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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1362944
審判番号 不服2018-17104  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-21 
確定日 2020-06-03 
事件の表示 特願2017-113565「積層セラミックキャパシタ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月26日出願公開、特開2017-195392〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年10月8日(パリ条約による優先権主張2013年7月11日、大韓民国)に出願した特願2013-210971号の一部を平成29年6月8日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 2月 9日付け:拒絶理由通知書
同 年 5月16日 :意見書の提出
同 年 8月17日付け:拒絶査定
同 年12月21日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成30年12月21付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の誘電体層を含み、対向する厚さ方向の第1及び第2主面、長さ方向の第1及び第2端面、並びに幅方向の第1及び第2側面を有するセラミック本体と、
前記セラミック本体内で前記誘電体層を介して前記第1及び第2側面を通じて交互に露出するように配置された複数の第1及び第2内部電極と、
前記セラミック本体の前記第1主面の幅方向における一部分、前記第2側面の厚さ方向全体、及び、前記第2主面の幅方向における一部分にわたって形成され、前記第1内部電極と電気的に連結された第1外部電極、並びに、前記セラミック本体の前記第1主面の幅方向における前記一部分以外の他部分、前記第1側面の厚さ方向全体、及び、前記第2主面の幅方向における前記一部分以外の他部分にわたって形成され、前記第2内部電極と電気的に連結された第2外部電極と、を含み、
前記セラミック本体の長さをW(mm)、前記セラミック本体の幅をL(mm)、前記セラミック本体の厚さをh(mm)、前記第1または第2外部電極の長さをB(mm)と規定するとき、
前記セラミック本体の長さと幅の比率W/Lは、1.4≦W/L≦2.1の範囲を満たし、前記セラミック本体の厚さ及び幅と前記第1または第2外部電極の関係B×h/Lは、0.84≦B×h/L≦1.27の範囲を満たし、
前記第1及び第2外部電極の長さは前記セラミック本体の長さより短く形成され、
前記セラミック本体の長さ方向の前記第1及び第2端面、前記第1及び第2端面と前記第1主面との連結部、前記第1及び第2端面と前記第2主面との連結部、前記第1及び第2端面と前記第1側面との連結部、並びに、前記第1及び第2端面と前記第2側面との連結部は、前記第1及び第2外部電極によりカバーされない、積層セラミックキャパシタ。」

第3 原査定における拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、次のとおりである。

1.(委任省令要件)本件出願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、B×h/L及びW/Lの数値範囲とツームストーン現象との技術的関係が不明であって、請求項1-3に係る発明について経済産業省令で定めるところにより記載されたものでないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2.(サポート要件)本件出願は、明細書において如何にしてツームストーン現象を抑制、防止しているのか説明されておらず、また、十分な実験例が示されていないため、請求項1-3の記載が、明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて拡張、一般化されたものになっている点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.(進歩性)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



●請求項1について、引用文献1ないし3
●請求項2及び3について、引用文献1ないし4

引用文献1.特開平11-186092号公報
引用文献2.特開平9-148174号公報
引用文献3.特開2009-33101号公報
引用文献4.特開2012-248581号公報

第4 当審の判断

1.委任省令要件及びサポート要件(特許法第36条第4項第1号違反及び第6項第1号違反)について

(1)本願の発明の詳細な説明の記載内容
本願の発明の詳細な説明な記載には、次の内容が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。

ア.発明が解決使用とする課題
「【0007】
当技術分野では、実装工程におけるツームストーン現象の発生を抑制して信頼性の高い積層セラミックキャパシタを提供するための新たな方案が要求されてきた。」

イ.課題を解決するための手段
「【0008】
本発明の一側面は、複数の誘電体層を含み、対向する厚さ方向の第1及び第2主面、長さ方向の第1及び第2端面、及び幅方向の第1及び第2側面を有するセラミック本体と、上記セラミック本体内で上記誘電体層を介して上記第1及び第2側面を通じて交互に露出するように配置された複数の第1及び第2内部電極と、上記セラミック本体の幅-厚さ断面に形成され、上記第1及び第2内部電極と電気的に連結された第1及び第2外部電極と、を含み、上記セラミック本体の長さをW、上記セラミック本体の幅をL、上記セラミック本体の厚さをh、上記第1または第2外部電極の長さをBと規定するとき、上記セラミック本体の長さと幅の比率W/Lは、1.4≦W/L≦2.1の範囲を満たし、上記セラミック本体の厚さ及び幅と上記第1または第2外部電極の関係B×h/Lは、B×h/L≦1.27の範囲を満たす積層セラミックキャパシタを提供する。
また、本発明は、複数の誘電体層を含み、対向する厚さ方向の第1及び第2主面、長さ方向の第1及び第2端面、及び幅方向の第1及び第2側面を有するセラミック本体と、
前記セラミック本体内で前記誘電体層を介して前記第1及び第2側面を通じて交互に露出するように配置された複数の第1及び第2内部電極と、
前記セラミック本体の前記第1主面の幅方向における一部分、前記第2側面の厚さ方向全体、及び、前記第2主面の幅方向における一部分にわたって形成され、前記第1内部電極と電気的に連結された第1外部電極、及び、前記セラミック本体の前記第1主面の幅方向における前記一部分以外の他部分、前記第1側面の厚さ方向全体、及び、前記第2主面の幅方向における前記一部分以外の他部分にわたって形成され、前記第2内部電極と電気的に連結された第2外部電極と、を含み、
前記セラミック本体の長さをW(mm)、前記セラミック本体の幅をL(mm)、前記セラミック本体の厚さをh(mm)、前記第1または第2外部電極の長さをB(mm)と規定するとき、
前記セラミック本体の長さと幅の比率W/Lは、1.4≦W/L≦2.1の範囲を満たし、前記セラミック本体の厚さ及び幅と前記第1または第2外部電極の関係B×h/Lは、0.84≦B×h/L≦1.27の範囲を満たし、
前記第1及び第2外部電極の長さは前記セラミック本体の長さより短く形成され、
前記セラミック本体の長さ方向の前記第1及び第2端面、前記第1及び第2端面と前記第1主面との連結部、前記第1及び第2端面と前記第2主面との連結部、前記第1及び第2端面と前記第1側面との連結部、及び、前記第1及び第2端面と前記第2側面との連結部は、前記第1及び第2外部電極によりカバーされない、積層セラミックキャパシタを提供する。
【0009】
本発明の一実施形態における上記第1及び第2外部電極の長さは、上記セラミック本体の長さより短く形成されてもよい。
【0010】
本発明の一実施形態における上記セラミック本体は、上記第1及び第2内部電極が配置されたアクティブ層の上部及び下部に上部及び下部カバー層をさらに形成してもよい。
【0011】
このとき、上記下部カバー層は上記上部カバー層より厚くてもよい。」

ウ.発明の効果
「【0012】
本発明の一実施形態によると、セラミック本体及び外部電極の寸法を限定して、実装工程におけるツームストーン現象の発生を抑制することで、実装不良率を下げる効果がある。
【0013】
このような効果は、実装工程の製造収率を改善して製品の信頼性を向上させることができる。」

エ.発明を実施するための形態
「【0053】
下表1は、本発明の一実施形態による積層セラミックキャパシタでのセラミック本体110及び外部電極131、132の寸法による実装不良率を示したものであり、図3は本発明の一実施形態による積層セラミックキャパシタでのセラミック本体110及び外部電極131、132の寸法による実装不良率を示したグラフである。
【0054】
【表1】

【0055】
図3及び上記表1を参照すると、本実施形態において、セラミック本体100の長さをW、セラミック本体100の幅をL、セラミック本体100の厚さをh、第1または第2外部電極131、132の長さをBと規定するとき、セラミック本体100の長さと幅の比率W/Lは、1.4≦W/L≦2.1の範囲を満たし、セラミック本体100の厚さ及び幅と第1または第2外部電極131、132の関係B×h/Lは、B×h/L≦1.27の範囲を満たすと、実装工程におけるツームストーン現象の発生を防止し、実装不良が発生しないため、製品の信頼性を向上させることができる。このような効果は、実装工程の製造収率を改善して製品の信頼性を向上させる。」

(2)委任省令要件(特許法第36条第4項第1号違反)について

ア.当審の判断
上記「(1)イ.」によれば、セラミック本体及び外部電極の寸法として、1.4≦W/L≦2.1及び0.84≦B×h/L≦1.27と限定することが課題解決手段とされ、上記「(1)ウ.」によれば、セラミック本体及び外部電極の寸法を限定してツームストーン現象の発生を抑制できることが記載されている。
しかるところ、発明の詳細な説明の全体を通じて、1.4≦W/L≦2.1とすること及び0.84≦B×h/L≦1.27とすることでツームストーン現象の発生を抑制できることについて、これを理解できるような理論的説明はなされていない。
もっとも、上記「(1)エ.」に摘示したように、【表1】及び図3には、B×h/Lと実装不良率(Error Rate(%))との関係を調べた実験例が開示されている。
しかし、W/Lについては【表1】及び図3において1.4以上2.1以下に設定された旨説明されているのみでW/Lの具体的値は不明であり、W/Lの値とツームストーン現象発生の原因や抑制の考え方との関係についても把握できない。また、W/Lとして1.4以上2.1以下を外れた実験例は開示されていない。したがって、W/Lが上記範囲内になる場合と範囲外になる場合との間で比較検討をすることができず、「0.84≦B×h/L≦1.27」を満たす場合に、W/Lを上記範囲とすることの必然性を見出すことはできない。
次に、B×h/Lについては、本願の【表1】及び図3を見るとB×h/Lが1.27よりも大きいとエラーが生じているが、B×h/Lが0.84以上1.27以下ではError Rate(%)が0となっており、これについて段落【0055】にはツームストーン現象が防止されていると説明されている。
しかしながら、出願時の技術常識に照らして、ツームストーン現象の有無は、積層セラミックキャパシタや外部電極の寸法以外にも、積層セラミックキャパシタの重さ、半田の材料や塗り方、それにより発生する張力など、様々な要素が影響する。そして、B×h/Lの0.84?1.27という数値範囲の内側を選択した場合の方が外側を選択した場合よりも、常に優位であるかも不明である。
たとえば、本願の図4の状態で実装されることを考えれば、第1または第2外部電極の長さBが大きいほど半田に接する第1または第2外部電極の面積は増えるのであるから、半田による外部電極に作用する張力は大きくなり、下図のように、積層セラミックキャパシタが立ち上がらせる向きの何らかのモーメント(点線の矢印)が加わった場合、これに対して立ち上がらないようにするモーメント(実線の矢印)、すなわち、図中左側の半田230による張力及び積層セラミックキャパシタの重力によるモーメントの和が大きくなってツームストーン現象は抑制されると考えられる。

また、hが大きくなることは、積層セラミックキャパシタの重心を高くして不安定にさせ、ツームストーン現象は起こりやすくなる方向にも作用するが、積層セラミックキャパシタの重量が大きくなるためツームストーン現象を抑制する方向にも作用するのであり、そのトレードオフで定まる適切な範囲というのは、積層セラミックキャパシタの単位体積当たりの重量や積層セラミックキャパシタを立ち上がらせる原因となる力の大きさ(重心が高いだけでは立ち上がらない)にも依存するものである。

したがって、0.84≦B×h/L≦1.27という数値範囲において常にツームストーン現象が防止され、又は数値範囲外よりも常にツームストーン現象を抑制できるかは不明である。

以上のとおり、請求項1に係る発明のように、あらゆるセラミック本体の長さW、セラミック本体の幅L、セラミック本体の厚さh、第1または第2外部電極の長さBにおいて、1.4≦W/L≦2.1及び0.84≦B×h/L≦1.27と限定してもツームストーン現象を抑制できるかどうかは不明であるから、請求項1に係る発明について、発明の技術上の意義が理解できない。

イ.審判請求人の主張について

(ア)0.84≦B×h/L≦1.27とする点について

a.審判請求人は審判請求書において、「本願の明細書の記載(段落0055等)によりB×h/Lがツームストーン現象の発生に関する関係式であると認識した当業者は、(i)ツームストーン現象が、半田との接触面積に応じた半田からの応力に起因するものであり、半田の接触面積を構成するBおよびhが、ツームストーン現象に影響を及ぼすパラメータであること、および(ii)積層セラミックキャパシタにおけるツームストーン現象により立ち上がる方向の長さLが大きくなるほど、ツームストーン現象が起こりにくくなることを理解することができ、B×h/Lが実装不良に影響を及ぼすことは明らかである。具体的には、積層セラミックキャパシタの立ち上がり始めにおいては、半田の接触面積B×hに比例するモーメントが積層セラミックキャパシタを立ち上げるモーメントとして生じる一方で、幅Lに比例するモーメントが立ち上がりを抑えるモーメントとして生じる。そして、これらの力の大小関係により、積層セラミックキャパシタが立ち上がり始めるか否かが決まるのであるから、B×h/Lの値が、積層セラミックキャパシタがツームストーン現象により立ち上がるか否かに大きな影響を与える重要なパラメータとなることがわかる。したがって、本願発明の技術上の意義は、当業者が発明の詳細な説明に基づいて十分に理解できるものである。」と主張する。

そこで、上記主張について検討する。
まず、B×hが半田の接触面積を構成することを前提にした説明は、半田が第1又は第2側面に接触することを前提とする説明であるといえるが、本願明細書等には、第1又は第2側面に半田が接触する実施形態は記載されておらず、図4及び段落【0052】にあるように、半田23が第1及び第2外部電極131、132の下面にある形態のみ記載されている。すなわち、ツームストーン現象を発生させる様々な原因がある中で、本願発明におけるツームストーン現象がB×hに比例したモーメントに起因するものという上記主張は本願明細書等の記載に基づいたものではない。
また、仮にB×hに応じたモーメントによってツームストーン現象が発生するにしても、B×hをLで除算することの技術的意味が不明である。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。

b.また、審判請求人は審判請求書において、「本願発明における積層セラミックキャパシタは、段落0054の表1および段落0055において当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に、その効果が示されている。したがって、出願時の技術常識に照らせば、その具体的な理論的根拠を明らかにするまでもなく、本願の明細書において技術上の意義は十分に示されているものである」と主張している。

そこで、上記主張について検討する。
確かに本願明細書等に実験例は示されているが、上記「(1)ア.」で検討したとおり、ツームストーン現象の有無は、積層セラミックキャパシタの寸法以外にも、積層セラミックキャパシタの重さ、半田の材料や塗り方、それにより発生する張力など様々な要素が影響し、0.84≦B×h/L≦1.27とするだけでツームストーン現象が抑制できるとは考えられない。
そうすると、本願明細書等で開示する実験例は、本願明細書等で明らかにされてない前提条件のもとで初めて得られるものと解さざるを得ない。そして、当該前提条件が明らかでない以上、請求項1に係る発明によってツームストーン現象を抑制することはできないのであるから、請求項1に係る発明を実施できるとは認められない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、0.84≦B×h/L≦1.27とすることの技術上の意義を理解できる程度に記載されておらず、結果として、請求項1に係る発明を実施することができる程度に記載されているということはできない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

(イ)1.4≦W/L≦2.1とする点について

審判請求人は審判請求書において、「本願明細書において、『図3及び上記表1を参照すると、本実施形態において、セラミック本体100の長さをW、セラミック本体100の幅をL、セラミック本体100の厚さをh、第1または第2外部電極131、132の長さをBと規定するとき、セラミック本体100の長さと幅の比率W/Lは、1.4≦W/L≦2.1の範囲を満たし、セラミック本体100の厚さ及び幅と第1または第2外部電極131、132の関係B×h/Lは、B×h/L≦1.27の範囲を満たすと、実装工程におけるツームストーン現象の発生を防止し、実装不良が発生しないため、製品の信頼性を向上させることができる。』(段落0055)と記載されている。したがって、実施形態(表1)では、本願発明が対象とする1.4≦W/L≦2.1の範囲を満たす形状の積層セラミックキャパシタについて、具体的な実験データを明確に示したものである。そして、本願発明においては、1.4≦W/L≦2.1の範囲を満たす積層セラミックキャパシタについて権利化を図るべく、特許請求の範囲をこの範囲に限定したものである。」と主張する。

そこで検討するに、上記主張は、W/L自体はツームストーン現象の発生防止に直接寄与するものではなく、その値を1.4以上2.1以下の範囲とすればB×h/Lの数値範囲が1.27以下であることでツームストーン現象を防止できるという趣旨の主張と認められる。
したがって、ツームストーン現象の抑制に関して、1.4≦W/L≦2.1とすること自体の技術上の意義は認められない。

ウ.まとめ

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)サポート要件(特許法第36条第6項第1号違反)について

ア.当審の判断

上記「(1)ア.」によれば、本願の課題は、実装工程におけるツームストーン現象の発生を抑制することにある。
これに対し、発明の詳細な説明の段落【0053】ないし【0055】、【表1】、図3には、「セラミック本体の厚さ及び幅と第1または第2外部電極の関係B×h/L」が、0.84以上1.27以下であればツームストーン現象が防止される実験例が示されている。
しかしながら、「セラミック本体の厚さ及び幅と前記第1または第2外部電極の関係B×h/L」が「0.84≦B×h/L≦1.27の範囲」であることにより、ツームストーン現象を防止できることについての理論的な説明はなされておらず、どのような原理でツームストーン現象を防止しているのかは不明である。
しかるところ、上記(2)で検討したように、0.84≦B×h/L≦1.27であっても常にツームストーン現象が防止できるかは不明であり、本願の【表1】に示された限られた事例をもって、なぜ、セラミック本体の長さと幅の比率W/Lが、1.4≦W/L≦2.1の範囲を満たし、セラミック本体の厚さ及び幅と第1または第2外部電極の関係B×h/Lが、B×h/L≦1.27の範囲を満たすW、L、h、Bのあらゆる組合せでツームストーン現象の発生を防止できるものであると、一般化ないし拡張できるのか当業者が認識できる程度に具体的な説明がされているとはいえず、請求項1ないし3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

イ.審判請求人の主張

(ア)審判請求人は審判請求書において、「『セラミック本体の厚さ及び幅と第1または第2外部電極の関係B×h/L』と、ツームストーン現象の発生防止との技術的関係は、出願時の技術常識に照らせば明らか」であり、「『セラミック本体の長さと幅の比率W/Lは、1.4≦W/L≦2.1』についても、同様である」と主張する。

しかしながら、上記(2)で検討したように、「セラミック本体の厚さ及び幅と第1または第2外部電極の関係B×h/L」を「0.84≦B×h/L≦1.27」とすることとツームストーン現象の発生原因との技術的関係、及び、「セラミック本体の長さと幅の比率W/L」を「1.4≦W/L≦2.1」とすることとツームストーン現象の発生原因との技術的関係は、いずれも明らかではない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

(イ)また、審判請求人は審判請求書において、「本来、積層セラミックキャパシタは、その機能、用途等に鑑み、ある程度適切な寸法範囲が存在しており、W、L、h、またはBが極端に大きかったり、または極端に小さかったりするものではない。そこで、本願の表1および図3は、その適切な寸法範囲内において条件を変化させた場合の実験データを示すものであるため、限られた事例のみをもって、ツームストーン現象の発生を防止できる範囲として、一般化ないし拡張したものではない。」とも主張する。

しかしながら、積層セラミックキャパシタで採用されるサイズは、本願の実験例で採用された値(「幅L(mm)、厚さh(mm)」=「0.52、0.78」、「0.57、0.85」、「0.57、0.95」、「0.96、1.15」)以外にも種々のものがあり、例えば、特表2009-505395号公報(段落【0033】参照)には、積層セラミックコンデンサに関して、一般的に幅寸法として0.5?5.0mm、厚さ寸法として0.5?2.0mmを採用することが記載されており、特開2013-69758号公報(段落【0002】参照)や、理由3で引用される引用文献1(段落【0021】参照)、引用文献2(段落【0009】参照)、引用文献3(段落【0049】参照)及び特開2005-19921号公報(段落【0029】、【0047】及び【0048】参照)には、積層セラミックコンデンサに関して、幅寸法として0.2?1.6mm、厚さ寸法として0.2?1.2mmの範囲で本願の実験例とは異なる種々の寸法が記載されている。
そして、上記(2)のとおり、ツームストーン現象の有無は、積層セラミックキャパシタや外部電極の寸法以外にも、積層セラミックキャパシタの重さ、半田の材料や塗り方、それにより発生する張力など、様々な要素が影響すると考えられる。しかるところ、W、L、hが変化することで、少なくとも、積層セラミックキャパシタの重量は変化するから、B×h/Lが0.84以上1.27以下において実装不良率が小さくなるかは不明である。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

ウ.まとめ

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


2.特許法第29条第2項(進歩性)について

(1)引用文献の記載

ア.引用文献1について

原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献1には、「積層セラミックコンデンサ」について、以下の事項が記載されている。ただし、下線は当審で付与したものである。

「【0019】
【発明の実施の形態】図1は本発明に係るチップ状電子部品を示す斜視図、図2は図1に示したチップ状電子部品の平面図、図3は図1に示したチップ状電子部品の正面図、図4は図2の4-4線に沿った断面図である。図示されたチップ状電子部品は、積層セラミックコンデンサであって、基体1と、外部電極21、22とを含む。
【0020】基体1は、長さ方向Xの両側面11、12と、幅方向Yの両側面13、14とが交叉する。即ち、基体1は、その形状が略直方体となる。このような形状であれば、例えば、多数のチップ状電子部品要素を形成したウエハーを、格子状に切断する等の手段によって、個々のチップ状電子部品を取り出す製造方法を採用できる。このため、量産性に優れたチップ状電子部品が得られる。
【0021】基体1は長さ方向Xの寸法L=2.2mm以下の値に選定される。積層セラミックコンデンサの場合、代表的には、C0603タイプ(L×W×T=0.6×0.3×0.2(mm))、C1005タイプ(L×W×T=1.0×0.5×0.4(mm))、C2012タイプ(L×W×T=2.0×1.2×1.0(mm))等がその典型的なディメンションである。
【0022】基体1は、各面の交差する稜角部に丸味を付してあることが望ましい。このような丸味はバレル研磨を施すことによって付与することができる。実施例において、基体1はセラミックコンデンサとして適した誘電体セラミックでなる。
【0023】基体1は回路要素を有する。図1?図4に示した実施例は積層セラミックコンデンサを示しており、回路要素は内部電極30?39と、内部電極30?39の間にある誘電体セラミック層によって構成される。内部電極30?39は、基体1の内部に埋設されている。このように、回路要素を構成する内部電極30?39が、基体1の内部に埋設されているから、基体1によって内部電極30?39を保護し、耐湿性、耐久性、耐衝撃性及び電気絶縁性等を向上させたチップ状電子部品が得られる。
【0024】内部電極30?39は、厚み方向Zに重なり、長さ方向Xの一端が、長さ方向Xの両側面11、12に交互に導出されている。即ち、偶数参照符号が付された内部電極30、32、34、36、38は、長さ方向Xの一端が側面12に導出され、奇数参照符号が付された内部電極31、33、35、37、39は、一端が、側面11に導出されている。内部電極の個数は任意である。
【0025】内部電極30?39は、ほぼ同じ平面形状を有している。例えば、内部電極31を代表的に取り出して説明すると、図4に示すように、引き出し電極部分310の幅方向Yの寸法d3が、外部電極21の幅方向Yの寸法d4より小さくなっている。内部電極31を基準にして、一つおきに数えられた内部電極、即ち奇数参照符号の付された内部電極33?39も、内部電極31と同じ形状を有する。偶数参照符号の付された内部電極30?38は、図4において、左右反転させた形状を有する。
【0026】図5は内部電極30?39の別の態様を示している。図5において、内部電極31は、引き出し電極部分310の幅方向Yの寸法d3が、外部電極21の幅方向Yの寸法d4とほぼ等しくなっている。但し、図4、図5に示された内部電極パターンは一例であり、その他、種々のパターンを取り得ることはいうまでもない。
【0027】再び、図1?図4を参照して説明する。外部電極21、22のうち、外部電極21は、基体1の長さ方向Xの一端部に備えられ、かつ、幅方向Yの両側面13、14から、それぞれ、間隔d11、d12を隔てて形成されている。外部電極22は、基体1の長さ方向Xの他端部に備えられ、かつ、幅方向Yの両側面13、14から、それぞれ、間隔d21、d22を隔てて形成されている。
【0028】外部電極21は、基体1の長さ方向Xの側面11に形成されされている。側面11には、奇数参照符号の付された内部電極31?39の一端が導出されているから、外部電極21は、奇数参照符号の付された内部電極31?39に導通される。外部電極22は、基体1の長さ方向Xの側面12に形成されている。側面12には、偶数参照符号の付された内部電極30?38の一端が導出されているから、外部電極22は、偶数参照符号の付された内部電極30?38に導通される。外部電極21、22は、この種電子部品において周知の技術の適用によって形成できる。
【0029】上記構造によれば、内部電極30?39の層数及び対向面積と、その間にある誘電体セラミック層の誘電率及び層数とによって定まる静電容量を、外部電極21、22から外部に取り出すことができる。
【0030】実施例において、外部電極21は、基体1の長さ方向Xの側面11及び厚み方向Zの両面15、16に連続して形成される。外部電極22は、基体1の長さ方向Xの側面12及び厚み方向Zの両面15、16に連続して形成される。これによる、充分に大きなハンダ付け面積を確保できる。
【0031】図6は図1?図5に示したチップ状電子部品の実装状態を示す図、図7は図6の7ー7線に沿った断面図である。図示するように、回路基板4への実装に当たり、基体1の長さ方向Xの両端部に備えられた外部電極21を、回路基板4上の導体パターン41にハンダ付け5し、長さ方向Xの他端部の外部電極22を、回路基板4上の導体パターン42にハンダ付け5する。
【0032】ここで、本発明に係るチップ状電子部品において、基体1は、長さ方向Xの側面11、12と、幅方向Yの両側面13、14とが交叉しており、外部電極21は、幅方向Yの両側面13、14から間隔d11、d12を隔てて形成されているから、外部電極21と、基体1の幅方向Yの両側面13、14との間に、間隔d11、d12の基体表面が生じる。この間隔d11、d12の基体表面は、ハンダ付けされ得ない。
【0033】外部電極22も、幅方向Yの両側面13、14から、間隔d21、d22を隔てて形成されているから、外部電極21、22と、基体1の幅方向Yの両側面13、14との間に、間隔d21、d22の基体表面が生じる。この間隔d21、d22の基体表面は、ハンダ付けされ得ない。
【0034】したがって、図6に図示するように、回路基板4上に2つのチップ状電子部品Q1、Q2を実装した場合、チップ状電子部品Q1ーQ2間の間隔を狭くしても、チップ状電子部品Q1ーQ2間に、ハンダフィレット等を生じる余地がない。このため、回路基板4に対する実装密度を大幅に向上させることができる。当該チップ状電子部品と隣接して配置されるチップ状電子部品は、他種のチップ状電子部品であってもよいし、導体パターン等であってもよい。この場合にも、同様の作用効果を奏する。
【0035】図8は多数のチップ状電子部品を実装した状態を示している。図示するように、チップ状電子部品Q11?Q33のそれぞれを、実質的に接触したようなきわめて狭い間隔を隔てて、幅方向に配列して行くことができる。
【0036】間隔d11、d12、d21、d22は10μm以上であることが望ましい。10μm以上の間隔であると、外部電極21、22と他の回路素子との間にハンダフィレットが発生するのを、確実に阻止することができる。」

・段落【0023】によれば、基体1は、内部電極30?39と、内部電極30?39の間にある誘電体セラミック層によって構成されるものである。

・段落【0020】及び【0030】によれば、基体1は、長さ方向Xの両側面11、12と、幅方向Yの両側面13、14、厚み方向Zの両面15、16を有するものである。

・段落【0019】及び【0030】によれば、積層セラミックコンデンサは、基体1と、基体1の長さ方向Xの側面11及び厚み方向Zの両面15、16に連続して形成される外部電極21と、基体1の長さ方向Xの側面12及び厚み方向Zの両面15、16に連続して形成される外部電極22とを含んでいる。

・段落【0024】によれば、内部電極30?39は、厚み方向Zに重なり、長さ方向Xの一端が長さ方向Xの両側面11、12に交互に導出され、偶数参照符号が付された内部電極30、32、34、36、38の一端が側面12に導出され、奇数参照符号が付された内部電極31、33、35、37、39の一端が側面11に導出されている。

・段落【0028】によれば、外部電極21は、側面11に形成されて奇数参照符号が付された内部電極31、33、35、37、39に導通され、外部電極22は、側面12に形成されて偶数参照符号が付された内部電極30、32、34、36、38に導通されている。

・段落【0027】、【0032】及び【0033】によれば、外部電極21は、幅方向Yの両側面13、14から間隔d11、d12を隔てて形成され、外部電極21と基体1の幅方向Yの両側面13、14との間に間隔d11、d12の基体表面が生じ、この間隔d11、d12の基体表面はハンダ付けされないものであり、外部電極22は、幅方向Yの両側面13、14から間隔d21、d22を隔てて形成され、外部電極22と基体1の幅方向Yの両側面13、14との間に間隔d21、d22の基体表面が生じ、この間隔d21、d22の基体表面はハンダ付けされないものである。
なお、段落【0033】における「外部電極21、22と、基体1の幅方向Yの両側面13、14との間に、間隔d21、d22の基体表面が生じる。」は、「外部電極22と、・・・」の誤記と認められる。

・段落【0036】によれば、間隔d11、d12、d21及びd22は、10μm以上とすることで外部電極21、22と他の回路素子との間にハンダフィレットが発生するのを確実に阻止する。

・段落【0021】によれば、積層セラミックコンデンサの寸法について、基体1の長さ方向Xの寸法をL、基体1の幅方向Yの寸法をW、基体1の厚み方向Zの寸法をTとすると、長さ方向の寸法L≦2.2mmの値に選定され、代表的には、C0603タイプ(L×W×T=0.6×0.3×0.2(mm))、C1005タイプ(L×W×T=1.0×0.5×0.4(mm))、C2012タイプ(L×W×T=2.0×1.2×1.0(mm))等がその典型的なディメンションであることが記載されている。また、段落【0025】に記載されている外部電極の幅方向Yの寸法d4は、段落【0027】及び図1、2、4によれば、間隔d11及びd12、又は、間隔d21及びd22の分、Wよりも短くなっている。

上記摘示事項および図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「内部電極30?39と、内部電極30?39の間にある誘電体セラミック層によって構成され、長さ方向Xの両側面11、12と、幅方向Yの両側面13、14、厚み方向Zの両面15、16を有する基体1と、
基体1の長さ方向Xの側面11及び厚み方向Zの両面15、16に連続して形成される外部電極21と、
基体1の長さ方向Xの側面12及び厚み方向Zの両面15、16に連続して形成される外部電極22と
を含み、
内部電極30?39は、厚み方向Zに重なり、長さ方向Xの一端が長さ方向Xの両側面11、12に交互に導出され、偶数参照符号が付された内部電極30、32、34、36、38の一端が側面12に導出され、奇数参照符号が付された内部電極31、33、35、37、39の一端が側面11に導出されており、
外部電極21は、側面11に形成されて奇数参照符号が付された内部電極31、33、35、37、39に導通され、外部電極22は、側面12に形成されて偶数参照符号が付された内部電極30、32、34、36、38に導通され、
外部電極21は、幅方向Yの両側面13、14から間隔d11、d12を隔てて形成され、外部電極21と基体1の幅方向Yの両側面13、14との間に間隔d11、d12の基体表面が生じ、この間隔d11、d12の基体表面はハンダ付けされず、
外部電極22は、幅方向Yの両側面13、14から間隔d21、d22を隔てて形成され、外部電極22と基体1の幅方向Yの両側面13、14との間に間隔d21、d22の基体表面が生じ、この間隔d21、d22の基体表面はハンダ付けされず、
間隔d11、d12、d21及びd22は、10μm以上とすることで外部電極21、22と他の回路素子との間にハンダフィレットが発生するのを確実に阻止し、
基体1の長さ方向Xの寸法をL、基体1の幅方向Yの寸法をW、基体1の厚み方向Zの寸法をT、外部電極の幅方向Yの寸法d4(<W)とすると、長さ方向の寸法L≦2.2mmの値に選定され、代表的には、C0603タイプ(L×W×T=0.6×0.3×0.2(mm))、C1005タイプ(L×W×T=1.0×0.5×0.4(mm))、C2012タイプ(L×W×T=2.0×1.2×1.0(mm))等がその典型的なディメンションである積層セラミックコンデンサ。」

イ.引用文献2について

原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献2には以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内部電極を備えたセラミックシートの複数枚を積層して成る積層セラミックコンデンサの構造に関するものである。」

(イ)「【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を、図1?図4の図面について説明する。この図において、符号11は、長さ寸法Lを幅寸法Wの約二倍の長方形に形成したセラミックシートを示し、このセラミックシート11の表面に、内部電極12を、当該内部電極12がセラミックシート11における四辺11a,11b,11c,11dのうち一つの長辺11aにまで延びるように形成し、このセラミックシート11の複数枚を、前記一つの長辺11aが交互に逆向きとなるように積層することにより、長さ寸法がLで、幅寸法がWで、高さ寸法がHのチップ体13に一体化したのち、このチップ体13における長手方向に沿って左右両側の両側面13a,13bの各々に、接続用の端子電極膜14,14を、前記各内部電極12に電気的に導通するように形成すると言う構成にする。
【0008】このように構成することにより、各内部電極12の相互間における重なり面積を、前記従来と同じにした状態のもとで、各内部電極12における一方の端子電極膜14から他方の端子電極膜15に向かう方向の長さが短くなり、ひいては、この各内部電極2における一方の端子電極膜4から他方の端子電極膜5に向かう方向に沿っての重なり長さが大幅に短くなるから、各内部電極12の相互間に発生するインダクタンス成分を小さくすることができるのである。」

したがって、引用文献2には、「内部電極を備えたセラミックシートの複数枚を積層して成る積層セラミックコンデンサにおいて、チップ体13における長手方向に沿って左右両側の両側面13a,13bの各々に、接続用の端子電極膜14,14を、前記各内部電極12に電気的に導通するように形成することでインダクタンス成分を小さくする」技術事項が記載されていると認められる。

ウ.引用文献3について

原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献3には、以下の事項が記載されている。ただし、下線は当審で付与したものである。

「【0007】
ESLがさらに低減された低ESL型の積層セラミックコンデンサとしては、たとえばLW逆転型の積層セラミックコンデンサが知られている。通常の積層セラミックコンデンサでは、外部端子電極が形成されているコンデンサ本体の端面におけるセラミック層の広がり方向の寸法(W寸法)は、コンデンサ本体の上記端面に隣接する側面におけるセラミック層の広がり方向の寸法(L寸法)より小さいが、LW逆転型の積層セラミックコンデンサでは、外部端子電極が形成されている端面におけるセラミック層の広がり方向寸法(W寸法)が、側面におけるセラミック層の広がり方向の寸法(L寸法)より大きくされている。このようなLW逆転型の積層セラミックコンデンサでは、コンデンサ本体内部の電流経路が広く短くなることにより、ESLが低減される。」

したがって、引用文献3には、「積層セラミックコンデンサにおいて、外部端子電極が形成されている端面におけるセラミック層の広がり方向寸法を、側面におけるセラミック層の広がり方向の寸法より大きくすることでESLを低減する」技術事項が記載されていると認められる。

(2)対比

本願発明と引用発明を対比する。

ア.引用発明の「内部電極30?39の間にある誘電体セラミック層」は、内部電極30?39の間にあるから、複数あるのは自明であり、本願発明の「複数の誘電体層」に相当する。

イ.引用発明の「厚み方向Zの両面15、16」、「長さ方向Xの両側面11、12」及び「幅方向Yの両側面13、14」が、各々本願発明の「対向する厚さ方向の第1及び第2主面」、「長さ方向の第1及び第2端面」及び「幅方向の第1及び第2側面」に相当する。

ウ.引用発明の「基体1」は、内部電極30?39と、内部電極30?39の間にある誘電体セラミック層によって構成され、長さ方向Xの両側面11、12と、幅方向Yの両側面13、14、厚み方向Zの両面15、16を有するものであるから、本願発明の「複数の誘電体層を含み、対向する厚さ方向の第1及び第2主面、長さ方向の第1及び第2端面、並びに幅方向の第1及び第2側面を有するセラミック本体」に相当する。

エ.引用発明の「内部電極30?39」は、間に誘電体セラミック層を有しており、長さ方向Xの一端が、長さ方向Xの両側面11、12に交互に導出されている。したがって、引用発明の「内部電極30?39」と本願発明の「第1及び第2内部電極」とは、「前記セラミック本体内で前記誘電体層を介して」対向面を通じて「交互に露出するように配置され」ている点で一致する。
ただし、露出するセラミック本体の対向面が、本願発明では幅方向の「第1及び第2側面」であるのに対し、引用発明ではその旨の特定がされていない。

オ.引用発明では、「外部電極21」が「内部電極31、33、35、37、39」に導通され、「外部電極22」が「内部電極30、32、34、36、38」に導通されているから、引用発明の「内部電極31、33、35、37、39」、「内部電極30、32、34、36、38」、「外部電極21」及び「外部電極22」が、各々本願発明の「第1内部電極」、「第2内部電極」、「第1外部電極」及び「第2外部電極」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記第1内部電極と電気的に連結された第1外部電極と、前記第2内部電極と電気的に連結された第2外部電極と」を含む点で一致する。
ただし、第1外部電極及び第2外部電極が、本願発明では、各々「前記セラミック本体の前記第1主面の幅方向における一部分、前記第2側面の厚さ方向全体、及び、前記第2主面の幅方向における一部分にわたって形成され」ているもの、及び「前記セラミック本体の前記第1主面の幅方向における前記一部分以外の他部分、前記第1側面の厚さ方向全体、及び、前記第2主面の幅方向における前記一部分以外の他部分にわたって形成され」ているものであるのに対して、引用発明においてはその旨特定されていない。

カ.引用発明の「基体1の厚み方向Zの寸法」(T)及び「外部電極の幅方向Yの寸法」(d4)が、各々本願発明の「前記セラミック本体の厚さ」(h(mm))及び「前記第1または第2外部電極の長さ」(B(mm))に相当する。
また、引用発明の「基体1の長さ方向Xの寸法」(L)及び「基体1の幅方向Yの寸法」(W)がそれぞれ、本願発明の「セラミック本体の長さ」(W(mm))及び「セラミック本体の幅」(L(mm))に相当する。
そして、本願発明のW/L(長さ/幅)は、引用発明においてL/W(長さ/幅)であるから、その値を算出すると2.0(C0603タイプ又はC1005タイプ)又は1.67(C2012タイプ)が代表的なものの値といえる。
したがって、引用発明と本願発明とは「前記セラミック本体の長さと幅の比率W/Lは、1.4≦W/L≦2.1の範囲を満たし」ている点で一致する。
ただし、本願発明は、前記セラミック本体の厚さ及び幅と前記第1または第2外部電極の関係B×h/Lは、0.84≦B×h/L≦1.27の範囲を満たすのに対し、引用発明においてはその旨特定されていない。

キ.第1及び第2外部電極の長さが、本願発明では「前記セラミック本体の長さ」(W)より短く形成され、「前記セラミック本体の長さ方向の前記第1及び第2端面、前記第1及び第2端面と前記第1主面との連結部、前記第1及び第2端面と前記第2主面との連結部、前記第1及び第2端面と前記第1側面との連結部、並びに、前記第1及び第2端面と前記第2側面との連結部は、前記第1及び第2外部電極によりカバーされない」のに対し、引用発明ではその旨の特定はなされていない。

そうすると、本願発明と引用発明とは、

「複数の誘電体層を含み、対向する厚さ方向の第1及び第2主面、長さ方向の第1及び第2端面、並びに幅方向の第1及び第2側面を有するセラミック本体と、
前記セラミック本体内で前記誘電体層を介して対向面を通じて交互に露出するように配置された複数の第1及び第2内部電極と、
前記第1内部電極と電気的に連結された第1外部電極と、前記第2内部電極と電気的に連結された第2外部電極と、を含み、
前記セラミック本体の長さをW(mm)、前記セラミック本体の幅をL(mm)、前記セラミック本体の厚さをh(mm)、前記第1または第2外部電極の長さをB(mm)と規定するとき、
前記セラミック本体の長さと幅の比率W/Lは、1.4≦W/L≦2.1の範囲を満たす
積層セラミックキャパシタ。」

である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
露出するセラミック本体の対向面が、本願発明では幅方向の「第1及び第2側面」であるのに対し、引用発明ではその旨の特定がされておらず、第1外部電極及び第2外部電極が、本願発明では、各々「前記セラミック本体の前記第1主面の幅方向における一部分、前記第2側面の厚さ方向全体、及び、前記第2主面の幅方向における一部分にわたって形成され」ているもの、及び「前記セラミック本体の前記第1主面の幅方向における前記一部分以外の他部分、前記第1側面の厚さ方向全体、及び、前記第2主面の幅方向における前記一部分以外の他部分にわたって形成され」ているものであるのに対して、引用発明においてはその旨特定されていない点。

[相違点2]
第1及び第2外部電極の長さが、本願発明では「前記セラミック本体の長さ」(W)より短く形成され、「前記セラミック本体の長さ方向の前記第1及び第2端面、前記第1及び第2端面と前記第1主面との連結部、前記第1及び第2端面と前記第2主面との連結部、前記第1及び第2端面と前記第1側面との連結部、並びに、前記第1及び第2端面と前記第2側面との連結部は、前記第1及び第2外部電極によりカバーされない」のに対し、引用発明ではその旨特定されていない点。

[相違点3]
本願発明は、「前記セラミック本体の厚さ及び幅と前記第1または第2外部電極の関係B×h/Lは、0.84≦B×h/L≦1.27の範囲を満た」すのに対し、引用発明においてはその旨特定されていない点。

(3)判断

ア.相違点1について

積層セラミックコンデンサにおいて、外部電極をセラミック本体の長手方向に沿った面に設けるようにすることでインダクタンス成分を抑えることは、例えば、上記「2.(1)イ.及びウ.」で摘示した引用文献2及び3に記載されているとおり、周知の技術事項である。
そして、引用発明においてもインダクタンス成分を抑えることが有用であるのは自明なことであるから、当該周知の技術事項を採用することで相違点1に係る構成とすることは当業者にとって容易になし得たことである。

イ.相違点2について

引用文献1の段落【0003】ないし【0007】、及び【0013】によれば、引用発明の「外部電極21は、幅方向Yの両側面13、14から間隔d11、d12を隔てて形成され、外部電極21と基体1の幅方向Yの両側面13、14との間に間隔d11、d12の基体表面が生じ、この間隔d11、d12の基体表面はハンダ付けされず、外部電極22は、幅方向Yの両側面13、14から間隔d21、d22を隔てて形成され、外部電極22と基体1の幅方向Yの両側面13、14との間に間隔d21、d22の基体表面が生じ、この間隔d21、d22の基体表面はハンダ付けされず、」「間隔d11、d12、d21及びd22は、10μm以上とすることで外部電極21、22と他の回路素子との間にハンダフィレットが発生するのを確実に阻止」する構成は、外部電極に付着したハンダが幅方向に拡がり、幅方向の両側面からはみ出さないようにするという課題を解決している。
そうすると、引用発明において上記周知の技術事項を採用することで相違点1に係る構成とするのに伴い、外部電極に付着したハンダが電極の幅方向(引用発明の基体1の長さ方向X)に拡がらないようにするために上記相違点2に係る構成とすることは当業者にとって容易になし得たことである。

ウ.相違点3について

引用発明は、間隔d11、d12、d21及びd22は10μm以上とすることで外部電極21、22と他の回路素子との間にハンダフィレットが発生するのを確実に阻止するものである。したがって、引用発明において上記周知の技術事項を採用することで上記相違点1及び2に係る構成とする際には、外部電極の長さd4を
d4≦0.58mm(=0.6mm-20μm:C0603タイプ)、
d4≦0.98mm(=1.0mm-20μm:C1005タイプ)、
d4≦1.98mm(=2.0mm-20μm:C2012タイプ)、
とするのが普通である。

そうすると、代表的なC2012タイプ(L×W×T=2.0×1.2×1.0(mm))を採用する場合、引用発明と周知の技術事項から導き出される発明において本願発明の「B×h/L」(引用発明のd4×T/W)を、
B×h/L≦1.65(=1.98×1.0/1.2)
とするのが当業者が選択すべき数値範囲となる。
また、C1005タイプを採用する場合、一般的に厚さT=0.5mmとすることが多い(例えば、特開2010-67707号公報の段落【0024】、特開2005-19921号公報の段落【0048】を参照)ことを考慮すると、
B×h/L≦0.98(=0.98×0.5/0.5)
とするのも当業者が選択すべき数値範囲となる。

以上のとおり、相違点3の構成とすることは、相違点1及び2の構成とすることに伴って容易になし得たことである。
なお、上記「1.(2)」及び「1.(3)」で検討したとおり、0.84≦B×h/L≦1.27の範囲に格別優位な技術的効果は認められない。

第5 むすび

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
さらに、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2及び3に記載された技術事項、並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-12-25 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-22 
出願番号 特願2017-113565(P2017-113565)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
P 1 8・ 537- Z (H01G)
P 1 8・ 536- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 五十嵐 努
石坂 博明
発明の名称 積層セラミックキャパシタ  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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