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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01B 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B |
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管理番号 | 1364313 |
審判番号 | 不服2019-13337 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-10-04 |
確定日 | 2020-08-04 |
事件の表示 | 特願2015- 48753「透明導電性シート及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月23日出願公開、特開2016-170915、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成27年 3月11日の出願であって,平成30年12月 4日付けで拒絶理由通知がされ,平成31年 2月 7日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ,令和 1年 7月 3日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年10月 4日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和 1年 7月 3日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1 本願請求項1ないし7に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された以下の引用文献1ないし4に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。 2 本願請求項1ないし8に係る発明は,本願の出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の引用文献1ないし4に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.国際公開第2014/053572号 2.特開平11-202104号公報 3.特開2014-096313号公報 4.特開2010-277888号公報 第3 審判請求時の補正について 審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 審判請求時の補正による,請求項1に「前記疎水性有機バインダは,ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF),フッ化ビニリデン-アクリル共重合体,フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体,ポリカーボネート樹脂,ポリウレタン樹脂,ポリスチレン樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,ポリエチレングリコール(PEG),ポリエチレンオキサイド,及びポリプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる一つであり,」という事項を追加する補正は,補正前の「疎水性有機バインダ」なる発明特定事項を限定することにより,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,当該追加される事項は,本願の当初明細書の段落【0017】に記載されており,新たな技術事項を導入するものではないから,新規事項を追加するものではないといえる。 そして,以下に示すように,補正前の請求項1ないし12に係る発明は,独立特許要件を充足する。 第4 本願発明 本願請求項1ないし12に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は,令和 1年10月 4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1ないし12は以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 透明基材と,前記透明基材の少なくとも一方の主面に形成された透明導電性膜とを含む透明導電性シートであって, 前記透明導電性膜は,導電性高分子と,疎水性有機バインダとを含み, 前記疎水性有機バインダは,ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF),フッ化ビニリデン-アクリル共重合体,フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体,ポリカーボネート樹脂,ポリウレタン樹脂,ポリスチレン樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,ポリエチレングリコール(PEG),ポリエチレンオキサイド,及びポリプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる一つであり, 前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し, 前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成していることを特徴とする透明導電性シート。 【請求項2】 前記導電性高分子の膜は,前記疎水性有機バインダの膜の間に配置されている請求項1に記載の透明導電性シート。 【請求項3】 前記疎水性有機バインダが,連続膜を形成している請求項1又は2に記載の透明導電性シート。 【請求項4】 前記疎水性有機バインダの連続膜の厚さが,10nm以上300nm以下である請求項3に記載の透明導電性シート。 【請求項5】 前記導電性高分子は,ポリチオフェン系化合物とポリスチレンスルホン酸とを含む請求項1?4のいずれか1項に記載の透明導電性シート。 【請求項6】 前記透明導電性膜における前記導電性高分子と前記疎水性有機バインダとの体積比が,1:99?70:30である請求項1?5のいずれか1項に記載の透明導電性シート。 【請求項7】 前記透明基材は,プラスチック,ゴム,ガラス又はセラミックスからなる請求項1?6のいずれか1項に記載の透明導電性シート。 【請求項8】 前記透明導電性膜の表面抵抗値が,50?107Ω/スクエアである請求項1?7のいずれか1項に記載の透明導電性シート。 【請求項9】 請求項1?8のいずれか1項に記載の透明導電性シートの製造方法であって, 導電性高分子と,疎水性樹脂と,溶媒とを含む透明導電性膜形成用塗布液を作製する工程と, 前記透明導電性膜形成用塗布液を,高圧ホモジナイザーを用いて分散処理する工程と, 分散処理した前記透明導電性膜形成用塗布液を透明基材の上に塗布して加熱することにより,前記透明基材の上に透明導電性膜を形成する工程とを含むことを特徴とする透明導電性シートの製造方法。 【請求項10】 前記溶媒は,プロトン性極性溶媒と,非プロトン性極性溶媒とを含む請求項9に記載の透明導電性シートの製造方法。 【請求項11】 前記導電性高分子は,ポリチオフェン系化合物とポリスチレンスルホン酸とを含む請求項9又は10に記載の透明導電性シートの製造方法。 【請求項12】 前記疎水性樹脂は,疎水性樹脂エマルジョンとして用いる請求項9?11のいずれか1項に記載の透明導電性シートの製造方法。」 第5 引用文献1ないし4及び引用発明1ないし4 1 引用文献1について (1)引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,下記の内容が記載されている。また,原文の摘記は省略し,翻訳文のみ記載する。 ア「多層導電性透明電極であって - 基板層(1)と, - 任意に置換された,少なくとも1つのポリチオフェン導電性ポリマーを備える導電層(2)を備え,導電層(2)は,基板層(1)と直接接触し,導電層(2)はまた,前記任意に置換されたポリチオフェン導電性ポリマーと化学的適合性を有する,少なくとも1つの疎水性粘着性ポリマーを備え,これにより,3%以下のヘイズ値を有することを特徴とする多層導電性透明電極。」(第21頁第3ないし13行) イ「基板(1)は,ガラス,および透明な可撓性ポリマーから選択されることを特徴とする,請求項1?6のいずれか1項に記載の多層導電性透明電極。」(第22頁第6ないし8行) ウ「多層導電性透明電極製造方法であって, - 導電層(2)を形成する組成物を調整するステップ(i)であって,前記組成物は, ・任意に置換された,少なくとも1つのポリチオフェン導電性ポリマーと, ・前記任意に置換されたポリチオフェン導電性ポリマーと化学的適合性を有する疎水性粘着性ポリマーとを備え,これにより,前記多層導電性透明電極は,3%以下のヘイズ値を有する,ステップ(i)と, - 導電層(2)を構成する組成物を,基板層(1)の上に直接に形成し,乾燥するステップ(ii)と, - 導電層(2)を架橋するステップ(iii)とを備えていることを特徴とする多層導電性透明電極製造方法。」(第22頁第19行ないし第23頁第4行) エ「実施例A 3.3gのDMSOを,20mgのPVP(脱イオン水中で20%に希釈)に添加し,次いで,磁気撹拌機を使用して,600rpmで10分間撹拌する。その後,3gのPEDOT:PSS(乾燥抽出物1.2%を含有)を以前の混合物に添加する。更に10分間撹拌した後,1.6gのEmultex378(登録商標)(脱イオン水中で10%に希釈,乾燥抽出物4.5%,Tg=40℃)を溶液に加え,30分間撹拌する。 次いで,得られた混合物を,スクレーパーを使用して,ガラス基板層上に塗布する。この堆積物を,150℃で5分間加硫する。 実施例B 3.3gのDMSOを,20mgのPVP(脱イオン水中で20%に希釈)に添加し,次いで,磁気撹拌機を使用して,600rpmで10分間撹拌する。その後,3gのPEDOT:PSS(乾燥抽出物1.2%を含有)を以前の混合物に添加する。更に10分間撹拌した後,2.4gのRevacryl5467(登録商標)(脱イオン水中で10%に希釈,乾燥抽出物3.0%)を溶液に加え,30分間撹拌する。 次いで,得られた混合物を,スクレーパーを使用して,ガラス基板層上に塗布する。この堆積物を,150℃で5分間加硫する。」(第17頁第9行ないし第18頁第14行) (2)引用発明1 引用文献1には,上記(1)ア及びイの記載内容から,下記の発明(以下,「引用発明1」という。以下,同様。)が記載されていると認める。 「ガラス,および透明な可撓性ポリマーから選択される基板層と,前記基板層に形成された導電層を備えた,導電性透明電極であって, 前記透明導電層は,ポリチオフェン導電性ポリマーと,疎水性粘着性ポリマーとを備えた, 透明導電性電極。」 2 引用文献2について (1)引用文献2に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には,次の事項が記載されている。 ア「【請求項1】 透明基材フィルムと,この基材フィルムの少なくとも一方の面に設けられた導電性層と,該導電性層上に凹レンズあるいは凸レンズからなるレンズ層とから積層され,前記導電性層が,ポリチオフェン骨格を含むことを特徴とするレンズフイルム。」 イ「【0014】上記のポリチオフェンを骨格とする導電性高分子からなる導電層を,透明な基材フィルムに塗工により設けた導電性層は無色,かつ透明であり,その表面抵抗を10^(12)Ω/□とすることができ,経時的にその導電性を低下しない特性をもっている。」 ウ「【0016】本発明の,導電性層は,基材シート1の一方の側ばかりでなく,図2又は図3に示すように基材シートの双方の側に設けることができる。図2に示すようにレンズ層10の他の側に設けた導電性層2は,一方に設けたものよりも高い導電性をもたせることができる。また,他の側に設けた導電性層2に図3に示すように受光面6側のレンズ層3に集光,拡散などの特性をもつレンズ層を設けることもできる。」 エ「【0017】ポリチオフェン骨格を含む導電性高分子を分散する塗工液の樹脂組成物(分散媒)は,基材フィルムとの接着がよく,樹脂組成物として耐光性や,耐湿性があり,また,導電性層の上に設けるレンズ層との接着がよいものから選択する。熱可塑性樹脂を主成分とするものには,線状ポリエステル,ポリウレタン,アクリル系樹脂,ポリビニルブチラール,ポリアミド,塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体などに,所望に応じて可塑剤や光安定剤を加えたバインダーを使用することができる。」 オ「【0029】 【実施例】以下,実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。 (実施例 1)図1で示すように厚み125μmのポリエステルフィルムA-4300(基材フィルム1 東洋紡(株)製 商品名)の一方の面に,下記組成(1) の導電性コート剤Baytron(バイエル(株)製 商品名)を,下記のエマルジョン(分散媒)に分散して塗工液Aを作成した。そして,上記塗工液Aをエァナイフ方法で塗工し,100℃ 1分間の乾燥をし,厚み0.1μmの導電性層2を形成した。次いで導電性層2にエポキシアクリレートZ9002A(日本合成ゴム(株)製 反応硬化型樹脂 商品名)をプリズム版に充填・密着して紫外線を照射して硬化しプリズム形状(頂角97 度,ピッチ50μm,凹部の厚みhが1μm)の実施例1のレンズフイルム10を作成した。なお,レンズフイルムは形成後に保護フィルムをその表面に設けて,積層状態で保存した。 (導電性コート剤の組成) ・ポリエチレンジアルコキシチオフェン(PEDT) 0.5重量部 ・ポリスチレンスルフォン酸(PSS) 0.8重量部 ・水 98.7重量部 『塗工液 A』 ・導電性コート剤 38.5重量部 ・ファインテックスES-850(分散媒) 16.7重量部 (ポリエステル系エマルジョン DIC製 商品名) ・溶媒(水/イソプロピルアルコール=3/1) 44.8重量部 【0030】(実施例 2)実施例1で使用した塗工液の組成を下記のようにした『塗工液B』を用いた以外は,実施例1と同様にして実施例2のレンズフイルム10を作成した。 『塗工液 B』 ・導電性コート剤 77.0重量部 ・ファインテックスES-850(分散媒) 16.7重量部 ・溶媒(水/イソプロピルアルコール=3/1) 6.3重量部 【0031】(実施例 3)実施例1で使用した塗工液の組成を下記のようにした『塗工液C』を用いた以外は,実施例1と同様にして実施例3のレンズフイルム10を作成した。 『塗工液 C』 ・導電性コート剤 9.5重量部 ・ファインテックスES-850(分散媒) 16.7重量部 ・溶媒(水/イソプロピルアルコール=3/1) 73.8重量部 【0032】(実施例 4)実施例1で使用した塗工液の組成を下記のようにした『塗工液D』を用いた以外は,実施例1と同様にして実施例3のレンズフイルム10を作成した。 『塗工液 D』 ・導電性コート剤 2.4重量部 ・ファインテックスES-850(分散媒) 16.7重量部 ・溶媒(水/イソプロピルアルコール=3/1) 80.9重量部」 カ「【図2】 」 (2)引用発明2 引用文献2には,上記(1)ア,イ及びオの記載から,下記の引用発明2が記載されていると認める。 「透明基材フィルムと,この基材フィルムの少なくとも一方の面に設けられた透明な導電性層とを含むレンズフィルムであって, 該導電性層は,ポリチオフェン骨格を含む導電性高分子をエマルジョン(分散媒)に分散した塗工液を塗工,乾燥してなるものである, レンズフィルム。」 3 引用文献3について (1)引用文献3に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には,次の事項が記載されている。 ア「【請求項1】 透明な基材フィルムの表面に少なくとも透明導電性層を積層してなる透明導電性フィルムであって, 前記透明導電性層を構成する塗料である導電性物質が,溶媒としての水又はアルコールの何れかもしくはこれらの混合液に分散された状態の導電性高分子樹脂とドーパントと,によりなるものであり, 前記導電性高分子樹脂がポリチオフェンであり, 前記ドーパントがポリスチレンスルホン酸およびポリスチレンスルホン酸共重合体であり, 前記導電性物質に,疎水性樹脂をバインダー樹脂として含有してなること, を特徴とする,透明導電性フィルム。」 イ「【0068】 <試料No.1?No.4> ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸ホモポリマーを用いた試料No.1?No.4の4種の導電性物質の作製方法について,説明する。 ・・・ 【0076】 以上により,試料No.1?No.4の導電性物質を用いて,ポリエチレンテレフタレートフィルム上に導電性高分子膜を形成した4種類の導電性フィルムが得られた。」 (2)引用発明3 引用文献3には,上記(1)アから,下記の引用発明3が記載されていると認める。 「透明な基材フィルムと,透明な基材フィルムの表面に少なくとも透明導電性層を積層してなる透明導電性フィルムであって, 前記透明導電性層を構成する塗料である導電性物質が,溶媒としての水又はアルコールの何れかもしくはこれらの混合液に分散された状態の導電性高分子樹脂とドーパントと,によりなるものであり, 前記導電性高分子樹脂がポリチオフェンであり, 前記ドーパントがポリスチレンスルホン酸およびポリスチレンスルホン酸共重合体であり, 前記導電性物質に,疎水性樹脂をバインダー樹脂として含有してなる, 透明導電性フィルム。」 4 引用文献4について (1)引用文献4に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には,次の事項が記載されている。 ア「【請求項1】 分散媒と,導電性有機化合物と,下記式(1)で表わされるポリビニルアルコールと,を含有する塗布液組成物であって,前記ポリビニルアルコールは,z/(x+y+z)×100で表わされる共重合比率が5mol%?20mol%であることを特徴とする塗布液組成物。 -[CH_(2)-CH(OCOCH_(3))]_(x)-[CH_(2)-CH(OH)]_(y)-[CH_(2)-CH(R)]_(z)-…式(1) (式(1)中でのRは,水素またはCH_(3)を表す。)」 イ「【0009】 この構成によれば,ポリビニルアルコールの分子鎖中の疎水基により,ポリビニルアルコールの結晶性を損なうことなく吸湿性を抑制できるので,機械的強度が高く,耐湿性が高い導電膜を得ることができる。」 ウ「【0052】 (実施例1) <塗布液組成物調整工程> エタノール50g及び変性PVA(クラレ社製,商品名:エクセパール,型番:RS-2117)0.2gを混合してバインダー溶液を調製した。次いで,バインダー溶液とPEDOT/PSS水性分散液(H.C.Starck社製,商品名:PH510)100gとを混合して塗布液組成物を調整した。次にエンハンサーとして,塗布液組成物に対して5重量部のDMSOを添加した。混合溶解した後,塗布液組成物をクリーンルーム内で孔0.45μmのフィルターでろ過して塗布液組成物を調製した。塗布液組成物中のバインダー濃度は,PEDOT/PSS100重量部に対して10重量部であった。 【0053】 <基材の調整> クリーンルーム内でPETフィルムをカットした(長さ60mm×幅60mm×厚さ0.2mm)。次いで,このPETフィルムをガラスウェハー(外径φ100mm×厚さ0.7mm)に貼り付けて導電薄膜の基材を調整した。 【0054】 <塗布工程> スピンコーター(ミカサ社製)を用いて回転数1400rpm,回転時間20秒の条件下,基材上に塗布液組成物を塗布した。 【0055】 <ベーク工程> 得られた薄膜を90℃で10分プリベークし,次いで,120℃で20分間本ベークした。得られた導電膜の膜厚は,200nmであった。また,全光線透過率は76.6%,面積抵抗は140Ω/□,低荷重鉛筆硬度試験は3B,高温高湿試験はΔR=+6%以下であった。結果を表2に示す。 【0056】 (実施例2) 塗布液組成物中のバインダー濃度が,PEDOT/PSS100重量部に対して20重量部となるようにバインダー溶液を調整したこと以外は,実施例1と同様にして導電膜を得た。結果を表2に示す。 【0057】 (実施例3) 塗布液組成物中のバインダー濃度が,PEDOT/PSS100重量部に対して30重量部となるようにバインダー溶液を調整したこと以外は,実施例1と同様にして導電膜を得た。結果を表2に示す。 【0058】 (実施例4) 塗布液組成物中のバインダー濃度が,PEDOT/PSS100重量部に対して40重量部となるようにバインダー溶液を調整したこと以外は,実施例1と同様にして導電膜を得た。結果を表2に示す。」 (2)引用発明4 引用文献4には,上記(1)アないしウの記載から,下記の引用発明4が記載されていると認める。 「透明なPETフィルムよりなる基材と,前記透明なPETフィルム上に塗布及びベークされてなる透明な導電膜とを含む,シートであって, 前記透明な導電膜は,PEDOT/PSS水性分散液に由来する導電性有機化合物と,疎水性の変性PVAよりなるバインダーとを含む, 基材および導電膜。」 第6 対比・判断 1 本願発明1ないし12と,引用発明1との対比・判断 (1)本願発明1ないし8について ア 本願発明1について 引用発明1における「導電性ポリマー」及び「疎水性粘着性ポリマー」は,本願発明1における「導電性高分子」及び「疎水性有機バインダ」にそれぞれ相当する。 また,引用発明1における「ガラス,及び透明な可撓性ポリマーから選択される基板層」は,基板層の材質から「透明」と認め,本願発明1における「透明基材」に相当する。さらに,引用発明1における「多層導電性透明電極」も透明であるから,「導電層」も透明であると認め,引用発明1における「導電層」は,本願発明1における「透明導電性膜」に相当する。 そして,これらよりなる引用発明1の「透明導電性電極」は,本願発明1の「透明導電性シート」に対応する。 また,引用発明1の透明な「導電層」は,「透明な基板層」の少なくとも一方の主面に形成されることは明らかである。 したがって,本願発明1と引用発明1とは, 「透明基材と,前記透明基材の少なくとも一方の主面に形成された透明導電性膜とを含む透明導電性シートであって, 前記透明導電性膜は,導電性高分子と,疎水性有機バインダとを含む, 透明導電性シート。」 の点で一致し,下記の点で相違する。 ・相違点1-1 本願発明1は,疎水性有機バインダについて,「前記疎水性有機バインダは,ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF),フッ化ビニリデン-アクリル共重合体,フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体,ポリカーボネート樹脂,ポリウレタン樹脂,ポリスチレン樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,ポリエチレングリコール(PEG),ポリエチレンオキサイド,及びポリプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる一つであり,」と特定するのに対し,引用発明1はこのような特定がない点。 ・相違点1-2 本願発明1は,導電性高分子と疎水性有機バインダについて,「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」と特定するのに対し,引用発明1はこのような特定がない点。 事案に鑑み,上記相違点1-2から先に検討する。 上記のとおり,引用発明1は導電性高分子と疎水性有機バインダについて「複数の層状の膜」を形成することを特定するものではなく,引用文献1もこれを明示的に記載するものではない。 引用発明1の導電性高分子と疎水性有機バインダが,本願発明1の「複数の層状の膜」を実質的に形成しているか否かを,本願明細書の記載と引用文献1の記載とを対比して検討する。 本願明細書は,本願発明1の「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」なる発明特定事項について,このような膜が形成される理由として, 「【0029】 上記疎水性樹脂は,前述の疎水性有機バインダとして使用できる疎水性樹脂と同じ樹脂が使用できるが,その使用形態は,疎水性樹脂エマルジョンとして用いることが好ましい。上記導電性高分子は通常水性分散液として用いるため,上記疎水性樹脂エマルジョンと上記導電性高分子水性分散液とを混合して上記透明導電性膜形成用塗布液を作製した際に,疎水性樹脂と導電性高分子とが分離して,それぞれ層状の膜を形成しやすいからである。」 「【0035】 上記透明導電性膜形成用塗布液は,上記導電性高分子,上記疎水性樹脂,上記溶媒を混合することにより製造できる。また,上記透明導電性膜形成用塗布液は,更に分散機を用いて分散処理することが好ましい。上記分散機を用いて分散処理することにより,確実に上記導電性高分子が複数の層状の膜を形成し,上記疎水性樹脂が疎水性有機バインダとして複数の層状の膜を形成することができる。上記分散機としては,ボールミル,サンドミル,ピコミル,ペイントコンディショナー等のメディアを介在させたメディア分散機,及び超音波分散機,高圧ホモジナイザー,ホモミキサー,ディスパー,ジェットミル等のメディアレス分散機が使用できる。特に好ましいのは,高圧ホモジナイザーである。」 と記載している(下線は,当審にて付与。)。 一方,引用発明1に関しては,その具体的な製造方法に関し,引用文献1には,導電性ポリマーと疎水性粘着性ポリマーとが溶媒中で撹拌された分散混合物を,基板層上に塗布し,その後に加熱することで得られることが記載されている(上記第5の1(1)ウ及びエ)。 ここで,溶媒中のポリマーの分散状態及びその後の塗布,加熱による分散状態の変化は様々であって,塗布,加熱後の層内におけるポリマーの状態は,必ずしも「複数の層状の膜」が形成されるとはいえないので,引用発明1を製造するにあたって上記の製造方法を採用したことのみをもって,引用発明1が本願発明1の「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」を満たす蓋然性が高いとまではいうことができない。 そうすると,相違点1-2は,実質的な相違点であるから,本願発明1は引用発明1,すなわち,引用文献1に記載された発明であるとはいえない。 また,本願発明1の「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」との発明特定事項については,引用文献1に記載も示唆もされておらず,また,上記発明特定事項を有するようにすることが,本願出願前において周知技術であったともいえないから,引用発明1において,相違点1-2の発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易に想到できたとはいえない。 そして,本願発明1は,上記相違点1-2の発明特定事項を有することで,本願明細書の【0016】に記載されている「透明導電性膜12が上記構成を有することにより,導電性高分子12bの膜が導電パスとして機能し,透明導電性シート10の導電性を向上できる」といった,引用発明1からは当業者が予測することができない効果を奏するものである。 したがって,相違点1-1について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本願発明2ないし8について 本願発明2ないし8はいずれも本願発明1の発明特定事項をすべて含む「透明導電性シート」に関する発明であるから,本願発明2ないし8についても,引用文献1に記載された発明ではなく,引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本願発明9ないし12について 本願発明9は,「請求項1?8のいずれか1項に記載の透明導電性シートの製造方法」の発明であり,本願発明10ないし12は,いずれも請求項9を引用する「透明導電性シートの製造方法」の発明である。 そして,上記(1)ア及びイに示したように,本願発明1ないし8は引用文献1記載の発明ではなく,また,引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本願請求項1ないし8に記載の透明導電性シートの製造方法である,本願発明9ないし12もまた,引用文献1に記載された発明とはいえず,引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 2 本願発明1ないし12と,引用発明2との対比・判断 (1)本願発明1ないし8について ア 本願発明1について 引用発明2における「透明基材フィルム」及び「レンズフィルム」は,本願発明1における「透明基材」及び「透明導電性シート」にそれぞれ相当する。 また,引用発明2における「透明導電性層」は,上記第5の2(1)ウ及びカのとおり,基材フィルムの表面を覆う薄いもの,すなわち「膜」であるから,本願発明1の「透明導電性膜」に対応する。 さらに,塗工液中に含まれるエマルジョン(分散媒)は,塗工,乾燥によって導電性層とされた後に層内に残るものであり,上記第5の2(1)エのとおり,接着性を有する熱可塑性組成物であって有機高分子であることから,有機バインダとして機能するものであると認める。 そうすると,本願発明1と引用発明2は, 「透明基材と,前記透明基材の少なくとも一方の主面に形成された透明導電性膜とを含む透明導電性シートであって, 前記透明導電性膜は,導電性高分子と,有機バインダとを含む, 透明導電性シート。」 の点で一致し,下記の点で相違する。 ・相違点2-1 本願発明1は,有機バインダを「疎水性有機バインダ」とし,さらに「前記疎水性有機バインダは,ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF),フッ化ビニリデン-アクリル共重合体,フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体,ポリカーボネート樹脂,ポリウレタン樹脂,ポリスチレン樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,ポリエチレングリコール(PEG),ポリエチレンオキサイド,及びポリプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる一つであり,」と特定するのに対し,引用発明2はこのような特定がない点。 ・相違点2-2 本願発明1は,導電性高分子と有機バインダについて,「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」と特定するのに対し,引用発明2はこのような特定がない点。 事案に鑑み,上記相違点2-2から先に検討する。 上記のとおり,引用発明2は導電性高分子と有機バインダについて「複数の層状の膜」を形成することを特定するものではなく,引用文献2もこれを明示的に記載するものではない。 引用発明2の導電性高分子と有機バインダが,本願発明1の「複数の層状の膜」を実質的に形成しているか否かを,本願明細書の記載と引用文献2の記載とを対比して検討する。 本願明細書で記載された複数の層状の膜が形成される理由については,上記1(1)アで示したとおりである。 引用発明2の具体的な製造方法として,引用文献2には,ポリチオフェンを骨格とする導電性高分子を含む導電性コート剤をエマルジョン(分散媒)に分散して塗工液を作成し,そして,上記塗工液をフィルムに塗工し,乾燥し,導電性層を形成することが記載されている(上記第5の2(1)オ)。 しかしながら,このような分散された塗工液を用いる製造方法を採用したとしても,分散された塗工液中のポリチオフェンを骨格とする導電性高分子及びエマルジョンが塗工,乾燥後に必ずしも「複数の層状の膜」を形成するとはいえないので,引用発明2を製造するにあたり上記の製造方法を採用したことのみをもって,引用発明2が本願発明1の「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」を満たす蓋然性が高いとまでは言うことができない。 そうすると,相違点2-2は,実質的な相違点であるから,本願発明1は引用発明2,すなわち,引用文献2に記載された発明であるとはいえない。 また,本願発明1の「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」との発明特定事項については,引用文献2に記載も示唆もされておらず,また,上記発明特定事項を有するようにすることが,本願出願前において周知技術であったともいえないから,引用発明2において,相違点2-2の発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易に想到できたとはいえない。 そして,本願発明1は,上記相違点2-2の発明特定事項を有することで,本願明細書の【0016】に記載されているような「透明導電性膜12が上記構成を有することにより,導電性高分子12bの膜が導電パスとして機能し,透明導電性シート10の導電性を向上できる」といった,引用発明2からは当業者が予測することができない効果を奏するものである。 したがって,相違点2-1について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本願発明2ないし8について 本願発明2ないし8はいずれも本願発明1の発明特定事項をすべて含む「透明導電性シート」に関する発明であり,上記アのとおり,相違点2-2については,引用発明2は,「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」ものとはいえないから,本願発明2ないし8についても,引用文献2に記載された発明ではなく,また,引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本願発明9ないし12について 本願発明9は,「請求項1?8のいずれか1項に記載の透明導電性シートの製造方法」の発明であり,本願発明10ないし12は,いずれも請求項9を引用する「透明導電性シートの製造方法」の発明である。 そして,上記(1)ア及びイに示したように,本願発明1ないし8は引用文献2に記載された発明ではなく,また,引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本願請求項1ないし8に記載の透明導電性シートの製造方法である,本願発明9ないし12もまた,引用文献2に記載された発明ではなく,引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 3 本願発明1ないし12と,引用発明3との対比・判断 (1)本願発明1ないし8について ア 本願発明1について 引用発明3の「透明な基材フィルム」及び「透明導電性フィルム」は,本願発明1の「透明基材」及び「透明導電性シート」にそれぞれ相当する。 また,引用発明3の「透明導電性層」については,上記第5の3(1)イで示されているように「導電性高分子膜」が形成されるものであるから,本願発明の「透明導電性膜」に対応する。 したがって,本願発明1と引用発明3とは, 「透明基材と,前記透明基材の少なくとも一方の主面に形成された透明導電性膜とを含む透明導電性シートであって, 前記透明導電性膜は,導電性高分子と,疎水性有機バインダとを含む, 透明導電性シート。」の点で一致し,下記の点で相違する。 ・相違点3-1 本願発明1は,疎水性有機バインダについて,「前記疎水性有機バインダは,ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF),フッ化ビニリデン-アクリル共重合体,フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体,ポリカーボネート樹脂,ポリウレタン樹脂,ポリスチレン樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,ポリエチレングリコール(PEG),ポリエチレンオキサイド,及びポリプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる一つであり,」と特定するのに対し,引用発明3の疎水性樹脂にはこのような特定がない点。 ・相違点3-2 本願発明1は,導電性高分子と疎水性有機バインダについて,「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」と特定するのに対し,引用発明3はこのような特定がない点。 事案に鑑み,上記相違点3-2から先に検討する。 上記のとおり,引用発明3は導電性高分子と疎水性有機バインダについて「複数の層状の膜」を形成することを特定するものではなく,引用文献3もこれを明示的に記載するものではない。 引用発明3の導電性高分子と疎水性有機バインダが,本願発明1の「複数の層状の膜」を実質的に形成しているか否かを,本願明細書の記載と引用文献3の記載とを対比して検討する。 本願明細書で記載された複数の層状の膜が形成される理由については,上記1(1)アで示したとおりである。 引用発明3は,透明導電性層を構成する塗料である導電性物質が,溶媒としての水又はアルコールの何れかもしくはこれらの混合液に分散された状態の導電性高分子樹脂とドーパントと,によりなるものであって,疎水性樹脂をバインダー樹脂として含有してなるものである。 しかしながら,分散された塗料を用いたとしても,その後の成膜処理で必ずしも「複数の層状の膜」を形成するとはいえないので,引用発明3が本願発明1の「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」を満たす蓋然性が高いとまでは言うことができない。 そうすると,相違点3-2は,実質的な相違点であるから,本願発明1は引用発明3,すなわち,引用文献3に記載された発明であるとはいえない。 また,本願発明1の「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」との発明特定事項については,引用文献3に記載も示唆もされておらず,また,上記発明特定事項を有するようにすることが,本願出願前において周知技術であったともいえないから,引用発明3において,相違点3-2の発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易に想到できたとはいえない。 そして,本願発明1は,上記相違点3-2の発明特定事項を有することで,本願明細書の【0016】に記載されているような「透明導電性膜12が上記構成を有することにより,導電性高分子12bの膜が導電パスとして機能し,透明導電性シート10の導電性を向上できる」といった,引用発明3からは当業者が予測することができない効果を奏するものである。 したがって,相違点3-1について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本願発明2ないし8について 本願発明2ないし8はいずれも本願発明1の発明特定事項をすべて含む「透明導電性シート」に関する発明であり,上記アのとおり,相違点3-2については,引用発明3は,「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」ものとはいえないから,本願発明2ないし8についても,引用文献3に記載された発明ではなく,また,引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本願発明9ないし12について 本願発明9は,「請求項1?8のいずれか1項に記載の透明導電性シートの製造方法」の発明であり,本願発明10ないし12は,いずれも請求項9を引用する「透明導電性シートの製造方法」の発明である。 そして,上記(1)ア及びイに示したように,本願発明1ないし8は引用文献3に記載された発明ではなく,また,引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本願請求項1ないし8に記載の透明導電性シートの製造方法である,本願発明9ないし12もまた,引用文献3に記載された発明ではなく,引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 4 本願発明1ないし12と,引用発明4との対比・判断 (1)本願発明1ないし8について ア 本願発明1について 引用発明4の「透明なPETフィルムよりなる基材」,「透明な導電膜」,「PEDOT/PSS水性分散液に由来する導電性有機化合物」及び「疎水性の変性PVAよりなるバインダー」はそれぞれ,本願発明1の「透明基材」,「透明導電性膜」,「導電性高分子」及び「疎水性有機バインダ」に相当する。 また,引用発明4の「基材および導電膜」は,本願発明1の「透明導電性シート」に対応する。 したがって,本願発明1と引用発明4は, 「透明基材と,前記透明基材の少なくとも一方の主面に形成された透明導電性膜とを含む透明導電性シートであって, 前記透明導電性膜は,導電性高分子と,疎水性有機バインダとを含む, 透明導電性シート。」 の点で一致し,下記の点で相違する。 ・相違点4-1 本願発明1は,「前記疎水性有機バインダは,ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF),フッ化ビニリデン-アクリル共重合体,フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体,ポリカーボネート樹脂,ポリウレタン樹脂,ポリスチレン樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,ポリエチレングリコール(PEG),ポリエチレンオキサイド,及びポリプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる一つであり,」と特定するのに対し,引用発明4の疎水性のバインダーは「疎水性の変性PVA」である点。 ・相違点4-2 本願発明1は,導電性高分子と疎水性有機バインダについて,「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」と特定するのに対し,引用発明4はこのような特定がない点。 事案に鑑み,上記相違点4-2から先に検討する。 上記のとおり,引用発明4は導電性高分子と疎水性有機バインダについて「複数の層状の膜」を形成することを特定するものではなく,引用文献4もこれを明示的に記載するものではない。 引用発明4の導電性高分子と疎水性有機バインダが,本願発明1の「複数の層状の膜」を実質的に形成しているか否かを,本願明細書の記載と引用文献4の記載とを対比して検討する。 本願明細書で記載された複数の層状の膜が形成される理由については,上記1(1)アで示したとおりである。 引用発明4の具体的な製造方法として,引用文献4には,バインダー溶液を調製し,バインダー溶液とPEDOT/PSS水性分散液とを混合して塗布液組成物を調整し,次にDMSOを添加し,混合溶解した後,塗布液組成物をクリーンルーム内で孔0.45μmのフィルターでろ過して塗布液組成物を調製する製造方法が開示されており(上記第5の4(1)ウ),ろ過された溶解液を用いるものである。 そして,このような溶解液を用いる製造方法では塗工,乾燥後に「複数の層状の膜」を形成するとはいえないので,引用発明4の製造方法では,引用発明4が本願発明1の「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」を満たすとは言えない。 そうすると,相違点4-2は,実質的な相違点であるから,本願発明1は引用発明4,すなわち,引用文献4に記載された発明であるとはいえない。 また,本願発明1の「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」との発明特定事項については,引用文献4に記載も示唆もされておらず,また,上記発明特定事項を有するようにすることが,本願出願前において周知技術であったともいえないから,引用発明4において,相違点4-2の発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易に想到できたとはいえない。 そして,本願発明1は,上記相違点4-2の発明特定事項を有することで,本願明細書の【0016】に記載されているような「透明導電性膜12が上記構成を有することにより,導電性高分子12bの膜が導電パスとして機能し,透明導電性シート10の導電性を向上できる」といった,引用発明4からは当業者が予測することができない効果を奏するものである。 したがって,相違点4-1について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 本願発明2ないし8について 本願発明2ないし8はいずれも本願発明1の発明特定事項をすべて含む「透明導電性シート」に関する発明であり,上記アのとおり,相違点4-2については,引用発明4は,「前記導電性高分子は,複数の層状の膜を形成し,前記疎水性有機バインダは,複数の層状の膜を形成している」ものとはいえないから,本願発明2ないし8についても,引用文献4に記載された発明ではなく,引用発明4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本願発明9ないし12について 本願発明9は,「請求項1?8のいずれか1項に記載の透明導電性シートの製造方法」の発明であり,本願発明10ないし12は,いずれも請求項9を引用する「透明導電性シートの製造方法」の発明である。 そして,上記(1)ア及びイに示したように,本願発明1ないし8は引用文献4に記載された発明ではなく,また,引用発明4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本願請求項1ないし8に記載の透明導電性シートの製造方法である,本願発明9ないし12もまた,引用文献4に記載された発明ではなく,引用発明4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 第7 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-07-20 |
出願番号 | 特願2015-48753(P2015-48753) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(H01B)
P 1 8・ 121- WY (H01B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 安川 聡、横山 敏志 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
神田 和輝 大畑 通隆 |
発明の名称 | 透明導電性シート及びその製造方法 |
代理人 | 特許業務法人池内アンドパートナーズ |