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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C11C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C11C
管理番号 1364017
異議申立番号 異議2019-700618  
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-05 
確定日 2020-07-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6465938号発明「高度不飽和脂肪酸アルキルエステル含有組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6465938号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6465938号の請求項1?2に係る特許についての出願は、2013年9月20日(優先権主張 平成24年10月1日 (JP)日本)を国際出願日とする出願である特願2014-539664号の一部を平成29年9月1日に新たな特許出願としたものであって、平成31年1月18日にその特許権の設定登録がされ、平成31年2月6日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年8月5日に特許異議申立人山口雅行(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和元年10月15日付けで取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、令和元年12月17日に意見書を提出した。さらに、当審は、令和2年1月29日付けで特許異議申立人に対して審尋を行い、それに対して、令和2年4月2日に異議申立人からの回答書の提出があった。

第2 本件発明
特許第6465938号の請求項1?2に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明2」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に95質量%以上含有し、且つ該エイコサペンタエン酸のアルキルエステル中のトランス異性体の比率が1質量%未満である組成物。
【請求項2】
前記エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に98質量%以上含有する、請求項1記載の組成物。」

第3 取消理由の概要
当審が通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。なお、当該取消理由は、特許異議申立書に記載された申立ての理由(特許異議申立理由)と同旨のものである。
[理由1]本件特許発明1?2は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件特許発明1?2に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由2]本件特許発明1?2は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許発明1?2に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開平2-19338号公報
甲第4号証:特開2001-139981号公報
甲第5号証:特開平10-95744号公報
甲第6号証:特開平9-263787号公報
甲第7号証:Eur.J.Lipid Sci.Technol.2008,110,547-553
甲第8号証:アジレントテクノロジーズのカタログ
甲第9号証:Journal of Chromatography A,1129,(2006),pp21-28
甲第10号証:Journal of Chromatography A, 1100(2005)185-192
甲第11号証:Nu-Chek Prep社製品に関するフナコシ株式会社のカタログ、掲載日2011/09/13
甲第12号証:JAOCS,Vol.66.no.12(December 1989),1822-1830頁
甲第13号証:EUROPEAN PHARMACOPOEIA9.2、4583-4585頁
甲第14号証:EUROPEAN PHARMACOPOEIA9.7、6293-6294頁
甲第15号証:アジレントテクノロジーズのカタログ、1?4頁
甲第16号証:第十五改正日本薬局方(平成18年3月31日)
甲第17号証:特開2001-245686号公報
甲第18号証:第43回日本油化学学会発表要旨
甲第19号証:平成16年化学情報センター作成ウェブページ
甲第20号証:国際公開第2011/080503号

第4 当審の判断
(1)甲号証の記載について
ア 甲第1号証
1a「1、海産動物オイルから、(すべて-z)-5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸(EPA)と(すべて-z)-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸(DHA)との実質的に純粋な混合物を分離するための方法であって、次のことから成る方法:
(1)オイルから、ポリ不飽和遊離脂肪酸、又はそれらのメチル若しくはエチルエステルの混合物を抽出し;
(2)該脂肪酸又はエステルを尿素及び極性有機溶媒と混合するのであるが、該溶媒は尿素と脂肪酸又はエステルを溶かすのに充分な量だけ存在せしめ、そして、該尿素は、それとコンプレックス化しうる脂肪酸又はエステルの実質的に全部と共に配位コンプレックス(coordinationcomplex)を形成するのに充分な量だけ、存在せしめ;
(3)該混合工程後に生成する沈澱を除去し、そして濾液を回収し;
(4)濾液から残留溶媒と尿素とを除去して純粋な脂肪酸又はエステルを得;
(5)純粋な脂肪酸又はエステルを有機溶媒に溶かして溶液とし;
(6)第1の沈澱が生成するまで該溶液をゆっくりと冷却し、そしてこの第1の沈澱を除去し;
(7)該溶液の容量を実質的に減少せしめそして溶液の濃度を増加せしめるのに充分な量の溶媒を、沈澱除去後に残留する濾液から、除去し;
(8)第2の沈澱が生成するまで該溶液をゆっくりと冷却し、そしてこの第2の沈澱を除去し;
(9)該溶液の容量を実質的に減少せしめそしてその濃度を増加せしめるのに充分な量の溶媒を、該第2の沈澱除去後に残留する濾液から、除去し;
(10)分離液相又は固相が形成されるまで該濾液をゆっくりと冷却し、そして該分離相を除去し;そして
(11)実質的に純粋なEPAとDHAとの混合物を含有する残留液相を保持する。
・・・
10.特許請求の範囲第1項、第6項又は第8項のいずれか1項において、該工程(1)が次の工程から成る、同項記載の方法:
(a)過酸化及びシス-トランス転化(cis-transconversion)を回避するのに充分に温和な条件のもとで、海産動物オイルを加水分解し;
(b)有機溶媒で洗うことによって加水分解生成物から非ケン化物を除去し、そして水相を回収し;
そして
(c)回収した水相を酸性化して有機相を放出せしめ(release)、そして純粋な脂肪酸又はエステルを含有する有機相を回収する。」(特許請求の範囲)
1b「本発明は、天然のポリ不飽和脂肪酸源からポリ不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid)を分離する方法に関するものであり、更に詳細には、海水動物油といった天然起源のオイルから実質的に純粋なEPA及びDHAを分離する方法に関するものであり、そしてまた本発明は、一般的に安全と認識されている材料のみを使用し温和な反応条件のみを用いる方法に関するものであって、得られた物質は、シス-トランス転位(cis-transcoversion)のない実質的に100%純粋なものであり、食品及び薬品に使用できるものである。」(第3ページ右下欄第10?19行)
1c「遊離の脂肪酸は、また、エステル交換法によってもそれらの天然源から分離することができる。
脂肪酸含有材料(海産動物油、亜麻仁油、大豆油等)を、乾燥エタノール又は乾燥メタノール及び痕跡量の金属ナトリウムとともに還流する。これによって遊離脂肪酸のメチルまたはエチルエステルがそれぞれ生成し、トリグリセリド分子から遊離してくる。この方法は、アルカリ加水分解よりもより温和な条件を実質的に包含するものであって、過酷な条件による反応混合物の黒化を防止するものである。これらのエステルは、標準的加水分解技術によって、抽出工程のいかなる過程においても自由に遊離の脂肪酸に変換することができる。目的によっては、遊離体の酸に転換することなく、これらのエステル類を直接用いる方が好ましいこともある。」(第8ページ左下欄第1?16行)
1d「実施例1
500ccのタラ肝油を2lの蒸留水中で激しく撹拌した。乳化剤として、EPAのナトリウム塩を50g加えた。ホスフェートバッファーとアスコルビン酸とを用いて1反応中のpHを7に維持した。ブタすい臓のリパーゼを該エマルジョンに対して1g添加し、そしてこのエマルジョンを6時間撹拌しながら40℃に維持した。
・・・
上述したDHAの場合と同じ方法で分離したところ、この沈澱は100%純粋なEPAであることが判った。NMR研究の結果、それこそトランス-立体配置は一切認められなかった。」(第12ページ左上欄第7行?右下欄第16行)
1e「実施例1におけると同様に、100%すべてシスのDHAと同じく100%すべてシスのEPAが得られる。」(第13ページ右下欄第1?2行)

イ 甲第4号証
4a「【0013】
【実施例】以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、用いたガスクロマトグラフィーの条件、超臨界クロマトグラフィーの運転条件および評価方法を以下に示す。
1.<ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸誘導体の測定条件>
ガスクロマトグラフ本体;HewlettPackard社製、HP6890、
キャリアガス及び流量;ヘリウム、1ml/分、
サンプル濃度;8mg/ml、ヘキサン溶液、
試料注入量;1μl、
試料注入方法;スプリット法(スプリット比100:1)、
インジェクション温度;250℃、
検出器温度;250℃、
カラム温度;140℃から210℃まで昇温、
昇温速度;5℃/分、
検出器;FID(水素炎イオン化検出器)、
カラム;DB-WAX(J&W社製)30×0.25mm×0.25μmフィルム
熱異性化物の含有率はガスクロマトグラムの、エイコサペンタエン酸とヘンエイコサペンタエン酸(C21:F;5)のピークの間にある、天然には認められないピークを熱異性化物とした。」
4b「【0028】実施例4
実施例3で用いたシリカゲルを充填したカラムを用いた超臨界クロマトグラフィーを、前述の運転条件2に従って運転し、原料2の分離を行った。試料注入後、91分経過後から129分経過後までの画分を分取し、純度97.80質量%、C20:4/EPA比=0.0047でエイコサペンタエン酸エチル198mg(エイコサペンタエン酸エチル回収率56.31%)を得た。このエチルエステルのガスクロマトグラフィーによる分析では、熱異性体に相当するピークは認められなかった。精製後の脂肪酸組成を表2示す。
【0029】実施例5
実施例3で用いたシリカゲルを充填したカラムを用いた超臨界クロマトグラフィーを、前述の運転条件3に従って運転し、原料2の分離を行った。試料注入後、150分経過後から210分経過後までの画分を分取し、純度97.43質量%、C20:4/EPA比=0.0075でエイコサペンタエン酸エチル200.5g(エイコサペンタエン酸エチル回収率74.81%)を得た。このエチルエステルのガスクロマトグラフィーによる分析では、熱異性体に相当するピークは認められなかった。精製後の脂肪酸組成を表2に示す。」

ウ 甲第5号証
5a「【0020】
【実施例】以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。なお、実施例におけるガスクロマトグラフィーの条件及び評価方法を下記に示す。
ガスクロマトグラフ:ヒューレットパッカード社製、HP5890A
キャリアガス及び流量:ヘリウム、1ml/min
サンプル濃度:8mg/ml(ヘキサン)
注入量:1μl
インジェクション温度:250℃
カラム温度:140℃から210℃まで、5℃/minで昇温
検出器温度:250℃
検出器:FID
使用カラム:DB-WAX(J&W)、30m×0.25mm×0.25μmFilm
スプリット比:100:1
異性化物の含有率は、ガスクロマトグラムの、エイコサペンタエン酸エチルとヘンエイコサペンタエン酸エチルのピークの間にある、原料には認められないピークを異性化物として、全脂肪酸に対する割合を重量%で示した。二重結合度[脂肪酸二重結合数/(脂肪酸炭素数-10)で表される]の差による分離能は、最も分離の困難である二重結合度0.4のエイコサテトラエン酸(C20:4)と二重結合度0.5のエイコサペンタエン酸(EPA、C20:5)の比、C20:4/EPAを求めることにより評価した。炭素数分離能は、ドコサヘキサエン酸(DHA、C22:6)とエイコサペンタエン酸(EPA、C20:5)の比、DHA/EPAを求めることにより評価した。
実施例1
エイコサペンタエン酸(EPA、C20:5)含有率19.4重量%、C20:4脂肪酸含有率1.1重量%(C20:4/EPA=0.057)、ドコサヘキサエン酸(DHA、C22:6)含有率7.4重量%(DHA/EPA=0.378)、炭素数19以下の脂肪酸含有率62.1重量%、炭素数20の脂肪酸の含有率26.6重量%、炭素数21以上の脂肪酸含有率11.3重量%の魚油のエチルエステル2.0kgを、薄膜蒸留器を用いて温度110℃、減圧度0.5mmHgの条件で薄膜蒸留を行い、残渣画分を採取した。この残渣画分について、さらに同じ条件の蒸留を合計5回繰り返し、残渣画分を得た。次に、この残渣画分を、温度145℃、減圧度0.05mmHgの条件で薄膜蒸留を行って留分を採取し、さらにこの留分について、同じ条件の蒸留を合計5回繰り返し、最後に得られた留分を採取して、EPA含有率43.7重量%のエチルエステル577gを得た。なお、C20:4脂肪酸含有率2.8重量%、C20:4/EPA=0.065であり、DHA含有率8.5重量%、DHA/EPA=0.195であった。このEPA含有率43.7重量%のエチルエステル577gに、エタノール2.6kg、尿素1.7kgを加えて60℃で撹拌した。溶液を10℃まで冷却したのち、析出した尿素付加体をろ別した。ろ液を減圧下で濃縮して、EPA含有率67.3重量%のエチルエステル367gを得た。なお、C20:4脂肪酸含有率4.0重量%、C20:4/EPA=0.060であり、DHA含有率13.0重量%、DHA/EPA=0.193であった。次に、このEPA含有率67.3重量%のエチルエステル367gを、薄膜蒸留器を用いて、温度110℃、減圧度0.5mmHgの条件で薄膜蒸留を行い、残渣画分を採取した。さらに、この残渣画分について、温度145℃、減圧度0.05mmHgの条件で薄膜蒸留を行い留分を採取し、EPA含有率75.9重量%のエチルエステル244gを得た。なお、C20:4脂肪酸含有率4.3重量%、C20:4/EPA=0.056であり、DHA含有率9.9重量%、DHA/EPA=0.130であった。このEPA含有率75.9重量%のエチルエステル244gを、段数6段の超臨界ガス抽出塔を用い、塔頂温度70℃、塔底温度40℃になるように温度勾配を設定し、抽出塔中段の原料導入部より供給した。また、溶媒として120kg/cm2の高圧炭酸ガスを抽出塔底部から通過させ、抽出塔上部より抽出相を取り出し、高圧炭酸ガスに溶解しているエチルエステルを分取した。全フラクションの40?70重量%の部分を採取し、さらに前留分及び後留分のEPA含有率の高いフラクションを合わせたものを抽出塔原料部に戻し、同じ条件で超臨界ガス抽出を行ってEPA画分を分取し、1回目で得られたEPA画分と合わせてEPA純度96.1重量%のエチルエステル154gを得た。なお、C20:4脂肪酸含有率3.2重量%、C20:4/EPA=0.033であり、DHA/EPA=0.003であった。原料、薄膜蒸留後、尿素付加後、薄膜蒸留後及び超臨界ガス抽出後の脂肪酸組成、並びに、二重結合度分離能、炭素数分離能及び各段階におけるエイコサペンタエン酸収率を、第1表に示す。
【0021】
【表1】



エ 甲第6号証
6a「【0029】実施例3
エイコサペンタエン酸含有率20.1重量%、C20:4脂肪酸含有率2.4重量%(C20:4/EPA比=0.119)の魚油脂肪酸エチルエステル100.0kgを薄膜蒸留器を用いて、温度120℃、減圧度0.05mmHgの条件で流下型薄膜蒸留器を用いて蒸留し、残渣部分を採取した。次いで、この残渣部分を温度145℃、減圧度0.05mmHgの条件で薄膜蒸留を行って留分を採取し、エイコサペンタエン酸純度24.7重量%のエチルエステル58.9kgを得た。この薄膜蒸留により得られたエチルエステル50.0kgに、アセトニトリル120.0kg及びイソドデカン30.0kgを加えて20℃で十分に混合し、静置後分離したアセトニトリル層を分取した。次いで2回目の抽出操作として、分取したアセトニトリル層に新たにイソドデカン30.0kgを加えて十分に混合し、静置後分離したアセトニトリル層を分取した。さらに3回目の抽出操作として、分取したアセトニトリル層に新たにイソドデカン30.0kgを加えて十分に混合し、静置後分離したアセトニトリル層を分取した。このようにして得られたアセトニトリル層を濃縮して、エイコサペンタエン酸含有率49.1重量%(C20:4/EPA比=0.039)のエチルエステル7.5kgを得た。この液液抽出法で得られたエチルエステル4.0kgを、内径3cm、高さ5m、段数6段の超臨界ガス抽出塔を用い、塔頂温度70℃、塔底温度40℃になるように温度勾配を設定し、抽出塔中段の原料導入部より供給した。また、抽出剤として120kg/cm2の高圧二酸化炭素を抽出塔底部から通過させ、抽出塔上部より抽出相を取り出し、高圧二酸化炭素に溶解しているエチルエステルを分取した。全フラクションの40?75重量%の部分を採取し、エイコサペンタエン酸純度95.2重量%のエチルエステル1.4kgを得た。このエチルエステルのガスクロマトグラムには、熱異性化物に相当するピークは認められなかった。原料、薄膜蒸留後、液液抽出後及び超臨界ガス抽出後の脂肪酸組成、並びに、二重結合度分離能、炭素数分離能及び各段階におけるエイコサペンタエン酸収率を、第3表に示す。
【0030】
【表3】



オ 甲第7号証(訳文にて示す。)
7a「

図1.BPX-70(左)およびBP-20(右)における純EPA濃縮物(A、B)、熱異性化EPA濃縮物(C、D)、モノトランスEPA標準品(E、F)、ジトランスEPA標準品(G、H)、および考えられる干渉物質(I、J)の溶出パターン。クロマトグラフィー条件は方法の節に記載されている。」(第550ページ図1)
7b「

図2.BPX-70(左)およびBP-20(右)における純DHA濃縮物(A、B)、熱異性化DHA濃縮物(C、D)、モノトランスDHA標準品(E、F)、ジトランスDHA標準品(G、H)、および考えられる干渉物質(I、J)の溶出パターン。クロマトグラフ条件は方法の節に示されている。アスタリスクの下の小さなピークは未同定生成物である。」(第551ページ図2)

カ 甲第8号証
ポリエチレングリコール(PEG)カラム
・・・
DB-WAX
・・・
相当品:SUPELCOWAX 10・・・BP-20」(第110頁第2?17行)

キ 甲第9号証(訳文にて示す。)
9a「

図5.化学的に異性化した(A)EPAメチルエステルと(B)DHAメチルエステルのAg-HPLCクロマトグラム(第2章の実験操作を参照)(第26頁図5)

ク 甲第10号証(訳文にて示す。)
10a「2.1試薬
EPAの脂肪酸メチルエステルおよびDHAの脂肪酸メチルエステル(純度>99%)は、Nu-Chek Prep社(米国、ミネソタ州、エリジアン)から購入した。」(第186頁、左欄27?30行)
10b「

図1.ChromSpher 5Lipids カラムを用いたEPA(a)とDHA(b)の異性体の銀イオンLCクロマトグラムとフラクションパターン。移動相(1.5mL/min)として、ヘキサン中のアセトンおよびアセトニトリルのリニアグラディエント。フラクションは、その都度、または0.5minごとに採取した。詳細は、2.2章を参照のこと)」(第186頁図1)

ケ 甲第11号証
11a「「5Z,8Z,11Z,14Z,17Z-Icosapentaenoic Acid Ethyl Ester
純度:>99%」(第22頁第2欄)
11b「5Z,8Z,11Z,14Z,17Z-Icosapentaenoic Acid Methyl Ester
純度:>99%」(第22頁第3欄)」

コ 甲第12号証(訳文にて示す。)
12a「

図1.ニシンOmega-3PUFA濃縮物(エチルエステル)のGLCのC20領域:-(a)220℃での熱処理前と(b)熱処理後、および(c)AgNO3カラムクロマトグラフィーにより分離したアーティファクト濃縮物(EPAA)の20:5領域。ピークA?Eは、熱処理後に形成されたアーティファクトを指す.195℃で等温的に操作したSUPELCOWAX-10溶融シリカキヤピラリーカラムを用いた分析。)」(第1823頁、右欄、図1)
12b「図5.GLCプロファイル:(a):遊離酸を220℃で5時間加熱した後のEPAのメチルエステル、および(b)AgNO3-TLCによって単離されたEPAアーティファクトメチルエステル(EPAI).195℃で等温的に操作されたSUPLCOWAX-10キャピラリーカラムによる分析。A、B、C、およびDは、図1のbとcに示すアーティファクトエチルエステルに対応する。図1ピークEはピークDと共に溶出、また、新しいピークXが検出されている。ピークXは環境汚染物質、おそらくフタル酸エステルである。」1827頁、左欄、図5)
12c「SUPERCOWAX-10においてジトランス異性体のそれと同様にピークA(図5b、表2)のECLはモノトランス異性体の計算ECL値と合致する。・・・しかしながら、EPAIをSP-2340でクロマトグラフィーを行ったとき後者は見いだされず、それ故ピークAはモノトランス異性体と同定された。」1827頁左欄第19?26行)

サ 甲第13号証(訳文にて示す。)
13a「アッセイ…合計オメガ3酸エチルエステル(2.4.29)、図1250.2参照」(4584頁、右下欄第1?4行)
13b「脂肪酸 r・・・20.EPA 0.796・・・22.C21:5n-30.889・・・28.DHA 1.000・・・r:DHAエチルエステルに対する相対保持時間(保持時間=約23分)」(4585頁、図 1250.-2)

シ 甲第14号証(訳文にて示す。)
14a「2.4.29.オメガ3酸豊富な油中の脂肪酸組成」(6293頁、左欄第1?3行)
14b「カラム:
-材料:融合シリカ;
-寸法:l=少なくとも25m、直径=0.25mm;
-固定相:Macrogol 20000R(膜厚0.2μm)」(6293頁、右欄第39?42行)

ス 甲第15号証(訳文にて示す。)
15a「G16 ポリエチレングリコール(平均分子量約15000)、 ・・・ ・・・
ポリエチレングリコール及びジエポキシドの高分子量化合物 ・・・
又はPharma.Eur.Macrogol 20000 DB-WAX」(第1ページ第22?25行)

セ 甲第16号証
16a「イコサペント酸エチル
・・・
本品は定量するとき、イコサペント酸エチル(C22H39O2)96.5?101.0%を含む。」(第327頁右欄第14?21行)

ソ 甲第17号証
17a「【0045】[実施例5](各種脂肪酸のエチルエステル化)
2段階の酵素反応により、各種脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸、EPAおよびDHA)のエチルエステル化を試みた。脂肪酸とエタノールの混液(1:1,mol/mol)5g、固定化したキャンディダ・アンタクティカのリパーゼ(Novozym 435,ノボノルディスク(株)製)100mgを10ml容量のネジ蓋付きバイアル瓶に入れ、窒素を封入した後、30℃で24時間振盪しながらエステル化反応を行った。反応後、反応混液のみを取り出して静置し、水層(下層)を除去した後、脂肪酸アルコールエステルと未反応の脂肪酸が含まれる上層を回収した。この反応液を減圧下で脱水し、未反応の脂肪酸に対し5mol等量のエタノールを加え、2段目の反応に用いる基質を調製した。この基質4gと固定化したキャンディダ・アンタクティカのリパーゼ(Novozym 435,ノボノルディスク(株)製)40mgを10ml容量のネジ蓋付きバイアル瓶に入れ、1段階目の反応と同じ条件で24時間反応を行った。その結果を表4に示す。いずれの脂肪酸を基質に用いても、1段目の反応で87?90%のエステル合成率が得られ、2段階目の反応で56?68%のエステル合成率が得られた。2段階のエステル化反応により、原料とした脂肪酸の94%以上がエステル化された。このようにどのような脂肪酸に対しても高いエステル合成率が得られ、また、リパーゼが作用しにくい脂肪酸ほど高いエステル合成率が得られる傾向も認められた。
【0046】
【表4】



タ 甲第18号証
18a「2.実験
純度97%以上のEPA-E(キューピー(株)製「イコサペントサンEQ」)を減圧状態でガラスアンプル内に溶封した。それらのサンプルを180?220での各温度で6時間加熱しEPA-Eの熱による異性化の進行をキャピラリーガスクロマトグラフィーで観察した。・・・
3.結果と考察
加熱温度が180℃の場合、6時間の加熱後もEPA-E異性体は観察されなかった。190℃以上で加熱した場合、温度依存的に異性体は増加した。」(下から第13?6行)

チ 甲第19号証
19a「平成16年度主催・共同予定討論会一覧(国内開催)
・・・
日本油化学年会(第43回) 11月1(月)?2日(火)」(第6ページ第6行)

ツ 甲第20号証(訳文にて示す。)
20a「典型的には、このなおさらなる実施形態において、異性体不純物の含有量は最大1.5重量%である。典型的には、異性体不純物の含有量は最大1重量%、好ましくは最大0.5重量%、より好ましくは最大0.25重量%、さらには0.25重量%までである。より好ましくは0.25重量%以下、最も好ましくは0.1重量%以下である。
本発明者らはまた、蒸留油に伴う異性化、過酸化およびオリゴマー化の問題を回避する高純度の油を製造できることを見出した。
本発明のPUFA生成物中に存在する異性体不純物の量は、供給混合物中に存在する異性体不純物の量に依存することになる。しかし重要なことは、異性体不純物の量は、蒸留とは異なり、本発明の方法によっては増加しない。従って、PUFA生成物中の異性体の含有量の限界は出発物質の異性体含有量である。出発物質に異性体が存在しない場合,得られたPUFA生成物もまた異性体を実質的に含まないであろう。この利点は蒸留では見られない。
したがって、一実施形態では、本発明のクロマトグラフ分離方法は、供給混合物中に存在する異性体不純物の量に対して、PUFA生成物中の異性体不純物の量を実質的に増加させない。
「実質的な増加」とは、典型的には、10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、さらにより好ましくは1重量%以下、さらにより好ましくは0.5重量%以下の増加を意味すると理解される。最も好ましくは0.1重量%以下の増加を指すものと理解される。」(第45頁第12?33行)
20b「異性体不純物は、PUFA異性体、過酸化生成物およびオリゴマー化生成物を含む。PUFA異性体は、位置異性体および/または幾何異性体を含む。・・・
そのような異性体については、その全体が参照により本明細書に組み込まれているWijesundera,R.C.ら、米国油脂化学協会誌、1989年、第66巻、第12号、1822?1830頁により詳細に記載されている。」(第47頁第3?9行)
20c「実施例3
・・・
EPA EEが高度な純度(>95%純度)で生成された。生成物のGCトレースを図13に示す。」(第52頁第6?32行)
20d「実施例8 本発明の方法の2つのEPAリッチの生成物と、蒸留によって製造されたEPAリッチの油とを比較した。それらのPUFA成分の分析結果(重量%)を以下に示す。」
20e「

」(図13)

(2)甲号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、得られた物質は100%すべてシスのEPAであることが記載されており(摘記1b、1e参照)、目的によっては、遊離体の酸に転換することなく、これらのエステル類を直接用いる方が好ましいこともあることも記載され(摘記1c参照)、エステルを回収することが記載されているが(摘記1a参照)、実施例4で得られたEPAは、リパーゼ反応によるけん化を経て得られたものであるから(摘記1d)、遊離脂肪酸である。
そうすると、甲第1号証には、「100%すべてシスのEPAを含む組成物。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 甲第4号証に記載された発明
甲第4号証には、純度97.80質量%でエイコサペンタエン酸エチルを得たこと、及び、熱異性体に相当するピークは認められなかったことが、記載されていることから(摘記4a参照)、甲第4号証には、「エイコサペンタエン酸のエチルエステルを全脂肪酸中に97.80質量%含有し、且つ該エイコサペンタエン酸のエチルエステル中の熱異性体の比率が0質量%である組成物。」の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

ウ 甲第5号証に記載された発明
甲第5号証には、EPA純度96.1重量%のエチルエステルを得たこと、及び、異性化物が0.0重量%であったことが、記載されていることから(摘記5a参照)、甲第5号証には、「エイコサペンタエン酸のエチルエステルを全脂肪酸中に96.1質量%含有し、且つ該エイコサペンタエン酸のエチルエステル中の異性化物の比率が0質量%である組成物。」の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。

エ 甲第6号証に記載された発明
甲第6号証には、EPA純度95.2重量%のエチルエステルを得たこと、及び、熱異性化物が0.0重量%であったことが、記載されていることから(摘記6a参照)、甲第6号証には、「エイコサペンタエン酸のエチルエステルを全脂肪酸中に95.2質量%含有し、且つ該エイコサペンタエン酸のエチルエステル中の異性化物の比率が0質量%である組成物。」の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。

オ 甲第10号証に記載された発明
甲第10号証には「エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に99質量%を超えて含有する組成物。」の発明(以下「甲10発明」という。)が記載されていると認められる(摘記10a参照)。

カ 甲第11号証に記載された発明
甲第11号証には、「エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に99質量%を超えて含有する組成物。」の発明(以下「甲11発明」という。)が記載されていると認められる(摘記11a参照。)。

キ 甲第20号証に記載された発明
甲第20号証には、「エイコサペンタエン酸のエチルエステルを全脂肪酸中に95質量%以上含有し、異性体不純物を含有する組成物。」の発明(以下「甲20発明」という。)が記載されていると認められる(摘記20a?c参照。)

(3)対比・判断
ア 本件特許発明について
(ア)甲1発明を主たる引用発明とする場合
a.甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明は、エイコサペンタエン酸の誘導体を含む組成物である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は、エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に95質量%以上含有し、且つ該エイコサペンタエン酸のアルキルエステル中のトランス異性体の比率が1質量%未満であるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。

b.相違点についての検討
甲第1号証には、エイコサペンタエン酸のアルキルエステルについて記載も示唆もない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
一方、甲第17号証の実施例5や表4に説明されている通り、EPAに対して特定のリパーゼを用いて30℃の温度で2段階のエチルエステル化反応を行うことで、合計エステル合成率96.4%を達成することが可能である(摘記17a)。
そして、甲第18号証に説明されているとおり、反応温度180℃未満ではEPA-Eの異性体は発生しないことが知られているから(摘記18a)、甲第1号証に記載のEPAを原料として、甲第17号証記載の、30℃の温度でリパーゼ合成により生成したEPAエチルエステル体でも異性体の発生はきわめて少ないものと推認される。
しかしながら、甲第1号証の出願当時のNMR分析は1%トランス異性体を検出できる精度を有している保証はなく、甲第1号証に記載のEPAはトランス異性体を1%以上多く含む可能性もあり得るし、甲第17号証記載の、30℃の温度でリパーゼ合成により生成したEPAエチルエステル体でもトランス異性体を発生していないとまではいえない。また、他に甲第1号証に記載のEPAを原料として、甲第17号証記載の、30℃の温度でリパーゼ合成により生成したEPAエチルエステル体中のトランス異性体の比率が1質量%未満であると推認できる技術常識も見当たらない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証及び甲第17号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第17号証に示された方法を用いた場合、トランス異性体を生成しない低い温度の酵素処理によりエチルエステルにすることは可能であり、すなわち、当業者であれば、甲第1号証で得られた魚油を、甲第17号証に記載の方法によりエチルエステル化することにより、熱異性体を含まない高純度アルキルエステルの高純度品の生成を容易に行うことができたといえると主張する。
しかし、上記b.のとおり、甲第1号証に記載のEPAはトランス異性体を1%以上多く含む可能性があり、甲第17号証記載の、30℃の温度でリパーゼ合成により生成したEPAエチルエステル体でもトランス異性体を発生していないとはいえないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(イ)甲4発明?甲6発明を主たる引用発明とする場合
a.甲4発明?甲6発明との対比
甲4発明における「全脂肪酸組成中にエイコサペンタエン酸エチル97.80質量%含有し」、甲5発明における「エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に96.1重量%以上含有し」、また、甲6発明における「エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に95.2重量%以上含有し」は、本件特許発明1における「エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に95質量%以上含有し」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲4発明?甲6発明は、以下の点で一致する。
「エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に95質量%以上含有」する組成物である点。
そして、以下の点で相違する。

<相違点2>
本件特許発明1は、エイコサペンタエン酸のアルキルエステル中のトランス異性体の比率が1質量%未満であると特定されているのに対し、甲4発明?甲6発明ではそのような特定がない点。

b.相違点についての検討
相違点2について検討するに、甲4発明における「熱異性化物」は、「ガスクロマトグラムのエイコサペンタエン酸とヘンエイコサペンタエン酸(C21:F;5)のピークの間にある、天然には認められないピーク」(段落0013)とし、甲6発明における「熱異性化物」は、「ガスクロマトグラムの、エイコサペンタエン酸とヘンエイコサペンタエン酸(C21:5)のピークの間にある、原料には認められないピーク」(段落0024)とし、甲5発明における「異性化物」は、「異性化物の含有率は、ガスクロマトグラムの、エイコサペンタエン酸エチルとヘンエイコサペンタエン酸エチルのピークの間にある、原料には認められないピーク」(段落0020)として、それぞれの含有率を示したものである。
ここで、甲第7号証の記載からは、図1より、BP-20カラムを用いた場合(右図)、all-シスのEPAメチルエステルは、単一のピークとして観察されるのに対し(図1[B])、熱により異性化したEPAメチルエステル(図1[D])、モノ-トランスEPAメチルエステル(図1[F])、ジ-トランスEPAメチルエステル(図1[H])は、all-シスの純粋なEPAメチルエステルのピークの後、すなわち長い保持時間(リテンションタイム)を持ったピークが多数観察されることがわかる。
しかしながら、甲第12号証では、SUPERCOWAX-10を用いてEPAのクロマトグラフィーを行なっているところ、それによると、EPAのクロマトグラムでは、甲第7号証に記載されるようなEPAの後に出てくるピークB?Eに加えて、EPAよりも先に出るピークAが存在し(摘記12a)、このピークAがモノトランス異性体であることが記載されている(摘記12c)。
したがって、甲第4号証?甲第6号証のようにEPAとHPAのピークのある間にあるピークを調べただけでは、組成物中の全トランス異性体を検出していないことになる。
そうすると、甲4発明?甲6発明の「熱異性化物」又は「異性化物」は全トランス異性体を含むものではなく、甲第4号証?甲第6号証には、エイコサペンタエン酸のアルキルエステル中のトランス異性体の比率が1質量%未満であるものが記載されているとはいえないし、示唆もされていない。
したがって、本件発明1は、甲第4号証?甲第6号証に記載された発明ではなく、甲第4号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第4号証?甲第6号証において、EPAとHPAの間で熱異性体を評価し検出されていないということは、仮にEPA前にピークがあったとしても、EPA後ろにある熱異性化物より多くなることはないため、EPA前後の熱異性化物合計量が1%未満であることは明らかであると主張する。
しかし、上記b.のとおり、EPAとHPAのピークのある間にあるピークを調べただけでは、組成物中の全トランス異性体を検出していないことになり、また、EPA前にある熱異性化物ピークがEPA後ろにある熱異性化物より多くなることはないとはいえないし、仮にピークが多くないとしても、EPA前後のこれらの熱異性化物の合計量が1%未満であるとする合理的根拠が見いだせない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(ウ)甲10発明、甲11発明を主たる引用発明とする場合
a.甲10発明、甲11発明との対比
甲10発明および甲11発明における「エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に99質量%を超えて含有する組成物。」は、本件特許発明1における「エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に95質量%以上含有する組成物。」の点で共通する。
したがって、両者は、「エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に95質量%以上含有する組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
本件特許発明1は、エイコサペンタエン酸のアルキルエステル中のトランス異性体の比率が1質量%未満であると特定されているのに対し、甲10発明及び甲11発明ではそのような特定がない点。

b.相違点についての検討
約2%のトランス異性体を含むEPAのトランス異性体が検出できないことを示す乙第4号証の結果を参照すると、EPA試薬にトランス異性体が混入しているにもかかわらず、それが検出されない場合もあり得るから、EPA試薬の純度>99%との表記のみでは、該EPA試薬がトランス異性体を1質量%以上含有している可能性は否定できない。そして、該EPA試薬中のトランス異性体比率が1質量%未満であることが推認できる技術常識も何ら見いだせない。
よって、本件特許発明1は、甲第10号証および甲第11号証に記載された発明ではなく、甲第10号証ないし甲第11号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、参考資料1を提出し、甲第10号証、甲第11号証に記載された試料はGC分析により、純度が99%を超えることが記載されていると主張する。
しかし、参考資料1は本願出願後に作成された文書であるし、その内容も如何なるものを分析対象としたものか明確でなく、甲第10号証、甲第11号証に記載された試料を分析したものであることが不明であるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(エ)甲20発明を主たる引用発明とする場合
a.甲20発明との対比
本件特許発明1と甲20発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致する。
「エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に95質量%以上含有」する組成物である点。
そして、以下の点で相違する。

<相違点4>
本件特許発明1は、エイコサペンタエン酸のアルキルエステル中のトランス異性体の比率が1質量%未満であると特定されているのに対し、甲20発明ではそのような特定がない点。

b.相違点についての検討
ここで、「異性体不純物」に関し、甲20号証の第47頁では「Wijesundera,R.C.、Journal of the American Oil Chemists Society,1989,vol.66,no.12,1822-1830,the entirety of which is incorporated herein by reference」が参照されており、この文献は甲第12号証(JAOCS,Vol.66.no.12(December 1989),1822-1830頁)であって、上述の通り、DB-WAXに相当するカラムでの分析結果が示されていることから、甲20号証に記載の「異性体不純物」は、「トランス異性体」に相当する。そして、図13のEPA EE前後に「異性体不純物」、すなわち「トランス異性体」は一見検出されていないようにも見える(摘記20e参照)。
しかしながら、甲第20号証の図13に示されるEPA EEのGCトレースを見ると、EPAとして示される最大のピークの右側に微少ながらピークが存在し、乙第3号証のB図や乙第4号証のGCチャートと照合させると、これらはトランス異性体のピークであると推定され、乙第4号証の結果から、図13に示されるEPA EEも、GCトレース上のトランス異性体のピークが極めて微小に見えるとしても、実際には2%又はそれ以上のトランス異性体を含有している可能性がある。そして、このピークが1質量%未満であることを推認させる技術常識も見いだせない。
そうすると、本件特許発明1は、甲第20号証に記載された発明はなく、本件発明1は甲第20号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c.特許異議申立人の主張
甲第20号証の図13はEPA95%以上を示していることから、他のピークの合計は5%未満ということになり、図13に示すように当該EPAの前後にはピークが確認できないことに加え、高さ及び形状が確認できるEPA以外の7つのピークを5%から除くと、確認できていない極めて微小に見えるEPAのトランス異性体を示すピークが1%を超えることがないことは明らかであると主張する。
しかし、上記b.のとおり、GCトレース上のトランス異性体のピークが極めて微小に見えるとしても、実際には2%又はそれ以上のトランス異性体を含有している可能性があることから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1において「エイコサペンタエン酸のアルキルエステルを全脂肪酸中に98質量%以上含有し」と特定するものである。
そうすると、上記アと同様の理由により、甲第1号証、甲第4号証?甲第6号証、甲第10号証、甲第11号証又は甲第20号証に記載された発明ではなく、甲第1号証、甲第4号証?甲第6号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第17号証又は甲第20号証に記載された発明に基き、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、令和元年10月15日付けの取消理由通知に記載した取消理由及びこれと同旨の特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-06-30 
出願番号 特願2017-168113(P2017-168113)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C11C)
P 1 651・ 113- Y (C11C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉岡 沙織  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 日比野 隆治
瀬下 浩一
登録日 2019-01-18 
登録番号 特許第6465938号(P6465938)
権利者 日清ファルマ株式会社
発明の名称 高度不飽和脂肪酸アルキルエステル含有組成物の製造方法  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  

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