ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08G |
---|---|
管理番号 | 1363176 |
異議申立番号 | 異議2019-700948 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-11-25 |
確定日 | 2020-06-05 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6526073号発明「温度調節ポリウレタンゲル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6526073号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.本件特許の設定登録までの経緯 本件特許第6526073号に係る出願(特願2017-1081号、以下「本願」ということがある。)は、平成29年1月6日(パリ条約に基づく優先権主張:平成28年1月25日、欧州特許庁)に出願人テクノゲル イタリア エス、アール、エル(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、令和元年5月17日に特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、特許掲載公報が令和元年6月5日に発行されたものである。 2.本件異議申立の趣旨 本件特許につき令和元年11月25日に特許異議申立人エスケー化研株式会社(以下「申立人」という。)により、「特許第6526073号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。 (よって、本件特許異議の申立ては、特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許であるから、審理の対象外となる請求項はない。) 第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項 本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし7が記載されている。 「【請求項1】 温度調節ポリウレタンゲル組成物を製造する方法であって、 目的とする温度調節範囲のために選択されたポリオール成分および相変化材料(PCM)から製造された混合物と、イソシアネート成分とを反応させて、前記温度調節ポリウレタンゲル組成物を形成し、 ここで、ゲルネットワークを膨張させる流体は、1つ以上の長鎖ポリエーテルポリオールを含むポリオール成分によって提供され、 前記イソシアネート成分は、1.5?3.5の反応性官能価を有する1つ以上のイソシアネートを含み、 かつ、前記PCMはカプセル化なしに前記ポリウレタンゲルの流体相中に直接組み込まれること、を含み、 前記1つ以上の長鎖ポリエーテルポリオールは、1900を超える分子量(数平均)を有するプロピレンオキシドポリエーテルポリオールおよび25重量%以下のエチレンオキシド(EO)を有し1900を超える分子量(数平均)を有するプロピレンオキシド/エチレンオキシドポリエーテルポリオールからなる群より選択されるアルキレンオキシドポリエーテルポリオールであり、 前記PCMは、脂肪酸モノエステルおよびその混合物からなる群から選択され、かつ 前記ポリオール成分と前記PCMとを前記ポリオール成分および前記PCMの両方とも液体状態で混合して、相分離を起こすことなく、前記ポリオール成分と前記PCMとの間で完全な混和性を有する単一相のポリオール成分-PCM混合物を得る、 ことを特徴とする、方法。 【請求項2】 前記アルキレンオキシドポリエーテルポリオールが、前記ポリオール成分中に少なくとも60重量%の量で存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記アルキレンオキシドポリエーテルポリオールが、2000を超える分子量(数平均)を有することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 前記1つ以上のポリエーテルポリオールが、少なくとも3の公称官能価を有することを特徴とする請求項1?3の1項に記載の方法。 【請求項5】 前記温度調節ポリウレタンゲル組成物のイソシアネート指数が20?75であることを特徴とする請求項1?4の1項に記載の方法。 【請求項6】 さらに、前記温度調節ポリウレタンゲル組成物を高圧射出成形機で成形して成形温度調節ゲル生成物を形成することを特徴とする請求項1?5の1項に記載の方法。 【請求項7】 さらに、前記高圧射出成形機のモールドを、前記成形工程前にポリマーフィルムで裏打ちし、前記ポリマーフィルムが前記成形温度調節ゲル生成物のカバー層を形成することを特徴とする請求項6に記載の方法。」 (以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件発明」という。) 第3 申立人が主張する取消理由 申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由が存するとしているものと認められる。 取消理由:本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、それら請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ・申立人提示の甲号証 甲第1号証:特開2005-134101号公報 (以下、「甲1」と略していう。) 第4 当審の判断 当審は、 申立人が主張する上記取消理由については理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許はいずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、 と判断する。以下、詳述する。 1.甲1の記載事項及び記載された発明 上記取消理由は、本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく甲1に係る引用発明の認定を行う。(なお、下線は、元々存在するものを除き、当審が付したものである。) (1)甲1の記載事項 甲1には、以下の事項が記載されている。 (a1) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 蓄熱材(a)と有機処理された層状粘土鉱物(b)の混合物が、多孔体(c)に担持されてなる蓄熱体。 【請求項2】 蓄熱材(a)100重量部に対し、有機処理された層状粘土鉱物(b)を0.5?50重量部混合することを特徴とする請求項1に記載の蓄熱体。 【請求項3】 蓄熱材(a)と有機処理された層状粘土鉱物(b)と熱伝導性物質(d)の混合物が、多孔体(c)に担持されてなる蓄熱体。 【請求項4】 蓄熱材(a)100重量部に対し、有機処理された層状粘土鉱物(b)を0.5?50重量部、熱伝導性物質(d)を5?200重量部混合することを特徴とする請求項3に記載の蓄熱体。 【請求項5】 蓄熱材(a)の含有率が、40重量%以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の蓄熱体。 【請求項6】 蓄熱材(a)が、有機潜熱蓄熱材であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の蓄熱体。 【請求項7】 多孔体(c)が、反応性官能基を含有する化合物(c-1)と該反応性官能基と反応可能な反応性官能基を含有する化合物(c-2)との反応により形成されるものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の蓄熱体。」 (a2) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、高い蓄熱性を有する蓄熱体に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、熱エネルギーを蓄える技術、即ち蓄熱技術が、昨今のエネルギー問題を解決する技術の一つとして着目されている。 蓄熱技術は、太陽熱、地熱等の自然エネルギーや、冷暖房器具からの余熱を有効利用する技術で、例えば、住宅においては、安価な夜間電力を使用して、熱を蓄え、多目的な熱源として利用し、日中の電力消費を抑える技術として利用されている。 【0003】 このような蓄熱技術に用いられる蓄熱材としては、顕熱蓄熱材、潜熱蓄熱材が挙げられ、特に、物質の相変化による潜熱を利用した潜熱蓄熱材が多く採用されている。 【0004】 この潜熱蓄熱材は、物質が固体から液体に相変化する時に熱を蓄え(蓄熱)、液体から固体に相変化する時に熱を放出(放熱)するという性質を利用し、蓄熱・放熱させるもので、一般に、15℃?50℃の温度範囲で相変化(固液変化)するものが多い。そのため、液体として取り扱う必要があり、その利用方法としては、液体の状態で密閉型のラミネートシートやプラスチックケースに封入することが一般的である。 【0005】 しかし、ラミネートシートやプラスチックケースでは、定形サイズに限定され、切断等の加工は、潜熱蓄熱材が漏れ出すため不可能である。また、釘打ち等による施工も、潜熱蓄熱材が漏れ出すため不可能である。さらに、ラミネートシートやプラスチックケースを垂直に固定した場合、蓄熱材が底部に偏り、有効に蓄熱材が利用できないという問題もある。 したがって、蓄熱材を利用する場合、蓄熱式床暖房用の蓄熱材に代表される平置きの用途にのみ使用されているのが実状である。 【0006】 このような問題に対し、特許文献1では、塗膜またはシート等に潜熱蓄熱カプセルを担持させることにより、切断等の加工や釘打ち等の施工を可能にし、さらに蓄熱材の底部の偏りも抑えた蓄熱体が提案されている。 また、非特許文献1では、石膏ボードのような材料に、潜熱蓄熱材をカプセル化したものを混ぜ合わせ無機バインダーや樹脂等により固定することにより、同問題を解決している。 【0007】 【特許文献1】特開平10-311693号公報(請求の範囲) 【非特許文献1】日本建築学会計画系論文集 第540号、23-29、2001年2月 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 しかしながら、特許文献1や非特許文献1では、蓄熱材自体への効果的な熱伝導が阻害されやすくなり、また、蓄熱材の含有率も少なくなることから、十分な蓄熱性能が得られ難いという問題があった。 【0009】 一方、特許文献2では、多孔体に蓄熱材を担持させることにより、前記問題を解決するとともに、十分な蓄熱性能を得ようとしている。しかしながら、多孔体に蓄熱材をただ単に担持させるだけでは、場合によっては蓄熱材が漏れ出す恐れがあった。 【0010】 【特許文献2】特開平9-143461号公報 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明は上記課題を解決するために、鋭意検討をした結果、蓄熱材(a)と有機処理された層状粘土鉱物(b)の混合物が、多孔体(c)に担持されてなる蓄熱体が、優れた蓄熱性を有し、かつ、蓄熱材の漏れも無く、加工性、施工性に優れることを見出し、本発明の完成に至った。 ・・(中略)・・ 【発明の効果】 【0013】 本発明の蓄熱体は、高い蓄熱材含有率を有し蓄熱性に優れ、かつ、高い蓄熱材含有率を有しているにもかかわらず経時的に蓄熱材が漏れることがない。さらに蓄熱体を切断したとしても、切断面から蓄熱材が漏れ出すこともなく加工性に優れ、また、釘打ち等による蓄熱材の漏れないため、取り付け施工性に優れている。」 (a3) 「【0015】 本発明は、蓄熱材(以下、「(a)成分」ともいう。)と有機処理された層状粘土鉱物(以下、「(b)成分」ともいう。)の混合物が、多孔体(以下、「(c)成分」ともいう。)に担持されてなる蓄熱体である。 【0016】 (a)成分としては、蓄熱材であれば特に限定されないが、無機潜熱蓄熱材、有機潜熱蓄熱材等が挙げられる。 ・・(中略)・・ 【0018】 有機潜熱蓄熱材としては、例えば、脂肪族炭化水素、長鎖アルコール、長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸エステル、ポリエーテル化合物、脂肪酸トリグリセリド等が挙げられ、これらの蓄熱材のうち1種または2種以上を用いることができる。 【0019】 本発明では、特に有機潜熱蓄熱材を好適に用いることができる。有機潜熱蓄熱材は、沸点が高く揮発しにくいため、蓄熱体形成時における肉痩せがほとんど無く、また長期に亘り蓄熱性能が持続するため、好ましい。さらに、有機潜熱蓄熱材を用いた場合、用途に応じた相変化温度の設定が容易であり、例えば相変化温度の異なる2種以上の有機潜熱蓄熱材を混合することで、容易に相変化温度の設定が可能となる。 ・・(中略)・・ 【0023】 長鎖脂肪酸エステルとしては、例えば、炭素数8?30の長鎖脂肪酸エステルを用いることができ、具体的には、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸ステアリル、フタル酸ジステアリル等が挙げられる。 ・・(中略)・・ 【0025】 脂肪酸トリグリセリドとしては、例えば、ヤシ油、パーム核油等の植物油や、その精製加工品である中鎖脂肪酸トリグリセリド、長鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。 【0026】 本発明では蓄熱材として、特に、脂肪族炭化水素、長鎖脂肪酸エステルを使用することが好ましく、さらには、長鎖脂肪酸エステルを使用することが好ましい。長鎖脂肪酸エステルの中でも、特に、炭素数15?22の長鎖脂肪酸エステルを使用することが好ましく、このような長鎖脂肪酸エステルは、潜熱量が高く、実用温度領域に相変化温度(融点)を有するため、様々な用途に使用しやすい。 【0027】 また、2種以上の有機潜熱蓄熱材を混合して使用する場合は、相溶化剤を用いることが好ましい。相溶化剤を用いることにより、有機潜熱蓄熱材どうしの相溶性をより向上させることができる。 相溶化剤としては、例えば、脂肪酸トリグリセリド、親水親油バランス(HLB)が1?10の非イオン性界面活性剤等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合し用いることができる。 【0028】 脂肪酸トリグリセリドは、上述したように、有機潜熱蓄熱材としても用いられる物質である。このような脂肪酸トリグリセリドは、特に有機潜熱蓄熱材同士の相溶性を、より向上させることができるとともに、優れた蓄熱性を有するため好ましい。脂肪酸トリグリセリドとしては、例えば、ヤシ油、パーム核油等の植物油や、その精製加工品である中鎖脂肪酸トリグリセリド、長鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。 【0029】 親水親油バランス(HLB)が1?10の非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート、ステアリン酸グリセリル、カプリル酸グリセリル、ステアリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、ヤシ脂肪酸ソルビタン等が挙げられる。 【0030】 相溶化剤と(a)成分の混合比は、通常(a)成分100重量部に対し、相溶化剤0.1重量部から30重量部(好ましくは0.5重量部から20重量部)程度とすればよい。」 (a4) 「【0041】 (c)成分は、前述した(a)成分、(b)成分(必要により(d)成分)を担持・保持する成分である。 (c)成分としては、無機多孔体、有機多孔体等特に限定されず用いることができるが、上記(a)成分、(b)成分(及び(d)成分)をより担持・保持しやすい点から有機多孔体が好適に用いられる。さらに、有機多孔体は(a)成分の相変化(特に、液体から固体への変化)による体積収縮に起因する蓄熱体の形状変化も防ぐことができる。 【0042】 このような有機多孔体を形成する樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル・酢酸ビニル樹脂、アクリル・ウレタン樹脂、アクリル・シリコン樹脂、シリコン変性アクリル樹脂、エチレン・酢酸ビニル・ベオバ樹脂、エチレン・酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等の溶剤可溶型、NAD型、水可溶型、水分散型、無溶剤型等、または、クロロプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリルニトリル-ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム等の合成ゴム等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。 【0043】 さらに本発明では、上記樹脂成分のうち、1液タイプ、2液タイプのいずれも使用することができるが、2液タイプのほうが好ましい。例えば、反応性官能基を含有する化合物(以下、「(c-1)成分」という。)と該反応性官能基と反応可能な反応性官能基を含有する化合物(以下、「(c-2)成分」という。)からなる2液タイプが好適に用いられる。 【0044】 このような、反応性官能基の組み合わせとしては、ヒドロキシル基とイソシアネート基、ヒドロキシル基とカルボキシル基、ヒドロキシル基とイミド基、ヒドロキシル基とアルデヒド基、エポキシ基とアミノ基、エポキシ基とカルボキシル基、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とオキサゾリン基、カルボニル基とヒドラジド基、カルボキシル基とアジリジン基、アルコキシル基どうし等が挙げられる。 【0045】 ヒドロキシル基を含有する化合物としては、例えば、 ヒドロキシル基含有単量体; 多価アルコール; ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリテトラメチレングリコールポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシプロピレンエチレンポリオール、エポキシポリオール、アルキドポリオール、フッ素含有ポリオール、ケイ素含有系ポリオール等のポリオール; セルロース及び/またはその誘導体、アミロース等の多糖類; 等が挙げられる。 【0046】 本発明では、特に、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィンポリオール、セルロース及びその誘導体を用いることが好ましく、このようなヒドロキシル基を含有する化合物を用いることにより、緻密な架橋構造を形成するとともに、(a)成分との相溶性が良好で、蓄熱体からの(a)成分の漏れを抑制しやすい点で、好適に使用することができる。 ・・(中略)・・ 【0067】 ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等のポリアルキレングリコールの他、エチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体などの単量体成分として複数のアルキレンオキシドを含む(アルキレンオキサイド-他のアルキレンオキサイド)共重合体等が挙げられる。 【0068】 このようなポリオールの水酸基価は、特に限定されないが、20?150KOHmg/g(好ましくは25?120KOHmg/g、さらに好ましくは30?80KOHmg/g)程度とすればよい。 【0069】 また、ポリオールの分子量は、特に限定されないが、500?10000であることが望ましく、さらには1000?3000であることが望ましい。このような分子量であれば、イソシアネート基を含有する化合物やカルボキシル基を含有する化合物等との組み合わせにより、蓄熱材の漏れを抑制できる架橋構造を得ることができる。分子量が小さすぎる場合は、蓄熱材が漏れ易くなる恐れがある。分子量が大きすぎる場合は、蓄熱材を十分に保持できなくなる恐れがある。」 (a5) 「【0073】 イソシアネート基を含有する化合物としては、例えば、1,3-トリメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,3-ペンタメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2-メチル-1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエート、リジンジイソシアネ-ト、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート; 【0074】 1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4´-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート; 【0075】 m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、ナフチレン-1,4-ジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、4,4´-ジフェニルジイソシアネート、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´-ジフェニルエ-テルジイソシアネート、2-ニトロジフェニル-4,4´-ジイソシアネート、2,2´-ジフェニルプロパン-4,4´-ジイソシアネート、3,3´-ジメチルジフェニルメタン-4,4´-ジイソシネート、4,4´-ジフェニルプロパンジイソシアネート、3,3´-ジメトキシジフェニル-4,4´-ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート; 【0076】 1,3-キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,4-キシリレンジイソシアネ-ト(XDI)、ω,ω´-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン、1,3-ビス(1-イソシアネート-1-メチルエチル)ベンゼン、1,4-ビス(1-イソシアネート-1-メチルエチル)ベンゼン、1,3-ビス(α,α-ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼン等の芳香脂肪族ジイソシアネート; 等、及びこれらのイソシアネート基含有化合物をアロハネート化、ビウレット化、2量化(ウレチジオン)、3量化(イソシアヌレート)、アダクト化、カルボジイミド反応等によって誘導体化したもの、及びそれらの混合物、及びこれらのイソシアネート基を含有する化合物と上述した共重合可能な単量体との共重合体等が挙げられる。 【0077】 本発明では、特に、脂肪族ジイソシアネートを用いることが好ましく、特にHMDI及びその誘導体化したもの等が好ましい。」 (a6) 「【0083】 (c-1)成分と(c-2)成分の組み合わせとして、本発明では、ヒドロキシル基を含有する化合物とイソシアネート基を含有する化合物、エポキシ基を含有する化合物とアミノ基を含有する化合物等の組み合わせが好ましく、特にヒドロキシル基を含有する化合物とイソシアネート基を含有する化合物の組み合わせが好ましい。このような、組み合わせでは、温和な条件下で架橋反応が進行しやすく、また、架橋密度等の調節も容易であるため好ましい。 【0084】 また、(c-1)成分と(c-2)成分の混合比率は、特に限定されず、用途に合わせて適宜設定すればよい。 例えば、ヒドロキシル基を含有する化合物とイソシアネート基を含有する化合物を用いる場合は、NCO/OH比率で通常0.1?1.8、好ましくは0.2?1.5、さらに好ましくは0.3?1.3となる範囲内で設定すればよい。 このようなNCO/OH比率の範囲内であることにより、蓄熱体の強度を強靭なものとすることができ、蓄熱材の漏れのない均一な緻密な架橋構造を得ることができる。 NCO/OH比率が0.1より小さい場合は、架橋率が低くなり、硬化性、耐久性、強度等において十分な物性を確保することができない場合があり、また蓄熱材が漏れ易くなる。NCO/OH比率が1.8よりも大きい場合は、未反応のイソシアネートが残存し、蓄熱体の各種物性に悪影響を与え、蓄熱体が変形しやすくなり、蓄熱材が漏れやすくなる。」 (a7) 「【0088】 多孔体の製造は、上記成分を用いて、公知の方法で製造すればよい。 また、多孔体の形状も、(a)成分及び(b)成分(及び(d)成分)が担持・保持することができれば、特に限定されず、例えば、粒子凝集型多孔体、スポンジ型多孔体、3次元編目構造型多孔体等の形状を有するもの等が挙げられる。本発明では、特に、(a)成分及び(b)成分(及び(d)成分)がより担持・保持されやすい点から、3次元編目構造型多孔体が好ましく用いられる。 【0089】 (蓄熱体の製造方法) 本発明蓄熱体を製造する方法としては、上記多孔体に、浸漬法、減圧・加圧注入法等により(a)成分と(b)成分(及び(d)成分)を担持する方法、また、多孔体製造時に予め(a)成分と(b)成分(及び(d)成分)を混合しておき担持する方法等が挙げられる。 【0090】 本発明では、多孔体製造時に予め(a)成分と(b)成分(及び(d)成分)を混合しておき担持する方法が好ましく、このような方法では、多孔体から(a)成分及び(b)成分(及び(d)成分)が洩れることを、よりいっそう防ぐことができ好ましい。 具体的には、まず、(a)成分、(b)成分(及び(d)成分)及び樹脂成分を混合し、次いで樹脂成分を硬化させることにより、(a)成分、(b)成分(及び(d)成分)が多孔体に担持された蓄熱体を得るものである。好ましくは、(a)成分、(b)成分(及び(d)成分)、(c-1)成分、(c-2)成分を均一に混合し、(a)成分と(c-1)成分、(c-2)成分を相溶状態にする。次いで、(c-1)成分と(c-2)成分を反応させることにより、(a)成分と(b)成分(及び(d)成分)が多孔体に担持された蓄熱体を得るものである。この過程では、相溶状態から非相溶状態の変化に伴うミクロ相分離が起こり、(c-1)成分と(c-2)成分からなる緻密に入り組んだ3次元編目構造型多孔体が形成されるものと思われる。 この3次元編目構造型多孔体に(a)成分と(b)成分(及び(d)成分)が担持された状態となり、蓄熱体が形成される。 【0091】 このような3次元編目構造型多孔体の製造では、さらに、上述した相溶化剤を混合し製造することが好ましい。相溶化剤は、(a)成分同士の相溶性のみならず、(a)成分と樹脂成分((c-1)成分、(c-2)成分等)との相溶性も向上させることができるため、より緻密な3次元編目構造型多孔体が形成され、多孔体から(a)成分及び(b)成分(及び(d)成分)が洩れることを、よりいっそう防ぐことができる。 相溶化剤としては、上述した脂肪酸トリグリセリドや、親水親油バランス(HLB)が1?10の非イオン性界面活性剤等が挙げられるが、(a)成分と樹脂成分との相溶性には、特に親水親油バランス(HLB)が1?10の非イオン性界面活性剤が好ましい。 【0092】 このとき、反応温度は、(a)成分の融点以上であることが好ましい。具体的な反応温度は(a)成分の種類によって異なるが、通常20℃?100℃程度である。(a)成分の融点以上で反応させることにより、相溶状態になりやすく、優れた蓄熱体が形成される。また、反応時間は通常0.5?10時間程度とすればよい。 【0093】 このような製造において、例えば、ヒドロキシル基を含有する化合物とイソシアネート基を含有する化合物を使用する場合は、ヒドロキシル基を含有する化合物の分子量は、特に限定されないが、500?10000であることが望ましく、さらには1000?3000であることが望ましい。このような分子量であれば、(a)成分と容易に溶融混合することができ、容易に相溶状態をつくり出すことができる。よって、より優れた3次元架橋構造を得ることができ、優れた蓄熱体を得ることができる。 さらに、ヒドロキシル基を含有する化合物とイソシアネート基を含有する化合物の混合比率は、特に限定されず、適宜設定すればよいが、NCO/OH比率が、0.1?1.8、好ましくは0.2?1.5、さらに好ましくは0.3?1.3であることによって、より優れた3次元架橋構造を得ることができ、優れた蓄熱体を得ることができる。 【0094】 本発明蓄熱体は、上記製造方法により製造することができる。また、その形状は、シート状、棒状、針状、球状、角状、粉末状等、特に限定されない。 本発明ではシート状が好ましく、例えば、シート状の蓄熱体は、蓄熱体の片面または両面に各種基材を、使用用途に合わせて積層することもできるし、また、シート形成時に各種基材を予め積層し、蓄熱体を形成することもできる。この際、蓄熱体の形成方法としては、特に限定されず、押出し形成、型枠形成等、または各種基材にスプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗り、コテ塗り、流し込み等の公知の方法で塗付することにより形成することができる。 【0095】 基材としては、不織布、織布、紙、合成紙、木材、パーティクルボード、セラミックペーパー、金属板、金属箔、合成樹脂板、プラスチックフィルム(PETフィルム等)、石膏ボード、珪酸カルシウム板、セメント系板、硬質フォーム板、ガラスクロス、メッシュ等が挙げられる。 【0096】 また、シート状の蓄熱体の厚さは、特に限定されないが、通常1?30mm(好ましくは、2?20mm)程度とすればよい。 【0097】 本発明蓄熱体の蓄熱材含有率は、好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、最も好ましくは65重量%以上である。 本発明では、特に(a)成分と(b)成分の混合物を用いることにより、(a)成分が粘度調整され、多孔体に担持された(a)成分が外部へ漏れ出すのを防ぐことができるため、高い蓄熱材含有率を達成することができる。 さらに多孔体の成分を適宜設定することにより、(c)成分との相互作用が働き、(a)成分が外部へ漏れ出すのをより防ぐことができる。 また、多孔体として3次元編目構造型多孔体であれば、その緻密な構造の故、(a)成分が外部へ漏れ出すのをより防ぐことができる。」 (a8) 「【実施例】 【0098】 以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にするが、本発明はこの実施例に限定されない。 【0099】 (実施例1) 表1に示す原料を用い、表2に示す配合量にて、蓄熱材A、有機処理された層状粘土鉱物Aの混合物と、ヒドロキシル基含有化合物A、ポリイソシアネートAを均一に混合し、反応促進剤Aを加え、十分攪拌した後、250mm×170mm×5mmの型枠中に流し込み、50℃で30分硬化させ、試験体を得た。 【0100】 なお、蓄熱材A、有機処理された層状粘土鉱物Aの混合物の粘度は10.4Pa・sであった。また、TI値は7.9であった。 粘度は、BH型粘度計による、23℃、20rpmにおける粘度(4回転目の指針値)を測定することにより求められた値である。 TI値は、TI値:BH型粘度計を用い、温度23℃、相対湿度50%RHにおいて、式1により求められる値である。 TI値=η1/η2 (式1) (但し、η1:2rpmにおける粘度(Pa・s:2回転目の指針値)、η2:20rpmにおける粘度(Pa・s:4回転目の指針値)) 【0101】 得られた試験体を用い、次に試験を行った。 【0102】 (蓄熱材漏れ評価試験) 得られた試験体を、10℃または50℃の雰囲気下で72時間放置した後、温度23℃、湿度50%(以下、「標準状態」ともいう。)環境下に移し、試験体からの蓄熱材の漏れを観察した。評価は次の通りである。結果は表3に示す。 ◎:漏れが見られなかった ○:漏れがほとんどみられなかった ×:漏れが見られた 【0103】 (蓄熱物性試験) DSC220CU(セイコーインスツルメンツ株式会社製)を用いて、示差走査熱量測定(DSC測定)により、得られた試験体の相変化温度(℃)および潜熱量(kJ/kg)を測定した。測定条件としては、アルミニウムをリファレンスとし、昇温温度10℃/min、-20?60℃の温度領域で測定した。結果は表3に示す。 【0104】 (加工性試験) 標準状態において、得られた試験体をカッターナイフで切断し、切断面からの蓄熱材の漏れを観察した。評価は次の通りである。結果は表3に示す。 ◎:漏れがみられなかった ○:漏れがほとんどみられなかった ×:漏れがみられた 【0105】 (施工性試験) 標準状態において、得られた試験体に釘打ちし、釘打ちによる蓄熱材の漏れを観察した。評価は次の通りである。結果は表3に示す。 ◎:漏れがみられなかった ○:漏れがほとんどみられなかった ×:漏れがみられた 【0106】 (実施例2) 表1に示す原料を用い、表2に示す配合量にて、蓄熱材B、有機処理された層状粘土鉱物Bの混合物と、ヒドロキシル基含有化合物B、ポリイソシアネートBを均一に混合し、反応促進剤Aを加え、十分攪拌した後、250mm×170mm×5mmの型枠中に流し込み、50℃で30分硬化させ、試験体を得た。 なお、蓄熱材B、有機処理された層状粘土鉱物Bの混合物の粘度は2.5Pa・sであった。また、TI値は6.8であった。 得られた試験体について、実施例1と同様の試験を行った。結果は表3に示す。 【0107】 (実施例3) 表1に示す原料を用い、表2に示す配合量にて、蓄熱材B、有機処理された層状粘土鉱物Bの混合物と、ヒドロキシル基含有化合物C、ポリイソシアネートBを均一に混合し、反応促進剤Aを加え、十分攪拌した後、250mm×170mm×5mmの型枠中に流し込み、50℃で30分硬化させ、試験体を得た。 なお、蓄熱材B、有機処理された層状粘土鉱物Bの混合物の粘度は2.5Pa・sであった。また、TI値は6.8であった。 得られた試験体について、実施例1と同様の試験を行った。結果は表3に示す。 【0108】 (実施例4) 表1に示す原料を用い、表2に示す配合量にて、蓄熱材B、有機処理された層状粘土鉱物B、熱伝導性物質の混合物と、ヒドロキシル基含有化合物C、ポリイソシアネートBを均一に混合し、反応促進剤Aを加え、十分攪拌した後、250mm×170mm×5mmの型枠中に流し込み、50℃で30分硬化させ、試験体を得た。 なお、蓄熱材B、有機処理された層状粘土鉱物B、熱伝導性物質の混合物の粘度は4.5Pa・sであった。また、TI値は7.1であった。 得られた試験体について、実施例1と同様の試験を行った。結果は表3に示す。 【0109】 (実施例5) 表1に示す原料を用い、表2に示す配合量にて、蓄熱材A、蓄熱材B、有機処理された層状粘土鉱物Bの混合物と、ヒドロキシル基含有化合物C、ポリイソシアネートBを均一に混合し、反応促進剤Aを加え、十分攪拌した後、250mm×170mm×5mmの型枠中に流し込み、50℃で30分硬化させ、試験体を得た。 なお、蓄熱材A、蓄熱材B、有機処理された層状粘土鉱物Bの混合物の粘度は3.3Pa・sであった。また、TI値は7.0であった。 得られた試験体について、実施例1と同様の試験を行った。結果は表3に示す。 【0110】 (実施例6) 表1に示す原料を用い、表2に示す配合量にて、蓄熱材A、蓄熱材B、相溶化剤A、有機処理された層状粘土鉱物Bの混合物と、ヒドロキシル基含有化合物C、ポリイソシアネートBを均一に混合し、反応促進剤Aを加え、十分攪拌した後、250mm×170mm×5mmの型枠中に流し込み、50℃で30分硬化させ、試験体を得た。 なお、蓄熱材A、蓄熱材B、相溶化剤A、有機処理された層状粘土鉱物Bの混合物の粘度は3.1Pa・sであった。また、TI値は6.9であった。 得られた試験体について、実施例1と同様の試験を行った。結果は表3に示す。 【0111】 (実施例7) 表1に示す原料を用い、表2に示す配合量にて、蓄熱材A、蓄熱材B、相溶化剤B、有機処理された層状粘土鉱物B、熱伝導性物質の混合物と、ヒドロキシル基含有化合物C、ポリイソシアネートBを均一に混合し、反応促進剤Aを加え、十分攪拌した後、250mm×170mm×5mmの型枠中に流し込み、50℃で30分硬化させ、試験体を得た。 なお、蓄熱材A、蓄熱材B、相溶化剤B、有機処理された層状粘土鉱物B、熱伝導性物質の混合物の粘度は2.8Pa・sであった。また、TI値は6.7であった。 得られた試験体について、実施例1と同様の試験を行った。結果は表3に示す。 【0112】 (比較例1) シリカパウダー(吸油量350g/100g)7重量部に表1に示す蓄熱材A20重量部を含浸させて、ペーストを作製した。その後、作製したペースト27重量部、水35重量部、焼石膏40重量部を混合したスラリーを250mm×170mm×5mmの型枠中に流し込み、50℃で12時間乾燥し、試験体を得た。得られた試験体について、実施例1と同様の試験を行った。結果は表3に示す。 【0113】 (比較例2) 表1に示す蓄熱材Aを内包した蓄熱材マイクロカプセル水分散液(固形分50%、蓄熱材含有率40重量%、カプセル成分:メラミン樹脂)35重量部と、水25重量部、焼石膏40重量部を混合したスラリーを250mm×170mm×5mmの型枠中に流し込み、50℃で12時間乾燥し、試験体を得た。得られた試験体について、実施例1と同様の試験を行った。結果は表3に示す。 【0114】 (比較例3) 表1に示す蓄熱材Aをアルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートのシートでラミネートし(250mm×170mm×5mm)、試験体を得た。得られた試験体について、実施例1と同様の試験を行った。結果は表3に示す。ただし、蓄熱物性試験については、直接測定することが不可能であるため、蓄熱材の物性値から、シートの熱伝導率や重量に基づき換算した。 【0115】 (比較例4) 表1に示す蓄熱材Aをゼラチンでカプセル化したもの(粒径3mm、蓄熱材含有率70%)を250mm×170mm×5mmのポリエチレンテレフタレートのケースに詰め込み、試験体を得た。得られた試験体について、実施例1と同様の試験を行った。結果は表3に示す。ただし、蓄熱物性試験については、直接測定することが不可能であるため、蓄熱材の物性値から、ゼラチン被膜およびポリエチレンテレフタレートのケースの熱伝導率や重量に基づき換算した。 【0116】 【表1】 【0117】 【表2】 【0118】 【表3】 」 (2)甲1に記載された発明 甲1には、上記(a1)ないし(a8)の記載事項(特に、摘示(a1)、(a3)、(a4)及び(a8)の各下線部の記載事項)からみて、 「有機潜熱蓄熱材である蓄熱材(a)と有機処理された層状粘土鉱物(b)の混合物が、反応性官能基を含有する化合物(c-1)と該反応性官能基と反応可能な反応性官能基を含有する化合物(c-2)との混合物と混合され、反応性官能基を含有する化合物(c-1)と該反応性官能基と反応可能な反応性官能基を含有する化合物(c-2)とを反応させることにより形成される多孔体(c)に、有機潜熱蓄熱材である蓄熱材(a)と有機処理された層状粘土鉱物(b)の混合物が担持されてなる蓄熱体の製造方法。」 に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 2.取消理由についての検討 (1)本件請求項1に係る発明(本件発明)について ア.対比 本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「有機潜熱蓄熱材である蓄熱材(a)」は、甲1には、当該「有機潜熱蓄熱材」として長鎖脂肪酸エステル、例えば、炭素数8?30の長鎖脂肪酸エステルを使用することが記載されている(摘示(a3)【0023】)から、本件発明における「相変化材料(PCM)」及び「前記PCMは、脂肪酸モノエステルおよびその混合物からなる群から選択され」るに相当する。 また、甲1発明における「反応性官能基を含有する化合物(c-1)と該反応性官能基と反応可能な反応性官能基を含有する化合物(c-2)との混合物」は、甲1には、当該「反応性官能基を含有する化合物(c-1)」及び「該反応性官能基と反応可能な反応性官能基を含有する化合物(c-2)」として、当該「反応性官能基」の組み合わせとしては、ヒドロキシル基とイソシアネート基が挙げられ(摘示(a4)【0044】)、特に(c-1)成分と(c-2)成分の組み合わせとして、特にヒドロキシル基を含有する化合物とイソシアネート基を含有する化合物の組み合わせが好ましいこと(摘示(a6))、当該ヒドロキシル基を有する化合物として、「多価アルコール」であるポリエーテルポリオール、ポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシプロピレンエチレンポリオール等のポリオール、特に、ポリエーテルポリオールを用いることが好ましく、ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体などの単量体成分として複数のアルキレンオキシドを含む(アルキレンオキサイド-他のアルキレンオキサイド)共重合体等が挙げられること(摘示(a4)【0045】、【0046】及び【0067】)並びに当該「ポリオール」として水酸基価が20?150KOHmg/gで分子量が500?10000であること(摘示(a4)【0068】及び【0069】)がそれぞれ記載されており、さらに、上記イソシアネート基を有する化合物として、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート等、及びこれらのイソシアネート基含有化合物をアロハネート化、ビウレット化、2量化(ウレチジオン)、3量化(イソシアヌレート)、アダクト化、カルボジイミド反応等によって誘導体化したもの、及びそれらの混合物、及びこれらのイソシアネート基を含有する化合物と上述した共重合可能な単量体との共重合体等が挙げられ、特に、脂肪族ジイソシアネートを用いることが好ましく、特にHMDI及びその誘導体化したもの等が好ましいこと(摘示(a5))が記載されているから、本件発明における「ポリオール成分・・と、イソシアネート成分とを反応させて、・・ポリウレタン・・組成物を形成し」、「1つ以上の長鎖ポリエーテルポリオールを含むポリオール成分」及び「前記1つ以上の長鎖ポリエーテルポリオールは、1900を超える分子量(数平均)を有するプロピレンオキシドポリエーテルポリオールおよび・・エチレンオキシド(EO)を有し1900を超える分子量(数平均)を有するプロピレンオキシド/エチレンオキシドポリエーテルポリオールからなる群より選択されるアルキレンオキシドポリエーテルポリオールであ」るにそれぞれ相当し、「前記イソシアネート成分は、1.5?3.5の反応性官能価を有する1つ以上のイソシアネートを含み」との点につき、2.0以上の反応性官能価の範囲において重複する。 さらに、甲1発明における「蓄熱体の製造方法」は、当該「蓄熱体」が周囲から熱を吸収して蓄熱できるものであるから、本件発明における「温度調節ポリウレタン・・組成物を製造する方法」に相当する。 してみると、本件発明と甲1発明とは、 「温度調節ポリウレタン組成物を製造する方法であって、 ポリオール成分および相変化材料(PCM)から製造された混合物と、イソシアネート成分とを反応させて、前記温度調節ポリウレタン組成物を形成し、 前記イソシアネート成分は、2.0?3.5の反応性官能価を有する1つ以上のイソシアネートを含み、 前記1つ以上の長鎖ポリエーテルポリオールは、1900を超え10000以下である分子量(数平均)を有するプロピレンオキシドポリエーテルポリオールおよびエチレンオキシド(EO)を有し1900を超え10000以下である分子量(数平均)を有するプロピレンオキシド/エチレンオキシドポリエーテルポリオールからなる群より選択されるアルキレンオキシドポリエーテルポリオールであり、 前記PCMは、脂肪酸モノエステルおよびその混合物からなる群から選択される、 ことを特徴とする、方法。」 で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:製造する「温度調節ポリウレタン組成物」につき、本件発明では「温度調節ポリウレタンゲル組成物」であるのに対して、甲1発明では「蓄熱体」である点 相違点2:本件発明では「ゲルネットワークを膨張させる流体は、1つ以上の長鎖ポリエーテルポリオールを含むポリオール成分によって提供され」るのに対して、甲1発明では「ゲルネットワークを膨張させる流体」につき特定されていない点 相違点3:本件発明では「前記PCMはカプセル化なしに前記ポリウレタンゲルの流体相中に直接組み込まれること、を含」むのに対して、甲1発明では「形成される多孔体(c)に、有機潜熱蓄熱材である蓄熱材(a)と有機処理された層状粘土鉱物(b)の混合物が担持されてなる」点 相違点4:甲1発明では「形成される多孔体(c)に、有機潜熱蓄熱材である蓄熱材(a)と有機処理された層状粘土鉱物(b)の混合物が担持されてなる」のに対して、本件発明では「有機処理された層状粘土鉱物(b)」の使用につき特定されていない点 イ.検討 事案に鑑み、上記相違点1及び3につきそれぞれ検討する。 (ア)相違点1について 相違点1につき検討するにあたり、本件特許明細書の記載を検討すると、本件特許明細書には、『ゲルは、IUPAC用語に従って、「流体によってその全容積に渡って膨張する非流動性ポリマーネットワーク」、いわゆる膨潤剤または増量剤、として定義される。流体(不連続相、分散相、分散剤または流体相)は、物理的または化学的に架橋させることができるネットワーク(ネットワーク相、連続相)内で物理的または化学的に結合していてもよい。ポリウレタンゲル(PU-ゲル:polyurethanegel)では、架橋ポリウレタン骨格が連続相を構成する。ゲルの固有の物理的性質は、増加した接触面によりユーザーを支持することを可能にする。材料は不可逆的な流れなしに、あらゆる方向に動くことができ、不快感や圧迫痕を回避する重量の分配をすることができる。』(【0003】)と定義されているのに対して、『過剰のOH基で「不十分な架橋(undercrosslinking)」を達成することは、本発明の概念の一部である。鎖、すなわち遊離の官能性OH基を有する「分枝」は、ゲルの流体相または分散剤を提供する。換言すれば、ポリオールの一部は流体ゲル相を形成し、その中に選択されるPCM(方法工程2、下記参照)が溶解され(方法工程3、下記参照)、それにより組み込まれる(方法工程4、下記参照)。最初のゲル混合物内の官能基の数は、OH_(総数)>NCO_(総数)と表すことができる。』こと、『不十分な架橋の条件下では、脂肪酸エステルPCMを溶解する優れた溶解環境がPU-ゲル内に生成される。ここに教示されているように、EO含有量および「遊離」非架橋ポリエーテルポリオール分枝の概念は、脂肪酸エステルPCMの溶媒和のための重要なパラメータである。』こと並びに『驚くべきことに、PCMは、純物質における温度に近い温度で、繰り返し結晶化および再溶解することができる・・。PCMが、カプセル内またはエマルジョン内のような分離したPCM相を伴うことなく、これらの条件下でその官能性を維持できることは、驚くべきことであり、予期できなかった。』ことがそれぞれ記載されている(【0029】ないし【0031】)から、本件発明における「ゲル組成物」は、過剰のOH基の存在により不十分にNCO基による架橋をさせて、全体として流体、すなわち流動体である「ゲル組成物」を構成しているものと解するのが自然である。 それに対して、甲1発明につき、甲1には、「多孔体の形状も、(a)成分及び(b)成分(及び(d)成分)が担持・保持することができれば、特に限定されず、例えば、粒子凝集型多孔体、スポンジ型多孔体、3次元編目構造型多孔体等の形状を有するもの等が挙げられる。本発明では、特に、(a)成分及び(b)成分(及び(d)成分)がより担持・保持されやすい点から、3次元編目構造型多孔体が好ましく用いられる。」(摘示(a7)【0088】)とされ、いずれも、(a)成分(及び(b)成分)を担持・保持する何らかの形状を有する有形物であり、多孔体が全体として一定形状を有するものを意図することが明らかであって、甲1発明に係る「蓄熱体」が、全体として流体(又は流動体)という外力により不可逆変形する不定形物を構成することを意図しているものとは認められない。 してみると、製造方法により得られる目的物が実質的に異なるものであるから、上記相違点1は、実質的な相違点であるということができる。 (イ)相違点3について 相違点3につき検討すると、上記(ア)でも説示したとおり、甲1発明の「蓄熱体」では、ポリウレタン樹脂からなる多孔体に(a)成分及び(b)成分(及び(d)成分)が担持されたものであるから、(a)成分のみに注視すると、(a)成分に相当するPCMがカプセル化なしにポリウレタン樹脂中に組み込まれているかに見えるが、甲1発明の「蓄熱体」においては、あくまでポリウレタン樹脂からなる多孔体の孔部に(a)成分及び(b)成分(及び(d)成分)が担持されたものであって、本件発明のように全体として流体であるポリウレタンゲルの流体相中にPCMが直接組み込まれているものとはいえない。 してみると、上記相違点3は、実質的な相違点であるということができる。 (ウ)小括 したがって、上記相違点1及び3は、いずれも実質的な相違点である。 ウ.本件発明についての検討のまとめ 以上のとおり、本件発明、すなわち、請求項1に係る発明は、少なくとも相違点1及び3の各点で甲1発明とは実質的に相違しているから、その余の相違点につき検討するまでもなく、本件発明が、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるということはできない。 (2)本件特許の他の請求項に係る発明について 本件特許の請求項2ないし請求項7に係る各発明につき検討すると、請求項2ないし請求項7に係る各発明は、いずれも、請求項1に係る発明(本件発明)を直接又は間接的に引用する温度調節ポリウレタンゲル組成物を製造する方法に係る発明であるところ、上記(1)で説示したとおりの理由により、請求項1に係る発明(本件発明)は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるということはできないのであるから、請求項2ないし請求項7に係る各発明についても、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるということはできない。 (3)検討のまとめ 以上のとおりであるから、本件特許に係る請求項1ないし7に係る発明は、いずれも甲1に記載された発明ということはできないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条に違反して特許されたものではないのであって、申立人が主張する上記取消理由は理由がない。 3.当審の判断のまとめ よって、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、上記取消理由は理由がなく、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、取り消すことができない。 第5 むすび 以上のとおり、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由は理由がなく、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、取り消すことができない。 ほかに、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-05-28 |
出願番号 | 特願2017-1081(P2017-1081) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C08G)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小森 勇 |
特許庁審判長 |
近野 光知 |
特許庁審判官 |
大熊 幸治 橋本 栄和 |
登録日 | 2019-05-17 |
登録番号 | 特許第6526073号(P6526073) |
権利者 | テクノゲル イタリア エス.アール.エル. |
発明の名称 | 温度調節ポリウレタンゲル |
代理人 | 河野 直樹 |
代理人 | 峰 隆司 |
代理人 | 大宅 郁治 |
代理人 | 金子 早苗 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |