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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1362606
審判番号 不服2019-11750  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-06 
確定日 2020-06-09 
事件の表示 特願2018-30340「内燃機関の制御装置及び制御方法」拒絶査定不服審判事件〔令和元年8月29日出願公開、特開2019-143578、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年2月23日の出願であって、平成31年2月25日付け(発送日:平成31年3月5日)で拒絶の理由が通知され、平成31年4月12日に意見書及び補正書が提出されたが、令和元年7月19日付け(発送日:令和元年7月23日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対して令和元年9月6日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1ないし5に対して:引用文献1ないし4

<引用文献等一覧>
1.特開2009-281239号公報
2.特開2010-14029号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2006-183506号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2006-22706号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成31年4月12日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
点火時期を含む予め設定された種類の運転状態と、内燃機関の出力トルクとの関係が予め設定された関数であるトルク特性関数を用い、複数の数に予め設定された点火標本数の点火時期のそれぞれに対応する前記点火標本数の出力トルクである前記点火標本数の点火対応トルクを算出する複数点火トルク算出部と、
前記点火標本数の点火時期及び前記点火標本数の点火対応トルクに基づいて、前記点火標本数の点火時期と前記点火標本数の点火対応トルクとの関係を近似した近似曲線である点火トルク近似曲線を算出する点火トルク近似曲線算出部と、
前記点火トルク近似曲線を用い、前記内燃機関に要求されている出力トルクである目標トルクに対応する点火時期を、目標点火時期として算出する近似曲線点火算出部と、
前記目標点火時期に基づいて点火コイルへの通電制御を行う点火制御部と、
を備えた内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記トルク特性関数は、ニューラルネットワークにより構成されている請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記点火標本数は、3つ以上の数に予め設定されており、
前記点火トルク近似曲線算出部は、前記点火標本数の点火時期及び前記点火標本数の点火対応トルクに基づいて、2次関数とした前記点火トルク近似曲線の各項の係数を算出する請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記点火標本数は、2つに予め設定されており、
前記複数点火トルク算出部は、前記点火標本数の点火時期として、前記出力トルクが最大になる点火時期である最大トルク点火時期、及び点火時期の遅角側の設定限界である遅角限界点火時期を用い、
前記点火トルク近似曲線算出部は、前記最大トルク点火時期、及び前記最大トルク点火時期に対応する前記点火対応トルクを、2次関数とした前記点火トルク近似曲線の極値に設定し、前記遅角限界点火時期、及び前記遅角限界点火時期に対応する前記点火対応トルクに基づいて、前記点火トルク近似曲線の各項の係数を算出する請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
点火時期を含む予め設定された種類の運転状態と、内燃機関の出力トルクとの関係が予め設定された関数であるトルク特性関数を用い、複数の数に予め設定された点火標本数の点火時期のそれぞれに対応する前記点火標本数の出力トルクである前記点火標本数の点火対応トルクを算出する複数点火トルク算出ステップと、
前記点火標本数の点火時期及び前記点火標本数の点火対応トルクに基づいて、前記点火標本数の点火時期と前記点火標本数の点火対応トルクとの関係を近似した近似曲線である点火トルク近似曲線を算出する点火トルク近似曲線算出ステップと、
前記点火トルク近似曲線を用い、前記内燃機関に要求されている出力トルクである目標トルクに対応する点火時期を、目標点火時期として算出する近似曲線点火算出ステップと、
前記目標点火時期に基づいて点火コイルへの通電制御を行う点火制御部ステップと、
を実行する内燃機関の制御方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-281239号公報(以下「引用文献1」という。)には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下同様。)。

(1)「【0001】
本発明は内燃機関の制御装置に関し、特に、ドライバ(運転者)の要求に応じて目標トルクが設定され、且つ、内燃機関により出力されるトルクがこの目標トルクに対応して調整されるように構成されている、内燃機関を制御するための内燃機関の制御装置に関する。」

(2)「【0015】
図2おいて、12はアクセル開度センサであり、13は電子制御ユニット(以下、「ECU」と称す)である。他の構成については、図1と同じであるため、同一符号を付して示し、ここではその説明を省略する。エアフロセンサ4で測定された吸入空気流量と、インマニ圧センサ6で測定されたインマニ圧と、スロットル開度センサ3で測定された電子制御式スロットルバルブ2の開度と、クランク角センサ11より出力されるクランク軸に設けられたプレートのエッジに同期したパルスとが、ECU13に入力される。また、前記以外のアクセル開度センサ12やその他の各種センサからもECU13に測定値が入力され、さらに、他のコントローラ(例えば、自動変速機制御、ブレーキ制御、トラクション制御等の制御システム)からのトルク要求値も入力される。ECU13では、入力された各種データに基づいて、後述する方法を用いて、実出力トルクが算出され、また、アクセル開度やエンジンの運転状態、さらに他のコントローラからのトルク要求値などを基にして目標出力トルク(又は目標平均有効圧)が設定される。設定された目標出力トルクを達成するよう後述する方法を用いて目標吸入空気流量及び目標点火時期が算出され、目標吸入空気流量を達成するように電子制御式スロットルバルブ2は制御され、目標点火時期を達成するように点火コイル9への通電が行われる。また、運転状態に応じて電子制御式EGRバルブ7の開度は制御され、目標空燃比を達成するようにインジェクタ8は駆動される。さらに、前記以外の各種アクチュエータへの指示値も算出される。
【0016】
次に、図3を参照しながら、ECU13内で行うトルクベース制御の概要について説明する。図3はトルクベース制御全体の構成を示した概略図である。図3において、14はトルク制御部であり、15はトルクインターフェース部(以下、「トルクI/F部」と称す。)、16はエンジン制御部である。エンジン制御部16には、吸気量制御部16aと、燃料制御部16bと、点火時期制御部16cと、その他制御部16dが設けられている。」

(3)「【0029】
トルク制御部14の第2の目標出力トルク演算部B105で、車両側からのトルク要求を受け、第2の目標出力トルクが演算された場合、第2の目標点火時期演算部B111では、第2の目標点火時期が算出される。この第2の目標点火時期演算方法については後述する。エンジン制御部16の最終目標点火時期演算部B115では、第1の目標点火時期演算部B114で算出された第1の目標点火時期と第2の目標点火時期演算部B111で算出された第2の目標点火時期のうち、第2の目標出力トルクが第1の目標出力トルクより小さい場合で且つ遅角可能な運転状態と判断された場合や、逆に大きい場合で且つ進角可能な運転状態と判断された場合は、第2の目標点火時期を選択し、それ以外の場合は第1の目標点火時期を選択して、最終目標点火時期として決定する。なお、最大目標充填効率演算部B109で算出される点火リタード量は、第1の目標点火時期演算部B114にて算出された基本点火時期と最終目標点火時期演算部B115にて算出された最終目標点火時期との差から算出してもよい。」

(4)「【0032】
図6は、あるエンジン回転数と充填効率の運転条件下において、出力トルク(図示平均有効圧)yは上死点TDCを基準として進角側を正に取った点火時期xと2次関数で近似した場合を示しており、これらの関係は次式(1)で表される。
【0033】
【数1】

【0034】
ここで、本2次関数は常時上に凸となるので、aは負の値をとる。a,b,cをマップにて与えることで、点火時期に応じた出力トルクの算出が可能となる。ところで、点火時期が基本点火時期マップ値xaにて運転されている場合の出力トルク(基本出力トルク)yaをマップ化しておけば、下式(2)により、cが算出できるので、cはマップ化する必要はない。
【0035】
【数2】

【0036】
以上を基に、図7に示す実出力トルク演算(第1の実出力トルク演算部B106)の実施の形態について説明する。図7に示すように、第1の実出力トルク演算部B106には、基本出力トルク算出部B201と、係数a算出部B202と、係数b算出部B203と、係数c演算部B204と、実出力トルク演算部B205とが設けられている。
【0037】
基本出力トルク算出部B201では、実充填効率演算部B113で算出された実充填効率と別途算出されたエンジン回転数(アイドル時は目標エンジン回転数)とを基に、基本出力トルクyaが算出される。同様に、係数a算出部B202および係数b算出部B203において係数a,bが算出される。続いて、係数c算出部B204では、第1の目標点火時期演算部B114で算出される基本点火時期xaと基本出力トルク算出部B201で算出される基本出力トルクyaとから、式(2)に従って、係数cが算出される。実出力トルク演算部B205では、これまでに算出した、係数a,b,cと実際の点火時期である第1の目標点火時期x1とから、式(1)により実出力トルクy1が算出される。
【0038】
なお、第2の実出力トルク演算部B116にて第2の実出力トルクを演算する場合は、実出力トルク演算部B205にて、係数a,b,cと第2の目標点火時期x2から同様に式(1)により第2の実出力トルクy2が算出され、第3の実出力トルク演算部B118にて第3の実出力トルクを演算する場合は、実出力トルク演算部B205にて、係数a,b,cと最終目標点火時期xfから同様に式(1)により第3の実出力トルクyfが算出される。
【0039】
図8は、第2の目標点火時期演算について実施の形態を示す図である。図6において、目標出力トルクytが与えられた場合の目標点火時期xtは、下式(3)に示す通り、式(1)を点火時期xについて解くことで得ることができる。
【0040】
【数3】

【0041】
なお、2次関数は上に凸であり、目標点火時期としては常にMBTよりリタード側しかとらないので、±の+側の値を用いることになり、目標点火時期x_(t)は次式(4)で表される。
【0042】
【数4】

【0043】
以上で示した第2の目標点火時期演算の概念を基に、図8に示す、第2の目標点火時期
演算部B111による第2の目標点火時期演算の実施の形態について説明する。図8に示すように、第2の目標点火時期演算部B111には、第2の目標点火時期演算部B206と、リタード限界演算部B207とが設けられている。
【0044】
第2の目標点火時期演算部B206では、第1の実出力トルク演算部B106にて演算された係数a,b,cと、第2の目標出力トルク演算部にて演算された第2の目標出力トルクy_(t2)とから、式(4)を用いて第2の目標点火時期x_(t2)が算出される。続くリタード限界演算部B207では、別途算出された点火時期のリタード限界と比較することで第2の目標点火時期x_(t2)はリタード限界で制限される。すなわち、第2の目標点火時期x_(t2)が予め設定された所定のリタード限界の値以下のときはリタード限界演算部B207からそのままの値が出力され、逆に大きいときは、リタード限界の値が出力される。このような構成とすることで、実出力トルク演算と第2の目標点火時期演算が実現できる。以上のような構成とすることで、吸入空気量によりトルク制御されるドライバ要求出力と、点火時期によりトルク制御される車両側のトルク要求とを、簡単なロジック構成で実現できる。」

上記記載事項及び図面(特に、図3ないし8を参照。)の図示内容から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕
「内燃機関の出力トルクyと点火時期xとの関係が2次関数y=ax^(2)+bx+cで近似され、係数aを算出する係数a算出部B202、係数bを算出する係数b算出部B203及び係数cを算出する係数c算出部B204と、
前記出力トルクyと点火時期xとの関係を2次関数で近似した曲線を用い、前記内燃機関に要求されている出力トルクである第2の目標出力トルクy_(t2)に対応する点火時期を、第2の目標点火時期x_(t2)として算出する第2の目標点火時期演算部B206と、
前記第2の目標点火時期x_(t2)に基づいて点火コイル9への通電制御を行う点火時期制御部16cと、
を備えた内燃機関の制御装置。」

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-14029号公報(以下「引用文献2」という。)には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0016】
本実施の形態の制御装置は、点火時期制御に係る計算要素としてトルクモデル6を備えている。トルクモデル6はトルクと点火時期との関係を表す統計モデルであり、実機の運転によって得た観測データに基づいて作成されている。トルクモデル6は観測データのマップの形式で、或いは、観測データから得られた関数の形で制御装置の記憶要素に記憶されている。トルクモデル6に目標トルクr(k)を入力することで、それを実現するための点火時期を算出することができる。」

(2)「【0019】
図2は、本実施の形態に係るトルクモデル6を示す図である。一般に、トルクモデルを作成するための観測データは、点火時期を固定してトルクが定常状態になるまで待機した後にトルクを計測することで得られる。点火時期とトルクとの関係は図2に示すように放物線上になることから、トルクモデルとしても点火時期とトルクとの関係を2次回帰曲線で近似したものが多い。本実施の形態に係るトルクモデル6も次式(1)に示す2次回帰曲線で表されているものとする。なお、式(1)においてyはトルク、uは点火時期である。α_(0),α_(1),α_(2)は定数であり、その値は適合によって決定される。
y=α_(2)u^(2)+α_(1)u^(1)+α_(0) ・・・(1)
【0020】
式(1)に示す2次回帰曲線はあくまでも実際の点火時期とトルクとの関係を近似したものであるので、全ての観測データが2次回帰曲線上に位置しているわけではない。図2中に示すように、2次回帰曲線と観測データとの間にはばらつきが生じている。ただし、2次回帰曲線の定数α_(0),α_(1),α_(2)は、ばらつきが所定の範囲、例えば、標準偏差σに対して-3σ?3σの範囲に収まるように設定されている。つまり、観測データが得られている範囲であれば、式(1)に示す2次回帰曲線に目標トルクを入力することで、目標トルクを実現できる点火時期をある一定の精度で得ることができる。しかし、観測データが得られている範囲の外側、すなわち、外挿領域ではその精度を担保することはできない。外挿領域における点火時期とトルクとの関係も2次回帰曲線で近似されると仮定することができるが、内挿領域と比較すればトルクと点火時期との関係には大きなばらつきがあるものと考えられる。」

上記記載事項及び図面(特に、図1及び2を参照。)の図示内容から、引用文献2には次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献2記載事項〕
「点火時期とトルクとの関係を2次回帰曲線で近似したトルクモデルに目標トルクを入力することで、それを実現するための点火時期を算出することができること。」

3 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-183506号公報(以下「引用文献3」という。)には、「エンジンの制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0032】
本発明に係るエンジンの制御装置の第13態様では、前記エンジントルク推定手段は、燃料噴射量、吸入空気量、点火時期、及び空燃比のうちの少なくとも一つからエンジンの図示トルク及び/又は軸トルクまでの伝達特性モデルを備える(図7参照)。
【0033】
すなわち、前述のように、エンジントルク系には、伝達特性(遅れ)が存在する。エンジントルク推定手段に、エンジントルクを決定する主因子である燃料噴射量、吸入空気量、点火時期、及び空燃比のうちの少なくとも一つからトルクまでの伝達特性(モデル)を備えさせることで、より高精度にエンジントルクの推定(予測)を実現するものである。」

(2)「【0042】
本発明に係るエンジンの制御装置の第18態様では、前記エンジントルク推定手段は、点火時期を変化させたときにおけるトルクまでの伝達特性モデルを有する(図12参照)。」

(3)「【0070】
本発明に係るエンジンの制御装置の第32態様では、前記エンジン制御パラメータを演算する手段は、エンジントルクから燃料噴射量、吸入空気量、及び点火時期のうちの少なくとも一つまでの逆伝達特性モデルを有し、該逆伝達特性モデルに基づいて、前記目標トルクを実現するための目標燃料噴射量、目標吸入空気量、及び目標点火時期のうちの少なくとも一つを演算するようにされる(図25参照)。」

上記記載事項及び図面(特に、図7、12及び25を参照。)の図示内容から、引用文献3には次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献3記載事項〕
「点火時期を変化させたときにおけるトルクまでの伝達特性モデルを用いてエンジントルクを推定すること、及び、エンジントルクから点火時期までの逆伝達特性モデルに基づいて、目標トルクを実現するための目標点火時期を演算すること。」

4 引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-22706号公報(以下「引用文献4」という。)には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0023】
斯くして出力された目標吸気量GAtおよび目標点火時期STtは、図5に示したシステム制御構成に入力される。すなわち、図5において、33a?33cは、内燃機関のシステムモデル(これは、点火時期および吸気量とトルクとの関係をモデル化したものであり、以下これを「吸気量・点火時期エンジンモデル」ともいう)である。
【0024】
目標点火時期STtは、吸気量・点火時期エンジンモデル33aに入力される。また、このエンジンモデル33aには、現在の実際の吸気量GAも入力される。これにより、このエンジンモデル33aからは、現在の吸気量を維持したままで、現在の点火時期を目標点火時期STtに変えたときに内燃機関から出力されるトルクTe1が出力される。」

上記記載事項及び図面(特に、図5を参照。)の図示内容から、引用文献4には次の事項(以下「引用文献4記載事項」という。)が記載されている。

〔引用文献4記載事項〕
「点火時期および吸気量とトルクとの関係をモデル化した吸気量・点火時期エンジンモデルに目標点火時期STtが入力されると、内燃機関から出力されるトルクTe1が出力されること。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「第2の目標出力トルクy_(t2)」は、その機能、構成または技術的意義から見て、本願発明1における「目標トルク」に相当し、以下同様に、「第2の目標点火時期x_(t2)」は「目標点火時期」に、「第2の目標点火時期演算部B206」は「近似曲線点火算出部」に、「点火コイル9」は「点火コイル」に、「点火時期制御部16c」は「点火制御部」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「内燃機関の出力トルクyと点火時期xとの関係を近似した2次関数y=ax^(2)+bx+c」は、その機能、構成または技術的意義から見て、本願発明1における「点火トルク近似曲線」に相当するということができ、当該2次関数y=ax^(2)+bx+cの係数a、b及びcを算出することは、「点火トルク近似曲線を算出する」ことに相当するといえる。そうすると、引用発明における「内燃機関の出力トルクyと点火時期xとの関係を近似した2次関数y=ax^(2)+bx+cの係数aを算出する係数a算出部B202、係数bを算出する係数b算出部B203及び係数cを算出する係数c算出部B204」と、本願発明1における「前記点火標本数の点火時期及び前記点火標本数の点火対応トルクに基づいて、前記点火標本数の点火時期と前記点火標本数の点火対応トルクとの関係を近似した近似曲線である点火トルク近似曲線を算出する点火トルク近似曲線算出部」とは、「内燃機関の点火時期と出力トルクのとの関係を近似した曲線である点火トルク近似曲線を算出する点火トルク近似曲線算出部」という限りにおいて一致している。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
〔一致点〕
「内燃機関の点火時期と出力トルクとの関係を近似した曲線である点火トルク近似曲線を算出する点火トルク近似曲線算出部と、
前記点火トルク近似曲線を用い、前記内燃機関に要求されている出力トルクである目標トルクに対応する点火時期を、目標点火時期として算出する近似曲線点火算出部と、
前記目標点火時期に基づいて点火コイルへの通電制御を行う点火制御部と、
を備えた内燃機関の制御装置。」

〔相違点〕
本願発明1においては「点火時期を含む予め設定された種類の運転状態と、内燃機関の出力トルクとの関係が予め設定された関数であるトルク特性関数を用い、複数の数に予め設定された点火標本数の点火時期のそれぞれに対応する前記点火標本数の出力トルクである前記点火標本数の点火対応トルクを算出する複数点火トルク算出部」を備え、「前記点火標本数の点火時期及び前記点火標本数の点火対応トルクに基づいて、前記点火標本数の点火時期と前記点火標本数の点火対応トルクとの関係を近似した近似曲線である点火トルク近似曲線を算出する点火トルク近似曲線算出部」を備えるものであるのに対して、引用発明においては、内燃機関の出力トルクyと点火時期xとの関係が2次関数y=ax^(2)+bx+cで近似され、係数aを算出する係数a算出部B202、係数bを算出する係数b算出部B203及び係数cを算出する係数c演算部B204を備えるものである点。

上記相違点について検討する。
引用文献2記載事項は上記のとおり「点火時期とトルクとの関係を2次回帰曲線で近似したトルクモデルに目標トルクを入力することで、それを実現するための点火時期を算出することができること。」というものであり、引用文献3記載事項は上記のとおり「点火時期を変化させたときにおけるトルクまでの伝達特性モデルを用いてエンジントルクを推定すること、及び、エンジントルクから点火時期までの逆伝達特性モデルに基づいて、目標トルクを実現するための目標点火時期を演算すること。」というものであり、引用文献4記載事項は上記のとおり「点火時期および吸気量とトルクとの関係をモデル化した吸気量・点火時期エンジンモデルに目標点火時期STtが入力されると、内燃機関から出力されるトルクTe1が出力されること。」というものであって、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を開示ないし示唆するものではない。
また、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項は、本願出願前に周知の技術であったということはできず、また、設計的事項ということもできない。
よって、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項は、引用発明及び引用文献2ないし4記載事項に基いて当業者が容易に想到できたということはできない。
したがって、本願発明1は、原査定の引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2ないし4について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし4は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく直接的又は間接的に引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし4は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし4は、本願発明1について述べたものと同様の理由により、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明5について
本願発明5は、本願発明1と、カテゴリー表現上の差異があるだけであって、その実質的な内容は本願発明1と同じである。
したがって、本願発明5は、本願発明1について述べたものと同様の理由により、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 小括
そうすると、本願発明1ないし5は、原査定で引用された引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-05-19 
出願番号 特願2018-30340(P2018-30340)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 戸田 耕太郎  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 鈴木 充
北村 英隆
発明の名称 内燃機関の制御装置及び制御方法  
代理人 竹中 岑生  
代理人 吉澤 憲治  
代理人 大岩 増雄  
代理人 村上 啓吾  

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