘキセン-1-イル]アミノ]-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-O-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコピラノース)は、バイエル薬品社(大阪)から購入した。ボグリボース((+)-1L- [1(OH)、2,4,5 / 3] -5- [2-ヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ-1-C-(ヒドロキシメチル-1,2,3,4-シクロヘキサンテトロール)は、武田薬品工業(大阪)及びトロントResearch Chemicals社(カナダ・オンタリオ州)から購入した。)

(摘記4e)


」(30頁、図1)

(摘記4f)
「Figure 6 illustrates changes of blood glucose levels and the AUC of delta blood glucose in the meal tolerance test using mice fed a high-fat diet that were treated with E3024 (3 mg/kg) and/or voglibose (0.3 mg/kg). Two-way ANOVA indicates significant main effects of both E3024 and voglibose on the AUC values. No significant interaction was detected between the effects of E3024 and voglibose. The AUC of the combination was significantly lower than those of the other three groups.」(32頁右欄4-13行)
(和訳:
図6は、高脂肪食を与えられ、E3024(3 mg/kg)及び/又はボグリボース(0.3mg/kg)を投与されたマウスを使用した食事耐性試験での血糖値及びデルタ血糖AUCの変化を示している。双方向ANOVAは、AUC値に対するE3024及びvoglibose双方の有意な主効果を示している。E3024とボグリボースの効果の間に有意な相互作用は検出されなかった。それらの組み合わせのAUCは他の3つの群より有意に低かった。)

(摘記4g)


」(36頁、図6)

(摘記4h)
「Fig. 6. Effects of a combination of E3024 (3 mg/kg) and voglibose (0.3 mg/kg) on blood glucose levels in a meal tolerance test (Ensure^((R))H, 10 ml/kg) using mice fed a high-fat diet for four weeks. E3024 and/or voglibose was orally administered 0.5 h prior to the Ensure^((R)) H loading. Changes of blood glucose levels (A) and AUC values of delta blood glucose values between 0 and 2 h (B) are indicated. Values are expressed as the mean ± S.E.M. of eight mice. Results of two-way ANOVA for AUC values of delta blood glucose were as follows: main effect of E3024, P<0.05; main effect of voglibose, P<0.05; interaction of E3024 and voglibose, P>0.05. Results of the Tukey multiple comparison test are as follows: ^(*)P<0.05 vs vehicle group, ^(#)P<0.05 vs E3024 group, ^($)P<0.05 vs voglibose group.」(36頁、図6キャプション)
(和訳:
図6.
4週間高脂肪食を与えたマウスを使用した食事耐性試験(Ensure^((R))(当審注:「(R)」は、Rの丸囲み文字を示す。以下、同じ。)H、10 ml/kg)での血糖値に対する、E3024(3 mg/kg)とボグリボース(0.3 mg/kg)の組み合わせの効果。E3024及び/又はボグリボースはEnsure^((R))Hの負荷の0.5時間前に経口投与された。0から2時間の間の血糖値(A)及びデルタ血糖値AUC値(B)の変化が示されている。各値は、8匹のマウスの平均値±標準誤差として表される。デルタ血糖AUC値に対する二元配置分散分析の結果は次のとおり:E3024の主効果はP <0.05; ボグリボースの主効果はP <0.05; E3024とボグリボースの相互作用はP <0.05。テューキーの多重比較テストの結果は次のとおり:対照群に対して^(*)P<0.05 、E3024群に対して^(#)P <0.05、ボグリボース群に対して^($)P <0.05。)

(摘記4i)
「Figure 7 shows effects of E3024 and/or voglibose on plasma insulin and active GLP-1 levels after the Ensure^((R)) H loading in mice fed a high-fat diet. 」(32頁右欄14-16行)
(和訳:
図7は、高脂肪食を与えられたマウスでのEnsure^((R))H負荷後の血漿インスリン及び活性GLP-1値へのE3024及び/又はボグリボースの影響を表す。)

(摘記4j)
「E3024 alone administration significantly increased plasma active GLP-1 levels 0.5 h after the meal loading compared with the control, while voglibose alone administration did not affect the levels (Fig. 7B). The combination of E3024 and voglibose led to a drastic and significant increase of plasma active GLP-1, being the highest levels among the groups.」(32頁右欄24-31行)
(和訳:
E3024単剤投与により、食事負荷の0.5時間後の血漿活性GLP-1値が対照群と比較して有意に増加した一方、ボグリボース単剤投与は、当該値に影響を与えなかった(図7B)。E3024とボグリボースの組み合わせは、血漿活性GLP-1の劇的かつ有意な増加を起こし、各群の中で、最高の値であった。)

(摘記4k)


」(36頁、図7)

(摘記4l)
「Fig. 7. Effects of a combination of E3024 (3 mg/kg) and voglibose (0.3 mg/kg) on plasma insulin (A) and active GLP-1 levels (B) in mice fed a high-fat diet for four weeks. E3024 and/or voglibose was orally administered 0.5 h prior to the Ensure^((R)) H loading, and blood was collected from the tail vein 15 min after and from the orbital sinus 0.5 h after the Ensure^((R))H loading. A: Plasma insulin levels 15 min after the meal loading. B: Plasma active GLP-1 levels after 0.5 h after the meal loading. Values are expressed as the mean ± S.E.M. of ten mice. Results of two-way ANOVA were as follows for both insulin and GLP-1 cases: main effect of E3024, P<0.05; main effect of voglibose, P<0.05; interaction of E3024 and voglibose, P<0.05. Results of the Tukey multiple comparison test are as follows: ^(*)P<0.05 vs vehicle group, ^(#)P<0.05 vs E3024 group, ^($)P<0.05 vs voglibose group.」(36頁、図7キャプション)
(和訳:
図7.
4週間高脂肪食を与えたマウスにおいて、血漿インスリン(A)及び活性GLP-1値(B)に対する、E3024(3 mg / kg)とボグリボース(0.3 mg / kg)の組み合わせの効果。E3024及び/又はボグリボースはEnsure^((R))Hの負荷の0.5時間前に経口投与され、Ensure^((R))H負荷後、15分後に尾静脈からと0.5時間後に眼窩洞から血液が採取された。
A:食事負荷の15分後の血漿インスリン値
B:食事負荷の0.5時間後の血漿活性GLP-1値
各値は、10匹のマウスの平均値±標準誤差として表される。インスリンとGLP-1の双方に対する二元配置分散分析の結果は次のとおり:E3024の主効果はP <0.05; ボグリボースの主効果はP <0.05; E3024とボグリボースの相互作用はP <0.05。テューキーの多重比較テストの結果は次のとおり:対照群に対して^(*)P <0.05 、E3024群に対して^(#)P <0.05、ボグリボース群に対して^($)P <0.05。)

(エ)引用文献6
原査定の拒絶の理由において引用文献6として引用されたDiabetes Obes. Metab., 2012, Vol.14, No.4, pp.348-357(以下「引用文献6」という。)には、以下の事項が記載されている。

(摘記6a)
「Linagliptin monotherapy provides superior glycaemic control versus placebo or voglibose with comparable safety in Japanese patients with type 2 diabetes: a randomized, placebo and active comparator‐controlled, double‐blind study」(表題)
(和訳:
無作為化プラセボ及び能動比較対照二重盲検試験において、リナグリプチン単剤療法は、日本人2型糖尿病患者に対し、プラセボ又はボグリボースに比べて、同程度の安全性で、優れた血糖コントロールを提供した)

(摘記6b)
「Efficacy
Both doses of linagliptin elicited reductions in HbA1c that were significantly greater than the changes achieved by either placebo at week 12 or voglibose at week 26 (Tables 2 and 3). 」(351頁左欄28-31行)
(和訳:
効果
リナグリプチンの両方の用量は、12週のプラセボ又は26週のボグリボースのいずれによって達成された変化よりも有意に大きいHbA1cの減少を起こした(表2及び3)。)

(摘記6c)
「There were very small reductions in body weight, BMI and waist circumference that were similar between linagliptin and placebo, and small but significant reductions in these endpoints with voglibose over linagliptin (Tables S2 and S3). 」(351頁右欄25-29行)
(和訳:
リナグリプチンとプラセボの間で同程度の体重、BMI及びウエスト周囲長の非常に小さな減少があり、リナグリプチンよりボグリボースを用いた場合には、これらの目標に対して、小さくはあるが有意な減少があった(表S2及びS3)。)

ウ 本件補正発明と引用発明5との対比・判断
(ア)対比
本件補正発明と、引用発明5とを対比する。
本願明細書には、「過体重を、個体が25kg/m^(2)より大きく30kg/m^(2)より小さいボディマス指数(BMI)を有する状態と定義することができる。」「肥満もまた、個体が30kg/m^(2)以上のBMIを有する状態と定義することができる。」(【0067】)と記載されていることから、引用発明5の「α-グルコシダーゼ阻害薬を伴う食事及び運動療法にもかかわらず血糖コントロールが不十分な、成人男女の2型糖尿病患者であって、BMI初期値が25kg/m^(2)以上である患者」は、本件補正発明の「それを必要とする患者」であって「肥満または過体重である2型糖尿病患者」に包含されるものといえる。
また、引用発明5の「2型糖尿病の追加療法のために使用される、α-グルコシダーゼ阻害薬に追加して毎日5mg投与されるリナグリプチンであるDPP-4阻害薬の医薬組成物」は、本件補正発明の「1種または複数種の他の薬剤と併用されてもよい、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(リナグリプチン)又はその薬学的に許容される塩であるDPP-4阻害薬の医薬組成物」であって、「α-グルコシダーゼ阻害薬と組合せて、」「2型糖尿病を治療」「すること」「のために使用され」る、「医薬組成物」に包含されるものである。
そうすると、本件補正発明と引用発明5との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「それを必要とする患者において、1種または複数種の他の薬剤と併用されてもよい、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(リナグリプチン)又はその薬学的に許容される塩であるDPP-4阻害薬の医薬組成物であって、
α-グルコシダーゼ阻害薬と組合せて、
代謝疾患、特に糖尿病、とりわけ2型糖尿病を治療および/または予防すること、ならびに/あるいは
体重コントロールを改善すること、体重を減少させること、満腹感を誘発すること、胃内容排出を抑制すること、または食物摂取量を減少させること、ならびに/あるいは
α-グルコシダーゼ阻害薬に関連する副作用を予防する、それから保護する、その可能性もしくは発生を減少させる、または最小限にすること、
の1つまたは複数のために使用され、
前記患者が、肥満または過体重であるか、および/またはα-グルコシダーゼ阻害薬の用量減少を指示されたかまたは必要とする2型糖尿病患者である、
医薬組成物。」

<相違点>
本件補正発明は、α-グルコシダーゼ阻害薬を「ボグリボースである」としているのに対し、引用発明5は、α-グルコシダーゼ阻害薬を具体的に特定していない点。

(イ)判断
a 相違点について
引用文献3及び4には、α-グルコシダーゼ阻害薬として、ボグリボースが用いられることが記載されており(摘記3b,3d,4c,4d)、また、血漿活性GLP-1値の増加の効果について、各種DPP-4阻害薬とボグリボースを含む各種α-グルコシダーゼ阻害薬の併用により相乗効果を奏することが記載されている(摘記3a,3c,3e,4j,4l)。
さらに、引用文献5には、DPP-4阻害薬であるリナグリプチンとα-グルコシダーゼ阻害薬との組み合わせが、相乗的な血糖コントロールの改善の効果をもたらす旨が示唆されている(摘記5y)。
そうしてみると、引用発明5において、リナグリプチンとの組み合わせにより相乗的な血漿活性GLP-1値の増加の効果を得るためのα-グルコシダーゼ阻害薬として、各種DPP-4阻害薬との組合せで相乗的な効果を奏することが引用文献3及び4に記載されたボグリボースを採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

b 本件補正発明の効果について
本願明細書の【0189】には、血漿活性GLP-1値の増加、体重コントロールの改善及び血糖コントロールの改善の効果が記載されている。
しかしながら、血漿活性GLP-1値の増加の効果については、引用文献3及び4に、各種DPP-4阻害薬とボグリボースを含む各種α-グルコシダーゼ阻害薬の併用により相乗効果を奏することが記載され、引用文献5には、DPP-4阻害薬であるリナグリプチンとα-グルコシダーゼ阻害薬との組み合わせが、相乗的な血糖コントロールの改善の効果をもたらす旨が示唆されていることから、本願明細書に記載の血漿活性GLP-1値の増加の効果は、引用文献3-5に記載された技術的事項から、当業者が予測し得たものである。
次に、体重コントロールの改善の効果については、引用文献6に、2型糖尿病患者へのボグリボース投与が体重を小さくはあるが有意な減少を示し、リナグリプチン投与が非常に小さな減少を示すとの技術的事項が記載されており(摘記6c)、本願明細書に記載の体重コントロールの改善の効果は、引用文献6に記載の技術的事項から、当業者が予測し得たものである。
次に、血糖コントロールの改善の効果について検討する。引用文献5には、α-グルコシダーゼ阻害薬にDPP-4阻害薬であるリナグリプチンを追加する療法により、糖化ヘモグロビン(HbA1c)レベルを減少させることが記載されている(摘記5r)。そして、引用文献4には、ボグリボースとDPP-4阻害薬であるE3024との組合せによる血糖値の低下の効果が、おのおの単独の効果よりも高い旨が記載されている(摘記4d,4g)。また、引用文献6に記載(摘記6b)の、2型糖尿病患者へのリナグリプチン5mg単剤投与による、12週目のHbA1c値の減少量0.24より、引用文献5に記載(摘記5n及び図2)の12週目のリナグリプチンとα-グルコシダーゼ阻害薬の併用投与による、12週目のHbA1c値の減少量約0.65が大きくなっている。そうすると、本件補正発明における、リナグリプチン及びボグリボースの組合せによる血糖コントロールの改善の効果は、引用文献4-6に記載された技術的事項から、当業者が予測し得たものと認められる。
したがって、本件補正発明が、予測できない格別顕著な効果を奏したものと認めることはできない。

(ウ)小括
したがって、本件補正発明は、引用文献5に記載された発明並びに引用文献3-6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求書における主張について
審判請求人は、審判請求書において、「すなわち、リナグリプチンとボグリボースとの併用によって奏される本発明の効果(血糖コントロールの改善、体重コントロールの改善、及び血漿活性GLP-1レベルの増加)は、引用文献5及びその他の引用文献の記載からは読み取れない効果であり、当業者にとって予想外の効果である。」(審判請求書9頁)と主張する。
しかしながら、血糖コントロールの改善及び体重コントロールの改善についても、血漿活性GLP-1レベルの増加についても、上記ウ(イ)bで既述したとおりであり、当業者が予測し得た効果である。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。

(イ)令和1年11月8日提出の上申書における主張について
審判請求人は、令和1年11月8日提出の上申書において、請求項1から「かまたは必要とする」との記載を削除する補正案を提示し、当該補正案により、拒絶の理由が解消されることを前提とした上で、補正の機会を求めている。そして、拒絶の理由が解消される理由として、
「引用文献3及び6の記載から、ボグリボースがαーグルコシダーゼ阻害剤であることが知られており、引用文献5におけるαーグルコシダーゼ阻害剤としてボグリボースが使用できる可能性があると言えるとしても、それだけでは本発明の進歩性を否定するのに十分ではないと考える。αーグルコシダーゼ阻害剤としては、ボグリボースの他にも、アカルボースやミグリトースが知られており、これらの中から特別にボグリボースを選択する動機付けがなければ、進歩性は否定されるべきではない。
加えて、引用文献1-6のいずれにおいても、リナグリプチンとボグリボースとの併用によって、上記(i)?(iii)で見られるような本発明の効果を示唆する記載はない。いずれの引用文献においても、リナグリプチンとボグリボースとの組み合わせ時の効果について、薬理データによる裏付けはなく、特に、リナグリプチンと低用量のボグリボースとを組み合わせが、本発明で特定されるような用途に有用であることについて、具体的な裏付けはない。」(上申書4-5頁)
と主張している。
しかしながら、上記補正案による補正を前提として、拒絶の理由が解消されると主張する上記理由について検討すると、αーグルコシダーゼ阻害薬としてボグリボースを選択し得た点については、上記ウ(イ)aで説示したとおりであり、本件補正発明の効果については、上記ウ(イ)bで説示したとおりであって、請求人の上記主張は採用できないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない補正事項を含むものであり、或いは、本件補正による請求項1についての補正が、同法同条同項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるとしても、本件補正発明は、同法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年3月12日提出の手続補正書による手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成30年7月2日提出の手続補正書による手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載した次のとおりのものである(なお、下線は、平成31年3月12日提出の手続補正書による手続補正によって変更された箇所の変更前の記載を示す。)。

「【請求項1】
それを必要とする患者において、1種または複数種の他の薬剤と併用されてもよい、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(リナグリプチン)又はその薬学的に許容される塩であるDPP-4阻害薬の医薬組成物であって、
ボグリボースであるα-グルコシダーゼ阻害薬と組合せて、
代謝疾患、特に糖尿病、とりわけ2型糖尿病を治療および/または予防すること、ならびに/あるいは
体重コントロールを改善すること、体重を減少させること、満腹感を誘発すること、胃内容排出を抑制すること、または食物摂取量を減少させること、ならびに/あるいは
α-グルコシダーゼ阻害薬に関連する副作用を予防する、それから保護する、その可能性もしくは発生を減少させる、または最小限にすること、
の1つまたは複数のために使用され、
前記患者が、肥満または過体重であるか、もしくはそのリスクがある、および/または腎機能障害(例えば、軽度、中等度、重度もしくはESRDステージのもの)を有するか、もしくはそのリスクがある、および/またはα-グルコシダーゼ阻害薬の用量減少を指示された2型糖尿病患者である、
医薬組成物。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし14に係る発明は、引用文献1-6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献の記載事項等
原査定の拒絶理由で引用された引用文献3-6の記載事項は、前記第2[理由]2(2)イ(ア)ないし(エ)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本件補正前の請求項1に記載された発明である本願発明は、本件補正発明とは、以下の関係を有するものとなっている。
(1)「2型糖尿病患者」を限定する択一的な条件として、「腎機能障害(例えば、軽度、中等度、重度もしくはESRDステージのもの)を有するか、もしくはそのリスクがある」との選択肢も有している。
(2)「2型糖尿病患者」を限定する別の択一的な条件である「肥満または過体重である」との選択肢において、「もしくはそのリスクがある」との選択肢も有している。
(3)「2型糖尿病患者」を限定する別の択一的な条件である「α-グルコシダーゼ阻害薬の用量減少を指示されたかまたは必要とする」との選択肢において、「または必要とする」との選択肢を有していない。
(4)上記(1)ないし(3)の点以外は、本願発明の発明を特定するための事項は、本件補正発明の発明を特定するための事項と全て共通している。

そうすると、本願発明において「2型糖尿病患者」を限定する択一的な条件として「肥満または過体重である」との選択肢を選択した場合の発明は、本件補正発明において「2型糖尿病患者」を限定する択一的な条件として「肥満または過体重である」との選択肢を選択した場合の発明と同一の発明である。
そして、前記第2[理由]2(特に、前記第2[理由]2(2)ウ)に記載したとおり、本件補正発明において「2型糖尿病患者」を限定する択一的な条件として「肥満または過体重である」との選択肢を選択した場合の発明(上記同一の発明)は、引用文献5に記載された発明並びに引用文献3-6に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記同一の発明を包含する本願発明も、引用文献5に記載された発明並びに引用文献3-6に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-12-13 
結審通知日 2019-12-16 
審決日 2019-12-27 
出願番号 特願2016-513398(P2016-513398)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 572- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 清子  
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 渡邊 吉喜
穴吹 智子
発明の名称 DPP-4阻害薬とα-グルコシダーゼ阻害薬との組合せ  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 須田 洋之  
代理人 市川 さつき  
代理人 藤原 健史  
代理人 服部 博信  
代理人 山崎 一夫  

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