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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
管理番号 1362866
審判番号 不服2018-11952  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-06 
確定日 2020-06-02 
事件の表示 特願2016-558127「反応器システム及びその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月24日国際公開、WO2015/140008、平成29年 4月20日国内公表、特表2017-511250〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)3月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年(平成26年)3月18日 ドイツ、同日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年8月16日付けで拒絶理由が通知され、同年11月20日に意見書が提出され、平成30年4月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成30年9月6日に拒絶査定不服審判の請求がされ、令和元年6月3日付けで、当審により拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年9月6日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
1 本願の特許請求の範囲の請求項1?9に係る発明(以下、請求項1に係る発明を、「本願発明」という。)は、令和元年9月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるところ、その請求項1には、次のように記載されている。
「- 反応器(3)、
- 前記反応器(3)と接続する、少なくとも1つの冷却器(5)、
- 液状熱媒体(9)の少なくとも一部を循環するための、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)と接続する、少なくとも1つのポンプ(7)、及び
- 前記液状熱媒体(9)を収容するための、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)と接続する容器(11)とを備え、前記容器(11)は、排出管(17a,17b)を介してそれぞれ、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)の最も低い箇所と接続されていて、
前記容器(11)は、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)の下方に配置されていて、
前記容器(11)は、少なくとも部分的に地面水準の下方に配置されていて、
前記容器(11)の容積は、理論的に、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)内に含まれる液状熱媒体(9)の体積よりも10%大きい、反応器システム(1)。」

第3 当審拒絶理由
当審拒絶理由の要旨は、次のとおりのものである。
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:特開2008-30033号公報
引用例2:特開2001-310123号公報
周知例1:特開2009-183887号公報」

第4 当審の判断
1 引用例・周知例の記載
(1)引用例1について
引用例1には、「多管式反応器の温度変化方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(引1ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、始動および停止時の触媒気相反応に対する多管式反応器の温度変化方法において、多管式反応器が、管束に垂直に配置された反応管と、反応管の上端部もしくは下端部に密接して連結された上部および下部管底と、管束を取り囲む反応器ジャケットとを備える反応器主部を有し、かつ反応管の外側が通常運転で100℃?450℃の範囲の溶融温度を有し、かつ少なくとも1つの循環系内で反応器主部を通過して循環される熱媒によって洗浄される方法であって、a)熱媒の循環時に熱交換器を通る熱媒温度を変化させるステップと、b)少なくとも熱媒がまだ循環されず、もしくはそれ以上循環されないとき反応管を通る調温ガスを導通させるステップとを有する方法に関する。」
(引1イ)「【0008】
このような気相プロセスの調温に使用される熱媒の選択は、主として各反応温度に左右される。反応温度で沸騰する媒体で作動されず、液体の状態にとどまる媒体で作動される場合、可能な限り低い蒸気圧を有する物質が使用される。このような適用に対しては、大抵アルカリ硝酸塩および-亜硝酸塩の混合物からなる液体塩溶融物が広範囲に提供されている。以下、簡略にする理由から、塩および塩混合物の用語は同義語として使用する。好ましい塩混合物は、硝酸カリウム53重量%、亜硝酸ナトリウム40重量%および硝酸ナトリウム7°重量%(当審注:「7°」は、「7」の誤記と認める。)からなる。このような混合物は、約142℃で溶解する共融混合物を生成する。動作温度は一般に200℃および550℃の間にある。・・・」
(引1ウ)「【0054】
熱媒は、循環装置を用いて循環系内で反応器システムを通して供給される。循環装置は大抵、熱媒を対流の回避のために好ましくは上方から下方へ供給する軸流羽根車を有するポンプである。」
(引1エ)「【0082】
本発明に係る方法の温度変化は、詳細には多管式反応器の始動時の加熱および停止時の冷却に関する。この非定常的過程は分離して考察することができない。むしろこの過程は運転開始もしくは運転停止による全関連性で見られるべきである。この過程内で多数の個別措置に留意する必要がある。以下、まず本発明に係る方法による反応器システムの始動時の過程を説明する。
【0083】
初回運転開始プロセスの範囲内で反応器の始動および停止を本来の運転開始の前に少なくとも1回実施することが提案されており、これは「高温試験」とも呼ばれる。これは、該試験が熱媒温度の上昇により設計温度以下に近づくまで実施されることによって、運転による始動から区別される。該高温試験は全システムを点検する初回負荷試験である。特に、管溶接の強度および密閉性は、反応器に塩の漏れが無いことを保証するために点検される。
【0084】
さらに、その際に操作要員は反応器システムのハンドリングに習熟している。しばしば安全上の理由からこの高温試験は反応管の触媒充填なしにかつ反応ガスの供給なしに実施され、それによって万が一塩が流出しても不要な損傷を生ぜしめることができない。この点についての決定はこの方法に対して触媒製造者もしくは実施権許諾者と打ち合わせて講じる必要がある。それとは関係なく、この運転の場合に対してより簡単な代用シールを使用してもよい。
【0085】
この高温試験は、以下さらにより詳しく説明する次のステップを含む:
1 初回運転開始前の手順
2 塩充填温度への反応器システムの予熱
3 反応器システムへの塩の充填
4 試験温度への反応器システムの加熱
5 高温試験の実施
6 塩排出温度への高温試験温度の冷却
7 塩タンク内の塩の排出(当審注:ステップ6までに、塩タンク内へ塩は導入されておらず、「塩タンク内の塩の排出」は通常起こりえない。そこで、引用例1の優先権主張の独国特許出願の公開公報(本願のパテントファミリー)である独国特許出願公開第102006034811号明細書の[0085]には、「7 Entleeren des Salzes in den Salztank」と記載され、「tank」は男性名詞であって、「den Salztank」は4格であり、「in den Salztank」は「塩タンク内への」と訳されるべきであるから、「塩タンク内の塩の排出」は、「塩タンク内への塩の排出」の誤記と認める。なお、引用例1のパテントファミリーである米国特許出願公開第2008/0023175号明細書には、[0101]に、「7. Emptying the salt into the salt tank.」と記載されていて、「塩タンク内への塩の排出」と訳されている。)
8 周囲温度への反応器システムの冷却
【0086】
高温試験後、反応管は必要であれば触媒を充填され、反応器システムは再び本発明に係る方法で始動される。生産時間に従って、反応器システムは再び本発明に係る方法で停止される。
【0087】
通常運転での始動および停止は、塩がスタート前に塩タンク(かつ反応器内ではない)の中にのみある場合について、同様に以下より詳しく説明する次のステップを含む:
9 運転温度への反応器システムの加熱
10 プロセスの始動および実施
11 反応の停止および反応器の暖機
12 反応器の停止」
(引1オ)「【0134】
7 塩タンク内の塩の排出(当審注:上記【0085】と同様に、「塩タンク内の塩の排出」は、「塩タンク内への塩の排出」の誤記と認める。)
好ましくは約220℃の塩排出温度までの冷却過程の終了時に必要であれば空気ブロワーおよび空気予熱器は引き続き停止されている。塩循環ポンプおよび塩浴冷却器はまだ作動中である。
【0135】
塩排出は基本的に反応器に許容されるあらゆる温度で可能である。しかしながら、塩タンクはそれに対応して設計されていなければならない。
【0136】
塩浴冷却器と進行中の塩循環とによる冷却は、反応器から塩へ、また塩から塩浴冷却器へも循環する塩による熱伝達が最良であるので、反応器システムに対する最も速くかつ最も柔軟な方法である。
【0137】
排出開始前に、自由な流出を保証するため、排出管および排気管ならびに塩タンクの付随加熱装置が運転されているかが点検されなければならない。
【0138】
排出は塩循環ポンプの遮断によって開始される。その直後に反応器システムの塩排出弁の開によって排出が実施される。塩タンクの加熱装置は運転中である。それによって反応器内の塩の固化が回避される。
【0139】
8 周囲温度への反応器システムの冷却
周囲温度への反応器システムの冷却は、自然放射によって、または反応管内への調温ガスの吹付けによって行うことができる。冷却ガスの種類は触媒製造者によってまたは本方法の実施権許諾者によって規定される。
【0140】
周囲温度への冷却を開始するために、塩は完全に反応器から排出され、かつ反応器にある装置類が運転停止される。特に蒸気発生器は周囲圧力に弛緩される。その中にある水の蒸発によって約100℃に冷却され、それに続き水が排出もしくは吹出される。」
(引1カ)「【0168】
12 反応器の停止
冷却ならびに排出および周囲温度への反応器システムの冷却は、高温試験についての上記説明に従って同様に実施される。」
(引1キ)「【0173】
本発明は、以下、図面を利用して例としてより詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0174】
図1は本発明に係る方法の反応器システムの第1の実施形態を示す。この反応器システムは発熱性気相反応用として設計されている。熱媒として塩が使用される。ここに例示した反応器システムの主構成要素は、本質的に1ゾーン型反応器1、循環装置2、加熱器3、冷却器4、補償容器5、塩タンク6ならびに調温ガスもしくは反応ガス混合物が製造されるガス処理装置7である。
【0175】
図示した実施形態において反応器1は多管式反応器として構成されている。該反応器は管束9を形成する多数の触媒充填された反応管8を有する。・・・
【0176】
液体塩17は循環装置2によって反応器システムにより供給される。・・・
【0178】
反応器1の中で発生した反応熱は冷却器4によって排出される。・・・冷却器4はその両端で管束によって密閉して閉鎖される蒸発器管束34を有する。・・・熱媒は(ここに図示しない)好適なバッフルによって蒸発器管束34を循環し、蒸発器管内にある水を一部蒸発させる。・・・
【0179】
反応器システム内を循環する熱媒17は少なくとも1箇所で連結箇所44を通して補償容器5に接続されている。・・・
【0180】
熱媒塩は塩タンク6の中にある。塩は初回充填時に固体の状態である。反応器システムの始動時に内部加熱装置49によってまたは絶縁付き外部加熱装置50によって溶解される。この時点までに、その他の反応器システムはまだ塩を含まない。塩が溶解されかつポンピング可能である時点から、溶融過程を均一化し、かつ加速するために還流管52を介して循環系内で塩タンク51によって運転することができる。塩タンク6は複数の塩連結管53a、53b、53c、53dを介して反応器システムの個々の構成要素と連結されている。塩連結管はそれぞれ遮断弁54a、54b、54cおよび54dを有する。・・・
【0181】
・・・反応器1が一定の温度に達すると、ポンプハウジング64、加熱器65、冷却器ハウジング66で絶縁された付随加熱装置が、かつ連結管67a、67b、67c相互におよび塩タンクへの連結管68a、68b、68c、68dでここに全く図示しない絶縁された付随加熱装置が運転される。
【0182】
反応器システムが充分に塩17の溶融温度以上に予熱され、かつ塩タンク6の中の塩の温度が塩充填温度にあるとき、塩タンク内の塩の循環供給が運転停止され、遮断弁54a、54b、54cおよび54dが開かれ、液体塩の反応器システムへの充填が開始される。・・・かつ塩タンクポンプ51がオフにされる。・・・」
(引1ク)「図1



(2)引用例2
引用例2には、「反応器のスタートアップ方法および反応器システム」(発明の名称)について、次の記載がある。
(引2ア)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、反応器のスタートアップ方法および反応器システムに関し、より詳細には、接触気相酸化反応により(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクロレインを製造する際の反応器のスタートアップ方法および反応器システムに関する。」
(引2イ)「【0003】このようなアクリル酸等の接触気相酸化反応は発熱反応であり、発熱反応を一定温度に維持するため、通常は熱媒をポンプによって循環させて反応管を冷却し、次いで循環路に接続させた冷却器で該熱媒を冷却する。」
(引2ウ)「【0005】一方、この様な反応器に使用される熱媒には、有機熱媒体、溶融塩、溶融金属などがある。有機熱媒体が広く使用されているが、熱安定性の観点から350℃以上の高温での使用には問題があるため、一般には350?550℃の温度範囲で使用する熱媒として、溶融塩(通称、ナイター)が多用されている。
【0006】このナイターの組成には、亜硝酸ナトリウム43%、硝酸ナトリウム7%、硝酸カリウム53%の混合物や、亜硝酸ナトリウム50%、硝酸カリウム50%の混合物等があり、前者の凝固点は142℃である。ナイターは、混合比が変化すると凝固点が上昇し、またはナイターの使用中に亜硝酸が分解や酸化によって硝酸ナトリウムに変化してもその凝固点が上昇することが知られている。このため、一般にこのようなナイターを熱媒として使用する反応器は、熱媒の凝固温度を180℃と想定して設計されることが多い。」
(引2エ)「【0008】ここに図1に無水フタル酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸などを行う大型の反応装置と熱媒の循環経路の模式図を示す。この反応装置を用いてアクリル酸を製造する場合のスタートアップ時の熱媒の流れは、以下の様に説明できる。なお、101は反応器、102軸流ポンプ、103は蒸気発生器、103’はボイラ用水、103”はスチーム、104、106はヒーター、105は熱媒タンク、107はポンプである。また、熱媒としてナイターを使用する場合には、ナイターが常温で固体であるため反応器使用後にナイターを反応器から排出させて熱媒タンクに収納させる場合が多く、このような場合のスタートアップ方法を説明する。
【0009】まず、熱媒タンク105に収納された熱媒をスチームを導通させたヒーター104によって加熱し熱媒を融解させる。ポンプ107によって反応器101に熱媒を供給し、軸流ポンプ102で反応器の管外流体側に循環させ、その後、電気ヒーター106で熱媒の昇温を開始する。蒸気発生器103は、熱媒を昇温しすぎた場合の冷却や、原料ガス投入後の反応熱の除熱に用いる。
【0010】なお、反応器のスタートアップ時に熱媒としてナイターを使用する場合には、図1のように電気ヒーター106で反応器101自体を昇温してもよいし、上記のように電気ヒーターで昇温した熱媒を反応器101に供給してもよい。」
(引2オ)「【0035】本発明のスタートアップ方法の好ましい態様を図2を用いて説明する。図2において、10はブロワー、21、22、23はヒーター、31,32はタンク、41,42,43,44はポンプ、50は反応器、51は第1チャンバー、52は第2チャンバー、L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L11、L12、L13、L20、L21、L23、L30、L31は各熱媒ラインである。タンク31は、反応器使用後の熱媒を回収するタンク(熱媒回収タンク)であり、タンク32は、熱媒を一時的に収納しかつ循環させるための循環タンクである。以下において、反応器50はシングルリアクター(第1チャンバーと第2チャンバーとを有する反応器)であり、昇温ガスと熱媒とは共にアップフローで供給する場合について説明する。
【0036】まず、必要な触媒を充填した反応管を内蔵する反応器50に、ヒーター21で温度100?400℃に加熱したガスをブロワー10によって導入する・・・
【0037】次いで、反応器50の第1チャンバー51および第2チャンバー52にそれぞれ熱媒を導入し、各チャンバー内で付属するポンプ43、44を用いて熱媒を循環させて、各チャンバー内の温度を上昇させる。・・・
【0038】具体的には、常温で固体の熱媒を使用して熱交換を行う場合には、反応器50使用後に熱媒を回収タンク(例えばタンク31)に回収することが多く、このような場合には、反応器内には熱媒が残存せずに、熱媒収納タンク31内に熱媒が収納されている。従って、タンク31内の熱媒が流動性を確保できる程度にヒーター23で加温し、次いで反応器50に導入する。
【0039】反応器50への熱媒の導入は、タンク31の熱媒をポンプ41を用いてL1を経てタンク32に導入し、次いでタンク32からポンプ42を用いて、第1チャンバーにはL20(またはL30)、L21、L23、L4を経て供給し、第2チャンバーには、L20(またはL30)、L21、L31、L12を経て熱媒を供給する。」
(引2カ)「【0042】例えば、各チャンバー内の熱媒は、少なくともその一部がタンク32に導入されるようにタンク32と接続させておき、これをヒーター22で加熱した後にチャバーに循環させる。」
(引2キ)「【0051】より具体的に、多管式反応器を用いてアクリル酸を製造する場合のスタートアップ方法について図2を用いて具体的に説明する。」
(引2ク)「【0057】熱媒は常温で固体であるため、反応器使用後には熱媒を反応器50から導出して、熱媒を回収するタンク(熱媒回収タンク)31に収納する場合が多い。したがって、タンク31内の熱媒を予めヒーター23で加熱して流動状態を確保した後に付属するポンプ41の圧によって反応器50内に熱媒を導入する。熱媒の導入経路は、上述のようにタンク32を経てもよく、またはタンク31から直接各チャンバーに導入してもよい。
【0058】各チャンバーに導入された熱媒は、付属するポンプ43,44を使用して循環させるが、これらのポンプは軸流ポンプであることが好ましい。・・・
【0059】次に、反応器50に導入した熱媒は各チャンバーとタンク32とを連結させ、少なくとも各チャンバーの熱媒の一部をタンク32に導入させる。アクリル酸などの反応器は大型であるため熱媒の温度上昇によって変動する熱媒容積量も大きい。したがって、該増加してオーバーフローした熱媒をタンク32に導出させれば、容易に容積変化を緩和することができる。」
(引2ケ)「【0067】本発明の反応器システムの特徴について、図2を用いて説明する。
【0068】・・・ここで、タンク31は反応器内の熱媒の全量を回収し収納するものであるため、各チャンバーの熱媒量の全量よりも大容量である。」
(引2コ)「【図1】


(引2サ)「【図2】



(3)周知例1
周知例1には、「多管式反応器の腐食防止方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(周1ア)「【0010】
図1は、(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリル酸等の製造装置の一例を示す概略図である。製造装置1は、多管式反応器10と、熱媒を貯留する熱媒ドラム12と、熱媒ドラム12に隣接して設けられた熱媒加熱炉(図示略)と、熱媒から熱を回収する熱交換器14と、多管式反応器10との間で熱媒を循環させるポンプタンク16と、熱媒ドラム12の熱媒を、熱交換器14を経てポンプタンク16に供給する熱媒供給流路20と、多管式反応器10とポンプタンク16との間で熱媒を循環させる熱媒循環流路22と、ポンプタンク16でオーバーフローした熱媒を熱媒ドラム12に返送する熱媒返送流路24と、熱媒循環流路22の最も低い位置から分岐し、多管式反応器10とポンプタンク16との間で循環する熱媒を熱媒ドラム12に回収する熱媒回収流路26と、ポンプタンク16に空気を導入する空気導入流路28と、熱媒回収流路26の途中に設けられた弁30と、空気導入流路28の途中に設けられた弁32とを具備する。」
(周1イ)「【0012】
熱媒ドラム12には、熱媒を送り出すポンプ34と、装置の運転を停止している間の熱媒の固化を防止するための蒸気コイル36とが設けられている。
熱交換器14は、多管式反応器10の反応熱で温度が上昇した熱媒から熱を回収し、上昇した分だけ熱媒の温度を下げるものである。熱媒循環流路22および熱媒返送流路24は、多管式反応器10の反応熱で温度が上昇した熱媒がポンプタンク16において優先的にオーバーフローし、熱媒ドラム12に返送されるように配設される。」
(周1ウ)「【0013】
熱媒としては、溶融塩(いわゆるナイター。)、溶融金属、有機熱媒体等が挙げられ、熱安定性、取扱性等の点から、ナイターが好ましい。
ナイターとは、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等を含んだ高温用熱媒体であり、通常、亜硝酸ナトリウム40質量%、硝酸ナトリウム7質量%および硝酸カリウム53質量%の混合物が用いられる。」
(周1エ)「【実施例】
【0031】
以下、実施例を示す。
〔実施例1〕
多管式反応器10への原料ガスの供給を停止し、メタクロレインの製造を終了した後、熱媒ドラム12内の溶融塩のポンプタンク16への供給、およびポンプタンク16と多管式反応器10との間での溶融塩の循環を停止した。
空気導入流路28の弁32および熱媒回収流路26の弁30を開き、ポンプタンク16、多管式反応器10および熱媒循環流路22内の溶融塩を、重力によって熱媒ドラム12に自然落下させた。」
(周1オ)「【図1】



2 引用発明
(1)引用例1に記載された発明(引用発明1)
ア 引用例1の【0174】(上記1(1)(引1キ))には、図1に記載された反応器システムの第1の実施形態について記載され、該反応器システムは、1ゾーン型反応器1、循環装置2、加熱器3、冷却器4、補償容器5、塩タンク6及び調温ガス又は反応ガス混合物が製造されるガス処理装置7を備え、熱媒として塩を用いることが記載されている。
イ 同【0176】(同(引1キ))には、液体塩17が循環装置2によって反応器システムに供給されることが記載されている。
ウ 同【0054】(同(引1ウ))には、循環装置は、軸流羽根車を有するポンプであることが記載されている。
エ 同【0178】(同(引1キ))には、熱媒は、冷却器4内の蒸発器管束34を循環し、蒸発器管内にある水を一部蒸発させることで冷却(反応熱を排出)されることが記載されている。
オ 同【0180】(同(引1キ))には、熱媒塩は、塩タンク6の中にあり、塩タンク6は複数の塩連結管53a、53b、53c、53dを介して反応器システムの個々の構成要素と連結されていることが記載されている。
カ 図1(同(引1ク))から、塩連結管53a、53b、53c、及び、53dは、冷却器4、循環装置2、1ゾーン型反応器1、及び、加熱器3に、それぞれ接続されていること、及び、「冷却器4」と「循環装置2」、「循環装置2」と「1ゾーン型反応器1」、「1ゾーン型反応器1」と「加熱器3」とが、それぞれ接続されていることが看取される。
キ ア?カをまとめると、引用例1には、図1に記載された反応器システムの第1の実施形態について、
「1ゾーン型反応器1、軸流羽根車を有するポンプである循環装置2、加熱器3、冷却器4、補償容器5、塩タンク6及び調温ガス又は反応ガス混合物が製造されるガス処理装置7とを備え、
冷却器4と循環装置2、循環装置2と1ゾーン型反応器1、1ゾーン型反応器1と加熱器3は、それぞれ接続され、
熱媒として液体塩を用い、
熱媒としての液体塩は、塩タンク6の中にあり、塩タンク6は、複数の塩連結管53a、53b、53c、及び、53dを介して反応器システムの、冷却器4、循環装置2、1ゾーン型反応器1、及び、加熱器3に、それぞれ接続された反応器システム」(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(2)引用例2に記載された発明(引用発明2)
ア 引用例2の【0067】(上記1(2)(引2ク))には、「本発明の反応器システムの特徴について、図2を用いて説明する。」と記載され、図2(同(引2ケ))について、【0035】(同(引2オ))には、ブロワー10、ヒーター21、22、23、タンク31,32、ポンプ41,42,43,44、反応器50、第1チャンバー51、第2チャンバー52、熱媒ラインL1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L11、L12、L13、L20、L21、L23、L30、L31を備えるものであって、タンク31は、反応器使用後の熱媒を回収するタンク(熱媒回収タンク)であり、タンク32は、熱媒を一時的に収納しかつ循環させるための循環タンクであり、反応器50はシングルリアクター(第1チャンバー(51)と第2チャンバー(52)とを有する反応器)であることが記載されている。
イ 【0037】(同(引2オ))には、反応器50の第1チャンバー51及び第2チャンバー52の熱媒を、各チャンバー内で付属するポンプ43、44を用いて循環させることが記載されている。
ウ 【0039】(同(引2オ))には、「タンク31の熱媒をポンプ41を用いてL1を経てタンク32に導入し、次いでタンク32からポンプ42を用いて、第1チャンバーにはL20(またはL30)、L21、L23、L4を経て供給し、第2チャンバーには、L20(またはL30)、L21、L31、L12を経て熱媒を供給する」ことが記載されていることから、タンク31とタンク32とはL1で接続され、タンク32と第1チャンバー(51)、第2チャンバー(52)とは、それぞれL20等の熱媒ラインで接続されることが記載されている。
エ 【0057】(同(引2ク))から、熱媒は、常温で固体であり、反応器の使用時には液体であることが理解でき、【0068】(同(引2ケ))には、タンク31は、各チャンバー(第1チャンバー(51)と第2チャンバー(52))の熱媒量の全量よりも大容量であることが記載されている。
オ ア?エをまとめると、引用例2の図2に記載された反応器システムについて、
「ブロワー10、ヒーター21、22、23、タンク31,32、ポンプ41,42,43,44、反応器50、第1チャンバー51、第2チャンバー52、熱媒ラインL1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L11、L12、L13、L20、L21、L23、L30、L31を備え、
タンク31は、反応器使用後の熱媒を回収するタンク(熱媒回収タンク)であり、
タンク32は、熱媒を一時的に収納しかつ循環させるための循環タンクであり、
反応器50はシングルリアクター(第1チャンバー(51)と第2チャンバー(52)とを有する反応器)であり、
第1チャンバー51及び第2チャンバー52の熱媒を、各チャンバー内で付属するポンプ43、44を用いて循環させ、
タンク31とタンク32とはL1で接続され、タンク32と第1チャンバー(51)、第2チャンバー(52)とは、それぞれL20等の熱媒ラインで接続され、
熱媒は、常温で固体であり、反応器の使用時には液体であり、
タンク31は、各チャンバー(第1チャンバー(51)と第2チャンバー(52))の熱媒量の全量よりも大容量である反応器システム」(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

3 対比・判断
(1)引用発明1を主引用発明とした場合
本願発明と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「反応器システム」、「1ゾーン型反応器1」、「冷却器4」、「熱媒としての液体塩」、「軸流羽根車を有するポンプである循環装置2」及び「塩タンク6」は、本願発明の「反応器システム(1)」、「反応器(3)」、「冷却器(5)」、「液状熱媒体(9)」、「ポンプ(7)」及び「容器(11)」にそれぞれ相当する。
イ 引用発明1の「1ゾーン型反応器1」、「冷却器4」、「軸流羽根車を有するポンプである循環装置2」及び「塩タンク6」の接続関係と、本願発明の「反応器(3)」、「冷却器(5)」、「ポンプ(7)」及び「容器(11)」の接続関係とに差異はない。
ウ 引用例1の【0168】(上記1(1)(引1オ))には、反応器の停止は、「高温試験についての上記説明に従って同様に実施される。」と記載され、【0085】(同(引1エ))には、「5 高温試験の実施」の終了後、「7 塩タンク内への塩の排出」が行われることが記載されていることから、引用発明において、「複数の塩連結管」の内「53c」及び「53a」は、それぞれ、「1ゾーン型反応器1」及び「冷却器4」の塩の排出管ということができ、本願発明の「排出管(17a,17b)」に相当する。

エ 上記ア?ウから、本願発明と引用発明1とは、
「- 反応器(3)、
- 前記反応器(3)と接続する、少なくとも1つの冷却器(5)、
- 液状熱媒体(9)の少なくとも一部を循環するための、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)と接続する、少なくとも1つのポンプ(7)、及び
- 前記液状熱媒体(9)を収容するための、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)と接続する容器(11)とを備え、前記容器(11)は、排出管(17a,17b)を介してそれぞれ、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)と接続されている反応器システム(1)。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1)
排出管(17a,17b)の接続箇所について、本願発明では、「反応器(3)及び冷却器(5)の最も低い箇所」であるのに対し、引用発明1の「複数の塩連結管53c及び53a」の「1ゾーン型反応器1」及び「冷却器4」に対する接続箇所は規定されていない点。
(相違点2)
容器(11)の配置場所について、本願発明は、「反応器(3)及び少なくとも1つの冷却器(5)の下方」であるのに対し、引用発明1の塩タンク6の1ゾーン型反応器1及び冷却器4に対する配置場所は規定されていない点。
(相違点3)
容器(11)の地面水準に対する位置関係について、本願発明は、「少なくとも部分的に地面水準の下方」であるのに対し、引用発明1の塩タンク6の地面水準に対する位置は規定されていない点。
(相違点4)
容器(11)の容積について、本願発明は、「理論的に、反応器(3)及び少なくとも1つの冷却器(5)内に含まれる液状熱媒体(9)の体積よりも10%大きい」のに対し、引用発明1の塩タンク6の容積は規定されていない点。

ここで、相違点について検討する。事案に鑑み、相違点1、2、4及び3の順で検討する。
(相違点1について)
引用例1の【0168】(上記1(1)(引1カ))には、「12 反応器の停止」について、「高温試験についての上記説明に従って同様に実施される。」と記載され、【0085】(同(引1エ))には、「5 高温試験の実施」の終了後、「7 塩タンク内への塩の排出」が行われることが記載されていることから、引用発明1の「塩タンク6」は、「熱媒としての液体塩」を回収し、収容するものといえる。
そして、このような、「熱媒としての液体塩」を回収し、収容するタンクについて、反応器システム内の塩の全量を回収し収容すること及びその容積を熱媒の全量よりも大きくすることは周知である(引用例2の【0068】上記1(2)(引2ケ))の「タンク31は反応器内の熱媒の全量を回収し収納するものであるため、各チャンバーの熱媒量の全量よりも大容量である」という記載を参照。)。
また、そのような回収を、塩が存在する最も低い位置に流路を接続して、重力を用いて行うことも周知である(周知例1の【0010】(上記1(3)(周1ア))の「熱媒循環流路22の最も低い位置から分岐し、多管式反応器10とポンプタンク16との間で循環する熱媒を熱媒ドラム12に回収する熱媒回収流路26」という記載及び 【0031】の「ポンプタンク16、多管式反応器10および熱媒循環流路22内の溶融塩を、重力によって熱媒ドラム12に自然落下させた。」という記載を参照。)。
そして、引用例1の【0137】(上記1(1)(引1オ))には、「7 塩タンク内へ塩の排出」において、「排出開始前に、自由な流出を保証するため、排出管および排気管ならびに塩タンクの付随加熱装置が運転されているかが点検されなければならない。」と記載され、【0138】(同)には、「排出は塩循環ポンプの遮断によって開始される。その直後に反応器システムの塩排出弁の開によって排出が実施される。」と記載されていることから、引用例1には、塩排出弁の開によって、塩が自由に流出することが記載されているといえ、さらに、引用例1の【0140】(上記1(1)(引1オ))には、同「7 塩タンク内へ塩の排出」において、「周囲温度への冷却を開始するために、塩は完全に反応器から排出され、かつ反応器にある装置類が運転停止される。」と記載されていることから、反応器システムからの塩の排出においては、反応器から完全に塩を排出することも記載されているといえる。
そうすると、反応器から塩が自由に流出し、しかも、反応器から完全に塩を排出するためには、反応器の最も低い箇所に配管が接続され、塩タンク6は、1ゾーン型反応器1及び冷却器4の下方に配置されている必要があることは明らかであるから、引用発明1において、引用例1の記載、引用例2の記載及び周知技術に基いて、引用発明1において「1ゾーン型反応器1」及び「冷却器4」の最も低い箇所に「複数の塩連結管53c及び53a」を接続することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点2について)
上記「(相違点1について)」で述べたように、引用発明1の「塩タンク6」は、「熱媒としての液体塩」を回収し、収容するものであり、そのような回収を重力を用いて行うことは周知である。
そして、「塩タンク6」の配置は、当業者が適宜決定する事項であり、上記「(相違点1について)」で述べたように、「塩タンク6」は、「1ゾーン型反応器1」及び「冷却器4」の下方に配置されている必要があることは明らかであるから、引用発明1において、引用例1の記載、引用例2の記載及び周知技術に基いて、塩タンク6を「1ゾーン型反応器1」及び「冷却器4」の下方に配置することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点4について)
上記「(相違点1について)」で述べたように、引用発明1の「塩タンク6」は、「熱媒としての液体塩」を回収し、収容するものであり、そのような回収において、反応器内の液体塩の全量よりも大きい容積のタンクを用いることは周知である。
そして、「塩タンク6」の容積は、当業者が適宜決定する事項であり、引用発明1において、「塩タンク6」の容積を、「1ゾーン型反応器1」及び「冷却器4」内の熱媒としての液体塩の全量より10%以上大きいものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(相違点3について)
一般に、タンクなどを、スペースの有効利用や安全のために、少なくとも部分的に、地面水準以下に埋設することは適宜行われている。
そうすると、引用発明1の「塩タンク6」の地面水準に対する位置は、当業者が適宜決定する事項であるといえ、引用発明1において、「塩タンク6」の配置を「少なくとも部分的に地面水準の下方」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(本願発明の作用効果について)
本願明細書に記載された、「液状熱媒体(9)を容易に装置から抜き出すことができる」、「人や環境に対して液状熱媒体(9)による危険がないか又はわずかな危険しか生じない」、「容器(11)を格納するために、反応器システム(1)を高所で組み立てる必要がない」(本願明細書【0013】)、「容器(11)のより低所の配置により、反応器システム(1)の全体の建設高さを低くすることができる」(同【0017】)、「容器(11)を過度の負荷に曝さない」(同【0019】)、及び、「反応器(3)及び/又は少なくとも1つの冷却器(5)から液状熱媒体(9)をほぼ完全に抜き出すことを可能にする」(同【0020】)という本願発明の作用効果は、引用発明1、引用例2の記載、周知例1の記載、及び、周知技術からみて、格別顕著なこととはいえない。

(まとめ)
本願発明の上記相違点1?4に係る発明特定事項は容易想到であって、本願発明は、引用発明1及び引用例2、周知例1の記載、並びに、周知技術に基いて、当業者が容易に発明し得るものである。

(2)引用発明2を主引用発明とした場合
本願発明と引用発明2とを対比する。
ア 引用発明2の「反応器システム」、「反応器50」、「熱媒」、「ポンプ43、44」及び「タンク31」は、本願発明の「反応器システム(1)」、「反応器(3)」、「液状熱媒体(9)」、「液状熱媒体(9)の少なくとも一部を循環するための、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)と接続する、少なくとも1つのポンプ(7)」及び「容器(11)」に、それぞれ相当する。
イ 本願発明の「容器(11)の容積は、理論的に、反応器(3)及び少なくとも1つの冷却器(5)内に含まれる液状熱媒体(9)の体積よりも10%大きい」構成と、引用発明2の「タンク31は、各チャンバー(第1チャンバー(51)と第2チャンバー(52))の熱媒量の全量よりも大容量である」構成とは、「容器(11)の容積は、理論的に、反応器(3)及び少なくとも1つの冷却器(5)内に含まれる液状熱媒体(9)の体積よりも大きい」点で共通する。
ウ 引用発明2の「タンク31とタンク32とはL1で接続され、タンク32と第1チャンバー(51)、第2チャンバー(52)とはL20等の熱媒ラインで接続され」る構成は、「L1」が本願発明の「排出管(17a)」に相当し、引用発明2の該構成は、本件発明2の「前記液状熱媒体(9)を収容するための、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)と接続する容器(11)とを備え、前記容器(11)は、排出管(17a,17b)を介してそれぞれ、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)と接続されてい」る構成に相当する。

エ 上記ア?ウより、本願発明と引用発明2とは、
「- 反応器(3)、
- 液状熱媒体(9)の少なくとも一部を循環するための、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)と接続する、少なくとも1つのポンプ(7)、
- 前記液状熱媒体(9)を収容するための、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)と接続する容器(11)とを備え、前記容器(11)は、排出管(17a,17b)を介してそれぞれ、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)と接続されていて、
前記容器(11)の容積は、理論的に、前記反応器(3)及び前記少なくとも1つの冷却器(5)内に含まれる液状熱媒体(9)の体積よりも大きい、反応器システム(1)。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点A)
冷却器について、本願発明は、「反応器(3)と接続する、少なくとも1つの冷却器(5)」を備えているのに対し、引用発明2は、冷却器は備えていない点。
(相違点1’)
排出管(17a,17b)の接続箇所について、本願発明では、「反応器(3)及び冷却器(5)の最も低い箇所」であるのに対し、引用発明2の「L2」の第1チャンバー51及び第2チャンバー52に対する接続箇所は規定されていない点。
(相違点2’)
容器(11)の配置場所について、本願発明は、「反応器(3)及び少なくとも1つの冷却器(5)の下方」であるのに対し、引用発明2のタンク31の第1チャンバー(51)、第2チャンバー(52)に対する配置場所は規定されていない点。
(相違点3’)
容器(11)の地面水準に対する位置関係について、本願発明は、「少なくとも部分的に地面水準の下方」であるのに対し、引用発明2のタンク31の地面水準に対する位置は規定されていない点。
(相違点4’)
容器(11)の容積について、本願発明は、「理論的に、反応器(3)及び少なくとも1つの冷却器(5)内に含まれる液状熱媒体(9)の体積よりも10%大きい」のに対し、引用発明1のタンク31の容積は、第1チャンバー51及び第2チャンバー52の熱媒量の全量よりも大容量であるものの、どの程度大きいかは規定されていない点。

ここで、相違点について検討する。事案に鑑み、相違点A、1’、2’、4’及び3’の順に検討する。
(相違点Aについて)
反応器に対して、冷却器を備えることは周知である(引用例1の記載、及び、引用例2の図1における「蒸気発生器103」についての【0009】(上記1(2)(引2エ))の「蒸気発生器103は、熱媒を昇温しすぎた場合の冷却や、原料ガス投入後の反応熱の除熱に用いる。」という記載、周知例1の「熱交換器14」についての【0012】(上記1(3)((周1イ))の「熱交換器14は、多管式反応器10の反応熱で温度が上昇した熱媒から熱を回収し、上昇した分だけ熱媒の温度を下げるものである。」という記載を参照されたい。)
したがって、引用発明2において、冷却器を設けることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点1’について)
上記(1)「(相違点1について)」で述べたように、反応器の熱媒の回収を、熱媒が循環する流路の最も低い位置から、重力を用いて行うことは周知である(周知例1の上記記載を参照。)。
そして、タンク31の配置は、当業者が適宜決定する事項であるから、引用発明2において、上記相違点1’に係る本願発明の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点2’について)
上記「(相違点1’について)」で述べたように、反応器の熱媒の回収を、熱媒が循環する流路の最も低い位置から、重力を用いて行うことは周知である。
そして、「タンク31」の配置は、当業者が適宜決定する事項であり、引用発明2において、上記相違点2’に係る本願発明の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点4’について)
引用発明2において、タンク31の容積は、第1チャンバー51及び第2チャンバー52内の熱媒量の全量より大容量であり、その大容量の程度は、当業者が適宜決定する事項であるから、引用発明2において、上記相違点4’に係る本願発明の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点3’について)
上記(1)「(相違点3について)」で述べたように、一般に、タンクなどを、スペースの有効利用や安全のために、少なくとも部分的に、地面水準以下に埋設することは適宜行われている。
そうすると、引用発明2の「タンク31」の地面水準に対する位置は、当業者が適宜決定する事項であるといえ、引用発明2において、「タンク31」の配置を「少なくとも部分的に地面水準の下方」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(本願発明の作用効果について)
本願明細書に記載された、「液状熱媒体(9)を容易に装置から抜き出すことができる」、「人や環境に対して液状熱媒体(9)による危険がないか又はわずかな危険しか生じない」、「容器(11)を格納するために、反応器システム(1)を高所で組み立てる必要がない」(本願明細書【0013】)、「容器(11)のより低所の配置により、反応器システム(1)の全体の建設高さを低くすることができる」(同【0017】)、「容器(11)を過度の負荷に曝さない」(同【0019】)、及び、「反応器(3)及び/又は少なくとも1つの冷却器(5)から液状熱媒体(9)をほぼ完全に抜き出すことを可能にする」(同【0020】)という本願発明の作用効果は、引用発明2、引用例1の記載、周知例1の記載、並びに、周知技術からみて、格別顕著なこととはいえない。

(まとめ)
本願発明の上記相違点A、1’?4’に係る発明特定事項は容易想到であって、本願発明は、引用発明2及び引用例1、周知例1の記載及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明し得るものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-12-19 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2016-558127(P2016-558127)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 泰三  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
川端 修
発明の名称 反応器システム及びその使用  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 森田 拓  
代理人 上島 類  

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