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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 発明同一  A61K
管理番号 1363172
異議申立番号 異議2019-700458  
総通号数 247 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-07-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-04 
確定日 2020-05-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6433400号発明「HMG-CoAレダクターゼ阻害薬を含有する医薬製剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6433400号の請求項1、3?8、14?17に係る特許を取り消す。 同請求項2、9?13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6433400号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2015-190529号)は、平成26年9月30日に出願された特願2014-201711号を優先基礎出願とする優先権主張を伴ってなされた、平成27年9月29日を出願日とする特許出願であり、平成30年11月16日に特許権の設定登録(請求項の数17)がされ、同年12月5日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和1年6月4日に、請求項1?17に係る特許に対し、特許異議申立人岡幹男(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
そして、令和1年8月27日付けで取消理由が通知され、同年10月7日に特許権者から意見書が提出された。
令和1年11月14日付けで取消理由(決定の予告)が通知されたが、特許権者からは指定期間内に応答はなかった。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?17に係る発明は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、請求項番号に対応して、それぞれ「本件発明1」等といい、本件発明1?17をまとめて「本件発明」ともいう。)

「【請求項1】
(A)ロスバスタチン又はその塩、(B)イソマルト、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、及びマンニトールからなる群から選択される1種以上の糖アルコール、及び(C)メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1種以上のセルロース誘導体を混合された状態で含み、実質的に結晶セルロースを含まないことを特徴とし、水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含むコーティング層を有する、圧縮成形された錠剤の形態である医薬製剤(デンプン類、クロスカルメロースナトリウム、微粉末シリカ、又はL-アルギニンを含む医薬製剤を除く)。
【請求項2】
(A)ロスバスタチン又はその塩、(B)イソマルト、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、及びマンニトールからなる群から選択される1種以上の糖アルコール、及び(C)メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1種以上のセルロース誘導体を混合された状態で含み、実質的に結晶セルロースを含まないことを特徴とし、含有成分の一部又は全部が湿式造粒法により造粒されている、医薬製剤(デンプン類、クロスカルメロースナトリウム、微粉末シリカ、又はL-アルギニンを含む医薬製剤を除く)。
【請求項3】
遮光条件下、40℃75%相対湿度下で、密栓条件及び開放条件のいずれにおいても、1箇月保存した後の最大の類縁物質生成率が1%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
遮光条件下、40℃75%相対湿度下で、密栓条件及び開放条件のいずれにおいても、1箇月保存した後の最大の類縁物質生成率が0.5%以下であることを特徴とする、請求項3に記載の医薬製剤。
【請求項5】
前記(A)ロスバスタチン又はその塩を医薬製剤全体に対して0.5?30質量%含むことを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記(B)糖アルコールを医薬製剤全体に対して30?95質量%含むことを特徴とする、請求項1?5のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項7】
前記(C)のセルロース誘導体を医薬製剤全体に対して1?50質量%含むことを特徴とする、請求項1?6のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項8】
前記(B)糖アルコールが、イソマルト、エリスリトール、及びマンニトールからなる群から選択される1種以上である、請求項1?7のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項9】
前記(C)のセルロース誘導体として、水溶性セルロース誘導体及び水不溶性セルロース誘導体をそれぞれ1種以上含む、請求項1?8のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項10】
前記水溶性セルロース誘導体を医薬製剤全体に対して0.5?30質量%含み、かつ前記水不溶性セルロース誘導体を医薬製剤全体に対して1?50質量%含むことを特徴とする、請求項9に記載の医薬製剤。
【請求項11】
前記(B)糖アルコールがマンニトール、前記(C)のセルロース誘導体がヒドロキシプロピルセルロース及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースである、請求項1?10のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項12】
含有成分の一部又は全部が湿式造粒法により造粒されている、請求項1又は3?11のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項13】
前記(A)ロスバスタチン又はその塩及び前記(B)糖アルコールが湿式造粒法により造粒されている、請求項2又は12に記載の医薬製剤。
【請求項14】
実質的にアルカリ化剤を含まないことを特徴とする、請求項1?13のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項15】
圧縮成形された錠剤の形態である、請求項2?14のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項16】
更に、水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含むコーティング層を有する、請求項15に記載の医薬製剤。
【請求項17】
前記水溶性セルロース誘導体がヒプロメロース及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1以上の成分であり、前記着色剤が、黄色三二酸化鉄、褐色三二酸化鉄、三二酸化鉄、酸化チタン、食用黄色4号、及び食用黄色5号からなる群から選択される1以上の成分である、請求項1又は16に記載の医薬製剤。」

第3 特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由の概要及び取消理由(決定の予告)の概要

1 特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由の概要
令和1年6月4日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、請求項1?17に係る特許に対して申立人が申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、請求項1?17に係る本件特許は、次の(1)?(5)のとおりの理由により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、証拠方法として、下記(6)に示す甲第1号証?甲第12号証を提出した。

(1)申立理由1-1(先願明細書に記載された発明:証拠は甲第1号証)
本件発明1、3?8、14、17は、本件特許の優先日前に出願された特許出願であって、本件特許の優先日後に公開された下記の甲第1号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、その出願の出願人又は発明者が、本件特許に係る出願の出願人又は発明者と同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。よって、請求項1、3?8、14、17に係る特許は、同法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由1-2(先願明細書に記載された発明:証拠は甲第9号証)
本件発明1、3?8、14、17についての特願2014-201711号に基づく優先権主張の効果は認められないから、本件発明1、3?8、14、17は、本件特許の出願日前に出願された特許出願であって、本件特許の出願日後に公開された下記の甲第9号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、その出願の出願人又は発明者が、本件特許に係る出願の出願人又は発明者と同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。よって、請求項1、3?8、14、17に係る特許は、同法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)申立理由2(明確性要件)
請求項1?17に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)申立理由3(サポート要件)
請求項1、3?12、14、17に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)申立理由4(実施可能要件)
請求項1、3?12、14、17に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(6)証拠方法
・甲第1号証:特開2016-65028号公報
・甲第2号証:クレストール(登録商標)錠2.5m及び5mgについての医薬品インタビューフォーム、2015年1月(改訂第13版)、1?7、43、44頁、表紙、目次
・甲第3号証:IF利用の手引きの概要、日本病院薬剤師会、2013年4月改訂(https://www.jshp.jp/if_anq/sanko1.pdf)
・甲第4号証:医薬品安全対策情報(DSU)No.236、日本製薬団体連合会、2015年1月発行(https://www.pmda.go.jp/files/000198362.pdf)、1、2、7頁
・甲第5号証:特許第4800988号公報
・甲第6号証:特表2012-508230号公報
・甲第7号証:特開2005-15477号公報
・甲第8号証:特願2014-201711号
・甲第9号証:特開2016-204352号公報
・甲第10号証:特願2014-128927号の審判請求書
・甲第11号証:特許第6461496号公報
・甲第12号証:医薬品製剤化方略と新技術 普及版、株式会社シーエムシー出版、2014年5月12日第1刷発行、26?28、30、45?48頁、表紙、目次、奥付、(写し)
(以下、各甲号証の数字を付して「甲1」等という。)

2 令和1年11月14日付けで通知された取消理由(決定の予告)の概要
<取消理由1(先願明細書に記載された発明)>
本件特許の請求項1、3?8、14?17に係る発明は、本件特許の優先日前に出願された特許出願であって、本件特許の優先日後に出願公開された先の出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、その出願人又は発明者が同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであって、上記の発明についての特許は、同法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
先の出願:特願2014-196100号
(以下、先の出願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲を、「先願明細書等」という。なお、出願日は平成26年9月26日である。また、申立人提出の甲1である特開2016-65028号公報は、上記先の出願に係る公開公報である。)

第4 取消理由1(決定の予告)についての当審の判断
当審合議体は、以下のとおり、取消理由1により、本件特許の請求項1、3?8、14?17に係る特許は取り消されるべきものと判断する。

1 本件特許に係る出願の優先権について
本件特許に係る出願は、特願2014-201711号を優先基礎出願とする優先権主張を伴ってなされた特許出願であるところ、申立人は、申立書において、請求項1及びこれを引用する請求項に係る発明(つまり、本件発明1、3?8、14、17)についての特願2014-201711号に基づく優先権主張の効果は認められないと主張している(申立書の47頁)ので、以下検討する。
なお、申立人は主張していないが、請求項15及び16は請求項1を引用する請求項3を引用しており、請求項1を引用する請求項に含まれるから、本件発明15?16についてもあわせて検討をする。

特願2014-201711号の明細書及び特許請求の範囲(甲8)(以下、「優先基礎明細書」という。)には、本件特許の請求項1に記載された「(A)ロスバスタチン又はその塩、(B)イソマルト、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、及びマンニトールからなる群から選択される1種以上の糖アルコール、及び(C)メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1種以上のセルロース誘導体を混合された状態で含み、実質的に結晶セルロースを含まないことを特徴とし、水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含むコーティング層を有する、圧縮成形された錠剤の形態である医薬製剤(デンプン類、クロスカルメロースナトリウム、微粉末シリカ、又はL-アルギニンを含む医薬製剤を除く)。」という技術的事項のうち、(A)?(C)成分を含有し、実質的に結晶セルロースを含まず、水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含むコーティング層を有する、圧縮成形された錠剤の形態である医薬製剤が、請求項1を引用する請求項5を引用する請求項6を引用する請求項7を引用する請求項13を引用する請求項14として記載されているし、【0013】の「本発明は、(A)HMG-CoAレダクターゼ阻害薬、(B)糖アルコール、(C)セルロース誘導体(結晶セルロースを除く)を含み、先行技術に見られるアルカリ化剤を実質的に含まなくても、HMG-CoAレダクターゼ阻害薬の安定性が維持されることを特徴とする新規な医薬製剤に関する。ここで、医薬製剤とは、各種成分を混合した医薬組成物、その一部又は全部が造粒されたもの、更に錠剤化されたものも含む。」との記載によれば、(A)?(C)成分が混合された状態で含まれる錠剤についても記載されているといえる。
そして、優先基礎明細書の【0039】?【0042】(試験例4)の【0040】の【表5】に、(A)?(C)成分を含有し、実質的に結晶セルロースを含まず、水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含むコーティング層を有する、圧縮成形された錠剤の形態である医薬製剤であって、(A)?(C)成分が混合された状態で含まれる錠剤の具体例に相当すると認められるフィルムコート錠の処方成分が記載されているところ、当該表5の記載によれば、試験例4のフィルムコート錠には、デンプン類、クロスカルメロースナトリウム、微粉末シリカ、又はL-アルギニンは含まれていない。
そうすると、優先基礎明細書には、(A)?(C)成分を含有し、実質的に結晶セルロースを含まず、水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含むコーティング層を有する、圧縮成形された錠剤の形態である医薬製剤であって、デンプン類、クロスカルメロースナトリウム、微粉末シリカ、又はL-アルギニンを含む医薬製剤を除くものについても実質的に記載されていたといえる。
すなわち、本件発明1については、優先基礎明細書に記載されていたといえる。
また、本件特許の請求項3?8、14?17で特定される事項は、いずれも、優先基礎明細書の特許請求の範囲あるいは【0014】に記載されていた事項であるから、請求項1を引用する本件発明3?8、14?17についても優先基礎明細書に記載されていたといえる。

申立人は、申立書において、「優先権主張の利益を享受するためには、優先権主張の対象である先の出願に係る出願書類全体から一つの完成した発明が把握される必要がある。また、本件特許発明は化学物質(医薬製剤)の発明であるが、化学物質につき優先権主張の利益を享受するためには、先の出願に係る出願書類において、その物質が所望の効果を有するものとして現実に製造できることが確認できることを要するものと解される。・・・現実に製造できることが確認されない限り、実施可能な発明として完成しているものと評価することはできないからである。
これを本件についてみると、本件特許の優先権主張の基礎とする甲第8号証・・・の記載からは、特定の糖アルコールおよび特定の結合剤(水溶性セルロース誘導体)を用いてロスバスタチン又はその塩(成分(A))の湿式造粒を行なう以外の製造方法で、どのようにして所望の成分(A)の保存安定性を有するコーティング錠を製造することができるのか理解することができないし、それが可能となる合理的理由も見出すことはできない。
よって、本件発明1は、優先日において実施可能な発明として完成しているものと評価することはできない。」として、本件発明1は、甲8による優先権主張の利益を享受することはできない旨主張する(47頁)。

申立人の上記主張について検討する。
まず、本件発明1の「圧縮成形された錠剤の形態である医薬製剤」という物の発明においては、その物(つまり、医薬製剤)を製造でき、使用(つまり、医薬として使用)できれば実施可能な発明として完成しているといえる。
そして、本件発明1で特定される(A)?(C)成分はいずれも、医薬製剤の製造に用いられる周知の薬効成分あるいは添加剤成分であって、これらが入手可能であることは明らかである。そして、圧縮成形された錠剤の形態の医薬製剤を、各種原料成分から製造する技術はそれ自体本件特許の優先日前の技術常識に属するものである(例えば甲12の第2章の項目2.3(45-47頁)には、そのような製造法として湿式あるいは乾式の顆粒打錠剤法や直接打錠法が記載され、結合剤等の添加剤を適宜使用することも記載されている。)さらに、本件特許の優先日前に、薬効成分がロスバスタチン又はその塩((A)成分)の場合には、特定の糖アルコール(マンニトール)および特定の結合剤(水溶性セルロース誘導体)を用いて湿式造粒を行なう以外の製造方法では、本件発明1で特定されるような圧縮成形された錠剤は製造できないという本件特許の優先日前の技術常識があったとは認められない。
むしろ、甲5の【0017】?【0020】、【0031】、【0039】等の記載や、甲7の【0013】、【0018】の記載によれば、薬効成分が(A)成分の場合であっても、適宜他の結合剤を使用して圧縮成形錠剤を製造できるし、また、乾式法によっても圧縮成形錠剤を製造できると当業者は認識していたといえる。
また、ロスバスタチンカルシウムを薬効成分として含有するフィルムコーティング錠が2005年から製造販売されているとおり(甲2の1頁)、(A)成分を含有する錠剤が医薬として使用可能であることは当業者に明らかである。
したがって、本件発明1の「圧縮成形された錠剤の形態である医薬製剤」は、本件特許の優先日前の技術常識を踏まえるに、優先基礎明細書に実施可能な発明として開示されていたといえる。本件発明3?8、14?17についても同様である。

よって、申立人の上記主張は採用できない。

(なお、申立人は主張していないが、請求項2に係る発明及び、請求項2を引用する本件発明3?17についても優先基礎明細書の上記の段落に記載されていたといえるし、優先基礎明細書に実施可能に記載されていたといえるから、これらの発明についての優先権主張の効果も認められる。)

2 先願明細書等に記載された発明について
上記のとおり、優先権主張の効果は認められるから、本件発明1、3?8、14?17の取消理由1についての判断の基準時は、本件の優先日(平成26年9月30日)である。

(1)先願明細書等の記載
先願明細書等には、以下の記載がある。(下線は、合議体が付した。)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロスバスタチンまたはその塩と、塩基性アミノ酸と、を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記塩基性アミノ酸が、アルギニン、ヒスチジンまたはトリプトファンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ロスバスタチンまたはその塩の含有量が、前記塩基性アミノ酸に対して5?200重量%である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物が錠剤である、請求項1?3のいずれか一項に記載の医薬組成物。」

・発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段に関し、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、いずれの特許文献においても、製剤中のロスバスタチンの類縁物質の発生を抑制するためには、更なる改良が必要であった。本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ロスバスタチンの類縁物質の発生を抑制した医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討し、類縁物質を抑制し安定性が向上したロスバスタチンまたはその塩の医薬組成物の安定化剤として、塩基性アミノ酸が有用であることを見出した。
本発明の医薬組成物は、ロスバスタチンまたはその塩と、塩基性アミノ酸と、を含むことを特徴とする。」

・特許請求の範囲に記載の医薬組成物に関し、以下の記載がある。

「【0013】
本医薬組成物は、ロスバスタチンまたはその塩と、塩基性アミノ酸とを含有し、医薬品製造に一般的に用いられる他の添加剤を含むことができる。
【0014】
ロスバスタチンカルシウム(モノカルシウム ビス((3R,5S,6E)-7-{4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-[メタンスルホニル(メチル)アミノ]ピリミジン-5-イル}-3,5-ジヒドロキシヘプト-6-エノエート))は、HMG-CoAレダクターゼ阻害薬であり、高コレステロール血症または家族性高コレステロール血症の治療薬として使用されている。・・・
【0016】
(ロスバスタチンカルシウムの含有量について)
医薬組成物の全重量に対するロスバスタチンカルシウムの含有量は、2重量%以上20重量%以下であることが好ましく、・・・。
【0017】
(塩基性アミノ酸;安定化剤について)
本発明の医薬組成物は、塩基性アミノ酸を含有することが好ましい。塩基性アミノ酸は安定化剤として作用し、ロスバスタチンカルシウムからの類縁物質の生成を抑制し得る。・・・。
【0018】
塩基性アミノ酸としては、特に限定されるものではないが、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、リシン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、オキシプロリン等を用いることができ、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファンを用いることが好ましく、・・・。
・・・
【0020】
表1は、ロスバスタチンカルシウムのみ、ロスバスタチンカルシウムとアルギニンとの混合物、ロスバスタチンカルシウムとヒスチジンとの混合物において、ロスバスタチンカルシウムの類縁物質の生成量と時間との関係を示す。各サンプルをガラス瓶に入れてプラスチックの蓋で密栓し、55℃、75%RH条件下で1週間、2週間又は1ヶ月間保存した後、下記測定方法を用いてロスバスタチンカルシウムの類縁物質の量を測定した。表1に示すように、アルギニンやヒスチジンなどの塩基性アミノ酸は、ロスバスタチンカルシウムの類縁物質の生成を抑制していることがわかった。
【0021】
【表1】

【0027】
(その他の成分)
本発明の医薬組成物は、通常、医薬組成物に用いることができるその他の成分を目的に応じて特に制限はなく適宜選択することができ、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤などが挙げられる。
【0028】
(賦形剤)
また、本発明の医薬組成物は、本発明の効果に影響を与えない範囲であれば、製剤分野において通常使用される賦形剤を添加することもできる。・・・
【0029】
表3は、ロスバスタチンカルシウムのみ、ロスバスタチンカルシウムとD-マンニトールとの混合物(質量比率1:20)、ロスバスタチンカルシウムと乳糖水和物との混合物(質量比率1:20)を、各々ガラス瓶に入れて、プラスチックの蓋で密栓し、55℃、75%RH条件下で1週間、2週間又は1ヶ月間保存した後、ロスバスタチンカルシウムの類縁物質を測定した結果を示す。この測定方法は、上記表1に示した組成物の類縁物質の測定方法と同様である。
【0030】
表3に示すように、ロスバスタチンカルシウムの類縁物質を抑制するという観点から、賦形剤としてD-マンニトールを用いることが好ましいことがわかる。さらに、同様の観点から、乳糖水和物を用いないか、またはその含有量が低いことが好ましいことがわかる。
【表3】

【0031】
(賦形剤の含有量)
賦形剤の含有量は、医薬組成物の全重量に対して20重量%以上80重量%以下であることが好ましく、30重量%以上75重量%以下であることがさらに好ましい。また、賦形剤としてD-マンニトールを用いる場合は、D-マンニトールの含有量は、医薬組成物の全重量に対して30重量%以上75重量%以下であることが好ましく、・・・。
【0032】
(崩壊剤)
また、本発明の医薬組成物は、本発明の効果に影響を与えない範囲であれば、製剤分野において通常使用される崩壊剤を添加することもできる。・・・
【0033】
表4は、ロスバスタチンカルシウムのみ、ロスバスタチンカルシウムと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとの混合物(質量比率1:10)、ロスバスタチンカルシウムと結晶セルロースとの混合物(質量比率1:10)、およびロスバスタチンカルシウムとクロスポピドンとの混合物(質量比率1:10)を、各々ガラス瓶に入れて、プラスチックの蓋で密栓し、55℃、75%RH条件下で1週間、2週間又は1ヶ月間保存した後、ロスバスタチンカルシウムの類縁物質を測定した結果を示す。この測定方法は、上記表1に示した組成物の類縁物質の測定方法と同様である。
【0034】
表4に示すように、ロスバスタチンカルシウムの類縁物質を抑制するという観点から、崩壊剤として低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとクロスポピドンとを用いることが好ましいことが分かる。さらに、同様の観点から、結晶セルロースを用いないか、その含有量を少なくすることが好ましいことが分かる。
【表4】

【0035】
崩壊剤の含有量は、医薬組成物の全重量に対して2量量%以上40重量%以下であることが好ましく、・・・。
また、崩壊剤として低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを用いる場合は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの含有量は、医薬組成物の全重量に対して、10重量%以上30重量%以下であることが好ましく、・・・。
また、崩壊剤としてクロスポピドンを用いる場合は、クロスポピドンの含有量は、医薬組成物の全重量に対して、2重量%以上10重量%以下であることが好ましく、・・・。
【0036】
(滑沢剤)
また、本発明の医薬組成物は、本発明の効果に影響を与えない範囲であれば、製剤分野において通常使用される滑沢剤を添加することもできる。滑沢剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸カルシウム、タルク、カルナウバロウ、水素化植物油、鉱油、ポリエチレングリコール、ステアリルフマル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0037】
滑沢剤は、錠剤を作成するときの臼や杵に付着する粉を防止させる目的で配合されるが、滑沢効果が強すぎると、成形性が弱くなり、実用的な錠剤硬度を得るのに必要以上な圧力をかけなければならない。高い圧力で作製された錠剤は、錠剤の崩壊速度が遅延する傾向にあることから、できるだけ低い圧力で作製する必要がある。その点から、少量でも滑沢効果を得ることができるステアリン酸マグネシウムを用いることが好ましい。医薬組成物における滑沢剤の含有量は、約0.2-約3質量%の範囲でありうる。
【0038】
(医薬組成物の剤形について)
本医薬組成物は、固形、半固形、液状、いずれの状態の製剤でもよい。より具体的には、・・・等の経口投与剤であってもよいが、錠剤であるが好ましい。
【0039】
本医薬組成物が錠剤である場合、錠剤はフィルムコート錠であってもよい。フィルムコーティング基剤としては、例えば、水溶性フィルムコーティング基剤等を挙げることができる。水溶性フィルムコーティング基剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース若しくはカルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタクリレートコポリマー若しくはポリビニルピロリドンのような合成高分子;又はプルランのような多糖類等を挙げることができる。
【0040】
上記コーティング基剤は、その2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。また、さらに必要に応じて着色剤、可塑剤等を含むことができる。
【0041】
着色剤としては、例えば、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、酸化チタン、酸化鉄又は黄色5号アルミニウムレーキタルク等を挙げることができる。
【0042】
可塑剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン及びソルビトール、グリセリントリアセテート、ラウリル酸、ショ糖、デキストロース、ソルビトール、トリアセチン、アセチルトリエチルチトレート等を挙げることができる。」

・特許請求の範囲に記載の医薬組成物の製造方法に関し、以下の記載がある。

「【0045】
(医薬組成物の製造方法)
本医薬組成物の製造方法は、発明の効果を阻害しない限り特に制限されない。以下において、錠剤からなる医薬組成物の製造例を示す。錠剤は、直接打錠法で製造されることができ、第一混合工程、第二混合工程、打錠工程を含み得る。「直接打錠法」とは、原料粉末を直接圧縮成形することにより製剤化する方法である。
【0046】
ロスバスタチンカルシウムは水分に対して不安定であるため、水を用いない直接打錠法を用いることにより、ロスバスタチンカルシウムの類縁物質を抑制させることができ、安定性をより向上させることができる。 ・・・
【0047】
<第一混合工程>
第一混合工程は、ロスバスタチンカルシウムと安定化剤と賦形剤と崩壊剤とを混合して粉末混合物を得る工程である。混合の方法としては、ロスバスタチンカルシウムと安定化剤と賦形剤と崩壊剤とが混合される限り、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、タンブラー型混合機などが挙げられる。
【0048】
<第二混合工程>
第二混合工程は、第一混合工程で得られた粉末混合物に、滑沢剤を添加して混合して混合粉末を得る工程である。混合の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、タンブラー型混合機などが挙げられる。
【0049】
<打錠工程>
打錠工程は、第二混合工程で得られた混合粉末を充填して圧縮成形して医薬組成物を作製する工程である。打錠の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、ロータリー打錠機、油圧プレス機、単発打錠機などが挙げられる。」

・特許請求の範囲に記載の医薬組成物の具体例及び比較例として、以下の記載がある。

「【0054】
(実施例1)
表5に示す通り、ロスバスタチンカルシウム5.20mgとL-アルギニン3.00mgと低置換度ヒドロキシプロピルセルロース30.00mgとD-マンニトール102.50mgとクロスポピドン7.50mgとをタンブラー型混合機(昭和化学機械工作所社製)に入れ、10分混合した。その後、ステアリン酸マグネシウム1.80mgをタンブラー型混合機(昭和化学機械工作所製)に入れ、2分混合し、均質な粉末混合物を得た。
上記記載した方法によりpH値を測定したところ、pH9.82であった。
【0055】
次いで、得られた粉末混合物を表1に示した処方にて、・・・打錠し、圧縮成形して、直径約7mm、厚さ約3.6mm、1錠あたりの重量150.00mgの錠剤(素錠)を直接打錠法にて作製した。
【0056】
(実施例2)
表5に示す通り、L-アルギニン11.5mg、D-マンニトール94.0mgの添加量を変えた以外は、実施例1と同様にして錠剤を作製した。
【0057】
(実施例3)
表5に示す通り、L-アルギニン22.5mg、D-マンニトール83.0mgの添加量を変えた以外は、実施例1と同様にして錠剤を作製した。
【0058】
(実施例4)
表5に示す通り、L-アルギニン50.0mg、D-マンニトール55.5mgの添加量を変えた以外は、実施例1と同様にして錠剤を作製した。
【0059】
(実施例5;フィルムコート錠)
表5に示す通り、実施例5の錠剤は、実施例1の錠剤(素錠)にフィルムコートを有する点で実施例1とは異なる。
なお、実施例5の錠剤は、表5に示す通り、実施例1の組成に加え、フィルムコート成分として、ヒプロメロース、濃グリセリン、酸化チタン、黄色三二酸化鉄をさらに含む。
【0060】
(比較例1;L-アルギニンの添加なし)
表5に示す通り、実施例1の錠剤でL-アルギニンを添加せず、D-マンニトールを105.50mg添加した以外は、実施例1と同様にして錠剤を作製した。
【0061】
(比較例2;第三リン酸カルシウム)
表5に示す通り、実施例1の錠剤でL-アルギニン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、D-マンニトールを添加せず、その代わりに第三リン酸カルシウムを11.50mg、結晶セルロース30.0mg、乳糖水和物94.0mgを添加した以外は、実施例1と同様にして錠剤を作製した。
【0062】
(比較例3;クレストール(登録商標)錠)
比較例3のロスバスタチンカルシウムを含有する錠剤は、ロスバスタチンカルシウムを主薬とする先発製剤である市販の「クレストール(登録商標)錠5mg」(アストラゼネカ株式会社製)である。「クレストール(登録商標)錠5mg」は、素錠の成分組成が異なることに加え、フィルムコートを有する錠剤である点で実施例1?4と比較例1及び2とは異なる。なお、比較例3の錠剤は、表5に示す通り、比較例2の組成に加え、フィルムコート成分として、ヒプロメロース、トリアセチン、酸化チタン、三二酸化鉄をさらに含む。
【0063】
【表5】

【0064】
<評価>
各実施例及び比較例で作製した錠剤の安定性を、以下のように評価した。
作製した錠剤をポリエチレン瓶に入れてポリプロピレンキャップで密栓したもの(シリカゲル封入)を、55℃、75%RH条件下で2週間又は1ヶ月間保存した後、下記測定方法を用いてロスバスタチンカルシウムの類縁物質の総量の増加率を測定した。結果を表6に示す。
なお、類縁物質の総量の増加率は、(55℃、75%RH条件下で2週間又は1ヶ月間保存した後の類縁物質の総量)-(開始時の類縁物質の総量)で算出される。
【0065】
【表6】

・・・
【0071】
表6の結果から、L-アルギニンを含有している実施例1?5の錠剤は、L-アルギニンを含有していない比較例1、L-アルギニンの代わりに第三リン酸カルシウムを含有している比較例2、及び「クレストール(登録商標)錠5mg」である比較例3のフィルムコート錠よりも、55℃、75%RH条件下で1ヶ月間保存後においても、類縁物質の総量の増加率が0.10%未満にまで減少されており、安定性に優れていることが分かった。」

なお、上記において、【0055】に記載された「表1」は、「表5」の誤記と認める。

(2)先願明細書等に記載された発明
ア 上記(1)の先願明細書等の記載によれば、先願明細書等の特許請求の範囲には、「ロスバスタチンまたはその塩と、アルギニン、ヒスチジンまたはトリプトファンである塩基性アミノ酸と、を含む錠剤であって、ロスバスタチンまたはその塩の含有量が、前記塩基性アミノ酸に対して5?200重量%である医薬組成物」が記載されているところ、当該特許請求の範囲に記載の医薬組成物は、ロスバスタチンの類縁物質の発生を抑制した医薬組成物を提供することを目的としてなされたものであり(【0007】)、この目的を、ロスバスタチンまたはその塩の医薬組成物に、安定化剤として塩基性アミノ酸を含有することで達成したものである(【0008】)。
そして、先願明細書等には、上記医薬組成物に含まれる「ロスバスタチンまたはその塩」として、「ロスバスタチンカルシウム」である場合の態様がもっぱら論じられているし、先願明細書等の【0021】の【表1】には、塩基性アミノ酸であるアルギニンやヒスチジンが、ロスバスタチンカルシウムの類縁物質の生成を抑制することを確認した試験結果が記載されている。

また、上記(1)の先願明細書等の記載によれば、先願明細書等には、特許請求の範囲に記載の医薬組成物の好適な態様に関し、以下のことが記載されているといえる。
・医薬組成物は、通常、医薬組成物に用いることができる賦形剤、崩壊剤、滑沢剤を使用して製造されること(【0027】)、及び、錠剤である医薬組成物は、ロスバスタチンカルシウムと安定化剤と賦形剤と崩壊剤とを混合して粉末混合物を得る第一混合工程、第一混合工程で得られた粉末混合物に、滑沢剤を添加して混合して混合粉末を得る第二混合工程、第二混合工程で得られた混合粉末を充填して圧縮成形して医薬組成物を作製する打錠工程を経て製造されること(【0045】?【0049】)
・医薬組成物が錠剤である場合、錠剤はフィルムコート錠であってもよいこと(【0039】)
・ロスバスタチンカルシウムの含有量は、医薬組成物の全重量に対して2重量%以上20重量%以下であることが好ましいこと(【0016】)
・ロスバスタチンカルシウムの類縁物質を抑制するという観点から、賦形剤としてD-マンニトールを用いることが好ましく(【0030】)、D-マンニトールの含有量は、医薬組成物の全重量に対して30重量%以上75重量%以下であることが好ましいこと(【0031】)
・ロスバスタチンカルシウムの類縁物質を抑制するという観点から、崩壊剤として低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとクロスポピドンとを用い、結晶セルロースを用いないか、その含有量を少なくすることが好ましいこと(【0034】)、崩壊剤として低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを用いる場合は、その含有量は、医薬組成物の全重量に対して、10重量%以上30重量%以下が好ましく、クロスポピドンの含有量は、医薬組成物の全重量に対して、2重量%以上10重量%以下であることが好ましいこと(【0035】)、及び、医薬組成物における滑沢剤の含有量は、約0.2-約3質量%の範囲でありうること
(【0037】)

さらに、特許請求の範囲に記載の医薬組成物の具体例として、実施例5には、ロスバスタチンカルシウム、L-アルギニン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、D-マンニトール、クロスポピドン、ステアリン酸マグネシウムからなり、結晶セルロースを用いない素錠に、ヒプロメロース、トリアセチン、酸化チタン及び三二酸化鉄からなるフィルムコート成分をフィルムコートとしたフィルムコート錠が記載されている。

そうすると、先願明細書等には、特許請求の範囲に記載の医薬組成物の好適な態様として、以下の発明が記載されているといえる。

「ロスバスタチンカルシウムと、アルギニン、ヒスチジンまたはトリプトファンである塩基性アミノ酸と、を含む、ロスバスタチンカルシウムの含有量が、前記塩基性アミノ酸に対して5-200重量%である医薬組成物であって、
(i)医薬組成物の全体量に対し、
ロスバスタチンカルシウムの含有量が2重量%以上20重量%以下、
賦形剤であるD-マンニトールが30重量%以上75重量%以下、
崩壊剤である、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが10重量%以上30重量%以下とクロスポピドンが2重量%以上10重量%以下、
滑沢剤が0.2-3質量%の組成物からなり、
(ii)結晶セルロースを含まず、
(iii)ロスバスタチンカルシウムと安定化剤と賦形剤と崩壊剤とを混合して粉末混合物を得る第一混合工程、第一混合工程で得られた粉末混合物に、滑沢剤を添加して混合して混合粉末を得る第二混合工程、第二混合工程で得られた混合粉末を充填して圧縮成形して医薬組成物を作製する打錠工程を経て製造される、
フィルムコート錠である医薬組成物。」(以下、「先願発明1」という。)

イ さらに、先願明細書等の比較例1の錠剤の作製についての記載(【0060】)、【0060】で引用される実施例1の錠剤の作製についての記載(【0054】?【0055】)、及び、比較例1の錠剤の組成についての記載(【0063】の【表5】)によれば、先願明細書等には、比較例1の錠剤として、以下の発明も記載されていると認められる。

「ロスバスタチンカルシウム5.2mg、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース30mg、D-マンニトール105.5mg、クロスポピドン7.5mgを混合後、ステアリン酸マグネシウム1.8mgを入れ混合し、均質な粉末混合物とし、これを直接打錠法により圧縮成形して製造された、直径約7mm、厚さ約3.6mm、1錠あたりの重量150.0mgの素錠。」(以下、「先願発明2」という。)

3 先願発明1に基づく取消理由1について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と、先願発明1を対比する。
(ア) 先願発明1の「ロスバスタチンカルシウム」は、本件発明1の「(A)ロスバスタチン又はその塩」に相当し、先願発明1の「D-マンニトール」は、本件発明1の「(B)イソマルト、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、及びマンニトールからなる群から選択される1種以上の糖アルコール」が、「マンニトール」である場合に相当し、先願発明1の「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」は、本件発明1の「(C)メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1種以上のセルロース誘導体」が、「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」である場合に相当する。
(イ) 先願発明1のフィルムコート錠は、「(iii) ロスバスタチンカルシウムと安定化剤(合議体注:先願明細書等の【0017】の記載から明らかなとおり、安定化剤とは、塩基性アミノ酸のことである。)と賦形剤と崩壊剤とを混合して粉末混合物を得る第一混合工程、第一混合工程で得られた粉末混合物に、滑沢剤を添加して混合して混合粉末を得る第二混合工程、第二混合工程で得られた混合粉末を充填して圧縮成形して医薬組成物を作製する打錠工程を経て製造される」ものであるから、これは、本件発明1の「(A)・・・、(B)・・・、及び(C)・・・を混合された状態で含み」を満足する。
(ウ) 先願発明1のフィルムコート錠は、結晶セルロース、デンプン類、クロスカルメロースナトリウム、微粉末シリカを含んでいない。
(エ) 先願発明1のフィルムコート錠は、塩基性アミノ酸として、アルギニン、ヒスチジンまたはトリプトファンのいずれかを含むものであるところ、塩基性アミノ酸がヒスチジンまたはトリプトファンである態様の発明である限りにおいて、先願発明1は、「L-アルギニンを含む医薬製剤を除く」医薬製剤であるとする本件発明1の条件を満たす。

そして、フィルムコート錠は、コーティング層を有する医薬製剤であるから、本件発明1と先願発明1は、以下の点で一致し、以下の点で一応相違する。
<一致点>
(A)ロスバスタチン又はその塩、(B)イソマルト、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、及びマンニトールからなる群から選択される1種以上の糖アルコール、及び(C)メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1種以上のセルロース誘導体を混合された状態で含み、実質的に結晶セルロースを含まないことを特徴とし、コーティング層を有する、圧縮成形された錠剤の形態である医薬製剤(デンプン類、クロスカルメロースナトリウム、微粉末シリカ、又はL-アルギニンを含む医薬製剤を除く)。

<相違点1>
コーティング層について、本件発明1では、「水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含む」と特定されているのに対して、先願発明1ではかかる特定がなされていない点。

イ 相違点1についての判断
相違点1について検討する。
(ア) 特許法第29条の2における「発明」と「同一であるとき」の判断に当たっては、後願に係る発明が、先願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明とは異なる新しい技術に係るものであるかという見地から判断されるべきである。そして、明細書は、当該発明に関する全ての技術を網羅してこれを説明しているものではなく、出願当時の当業者の技術常識を前提とした上で作成されるのが通常であるから、上記の「同一であるとき」の判断に当たって、当業者の有する技術常識を証拠により認定し、これを参酌することができるというべきである。そして、先願発明と後願発明の間に形式的な差異があっても、その差が、設計上の微差であるなど、後願の発明が先願の発明とは異なる新しい技術に係るものということができない場合には、特許法第29条の2の「同一であるとき」の要件を充足すると認められるのであって、その判断に当たっては、発明の効果も考慮することができるものと考えられる(平成29年(行ケ)第10167号判決)。

(イ) ロスバスタチン又はその塩を含有する錠剤において、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのような「水溶性セルロース誘導体」及び酸化チタンや酸化第二鉄等の「着色剤」を含むコーティング層を設けることは、本件特許の優先日前に周知の技術(技術常識ともいえる。)であった(必要なら、甲5の請求項1及び24の記載、甲7の【0010】及び【0018】の記載を参照。また、甲2に示されるとおり本件特許の優先日前から市販されているロスバスタチン含有フィルムコート錠であるクレストール(登録商標)錠5mgについて、先願明細書等の【0062】に比較例3として記載され、同段落に、フィルムコート成分にヒプロメロース(合議体注:これは、「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」と同義である。)や酸化チタン、三二酸化鉄が含まれることが記載されていることからも理解できる。

(ウ) そして、上記(イ)で指摘した本件特許の優先日前の周知技術を踏まえれば、先願発明1において、フィルムコート層として、ヒプロメロースのような「水溶性セルロース誘導体」及び酸化チタンや酸化第二鉄等の「着色剤」を含むコーティング層を採用して、「水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含む」という、相違点1に係る構成を備えた本件発明1は、先願発明1に本件特許の優先日前の周知技術を適用した発明にすぎないものといえる。そして、かかる発明が、先願発明1及び周知技術からは想定できない新たな効果を奏するものとはいえないものである場合には、そのような発明は、先願発明1とは異なる新しい技術に係るものであるということはできず、上記相違点1は単に設計上の微差に過ぎないものであって、本件発明1は先願発明1と実質的に同一であるといえるので、以下に検討する。

本件発明1等の効果に関し、本件特許明細書の【0013】には、「本発明の医薬製剤は、HMG-CoAレダクターゼ阻害薬の安定性が長期にわたり良好な医薬品として有用である。」と記載され、医薬製剤の安定性試験に関し、【0036】には、「試験例3<錠剤の安定性検討>」として、「サンプルを製造(1錠あたりの各成分含有量を表3に示す)し、それぞれ30錠を遮光ガラス瓶に入れたものを2本ずつ準備し、1本を40℃75%相対湿度条件下にて密栓して1箇月保存、もう1本を同条件下にて開放して1箇月保存した。開始時及び1箇月保存後のロスバスタチンカルシウムの類縁物質生成率を、HPLCを用いて測定した。類縁物質生成率は、ロスバスタチン及びその類縁物質由来の総ピーク面積に対する面積百分率(%)として算出した。算出した各類縁物質生成率のうち最も高いものを最大の類縁物質生成率(%)として評価した。」と記載されている。以下、「40℃75%相対湿度条件下にて密栓して1箇月保存」の条件を「遮光密栓条件」、「同条件下にて開放して1箇月保存」という条件を「遮光開放条件」という。
また、本件特許明細書の【0041】には、「試験例4<フィルムコート錠の安定性検討>」として、「30錠を25℃2000lux/時間条件下にて密栓して25日間保存し、累計120万luxの光を照射した。開始時、40℃75%相対湿度1箇月保存後、及び25℃2000lux/時間25日保存後のロスバスタチンカルシウムの類縁物質生成率を、HPLCを用いて測定した。類縁物質生成率は、ロスバスタチン及びその類縁物質由来の総ピーク面積に対する面積百分率(%)として算出した。算出した各類縁物質生成率のうち最も高いものを最大の類縁物質生成率(%)として評価した。」と記載されている。以下、「25℃2000lux/時間条件下にて密栓して25日間保存し、累計120万luxの光を照射」の条件を「密栓曝光条件」という。

そして、本件特許明細書の【0015】には、「本発明においては、前記医薬製剤(合議体注;これは、【0014】によれば、好ましくは、錠剤の形態)を遮光条件下で、40℃75%相対湿度下に1箇月保存した後の最大の類縁物質生成率は1%以下であり、好ましくは0.5%以下である。また、同温開放下においても、1箇月保存した後の最大の類縁物質生成率は1%以下であることが好ましく、更に好ましくは0.5%以下である。本発明においては、錠剤の形態の医薬製剤を更にフィルムコート錠とすることにより、光に対する安定性を付与することができる。光に対する安定性は、120万luxの光照射後の最大の類縁物質生成率が1%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5%以下である。」と記載されており、本件発明1等の医薬製剤が、「遮光密栓条件」、「遮光開放条件」及び「密栓曝光条件」で安定であることが言及されている。

さらに、本件特許明細書の【0041】?【0045】の「試験例4<フィルムコート錠の安定性検討>」の記載、特に、【0042】の以下の【表5】の錠剤についての【0045】の以下の【表6】の記載から、実施例6の錠剤を、水溶性セルロース誘導体であるヒプロメロースと酸化チタン等の着色剤を含むコーティング液でコートした実施例7?9のフィルムコート錠は、遮光開放条件においては、最大類縁物質生成率が0.5%を下回り、実施例6のフィルムコートなしの錠剤と同様に安定であった一方で、密栓曝光条件では、実施例6の錠剤が、最大類縁物質生成率は9.39%と安定性が劣る結果となったのに対し、実施例7?9のフィルムコート錠は、最大の類縁物質生成率が0.5%を下回り、密栓曝光条件での安定性に優れることが理解できる。

「【表5】


「【表6】


一方、先願明細書等の【0063】の【表5】、【0065】の【表6】(上記2.(1)参照)には、実施例1の素錠に水溶性セルロース誘導体であるヒプロメロースと三二酸化第二鉄等の着色剤を含むコーティング層をコートした実施例5のフィルムコート錠を、ポリエチレン瓶に入れてポリプロピレンキャップで密栓したもの(シリカゲル封入)を、55℃(これは、本件特許明細書の【0036】の評価条件である40℃よりも過酷な条件である。)、75%RH条件下で1ヶ月間保存したところ、類縁物質の総量の増加率が0.07%であり、遮光密栓条件で安定であったことが示されているし、【0071】には、素錠及びフィルムコート錠の両者を含む実施例1?5について、「安定性に優れている」と記載されている。
そして、先願発明1の錠剤を、この条件より緩和な40℃の温度で75%RH条件下で1ヶ月間保存した場合の類縁物質生成率は、これと同等かそれより小さくなる蓋然性が高い。
そうすると、先願発明1のフィルムコート錠を水溶性セルロース誘導体であるヒプロメロースと三二酸化第二鉄等の着色剤を含むコーティング層を有するフィルムコート錠としたものが、「遮光密栓条件」で安定性に優れることは、先願明細書の記載から当業者が認識する程度の効果に過ぎないことが理解できる。

次に、密栓曝光条件での安定性について検討すると、先願明細書等には、密栓曝光条件での安定性については記載されていないが、甲5には、酸化第二鉄がロスバスタチンの光分解生成物の形成速度を低下させることが(【0032】)、また、甲6には、二酸化チタンが産物を光から部分的に保護することが(【0021】)記載されており、二酸化チタンや酸化第二鉄等の着色剤を含む周知のコーティング層を有する錠剤とすることで、光による分解をより抑制できることは、従来から知られていたことである。
また、市販のロスバスタチンカルシウム含有フイルムコーティング錠であるクレストール(登録商標)錠のインタビューフォームである甲2の4頁には、有効成分(ロスバスタチンカルシウム)の安定性に関し、以下の記載があるし、また、製剤の安定性に関し、6頁に以下の記載がある。

「3.有効成分の各種条件下における安定性

」(甲2の4頁)
「3.製剤の各種条件下における安定性

」(甲2の6頁)

そして、上記のとおり、甲2には、有効成分(ロスバスタチンカルシウム)の安定性に関しては、「25℃(湿度の制御なし)」の条件で120万lx・h及び200W・h/m^(2)の光を照射した苛酷試験において、紫外線光透過蓋付シャーレ(合議体注:「密栓曝光条件」に相当すると認められる。)包装では、有効成分の「着色化、有機不純物の増加、主薬含量の低下がみられた」と記載される一方で、製剤の安定性に関しては、水溶性セルロース誘導体であるヒプロメロースと酸化チタン、三二酸化第二鉄等の着色剤を含むコーティング層を有すると認められる市販のクレストール(登録商標)錠の安定性試験の結果が、25℃、湿度の制御なし、120万lx・h及び200W・h/m^(2)までの条件で、PTP包装(両面アルミニウム箔)及び無包装の状態において「変化なし」であったことが記載されており、フィルムコート錠は、密栓系よりも分解が起きやすい開放系であっても、「曝光条件」で安定であることが従来から知られていた。
そうすると、先願発明1のフィルムコート錠を水溶性セルロース誘導体であるヒプロメロースと酸化チタン、三二酸化第二鉄といった着色剤を含むコーティング層を有するフィルムコート錠としたものは、「密栓暴光条件」でも安定であることが期待できる。

以上、先願発明1のフィルムコート錠を水溶性セルロース誘導体であるヒプロメロースと酸化チタン、(三二)酸化第二鉄といった着色剤を含むコーティング層を有するフィルムコート錠としたものが、「密栓暴光条件」で安定性に優れることは、従来から当業者に知られていた、あるいは、期待されていた効果に過ぎないことが理解できる。

さらに、「遮光開放条件」での安定性について検討する。
上記甲2の6頁には、市販のフィルムコート錠であるクレストール(登録商標)錠について、過酷試験(40℃、75%RH、無包装(すなわち開放条件)、1カ月)の結果として、「変化なし(水分の増加がみられた)」との結果が示されており、これは、類縁物質の増加がみられなかったこと、つまり、安定であったことを意味すると解されるところ、上記先願明細書等の【0065】の【表6】によれば、安定化剤である塩基性アミノ酸(L-アルギニン)が含まれていない点で先願発明1の錠剤よりもより安定性が劣ると解される比較例1の素錠は、比較例3の市販のクレストール(登録商標)錠5mgよりも、密封系においてではあるが安定であることが理解できる。
そうすると、開放条件で安定であり、密封系において比較例3の市販のクレストール(登録商標)錠5mgよりも安定な比較例1の素錠は、開放条件で安定である蓋然性が高い。
そして、先願発明1のフィルムコート錠の素錠は、安定化剤である塩基性アミノ酸が含まれている点で比較例1の素錠よりも安定であることが期待できるし、先願明細書等の【0063】の【表5】、【0065】の【表6】(上記2.(1)参照)の、コーティング層を有しない実施例1の錠剤と実施例1の錠剤に水溶性セルロース誘導体であるヒプロメロースと三二酸化第二鉄等の着色剤を含むコーティング層をコートした実施例5のフィルムコート錠を密栓条件で保存した場合の類縁物質の総量の増加率の結果の比較によれば、水溶性セルロース誘導体と着色剤を含むコーティング層の有無で、遮光密栓条件での安定性の効果はほとんど変わらないことが理解できる。
してみると、「遮光開放条件」で安定である点の本件発明1の効果も、先願明細書等の記載及び周知技術から当業者が理解できるものに過ぎないと解される。

以上のとおりであるから、先願発明1において、フィルムコート錠である医薬組成物のコーティング層を、本件特許の優先日前の周知技術を適用して、周知の水溶性セルロース誘導体であるヒプロメロース及び酸化チタン、酸化鉄等の着色剤を含むものとすることにより、先願発明1及び周知技術からは想定できない新たな効果が奏されているとは認められない。

したがって、本件発明1は、先願発明1のロスバスタチンを含有するフィルムコート錠である医薬組成物において、本件特許の優先日前の周知技術を適用したものに相当し、新たな効果を奏するものではなく、上記相違点1は、設計上の微差に過ぎないものといえ、本件発明1が先願発明1とは異なる新しい技術に係るものであるということはできない。
よって、本件発明1は、実質的に先願発明と同一であるといえる。

(エ) さらに、上記3(1)イ(イ)で指摘した周知技術に示されるとおり、ロスバスタチン又はその塩を含有する錠剤において、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのような「水溶性セルロース誘導体」及び酸化チタンや酸化第二鉄等の「着色剤」を含むコーティング層を設けることが本件特許の優先日前の技術常識であったこと、及び、先願明細書等には、上記2(2)アで指摘したとおり、先願発明1の具体例に相当するフィルムコート錠として、実施例5に、塩基性アミノ酸が本件発明1から除かれているL-アルギニンではあるものの、フィルムコート成分として、ヒプロメロース、酸化チタン、黄色三二酸化鉄を含むものが記載されていることからすると、先願明細書等には、先願発明1のフィルムコート錠であって、フィルムコート層が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのような「水溶性セルロース誘導体」及び酸化チタンや酸化第二鉄といった「着色剤」を含む態様の発明、すなわち、先願発明1のフィルムコート錠であって、フィルムコート層が「水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含む」ものである態様の発明についても開示されているといえる。
そして、かかる態様の発明の場合には、本件発明1との対比において相違点はない。
そうすると、本件発明1は、先願明細書等に記載された発明、つまり、先願発明1と同一の発明であるともいえる。

(オ) 上述のとおりであるから、本件発明1は、(実質的に)先願発明と同一であるといえる。
そして、先の出願の出願人又は発明者は、本件特許に係る出願の出願人又は発明者と同一ではない。
したがって、本件発明1についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

(2)本件発明3、4について
本件発明3は、本件発明1において、「遮光条件下、40℃75%相対湿度下で、密栓条件及び開放条件のいずれにおいても、1箇月保存した後の最大の類縁物質生成率が1%以下であること」を特定した発明に相当するし、本件発明4は、本件発明3において、上記「最大の類縁物質生成率が0.5%以下であること」を特定した発明に相当するところ、上記(1)のイ(ウ)における検討によれば、先願発明1は、これらの特定を満足する蓋然性が高い。
そうすると、本件発明3、4と先願発明1とは、上記(1)で記載した相違点1で一応相違するのみであり、さらなる相違点はない。
そして、相違点1についての判断は上記(1)に記載したとおりであって、上記(1)で記載したのと同様の理由によって、本件発明3、4は、先願発明1と実質的に同一の発明であり、本件発明3、4についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

(3)本件発明5?8、14?16について
本件発明5は、本件発明1、3、4のいずれかにおいて「(A)ロスバスタチン又はその塩を医薬製剤全体に対して0.5?30質量%含むこと」を特定した発明に相当するし、また、本件発明6は、本件発明1、3?5のいずれかにおいて「(B)糖アルコールを医薬製剤全体に対して30?95質量%含むこと」を特定した発明に、本件発明7は、本件発明1、3?6のいずれかにおいて「(C)のセルロース誘導体を医薬製剤全体に対して1?50質量%含むこと」を特定した発明に相当する。
そして、先願発明1についての「ロスバスタチンカルシウムの含有量が2重量%以上20重量%以下」、「D-マンニトールが30重量%以上75重量%以下」、「低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが10重量%以上30重量%以下」の条件は、それぞれ、本件発明5?7の「(A)ロスバスタチン又はその塩を医薬製剤全体に対して0.5?30質量%」、「(B)糖アルコールを医薬製剤全体に対して30?95質量%」、「(C)のセルロース誘導体を医薬製剤全体に対して1?50質量%」を満足する。
また、本件発明8は、本件発明1、3?7のいずれかにおいて「(B)糖アルコールが、イソマルト、エリスリトール、及びマンニトールからなる群から選択される1種以上である」ことを特定した発明に、本件発明14は、本件発明1、3?8のいずれかにおいて「実質的にアルカリ化剤を含まないこと」を特定した発明に、本件発明15は、本件発明1、3?8、14のいずれかにおいて「圧縮成形された錠剤の形態である」ことを特定した発明に、それぞれ、相当するところ、先願発明1は、これらの本件発明の発明特定事項も満足する。

そうすると、本件発明5?8、14、15において特定される点は、先願発明1も満たしているといえるから、本件発明5?8、14、15と先願発明1とは、上記(1)で記載した相違点1で一応相違するのみであり、さらなる相違点はない。

さらに、本件発明16は、本件発明15をさらに特定したものであるところ、本件発明16で特定されている点は、本件発明1の発明特定事項にすでに含まれており、当該特定は、本件発明1についての上記一応の相違点1に係る特定と同じであるから、本件発明16と先願発明1とは、上記(1)で記載した相違点1で一応相違するのみであり、両発明にさらなる相違点はない。
そして、相違点1についての判断は上記(1)に記載したとおりであって、上記(1)で記載したのと同様の理由によって、本件発明5?8、14?16は、先願発明1と実質的に同一の発明であり、本件発明5?8、14?16についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

(4)本件発明17について
本件発明17は、本件発明1又は16において、「水溶性セルロース誘導体がヒプロメロース及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1以上の成分」であり、「着色剤が、黄色三二酸化鉄、褐色三二酸化鉄、三二酸化鉄、酸化チタン、食用黄色4号、及び食用黄色5号からなる群から選択される1以上の成分」であることを特定した発明に相当する。
しかしながら、上記(1)イの(イ)で説示した甲号証に示されるとおり、ロスバスタチン又はその塩を含有する錠剤において、ヒプロメロースのような「水溶性セルロース誘導体」及び酸化チタンや三二酸化第二鉄等のような「着色剤」を含むコーティング層を設けることは本件優先日前に周知の技術であったから、上記(1)で記載したのと同様の理由によって、本件発明17は、先願発明1と実質的に同一の発明であるといえる。
よって、本件発明17についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

4 先願発明2に基づく取消理由1について

(1)本件発明1について
ア 対比
上記3(1)アにおける本件発明1と先願発明1との対比を踏まえて本件発明1と先願発明2とを対比すると、先願発明2の素錠は、ロスバスタチンカルシウム、D-マンニトール、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよびクロスポビドンを混合後、ステアリン酸マグネシウムを入れて混合し、均質な粉末混合物とし、これを直接打錠法により圧縮成形して製造されたものであって、本件発明1の「(A)・・・、(B)・・・、及び(C)・・・を混合された状態で含み」を満足するといえる。
また、先願発明2の素錠は、結晶セルロース、デンプン類、クロスカルメロースナトリウム、微粉末シリカ、及びL-アルギニンを含んでいない。
そうすると、本件発明1と先願発明2は、以下の点で一致し、以下の点で一応相違する。
<一致点>
(A)ロスバスタチン又はその塩、(B)イソマルト、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、及びマンニトールからなる群から選択される1種以上の糖アルコール、及び(C)メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1種以上のセルロース誘導体を混合された状態で含み、実質的に結晶セルロースを含まない、圧縮成形された錠剤の形態である医薬製剤(デンプン類、クロスカルメロースナトリウム、微粉末シリカ、又はL-アルギニンを含む医薬製剤を除く)。

<相違点2>
圧縮成形された錠剤の形態である医薬製剤が、本件発明1では、「水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含むコーティング層を有する」ものであるのに対して、先願発明2ではかかるコーティング層を有していない点。

イ 相違点2についての判断
相違点2について検討する。
上記3(1)イ(イ)で説示したとおり、ロスバスタチン又はその塩を含有する錠剤において、ヒプロメロースのような「水溶性セルロース誘導体」及び酸化チタンや酸化第二鉄等のような「着色剤」を含むコーティング層を設けることは本件優先日前に周知の技術であった。
また、本件発明1の効果に関し、本件特許明細書には、上記3(1)イ(ウ)で指摘した記載があり、本件特許明細書の記載によれば、本件発明1の錠剤は、遮光開放条件及び密栓曝光条件で安定であることが理解できるし、遮光開放条件で安定であれば、遮光密栓条件でも安定であると解される。

そこで、まず、本件発明1のコーティング層を有する錠剤の「遮光密栓条件」での効果について検討する。
先願明細書等の【0065】の【表6】には、ポリエチレン瓶に入れてポリプロピレンキャップで密栓したもの(シリカゲル封入)を、55℃(これは、本件の条件である40℃よりも過酷な条件である。)、75%RH条件下で1ヶ月間保存したところ、先願発明2(比較例1)の素錠の類縁物質の総量の増加率が0.13%であったことが示されており、この結果から、先願発明2の素錠は遮光下密栓条件で安定であることが理解でき、これよりも温度が緩和な条件である本件の「遮光密栓条件」であれば、先願発明2の素錠において、40℃75%RH条件下で1ヶ月間保存した場合の類縁物質生成率は、0.13%よりさらに小さくなると予想される。
ここで、本件発明1は、水溶性セルロース誘導体と着色剤を含むコーティング層を有する錠剤であるところ、3(1)イ(ウ)で記載したとおり、先願明細書等の【0065】の【表6】の実施例1と実施例5との比較から、水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含むコーティング層の有無により、密封条件下での錠剤の安定性の効果は大きくは異ならないことが理解できるから、本件発明1の「遮光密栓条件」における安定性の効果は、先願発明2の素錠に周知の水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含むコーティング層を設けることで期待される効果、つまり、先願明細書等の記載及び本件特許の優先日前の周知技術から理解される範囲内の効果に過ぎないといえる。

次に、「密栓曝光条件」における安定性について検討すると、上記3(1)イ(イ)で説示したとおり、甲5及び甲6から、二酸化チタンや三二酸化第二鉄等の着色剤を含む周知のコーティング層を有する錠剤とすることで、光による分解をより抑制できることは、従来から知られていたことであることが理解できるし、上記3(1)イ(ウ)で説示したとおり、甲2によれば、水溶性セルロース誘導体であるヒプロメロースと三二酸化第二鉄等の着色剤を含むコーティング層を有すると認められる市販のクレストール(登録商標)フィルムコート錠は、無包装の状態(つまり、開放状態)であっても、「曝光条件」で安定であることが従来から知られていたから、本件発明1の「密栓曝光条件」における安定性の効果は、先願発明2の素錠に周知の水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含むコーティング層を設けることで期待される効果、つまり、先願明細書等の記載及び本件特許の優先日前の周知技術から理解される範囲内の効果に過ぎないといえる。

さらに、「遮光開放条件」での安定性については、上記3(1)イ(ウ)で説示したとおり、甲2の6頁の、市販のフィルムコート錠であるクレストール(登録商標)錠についての過酷試験(40℃、75%RH、無包装、1カ月)の結果、及び、先願明細書等の【0065】の【表6】の比較例1の素錠と比較例3の市販のクレストール(登録商標)錠5mgとの比較によれば、先願発明2(比較例1)の素錠は、開放条件でも安定である蓋然性が高い。
また、先願明細書等の【0063】の【表5】、【0065】の【表6】の、コーティング層を有しない実施例1の錠剤と実施例1の錠剤に水溶性セルロース誘導体であるヒプロメロースと三二酸化第二鉄等の着色剤を含むコーティング層をコートした実施例5のフィルムコート錠を密栓条件で保存した場合の類縁物質の総量の増加率の結果の記載によれば、水溶性セルロース誘導体と着色剤を含むコーティング層の有無で、安定性の効果は変わらないことが理解できる。
そうすると、「遮光開放条件」で安定である点の本件発明1の効果も、先願明細書の記載及び周知技術から当業者が理解できるものに過ぎないと解される。

以上のとおりであるから、本件発明1の効果は、先願発明2の素錠に、本件特許の優先日前の周知技術を適用して、周知のヒプロメロース及び酸化チタン、酸化鉄等の着色剤を含むコーティング層を有するものとすることで当業者が期待し得る範囲内の効果であるといえる。

したがって、本件発明1は、先願発明2のロスバスタチンを含有する素錠において、本件特許の優先日前の周知技術を適用したものであって、新たな効果を奏するものではなく、設計上の微差に過ぎないものといえ、本件発明1は先願発明2とは異なる新しい技術に係るものであるということはできない。
よって、本件発明1は、実質的に先願発明2と同一の発明であるといえる。

ウ 特許権者は、令和1年8月27日付け取消理由通知に対する令和1年10月7日付け意見書の4(3)において、以下の主張をしている。
「本件発明の技術思想の1つとして、『セルロース誘導体がロスバスタチン医薬製剤の安定性において有利である』という技術思想があります。本件発明1では、曝光条件下での安定性を向上させることを目的にして、素錠にコーティング層を施し、且つ上記技術思想に基づき、その基剤をセルロース誘導体、中でも特に水溶性セルロース誘導体に限定したものです。コーティング層の成分は、素錠部分の表面と接触する面積が大きいことから、安定性の面から有利なセルロース誘導体を選択しています。曝光条件下でのコーティング層の効果は、本件特許明細書の試験例4(本件特許明細書【0041】?【0045】)に記載されている通りです。即ち、素錠の実施例6に120万luxを曝光した際の類縁物質生成率が9.39%であるのに対し、実施例6に前記コーティング層を施した実施例7?9では、類縁物質生成率が0.04?0.12%と約1/80になっています。これは、本件発明の技術思想に基づくコーティング層の基剤の選択(選択発明)による効果も含まれる効果です。
本件発明は、(A)ロスバスタチン又はその塩、(B)イソマルト、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、及びマンニトールからなる群から選択される1種以上の糖アルコール、及び(C)メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1種以上のセルロース誘導体の3成分を主たる構成要件としているため、コーティング層の基剤選択にも十分気を配ることが重要となってくるのです。
尚、引用された先願発明には、本件発明の主たる3成分を含む錠剤及び水溶性セルロース誘導体等を含むコーティング層についての記載はそれぞれ別々に存在しますが、本件発明の主たる3成分と水溶性セルロース誘導体等を含むコーティング層とを組み合わせた発明はどこにも記載されていませんし、その組み合わせの効果を予測するような記載もありません。
以上のように、曝光条件下での本件発明のコーティング層の効果は極めて大きく、決して設計上の微差ではありません。本件発明の共通の技術思想の下で、『水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含むコーティング層を有する』という構成が付加されている以上、周知技術の付加や単なる設計上の微差ではないと思料します。
また、取消理由通知書においては、『特許法29条の2における発明の同一性判断にあたっては、後願に係る発明が、先願明細書等に記載された発明とは異なる新しい技術に係るものであるかという見地から判断すべきである』と認定しておられますが、もしそうならば、特許法29条の2における発明の同一性判断においても、先願に係る発明に対して進歩性のある差異を必要とすることになってしまうのではないでしょうか。そもそも、発明は公知技術の組み合わせで成されることが極めて多いものと思料します。」

そこで検討すると、まず、本件特許明細書の記載からは必ずしも明らかではないが、仮に、特許権者が主張するように、コーティング層の成分として、水溶性セルロース誘導体がロスバスタチン医薬製剤の安定性において有利であるとしても、上記イ及び3(1)イ(イ)で説示したとおり、ロスバスタチン医薬製剤(錠剤)のコーティング層をヒプロメロースのような「水溶性セルロース誘導体」及び二酸化チタンや酸化第二鉄等の「着色剤」を含むものとすることは本件特許の優先日前に周知の事項であったし、また、上記イ及び3(1)イ(ウ)で説示したとおり、そのことにより、ロスバスタチン医薬製剤が「密栓暴光条件」で安定性に優れたものとなることも、従来から知られていた効果に過ぎない。
そして、本件発明1は、本件特許の優先日前の周知技術を適用したものに相当し、新たな効果を奏するものではなく、上記相違点2は、設計上の微差に過ぎないものといえるのであるから、かかる意味において、本件発明1は先願発明2とは異なる新しい技術に係るものであるということはできず、本件発明1は、先願発明2と実質的に同一であると判断するものであって、当該判断は、特許法第29条の2における発明の同一性判断において、先願に係る発明に対して進歩性のある差異を必要とすることにはならない。

エ 上述のとおりであるから、本件発明1は、実質的に先願発明2と同一であるといえるし、先の出願の出願人又は発明者は、本件特許に係る出願の出願人又は発明者と同一ではない。
よって、本件発明1についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

(2)本件発明3、4について
本件発明3は、本件発明1において、「遮光条件下、40℃75%相対湿度下で、密栓条件及び開放条件のいずれにおいても、1箇月保存した後の最大の類縁物質生成率が1%以下であること」を特定した発明に相当するし、本件発明4は、本件発明3において、上記「最大の類縁物質生成率が0.5%以下であること」を特定した発明に相当するところ、上記(1)イで検討したとおり、先願発明2は、これらの特定を満足する蓋然性が高い。
そして、本件発明3、4と先願発明2とは、上記(1)アで記載した相違点2で一応相違するのみであり、さらなる相違点はない。
そして、(1)で記載したのと同様の理由によって、上記相違点2は設計上の微差に過ぎないものといえ、本件発明3、4が先願発明2とは異なる新しい技術に係るものであるということはできない。
したがって、本件発明3、4は、先願発明2と実質的に同一の発明である。
よって、本件発明3、4についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

(3)本件発明5?8、14?16について
先願発明2の素錠は、素錠150mg中にロスバスタチンカルシウムを5.2mg(つまり、「2.88質量%」)、D-マンニトールを105.5mg(つまり、「70.3質量%」)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを30mg(つまり、「20質量%」)含むから、これは、本件発明5の「(A)ロスバスタチン又はその塩を医薬製剤全体に対して0.5?30質量%」、本件発明6の「(B)糖アルコールを医薬製剤全体に対して30?95質量%」、本件発明7の「(C)のセルロース誘導体を医薬製剤全体に対して1?50質量」をそれぞれ満足する。
また、先願発明2は、本件発明8の「(B)糖アルコールが、イソマルト、エリスリトール、及びマンニトールからなる群から選択される1種以上」、本件発明14の「実質的にアルカリ化剤を含まない」、本件発明15の「圧縮成形された錠剤の形態」も満足する。

そうすると、本件発明5?8、14?15において特定される点は、先願発明2も満たしている構成であるから、本件発明5?8、14-15と先願発明2とは、上記(1)で記載した相違点2で一応相違するのみであり、さらなる相違点はない。
そして、(1)で記載したのと同様の理由によって、上記相違点2は設計上の微差に過ぎないものといえ、本件発明5?8、14?15について、先願発明2とは異なる新しい技術に係るものであるということはできず、本件発明5?8、14?15は、先願発明2と実質的に同一の発明である。

さらに、本件発明16は、本件発明15において、「更に、水溶性セルロース誘導体及び着色剤を含むコーティング層を有する」ことを特定した発明に相当するところ、本件発明16で特定されている点は、本件発明1においてすでに発明特定事項として含まれていたものであって、当該特定は、本件発明1についての上記一応の相違点2に係る特定と同じであるから、本件発明16と先願発明2とは、上記(1)で記載したとおり、一応の相違点2で相違するのみである。
そして、相違点2についての判断は上記(1)に記載したとおりであって、上記(1)で記載したのと同様の理由によって、本件発明16は、先願発明2と実質的に同一の発明である。

よって、本件発明5?8、14?16についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

(4)本件発明17について
本件発明17は、本件発明1又は16において、「水溶性セルロース誘導体がヒプロメロース及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選択される1以上の成分」であり、「着色剤が、黄色三二酸化鉄、褐色三二酸化鉄、三二酸化鉄、酸化チタン、食用黄色4号、及び食用黄色5号からなる群から選択される1以上の成分」であることを特定した発明に相当する。
しかしながら、上記3(1)イ(イ)で説示したとおり、ロスバスタチン又はその塩を含有する錠剤において、ヒプロメロースのような「水溶性セルロース誘導体」及び酸化チタンや三二酸化第二鉄等のような「着色剤」を含むコーティング層を設けることは本件優先日前に周知の技術であったから、上記(1)で記載したのと同様の理由によって、本件発明17は先願発明2と実質的に同一の発明であるといえる。
よって、本件発明17についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

5 取消理由1についてのまとめ
以上のとおり、請求項1、3?8、14?17に係る本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第5 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由について
当審合議体は、以下のとおり、取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由によっては、本件特許は取り消されるべきものとはいえないと判断する。
取消理由(決定の予告)で採用した取消理由1は、上記第3の1で記載した申立理由1-1に相当するから、取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由は、申立理由1-2、申立理由2?申立理由4である。 以下、順に検討する。

(1)申立理由1-2(先願明細書に記載された発明)について
請求項1、3?8、14、17に係る本件特許に対する、申立理由1-2は、本件発明1、3?8、14、17について、特願2014-201711号に基づく優先権主張の効果が認められないことを前提とするものである。しかしながら、上記第4 1で記載したとおり、当該出願に基づく優先権主張の効果は認められる。
そうすると、本件発明1、3?8、14、17に関し、特許法第29条の2の判断の基準日は、特願2014-201711号の提出日である平成26年9月30日であるから、それより後の平成27年4月24日の優先日を主張してなされた出願である特願2015-110019号(申立人提出の甲9である特開2016-204352号公報は、当該出願に係る公開公報である。)は、特許法第29条の2に規定される「特許出願の日前の他の出願」にはあたらない。
よって、申立理由1-2には理由がない。

(2)申立理由2(明確性要件)について
請求項1?17に係る本件特許に関し、申立人は、申立書の3(4)エにおいて、概ね以下の主張をしている。
医薬製剤の分野で、各成分を「混合された状態で含有」は、一般に別個の顆粒として調製したり、あらかじめ特定の成分を被覆するなどの特段の製剤設計を行わずに所定の成分を混合した状態であると当業者に理解されている(甲10,12)から、本件特許の請求項1における、錠剤が(A)?(C)成分を「混合された状態で含み」との発明特定事項は、(i)錠剤中に、(A)?(C)成分が単純混合された状態で含まれることを意味すると解される。一方、本件特許明細書の実施例5?10として、単純混合ではなく、特定の前処理ないし製剤設計を行い、(A)、(B)、及び(C)成分の一部が造粒、被覆された例が記載されており、上記発明特定事項は、(ii)(A)?(C)成分が互いに均一に接触しないか、あるいは全く接触しない状態で含まれていてもよいとも解される。
よって、「混合された状態で含有」の態様を明確に理解することができず、本件発明1は不明確である。
また、請求項2は、一般に単純混合と解される「混合された状態で含み」なる発明特定事項と、単純混合ではないと解される「一部が湿式造粒法により造粒されている」なる発明特定事項を含む点で、技術的に矛盾しているから、本件発明2は不明確である。
本件発明1または2を引用する本件発明3?17についても同様である。

申立人の主張について検討する。
まず、申立人が、本件発明1に関し、医薬製剤の分野で各成分を「混合された状態で含有」は、一般に、別個の顆粒として調製したりあらかじめ特定の成分を被覆するなどの特段の製剤設計を行わずに、各成分を単純混合した状態であると当業者に理解されていると主張する点については、申立人が当該主張の根拠として提示する甲10及び甲12(第1章の4.2?4.4)の記載を参酌しても、上記の理解が一般的であると理解することはできない。
すなわち、甲12は、医薬品製剤についての一般的な技術を示す文献であるが、配合禁忌の有効成分の相互作用を回避するために多顆粒とする手法や多層錠とする手法があることが記載されるのみで、医薬製剤の分野で、各成分を「混合された状態で含有」が単純混合された状態で含有することを意味することは記載されていない。
また、甲10は解熱鎮痛製剤に関する個別の審判事件における審判請求書であり、当該事件の審判請求人は、当該事件においては、「混合された状態で含有」は単純混合を意味する旨を主張しているにすぎず、当該事件についてそれが妥当するとしても、「混合された状態で含有」が単純混合を意味することが一般的な技術常識であるとまではいえない。
かえって、混合成分が添加剤である場合には、薬物と賦形剤を含有する顆粒に、さらに、滑沢剤等の添加剤を混合した顆粒を打錠して錠剤化する方法も一般的に知られている(甲12の第2章2.3.1)。
よって、当業者は、本件の請求項1の、錠剤が(A)?(C)成分を「混合された状態で含み」との発明特定事項は、(A)?(C)成分の単純混合のみを意味するのではなく、(A)?(C)成分の「一部が湿式造粒法により造粒されている」場合を含み得ると理解するといえる。
したがって、本件発明1は明確である。

また、請求項2の「混合された状態で含み」の理解は、請求項1の「混合された状態で含み」の理解と同様であり、この理解によれば、請求項2の「一部が湿式造粒法により造粒されている」なる発明特定事項は、「混合された状態で含み」と技術的に矛盾していない。
したがって、本件発明2も明確である。
本件発明1及び2を引用する本件発明3?17も同様である。

よって、申立理由2には理由がない。

(3)申立理由3(サポート要件)について
請求項1、3?12、14、17に係る本件特許に関し、申立人は、申立書の3(4)オにおいて、本件発明1及びこれを引用する本件発明3?12、14、17について、概ね以下の主張をする。

ア 特許請求の範囲の記載がいわゆるサポート要件に適合するか否かは、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるべきものであるところ、発明の詳細な説明においてフィルムコート錠について保存安定性が確認されているのは、ロスバスタチンカルシウムと、D-マンニトールと、水溶性セルロース誘導体(結合剤)であるヒドロキシプロピルセルロースを湿式造粒し、さらに水不溶性セルロース誘導体(崩壊剤)である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを混合し、圧縮成形した素錠をフィルムコートしたもののみである(実施例7?9)。
ここで、錠剤の安定性は、その製造方法や製剤設計によって大きく変化すること、また、原薬を造粒、被覆等する製剤設計を行うことにより、原薬の安定性を向上させることは周知の技術である(甲12の第1章4.2?4.4)。そして、湿式顆粒方式では薬物原末の粒子表面の性質が結合剤コーティングで改善される(甲12の第2章2.4)一方、湿式造粒以外の方法では、薬物や添加剤の種類によっては結合性が充分に補強されず、安定性、流動性、硬度等の観点から、必ずしも医薬品として使用に耐えうる錠剤を製造できるとは限らない(甲12の第I編 第2章 2.3.2および2.3.3等参照)。
したがって、D-マンニトールと特定の結合剤(水溶性セルロース誘導体)を用いて成分(A)の湿式造粒を行なわない錠剤についてまで、本件発明の課題(高温高湿度下、および光に対する安定性)を解決できるか定かではない。
また、表1、2は、特定の糖アルコールおよびセルロース誘導体は、粉末混合状態においてはロスバスタチンを不安定化しなかったことを示すものにすぎず、粉末と錠剤とでは、表面積において顕著な差が生じることは自明であるから、表1、2の結果をもって、単に成分(A)-(C)を「混合された状態で」含む組成物を「圧縮成形」し、さらに「フィルムコート」したいかなる錠剤についても、本件発明の課題を解決できるか定かでない。
イ 表1、2や実施例に記載されていない添加物については、ロスバスタチンに対する作用が不明であり、配合禁忌やロスバスタチンを不安定化する可能性も考えられるところ、本件発明1はそのような添加物を包含することが許される記載になっているから、本件発明1によって本件発明の課題を解決できるか定かではない。
ウ 以上のように、本件発明1の記載は、本発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるし、本件発明1を引用する本件発明3?12、14、17についても同様である。

申立人の主張について検討する。
本件発明の課題は、本件特許明細書の【0009】及び特許請求の範囲の記載の記載によれば、HMG-CoAレダクターゼ阻害薬であるロスバスタチン又はその塩を含む、長期にわたり安定な、錠剤の形態である医薬製剤を提供することであると認められる。
そして、本件発明1、3?12、14、17がいわゆるサポート要件を満足するというためには、本件発明1、3?12、14、17により、本件発明の課題を解決できることが、出願時の技術常識を参酌して、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できる必要があるので、以下、上記ア及びイの点について検討する。

まず、上記アについて検討する。
発明の詳細な説明の試験例3(【0036】?【0040】、表3及び表4)には、(B)成分としてマンニトール、(C)成分として水溶性のヒドロキシプロピルセルロースあるいは、これと水不溶性の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む錠剤が、最大の類縁物質生成率が0.5%を下回り、長期安定性に優れることが記載されているし、試験例4(【0041】?【0045】、表5及び表6)には、(B)成分としてマンニトール、(C)成分としてヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びヒプロメロースを含むフィルムコート錠が長期安定性に優れることが、試験例5(【0046】?【0051】、表7及び表8)には、(B)成分としてイソマルト、エリスリトール、あるいはマンニトール、(C)成分として水溶性のヒドロキシプロピルセルロース及び水不溶性の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む錠剤が長期安定性に優れることが、試験例6(【0052】?【0057】、表9及び表10)には、(B)成分としてイソマルト、エリスリトール、あるいはマンニトール、(C)成分として水溶性のヒドロキシプロピルセルロース及び水不溶性の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む錠剤が長期安定性に優れることが、それぞれ記載されている。
そして、表6から、フィルムコート層は、曝光条件下での長期安定性の改善に寄与することが理解できるから、当業者は、上記試験例3?6の記載から、(B)成分としてイソマルト、エリスリトール、あるいはマンニトール、(C)成分として水溶性のヒドロキシプロピルセルロース及び水不溶性の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含むフィルムコート錠剤が長期安定性に優れることを当業者は理解できる。また、(B)成分が、試験例のないキシリトール、ソルビトールあるいはマルチトールを併用する場合についても、これらが長期安定性の効果が確認されているイソマルト、エリスリトール及びマンニトールと同族の糖アルコールであって、これらの糖アルコールと類似の化学構造を有していることから、同様に長期安定性の改善効果を奏する蓋然性が高いと当業者は、試験例3?6から推認できるといえる。
また、試験例2(【0030】?【0035】及び表2)に、(A)成分であるロスバスタチンカルシウム、(B)成分であるマンニトールと、(C)成分のセルロース誘導体として、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースあるいは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを併用した混合物が長期安定性に優れることが示されており、通常、粉末混合物よりも、圧縮された状態の錠剤の方が表面積は小さく、環境からの影響を受けにくいと解されることに鑑みれば、当業者は、(C)成分のセルロース誘導体が、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース又は低置換度ヒドロキシプロピルセルロースである錠剤の場合に、(A)成分の長期安定性を改善できることを理解できるといえる。さらに、(C)成分のセルロ-ス誘導体が、単独での試験例のないメチルセルロースあるいはヒプロメロースである場合についても、メチルセルロースは長期安定性の効果が確認されているエチルセルロースと同じアルキルセルロース構造を有し、また、ヒプロメロースは、効果が確認されているヒドロキシエチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロースと同様にヒドロキシアルキルセルロース構造を有する化合物であることから、同様に長期安定性の改善効果を奏する蓋然性が高いと当業者は推認し得る。
よって、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件発明1、3?12、14、17で特定される(B)、(C)成分を含むフィルムコート錠により、本件発明の課題を解決できることを認識できるといえる。

さらに、申立人が、湿式造粒以外の方法では必ずしも医薬品として使用に耐えうる錠剤を製造できるとは限らないと主張する点に関しては、申立人が当該主張の根拠としてあげる甲12(第I編 第2章 2.3.2および2.3.3等参照)には、乾式法では湿式法に比べて結合剤の添加量を多くしなければならないために崩壊性が悪くなったり、錠剤が大きくなる不便さがあることが記載されるのみで、湿式造粒以外の方法では、医薬品として使用に耐えうる錠剤を製造できるとは限らないことは記載されていないし、甲5の実施例に示されるように、乾式法により(A)成分を含む錠剤とすることが従来から知られていたのであるから、この点の申立人の主張は失当である。
そして、(A)成分であるロスバスタチンカルシウムが吸湿性であり(甲2の3頁III.2.(3))、また、水分に対して不安定であることが従来から既知であって(甲1の【0002】及び【0046】)、湿式造粒物では、より安定性の問題がおきやすいと解されるにもかかわらず、長期安定性に優れることが本件特許明細書に示されていることに鑑みれば、乾式法により製造される場合の本件発明1、3?12、14、17により本件発明の課題を解決できることを、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者は認識できるといえる。

次に、上記イに関し、配合禁忌や有効成分の薬物を不安定化する他の薬物や添加剤を医薬組成物に入れないことが望ましいことは技術常識であり、製剤に薬物を不安定化する成分を含ませることは通常想定し得ないし、仮に、有効成分の場合のように必要性がある場合には、例えば甲12(第1章の4.2?4.4)に記載のように、多顆粒や多層錠とすることで安定化する手法が知られているから、かかる周知の手法により、不安定化を回避できると解される。
さらに、本件発明1、3?12、14、17では、有効成分の安定性に影響を与える添加剤である結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウムあるいはデンプンを含む場合は除外されているし、他の添加剤が、有効成分であるロスバスタチンの安定性に影響を与えるとの技術常識が存在するとも解されない。また、そのような試験結果が申立人により示されているのでもない。
一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、(A)成分であるロスバスタチン又はその塩に加えて、(B)及び(C)成分を含む本件発明1、3?12、14、17の医薬製剤とすることで、これを含まない場合に比べて(A)成分が安定化されることが理解でき、当業者は、医薬製剤に他の添加剤成分が含まれる場合についても同様の傾向であると理解できると認められるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件発明1、3?12、14、17により、本件発明が解決しようとする課題を解決できることを認識できるといえる。

以上のとおりであるから、本件発明1、3?12、14、17については、サポート要件を満足するといえる。

よって、申立理由3には理由がない。

(4)申立理由4(実施可能要件)について
請求項1、3?12、14、17に係る本件特許に関し、申立人は、申立書の3(4)カにおいて、(A)?(C)成分を「混合された状態で」含む本件発明1、3?12、14、17(以下「本件発明1等」という。)の錠剤の形態である医薬製剤は、湿式造粒を行う以外の態様を含むところ、発明の詳細な説明からは湿式造粒物を調製する以外の製造方法で、どのようにして(A)成分の保存安定性を有する錠剤を製造することができるのか理解することができないから、上記の本件発明について、実施可能要件を満たすとは言えない旨主張する。

上記申立人の主張について検討する。
本件発明1等は「錠剤の形態である医薬製剤」という物の発明であり、これらの発明について実施可能要件を満足するというためには、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤等を行う必要なく、その物(つまり、医薬製剤)を製造でき、使用(つまり、医薬として使用)できれば足りると解される。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、医薬製剤に含まれる(A)?(C)成分の含有量(【0016】?【0020】)、医薬製剤に含まれる他の添加成分(【0021】、【0023】?【0020】)、及び造粒法(【0022】)について言及されているところ、本件発明1で特定される(A)?(C)成分はいずれも、医薬製剤の製造に用いられる周知の薬効成分あるいは添加剤成分であって、これらが入手可能であることは当業者に明らかであるし、錠剤の形態の医薬製剤を各種原料成分から製造する技術は、それ自体本件特許の出願時の技術常識に属するものである(例えば甲12の項目2.3(45-47頁)には、そのような製造法として湿式あるいは乾式の顆粒打錠剤法や直接打錠法が記載され、結合剤等の添加剤を適宜使用することも記載されている。)
さらに、本件特許の出願時、薬効成分がロスバスタチン又はその塩((A)成分)の場合には、特定の糖アルコール(マンニトール)および特定の結合剤(水溶性セルロース誘導体)を用いて湿式造粒を行なう以外の製造方法では、本件発明1で特定されるような圧縮成形された錠剤は製造できないとの技術常識があったとは認められない。
むしろ、甲5の【0017】?【0020】、【0031】、【0039】等の記載や、甲7の【0013】、【0018】の記載によれば、薬効成分が(A)成分の場合であっても、適宜他の結合剤を使用して圧縮成形錠剤を製造できるし、また、乾式法によっても圧縮成形錠剤を製造できると当業者は認識していたといえる。
また、ロスバスタチンカルシウムを薬効成分として含有するフィルムコーティング錠が2005年から製造販売されているとおり(甲2の1頁)、(A)成分を含有する錠剤が医薬として使用可能であることは当業者に明らかである。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0038】?【0057】)において具体的に記載される錠剤が、湿式造粒物から調製されたもののみであるとしても、本件発明1の「圧縮成形された錠剤の形態である医薬製剤」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明における医薬製剤についての記載及び本件特許の出願時の技術常識から、当業者が過度の試行錯誤等を行う必要なく、その物(つまり、医薬製剤)を製造でき、使用(つまり、医薬として使用)できるといえる。
したがって、本件発明1、3?12、14、17については、実施可能要件を満たしているといえる。

よって、申立理由4には理由がない。

第6 むすび
上記第4のとおり、請求項1、3?8、14?17に係る本件特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項2、9?13に係る本件特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由及び取消理由(決定の予告)によっては、取り消すことはできない。
さらに、他に請求項2、9?13に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-04-07 
出願番号 特願2015-190529(P2015-190529)
審決分類 P 1 651・ 161- ZC (A61K)
P 1 651・ 536- ZC (A61K)
P 1 651・ 537- ZC (A61K)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 茅根 文子  
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 渡邊 吉喜
渕野 留香
登録日 2018-11-16 
登録番号 特許第6433400号(P6433400)
権利者 株式会社三和化学研究所
発明の名称 HMG-CoAレダクターゼ阻害薬を含有する医薬製剤  

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