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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 H01M 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M |
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管理番号 | 1364005 |
異議申立番号 | 異議2020-700085 |
総通号数 | 248 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-08-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-02-17 |
確定日 | 2020-07-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6564740号発明「負極活物質、負極、リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池の使用方法、負極活物質の製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6564740号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6564740号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?14に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成28年 7月 4日に出願され、令和 1年 8月 2日に特許権の設定登録がされ、同年 8月21日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 2年 2月17日付けで、請求項1?8に対し、特許異議申立人である七滝一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明8」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 負極活物質粒子を含む負極活物質であって、 前記負極活物質粒子は、SiO_(x)(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物を含有し、 前記負極活物質がLi吸蔵を行う際に、前記負極活物質粒子に含まれるSi^(4+)の少なくとも一部が、Si^(y+)(yは0,1,2及び3のいずれかである)の価数状態のうちから選ばれる、少なくとも1種以上の状態に変化し、 前記Si^(y+)のうちのSi^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)は、前記負極活物質がLiを吸蔵した際に、Li化合物の形態で存在するものであることを特徴とする負極活物質。 【請求項2】 前記負極活物質粒子は、前記負極活物質がLi吸蔵脱離を行うことで、Si^(0+)の状態が生成するものであることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。 【請求項3】 前記Si^(0+)は非晶質Siであることを特徴とする請求項2に記載の負極活物質。 【請求項4】 前記負極活物質は、該負極活物質を含む負極と正極活物質を含む正極とを有する第一の二次電池の充放電を100サイクル行った後、前記充放電の後の第一の二次電池を解体し、前記充放電の後の負極と、金属Liからなる対極とを有する第二の二次電池を作製し、前記第二の二次電池の開回路電位を2.0Vとした後に、該第二の二次電池から前記負極を取り出し、該負極のXANES測定を行ったとき、前記XANES測定から得られるXANESスペクトルにおいてエネルギー1841eVを超えて1845eV以下の範囲に少なくとも1種以上のショルダーピークを有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の負極活物質。 【請求項5】 前記負極活物質粒子は、前記負極活物質がLi吸蔵脱離を繰り返すとき、前記Si^(4+)と、前記Si^(y+)のうちのSi^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)とが可逆に変化するものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極活物質。 【請求項6】 前記負極活物質粒子のメジアン径は0.5μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の負極活物質。【請求項7】 前記負極活物質粒子は、表層部に炭素材を含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の負極活物質。 【請求項8】 前記炭素材の平均厚さは5nm以上5000nm以下であることを特徴とする請求項7に記載の負極活物質。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、いずれも本願の出願日前に頒布された刊行物である、下記甲第1?3号証を提出して、以下の申立理由1、2により、請求項1?8に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 申立理由1(新規性欠如) 本件発明1?2、4?5は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(新規性欠如) 本件発明1、6は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(進歩性欠如) 本件発明3?7は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。 4 申立理由4(進歩性欠如) 本件発明6?8は、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。 5 申立理由5(進歩性欠如) 本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2016-42487号公報 甲第2号証:特開2015-156355号公報 甲第3号証:Masayuki Yamada 外5名、“Reaction Mechanism of “SiO”-Carbon Composite-Negative Electrode for High-Capacity Lithium-Ion Batteries”、Journal of The Electrochemical Society、2012、159(10)、A1630-A1635 (以下、甲第1号証?甲第3号証を、それぞれ「甲1」?「甲3」ということがある。) 第4 甲号証の記載 1 甲第1号証 (1)甲第1号証の記載 ア 甲1には、以下の記載がある。(なお、下線は当審が付与し、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。 1ア 「【技術分野】 【0001】 本技術は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含むリチウムイオン二次電池用負極、その負極を用いたリチウムイオン二次電池、ならびにその二次電池を用いた電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器に関する。」 1イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0012】 電子機器などは益々高性能化および多機能化しており、その使用頻度も増加しているため、リチウムイオン二次電池は頻繁に充放電される傾向にある。そこで、リチウムイオン二次電池の電池特性についてより一層の向上が望まれている。 【0013】 本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた電池特性を得ることが可能なリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器を提供することにある。」 1ウ 「【課題を解決するための手段】 【0014】 本技術のリチウムイオン二次電池用負極は、活物質を含むものである。この活物質は、SiおよびOと、Li、C、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ge、Zr、Mo、Ag、Sn、Ba、W、Ta、NaおよびKのうちの少なくとも1種の元素M1とを構成元素として含む。Siに対するOの原子比x(O/Si)は、0.5≦x≦1.8である。Siのうちの少なくとも一部は、Oのうちの少なくとも一部と化合物を形成していると共に、Si原子のO原子に対する結合状態(価数)は、0価(Si^(0+))、1価(Si^(1+))、2価(Si^(2+))、3価(Si^(3+))および4価(Si^(4+))を含む。Si原子のO原子に対する結合状態の存在比(原子比)は、Si^(4+)<Si^(0+)+Si^(1+)+Si^(2+)+Si^(3+)、Si^(4+)>Si^(0+)、Si^(4+)≧Si^(1+)およびSi^(4+)≧Si^(2+)の関係を満たすと共に、Si^(1+)の存在比は、10原子%未満である。…」 1エ 「【0024】 [負極活物質層] 負極活物質層2は、リチウムイオンを吸蔵放出可能である複数の粒子状の負極活物質を含んでおり、必要に応じて、さらに負極結着剤または負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。 【0025】 負極活物質は、SiおよびOと共に、そのSiと合金を形成可能である元素M1を構成元素として含んでいる。この元素M2(当審注:「M1」の誤記と認められる。)は、Li、C、Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ge、Zr、Mo、Ag、Sn、Ba、W、Ta、NaおよびKのうちの少なくとも1種である。ただし、Siに対するOの原子比x(O/Si)は、0.5≦x≦1.8である。 【0026】 原子比xが上記した範囲内であるのは、その範囲外である場合(y<0.5またはy>1.8)と比較して、充放電を繰り返した場合における負極活物質の劣化が抑制されるからである。これにより、負極活物質におけるリチウムイオンの出入りが確保される。 【0027】 また、負極活物質がM1を含んでいるのは、原子比xが上記した範囲内であると、その負極活物質中にSiとOとM1との化合物(Si-M1-O)が形成されやすくなるからである。すなわち、SiO_(2 )は、一般に、サイクル特性などを向上させる一方で、不可逆容量の増大に起因して電池容量を低下させる傾向にあるが、Si-M1-Oが形成されると、不可逆容量が減少するからである。これにより、不可逆容量が減少すると共に、負極活物質の電気抵抗が低下する。 【0028】 なお、負極活物質中では、M1のうちの少なくとも一部がSi-M1-Oを形成していればよい。この場合でも、上記した利点が得られるからである。残りのM1は、遊離の単体として存在していてもよいし、Siと合金を形成していたり、Oと化合物を形成していてもよいし、それらの2種類以上が混在していてもよい。 【0029】 詳細には、Siのうちの少なくとも一部とOのうちの少なくとも一部とが結合されている場合には、Si原子のO原子に対する結合状態(価数)は、0価(Si^(0+))、1価(Si^(1+))、2価(Si^(2+))、3価(Si^(3+))および4価(Si^(4+))を含む。各結合状態にあるSi原子の有無およびそれらの存在比(原子比)については、例えば、XPSにより負極活物質を分析することで確認できる。なお、負極活物質の最表層が意図せずに酸化されている(SiO_(2 )が形成されている)場合には、HFなどでSiO_(2 )を溶解除去してから分析することが好ましい。 【0030】 負極活物質中にSi-M1-Oが形成される場合には、0価?4価の結合状態のうち、充放電時に不可逆容量を生じやすいと共に高抵抗である4価の存在比が相対的に減少すると共に、それとは反対の傾向を有する0価の存在比が相対的に増加する。これにより、負極活物質がSiO_(x )でも不可逆容量が生じにくくなる。 【0031】 これに伴い、Si原子のO原子に対する結合状態の存在比は、Si^(4+)<Si^(0+)+Si^(1+)+Si^(2+)+Si^(3+)の関係を満たしていることが好ましい。4価の存在比が少ないと、上記したように、不可逆容量が減少するからである。また、存在比は、Si^(4+)>Si^(0+)、Si^(4+)≧Si^(1+)およびSi^(4+)≧Si^(2+)の関係を満たしていることが好ましい。4価の存在比が少なすぎると、かえってサイクル特性が低下するからである。さらに、Si^(1+)の存在比は、10原子%未満であることが好ましい。1価の存在比が多すぎると、サイクル特性が低下するからである。 【0032】 中でも、M1は、C、Al、Fe、Co、NiおよびSnのうちの少なくとも1種であることが好ましいと共に、原子比xは、0.7≦x≦1.3であることが好ましく、y=1.2であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。 【0033】 SiおよびOに対するM1の割合(M1/(Si+O))は、特に限定されないが、中でも、50原子%以下であることが好ましく、20原子%以下であることがより好ましい。M1の存在に起因する電池容量の低下を抑えつつ、上記した利点が得られるからである。 【0034】 この負極活物質は、結晶性でもよいし、非結晶性(非晶質)でもよいし、低結晶性でもよいが、中でも、非結晶性または低結晶性であることが好ましい。結晶性(高結晶性)である場合と比較して、リチウムイオンが拡散されやすいため、そのリチウムイオンが円滑に吸蔵放出されやすいからである。さらに、負極活物質は、非結晶性であることが好ましい。負極活物質がリチウムイオンをトラップしにくくなるため、そのリチウムイオンの出入りが阻害されにくくなるからである。」 1オ 「【0038】 特に、負極活物質は、未充電状態でLiを構成元素として含んでいてもよい。負極活物質の電気抵抗が低下するからである。このLiは、未充電状態で既に負極活物質に含まれていることから、例えば、充電時に正極から放出されると共に負極に吸蔵されたLiではなく、あらかじめ負極活物質中に含有されていたものである。 【0039】 この場合でも、Liは、SiおよびOとは結合せずに単独(単体)で存在していてもよいし、SiまたはOと化合物または合金を形成していてもよい。中でも、Liのうちの少なくとも一部は、SiおよびOのうちの少なくとも一方と化合物を形成していることが好ましい。これに伴い、負極活物質は、Si-Li-Oを含んでいることが好ましい。不可逆容量が減少するからである。」 1カ 「【0042】 負極活物質のメジアン径は、特に限定されないが、中でも、0.3μm?20μmであることが好ましい。充放電時に負極活物質がリチウムイオンを吸蔵放出しやすくなると共に、その負極活物質が割れにくくなるからである。詳細には、メジアン径が0.3μmよりも小さいと、負極活物質の総表面積が大きくなりすぎるため、充放電時に膨張収縮しやすくなる可能性がある。一方、メジアン径が20μmよりも大きいと、充放電時に負極活物質が割れやすくなる可能性がある。 【0043】 特に、負極は、負極活物質の表面に導電層を含んでいることが好ましい。この導電層は、負極活物質の表面のうちの少なくとも一部に設けられていると共に、負極活物質よりも低い電気抵抗を有している。負極活物質が電解液と接触しにくくなるため、その電解液の分解反応が抑制されるからである。また、負極活物質の電気抵抗がより低下するからである。この導電層は、例えば、炭素材料、金属材料または無機化合物などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。炭素材料は、例えば、黒鉛などである。金属材料は、例えば、Fe、CuまたはAlなどである。無機化合物は、例えば、SiO_(2 )などである。中でも、炭素材料または金属材料が好ましく、炭素材料がより好ましい。負極活物質の電気抵抗がより低下するからである。」 1キ 「【0052】 [負極の製造方法] この負極は、例えば、以下の手順により製造される。 【0053】 まず、蒸着法またはスパッタ法などの気相成長法を用いて、基盤の表面に負極活物質の形成材料を堆積させる。この場合には、原材料として、Si、OおよびM1をあらかじめ含む材料を用いてもよいし、SiおよびOを含む材料(SiO_(x )など)とM1の単体とを用いてもよい。後者の場合には、M1の堆積速度に応じて、そのM1の割合を調整できる。この気相成長法を用いることで、負極活物質が非結晶性になりやすい傾向にある。この場合には、誘導加熱、抵抗加熱または電子ビーム(EB)加熱などにより加熱しながら堆積させてもよいし、堆積させたのちに加熱してもよい。低結晶性の程度は、例えば、加熱時の温度および時間などの条件に応じて制御される。 【0054】 特に、気相成長法を用いる場合には、負極活物質の形成材料を加熱させるだけでなく、成膜用の基盤も加熱することで、その膜中にSi-M1-Oを形成しやすくなる。この基盤温度は、例えば、25℃?800℃であることが好ましい。800℃を越えると、SiO_(x )などが再蒸発してしまうからである。なお、負極活物質の形成材料を堆積させる場合には、チャンバ内に導入するO_(2 )ガスおよびH_(2 )ガスなどの導入量を調整することで、原子比xを調整できる。また、基盤温度または負極活物質の形成材料の温度を調整することで、Si原子のO原子に対する結合状態の存在比を制御できる。こののち、堆積膜を粉砕して負極活物質を得る。この場合には、所望の粒度(メジアン径など)の負極活物質が得られるまで粉砕を繰り返してもよい。 【0055】 なお、負極活物質を得たのち、蒸着法、スパッタ法または化学蒸着(CVD)法などの気相成長法、または湿式コート法などを用いて、負極活物質の表面に導電層を形成してもよい。」 1ク 「【実施例】 【0162】 本技術の実施例について、詳細に説明する。 【0163】 (実施例1-1?1-10) 以下の手順により、図7および図8に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。 【0164】 最初に、正極53を作製した。… 【0165】 次に、負極54を作製した。最初に、蒸着法を用いて基盤の上に負極活物質の形成材料を堆積させたのち、その堆積膜を粉砕して負極活物質を得た。この場合には、偏向式電子ビーム蒸着源を用いると共に、原材料であるSiO_(x )粉および金属粉M1(Ni)を共蒸着させた。また、原材料の堆積時にO_(2 )またはH_(2 )の導入量を調整して組成(原子比x)を制御すると共に、投入電力を調整してM1の割合(M1/(Si+O))を制御した。また、堆積速度および基盤温度を調整して、負極活物質中における化合物状態を制御すると共に、基盤温度を調整して、Si原子のO原子に対する結合状態の存在比(原子比)を制御した。この化合物状態の有無とは、負極活物質中におけるSiM1Oの有無であり、ここではSiNiOの有無を意味している。詳細な条件は、表1に示した通りであり、その他の条件は、負極活物質のメジアン径=5μm、ターボ分子ポンプを用いて圧力=1×10^(-3)Paの真空状態とした。 【0166】 なお、表1以降に示した価数条件は、以下の通りである。条件1は、存在比がSi^(4+)<Si^(0+)+Si^(1+)+Si^(2+)+Si^(3+)の関係を満たすこと、条件2は、存在比がSi^(4+)>Si^(0+)、Si^(4+)≧Si^(1+)およびSi^(4+)≧Si^(2+)の関係を満たすこと、条件3は、Si^(1+)の存在比が10原子%未満であることである。「○」および「×」は、それぞれ上記した各条件を満たすか否かを表している。」 1ケ 「【0170】 二次電池のサイクル特性、初回充放電特性および負荷特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。 【0171】 サイクル特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために23℃の雰囲気中で1サイクル充放電したのち、再び充放電して放電容量を測定した。続いて、サイクル数の総数が100サイクルになるまで充放電して放電容量を測定した。最後に、サイクル維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。充電時には、3mA/cm^(2 )の定電流密度で電圧が4.2Vに達するまで充電したのち、4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm^(2 )に達するまで充電した。放電時には、3mA/cm^(2 )の定電流密度で電圧が2.5Vに達するまで放電した。 【0172】 初回充放電特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために1サイクル充放電した。続いて、再び充電して充電容量を測定したのち、放電して放電容量を測定した。最後に、初回効率(%)=(放電容量/充電容量)×100を算出した。雰囲気温度および充放電条件は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。 【0173】 負荷特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために1サイクル充放電した。続いて、2サイクル目の充電および放電を行って充電容量を測定したのち、3サイクル目の放電および放電を行って放電容量を測定した。最後に、負荷維持率(%)=(3サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。2サイクル目の放電時の電流密度を0.2mA/cm^(2)とし、3サイクル目の放電時の電流密度を1mA/cm^(2 )に変更したことを除き、雰囲気温度および充放電条件はサイクル特性を調べた場合と同様にした。」 1コ 「【0182】 (実験例3-1?3-12) 表6に示したように、負極活物質にLiを含有させたことを除き、実験例1-1?1-8等と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、SiO_(y )粉と共蒸着させるために他の金属粉M1(Li)を用いた。ここで用いている負極活物質は、未充電状態でLiを含んでいる。 【0183】 【0184】 M1がLiを含んでいても、高いサイクル維持率、初回効率および負荷維持率が得られた。また、負極活物質がSiM1O(SiLiO)を含んでいると、初期効率がより増加した。」 (2)甲第1号証に記載された事項 ア 上記1エによれば、甲1の負極活物質は、SiおよびOと共に、そのSiと合金を形成可能である元素M1(具体的にはLi)を構成元素として含むものであり、Siに対するOの原子比x(O/Si)を「0.5≦x≦1.8」とすることにより、充放電を繰り返した場合における当該負極活物質の劣化が抑制される(【0025】【0026】)。 これは、SiO_(2 )は、一般に、サイクル特性などを向上させる一方で、不可逆容量の増大に起因して電池容量を低下させる傾向にあるが、甲1の負極活物質は、原子比xが上記した範囲内であると、その負極活物質中にSiとOとM1との化合物(Si-M1-O)が形成されやすくなり、Si-M1-Oが形成されると、不可逆容量が減少するからである(【0027】)。 イ また、上記1エによれば、甲1の負極活物質は、Siのうちの少なくとも一部とOのうちの少なくとも一部とが結合されている場合には、Si原子のO原子に対する結合状態(価数)は、0価(Si^(0+))、1価(Si^(1+))、2価(Si^(2+))、3価(Si^(3+))および4価(Si^(4+))を含んでおり(【0029】)、負極活物質中にSi-M1-Oが形成される場合には、0価?4価の結合状態のうち、充放電時に不可逆容量を生じやすいと共に高抵抗である4価の存在比が相対的に減少すると共に、それとは反対の傾向を有する0価の存在比が相対的に増加する(【0030】)。 ウ 上記1キによれば、甲1の負極活物質は、SiおよびOを含む材料(SiO_(x )など)とM1の単体を原材料として用い、蒸着法またはスパッタ法などの気相成長法を用いて、基盤の表面に負極活物質の形成材料を堆積させることによって製造することができる(【0053】)。 エ 上記1クには、金属元素M1がNiである場合の負極活物質の製造方法が、実験例1-1?1-10として記載されており、その製造方法とは、偏向式電子ビーム蒸着源を用いて、原材料であるSiO_(x )粉および金属粉M1(Ni)を共蒸着させて、基盤の上に負極活物質の形成材料を堆積させたのち、その堆積膜を粉砕して負極活物質を得るというものである(【0165】)。ここで、負極活物質は粉砕することによって、メジアン径が5μmとなっているので(【0165】)、当該負極活物質は粒状であることが理解される。 また、原材料の堆積時にO_(2 )またはH_(2 )の導入量を調整することにより組成(原子比x)を制御し、投入電力を調整することによりM1の割合(M1/(Si+O))を制御し、堆積速度および基盤温度を調整することにより、負極活物質中における化合物状態、すなわちSiM1O(SiNiO)の存在の有無を制御し、基盤温度を調整して、Si原子のO原子に対する結合状態の存在比(原子比)を制御している(【0165】)。 オ 上記1コには、金属粉M1がLiである場合の負極活物質の製造方法が、実験例3-1?3-12として記載されており、その製造方法は、金属粉M1がLiであること以外は実験例1-1?1-8と同様の手順であるとされている。したがって、実験例3-1?3-12の製造方法とは、上記エを参照すれば、偏向式電子ビーム蒸着源を用いて、原材料であるSiO_(x )粉および金属粉M1(Li)を共蒸着させて、基盤の上に負極活物質の形成材料を堆積させたのち、その堆積膜を粉砕して負極活物質を得るというものとなる。そして、この負極活物質は粉砕されているから、実験例1-1?1-10と同様に、粒状となっているものと認められる。 また、金属粉M1がNiである場合と同様に、原材料の堆積時にO_(2 )またはH_(2 )の導入量を調整することにより組成(原子比x)を制御し、投入電力を調整することによりM1の割合(M1/(Si+O))を制御し、堆積速度および基盤温度を調整することにより、負極活物質中における化合物状態、すなわちSiM1O(SiLiO)の存在の有無を制御し、基盤温度を調整して、Si原子のO原子に対する結合状態の存在比(原子比)を制御しているものと認められる。 また、金属粉M1がLiの場合には、上記イに記載した段落【0030】を参照すると、負極活物質中にSiLiOが形成されている場合には、充放電時に不可逆容量を生じやすいと共に高抵抗である4価の存在比が相対的に減少していると共に、それとは反対の傾向を有する0価の存在比が相対的に増加しているものと認められる。 カ 上記オの方法によって得られた、金属元素M1としてLiを含む負極活物質を用いて作製された二次電池の特性が、上記1コの表6に記載されており、特に実験例3-1?3-5に注目すると、これらは、SiO_(x )粉(X=1.2)及び、原材料中の割合を1?40原子%で変化させたLi金属粉を原材料として製造されたものであって、SiM1O(すなわちSiLiO)の化合物状態を有しているものである。また、これら実験例は、価数条件1、2、3(【0166】参照)を満たしているので、いずれも、Siのうちの少なくとも一部とOのうちの少なくとも一部とが結合されており、Si原子のO原子に対する結合状態(価数)が、0価(Si^(0+))、1価(Si^(1+))、2価(Si^(2+))、3価(Si^(3+))および4価(Si^(4+))であるものを含んでいると認められる。 キ 実験例3-1?3-5についての、オとカの検討結果を総合すると、甲1には、次の二次電池用負極活物質が記載されているものと認められる。 「SiO_(x )粉(X=1.2)及び、原材料中の割合を1?40原子%で変化させたLi金属粉を原材料とし、偏向式電子ビーム蒸着源を用いて、上記原材料を共蒸着させ、基盤の上に負極活物質の形成材料を堆積させたのち、その堆積膜を粉砕して得られた粒状の負極活物質であって、 Siのうちの少なくとも一部とOのうちの少なくとも一部とが結合されており、Si原子のO原子に対する結合状態(価数)が、0価(Si^(0+))、1価(Si^(1+))、2価(Si^(2+))、3価(Si^(3+))および4価(Si^(4+))であるものを含んでいるものであり、 SiLiOの化合物状態を有しており、 負極活物質中に上記SiLiOが形成されていることによって、充放電時に不可逆容量を生じやすいと共に高抵抗である4価(Si^(4+))の存在比が相対的に減少していると共に、それとは反対の傾向を有する0価(Si^(0+))の存在比が相対的に増加している、 負極活物質。」(以下、「甲1発明」という。) 2 甲第2号証 (1)甲第2号証の記載 ア 甲2には、以下の記載がある。 2ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質、この負極活物質を含む負極活物質材料、この負極活物質材料で形成した負極活物質層を有する負極電極、並びに、この負極電極を用いたリチウムイオン二次電池に関する。」 2イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0011】 上述したように、近年、電子機器に代表される小型のモバイル機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。 この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。 また、ケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれている。 しかしながら、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極活物質を提案するには至っていなかった。 【0012】 本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、電池容量の増加、サイクル特性及び初期充放電特性を向上させることが可能な負極活物質、この負極活物質を含む負極活物質材料、この負極活物質材料で形成した負極活物質層を有する負極電極、及び、この負極電極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。」 2ウ 「【課題を解決するための手段】 【0013】 上記目的を達成するために、本発明は、負極活物質粒子を含む負極活物質であって、前記負極活物質粒子は、SiO_(x)(0.5≦x≦1.6)からなるケイ素系材料を含有し、前記ケイ素系材料において、29Si-MAS-NMR spectrumから得られる、ケミカルシフト値として-50?-95ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと、ケミカルシフト値として-96?-150ppmで与えられるSiO_(2)領域のピーク値強度値Bが、A/B≧0.8という関係を満たすものであることを特徴とする負極活物質を提供する。 【0014】 このように、ケイ素系材料として、上記の組成比、及び、上記のピーク値強度値比を有するものを用いることで、このケイ素系材料を含有する負極活物質粒子を含む負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、高い電池容量を有するとともに、良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる。 … 【0017】 前記負極活物質粒子は、29Si-MAS-NMR spectrumから得られる、ケミカルシフト値として-50?-95ppmで与えられるピーク範囲内に少なくともLi_(2)SiO_(3)、Li_(4)SiO_(4)のうち1つ以上に対応するピークを含むことが好ましい。 負極活物質粒子に上記のようなリチウムシリケートを好適に含有させることができる。 【0018】 前記負極活物質粒子は、29Si-MAS-NMR spectrumから得られる、ケミカルシフト値として-50?-95ppmで与えられるピーク範囲内にメタルSiに対応するピークを含むことが好ましい。 負極活物質粒子に上記のようなメタルSiの状態のものを好適に含有させることができる。 【0019】 前記負極活物質粒子は、Li_(2)SiO_(3)、Li_(4)SiO_(4)、Li_(2)O、及び、Li_(2)CO_(3)のうち少なくとも1種以上を含むことが好ましい。 このような構成の負極活物質粒子を好適に用いることができる。」 2エ 「【0027】 前記負極活物質粒子のメジアン径は0.5μm以上、20μm以下であることが好ましい。 負極活物質粒子のメジアン径が上記の範囲内にあることで、このような負極活物質粒子を含む負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、より良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる。 【0028】 前記負極活物質粒子は、表層部に炭素材を含むことが好ましい。 このように、負極活物質粒子がその表層部に炭素材を含むことで、導電性の向上が得られるため、このような負極活物質粒子を含む負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、このような負極活物質粒子を含む負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、電池特性を向上させることができる。 【0029】 前記被覆する炭素材の平均厚さは1nm以上、5000nm以下であることが好ましい。 被覆する炭素材の平均厚さが1nm以上であれば導電性向上が得られ、被覆する炭素材の平均厚さが5000nm以下であれば、このような負極活物質粒子を含む負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、電池容量の低下を抑制することができる。」 2オ 「【0057】 [負極活物質層] 負極活物質層11は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な複数の粒子状負極活物質(以下、負極活物質粒子と称する)を含んでおり、電池設計上の観点から、さらに、負極結着剤(バインダ)や導電助剤など他の材料を含んでいてもよい。 【0058】 負極活物質粒子は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能なコア部と、導電性が得られる炭素被覆部と、電解液の分解反応抑制効果があるフッ素化合物部とからなり、図4に示すTEM-EDX写真により確認される。この場合、炭素被覆部の少なくとも一部でリチウムイオンの吸蔵、放出が行われてもよい。また、フッ素化合物部は、負極活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。この場合、被覆部はアイランド状、膜状、凹凸を有する形状のいずれでも効果がある。 【0059】 負極活物質粒子は、ケイ素系材料(SiO_(x):0.5≦x≦1.6)を含有する酸化ケイ素材であり、ケイ素系材料の組成としてはxが1に近い方が好ましい。なぜならば、高いサイクル特性が得られるからである。 なお、本発明におけるケイ素材組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいてもよい。 【0060】 ケイ素系材料は、29Si-MAS-NMR spectumから得られるケミカルシフト値として-50?-95ppmで与えられるSi領域のピーク強度値Aと、ケミカルシフト値として-96?-150ppmで与えられるSiO_(2)領域のピーク強度値Bが、A/B≧0.8という関係を満たす場合、安定した電池特性を得ることができる。 ここで、ピーク強度値とは、ピーク値におけるピーク高さを意味する。また、ピークが複数ある場合は、ピーク強度値は複数のピーク高さの和で求めることができる。 なお、29Si-MAS-NMR spectumの測定において、装置としてBruker社製700NMR分光器を用い、プローブとして4mmHR-MASローター 50μLを用い、試料回転速度は10kHzとし、測定環境温度は25℃とした。 【0061】 ピーク強度値比が上記の範囲では、ケイ素酸化物内に生成するSiO_(2)成分の一部をLi化合物へ選択的に変更することができる。 その中でも、Li_(4)SiO_(4)、Li_(2)SiO_(3)、Li_(2)O、Li_(2)CO_(3)は特に良い特性を示す。 選択的化合物(Li化合物)の作製方法としては、電気化学法を用いることが好ましい。 リチウム対極に対する電位規制、又は、電流規制などの条件を変更することで、選択的化合物の作製が可能となる。 また、選択的化合物は一部電気化学法により生成した後に、炭酸雰囲気下、又は、または酸素雰囲気下などで乾燥させることでより緻密な物質を得られる。 Li化合物はNMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)又はXPS(X-ray photoelectron spectroscopyX線光電子分光)で定量可能である。 なお、XPSでのLi化合物の定量において、装置としてX線光電子分光装置を用い、X線源として単色化AlKα線を用い、X線スポット径を100μmφとし、Arイオン銃スパッタ条件を0.5kV/2mm×2mmとした。」 2カ 「【0074】 [負極の製造方法] 負極10は、例えば、以下の手順により製造される。 先ず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下、減圧下で900℃?1600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。このとき、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合であり、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。 次に、発生したガスは吸着板上で固体化され、堆積される。 次に、反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。 なお、粒子中のSi結晶子は、気化温度の変更、又は、生成後の熱処理で制御される。 また、発生した酸化ケイ素ガスを直接銅箔に堆積させることで、蒸着SiO膜を形成してもよい。 【0075】 次に、得られた酸化ケイ素粉末材料の表層に好ましくは炭素層を生成する。炭素材の層を生成する方法としては、熱分解CVD法が望ましい。 熱分解CVD法で炭素材の層を生成する方法について説明する。 先ず、酸化ケイ素粉末を炉内にセットする。 次に、炉内に炭化水素ガスを導入し、炉内温度を昇温させる。 分解温度は特に限定しないが、1200℃以下が望ましく、より望ましいのは950℃以下である。分解温度を1200℃以下にすることで、活物質粒子の不均化を抑制することができる。 所定の温度まで炉内温度を昇温させた後に、酸化ケイ素粉末に炭素層を生成する。 また、炭化水素ガスは特に限定しないが、C_(n)H_(m)組成においてn≦3であることが望ましい。n≦3であれは、製造コストを低くでき、また、分解生成物の物性を良好にすることができる。 【0076】 次に、酸化ケイ素粉末にバルク内改質を施す。 バルク内改質は電気化学的にLiを挿入し得ることが望ましい。この時、挿入電位、脱離電位の調整や電流密度、浴槽温度、挿入脱離回数を変化させることでバルク内生成物質を制御することができる。 特に装置構造を限定しないが、例えば、図5に示すバルク内改質装置20を用いて、バルク内改質を行うことができる。 バルク内改質装置20は、有機溶媒23で満たされた浴槽27と、浴槽27内に配置され、電源26の一方に接続された陽電極(リチウム源)21と、浴槽27内に配置され、電源26の他方に接続された粉末格納容器25と、陽電極21と粉末格納容器25との間に設けられたセパレータ24とを有している。 … 【0084】 上述した負極によれば、負極活物質粒子のバルク内に存在するSiO_(2)成分を安定したLi化合物へ変化させることで、電池初期効率の向上やサイクル特性に伴う活物質の安定性が向上する。 【0085】 特に、29Si-MAS-NMR spectumから得られるSi領域のピーク強度値Aと、SiO_(2)領域のピーク強度値Bが、A/B≧0.8という関係を満たす必要があり、その場合、バルク内部またはその表層にLiシリケート及び炭酸リチウムが生成されるとより高い効果を得ることができる。 【0086】 また、炭素材で負極活物質粒子を被覆する事でバルク内部の化合物状態をより均一化にすることができ、また、フッ化物が負極活物質粒子の表層に存在することで活物質としての安定性が向上し、より高い効果を得ることができる。」 2キ 「【実施例】 【0114】 以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 【0115】 (実施例1-1?実施例1-5) 以下の手順により、図3に示したラミネートフィルム型リチウム二次電池30を作製した。 【0116】 最初に正極を作製した。… 【0117】 次に負極を作製した。負極活物質は金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。 粒径を調整した後、必要に応じて熱分解CVDを行うことで炭素層で被覆した。 作製した粉末は、バルク内改質装置20を用いて、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートの1:1混合溶媒(電解質塩を1.3mol/Kg含んでいる)中で電気化学法を用いバルク内改質を行った。 得られた材料は必要に応じて炭酸雰囲気下で乾燥処理を行った。 続いて、負極活物質粒子と負極結着剤の前駆体、導電助剤1と導電助剤2とを80:8:10:2の乾燥重量比で混合した後、NMPで希釈してペースト状の負極合剤スラリーとした。この場合には、ポリアミック酸の溶媒としてNMPを用いた。 続いて、コーティング装置で負極集電体の両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。この負極集電体としては、電解銅箔(厚さ=15μm)を用いた。 最後に、真空雰囲気中で400℃1時間焼成した。これにより、負極結着剤(ポリイミド)が形成された。」 2ク 「【0120】 ここで、実施例1-1?実施例1-5において、SiO_(x)のxは0.9に固定し、バルク内に生成するSi/SiO_(2)成分を変化させ、Si領域のピーク値強度値AとSiO_(2)領域のピーク値強度値Bの比:A(Si)/B(SiO_(2))を変化させた。実施例1-1、実施例1-2、実施例1-3、実施例1-4、実施例1-5のA(Si)/B(SiO_(2))は、それぞれ、0.8、1、1.5、2、3であった。 また、負極活物質粒子のメジアン径は4μmであり、負極活物質のX線回折により得られる(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は1.22°であり、負極活物質のSi(111)結晶子は7.21nmであり、負極活物質粒子に含まれるリチウム化合物は、非晶質のLi_(4)SiO_(4)であった。」 2ケ 「【0125】 比較例1-1?比較例1-4、実施例1-1?実施例1-5の測定結果を表1に示す。 【0126】 【表1】 【0127】 表1からわかるように、29Si-MAS-NMR spectrumから得られるSiO_(2)領域のピーク値Bが小さくなるとともに、共に高い電池特性が得られた。 A(Si)/B(SiO_(2))を0.8以上とすることで、Li反応サイトであるSiO_(2)部を予め低減でき、それにより、電池初期効率が向上するとともに、安定したLi化合物がバルク内、または表面に存在することで充放電に伴う電池劣化を抑制することができる。」 (2)甲第2号証に記載された事項 ア 上記2ウ、2オによれば、甲2の負極活物質粒子は、SiO_(x)(0.5≦x≦1.6)からなるケイ素系材料を含有し、前記ケイ素系材料において、29Si-MAS-NMR spectrumから得られる、ケミカルシフト値として-50?-95ppmで与えられるSi領域のピーク値強度値Aと、ケミカルシフト値として-96?-150ppmで与えられるSiO_(2)領域のピーク値強度値Bが、A/B≧0.8という関係を満たすものである(【0013】、【0059】、【0060】)。 イ 上記2ウ、2オによれば、甲2の負極活物質粒子は、ケミカルシフト値として-50?-95ppmで与えられるピーク範囲内に、メタルSiに対応するピークと、少なくともLi_(2)SiO_(3)、Li_(4)SiO_(4)のうち1つ以上に対応するピークを含むことが好ましいものである(【0017】、【0018】)。そして、上記Li_(2)SiO_(3)、Li_(4)SiO_(4)は、電気化学法を用いることによって、SiO_(2)成分の一部をLi化合物へ選択的に変更したものである(【0061】)。 ウ 上記2オによれば、甲2の負極活物質粒子は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能なコア部と、導電性が得られる炭素被覆部と、電解液の分解反応抑制効果があるフッ素化合物部とからなるものである(【0058】)。 エ 上記2カには、甲2の負極活物質粒子の製造方法が記載されている。 まず、金属珪素粉末と二酸化珪素粉末とを混合した原料を、不活性ガスの存在下、減圧下で900℃?1600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。このとき、上記原料の混合モル比は、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。そして、発生したガスは吸着板上で固体化され、堆積され、当該堆積物を取出し、粉砕、粉末化を行う(【0074】)。 次に、得られた酸化ケイ素粉末材料の表層に、熱分解CVD法によって、炭素層を生成する(【0075】)。 次に、図5に示すバルク内改質装置20を用いて、上記酸化ケイ素粉末にバルク内改質を行う(【0076】)。この改質は、負極活物質粒子のバルク内に存在するSiO_(2)成分を、安定したLi化合物、すなわち、上記イに記載したLi_(2)SiO_(3)、Li_(4)SiO_(4)のようなLiシリケートへ変化させることで、電池初期効率を向上させ、サイクル特性に伴う活物質の安定性が向上させるものであり(【0084】、【0085】)、また上記安定したLi化合物は、Li反応サイトであるSiO_(2)成分を低減し、バルク内、または表面に存在することで充放電に伴う電池劣化を抑制することができるものである(【0127】)。 オ 上記2キには、実施例1-1?1-5(以下、まとめて「実施例1」という。)の負極活物質粒子の製造方法が、上記2クには当該製造方法によって製造された負極活物質粒子が記載されている。 上記2キによれば、金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出し、ボールミルで粉砕し、粒径を調整した後、熱分解CVDを行うことで炭素層で被覆した。そして、当該作製した粉末を、バルク内改質装置20を用いて、電解質塩を1.3mol/Kg含有させたプロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートの1:1混合溶媒中で電気化学法を用いバルク内改質を行った(【0117】)。 カ 上記オの製造方法によって製造された実施例1の負極活物質粒子は、「SiO_(x)のxは0.9に固定し」との記載(【0120】)と、上記アの検討を踏まえると、SiO_(x)(x=0.9)からなるケイ素系材料を含有するものであるといえる。 キ また、同実施例1の負極活物質粒子は、「メジアン径は4μmであり」、「Si(111)結晶子は7.21nmであり、負極活物質粒子に含まれるリチウム化合物は、非晶質のLi_(4)SiO_(4)であった」ものであるところ(【0120】)、Si(111)結晶子とはシリコンの微細な単結晶のことであるから、メタルSiを含むものである。また、非晶質のLi_(4)SiO_(4)は、上記イ、エの検討を踏まえると、バルク内改質によって、SiO_(2)成分の一部が選択的に変更したシリケートである。 ク また、同実施例1の負極活物質粒子は、その表層が、熱分解CVD法によって生成された炭素層で被覆されているものである。 ケ 実験例1についての、オ?ク検討結果を総合すると、甲2には、次の負極活物質粒子が記載されているものと認められる。 「金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積し、冷却して堆積物を取出し、ボールミルで粉砕し、粒径を調整した後、熱分解CVDを行って炭素層で被覆し、当該作製した粉末を、バルク内改質装置20を用いて、電解質塩を1.3mol/Kg含有させたプロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートの1:1混合溶媒中で電気化学法を用いたバルク内改質を行うことによって得られた、負極活物質粒子であって、 前記負極活物質粒子は、 SiO_(x)(x=0.9)からなるケイ素系材料を含有し、 メタルシリコンを含有し、 メジアン径が4μmであり、 上記バルク内改質によってSiO_(2)成分の一部が選択的に変更して得られた、非晶質のLi_(4)SiO_(4)を含有し、 表層が熱分解CVD法によって生成された炭素層で被覆されている、 負極活物質粒子。」(以下、「甲2発明」という。) 3 甲第3号証 (1)甲第3号証の記載 ア 甲3には、以下の記載がある。 3ア 「The “SiO”powder was prepared by a thermal evaporation method from an equi-molar mixture of Si and SiO_(2) as was described in a previous paper. Li_(2)SiO_(3)(99.5%purity, Sonekawa-Rikagaku,Japan)and Li_(4)SiO_(4)(99.9%, Alfa-Aesar)were identified by XRD and used as received. In order to understand how“SiO”consisting of Si and SiO_(2) reversibly acts as an active material in the “SiO”-carbon composite electrode, carbon-coated “SiO”was prepared by mechanical grinding of “SiO”and carbon coating by a thermal vapor deposition of methane under an argon stream at about 1000℃. 」 (当審訳:以前の論文で記載したように、“SiO”粉末が、等モルのSiとSiO_(2)との混合物から、熱蒸着法によって作成された。Li_(2)SiO_(3)(純度99.5%、日本のソネカワ理化学)とLi_(4)SiO_(4)(純度99.9%、Alfa-Aesar)が、XRDによって識別され、受け取ったものをそのまま使用した。Si及びSiO_(2)から構成された“SiO”が、“SiO”-炭素複合電極において活性物質としてどのように可逆的に作用するかを理解するために、“SiO”の機械的研磨及び、約1000℃でアルゴン気流下でのメタンの熱蒸着による炭素コーティングによって、炭素被覆“SiO”が作成された。)(A1630の右欄-Experimentalの1?9行) 3イ 「In reaction 3,i.e.,3.75Li+Si+SiO_(2)→Li_(3.75)Si+SiO_(2),we assume that some of amorphous SiO_(2) is reduced to Li_(3.75 )Si forming Li_(2)SiO_(3) or Li_(4)SiO_(4). If x is the molar ratio of SiO_(2) further reduced to Li_(3.75 )Si to that initially presented in “SiO”, reaction 3 is re-written as 3.75Li+Si+SiO_(2)→Li_(3.75)Si+xSiO_(2)+(1-x)SiO_(2 )(0 2.58Li+SiO_(2)→(1/3)Li_(3.75)Si+(2/3)Li_(2)SiO_(3) [5] or 3.875Li+SiO_(2)→(1/2)Li_(3.75)Si+(1/2)Li_(4)SiO_(4) [6]」 (当審訳:反応3、すなわち、3.75Li+Si+SiO_(2)→Li_(3.75)Si+SiO_(2) において、非晶質SiO_(2)のいくらかはLi_(3.75)Siに還元されるとともに、Li_(2)SiO_(3)又は Li_(4)SiO_(4)を形成していると我々は想定している。仮に、xが、“SiO”中に最初に存在したSiO_(2)に対する、Li_(3.75)Si に還元されたSiO_(2)のモル比とすると、反応3は次のように書き換えられる。 3.75Li+Si+SiO_(2)→Li_(3.75)Si+xSiO_(2)+(1-x)SiO_(2 )(0 2.58Li+SiO_(2)→(1/3)Li_(3.75)Si+(2/3)Li_(2)SiO_(3) [5] 又は 3.875Li+SiO_(2)→(1/2)Li_(3.75)Si+(1/2)Li_(4)SiO_(4) [6] である。)(A1635の左欄15?28行) 第5 当審の判断 1 申立理由1、3、4、5(甲1を主たる引用例とする新規性及び進歩性)について (1)本件発明1と甲1発明との対比 ア 本件発明1の「負極活物質粒子を含む負極活物質」は、負極活物質粒子からなる負極活物質を含むものと解されるから、甲1発明の「粒状の負極活物質」は、本件発明1の「負極活物質粒子を含む負極活物質」に相当する。 イ 甲1発明の「負極活物質」は、「Siのうちの少なくとも一部とOのうちの少なくとも一部とが結合されて」いるもの、すなわちSiとOが結合しているものを含んでいるから、本件発明1と同様に、「SiOx」「で表されるケイ素化合物を含有」するものであるといえる。 しかしながら、甲1発明の「負極活物質」は、上記第4の1(2)オの検討によれば、原材料の堆積時にO_(2 )またはH_(2 )の導入量を調整することにより組成(原子比x)を制御し、基盤温度を調整して、Si原子のO原子に対する結合状態の存在比(原子比)を制御しているものであるから、製造後の負極活物質に含まれる「SiOx」「で表されるケイ素化合物」における酸素の含有比率xは、原材料の「SiO_(x)粉」における酸素の含有比率(x=1.2)を維持しているとはいえない。 したがって、甲1発明と本件発明1は「SiOx」「で表されるケイ素化合物を含有」する点で共通しているけれども、甲1発明における「SiOx」の酸素の含有比率xは不明である。 ウ 本件発明1の「負極活物質」は、「前記負極活物質がLi吸蔵を行う際に、前記負極活物質粒子に含まれるSi^(4+)の少なくとも一部が、Si^(y+)(yは0,1,2及び3のいずれかである)の価数状態のうちから選ばれる、少なくとも1種以上の状態に変化」するものであるから、本件発明1の「負極活物質粒子」にLi吸蔵前の段階で含まれていた「Si^(4+)」が、Li吸蔵後に、「Si^(y+)(yは0,1,2及び3のいずれかである)の価数状態のうちから選ばれる、少なくとも1種以上の状態」に「変化」するものである。 したがって、本件発明1における「Si^(y+)(yは0,1,2及び3のいずれかである)の価数状態のうちから選ばれる、少なくとも1種以上の状態」はLi吸蔵前の「Si^(4+)」がLi吸蔵によって変化したものである。 エ 一方、甲1発明の「負極活物質」は、上記0価?4価の結合状態のうち、「充放電時に、不可逆容量を生じやすいと共に高抵抗である4価の存在比が相対的に減少すると共に、それとは反対の傾向を有する0価の存在比が相対的に増加する」ものであるから、「充放電」によって「4価(Si^(4+))」は「0価(Si^(0+))」に「変化」するものであるが、「充放電」によって「4価(Si^(4+))」が「1価(Si^(1+))、2価(Si^(2+))、3価(Si^(3+))」に「変化」することについては記載がない。 そして、そのような記載のないことから、甲1発明の「負極活物質」は「1価(Si^(1+))、2価(Si^(2+))、3価(Si^(3+))」の状態を含むものであるが、それらの状態は、負極活物質製造時に、したがってLi吸蔵前に、既に負極活物質に含まれていたものであると解され、「充電」によって「4価(Si^(4+))」が「変化」したものであるとはいえない。 オ したがって、上記ウとエの検討から、「前記負極活物質がLi吸蔵を行う際に、前記負極活物質粒子に含まれるSi^(4+)の少なくとも一部」について、甲1発明と本件発明1はいずれも、「Si^(y+)(yは0,1,2及び3のいずれかである)の価数状態のうちから選ばれる、少なくとも」「Si^(0+)」「の状態に変化」する点で共通するが、本件発明1は「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」にも「変化」するのに対して、甲1発明は「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」に「変化」するものとはいえない。 カ 次に、甲1発明の「SiLiO」と本件発明1の「Li化合物」について対比検討する。 本件発明1の「Li化合物」について、本件特許明細書には次の記載がある。 「【0062】 また、Si^(y+)のうちのSi^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)は、負極活物質がLiを吸蔵した際に、Li化合物の形態で存在することができる。すなわち、不完全な酸化ケイ素の状態でLiを吸蔵することができる。このような負極活物質であれば、Si^(z+)がLiを吸蔵した際に、Li化合物の形態で存在し、活物質として機能することができる。なお、ここでいう「不完全」とはSiの価数が0より大きく、4未満であることを意味する。一方で、4配位であるSiO_(2)は完全な酸化ケイ素、二酸化ケイ素である。」 上記記載によれば、本件発明1の「Si^(y+)のうちのSi^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)は、前記負極活物質がLiを吸蔵した際に、Li化合物の形態で存在するもの」とは、「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」が、Liを吸蔵及び放出する活物質として機能し、Liを吸蔵した場合に「Li化合物」の形態をとることを意味していることが理解される。 キ 一方、甲1発明の「SiLiO(SiM1O)」について、甲1に次の記載がある(再掲する)。 「【0027】 また、負極活物質がM1を含んでいるのは、原子比xが上記した範囲内であると、その負極活物質中にSiとOとM1との化合物(Si-M1-O)が形成されやすくなるからである。すなわち、SiO_(2 )は、一般に、サイクル特性などを向上させる一方で、不可逆容量の増大に起因して電池容量を低下させる傾向にあるが、Si-M1-Oが形成されると、不可逆容量が減少するからである。これにより、不可逆容量が減少すると共に、負極活物質の電気抵抗が低下する。」 なお、SiO_(2)が不可逆容量となることは技術常識であり、この点について、次の記載が本件特許明細書にある。 「【0058】 一般的な酸化ケイ素材は充電を行うことでSiとLiとが反応するシリサイド反応とSiO_(2)とLiとが反応するLiシリケート反応が起こり、Siが単独で容量を持つ。すなわち、Siが単独でLiを吸蔵脱離する活物質として機能する。SiO_(2)とLiとが反応するLiシリケート反応により生成したLi_(4)SiO_(4)などのLiシリケートは4価のSiを有するものであるが、これは安定なLi化合物であり、Liを脱離しにくいものである。従って、このLiシリケートは活物質として機能せず、不可逆容量となる。」 SiO_(2)が不可逆容量になることについての上記技術常識を踏まえると、甲1の上記【0027】の記載によれば、負極活物質中のSiO_(2)はLiと不可逆的に反応して不可逆容量となってしまうため、電池容量が減少してしまうが、甲1発明では、原材料に含まれるSiO_(2)はM1と反応することによってSi-M1-Oが形成されているので、Si-M1-OはLiと追加の反応をすることがなく、電池中のLiは不可逆的に消費されることはないので、不可逆容量を減少させることができるものと解することができる。 つまり、甲1発明の「SiLiO」は、不可逆容量を減少させるためにSiO_(2)に代えて負極活物質中に安定的に形成されたものであって、活物質として機能するものではない。したがって、上記「SiLiO」中の「Si」は、その価数が安定しており、充電時と放電時でその価数が4価と1?3価の間で変化するものではないといえる。 ク したがって、上記カ、キの検討をまとめると、本件発明1の「Li化合物」と甲1発明の「SiLiO」は、いずれも、“Si及びLiを含有する化合物”である点で共通する。しかし、本件発明1の「Li化合物」は、活物質として機能する「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」が、Liを吸蔵したときの形態であって、Liを放出することによって「Si^(z+)」に戻るものであるが、甲1発明の「SiLiO」は不可逆容量を減少するために予め負極活物質中に形成されたものであり、活物質として機能するものではなく、Siの価数が4価と1?3価の間で変化するものでもない。 よって、本件発明1の「Li化合物」と甲1発明の「SiLiO」は、機能の点から見ても、充放電時の「Si」の価数変化の点から見ても、同一のまたは相当する化合物であるとはいえない。 ケ 以上の検討によれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 負極活物質粒子を含む負極活物質であって、 前記負極活物質粒子は、SiO_(x)で表されるケイ素化合物を含有し、 前記負極活物質がLi吸蔵を行う際に、前記負極活物質粒子に含まれるSi^(4+)の少なくとも一部が、Si^(y+)(yは0,1,2及び3のいずれかである)の価数状態のうちから選ばれる、少なくともSi^(0+)の状態に変化するものであり、 “Si及びLiを含有する化合物”が存在する、 負極活物質。 (相違点1) 「SiO_(x)で表されるケイ素化合物」における酸素の含有比率「x」が、本件発明1では「(0.5≦x≦1.6)」であるのに対して、甲1発明では不明である点。 (相違点2) 「負極活物質がLi吸蔵を行う際に、前記負極活物質粒子に含まれるSi^(4+)の少なくとも一部」が、「Si^(0+)」「の状態に変化」する以外に、本件発明1では、「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」にも「変化」するのに対して、甲1発明では、「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」に「変化」するものではない点。 (相違点3) 「“Si及びLiを含有する化合物”」が、本件発明1では、「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」が「Liを吸蔵」することによって「Li化合物の形態で存在」するものであるのに対して、甲1発明では、「化合物状態」の「SiLiO」は「SiO_(x )粉(X=1.2)及び、原材料中の割合を1?40原子%で変化させたLi金属粉を原材料とし、偏向式電子ビーム蒸着源を用いて、上記原材料を共蒸着させ、基盤の上に負極活物質の形成材料を堆積させたのち、その堆積膜を粉砕して得られた粒状の負極活物質」に含まれるものであって、「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」が「Liを吸蔵」することによって存在するものではない点。 (2)相違点についての検討 事案に鑑みて、関係の深い相違点2と相違点3についてまとめて検討する。 ア 本件発明1は、「前記負極活物質がLi吸蔵を行う際に、前記負極活物質粒子に含まれるSi^(4+)の少なくとも一部が、Si^(y+)(yは0,1,2及び3のいずれかである)の価数状態のうちから選ばれる、少なくとも1種以上の状態に変化」するものであり、このことは、上記(1)カの検討を参照すると、負極活物質粒子に含まれる「Si^(4+)」は活物質として機能するものであって、「Si^(y+)のうちのSi^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」の状態との間で、Liの吸蔵と放出を行うものであることを意味している。また、当該「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」は、「前記負極活物質がLiを吸蔵した際に、Li化合物の形態で存在するもの」であるから、Li吸蔵後に「Si^(z+)」は「Li化合物」の形態に変化するものである。 イ 一方、甲1発明は、「SiO_(x )粉(X=1.2)及び、原材料中の割合を1?40原子%で変化させたLi金属粉を原材料とし、偏向式電子ビーム蒸着源を用いて、上記原材料を共蒸着させ、基盤の上に負極活物質の形成材料を堆積させたのち、その堆積膜を粉砕して得られた粒状の負極活物質」中に含まれる、「Oのうちの少なくとも一部」と「結合」された「Siのうちの少なくとも一部」には、「Si原子のO原子に対する結合状態(価数)」が「4価(Si^(4+))」であるものが含まれているものである。 ここで、当該「4価(Si^(4+))」は、「充放電時に不可逆容量を生じやすいと共に高抵抗である」ものであるが、「負極活物質中にSiLiOが形成されていることによって」「存在比が相対的に減少していると共に、それとは反対の傾向を有する0価(Si^(0+))の存在比が相対的に増加している」ものである。 そして、上記「SiLiO」は不可逆容量を低減するために生成されているものであり、活物質として機能するものではない。 ウ つまり、甲1には、「Si原子のO原子に対する結合状態(価数)」が「4価(Si^(4+))」であるものは、不可逆容量を生じる原因として認識されているにすぎず、当該「4価(Si^(4+))」を「1価(Si^(1+))、2価(Si^(2+))、3価(Si^(3+))」との間で可逆に変化する活物質として機能させ、Liを吸蔵した際に、上記「1価(Si^(1+))、2価(Si^(2+))、3価(Si^(3+))」を「Li化合物の形態で存在するもの」とするという技術事項について、記載も示唆もされていない。また、当該技術事項については、甲2及び甲3にも記載されていない。 したがって、甲1発明において、上記相違点2、3に係る本件発明1の特定事項とすることが容易になし得ることであるとはいえない。 エ そして、本件発明1は、二酸化ケイ素(SiO_(2))成分のSi^(4+)の少なくとも一部がLi吸蔵時に4未満の価数(Si^(y+))に変化し、このSi^(y+)が、元々負極活物質粒子中に存在するSiと共に、Liを吸蔵脱離する活物質として機能することができる。これにより、ケイ素酸化物(SiO_(x))が充放電に伴いSiとLiシリケートに不均化するのを抑制することができ、また、Siの単独反応が抑制され、Siの肥大化を抑制することが可能となり、その結果、良好なサイクル特性が得られるという、格別の効果を奏するものである。 (3)小括 したがって、本件発明1は、上記相違点1?相違点3の点で甲1発明と相違しているから、甲1に記載された発明ではない。 また、甲1発明において、上記相違点1について検討するまでもなく、上記相違点2及び相違点3に係る本件発明の特定事項とすることが容易になし得ることであるとはいえないから、本件発明1は、甲1に記載された発明と、甲2又は甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2?8について 本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?8も、少なくとも相違点1?相違点3で甲1発明と相違するので、本件発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明と、甲2又は甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 申立理由2(甲2を主たる引用例とする新規性)について (1)本件発明1と甲2発明との対比 ア 本件発明1の「負極活物質粒子を含む負極活物質」は、負極活物質粒子からなる負極活物質を含むものと解されるから、甲2発明の「負極活物質粒子」は、本件発明1の「負極活物質粒子を含む負極活物質」に相当する。 イ 甲2発明の「SiO_(x)(x=0.9)からなるケイ素系材料を含有」することと、本件発明1の「SiO_(x)(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物を含有」ことは、「SiO_(x)(x=0.9)で表されるケイ素化合物を含有」の点で一致する。 ウ 甲2発明の「Li_(4)SiO_(4)」と本件発明1の「Li化合物」について対比検討する。 上記1(1)カで検討したように、本件発明1の「Si^(y+)のうちのSi^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)は、前記負極活物質がLiを吸蔵した際に、Li化合物の形態で存在するもの」とは、「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」が、Liを吸蔵及び放出する活物質として機能し、Liを吸蔵した場合に「Li化合物」の形態をとることを意味している。 エ 一方、甲2発明の「Li_(4)SiO_(4)」について、甲2には次の記載がある(再掲する)。 「【0084】 上述した負極によれば、負極活物質粒子のバルク内に存在するSiO_(2)成分を安定したLi化合物へ変化させることで、電池初期効率の向上やサイクル特性に伴う活物質の安定性が向上する。」 「【0127】 … A(Si)/B(SiO_(2))を0.8以上とすることで、Li反応サイトであるSiO_(2)部を予め低減でき、それにより、電池初期効率が向上するとともに、安定したLi化合物がバルク内、または表面に存在することで充放電に伴う電池劣化を抑制することができる。」 上記記載によれば、甲2発明において、「Li_(4)SiO_(4)」は、負極活物質粒子のバルク内に存在し、Li反応サイトであるSiO_(2)成分を、バルク内改質によって変更して得られた安定なLi化合物であり、Li反応サイトであるSiO_(2)成分が減少することによって、Liの不可逆反応が減少するので、電池初期効率が向上し、充放電に伴う電池劣化を抑制することができるようになるものと解される。なお、上記「安定したLi化合物」とは、SiO_(2)成分のようにLiと反応せず、充放電時にもLiの吸蔵や放出を行わないことを意味するものと解される。 オ したがって、上記ウ、エの検討をまとめると、本件発明1の「Li化合物」と甲2発明の「Li_(4)SiO_(4)」は、いずれも、「Li化合物」である点で共通する。 しかし、本件発明1の「Li化合物」は、活物質として機能する「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」が、Liを吸蔵したときの形態であって、Liを放出することによって「Si^(z+)」に戻るものであるが、甲2発明の「Li_(4)SiO_(4)」は、Li反応サイトであるSiO_(2)成分を、バルク内改質によって変更して得られた安定なLi化合物であり、したがって、活物質として機能するものではなく、充放電によっても、Liの吸蔵や放出を行うことのないものである。 カ 以上の検討によれば、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 負極活物質粒子を含む負極活物質であって、 前記負極活物質粒子は、SiO_(x)(x=0.9)で表されるケイ素化合物を含有し、Li化合物が存在する、 負極活物質。 (相違点4) 本件発明1は「前記負極活物質がLi吸蔵を行う際に、前記負極活物質粒子に含まれるSi^(4+)の少なくとも一部が、Si^(y+)(yは0,1,2及び3のいずれかである)の価数状態のうちから選ばれる、少なくとも1種以上の状態に変化」するものであるのに対して、甲2発明は、そのようなものではない点。 (相違点5) 「Li化合物」が、本件発明1では、「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」が「Liを吸蔵」することによって「Li化合物の形態で存在」するものであるのに対して、甲2発明では、Li反応サイトであるSiO_(2)成分を、バルク内改質によって変更することによって得られた安定なLi化合物であり、活物質として機能するものではなく、充放電時に、Liの吸蔵や放出を行うことのないものである点。 (2)相違点についての検討 上記相違点4と相違点5についてまとめて検討する。 ア 本件発明1は、「前記負極活物質がLi吸蔵を行う際に、前記負極活物質粒子に含まれるSi^(4+)の少なくとも一部が、Si^(y+)(yは0,1,2及び3のいずれかである)の価数状態のうちから選ばれる、少なくとも1種以上の状態に変化」するものであり、このことは、上記1(1)カの検討を参照すると、負極活物質粒子に含まれる「Si^(4+)」は活物質として機能するものであって、「Si^(y+)のうちのSi^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」の状態との間で、Liの吸蔵と放出を行うものであることを意味している。また、当該「Si^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)」は、「前記負極活物質がLiを吸蔵した際に、Li化合物の形態で存在するもの」であるから、Li吸蔵後に「Si^(z+)」は「Li化合物」の形態に変化するものである。 つまり、本件発明1において「Li化合物」は、充電時に「Si^(z+)」がLiを吸蔵することによって変化した形態であって、活物質として機能するものであるから、放電時にはLiを放出するものでもあるので、不可逆容量ではない。そして、当該「Li化合物」に含まれるSiの価数は、充放電により、1?3価と4価の間で変化するものである。 イ 一方、甲2発明の「Li_(4)SiO_(4)」Li反応サイトであるSiO_(2)成分を、バルク内改質によって変更することによって得られた安定なLi化合物であり、活物質として機能するものではない。このことを換言すれば、安定なLi化合物である上記「Li_(4)SiO_(4)」中の「Si」は、その価数が安定しており、充電時と放電時でその価数が4価と1?3価の間で変化するものではないといえる。 ウ よって、本件発明1の「Li化合物」と甲2発明の「Li_(4)SiO_(4)」は、機能の点から見ても、充放電時の「Si」の価数の変化の点から見ても、同一のまたは相当する化合物であるとはいえない。 したがって、上記相違点4、5は実質的な相違点であるから、本件発明1と甲2発明は同一の発明ではない。 (3)申立人の意見について ア 異議申立書の第10頁の中程において、「本件特許発明1と甲第2号証に開示された負極活物質とは、その作製方法が同一であり、しかも負極活物質の効果も同等となっておりますので、作製した負極活物質の特性・特徴も同一ということになります。」と主張しているので、この主張について検討する。 イ 本件発明に係る実施例1-1の製造方法について、本願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には次の記載がある。 「【0121】 次に負極を作製した。負極活物質は金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。粒径を調整した後、熱分解CVDを行うことで負極活物質粒子の表層部に炭素材を形成した。」 ウ 上記イに記載された製造方法は、甲2発明の「金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積し、冷却して堆積物を取出し、ボールミルで粉砕し、粒径を調整した後、熱分解CVDを行って炭素層で被覆」するという製造方法と、当該記載の範囲で一致している。 エ しかしながら、次に記載する本件明細書の記載によれば、本件発明の負極活物質を製造するにあたり、上記実施例1-1の製造方法には明示的に記載されていない「選別工程」を別途行っている(選別工程に関する部分に下線を付した。)。 「【0040】 さらに本発明では、負極活物質粒子を含む負極活物質の製造方法であって、 一般式SiO_(x)(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物を含む負極活物質粒子を準備する工程と、 前記負極活物質がLi吸蔵を行う際に、前記負極活物質粒子に含まれるSi^(4+)の少なくとも一部が、Si^(y+)(yは0,1,2及び3のいずれかである)の価数状態のうちから選ばれる、少なくとも1種以上の状態に変化する負極活物質粒子を選別する工程とを有することを特徴とする負極活物質の製造方法を提供する。 【0041】 負極活物質粒子をこのように選別して、負極活物質を製造することで、リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用した際に、高容量であるとともに良好なサイクル特性を有する負極活物質を製造することができる。」 「【0078】 [負極の製造方法] 負極10は、例えば、以下の手順により製造できる。まず、負極に使用する負極活物質の製造方法を説明する。最初に、一般式SiO_(x)(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素化合物を含む負極活物質粒子を準備する。次に、負極活物質がLi吸蔵を行う際に、負極活物質粒子に含まれるSi^(4+)の少なくとも一部が、Si^(y+)(yは0,1,2及び3のいずれかである)の価数状態のうちから選ばれる、少なくとも1種以上の状態に変化する負極活物質粒子を選別する。 【0079】 ケイ素酸化物(SiO_(x):0.5≦x≦1.6)を含む負極活物質粒子は、例えば、以下のような手法により作製できる。まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下、減圧下で900℃?1600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させる。このとき、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末の混合物を用いることができる。金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。 【0080】 次に、発生した酸化珪素ガスは吸着板(堆積板)上で固体化され堆積される。この際、ガスが流れる途中に炭素材を存在させることができ、又はこのガスにSi蒸気を一部混合させることができる。これにより、Li吸蔵時にSi^(4+)がSi^(y+)に変化する負極活物質粒子、特に、Li吸蔵脱離を繰り返すとき、Si^(4+)と、Si^(y+)のうちのSi^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)とが可逆に変化する負極活物質粒子が得やすくなる。次に、反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で酸化珪素の堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。以上のようにして、負極活物質粒子を作製することができる。 【0081】 なお、Li吸蔵時にSi^(4+)がSi^(y+)に変化する負極活物質粒子、特に、Li吸蔵脱離を繰り返すとき、Si^(4+)と、Si^(y+)のうちのSi^(z+)とが可逆に変化する負極活物質粒子を得る方法は、上記の炭素材やSi蒸気を混合する方法に限定されない。例えば、酸化珪素ガスを発生する原料の気化温度の変更、堆積板温度の変更、酸化珪素ガスの蒸着流に対するガス(不活性ガス,還元ガス)の噴射量若しくは種類の変更、酸化珪素ガスを含む炉内の圧力の変更、負極活物質粒子生成後の熱処理又は後述する炭素材を堆積する際の温度若しくは時間の変更などにより、これらの負極活物質粒子を得やすくすることもできる。」 「【0087】 選別は、負極活物質粒子を製造した後、その一部を取り出して上記XANES測定等を行って、本発明の条件に該当する負極活物質粒子を採用することにより行うことができる。また、この選別は、負極活物質粒子を製造するたびに逐一行う必要はない。特定の条件で製造した負極活物質粒子が本発明の条件に該当するものであったときは、同一の条件で製造した負極活物質粒子は同一の特性を有するものとして判断することができ、これを選別して負極活物質粒子とすることができる。」 オ 上記エの記載によれば、原料を加熱して発生した酸化珪素ガスは、吸着板(堆積板)上で固体化され堆積されるが、この際、ガスが流れる途中に炭素材を存在させたり、このガスにSi蒸気を一部混合させることによって、Li吸蔵脱離を繰り返すとき、Si^(4+)と、Si^(y+)のうちのSi^(z+)(zは1,2及び3のいずれかである)とが可逆に変化する負極活物質粒子が得やすくなる(【0080】)。 また、酸化珪素ガスを発生する原料の気化温度の変更、堆積板温度の変更、酸化珪素ガスの蒸着流に対するガス(不活性ガス,還元ガス)の噴射量若しくは種類の変更、酸化珪素ガスを含む炉内の圧力の変更、負極活物質粒子生成後の熱処理又は後述する炭素材を堆積する際の温度若しくは時間の変更などによっても、Si^(4+)と、Si^(y+)のうちのSi^(z+)とが可逆に変化する負極活物質粒子を得ることができる(【0081】)。 そして、Si^(4+)と、Si^(y+)のうちのSi^(z+)とが可逆に変化する負極活物質粒子が得られたことは、XANES測定を行うことによって確認することができ、いったんSi^(4+)と、Si^(y+)のうちのSi^(z+)とが可逆に変化する負極活物質粒子が得られることが確認されたならば、当該負極活物質が得られる製造条件を採用することによって、以降、Si^(4+)と、Si^(y+)のうちのSi^(z+)とが可逆に変化する負極活物質粒子を得ることができる(【0087】)。 カ つまり、上記イの実施例1-1の製造方法は、Si^(4+)と、Si^(y+)のうちのSi^(z+)とが可逆に変化する負極活物質粒子を得ることができることができるような製造条件を設定するという選別工程が別途行われているものであり、仮に、上記選別工程が行われない場合には、詳細な製造条件が設定されていないので、上記イの製造方法を行っただけでは、「Li吸蔵を行う際に、負極活物質粒子に含まれるSi^(4+)の少なくとも一部が、Si^(y+)(yは0,1,2及び3のいずれかである)の価数状態のうちから選ばれる、少なくとも1種以上の状態に変化する負極活物質粒子」を得ることはできないといえる。 キ さらに、甲2においては、上記イの製造方法に続いて、「バルク内改質工程」を行うことによって、SiO_(2)成分の一部が選択的に変更して非晶質のLi_(4)SiO_(4)が生成されており、このLi_(4)SiO_(4)が本件発明1の「Li化合物」と同一ではないことは、上記(2)のア?ウで検討したとおりである。 ク したがって、本件発明1の負極活物質の製造方法と、甲2発明の負極活物質粒子の製造方法は同一ではなく、そのため、同一の負極活物質が製造されているとはいえないから、請求人の上記アの主張は採用できない。 (4)小括 したがって、本件発明1は、上記相違点4?相違点5の点で甲2発明と相違しているから、甲2に記載された発明ではない。 (5)本件発明6について 本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明6も、少なくとも相違点4?相違点5の点で甲2発明と相違するので、甲2に記載された発明ではない。 第5 結び 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-06-22 |
出願番号 | 特願2016-132892(P2016-132892) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(H01M)
P 1 652・ 113- Y (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 宮田 透 |
特許庁審判長 |
亀ヶ谷 明久 |
特許庁審判官 |
池渕 立 中澤 登 |
登録日 | 2019-08-02 |
登録番号 | 特許第6564740号(P6564740) |
権利者 | 信越化学工業株式会社 |
発明の名称 | 負極活物質、負極、リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池の使用方法、負極活物質の製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法 |
代理人 | 小林 俊弘 |
代理人 | 好宮 幹夫 |