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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C04B
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
管理番号 1362316
異議申立番号 異議2018-701010  
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-06-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-13 
確定日 2020-03-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6341952号発明「石膏ボード及び石膏ボードの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6341952号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1、2〕、〔3、4〕、〔5、6〕、〔7〕について訂正することを認める。 特許第6341952号の請求項3、4、7に係る特許を維持する。 特許第6341952号の請求項1、2、5、6に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第6341952号の請求項1?7に係る発明についての出願は、平成28年4月14日の出願であって、平成30年5月25日にその特許権の設定登録がされ、平成30年6月13日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年12月13日付け:特許異議申立人 金澤毅(以下、「特許異議申立人」という。)による請求項1?7に係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年 2月14日付け:取消理由通知書
平成31年 4月17日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年 6月 3日付け:特許異議申立人による意見書の提出
令和 1年 7月 5日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年 9月 4日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年10月16日付け:特許異議申立人による意見書の提出
令和 1年12月12日付け:取消理由通知
令和 2年 2月12日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

第2.訂正請求について

1.訂正の内容

本件訂正請求は令和2年2月12日付けのものであって、一群の請求項1?4に係る訂正事項1?4及び一群の請求項5?7に係る訂正事項1?3からなる(下線部は訂正箇所)。
なお、平成31年4月17日付け及び令和1年9月4日付けの訂正請求は取り下げられたものとみなす。

(1)一群の請求項1?4に係る訂正

訂正事項1
請求項3について、「前記芯材は、有機系の防カビ剤を含有しない請求項1又は請求項2に記載の石膏ボード。」との記載を「焼石膏、及び水を含有するスラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材と、この芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙とを備える多湿環境用石膏ボードであって、前記スラリーは、ポルトランドセメントを含有し、前記ポルトランドセメントの含有量が、前記焼石膏100質量部当たり、0.1?1.0質量部であり、かつ前記スラリーは、デンプンを含有し、前記デンプンの含有量が、前記焼石膏100質量部当たり、0.3?2.4質量部であり、前記芯材は、有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用石膏ボード。」に訂正する。

訂正事項2
請求項4について、「JIS R 9101に準拠した前記芯材のpHが、5.8?8.6である請求項1?請求項3の何れか一項に記載の石膏ボード。」との記載を「JIS R 9101に準拠した前記芯材のpHが、5.8?8.6である請求項3に記載の多湿環境用石膏ボード。」に訂正する。

訂正事項3
請求項1を削除する。

訂正事項4
請求項2を削除する。

(2)一群の請求項5?7に係る訂正

訂正事項1
請求項7について、「前記添加工程において、前記スラリーに、有機系の防カビ剤を添加しない請求項5又は請求項6に記載の石膏ボードの製造方法。」との記載を「焼石膏、及び水を含有するスラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材と、この芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙とを備える多湿環境用石膏ボードの製造方法であって、前記スラリーに、ポルトランドセメントを、前記焼石膏100質量部当たり、0.1?1.0質量部の割合で、添加し、かつ、デンプンを、前記焼石膏100質量部当たり、0.3?2.4質量部の割合で添加する添加工程を有し、前記添加工程において、前記スラリーに、有機系の防カビ剤を添加しない、有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用石膏ボードの製造方法。」に訂正する。

訂正事項2
請求項5を削除する。

訂正事項3
請求項6を削除する。

(3)一群の請求項について

訂正前の請求項1?3の記載を訂正前の請求項4が引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?4は一群の請求項であり、訂正前の請求項5、6の記載を訂正前の請求項7が引用する関係にあるから、訂正前の請求項5?7は一群の請求項である。
ここで、令和2年2月12日付け訂正請求書において、訂正後の請求項3及びそれを引用する請求項4については、「別の訂正単位とする求め」がされており、一群の請求項だった請求項1、2から独立させる訂正がなされている。また、訂正後の請求項7については、「別の訂正単位とする求め」がされており、一群の請求項だった請求項5、6から独立させる訂正がなされている。
したがって、本件訂正請求は、〔1、2〕、〔3、4〕、〔5、6〕、〔7〕について請求したものと認められる。

2.訂正の判断

(1)一群の請求項1?4に係る訂正

ア.訂正事項1について

訂正事項1は、請求項1を引用していた請求項3を独立形式に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。さらに、請求項3に記載されていた「石膏ボード」において「多湿環境用」であることを追加し石膏ボードをより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
そして、「多湿環境用」石膏ボードであることは、本件明細書の段落0003に「この種の石膏ボードは、通常の石膏ボードと比べて、湿気の多い環境下で使用されるため、カビの発生を防止又は抑制すること(いわゆる、防カビ性)が求められている。」と記載されていることから、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ.訂正事項2について

訂正事項2は、「請求項1?請求項3の何れか一項に記載の石膏ボード。」との記載を、「請求項3に記載の多湿環境用石膏ボード。」に訂正するものであり、引用する請求項を「請求項1から3の何れか一項」から「請求項3」に訂正するものであるから、選択的引用請求項の一部を削除するものである。さらに、請求項4に記載されていた「石膏ボード」において「多湿環境用」であることを追加し石膏ボードをより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
そして、「多湿環境用」石膏ボードであることは、本件明細書の段落0003に「この種の石膏ボードは、通常の石膏ボードと比べて、湿気の多い環境下で使用されるため、カビの発生を防止又は抑制すること(いわゆる、防カビ性)が求められている。」と記載されていることから、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、訂正事項2は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ.訂正事項3、4について

訂正事項3、4は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)一群の請求項5?7に係る訂正

ア.訂正事項1について

訂正事項1は、請求項5を引用していた請求項7を独立形式に改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。さらに、請求項7に記載されていた「石膏ボードの製造方法」において「有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用」であることを追加し石膏ボードの製造方法をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。
そして、「多湿環境用」石膏ボードの製造方法であることは、本件明細書の段落0003に「この種の石膏ボードは、通常の石膏ボードと比べて、湿気の多い環境下で使用されるため、カビの発生を防止又は抑制すること(いわゆる、防カビ性)が求められている。」と記載されており、また「有機系の防カビ剤を含有しない」石膏ボードの製造方法であることは、段落0006には、「本発明の目的は、一般的な防カビ剤を使用せずに、石膏部材及び石膏ボードに防カビ性を付与する技術を提供することである。」と記載されていることから、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでもある。
また、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ.訂正事項2、3について

訂正事項2、3は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)独立特許要件について

特許異議申立ては、訂正前の全ての請求項1?7についてされているので、一群の請求項1?4に係る訂正事項1?4及び一群の請求項5?7に係る訂正事項1?3に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.まとめ

以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に規定された事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3、4〕、〔5、6〕、〔7〕について訂正することを認める。

第3.本件発明について

本件特許の請求項3、4、7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明3」、「本件発明4」及び「本件発明7」という。)は、令和2年2月12日付け訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。(下線部は訂正箇所)。

【請求項1】
(削除)

【請求項2】
(削除)

【請求項3】
焼石膏、及び水を含有するスラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材と、この芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙とを備える多湿環境用石膏ボードであって、
前記スラリーは、ポルトランドセメントを含有し、前記ポルトランドセメントの含有量が、前記焼石膏100質量部当たり、0.1?1.0質量部であり、かつ
前記スラリーは、デンプンを含有し、前記デンプンの含有量が、前記焼石膏100質量部当たり、0.3?2.4質量部であり、
前記芯材は、有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用石膏ボード。

【請求項4】
JIS R 9101に準拠した前記芯材のpHが、5.8?8.6である請求項3に記載の多湿環境用石膏ボード。

【請求項5】
(削除)

【請求項6】
(削除)

【請求項7】
焼石膏、及び水を含有するスラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材と、この芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙とを備える多湿環境用石膏ボードの製造方法であって、
前記スラリーに、ポルトランドセメントを、前記焼石膏100質量部当たり、0.1?1.0質量部の割合で、添加し、かつ、デンプンを、前記焼石膏100質量部当たり、0.3?2.4質量部の割合で添加する添加工程を有し、
前記添加工程において、前記スラリーに、有機系の防カビ剤を添加しない、有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用石膏ボードの製造方法。

第4.取消理由について

1.令和1年12月12日付け取消理由について

(1)取消理由の概要

本件特許の取消理由の概要は以下のとおりである。

理由1(明確性)
令和1年9月4日付けの訂正請求に係る訂正後の請求項7の記載は添加工程以外で有機系の防カビ剤を石膏ボードに用いることを包含するものであり、当該請求項7の製造方法により製造された多湿環境用石膏ボードが有機系の防カビ剤を含有するのか否かが不明確であり、当該請求項7に係る発明を明確に把握することができないから、当該請求項7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。

(2)取消理由に対する当審の判断

本件発明7に係る請求項7の記載は、上記第3で示したとおり「有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用石膏ボードの製造方法」であることが明らかとなっているため、特許請求の範囲の記載に不明確な点はなく、当該取消理由は理由がない。

2.令和1年7月5日付け取消理由(決定の予告)について

(1)取消理由(決定の予告)の概要

本件特許の取消理由(決定の予告)の概要は以下のとおりである。

理由1(進歩性)
平成31年4月17日付けの訂正請求に係る訂正後の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記甲第2号証、参考文献2、参考文献4、及び甲第6号証に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

甲第2号証:国際公開第2011/052048号
参考文献2:特開平10-180930号公報
参考文献4:特開昭61-146750号公報
甲第6号証:特開2011-74693号公報

(2)取消理由(決定の予告)に対する当審の判断

ア.各甲号証等の記載事項

(ア)甲第2号証

甲第2号証には、以下の記載がある。(「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)

(アa)「[0008]
本発明に係る石膏ボードは、石膏を焼成した焼石膏(半水石膏)100質量部当たりセメントを0.2?5.0質量部の割合で用い、また各種の混和材や薬品類を必要に応じ適宜に用いて、これらを水と混合することによりスラリーを調製し、かかるスラリーを型枠、例えば型枠を兼ねる表面用原紙と裏面用原紙との間に装填して硬化したものである。」

(アb)「[0012]
・・・そのような石膏を焼成した焼石膏を用いてスラリーを調製し、硬化した石膏ボードは、撓み易くなり、特に高湿度下において吸湿により撓み易くなるが、スラリーの調製にかかる焼石膏を用いた場合であっても、所定量のセメントを併用する本発明によれば、そのような撓みの発生を充分に防止することができるのである。」

(アc)「[0017]
試験区分1
比較例1
水可溶性のカリウム塩、ナトリウム塩及びマグネシウム塩の合計含有量がそれらの酸化物換算で632mg/kg(以下、単に水可溶性塩類含有量632mg/kgという)の排煙脱硫石膏を焼成し、焼石膏(半水石膏)とした。この焼石膏200質量部に水を170質量部の割合で混合してスラリーを調製した。このスラリーを型枠に装填し、硬化させた後、脱型して、40℃で恒量になるまで乾燥し、12.5mm×900mm×1820mmの石膏ボードを得た。この石膏ボードから12.5mm×150mm×650mmの試験片を切り出し、この試験片を、40℃×90%RHの条件下にスパン600mmで2点支持し、所定時間経過毎に、試験片に発生したスパン中央の撓みを測定器(ミツトヨ社製のデジマチックインジケータ、商品名)で測定した。結果を表1にまとめて示した。」

(アd)「[0029]
試験区分3
比較例16
水可溶性塩類含有量632mg/kgの排煙脱硫石膏を焼成し、焼石膏(半水石膏)とした。この焼石膏を用いてスラリーを調製し、このスラリーを用いて、以下JIS-R9112に準拠し、硬化時間(終結の分)を測定した。また得られた硬化体について、以下JIS-R9101に準拠し、pHを測定した。結果を表3にまとめて示した。
[0030]
実施例15及び比較例17?19
焼石膏に代えて、焼石膏に表1記載の添加量となる量の普通ポルトランドセメントを混合したものを用いたこと以外は比較例16と同様にして、スラリーを調製し、硬化体を得たときの硬化時間(終結の分)とpHを測定した。結果を表3にまとめて示した。
[0031]
[表3]

[0032]
表3において、
添加量:焼石膏100質量部当たりの普通ポルトランドセメントの添加質量部」

(イ)参考文献2

参考文献2には、次の記載がある。

(イa)「【0011】本発明は混合石膏をスラリー槽内に添加し、水、発泡剤、及び澱粉などの接着助剤を添加しミキサーにより混練して得られる混合石膏スラリーを、上下に配した石膏ボード用原紙の間に流し込み板状に成形し、連続的にベルトコンベア等で搬送する。そして、ベルトコンベア等による搬送中に所定の長さに切断し、混合石膏を水和させ二水石膏にして硬化させ、乾燥工程に送り余剰の水分を乾燥し目的とする石膏ボードを得る。」

(イb)「【0015】
【実施例】以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、重量部または重量%は特記しないかぎり部または%で表す。
実施例1
火成岩性燐鉱石と硫酸を用いて、湿式燐酸製造法により燐酸を製造する際に副生したα半水石膏とβ半水石膏を用いて下記のように石膏ボードの製造を行った。乾燥したα半水石膏20部と、β半水石膏80部をスクリューフィダーに同時に投入し、予め混合された混合石膏を、スラリータンクへ送り、同時にスラリータンク内部へ、水60部、コーンスターチ0.6部、発泡剤0.1部、酸化デンプン1.5部を加えミキサーで攪拌し得られたスラリーを、上下に配した石膏ボード用原紙(十條板紙(株))の間に流し込み板状に成形した、その後150℃、30分乾燥後取り出して400×400×9.1mm、密度0.715g/cm^(3)の石膏ボードを得た。得られた石膏ボードの評価結果を表1に示す。」

(ウ)参考文献4

参考文献4には、次の記載がある。

(ウa)「焼石膏 100部
コンスターチ 0.6部
蒸溜水 75部
泡液 0.12部(発泡機にて発泡倍率5倍に発泡)
硫酸カリウム 0.15部
上記配合スラリーを連続式高速ミキサーで混練後、スラリーを排出させその両面からボード用原紙(十条板紙社製、CF-230)を圧着させ、厚さ9mm、タテ600mm、ヨコ600mmの石膏ボードを得た。その後、これを30分放置、さらに温度160℃の乾燥機中で40分乾燥、さらに100℃の乾燥機中で石膏ボードの含水率が0.2?0.5%の範囲になるまで乾燥し最終製品を得た。」(第4頁右上欄第14行?左下欄第7行)

(エ)甲第6号証

甲第6号証には、次の記載がある。

(エa)「【0032】
[壁面接着層4]
壁面接着層4は、本発明の壁紙に接着性を付与し、壁紙の施工を容易にするための層であり、本発明の壁紙用接着剤組成物により形成されるものである。壁面接着層4のJIS A6901に規定される石膏ボード(GB-R)に準拠した、石膏ボードに対する剥離強度(接着力)は、1?7N/25mmであることが好ましく、1.5?7N/25mmがより好ましく、3?6N/25mmがさらに好ましい。接着力が上記範囲内にあれば、壁紙施工時の貼りなおしが容易となるので好ましく、基材の紙間強度(ワックスピッキング法により測定した値)との組み合わせにより、特にこの効果を得ることができる。また、本発明における接着力は、接着壁紙を貼り付けて48時間後に、上記方法により測定した接着力のことである。
【0033】
壁面接着層4は、接着剤組成物の塗布量として30?250g/m^(2)(wet)で形成されることが好ましく、より好ましくは100?250g/m^(2)(wet)、さらに好ましくは100?150g/m^(2)(wet)である。接着剤組成物の塗布量が上記範囲内であると、優れた接着力及び施工安定性を得ることができ、かつ容易に貼りなおすことができる。また、経済的にも優位である。」

イ.引用発明について

上記(アa)で摘示した段落0006には、甲第2号証に記載されているセメントを含む石膏ボードは型枠を兼ねる表面用原紙と裏面用原紙との間にスラリーを装填して硬化したものであることが記載されており、また(アd)で摘示した表3には、実施例15として、焼石膏100質量部当たり普通ポルトランドセメントを1.0質量部添加することが記載されている。
したがって、甲第2号証には石膏ボードに関し、以下の発明が記載されていると認める。

「型枠を兼ねる表面用原紙と裏面用原紙との間に、スラリーを装填して硬化させた石膏ボードであって、前記スラリーが、焼石膏100質量部当たり普通ポルトランドセメントを1.0質量部の割合で含み、硬化体についてJIS-R9101に準拠して測定したpHが6.7である石膏ボード。」(以下、「引用発明1」という。)

「型枠を兼ねる表面用原紙と裏面用原紙との間に、スラリーを装填して硬化させた石膏ボードの製造方法であって、前記スラリーに、焼石膏100質量部当たり普通ポルトランドセメントを1.0質量部の割合で含有させる工程を有し、硬化体についてJIS-R9101に準拠して測定したpHが6.7である石膏ボードの製造方法。」(以下、「引用発明2」という。)

ウ.対比・判断

(ア)本件発明3について

本件発明3と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「スラリーを装填して硬化させた」硬化体は、本件発明3の「焼石膏、及び水を含有するスラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材」に相当し、「型枠を兼ねる表面用原紙と裏面用原紙」は、「芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙」に、「普通ポルトランドセメント」は「ポルトランドセメント」に相当する。
したがって、本件発明3のうち「焼石膏、及び水を含有するスラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材と、この芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙とを備える石膏ボードであって、前記スラリーは、ポルトランドセメントを含有し、前記ポルトランドセメントの含有量が、前記焼石膏100質量部当たり、0.1?1.0質量部である石膏ボード。」である点は、引用発明1と一致し、次の点で両者は相違する。

相違点1
本件発明3のスラリーは、「デンプンを含有し、前記デンプンの含有量が、前記焼石膏100質量部当たり、0.3?2.4質量部」であり、芯材は「有機系の防カビ剤を含有しない」「多湿環境用石膏ボード」であるのに対し、引用発明1のスラリーはデンプンを含有せず、かつ芯材が有機系の防カビ剤を含有しないものであって、石膏ボードが多湿環境用であることが明記されていない点。

上記相違点1について検討する。
上記(アb)で適示した段落0012には、高湿度下におけるボードの撓みが発生することを防止できることが記載されており、また上記(アc)で適示した段落0017には、90%RH環境で撓み試験を行うことが記載されており、引用発明1は多湿環境で用いることが示唆されている。
一方、上記(イb)及び(ウa)で摘示したように、石膏ボードの製造に際し、接着助剤としてデンプンを添加することは、本件特許の出願時には周知の技術であり、デンプンとして酸化デンプン等の加工デンプンだけでなく、コーンスターチなどの加工されていないデンプンも使用されており、その添加量も焼石膏100質量部当たり、0.3?2.4質量部の範囲内のものであるから、引用発明1においてデンプンを添加すること自体に困難性は認められない。
ここで、特許異議申立人が提示した甲第5号証には「通常、空気中の塵粉には様々な栄養素が存在するが、デンプンもカビにとっては十分な栄養源であり」(段落0004)と記載されているように、デンプンはカビを繁殖させる要因である。そして、引用発明1は上記のとおり多湿環境で用いることが示唆されているものであるため、カビを繁殖させる要因であるデンプンを含ませる際にカビの繁殖を防ぐための手段を講じる必要があることは当業者に自明であるから、デンプンを含ませる際には公知の有機系の防カビ剤等も一緒に含有させることが一般論として当然に考えられる。
そして、例えば特許異議申立人が提示した甲第3号証においては、ポルトランドセメントを添加したスラリー硬化物に防カビ性が付与されているが、スラリー硬化物に接触した水分のpHが9?11に高められるために当該防カビ性が付されるもの(段落0062及び0063参照のこと。)であって、甲第3号証においてはポルトランドセメントの他に水酸化カルシウムを添加しているものである。すると、ポルトランドセメントを含有するスラリー硬化物の防カビ作用はpH9?11のみにおいて認識されていたものであるといえ、焼石膏100重量部に対して0.1?1.0重量部の割合で添加されているポルトランドセメント自体に石膏ボードのカビの繁殖を防止する効果が本願特許出願時に公知であったと認められない。
してみると、焼石膏100質量部当たりポルトランドセメントを1.0質量部添加している引用発明1のpHは6.7であって、本願出願時にカビの増殖を抑えるために必要と当業者に認識されていたpHが実現できないものであるから、引用発明1においてカビを繁殖させる要因であるデンプンを含ませる際に有機系の防カビ剤を用いずとも防カビ性が発揮されることを当業者が予測することができたとはいえない。
したがって、引用発明1において相違点1を解消することは困難であるから、本件発明3は、当業者であっても、甲第2号証に記載された技術的事項、及び参考文献2、4に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、引用発明1において相違点1を解消することは困難であるから、本件発明3は、当業者であっても、甲第2号証に記載された技術的事項、及び参考文献2、4に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件発明4について

本件発明4は、本件発明3に係る発明特定事項を全て含むものであることから、本件発明3と同じ理由により、本件発明4は、当業者であっても、甲第2号証及び参考文献2、4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本件発明7について

本件発明7と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「スラリーを装填し硬化させた」硬化体は、本件発明7の「焼石膏、及び水を含有するスラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材」に相当し、「型枠を兼ねる表面用原紙と裏面用原紙」は、「芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙」に、「普通ポルトランドセメント」は「ポルトランドセメント」に相当する。
したがって、本件発明7のうち「焼石膏、及び水を含有するスラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材と、この芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙とを備える石膏ボードの製造方法であって、前記スラリーに、ポルトランドセメントを、前記焼石膏100質量部当たり、0.1?1.0質量部の割合で添加する石膏ボードの製造方法。」である点は、引用発明2と一致し、次の点で両者は相違する。

相違点1’
本件発明7は、スラリーに「デンプンを、前記焼石膏100質量部当たり、0.3?2.4質量部の割合で添加する添加工程を有し、前記添加工程において、前記スラリーに、有機系の防カビ剤を添加しない」ものであり、「有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用石膏ボード」の製造方法であるのに対し、引用発明2はスラリーにデンプン及び有機系の防カビ剤を添加しないものであって、石膏ボードが有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用であることが明記されていない点。

上記相違点1’について検討すると、上記(ア)において検討した相違点1と同じ理由により、相違点1’は当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、本件発明7は、当業者であっても、甲第2号証及び参考文献2、4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)特許異議申立人の主張について

特許異議申立人は、令和1年10月16日付け意見書において、本件発明3、4、7は、以下のア.及びイ.の理由により特許を受けることができない旨主張しているため、当該主張について検討する。

ア.特許法第29条第2項について

上記意見書における特許異議申立人の主張は以下のとおりである。
(i)多湿環境用である旨の用途の規定がされているが、本件特許明細書の記載を参酌しても、本件発明がその用途に適した構造を有しているとは認められないため、甲第2号証に記載の発明、及び周知の技術から、当業者であれば容易に想到しうるものであること(第2頁第29行?第3頁第2行。)。
(ii)本件発明3と同じ割合でポルトランドセメントを含有する甲第2号証に開示されている石膏ボードは、当然に防カビ性が付与されていること。
(iii)甲第3号証によればセメントが防カビ性を付与できることは本願出願前に公知であること(第3頁第8行?第14行。)。

上記主張について検討すると、本件発明はポルトランドセメントを規定量添加することによる防カビ効果を示すものであるため多湿環境用に適した性質を有するものである。そして、本件発明3、4、7が、甲第2号証に記載の発明、及び周知の技術から、当業者であれば容易に想到しえるものでないことは、上記(2)ウ.で検討したとおりであるから、特許異議申立人の上記主張(i)は採用しない。
また、上記甲第3号証において、ポルトランドセメントを添加したスラリー硬化物の防カビ作用はpH9?11の範囲においてのみ認識されていたものであるといえ、甲第2号証において焼石膏100質量部当たりポルトランドセメントを1.0質量部添加している引用発明1のpHは6.7であることから、ポルトランドセメントを1質量部添加した場合には本願出願時にカビの増殖を抑えるために必要と当業者に認識されていたpHが実現できないものであることは上記(2)ウ.(ア)で検討したとおりである。したがって、特許異議申立人の上記(iii)の主張を考慮しても、甲第3号証に記載されている技術的事項から、本件発明3、7と同じ割合でポルトランドセメントを含有する甲第2号証に開示されている石膏ボードに防カビ性が付与されることを当業者が予測することができたものとは認められない。よって特許異議申立人の上記主張(ii)も採用しない。

なお、令和1年9月5日付け意見書における特許権者の「通常の石膏ボードは、建築物の内装材(天井材、壁材等)として利用されるものであり、多量の水と接触する虞のない建築物の内部(屋内)で利用される。これに対して、多湿環境用石膏ボードは、本件明細書の段落0003に記載されているように、湿気の多い環境下で使用されるものであり、例えば、建築物の外装材として利用される。」との主張について、特許異議申立人は、「しかしながら、本件特許明細書[0018]には、「石膏部材は内装建材(例えば、天井材、床材、壁材、外壁等の下地材)等の様々な用途で用いられ、特に、厨房等の多湿環境になり易い箇所で好適に用いられる。」と記載されています。すなわち、本件特許明細書の記載によれば、多湿環境には少なくとも厨房等の内装建材も含まれることになり、上記意見書における、多湿環境用石膏ボードが外装材に限定されるかのような本件特許権者の主張は、本件特許明細書の記載に基づかない主張であり、認められません。」と主張しているが、特許権者の上記主張は、多湿環境下で使用される例の一つとして「建築物の外装材」を挙げているものであり、本件発明を「建築物の外装材」のみに利用すると限定して解釈する根拠は見いだせないため、特許異議申立人の上記主張も採用しない。

イ.特許法第36条第6項第2号違反について

上記意見書において、特許異議申立人は、「しかしながら、本件特許明細書の記載をみても、「多湿環境」が具体的にどの程度の湿度を意味しているのかが明らかではなく、本件特許発明3、4、7は不明確となります。なお、本件特許明細書[0018]においては、「石膏部材は内装建材(例えば、天井材、床材、壁材、外壁等の下地材)等の様々な用途で用いられ、特に、厨房等の多湿環境になり易い箇所で好適に用いられる。」と記載されているものの、厨房等の環境が、具体的にどの程度の湿度を意味しているのかが明らかではありません。・・・また、仮に、建築物の外装材であったしても、設置する場所等により周囲の湿度環境が異なることは、明らかであるから、「多湿環境」がどのような環境を意味しているかが明らかではありません。」(「・・・」は記載の省略を表す。)と、特許法第36条第6項第2号違反である旨を主張している。
しかし、本件明細書の段落0003に「この種の石膏ボードは、通常の石膏ボードと比べて、湿気の多い環境下で使用されるため、カビの発生を防止又は抑制すること(いわゆる、防カビ性)が求められている。」と記載されていることから、本件発明3、4、7は、カビの発生を防止又は抑制することを目的としているものであり、湿度が高い環境でカビが発生することは一般的によく知られている事項であることから、カビの発生が懸念される環境が本件発明3、4、7に係る石膏ボードの使用が考慮される環境であって、「多湿環境」に相当し、本件発明3、4、7における「多湿環境」の定義は明確である。
したがって、本件発明3、4、7に係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

(4)まとめ

本件発明3、4、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。また、本件発明3、4、7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対して特許されたものでもない。

3.平成31年2月14日付け取消理由について

(1)取消理由の概要

本件特許の取消理由の概要は以下のとおりである。

理由1
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記甲第2号証及び甲第1号証に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

甲第2号証:国際公開第2011/052048号
甲第1号証:米国特許出願公開第2015/0104629号明細書

理由2(サポート要件)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は、「一般的な防カビ剤を使用せずに、石膏部材及び石膏ボードに防カビ性を付与する技術を提供すること」も目的としているところ、有機系の防カビ剤を含有させない旨を特定していない本件訂正前の請求項1、2、4?6は、一般的な防カビ剤を含有することを排除していないから、発明の詳細な説明に記載された課題を解決しない態様を含んでおり、本件訂正前の請求項1、2、4?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。

(2)取消理由に対する当審の判断

本件訂正により、本件特許は、本件発明3、4、7のみに訂正されているから、本件発明3、4及び7について判断する。

ア.理由1について

甲第2号証に記載されている発明との対比・判断は、上記2.(2)ウ.で述べたとおりであり、甲第1号証を参酌しても、カビを繁殖させる要因であるデンプンを含ませる際に有機系の防カビ剤を用いないことを当業者が容易に想到することができたとはいえないものである。
したがって、本件発明3、4、7は、当業者であっても、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.理由2について

当該理由2は、本件訂正前の請求項1、5に係る発明、及びこれらに従属する本件訂正前の請求項2、4、6に係る特許に対するものであり、本件発明3、7及び請求項3に従属する本件発明4については、理由がない。

第5.特許異議申立理由について

1.取消理由で採用しなかった特許異議申立理由の概要

取消理由で採用しなかった特許異議申立人による特許異議申立て理由は以下のとおりである。

理由1(進歩性)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証及び甲第3号証?甲第5号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。


2.理由1(進歩性)について

(1)各甲号証

甲第1号証:米国特許出願公開第2015/0104629号明細書
甲第3号証:特開平10-317640号公報
甲第4号証:特開平8-34655号公報
甲第5号証:特表2005-531440

(2)特許異議申立人が提出した証拠の記載事項

ア.甲第1号証

甲第1号証には、以下の記載がある。(和訳は、特許異議申立人が提出した抄訳及び甲第1号証のファミリーである特表2016-539891号公報の明細書の記載を参考にして、当審が作成した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)

(ア-1)「A fire resistant gypsum board comprising: a set gypsum composition disposed between two cover sheets, the set gypsum composition comprising an interlocking matrix of set gypsum formed from a slurry comprising at least stucco and water; the slurry having a water-to-stucco ratio from about 0.7 to about 2.0; and the board having a density from about 24 lbs/ft^(3) to about 40 lbs/ft^(3), and when at a thickness of about 5/8 inch, a nail pull resistance of at least about 70 lbs of force as determined according to ASTM C473-09, and a Fire Endurance Index (FEI) greater than about 52 minutes.」(請求項1)
(和訳)2枚のカバーシート間に配置された、少なくともスタッコと水とを含むスラリーから形成される硬化石膏のインターロッキングマトリックスを含む硬化石膏組成物を含む耐火性石膏ボードであって、前記スラリーが約0.7?約2.0の水対スタッコ比を有し、前記ボードが約24lb/ft^(3)?約40lb/ft^(3)の密度と、約5/8インチの厚さである場合、ASTM C473-09にしたがって測定して少なくとも約70lbの力の釘引抜耐性と、約52分より大きい耐火性指数(FEI)とを有する、前記耐火性石膏ボード。

(ア-2)「The fire resistant gypsum board of claim 1, wherein the set gypsum composition comprises gelatinized starch in an amount greater than about 1% by weight based on the weight of the stucco.」(請求項2)
(和訳)前記硬化石膏組成物が、ゼラチン化デンプンをスタッコの重量基準で約1重量%より多い量で含む、請求項1に記載の耐火性石膏ボード。

(ア-3)「The fire resistant gypsum board of claim 1, wherein the set gypsum composition comprises a thickener.」(請求項3)
(和訳)前記硬化石膏組成物が、増粘剤を含む、請求項1に記載の耐火性石膏ボード。

(ア-4)「The fire resistant gypsum board of claim 3, wherein the thickener is silica fume, Portland cement, fly ash, clay, fine cellulosic particles, or a high molecular weight polymer, or any mixture thereof.」(請求項4)
(和訳)前記硬化石膏組成物が、シリカ・ヒューム、ポルトランドセメント、フライアッシュ、クレー、セルロース微粒子、もしくは高分子ポリマーからなる群から選択される増粘剤、またはそれらの任意の混合物を含む、請求項3に記載の耐火性石膏ボード。

(ア-5)「The fire resistant gypsum board of claim 4 , wherein the thickener is less than about 10% by weight based on the weight of the stucco.」(請求項5)
(和訳)前記増粘剤がスタッコの重量基準で約10重量%未満である、請求項4に記載の耐火性石膏ボード。

(ア-6)「A method for making a fire resistant gypsum board comprising: forming a mixture of at least stucco and water, disposing the slurry on a first sheet, disposing a second sheet on the slurry to form a board preform having two cover sheets, cutting the board preform into a board of predetermined dimensions after the slurry has hardened sufficiently for cutting, and drying the board; the slurry having a water-to-stucco ratio from about 0.7 to about 2.0; the board when dried having a density from about 24 lbs/ft^(3) to about 40 lbs/ft^(3), and when at a thickness of about % inch, a nail pull resistance of at least about 70 lbs of force as determined according to ASTM C473-09, and a Fire Endurance Index (FEI) greater than about 52 minutes.」(請求項19)
(和訳)耐火性石膏ボードを作製するための方法であって、少なくともスタッコと水との混合物を形成すること、前記スラリーを第1シート上に配置すること、第2シートを前記スラリー上に配置して、2枚のカバーシートを有するボードプレフォームを形成すること、前記スラリーが切断するのに充分に硬化した後に、前記ボードプレフォームを所定の寸法のボードに切断すること、及び前記ボードを乾燥することを含み、前記スラリーが約0.7?約2.0の水対スタッコ比を有し、前記ボードが、乾燥した場合に約24lb/ft^(3)?約40lb/ft^(3)の密度と、約%インチの厚さである場合に、ASTM C473-09にしたがって測定して少なくとも約70lbの力の釘引抜耐性と、約52分を上回る耐火性指数(FEI)とを有する、前記方法。

(ア-7)「The stucco, which is calcium sulfate hemihydrate (CaSO_(4).1/2H_(2)O), reacts with water to form gypsum, which is calcium sulfate dihydrate (CaSO_(4).2H_(2)O).」(段落0001)
(和訳)硫酸カルシウム半水和物(CaSO_(4)・1/2H_(2)O)であるスタッコは、水と反応して、硫酸カルシウム二水和物(CaSO_(4)・2H_(2)O)である石膏を形成する。

(ア-8)「In a laboratory, a stucco slurry was prepared by mixing 700 g stucco, 3.5 g of accelerator (finely ground gypsum), 10 g dry pregelatinized starch, 1.4 g sodium trimetaphosphate, and 1 g chopped fiberglass (see Table 2). Predetermined amounts of water corresponding to the amount required to form water-to-stucco ratios of 1.0, 1.2, 1.4, 1.6, and 1.9 were weighed in separate steel bowls. To each steel bowl was added 0.9 g dispersant and up to 2 drops of retarder. After the water solution reached room temperature, the steel bowl was installed under a Hobart mixer. The stucco mixture was added to the water solution and immediately mixed. Subsequently, the foam pump was activated and the foam was injected into the bowl according to a predetermined injection rate. The foam injection time was pre-calculated to make boards having a dry density of approximately 1700 lbs/MSF, with different injection rates required for each board. After foam injection, the composition was mixed for an additional 5 seconds. The slurry was immediately poured into a premade paper envelop (made with 34 lbs/MSF newsline and 49 lbs/MSF manila paper), and cast by sandwiching between two aluminum plates that were spaced to make % inch boards. After casting, the boards were placed into an oven preset at 350° F. After 30 minutes, the boards were transferred to another oven that was preset at 110° F. The boards were left in the oven for two nights, and then removed from the oven and weighed. The dry boards each were cut into samples of 6.625 inches×6.125 inches」(段落0079)
(和訳)実験室で、700gのスタッコ、3.5gの促進剤(微粉状石膏)、10gの乾燥アルファ化デンプン、1.4gのトリメタリン酸ナトリウム、および1gのガラス短繊維を混合することによってスタッコスラリーを調製した(表2を参照)。1.0、1.2、1.4、1.6、および1.9の水対スタッコ比を得るために必要な量に相当する所定量の水を個別のスチールボウル中に量りとった。各スチールボウルに0.9gの分散剤および最大で2滴の遅延剤を添加した。水溶液が室温に達した後、スチールボウルをホバートミキサーの下に設置した。スタッコ混合物を水溶液に添加し、直ちに混合した。続いて、泡ポンプを作動させ、泡を所定の注入速度にしたがってボウル中に注入した。泡注入時間を、各ボードに必要な様々な注入速度で、約1700lb/MSFの乾燥密度を有するボードを作製するために事前に算出した。泡を注入した後、組成物をさらに5秒間混合した。スラリーをあらかじめ作製した紙の封筒(34lb/MSFのnewslineおよび49lb/MSFマニラ紙で作製)中に直ちに注ぎ、間隔をあけた2枚のアルミニウムプレート間に挟むことによってキャスティングして%インチボードを作製した。キャスティング後、350°Fにあらかじめ調整したオーブン中にボードを入れた。30分後、110°Fにあらかじめ調製した別のオーブンにボードを移した。ボードをオーブン中に2晩放置し、その後オーブンから取り出し、秤量した。乾燥ボードを各々6.625インチ×6.125インチのサンプルに切断した。

イ.甲第3号証

甲第3号証には、以下の記載がある。

(イ-1)「通気性のある多孔質体の一部又は全部に、セメントと、樹脂又は/及びゴムの水性高分子物質と、石質系又は/及び炭素系粉体とを含むスラリー硬化物を保持させたことを特徴とする、建築用内装材。」(請求項1)

(イ-2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本願発明は、建築用内装材及びその製造方法に関する。詳しくは、結露の発生を防止できるとともに、黴等の発生を防止し、さらに脱臭効果を期待できる建築用内装材及びその製造方法に関する。」

(イ-3)「【0021】セメントとして、水硬性セメント、気硬性セメント、特殊セメント等の種々のものがある。本願発明では、特定のセメントに限定されることはないが、取り扱い易さ、耐熱性、耐水性、耐候性がよく、また安価に入手できる水硬性セメントを採用するのが好ましい。水硬性セメントとして、普通ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等を採用することができる。」

(イ-4)「【0061】セメント硬化物に含有される水酸化カルシウム及び添加した水酸化カルシウムは強塩基であり、種々の微生物に対して抗菌効果をもつ。
【0062】一般に、ほとんどの黴は酸性側で増殖し、pHが10を超えると、増殖することができなくなり、死滅する。
【0063】本願発明に係るスラリー硬化物に接触した水分のpHは、9?11に高められる。このため、スラリー硬化物に吸収された水分中ではほとんどの黴は増殖することはできず、あるいは死滅する。したがって、結露が生じた場合であっても、黴が発生することはない。」

(イ-5)「【0084】
【表1】



(イ-6)「【0105】図8に、本願発明の第五の実施の形態を示す。この実施の形態は、内装基材あるいは断熱材として多用されている石膏ボードに本願発明を適用したものである。
【0106】一般的な石膏ボードは、多孔質の板状石膏硬化体の両面に紙を貼着して構成されることが多い。これは、石膏硬化体の表面から石膏粉が離脱するのを防止するとともに、表面に壁紙等を貼着しやすくするためである。
【0107】上記石膏硬化体は、それ自体通気性を備えるとともに水蒸気吸収性能及び断熱性能が高く、結露防止効果を期待することができる。ところが、接着剤を用いて密度の高い紙を両面に貼着しているため空気連行性が阻害され、充分な結露防止効果を発揮できない。また、接着剤と紙との境界部分で結露が生じ易く、境界部分で黴が発生しやすい。特に、壁面との間の紙に黴等が発生し、臭いの発生やアレルギー性疾患の原因となることも多い。
【0108】本実施の形態においては、石膏ボード41の貼着面4側、すなわちコンクリート壁面等に対向する側にスラリー硬化物層18及び防湿・防水層12を形成する一方、表面5側に透湿・防水層13を設けることにより、上記従来の問題を解決している。
【0109】スラリー硬化物層18を石膏硬化体の表面に形成することにより、従来の紙材と同様に石膏粉の脱落を防止できるとともに表面の接着性を改善できる。しかも、透湿防水層12を形成すると、石膏ボード41の貼着面側に水分が浸入することがなくなり、壁面との間で黴等が発生するのを防止できる。
【0110】上記透湿・防水層13を本願発明に係るスラリー硬化体を用いて構成することができる。すなわち、撥水性のある樹脂成分と粒度の大きい粉体を配合するとともに、水分量の多いスラリーを調整して石膏硬化体17の表面に塗着すると、スラリーの硬化過程において多孔質層が形成される。この多孔質層は、高い空気連行性を備えるとともに表面撥水性があるため、性能のよい透湿・防水層を構成する。」

ウ.甲第4号証

甲第4号証には、以下の記載がある。

(ウ-1)「【0002】
【従来の技術】石膏ボードは、建築物の内装材あるいは間仕切材として安価かつ不燃性であるところから、年々その使用が増加の傾向にある。しかしながら、石膏は吸水性であり、また、そのボード作製において、種々の有機物を配合したり、施工に際して有機質接着剤を使用することなどから微生物の繁殖により、施工後の石膏ボードが汚染され、美観が損なわれる。
【0003】特に、近年の室内密閉状態における室内の空調環境においては、微生物の繁殖を増大させる結果となり、石膏ボードの美観の維持や性能の劣化は予想外に早い。このため、従来より、石膏ボードの抗菌防かび対策がなされてきた。
【0004】例えば、防かび剤を塗布したボード原紙を使用することにより石膏ボードに防かび性を付与するもの(特開昭59-121173号公報、特開昭63-227899号公報、特開平4-69301号公報)、防かび剤液に石膏ボードを含浸させて防かび性を付与するもの(特開昭61-18705号公報)、防かび剤含有の水溶性樹脂を石膏ボード表面に塗布するもの(特開昭62-50541号公報)、石膏中に抗菌抗かび剤を配合させてなるもの(特開昭63-17248号公報、特開平2-302354号公報、特開平4-331752号公報)等が知られている。」

エ.甲第5号証

甲第5号証には、以下の記載がある。

(エ-1)「【0004】
通常、空気中の塵粉には様々な栄養素が存在するが、澱粉もカビにとっては充分な栄養源であり、石膏ボードの表面素材や石膏基体部に含まれていることが多い。石膏ボードの中で、澱粉は頻繁に複数の目的で使用される。その主な用途は、基体部とカバーとの間の接着性の助成であるが、ボードを覆う為に一般に使われる加圧紙もカビの成長に必要な栄養源となる澱粉やセルロース系繊維を含んでいる。」

(エ-2)「【0006】
しかしながら上記の用途以外に、その防火性の為に石膏ボードが使われるが、湿気を吸ってからすぐに乾かない場合がある。高層ビルの建設を例に取ってみると、エレベーターシャフトは建物が外壁で囲まれる前に立てられる。
【0007】
例えば、米国イリノイ州シカゴのUSG社が製造し、“SHEETROCK”(登録商標)と言う登録商標の下に市販している石膏ボード製品、ギプサム・ライナー・パネルズ(Gypsum liner Panels)などの厚い石膏ボードが、防火の目的でエレベーターシャフトの内壁に使用され、この内壁はビルの建設中に雨にさらされ、外壁が建造されるまでに完全に乾燥しない可能性がある。上記のような条件や他のカビの繁殖が可能な環境に使用された石膏ボードは、カビの繁殖への抵抗力を増進することにより改善可能である。」

(エ-3)「【0044】
例えば、糊化澱粉は硬化した石膏組成の重量に対して0.5?10%となるように硬化した石膏組成を構成するために使用される混合体に添加することができる。
当該発明の好適な実施例は、防カビ性の耐水性石膏ボードを構成する。耐水性石膏ボード、通称「グリーンボード」は、当業者によく知られている。耐水性石膏ボードの一実施例は、参考のため引用する米国特許2,432,963号に開示されている。」

(エ-4)「【0063】
石膏ボードは表1記載の配合で実験室で製造された。
【0064】
【表1】



(3)引用発明について

上記(ア-1)には、2枚のカバーシート間に配置された、少なくともスタッコと水とを含むスラリーから形成される硬化石膏のインターロッキングマトリックスを含む硬化石膏組成物を含む耐火性石膏ボードが、上記(ア-2)には、スラリーがゼラチン化デンプンをスタッコの重量基準で約1重量%より多い量で含むことが、上記(ア-3)、(ア-4)及び(ア-5)にはシリカ・ヒューム、ポルトランドセメント、フライアッシュ、クレー、セルロース微粒子、もしくは高分子ポリマーからなる群から選択される増粘剤をスタッコ重量基準で約10重量未満含むことが記載されており、さらに上記(ア-8)には700gのスタッコに10gの乾燥アルファ化デンプンを混合することによってスタッコスラリーを調製することが記載されているから、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

「2枚のカバーシート間に配置された、少なくともスタッコと水とを含むスラリーから形成される硬化石膏のインターロッキングマトリックスを含む石膏ボードであって、前記スラリーが、スタッコ重量基準でシリカ・ヒューム、ポルトランドセメント、フライアッシュ、クレー、セルロース微粒子、もしくは高分子ポリマーからなる群から選択される増粘剤を約10重量%未満含み、スタッコ700g及びゼラチン化デンプン10gを含む耐火性石膏ボード。」(以下、「引用発明3」という。)

さらに、上記(ア-6)には、当該耐火性石膏ボードの製造方法として、少なくともスタッコと水との混合物を形成すること、前記スラリーを第1シート上に配置し、第2シートを前記スラリー上に配置して、2枚のカバーシートを有するボードプレフォームを形成すること、前記スラリーが切断するのに充分に硬化した後に、前記ボードプレフォームを所定の寸法のボードに切断すること、及び前記ボードを乾燥することを含みが記載されていることから、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

「第1シートの上に少なくともスタッコと水とを含むスラリーを配置して、さらに前記スラリーの上に第2シートを配置して、当該スラリーを硬化させた石膏ボードの製造方法であって、前記スラリーに、スタッコ重量基準でシリカ・ヒューム、ポルトランドセメント、フライアッシュ、クレー、セルロース微粒子、もしくは高分子ポリマーからなる群から選択される増粘剤を約10重量%未満、及びスタッコ700gにゼラチン化デンプン10gを添加する耐火性石膏ボードの製造方法。」(以下、「引用発明4」という。)

(4)対比・判断

ア.本件発明3について

本件発明3と引用発明3とを比較すると、上記(ア-6)の記載からスタッコと水との混合物であるスラリーは第1のシート及び第2のシートの間に配置されるものであるから、引用発明3の「2枚のカバーシート」は本件発明3の「芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙」相当し、引用発明3の「スラリーから形成される硬化石膏のインターロッキングマトリックス」は、本件発明3の「スラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材」に相当する。また、引用発明3の「ゼラチン化デンプン」は本件発明3の「デンプン」に相当する。
したがって、本件発明3のうち、「水を含有するスラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材と、この芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙とを備える石膏ボードであって、前記スラリーは、デンプンを含有する石膏ボード。」である点は、引用発明3と一致し、次の点で両者は相違する。

相違点1
本件発明3のスラリーは、「焼石膏、及び水を含有する」のに対し、引用発明3のスラリーは、「スタッコと水とを含む」点。

相違点2
本件発明3のスラリーは、「ポルトランドセメントを含有し、前記ポルトランドセメントの含有量が、前記焼石膏100質量部当たり、0.1?1.0質量部であり」、かつ「有機系の防カビ剤を含有しない」ものであり、さらに「多湿環境用石膏ボード」であるのに対し、引用発明3のスラリーは、「スタッコ重量基準でシリカ・ヒューム、ポルトランドセメント、フライアッシュ、クレー、セルロース微粒子、もしくは高分子ポリマーからなる群から選択される増粘剤を約10重量未満」を含み、かつ石膏ボードが有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用であることが明記されていない点。

相違点3
本件発明3のスラリーは、「デンプンの含有量が、前記焼石膏1000質量部当たり、0.3?2.4質量部」であるのに対し、引用発明3のスラリーは、「スタッコ700g及びゼラチン化デンプン10g」を含む点。

始めに上記相違点2について検討する。
引用発明3は耐火性ボードであり、多湿環境下で用いることは甲第1号証には記載されていない。そして、上記(エ-1)で適示したとおり、デンプンはカビを繁殖させる要因であり、上記(ウ-1)で適示したとおりカビの繁殖により石膏ボードの美観や性能が劣化するものであるから、多湿環境で用いるためにはカビの繁殖を防ぐための手段を講じる必要があることは当業者に自明であり、防カビ剤を含まない耐火性ボードを多湿環境で用いることは当業者が容易に想到することができたとは認められない。

ここで、特許異議申立人は、平成30年12月13日付け特許異議申立書において、甲第3号証に「セメントの硬化物に含まれる水酸化カルシウムによりpHを高くすることで、カビの増殖を抑制できる旨」(甲3-4)、及び「セメントを含むスラリー硬化物を保持させた建築用内装材が開示され(甲3-1、甲3-3、甲3-5)、係る建築用内装材によれば黴等の発生を防止できる旨」(甲3-2)記載されていることを指摘したうえで、「有機物であるゼラチン化デンプンを含有するため(甲1-2、甲1-7)カビが繁殖しやすく、ポルトランドセメントを含有することを許容する(甲1-3?甲1-5)甲第1号証に開示された耐火性石膏ボードにおいて、上述の本件特許出願前周知の課題に基づき、防カビ対策を目的として甲第3号証の記載からポルトランドセメントを添加することは当業者であれば容易に想到することである」及び「耐火性石膏ボードの性能を損なわない範囲で、ゼラチン化デンプンの含有量に応じて防カビ特性を高められるように、ポルトランドセメントの添加量を選択することは適宜為し得る程度のことである」と特許異議申立の理由を述べている。
一方、上記(イ-4)で適示したとおり、ポルトランドセメントを含むスラリー硬化物によりカビの増殖を抑制することができるものであるが、カビの増殖を抑制するためにはpHを9?11程度とする必要があるものであるから、上記(イ-5)においてはポルトランドセメントの他に水酸化カルシウムを添加しているものである。すると、ポルトランドセメントを添加したスラリー硬化物の防カビ性はpH9?11の範囲においてのみ認識されていたものであるといえる。
そして、本件発明3のスラリーは、焼石膏100質量部当たりポルトランドセメントを0.1?1.0質量部含有するものであるが、上記第4の2(2)ア.(アd)で適示したように焼石膏100質量部当たりポルトランドセメントを1質量部添加した場合のpHは6.7であるから、焼石膏100質量部当たりポルトランドセメントを1質量部添加したスラリーにおいてもカビの増殖を抑えることができることが本願出願に公知であったpH(pH9?11)が実現できないものである。
してみると、焼石膏100質量部当たりポルトランドセメントを1質量部以下添加することによりポルトランドセメントが防カビ剤として機能することを当業者が予測することができたとは認められないため、「防カビ対策を目的として甲第3号証の記載からポルトランドセメントを添加することは当業者であれば容易に想到すること」であったとしても、ポルトランドセメントの添加量を焼石膏100質量部当たり0.1?1.0質量部として、多湿環境で用いることは、当業者であれば適宜為し得る程度のことではない。

したがって、相違点2は、当業者であっても、甲第1号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到することができたものとはいえない。
よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、当業者であっても、甲第1号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件発明4について

本件発明4は、本件発明3に係る発明特定事項を全て含むものであることから、本件発明3と同じ理由により、本件発明4は、当業者であっても、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.本件発明7について

本件発明7と引用発明4とを比較すると、引用発明4においては「第1シートの上に少なくともスタッコと水とを含むスラリーを配置して、さらに前記スラリーの上に第2シートを配置して、当該スラリーを硬化」させていることから、引用発明4の「第1のシート」及び「第2のシート」は、本件発明7の「芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙」相当し、引用発明4の「スラリーを装填して硬化させた」ものは、本件発明7の「スラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材」に相当する。また、引用発明4の「ゼラチン化デンプン」は本件発明7の「デンプン」に相当する。
したがって、本件発明7のうち、「水を含有するスラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材と、この芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙とを備える石膏ボードの製造方法であって、前記スラリーに、デンプンを添加する石膏ボードの製造方法。」である点は、引用発明4と一致し、次の点で両者は相違する。

相違点1’
本件発明7のスラリーは、「焼石膏、及び水を含有する」のに対し、引用発明4のスラリーは、「スタッコと水とを含む」点。

相違点2’
本件発明7のスラリーは、「ポルトランドセメントを、前記焼石膏100質量部当たり、0.1?1.0質量部の割合で、添加し」、かつ「有機系の防カビ剤を添加しない」ものであり、さらに「有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用石膏ボード」であるのに対し、引用発明4のスラリーは、「スタッコ重量基準でシリカ・ヒューム、ポルトランドセメント、フライアッシュ、クレー、セルロース微粒子、もしくは高分子ポリマーからなる群から選択される増粘剤を約10重量未満」添加し、有機系の防カビ剤を添加しないものであって、石膏ボードが有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用であることが明記されていない点。

相違点3’
本件発明7は、スラリーに「デンプンを、前記焼石膏1000質量部当たり、0.3?2.4質量部の割合で、添加」するのに対し、引用発明4のスラリーは、「スタッコ700gにゼラチン化デンプン10gを添加する」点。

始めに上記相違点2’について検討すると、上記ア.において検討した相違点2と同じ理由により、相違点2’は当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、当業者であっても、甲第1号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.取消理由で採用しなかった特許異議申立理由に対するまとめ

本件発明3、4、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第6.むすび

以上のとおり、請求項3、4、7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に請求項3、4、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1、2、5、6は、訂正により削除されたため、同請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
焼石膏、及び水を含有するスラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材と、この芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙とを備える多湿環境用石膏ボードであって、
前記スラリーは、ポルトランドセメントを含有し、前記ポルトランドセメントの含有量が、前記焼石膏100質量部当たり、0.1?1.0質量部であり、かつ
前記スラリーは、デンプンを含有し、前記デンプンの含有量が、前記焼石膏100質量部当たり、0.3?2.4質量部であり、
前記芯材は、有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用石膏ボード。
【請求項4】
JIS R 9101に準拠した前記芯材のpHが、5.8?8.6である請求項3に記載の多湿環境用石膏ボード。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
焼石膏、及び水を含有するスラリーを硬化させたものからなるボード状の芯材と、この芯材の両面に貼り付けられる一対のボード用原紙とを備える多湿環境用石膏ボードの製造方法であって、
前記スラリーに、ポルトランドセメントを、前記焼石膏100質量部当たり、0.1?1.0質量部の割合で、添加し、かつ、デンプンを、前記焼石膏100質量部当たり、0.3?2.4質量部の割合で添加する添加工程を有し、
前記添加工程において、前記スラリーに、有機系の防カビ剤を添加しない、有機系の防カビ剤を含有しない多湿環境用石膏ボードの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-12 
出願番号 特願2016-81024(P2016-81024)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C04B)
P 1 651・ 121- YAA (C04B)
P 1 651・ 851- YAA (C04B)
P 1 651・ 857- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 手島 理  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 川村 裕二
金 公彦
登録日 2018-05-25 
登録番号 特許第6341952号(P6341952)
権利者 チヨダウーテ株式会社
発明の名称 石膏ボード及び石膏ボードの製造方法  
代理人 特許業務法人暁合同特許事務所  
代理人 特許業務法人暁合同特許事務所  

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