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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C02F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  C02F
管理番号 1363969
異議申立番号 異議2019-700365  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-07 
確定日 2020-05-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6417734号発明「超純水製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6417734号の明細書及び図面を訂正請求書に添付された明細書及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕に関して訂正することを認める。 特許第6417734号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第6417734号の請求項1?4に係る発明についての出願は、平成26年6月10日の出願であって、平成30年10月19日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月7日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 1年 5月 7日付け:特許異議申立人 南雲嘉明(以下、「特許異議申立人」という。)による請求項1?4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 1年 7月25日付け:取消理由通知書
令和 1年 9月27日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年11月18日付け:特許異議申立人による意見書の提出
令和 2年 1月23日付け:審尋(特許権者に対して)
令和 2年 2月19日付け:特許権者による回答書の提出

第2.訂正請求について

1.訂正の内容

本件訂正請求は令和1年9月27日付けのものであって、訂正事項1及び2からなる(下線部は訂正箇所)。

(1)訂正事項1

明細書の第【0045】段落第1行に「[実施例1]」と記載されているのを「[参考例1]」に訂正する。

(2)訂正事項2

図面の【図4】において、符号26が付された部材に「第1ポンプ」と記載されているのを「第2ポンプ」に訂正する。

(3)一群の請求項について

訂正事項1は、請求項1?4に係る発明についての「[実施例1]」について訂正するものであり、訂正事項2は、当該「[実施例1]」で使用した超純水サブシステムの概略図について訂正するものであるため、訂正事項1、2は、請求項1?4について訂正するものである。
そして、訂正事項1、2に係る請求項1?4について、請求項2、3は請求項1を引用し、請求項4は請求項1を引用する請求項3を引用する関係にあるから、請求項1?4は一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、請求項〔1?4〕について請求したものと認められる。

2.訂正の判断

(1)訂正事項1について

訂正前の明細書段落0045?0047に記載されている「実施例1」は、UF膜装置29への給水であるところのイオン交換樹脂等28の出口側#7からのサンプル水の微粒子濃度が「1.2×10^(3)個/mL」である。一方、請求項1においては「該微粒子除去膜装置への給水の微粒子濃度が1000個/mL以下であり、」と規定されており、上記「実施例1」の「UF膜装置29」を、請求項1に係る発明における「微粒子除去膜装置」に相当するものとしたときに、「実施例1」のUF膜装置29に供給される水の微粒子濃度は、請求項1における上記規定を満足せず、上記「実施例1」は請求項1に係る発明の要件を満たさないため、実施例には該当しない。してみると、「実施例1」を「参考例1」に訂正する訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、請求項1で規定される要件に基づいて「実施例1」を「参考例1」にするものであることから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について

訂正事項2は、図4において符号26が付された部材に「第1ポンプ」と記載されているのを「第2ポンプ」に訂正するものであり、当初の明細書段落0045には「第1ポンプ22」及び「第2ポンプ26」と記載されていることから、図4における符号26が付された部材は「第2ポンプ」であると解するのが妥当であり、訂正事項2は、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、上記のとおり、当初の明細書段落0045には、「第1ポンプ22」及び「第2ポンプ26」と記載されていることから、訂正事項2は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、訂正事項2は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)独立特許要件について

特許異議申立ては、全ての請求項1?4についてされているので、一群の請求項1?4に係る訂正事項1及び2に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.まとめ

以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号及び第3号に規定された事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

第3.本件発明について

本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。)は、本件特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

【請求項1】
一次純水システムで一次純水を製造する工程と、
一次純水をサブシステムで処理して超純水を製造する超純水製造工程と、
を有し、
該サブシステム又はそれよりも後段で微粒子除去膜装置によって微粒子除去処理が行われる超純水製造方法において、
該微粒子除去膜装置への給水の微粒子濃度が1000個/mL以下であり、
該微粒子の粒径が10nm以上であり、
該微粒子除去膜装置は、分画分子量が400?10000の限外濾過膜装置であり、
該限外濾過膜装置は、透過流束0.3m/Hr以下で粒径10nmの微粒子除去率が99.9%以上となるものであり、
該限外濾過膜装置の透過流束を0.25?0.3m/Hrとすることを特徴とする超純水製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記微粒子除去膜装置は、前記サブシステムの最後段に設置されていることを特徴とする超純水製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記サブシステム内に設置されるポンプと前記微粒子除去膜装置との間に少なくとも1つの水処理機器が設置されていることを特徴とする超純水製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記水処理機器は、イオン交換装置、脱気装置、UV酸化器、及びH_(2)O_(2)除去装置の少なくとも1つであることを特徴とする超純水製造方法。

第4.取消理由について

1.令和1年7月25日付け取消理由について

(1)取消理由の概要

本件特許の取消理由の概要は以下のとおりである。

理由1(サポート要件)
本件特許明細書の段落0037?0044、図3に記載されている実験例1、及び段落0045?0047、図4に記載されている実施例1は、共に本件発明が本件課題を解決する発明であることを実証するものではなく、本件発明が本件課題を解決することが本件出願前の当業者における技術常識であるとはいえないから、本件発明は、実質的に発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由2(実施可能要件)
有機物が多く含まれると共に種々の微粒子からなる混合物といえる微粒子(懸濁物質、コロイド物質)の濃度については、この微粒子の一つ一つに対応する元素及びその数を具体的に把握することは極めて困難であるので、誘導結合プラズマ質量分析計を用いて微粒子の濃度を把握することはできず、ろ過する前のフィルターの清浄度、ろ過量、観察視野数について本件特許明細書には具体的な記載は何らされていないので、電子顕微鏡で観察し計測する方法を用いても微粒子の濃度を把握することはできず、さらに本件発明1の微粒子の濃度が本件出願前の当業者における技術常識であるといえないので、本件特許明細書における発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有するものがその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由3(明確性)
上記理由2で示したように、微粒子の濃度を得ることができないから、「微粒子除去膜装置への給水の微粒子濃度が1000個/mL以下であり、」「該微粒子の粒径が10nm以上であ」ることの技術的意義が不明であり、それに伴い「限外濾過膜装置は、透過流束0.3m/Hr以下で粒径10nmの微粒子除去率が99.9%以上となるものであ」ることの技術的意義についても不明であるから、本件発明は、技術的意義が不明な事項を包含する発明であり、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)取消理由に対する当審の判断

ア.理由1(サポート要件)について

本件特許明細書の段落0037?0044、図3に記載されている実験例1は、粒径10nmのAuコロイド粒子を粒子濃度が1×10^(9)個/mLとなるように添加した超純水を分画分子量6000のUF膜モジュールの底部から供給し、頂部から処理水を排出し、UF膜モジュールの濃縮水量を給水水量の約5%で設定し、濃縮水は排水とし、UF膜モジュールへの給水水量を変えてUF膜の透過流束を変化させ、各透過流束における処理水中Auコロイド粒子濃度を測定し、コロイド粒子除去率を算出したものである。そして、粒径10nmは、本件発明1の微粒子としては最小の粒径であって除去率は最低となるものであり、粒径が10nm超の微粒子の除去率は、粒径が10nmの粒子の除去率よりも大きくなるものであるから、透過流速が0.3m/Hr以下で粒径が10nmの微粒子の除去率が99.9%以上となる場合には、10nm超の粒径を含む種々の微粒子からなる混合物の同じ透過流速での除去率も99.9%以上となるものと推認できる。してみると、微粒子除去膜装置への給水の微粒子濃度が1000個/mL以下であり、透過流速が0.3m/Hr以下の場合に粒径が10nmの微粒子の除去率が99.9%以上であれば、「微粒子除去率が高く、高純度の超純水を製造することができる」ものと認められ、当該実験例1は本件発明が本件課題を解決することを実証するものである。
そして、本件特許明細書の段落0045?0047、図4に記載されている「実施例1」は、「参考例1」に訂正され、本件特許明細書の実験例1が、本件発明が本件課題を解決する発明であることを実証するものであることは、上記のとおりであるから、当該参考例1は、本件発明が本件課題を解決する発明であることを実証するものではないことは、理由1の判断に影響しない。
よって、上記理由1は理由がない。

イ.理由2(実施可能要件)について

本件特許明細書に記載されている実験例1が、本件発明が本件課題を解決する発明であることを実証するものであることは、上記ア.で検討したとおりである。そして、粒径が10nmのAuコロイド粒子が微粒子である場合には、誘導結合プラズマ質量分析計でAuの濃度を測定することにより、微粒子濃度を計測できるものであるが、実際の超純水を製造する際においては、微粒子は粒径が10nm以上の種々の微粒子からなる混合物であるから、誘導結合プラズマ質量分析計により微粒子濃度を計測することは不可能であると認められる。そこで、本件特許明細書においては、段落0045?0047の参考例1として、粒子濃度をフィルターにサンプル水を所定量濾過した後、電子顕微鏡で観察しながら、フィルターに捕捉された微粒子の個数をカウントし、検出値を濾過水量で除すことで算出する方法が記載されていることから、当該方法により微粒子濃度を計測することについて検討する。
上記取消理由において、当審は、ろ過する前のフィルターの清浄度、ろ過量、観察視野数について本件特許明細書には具体的な記載は何らされていないことを指摘しているが、特許異議申立人が令和1年11月18日付け意見書に添付した参考資料2である「USC12年 半導体産業の発展とUCS12年の成果」(半導体基板技術研究会、2000年9月30日発行)の第1193頁左欄第22行?第30行には、
「注3)ろ過量の目安は,使用するろ過膜のブランク粒子数と目標とする測定下限値から得られる。すなわち,ろ過によって捕捉される微粒子数は推定される濃度×ろ過量で求められるから,この値がフィルタ上のブランク粒子数より大幅に上回るようにろ過量を定める。具体的には捕捉される微粒子数とブランク平均値の差が,ブランクのばらつきの標準偏差の3倍以上となるようにする。」
と記載されており、ろ過量はろ過する前のフィルターの清浄度に応じて設定されるものであり、ろ過するフィルターの清浄度はろ過するフィルターを電子顕微鏡により観察することで得られるものであるから、本件特許明細書にろ過する前のフィルターの清浄度、ろ過量の具体的な記載がなくとも、実際に用いるフィルターに応じて測定及び設定可能であることは、参考資料2が当業者における技術常識に位置づけられるものといえることからして、当業者ならば技術常識として認識可能である。そして、観察視野数についても、必要とする情報が得られ、測定することが可能な視野数を設定すべきことは当業者にとって自明な事項である。してみると、ろ過する前のフィルターの清浄度、ろ過量、観察視野数は、本件特許明細書には具体的な記載は何らされていない場合においても、当業者ならば設定可能な事項である。
よって、上記理由2は理由がない。

ウ.理由3(明確性)について

上記イ.で検討したとおり、本件発明の微粒子濃度を得ることができるから、「微粒子除去膜装置への給水の微粒子濃度が1000個/mL以下であり、」「該微粒子の粒径が10nm以上であ」ることの技術的意義は明らかであり、「限外濾過膜装置は、透過流束0.3m/Hr以下で粒径10nmの微粒子除去率が99.9%以上となるものであ」ることの技術的意義についても明らかである。
よって、理由3は理由がない。

(3)特許異議申立人の主張について

特許異議申立人は、令和1年11月18日付け意見書において、上記理由1?3は依然として存在する旨主張しているため、当該主張について検討する。

ア.理由1(サポート要件)について

上記意見書における特許異議申立人の主張は以下のとおりである。
(i)令和1年9月27日付け意見書における特許権者による主張は、訂正特許明細書の[実験例1]におけるAuコロイド粒子が、訂正特許発明の特定事項における「微粒子」(「有機物が多く含まれると共に種々の微粒子からなる混合物」、以下「微粒子混合物」という。)と同等に扱うことができることを何ら技術的に説明するものではない。(第3頁第11行?第14行。)
(ii)Auコロイド粒子は膜の評価に一般的に使用されるものであり、「膜の評価」と「水質管理」とは異なるものであり、膜の評価には膜の評価に適した「微粒子」が使用されるものだから、膜の評価に適した「微粒子」と、「微粒子混合物」とを同列に扱うことはできない。(第4頁第15行?第25行)
(iii)微粒子混合物は、標準品として用いるAuコロイド粒子のような分散安定性に優れた粒度分布の狭い(単分散性の)真球粒子ではなく、材質も形状も千差万別の異形(例えば、棒状、紐状ないし不定形)の微粒子の混在物であり、その粒度分布もかなり広がりがあり、容易に凝集し得るものであるから、微粒子混合物は、Auコロイド粒子と、膜の除去性能に影響する物理的・化学的物性は当然異なるし、個々の粒子の形状や粒度分布も大きく異なるものである。(第6頁第6行?第13行。)

上記主張について検討すると、令和1年9月27日付け意見書における特許権者による主張は、金コロイド粒子が微粒子除去性能の評価に一般的に用いられるものであり、NIST(米国標準技術局)において標準参照物質として認定されたものであることを述べるにとどまり、実際の超純水を製造する際に除去すべき微粒子混合物との関係についてまでは説明されていない。しかしながら、粒径10nmは、本件発明1の微粒子としては最小の粒径であり、粒径が10nm超の微粒子の除去率は、粒径が10nmの粒子の除去率よりも大きくなるものであるから、透過流速が0.3m/Hr以下で粒径が10nmの微粒子の除去率が99.9%以上となる場合には、粒径が10nm超の粒径を含む種々の微粒子からなる混合物の同じ透過流速での除去率も99.9%以上となるものと推認できることは、上記(2)ア.で検討したとおりである。してみると、実際の超純水を製造する際に除去すべき微粒子混合物は、Auコロイド粒子よりも除去率が高いものと推認でき、実験例1は本件発明が本件課題を解決することを実証するものであって、特許異議申立人の上記主張(i)は、上記(2)ア.の判断に影響を与えるものではないから採用しない。
また、実際の超純水を製造する際に除去すべき微粒子混合物がAu粒子と同列に扱えないとしても、上記(2)ア.の判断に影響を与えるものではないから、上記主張(ii)も採用しない。
さらに、Auコロイド粒子は粒径が10nmの真球状であり、棒状、紐状ないし不定形の微粒子は、真球状の粒子よりも除去率が高くなるものであり、粒度分布が広い微粒子混合物は、除去率が高くなる粒径が10nm超の粒子を多く含むものであり、また容易に凝集し得る粒子も凝集後の粒径が10nmよりも大きくなるものについては、除去率がAuコロイド粒子より大きくなるものであるから、上記主張(iii)も採用しない。

イ.理由2(実施可能要件)について

上記意見書における特許異議申立人の主張は以下のとおりである。
(iv)遠心力による加圧によりろ過量を上げることができるとしても、微粒子測定の感度(下限値)と精度(信頼性)に大きく影響するフィルターの清浄度、ろ過量、観察視野数が訂正特許明細書に記載されていない事実にかわりはなく、「微粒子(懸濁物質、コロイド物質など)」の「濃度」を得る(定量する)ことができないことは何らかわらない。また、「微粒子の計測は、遠心力により2.0MPaの圧力をかけろ過量を上げることで、ろ過する前のフィルタの清浄度、ろ過量、観察視野数に影響を受けることなく対応できることが当業者において技術常識とされています。」と特許権者は述べているが、その根拠事実は何も示されていない。(第9頁第10行?第18行)
(v)特許権者が、半導体基盤技術研究会(Ultra Clean Society:UCS)において標準化されていると主張している技術は、粒径「0.05μm」(50nm)以下の微粒子計測法であり、訂正特許発明のように、粒径「10nm」の微粒子も射程とする最先端で高度な微粒子の検出・定量を、参考資料2の微粒子計測法は事実上想定しておらず、孔径が10nmよりも小さな膜を用いて、直接検鏡法により検出する方法が標準化されていた事実は存在しない。(第10頁第19行?第26行)
(vi)訂正特許発明を実施するためには、給水中に存在する粒径10nm以上で1000個以下の微粒子を、現実的な時間で「定量」する必要があるところ、当該定量方法を本件特許明細書は実質的に記載しておらず、参考資料2に記載された技術事項を参酌しても、給水中の粒径10nm以上で1000個以下の微粒子の存在を、どのようにすれば現実的な時間で「定量」することができるのか、当業者といえども理解することができない。(第10頁第27行?第11頁第6行)
(vii)「10nmの微粒子が表面で捕捉できる構造のフィルタ」をどうすれば入手可能か、参考資料2からは知ることはでず、本件特許出願時において、参考資料7に記載されているニュクリポアフィルターには10nmの微粒子を捕捉できる孔径のものは存在しないし、本件特許出願時において、微粒子計測用に適して10nmの微粒子を捕捉可能なUF膜を当業者が入手することは困難であり、当業者は、10nmの微粒子を捕捉する膜すら、いかにして入手可能か理解できない。(第12頁第6行?第23行)

上記主張について検討すると、ろ過量はろ過する前のフィルターの清浄度に応じて設定されるものであって、ろ過するフィルターの清浄度はろ過するフィルターを電子顕微鏡により観察することで得られるものであるから、本件特許明細書にろ過する前のフィルターの清浄度、ろ過量の具体的な記載がなくとも、実際に用いるフィルターに応じて測定及び設定可能であることは、当業者ならば認識可能であり、観察視野数についても、必要とする情報が得られ、測定することが可能な視野数を設定すべきことは当業者にとって自明な事項であることは、上記(2)イ.で検討したとおりであるから、上記主張(iv)は採用しない。
また、10nmの微粒子を射程とする微粒子測定方法が存在せず、直接検鏡法により検出する方法が標準化されていないとしても、直接検鏡法による微粒子数を検出する原理は、10nmの粒子に対するものも、50nmに対するものと同じであり、ろ過する前のフィルターの清浄度、ろ過量、観察視野数が結果に影響を与える要因であるが、当該要因は当業者が測定ないし設定可能であることは、上記(2)イ.で検討したとおりであるから、上記主張(v)も採用しない。
そして、令和1年9月27日付け意見書において、特許権者は、フィルターに圧力を加え、さらに検出粒子数を1000個/mlとすることにより、現実的な時間で測定することができることを主張しており、当該主張を否定する根拠は見当たらないのに対し、特許異議申立人は、「仮に孔径10nm未満の膜を用いることができたと仮定した場合、ろ過速度は、孔径0.03μmの平膜MF膜の場合の0.1ml/分(25℃、0.75kgf/cm^(2))よりも格段に遅くなるのである。」と主張しているが、MF膜の場合に比べてろ過速度がどの程度遅くなり、それにより現実的な時間でなくなることを示していないから、上記主張(vi)も採用しない。
そして、令和2年2月19日付けの回答書において、特許権者は、10nmの微粒子を除去できる装置が市販されていること、及び本件特許明細書の実験例1は市販されているUF膜モジュールマイクローザOLT-6036H(旭化成株式会社)を用いたことを回答しており、「10nmの微粒子が表面で捕捉できる構造のフィルタ」は当業者が入手可能であるから、上記主張(vii)も採用しない。

ウ.理由3(明確性)について

上記意見書における特許異議申立人の主張は以下のとおりである。
(viii)訂正特許明細書には訂正特許発明の実例は一切記載されておらず、直接検鏡法における微粒子数測定の感度(下限値)と精度(信頼度)に大きく影響する、ろ過する前のフィルターの清浄度、ろ過量、観察視野数について、訂正特許明細書は何も記載しておらず、「微粒子(懸濁物質、コロイド物質など)」の「濃度」を得ようとしても、この濃度を得ることはでき得ないから、「微粒子除去膜装置(限外濾過膜装置)への給水の微粒子濃度が1000個/mL以下であり、」を一義的に求めることは不可能である。

上記主張について検討すると、訂正明細書の実験例1は本件発明が本件課題を解決することを実証するものであることは、上記(2)ア.で検討したとおりであり、微粒子の濃度を測定することができ、「微粒子除去膜装置(限外濾過膜装置)への給水の微粒子濃度が1000個/mL以下であ」ることを一義的に求めることが可能であることは、上記(2)イ.で検討したとおりであるから、上記主張(viii)は採用しない。

(4)まとめ

本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び第2項の規定を満たしていない特許出願に対して特許されたものではない。

第5.特許異議申立理由について

1.取消理由で採用しなかった特許異議申立理由の概要

取消理由で採用しなかった特許異議申立人による特許異議申立理由は以下のとおりである。

理由1(進歩性)
本件発明1?4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証?甲第11号証及び甲第13号証?甲第15号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由2(実施可能要件)
甲第16号証によると、パーティクルカウンター又は直接検鏡法により超純水中の微粒子の測定を行うことが技術常識であるが、本件特許出願時に10nmの微粒子を直接測定できるパーティクルカウンターは存在せず、また甲第17号証によると、0.03nm以上の粒子数を正確に測定できるのは電子顕微鏡による観察のみであるため、10nm以上の微粒子の濃度の測定は直接検鏡法でのみ可能である。しかし、直接検鏡法においては、ろ過する前のフィルターの清浄度、ろ過量、観察視野数が微粒子測定の感度に大きく影響することが甲第17号証に述べられており、ろ過する前のフィルターの清浄度、ろ過量、観察視野数について本件特許明細書には具体的な記載は何らされていないので、電子顕微鏡で観察し計測する方法を用いても微粒子の濃度を把握することはできない。さらに、甲第16号証には、直接検鏡法により測定する際には、ろ過量や観察視野数の点で実用的な時間で行うことは不可能であることも指摘されている。また、甲第18号証によると、誘導結合プラズマ質量分析計は溶液状の試料中の元素を分析する方法であり、微粒子がAuのみからなる場合には既知の粒径と密度からAu微粒子の個数を求めることができるが、材質も形状も千差万別の微粒子が混在した実際の超純水の製造時に、誘導結合プラズマ質量分析計では微粒子の個数を求めることは不可能である。したがって、本件特許明細書における発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有するものがその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由3(サポート要件)
本件発明1?4は、微粒子除去膜装置の透過流速が、限外濾過膜装置の通常使用時における透過流速の2/3以下とすることが特定されていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2.各甲号証

甲第1号証:特開2002-210494号公報(超純水の製造装置に関する文献)
甲第2号証:特開2009-112944号公報(超純水の製造方法に関する文献)
甲第3号証:特開平10-85740号公報(膜処理装置の入り口における微粒子数を少なくする必要性があることが、本件特許出願前に知られていたことを示す文献)
甲第4号証:特開2004-141805号公報(サブシステムの最後段に設置される限外濾過膜装置の負荷を低減するために、限外濾過膜装置に導入する水の0.05μm以上の微粒子数を5個/mL以下とすることが、本件特許出願前に公知であったことを示す文献)
甲第5号証:取扱説明書 マイクローザ^((R)) 超純水用UFモジュール OLT-6036HA(超純水の製造装置に用いるUFモジュールに関する文献)
甲第6号証:キャピラリー型限外濾過モジュール NTU-3306-K6R 取扱説明書(超純水の製造装置に用いるUFモジュールに関する文献)
甲第7号証:旭化成UFモジュール マイクローザ^((R)) OLT-3026 取扱説明書(超純水の製造装置に用いるUFモジュールに関する文献)
甲第8号証:特開2004-50048号公報(超純水中における0.05μm以上の微粒子数を100個/L以下とすること、及び0.1μmのラッテクス標準粒子による除去性能の確認試験が行われていること示す文献)
甲第9号証:THE INTERNATIONAL TECHNOLOGY ROADMAP FOR SEMICONDUCTORS(ITRS) 2013 EDITION YIELD ENHANCEMENT(検出サイズが10nm以下のパーティクルカウンターの開発が求められていること、及び超純水製造において粒径10nm程度の微粒子を除去する必要性が本件特許出願前に知られていたことを示す文献)
甲第10号証:Particle Control Challenges in Process Chemicals and Ultra-pure Water for sub-10nm Technology Nodes(超純水製造において粒径10nm程度の微粒子を除去する必要性が本件特許出願前に知られていたことを示す文献)
甲第11号証:The Effect of Particle Concentration and Face Velocity on the Removal of sub 100nm Particles from Ultrapure Water(透過流束を低くすれば、微粒子の除去率が高まることが、本件特許出願前に知られていたことを示す文献)
甲第12号証:ユーザーのための実用膜分離技術(限外濾過膜の除去率は給水中の微粒子濃度により変動することが、本件特許出願前に知られていたことを示す文献)
甲第13号証:特開2005-246126号公報(超純水製造のサブシステムの最後段に設置した限外濾過膜装置の透過流束を0.3m/Hr以下とすることが、本件特許出願前において、ありふれた運転条件であったことを示す文献)
甲第14号証:特開2011-161418号公報(超純水製造のサブシステムの最後段に設置する限外濾過膜装置(旭化成製OLT-6036)に、透過流束0.44m/Hrで通水することが、本件特許出願前に公知であったことを示す文献)
甲第15号証:特開2013-215679号公報(二次純水製造のサブシステムの最後段に限外ろ過装置OLT-6063HAを設置して、透過流束0.05m/Hrで通水することが、本件特許の出願前に公知であったことを示す文献)
甲第16号証:特開2012-154648号公報(超純水中の微粒子の管理方法としては、通常パーティクルカウンターでの測定や直接検鏡法による計測が用いられることを示す文献)
甲第17号証:これでわかる 純水・超純水技術(0.03μm以下の粒子数は、パーティクルカウンターでは測定することができなくなり、電子顕微鏡で観察することでのみ測定することができることを示す文献)
甲第18号証:ICP-MSによる微量分析(誘導結合プラズマ質量分析装置が通常、溶液状の試料中の元素を分析する方法であることを示す文献)

なお、「(R)」は、丸囲みの「R」である。

3.理由1(進歩性)について

(1)特許異議申立人が提出した証拠の記載事項

ア.甲第1号証

甲第1号証には、以下の記載がある。

(ア-1)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は超純水製造装置に係り、特に溶存酸素(DO)、全有機態酸素(TOC)及び過酸化水素(H_(2)O_(2))等の酸化性物質濃度が極めて低い超純水を製造することができる超純水製造装置に関する。」

(ア-2)
「【0015】図1は本発明の超純水製造装置の実施の形態を示す系統図である。
【0016】この超純水製造装置では、各種前処理工程より得られた一次純水(通常の場合、TOC濃度2ppb以上の純水)をサブタンク11、ポンプP、熱交換器12、UV酸化装置13、触媒式酸化性物質分解装置14、脱気装置15、混床式イオン交換装置16及び微粒子分離膜装置17に順次に通水し、得られた超純水をユースポイント18に送る。」(下線部は平成13年1月25日提出の手続補正書により補正された部分である。)

(ア-3)
「【0029】混床式イオン交換装置16の処理水は次いで微粒子分離膜装置17に通水される。微粒子分離膜装置17としては、通常の超純水製造装置に用いられるUF膜分離装置等を用いることができ、この微粒子分離膜装置17で水中の微粒子、例えば混床式イオン交換装置16からのイオン交換樹脂の流出微粒子等が除去され、これにより、TOC、CO_(2)、DO、H_(2)O_(2)、イオン性物質及び微粒子が高度に除去された高純度の超純水が得られる。」

(ア-4)
「【図1】



上記(ア-4)で摘示した図1には、一次純水システムで一次純水を製造する工程、当該一次純水をサブシステムで処理する工程、及びサブシステム中に微粒子分離膜装置を配置する超純水の製造方法が記載されている。また、上記(ア-2)で摘示した段落0016には、サブシステムで処理する工程により超純水を製造することが記載されている。さらに、上記(ア-3)で摘示した段落0029には、微粒子分離膜装置により微粒子を除去することも記載されている。
すると、甲第1号証には、
「一次純水システムで一次純水を製造する工程、一次純水を微粒子分離膜装置を含むサブシステムで処理して超純水を得る超純水の製造方法において、微粒子分離膜装置によって微粒子を除去する超純水の製造方法。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

イ.甲第2号証

甲第2号証には、以下の記載がある。

(イ-1)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水製造方法と装置に関し、とくに、半導体製造工業等における電子部品部材類の洗浄に好適な超純水製造方法と装置に関する。また、本発明は、この超純水製造装置により製造された超純水を用いた電子部品部材類の洗浄方法と装置に関する。」

(イ-2)
「【0022】
第1図?第3図の各超純水製造装置は、いずれも前処理システム1、一次純水システム2及びサブシステム3から構成される。」

(イ-3)
「【0024】
第1図の超純水製造装置では、このようにして得られた一次純水(通常の場合、TOC濃度2ppb以下の純水)を、サブタンク11、ポンプP、熱交換器12、UV酸化装置13、触媒式酸化性物質分解装置14、脱気装置15、混床式脱イオン装置(イオン交換装置)16及び微粒子分離膜装置17に順次に通水し、得られた超純水をユースポイント18に送る。」

(イ-4)
「【0030】
混床式イオン交換装置16の処理水は次いで微粒子分離膜装置17に通水される。微粒子分離膜装置17としては、通常の超純水製造装置に用いられるUF膜分離装置等を用いることができ、この微粒子分離膜装置17で水中の微粒子、例えば混床式イオン交換装置16からのイオン交換樹脂の流出微粒子等が除去され、これにより、TOC、CO_(2)、DO、H_(2)O_(2)、イオン性物質及び微粒子が高度に除去された高純度の超純水が得られる。」

(イ-5)
「【図1】



上記(イ-5)で摘示した図1及び(イ-2)で摘示した段落0022には、一次純水システムで一次純水を製造する工程、当該一次純水をサブシステムで処理する工程、及びサブシステム中に微粒子分離膜装置を配置する超純水の製造方法が記載されている。また、上記(イ-3)で摘示した段落0024には、サブシステムで処理する工程により超純水を製造することが記載されている。さらに、上記(イ-4)で摘示した段落0030には、微粒子分離膜装置により微粒子を除去することも記載されている。
すると、甲第2号証には、
「一次純水システムで一次純水を製造する工程、一次純水を微粒子分離膜装置を含むサブシステムで処理して超純水を得る超純水の製造方法において、微粒子分離膜装置によって微粒子を除去する超純水の製造方法。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

ウ.甲第3号証

甲第3号証には、以下の記載がある。

(ウ-1)
「【0003】中空糸型の膜処理装置においては、中空糸の一部が切断する現象(一般に「糸切れ現象」と称される)が時々起こるが、その際、多量の微粒子が処理水側に流出するため、使用場所で処理水に接触した仕掛品に多大な損害を与えてしまう。精密ろ過膜装置の場合には、利用のされ方から言って厳しい水質は要求されないものの、ろ過サイズ以下の微粒子があまりにも多量に存在する水で洗浄した器具を半導体デバイス製造に用いると、器具からの発塵によって製造歩留まりが低下することが懸念される。精密ろ過膜装置においても中空糸型の場合は糸切れ、プリーツ型の場合は破損が生じた場合、微粒子除去能力は著しく低下し、半導体デバイスの製造ラインの汚染等、多大な損害を与えることは言うまでもない。このような膜処理装置に事故が発生した際の生産設備の汚染を少なくするために、膜処理装置の入口における微粒子数を少なくすることが求められている。また、従来の超純水製造装置の中段に適宜設置されている逆浸透膜装置は、TOCや微量イオンの除去の他に微粒子を除去することを役割としている。ところが、逆浸透膜装置により十分に原水由来の微粒子を除去したとしても、その後段に設置されているイオン交換装置からの微粒子発生が問題となっている。」

エ.甲第4号証

甲第4号証には、以下の記載がある。

(エ-1)
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一次純水を二次純水へと精製する超純水の製造方法に関し、とくに、エレクトロニクス産業、中でも半導体部品や液晶部品等を製造する際に使用される洗浄水として好適な超純水の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、超純水は、市水、地下水、工水等の原水を前処理装置、一次純水装置、さらに二次純水製造装置(サブシステム)で処理をすることで得られている。このうち、前処理装置は、濁質除去を主目的として凝集や濾過装置などで構成される。一次純水製造装置は、溶存している不純物を除去することを目的として逆浸透膜装置、イオン交換装置、電気式脱イオン水製造装置および脱気装置等を組み合わせて構成されている。また、二次純水製造装置は、通常、低圧紫外線酸化装置、非再生型混床式イオン交換装置および限外濾過(UF)膜装置あるいは精密濾過(MF)膜装置により構成されている。」

(エ-2)
「【0008】
イオン交換装置で発生した微粒子は、後段の限外濾過膜装置等によって除去されるので、実質的に最終的な超純水の水質には影響を与えないが、限外濾過膜装置等に負荷を与えることになるので、限外濾過膜装置等の寿命が短くなるという問題を招くことになる。」

(エ-3)
「【0019】
非再生型混床式イオン交換装置3のイオン交換樹脂を交換した後のイオン交換装置出口水が基準値を満たして採水可能になるまでの時間を調査した。非再生型混床式イオン交換装置3には、混床樹脂EG-4(オルガノ(株)製)が充填され、SV=50/hrで通水されていた。イオン交換装置3の入口水の水質は、抵抗率:10?15MΩcm、TOC:5?7μg C/L、微粒子数:50?100個/mL (0.05μm以上)であり、採水条件は、抵抗率18MΩcm以上、TOC2μg C/L以下、微粒子5個/mL(0.05μm以上)以下である。各特性が上記採水条件を満たすまでの所要時間は以下の通りであった。
抵抗率:1時間
TOC:12時間
微粒子:20時間」

オ.甲第5号証

甲第5号証には、以下の記載がある。

(オ-1)


」(第1頁中段)

(オー2)


」(第14頁)

(オー3)


」(第28頁)

上記(オー1)で摘示した「OLT-6063HAの用途」には、OLT-6063HAを用いて超純水を製造することが記載されている。また、上記(オー3)で摘示した「7-1.奨励運転条件」には、UFモジュールを運転する際の供給水条件として0.1μm以上の微粒子を100個/ml以下とすることが、「7-2.UF供給水条件」には、一次純水システム及びサブシステムを有し、サブシステムの最終段にUFモジュールを用いることが記載されている。さらに、上記(オー2)で摘示した「3.仕様」には、有効膜面積が34m^(2)であり、公称分画分子量が6000であることが記載されている。
すると、甲第5号証には、
「一次純水システムで一次純水を製造する工程、一次純水をUFモジュールを最終段として含むサブシステムで処理して超純水を得る超純水の製造方法において、UFモジュールは有効膜面積が34m^(2)であり、公称分画分子量が6000であり、給水条件を0.1μm以上の微粒子を100個/ml以下とする超純水の製造方法。」の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。

カ.甲第7号証

甲第7号証には、以下の記載がある。

(カー1)


」(第7頁)

(カー2)


」(第16頁)

(カー3)


」(第27頁)

上記(カー1)で摘示した「2.用途および適正」には、OLT-3026を用いて超純水を製造することが記載されている。また、上記(カー3)で摘示した「8-1.奨励運転条件」には、UFモジュールを運転する際の供給水条件として0.1μm以上の微粒子を100個/ml以下とすることが、「8-2.UF供給水条件」には、一次純水システム及びサブシステムを有し、サブシステムの最終段にUFモジュールを用いることが記載されている。さらに、上記(カー2)で摘示した「4.仕様」には、有効膜面積が10.7m^(2)であり、公称分画分子量が10000であることが記載されている。
すると、甲第7号証には、
「一次純水システムで一次純水を製造する工程、一次純水をUFモジュールを最終段として含むサブシステムで処理して超純水を得る超純水の製造方法において、UFモジュールは有効膜面積が10.7m^(2)であり、公称分画分子量が10000であり、給水条件を0.1μm以上の微粒子を100個/ml以下とする超純水の製造方法。」の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されている。

(2)対比・判断

ア.本件発明1について

(ア)甲第1号証を主引例とする場合

本件発明1と引用発明1とを比較すると、引用発明1の「一次純水を微粒子分離膜装置を含むサブシステムで処理して超純水を得る」こと及び「微粒子分離膜装置によって微粒子を除去する」ことは、それぞれ本件発明1における「一次純水をサブシステムで処理して超純水を製造する超純水製造工程」及び「該サブシステム又はそれよりも後段で微粒子除去膜装置によって微粒子除去処理が行われる」ことに相当する。
したがって、本件発明1と引用発明1は、「一次純水システムで一次純水を製造する工程と、一次純水をサブシステムで処理して超純水を製造する超純水製造工程と、を有し、該サブシステム又はそれよりも後段で微粒子除去膜装置によって微粒子除去処理が行われる超純水製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
本件発明1の超純水製造方法は、「該微粒子除去膜装置への給水の微粒子濃度が1000個/mL以下であり、該微粒子の粒径が10nm以上であり、該微粒子除去膜装置は、分画分子量が400?10000の限外濾過膜装置であり、該限外濾過膜装置は、透過流束0.3m/Hr以下で粒径10nmの微粒子除去率が99.9%以上となるものであり、該限外濾過膜装置の透過流束を0.25?0.3m/Hrとする」のに対し、引用発明1の超純水製造方法においては、微粒子除去膜装置への給水の微粒子濃度、該微粒子の粒径、該微粒子除去装置の種類、分画分子量、10nmの微粒子除去率及び透過流速が明記されていない点。

上記相違点1について検討する。
上記(2)ウ.(ウ-1)で摘示した甲第3号証の段落0003には、中空糸型の膜処理装置おいて糸切れ現象が生じた際に生産設備の汚染を少なくするために、膜処理装置の入口における微粒子の数を少なくすることが記載されている。また、上記(2)エ.(エ-2)で摘示した甲第4号証の段落0008には、イオン交換装置で発生した微粒子は、後段の限外濾過膜装置で除去されるが、限外濾過膜装置に負荷を与えることになるため寿命が短くなるという問題が生じること、また同(エ-3)で摘示した甲第4号証の段落0019には、イオン交換装置の出口水の基準として、0.05μm以上の微粒子を5個/mL以下とすることが記載されている。
しかしながら、甲第3号証及び甲第4号証においては、微粒子除去膜装置への給水の微粒子の濃度を低減することは記載されているが、甲第4号証においては0.05μm(50nm)以上の微粒子を5個/mL以下とすることが記載されているのみであり、10nm以上の微粒子を1000個/mL以下とすることは記載されていない。
よって、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術的事項を参酌しても、微粒子除去装置への給水中の10nm以上の微粒子濃度を1000個/mL以下とすることは、当業者といえども容易に想到できるものではない。
さらに、甲第5?11号証及び甲第13?15号証を検討しても、微粒子除去装置への給水中の10nm以上の微粒子濃度を1000個/mL以下とすることは記載されておらず、また示唆もされていないため、当業者といえども容易に想到できるものではない。

ここで、特許異議申立人は、令和1年5月7日付け特許異議申立書において、「微粒子除去膜装置への給水の微粒子濃度を所望のレベルへと低減することは、目的や実情に応じて適宜に設定される設計的事項に過ぎない。」(第31頁第7行?第8行)と特許異議申立の理由を述べている。
しかし、下記で引用する「超純水中の超微量成分の分析における諸問題」(分析化学、2010年)のTable1(第350頁)には、本件特許出願前の2012年において、「Critical particle size」(臨界粒子サイズ)は17.9nmであり、また2015年において12.6nm、2020年においては7.1nmであるから、微粒子除去膜装置への給水中の粒径が10nm以上の微粒子を制限することは見いだせない。さらに、「Number of particles」(粒子数)は、2012年で「<300」L^(-1)(<0.3/mL)であり、また2015年で及び2020年で「<200」L^(-1)(<0.2/mL)であり、微粒子除去膜装置への給水の微粒子の濃度を低減するものであるが、微粒子除去膜装置への給水の微粒子の濃度はより少ない方が好ましいものであるから1000個/mLまで含むことを許容することが容易に想到できたとは認められない。



」(350頁)
(仮訳)(仮訳は当審が作成した。また、「・・・」は、省略を示す。)
表1 ウェハ環境汚染制御のための技術要件(ITRS 2008 更新)
製造年 2010 2012 2015 2020
DRAM 1/2ピッチ nm 45 36 25 14
超純水
抵抗率 25℃ MΩcm 18.2 18.2 18.2 18.2
・・・
臨界粒子サイズ nm 22.5 17.9 12.6 7.1
粒子数 L^(-1) <100 <300 <200 <200
・・・

してみると、微粒子除去装置への給水中の10nm以上の微粒子濃度を1000個/mL以下とすることは、当業者であれば適宜為し得る程度のことではない。

したがって、相違点1は、当業者であっても、甲第1号証、甲第3?11号証及び甲第13?15号証に記載された技術的事項に基づいて容易に想到することができたものとはいえない。
よって、本件発明1は、当業者であっても、甲第1号証、甲第3?11号証及び甲第13?15号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)甲第2号証を主引例とする場合

引用発明2は、引用発明1と同一であるから、本件発明1と引用発明2とは、相違点1の点で相違する。
そして、相違点1が当業者といえども容易に想到できるものではなく、また当業者であれば適宜為し得る程度のことではないことは、上記(ア)で検討したとおりである。
よって、本件発明1は、当業者であっても、甲第2?11号証及び甲第13?15号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)甲第5号証を主引例とする場合

本件発明1と引用発明3とを比較する。
引用発明3におけるUFは、上記(2)エ.(エ-1)で摘示した段落0002に記載されているように、限外濾過を意味するものであるから、引用発明3におけるUFモジュールは、本件発明1における「限外濾過膜装置」に相当する。そして、UFモジュール(限外濾過膜装置)によって微粒子を除去することは、当業者に自明な事項であるから、引用発明3の「一次純水をUFモジュールを最終段として含むサブシステムで処理」することは、「サブシステム又はそれよりも後段で微粒子除去膜装置によって微粒子除去処理が行われる」ことに相当する。さらに、引用発明3の「一次純水をUFモジュールを最終段として含むサブシステムで処理して超純水を得る」ことは、本件発明1における「一次純水をサブシステムで処理して超純水を製造する超純水製造工程」に相当する。また、引用発明3の限外濾過装置の公称分画分子量は6000であることは、本件発明1における「分画分子量が400?10000の限外濾過膜装置」であることを満足する。
したがって、本件発明1と引用発明3は、「一次純水システムで一次純水を製造する工程と、一次純水をサブシステムで処理して超純水を製造する超純水製造工程と、を有し、該サブシステム又はそれよりも後段で微粒子除去膜装置によって微粒子除去処理が行われ、該微粒子除去膜装置は画分子量が400?10000の限外濾過膜装置である超純水製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。なお、「ml」は「mL」と同義である。

相違点1’
本件発明1の超純水製造方法は、「該微粒子除去膜装置への給水の微粒子濃度が1000個/mL以下であり、該微粒子の粒径が10nm以上であり、該限外濾過膜装置は、透過流束0.3m/Hr以下で粒径10nmの微粒子除去率が99.9%以上となるものであり、該限外濾過膜装置の透過流束を0.25?0.3m/Hrとする」のに対し、引用発明3の超純水製造方法においては、微粒子除去膜装置が、有効膜面積が34m^(2)の限外濾過膜装置であり、限外濾過膜装置への給水は0.1μm以上の微粒子を100個/mL以下含むものであるが、10nmの微粒子除去率及び透過流速が明記されていない点。

上記相違点1’について検討すると、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術的事項を参酌しても、微粒子除去装置への給水中の10nm以上の微粒子濃度を1000個/mL以下とすることは、当業者といえども容易に想到できるものではないことは、上記(ア)で検討したとおりである。
また、甲第6号証、8?11号証及び甲第13?15号証を検討しても、微粒子除去装置への給水中の10nm以上の微粒子濃度を1000個/mL以下とすることは記載されておらず、また示唆もされていないため、当業者といえども容易に想到できるものではない。

ここで、特許異議申立人は、令和1年5月7日付け特許異議申立書において、「超純水用UFモジュールへの給水の微粒子数が100個/ml以下であり、該微粒子の粒径が0.1μm以上であることを特定している。超純水用UFモジュールへの給水が当該条件を満たせば、発明特定事項[B]を充足する蓋然性が高い。」(第54頁第28行?第55頁第3行)、及び「発明特定事項[B]を含む構成は、上記(3-1)、オ、オ-1で説明し通り、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術事項に照らせばありふれたものであり、また、目的に応じて適宜に設定する設計的事項に過ぎない。」(第55頁第4行?第7行)と特許異議申立の理由を述べている。
しかしながら、「超純水用UFモジュールへの給水が当該条件を満たせば、特定発明事項[B]を充足する蓋然性が高い。」ことを示す根拠は何ら示されていないため、当該特許異議申立の理由は、上記相違点1’を解消できるものではないから、採用しない。
そして、微粒子除去装置への給水中の10nm以上の微粒子濃度を1000個/mL以下とすることは、当業者であれば適宜為し得る程度のことではないことは、上記(ア)で検討したとおりである。

よって、本件発明1は、当業者であっても、甲第5号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第8?11号証及び甲第13?15号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)甲第7号証を主引例とする場合

本件発明1と引用発明4とを比較すると、以下の点で相違する。

相違点1’’
本件発明1の超純水製造方法は、「該微粒子除去膜装置への給水の微粒子濃度が1000個/mL以下であり、該微粒子の粒径が10nm以上であり、該微粒子除去膜装置は、分画分子量が400?10000の限外濾過膜装置であり、該限外濾過膜装置は、透過流束0.3m/Hr以下で粒径10nmの微粒子除去率が99.9%以上となるものであり、該限外濾過膜装置の透過流束を0.25?0.3m/Hrとする」のに対し、引用発明4の超純水製造方法においては、微粒子除去膜装置が、有効膜面積が10.7m^(2)の限外濾過膜装置であり、限外濾過膜装置への給水は0.1μm以上の微粒子を100個/mL以下含むものであるが、10nmの微粒子除去率及び透過流速が明記されていない点。

上記相違点1’’について検討すると、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術的事項を参酌しても、微粒子除去装置への給水中の10nm以上の微粒子濃度を1000個/mL以下とすることは、当業者といえども容易に想到できるものではないことは、上記(ア)で検討したとおりである。
また、甲第8?11号証及び甲第13?15号証を検討しても、微粒子除去装置への給水中の10nm以上の微粒子濃度を1000個/mL以下とすることは記載されておらず、また示唆もされていないため、当業者といえども容易に想到できるものではない。

ここで、特許異議申立人は、令和1年5月7日付け特許異議申立書において、「超純水用UFモジュールへの給水の微粒子数が100個/ml以下であり、該微粒子の粒径が0.1μm以上であることを特定している。超純水用UFモジュールへの給水が当該条件を満たせば、特定発明事項[B]を充足する蓋然性が高い。」(第59頁第6行?第9行)、及び「発明特定事項[B]を含む構成は、上記(3-1)、オ、オ-1で説明し通り、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術事項に照らせばありふれたものであり、また、目的に応じて適宜に設定する設計的事項に過ぎない。」(第59頁第10行?第13行)と特許異議申立の理由を述べている。

しかしながら、「超純水用UFモジュールへの給水が当該条件を満たせば、特定発明事項[B]を充足する蓋然性が高い。」ことを示す根拠は何ら示されていないため、当該特許異議申立の理由は、上記相違点1’’を解消できるものではないから、採用しない。
そして、微粒子除去装置への給水中の10nm以上の微粒子濃度を1000個/mL以下とすることは、当業者であれば適宜為し得る程度のことではないことは、上記(ア)で検討したとおりである。

よって、本件発明1は、当業者であっても、甲第7号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第8?11号証及び甲第13?15号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件発明2?4について

本件発明2?4は、本件発明1に係る発明特定事項を全て含むものであることから、本件発明1と同じ理由により、本件発明2?4は、当業者であっても、甲第1号証、甲第2号証、甲第5号証又は甲第7号証に記載された技術的事項と、甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証、甲第8?11号証及び甲第13?15号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.理由2(実施可能要件)について

上記第4.1.(2)及び(3)では、誘導結合プラズマ質量分析計を用いて超純水中の微粒子の数を計測することはできない点、及び電子顕微鏡を用いた直接検鏡法によって粒子数を計測するために重要なろ過する前のフィルターの清浄度、ろ過量、観察視野数について本件明細書に具体的な記載がない点について検討し、本件明細書が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていると判断した。
そして、特許異議申立の理由は、上記2点について、本件明細書が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないことを主張するものであるから、当該特許異議申立の理由は成り立たない。
したがって、本件発明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

5.理由3(サポート要件)について

本件発明1は、「限外濾過膜装置の透過流速を0.25?0.3m/Hrとすること」と規定されている。一方、本件特許明細書の段落0034には、「通常、中空糸型UF膜は、中空糸の内外面差圧を、中空糸が潰れる限界圧力である0.18MPaを十分に下回るようにし、かつ流量を多く確保するため、透過流束を約0.5m/Hrとして使用される。一方、本発明では、透過流束を通常使用時の2/3以下とすることで、10nmオーダーサイズの微粒子についても効率よく除去し、微粒子除去率を向上させることができる。」と記載されており、限外濾過膜装置の通常使用時における透過流速は0.5m/Hr程度であると認められ、本件発明1における限外濾過膜装置の透過流速は、通常使用時の透過流速の60%以下であり、2/3以下であることを満足している。してみると、本件発明1において、限外濾過膜装置の通常使用時の透過流速の2/3以下とすることは明確に特定されていないが、実質的に特定されているものである。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

6.取消理由で採用しなかった特許異議申立理由に対するまとめ

本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、また特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもない。

第6.むすび

以上のとおり、請求項1?4に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
超純水製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水製造方法に関し、特に、半導体製造工業等における電子部品部材類の洗浄に好適な超純水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造プロセスの発展に伴い、半導体基板等の洗浄を行う水(超純水)中の不純物(微粒子)は厳しく管理されている。国際半導体技術ロードマップ(ITRS)によると、2019年には粒子径>11.9nmの保証値<1000個/L(管理値<100個/L)が必要になると言われている。
【0003】
従来、半導体洗浄用水として用いられている超純水は、前処理システム、一次純水システム及びサブシステムから構成される超純水製造装置で原水(工業用水、市水、井水等)を処理することにより製造されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
凝集、加圧浮上(沈殿)、濾過装置等よりなる前処理システムでは、原水中の懸濁物質やコロイド物質の除去を行う。逆浸透(RO)膜分離装置、脱気装置及びイオン交換装置(混床式、2床3塔式又は4床5塔式)を備える一次純水システムでは原水中のイオンや有機成分の除去を行う。なお、RO膜分離装置では、塩類除去のほかにイオン性、コロイド性の全有機酸素(TOC)を除去する。イオン交換装置では、塩類除去のほかにイオン交換樹脂によって吸着又はイオン交換されるTOC成分を除去する。脱気装置(窒素脱気又は真空脱気)では溶存酸素の除去を行う。
【0005】
熱交換器、低圧紫外線(UV)酸化装置、混床式イオン交換装置及び限外濾過(UF)膜分離装置を備えるサブシステムでは、水の純度をより一層高め超純水にする。なお、低圧UV酸化装置では、低圧UVランプより出される波長185nmの紫外線によりTOCを有機酸さらにはCO_(2)まで分解する。分解された有機酸及びCO_(2)は後段のイオン交換樹脂で除去される。UF膜分離装置では、微小粒子が除去されイオン交換樹脂の流出粒子も除去される。
【0006】
このように従来は、サブシステムの末端にUF膜等の微粒子除去膜を設置することで、ナノメートルサイズの微粒子除去処理を行っていた。また、半導体・電子材料洗浄用の洗浄機直前にミニサブシステムをユースポイントポリッシャーとして設置し、最後段に微粒子除去膜を設置したり、洗浄機内のノズル直前に微粒子除去膜を設置して、より小さいサイズの微粒子を効率よく除去したりする方法が検討されている。
【0007】
サブシステム内において使用される微粒子除去膜としてのUF膜は、膜面の細孔径が微粒子径より小さいことが望ましいが、UF膜面には無数の細孔が存在し、その孔径にばらつきがある。そのため、粒子径が10nm程度の微粒子を完全に除去することが出来なかった。
【0008】
微粒子除去膜の微粒子除去率を高めるために、サブシステム内に微粒子除去膜を2段直列に設ける手法が知られており、例えば、特許文献2の図2、3には、超純水製造装置の最後段にUF膜装置とイオン交換基修飾精密濾過(MF)膜装置とをこの順に直列に設置する構成が開示されている。しかし、この構成ではイオン交換基修飾MF膜装置から交換基体が脱離して微粒子源になるという問題があった。また、MF膜は孔径がサブミクロンオーダーであり、UF膜の孔径より大きく、微粒子(粒子径>10nm)を1000個/L以下のレベルで管理することが困難であった。
【0009】
特許文献3の図4(a)には、二次純水装置の末端のUF膜装置の後段にRO膜装置を設ける構成が開示されている。RO膜は、UF膜より孔径が小さいため、微粒子の除去率を高めることが理論上可能である。しかし、RO膜はモジュールとしての清浄度が低く、ポッティング材からの発塵など微粒子を発生させることがあるため、サブシステムの末端に設けられる微粒子除去膜としては適当ではない。
【0010】
特許文献4には、二次純水装置にUF膜装置と孔径500?5000Åのアニオン吸着膜装置とを設ける構成が開示されている。アニオン吸着膜として、孔径0.02μm、空隙率60%、膜厚0.35mmの中空糸膜が用いられているが、このアニオン吸着膜では、シリカを高度に除去できるものの、超純水製造に求められるレベルの微粒子は除去できなかった。
【0011】
特許文献5には、超純水製造用分離膜モジュールとして用いられているUF又はMF膜装置の前段に、粒径10μm以上の粒子を阻止するプレフィルターを設ける構成が開示されている。このプレフィルターは、粒径10μm以上の不純物がUF又はMF膜に衝突して膜破損が生じることを防止するためのものであり、粒径10μm未満の微粒子は除去されない。また、最終段のUF又はMF膜において、微粒子蓄積に伴う後段への微粒子リークが考えられ、ユースポイントでの水質が低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010-196591号公報
【特許文献2】特開2004-283710号公報
【特許文献3】特開2003-190951号公報
【特許文献4】特開平10-216721号公報
【特許文献5】特開平4-338221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、微粒子除去率が高く、高純度の超純水を製造することができる超純水製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、UF膜には孔径分布が存在し、孔径と同程度、あるいは孔径よりも小さい微粒子を除去する場合、MF膜と同様に深層濾過のメカニズムをとるため、MF膜だけでなくUF膜においても、粒径10nmレベルの微粒子に関しては完全に除去しきれないが、微粒子除去膜の透過流束(Flux)を下げることで、膜面での微粒子蓄積を緩和し、モジュールとしての微粒子除去率を向上できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の超純水製造方法は、一次純水システムで一次純水を製造する工程と、一次純水をサブシステムで処理して超純水を製造する超純水製造工程と、を有し、該サブシステム又はそれよりも後段で微粒子除去膜装置によって微粒子除去処理が行われる超純水製造方法において、該微粒子除去膜装置の透過流束を0.1?0.35m/Hrとすることを特徴とするものである。
【0016】
本発明では、前記微粒子除去膜装置への給水の微粒子濃度が1000個/mL以下であることが好ましい。
【0017】
本発明では、前記微粒子除去膜装置は、前記サブシステムの最後段に設置されていることが好ましい。
【0018】
本発明では、前記微粒子除去膜装置は、限外濾過膜装置又は精密濾過膜装置であることが好ましい。
【0019】
本発明では、前記サブシステム内に設置されるポンプと前記微粒子除去膜装置との間に少なくとも1つの水処理機器が設置されていることが好ましい。また、水処理機器は、イオン交換装置、脱気装置、UV酸化器、及びH_(2)O_(2)除去装置の少なくとも1つであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、微粒子除去膜装置の透過流束を0.1?0.35m/Hrとするため、膜面での微粒子蓄積を緩和し、微粒子除去率を高め、高純度の超純水を製造することができる。
【0021】
また、微粒子除去膜装置への給水の微粒子濃度を1000個/mL以下とすることで、処理水微粒子濃度を1個/mL以下に管理することができる。
【0022】
また、サブシステム内に設置されるポンプと微粒子除去膜装置との間に少なくとも1つの水処理ユニットを設置することで、ポンプの摺動部で発生した微粒子が微粒子除去膜装置に到達することを防止することができる。特に、ポンプと微粒子除去膜装置との間に設置する水処理ユニットを、イオン交換装置、脱気装置、UV酸化器、及びH_(2)O_(2)除去装置のうちの少なくともいずれか1つとすることで、これらのユニットが有する微粒子吸着効果により水中の微粒子濃度を効果的に減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る超純水製造装置の概略図である。
【図2】実験例1の実験概略図である。
【図3】透過流束と粒子除去率との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1で使用した超純水サブシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
図1の超純水製造装置は、前処理システム1、一次純水システム2及びサブシステム3から構成される。
【0026】
凝集、加圧浮上(沈殿)、濾過装置等よりなる前処理システム1では、原水中の懸濁物質やコロイド物質の除去を行う。逆浸透(RO)膜分離装置、脱気装置及びイオン交換装置(混床式、2床3塔式又は4床5塔式)を備える一次純水システム2では原水中のイオンや有機成分の除去を行う。なお、RO膜分離装置では、塩類除去のほかにイオン性、コロイド性のTOCを除去する。イオン交換装置では、塩類除去のほかにイオン交換樹脂によって吸着又はイオン交換されるTOC成分を除去する。脱気装置(窒素脱気又は真空脱気)では溶存酸素の除去を行う。
【0027】
このようにして得られた一次純水(通常の場合、TOC濃度2ppb以下の純水)を、サブタンク11、ポンプP、熱交換器12、UV酸化装置13、触媒式酸化性物質分解装置14、脱気装置15、混床式イオン交換装置(脱イオン装置)16及び微粒子分離膜装置17に順次に通水し、得られた超純水をユースポイント18に送る。
【0028】
UV酸化装置13としては、通常、超純水製造装置に用いられる185nm付近の波長を有するUVを照射するUV酸化装置、例えば低圧水銀ランプを用いたUV酸化装置が用いられる。このUV酸化装置13で、一次純水中のTOCが有機酸、更にはCO_(2)に分解される。
【0029】
触媒式酸化性物質分解装置14により、UV酸化装置13で発生したH_(2)O_(2)、その他の酸化性物質が触媒により効率的に分解除去される。触媒式酸化性物質分解装置14の酸化性物質分解触媒としては、酸化還元触媒として知られる貴金属触媒、例えば、金属パラジウム、酸化パラジウム、水酸化パラジウム等のパラジウム(Pd)化合物又は白金(Pt)などが用いられる。
【0030】
脱気装置15としては、真空脱気装置、窒素脱気装置や膜式脱気装置が用いられる。この脱気装置15により、水中の溶存酸素(DO)やCO_(2)が効率的に除去される。
【0031】
混床式イオン交換装置16により、水中のカチオン及びアニオンが除去され、水の純度が高められる。
【0032】
微粒子分離膜装置17としては、UF膜分離装置又はMF膜分離装置を用いることができる。ただし、分画分子量は400?10000、好ましくは400?8000のUF膜分離装置を好適に用いることができる。分画分子量が大きすぎると、粒子径10nm程度の粒子を十分に除去することができず、分画分子量が小さすぎると、十分な透過流束を得るための動力(圧力)が大きくなりすぎるためである。なお、ここで分画分子量は、スクロース(340)、ラフィノース(590)、ビタミンB12(1360)、Bacitrancin(1410)、インシュリン(5700)、ミオグロビン(17000)、ペプシン(35000)、アルブミン(66000)などのポリペプチドや蛋白質等のマーカー分子を用いて、デッドエンド濾過を行い、分子量と阻止率の関係から、阻止率が90%となる分子量として算出される。この微粒子分離膜装置17で水中の微粒子、例えば混床式イオン交換装置16からのイオン交換樹脂の流出微粒子等が除去される。
【0033】
本発明では、微粒子分離膜装置17の透過流束を0.3m/Hr以下の低い値にすることで、膜面での微粒子蓄積を緩和し、高い微粒子除去率を実現する。微粒子分離膜装置17の透過流束は、0.1?0.35m/Hr、特に0.2?0.33m/Hr、更には0.25?0.3m/Hrが好適である。
【0034】
通常、中空糸型UF膜は、中空糸の内外面差圧を、中空糸が潰れる限界圧力である0.18MPaを十分に下回るようにし、かつ流量を多く確保するため、透過流束を約0.5m/Hrとして使用される。一方、本発明では、透過流束を通常使用時の2/3以下とすることで、10nmオーダーサイズの微粒子についても効率よく除去し、微粒子除去率を向上させることができる。
【0035】
微粒子分離膜装置17で処理された水について、粒径10nm以上の微粒子を1000個/L(1個/mL)以下に管理するために、微粒子分離膜装置17に導入される水の微粒子濃度を1000個/mL以下にすることが好ましい。
【0036】
サブシステム3において、ポンプPは、サブタンク11と熱交換器12との間だけでなく、他のユニット間にさらに設置されていてもよい。ポンプ等の回転機は摺動部から微粒子が発生し得るため、ポンプPは、微粒子分離膜装置17の前段(混床式イオン交換装置16と微粒子分離膜装置17との間)以外の箇所に設置することが好ましい。ポンプPと微粒子分離膜装置17との間に少なくとも1つのユニット(UV酸化装置13、触媒式酸化性物質分解装置14、脱気装置15、イオン交換装置16)が設置されることで、ポンプで発生した微粒子が除去され、微粒子分離膜装置17に導入される水の微粒子濃度を低減することができる。
【実施例】
【0037】
[実験例1]
Auコロイド粒子をスパイク(添加)した超純水をUF膜モジュールに透過流束を変えて通水し、透過流束とUF膜モジュールの微粒子除去率との関係を求めた。即ち、粒径10nmのAuコロイド粒子(B B International社製)をAuコロイド粒子濃度が1×10^(9)個/mLとなるように添加した超純水を、図2のように分画分子量6000のUF膜モジュールの底部から供給し、頂部から処理水を排出した。UF膜モジュールの濃縮水量を給水水量の約5%で設定し、濃縮水は排水とした。UF膜モジュールへの給水水量を変えてUF膜の透過流束を変化させ、各透過流束における処理水中Auコロイド粒子濃度を測定し、コロイド粒子除去率を算出した。Auコロイド粒子濃度の分析には誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を使用した。コロイド粒子除去率は、処理水中Auコロイド粒子濃度を給水中Auコロイド粒子濃度で除すことで算出した。結果を図3に示す。
【0038】
図3より、透過流束を小さくするほど、Auコロイド粒子の除去率が高くなること、透過流束が0.3m/Hr以下では除去率が99.9%以上となることが認められた。
【0039】
次に、以下の数式を用いて、UF膜処理水中において粒径10nmの微粒子を1000個/L=1個/mL以下に管理するために必要なUF膜給水許容微粒子濃度を算出した。
【0040】
【数1】

【0041】
上記数式において、C_(0)はUF膜給水中の微粒子濃度[個/mL]、CはUF膜処理水中の微粒子濃度[個/mL]、ReはUF膜での微粒子除去率[%]、BはUF膜材自体から発生する微粒子数[個/mL]である。
【0042】
微粒子除去率Reに図3に示す結果から得られた(透過流束が0.3m/Hr以下の場合の除去率)99.9%を代入し、B=0とした場合の、UF膜給水微粒子濃度C_(0)とUF膜処理水微粒子濃度Cとの関係を以下の表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1から、UF膜の微粒子除去率が99.9%の場合でも、UF膜処理水微粒子濃度を1個/mL以下とするためには、UF膜給水微粒子濃度を1000個/mL以下にする必要があることが分かった。
【0045】
[参考例1]
一次純水を、図4に示す超純水サブシステム20のサブタンク21、第1ポンプ22、熱交換器23、UV酸化器24、H_(2)O_(2)分離触媒塔25、第2ポンプ26、脱気膜装置27、イオン交換樹脂塔28、UF膜装置29に順次に通水し、得られた超純水をユースポイント30に送った。一次純水は、原水としての工業用水を前処理システム及び一次純水システムで処理して得られたものであり、TOC濃度は10?20ppbの純水である。第1ポンプ22、熱交換器23、UV酸化器24、H_(2)O_(2)分離触媒塔25、第2ポンプ26、脱気膜装置27、イオン交換樹脂塔28、及びUF膜装置29の各機器の出口側(#1?#8)からサンプル水を採取し、粒径10nmの微粒子濃度の分析を行った。微粒子濃度は、フィルターにサンプル水を所定量濾過した後、電子顕微鏡で観察しながら、フィルターに捕捉された微粒子の個数をカウントし、検出値を濾過水量で除すことで算出した。算出結果を以下の表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2の通り、第1ポンプ出口(#1)、第2ポンプ出口(#5)で微粒子が多く確認され、熱交換器出口(#2)では微粒子濃度にほとんど変化がなかった。この結果から、ポンプの摺動部から微粒子が発生し、熱交換器は微粒子の増減にほとんど影響を与えないことが認められた。一方、UV酸化器、H_(2)O_(2)分解触媒塔、脱気膜装置、イオン交換樹脂塔では、その前後で微粒子濃度が減少した。これは、これらの機器が有する微粒子吸着効果によって微粒子濃度が減少したものと考えられる。この結果から、UF膜(微粒子除去膜)装置の給水中の微粒子濃度を低くするためには、UF膜装置の直前以外の箇所にポンプを設置すべきであることが認められた。
【符号の説明】
【0048】
11 サブタンク
12熱交換器
13 UV酸化装置
14 触媒式酸化性物質分解装置
15 脱気装置
16 混床式イオン交換装置
17 微粒子分離膜装置
18 ユースポイント
【図面】




 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-04-28 
出願番号 特願2014-119792(P2014-119792)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C02F)
P 1 651・ 853- YAA (C02F)
P 1 651・ 121- YAA (C02F)
P 1 651・ 852- YAA (C02F)
P 1 651・ 537- YAA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 富永 正史  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 日比野 隆治
川村 裕二
登録日 2018-10-19 
登録番号 特許第6417734号(P6417734)
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 超純水製造方法  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 剛  

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