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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1362299
審判番号 不服2019-4637  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-08 
確定日 2020-06-02 
事件の表示 特願2015- 8875「X線装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月25日出願公開、特開2016-131754、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年1月20日の出願であって、平成29年10月6日付けで拒絶理由が通知され、同年12月1日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成30年5月1日付けで拒絶理由が通知され、同年7月13日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月20日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成31年4月8日に拒絶査定不服審判の請求がされ、それと同時に手続補正がされ、令和元年12月26日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和2年3月9日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?8に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明8」という。)は、令和2年3月9に提出された手続補正書の手続補正(以下「本件補正」という。)で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】検出されたX線に基づいて非造影状態の透視画像を取得する画像取得手段と、
前記透視画像に血管輪郭像を含むマスク像を重畳する画像重畳手段と、
前記透視画像に前記マスク像を重畳した表示画像を生成する表示画像生成手段と、
当該生成された画像を表示する表示手段と、
前記マスク像を重畳する領域を前記透視画像の一部領域に設定する領域設定手段を備え、
前記画像重畳手段は、前記領域設定手段が設定した前記透視画像の一部領域に対応する範
囲の前記マスク像を、前記透視画像上の前記一部領域に重畳することを特徴とする
X線装置。」
そして、本願発明2?8は、いずれも本願発明1を直接的又は間接的に引用した発明であり、本願発明1をさらに減縮した発明である。

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由1(明確性)について
・請求項1?8
(1)本件補正前の請求項1に「前記マスク像を重畳する領域を設定する領域設定手段」と記載されているが、「前記マスク像を重畳する領域を」どこに「設定する」のか特定されておらず、不明確である。
(2)本件補正前の請求項1に「前記領域設定手段が設定した領域に対応するマスク像の一部領域を前記透視画像の対応する領域上に重畳する」と記載されているが、「前記領域設定手段が設定した領域」に対応するのが「マスク像の一部領域」であり、その「マスク像の一部領域」を「前記透視画像の対応する領域」上に重畳することを意味しているならば一応の理解はできるが、「前記領域設定手段が設定した領域」に対応するのが「マスク像」で、そのマスク像の「一部領域」を「前記透視画像の対応する領域」上に重畳するとも解されるところ、この場合には、「前記領域設定手段が設定した領域」と「前記透視画像の対応する領域」との関係が明確とはいえない。
(3)小括
よって、上記(1)及び(2)の点で、本件補正前の請求項1及びそれを引用する請求項2?8の記載は不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由2(新規性)及び理由3(進歩性)について
・請求項1?8
・引用文献1、2
本件補正前の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項から当業者が容易になし得た発明であることから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件補正前の請求項2?8に係る発明についても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項から当業者が容易になし得た発明であることから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2000-342565号公報
2.国際公開第2014/020495号

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。
(1ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、X線診断装置に関するもので、特に透視下でのカテーテル操作をサポートする参照画像提示機能に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、循環器疾患を診断するX線診断装置には、X線透視下で血管内の目的部位までカテーテルを進める検査、治療において、カテーテルを進める上での道標とするために、X線透視画像と同時に血管撮影画像(参照画像)を表示する機能が設けられている。このカテーテルを進める上で参照する参照画像は、透視画像が表示されているモニタ装置とは別のモニタ装置に同時に表示される場合と、同じモニタ装置に重ねて同時に表示する場合等があるが、いずれの場合も参照画像は透視画像と概略一致した方向からの画像が選択される。
【0003】また、参照画像としては、血管をX線を透視しにくい造影剤で満たして撮影した画像(コントラスト画像)を用いる場合や、コントラスト画像と造影剤なしの画像(マスク画像)とのサブトラクション処理(引き算処理)によって得られた血管のみの画像(DSA画像)を用いる場合があり、これらは検査や治療に応じて選択されるようになっている。」

(1イ)「【0030】(当該実施の形態の参照画像の特徴)ここで、当該実施の形態のX線診断装置においては、このようにして参照画像を形成し記憶するのであるが、この参照画像は、以下に説明する透視視野よりも大きな視野で撮影されたものであることが特徴となっている。これは、例えばX線検出器3として検出面の大きなものを設け、X線絞り5の開口部を最大に制御して一度に広範囲の視野のX線像を取り込むか、或いは患者の広範囲の撮影部位を1回の撮影で撮影可能な部位毎に分割してそれぞれ撮影を行い、各部位に対応するDSA画像を参照画像記憶部14上で繋ぎ合わせて1枚の参照画像として記憶することで実現することができる。
【0031】なお、このような患者の広範囲の参照画像の撮影方法は一例であり、これら以外の方法であっても、広範囲の参照画像を撮影する場合には、「予め広範囲の参照画像を撮影しておく」という当該技術的思想の範疇であることは勿論である。
【0032】(透視画像の形成動作)次に、参照画像記憶部14にDSA画像(参照画像)が記憶されると、検査、治療の開始が可能となる。検査、治療が開始されると、患者の所望の部位に対して少線量、かつ前述の参照画像の形成時よりも狭い範囲にX線が曝射され透視が行われる。この透視による投影データは、X線検出器3から透視画像形成部15に供給される。透視画像形成部15は、前記少線量かつ狭範囲のX線の曝射による投影データに基づいて透視画像を形成し、これを画像重ね合わせ部17に供給する。
【0033】(参照画像の切り出し動作)次に、このようにして患者の所望の部位の透視画像が形成されるのであるが、この際、支持器制御位置検出部6、X線絞り制御位置検出部8及び寝台制御位置検出部9は、それぞれこの透視時における支持器1、X線絞り5、寝台4の現在位置を検出し、この検出出力をシステム制御部20に供給する。システム制御部20は、各検出部6,8,9からの各検出出力に基づいて現在の透視視野を検出し、この検出出力を画像切り出し制御部16に供給する。画像切り出し制御部16は、参照画像記憶部14に記憶されている広範囲のDSA画像のうち、システム制御部20により検出された現在の透視視野に対応する範囲のDSA画像を切り出し制御し、これを画像重ね合わせ部17に供給する。
【0034】システム制御部20は、この透視時には随時、現在の透視視野の検出を行っており、この検出出力を画像切り出し制御部16に供給する。このため、支持器1、X線絞り5、或いは寝台4が移動操作され透視視野が変更されると、これに追従してDSA画像の切り出し範囲が変更されることとなる。
【0035】(透視画像と参照画像との重ね合わせ処理動作)画像重ね合わせ部17は、前記透視画像及び切り出されたDSA画像が供給されると、このDSA画像に透視画像を重ね合わせた画像(透視ロードマップ像)を形成する。この際、透視画像のマトリクスサイズとDSA画像のマトリクスサイズが異なる場合には、画像重ね合わせ部17は、いずれか或いは両方の画像に対してアフィン変換処理による拡大処理或いは縮小処理を施し、各画像のマトリクスサイズを一致させたうえで前記重ね合わせ処理を行う。そして、画像重ね合わせ部17は、この重ね合わせ処理により形成した透視ロードマップ像をモニタ装置18に表示制御する。
【0036】図2は、このような重ね合わせ処理により透視ロードマップ像が形成される様子を模式的にしめした図であり、同図中、点線の枠は広範囲で撮影された参照画像の撮影範囲(参照画像領域)を示し、この点線の枠内の実線の枠は透視画像の透視視野を示す。また、図2中、実線の大きな枠は前記参照画像(DSA画像)の撮影範囲を示し、この実線の大きな枠内の小さな実線の枠は、透視視野に対応して切り出されるDSA画像の切り出し範囲を示している。
【0037】この図2からわかるように、透視時には参照画像の撮影範囲内を透視画像の透視視野が移動するのであるが、この透視視野の移動に対応する範囲のDSA画像が切り出されて該透視画像と重ね合わせ処理される(図2中記号+)。そして、この重ね合わせ処理により形成された透視ロードマップ像がモニタ装置18に表示される。
【0038】これにより、例えば図2に示すように広範囲の血管走行状態を示すDSA画像の一部と、カテーテル25の現在位置を示す透視画像とを重ね合わせた透視ロードマップ像をモニタ表示することができる。そして、透視視野を変更した場合には、参照画像の撮影のし直しをしなくても、透視視野の変更に追従した範囲のDSA画像を切り出し、これに透視画像を重ね合わせてモニタ表示することができる。」

(1エ)図2として、以下の図面が記載されている。
【図2】


したがって、上記引用文献1(特に下線部参照)には、次の発明が記載されていると認められる。なお、図面における符号については省略した。
「透視画像形成部は、少線量かつ狭範囲のX線の曝射による投影データに基づいて透視画像を形成し、これを画像重ね合わせ部に供給し、
画像切り出し制御部は、参照画像記憶部に記憶されている広範囲のDSA画像のうち、システム制御部により検出された現在の透視視野に対応する範囲のDSA画像を切り出し制御し、これを画像重ね合わせ部に供給し、
画像重ね合わせ部は、前記透視画像及び切り出されたDSA画像が供給されると、このDSA画像に透視画像を重ね合わせた画像(透視ロードマップ像)を形成し、
そして、画像重ね合わせ部は、この重ね合わせ処理により形成した透視ロードマップ像をモニタ装置に表示制御する、
X線診断装置。」(以下「引用発明」という。)

2 引用文献2について
引用文献2には、以下の事項が記載されている。なお、訳文は、特表2015-523183号公報を参照し、訳文に付した下線は当審において付与した。
(2ア)「Broadly speaking, image processer IP operates to receive a stream of the fluoros F and combines each fluoro with a corresponding road map to produce a combined image CI for any received fluoro F. Said combined image CI can then be displayed as a graphics display GD on a monitor M for the benefit of the radiologist during the intervention This is because the so produced graphic display GD will show a guidewire footprint GWF at the position corresponding to the acquisition time of the current fluoro with the corresponding roadmap outlining the contours of the vasculature at the current position of the guide-wire tip. Portions of the vasculature where the tip is not currently resident may not be shown in sufficient contrast however this is not necessary because for the radiologist only the current locality of the guide-wire tip is of interest to safely navigate the guidewire. More specifically, the graphics display GD produced by image processor IP as proposed herein is capable of showing the instant fluoro together with a selected one of a plurality of roadmaps. The roadmap is so selected that the outlines of the vasculature are represented at least with a user adjustable contrast at a user definable vicinity around the current guide-wire tip. According to one embodiment, the contrast is pre-set and cannot be changed by the user. 」(8頁11?25行)
(訳文:大まかに言えば、画像プロセッサIPは、一連の蛍光透視画像Fを受信し、各蛍光透過画像を、対応するロードマップと組み合わせて、任意の受信した蛍光透過画像Fに対して組み合わされた画像CIを生成する。組み合わされた画像CIは次に、介入の間に放射線科医のために、モニタM上にグラフィクス表示GDとして表示される。これは、このように生成されたグラフィック表示GDは、現在の蛍光透過画像の取得時間に対応する位置におけるガイドワイヤフットプリントGWFを、ガイドワイヤの先端の現在の位置における血管系の輪郭を描く対応するロードマップと共に示すからである。現在、先端が置かれていない血管系の部分は、十分なコントラストでは示されないが、この点は、放射線科医にとっては、ガイドワイヤの先端の現在の局所性のみが、ガイドワイヤを安全にナビゲートするには関心の対象であるので、不要である。より具体的には、本明細書において提案される画像プロセッサIPによって生成されるグラフィック表示GDは、即時の蛍光透視画像を、複数のロードマップのうちの選択された1つのロードマップと共に示すことが可能である。ロードマップは、血管系の輪郭が、少なくともユーザが調節可能なコントラストで、現在のガイドワイヤの先端の周囲のユーザが定義可能な付近において表されるように選択される。一実施形態によれば、コントラストは事前に設定され、ユーザによって変更不可能であってもよい。)

(2イ)「The so identified contextual road map is then forwarded to graphics display generator G which operates to overlay the contextual road map onto the current fluoro Ftl to produce a combined image CItl . The combined image can be displayed in a graphics display GD on screen M to so assist the interventional radiologist in navigating the vasculature ROI. In the combined image CIt, the pixel information is identical to that of the current fluoro except at pixel positions identified by the roadmap overlaid. The roadmap identified pixel positions, that is, the vessel footprint silhouette is highlighted with respect to the remaining pixel information in the angio to so let the outlines of the vasculature better stand out to the eye of the observer. Highlighting is achieved in one embodiment by color-coding. In one embodiment, the region between the outlining contour is likewise color-coded and the guidewire footprint GWF pixels are coded in different color to achieve a visually high contrast between the two. According to one embodiment, the image portion in the combined image CI inside the contextual roadmap is displayed in red with the guidewire footprint GWF displayed in black.」(14頁13?26行)
(訳文:このように特定されたコンテクストロードマップは次に、グラフィック表示生成器Gに転送される。当該グラフィック表示生成器Gは、当該コンテクストロードマップを、現在の蛍光透視画像Ft1上にオーバレイして、組み合わせられた画像CIt1を生成する。組み合わせられた画像は、介入放射線科医が血管ROI内をナビゲートするのを支援するように、スクリーンM上にグラフィック表示GDとして表示される。組み合わせられた画像CIt1では、オーバレイされているロードマップによって特定される画素位置以外は、画素情報は、現在の蛍光透視画像の画像情報と同一である。ロードマップによって特定される画素位置、即ち、血管フットプリントシルエットは、血管造影画像における残りの画素情報に対してハイライトされ、これにより、血管系の輪郭が観察者の目により目立つようにされる。一実施形態では、ハイライトは、カラー符号化によって達成される。一実施形態では、輪郭の間の領域も同様にカラー符号化され、ガイドワイヤフットプリントGWFの画素も、異なる色で符号化され、これらの2つの間には、視覚的に高いコントラストが達成される。一実施形態によれば、コンテクストロードマップの内側の組み合わされた画像CIt1内の画像部は、赤で表示され、ガイドワイヤフットプリントGWFは、黒で表示される。)

(2ウ)「With reference to Figure 3, there is shown a schematic sequence of graphic displays GDtl , GDt2 according to one embodiment as they would appear on screen M at subsequent times tl At time t=tl, guidewire GW resides at position PI as evidenced by guide wire footprint GWF. A proximately focused road map RM1 is displayed which highlights the locale around the current position PI.」(15頁24?29行)
(訳文:図3を参照するに、一実施形態に従って、後続の時間t1<t2においてスクリーンM上に現れる概略的な一連のグラフィック表示GDt1、GDt2が示される。
時間t=t1において、ガイドワイヤGWは、ガイドワイヤフットプリントGWFによって明らかなように、位置P1にある。近接してフォーカスされているロードマップRM1が表示され、当該ロードマップRM1は、現在の位置P1の周囲の場所をハイライトする。)

(2エ)FIG.3として、以下の図面が記載されている。


第5 当審の判断
1 理由1について
上記第3の理由1の(1)で指摘した点は、本件補正により「前記マスク像を重畳する領域を前記透画像の一部領域に設定する領域設定手段」(下線は補正箇所。)と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

(2)上記第3の理由1の(2)で指摘した点は、本件補正により「前記領域設定手段が設定した前記透視画像の一部領域に対応する範囲の前記マスク像を、前記透視画像上の前記一部領域に重畳することを」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

(3)よって、理由1の拒絶理由は解消した。

2 理由2及び3について
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
(ア)画像取得手段について
引用発明の「少線量かつ狭範囲のX線の曝射による投影データに基づいて」「形成する」「透視画像」は、上記(1ア)に記載されているような「患者に造影剤を注入して撮影したX線像(コントラスト画像)」ではないから、非造影状態の透視画像である。
してみれば、引用発明の「少線量かつ狭範囲のX線の曝射による投影データに基づいて透視画像を形成」する「透視画像形成部」は、本願発明1の「検出されたX線に基づいて非造影状態の透視画像を取得する画像取得手段」に相当する。

(イ)画像重畳手段、表示画像生成手段について
引用発明の「DSA画像」は、上記(1ア)のとおり「血管のみの画像(DSA画像)」であるから、本願発明1の「血管輪郭像を含むマスク像」に相当する。
そうすると、引用発明の「前記透視画像及び切り出されたDSA画像が供給されると、このDSA画像に透視画像を重ね合わせた画像(透視ロードマップ像)を形成」する「画像重ね合わせ部」は、本願発明1の「前記透視画像に血管輪郭像を含むマスク像を重畳する画像重畳手段」に相当すると同時に、引用発明の「この重ね合わせ処理により形成した透視ロードマップ像をモニタ装置に表示制御する」「画像重ね合わせ部」は、本願発明1の「前記透視画像に前記マスク像を重畳した表示画像を生成する表示画像生成手段」に相当する。

(ウ)表示手段について
引用発明の「透視ロードマップ像を」「表示」する「モニタ装置」は、本願発明1の「当該生成された画像を表示する表示手段」に相当する。

(エ)引用発明の「X線診断装置」は、本願発明1の「X線装置」に相当する。

上記(ア)?(エ)を踏まえると、本願発明1と引用発明とは、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「検出されたX線に基づいて非造影状態の透視画像を取得する画像取得手段と、
前記透視画像に血管輪郭像を含むマスク像を重畳する画像重畳手段と、
前記透視画像に前記マスク像を重畳した表示画像を生成する表示画像生成手段と、
当該生成された画像を表示する表示手段と、
を備える、X線装置。」

(相違点)
X線装置が、本願発明1では、「前記マスク像を重畳する領域を前記透視画像の一部領域に設定する領域設定手段」を備え、画像重畳手段が「領域設定手段が設定した前記透視画像の一部領域に対応する範囲の前記マスク像を、前記透視画像上の前記一部領域に重畳する」ものであるのに対し、引用発明では、透視画像の一部領域に設定する領域設定手段を備えておらず、したがって、画像重畳手段が、透視画像の一部領域に対応する範囲のマスク像を、透視画像上の前記一部領域に重畳するものではない点。

イ 判断
(ア)相違点についての判断
上記引用文献2には、一連の蛍光透視画像Fを対応するロードマップRMと組み合わせて画像CIを生成し、モニタM上にグラフィクス表示GDとして表示することが記載されており、現在の蛍光透視画像Ft1上にロードマップをオーバレイして組み合わせられた画像CIt1を生成し、組み合わせられた画像CIt1では、ロードマップによって特定される画素位置、即ち、血管フットプリントシルエットは、血管造影画像における残りの画素情報に対してハイライトされ、これにより、血管系の輪郭が観察者の目により目立つようにすることも記載されている。ここで、蛍光透視画像F(本願発明1の「透視画像」)を対応するロードマップRM(本願発明1の「血管輪郭像を含むマスク像」)と組み合わせて(本願発明1の「重畳する」)画像CIを生成し(本願発明1の「表示画像を生成する」)、モニタM上にグラフィクス表示GDとして表示する(本願発明1の「生成された画像を表示する」)ことは、本願発明1の透視画像に血管輪郭像を含むマスク像を重畳した表示画像を生成し、生成された画像を表示することに相当するといえるが、「血管造影画像における残りの画素情報に対してハイライトされ」と記載されているように、引用文献2に記載されている技術は、一連の蛍光透視画像Fを対応するロードマップRMと組み合わせて画像CIを生成し、ある時間t1の蛍光透視画像Ft1に対応する部分のロードマップRMの部分をハイライトするだけであり、ハイライトしない他のロードマップの部分もその他の蛍光透視画像を組み合わせているものであるから、本願発明1のように、「透視画像の一部領域に対応する範囲の前記マスク像を、前記透視画像上の前記一部領域に重畳する」ものとはいえない。
そうすると、引用文献2に記載の技術は、上記相違点に相当するものではないから、引用文献2に記載された事項から上記相違点を当業者が容易になし得たこととすることはできない。

(イ)小括
よって、上記相違点は実質的な相違点であり、本願発明1は引用発明ではなく、そして、その相違点は引用文献2に記載された事項から当業者が容易になし得たものではないから、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された事項から当業者が容易になし得た発明でもない。

(2)本願発明2?8について
本願請求項2?8は、上記第2で述べたように、いずれも本願発明1を直接的又は間接的に引用した発明であり、本願発明1をさらに減縮した発明であるから、本願発明1と同様に、引用発明及び引用文献2に記載された事項から当業者が容易になし得た発明ではない。

第6 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、本件補正前の請求項1に係る発明は、上記引用文献2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである(なお、本件補正前の請求項3に係る発明ついても、請求項1に係る発明と同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとしているが、請求項3に係る発明については、平成30年5月1日付けで通知した拒絶理由では述べられていない)。
しかしながら、上記引用文献2には、上記第4の2(1)イ(ア)で述べたように、本願発明1の「透視画像の一部領域に対応する範囲の前記マスク像を、前記透視画像上の前記一部領域に重畳する」ことが記載されていないのであるから、その余の本願発明1の特定事項について検討するまでもなく、上記引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1は引用発明ではなく、本願発明1?8は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、あるいは、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-05-12 
出願番号 特願2015-8875(P2015-8875)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (A61B)
P 1 8・ 121- WY (A61B)
P 1 8・ 113- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 原 俊文  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 三崎 仁
渡戸 正義
発明の名称 X線装置  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  
代理人 妹尾 明展  
代理人 阿久津 好二  

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