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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A41B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A41B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A41B
管理番号 1362626
審判番号 不服2019-2942  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-04 
確定日 2020-05-21 
事件の表示 特願2015-228188「吸収性物品」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月23日出願公開、特開2016-112408〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年11月20日(優先権主張 平成26年12月10日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年8月24日付け :拒絶理由通知
平成30年11月2日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年11月30日付け:拒絶査定
平成31年3月4日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提出
令和1年7月9日 :上申書
令和1年9月27日付け :平成31年3月4日提出の手続補正書による補正の却下の決定、及び拒絶理由通知
令和1年12月2日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?8にそれぞれ記載されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、前記表面シートと前記裏面シートとの間に配される吸収体とを有する吸収性物品であって、
全部または一部を凹部で構成される複数の溝部であって、前記凹部は、前記吸収性物品の前記表面シート側に、前記表面シートと前記吸収体とを一体的に形成される、複数の溝部と、
前記溝部で囲まれる平坦部と、を含み、
前記複数の溝部は、第1の方向に延びる第1溝部と、第2の方向に延びる第2溝部と、を含み、
前記平坦部に対する最大内接円の直径は、前記最大内接円の径方向に沿った前記溝部の幅の5倍以上20倍以下であり、
前記凹部は、圧搾部と、この圧搾部を間欠的に配列することにより、前記圧搾部近傍の前記吸収体は押し下げられて、前記平坦部よりも凹んだ窪み部分とを含み、
前記第1溝部の前記凹部の前記窪み部分は、前記第1の方向において連続する壁面を有し、前記第2溝部の前記凹部の前記窪み部分は、前記第2の方向において連続する壁面を有し、
前記第1溝部および前記第2溝部の前記凹部の底部に、前記圧搾部が間欠的に配列されており、
前記吸収体は、前記圧搾部の底部と前記裏面シートとの間の全ての領域に介在していることを特徴とする吸収性物品。」

第3 拒絶の理由
令和1年9月27日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由2の概要は、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献:特開2014-97132号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
引用文献には、図面と共に次の記載がある(以下、下線は当審が付した。)。
「【技術分野】
【0001】
この発明は、吸収性物品に関し、より詳しくは、軽失禁パッド、パンティライナ、生理用ナプキン、おりもの吸収用パッド、尿吸収パッド、紙おむつ等の吸収性物品に関する。」
「【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る吸収性物品の一例の生理用ナプキンの部分破断平面図。
【図2】図1のII-II線断面図。
【図3】図1のIII-III線断面図。
【図4】吸収性物品を製造するためのエンボス加工工程を示す説明図。
【図5】図4のV-V線拡大断面図。
【図6】第2実施形態の生理用ナプキンの部分破断平面図。
【図7】図6のVII-VII線断面図。
【図8】厚さ方向寸法評価用サンプルの写真。
【図9】厚さ方向寸法の測定例。」
「【0012】
添付の図面を参照して、この発明に係る吸収性物品の一例である生理用ナプキンの実施形態を説明する。
【0013】
<第1の実施形態>
図1に示すように、この発明に係る生理用ナプキン10は、使用者の肌対向面側に位置する表面シート11と、非肌対向面側に位置する裏面シート12と、表面シート11及び裏面シート12の間に介在する吸収体20とを備える。生理用ナプキン10は縦方向Yに長い縦長の形状であり、縦方向中心線及び横方向中心線に関しほぼ対称となる。また、本実施形態に係る生理用ナプキン10は、その側縁の縦方向中央部に、横方向外側に向けて凸状に延び出す一対のウイング部15を備える。
【0014】
表面シート11及び裏面シート12は同形同大のシートであり、横方向X及び縦方向Yにおける寸法がともに吸収体20よりも大きく、吸収体20の周囲に延び出す周縁部13を含んでいる。表面シート11及び裏面シート12は、周縁部13において、ホットメルト接着剤(図示せず)又は熱溶着等の、公知の手段により接合される。図1では、斜線を付して示した接合部18が接合されている。
【0015】
表面シート11は透液性を有し、熱可塑性合成樹脂を含む素材で構成され、例えばエアスルー繊維不織布、ポイントボンド不織布、スパンボンド不織布等の繊維不織布を好適に用いることができる。熱可塑性合成樹脂の例として、エチレンやプロピレン等のオレフィン系ポリマー、又はポリエチレンテレフタレートが挙げられるが、これらに限定されない。表面シート11は、例えば質量が約10?50g/m^(2)であり、厚さが約0.5?2.0mmである。
【0016】
裏面シート12は、難透液性又は不透液性の、熱可塑性合成樹脂を含む素材で構成され、例えばプラスチックフィルム、又はプラスチックフィルムと繊維不織布の積層体を好適に用いることができる。繊維不織布の例として、スパンボンド・メルトブロー・スパンボンド(SMS)繊維不織布、エアスルー繊維不織布、ポイントボンド繊維不織布、スパンボンド繊維不織布が挙げられるが、これらに限定されない。熱可塑性合成樹脂には、上述の合成樹脂を用いることができる。裏面シート12は、例えば質量が約10?50g/m^(2)であり、厚さが約0.1?1.0mmである。表面シート11及び裏面シート12には、同種の樹脂を含む素材を用いることが好ましい。
【0017】
本実施形態のウイング部15は、表面シート11及び裏面シート12と一体に形成されている。しかし、ウイング部15を表面シート11及び裏面シート12とは別体に設けることもできる。この場合、ウイング部15を表面シート11又は裏面シート12と同種又は異種のシート材料から形成して、吸収体20の縦方向両側縁に、ホットメルト接着剤や熱溶着等の公知の手段により接合することができる。
【0018】
吸収体20はほぼ矩形の形状を呈し、表面シート11側に位置する第1シート21と、裏面シート12側に位置する第2シート22と、第1シート21と第2シート22との間に介在する体液吸収性の芯材23を備え、ほぼ均一の厚さに形成されている。第1シート21及び第2シート22は、ほぼ同形同大であり、その周縁部がホットメルト接着剤や熱溶着等の公知の手段により互いに接合される。
【0019】
第1シート21は、透液性の繊維不織布、ティッシュペーパー、エアレイドシートを用いて形成することができる。繊維不織布を用いる場合は、エアスルー、スパンボンド、SMS等の繊維不織布を用いることができる。本実施形態の第1シート21は、エアスルー繊維不織布からなる。エアスルー繊維不織布は、肌への液戻りを低減できるので好ましい。第1シート21の質量は、例えば約10?60g/m^(2)である。第1シートは用いなくても良い。第1シートを用いない場合は、表面シート21が直接芯材23を被覆する。
【0020】
第2シート22は、透液性のシート、不透液性のシートいずれを使用してもよく、繊維不織布、ティッシュペーパー、エアレイドシートを用いて形成することができる。繊維不織布を用いる場合は、エアスルー、スパンボンド、SMS等の繊維不織布を用いることができる。本実施形態の第2シート22はSMS繊維不織布からなる。第2シート22の質量は、例えば約10?60g/m^(2)である。
【0021】
芯材23は、公知の吸収性ポリマー粒子及び吸収性繊維のいずれか一方又は両方によって構成することができる。吸収性ポリマーの例として、デンプン系、アクリル酸系、アミノ酸系ポリマーを挙げることができるが、これらに限定されない。また、吸収性繊維の例として、木材フラッフパルプ等の天然パルプ繊維、レーヨンステープル等の再生繊維、及びこれらの混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0022】
表面シート11は、表面シート11と吸収体20とが重なり合う部位に形成された縦長の環状圧搾条溝31と、環状圧搾条溝31で囲まれる領域16内の縦方向Yの両端部のそれぞれに配置された複数の低圧搾凹部32を有する低圧搾域14と、低圧搾域14の間に位置する吸収中央域17とを備える。環状圧搾条溝31及び低圧搾凹部32は、表面シート11と吸収体20とを、表面シート11から裏面シート12に向かう方向に圧搾して形成されている。後述するように、環状圧搾条溝31及び低圧搾凹部32はエンボス加工により形成することができる。なお、図1では芯材23に形成される圧搾痕の図示は省略している。また、低圧搾凹部32を小径の円で図示しているが、低圧搾凹部32の形状は円に限定されない。
【0023】
環状圧搾条溝31で囲まれる領域16は、表面シート11と吸収体20とが重なり合う部位の外周縁内側に位置する。この環状圧搾条溝31により、領域16内に排泄された体液の外部への漏出が防止される。環状圧搾条溝31で囲まれる領域16において、両端部に形成された一対の低圧搾域14の間に位置する吸収中央域17は、生理用ナプキン10のほぼ中央部に位置して、装着時に使用者の排泄部に対向する。
【0024】
本実施形態では、環状圧搾条溝31は、一対の低圧搾域14と吸収中央域17の両境界部において、生理用ナプキン10の横方向内側に向け括れる、一対の括れ部36を有する。この一対の括れ部36は、装着時において、生理用ナプキン10の中央部に位置する吸収中央域17を使用者側に盛り上げ、漏れを軽減させる効果がある。一方、括れ部36の縦方向Yの両外側に位置する低圧搾域14は平面に保たれ、使用者の体の動きに追随して変形することができる。
【0025】
図2に示すように、低圧搾凹部32及び環状圧搾条溝31は、いずれも芯材23に進入するまで圧搾して形成され、低圧搾凹部32の底部33における厚さ方向Zの寸法が、環状圧搾条溝31の底部34における厚さ方向Zの寸法より大きい。低圧搾凹部32の底部33の厚さ方向Zの寸法は、その低圧搾凹部32の周囲の厚さ方向Zの寸法の50%以上であり、60%以上であることが好ましい。環状圧搾条溝31の底部34の厚さ方向Zの寸法は、その環状圧搾条溝31の周囲の厚さ方向Zの寸法の50%未満であり、下限値の制限は特になく、エンボス加工が可能な範囲で厚さ方向Zの寸法を小さくすることができる。一例を挙げると、低圧搾凹部32及び環状圧搾条溝31が形成される生理用ナプキン10の厚さ方向Zの寸法がほぼ均一である場合、低圧搾凹部32の底部33の厚さ方向Zの寸法は、低圧搾凹部32の周囲の厚さ方向Zの寸法の約2/3であり、環状圧搾条溝31の底部34の厚さ方向Zの寸法は、環状圧搾条溝31の周囲の厚さ方向Zの寸法の約1/3である。
【0026】
低圧搾凹部32の底部33及び環状圧搾条溝31の底部34では、第1シート21と表面シート11とが圧搾により一体化されている。別言すれば、第1シート21及び表面シート11は、低圧搾凹部32の底部33及び環状圧搾条溝31の底部34においても、破断することなく連続している。生理用ナプキン10の使用中に表面シート11が第1シート21から剥離すると、製品のヨレを誘発するおそれがあるが、このように第1シート21と表面シート11とが圧搾により一体化されていることにより、使用者の動きによる摩擦で表面シート11が剥離することが防止される。なお、第1シート21と表面シート11との一体化は、エンボス加工時の熱溶着等の、公知の手段により行うことができる。
【0027】
本願発明の低圧搾凹部32は、前記のように圧搾深さが相対的に小さいため、エンボス加工時に表面シート11に生じる凹凸差も相対的に小さくなる結果、使用者に不快な感覚を生じさせにくい。また、低圧搾凹部32の深さが相対的に小さいことにより、低圧搾凹部32が配置された低圧搾域14の硬さの増加が抑制される結果、使用者の動きに追随した吸収性物品の変形を阻害することがない。また、本発明の低圧搾凹部32は吸収体20の芯材23に進入するまで圧搾して形成されているので、芯材23との連通性が高く、吸収体20に体液が浸透しやすい。さらに、芯材23において、低圧搾凹部32の周囲のパルプ粉砕体の密度が周辺に比べて高くなり、吸収した液を保持しやすくなる結果、生理用ナプキン10の吸収性が向上する。また、環状圧搾条溝31においてもパルプ粉砕体の密度が周辺に比べて高くなり、吸収性が向上する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態では、複数の低圧搾凹部32が、縦方向Yに対し傾斜した仮想格子線G上に配置されている。より詳しくは、複数の低圧搾凹部32は、環状圧搾条溝31で囲まれる領域16内の縦方向Yの両端部、すなわち低圧搾域14において、括れ部36と環状圧搾条溝31との間に配置され、横方向Xの内側に向け括れた括れ部36の最も括れた部分に対し横方向Xの外側となる部分にも、低圧搾凹部32が形成されている。生理用ナプキン10は、装着時に使用者の両脚から生理用ナプキン10の内側に向け横方向Xの力が加えられるため、縦方向Yに平行なシワが入りやすい。複数の低圧搾凹部32を縦方向Yに対し傾斜した仮想格子線G上に配置することにより、縦方向Yに平行なシワが入ることが抑制され、製品の不規則な変形が防止される結果、使用感の向上や漏れの防止を図ることができる。
【0029】
本実施形態では、第1シート21及び表面シート11が延伸されながら芯材23に進入するまで圧搾されて一体化されるため、仮想格子線G上において隣接する低圧搾凹部32間の第1シート21及び表面シート11が、低圧搾凹部32内に引き込まれる。このため、隣接する低圧搾凹部32間の第1シート21及び表面シート11に張力がかかり、図3に示すように、隣接する低圧搾凹部32間における厚さ方向Zの寸法がその周辺部より小さくなる。すなわち、低圧搾凹部32が配置される仮想格子線Gに沿ってわずかな窪みが生じる。これは、縦方向Yに対し傾斜した仮想格子線Gに沿って、張力がその周囲より高い部位が形成されることを意味する。この縦方向Yに対し傾斜した仮想格子線Gに沿って形成される張力が高い部位により、縦方向Yに平行なシワが入ることが抑制されるとともに、表面シート11の剥離が防止される。このような仮想格子線Gに沿った窪みの生成は、第1シート21及び表面シート11の物性、低圧搾凹部32間の距離、低圧搾凹部32の深さ等、様々な因子に依存する。しかし、このような窪みの生成の有無にかかわらず、仮想格子線G上において隣接する低圧搾凹部32間で第1シート21及び表面シート11に張力がかかる限り、前述した効果を得ることができる。」
「【0036】
次に、本願発明に係る生理用ナプキン10における厚さ方向Zの寸法の評価方法の一例を説明する。この評価例では、環状圧搾条溝31を形成するための環状の第1突起部46と、低圧搾凹部32を形成するための複数の第2突起部47とを有し、第1突起部46の周面44zからの高さが、第2突起部47の高さの約2倍となっている第1ロール44を用いて作製した生理用ナプキン10を用いた。この評価で用いた生理用ナプキン10の厚さは、ほぼ均一である。
【0037】
この生理用ナプキン10から、低圧搾凹部32及び環状圧搾条溝31を含む部分を切り取って、図8に示す評価用サンプルを調製した。この評価用サンプルの低圧搾凹部32及び環状圧搾条溝31を有する面を上に向けて水平な平面上に貼り付け、この平面を基準面として、非接触式のキーエンス形状測定器KS-1100を用いて、基準面に対する生理用ナプキン10の各部位の表面の高さを測定した。この評価では、基準面に対する生理用ナプキン10の表面の高さを生理用ナプキン10の「見かけ厚さ」と呼び、この見かけ厚さの比較により、生理用ナプキン10における厚さ方向Zの寸法を評価した。ここで、環状圧搾条溝31及び低圧搾凹部32の見かけ厚さの値は、これらが圧搾により形成された部分における最少の見かけ厚さの値とした。
【0038】
図8に示すように、評価用サンプルの表面シート11に形成された環状圧搾条溝31は、その底面に底部圧搾部31aを有する。すなわち、環状圧搾条溝31の底面は凹凸を有し、底部圧搾部31aにおいて厚さ方向Zの寸法が最も小さくなる。また、評価用サンプルの表面シート11に形成された低圧搾凹部32は、生理用ナプキン10の縦方向に対し傾斜した仮想格子線(図示せず)上に配置されている。
【0039】
図9に、キーエンス形状測定器KS-1100を用いて、図8に示した枠線内における見かけ厚さを測定した結果を示す。図9(a)は評価用サンプルを上方から見たときの見かけ厚さの分布を色調の変化で表した図であり、図9(b)は図9(a)のIXb-IXb断面における見かけ厚さの測定結果である。図9(b)に示すように、評価用サンプルでは、生理用ナプキン10の低圧搾凹部32の見かけ厚さは約1900μm、環状圧搾条溝31(底部圧搾部31a)の見かけ厚さは約1000μmであり、低圧搾凹部32の見かけ厚さの方が、環状圧搾条溝31の底部の見かけ厚さより大きい。別言すれば、低圧搾凹部32の圧搾深さの方が、環状圧搾条溝31の圧搾深さより小さい。
【0040】
このようにして、低圧搾凹部32の底部における厚さ方向Zの寸法と、環状圧搾条溝31の底部における厚さ方向の寸法とを評価することができる。この評価例では、エンボス加工において第1及び第2突起部46,47で圧搾されていない部分の生理用ナプキン10の見かけ厚さは約2500?3000μmとなっている。従って、低圧搾凹部32の見かけ厚さは生理用ナプキン10の見かけ厚さの50%以上であり、環状圧搾条溝31の見かけ厚さは生理用ナプキン10の見かけ厚さの50%未満となっている。なお、図9(b)に示した例では、低圧搾凹部32及び環状圧搾条溝31の周辺の生理用ナプキン10の見かけ厚さが約2500?2700μmであるのに対し、生理用ナプキン10の端部における見かけ厚さが約3000μmとなっている。これは、エンボス加工時の圧搾により低圧搾凹部32及び環状圧搾条溝31の周辺のシート部材(第1シート21及び表面シート11)が、低圧搾凹部32及び環状圧搾条溝31内に引き込まれたためである。」
「【0046】
本発明について実施形態に基づき説明したが、本発明はこれに限定されず、種々変更して実施することができる。例えば、環状圧搾条溝31が括れ部36を有する場合について説明したが、環状圧搾条溝31に括れ部36を設けないことができる。また、低圧搾凹部32を前記縦方向に対し傾斜した仮想格子線G上に配置する場合について説明したが、縦方向Yに平行なシワが入ることを抑制可能な配置であれば、例えばペンローズ・タイル形式等の別の配置を採用することもできる。あるいは、芯材23を第1及び第2シート21,22の間に介在させる構成に代えて、芯材23をティッシュペーパーで包被することもできるし、第1シート21を省略することもできる。また、吸収体20の厚さが均一である場合について説明したが、吸収中央域17に相当する部分の吸収体20の厚さ方向Zの寸法を大きくして、使用者の排泄部に密着させることもできる。また、この発明は生理用ナプキン10に限られず、例えば軽失禁パッド、パンティライナ、おりもの吸収用パッド、尿吸収パッド、紙おむつ等の吸収性物品に適用してもよい。」













上記摘記事項及び図示を総合すると、引用文献には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「透液性を有する表面シートと、難透液性又は不透液性の裏面シートと、表面シート及び裏面シートの間に介在する吸収体とを備える吸収性物品であって、複数の低圧搾凹部が、縦方向Yに対し傾斜した仮想格子線G上に配置され、仮想格子線G上において隣接する低圧搾凹部間の表面シートが、低圧搾凹部内に引き込まれることで生じた仮想格子線Gに沿った窪みと、加工格子線G上に存在する前記低圧搾凹部及び前記窪みで囲まれる部分と、を含み、
低圧搾凹部の底部の厚さ方向Zの寸法は、その低圧搾凹部の周囲の厚さ方向Zの寸法の50%以上であり、低圧搾凹部の周囲のパルプ粉砕体の密度が周辺に比べてに比べて高くなっている、吸収性物品。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「透液性を有する表面シート」は、その構成及び機能からみて、本願発明の「液透過性の表面シート」に相当し、以下、同様に「難透液性又は不透液性の裏面シート」は「液不透過性の裏面シート」に、「表面シート及び裏面シートの間に介在する吸収体」は「前記表面シートと前記裏面シートとの間に配される吸収体」に、「吸収性物品」は「吸収性物品」に、「低圧搾凹部」は「圧搾部」に、それぞれ相当する。
引用発明の「仮想格子線G上において隣接する低圧搾凹部間の表面シートが、低圧搾凹部内に引き込まれることで生じた仮想格子線Gに沿った窪み」は、本願発明の「圧搾部」「を間欠的に配列することにより、前記圧搾部近傍の前記吸収体は押し下げられて、前記平坦部よりも凹んだ窪み部分」に相当し、引用発明の「加工格子線G上に存在する前記低圧搾凹部及び前記窪みで囲まれる部分」は、前記「低圧搾凹部」や前記「窪み」が存在しない部分という点で、本願発明の「溝部で囲まれる平坦部」に相当する。
引用発明の「低圧搾凹部」及び「仮想格子線G上において隣接する低圧搾凹部間の表面シートが、低圧搾凹部内に引き込まれることで生じた仮想格子線Gに沿った窪み」は、全体として「仮想格子線G」上に存在する凹であり溝になること、「格子」が「細い角材を縦横、あるいはそのどちらかの方向に間をすかして組んだもの。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)という意味であることを踏まえれば、図1に示された「仮想格子線G」は、「縦方向Yに対し傾斜した」複数の仮想線が交差しているものといえる。そのため、引用発明の「低圧搾凹部」及び「仮想格子線G上において隣接する低圧搾凹部間の表面シートが、低圧搾凹部内に引き込まれることで生じた仮想格子線Gに沿った窪み」からなる態様は、本願発明の「全部を凹部で構成される溝部であって、前記凹部は、前記吸収性物品の前記表面シート側に、前記表面シートと前記吸収体とを一体的に形成される、複数の溝部」が「第1の方向に延びる第1溝部と、第2の方向に延びる第2溝部と、を含」み、「前記第1溝部および前記第2溝部の前記凹部の底部に、前記圧搾部が間欠的に配列されて」いる態様に相当する。
引用発明の「低圧搾凹部の底部の厚さ方向Zの寸法は、その低圧搾凹部の周囲の厚さ方向Zの寸法の50%以上であり、低圧搾凹部の周囲のパルプ粉砕体の密度が周辺に比べてに比べて高くなっている」との態様は、本願発明の「前記吸収体は、前記圧搾部の底部と前記裏面シートとの間の全ての領域に介在している」態様に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、次の点で一致し、相違している。

[一致点]
「液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、前記表面シートと前記裏面シートとの間に配される吸収体とを有する吸収性物品であって、
全部または一部を凹部で構成される複数の溝部であって、前記凹部は、前記吸収性物品の前記表面シート側に、前記表面シートと前記吸収体とを一体的に形成される、複数の溝部と、
前記溝部で囲まれる平坦部と、を含み、
前記複数の溝部は、第1の方向に延びる第1溝部と、第2の方向に延びる第2溝部と、を含み、
前記凹部は、圧搾部と、この圧搾部を間欠的に配列することにより、前記圧搾部近傍の前記吸収体は押し下げられて、前記平坦部よりも凹んだ窪み部分とを含み、
前記第1溝部および前記第2溝部の前記凹部の底部に、前記圧搾部が間欠的に配列されており、
前記吸収体は、前記圧搾部の底部と前記裏面シートとの間の全ての領域に介在している吸収性物品。」
[相違点1]
本願発明は「前記平坦部に対する最大内接円の直径は、前記最大内接円の径方向に沿った前記溝部の幅の5倍以上20倍以下であ」るのに対し、引用発明はその点不明である点。
[相違点2]
本願発明は「前記第1溝部の前記凹部の前記窪み部分は、前記第1の方向において連続する壁面を有し、前記第2溝部の前記凹部の前記窪み部分は、前記第2の方向において連続する壁面を有し」ているのに対し、引用発明はその点不明である点。

第6 判断
(1)相違点1について
引用発明における「低圧搾凹部」については、引用文献に「・・・すなわち、低圧搾凹部32が配置される仮想格子線Gに沿ってわずかな窪みが生じる。これは、縦方向Yに対し傾斜した仮想格子線Gに沿って、張力がその周囲より高い部位が形成されることを意味する。この縦方向Yに対し傾斜した仮想格子線Gに沿って形成される張力が高い部位により、縦方向Yに平行なシワが入ることが抑制されるとともに、表面シート11の剥離が防止される。このような仮想格子線Gに沿った窪みの生成は、第1シート21及び表面シート11の物性、低圧搾凹部32間の距離、低圧搾凹部32の深さ等、様々な因子に依存する。・・・」(【0029】)と記載されているとおりであるから、「低圧搾凹部」及び「仮想格子線G上において隣接する低圧搾凹部間の表面シートが、低圧搾凹部内に引き込まれることで生じた仮想格子線Gに沿った窪み」からなる凹部の寸法と配置と、「加工格子線G上に存在する前記低圧搾凹部及び前記窪みで囲まれる部分」の大きさの関係は、引用発明を具体化する際の設計の結果として表れるものであり、引用文献の図9(a)を参酌すれば、その具体的数値として、前記相違点1に係る本願発明のような数値範囲とすることは、前記設計の結果として、当業者が容易になし得たことである。
そして、上記相違点1に係る本願発明の数値範囲については、本願明細書には、「最大内接円の直径R1が凹部21rの幅L1の5倍未満であると、第1平坦部24a自体の面積がせまく、体との空間を保ちつつ体の曲面に沿う効果があまり発揮されない。また、第1平坦部24aがある程度の面積を確保していても、第1平坦部24aに対して、凹部21rの幅L1がかなり広いと、吸収部分全体の面積に占める第1平坦部24aの面積が狭くなり、肌触りが悪くなるため、好ましくない。また、主たる吸収領域は平坦部24であるため、凹部21rの面積が広がると吸収可能な体液の量が減るので、効率的でない。」(【0041】)及び「一方、最大内接円の直径R1が凹部21rの幅L1の20倍より大きいと、凹部21rの間隔があまりに広く、第1平坦部24a自体が体の曲面にフィットして肌に密着してしまう。」(【0042】)と記載されているが、「体の曲面に沿う」や「体の曲面にフィットして肌に密着してしまう」という点を考慮した最適値は、吸収性物品としての用途(例:おむつ、生理用ナプキン)や対象者(例:乳幼児、大人)によって異なり、「吸収可能な体液の量」という点を考慮した最適値は、吸収体を構成する材料の物性及び量によっても異なるから、これら諸元を考慮せずして平坦部及び溝部の寸法や配置の最適化を図ることはできず、本願明細書にも「このため、特許文献1に記載の吸収性物品では、体液を吸収すると、SAPの影響で吸収体が大きく膨らみ、表面シートに設けた凹凸は、吸収体自体の膨らみによって打ち消され、あまり効果を発揮しない。」(段落0004)と記載されているところ、本願発明は、前記諸元について特定されているものではなく、かつ、本願明細書及び図面には、前記数値範囲における効果の顕著性、特に範囲内外境界における効果の差、について根拠となる具体的な検証結果が記載されているわけでもないため、その臨界的意義を認めることができない。

(2)相違点2について
引用文献の図8及び図9の図示内容からみて、図9(b)に示されたグラフは「仮想格子線G」を横断する断面に係る例であることがわかるところ、それについて引用文献には「なお、図9(b)に示した例では、低圧搾凹部32及び環状圧搾条溝31の周辺の生理用ナプキン10の見かけ厚さが約2500?2700μmであるのに対し、生理用ナプキン10の端部における見かけ厚さが約3000μmとなっている。これは、エンボス加工時の圧搾により低圧搾凹部32及び環状圧搾条溝31の周辺のシート部材(第1シート21及び表面シート11)が、低圧搾凹部32及び環状圧搾条溝31内に引き込まれたためである。」(【0040】)と記載されているから、引用発明の「低圧搾凹部内に引き込まれることで生じた仮想格子線Gに沿った窪み」は、「仮想格子線G」を横断する方向に拡がりをもって存在するものであることがわかる。
そうすると、「低圧搾凹部内に引き込まれることで生じた仮想格子線Gに沿った窪み」は、「低圧搾凹部」の周辺及び「隣接する低圧搾凹部」間でつながったものとなるから、当該「窪み」の内面の形状は、「仮想格子線Gに沿って」連続する壁面と呼ぶことができる。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。

そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-03-19 
結審通知日 2020-03-24 
審決日 2020-04-06 
出願番号 特願2015-228188(P2015-228188)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A41B)
P 1 8・ 537- WZ (A41B)
P 1 8・ 561- WZ (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 杏子  
特許庁審判長 高山 芳之
特許庁審判官 久保 克彦
石井 孝明
発明の名称 吸収性物品  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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