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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G07D
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  G07D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G07D
審判 全部申し立て 2項進歩性  G07D
管理番号 1363979
異議申立番号 異議2018-700672  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-13 
確定日 2020-05-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6297633号発明「硬貨入出金機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6297633号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?7]について訂正することを認める。 特許第6297633号の請求項1?2、5?7に係る特許を取り消す。 特許第6297633号の請求項3、4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6297633号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成23年2月22日に出願した特願2011-36005号の一部を平成27年3月10日に新たな特許出願とした特願2015-47458号の一部を平成28年7月12日に新たな特許出願としたものであって、平成30年3月2日にその特許権の設定登録がされ、平成30年3月20日に特許掲載公報が発行された。

本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 8月13日 :特許異議申立人小久保幸恵(以下「特許異議申立人」という。)による請求項1?7に係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年 1月 9日付け:取消理由通知書
平成31年 3月11日 :特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和 1年 5月 8日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 1年 9月 5日付け:取消理由通知書<決定の予告>
令和 1年10月31日 :特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和 1年12月26日 :特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和1年10月31日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許第6297633号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである(なお、下線部が訂正箇所である。)。
平成31年3月11日付け訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。


(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記硬貨受入口に受け入れられた硬貨が送られて貯留されるとともに貯留された硬貨を1枚ずつ繰り出す貯留繰出装置」と記載されていたのを、「鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第一の回転円盤と、前記第一の回転円盤の表面との間に硬貨を収納する第一の硬貨収納空間を形成する第一のカバー部材と、を有し、前記硬貨受入口に受け入れられた硬貨が送られて前記第一の硬貨収納空間に貯留されるとともに貯留された硬貨を1枚ずつ繰り出す貯留繰出装置」に訂正する。

また、特許請求の範囲の請求項1に「前記入金搬送部の下方に設けられ鉛直方向において複数段配置された複数の収納繰出部であって、前記入金搬送部から搬送された硬貨を収納し、また当該収納した硬貨を、略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向と略直交する幅方向に1枚ずつ繰り出す複数の収納繰出部」と記載されていたのを、「前記入金搬送部の下方に設けられ、前記奥行き方向に複数列配置されるとともに鉛直方向に複数段配置された複数の収納繰出部であって、それぞれ、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第二の回転円盤と、前記入金搬送部から搬送された硬貨を前記第二の回転円盤の表面との間に収納する第二の硬貨収納空間を形成する第二のカバー部材とを有し、前記第二の硬貨収納空間に収納した硬貨を、前記第二の回転円盤の下部領域から上部領域に拾い上げて、略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向と略直交する幅方向に、前記上部領域に設けられた出口から1枚ずつ繰り出す複数の収納繰出部」に訂正する。

また、特許請求の範囲の請求項1に「前記複数の収納繰出部の下方に前記筐体の奥行方向に沿って設けられ前記各収納繰出部から繰り出された硬貨を搬送する出金搬送部」と記載されていたのを、「第一の出金搬送部と第二の出金搬送部とを有し、前記各収納繰出部から繰り出された硬貨を搬送する出金搬送部であって、前記複数の収納繰出部の前記出口の下方に前記筐体の奥行方向に沿って前記第一の出金搬送部が設けられている出金搬送部」に訂正する。

また、特許請求の範囲の請求項1に「前記出金搬送部から搬送された硬貨を前記筐体外に投出する硬貨投出口」と記載されていたのを、「前記第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部を経て搬送された硬貨を前記筐体外に投出する硬貨投出口」に訂正する。

また、特許請求の範囲の請求項1が、「前記各収納繰出部の前記第二の回転円盤の前記表面が前記筐体の前記幅方向に沿っており、かつ、奥行き方向に対して傾いている」との記載を含むよう訂正する。

請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2?7も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3における「前記出金搬送部は、第一の出金搬送部と第二の出金搬送部からなり、」との記載を削除する。

また、特許請求の範囲の請求項3に「前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記複数の収納繰出部の下方に設けられた前記第一の出金搬送部上に落下した後に当該第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部に搬送され、その後、当該第二の出金搬送部を経て前記硬貨投出口から前記筐体外に投出される」と記載されていたのを、「前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の下部領域と同じ高さに設けられた前記第一の出金搬送部上に落下した後に当該第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部に搬送され、その後、当該第二の出金搬送部を経て前記硬貨投出口から前記筐体外に投出される」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5における「前記貯留繰出装置および前記各収納繰出部は、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる回転円盤と、前記回転円盤の表面との間に硬貨を収納する硬貨収納空間を形成するカバー部材と、を有し、」との記載を削除する。
また、特許請求の範囲の請求項5に「前記貯留繰出装置の回転円盤の回転軸と前記各収納繰出部の回転円盤の回転軸とが略直交するようになっている」と記載されていたのを、「前記貯留繰出装置の前記第一の回転円盤の回転軸と前記各収納繰出部の前記第二の回転円盤の回転軸とが、前記硬貨入出金機を上方から見た平面視において略直交している」に訂正する。


特許請求の範囲の請求項1?7は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」を構成している。
本件訂正請求は、一群の請求項1?7に対して請求されたものである。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
2-1.訂正事項1
(1)訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では、「前記硬貨受入口に受け入れられた硬貨が送られて貯留されるとともに貯留された硬貨を1枚ずつ繰り出す貯留繰出装置」として、硬貨を貯留したり繰り出したりするための具体的な構成については特定されていない。これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、i)貯留繰出装置が鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第一の回転円盤と、第一の回転円盤の表面との間に硬貨を収納する第一の硬貨収納空間を形成する第一のカバー部材と、を有しており、硬貨受入口に受け入れられた硬貨が送られて第一の硬貨収納空間に貯留されるとともに貯留された硬貨を1枚ずつ繰り出すものであることを明らかにすることで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。

また、訂正前の請求項1に係る発明では、「前記入金搬送部の下方に設けられ鉛直方向において複数段配置された複数の収納繰出部であって、前記入金搬送部から搬送された硬貨を収納し、また当該収納した硬貨を、略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向と略直交する幅方向に1枚ずつ繰り出す複数の収納繰出部」として、硬貨を収納したり繰り出したりするための具体的な構成については特定されていない。これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、ii)複数の収納繰出部が奥行き方向に複数列配置されるとともに鉛直方向に複数段配置されていること、およびiii)各収納繰出部が、それぞれ、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第二の回転円盤と、前記入金搬送部から搬送された硬貨を前記第二の回転円盤の表面との間に収納する第二の硬貨収納空間を形成する第二のカバー部材とを有し、前記第二の硬貨収納空間に収納した硬貨を、前記第二の回転円盤の下部領域から上部領域に拾い上げて、略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向と略直交する幅方向に、上部領域に設けられた出口から1枚ずつ繰り出すものであることを明らかにすることで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。

また、訂正前の請求項1に係る発明では、「前記複数の収納繰出部の下方に前記筐体の奥行方向に沿って設けられ前記各収納繰出部から繰り出された硬貨を搬送する出金搬送部」と特定されている。これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、iv)出金搬送部は、第一の出金搬送部と第二の出金搬送部とを有しており、複数の収納繰出部の出口の下方に筐体の奥行方向に沿って第一の出金搬送部が設けられていることを明らかにすることで、特許請求の範囲を減縮しようとするとともに、明瞭でない記載を釈明しようとするものである。

また、訂正前の請求項1に係る発明では、「前記出金搬送部から搬送された硬貨を前記筐体外に投出する硬貨投出口」と特定されている。これに対し、訂正後の請求項1に係る発明では、v)硬貨投出口は、第一の出金搬送部から第二の出金搬送部を経て搬送された硬貨を筐体外に投出することを明らかにすることで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。また、訂正後の請求項1に係る発明において、各収納繰出部の構成をさらに具体的に特定した。この訂正は、vi)各収納繰出部の第二の回転円盤の表面が筐体の幅方向に沿っており、かつ、奥行き方向に対して傾いでいることを明らかにすることで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
このように、上記の訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮または第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項1は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするか、発明特定事項をより明確に規定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(3)願書に添付した明細書(以下単に「明細書」ということもある。)、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否か
ア 上記の訂正事項1のi)およびiii)に係る説明として
訂正前の請求項5には、「貯留繰出装置および各収納繰出部は、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる回転円盤と、回転円盤の表面との間に硬貨を収納する硬貨収納空間を形成するカバー部材と、を有している」ことが記載されている。
明細書の段落【0023】には、「貯留繰出装置30は、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる回転円盤32と、この回転円盤32の表面32bとの間に硬貨を貯留する硬貨貯留空間33を形成するカバー部材34と、を備えている」ことが記載されている。
明細書の段落【0028】には、「・・・各収納繰出装置50は、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる回転円盤52と、この回転円盤52の表面52bとの間に硬貨を収納する硬貨収納空間53を形成するカバー部材54と、を備えている」ことが記載されている。
明細書の段落【0049】には、「・・・回転円盤52の下部領域から・・・上部領域に拾い上げた硬貨(図6における硬貨C2参照)を、・・・収納繰出装置50の出口50aへ向けて押し出す(図6における硬貨C3参照)ようになっている」ことが記載されている。
イ 上記の訂正事項1のii)に係る説明として、
明細書の段落【0028】【0068】および図1等には、「複数の収納繰出部が奥行き方向に複数列配置されるとともに鉛直方向に複数段配置されている」ことが記載されている。
ウ 訂正事項1のiv)およびv)に係る説明として、
明細書の段落【0029】には、「・・・出金搬送部70は、・・・略水平方向に沿って延びる第1の出金搬送部分70aと、第1の出金搬送部分70aから送られた硬貨を硬貨投出口18に搬送する第2の出金搬送部分70bとを有している」ことが記載されている。
明細書の段落【0064】には、「・・・収納繰出装置50の出口50aに送られた硬貨は、自重により・・・第1の出金搬送部分70aにおける無端状ベルト70p上に落下する・・・」ことが記載されている。
このように、明細書には、第一の出金搬送部が、各収納繰出部の出口の下方に設けられている構成が明確に開示されている。また、図1、図2および図6等にも、上記の構成が記載されている。
エ 上記の訂正事項1のvi)に係る説明として、
図1および図2に「各収納繰出装置50の回転円盤52の表面が筐体12の幅方向に沿っており、かつ、奥行き方向に対して傾いている」構成が記載されている。
なお、訂正後の請求項1では、貯留繰出装置が「第一の回転円盤」と、「第一のカバー部材」とを有しており、これらの部材の間に「第一の硬貨収納空間」が形成されることが記載されており、各収納繰出部が、「第二の回転円盤」と、「第二のカバー部材」とを有しており、これらの部材の間に「第二の硬貨収納空間」が形成されると記載されているが、「第一の」「第二の」という文言は発明特定事項の識別をより容易にすることを目的として導入しているものであって、新たな技術的事項を導入する訂正ではない。
オ このように、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

2-2.訂正事項2
(1)訂正の目的について
訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項3に係る発明では、「前記出金搬送部は、第一の出金搬送部と第二の出金搬送部からなり、」と特定されていた。これに対し、訂正後の請求項3では上記の記載が削除されているが、これは訂正事項1と整合性を取ることを目的とした訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前の請求項3における「前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記複数の収納繰出部の下方に設けられた前記第一の出金搬送部上に落下した後に当該第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部に搬送され、その後、当該第二の出金搬送部を経て前記硬貨投出口から前記筐体外に投出される」と特定されていたのを、「前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の下部領域と同じ高さに設けられた前記第一の出金搬送部上に落下した後に当該第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部に搬送され、その後、当該第二の出金搬送部を経て前記硬貨投出口から前記筐体外に投出される」に訂正するという訂正事項は、平成31年1月9日に通知された取消理由における特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすためのものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項3に係る発明で「前記出金搬送部は、第一の出金搬送部と第二の出金搬送部からなり、」と特定されていたのに対し、本件訂正で請求項1の出金搬送部を「第一の出金搬送部と第二の出金搬送部とを有し」たものとしたことにともなって、請求項3の上記の記載を削除して、訂正事項1と整合性をとり、訂正前の請求項3に係る発明で「複数の収納繰出部の下方に設けられた」と特定されていたのに対し、「複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の下部領域と同じ高さに設けられた」と明瞭にしたものであるので実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
図1および図2には、「第一の出金搬送部が、複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の下部領域と同じ高さに設けられている」構成が記載されている。
このように、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

2-3.訂正事項3
(1)訂正の目的について
訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項5には、「前記貯留繰出装置および前記各収納繰出部は、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる回転円盤と、前記回転円盤の表面との間に硬貨を収納する硬貨収納空間を形成するカバー部材と、を有し、」と記載されていた。これに対し、訂正後の請求項5では上記の記載が削除されているが、これは明確性に係る取消理由を解消するための訂正事項1と整合性を取ることを目的とした訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正前の請求項5における「前記貯留繰出装置の回転円盤の回転軸と前記各収納繰出部の回転円盤の回転軸とが略直交するようになっている」と記載されていたのを、「前記貯留繰出装置の前記第一の回転円盤の回転軸と前記各収納繰出部の前記第二の回転円盤の回転軸とが、前記硬貨入出金機を上方から見た平面視において略直交している」に訂正するという訂正事項は、令和1年9月13日に通知された決定の予告における特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすためのものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項3は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項5には「前記貯留繰出装置および前記各収納繰出部は、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる回転円盤と、前記回転円盤の表面との間に硬貨を収納する硬貨収納空間を形成するカバー部材と、を有し、」と特定されていたのに対し、本件訂正で請求項1の貯留繰出装置、収納繰出部を「鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第一の回転円盤と、前記第一の回転円盤の表面との間に硬貨を収納する第一の硬貨収納空間を形成する第一のカバー部材と、を有し、前記硬貨受入口に受け入れられた硬貨が送られて前記第一の硬貨収納空間に貯留されるとともに貯留された硬貨を1枚ずつ繰り出す貯留繰出装置」「それぞれ、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第二の回転円盤と、前記入金搬送部から搬送された硬貨を前記第二の回転円盤の表面との間に収納する第二の硬貨収納空間を形成する第二のカバー部材とを有し、前記第二の硬貨収納空間に収納した硬貨を、前記第二の回転円盤の下部領域から上部領域に拾い上げて、略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向と略直交する幅方向に、前記上部領域に設けられた出口から1枚ずつ繰り出す複数の収納繰出部」としたことにともなって、請求項5の上記の記載を削除して、訂正事項1と整合性をとり、訂正前の請求項5に「前記貯留繰出装置の回転円盤の回転軸と前記各収納繰出部の回転円盤の回転軸とが略直交するようになっている」と記載されていたのを、「前記貯留繰出装置の前記第一の回転円盤の回転軸と前記各収納繰出部の前記第二の回転円盤の回転軸とが、前記硬貨入出金機を上方から見た平面視において略直交している」と明瞭にしたものであるので実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正前の図1および図2には、「貯留繰出装置の第一の回転円盤の回転軸と各収納繰出部の第二の回転円盤の回転軸とが、硬貨入出金機を上方から見た平面視において略直交している」構成が記載されている。
このように、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

3.独立特許要件
本件においては、訂正前の全ての請求項1?7について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1?7に係る訂正事項1?3に関して、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4.まとめ
上記のとおり、訂正事項1?3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?7]について訂正することを認める。


第3 取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る特許に対して、当審が令和1年9月5日付けで特許権者に通知した取消理由<決定の予告>の要旨は、次のとおりである。

1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

記(刊行物等については刊行物等一覧参照)
●理由1(明確性)について
請求項3に「前記複数の収納繰出部の下方に設けられた前記第一の出金搬送部上」と記載されているが、図1、2記載の出金搬送部70の第1出金搬送部70aは、最下段の収納繰出装置50の下方に設けられていないので、上記記載で特定される第一の出金搬送部の構成が不明確である。

●理由2(進歩性)について
・請求項 1?4、6、7
・刊行物等 1?7
<刊行物等一覧>
1.特開2003-272023号公報(甲第2号証)
2.特開2004-246531号公報(甲第1号証)
3.特開昭59-41094号公報(甲第4号証の1)
4.特開昭61-25292号公報(甲第4号証の2)
5.実願昭57-13245号(実開昭58-117559号)のマイクロフィルム(甲第4号証の3)
6.実願昭57-137589号(実開昭59-40962号)のマイクロフィルム(甲第4号証の4)
7.実願昭50-64587号(実開昭51-145088号)のマイクロフィルム(甲第4号証の5)


第4 当審の判断
第4-1 訂正後の請求項1?7に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
筐体と、
前記筐体外から硬貨を受け入れる硬貨受入口と、
鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第一の回転円盤と、前記第一の回転円盤の表面との間に硬貨を収納する第一の硬貨収納空間を形成する第一のカバー部材と、を有し、前記硬貨受入口に受け入れられた硬貨が送られて前記第一の硬貨収納空間に貯留されるとともに貯留された硬貨を1枚ずつ繰り出す貯留繰出装置と、
前記貯留繰出装置により繰り出された硬貨を略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向に1枚ずつ搬送する入金搬送部と、
前記入金搬送部の下方に設けられ、前記奥行き方向に複数列配置されるとともに鉛直方向に複数段配置された複数の収納繰出部であって、それぞれ、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第二の回転円盤と、前記入金搬送部から搬送された硬貨を前記第二の回転円盤の表面との間に収納する第二の硬貨収納空間を形成する第二のカバー部材とを有し、前記第二の硬貨収納空間に収納した硬貨を、前記第二の回転円盤の下部領域から上部領域に拾い上げて、略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向と略直交する幅方向に、前記上部領域に設けられた出口から1枚ずつ繰り出す複数の収納繰出部と、
第一の出金搬送部と第二の出金搬送部とを有し、前記各収納繰出部から繰り出された硬貨を搬送する出金搬送部であって、前記複数の収納繰出部の前記出口の下方に前記筐体の奥行方向に沿って前記第一の出金搬送部が設けられている出金搬送部と、
前記第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部を経て搬送された硬貨を前記筐体外に投出する硬貨投出口と、
前記幅方向における前記複数の収納繰出部の一方の側の側方に設けられたシュート部と、
前記幅方向における前記複数の収納繰出部の他方の側の側方に設けられた出金空間と、
を備え、
前記入金搬送部から搬送された硬貨は、前記シュート部を通して前記複数の収納繰出部に収納され、
前記複数の収納繰出部の各々から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通過して前記出金搬送部上に落下した後に当該出金搬送部により搬送され、その後、前記出金搬送部を経て前記硬貨投出口から前記筐体外に投出され、
前記各収納繰出部の前記第二の回転円盤の前記表面が前記筺体の前記幅方向に沿っており、かつ、奥行き方向に対して傾いている、
ことを特徴とする硬貨入出金機。
【請求項2】
前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記第一の出金搬送部上に自重により落下することを特徴とする請求項1記載の硬貨入出金機。
【請求項3】
前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の下部領域と同じ高さに設けられた前記第一の出金搬送部上に落下した後に当該第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部に搬送され、その後、当該第二の出金搬送部を経て前記硬貨投出口から前記筐体外に投出されることを特徴とする請求項1記載の硬貨入出金機。
【請求項4】
前記出金搬送部の下方に設けられた回収ボックスを備えた請求項3記載の硬貨入出金機であって、
前記第一の出金搬送部が前記筐体の奥行き方向のうちの第一の搬送方向に貨幣を搬送する場合には、当該第一の出金搬送部から搬送された貨幣は前記第二の出金搬送部を経て前記硬貨投出部に搬送されて、前記硬貨投出口から前記筐体外に投出され、
前記第一の出金搬送部が前記第一の搬送方向とは逆方向に貨幣を搬送する場合には、当該第一の出金搬送部から搬送された貨幣は前記回収ボックスに収納される
ことを特徴とする硬貨入出金機。
【請求項5】
前記貯留繰出装置の前記第一の回転円盤の回転軸と前記各収納繰出部の前記第二の回転円盤の回転軸とが、前記硬貨入出金機を上方から見た平面視において略直交していることを特徴とする請求項1記載の硬貨入出金機。
【請求項6】
前記複数の収納繰出部は、鉛直方向において3段以上となるよう配置されていることを特徴とする請求項1記載の硬貨入出金機。
【請求項7】
前記複数の収納繰出部は、同一の構成のものからなることを特徴とする請求項1記載の硬貨入出金機。」

第4-2 取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由1について
上記「第2」の訂正により、上記「第3 1.」の理由は解消している。

そうすると、本件特許は、特許請求の範囲請求項3の「前記複数の収納繰出部の下方に設けられた前記第一の出金搬送部上」で特定される構成が不明確であって、請求項3記載の発明が不明確であるので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。


第4-3 取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由2について
1 本件発明1について
(1)刊行物の記載
(1-1)刊行物1の記載
本件特許に係る出願(原出願の出願日平成23年2月22日)前に頒布された刊行物1には、コインの受入払出装置に関して、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付与。)
(a)「【請求項1】コインの受入装置(10)と、受け入れたコインを金種毎に振り分け、かつ、対応する金種のコインホッパに分配する振分装置(30)と、振分装置(30)から分配されるコインをバラ積み状態に保留し、かつ、一個ずつ払い出す複数のコインホッパ(72a?72h)と、複数のコインホッパ(72a?72h)から払い出されたコインを払出口(5)へ送る払出装置(85)とを有するコインの受入払出装置において、複数のコインホッパ(72a?72h)が上下に位置する複数列に並べられ、かつ、上下に位置するコインホッパが垂直方向に整列されているコインの受入払出装置。
【請求項2】複数のコインホッパ(72a?72h)が全て同一構造である請求項1のコインの収納払出装置。
【請求項3】上下に位置するコインホッパ(72a?72h)が正貨搬送装置(34)のコイン移動方向に対し直交する方向にずらして配置されている請求項2のコインの受入払出装置。」
(b)「【0001】【発明が属する技術分野】本発明は、複数金種のコインを受け入れ、払い出し信号に対応して所定の金種を所定数払い出す循環型のコイン受入払出装置に関する。特に、小型の循環型のコイン受入払出装置に関する。」
(c)「【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明の第1の目的は、上下にコインホッパを配置したコインの受入払出装置を更に小型化することを目的とする。・・・」
(d)「【0006】【課題を解決するための手段】本発明のコインの受入払出装置は、コインの受入装置と、受け入れたコインを金種毎に振り分け、かつ、対応する金種のコインホッパに分配する振分装置と、振分装置から分配されるコインをバラ積み状態に保留し、かつ、一個ずつ払い出す複数のコインホッパと、複数のコインホッパから払い出されたコインを払出口へ送る払出装置とを有するコインの収納払出装置において、複数のコインホッパが上下に位置する複数列に並べられ、かつ、上下に位置するコインホッパが垂直方向に整列配置されたものである。」
(e)「【0008】本発明は、複数のコインホッパが全て同一構造であることが好ましい。この構成において、コインホッパが全て同一構造であるため、量産効果によりコインホッパが安価になる。また、コインホッパが同一構造のため、メンテナンスも容易である。」
(f)「【0009】本発明は、上下に位置するコインホッパが、正貨搬送装置のコイン移動方向に対し直交する方向にずらして配置されることが好ましい。この構成において、上側のコインホッパの払出口が下側のコインホッパを外れた位置にあるので、上側のコインホッパから払い出されたコインは、下側のコインホッパに接することがないので、コインの払い出し不良を防止できる。」
(g)「【0010】本発明は、振分装置から上下に位置するコインホッパへのコイン案内筒が、正貨搬送装置の移動方向に対し直交する方向にずれていることが好ましい。この構成において、コインホッパが上下方向において整列していても、振分装置からのコインはコイン案内筒にガイドされて対応するコインホッパ内へ確実案内される。そしてこのコイン案内筒は、コインホッパの列方向に対し直交する方向にずれているので、コインホッパを列方向にずらすことなく配置できる。結果として、コインの受入払出装置の前後方向の長さが小さくなり、コインの受入払出装置を小型化できる。」
(h)「【0011】【発明の実施の形態】図1は、実施例のコイン受入払出装置の正面左側上方からの斜視図である。図2は、図1におけるカバーを外した状態の斜視図である。図3は、実施例のカバーを外した状態の背面斜視図である。図4は、実施例のカバーを外した状態の左側面図である。図5は、図4のX?X線断面図である。図6は、実施例の振分搬送装置を外した状態の背面斜視図である。図7は、実施例のゲージ孔の断面図である。図8は、実施例の振分装置の斜視図である。図9は、実施例の振分装置の斜視図である。」
(i)「【0012】コイン受入払出装置1は、矩形箱形であって、上カバー2に受入装置10の受入口3が配置され、前カバー4の下部に払出口5が配置されている。左カバー6は、上カバー2側の端部を支点に回動可能であり、後述の金庫及びコインホッパからのコインの回収、及びメンテナンスを行う際、開口する。」
(j)「【0013】コイン受入払出装置1は、コインの流れの順に、受入装置10、金種判別装置20、振分装置30、コイン保留装置70、コイン払出装置85、払出口5が配置される。受入装置10は、上向き漏斗型であって、上部開口が矩形の受入口3である。・・・」
(k)「【0014】金種判別装置20は、金種判別搬送装置21と金種判別器23を備えている。金種判別搬送装置21は、搬送ベルト22である。金種判別器23は、搬送ベルト22によって所定の間隔で一列に並べられたコインの真偽及び金種を、個別に判別し、主制御装置に送る。」
(l)「【0015】振分装置30は、正偽貨振分装置31と正貨振分装置32とを有する。正偽貨振分装置31は、金種判別装置20から送られてくるコインを、偽貨の場合、払出口5に案内し、正貨は正貨振分装置33へ案内する。正貨振分装置33は、所定金種を、第1正貨振分装置33aへ、他の金種を第2正貨振分装置33bへ案内する機能を有する。」
(m)「【0016】第1正貨振分装置33aは、第1正貨搬送装置36aと第1ゲージ装置37aを有する。第1ゲージ装置37aは、第1ゲージ孔列38aと第1ガイドレール39aとを有する。同様に、第2正貨振分装置33bは第2正貨搬送装置36bと第2ゲージ装置37bとを有する。・・・」
(n)「【0022】・・・第1正貨搬送装置36a、ガイドプーリ46a、46b、46c、46dと第1ベルト47aび第1駆動プーリ49a備えている。ガイドプーリ46a、46b、46c、46dは、前記ゲージ孔45a、45b、45c、45dに相対配置されている。第1ベルト47aは、第1駆動プーリ49aとガイドプーリ46dとの間に巻き掛けられ、ガイドプーリ46a、46b、46cによって案内される。コインは、第1ガイドレール39aに周面を支えられ、第1ベルト47aによってゲージ板44に押し付けられつつ振分装置30から遠ざかる方向に搬送される。
【0023】・・・第2正貨搬送装置36bは、ガイドローラ46e、46f、46g、46hと第2ベルト47bと及び第2駆動プーリ49bを含んでいる。
【0024】・・・コインは、第2ガイドレール39bに周面を支えられつつ第2ベルト47bによってゲージ板40に押し付けられつつ振分装置30から離れる方向に搬送される。」
(o)「【0030】正貨振分装置33の後方はコイン保留部70であって、前記ゲージ孔の数に対応するコインホッパが配置されている。図4に図示するように、上ベース71に第1コインホッパ72a、第2コインホッパ72b、第3コインホッパ72c、第4コインホッパ72dが正貨搬送装置34、のコイン搬送方向と平行に横一列に並べられている。また、上ベース71の下方に位置する下ベース73に第5コインホッパ72e、第6コインホッパ72f、第7コインホッパ72g、第8コインホッパ72hが正貨搬送装置34のコイン搬送方向と平行に横一列に並べられている。
【0031】第1コインホッパ72aから第8コインホッパ72hは同一構造のため、第2コインホッパ72bを代表して説明する。図5に示すように、コインホッパ72bは、コインボウル74と、コイン通孔75を有する回転ディスク76と、回転ディスク76を回転する電気モータ(図示せず)と、回転ディスク76によって一個ずつ送られるコインのカウンタ(図示せず)を有している。コインボウル74は上部が矩形状かつ下部が円筒状であり、ホッパベース77に固定されている。」
(p)「【0032】回転ディスク76は、コインボウル74の下部の円筒部内に配置されている。コイン出口78は、回転ディスク76の側方に位置している。・・・
【0033】図4に示すように、第2コインホッパ72bの真下に第5コインホッパ72fが配置されている。換言すれば、第2コインホッパ72bと第5コインホッパ72fとは上下方向に整列している。また、図5に示すように、第2コインホッパ72bと第6コインホッパ72fとは、正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直行方向にずれている。」
(q)「【0034】・・・これにより、コイン出口78は第6コインホッパ72eに対しオーバーハングした位置にあるので、出口78から払い出されたコインがコインホッパ72fのコインボウル74に入り込むことがない。コイン出口78から払い出されたコインは、左カバー6とコインホッパの壁面とにより案内されて後述の払出装置85に落下する。
(r)「【0035】・・・コインホッパは、投入されたコインを受け入れ、一個ずつ払い出す機能を有していれば他の方式を採用することができる。」
(s)「【0036】図7に示すように、第2ゲージ孔45bから第2コインホッパ72bのコインボウル74の上側開口にコインを誘導する第1案内筒80が配置されている。第1案内筒80は、右下がりに傾斜し、コインが自然滑落するように配置される。第6コインホッパ72fは第6ゲージ孔48fの側方の下方に配置されている。第6ゲージ孔45fとの第6コインホッパ72fのコインボウル74の上側開口とは、垂直方向に伸びる第2案内筒81によって連通されている。
【0037】したがって、第1案内筒80と第2案内筒81とは、正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれて配置されている。したがって、これらの第1案内筒80及び第2案内筒81によって正貨搬送装置34の搬送方向に装置が大きくなることはない。他のコインホッパとゲージ孔との間は、同様に第1案内筒80及び第2案内筒81により連通されている。」
(t)「【0038】・・・次にコイン払出装置85を説明する。コイン払出装置85は、払出搬送装置86とシュート87とを備える。出口78の下方に、払出搬送装置86が配置されている。払出搬送装置86は、払出ベルト88を有し、図示しないモータによって正方向及び逆方向に循環移動される。」
(u)「【0039】払出ベルト88は、下ベース73の下方に位置している。払出ベルト88が正転した場合、受入装置10の下方に位置するシュート87にコインを落下させる。シュート87の底面は傾斜しており、払出口5に連通している。ベルト82のシュート87と反対側の下方に金庫90が配置されている。」
(v)「【0040】・・・上面が開口したボックス状の金庫90は、第7コインホッパ72g及び第8コインホッパ72hの下方に配置され、ベース91に沿って左カバー6側へ引出すことができる。払出搬送装置86の端部は金庫90の上方で落下口92にコインを落下させる。落下口92は金庫90の上面開口に連通している。」
(w)「【0041】・・・受入口3に投入されたコインは、搬送ベルト22により搬送されつつ一列、かつ、所定の間隔に並べられる。・・・」
(x)「【0043】そして、1セント、10セント、20セント及び50セントの場合、正貨振分板67は正貨通路66と第1通路62aとを連通する。これらの金種の場合、受入通路60から正貨通路66及び第1通路62aを通って第1正貨搬送装置36aに誘導される。コインは、第1正貨搬送装置36aにおいて、下周面を第1ガイドレール39aに支えられ、かつ、第1ベルト47aによってゲージ板40に押し付けられつつ振分装置30から離れる方向に搬送される。1セントコインの場合、第1ゲージ孔45aにおいて上縁が外れるので第1ゲージ孔45a内へ倒れ、第1案内筒80に落下して第1コインホッパ72aのコインボウル74に保留される。
【0044】10セントの場合、第1ゲージ孔45aにおいて、その上端は外れないので通過し、第2ゲージ孔45bにおいて倒れて落下し、第1案内筒80に誘導されてコインホッパ72bのコインボウル74に保留される。20セントの場合、第1ゲージ孔45a及び第2ゲージ孔45bを通過し、第3ゲージ孔45cにおいて落下し、第1案内筒80に誘導されてコインホッパ72cに落下する。
【0045】50セントの場合、第1ゲージ孔45a、第2ゲージ孔45b、第3ゲージ孔45cを通過して第4ゲージ孔45dで落下し、第1案内筒80に誘導されてコインホッパ72dに落下する。2セント、5セント、1ユーロ、2ユーロの場合、正貨振替板67が切り替わり、正貨通路66と第2通路62bが連通される。したがって、第2正貨搬送装置36bに達したコインは、第2ガイドレール39bに下周面を支えられつつ第2ベルト47bによって搬送される。すなわち、第2ベルト47bによって第1正貨搬送装置36a同様に搬送される。
【0046】2セントコインの場合、第5ゲージ孔45eに落下し、第2案内筒81にガイドされて第5コインホッパ72eに保留される。5セントコインの場合、第5ゲージ孔45eを通過し、第6ゲージ孔45fに落下し、第2案内筒82にガイドされて第6コインホッパ72eに保留される。1ユーロは、第5ゲージ孔45e、第6ゲージ孔45fを通過して第7ゲージ孔45gに落下し、第2案内筒82を経由して第7コインホッパ72gに落下する。
【0047】2ユーは、第5ゲージ孔45e、第6ゲージ孔45f、第7ゲージ孔45gを通過して第8ゲージ孔45hから落下し、第2案内筒81を経由して第8コインホッパ72hに保留される。次に指定されたコインを払い出すケースを説明する。各コインを1個ずつ払い出すケースを例に説明する。」
(y)「【0048】モータの起動電流が重畳しないよう、僅かに時間的遅れをもって第4コインホッパ72d、第8コインホッパ72h、第3コインホッパ72c、第7コインホッパ72g、第2コインホッパ72b、第6コインホッパ72f、第1コインホッパ72a、第5コインホッパ75eの順に起動される。各コインホッパにおいて、回転ディスク76が回転され、コイン1個が出口78から払い出される。」
(z)「【0049】払い出された各コインは、各コインホッパと左カバー6に案内されて搬送ベルト88上に落下する。搬送ベルト88は、払い出し信号によってシュート87側へ移動しているので、搬送ベルト88上に落下したコインは、シュート87へ落下する。コインは、シュート87を滑り降りて払出口5に払い出される。」
(a1)「【0050】搬送ベルト88は、全てのコインが払い出されてからシュート87に達するに十分な時間移動されたのち、停止される。各コインホッパのコインを回収する場合、搬送ベルト88を逆転し、落下口92に向かって移動するよう駆動する。次に各コインホッパを作動させて搬送ベルト88上にコインを払い出す。払い出されたコインは、搬送ベルト88によって搬送され、落下口92に落下し、金庫90に保留される。」

刊行物1には以下の図が示されている。








・【図1】?【図9】には、「実施例のコイン受入払出装置」として、記載事項(i)(j)の「上カバー2」、「前カバー4」、「払出口5」、「左カバー6」、「受入装置10」、「金種判別装置20」、「振分装置30」、「コイン保留装置70」、「コイン払出装置85」を備えたものが図示されている。
さらにその振分装置30は、記載事項(l)(m)の「正偽貨振分装置31と正貨振分装置32とを有する」(「正貨振分装置32」は「正貨振分装置33」の誤記と認める。)、「正貨振分装置33は、所定金種を、第1正貨振分装置33aへ、他の金種を第2正貨振分装置33bへ案内する機能を有する」、「第1正貨振分装置33aは、第1正貨搬送装置36aと第1ゲージ装置37aを有する。・・・同様に、第2正貨振分装置33bは第2正貨搬送装置36bと第2ゲージ装置37bとを有する。」ものであるので、コイン受入払出装置は、第1正貨搬送装置36a、第2正貨搬送装置36bを備えたものとしても図示されている。

・【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1は、上カバー2、前カバー4、左カバー6で、記載事項(i)の「矩形箱形」を形成するものであり、カバーにより筺体を構成するものであるので、その外形は、筺体といえる。
・【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1の受入装置10は、記載事項(j)の「上向き漏斗型であって、上部開口が矩形の受入口3」であって、記載事項(w)の「受入口3に投入されたコインは、搬送ベルト22により搬送されつつ一列、かつ、所定の間隔に並べられる。」ものであって、その開口が、図1で筐体外からコインが投入される構成として図示されたものであるので、筐体外からコインが投入される受入装置10といえる。
・【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1の金種判別装置20は、記載事項(k)の「金種判別搬送装置21と金種判別器23を備えている。金種判別搬送装置21は、搬送ベルト22である。」ものであり、その搬送ベルト22がコインを「搬送ベルト22によって所定の間隔で一列に並べられたコイン」とし搬送するものであり、記載事項(j)のコインが「受入装置10、金種判別装置20・・」の順に流れるものであるので、金種判別搬送装置21と金種判別器23を備え、受入装置10に受け入れられたコインが送られて一列に並べられ搬送する金種判別装置20といえる。
・【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1の振分装置30は、記載事項(l)、(m)の「振分装置30は、正偽貨振分装置31と正貨振分装置32とを有する。正偽貨振分装置31は、金種判別装置20から送られてくるコインを、偽貨の場合、払出口5に案内し、正貨は正貨振分装置33へ案内する。正貨振分装置33は、所定金種を、第1正貨振分装置33aへ、他の金種を第2正貨振分装置33bへ案内する」、「第1正貨振分装置33aは、第1正貨搬送装置36aと第1ゲージ装置37aを有する。第1ゲージ装置37aは、第1ゲージ孔列38aと第1ガイドレール39aとを有する。同様に、第2正貨振分装置33bは第2正貨搬送装置36bと第2ゲージ装置37bとを有する。」ものであって、その第1正貨搬送装置36a、第2正貨搬送装置36bは、記載事項(x)の「コインは、第1正貨搬送装置36aにおいて、下周面を第1ガイドレール39aに支えられ、かつ、第1ベルト47aによってゲージ板40に押し付けられつつ振分装置30から離れる方向に搬送される。・・・第2正貨搬送装置36bに達したコインは、第2ガイドレール39bに下周面を支えられつつ第2ベルト47bによって搬送される。すなわち、第2ベルト47bによって第1正貨搬送装置36a同様に搬送される。」ものであって、その搬送が図3等において、略水平かつコイン受入払出装置1の奥行き方向として図示されたものである。
そうすると、振分装置30の第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bは、金種判別装置20から送られてくるコインを、下周面を第1ガイドレール39aに支えられ、かつ、第1ベルト47aによってゲージ板40に押し付けられつつ振分装置30から離れる方向に略水平かつコイン受入払出装置1の奥行き方向に搬送するものといえる。
・【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1のコイン保留装置70のコインホッパ72a?72hは、記載事項(o)(p)の「正貨振分装置33の後方はコイン保留部70であって、前記ゲージ孔の数に対応するコインホッパが配置されている。図4に図示するように、上ベース71に第1コインホッパ72a、第2コインホッパ72b、第3コインホッパ72c、第4コインホッパ72dが正貨搬送装置34、のコイン搬送方向と平行に横一列に並べられている。また、上ベース71の下方に位置する下ベース73に第5コインホッパ72e、第6コインホッパ72f、第7コインホッパ72g、第8コインホッパ72hが正貨搬送装置34のコイン搬送方向と平行に横一列に並べられている。」、「図4に示すように、第2コインホッパ72bの真下に第5コインホッパ72fが配置されている。換言すれば、第2コインホッパ72bと第5コインホッパ72fとは上下方向に整列している。また、図5に示すように、第2コインホッパ72bと第6コインホッパ72fとは、正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直行方向にずれている。」(なお「直行方向」は「直交方向」の誤記と認める。)ものであって、その配置位置が図4,5等において、振分装置30の第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bの下方に設けられ、奥行き方向に4列配置されるとともに鉛直方向において2段配置され、上下で正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれている上側コインホッパ72a?72d及び下側コインホッパ72e?72hとして図示されたものである。
また、【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1のコイン保留装置70のコインホッパ72a?72hは、記載事項(x)の「コインは、第1正貨搬送装置36aにおいて・・・搬送される。1セントコインの場合、第1ゲージ孔45aにおいて上縁が外れるので第1ゲージ孔45a内へ倒れ、第1案内筒80に落下して第1コインホッパ72aのコインボウル74に保留される。」、「第2正貨搬送装置36bに達したコインは・・・第2ベルト47bによって第1正貨搬送装置36a同様に搬送される。」ものであり、記載事項(p)の「回転ディスク76は、コインボウル74の下部の円筒部内に配置されている。コイン出口78は、回転ディスク76の側方に位置している。」、記載事項(y)の「回転ディスク76が回転され、コイン1個が出口78から払い出される。」ものであって、図5において、コインホッパ72b、72fの回転ディスク76は、水平姿勢で回転する形態で記載され、コインボウル74は、コインを回転ディスク76の表面との間に保留する空間を形成する形態で記載されたものであるので、コインホッパ72a?72hは、それぞれ、水平姿勢で回転させられる回転ディスク76と、第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bから搬送されたコインを回転ディスク76の表面との間にコインを保留する空間を形成するコインボウル74とを有したものといえる。
また、コインホッパ72a?72hは、記載事項(p)の「回転ディスク76は、コインボウル74の下部の円筒部内に配置されている。コイン出口78は、回転ディスク76の側方に位置している。」、記載事項(y)の「各コインホッパにおいて、回転ディスク76が回転され、コイン1個が出口78から払い出される。」ものであって、図5において、回転ディスク76が、略水平に記載され、コイン出口78が、コイン受入払出装置1の奥行き方向と略直交する幅方向に図示されたものであるので、保留したコインを、略水平方向のうちのコイン受入払出装置1の奥行き方向と略直交する幅方向に出口78からコイン1個ずつ払い出すコインホッパといえる。
そうすると、【図1】?【図9】のコイン保留装置70のコインホッパ72a?72hは、振分装置30の第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bの下方に設けられ、奥行き方向に4列配置されるとともに鉛直方向において2段配置され、上下で正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれている上側コインホッパ72a?72d及び下側コインホッパ72e?72hであって、それぞれ、水平姿勢で回転させられる回転ディスク76と、第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bから搬送されたコインを回転ディスク76の表面との間にコインを保留する空間を形成するコインボウル74とを有し、略水平方向のうちのコイン受入払出装置1の奥行き方向と略直交する幅方向に、出口78からコイン1個ずつ払い出すコインホッパ72a?72hといえる。
・【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1のコイン払出装置85は、記載事項(t)(u)の「コイン払出装置85は、払出搬送装置86とシュート87とを備える。出口78の下方に、払出搬送装置86が配置されている。払出搬送装置86は、払出ベルト88を有し、図示しないモータによって正方向及び逆方向に循環移動される。」、「払出ベルト88は、下ベース73の下方に位置している。払出ベルト88が正転した場合、受入装置10の下方に位置するシュート87にコインを落下させる。」、記載事項(z)の「搬送ベルト88上に落下したコインは、シュート87へ落下する。コインは、シュート87を滑り降りて払出口5に払い出される。」ものであって、図2において、払出ベルト88が、コイン出口78の下方、かつ、下ベース73の下方に、コイン受入払出装置1の奥行き方向に沿って設けられた形態で図示されたものであるので、コイン払出装置85は、搬送ベルト88を有した払出搬送装置86とシュート87からなり、各コインホッパから払い出されたコインを搬送するコイン払出装置85あって、コインホッパ72a?72hのコイン出口78の下方、かつ、下ベース73の下方に、コイン受入払出装置1の奥行き方向に沿って搬送ベルト88が設けられているコイン払出装置85といえる。
なお、「払出ベルト88」「搬送ベルト88」は、「搬送ベルト88」に統一した。
・【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1の払出口5は、記載事項(z)の「搬送ベルト88上に落下したコインは、シュート87へ落下する。コインは、シュート87を滑り降りて払出口5に払い出される。」ものであるので、コイン払出装置85の搬送ベルト88からシュート87を経て搬送されたコインが払い出される払出口5といえる。
・【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1の第1案内筒80及び第2案内筒81は、記載事項(s)の「第2ゲージ孔45bから第2コインホッパ72bのコインボウル74の上側開口にコインを誘導する第1案内筒80が配置されている。第1案内筒80は、右下がりに傾斜し、コインが自然滑落するように配置される。第6コインホッパ72fは第6ゲージ孔48fの側方の下方に配置されている。第6ゲージ孔45fとの第6コインホッパ72fのコインボウル74の上側開口とは、垂直方向に伸びる第2案内筒81によって連通されている。・・・したがって、第1案内筒80と第2案内筒81とは、正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれて配置されている。したがって、これらの第1案内筒80及び第2案内筒81によって正貨搬送装置34の搬送方向に装置が大きくなることはない。他のコインホッパとゲージ孔との間は、同様に第1案内筒80及び第2案内筒81により連通されている。」ものである。
そして、第1案内筒80及び第2案内筒81は、図5において、第2コインホッパ72bの左側方に設けられ、第6コインホッパ72fに対して真上に設けられた形態で図示されたものであり、左側方は、コイン受入払出装置1の幅方向における側方であるので、【図1】?【図9】の第1案内筒80及び第2案内筒81は、コイン受入払出装置の幅方向における上側コインホッパ72a?72dの一方の側の側方であって、下側コインホッパ72e?72hの真上に設けられた第1案内筒80及び第2案内筒81といえる。
・【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1のコイン保留装置70のコインホッパ72a?72hは、記載事項(q)の「コイン出口78から払い出されたコインは、左カバー6とコインホッパの壁面とにより案内されて後述の払出装置85に落下する。」、記載事項(y)(z)の「各コインホッパにおいて、回転ディスク76が回転され、コイン1個が出口78から払い出される。」、「払い出された各コインは、各コインホッパと左カバー6に案内されて搬送ベルト88上に落下する。」ものであって、記載事項(q)の「左カバー6とコインホッパの壁面とにより案内され」や記載事項(z)の「コインホッパと左カバー6に案内され」ることは、コインホッパと左カバー6との間に落下する空間が存在することを意味する。
そして、コイン出口78が図5において、コイン受入払出装置1の幅方向における右側に図示されているので、コインホッパと左カバー6との間の落下する空間は、コイン受入払出装置1の幅方向における他方の側の側方に設けられたコインが落下する空間といえる。
・【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1は、記載事項(x)の「1セント、10セント、20セント及び50セントの場合、・・・受入通路60から正貨通路66及び第1通路62aを通って第1正貨搬送装置36aに誘導される。・・・1セントコインの場合、第1ゲージ孔45aにおいて上縁が外れるので第1ゲージ孔45a内へ倒れ、第1案内筒80に落下して第1コインホッパ72aのコインボウル74に保留される。・・・第2正貨搬送装置36bに達したコインは、・・・第1正貨搬送装置36a同様に搬送される。」ものであるので、振分装置30の第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bから搬送されたコインは、案内筒を通してコインホッパ72a?72hに保留されるものといえる。
・【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1は、記載事項(y)(z)の「各コインホッパにおいて、回転ディスク76が回転され、コイン1個が出口78から払い出される。・・・払い出された各コインは、各コインホッパと左カバー6に案内されて搬送ベルト88上に落下する。・・・搬送ベルト88上に落下したコインは、シュート87へ落下する。コインは、シュート87を滑り降りて払出口5に払い出される。」ものであるので、各コインホッパから払い出されたコインは、コインホッパと左カバー6との間の落下する空間を通過してコイン払出装置85の搬送ベルト88上に落下した後に当該搬送ベルト88により搬送され、その後、シュート87を経て払出口5に払い出されるものといえる。

以上の記載及び図示内容によれば、刊行物1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。(なお、当審で「a:」等に分説した。)
「a:筐体と、
b:筐体外からコインが投入される受入装置10と、
c:金種判別搬送装置21と金種判別器23を備え、受入装置10に受け入れられたコインが送られて一列に並べられ搬送する金種判別装置20と、
d:金種判別装置20から送られてくるコインを、下周面を第1ガイドレール39aに支えられ、かつ、第1ベルト47aによってゲージ板40に押し付けられつつ振分装置30から離れる方向に略水平かつコイン受入払出装置1の奥行き方向に搬送する振分装置30の第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bと、
e:振分装置30の第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bの下方に設けられ、奥行き方向に4列配置されるとともに鉛直方向において2段配置され、上下で正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれている上側コインホッパ72a?72d及び下側コインホッパ72e?72hであって、それぞれ、水平姿勢で回転させられる回転ディスク76と、第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bから搬送されたコインを回転ディスク76の表面との間にコインを保留する空間を形成するコインボウル74とを有し、略水平方向のうちのコイン受入払出装置1の奥行き方向と略直交する幅方向に、出口78からコイン1個ずつ払い出すコインホッパ72a?72hと、
f:搬送ベルト88を有した払出搬送装置86とシュート87からなり、各コインホッパから払い出されたコインを搬送するコイン払出装置85あって、コインホッパ72a?72hのコイン出口78の下方、かつ、下ベース73の下方に、コイン受入払出装置1の奥行き方向に沿って搬送ベルト88が設けられているコイン払出装置85と、
g:コイン払出装置85の搬送ベルト88からシュート87を経て搬送されたコインが払い出される払出口5と、
h:コイン受入払出装置の幅方向における上側コインホッパ72a?72dの一方の側の側方であって、下側コインホッパ72e?72hの真上に設けられた第1案内筒80及び第2案内筒81と、
i:コイン受入払出装置1の幅方向における他方の側の側方に設けられたコインが落下する空間と、
を備え、
j:振分装置30の第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bから搬送されたコインは、案内筒を通してコインホッパ72a?72hに保留され、
k:各コインホッパから払い出されたコインは、コインホッパと左カバー6との間の落下する空間を通過してコイン払出装置85の搬送ベルト88上に落下した後に当該搬送ベルト88により搬送され、その後、シュート87を経て払出口5に払い出される
コイン受入払出装置。」

(1-2)刊行物2の記載
本件特許に係る出願(原出願の出願日平成23年2月22日)前に頒布された刊行物2(特開2004-246531号公報)には、「コインの受入払出装置」に関して、図面とともに、次の記載がある。
・「【0018】図2に示すように、コイン受入払出装置100は、コインの流れの順に、受入装置104、第一搬送装置120及び金種判別装置122、振分装置124、第2搬送装置126、一時保留装置128、選別搬送装置130、コイン保留装置132、コイン払出装置134及び払出口110が配置される。
受入装置104は、上向き漏斗型であって、上方に向かって開口する矩形の受入口106を有する。」
・「【0019】受入装置104の下端部は横長の開口であり、第一搬送装置120の上方において開口している。
第一搬送装置120は、受入装置104に投入された(複数の)コイン136を金種判別装置122を通って振分装置124に搬送する機能を有し、例えばゴム製の平ベルト138である。・・・
【0020】・・・金種判別装置122は、コインの真偽及び金種を判定する機能を有し、例えば、複数のコイルを用いてコインの直径、厚み及び材質に関するデーターを取得し、取得データーと基準値とを比較して真偽並びに金種を判定する。
【0021】偽貨の場合、その偽貨は振分装置124において返却通路140に落下させ、払出装置134によって払出口110に搬送される。
正貨の場合、その正貨は第2搬送装置126に送られ、第2搬送装置126によって一時保留装置128に搬送される。
・・・
【0023】・・・一時保留装置128は、第2搬送装置126によって搬送されるコイン136を受け入れて一時保留し、選別搬送装置130或いは払出装置134の一方に選択的に受け渡す機能を有していればどのような機構でもよい。
本実施例の一時保留装置128は、選別搬送装置130又は払出装置134に選択的に開かれるゲートを底部に有する垂直方向に伸びるボックスである。」
・「【0024】次に選別搬送装置130を図4を参照して説明する。・・・選別搬送装置130は、ホッパボウル148に纏めて投入されたコイン136を一個ずつ区分けする分離セクション150と、その区分けしたコイン136をコイン選別部146に搬送する搬送セクション152とを含んでいる。」
・「【0025】分離セクション150は、傾斜配置した円板154の上面に所定の間隔で同心円上に配置した係止ピン156を配置した回転ディスク158と、前記同心円よりも回転中心側において、円板154よりも突出するサポート段部160と、前記サポート段部160に支えられ、かつ、前記係止ピン156で押されているコイン136を受け取るナイフ162とを有する。」
・「【0026】ナイフ162で受け取られたコイン136は、搬送セクション152においてコイン選別部146に搬送される。」
・「【0056】・・・コイン136をシュート292に落下させ、払出口110に払い出す。」
・「【0059】・・・受入口106に投入されたコイン136は、第一搬送装置120により搬送されつつ一列、かつ、所定の間隔に並べられる。
そして、金種判別器122によって真偽を判別され、正貨のときに金種が判定される。
【0060】・・・正貨の場合、スライドボード142上を滑って第2搬送装置126上に案内され、第2搬送装置126によって一時保留装置128に搬送される。
コイン136は、一時保留装置128に落下し、保留される。
利用者が返却操作をした場合、一時保留装置128は保留したコイン136を払出装置134上に落下させた後、払出装置134を払出口110側へ移動させて払出口110へ返却する。
【0061】返却操作をしない場合、一時保留されたコイン136は、ホッパボウル148に供給される。ホッパボウル148に落下したコイン136は、回転ディスク158の回転によって係止ピン156によって係止され、かつ、サポート段部160に支えられて一個ずつ分離され、ナイフ162に達する。
【0062】ナイフ162上面に乗ったコイン136は、係止ピン156に押されて搬送セクション152へ移動する。」

刊行物2には以下の図が示されている。










(1-3)刊行物3の記載
本件特許に係る出願(原出願の出願日平成23年2月22日)前に頒布された刊行物3(特開昭59-41094号公報)には、「ホツパー型コイン類払出し装置」に関して、図面とともに、次の記載がある。
・「ホツパー(1)内のコイン類(m)(m)---を1枚づつ拾い上げて搬出部(2)に移送する傾斜回転円板(3)と・・・」(第2頁左下欄5?7行)
・「ホツパー(1)の容器部(12)」(第2頁右下欄15行)

刊行物3には以下の図が示されている。


(1-4)刊行物4の記載
本件特許に係る出願(原出願の出願日平成23年2月22日)前に頒布された刊行物4(特開昭61-25292号公報)には、「コイン投出装置」に関して、図面とともに、次の記載がある。
・「本発明は、両替機、自動販売機、ゲーム機等に用いられるコイン投出装置に関し、更に詳しくは傾斜して配置した回転板によりコインを掬い上げて1枚ずつ投出する装置に関するものである。」(第1頁右下欄13?16行)
・「第1図ないし第3図において、基板1に、L字状をした取付け板2が固着されており、この取付け板2は基板1に対して約60度に傾いている。・・・
このモータ4の回転軸4aは、取付け板2に形成した穴2aを貫通しており、その先端に回転板6が固着されている。この回転板6は、第3図に詳細に示すように、その周辺部60の内面60aが内側に角度θlだけ傾斜して皿状をしている。この角度θ1としては、20度が望ましいものであり、全体が60度に傾いているから、回転板6の下方では40度となり、上方では80度となる。したがって、コイン7aの位置では傾斜が緩くなるため、コインを掬い易くなり、またコイン7cの位置では傾きが急になるから、回転板6から離れ易くなるとともに、垂直に配置したシュート8に投入し易くなる。」(第2頁左下欄8行?右下欄5行)
・「コイン収納部15は、筒部15aと、カバー部15bと、ブラケット15cとを備え」(第3頁左上欄6?7行)

刊行物4には以下の図が示されている。




(1-5)刊行物5の記載
本件特許に係る出願(原出願の出願日平成23年2月22日)前に頒布された刊行物5(実願昭57-13245号(実開昭58-117559号)のマイクロフィルム)には、「硬貨送出装置」に関して、図面とともに、次の記載がある。
・「2.実用新案登録請求の範囲
一定の傾斜をもって回転する円盤5により、硬貨溜り3から突起物6によって硬貨を拾い上げ、整列させて案内板1の上縁を通って送出する装置において、円盤5の外周に窪みを数ケ所設けて、硬貨より小さい物体を排出出来るようにした事を特徴とする硬貨送出装置。」(実用新案登録請求の範囲)
・「案内板1及び案内通路2より、1枚づつ送出する」(明細書第1頁15?16行)

刊行物5には以下の図が示されている。


(1-6)刊行物6の記載
本件特許に係る出願(原出願の出願日平成23年2月22日)前に頒布された刊行物6(実願昭57-137589号(実開昭59-40962号)のマイクロフィルム)には、「ホツパー型コイン類払出し装置」に関して、図面とともに、次の記載がある。
・「2.実用新案登録請求の範囲
(1)コイン類を収容するホツパーと、ホツパー内のコイン類を1枚づつ拾い上げて搬出部に移送する傾斜回転円板と、この傾斜回転円板をその周縁部において支承する3個以上の支承部材と、傾斜回転円板と非一体関係にあつてこれに回転力を伝達する駆動装置とを備えたホツパー型コイン類払出し装置において、前記支承部材を傾斜回転円板の裏面に当接してスラスト力を担持する支承面を有する滑り軸受で構成すると共に、前記駆動装置の出力軸を傾斜回転円板の中央に設けた孔に遊挿して、傾斜回転円板のラジアル方向の動きを拘束したことを特徴とするホツパー型コイン類払出し装置。」(実用新案登録請求の範囲)
・「コイン類を収容するホツパー(a)と、ホツパー(a)内のコインを1枚づつ拾い上げて搬出部(b)に移送する傾斜回転円板(c)と、この傾斜回転円板(c)をその周縁部(d)において支承する3個のボールベアリング又はローラ(以下ボールベアリングに代表させる。)(e)(e)(e)と、傾斜回転円板(c)と非一体関係にあつて、これに回転力を伝達する駆動装置(図示せず)とを備えている。」(明細書第2頁8?15行)
・「ホツパー(1)の容器部(12)」(明細書第7頁12行)

刊行物6には以下の図が示されている。


(1-7)刊行物7の記載
本件特許に係る出願(原出願の出願日平成23年2月22日)前に頒布された刊行物7(実願昭50-64587号(実開昭51-145088号)のマイクロフィルム)には、「硬貨送出装置」に関して、図面とともに、次の記載がある。
・「2.実用新案登録請求の範囲
一定の傾斜をもって回転する円盤により、硬貨溜りから硬貨を拾い上げ、整列させて案内板及び案内通路を通って送出する装置において、・・・」(実用新案登録請求の範囲)

刊行物7には以下の図が示されている。


(2)対比
(a)引用発明1の「コイン」は、本件発明1の「硬貨」及び「貨幣」に相当し、引用発明1の「筐体外からコインが投入される受入装置10」は、本件発明1の「前記筐体外から硬貨を受け入れる硬貨受入口」に相当する。
(b)引用発明1の「コインが送られて一列に並べられ搬送する」ことは、コインが1枚ずつ搬送され、結果的に搬送先に繰り出されることとなるので、引用発明1の「コインが送られて一列に並べられ搬送する」ことは、本件発明1の「硬貨を1枚ずつ繰り出す」に相当する。
そして、引用発明1の「金種判別搬送装置21と金種判別器23を備え、受入装置10に受け入れられたコインが送られて一列に並べられ搬送する金種判別装置20」と、本件発明1の「鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第一の回転円盤と、前記第一の回転円盤の表面との間に硬貨を収納する第一の硬貨収納空間を形成する第一のカバー部材と、を有し、前記硬貨受入口に受け入れられた硬貨が送られて前記第一の硬貨収納空間に貯留されるとともに貯留された硬貨を1枚ずつ繰り出す貯留繰出装置」とは、「前記硬貨受入口に受け入れられた硬貨が送られて硬貨を1枚ずつ繰り出す繰出装置」の点で共通する。
(c)引用発明1の「コイン受入払出装置1の奥行き方向」は、コイン受入払出装置1の外形である、筺体の奥行き方向と同じであるので、本件発明1の「略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向」及び「筐体の奥行方向」に相当する。
また、引用発明1の「金種判別装置20から送られてくるコイン」と、本件発明1の「貯留繰出装置により繰り出された硬貨」とは、「繰出装置により繰り出された硬貨」である点で共通する。
そして、引用発明1の「コインを、下周面を第1ガイドレール39aに支えられ、かつ、第1ベルト47aによってゲージ板40に押し付けられつつ・・搬送する」は、実質的に1枚ずつ搬送するものとなるので、引用発明1の「金種判別装置20から送られてくるコインを、下周面を第1ガイドレール39aに支えられ、かつ、第1ベルト47aによってゲージ板40に押し付けられつつ振分装置30から離れる方向に略水平かつコイン受入払出装置1の奥行き方向に搬送する振分装置30の第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36b」と、本件発明1の「前記貯留繰出装置により繰り出された硬貨を略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向に1枚ずつ搬送する入金搬送部」とは、「前記繰出装置により繰り出された硬貨を略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向に1枚ずつ搬送する入金搬送部」の点で共通する。
(d)引用発明1の「奥行き方向に4列配置されるとともに鉛直方向において2段配置され、上下で正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれている上側コインホッパ72a?72d及び下側コインホッパ72e?72h」は、本件発明1の「奥行き方向に複数列配置されるとともに鉛直方向に複数段配置された複数の収納繰出部」に相当し、以下同様に、
「回転ディスク76」は、「第二の回転円盤」に、
「保留」は、「収納」に、
「第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bから搬送されたコインを回転ディスク76の表面との間にコインを保留する空間」は、「入金搬送部から搬送された硬貨を前記第二の回転円盤の表面との間に収納する第二の硬貨収納空間」に、
「コインボウル74」は、「第二のカバー部材」に、
「コイン受入払出装置1の奥行き方向と略直交する幅方向」は、「筐体の奥行き方向と略直交する幅方向」に、
「コイン1個」は、「1枚」に、
「払い出」すことは、「繰り出」すこと相当する。
そして、引用発明1の「振分装置30の第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bの下方に設けられ、奥行き方向に4列配置されるとともに鉛直方向において2段配置され、上下で正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれている上側コインホッパ72a?72d及び下側コインホッパ72e?72hであって、それぞれ、水平姿勢で回転させられる回転ディスク76と、第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bから搬送されたコインを回転ディスク76の表面との間にコインを保留する空間を形成するコインボウル74とを有し、略水平方向のうちのコイン受入払出装置1の奥行き方向と略直交する幅方向に、出口78からコイン1個ずつ払い出すコインホッパ72a?72h」と、本件発明1の「前記入金搬送部の下方に設けられ、前記奥行き方向に複数列配置されるとともに鉛直方向に複数段配置された複数の収納繰出部であって、それぞれ、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第二の回転円盤と、前記入金搬送部から搬送された硬貨を前記第二の回転円盤の表面との間に収納する第二の硬貨収納空間を形成する第二のカバー部材とを有し、前記第二の硬貨収納空間に収納した硬貨を、前記第二の回転円盤の下部領域から上部領域に拾い上げて、略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向と略直交する幅方向に、前記上部領域に設けられた出口から1枚ずつ繰り出す複数の収納繰出部」とは、
「前記入金搬送部の下方に設けられ、前記奥行き方向に複数列配置されるとともに鉛直方向に複数段配置された複数の収納繰出部であって、それぞれ、第二の回転円盤と、前記入金搬送部から搬送された硬貨を前記第二の回転円盤の表面との間に収納する第二の硬貨収納空間を形成する第二のカバー部材とを有し、略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向と略直交する幅方向に、前記上部領域に設けられた出口から1枚ずつ繰り出す複数の収納繰出部」である点で共通する。
(e)引用発明1の「払出搬送装置86」及び「コイン払出装置85の搬送ベルト88」は、本件発明3の「第一の出金搬送部」に相当し、以下同様に、「シュート87」は、「第二の出金搬送部」に、「各コインホッパから払い出されたコイン」は、「前記各収納繰出部から繰り出された硬貨」に、「コインホッパ72a?72hのコイン出口78の下方」は、本件発明1の「前記複数の収納繰出部の前記出口の下方」に相当する。
そして、引用発明1の「搬送ベルト88を有した払出搬送装置86とシュート87からなり、各コインホッパから払い出されたコインを搬送するコイン払出装置85あって、コインホッパ72a?72hのコイン出口78の下方、かつ、下ベース73の下方に、コイン受入払出装置1の奥行き方向に沿って搬送ベルト88が設けられているコイン払出装置85」は、記載事項(t)の「コイン払出装置85は、払出搬送装置86とシュート87とを備え・・・払出搬送装置86は、払出ベルト88を有し」たものであって、その払出搬送装置86、シュート87、及び、払出搬送装置86の搬送ベルト88を含めて、本件発明1の「第一の出金搬送部と第二の出金搬送部とを有し、前記各収納繰出部から繰り出された硬貨を搬送する出金搬送部であって、前記複数の収納繰出部の前記出口の下方に前記筐体の奥行方向に沿って前記第一の出金搬送部が設けられている出金搬送部」に相当する。
(f)引用発明1の「コイン払出装置85の搬送ベルト88からシュート87を経て搬送されたコイン」は、本件発明1の「第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部を経て搬送された硬貨」に相当し、以下同様に、「払出口5」は、「硬貨投出口」に相当する。
また、引用発明1の「コインが払い出される」ことと、本件発明1の「硬貨を前記筐体外に投出する」こととは、「硬貨を投出する」点で共通する。
そうすると、引用発明1の「コイン払出装置85の搬送ベルト88からシュート87を経て搬送されたコインが払い出される払出口5」と、本件発明1の「前記第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部を経て搬送された硬貨を前記筐体外に投出する硬貨投出口」とは、「前記第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部を経て搬送された硬貨を投出する硬貨投出口」の点で共通する。
(g)引用発明1の「コイン受入払出装置の幅方向における上側コインホッパ72a?72dの一方の側の側方であって、下側コインホッパ72e?72hの真上に設けられた第1案内筒80及び第2案内筒81」と、本件発明1の「前記幅方向における前記複数の収納繰出部の一方の側の側方に設けられたシュート部」とは、「シュート部」の点で共通する。
(h)引用発明1の「コイン受入払出装置1の幅方向における他方の側の側方に設けられたコインが落下する空間」は、本件発明1の「前記幅方向における前記複数の収納繰出部の他方の側の側方に設けられた出金空間」に相当する。
(i)引用発明1の「振分装置30の第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bから搬送されたコインは、案内筒を通してコインホッパ72a?72hに保留され」ることは、本件発明1の「前記入金搬送部から搬送された硬貨は、前記シュート部を通して前記複数の収納繰出部に収納され」ることに相当する。
(j)引用発明1の「各コインホッパ」は、本件発明1の「複数の収納繰出部の各々」に相当する。
(k)引用発明1の「コインホッパと左カバー6との間の落下する空間」は、「出金空間」に相当し、以下同様に、「払い出される」ことは、「投出され」ることに相当する。
そして、引用発明1の「各コインホッパから払い出されたコインは、コインホッパと左カバー6との間の落下する空間を通過してコイン払出装置85の搬送ベルト88上に落下した後に当該搬送ベルト88により搬送され、その後、シュート87を経て払出口5に払い出される」ことと、本件発明1の「前記複数の収納繰出部の各々から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通過して前記出金搬送部上に落下した後に当該出金搬送部により搬送され、その後、前記出金搬送部を経て前記硬貨投出口から前記筐体外に投出され」ることとは、「前記複数の収納繰出部の各々から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通過して前記出金搬送部上に落下した後に当該出金搬送部により搬送され、その後、前記出金搬送部を経て前記硬貨投出口に投出され」る点で共通する。
また、引用発明1の「水平姿勢で回転させられる回転ディスク76」は、その表面が筺体の奥行き方向及び幅方向に沿うことになるので、引用発明1の「水平姿勢で回転させられる回転ディスク76」の構成と、本件発明1の「前記各収納繰出部の前記第二の回転円盤の前記表面が前記筺体の前記幅方向に沿っており、かつ、奥行き方向に対して傾いている」構成とは、「前記各収納繰出部の前記第二の回転円盤の前記表面が前記筺体の前記幅方向に沿っている」構成で共通する。
(l)引用発明1の「コイン受入払出装置」は、本件発明1の「硬貨入出金機」に相当する。

一致点:したがって、本件発明1と引用発明1とは、
「A:筐体と、
B:前記筐体外から硬貨を受け入れる硬貨受入口と、
C:前記硬貨受入口に受け入れられた硬貨が送られて硬貨を1枚ずつ繰り出す繰出装置と、
D:前記繰出装置により繰り出された硬貨を略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向に1枚ずつ搬送する入金搬送部と、
E:前記入金搬送部の下方に設けられ、前記奥行き方向に複数列配置されるとともに鉛直方向に複数段配置された複数の収納繰出部であって、それぞれ、第二の回転円盤と、前記入金搬送部から搬送された硬貨を前記第二の回転円盤の表面との間に収納する第二の硬貨収納空間を形成する第二のカバー部材とを有し、略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向と略直交する幅方向に、前記上部領域に設けられた出口から1枚ずつ繰り出す複数の収納繰出部と、
F:第一の出金搬送部と第二の出金搬送部とを有し、前記各収納繰出部から繰り出された硬貨を搬送する出金搬送部であって、前記複数の収納繰出部の前記出口の下方に前記筐体の奥行方向に沿って前記第一の出金搬送部が設けられている出金搬送部と、
G:前記第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部を経て搬送された硬貨を投出する硬貨投出口と、
H:シュート部と、
I:前記幅方向における前記複数の収納繰出部の他方の側の側方に設けられた出金空間と、
を備え、
J:前記入金搬送部から搬送された硬貨は、前記シュート部を通して前記複数の収納繰出部に収納され、
K:前記複数の収納繰出部の各々から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通過して前記出金搬送部上に落下した後に当該出金搬送部により搬送され、その後、前記出金搬送部を経て前記硬貨投出口に投出され、
前記各収納繰出部の前記第二の回転円盤の前記表面が前記筺体の前記幅方向に沿っている
硬貨入出金機。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:繰出装置が、本件発明1は「鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第一の回転円盤と、前記第一の回転円盤の表面との間に硬貨を収納する第一の硬貨収納空間を形成する第一のカバー部材と、を有し」、硬貨が送られて「前記第一の硬貨収納空間に貯留されるとともに貯留された」硬貨を1枚ずつ繰り出す「貯留」繰出装置であるのに対して、引用発明1は、「コインが送られて一列に並べられ搬送する金種判別装置20」である点。

相違点2:収納繰出部が、本件発明1は「鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる」第二の回転円盤を有し、「前記第二の硬貨収納空間に収納した硬貨を、前記第二の回転円盤の下部領域から上部領域に拾い上げて、」繰り出すものであるのに対して、引用発明1は、「水平姿勢で回転させられる回転ディスク76」を有しコイン1個ずつ払い出すものである点。

相違点3:硬貨投出口が、本件発明1は硬貨を「筐体外に投出する」ものであるのに対して、引用発明1は、「筐体外に投出する」ものでない点。

相違点4:シュート部が、本件発明1は「前記幅方向における前記複数の収納繰出部の一方の側の側方に設けられた」ものであるのに対して、引用発明1は、「上側コインホッパ72a?72dの一方の側の側方であって、下側コインホッパ72e?72hの真上に設けられた」ものである点。

相違点5:本件発明1は、第二の回転円盤の表面が筺体の「奥行き方向に対して傾いている」のに対して、引用発明1はそうでない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。

(3-1)相違点1に関して
ア.上記刊行物2には、上記「(1)(1-2)」の記載があり、「コインの流れの順に、受入装置104、第一搬送装置120及び金種判別装置122、振分装置124、第2搬送装置126、一時保留装置128、選別搬送装置130、コイン保留装置132、コイン払出装置134及び払出口110が配置され」「選別搬送装置130は・・・分離セクション150と・・・搬送セクション152とを含んで」「分離セクション150は、傾斜配置した円板154の上面に所定の間隔で同心円上に配置した係止ピン156を配置した回転ディスク158」を備えた【図2】に示すコイン受入払出装置100が記載されている。
イ.刊行物2の「分離セクション150」の「回転ディスク158」は、「傾斜配置した円板154の上面に所定の間隔で同心円上に配置した係止ピン156を配置した回転ディスク158」(【0025】)であるので、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる回転円盤といえるものである。
また、刊行物2の「ホッパボウル148」内の空間は、「ホッパボウル148に纏めて投入されたコイン136を一個ずつ区分けする」(【0024】)、「ホッパボウル148に落下したコイン136は、回転ディスク158の回転によって係止ピン156によって係止され、かつ、サポート段部160に支えられて一個ずつ分離され、ナイフ162に達する。」(【0061】)ものであるので、回転円盤の表面との間に硬貨を収納する硬貨収納空間といえるものであり、【図4】の「ホッパボウル148」の引き出し線が付された部材は、硬貨収納空間を形成するカバー部材といえるものである。
また、刊行物2の受入装置104の「受入口106」は、本件発明1の「硬貨受入口」に相当し、以下同様に、【図4】の「ホッパボウル148」の引き出し線が付された部材は、「第一の硬貨収納空間を形成する第一のカバー部材」に相当する。
そして、刊行物2の「受入口106に投入されたコイン136は・・・搬送され・・・ホッパボウル148に供給される。ホッパボウル148に落下したコイン136は、回転ディスク158の回転によって係止ピン156によって係止され、かつ、サポート段部160に支えられて一個ずつ分離され・・・搬送セクション152へ移動する。」(【0059】?【0062】)動作は、「前記硬貨受入口に受け入れられた硬貨が送られて前記第一の硬貨収納空間に貯留されるとともに貯留された硬貨を1枚ずつ繰り出す」動作に相当する。
そうすると、刊行物2の「分離セクション150」の「回転ディスク158」及び「ホッパボウル148」は、本件発明1の「鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第一の回転円盤と、前記第一の回転円盤の表面との間に硬貨を収納する第一の硬貨収納空間を形成する第一のカバー部材と、を有し、前記硬貨受入口に受け入れられた硬貨が送られて前記第一の硬貨収納空間に貯留されるとともに貯留された硬貨を1枚ずつ繰り出す貯留繰出装置」に相当するものである。
また、刊行物2の「選別搬送装置130」の「搬送セクション152」は、分離セクション150の「有する」「ナイフ162」で「受け取られたコイン136は、搬送セクション152においてコイン選別部146に搬送」するものであって、搬送方向が、【図4】のコイン受入払出装置100の奥行き方向であるので、刊行物2の選別搬送装置130の搬送セクション152は、本件発明1の「前記貯留繰出装置により繰り出された硬貨を略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向に1枚ずつ搬送する入金搬送部」に相当するものである。
ウ.刊行物2の第一搬送装置120及び金種判別装置122、振分装置124、第2搬送装置126、一時保留装置128、選別搬送装置130は、「受入装置104に投入された・・・コインの真偽及び金種を判定・・・正貨の場合・・・一時保留装置128に搬送・・・一時保留し、選別搬送装置130・・・に受け渡す」(【0019】?【0023】)、「選別搬送装置130は、ホッパボウル148に纏めて投入されたコイン136を一個ずつ区分けする分離セクション150と、その区分けしたコイン136をコイン選別部146に搬送する」(【0024】)機能のものであり、引用発明1の「金種判別搬送装置21と金種判別器23を備え、受入装置10に受け入れられたコインが送られて一列に並べられ搬送する金種判別装置20」及び「金種判別装置20から送られてくるコインを・・・コイン受入払出装置1の奥行き方向に搬送する振分装置30の第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36b」と、共通の機能を有するものであり、引用発明1の金種判別装置20、及び、第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bを刊行物2の第一搬送装置120、金種判別装置122、振分装置124、第2搬送装置126、一時保留装置128、及び、選別搬送装置130(「分離セクション150と・・・搬送セクション152とを含んでいる」もの)に置換することは当業者が容易になし得ることである。
エ.そうすると、引用発明1の金種判別装置20、及び、第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bを、刊行物2の第一搬送装置120、金種判別装置122、振分装置124、第2搬送装置126、一時保留装置128、及び、選別搬送装置130の構成として、本件発明1の相違点1に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである。

(3-2)相違点2、5に関して
ア.本件特許に係る出願(原出願の出願日平成23年2月22日)前に頒布された刊行物3?7に記載されているように、硬貨を一つずつ繰り出す収納繰出部の技術分野において、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる回転円盤(刊行物3「傾斜回転円板(3)」、刊行物4「回転板6」、刊行物5「円盤5」、刊行物6「傾斜回転円板」、刊行物7「円盤」)と、硬貨を回転円盤の表面との間に収納する硬貨収納空間を形成するカバー部材(例えば、刊行物3「ホツパー(1)の容器部(12)」、刊行物4「カバー部15b」を備えた「コイン収納部」、刊行物5「硬貨溜り3」、刊行物6「ホツパー(1)の容器部(12)」、刊行物7「硬貨溜り」)とを有し、硬貨収納空間に収納した硬貨を、回転円盤の下部領域から上部領域に拾い上げて、略水平方向のうちの回転軸の方向と略直交する方向に、出口(刊行物3「搬出部(2)」の出口、刊行物4「シュート8」の出口、刊行物5「案内通路2」の出口、刊行物6「搬出部」の出口、刊行物7「案内通路」の出口)から1枚ずつ繰り出す収納繰出部は、従来周知の技術である。
イ.刊行物1の記載事項(r)には、「コインホッパは、投入されたコインを受け入れ、一個ずつ払い出す機能を有していれば他の方式を採用することができる。」と記載され、引用発明1のコインホッパ72a?72hを他の既知のコインホッパに置換することが示唆されているので、引用発明1のコインホッパ72a?72hを、上記周知の形態のものに置換することは当業者が容易になし得ることである。
ウ.また、引用発明のコインホッパ72a?72hの回転ディスク76は、「水平姿勢で回転させられる回転ディスク76」であって、「略水平方向のうちのコイン受入払出装置1の奥行き方向と略直交する幅方向に、出口78からコイン1個ずつ払い出す」ものであり、上記「イ.」の置換にあたって、引用発明1の払い出す方向を変更しなくてはならないという特段の事情は存在しないので、上記置換にあたり、傾斜姿勢で回転させられる回転円盤(本件発明1の「第二の回転円盤」と対応するもの)の表面は、筺体の幅方向に沿っており、かつ、奥行き方向に対して傾いているものとするのが通常である。
エ.そうすると、引用発明1のコインホッパ72a?72hを、上記周知の形態のものに置換して、本件発明1の相違点2,5に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである。

(3-3)相違点3に関して
ア.刊行物2には、「【0056】・・・コイン136をシュート292に落下させ、払出口110に払い出す。」と記載され、その払出口110は、図1において矩形箱形のコイン受入払出装置100の外側に位置するものとして記載されたものであるので、払い出しは、コインを筐体外に投出するものといえる。
そうすると、刊行物2の払出口110は、本件発明1の「硬貨を前記筐体外に投出する硬貨投出口」に相当するものである。
イ.刊行物2の払出口110は、払出口であり、引用発明1のコインが払い出される払出口5と、共通の機能を有するものであり、引用発明1の払出口5の形状を刊行物2の払出口110に置換することは当業者が適宜なし得ることである。
ウ.そうすると、引用発明1の払出口5を、刊行物2の矩形箱形のコイン受入払出装置100の外側に位置する形態のものに置換して、本件発明1の相違点3に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである。

(3-4)相違点4に関して
ア.引用発明1のコインホッパ72a?72hは、鉛直方向において2段配置され、上下で正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれているものであり、第1案内筒80及び第2案内筒81(本件発明1の「シュート部」に相当するもの)は、上側コインホッパ72a?72dの一方の側の側方(本件発明1の記載に倣うと「収納繰出部の一方の側の側方」位置)であるものの、下側コインホッパ72e?72hに対しては真上に設けられており、「前記複数の収納繰出部」、すなわち、全ての収納繰出部に対して「一方の側の側方に設けられたシュート部」とはなっていない。
イ.そこで、引用発明1の第1案内筒80及び第2案内筒81を下側コインホッパ72e?72hに対しても一方の側の側方に配置したものとすることが、当業者が容易に想到できたことであるかについて検討する。
まず、引用発明1のような鉛直方向に2段配置されたコインホッパにおいて、下側コインホッパ72e?72hに上方からコインを搬送する為には、上側コインホッパ72a?72dの側方を通過しなければならないことは、構造的に自明であり、引用発明1において、第1案内筒80及び第2案内筒81が「上側コインホッパ72a?72dの一方の側の側方」でありつつも、「下側コインホッパ72e?72hの真上」に設けられた構成は、下側コインホッパ72e?72hが、一方の側にずれていることにより生じたことと解される。
ウ.引用発明1の「上下で正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれている上側コインホッパ72a?72d及び下側コインホッパ72e?72h」に関して、刊行物1には以下の記載が存在する。
・記載事項(a)「【請求項1】・・・複数のコインホッパ(72a?72h)が上下に位置する複数列に並べられ、かつ、上下に位置するコインホッパが垂直方向に整列されているコインの受入払出装置。
【請求項2】複数のコインホッパ(72a?72h)が全て同一構造である請求項1のコインの収納払出装置。
【請求項3】上下に位置するコインホッパ(72a?72h)が正貨搬送装置(34)のコイン移動方向に対し直交する方向にずらして配置されている請求項2のコインの受入払出装置。」
・記載事項(f)「【0009】本発明は、上下に位置するコインホッパが、正貨搬送装置のコイン移動方向に対し直交する方向にずらして配置されることが好ましい。この構成において、上側のコインホッパの払出口が下側のコインホッパを外れた位置にあるので、上側のコインホッパから払い出されたコインは、下側のコインホッパに接することがないので、コインの払い出し不良を防止できる。」
・記載事項(p)「【0033】図4に示すように、第2コインホッパ72bの真下に第5コインホッパ72fが配置されている。換言すれば、第2コインホッパ72bと第5コインホッパ72fとは上下方向に整列している。また、図5に示すように、第2コインホッパ72bと第6コインホッパ72fとは、正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直行方向にずれている。」
記載事項(q)(r)「【0034】換言すると、第2コインホッパ72bが横方向において、正貨搬送装置34から離れて配置される。これにより、コイン出口78は第6コインホッパ72eに対しオーバーハングした位置にあるので、出口78から払い出されたコインがコインホッパ72fのコインボウル74に入り込むことがない。・・・
【0035】・・・コインホッパは、投入されたコインを受け入れ、一個ずつ払い出す機能を有していれば他の方式を採用することができる。」
上記記載に基づくと、引用発明1のコインホッパ72a?72hが、上下で正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれている構成は、記載事項(f)の「好ましい。」構成であり、ずれの有無を任意とした【請求項1】記載の発明に対して、【請求項3】で特定された好ましい態様として記載されたものといえる。
そして、ずれのない整列が「整列」の代表的一態様であることを考慮すると、引用発明1のコインホッパ72a?72hの「上下で正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれている」構成は、刊行物1において、ずれていない構成とする選択肢と共に記載されたものといえる。
エ.そうすると、引用発明1のコインホッパ72a?72hの「上下で正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれている」構成を、「整列」の代表的一態様であるずれのない整列に変更することは、当業者が刊行物1の記載に基づいて容易になし得ることである。
そして、引用発明1のコインホッパ72a?72hを上下で正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれていないものとすると、第1案内筒80及び第2案内筒81が、下側コインホッパ72e?72hに対しても、上側コインホッパ72a?72dと同様に「コインホッパの一方の側の側方」に配置されるものとなることは自明である。
オ.そうすると、引用発明1のコインホッパ72a?72hの「上下で正貨搬送装置34のコイン搬送方向に対し直交方向にずれている」構成を、直交方向にずれていない構成に変更して、本件発明1の相違点4に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである。

(3-6)本件発明1の奏する作用効果は、引用発明1、刊行物2に記載された事項、及び上記周知技術から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

2.本件発明2について
(1)刊行物1の記載
上記「1.(1)(1-1)」に加えて、以下のこともいえる。
・【図1】?【図9】のコイン受入払出装置1は、記載事項(q)の「コイン出口78から払い出されたコインは、左カバー6とコインホッパの壁面とにより案内されて後述の払出装置85に落下する。」、記載事項(z)の「払い出された各コインは、各コインホッパと左カバー6に案内されて搬送ベルト88上に落下する。」ものであるので、コインホッパ72a?72hのコイン出口78から払い出されたコインは、コインホッパと左カバー6との間の落下する空間を通してコイン払出装置85の搬送ベルト88上に落下するものといえる。

以上の記載及び図示内容によれば、刊行物1には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「コインホッパ72a?72hのコイン出口78から払い出されたコインは、コインホッパと左カバー6との間の落下する空間を通してコイン払出装置85の搬送ベルト88上に落下するものである引用発明1のコイン受入払出装置。」

(2)対比
上記「1.(2)」に加えて、引用発明2の「落下する」は、本件発明2の「自重により落下する」に相当する。
そうすると、引用発明2の「コインホッパ72a?72hのコイン出口78から払い出されたコインは、コインホッパと左カバー6との間の落下する空間を通してコイン払出装置85の搬送ベルト88上に落下する」ことは、本件発明2の「前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記第一の出金搬送部上に自重により落下すること」に相当する。

一致点:したがって、本件発明2と引用発明2とは、上記「1.(2)」の「一致点」に加えて、
「前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記第一の出金搬送部上に自重により落下する」
点でも一致し、上記「1.(2)」の「相違点1」?「相違点5」で相違する。

(3)判断
上記相違点については、上記「1.(3)」で検討したとおりである。

3.本件発明3について
(1)刊行物1の記載
刊行物1には上記「1.(1)(1-1)」の引用発明1が記載されていると認められる。

(2)対比
上記「1.(2)」に加えて、引用発明1の「コインホッパと左カバー6との間の落下する空間を通過して」「落下」することは、本件発明3の「出金空間を通して」「落下」することに相当する。
そして、引用発明1のコインホッパから払い出されたコインが「コイン払出装置85の搬送ベルト88上に落下」することは、落下元である「コインホッパ72a?72hのコイン出口78」に対して、落下先の搬送ベルト88が下方に設けられていることが自明であるので、引用発明1の「コイン払出装置85の搬送ベルト88上に落下」する構成と、本件発明3の「複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の下部領域と同じ高さに設けられた前記第一の出金搬送部上に落下」する構成とは、「第一の出金搬送部上に落下」する構成で共通する。
引用発明1の「払出口5に払い出される」ことと、本件発明3の「硬貨投出口から前記筐体外に投出される」こととは、「硬貨投出口に投出される」点で共通する。
そうすると、引用発明1の「各コインホッパから払い出されたコインは、コインホッパと左カバー6との間の落下する空間を通過してコイン払出装置85の搬送ベルト88上に落下した後に当該搬送ベルト88により搬送され、その後、シュート87を経て払出口5に払い出される」ことと、本件発明3の「前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の下部領域と同じ高さに設けられた前記第一の出金搬送部上に落下した後に当該第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部に搬送され、その後、当該第二の出金搬送部を経て前記硬貨投出口から前記筐体外に投出される」こととは、「前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記第一の出金搬送部上に落下した後に当該第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部に搬送され、その後、当該第二の出金搬送部を経て投出される」点で共通する。

一致点:したがって、本件発明3と引用発明1とは、上記「1.(2)」の「一致点」に加えて、
「前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記第一の出金搬送部上に落下した後に当該第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部に搬送され、その後、当該第二の出金搬送部を経て投出される」点でも一致し、上記「1.(2)」の「相違点1」?「相違点5」に加え、次の点で相違する。

相違点6:第一の出金搬送部に関して、本件発明3は「複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の下部領域と同じ高さに設けられた」ものであるのに対して、引用発明1は、「下ベース73の下方に、コイン受入払出装置1の奥行き方向に沿って搬送ベルト88が設けられている」ものであり、
投出に関して、本件発明3は「硬貨投出口から前記筐体外に投出」するものであるのに対して、引用発明1は、「筐体外に投出する」ものでない点。

(3)判断
ア.上記相違点1?5は、上記「1.(3)」で検討したとおりである。
イ.また、相違点6の投出に関しては、実質的に相違点3と同じものであり、相違点3と同様に、本件発明3の相違点6に係る構成とすることも当業者が容易になし得ることである。
ウ.しかし、引用発明1の搬送ベルト88(本件発明3の「第一の出金搬送部」に相当するもの)は、「下ベース73の下方に、コイン受入払出装置1の奥行き方向に沿って搬送ベルト88が設けられている」ものであるところ、「下ベース73」は、記載事項(o)の「上ベース71の下方に位置する下ベース73に第5コインホッパ72e、第6コインホッパ72f、第7コインホッパ72g、第8コインホッパ72hが正貨搬送装置34のコイン搬送方向と平行に横一列に並べられている。」ものであるので、搬送ベルト88はコインホッパ72e?hの底面に対しても下方に設けられているものであり、本件発明3の「複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の下部領域と同じ高さに設けられた前記第一の出金搬送部」とは、異なる場所に設けられたものである。
そして、引用発明1は、「f:・・・下ベース73の下方に、コイン受入払出装置1の奥行き方向に沿って搬送ベルト88が設けられている」「k:各コインホッパから払い出されたコインは、コインホッパと左カバー6との間の落下する空間を通過してコイン払出装置85の搬送ベルト88上に落下した後に当該搬送ベルト88により搬送され」るものであって、各コインホッパから払い出されたコインが落下した後に搬送する搬送ベルト88を、コインホッパ72e?hの下部領域と同じ高さに設けることは、刊行物1?7,さらに、特許異議申立人が提出している甲第3号証(特開2000-149115号公報)、甲第8号証(実願昭58-107546号(実開昭60-16266号)のマイクロフィルム)、甲第9号証(実願平1-26996号(実開平2-119775号)のマイクロフィルム)、甲第10号証(特開昭64-19494号公報)、甲第11号証(特開平2-235191号公報)、甲第12号証(特開平4-340692号公報)、甲第13号証(特許第3994131号公報)、甲第14号証(実願昭54-141240号(実開昭56-60157号)のマイクロフィルム)、甲第15号証(特開2002-298187号公報)、甲第16号証(特開昭59-172090号公報)、甲第17号証(特開2002-298188号公報)のいずれにも記載も示唆もされていない。
エ.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、令和1年12月26日付け意見書「3 第1 ウ(エ)」において、「・・・『相違点1』?『相違点5』に加え、相違点6,及び新たな相違点7において相違する。・・・相違点7:第一の出金搬送部に関して、本件発明3は『前記複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の下部領域と同じ高さに設けられた』ものであるのに対し、引用発明1は『前記複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の下方に設けられた』ものである点。」(上記「ウ.」と対応するもの。)とし、「3 第1 ウ(オ)」において、「本件発明3における『複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の下部領域と同じ高さ』であろうが、引用発明3における『複数段の収納繰出部のうち最下段の収納繰出部の僅か下方』であろうが、落下した硬貨を搬送するという作用効果は同じである。一方、相違点7によって、上部領域に設けられた出口から1枚ずつ繰り出す硬貨の落下高さが、低くなることによる作用効果が推定されるが、この本件発明3の奏する作用効果は、引用発明1,刊行物2に記載された事項、及び上記周知技術から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。よって、相違点7に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである。」「よって、本件発明3は、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明及び周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到しうるものである。」旨主張する。
しかし、発明の構成を変更するには、変更するに足りる動機付けが必要であるところ、それらの動機付けなく、作用効果のみに着目して、構成変更を容易になし得ることということはできない。
オ.小括
そうすると、刊行物1?7,さらに、特許異議申立人が提出している甲第3、8?17号証の記載事項を参照しても、相違点6に係る本件発明3の構成は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び従来周知の技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものといえないから、本件発明3は、当業者が容易に想到し得た発明とはいえない。

4.本件発明4について
本件発明4と引用発明3とは、少なくとも上記「1.(2)」、「3.(2)」の「一致点」で一致し、少なくとも上記「1.(2)」、「3.(2)」の「相違点1」?「相違点6」で相違する。
そして、上述したとおり相違点6は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び従来周知の技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものといえないので、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び従来周知の技術に基いて、当業者が容易に想到し得た発明とはいえない。

5.本件発明5について
(1)刊行物1の記載
刊行物1には上記「1.(1)(1-1)」の引用発明1が記載されていると認められる。

(2)対比
一致点:本件発明5と引用発明1とは、上記「1.(2)」の「一致点」で一致し、上記「1.(2)」の「相違点1」?「相違点5」に加え、次の点で相違する。

相違点8:本件発明5は「前記貯留繰出装置の前記第一の回転円盤の回転軸と前記各収納繰出部の前記第二の回転円盤の回転軸とが、前記硬貨入出金機を上方から見た平面視において略直交している」のに対して、引用発明1はそうでない点。

(3)判断
ア.まず、刊行物2の「分離セクション150」の「回転ディスク158」の表面は、刊行物2の【図4】に図示されているようにコイン受入払出装置100の奥行き方向(本件発明1の「筐体の奥行き方向」に相当する方向)に沿って、コイン受入払出装置100の奥行き方向に対して直交する方向に対して傾いているものであるので、上記「1 (3)(3-1)」の引用発明1の金種判別装置20、及び、第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bを、刊行物2の第一搬送装置120、金種判別装置122、振分装置124、第2搬送装置126、一時保留装置128、及び、選別搬送装置130の構成とすることにともなって、回転ディスク158(本件発明1の「第一の回転円盤」に相当するもの)の表面がコイン受入払出装置100の奥行き方向(本件発明1の「筐体の奥行き方向」に相当する方向)に沿ったものとなることは自明である。
また、回転ディスク158の回転軸が、回転ディスク158の表面と直交する、コイン受入払出装置100の奥行き方向に対して直交方向に傾斜して配されたものであることも自明である。
イ.また、上記「1 (3)(3-2)ウ.」に記載したように、上記「1 (3)(3-2)イ.」の置換にあたり、傾斜姿勢で回転させられる回転円盤(本件発明1の「第二の回転円盤」と対応するもの)の表面は、筺体の幅方向に沿っており、かつ、奥行き方向に対して傾いているものとするのが通常であり、当該回転円盤の回転軸が、回転円盤の表面と直交する、コイン受入払出装置100の奥行き方向に傾斜して配されたものとなることも自明である。
ウ.そして、上記イ.の収納繰出部の回転円盤(本件発明1の「第二の回転円盤」)のコイン受入払出装置100の奥行き方向に傾斜して配された回転軸と、上記ア.の回転ディスク158(本件発明1の「第一の回転円盤」)のコイン受入払出装置100の奥行き方向に対して直交方向に傾斜して配された回転軸とは、平面視で相互に直交方向に傾斜するものとなるので、上記「1 (3)(3-1)」及び「(3-2)」にともなって、各回転軸を平面視で相互に略直交するものとすることも、当業者が容易になし得ることである。
エ.そうすると、上記「1 (3)(3-1)」の引用発明1の金種判別装置20、及び、第1正貨搬送装置36a及び第2正貨搬送装置36bを、刊行物2の第一搬送装置120、金種判別装置122、振分装置124、第2搬送装置126、一時保留装置128、及び、選別搬送装置130の構成とすると共に、上記「1 (3)(3-2)」の引用発明1のコインホッパ72a?72hを、上記周知の形態のものに置換して、本件発明1の相違点8に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである。
なお、令和1年9月5日付け取消理由通知書<決定の予告>の時点では、本件発明5の相違点8に係る発明特定事項は、請求項1に係る発明の発明特定事項とされていたものであったため、請求項1に係る発明の相違点5として検討されていたものである。

6.本件発明6について
(1)刊行物1の記載
刊行物1には上記「1.(1)(1-1)」の引用発明1が記載されていると認められる。

(2)対比
一致点:本件発明6と引用発明1とは、上記「1.(2)」の「一致点」で一致し、上記「1.(2)」の「相違点1」?「相違点5」に加え、次の点で相違する。

相違点9:本件発明6は「前記複数の収納繰出部は、鉛直方向において3段以上となるよう配置されている」ものであるのに対して、引用発明1のコインホッパ72a?72hは、「2段配置」である点。

(3)判断
上記相違点1?5は、上記「1.(3)」で検討したとおりである。
また、刊行物1には、引用発明1の「コインホッパ72a?72h」に関して、記載事項(a)に「複数のコインホッパ(72a?72h)が上下に位置する複数列に並べられ・・。」と記載されている。
そして、複数列の態様として「3段以上」は周知のものであるので、引用発明1の「コインホッパ72a?72h」を、上下に「3段以上」並べられたものとして、本件発明6の相違点9に係る構成とすることも当業者が容易になし得ることである。

7.本件発明7について
(1)刊行物1の記載
刊行物1には上記「1.(1)(1-1)」の引用発明1が記載されていると認められる。

(2)対比
一致点:本件発明7と引用発明1とは、上記「1.(2)」の「一致点」で一致し、上記「1.(2)」の「相違点1」?「相違点5」に加え、次の点で相違する。

相違点10:本件発明7は「前記複数の収納繰出部は、同一の構成のものからなる」ものであるのに対して、引用発明1のコインホッパ72a?72hは、同一の構成か否か不明である点。

(3)判断
上記相違点1?5は、上記「1.(3)」で検討したとおりである。
また、刊行物1には、引用発明1の「コインホッパ72a?72h」に関して、記載事項(e)に「複数のコインホッパが全て同一構造であることが好ましい。」と、引用発明1の「コインホッパ72a?72h」を同一構造とすることが示唆されているので、各コインホッパを同一構造として、本件発明7の相違点10に係る構成とすることも当業者が容易になし得ることである。


第4-4 特許異議申立理由について
1.特許異議申立人は、証拠として甲第1?5号証(上記刊行物1?7、甲第3号証:特開2000-149115号公報、及び、甲第5号証:本件特許出願の平成29年8月9日付け意見書。)、甲第8?17号証を提出し、以下の旨主張する。

(1)特許法第29条第1項第3号
本件特許発明1?4、6、7(それぞれ、訂正前のもの)は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であり新規性を有さない。
(2)特許法第29条第2項
本件特許発明1?7(それぞれ、訂正前のもの)は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明、甲第3号証記載事項及び周知技術(甲第4の1?甲第4の5号証:上記刊行物3?7)に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、進歩性を有さない。
また、本件特許発明1?7(それぞれ、訂正後のもの)は、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、進歩性を有さない。
(3)特許法第36条第4項第1号
本件特許発明5(訂正前のもの)は、サポート要件違反により取り消されるべきである。
(4)特許法第36条第6項第2号
本件特許発明1(訂正前のもの)における「前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣」、本件特許発明2(訂正前のもの)における「前記第一の出金搬送部」は、その前段をみても記載が無く明確性違反により取り消されるべきである。
(5)特許法第36条第6項第1号、2号
本件特許発明1?4(訂正後のもの)には、「貨幣」の用語が用いられているが、発明の詳細な説明にの項には対応する用語が見あたらないので、特許法第36条第6項第1号に違反する。
また、請求項1(訂正後のもの)に「前記複数の収納繰出部の各々から繰り出された貨幣」と記載しているが、複数の収納繰出部の各々から繰り出されるのは「硬貨」であり、発明が不明確であり、特許法第36条第6項第2号に違反する。

2.当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号
甲第1号証(上記刊行物2)、甲第2号証(上記刊行物1)は、いずれも、本件特許発明1の相違点2、5に係る構成を備えていないので、本件特許発明1?4、6、7は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。

(2)特許法第29条第2項
令和1年10月31日付けの訂正請求書により訂正された本件発明1、2、5?7は、上記「第4-3」で、刊行物1、すなわち甲第2号証に記載された発明である引用発明1、刊行物2、すなわち甲第1号証に記載されたに記載された事項、及び甲第4の1?甲第4の5号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものとしたものであるので、特許異議申立人の主張について別途判断する必要はない。
また、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4の1?甲第4の5号証は、いずれも、本件特許発明3の相違点6に係る構成を備えていないので、本件特許発明3、4は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明、甲第3号証記載事項及び周知技術(甲第4の1?甲第4の5号証:上記刊行物3?7)に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)特許法第36条第4項第1号
特許異議申立人は、令和1年5月8日付け意見書において、「『平面視』(又はこれに相当)することを限定しないため・・・拡張されている」と主張しているが、上記「第2」の訂正により、訂正前の請求項5の「略直交するようになっている」は、「前記硬貨入出金機を上方から見た平面視において略直交している」に訂正され、請求人の主張する取消理由は解消されており、本件特許発明5(訂正前のもの)は、サポート要件違反により取り消されるべきであるとはいえない。

(4)特許法第36条第6項第2号
上記「第2」の訂正により、上記「1.(4)」の理由は解消している。

(5)特許法第36条第6項第1号、2号
請求項1には「前記第二の硬貨収納空間に収納した硬貨を・・・出口から1枚ずつ繰り出す複数の収納繰出部」、「複数の収納繰出部の各々から繰り出された貨幣」と記載されているので、請求項1の「貨幣」は、実質的に「硬貨」を意味し、発明の詳細な説明で「貨幣」なる用語が用いられていないことをもって、特許法第36条第6項第1号に違反するとはいえない。
また、請求項1の「前記複数の収納繰出部の各々から繰り出された貨幣」が、実質的に「硬貨」であることは明確であり、特許法第36条第6項第2号に違反するとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本件発明1、2、5?7は引用発明1、刊行物2に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2、5?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1、2、5?7の特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項3、4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体外から硬貨を受け入れる硬貨受入口と、
鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第一の回転円盤と、前記第一の回転円盤の表面との間に硬貨を収納する第一の硬貨収納空間を形成する第一のカバー部材と、を有し、前記硬貨受入口に受け入れられた硬貨が送られて前記第一の硬貨収納空間に貯留されるとともに貯留された硬貨を1枚ずつ繰り出す貯留繰出装置と、
前記貯留繰出装置により繰り出された硬貨を略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向に1枚ずつ搬送する入金搬送部と、
前記入金搬送部の下方に設けられ鉛直方向において複数段配置された複数の収納繰出部であって、それぞれ、鉛直方向に対して所定角度で傾斜しており傾斜姿勢で回転させられる第二の回転円盤と、前記入金搬送部から搬送された硬貨を前記第二の回転円盤の表面との間に収納する第二の硬貨収納空間を形成する第二のカバー部材とを有し、前記第二の硬貨収納空間に収納した硬貨を、前記第二の回転円盤の下部領域から上部領域に拾い上げて、略水平方向のうちの前記筐体の奥行き方向と略直交する幅方向に、出口から1枚ずつ繰り出す複数の収納繰出部と、
第一の出金搬送部と第二の出金搬送部とを有し、前記各収納繰出部から繰り出された硬貨を搬送する出金搬送部であって、前記複数の収納繰出部の前記出口の下方に前記筐体の奥行方向に沿って前記第一の出金搬送部が設けられている出金搬送部と、
前記第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部を経て搬送された硬貨を前記筐体外に投出する硬貨投出口と、
前記幅方向における前記複数の収納繰出部の一方の側の側方に設けられたシュート部と、
前記幅方向における前記複数の収納繰出部の他方の側の側方に設けられた出金空間と、
を備え、
前記入金搬送部から搬送された硬貨は、前記シュート部を通して前記複数の収納繰出部に収納され、
前記複数の収納繰出部の各々から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通過して前記出金搬送部上に落下した後に当該出金搬送部により搬送され、その後、前記出金搬送部を経て前記硬貨投出口から前記筐体外に投出され、
前記貯留繰出装置の前記第一の回転円盤の回転軸と前記各収納操出部の前記第二の回転円盤の回転軸とが略直交しており、
前記貯留繰出装置の前記第一の回転円盤の前記表面が前記筐体の奥行き方向に沿っており、前記各収納繰出部の前記第二の回転円盤の前記表面が前記筐体の奥行き方向に対して傾いている、
ことを特徴とする硬貨入出金機。
【請求項2】
前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記第一の出金搬送部上に自重により落下することを特徴とする請求項1記載の硬貨入出金機。
【請求項3】
前記複数の収納繰出部から繰り出された貨幣は、前記出金空間を通して前記複数の収納繰出部の下方に設けられた前記第一の出金搬送部上に落下した後に当該第一の出金搬送部から前記第二の出金搬送部に搬送され、その後、当該第二の出金搬送部を経て前記硬貨投出口から前記筐体外に投出されることを特徴とする請求項1記載の硬貨入出金機。
【請求項4】
前記出金搬送部の下方に設けられた回収ボックスを備えた請求項3記載の硬貨入出金機であって、
前記第一の出金搬送部が前記筐体の奥行き方向のうちの第一の搬送方向に貨幣を搬送する場合には、当該第一の出金搬送部から搬送された貨幣は前記第二の出金搬送部を経て前記硬貨投出部に搬送されて、前記硬貨投出口から前記筐体外に投出され、
前記第一の出金搬送部が前記第一の搬送方向とは逆方向に貨幣を搬送する場合には、当該第一の出金搬送部から搬送された貨幣は前記回収ボックスに収納される
ことを特徴とする硬貨入出金機。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記複数の収納繰出部は、鉛直方向において3段以上となるよう配置されていることを特徴とする請求項1記載の硬貨入出金機。
【請求項7】
前記複数の収納繰出部は、同一の構成のものからなることを特徴とする請求項1記載の硬貨入出金機。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-03-30 
出願番号 特願2016-137441(P2016-137441)
審決分類 P 1 651・ 536- ZDA (G07D)
P 1 651・ 121- ZDA (G07D)
P 1 651・ 537- ZDA (G07D)
P 1 651・ 112- ZDA (G07D)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 須賀 仁美  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 中川 真一
一ノ瀬 覚
登録日 2018-03-02 
登録番号 特許第6297633号(P6297633)
権利者 グローリー株式会社
発明の名称 硬貨入出金機  
代理人 朝倉 悟  
代理人 永井 浩之  
代理人 高村 雅晴  
代理人 出口 智也  
代理人 高村 雅晴  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 中村 行孝  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 加島 広基  
代理人 加島 広基  
代理人 中村 行孝  
代理人 出口 智也  
代理人 朝倉 悟  
代理人 永井 浩之  

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