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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1363977
異議申立番号 異議2018-700846  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-17 
確定日 2020-05-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6313707号発明「化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末およびその製造方法ならびに化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6313707号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6313707号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第6313707号は、2013年(平成25年)8月27日(優先権主張 平成24年9月28日)を国際出願日とする特願2014-538117号の特許請求の範囲に記載された請求項1?6に係る発明について、平成30年3月30日に特許権の設定登録がされ、平成30年4月18日に特許掲載公報が発行されたものであり、その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

平成30年10月17日付け:特許異議申立人 特許業務法人藤央特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)による請求項1?6に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年12月13日付け:取消理由通知書
平成31年 2月14日付け:特許権者による意見書の提出
平成31年 2月21日付け:審尋(特許異議申立人に対して)
平成31年 3月27日付け:特許異議申立人による回答書の提出
令和 1年 6月25日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年 8月23日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年10月 3日付け:特許異議申立人による意見書の提出
令和 1年12月24日付け:審尋(特許権者に対して)

なお、上記令和1年12月24日付けの審尋に対しては、特許権者からの回答書の提出はなされなかった。

第2.訂正請求について

1.訂正の内容

(1)訂正事項

令和1年8月23日付け訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。」)は、次の訂正事項1及び2からなる(下線部は訂正箇所)。

訂正事項1
請求項1について、
「扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g?500ml/100gであることを特徴とする高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末であって、
前記BNの一次粒子が、平均長径:2?20μm、厚み:0.05?0.5μmであり、
前記高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の比表面積が1?10m^(2)/g、酸素含有量が1.5質量%以下である、化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。」との記載を、
「扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、粉体湿潤浸透解析装置PW-500により測定される水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g?500ml/100gであることを特徴とする高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末であって、
前記BNの一次粒子が、平均長径:2?20μm、厚み:0.05?0.5μmであり、
前記高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の比表面積が1?10m^(2)/g、酸素含有量が1.5質量%以下である、化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。」に訂正する。

訂正事項2
明細書の段落0013について、
「すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g?500ml/100gであることを特徴とする高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末であって、
前記BNの一次粒子が、平均長径:2?20μm、厚み:0.05?0.5μmであり、
前記高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の比表面積が1?10m^(2)/gである、高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。」との記載を、
「すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、粉体湿潤浸透解析装置PW-500により測定される水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g?500ml/100gであることを特徴とする高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末であって、
前記BNの一次粒子が、平均長径:2?20μm、厚み:0.05?0.5μmであり、
前記高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の比表面積が1?10m^(2)/gである、高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。」に訂正する。

(2)一群の請求項について

訂正前の請求項1の記載を請求項2?6が引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?6は一群の請求項である。
したがって、請求項1に係る訂正事項1を含む本件訂正請求は、この一群の請求項について請求をしたものと認められる。

2.訂正の判断

(1)訂正事項1について

訂正事項1は、請求項1に記載されていた「化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末」において水の浸透速度が「粉体湿潤浸透解析装置PW-500により測定される」ものであることを明確にするものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、「化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末」の水の浸透速度が「粉体湿潤浸透解析装置PW-500により測定される」ものであることは、本件明細書の段落0039に「なお、BN粉末の撥水性、吸油量および溶出B量はそれぞれ、次のようにして測定した。
(1) 撥水性
透水試験を行い、その時の水の浸透速度を測定した。
具体的には、粉体湿潤浸透解析装置PW-500を使用し、内径10mmのカラムに粉末1gを充填して、下部の接液面からの「ぬれ高さ」を経過時間毎に測定して、浸透速度を算出した。」と記載されていることから、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について

訂正事項2は、本件明細書の段落0013の「1.扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g?500ml/100gであることを特徴とする高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末であって、」との記載を、「1.扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、粉体湿潤浸透解析装置PW-500により測定される水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g?500ml/100gであることを特徴とする高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末であって、」に訂正するものであり、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、「化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末」の水の浸透速度が「粉体湿潤浸透解析装置PW-500により測定される」ものであることは、本件明細書の段落0039に「なお、BN粉末の撥水性、吸油量および溶出B量はそれぞれ、次のようにして測定した。
(1) 撥水性
透水試験を行い、その時の水の浸透速度を測定した。
具体的には、粉体湿潤浸透解析装置PW-500を使用し、内径10mmのカラムに粉末1gを充填して、下部の接液面からの「ぬれ高さ」を経過時間毎に測定して、浸透速度を算出した。」と記載されていることから、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、訂正事項2は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)独立特許要件について

特許異議申立ては、訂正前の全ての請求項1?6についてされているので、一群の請求項1?6に係る訂正事項1に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.まとめ

以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定された事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第2.本件発明について

本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、令和1年8月23日付け訂正特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものである。(下線部は訂正箇所)。

【請求項1】
扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、粉体湿潤浸透解析装置PW-500により測定される水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g?500ml/100gであることを特徴とする高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末であって、
前記BNの一次粒子が、平均長径:2?20μm、厚み:0.05?0.5μmであり、
前記高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の比表面積が1?10m^(2)/g、酸素含有量が1.5質量%以下である、化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
可溶性ホウ素量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の製造方法であって、
ホウ酸および/またはその脱水物と尿素および/またはその化合物と炭化ホウ素とを、不活性雰囲気中で加熱して乱層構造の窒化ホウ素粉末とし、ついで得られた窒化ホウ素粉末に対し、不活性雰囲気中にて1500?2300℃の温度で加熱処理を施したのち、粉砕し、洗浄処理によってホウ酸を除去したのち、300℃以上1000℃以下の温度で、かつ炉内圧が0.01MPa以下の非酸化性の減圧雰囲気中にて加熱処理することを特徴とする化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の窒化ホウ素粉末を含有する化粧料。
【請求項5】
前記化粧料における前記窒化ホウ素粉末の含有量が0.1?70質量%であることを特徴とする請求項4に記載の化粧料。
【請求項6】
化粧料がパウダーファンデーションであることを特徴とする請求項4または5に記載の化粧料。

第3.取消理由について

1.取消理由(決定の予告)の概要

本件特許の取消理由(決定の予告)の概要は以下のとおりである。

理由1(明確性)
本件発明1に係る請求項1の「水の浸透速度が1mm^(2)/s未満」との記載について、発明の詳細な説明、甲第9号証、及び特許権者が本件特許に係る出願の拒絶査定不服審判(不服2016-14362)において平成29年9月22日付けで提出した意見書によれば、PW-500は、以下に示すWashburnの式(1)、(2)、及び式(1)及び(2)から変形した式(3)に基づいて浸透速度l^(2)/tを求めるものである。

式(1)
式中のlは液体の浸透高さ、tは時間、rは充填粉体の毛管半径、γは液体の表面張力、θは接触角、ηは液体の粘度である。

式(2)
式中のsはカラム内断面積、εは空隙率、ρは液体の密度である。

式(3)
そして、上記式(1)の右辺における充填粉体の毛管半径rは粉体粒子間の間隙により決まる値であり、充填状態が異なれば粉体粒子間の間隙も異なるから、毛管半径rの値は充填状態により異なるものとなり、式(3)の右辺では、W^(2)/tを(sερ)^(2)で除しているが、この操作は、「粉体中の空隙に浸透した液体の重量W=空隙の体積s・l・ε×液体の密度ρ」との関係を用いて液体の重量Wを浸透高さlに換算するための操作であって、当該操作により毛管半径rに反映される実験条件の影響が取り除かれるものではない。
そうすると、上記式(1)?(3)により求められる浸透速度l^(2)/tの値は、粉体の充填状態により異なる毛管半径rの影響を受けるものであるから、粉体の充填状態が一定となるような実験条件が特定されない限り、定量的な比較に用いることはできない。そのため、当業者はいかなる窒化ホウ素粉末が請求項1に係る発明の範囲に含まれるか否かを理解することができない。
また、PW-500以外の公知の装置による測定方法についても同様の事情があると認められるから、窒化ホウ素粉末に対する水の浸透速度を一意に定めることはできない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。

理由2(実施可能要件)
請求項1に係る発明は、「浸透速度が1mm^(2)/s未満」であることを発明特定事項にするものであるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当該浸透速度の測定時の粉末の充填条件が記載されていない。加えて、甲第9号証に記載されているPW-500なる装置は、充填粉体の空隙率を一定に調整するための粉体圧縮器を備えるものではあるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当該粉体圧縮器に設定するパラメータ等についての記載がないため、製造した窒化ホウ素粉末が上記発明特定事項を有するか否かを認識することができないため、上記発明特定事項を有する窒化ホウ素粉末を製造することができない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。

理由3(新規性)
請求項1、2、4及び6に係る発明は、その優先日前に日本国内または外国において頒布された甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものである。

理由4(進歩性)
請求項1、2、4?6に係る発明は、その優先日前に日本国内または外国において頒布された甲第2号証、甲第5号証に記載された技術事項、及び甲第5号証に記載されるような周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

甲第2号証:窒化ホウ素微粒子製品データカタログ 型番MK-PC-1111101,モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社,2011年11月
甲第4号証:ASTM D1483-95,ASTM International,2002年
甲第5号証:特開2012-176910号公報

2.取消理由に対する当審の判断

(1)理由1(明確性)、理由2(実施可能要件)について

本件訂正により、請求項1には、水の浸透速度が「粉体湿潤浸透解析装置 PW-500 により測定される」ものであることが追加されたため、PW-500以外の公知の装置により水の浸透速度を測定する場合についての理由1は、理由がない。
そこで、PW-500により水の浸透速度を測定する場合についての理由1について検討すると、浸透速度の値は、粉体の充填状態により異なる毛管半径rの影響を受けるものであり、粉体の充填状態が一定となるような実験条件が特定されない限り、定量的な比較に用いることはできないことは上記理由1に記載のとおりである。そして、令和1年8月23日付け意見書において、特許権者は水の浸透速度は空隙率が67%の条件で測定したものであること(第4頁第16行)を主張し、「本件特許で規定する水の浸透速度の測定対象は、あらゆる形状の窒化ホウ素粉末ではなく、請求項1で規定された限られた範囲の平均長径と厚みを有するものに限られています。そして、このような窒化ホウ素粉末をPW-500の粉体圧縮機を用いてカラム内に充填すれば、その充填率は65%?70%という一定の範囲を取ります。」(第4頁第6行?第10行)とも主張している。しかし、空隙率は粒子を充填した容器の体積に対する空隙の体積が占める割合であり、充填率は粒子を充填した容器の体積に対する粒子の体積が占める割合であって、空隙率と充填率と間には「充填率+空隙率=100%」の関係が成立するものであるから、請求項1に規定されている平均長径と厚みを有する窒化ホウ素粉末をPE-500の粉体圧縮機を用いてカラムに充填した場合の充填率が65?70%となるならば、空隙率は35?30%となるものである。すると、PE-500の粉体圧縮機を一般的な設定で用いて充填した場合に空隙率が67%の測定条件になるとは認められないから、結局のところ具体的な充填手段・条件が不明であって、当該粉体圧縮器に設定するパラメータ等についての記載がないため、製造した窒化ホウ素粉末が上記発明特定事項を有するか否かを認識することができず、上記発明特定事項を有する窒化ホウ素粉末を製造することができない。
さらに、粉体の充填状態が一定となるような実験条件が特定されていないため、定量的な比較に用いることはできず、当業者はいかなる窒化ホウ素粉末が請求項1に係る発明の範囲に含まれるか否かを理解することができない。
また、特許異議申立人は、令和1年10月3日付け意見書において、空隙率が65?70%の範囲では、空隙率によって水の浸透速度がおおよそ0.8mm^(2)/sもばらつくことを主張している(なお、特許異議申立人の上記意見書の第4頁に示すグラフによると、空隙率と水の浸透速度は比例関係にあるため、充填率が65?70%(空隙率が30?35%)の範囲においても空隙率によるばらつきの大きさは変わらないものと推認できる。)。ここで、特許異議申立人が令和1年10月3日付け意見書において示す空隙率と水浸透速度の相関について、それを否定する根拠は見当たらないのに対し、令和1年12月24日付け審尋(特許権者)において、上記空隙率と水浸透速度の相関から認識できる水の浸透速度の空隙率によるばらつきについての意見を求めたにもかかわらず、特許権者からは何ら主張はなかった。そこで、水の浸透速度の空隙率によるばらつきに関して特許異議申立人の意見を採用するに、取消理由通知書(決定の予告)(令和1年6月25日付け)の第9頁「(3)特許権者の主張に対する当審の判断」で述べたように、本件発明においては従来技術に対する優位性を特定するための技術的な特徴として、水の浸透速度は0.1mm^(2)/sレベルでの測定精度が少なくとも求められるものである(後述する理由3、4)が、空隙率又は充填率が65?70%の範囲では空隙率によって水の浸透速度がおおよそ0.8mm^(2)/sもばらつくものであるから、特許権者の主張する充填率が65?70%と一定の範囲を取った場合においても、本件発明が要する測定精度を得るために不十分であり、当業者が本件発明を実施することができるとは認められない。また、本件発明の水の浸透速度が充填率がどのような値の場合であるか把握することができないため、本件発明を明確に把握することができない。
したがって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。

(2)理由3(新規性)、理由4(進歩性)について

ア.本件発明について

上記ア.で指摘したように、「粉体湿潤浸透解析装置 PW-500 により測定される水の浸透速度が1mm^(2)/s未満」という発明特定事項を明確に把握することができないため、水の浸透速度は測定条件により0.8mm^(2)/s程度ばらつくものとして新規性及び進歩性について判断を行った。

イ.各号証の記載事項

(ア)甲第2号証

甲第2号証には、以下の記載がある。

(ア-1)「本品は、熱的化学的に安定な、窒化ホウ素の微粉末粒子です。
ファンデーション、パウダー類、アイメーク化粧品に潤滑剤、顔料として配合することで、カバー力、明るさ、滑り性をコントロールすることができます。」(第1頁上部)

(アー2)「用途
○ ファンデーション
○ ポイントメーク
○ パウダー化粧品」(第1頁中央部)

(アー3)「

」(第1頁下部)

(アー4)「

」(第2頁上部)

(アー5)「

」(第2頁下部)

(アー6)「

」(第3頁上部)

そして、上記(アー3)?(アー6)に記載された窒化ホウ素微粒子のうち、「CC6059」、「CC6069」、「CC6058」、「CCS102」及び「CC6004」なる製品に着目すると、これらの製品は、いずれも、準グラファイト状又はグラファイト状の結晶構造を有する窒化ホウ素微粒子であり、その平均粒径は6?15μmであり、比表面積は3.5?8.5m^(2)/gであり、可溶性ホウ酸塩の割合は0.03%である。
また、上記(アー4)には、これらの製品の吸油量は104?185であり、当該吸油量はASTM D1483-95に基づくものであることが記載されている。
また、上記(アー4)に示される「O_(2)」は酸素含有量の意味であると解することができるから、これらの製品は、0.2?0.35%の酸素含有量を有するものである。
また、上記(アー5)及び(アー6)から、これらの製品は、扁平形状をなす一次粒子及び該一次粒子の凝集体からなるものと認められる。

したがって、甲第2号証には次の発明が記載されていると認められる。

「扁平形状をなす窒化ホウ素の一次粒子及び該一次粒子の凝集体からなり、ASTM D1483-95に基づく吸油量が104?185であり、平均粒径が6?15μmであり、比表面積は3.5?8.5m^(2)/gであり、可溶性ホウ酸塩の割合が0.03%であり、酸素含有量が0.2?0.35%である、ファンデーション、ポイントメーク、パウダー化粧品に用いられる窒化ホウ素粉末。」(以下、「甲2発明」という。)

(イ)甲第4号証について

甲第4号証には、以下の記載がある。

(イー1)「

」(第1頁右欄第1?9行)
(仮訳)
「5.装置と試料
・・・
5.5 亜麻仁油、原料油、D234仕様書に沿う、ただし酸価は3±1とする。」

(イー2)「

」(第1頁右欄第26?33行)
(仮訳)
「7.計算法
7.1 吸油量Aは下記式で求める
(式省略)
ここでM=油の量(mL)、P=顔料の量(g)である。
式中の0.93は油の密度を示す(g/mL)。
値は顔料100gあたりの油のグラムで表される。」

(ウ)甲第5号証について

甲第5号証には、以下の記載がある。

(ウー1)「【0007】
本発明は、上記の要望に有利に応えるもので、従来に比べて「のび」に優れ、かつ「もち」にも優れた化粧料用の窒化ホウ素粉末を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
また、本発明は、上記の窒化ホウ素粉末を使用することにより、仕上がりのツヤ感(光沢感)や透明感(素肌感)を格段に向上させた化粧料を提案することを目的とする。」

(ウー2)「【0024】
平均長径が2?20μmで厚みが0.05?0.5μmの扁平形状をなす一次粒子が積層した板状の集体
一次粒子の平均長径が2μmに満たないものは製造が困難であり、一方20μmを超えると向性が出て、凝集体の密度が低下する(空隙率が増加する)ので、一次粒子の平均長径は2?20μmの範囲に限定した。好ましくは5?10μmの範囲である。
また、一次粒子の厚みが0.05μmに満たないと、潤滑性を発現できる5?10μmの化粧料に適した平板粒子が形成されず、一方0.5μmを超えると、肌に延ばして塗布した場合に透明感が低下するとともに平面が平滑に維持できないので、一次粒子の厚みは0.05?0.5μmの範囲に限定した。なお、かかる一次粒子のアスペクト比(長径/厚み)は10?25程度とすることが好ましい。
ここに「一次粒子」とは、鱗片状を形成する単一粒子と定義する。また、「一次粒子の凝集体」とは、一次粒子が2個以上化学結合した状態で存在する粒子と定義する。」

(ウー3)「【0029】 可溶性ホウ素の含有量が100ppm以下
また、本発明において、窒化ホウ素粉末中における可溶性ホウ素量は100ppm以下とする必要がある。
というのは、可溶性ホウ素量が100ppmを超えると、肌へのダメージが大きくなるからである。好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下である。」

(ウー4)「【0039】
ついで、得られた窒化ホウ素塊を、粉砕・分級後、洗浄によって不純物を除去することによって、高純化する。
この高純化処理に際しては、少なくとも可溶性ホウ素についてはその含有量を窒化ホウ素粉末全体に対する割合で100ppm以下まで低減する必要がある。また、その他の不純物については、金属不純物の量も100ppm以下まで低減することが好ましい。」

(ウー5)「【0041】
ここに、化粧品顔料における上記窒化ホウ素粉末の割合は0.1?70質量%とすることが好ましい。というのは、この割合が0.1質量%に満たないと本発明で所期したのびや付着性の改善効果に乏しく、一方70質量%を超えると(BN粉末特有のぎらつき感が強くなり適切な光沢が得られなくなる)だからである。」

(ウー6)「【表1】



(エ) 甲第1号証について

甲第1号証には、以下の記載がある。

(エー1)「また最終製品は塊状合成物を粉砕して焼結させるが、通常は粉砕の後、充填性の向上を目的として造粒を行う、この場合、粉末はスラリー状態でスプレードライ法を使用する。このときスラリーを1ないし数回、脱水、洗浄すると製品が均一で、かつ不純物として残留しているナトリウム成分あるいは酸化硼素などを除去できるので効果的である。もちろんh-BNは疎水性であるので溶媒として水を使用するには界面活性剤を必要とする。あるいはアルコール類の有機溶媒を分散剤としても効果は大きい。」(第7頁左下欄第2?12行)

ウ.対比・判断

(ア)本件発明1について

a.対比

本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の窒化ホウ素粉末はファンデーション、ポイントメーク、パウダー化粧品に用いられるものであるから、化粧料用窒化ホウ素粉末であるといえる。また、甲2発明の窒化ホウ素粉末は高い吸油量を有するから、高吸油性窒化ホウ素粉末であるといえる。
また、本件発明1における「吸油量」は、本件明細書の段落【0039】の記載によれば、JIS K5101により規定される吸油量を指すものである。
そうすると、本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

(一致点)
「扁平形状をなすBNの一次粒子及び該一次粒子の凝集体からなる高吸油性窒化ホウ素粉末であって、前記高吸油性窒化ホウ素粉末の比表面積が1?10m^(2)/g、酸素含有量が1.5質量%以下である、化粧料用高吸油性窒化ホウ素粉末。」である点。

(相違点1)
本件発明1の窒化ホウ素粉末は、JIS K5101により規定される吸油量が100ml/100g?500ml/100gであるのに対し、甲2発明の窒化ホウ素粉末のASTM D1483-95に基づく吸油量が104?185であるが、JIS K 5101により規定される吸油量については不明である点。

(相違点2)
本件発明1の窒化ホウ素粉末は、一次粒子の平均長径が2?20μm、厚みが0.05?0.5μmであるのに対し、甲2発明の窒化ホウ素粉末は、平均粒径が6?15μmであるが、平均長径及び厚みは不明である点。

(相違点3)
本件発明1の窒化ホウ素粉末は高撥水性であるのに対し、甲2発明の窒化ホウ素粉末は高撥水性であるか否か不明である点。

(相違点4)
本件発明1の窒化ホウ素粉末は、「粉体湿潤浸透解析装置 PW-500 により測定される水の浸透速度が1mm^(2)/s未満」であるのに対し、甲2発明の窒化ホウ素粉末は、粉体湿潤浸透解析装置 PW-500 により測定される水の浸透速度が不明である点。

b.相違点についての判断

始めに、相違点1について検討する。
JIS K5101により規定される吸油量は、顔料100gが吸収するあまに油の体積(mL/100g)である。一方、甲第4号証(上記(イー1)、(イー2)を参照)によれば、ASTM D1483-95に基づく吸油量とは、顔料100gが吸収するあまに油の質量(g/100g)である。そこで、甲2発明の窒化ホウ素粉末の吸油量を、あまに油の密度(0.93g/mL)を用いてJIS K5101により規定される吸油量に換算すると、甲2発明の窒化ホウ素微粒子は、約112?199mL/100gの吸油量を有するものと認められる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

次に、相違点2について検討する。
本件特許明細書に実施例として記載された「No.1」及び「No.2」の窒化ホウ素粉末の平均粒径は、それぞれ、5.8μm及び8.6μmである。そして、甲2発明の窒化ホウ素粉末は、本件発明1の窒化ホウ素粉末と同様に、扁平形状をなすBNの一次粒子及び該一次粒子の凝集体からなるものであり、平均粒径は6?15μmであるから、甲2発明の窒化ホウ素粉末は本件発明1の窒化ホウ素粉末と同様の形状を有し、同程度の平均粒径を有するものである。そうすると、甲2発明の窒化ホウ素粉末は、本件発明1の窒化ホウ素粉末と同様に、一次粒子の平均長径が2?20μmの範囲内であり、厚みが0.05?0.5μmの範囲内のものである蓋然性が高いといえる。
また、甲第5号証(上記(ウー1)、(ウー2)、(ウー6)を参照)には、扁平形状をなすBNの一次粒子が積層した、平均粒径が8?11μmの凝集体からなる窒化ホウ素粉末について、一次粒子の平均長径は5?10μm、平均厚みは0.2?0.5μmであることが記載されている。そして、甲2発明の窒化ホウ素粉末は、甲第5号証に記載された窒化ホウ素粉末と同様の形状を有し、同程度の平均粒径を有するから、その一次粒子の平均長径及び厚みは、甲第5号証記載の窒化ホウ素粉末と同程度、すなわち、平均長径は2?20μmの範囲内、厚みは0.05?0.5μmの範囲内である蓋然性が高いといえる。
したがって、相違点2も実質的な相違点ではない。
また、甲2発明の窒化ホウ素粉末の一次粒子の平均長径が2?20μmの範囲内でなく、厚みが0.05?0.5μmの範囲内でないとしても、甲第5号証(上記(ウー2)を参照)には、窒化ホウ素粉末の一次粒子の平均長径が2μmに満たないと製造が困難であり、20μmを超えると凝集体の密度が低下し、また、厚みが0.05μmに満たないと化粧料としたときに潤滑性が発現されず、0.5μmを超えると透明感が低下することが記載されているから、甲2発明において、製造の容易性や空隙率の低減、潤滑性や透明感の向上のために、一次粒子の平均長径を2?20μmの範囲内とし、厚みを0.05?0.5μmの範囲内とすることは、甲第5号証の記載に基づき、当業者が容易になし得たことである。

さらに、相違点3について検討する。
甲第1号証(上記(エー1)を参照)に記載されているように、一般に、六方晶窒化ホウ素粉末は疎水性を示すことが知られている。そして、甲2発明の窒化ホウ素粉末も、準グラファイト状又はグラファイト状、すなわち六方晶型の結晶構造を有するものであるから(上記(アー3)を参照)、当然に疎水性を示すものであるといえる。
そして、本件明細書には、いかなる程度の疎水性・撥水性を有する窒化ホウ素粉末が高撥水性窒化ホウ素粉末に該当するのかという点について、特段の定義はないから、甲2発明の窒化ホウ素粉末も、高撥水性であるということができる。
したがって、相違点3も実質的な相違点ではない。

最後に、相違点4について検討するが、相違点4について検討するに際しては、「粉体湿潤浸透解析装置 PW-500 により測定される水の浸透速度」がどのような条件(特に、空隙率)で測定したものであるかについて検討する必要がある。しかし、令和1年8月23日付け意見書における特許権者の主張を考慮しても、測定条件を明確にすることはできないものであり、「粉体湿潤浸透解析装置 PW-500 により測定される水の浸透速度」を明確に把握することができないことは、上記2.(1)で検討したとおりである。
そして、上記2.(1)で指摘したとおり、特許異議申立人は、令和1年10月3日付け意見書において、空隙率が65?70%の範囲では、空隙率によって水の浸透速度がおおよそ0.8mm^(2)/sもばらつくことを主張しており(なお、特許異議申立人の上記意見書の第4頁に示すグラフによると、空隙率と水の浸透速度は比例関係にあるため、充填率が65?70%(空隙率が30?35%)の範囲においても空隙率によるばらつきの大きさは変わらないものと推認できる。)、特許異議申立人が令和1年10月3日付け意見書において示す空隙率と水浸透速度の相関について、それを否定する根拠は見当たらないのに対し、令和1年12月24日付け審尋(特許権者に対して)において、上記空隙率と水浸透速度の相関から認識できる水の浸透速度の空隙率によるばらつきについての意見を求めたにもかかわらず、特許権者からは何ら主張はなかったものであるから、特許異議申立人に意見を採用し、「粉体湿潤浸透解析装置 PW-500 により測定される水の浸透速度が1mm^(2)/s未満」であることには、測定条件により0.8mm^(2)/s程度ばらつくことを包含しているものとして、新規性及び進歩性の判断を行う。
ここで、本件明細書の表1には、比較例であるタルクの浸透速度が1.2mm^(2)/sであることが示されており、水の浸透速度に影響する官能基の低減処理である粉砕・洗浄後の非酸化性の減圧雰囲気中での加熱処理(本件明細書段落0024、0032、0034参照。)を実施していない同表における従来例の窒化ホウ素粉末の水の浸透速度は0.5mm^(2)/sである。
一方、上記2.(1)で示したWashburnの式(1)によれば、浸透速度は接触角をθとするとcosθに比例するものであり、特開平9-12307号公報の段落0002に記載されているように、BNの水滴に対する接触角は通常90?120°であり、また、「製紙,加工工程濡れ(I)」(山田博、紙パ技協誌、39巻8号、1985年)の表10には下記のとおりタルクの水に対する接触角が88°であることが記載されているから、一般的にBNの水の接触角はタルクと同程度か大きいといえ、同じ条件(毛管半径r)で測定した場合にはBNの浸透速度はタルクの浸透速度と同程度か小さいといえる。


(製紙,加工工程濡れ(I) 第740頁)

すると、甲2発明の窒化ホウ素粉末の水の浸透速度は、高く見積もっても比較例である従来の窒化ホウ素粉末かタルクと同程度であり、仮にタルクと同程度(1.2mm^(2)/s)であったとしても、当該タルクの浸透速度は測定条件によるばらつきを考慮すると1.0mm^(2)/s以下となる蓋然性が高いものであるから、甲2発明も本件発明の水の浸透速度を満足している蓋然性が高いものである。
したがって、上記相違点4も実質的な相違点ではない。

よって、本件発明1は、甲2発明と同一であるか、甲2発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は同法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(イ)本件発明2について

a.対比

本件発明2と甲2発明を対比する。本件発明2における「可溶性ホウ素量」は、段落0039の記載によれば、医薬部外品原料規格2006の規定に準じて測定した溶出ホウ素量を指すものである。そうすると、両者は上記相違点1?4に加え、以下の点で相違する。

(相違点5)
本件発明2の窒化ホウ素粉末は、医薬部外品原料規格2006の規定に準じて測定した溶出ホウ素量が100ppm以下であるのに対し、甲2発明の窒化ホウ素粉末は、可溶性ホウ酸塩の割合が0.03%であるが、医薬部外品原料規格2006の規定に準じて測定した溶出ホウ素量が100ppm以下であるか否か不明である点。

b.相違点についての判断

上記相違点5について検討する。
甲第2号証には、可溶性ホウ酸塩がいかなる物質であるかは記載されていないが、窒化ホウ素の製造において、原料として主に用いられるホウ酸は加熱により水を失って酸化ホウ素B_(2)O_(3)となること、また、生成した窒化ホウ素の酸化によっても酸化ホウ素B_(2)O_(3)が生成することを考慮すると、甲2発明における可溶性ホウ酸塩の主成分は酸化ホウ素B_(2)O_(3)である蓋然性が高い。そして、当該可溶性ホウ酸塩の全量が酸化ホウ素B_(2)O_(3)であると仮定すると、可溶性ホウ酸塩中のホウ素の重量比は約0.31であるから、甲2発明の窒化ホウ素の溶出ホウ素量は約93ppm(≒0.03%×0.31)である。また、当該可溶性ホウ酸塩が他のホウ酸塩化合物を含む場合は、ホウ酸塩化合物中のホウ素の重量比は、酸化ホウ素B_(2)O_(3)中のホウ素の重量比よりも小さいから、溶出ホウ素量は93ppmよりもさらに小さい値となる。
よって、相違点5は実質的な相違点ではない。
また、甲2発明の窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量が100ppm以下でないとしても、甲第5号証には、窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量は20pmを超えると肌へのダメージが大きくなるため、可溶性ホウ素量を100ppm以下とする必要がある旨の記載があり(上記(ウー3)参照)、また、洗浄により窒化ホウ素粉末中の可溶性ホウ素の含有量を100ppm以下まで低減できることが記載されているから(上記(ウー4)参照)、甲2発明において、窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量を100ppm以下に調整することは、当業者であれば容易になし得たことである。
したがって、本件発明2は、甲2発明と同一であるか、甲2発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は同法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(ウ)本件発明4、6について

本件発明4は、本件発明1又は2の窒化ホウ素粉末を含有する化粧料に係る発明であり、本件発明6は、本件発明4において、化粧料をパウダーファンデーションに限定したものである。
しかし、甲第2号証には、甲2発明の窒化ホウ素粉末の用途がファンデーション、ポイントメーク、パウダー化粧品であることが記載されているから(上記(アー2)を参照)、甲第2号証には、甲2発明の窒化ホウ素粉末を含有するパウダーファンデーション等の化粧品が実質的に記載されているといえる。
したがって、本件発明4及び6は、甲2発明と同一であるか、甲2発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は同法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(エ)本件発明5について

本件発明5は、本件発明4において窒化ホウ素粉末の含有量を0.1?70質量%に限定するものであるが、化粧料に配合する窒化ホウ素粉末をこの程度の量とすることは、例えば甲第5号証(上記(ウー5)を参照)に記載されるように一般的に行われることであるから、甲2発明の窒化ホウ素を化粧品に配合する際に、その含有量を0.1?70質量%とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
したがって、本件発明5は、甲2発明、甲第5号証に記載された事項、及び、甲第5号証に記載されるような周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

エ.特許権者の主張に対する当審の判断

上記取消理由(決定の予告)に対して、特許権者は、令和1年8月23日付けで意見書を提出し、以下の点を主張している。
(i)取消理由(決定の予告)は、「水の浸透速度」に記載不備があることを理由として、「水の浸透速度」を考慮することなく新規性進歩性の判断をしたものであり、「水の浸透速度」に係る記載不備は解消したので、「水の浸透速度が1mm^(2)/s未満」との事項は、新規性進歩性の判断において考慮されるべきである。
(ii)甲第2号証には、窒化ホウ素粉末の水の浸透速度が1mm^(2)/s未満であることは記載も示唆もされておらず、洗浄処理後の窒化ホウ素粉末に対して「300℃以上1000℃以下の温度で、かつ炉内圧が0.01MPa以下の非酸化性の減圧雰囲気」で加熱処理を施すことも記載されていない。また、取消理由において挙げられた他の文献にも、窒化ホウ素粉末の水の浸透速度が1mm^(2)/s未満であること、及び洗浄処理後の窒化ホウ素粉末に対して「300℃以上1000℃以下の温度で、かつ炉内圧が0.01MPa以下の非酸化性の減圧雰囲気」で加熱処理を施すことは、記載も示唆もされていない。

そこで、上記の特許権者の主張を検討すると、上記(2)ア.で検討したように、「水の浸透速度」に係る記載不備は解消していない。さらに、上記ウ.(ア)で検討したように、「粉体湿潤浸透解析装置 PW-500 により測定される水の浸透速度が1mm^(2)/s未満」であることは、甲2発明と実質的な相違点ではないため、特許権者の主張は採用しない。

第4.むすび

以上のとおり、請求項1、2、4、6に係る特許は、特許法第29条第1項3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反し特許されたものであり、請求項1、2、4?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。さらに、請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、粉体湿潤浸透解析装置PW-500により測定される水の浸透速度が1mm^(2)/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g?500ml/100gであることを特徴とする高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末であって、
前記BNの一次粒子が、平均長径:2?20μm、厚み:0.05?0.5μmであり、
前記高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の比表面積が1?10m^(2)/g、酸素含有量が1.5質量%以下である、化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
可溶性ホウ素量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の製造方法であって、
ホウ酸および/またはその脱水物と尿素および/またはその化合物と炭化ホウ素とを、不活性雰囲気中で加熱して乱層構造の窒化ホウ素粉末とし、ついで得られた窒化ホウ素粉末に対し、不活性雰囲気中にて1500?2300℃の温度で加熱処理を施したのち、粉砕し、洗浄処理によってホウ酸を除去したのち、300℃以上1000℃以下の温度で、かつ炉内圧が0.01MPa以下の非酸化性の減圧雰囲気中にて加熱処理することを特徴とする化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の窒化ホウ素粉末を含有する化粧料。
【請求項5】
前記化粧料における前記窒化ホウ素粉末の含有量が0.1?70質量%であることを特徴とする請求項4に記載の化粧料。
【請求項6】
化粧料がパウダーファンデーションであることを特徴とする請求項4または5に記載の化粧料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-23 
出願番号 特願2014-538117(P2014-538117)
審決分類 P 1 651・ 113- ZAA (C01B)
P 1 651・ 853- ZAA (C01B)
P 1 651・ 536- ZAA (C01B)
P 1 651・ 537- ZAA (C01B)
P 1 651・ 121- ZAA (C01B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 田中 則充佐溝 茂良  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 後藤 政博
川村 裕二
登録日 2018-03-30 
登録番号 特許第6313707号(P6313707)
権利者 水島合金鉄株式会社
発明の名称 化粧料用高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末およびその製造方法ならびに化粧料  
代理人 杉村 憲司  
代理人 川原 敬祐  
代理人 杉村 憲司  
代理人 川原 敬祐  

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