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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
管理番号 1363449
審判番号 不服2018-11278  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-20 
確定日 2020-06-17 
事件の表示 特願2013-146160「大型往復ピストン燃焼エンジン、ならびにそのようなエンジンを制御する制御機器および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年2月3日出願公開、特開2014-20375〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年7月12日(パリ条約による優先権主張2012年(平成24年)7月17日(EP)欧州特許庁)の出願であって、その手続は以下のとおりである。
平成29年5月29日付け(発送日:同年5月31日):拒絶理由通知書
平成29年11月29日:意見書、手続補正書の提出
平成30年4月17日付け(発送日:同年4月20日):拒絶査定
平成30年8月20日:審判請求書、手続補正書の提出
平成30年11月30日:上申書の提出
令和元年6月26日付け(発送日:同年6月27日):拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由」という。)
令和元年10月25日:意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和元年10月25日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「160mm超のシリンダボアを有し、シリンダライナを備える少なくとも一つのシリンダと、前記シリンダライナ内に可動式に配置された少なくとも一つのピストンと、クランクシャフトハウジング内に回転可能に配置されたクランクシャフトとを有する大型往復ピストン燃焼エンジンであって、
前記ピストンは、何れの場合も、ピストンロッドを介してクロスヘッドに接続され、前記クロスヘッドは、何れの場合も、接続ロッドを介して前記クランクシャフトに接続され、前記クランクシャフトが駆動され、
制御装置が設けられて、当該往復ピストン燃焼エンジンの圧縮比が制御され、前記制御装置は、クロスヘッドまたはクロスヘッドピンに提供されて、前記ピストンロッドを前記クロスヘッドに対して移動させるようになっていることを特徴とする大型往復ピストン燃焼エンジン。」

第3 当審における拒絶の理由
当審が通知した拒絶理由のうちの理由3は、次のとおりのものである。

(進歩性)本願の請求項1ないし17に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.特公昭63-52221号公報
2.特開2003-201875号公報(本審決における引用文献)
3.特開2005-113843号公報
4.実願昭62-1467号(実開昭63-110643号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
5.実願平2-15809号(実開平3-106144号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
6.特開2005-54619号公報(周知技術を示す文献)
7.特開昭64-35029号公報(周知技術を示す文献)
8.特表2003-515696号公報(周知技術を示す文献)
9.特開2000-73804号公報(周知技術を示す文献)
10.特開2009-36128号公報(周知技術を示す文献)
11.特開2005-54619号公報(周知技術を示す文献)
12.特開昭64-35029号公報(周知技術を示す文献)
13.特開2006-200508号公報(周知技術を示す文献)
14.特開2008-202545号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献及び引用発明
1 引用文献の記載事項
当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献(特開2003-201875号公報)には、「可変ピストンストローク型内燃機関」に関して、図面(特に、【図1】ないし【図3】及び【図6】を参照。)とともに以下の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

ア 「【0011】本実施形態のエンジン1は直列四気筒エンジンであり、ここではそのうちの一気筒のみが断面図として示されている。他の気筒に関しても同様の構造となっている。なお、本発明は直列四気筒エンジンに対してだけでなく、他の気筒数の直列エンジンや他の形式(V型や水平対向型など)のエンジンに対しても適用することができる。本実施形態のエンジン1は、ピストンストローク量と圧縮比とをそれぞれ可変制御可能なものである。即ち、ピストンストローク量と圧縮比とを独立して設定することが可能である。
【0012】エンジン1は、内部にピストン2を往復運動可能に収容したシリンダ3を有しており、ピストン2には通常のエンジンと同様にコネクティングロッド4の上端が連結されている。なお、以下の説明において、便宜上、図1に示される上側(後述するy軸正方向)を上方として説明する。コネクティングロッド4の下端は、通常のエンジンのようにクランクシャフト5に直接連結されておらず、中間アーム6の一端側に連結されている。そして、この中間アーム6の他端側がクランクシャフト5に連結されている。クランクシャフト5がカウンターウェイト5aを有しているのは通常のエンジンと同様である。
【0013】また、この中間アーム6には、中間アーム6の動きを規制してピストン2のストローク量を制御するためのコントロールロッド7の一端が連結されている。このコントロールロッド7の他端7aは、後述する移動機構で移動可能に保持されている。コントロールロッド7は、他端7aが揺動中心となって揺動する。上述した各ロッドやアームの連結部は、回転可能な連結部となっているのは言うまでもない。これらの構成は、各シリンダ3毎に構築されている。
【0014】コネクティングロッド4は、ピストン2の往復運動を効率よく受け止めるため、シリンダ3の下方方向に延設されている。コネクティングロッド4の下端及び中間アーム6の一端はピストン2の往復運動によって回転運動をするが、中間アーム6の動きがコントロールロッド7によって規制されており、中間アーム6の他端を回転させることとなる。この結果、中間アーム6の他端に連結されたクランクシャフト5が回転される。このとき、中間アーム6の動きを規制しているコントロールロッド7は他端揺動中心7aを中心にして揺動する。
【0015】コネクティングロッド4の下端(中間アーム6の一端)の回転運動を、中間アーム6の動きを規制しつつ中間アーム6の他端で回転運動として取り出すので、必然的にクランクシャフト5の回転軸はピストン2の往復振動軸に対してオフセットした位置に配置されている。また、コントロールロッド7の他端7aの位置を移動させるための機構がエンジンブロック8に取り付けられている。なおエンジンブロック8の下方には、オイルパン9が取り付けられている。上述したクランクシャフト5は、エンジンブロック8に対して回転可能に保持されている(図1には、クランクシャフト5の軸受部などは図示されていない)。
【0016】コントロールロッド7の他端揺動中心7aを移動させる移動機構は、他端揺動中心7aを回転可能に支持する支持部を一端に有する支持ロッド10と、この支持ロッド10の中央部に形成されたネジ部に螺合されたギア11と、このギア11に噛み合うウォームギア12aを出力軸に有するモータ12と、これらを内蔵する揺動ユニット13と、この揺動ユニット13を揺動させるモータ14とからなる。モータ14に関しては、図1には図示されておらず、図2及び図3に図示されている。図2及び図3は、上述した移動機構のエンジンブロック8への取付状態を示す斜視図である。
【0017】支持ロッド10は、各シリンダ3毎に用意されており、その一端にコントロールロッド7の他端揺動中心7aが連結されている。支持ロッド10は、その中心軸方向に進退可能な状態で揺動ユニット13内に収納されている。支持ロッド10の進退動は、ギア11・ウォームギア12a・モータ12によって行われる。ギア11・ウォームギア12a・モータ12も揺動ユニット13内に収納されている。支持ロッド10の中央部にはネジ部が形成されており、ギア11の中央部のネジ孔がこれに螺合されている。即ち、支持ロッド10がボルト、ギア11がナットのような関係で両者は螺合している。
【0018】ギア11は、各シリンダ3毎に配設されている各支持ロッド10に対してそれぞれ螺合されている。ギア11が回転すると、支持ロッド10自体はコントロールロッド7と連結されているため回転できないので、支持ロッド10はその中心軸方向に進退動する。ギア11は、ウォームギア12aによって回転される。ギア11の外周部にはギア歯が形成されており、このギア歯がウォームギア12aと螺合している。
【0019】ウォームギア12aは、外周に螺旋状のギア溝を有する円柱状のもので、これは図2及び図3に示されるように、全てのシリンダ3に対して垂直に、全てのギア11に対して同時に螺合するように配置されている。ウォームギア12aは、その中央部がモータ12の内部を貫通しており、モータ12によって回転される。このため、モータ12によってウォームギア12aを回転させることで、コントロールロッド7の他端揺動中心7aを支持ロッド10の中心軸方向に移動させることができる。
【0020】また、図2及び図3に示されるように、揺動ユニット13は、ベアリングキャップ15によってその両端がエンジンブロック8に対して取り付けられている。このため、揺動ユニット13は、一対のベアリングキャップ15による取付部を結んだ中心軸Pを中心にして揺動可能となっている。ただし、揺動ユニット13の揺動可能な角度はそれほど大きくはない。そして、この中心軸Pに出力軸を一致させるようにモータ14がエンジンブロック8に固定されている。モータ14の出力軸と揺動ユニット13とは、中心軸Pを中心にして同時に回転し得るように互いに嵌め合わされている。
【0021】このため、モータ14によって揺動ユニット13を揺動させると、その内部に収納された支持ロッド10も中心軸Pを中心にして揺動されることになる。この結果、コントロールロッド7の他端揺動中心7aを支持ロッド10の中心軸方向に対してほぼ直角な方向に円弧軌跡を描いて移動させることができる。即ち、モータ12及びモータ14を協調して制御することによって、コントロールロッド7の他端揺動中心7aを平面的に(二次元的に)移動させることができる。なお、揺動ユニット13とエンジンブロック8との間の隙間には、ゴムシール部材13aが配置されており、エンジンブロック8内部の液密が保持されている。
【0022】モータ12及びモータ14は、図3に示されるように、互いにCPU16に接続されている。CPU16にはエンジン回転数やアクセル角度やその他の情報が入力されており、これに基づいて最適なピストンストローク量と圧縮比とがCPU16によって算出され、モータ12及びモータ14が制御される(最適なピストンストローク量及び圧縮比を一旦算出せずに、モータ12及びモータ14の制御量が直接算出されるような制御とすることも可能)。上述したこれらの機構がピストンストローク制御手段(本実施形態では圧縮比も制御可能)として機能している。
【0023】このように、他端揺動中心7aを二次元的に移動させることができるので、ピストン2のストローク量と圧縮比とをそれぞれ独立させて制御することが可能となる。もし仮に、他端揺動中心7aが支持ロッド10の中心軸方向に進退動だけが可能となっている場合は、確かにピストン2のストローク量を可変制御することは可能であるが、設定されたストローク量に対して圧縮比は一義的に決まってしまうので、ピストンストローク量と圧縮比とを互いに独立して制御することはできない。」

イ 「【0036】さらに、ここで、クランクシャフト5の回転軸に対して直角な平面(図1に示される平面)において、ピストン2(シリンダ3)の中心を通り、ピストン2の往復運動方向にy軸を設定し、クランクシャフト5の回転軸を通りy軸に直角な方向にx軸を設定してx-y座標軸系を設定する。x軸とy軸との交点を原点Oとし、x軸の正方向はクランクシャフト5の中心軸から原点Oの方向とし、y軸の正方向はピストン2の圧縮方向として設定する。このようにx-y座標軸を設定すると、本実施形態におけるコントロールロッド7の他端揺動中心7aは、第二象限内に位置されている。
【0037】なお、xが正・yが正の領域が第一象限、xが負・yが正の領域が第二象限、xが負・yが負の領域が第三象限、xが正・yが負の領域が第四象限である。このように、他端揺動中心7aを第二象限に位置させることで、好ましいストローク曲線(クランクアングルとピストン位置を示すグラフ上の曲線)と広範囲な圧縮比を得ることが可能となる。コネクティングロッド4や中間アーム6やコントロールロッド7の各連結点の幾何学的位置が変わるとストローク曲線の形状も変わるが、以下には、上述した連結点を代表的な位置に設定して得られるストローク曲線を、他端揺動中心7aを第一・第二・第三・第四象限のそれぞれに設定した場合について示す。
【0038】図5が他端揺動中心7aを第一象限内に設定した場合を示している。図6が他端揺動中心7aを第二象限内に設定した場合を示している。図7が他端揺動中心7aを第三象限内に設定した場合を示している。図8が他端揺動中心7aを第四象限内に設定した場合を示している。これらの図から、コントロールロッド7の他端揺動中心7aを各象限内に設定した場合のピストンストローク量及び圧縮比との関係の傾向を知ることができる。
【0039】図5(b)には、他端揺動中心7aを図5(a)における矢印方向に変化させた場合(二カ所)のピストン2の位置とクランクアングルとの関係がグラフとして示されている。ピストン2の位置が0mmとは、構造上ピストン2がそれ以上上方に行かない位置を示している。即ち、一つの曲線で最上位位置が上死点で、最下位位置が下死点となる。ピストン2が0mmの位置にあるときの上部空間体積とシリンダ3の断面積積とが分かっていれば、図5(b)の曲線から圧縮比を求めることができる。図5(b)から分かるように、他端揺動中心7aを第一象限内に配置した場合は、ピストンストローク量の可変範囲が狭く、十分な圧縮比を確保することができない。
【0040】図6(b)には、他端揺動中心7aを図6(a)における矢印方向に変化させた場合(二カ所)のピストン2の位置とクランクアングルとの関係がグラフとして示されている。これが本実施形態のものである。図6(b)から分かるように、他端揺動中心7aを第二象限内に配置した場合は、ピストンストローク量の可変範囲を広く設定することも可能で、十分な圧縮比を確保することができる。また、ピストンストロークの変化もサインカーブに近くピストン2が円滑に往復運動するので悪影響がない。さらに重要なことに、これらの良好な傾向は、ピストンストロークの可変域全体で得られる。
【0041】図7(b)には、他端揺動中心7aを図7(a)における矢印方向に変化させた場合(三カ所)のピストン2の位置とクランクアングルとの関係がグラフとして示されている。図7(b)から分かるように、他端揺動中心7aを第三象限内に配置した場合は、ピストンストローク量の可変範囲は広く確保でき、十分な圧縮比を確保することができるが、ピストンストロークの変化がサインカーブとはかなり異なったものとなってしまう。このため、ピストン2の往復運動が円滑に行われず、振動が大きくなるなど実用上の問題がある。
【0042】図8(b)には、他端揺動中心7aを第四象限内に設定した場合のピストン2の位置とクランクアングルとの関係がグラフとして示されている。図8(b)から分かるように、他端揺動中心7aを第四象限内に配置した場合は、ピストンストローク量の可変範囲が狭く、十分な圧縮比を確保することが困難である。また、ピストンストロークの変化がサインカーブとはかなり異なったものとなってしまうので、ピストン2の往復運動が円滑に行われない。これらの二つの問題点を考えると実用は困難である。」

ウ 上記アの段落【0011】の「本実施形態のエンジン1は直列四気筒エンジンであり、ここではそのうちの一気筒のみが断面図として示されている。他の気筒に関しても同様の構造となっている。なお、本発明は直列四気筒エンジンに対してだけでなく、他の気筒数の直列エンジンや他の形式(V型や水平対向型など)のエンジンに対しても適用することができる。本実施形態のエンジン1は、ピストンストローク量と圧縮比とをそれぞれ可変制御可能なものである。即ち、ピストンストローク量と圧縮比とを独立して設定することが可能である。」という記載から、引用文献には、1つ以上の気筒を有するエンジン1の圧縮比を可変制御する往復ピストンエンジンが記載されていることが分かる。

エ 上記アの段落【0012】の「エンジン1は、内部にピストン2を往復運動可能に収容したシリンダ3を有しており、ピストン2には通常のエンジンと同様にコネクティングロッド4の上端が連結されている。なお、以下の説明において、便宜上、図1に示される上側(後述するy軸正方向)を上方として説明する。コネクティングロッド4の下端は、通常のエンジンのようにクランクシャフト5に直接連結されておらず、中間アーム6の一端側に連結されている。そして、この中間アーム6の他端側がクランクシャフト5に連結されている。」という記載から、引用文献に記載されたエンジン1はシリンダ3を有しており、ピストン2にはコネクティングロッド4の上端が連結され、コネクティングロッド4の下端には中間アーム6の一端側が連結され、中間アーム6の他端側がクランクシャフト5に連結されていることが分かる。

オ 上記アの段落【0013】の「また、この中間アーム6には、中間アーム6の動きを規制してピストン2のストローク量を制御するためのコントロールロッド7の一端が連結されている。」という記載から、引用文献に記載されたエンジン1の中間アーム6には、中間アーム6の動きを規制してピストン2のストローク量を制御するためのコントロールロッド7の一端が連結されていることが分かる。

カ 上記エ及びオから、コネクティングロッド4の下端と中間アーム6の一端側が連結された部分(以下、この連結された部分を、「コネクティングロッド4と中間アーム6の連結部」という。)を有し、該中間アーム6には、ピストン2のストローク量を制御するためのコントロールロッド7の一端が連結されていることが分かる。

キ 上記アの段落【0013】の「このコントロールロッド7の他端7aは、後述する移動機構で移動可能に保持されている。コントロールロッド7は、他端7aが揺動中心となって揺動する。」という記載及び段落【0016】の「コントロールロッド7の他端揺動中心7aを移動させる移動機構は、他端揺動中心7aを回転可能に支持する支持部を一端に有する支持ロッド10と、この支持ロッド10の中央部に形成されたネジ部に螺合されたギア11と、このギア11に噛み合うウォームギア12aを出力軸に有するモータ12と、これらを内蔵する揺動ユニット13と、この揺動ユニット13を揺動させるモータ14とからなる。」という記載から、引用文献に記載されたエンジン1には、コントロールロッド7の他端揺動中心7aを移動させる移動機構が設けられていることが分かる。
そして、コントロールロッド7の他端揺動中心7aを移動させると、それに伴ってコントロールロッド7の一端も移動し、さらにはコントロールロッド7の一端に連結された中間アーム6も移動することはその構造からみて明らかである。そして、中間アーム6が移動すれば中間アーム6に連結されたコネクティングロッド4も移動する。このとき、中間アーム6とコネクティングロッド4の連結部からみたコネクティングロッド4の相対的位置関係が変化するから、コネクティングロッド4は、中間アーム6とコネクティングロッド4の連結部に対して移動する(角度及び位置が変化する)といえる。

ク 上記イの段落【0037】の「なお、xが正・yが正の領域が第一象限、xが負・yが正の領域が第二象限、xが負・yが負の領域が第三象限、xが正・yが負の領域が第四象限である。このように、他端揺動中心7aを第二象限に位置させることで、好ましいストローク曲線(クランクアングルとピストン位置を示すグラフ上の曲線)と広範囲な圧縮比を得ることが可能となる。」という記載から、(コントロールロッド7の)他端揺動中心7aを第二象限に位置させることで、好ましいストローク曲線(クランクアングルとピストン位置を示すグラフ上の曲線)と広範囲な圧縮比を得ることが可能となることが分かる。

2 引用発明
以上から、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「シリンダ3と、ピストン2と、クランクシャフト5とを有するエンジン1であって、
前記ピストン2は、何れの場合も、コネクティングロッド4を介してコネクティングロッド4と中間アーム6の連結部に接続され、前記コネクティングロッド4と中間アーム6の連結部は、何れの場合も、中間アーム6を介して前記クランクシャフト5に接続され、前記クランクシャフト5が駆動され、
移動機構が設けられて、当該往復ピストン燃焼エンジンの圧縮比が制御され、前記移動機構は、前記コネクティングロッド4と中間アーム6の連結部を移動させて、前記コネクティングロッド4を前記コネクティングロッド4と中間アーム6の連結部に対して移動させるようになっているエンジン1。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「ピストン2」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願発明の「シリンダライナ内に可動式に配置された少なくとも一つのピストン」及び「ピストン」に相当し、以下同様に、「クランクシャフト5」は「クランクシャフトハウジング内に回転可能に配置されたクランクシャフト」及び「クランクシャフト」に、「コネクティングロッド4」は「ピストンロッド」に、「コネクティングロッド4と中間アーム6の連結部」は「クロスヘッドまたはクロスヘッドピン」に、「中間アーム6」は「接続ロッド」に、「移動機構」は「制御装置」に、「移動させ」ることは「提供され」ることに、それぞれ相当する。
また、引用発明の「シリンダ3」と、本願発明の「160mm超のシリンダボアを有し、シリンダライナを備える少なくとも一つのシリンダ」とは、「シリンダボアを有し、シリンダライナを備える少なくとも一つのシリンダ」という限りにおいて一致する。
同様に、引用発明の「エンジン1」と、本願発明の「大型往復ピストン燃焼エンジン」とは、「往復ピストン燃焼エンジン」という限りにおいて一致する。

してみると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

〔一致点〕
「シリンダボアを有し、シリンダライナを備える少なくとも一つのシリンダと、前記シリンダライナ内に可動式に配置された少なくとも一つのピストンと、クランクシャフトハウジング内に回転可能に配置されたクランクシャフトとを有する往復ピストン燃焼エンジンであって、
前記ピストンは、何れの場合も、ピストンロッドを介してクロスヘッドに接続され、前記クロスヘッドは、何れの場合も、接続ロッドを介して前記クランクシャフトに接続され、前記クランクシャフトが駆動され、
制御装置が設けられて、当該往復ピストン燃焼エンジンの圧縮比が制御され、前記制御装置は、クロスヘッドまたはクロスヘッドピンに提供されて、前記ピストンロッドを前記クロスヘッドに対して移動させるようになっている往復ピストン燃焼エンジン。」

〔相違点〕
シリンダボア及び往復ピストン燃焼エンジンに関し、本願発明は、「160mm超の」シリンダボアを有する「大型」往復ピストン燃焼エンジンであるのに対し、引用発明は、シリンダボアのサイズが明確でないエンジンである点。

2 検討
相違点について検討する。
往復ピストン燃焼エンジンのシリンダボアのサイズは用途等により決定される設計的事項といえ、また、「160mm超」のシリンダボアを有するシリンダを備える「大型」のエンジンは、本願の優先日前の周知技術(必要であれば、特開平10-299578号公報の請求項13、段落【0016】、【0028】、【0047】及び【0050】、特開2002-61506号公報の段落【0020】、特開2002-323033号公報の請求項12及び段落【0018】等の記載を参照。)である。そうすると、引用発明の往復ピストン燃焼エンジンにおいて、シリンダボアを「160mm超」として、往復ピストン燃焼エンジンを「大型」にすることには格別の技術的困難性は認められず、阻害要因もない。
してみれば、本願発明は、引用発明を、周知技術であるシリンダボア160mm超の大型エンジンに適用することにより、当業者が容易に発明をするができたものである。

そして、本願発明は、全体としてみても引用発明から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第6 請求人の意見について
令和元年10月25日付けの意見書において、請求人は「引用文献2は、クランクシャフト5に回転可能に連結された中間アーム6と、中間アーム6の動きを規制してピストン2のストローク量をコントロールするコントロールロッド7とを備えた可変ピストンストローク型内燃機関に関するものです。拒絶理由通知書では、「コントロールロッド7」が、本発明の「制御装置」に相当すると認定されています。コントロールロッド7は、一端が中間アーム6に連結され、他端が移動機構に移動機構で移動可能に保持され、コントロールロッド7の他端揺動中心7aを平面的に(二次元的に)移動させることができるようになっています。このようにして、コントロールロッド7は。中間アーム6の動きを規制してピストン2のストローク量を制御します。しかしコネクティングロッド4(本発明の「ピストンロッド)に相当)は、コネクティングロッド4と中間アーム6の連結部(本発明の「クロスヘッド」に相当)に対して連結されており、コネクティングロッド4がこの連結部に対して移動するようにはなっていません。したがって、引用文献2の制御ロッド7は「ピストンロッドをクロスヘッドに対して移動させる」ものではありません。したがって、本発明は、引用文献2に記載された発明から容易に発明できたものではありません。」((5)引用例との比較の(ロ))と主張する。
しかしながら、上記「第4 1 キ」で述べたように、引用発明において、移動機構は、前記コネクティングロッド4と中間アーム6の連結部(「クロスヘッド」に相当)に提供され、前記コネクティングロッド4と中間アーム6の連結部を二次元的に移動させることができるものであり、そのときにコネクティングロッド4(「ピストンロッド」に相当)も二次元的に移動するから、コネクティングロッド4は、前記コネクティングロッド4と中間アーム6の連結部に対して角度及び位置が変化しており、「コネクティングロッド4(「ピストンロッド」に相当)を、前記コネクティングロッド4と中間アーム6の連結部(「クロスヘッド」に相当)に対して移動させるようになっている」といえる。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-01-23 
結審通知日 2020-01-24 
審決日 2020-02-04 
出願番号 特願2013-146160(P2013-146160)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西中村 健一  
特許庁審判長 渋谷 善弘
特許庁審判官 水野 治彦
金澤 俊郎
発明の名称 大型往復ピストン燃焼エンジン、ならびにそのようなエンジンを制御する制御機器および方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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