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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A47J
管理番号 1362623
審判番号 不服2019-1746  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-07 
確定日 2020-05-21 
事件の表示 特願2014-207694「炊飯器」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月12日出願公開、特開2016- 73567〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年10月9日の出願であって、平成30年4月17日付けで拒絶理由が通知され、平成30年6月20日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年11月5日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成31年2月7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成31年2月7日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は補正箇所を示す。)。
「 【請求項1】
情報端末機器と通信可能な炊飯器であって、
被加熱物を誘導加熱する加熱手段と、
前記加熱手段を制御する制御手段と、
前記情報端末機器と通信する通信手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記加熱手段の駆動が停止している場合に、前記炊飯器と前記情報端末機器とが所定距離近接することで前記通信手段と前記情報端末機器との間が通信可能であると判断すると、前記情報端末機器から送信される設定情報を前記通信手段において受信するように前記通信手段を制御し、
炊飯モード、予約炊飯モード、及び保温モードの何れかの調理モードを実行している場合に、前記炊飯器と前記情報端末機器とが所定距離近接することで前記通信手段と前記情報端末機器との間が通信可能であると判断すると、前記調理モードに代えて待機モードを実行するようにし、
前記待機モードにおいて前記情報端末機器から送信される前記設定情報を前記通信手段において受信するように前記通信手段を制御し、
前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報と、が相違するとき、前記設定情報に基づいて炊飯を実行し、
前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報と、が同一であるとき、前記既定情報に基づいて炊飯を実行することを特徴とする炊飯器。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成30年6月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
情報端末機器と通信可能な炊飯器であって、
被加熱物を誘導加熱する加熱手段と、
前記加熱手段を制御する制御手段と、
前記情報端末機器と通信する通信手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記加熱手段の駆動が停止している場合に前記通信手段と前記情報端末機器とが通信可能であるとき、前記情報端末機器から送信される設定情報を前記通信手段において受信するように前記通信手段を制御し、
炊飯モード、予約炊飯モード、及び保温モードの何れかの調理モードを実行している場合に前記通信手段と前記情報端末機器とが通信可能であるとき、前記調理モードに代えて待機モードを実行するようにし、
前記待機モードにおいて前記情報端末機器から送信される前記設定情報を前記通信手段において受信するように前記通信手段を制御し、
前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報と、が相違するとき、前記設定情報に基づいて炊飯を実行し、
前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報と、が同一であるとき、前記既定情報に基づいて炊飯を実行することを特徴とする炊飯器。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記通信手段と前記情報端末機器とが通信可能であるとき」(2カ所)について、「前記炊飯器と前記情報端末機器とが所定距離近接することで前記通信手段と前記情報端末機器との間が通信可能であると判断する」と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2の第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項及び記載された発明
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、特開2013-215556号(以下、「引用文献1」という。)には、「炊飯器」に関して、図面と共に次の記載がある(下線は、参考のため、当審で付与したものである。)。
「【請求項1】
調理物を入れる鍋と、
前記鍋を加熱する加熱装置と、
複数の炊飯メニューから特定の炊飯メニューを選択するためのメニュー選択部と、
炊飯開始を指示するための開始指示部と、
無線通信端末と無線通信を行う無線通信部と、
前記無線通信部と情報の授受を行う伝送部と、
前記伝送部が受信した情報を解読する受信情報解読部と、
前記メニュー選択部にて特定の炊飯メニューが選択されるとともに前記開始指示部にて炊飯開始が指示されたとき、前記メニュー選択部にて選択された特定の炊飯メニューに基づいて前記加熱装置を制御し、前記鍋内の調理物の炊飯を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記受信情報解読部が前記無線通信部を介して前記無線通信端末からメニュー選択情報を受けたとき、前記メニュー選択部にて選択された特定の炊飯メニューに代えて、前記メニュー選択情報に基づいて前記加熱装置を制御し、前記鍋内の調理物の炊飯を行う、炊飯器。」
「【0013】
【図1】本発明の実施形態にかかる炊飯器の構成を示すブロック図である。【図2】本発明の実施形態にかかる炊飯器の動作状態の遷移を示す説明図である。
【図3】従来の炊飯器の構成を示すブロック図である。
【図4】無線通信端末の表示部に表示される炊飯メニューの一例を示す図である。」
「【0020】
《実施形態》
以下に、本発明の実施形態にかかる炊飯器について説明する。図1は、本実施形態にかかる炊飯器の構成を示すブロック図である。本実施形態にかかる炊飯器は、携帯電話等の無線通信端末30を用いて炊飯メニューを選択可能に構成されている。
【0021】
図1において、本実施形態にかかる炊飯器は、鍋1と、鍋1を誘導加熱する加熱装置2と、加熱装置2を制御する制御部3とを備えている。鍋1は、例えば、米や水などの調理物を入れる磁性体製の容器である。加熱装置2は、加熱コイル21と、加熱コイル21に高周波電流を供給するインバータ回路22とを備えている。加熱コイル21は、例えば、鍋1の底面近傍に配置されている。また、鍋1の底面近傍には、鍋1の温度を検知する温度センサ(図示せず)が設けられている。」
「【0032】
無線通信部7は、無線通信端末30と無線信号の送受信を行うアンテナ71と、アンテナが送受信する無線信号の変調、復調、符号化、複合化などの処理を行う無線信号処理部72とを備えている。
【0033】
アンテナ71は、例えば、無線通信端末30が近づけられたときに電波を送受信するように構成されている。」

「【0040】
図2に示すように、本実施形態にかかる炊飯器においては、待機状態a1、メニュー選択状態a2、炊飯状態a3、保温状態a4、予約待機状態a5、及び機器設定状態a6の6つの動作状態がある。」
「【0047】
次に、本実施形態にかかる炊飯器に対して、無線通信端末30を用いて炊飯メニューを選択する動作について説明する。
【0048】
無線通信端末30と無線通信部7との間では、予め定められた通信プロトコルにより通信が行われる。無線通信端末30が無線通信部7に近づけられると、無線通信処理部72が、アンテナ71を介して無線通信端末30から無線情報を受信する。
【0049】
無線信号処理部72は、無線通信端末30からタグ情報の読み込みを指示する無線情報を受信すると、制御部3の記憶部に記憶されているタグ情報を読み込み、アンテナ71を介して無線通信端末30へ送信する。無線通信端末30は、このタグ情報に基づいて目的(炊飯対象)の炊飯器であるか否かを判定し、目的の炊飯器であると判定すると、当該炊飯器を制御する情報を送信する。
【0050】
以下、無線通信端末30と無線通信部7との間でやりとりする情報を電文という。本実施形態では、ユーザが無線通信端末30にて選択した炊飯メニューに関するメニュー選択情報が電文として送信される。」
「【0058】
なお、要求コマンドを含む電文の受信は、加熱装置2による加熱動作を行わない待機状態a1又はメニュー選択状態a2でのみ行うようにすることが好ましい。これにより、加熱装置2から発生するノイズにより、電文を誤って受信することを防ぐことができる。」



段落【0048】、【0049】より、無線通信端末30が、無線通信部7に近づけられると、無線通信処理部(無線信号処理部)72が、無線通信端末30から無線情報を受信し、タグ情報を無線通信端末30へ送信し、無線通信端末30から炊飯器を制御する情報を受信することが理解できる。ここで、炊飯器を制御する情報とは、【0050】のメニュー選択情報であるから、結局、無線通信端末30が無線通信部7に近づけられると、無線通信処理部(無線信号処理部)72が、無線通信端末30から送信される炊飯器を制御するメニュー選択情報をアンテナを介して受信するものと言える。よって、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「携帯電話等の無線通信端末を用いて炊飯メニューを選択可能な炊飯器であって、
鍋を誘導加熱する加熱装置と、
加熱装置を制御する制御部と、
無線通信端末と無線信号の送受信を行うアンテナと、無線信号の処理を行う無線通信処理部(無線信号処理部)とを備えた無線通信部と、を備え、
待機状態、炊飯状態、保温状態、予約待機状態、等の動作状態を有し、
加熱装置による加熱動作を行わない待機状態において、無線通信端末が無線通信部に近づけられると、無線通信処理部(無線信号処理部)が、無線通信端末から送信される炊飯器を制御するメニュー選択情報をアンテナを介して受信し、
制御部は、無線通信端末からメニュー選択情報を受けたとき、前記メニュー選択情報に基づいて炊飯を行う、炊飯器。」
イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された特開平10-160166号(以下、「引用文献2」という。)には、「高周波加熱調理システム」に関して、図面と共に次の記載がある。
「【0024】尚、本体側通信部5とリモコン側通信部15の間の通信は赤外線(IR)等を利用して行われる。図2は、本体側発明の実施の形態における電子レンジ1の不要輻射を制御する例を示す波形図である。上記のように本発明では、画像信号送信部7と画像信号受信部11間の無線通信に2.4GHzのISM帯域の電波を使用する訳であるが、一方この2.4GHz帯の周波数帯には、電子レンジから漏れる電波が存在するので、画像信号送信部7と画像信号受信部11間の無線通信が妨害される惧れがある。
【0025】本発明では、この電子レンジから漏れる電波による画像信号送信部7と画像信号受信部11間の無線通信の電波妨害を次の方法により防止している。図2の(a)の波形は家庭用に使用されているインバータ搭載の電子レンジの例を示し、(b)はコンビニエンス・ストアー等で使用されている業務用の電子レンジの例を示している。そして、(a)の波形の場合、細かく分かれているが全体として全波整流した正弦波状になっており、又(b)の波形の場合、完全に全波整流した正弦波状になっている。
【0026】本発明の実施の形態として、上記(b)の波形を制御して電波妨害の防止を行う例を説明する。(c)の波形は、加熱制御部3で加熱を一時停止させた場合を示し、この間に上記画像信号送信部7と画像信号受信部11間の無線通信を行う。又、(d)の波形は、加熱制御部3で加熱をパワーセーブ(出力抑制)させた場合を示し、この間に上記画像信号送信部7と画像信号受信部11間の無線通信を行う。」



上記記載および図面を総合すると、引用文献2には以下の技術(以下、「引用2技術」という。)が記載されていると認められる。
「電波により無線通信が妨害されるのを防ぐため、加熱を一時停止させている間に無線通信を行うこと」
(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「携帯電話等の無線通信端末」はその機能、構成及び技術的意味からみて前者の「情報端末機器」に相当し、したがって、後者の「携帯電話等の無線通信端末を用いて炊飯メニューを選択可能な炊飯器」は、前者の「情報端末機器と通信可能な炊飯器」に相当する。以下、同様に、「鍋を誘導加熱する加熱装置」は「被加熱物を誘導加熱する加熱手段」に、「加熱装置を制御する制御部」は「前記加熱手段を制御する制御手段」に、「メニュー選択情報」は「設定情報」に、相当する。
また、後者の「無線通信端末と無線信号の送受信を行うアンテナと、無線信号の処理を行う無線通信処理部(無線信号処理部)とを備えた無線通信部」は、前者の「情報端末機器と通信する通信手段」に相当する。
後者の「加熱装置による加熱動作を行わない待機状態」は、前者の「加熱手段の駆動が停止している場合」に相当する。
後者の「無線通信端末が無線通信部に近づけられると、無線通信処理部(無線信号処理部)が、無線通信端末から送信される炊飯器を制御するメニュー選択情報をアンテナを介して受信し、」は、「炊飯器を制御するメニュー選択情報」が前者の「設定情報」に相当すること、「無線通信端末が無線通信部に近づけられる」ことで情報の受信が可能と判断して、「情報を受信」するように「無線通信部」を制御していることは明らかであることを踏まえると、前者の「炊飯器と情報端末機器とが所定距離近接することで前記通信手段と前記情報端末機器との間が通信可能であると判断すると、」「前記情報端末機器から送信される設定情報を前記通信手段において受信するように前記通信手段を制御し、」に相当する。
後者の「前記メニュー選択情報に基づいて炊飯を行う」ことは、前者の「前記設定情報に基づいて炊飯を実行」することに相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次の通りである。
[一致点]
「情報端末機器と通信可能な炊飯器であって、
被加熱物を誘導加熱する加熱手段と、
前記加熱手段を制御する制御手段と、
前記情報端末機器と通信する通信手段と、を備え、
前記加熱手段の駆動が停止している場合に、前記炊飯器と前記情報端末機器とが所定距離近接することで前記通信手段と前記情報端末機器との間が通信可能であると判断すると、前記情報端末機器から送信される設定情報を前記通信手段において受信するように前記通信手段を制御し、
前記情報端末機器から送信される前記設定情報に基づいて炊飯を実行する炊飯器。」
[相違点1]
「前記加熱手段の駆動が停止している場合に、前記炊飯器と前記情報端末機器とが所定距離近接することで前記通信手段と前記情報端末機器との間が通信可能であると判断すると、前記情報端末機器から送信される設定情報を前記通信手段において受信するように前記通信手段を制御」する主体が、本件補正発明は、「制御手段」であるのに対し、引用発明は、「無線通信処理部(無線信号処理部)」である点。
[相違点2]
本件補正発明は、「炊飯モード、予約炊飯モード、及び保温モードの何れかの調理モードを実行している場合に、前記炊飯器と前記情報端末機器とが所定距離近接することで前記通信手段と前記情報端末機器との間が通信可能であると判断すると、前記調理モードに代えて待機モードを実行するようにし、前記待機モードにおいて前記情報端末機器から送信される前記設定情報を前記通信手段において受信するように前記通信手段を制御」するのに対し、引用発明では、そのような制御をしていない点。
[相違点3]
本件補正発明が「前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報と、が相違するとき、前記設定情報に基づいて炊飯を実行し、前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報と、が同一であるとき、前記既定情報に基づいて炊飯を実行する」のに対し、引用発明はメニュー選択情報に基づいて炊飯を行う点。
(4)判断
ア 相違点1について
引用発明の「制御部」と「無線通信処理部(無線信号処理部)」を併せて本件補正発明の「制御手段」に相当するものとみれば、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
また、複数の制御機能を一つの「制御手段」により実行することは、文献を提示するまでもなく、当業者にとって周知の技術であるから、引用発明において、「無線通信処理部(無線信号処理部)」の制御機能を「制御部」で実行することとして、相違点1に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
イ 相違点2について
引用発明は、「待機状態、炊飯状態、保温状態、予約待機状態、等」の動作状態を有するところ、該「炊飯状態」は、本件補正発明の「炊飯モード」に相当し、同じく、「保温状態」は「保温モード」に相当し、「予約待機状態」からの「炊飯状態」は「予約炊飯モード」に相当する。
すなわち、引用発明は、「炊飯モード、予約炊飯モード、及び保温モードのいずれかの調理モードを実行」するものである。
また、引用文献1には、加熱装置から発生するノイズにより、要求コマンドを含む電文を誤って受信することを防ぐ為、加熱動作を行わない動作状態で電文を受信することが好ましい旨が記載されている(段落[0058])。
上記記載は、加熱手段が駆動している動作状態では、電文すなわちメニュー選択情報を受信しないというものであるが、どのような動作状態であっても、メニュー選択情報を受信できる方が利便性が高まることは、当業者にとって明らかである。
ところで、引用2技術には、「電波により無線通信が妨害されるのを防ぐため、加熱を一時停止させている間に無線通信を行うこと」が示されている。
してみれば、引用発明において、加熱手段が駆動している「炊飯モード、予約炊飯モード、及び保温モードの何れかの調理モードを実行している場合」に、無線通信端末が無線通信部に近づけられて電文すなわちメニュー選択情報を受信しようすると、メニュー選択情報を誤って受信してしまう恐れがあるという課題を認識でき、この課題を解決しつつ、利便性も高めるため、引用2技術を適用し、加熱を一時停止させている間にメニュー選択情報を受信することは、当業者が容易になし得た事項である。このとき、「加熱を一時停止させている」状態が、本件補正発明の「待機モード」に相当する。そうすると、相違点2に係る本件補正発明の構成は、引用発明において、より利便性を高めるべく、引用2技術を適用し、「炊飯モード、予約炊飯モード、及び保温モードの何れかの調理モードを実行している場合」に無線通信端末が無線通信部に近づけられると、加熱を一時停止させて(すなわち待機モードを実行し)、その間にメニュー選択情報を受信するように制御することにより、当業者が容易に想到し得たものである。
ウ 相違点3について
引用発明において、無線通信端末からメニュー選択情報が複数回送信されることは、当然想定されることである。このとき、先行して送信されたメニュー選択情報は、本件補正発明の「先行して前記情報端末機器から送信された既定情報」に相当する。そして、引用発明においてメニュー選択情報が複数回送信される場合、最新の情報に基いて炊飯するのが自然である。このことは、最新の情報とその前の情報が異なる場合、本件補正発明の「前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報と、が相違するとき、前記設定情報に基づいて炊飯を実行」することに相当する。
また、最新の情報とその前の情報が同じである場合、最新の情報に基いて炊飯を実行することと、既定情報に基づいて炊飯を実行することは、実質的に同じことであるから、この場合に最新の情報に基づいて炊飯をすることは、本件補正発明の「前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報と、が同一であるとき、前記既定情報に基づいて炊飯を実行」することに相当する。
そうすると、相違点3に係る本件補正発明の構成は、引用発明において、複数回送信されたメニュー選択情報のうち、最新の情報に基いて炊飯を実行するものとすることにより、当業者が容易になし得た事項である。
(5)請求人の主張について
ア 請求人は、平成31年2月7日付け審判請求書において、次のように主張している。
「引用文献1及び引用文献2には、待機モードを実行する、すなわち、通信可能な待機モードに強制的に入り、通信可能な状態を作り出すことについて記載も示唆もありません。
また、引用文献1及び引用文献2の発明は、いずれも炊飯器と情報端末機器とが通信可能であるか否かを判断していません。
引用文献1及び引用文献2の発明はいずれも、『待機状態を狙って通信する』ことから、請求項1に係る発明のように『通信可能な待機モードに強制的に入り、通信可能な状態を作り出す』ことが容易に想到し得るものではないと主張いたします。」
しかしながら、引用2技術は、「加熱を一時停止させ」ることによって、通信可能な状態を作り出すものであって、加熱を一時停止させている状態が、本件補正発明の「待機モード」に相当することは、上記(4)イで示したとおりである。
また、炊飯器と情報端末機器とが通信可能であるか否かを判断することについては、上記(3)で示したとおりである。
よって、上記請求人の主張は採用できない。
イ 請求人は、平成31年4月24日付け上申書において、次のように主張している。
「しかしながら、本発明の下記の特徴(A)については、引用文献1-2の何れにも開示も示唆もされていません。

(A)前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報と、が相違するとき、前記設定情報に基づいて炊飯を実行し、前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報と、が同一であるとき、前記既定情報に基づいて炊飯を実行すること

前置報告書において、審査官殿は、上記の特徴(A)を引用文献1との相違点[2]として認定されています。
また、当該相違点[2]に関する発明の内容の認定において、審査官殿は、『複数回設定情報を受信した場合に、直近の設定情報に基づいて制御を行うというだけのことであり、機械装置において慣用される動作であって、当業者が適宜選択し得たものに過ぎない』とし、引用文献等を挙げることも無く発明の内容を認定されております。
しかし、上記の特徴(A)は、複数回設定情報を受信した場合に、単に途中の設定情報は不要として読み飛ばす(無効とする)ものではなく、前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報とが相違するときに、前記設定情報に基づいて炊飯を実行するものです。
そのため、制御手段20は、不要な設定変更(設定更新)を行うことがなくなるので、処理時間の短縮化、ノイズ等による誤設定を抑制することができる(段落[0076])、という格別な効果を奏するものであり審査官殿の発明の内容の認定とは相違致します。」
しかしながら、上記(4)ウで述べたとおり、請求人の主張する特徴(A)は、最新の情報に基いて炊飯を実行することと実質的に同じである。
さらに、請求人の「そのため、制御手段20は、不要な設定変更(設定更新)を行うことがなくなる」という主張については、本件補正発明は設定変更を行わないことを発明特定事項とするものではないから、請求項の記載に基づく主張とは認められない。また、本件補正発明が設定変更を行わないとしても、設定情報と既定情報が同一か否かを判断する前提として、これらの情報を正しく受信し、比較する処理が必要であるから、その効果が格別であるとは認められない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。
(6)まとめ
本件補正発明は、引用発明、引用2技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年2月7日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年6月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
情報端末機器と通信可能な炊飯器であって、
被加熱物を誘導加熱する加熱手段と、
前記加熱手段を制御する制御手段と、
前記情報端末機器と通信する通信手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記加熱手段の駆動が停止している場合に前記通信手段と前記情報端末機器とが通信可能であるとき、前記情報端末機器から送信される設定情報を前記通信手段において受信するように前記通信手段を制御し、
炊飯モード、予約炊飯モード、及び保温モードの何れかの調理モードを実行している場合に前記通信手段と前記情報端末機器とが通信可能であるとき、前記調理モードに代えて待機モードを実行するようにし、
前記待機モードにおいて前記情報端末機器から送信される前記設定情報を前記通信手段において受信するように前記通信手段を制御し、
前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報と、が相違するとき、前記設定情報に基づいて炊飯を実行し、
前記情報端末機器から送信される前記設定情報と、先行して前記情報端末機器から送信された既定情報と、が同一であるとき、前記既定情報に基づいて炊飯を実行することを特徴とする炊飯器。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2013-215556号
引用文献2.特開平10-160166号

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献及びその記載事項は、前記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本件補正発明は、前記第2[理由]2で検討したとおり、本願発明の発明特定事項を限定したものであるから、本願発明は、本件補正発明の発明特から、当該限定を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本件補正発明が前記第2[理由]2に記載したとおり、引用発明、引用2技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用2技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、引用2技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-03-17 
結審通知日 2020-03-24 
審決日 2020-04-06 
出願番号 特願2014-207694(P2014-207694)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A47J)
P 1 8・ 121- Z (A47J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西尾 元宏  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 山崎 勝司
塚本 英隆
発明の名称 炊飯器  
代理人 特許業務法人きさ特許商標事務所  
代理人 特許業務法人きさ特許商標事務所  

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