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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06T 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06T 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06T |
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管理番号 | 1363650 |
審判番号 | 不服2019-4953 |
総通号数 | 248 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-04-15 |
確定日 | 2020-06-24 |
事件の表示 | 特願2017-533373「モニタリング」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月30日国際公開、WO2016/102768、平成30年 3月29日国内公表、特表2018-508851〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 経緯及び査定の概要 1 経緯 本件出願は、2015年(平成27年)12月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年12月24日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。 平成30年 7月23日:拒絶理由の通知 平成30年10月 4日:手続補正、意見書の提出 平成30年12月17日:拒絶査定 平成30年12月19日:拒絶査定の謄本の送達 平成31年 4月15日:拒絶査定不服審判の請求 平成31年 4月15日:手続補正 2 査定の概要 原査定の拒絶の理由は、概略、次のとおりである。 [原査定の拒絶の理由] この出願の請求項1?17に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献:特開2013-25789号公報 第2 補正却下の決定 平成31年4月15日付けの手続補正について次のとおり決定する。 [補正却下の決定の結論] 平成31年4月15日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成31年4月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてする補正であり、そのうち請求項1に係る補正は次のとおりである。 (補正前の請求項1) 「監視空間内に、コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界を定めるべく、少なくとも一つのジェスチャを認識すること、但し前記ジェスチャは経路に沿った動きであって、被監視シーン空間内の位置における動きを有し、前記監視空間と前記被監視シーン空間との間には対応関係が存在する、前記認識することと; 前記被監視シーン空間に対応する前記監視空間の中に、コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界が作成されることを生じさせること、但し前記仮想境界の少なくとも一部分は前記被監視シーン空間内の前記経路によって定められ、前記仮想境界の前記少なくとも一部分は、前記経路の位置に相当する、前記監視空間の対応する位置に位置する、前記生じさせることと; 前記少なくとも一つの仮想境界に関連して前記被監視シーン空間の一部に変化があったとき、受け取ったデータを処理して応答イベントを生成することと; を含むと共に、少なくとも一つの更なるジェスチャを認識すること、及び、該認識することに応じて前記作成された仮想境界に更新を生じさせることを更に含む、方法。」 を、次のとおり補正後の請求項1に補正するものである(下線は補正箇所である。)。 (補正後の請求項1) 「監視空間内に、コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界を定めるべく、少なくとも一つのジェスチャを認識すること、但し前記ジェスチャは経路に沿った動きであって、被監視シーン空間内の位置における動きを有し、前記監視空間と前記被監視シーン空間との間には対応関係が存在する、前記認識することと; 前記被監視シーン空間に対応する前記監視空間の中に、コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界が作成されることを生じさせること、但し前記仮想境界の少なくとも一部分は前記被監視シーン空間内の前記経路によって定められ、前記仮想境界の前記少なくとも一部分は、前記経路の位置に相当する、前記監視空間の対応する位置に位置する、前記生じさせることと; 前記少なくとも一つの仮想境界に関連して前記被監視シーン空間の一部に変化があったとき、受け取ったデータを処理して応答イベントを生成することと; を含むと共に、少なくとも一つの更なるジェスチャを認識すること、及び、該認識することに応じて前記作成された仮想境界に更新を生じさせることを更に含み、ここで前記更新は、応答イベントを生成することなく前記仮想境界とのやりとりを行うことを一時的に可能にすることを含む、方法。」 2 補正の適合性 (1)新規事項、発明の特別な技術的特徴の変更、補正の目的 本件補正のうち、請求項1についての補正は、補正前の請求項1における「更新」を、「ここで前記更新は、応答イベントを生成することなく前記仮想境界とのやりとりを行うことを一時的に可能にすることを含む」とさらに特定するものである。 上記特定事項は、願書に最初に添付した明細書の段落【0126】に記載されており、請求項1についての補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、新たな技術事項を導入するものでなく、特許請求の範囲を減縮を目的とするものである。 (2)独立特許要件 上記のとおり本件補正のうち請求項1についての補正は、特許請求の範囲の減縮を目的としているので、本件補正後における請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かを、以下に検討する。 (3)補正発明 補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、次のとおりのものである。 (補正発明) 「(A)監視空間内に、コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界を定めるべく、少なくとも一つのジェスチャを認識すること、但し前記ジェスチャは経路に沿った動きであって、被監視シーン空間内の位置における動きを有し、前記監視空間と前記被監視シーン空間との間には対応関係が存在する、前記認識することと; (B)前記被監視シーン空間に対応する前記監視空間の中に、コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界が作成されることを生じさせること、但し前記仮想境界の少なくとも一部分は前記被監視シーン空間内の前記経路によって定められ、前記仮想境界の前記少なくとも一部分は、前記経路の位置に相当する、前記監視空間の対応する位置に位置する、前記生じさせることと; (C)前記少なくとも一つの仮想境界に関連して前記被監視シーン空間の一部に変化があったとき、受け取ったデータを処理して応答イベントを生成することと; を含むと共に、 (D)少なくとも一つの更なるジェスチャを認識すること、及び、該認識することに応じて前記作成された仮想境界に更新を生じさせることを更に含み、ここで前記更新は、応答イベントを生成することなく前記仮想境界とのやりとりを行うことを一時的に可能にすること (E)を含む、方法。」 ((A)?(E)は、当審で付与した。以下各構成要件を「構成要件A」?「構成要件E」という。) (4)引用文献の記載及び引用文献に記載された発明 ア 引用文献の記載 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献には、「現実世界環境におけるジェスチャベースの対話型ホットスポット生成のシステム、方法及びプログラム」(発明の名称)に関し、次に掲げる事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ジェスチャを利用して現実世界に対話型ホットスポットを生成するシステム、方法及びプログラムに関する。特にジェスチャを利用したホットスポットの位置の画定及び機能の規定に関する。 【背景技術】 【0002】 複合現実(mixed reality)及び追跡技術の進歩により、現実世界での動作や行動などのイベントをコンピュータシステムなどのデジタル環境におけるアプリケーションイベントのトリガとさせることが、これまでよりはるかに容易となってきた。物理的な現実世界空間から収集される情報を、装置の遠隔制御、ソフトウェアアプリケーションの代替インタフェース、仮想環境とのインタラクション強化等への適用することが考えられる。 【0003】 「ホットスポット(hot spot)」とは、ユーザが明示的または暗示的にシステムと対話する、現実世界空間における一領域のことである。ホットスポットは、インタフェース・ウィジェットとして作用してもよいし、または、システムが何らかの種類の行動を待ち受ける領域として画定されてもよい。以下で更に説明するように、インタラクション(対話)は、ユーザの身体または身体の特定の部位がホットスポットの領域を横切ったり、ユーザの手がホットスポットを指し示したりするというような単純なものであってよい。また、インタラクションは、ホットスポット内で所定のジェスチャをするとか、一連のホットスポットに特定の順序やパターンで触るというような複雑なものであってもよい。一連のホットスポットは、おそらくは他の種類のウィジェットと共にインタフェースを形成してもよい。ホットスポットは、持続的なものであって、一般的には現実世界に固定されてもよくまたは現実世界内のオブジェクトに固定されていてもよい。ホットスポット領域は、3次元(3D)の立体であったり、面であったり、または点であったりしてよいし、均質であっても不均質であってもよい。 【0004】 現在のところ、カメラベースのシステムにおいて、カメラが撮影した画像上にマークを施すか、ホットスポットの物理座標の測定値を手入力するか、現実世界環境を反映するミラー世界内の位置を指示するかによって、物理的なホットスポット位置が生成されることが多い。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 制御ポイント及び対話空間として物理(現実)世界における領域を利用することが自然であるが、これらの領域を画定することは容易ではない。そこで、ジェスチャを利用して現実世界に対話型ホットスポットを生成するシステム、方法及びプログラムを提供する。」 「【0034】 本明細書で説明するシステム及び方法は、現実世界環境でのジェスチャに基づくホットスポット生成を提供する。現実世界環境の3次元空間においてユーザが行うジェスチャが、カメラなどの動作取得装置により検知される。次に、そのジェスチャが、識別されて、「ホットスポット」を生成するためのものであると解釈される。このホットスポットとは、3次元空間内のある領域であり、そこを通してユーザがコンピュータシステムと対話する。ホットスポットが現実世界環境に固定されているか、または現実世界環境内のオブジェクトに固定されているかが、ジェスチャによって示されてもよい。ジェスチャは、ホットスポットを始動し、そのホットスポットのアクションをシステムのアクション、例えばコンピュータ上のアプリケーションやシステム接続された電子装置の制御等のアクションに関連付ける。ジェスチャのタイプを識別するためにホットスポットの機能が規定される。」 「【0037】 [I.システム構成] 図1は、対話型ホットスポットを生成するシステムの一実施形態のブロック図である。システムには通常、動作取得装置102とコンピュータ104とディスプレイ装置106が含まれる。動作取得装置102は、ユーザがポーズをとってジェスチャをするときに、ユーザの位置及び動作を取得する。動作取得装置102はビデオカメラであってもよい。但し、動作取得装置は特定領域において動作を検知し、その際画像は取り込まないような極力単純な動作検出手段であってもよい。また、動作検出手段は、更なる処理のために動作に関するデータを作成してもよい。以下の説明では画像撮影装置と画像処理を利用するが、当業者であれば他の方法で動作を取得できることは理解されるであろう。動作取得装置102は、単一の画像または一連の画像を撮影して、その画像をコンピュータ104に送信する。コンピュータ104は、ジェスチャが実行されているかどうか、またユーザがホットスポットを生成しようとしているかどうかを判定するために、その画像を処理する。コンピュータ104で実行される処理について以下で更に説明する。ディスプレイ装置106は、システム中で異なる機能を果たし、例えばグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)を表示して、ユーザがジェスチャを実行して対話型ホットスポットを生成するときに対話することができるようになっていてもよい。ディスプレイ装置はホットスポットの外形が示された現実世界空間の画像を示してもよい。それにより、ホットスポットが正しい位置にあるかどうか、また適切な特性を有しているかどうかをユーザは判定することができる。ディスプレイ装置106はホットスポットと共に動作するようにプログラムされたアプケーションやその他のソフトウェアの表示をしてもよい。これらについては後で更に説明する。 【0038】 コンピュータ104には、ジェスチャが生成されているかどうかを検知し、ジェスチャの位置、従ってホットスポットの位置を判定するための様々な手段があってもよい。動作取得手段108、ジェスチャ処理手段110、ジェスチャ関連付け手段112を含めこれらの手段を以下で説明する。 【0039】 動作取得手段108は、現実世界環境中の3次元(3D)空間におけるユーザのジェスチャを取得する。動作取得手段108には姿勢追跡手段114及び較正手段116が含まれていてもよい。動作取得手段108は、ビデオカメラからのビデオ映像などの検出された動作を受信するために、動作取得装置102と直接連携している。姿勢追跡手段114は、ユーザの身体または手などのユーザの身体の一部の姿勢の判定を行う。姿勢追跡手段114は、画像認識または深度追跡などによってユーザが取っている姿勢を判定してもよい。一例はMicrosoft(登録商標)のKinect(登録商標)装置(マイクロソフト社、レッドモンド、ワシントン州)であり、これはカメラと、深度検出用の赤外線構成の光エミッタとセンサとを含んでいる。OpenNI(商標)のアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)(OpenNI Organization, www.openni.org 2011年7月1日アクセス)等のソフトウェアを、Kinect(登録商標)に接続したコンピュータ上で実行して、画像と光情報を解釈してスケルトントラッキングを行うことが可能である。」 「【0041】 ジェスチャ処理手段110はジェスチャを識別して解釈し、その識別し、解釈したジェスチャを基に3D空間内にホットスポットを生成する。ジェスチャ処理手段は、ジェスチャ検出手段118及びジェスチャ解釈手段120を含む。ジェスチャ検出手段118は姿勢追跡手段114から出力を受け、姿勢情報をどのタイミングでジェスチャ解釈手段120に渡して解釈させるかを判断する。 【0042】 ジェスチャ解釈手段120は、ジェスチャ検出手段118から入力を受け、それを解釈する。ジェスチャには、ホットスポットを画定してその意味を規定するために使われるものがあり、また、ホットスポットと対話するために使われるものがある。ジェスチャのあるものは複雑であって、長時間に亘りかつ多数の位置に亘って解釈されるものもある。ジェスチャの多くは、事前に画定されたホットスポットに触るか指し示すという簡単なものであり得る。場合によっては、ホットスポットに触るユーザの身体の部位によって、ホットスポットが異なった作用をしてもよい。 【0043】 ジェスチャの一部を使って、ホットスポットの画定のためのジェスチャであることを示してもよい。つまり、ジェスチャには、ホットスポットを生成することを意図したジェスチャであることを示すホットスポット生成モードジェスチャが含まれてもよい。例えば図4に示すように、左手404を上げたユーザ402は、右手でジェスチャを画定していることを示してもよい。あるいは、ジェスチャによって、またはGUIのボタンを押すとかQRコード(登録商標)などの特別のマーカを示すとかの別の手段によって、ホットスポット生成モードに入ったり出たりすることができる。」 「【0049】 [II.ホットスポット位置の画定] ホットスポットの画定には、位置の特定と意味すなわち機能の特定との2段階がある。本明細書の実施形態において、ホットスポットの位置はジェスチャで画定される。その意味つまり機能は、その全体または一部がジェスチャで規定されてもよいし、規定されなくてもよい。以下に述べるのは、ホットスポットの位置を画定するためのジェスチャの例である。但し、ホットスポットを画定するジェスチャはこれに限定される訳ではない。すべてのジェスチャは、ジェスチャ画定モードにある時に遂行されてもよいし、あるいは例えば左手を挙げて(図4参照)ホットスポットを画定中であることを示す別の動作を同時に実行しながら遂行されてもよい。 【0050】 多角形ホットスポット ユーザは頂点とする所望の位置に数秒間静止することにより、ポイントを指定する。あるいは、ユーザは形状の輪郭を描いてもよい。」 「【0054】 ホットライン ホットスポット画定モードにおいて2点で静止するだけで線分を画定できる。このラインをユーザが横切ると所定のアクションが始動される。」 「【0060】 複写ホットスポット 片手でホットスポットを囲むジェスチャを行い、その後両手でそのホットスポットを「摘みあげ」て別の場所に置くという動作で、ホットスポットを別の場所にコピーすることができる。そこではジェスチャによって更なる所望の変更をすることもできる。同じように、「切り取り」のジェスチャによってあるオブジェクトに結びついたホットスポットを取り除き、「貼り付け」のジェスチャによって別のオブジェクトに結びつけることができる。このようにして、例えば現実世界のタンジブル(tangible、有形)インタフェースの一部から別の部分へ行動を移動させることが可能である。」 「【図1】 」 イ 引用文献に記載された発明 段落【0037】によると、引用文献に記載された「システム」には、「動作取得装置102とコンピュータ104」が含まれる。 段落【0037】によると、前記動作取得装置102は、「ビデオカメラ」であり、「単一の画像または一連の画像を撮影して、その画像をコンピュータ104に送信」し、「コンピュータ104は、ジェスチャが実行されているかどうか、またユーザがホットスポットを生成しようとしているかどうかを判定するために、その画像を処理する」。 ここで、「ホットスポット」は、段落【0003】によると、「ユーザがシステムと対話する、現実世界空間における一領域」のことである。 段落【0038】によると、前記コンピュータ104は、「動作取得手段108、ジェスチャ処理手段110、ジェスチャ関連付け手段112」を含む。 段落【0039】によると、前記動作取得手段108は、「現実世界環境中の3次元(3D)空間におけるユーザのジェスチャを取得する」。 段落【0041】によると、前記ジェスチャ処理手段110は、「ジェスチャを識別して解釈し、その識別し、解釈したジェスチャを基に3D空間内にホットスポットを生成する」。 段落【0042】によると、「ジェスチャには、ホットスポットを画定してその意味を規定するために使われるものがあり、また、ホットスポットと対話するために使われるものがある」。 当該システムの動作を方法の発明として認定する。 段落【0054】によると、ホットスポットとして、2点で静止するだけで線分を画定することができ、当該線分をユーザが横切ると所定のアクションが始動される。 段落【0049】によると、左手を挙げてホットスポットを画定中であることを示す別の動作を同時に実行しながら遂行されてもよく、段落【0060】によると、「切り取り」のジェスチャによりホットスポットを取り除き、「貼り付け」のジェスチャによりホットスポットを貼り付けられるから、「左手を挙げてホットスポットを画定中であることを示し、「切り取り」のジェスチャによりホットスポットを取り除き、「貼り付け」のジェスチャによりホットスポットを貼り付ける」ものと認められる。 以上によると、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明) (a-1)システムには、動作取得装置102とコンピュータ104が含まれ、 (a-2)前記動作取得装置102は、ビデオカメラであり、単一の画像または一連の画像を撮影し、当該画像をコンピュータ104に送信し、 (a-3)前記コンピュータ104は、ジェスチャが実行されているかどうか、またユーザがホットスポットを生成しようとしているかどうかを判定するために、当該画像を処理し、 (a-4)ここで、ホットスポットは、ユーザがシステムと対話する、現実世界空間における一領域のことであり、 (a-5)前記コンピュータ104は、動作取得手段108、ジェスチャ処理手段110、ジェスチャ関連付け手段112を含み、 (a-6)前記動作取得手段108は、現実世界環境中の3次元(3D)空間におけるユーザのジェスチャを取得し、 (a-7)前記ジェスチャ処理手段110は、ジェスチャを識別して解釈し、その識別し解釈したジェスチャを基に3D空間内にホットスポットを生成し、 (a-8)前記ジェスチャには、ホットスポットを画定してその意味を規定するために使われるものがあり、またホットスポットと対話するために使われるものがある、 (a)システムにおける方法であって、 (b)ホットスポットとして、ユーザが2点で静止するだけで線分を画定することと、 (c)当該線分をユーザが横切ると所定のアクションが始動されることと、 (d)左手を挙げてホットスポット画定中であることを示し、「切り取り」のジェスチャによりホットスポットを取り除き、「貼り付け」のジェスチャによりホットスポットを貼り付けること、 (a)を含む方法。 ((a)?(d)は、引用発明の構成を区別するために付与した。以下各構成を「構成a」?「構成d」という。) (5)対比 ア 補正発明と引用発明との対比 補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)構成要件Aについて 引用発明は、「前記動作取得手段108は、現実世界環境中の3次元(3D)空間におけるユーザのジェスチャを取得し」(構成a-6)、「前記ジェスチャ処理手段110は、ジェスチャを識別して解釈し、その識別し解釈したジェスチャを基に3D空間内にホットスポットを生成」(構成a-7)する。 動作取得手段108、ジェスチャ処理手段110は、コンピュータ104に含まれ(構成a-5)、動作取得装置102であるビデオカメラの画像は、コンピュータ104に送信(構成a-2)される。 また、ホットスポットは、ユーザがシステムと対話する、現実世界空間における一領域のことである(構成a-4)。 そうすると、引用発明のコンピュータ104は、「現実世界環境中の3次元(3D)空間におけるユーザのジェスチャを取得し、ジェスチャを識別して解釈し、その識別し解釈したジェスチャを基に3D空間内にホットスポットを生成」する。 当該「現実世界環境中の3次元(3D)空間」は、「ユーザのジェスチャを取得する」空間であるから、補正発明の「監視空間」に相当する。 また、当該「ホットスポット」は、構成b、cによると、線分であり、当該線分をユーザが横切ると所定のアクションが始動されるから、「仮想境界」といえ、補正発明の「コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界」に相当する。 さらに、当該「ジェスチャを識別して解釈」することは、補正発明の「ジェスチャを認識する」ことに相当する。 したがって、補正発明と引用発明とは、「監視空間内に、コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界を定めるべく、少なくとも一つのジェスチャを認識すること」を含む点で一致する。 また、構成bの「ホットスポットとして、ユーザが2点で静止するだけで線分を画定すること」は、「ユーザが2点で静止する」というジェスチャにより、「仮想境界」に相当する「ホットスポット」を画定しているといえる。 「ユーザが2点で静止する」ジェスチャは、現実世界環境中の3次元(3D)空間(「監視空間」に相当)におけるジェスチャであり、ジェスチャを識別して解釈する対象は、動作取得装置102であるビデオカメラの画像である。当該画像は、「被監視シーン空間」に相当し、「監視空間」との間に対応関係があることは明らかである。 したがって、補正発明と引用発明とは、「前記監視空間と前記被監視シーン空間との間には対応関係が存在する」点で共通する。 しかしながら、「ジェスチャ」が、補正発明においては「経路に沿った動きであって、被監視シーン空間内の位置における動きを有」するものであるのに対し、引用発明においては「2点で静止する」ジェスチャである点で相違する。 (イ)構成要件Bについて 引用発明は、「前記ジェスチャ処理手段110は、ジェスチャを識別して解釈し、その識別し解釈したジェスチャを基に3D空間内にホットスポットを生成」(構成a-7)する。 引用発明の「現実世界環境中の3次元(3D)空間」、「ホットスポット」、「ビデオカメラ」の「画像」が、それぞれ、補正発明の「監視空間」、「コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界」、「被監視シーン空間」に相当することは上記(ア)のとおりである。 したがって、補正発明と引用発明とは、「前記被監視シーン空間に対応する前記監視空間の中に、コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界が作成されることを生じさせること」を含む点で一致する。 上記(ア)において検討したように、仮想境界は、ジェスチャにより定まるものであるが、「ジェスチャ」が補正発明においては「経路に沿った動きであって、被監視シーン空間内の位置における動きを有」するものであるのに対し、引用発明においては「2点で静止する」ジェスチャである点で相違する。当該相違に伴い、補正発明と引用発明とは、「前記仮想境界の少なくとも一部分は前記被監視シーン空間内の前記ジェスチャが示すものによって定められ、前記仮想境界の前記少なくとも一部分は、前記ジェスチャが示すものの位置に相当する、前記監視空間の対応する位置に位置する」として共通するが、「前記ジェスチャが示すもの」が補正発明においては「前記経路」であるのに対し、引用発明においては「2点」である点で相違する。 (ウ)構成要件Cについて 引用発明は、「当該線分をユーザが横切ると所定のアクションが始動される」(構成c)。「当該線分」は、「仮想境界」に相当する「ホットスポット」である(構成b)から、構成cの「当該線分をユーザが横切る」ことは、構成要件Cの「前記少なくとも一つの仮想境界に関連して前記被監視シーン空間の一部に変化があったとき」に相当する。 構成要件Cの「受け取ったデータを処理して」は、本願明細書の段落【0101】をみると、「仮想境界144を監視して仮想境界144を横切るアクティビティを検出すべく、受信したデータを処理すること」を含むから、引用発明においても「受け取ったデータを処理」しているといえる。 また、引用発明は、「所定のアクションが始動される」(構成c)から、「応答イベントを生成する」といえる。 したがって、補正発明と引用発明とは、「前記少なくとも一つの仮想境界に関連して前記被監視シーン空間の一部に変化があったとき、受け取ったデータを処理して応答イベントを生成すること」を含む点で一致する。 (エ)構成要件Dについて 引用発明は、「左手を挙げてホットスポット画定中であることを示し、「切り取り」のジェスチャによりホットスポットを取り除き、「貼り付け」のジェスチャによりホットスポットを貼り付ける」(構成d)。 「「切り取り」のジェスチャによりホットスポットを取り除き、「貼り付け」のジェスチャによりホットスポットを貼り付ける」ことは、「仮想境界」に相当する「ホットスポット」に更新を生じさせることといえる。 また、引用発明は「左手を挙げ」るジェスチャをコンピュータが認識し、ホットスポットを更新させているから、引用発明は、「少なくとも一つの更なるジェスチャを認識すること、及び、該認識することに応じて前記作成された仮想境界に更新を生じさせることを更に含」むといえる。 引用発明は、「左手を挙げてホットスポット画定中であることを示」しているから、この場合は、「応答イベントを生成することなく前記仮想境界とのやりとりを行うことを可能にする」といえ、左手を下げれば、ホットスポット画定中でなくなると理解できるから、「一時的」といえる。 したがって、補正発明と引用発明とは、「少なくとも一つの更なるジェスチャを認識すること、及び、該認識することに応じて前記作成された仮想境界に更新を生じさせることを更に含み、ここで前記更新は、応答イベントを生成することなく前記仮想境界とのやりとりを行うことを一時的に可能にすること」を含む点で一致する。 (オ)構成Fについて 補正発明と引用発明とは「方法」の発明として一致する。 イ 一致点、相違点 以上によると、補正発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) (A’)監視空間内に、コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界を定めるべく、少なくとも一つのジェスチャを認識すること、但し前記監視空間と前記被監視シーン空間との間には対応関係が存在する、前記認識することと; (B’)前記被監視シーン空間に対応する前記監視空間の中に、コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界が作成されることを生じさせること、但し前記仮想境界の少なくとも一部分は前記被監視シーン空間内の前記ジェスチャが示すものによって定められ、前記仮想境界の前記少なくとも一部分は、前記ジェスチャが示すものの位置に相当する、前記監視空間の対応する位置に位置する、前記生じさせることと; (C)前記少なくとも一つの仮想境界に関連して前記被監視シーン空間の一部に変化があったとき、受け取ったデータを処理して応答イベントを生成することと; を含むと共に、 (D)少なくとも一つの更なるジェスチャを認識すること、及び、該認識することに応じて前記作成された仮想境界に更新を生じさせることを更に含み、ここで前記更新は、応答イベントを生成することなく前記仮想境界とのやりとりを行うことを一時的に可能にすること (F)を含む、方法。 (相違点) 「ジェスチャ」が、補正発明においては「経路に沿った動きであって、被監視シーン空間内の位置における動きを有」するものであるのに対し、引用発明においては「2点で静止する」ジェスチャである点で相違し、当該相違に伴い、 「前記仮想境界の少なくとも一部分は前記被監視シーン空間内の前記ジェスチャが示すものによって定められ、前記仮想境界の前記少なくとも一部分は、前記ジェスチャが示すものの位置に相当する、前記監視空間の対応する位置に位置する」における「前記ジェスチャが示すもの」が補正発明においては「前記経路」であるのに対し、引用発明においては「2点」である点 (6)相違点の判断等 引用文献の段落【0050】には、多角形ホットスポットの位置を画定するジェスチャとして、ポイントを指定するか、形状の輪郭を描くことが記載されていることからして、ポイントを指定して多角形を画定することや形状の輪郭を描くことで多角形を画定することは、当業者が適宜選択できることである。 そうすると、ホットスポットの位置を画定するジェスチャとして、形状を特定する点を指定することや形状を描くことは当業者が適宜選択できることである。 したがって、引用発明において、ジェスチャとして、線分をホットスポットとするために2点で静止して、2点を指定する代わりに、形状を描く、すなわち、線分(経路)に沿った動きをすることは当業者が適宜なし得ることである。 そして、引用発明において、ジェスチャを経路に沿った動きとすると、当該動きは、被監視シーン空間内の位置における動きといえ、上記一致点の構成B’における「前記ジェスチャが示すもの」は「前記経路」となる。 さらに、補正発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測し得る範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものでもない。 したがって、補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反している。 3 まとめ したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成31年4月15日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?17に係る発明は、平成30年10月4日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?17に記載した事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 (本願発明) 「監視空間内に、コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界を定めるべく、少なくとも一つのジェスチャを認識すること、但し前記ジェスチャは経路に沿った動きであって、被監視シーン空間内の位置における動きを有し、前記監視空間と前記被監視シーン空間との間には対応関係が存在する、前記認識することと; 前記被監視シーン空間に対応する前記監視空間の中に、コンピュータにより設定される少なくとも一つの仮想境界が作成されることを生じさせること、但し前記仮想境界の少なくとも一部分は前記被監視シーン空間内の前記経路によって定められ、前記仮想境界の前記少なくとも一部分は、前記経路の位置に相当する、前記監視空間の対応する位置に位置する、前記生じさせることと; 前記少なくとも一つの仮想境界に関連して前記被監視シーン空間の一部に変化があったとき、受け取ったデータを処理して応答イベントを生成することと; を含むと共に、少なくとも一つの更なるジェスチャを認識すること、及び、該認識することに応じて前記作成された仮想境界に更新を生じさせることを更に含む、方法。」 2 判断 本願発明は、補正発明の補正事項(上記第2の1の下線部)の限定を省いたものと認められ、補正発明が、引用発明に基づいて容易に発明できたものであることは、上記第2のとおりであるから、本願発明も、引用発明に基づいて容易に発明できたものと認められる。 3 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、請求項2?17に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2020-01-30 |
結審通知日 | 2020-01-31 |
審決日 | 2020-02-12 |
出願番号 | 特願2017-533373(P2017-533373) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G06T)
P 1 8・ 121- Z (G06T) P 1 8・ 575- Z (G06T) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐田 宏史 |
特許庁審判長 |
清水 正一 |
特許庁審判官 |
樫本 剛 小池 正彦 |
発明の名称 | モニタリング |
代理人 | 川守田 光紀 |