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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1364298
審判番号 不服2019-8858  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-02 
確定日 2020-07-16 
事件の表示 特願2014-134922「ストレッチフィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月21日出願公開、特開2016- 11401〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年6月30日を出願日とする出願であって、その後の手続経緯は以下のとおりである。
平成29年12月22日付:拒絶理由通知書
平成30年 3月 9日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 7月24日付:拒絶理由通知書
平成30年11月29日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 3月29日付:拒絶査定
令和 1年 7月 2日 :審判請求書、手続補正書(以下、当該手続補正書でなされた補正を「本件補正」という。)の提出

第2 令和 1年 7月 2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和 1年 7月 2日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の全文は、次のとおり変更された。(なお、下線部は、本件補正前の請求項4?7との対比における補正箇所である。)
「 【請求項1】
0.1?10重量%の範囲の量のリポソームであって二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームを熱可塑性樹脂と混合してMFRが0.01?10g/10分の範囲の熱可塑性樹脂組成物組成物を製造し、該熱可塑性樹脂組成物をインフレーション成形法にて5?50μmの範囲の厚さに形成する、ストレッチフィルムの製造方法。
【請求項2】
二酸化炭素吸収物質が両親媒性脂質の脂質二重層内に取り込まれた状態で熱可塑性樹脂と混合される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
二酸化炭素吸収物質が、金属水酸化物、金属酸化物、アルミノケイ酸塩、チタン酸化合物、リチウムケイ酸塩およびこれらの2以上の混合物からなる群より選択される、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体、およびこれらの2以上の混合物からなる群より選択される、請求項1?3のいずれか1項に記載の製造方法。」

また、本件補正により、明細書における発明の名称、【0001】、【0006】、【0010】、【0013】、【0014】及び【0017】については記載内容が変更され、【0007】、【0008】、【0009】、【0015】及び【0016】については削除された。

特に、明細書の段落【0010】は、次のとおり変更された。
「【0010】
本発明の第1の態様は、0.1?10重量%の範囲の量のリポソームであって二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームを熱可塑性樹脂と混合してMFRが0.01?10g/10分の範囲の熱可塑性樹脂組成物組成物を製造し、該熱可塑性樹脂組成物をインフレーション成形法にて5?50μmの範囲の厚さに形成する、ストレッチフィルムの製造方法である。まず、熱可塑性樹脂と二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームとを混合して熱可塑性樹脂組成物を製造する。このとき、熱可塑性樹脂組成物の重量を基準として0.1?10重量%の範囲、好ましくは0.1?5重量%の範囲のリポソームが含まれることになるように、二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームを用意する。熱可塑性樹脂とリポソームとの混合は、樹脂組成物製造における一般的に用いられる手段の中から製造すべき熱可塑性樹脂組成物の量や性質に応じて適宜選択すればよい。たとえば各種ミキサー、各種フィーダー、各種アジテーターを用いることができる。熱可塑性樹脂とリポソームとの混合は、常温から400℃の範囲、好ましくは100?250℃の範囲で行われ、用いる熱可塑性樹脂に応じて適切な温度で行うことができる。なお、熱可塑性樹脂とリポソームとの混合の際には、まず規定量のリポソームと少量の熱可塑性樹脂とを混合してマスターバッチを製造し、得られたマスターバッチと残量の熱可塑性樹脂とを混合することもできる。このように複数段階に分けて熱可塑性樹脂と二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームとを混合することにより、二酸化炭素吸収物質を熱可塑性樹脂組成物中により均一に分散させることが可能となる。本発明においては、熱可塑性樹脂組成物の重量を基準として0.1?10重量%の範囲のリポソームが含まれることになるように、二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームを含有させることによりMFRが0.01?10g/10分の範囲の熱可塑性樹脂組成物組成物を製造する。」

2 本件補正の適否
(1)新規事項の追加について
本件補正が新たな技術的事項を導入するものであるか否かを判断する。
上記1のとおり、本件補正は、「0.1?10重量%の範囲の量のリポソーム」を熱可塑性樹脂組成物に含有するという事項を加入する補正を含むものである。
しかし、本願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下、これらを「当初明細書等)という。)には、「0.1?10重量%の範囲の量の二酸化炭素吸収物質」なる事項が記載されているものの(【請求項1】、【請求項4】、【請求項9】、【請求項11】、【0008】、【0010】、【0012】、【0015】、【0016】、【0018】、【0026】)、当初明細書等には「0.1?10重量%の範囲の量のリポソーム」なる事項は記載されておらず、また、熱可塑性樹脂組成物中に「0.1?10重量%の範囲の量の二酸化炭素吸収物質」を含有してなることが、「0.1?10重量%の範囲の量のリポソーム」を含有してなることと同義であると解しうる旨の記載もない。
さらに、本件補正後の【0010】における「本発明においては、熱可塑性樹脂組成物の重量を基準として0.1?10重量%の範囲のリポソームが含まれることになるように、二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームを含有させることによりMFRが0.01?10g/10分の範囲の熱可塑性樹脂組成物組成物を製造する。」なる事項は、その記載のとおり、「0.1?10重量%の範囲のリポソーム」を熱可塑性樹脂組成物に含有させることによりMFRが0.01?10g/10分の範囲の熱可塑性樹脂組成物組成物を製造するという技術的事項に関するものである。
そうすると、「0.1?10重量%の範囲のリポソーム」を熱可塑性樹脂組成物に含有することで、MFRが0.01?10g/10分の範囲の熱可塑性樹脂組成物が製造できることは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)独立特許要件について
ア 本件補正の目的
本件補正後の請求項1(本件補正前の請求項4に対応する。)に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、下記のとおりであると認める。
「0.1?10重量%の範囲の量のリポソームであって二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームを熱可塑性樹脂と混合してMFRが0.01?10g/10分の範囲の熱可塑性樹脂組成物を製造し、該熱可塑性樹脂組成物をインフレーション成形法にて5?50μmの範囲の厚さに形成する、ストレッチフィルムの製造方法。」

なお、本件補正後の請求項1には「熱可塑性樹脂組成物組成物を製造し」と記載されているが、その直後に「該熱可塑性樹脂組成物を」と記載されていることなどからして、「熱可塑性樹脂組成物組成物」との記載は「熱可塑性樹脂組成物」の誤記であると認め、本件補正発明を上記のとおり認定した。

また、本件補正前の、平成30年11月29日にされた手続補正による特許請求の範囲の請求項4の記載は次のとおりである。
「0.1?10重量%の範囲の量のリポソームであって二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームを含む熱可塑性樹脂と混合して熱可塑性樹脂組成物組成物を製造し、該熱顔性組成物をインフレーション成形法にて5?50μmの範囲の厚さに形成する、ストレッチフィルムの製造方法。」
(なお、本件補正前の請求項4の「熱可塑性樹脂組成物組成物」との記載は「熱可塑性樹脂組成物」の誤記であると認められる。)

してみると、上記補正は、本件補正前の請求項4に記載された発明を特定するために必要な事項である「熱可塑性樹脂組成物」について、「MFRが0.01?10g/10分の範囲の」なる限定を付加するものであって、本件補正前の請求項4に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 独立特許要件についての判断
上記アのとおり、上記補正は、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであるから、本件補正後の請求項1に記載される発明が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(ア)本件補正発明について
本件補正発明は、上記(2)アで認めたとおりである。

(イ)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2013-122020号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線については当審において付与したものである。)。
a「【0039】
即ち、包装(フィルム、レジ袋、ゴミ袋、包装テープ、ロープ等)、容器(化粧品容器、薬品容器、食品容器、カップ等)、建築資材(水道パイプ、断熱材パネル、パレット、ホース、養生シート等)、農業資材(ビニールハウス被覆材、マルチフィルム、米袋、肥料袋、飼料袋、土嚢袋、育苗ポット、プランター、植木鉢等)、漁業資材(漁網、釣り糸等)、電気部品(コンデンサー、電線被覆材等)、機械部品(ローラ、スクリュー、軸受等)、雑貨・日用品(ショッピングバック、文房具、バケツ、造花等)、発泡品(発泡緩衝材、クッション材、吸音材、静電気対策発泡間紙、保温材、断熱材等)等が本発明の主たる用途である。」
b「【0053】
{二酸化炭素排出量削減樹脂組成物の調整}
(組成物の生成)
ポリオレフィン系樹脂として高密度PE(プライムポリマー社製,ハイゼックス5000SF)を用いた。」
c「【0054】
前記のようにして生成したリポソーム30gと、高密度PEペレット1kgとをミキサー(カワタ製、SMV-200)に入れて60℃に加温しながら1000rpmで5分間撹拌した。この時、撹拌によって発生する摩擦や衝撃によって、リポソームが崩壊する。すると、リポソームのカプセル膜成分であるリン脂質は分散剤として働き、リポソーム内で保持(内包)されていた二酸化炭素吸収剤としてのアルミノケイ酸ナトリウムと高密度PEの結晶核剤としてのSodium 2,2'-methylene-bis-(4,6-di-tert-butylephenyl)phosphateは、多数の高密度PEペレット表面に広範囲にわたって分散される。次の工程において、2軸押出機(テクノベル製、KZW32TW-30/45MG-NH)によって150rpm、樹脂温度180℃の条件下で混練して、ペレット化することにより、ナノカプセルとされているリポソームの崩壊したリン脂質および総合添加核剤がナノオーダーで均一分散された高密度PEからなる二酸化炭素排出量削減樹脂組成物を得た。」
d「【0055】
(樹脂フィルムの生成)
前記のように生成された二酸化炭素排出量削減樹脂組成物の各種の特性を測定するために、用途の1つとして樹脂フィルムを下記のようにして生成した。」

(ウ)引用文献1発明
上記(イ)a-dより、引用文献1には次のとおりの発明が記載されていると認められる(以下、「引用文献1発明」という。)。
「二酸化炭素吸収剤を内包するリポソーム30gを1kgの高密度PEペレットと混合して二酸化炭素排出量削減樹脂組成物を生成し、該二酸化炭素排出量削減樹脂組成物からフィルムを生成する方法。」

(エ)対比・判断
本件補正発明と引用文献1発明とを対比する。
引用文献1発明の「二酸化炭素吸収剤」は本件補正発明の「二酸化炭素吸収物質」に相当する。
また、「高密度PEペレット」、すなわち高密度ポリエチレンペレットが熱可塑性樹脂であることは技術常識であり、引用文献1発明の「二酸化炭素排出量削減樹脂組成物」は本件補正発明の「熱可塑性樹脂組成物」に相当する。
また、リポソーム30gを1kgの高密度PEペレットと混合した場合、これらの混合物全体に対するリポソームの割合は、約2.9重量%(=30/[30+1000]*100)となる。
さらに、引用文献1発明の「生成」及び「生成する方法」は本件補正発明の「製造」及び「製造方法」に相当する。

そうすると、本件補正発明と引用文献1発明とは、以下の点で一致する。
「約2.9重量%の量のリポソームであって二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームを熱可塑性樹脂と混合して熱可塑性樹脂組成物を製造し、該熱可塑性樹脂組成物を形成する、フィルムの製造方法。」

そして、本件補正発明と引用文献1発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
熱可塑性樹脂組成物(二酸化炭素排出量削減樹脂組成物)について、本件補正発明は「MFRが0.01?10g/分の範囲」と特定されるのに対し、引用文献1発明はこの特定がされていない点。

<相違点2>
フィルムの製造方法にあたって、熱可塑性樹脂組成物(二酸化炭素排出量削減樹脂組成物)を形成する方法について、本件補正発明は「インフレーション成形法」と特定されるのに対し、引用文献1発明はこの特定がされていない点。

<相違点3>
本件補正発明は、フィルムの製造方法について、「5?50μmの範囲の厚さに形成する」と特定されるのに対し、引用文献1発明は「厚さ」についての特定がされていない点。

<相違点4>
本件補正発明は、製造されるフィルムについて、「ストレッチフィルム」と特定されるのに対し、引用文献1発明は製造されるフィルムについて「ストレッチフィルム」であることの特定がされていない点。

そこで、上記相違点について判断する。
相違点1について
本願明細書の発明の詳細な説明(平成30年11月29日提出の手続補正書においてその全文が補正され、令和 1年 7月 2日提出の手続補正書においてその一部が変更あるいは削除されたもの)には、以下の事項が記載されている(下線については当審で付与したものである。)。
「【0010】
本発明の第1の態様は、0.1?10重量%の範囲の量のリポソームであって二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームを熱可塑性樹脂と混合してMFRが0.01?10g/10分の範囲の熱可塑性樹脂組成物組成物を製造し、該熱可塑性樹脂組成物をインフレーション成形法にて5?50μmの範囲の厚さに形成する、ストレッチフィルムの製造方法である。まず、熱可塑性樹脂と二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームとを混合して熱可塑性樹脂組成物を製造する。このとき、熱可塑性樹脂組成物の重量を基準として0.1?10重量%の範囲、好ましくは0.1?5重量%の範囲のリポソームが含まれることになるように、二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームを用意する。熱可塑性樹脂とリポソームとの混合は、樹脂組成物製造における一般的に用いられる手段の中から製造すべき熱可塑性樹脂組成物の量や性質に応じて適宜選択すればよい。たとえば各種ミキサー、各種フィーダー、各種アジテーターを用いることができる。熱可塑性樹脂とリポソームとの混合は、常温から400℃の範囲、好ましくは100?250℃の範囲で行われ、用いる熱可塑性樹脂に応じて適切な温度で行うことができる。なお、熱可塑性樹脂とリポソームとの混合の際には、まず規定量のリポソームと少量の熱可塑性樹脂とを混合してマスターバッチを製造し、得られたマスターバッチと残量の熱可塑性樹脂とを混合することもできる。このように複数段階に分けて熱可塑性樹脂と二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームとを混合することにより、二酸化炭素吸収物質を熱可塑性樹脂組成物中により均一に分散させることが可能となる。本発明においては、熱可塑性樹脂組成物の重量を基準として0.1?10重量%の範囲のリポソームが含まれることになるように、二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームを含有させることによりMFRが0.01?10g/10分の範囲の熱可塑性樹脂組成物組成物を製造する。」
「【0012】
インフレーション成形法により熱可塑性樹脂組成物をストレッチフィルムの形状に成形する際に重要となる熱可塑性樹脂組成物の性質はMFR(Melt Flow Rate)である。MFRの値が小さすぎると、熱可塑性樹脂組成物を薄く延ばすことができないという不都合があり、MFRの値が大きすぎると成形不能(ドロドロで破れる)という不都合が生じうる。このため、熱可塑性樹脂組成物のインフレーション成形法による成形加工特性が低下して、第1の態様のストレッチフィルムを効率的に製造しにくくなりうる。インフレーション成形法によるストレッチフィルムの製造に好適な熱可塑性樹脂組成物のMFRは、0.01?10g/10分の範囲、好ましくは0.01?5g/10分の範囲である。そこで、熱可塑性樹脂組成物中の二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームの量を、熱可塑性樹脂組成物の重量を基準として0.1?10重量%の範囲、好ましくは0.1?5重量%の範囲とすることが重要となる。二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームの量を特定の上記の範囲に維持すると、インフレーション成形法によるフィルム形成が容易になる。インフレーション成形法により製造されたストレッチフィルムは、一般的にはロール状に巻かれた状態の製品となるが、ストレッチフィルムの使用の態様に応じて、たとえばロールから特定の大きさに切り出したシート状の形態で保管しておくこともできる。」
「【実施例】
【0023】
[実施例1]ストレッチフィルムの製造
ストレッチフィルムを製造するための熱可塑性樹脂組成物は、特開2013-122020号の実施例にしたがって製造した。具体的には以下の通りである:
…(中略)…
5.ストレッチフィルムの製造
得られたペレットを用いて、インフレーション成形機を用いて厚さ12μmのストレッチフィルムを成形した。
6.破断強度、引裂強度の測定
上記5.と同様の方法で製造した各ストレッチフィルムの樹脂の流れの方向(MD)ならびに樹脂の幅方向(TD)の破断強度をそれぞれJISZ1702にしたがって測定し、同じく樹脂の流れの方向(MD)ならびに樹脂の幅方向(TD)の引裂強度をそれぞれJISK7128にしたがって測定した。まず対照として、二酸化炭素吸収物質アルミノ珪酸ナトリウムおよびリン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウムが含まれていない熱可塑性樹脂高密度ポリエチレンのみで同じ厚さに形成したフィルムを用い、同様に破断強度(MDおよびTD)ならびに引裂強度(MDおよびTD)を測定した(表1中、二酸化炭素吸収物質含有量を内包するリポソーム0重量%)。
同様に熱可塑性樹脂組成物の重量を基準として二酸化炭素吸収物質アルミノ珪酸ナトリウムを内包するリポソームの重量を0.1重量%、3重量%、5重量%、10重量%としたものを各々用意して、同様にストレッチフィルムを形成した。これらの破断強度および引裂強度(MDおよびTD)を上記と同様に測定した。」
「【0026】
[実施例2]ストレッチフィルム製膜性
熱可塑性樹脂組成物をインフレーション成形法により製膜する際の加工性は、MFRにより見積もることができる。そこで実施例1で製造した各熱可塑性樹脂組成物のMFRを、JISK7210の方法により測定した。実施例1で製造した各熱可塑性樹脂組成物のMFRの値は、いずれもインフレーション成形法による製膜が可能な範囲に入っていた。
熱可塑性樹脂組成物中に二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームの量を0.1?10重量%の範囲含んでいても、インフレーション成形法による製膜を阻害することがないことがわかった。」

そして、上記事項からすると、引用文献1発明における「約2.9重量%の量のリポソームであって二酸化炭素吸収物質を内包するリポソームを熱可塑性樹脂と混合」した「熱可塑性樹脂組成物」は、本願明細書の発明の詳細な説明で記載されている、熱可塑性樹脂組成物の重量を基準としたリポソームの量が、インフレーション成形法によるフィルム形成が容易になる範囲とされ、あるいはインフレーション成形法による製膜を阻害することがないとされる0.1?10重量%の範囲に含まれるものであることから、本願明細書の段落0012に記載の如くのMFRが0.1g/10分を下回る不都合や10g/10分を上回る不都合が発生していないものと解され、そのMFRが0.1?10g/10分の範囲内にある蓋然性は高いといえる。そうすると、上記相違点1は実質的な相違点とはならないものと認められる。
仮に、相違点1が実質的なものであるとしても、特開2003-311830号公報の記載(【請求項3】等)からみて、引用文献1発明においてそのMFRを設定しようとした当業者が相違点1に係る構成を採用することは、容易に想到し得たことである。

相違点2について
フィルムを形成するにあたり、インフレーション成形法は周知慣用の技術である。
また、引用文献1には、上記(イ)aのとおり、二酸化炭素削減樹脂組成物の用途として「包装(フィルム、レジ袋、ゴミ袋、包装テープ、ロープ等)」が記載されているところ、「レジ袋」や「ゴミ袋」についてはインフレーション成形法を用いて製造することが技術常識である。
してみると、引用文献1発明の「フィルムを生成する方法」において、その方法をインフレーション成形法とすることは当業者が格別の困難性なしに適宜になし得たことである。

相違点3について
フィルムを製造する際にその厚みをどの程度のものとするかは、用途に応じて必要とされる強度や伸長性等を勘案した上で当業者が適宜設定する事項であり、その値を5μm?50μmの範囲に含まれるものとすることは当業者の設計事項に属するものである。
してみると、引用文献1発明の「フィルムを生成する方法」において、生成するフィルムの厚みを5μm?50μmの範囲に含まれるものとすることは当業者が容易に想到し得ることであり、しかも、この数値範囲に臨界的意義があるともいえない。

相違点4について
上記相違点2で述べたように、引用文献1には、二酸化炭素削減樹脂組成物の用途として「包装(フィルム、レジ袋、ゴミ袋、包装テープ、ロープ等)」が記載されている。そして、包装や梱包等の手段に用いられるフィルムにおいてストレッチフィルムは周知慣用のものである。
したがって、引用文献1発明の「フィルムを生成する方法」により製造されるフィルムについて、これをストレッチフィルムとすることは当業者が適宜なし得ることである。

(オ)本件補正発明の奏する作用効果について
本件補正発明が上記相違点1及び相違点2に係る構成を有することの効果について、本件補正後の本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【0012】
インフレーション成形法により熱可塑性樹脂組成物をストレッチフィルムの形状に成形する際に重要となる熱可塑性樹脂組成物の性質はMFR(Melt Flow Rate)である。MFRの値が小さすぎると、熱可塑性樹脂組成物を薄く延ばすことができないという不都合があり、MFRの値が大きすぎると成形不能(ドロドロで破れる)という不都合が生じうる。このため、熱可塑性樹脂組成物のインフレーション成形法による成形加工特性が低下して、第1の態様のストレッチフィルムを効率的に製造しにくくなりうる。インフレーション成形法によるストレッチフィルムの製造に好適な熱可塑性樹脂組成物のMFRは、0.01?10g/10分の範囲、好ましくは0.01?5g/10分の範囲である。…」

しかしながら、本件補正発明がインフレーション成形法においてMFRを特定の範囲とする効果は、例えば特開2003-311830号公報の段落0010において、「α-オレフィン共重合体のメルトフローレート(230℃、荷重2.16kg)としては、0.5?10.0g/10分が好ましく、1.0?7.0g/10分が、インフレーション成形加工しやすく望ましいものである。」、「メルトフローレートが、0.5g/10分未満では、フィルムを成形する際、膜切れが発生し、平滑なフィルムが得られず、好ましくない。メルトフローレートが、10.0g/10分を超えると、ポリプロピレン中にα-オレフィン共重合体ブロックが島状に分散した海島構造形態をとり、製膜が困難となる上、シール強度、耐寒衝撃性に劣るため、好ましくない。」との記載されているように、本願の出願日前において当業者において周知の事項であったと解され、当業者が想到し得ないほどの格別のものであると認められない。
また、その他に相違点1ないし相違点4の相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1発明の奏する作用効果から当業者が通常予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本件補正発明は、引用文献1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、上記2(1)のとおり特許法17条の2第3項の規定に違反するものであり、また上記2(2)のとおり特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものであるので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和 1年 7月 2日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし11に係る発明は、平成30年11月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項4に記載された事項により特定される、前記第2の2(2)アに記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項4に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の2(2)イ(イ)及び(ウ)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の2で検討した本件補正発明から、「熱可塑性樹脂組成物」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の2(2)ウ及びエに記載したとおり、引用文献1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-05-01 
結審通知日 2020-05-12 
審決日 2020-05-29 
出願番号 特願2014-134922(P2014-134922)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (C08J)
P 1 8・ 575- Z (C08J)
P 1 8・ 121- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飛彈 浩一岩田 行剛  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 神田 和輝
須藤 康洋
発明の名称 ストレッチフィルムの製造方法  
代理人 伊藤 高英  
代理人 前野 房枝  
代理人 中尾 俊輔  

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