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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01G
審判 一部無効 2項進歩性  H01G
審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01G
管理番号 1364783
審判番号 無効2016-800109  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-09-16 
確定日 2020-08-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第4452917号発明「電解コンデンサ用タブ端子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4452917号の請求項1ないし13に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4452917号に係る発明についての出願は、平成15年12月25日(優先権主張 平成14年12月27日)の出願であって、平成22年2月12日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
以後の本件に係る手続の概要は、以下のとおりである。

平成28年 9月16日 本件無効審判の請求
同年11月30日 審判事件答弁書
同年11月30日 訂正請求書
同年12月14日 手続補正書(方式)(被請求人)
平成29年 1月26日 上申書(請求人)
同年 2月16日 審判事件弁駁書
同年 4月 7日 訂正拒絶理由通知書・職権審理結果通知書
同年 5月11日 意見書(被請求人)
同年 5月16日 上申書(請求人)
同年 7月 4日 審理事項通知書
同年 9月 6日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 9月 6日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 9月27日 口頭審理
同年10月11日 上申書(被請求人)
平成30年 2月 5日 審決予告
同年 4月10日 意見書
同年 4月10日 訂正請求書
同年 4月26日 手続補正書(方式)(被請求人)
同年 7月 6日 訂正拒絶理由通知書・職権審理結果通知書
同年 8月 9日 意見書(被請求人)

第2 当事者の主張
1 請求人
(1)請求の趣旨及び無効理由について
請求人は、審判請求書において、「特許第4452917号の請求項1乃至13に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、請求人が主張する無効理由は、概略、以下のとおりのものである。なお、「1-1」「1-2」等の無効理由の番号は当審で付与したものである。

ア 無効理由1-1
本件発明1ないし6、8、10ないし13は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。(審判請求書の「7(1)(1-1)」及び「7(4)(4-3)」)
イ 無効理由1-2
本件発明1ないし6、8ないし13は、甲第1号証に記載された発明、又は、それらに加えて本件特許の優先日前における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(審判請求書の「7(1)(1-1)」及び7「(4)(4-4)」)
ウ 無効理由2
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1ないし13について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。(審判請求書の「7(1)(1-2)」及び「7(4)(4-5)」)
エ 無効理由3
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし13の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしていない。(審判請求書の「7(1)(1-3)」及び「7(4)(4-6)」)
オ 無効理由4
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし10の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしていない。(審判請求書の「7(1)(1-4)」及び「7(4)(4-7)」)

(2)訂正請求について
請求人は、平成28年11月30日付けの訂正請求について、審判事件弁駁書及び口頭審理陳述要領書において、請求項2に係る訂正事項2は、願書に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に反してなされたものであるから、訂正は認められないと主張する。なお、平成28年11月30日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項2の記載内容は、平成30年4月10日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1の記載内容(下記「第3 2」を参照。)と同じである。
また、平成30年4月10日付けの訂正請求については、同年7月6日付け職権審理結果通知書によって、同日付けの訂正拒絶理由に対する意見を求めたが、請求人からは意見書は提出されなかった。

(3)請求人が提出した証拠方法
ア 審判請求書に添付した証拠方法
甲第1号証:特開2000-277398号公報
甲第2号証:特開平9-45579号公報
甲第3号証:特開平9-213592号公報
甲第4号証:特開平9-139326号公報
甲第5号証:化学辞典 第1版 第527頁、第715頁
甲第6号証:特開平9-274060号公報
甲第7号証:「錫めっきコンタクトの温度サイクルによる劣化メカニズムとその加速試験法」と題する記事
甲第8号証:「端子圧着部における皮膜の電気的破壊についての一考察」と題する記事
甲第9号証:特開2004-253311号公報
甲第10号証:「すず真正ホイスカの発生と成長機構」と題する記事
甲第11号証:特開2002-305359号公報
甲第12号証:特開平10-50774号公報
甲第13号証:特開2000-144445号公報
甲第14号証:めっき基礎読本 第24頁
甲第15号証:「東京地方裁判所平成27年(ワ)第19661号 特許権侵害差止等請求事件」において、平成28年5月9日付けで原告(本件被請求人)が提出した準備書面(3)
甲第16号証:「東京地方裁判所平成27年(ワ)第19661号 特許権侵害差止等請求事件」において、平成28年6月17日付けで原告(本件被請求人)が提出した準備書面(4)
甲第17号証:「平成27年(ワ)第19661号 特許権侵害差止等請求事件」において、平成28年3月7日付けで被告(本件請求人)が提出した証拠説明書1(差替え版)

イ 審判事件弁駁書に添付した証拠方法
甲第18号証:「電気・電子部品用Snめっき銅合金の表面変色」、菅原 章、片岡 正宏、花 佳武、ばね論文集第42号(1997年)

2 被請求人
(1)答弁の趣旨及び無効理由について
被請求人は、平成28年11月30日付けで訂正請求をした上で、審判事件答弁書において、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、訂正後の請求項2、10ないし13に係る発明については、請求人による無効の主張はいずれも理由がないと主張する。
また、被請求人は、上記無効理由1-1ないし4に対して、平成28年11月30日付けの訂正請求が認められないとした場合について、意見は特にないと陳述した。(被請求人が提出した口頭審理陳述要領書の「5.(1)(1-3)」及び第1回口頭審理調書の「被請求人 6」。)
さらに、被請求人は、平成30年4月10日付けで訂正請求をした上で、同日付の意見書において、訂正後の請求項1及びその従属請求項、請求項2、請求項3、請求項17及びその従属請求項に係る発明については、甲第1号証に記載の発明に対して、新規性進歩性を有すると主張する。

(2)訂正請求について
被請求人は、平成28年11月30日付けの訂正請求について、訂正請求書において、訂正事項が全ての訂正要件に適合していることを説明するとともに、平成29年5月11日付け意見書及び同年10月11日付け上申書において、訂正拒絶理由に対する反論を主張している。
また、被請求人は、平成30年4月10日付けの訂正請求について、訂正請求書において、訂正事項が全ての訂正要件に適合していることを説明するとともに、同年8月9日付け意見書において、同年7月6日付け訂正拒絶理由に対する反論を主張しているが、詳細は後述する。

(3)被請求人が提出した証拠方法
ア 審判事件答弁書に添付した証拠方法
乙第1号証:報告書(本件明細書の実施例に関する追加実験結果)

イ 平成29年5月11日付け意見書に添付した証拠方法
乙第2号証:鑑定意見書(2017年5月9日付 国立大学法人 東京工業大学 教授 工学博士 高橋邦夫)

ウ 口頭審理陳述要領書に添付した証拠方法
乙第3号証:JIS C-0053(環境試験方法-電気・電子- はんだ付け試験方法(平衡法)(本文及び付属書)

エ 平成30年8月9日付け意見書に添付した証拠方法
乙第4号証:特許第4954406号公報
乙第5号証:特許第5337943号公報

第3 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨
平成30年4月10日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)における訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第4452917号の特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし23について訂正することを求める」ものである。
なお、平成28年11月30日付けの訂正の請求は、特許法第134条の2第6項の規定により取り下げられたものとみなす。

2 訂正の内容
上記本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲における請求項1ないし23の記載は次のとおりである。(下線は、訂正箇所を示す。)

「【請求項1】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理であり、
前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてなり、JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以下である、電解コンデンサ用タブ端子。
【請求項2】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理であり、
前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてなり、JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.35秒以下である、電解コンデンサ用タブ端子。
【請求項3】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、前記電解コンデンサ用タブ端子を熱処理することにより行われる酸化スズ形成処理であり、
前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてなる(但し、前記電解コンデンサ用タブ端子について、JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除く。)、電解コンデンサ用タブ端子。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
請求項1に記載のタブ端子の製造方法であって、
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線を溶接してタブ端子を準備する工程、および
前記溶接されたタブ端子を、熱処理する工程、
を含んでなる、タブ端子の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理が、60?180℃の範囲において酸素雰囲気下で行われる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理が、80?150℃の範囲において酸素雰囲気下で行われる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載のタブ端子の製造方法であって、
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線を溶接する工程、および
溶接直後に、前記溶接部分に溶剤を塗布して付着させる工程、
を含んでなり、
前記溶剤が、珪酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、およびこれらの混合物からなる群から選択される無機酸塩を含んでなる水溶液であり、
前記水溶液の濃度が、1?10重量%である、タブ端子の製造方法。
【請求項15】
前記溶剤が、さらにアンモニウム塩を含んでなる水溶液である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記溶接部分に溶剤を塗布する際の、溶接部分の温度が、80?250℃である、請求項14または15に記載の製造方法。
【請求項17】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、前記電解コンデンサ用タブ端子を熱処理することにより行われる酸化スズ形成処理であり、
前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてなり、JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.85秒以下である、電解コンデンサ用タブ端子。
【請求項18】
請求項17に記載のタブ端子の製造方法であって、
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線を溶接してタブ端子を準備する工程、および
前記溶接されたタブ端子を、熱処理する工程、
を含んでなる、タブ端子の製造方法。
【請求項19】
前記熱処理が、60?180℃の範囲において酸素雰囲気下で行われる、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記熱処理が、80?150℃の範囲において酸素雰囲気下で行われる、請求項18に記載の製造方法。
【請求項21】
請求項17に記載のタブ端子の製造方法であって、
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線を溶接する工程、および
溶接直後に、前記溶接部分に溶剤を塗布して付着させる工程、
を含んでなり、
前記溶剤が、珪酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、およびこれらの混合物からなる群から選択される無機酸塩を含んでなる水溶液であり、
前記水溶液の濃度が、1?10重量%である、タブ端子の製造方法。
【請求項22】
前記溶剤が、さらにアンモニウム塩を含んでなる水溶液である、請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
前記溶接部分に溶剤を塗布する際の、溶接部分の温度が、80?250℃である、請求項21または22に記載の製造方法。」

ここで、上記訂正特許請求の範囲において独立請求項として記載されている請求項1、2、3、及び17に係る訂正事項は以下のとおりである。

[訂正事項1(以下、「訂正事項A」という。)]
特許請求の範囲の請求項1に「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理である、電解コンデンサ用タブ端子。」とあるのを、上記訂正特許請求の範囲の請求項1のとおりに訂正する。

[訂正事項13(以下、「訂正事項B」という。)]
特許請求の範囲の請求項2に「前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてなる、請求項1に記載のタブ端子。」とあるのを、独立項形式に書き換えるとともに、上記訂正特許請求の範囲の請求項2のとおりに訂正する。

[訂正事項25(以下、「訂正事項C」という。)]
特許請求の範囲の請求項3に「前記の酸化スズ形成処理が、タブ端子を熱処理することにより行われる、請求項1または2に記載のタブ端子。」とあるのを、請求項1を引用する請求項3について独立項形式に書き換えるとともに、上記訂正特許請求の範囲の請求項3のとおりに訂正する。

[訂正事項34(以下、「訂正事項D」という。)]
特許請求の範囲の請求項3に「前記の酸化スズ形成処理が、タブ端子を熱処理することにより行われる、請求項1または2に記載のタブ端子。」とあるのを、請求項2を引用する請求項3について独立項形式に書き換えるとともに、上記訂正特許請求の範囲の請求項17のとおりに訂正する。

3 別の訂正単位とする求め
被請求人は、上記訂正事項Bによって独立項形式に書き換えて引用関係の解消を行った訂正後の請求項2、上記訂正事項Cによって独立項形式に書き換えて引用関係の解消を行った訂正後の請求項3、上記訂正事項Dによって独立項形式に書き換えて引用関係の解消を行った訂正後の請求項17とその従属請求項である請求項18ないし23について、それぞれ別の訂正単位とすることを求めている。

4 訂正拒絶理由について
当審において平成30年7月6日付けで通知した訂正拒絶理由は、概略、以下のとおりのものである。
(1)訂正事項Aについて
上記訂正事項Aは、
a)特許請求の範囲の減縮を目的として、訂正前の請求項2の「前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてな」るという発明特定事項を付加する訂正事項(以下、「訂正事項A-a」という。)と、
b)特許請求の範囲の減縮を目的として、「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以下である」という発明特定事項を付加する訂正事項(以下、「訂正事項A-b」という。)とを、
含むものである。
しかしながら、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲には、「ゼロクロス時間」の上限を「2.50秒」とすることは記載も示唆もされておらず、また、「ゼロクロス時間」を「2.30秒」よりも小さい値とすることも記載も示唆もされていない。
したがって、上記訂正事項A-bは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであるとはいえないから、上記訂正事項A-bを含む訂正事項Aは、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。

(2)訂正事項Bについて
上記訂正事項Bは、
a)請求項間の引用関係の解消を目的として、訂正前の請求項2が引用していた請求項1の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理であ」るという発明特定事項を含むように請求項2の記載を書き替える訂正事項(以下、「訂正事項B-a」という。)と、
b)特許請求の範囲の減縮を目的として、「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.35秒以下である」という発明特定事項を付加する訂正事項(以下、「訂正事項B-b」という。)とを、
含むものである。
しかしながら、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲には、「ゼロクロス時間」の上限を「2.35秒」とすることは記載も示唆もされておらず、また、「ゼロクロス時間」を「2.30秒」よりも小さい値とすることも記載も示唆もされていない。
したがって、上記訂正事項B-bは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであるとはいえないから、上記訂正事項B-bを含む訂正事項Bは、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
そうすると、上記訂正事項Bに含まれる引用関係の解消(訂正事項B-a)も認めることはできないから、請求項2について、引用元の請求項と別の請求単位として扱わない。

(3)訂正事項Cについて
上記訂正事項Cは、
a)請求項間の引用関係の解消を目的として、訂正前の請求項3が引用していた請求項1の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理であ」るという発明特定事項を含むように請求項3の記載を書き替える訂正事項(以下、「訂正事項C-a」という。)と、
b)特許請求の範囲の減縮を目的として、「前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてなる(但し、前記電解コンデンサ用タブ端子について、JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除く。)」という発明特定事項を付加する訂正事項(以下、「訂正事項C-b」という。)とを、
含むものである。
しかしながら、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲には、「ゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除く」こと、又は、「ゼロクロス時間が2.50秒未満である」ことは記載も示唆もされていない。
したがって、上記訂正事項C-bは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであるとはいえないから、上記訂正事項C-bを含む訂正事項Cは、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
そうすると、上記訂正事項Cに含まれる引用関係の解消(訂正事項C-a)も認めることはできないから、請求項1を引用する請求項3について、引用元の請求項と別の請求単位として扱わない。

(4)訂正事項Dについて
上記訂正事項Dは、
a)請求項間の引用関係の解消を目的として、訂正前の請求項3が引用していた請求項2がさらに引用していた請求項1の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理であ」るという発明特定事項と、訂正前の請求項3が引用していた請求項2の「前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてな」るという発明特定事項とを含むように請求項3の記載を書き替える訂正事項(以下、「訂正事項D-a」という。)と、
b)特許請求の範囲の減縮を目的として、「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.85秒以下である」という発明特定事項を付加する訂正事項(以下、「訂正事項D-b」という。)とを、
含むものである。
しかしながら、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲には、「ゼロクロス時間」を「2.30秒」よりも小さい値とすることは記載も示唆もされていない。
したがって、上記訂正事項D-bは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであるとはいえないから、上記訂正事項D-bを含む訂正事項Dは、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
そうすると、上記訂正事項Dに含まれる引用関係の解消(訂正事項D-a)も認めることはできないから、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3(訂正後の請求項17とその従属請求項である請求項18ないし23)について、引用元の請求項と別の請求単位として扱わない。

(5)請求項1ないし16からなる一群の請求項に係る訂正請求について
上記(1)ないし(4)のとおり、上記訂正事項AないしDは、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合していないから、当該訂正事項AないしDを含む、請求項1ないし16からなる一群の請求項に係る訂正請求は、適法な訂正請求とはいえず、拒絶すべきものである。

5 訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし16において、請求項2ないし16は、訂正する請求項1を直接又は間接的に引用しているものであるから、請求項1ないし16は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
ただし、上記「3」のとおり、被請求人が別の請求単位とする求めを行っていることに鑑み、上記訂正特許請求の範囲において独立請求項として記載されている請求項1、2、3、及び17に係る上記訂正事項AないしDについてまず検討し、その後、請求単位毎の訂正の適否について検討する。

(2)訂正事項Aについて
ア 訂正の目的について
訂正事項Aは、
a)訂正前の請求項2の「前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてな」るという発明特定事項を付加する訂正事項(以下、「訂正事項A-a」という。)と、
b)「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以下である」という発明特定事項を付加する訂正事項(以下、「訂正事項A-b」という。)とを、
含むものである。
そして、上記訂正事項A-aは、「前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてな」るとの発明特定事項を他の発明特定事項に対して直列的に付加するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項A-bも、「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以下である」との発明特定事項を他の発明特定事項に対して直列的に付加するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
また、上記訂正事項A-a及びA-bは、上記「ア」に示したとおり、発明特定事項を直列的に付加することによって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
上記訂正事項A-aは、訂正前の請求項2に記載されている事項であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
次に、上記訂正事項A-bについて検討する。
(ア)願書に添付した明細書又は特許請求の範囲の記載
願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書等」という。)には、ハンダ濡れ性に関して、次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)
(a)「【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、今般、スズメッキさたリード線の表面に酸化スズを形成することにより、ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できるとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。」

(b)「【0026】
本発明では、60?180℃の温度範囲において、酸素雰囲気下で、タブ端子を熱処理することにより、タブ端子の溶接部分のスズを酸化して、酸化スズを形成するものである。当該熱処理は、タブ端子製造後(アルミ芯線とリード線との溶接後)に行う。溶接前にスズメッキされたリード線のみを熱処理し、その後にアルミ芯線と溶接することもできるが、溶接してタブ端子とした後に熱処理を行うことにより、溶接部分の表面に現れたスズを効率的に酸化できる。また、60℃よりも低い温度において熱処理を行うとウィスカ発生抑制効果が十分には得られない。一方、スズを酸化するためには高温で行うことが好ましいが、180℃を超える温度において熱処理を行うと、スズの酸化が進みすぎるため、リード線表面のメッキが変色するだけでなくハンダ濡れ性が低下してしまう。すなわち、酸素雰囲気下での熱処理により、溶接部の表面付近に存在する金属スズのうち一部が酸化スズ(SnOまたはSnO_(2))に変化するが、ウィスカ発生を抑制する目的からは酸化スズの存在は好ましいものの、金属スズのすべてが、酸化スズに酸化されてしまうと、ハンダ濡れ性が低下するため好ましくない。本願発明のタブ端子は、金属スズと酸化スズとが適度な割合で存在することが好ましいのである。このような、金属スズと酸化スズが適度な割合で存在できる熱処理温度としては、特に、80?150℃の温度範囲が好ましい。熱処理時間は、10?60分の範囲が好ましく、特に、15?30分の範囲が好ましい。熱処理温度同様に60分を超えるとスズの酸化が進行しすぎて、ハンダ濡れ性に悪影響を及ぼす。」

(c)「【実施例】
【0033】
リード線としてスズ100%のメッキを施した、鉄/銅からなる引き込み線(CP線)とアルミ芯線とを、それぞれ所定の長さに切断し、切断されたリード線とアルミ芯線とをアーク放電にて溶接した後、アルミ芯線部分をプレス加工により圧扁することによりタブ端子1を得た。得られたタブ端子1をパラフィン系溶剤により脱脂洗浄処理を行い、80℃×12分、熱風乾燥を行った。
【0034】
脱脂処理を行ったタブ端子1を、表1に示す温度にて20分間、恒温恒湿器(PVH-110:タバイエスペック製)を用いて熱処理を行った(実施例1?4、および比較例1)。また、熱処理を行わない試料を比較例2とした。
【0035】
次に、熱処理を行った試料(実施例)および熱処理を行わなかった試料(比較例)のウィスカを観察するため、60℃×90%RHの条件において250時間加速試験を行った。加速試験後、各試料の溶接部に発生したウィスカを30倍の光学顕微鏡を用いて観察し、タブ端子の溶接部分に発生したウィスカの長さを測定した。
【0036】
さらに、上記の加速試験を行う前の各試料のハンダ濡れ性を調べるため、JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)によりゼロクロス時間(ZCT値)を測定した。測定結果を表1に示す。
【表1】



(d)「【0037】
次に、上記のタブ端子1を、1.0重量%のメタ珪酸ナトリウム水溶液中に120℃で2分間浸漬して溶剤処理を行い、試料6を得た。得られた試料について、60℃×90%RHの条件において250時間加速試験を行った。加速試験後、上記と同様の測定方法により、タブ端子の溶接部分に発生したウィスカの長さを測定した。また、上記と同様にして溶液処理した試料のハンダ濡れ性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0038】
また、上記のリード線とアルミ芯線とをアーク放電にて溶接後300ms以内に、溶接部分に5重量%のケイフッ化アンモニウム水溶液を塗布して付着させた。その後、上記と同様にしてアルミ芯線部分をプレス加工により圧扁することによりタブ端子2(試料7)を得た。得られたタブ端子2をパラフィン系溶剤により脱脂洗浄処理を行い、80℃×12分、熱風乾燥を行った。
【0039】
得られた試料6および7について、上記と同様にして加速試験を行い、ウィスカの長さ、およびハンダ濡れ性について測定を行った。
【0040】
結果は表2に示される通りであった。
【表2】



(イ)「ゼロクロス時間」の測定方法について
上記訂正事項A-bには、電解コンデンサ用タブ端子の「ゼロクロス時間」は「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定された」ものであることが特定されているが、この点については、上記「(ア)(c)」で摘示したように、本件特許明細書等に記載された事項である。

(ウ)「ゼロクロス時間」の数値範囲について
(a)数値範囲の上限について
上記訂正事項A-bには「ゼロクロス時間が2.50秒以下である」と特定されているが、本件特許明細書等には、「ゼロクロス時間が2.50秒以下である」旨の直接的な記載はなされていない。
そこで、「ゼロクロス時間」の数値範囲を示唆する記載の有無についてさらに検討すると、本件特許明細書等には上記「(ア)(b)」で摘示したように「スズを酸化するためには高温で行うことが好ましいが、180℃を超える温度において熱処理を行うと、スズの酸化が進みすぎるため、リード線表面のメッキが変色するだけでなくハンダ濡れ性が低下してしまう。」と記載されており、上記「(ア)(c)」で摘示した表1に、180℃を超える温度である「200°C」で熱処理した試料4(比較例1)の「ハンダ濡れ性」が「×」と評価されていることとも整合する。
そうすると、「180°C」がハンダ濡れ性の観点での熱処理温度の上限であるから、上記表1の記載事項も総合すると、本件特許明細書等には、熱処理温度が「180°C」である試料3(実施例3)のZCT値である「2.85秒」が、「ゼロクロス時間」の上限であることが示唆されているということができる。
したがって、本件特許明細書等には、「ゼロクロス時間」の上限が「2.50秒」であることは記載も示唆もされていない。
また、そもそも本件特許明細書等には、ウィスカの成長抑制処理が施された試料のゼロクロス時間が「2.50秒」である実施例は記載されていない。したがって、境界値として「2.50秒」という値は記載されていないし、境界値としての「2.50秒」を採用することに関する課題や効果、特に、臨界的意義についても何ら記載されていない。なお、表1及び表2に記載の試料5(比較例2)のZCT値は「2.50秒」であるが、当該試料5はウィスカの成長抑制処理が施されていないから、「ウィスカの成長抑制処理が施されてなり」かつ「ゼロクロス時間が2.50秒」以下である訂正後の請求項1の技術範囲には含まれないものである。
以上のとおりであるから、各実施例における測定結果を参酌しても、本件特許明細書等には、「ゼロクロス時間」の上限が「2.50秒」であることは記載も示唆もされていない。

次に、この点に関する被請求人の主張について検討する。
(i)被請求人は、平成30年8月9日付け意見書の「5」の「(2)「ゼロクロス時間」の上限値について」において、
「確かに、明細書には、180℃を超える温度において熱処理を行うとハンダ濡れ性が低下することが記載されており(明細書の段落【0026】)、また表1には180℃で熱処理を行ったタブ端子(試料3)のハンダ濡れ性が「○」であり、180℃を超える温度である200℃で熱処理を行ったタブ端子(試料4)のハンダ濡れ性は「×」となっております。しかしながら、これらの記載をもって、180℃で熱処理を行ったタブ端子(試料3)のZCT値(2.85秒)がZCT値の上限であるとまではいえません。すなわち、表1では、便宜的にハンダ濡れ性を「○」や「×」で表しているものの、明細書に「○」及び「×」の評価基準が明確に定義されている訳ではなく、当業者であればZCT値の数値によってハンダ濡れ性の程度を理解するはずであり、表1の評価結果に接した際に、ZCT値が2.85秒(試料3)であるからハンダ濡れ性は良好であり、ZCT値が2.99秒(試料4)であるからハンダ濡れ性は不良であるとは理解しません。本件明細書の表1に接した当業者であれば、各試料のZCT値の数値から、
「試料2」>「試料1」>「試料5」>「試料3」>「試料4」
の順でハンダ濡れ性が良好であると理解するのであって、決して、試料1?3及び試料5のハンダ濡れ性は良好であり試料4のハンダ濡れ性は不良であるというようには理解しません。実際、JIS C-0053はんだ付け試験法(平衡法)(乙第3号証)においても、ゼロクロス時間(ZCT値)がハンダ濡れ性の指標とされておりますが、ZCT値=2.85秒がハンダ濡れ性の善し悪しを決する境界であるなどとは説明されておりません。」
と主張する。
確かに、本件特許明細書等には、「○」及び「×」の評価基準は記載されていない。しかしながら、本件特許の明細書の段落【0011】等の記載によれば、本件特許明細書等に記載の課題は、「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できる」タブ端子を提供することであり、かつ、試験結果の評価は当該課題に沿ってなされるのが普通であることを勘案すると、本件特許明細書等にハンダ濡れ性に関する「○」及び「×」の評価基準が明確に定義されていなくても、当業者であれば、当該「○」及び「×」の評価は課題を解決できているか否かによってなされたものであると解釈する、すなわち、「ハンダ濡れ性を損ねる」ことがなければ「○」で、「ハンダ濡れ性を損ねる」のであれば「×」であると解釈するのが普通である。
また、表1において、試料4は「比較例」であって「実施例」ではないから、当該試料4が上記課題を解決できていないことは明らかであるが、試料4の「ウィスカ長さ」の値は、「実施例」である試料1ないし3の「ウィスカ長さ」の値よりも小さいから、当該試料4は上記課題のうちの「ウィスカの発生が抑制できる」点については満たしているといえる。そうすると、試料4が「実施例」ではなく「比較例」である理由は、上記課題のうち「ハンダ濡れ性を損ねることなく」という点を満たしていないからであることは当業者にとって明らかであり、そうすると、当業者であれば、表1の「ハンダ濡れ性」の欄の「○」及び「×」の記号は、「○」は「ハンダ濡れ性を損ねない」と解釈し、「×」は「ハンダ濡れ性を損ねる」と解釈するのが普通である。
さらに、「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できる」という上記課題を考慮せず、かつ、試料4及び試料5が実施例ではなく比較例であることや、「ハンダ濡れ性」の欄の「○」及び「×」という記載も考慮せずに、表1の「ZCT値」の欄の値の大小関係(「試料2」>「試料1」>「試料5」>「試料3」>「試料4」)のみに着目しなければならない合理的な根拠は認められない。
そして、JIS C-0053はんだ付け試験法(平衡法)(乙第3号証)において、ZCT値=2.85秒がハンダ濡れ性の善し悪しを決する境界であると記載されていなくても、上述のとおり、本件特許明細書等の記載から、試料1ないし試料4が、課題を解決できているか否かや、「○」及び「×」という記号の意味は、当業者であれば十分に理解できるものである。
以上のとおりであるから、被請求人の上記主張を採用することはできない。

(ii)被請求人は、平成30年8月9日付け意見書の「5」の「(2)「ゼロクロス時間」の上限値について」において、上記(i)の主張に続けて、本件特許の明細書の段落【0026】の記載を摘示した上で、
「明細書の上記記載に接した当業者であれば、ウィスカ抑制の観点からはより多くの酸化スズを形成することが好ましいが、リード線表面のスズメッキ(金属スズ)の全てを酸化スズにしてしまうとハンダ濡れ性が低下するため、ウィスカ抑制とハンダ濡れ性との両立の観点からは、金属スズと酸化スズとを適度にバランスさせなければならないこと、そして、本件特許発明の効果(ウィスカ抑制とハンダ濡れ性との両立)がより一層奏されると考えられる好ましい実施形態によれば、タブ端子の熱処理温度は「80?150℃」の温度範囲で「15?30分」の時間であると、理解します。
そして、上記したとおり、当業者が「試料2」>「試料1」>「試料5」>「試料3」>「試料4」の順にハンダ濡れ性が良好であると理解していることを踏まえると、180℃で熱処理を行った試料3(実施例3)のタブ端子よりも、熱処理を行っていない試料5(比較例2)や110℃で熱処理を行っている試料1(実施例1)及び130℃で熱処理を行っている試料2(実施例2)の方が、ハンダ濡れ性が良好であると当業者は理解するはずであり、「180℃がハンダ濡れ性の観点での熱処理温度の上限である」といったような誤った理解をするはずはありません。」
と主張する。
しかしながら、上記段落【0026】には、「本発明では、60?180℃の温度範囲において、酸素雰囲気下で、タブ端子を熱処理することにより、タブ端子の溶接部分のスズを酸化して、酸化スズを形成するものである。」のように、温度範囲の上限が「180℃」であることは明記されている。さらに、上述したように、同段落の「スズを酸化するためには高温で行うことが好ましいが、180℃を超える温度において熱処理を行うと、スズの酸化が進みすぎるため、リード線表面のメッキが変色するだけでなくハンダ濡れ性が低下してしまう。」という記載や表1の「○」及び「×」の記載からみて、「180°C」がハンダ濡れ性の観点での熱処理温度の上限であるであると認められる。そうすると、「80?150℃」は、上記「60?180℃の温度範囲」内の「好ましい」温度範囲を記載したものにすぎないから、「180℃がハンダ濡れ性の観点での熱処理温度の上限である」という理解は誤りである旨の被請求人の上記主張を採用することはできない。

(iii)被請求人は、平成30年8月9日付け意見書の「5」の「(3)訂正事項A-b(ゼロクロス時間が2.50秒以下である)の根拠」において、
「しかしながら、上記のとおり、当業者が、ウィスカ抑制とハンダ濡れ性との両立を図ることができる熱処理温度として、「60?180℃」の範囲よりも「80?150℃」の範囲の方がより好ましいと理解していることを踏まえると、表1の記載に接した当業者であれば、180℃で熱処理を行った場合の試料3(ZCT値が2.85秒)よりも、ウィスカ抑制とハンダ濡れ性との両立という観点からは、「2.85秒よりも小さい値のZCT値」を有するタブ端子がより好ましい実施形態であると認識できます。
そして、ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できるタブ端子を提供するという本件特許発明の課題(明細書の段落【0011】)も参酌すれば、当該「2.85秒よりも小さいZCT値」とは、ハンダ濡れ性を損ねない程度(当審注:「損ねない」には傍点が付されている。)、すなわち、ウィスカ抑制のための熱処理を行わない従来のタブ端子が有しているハンダ濡れ性を維持できる程度と理解するはずです。すなわち、本件特許の明細書に接した当業者は、技術常識に照らせば「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できるタブ端子」を実現するには、ウィスカの発生を抑制できるように酸化スズを形成しながら、従来のタブ端子(即ち、熱処理を行わなかった試料5)のZCT値と同程度の「2.50秒」を少なくとも備えている必要があると理解します。」
と主張する。
しかしながら、被請求人は、「ハンダ濡れ性を損ねない程度」という技術事項を、「すなわち、ウィスカ抑制のための熱処理を行わない従来のタブ端子が有しているハンダ濡れ性を維持できる程度」という技術事項に言い換えているが、本件特許明細書等に記載の課題は「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できる」ということであって、「試料5(比較例2)のZCT値(2.50秒)を超えることなく」ということではないから、「ハンダ濡れ性を損ねない程度」とは、「ハンダ濡れ性を損ねることなく」という課題を解決できる程度と解すべきであって、被請求人が主張するように理解しなければならない合理的な根拠を見いだすことはできない。
すなわち、表1の試料5(比較例2)は、熱処理を行った場合と行わない場合の比較をするための単なる一例にすぎず、本件特許明細書等には、試料5(比較例2)のZCT値(2.50秒)を少なくとも備えている必要があることについては何ら記載も示唆もない。逆に、表1において、試料5(比較例2)のZCT値(2.50秒)を超えるZCT値(2.85秒)となった試料3が、比較例ではなく実施例とされていること、及び、そのハンダ濡れ性が「○」と評価されていることからみて、「タブ端子のZCT値と同程度の「2.50秒」を少なくとも備えている必要がある」という技術思想を導き出すことは到底できない。
なお、訂正事項D-bにおいては、試料5(比較例2)のZCT値(2.50秒)を超えるZCT値を含む数値範囲(「2.85秒以下」)になっているから、被請求人の「従来のタブ端子(即ち、熱処理を行わなかった試料5)のZCT値と同程度の「2.50秒」を少なくとも備えている必要がある」という主張は、上記訂正事項D-bの内容と整合していない。
したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。

(iv)被請求人は、平成30年8月9日付け意見書の「5」の「(3)訂正事項A-b(ゼロクロス時間が2.50秒以下である)の根拠」において、上記(iii)の主張に続けて、
「また、JIS C-0053 はんだ付け試験方法(平衡法)(乙第3号証)の「付属書B はんだ付け試験に平衡法を適用する指針」の「B6.1.1 ぬれが始まる時間」の項(JIS C-0053の第276頁)には、「それゆえ、t_(0)とAとの時間間隔がぬれが始まる時間である。多数の部品を同時にはんだ付けする工程で取り付けられる部品の場合、この時間は、フラックスの種類と供試品の熱特性に依存するが、2.5秒以下にすることが望ましい。」(傍点は被請求人による。)(当審注:引用箇所中の「2.5秒以下」には傍点が付されている。)との記載があることからも明らかなように、当業者は、ウィスカ発生の抑制がなされていない従来のタブ端子は、ハンダ濡れ性の指標としてZCT値が2.5秒以下とされているという技術常識を有しております。また、JIS C-0053 はんだ付け試験方法(平衡法)(乙第3号証)の「付属書B はんだ付け試験に平衡法を適用する指針」の「B2.供試品の形状」の項(JIS C-0053の274頁)には、「この規格は、横断面周りの全体がはんだでぬれるように設計された部品端子について試験するときに、この方法を適用することを指示している。」との記載もあります。
そうすると、「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できるタブ端子」を実現するために、ZCT値の上限を「2.50秒」以下とすることについて、明細書に直接的な記載はなくとも、当業者であれば、日本工業規格(JIS C-0053)でこの方法を適用することを指示されていることおよび上記のとおり「多数の部品を同時にはんだ付けする工程で取り付けられる部品は2.5秒以下にすることが望ましい。」(傍点は被請求人による。)(当審注:引用箇所中の「2.5秒以下」には傍点が付されている。)との指導的な記載もある(アルミ電解コンデンサの)当該技術分野における当然の技術常識を示しており、明らかに記載されているのと同じことであると理解します。
以上のことから、「JIS C-0053 はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以下である」という発明特定事項は、明細書の全ての記載と上記の当該技術分野における当然の技術常識から導かれる技術的事項であることは明らかであり、何ら新たな技術的事項を導入するものではありません。」
と主張する。
しかしながら、本件特許明細書等には、JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)によりゼロクロス時間(ZCT値)を測定することが記載されているだけであって(上記「(ア)(c)」)、当該JIS C-0053の付属書Bの「2.5秒以下にすることが望ましい。」という事項については記載も示唆もない。すなわち、本件特許明細書等には、ゼロクロス時間(ZCT値)を測定するための方法として、JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)を用いることが単に記載されているだけであって、測定対象となる試料を作製する際に、当該JIS C-0053の付属書Bの「2.5秒以下にすることが望ましい。」という事項を満たすように作製することや、当該JIS C-0053の付属書Bの「2.5秒以下にすることが望ましい。」という事項を満たしているか否かを試験することは記載も示唆もない。
また、本件特許の明細書の試料5(比較例2)のZCT値についても、JIS C-0053の上記「2.5秒以下にすることが望ましい」という記載に基づいて、「2.50秒」となるように調整されたものであることを示唆する記載もない。
また、そもそも、JIS C-0053 はんだ付け試験方法(平衡法)(乙第3号証)の「付属書B はんだ付け試験に平衡法を適用する指針」の上記「B6.1.1 ぬれが始まる時間」の項には、「この時間は、フラックスの種類と供試品の熱特性に依存するが、2.5秒以下にすることが望ましい。」(下線は当審で付与した。)と記載されているから、「2.5秒以下」というのは、単に「望ましい」数値範囲にすぎず、必ずそうしなければならないものではないことは明らかであり、さらに、「フラックスの種類と供試品の熱特性に依存する」ものであるから、全ての部品に無条件に適用しなければならないものでもない。
なお、被請求人が平成30年8月9日付け意見書に添付した乙第4号証(特許第4954406号公報)及び乙第5号証(特許第5337943号公報)に記載のものにおいても、ZCT値をJIS C-0053に記載の「2.50秒以下」には制限してはいない。
したがって、JIS C-0053の付属書Bに「2.5秒以下にすることが望ましい」という記載があるからといって、本件特許明細書等にZCT値の上限を「2.50秒」とするという技術思想が開示されているとまではいえないから、被請求人の上記主張を採用することはできない。

(b)数値範囲の下限について
次に、「ゼロクロス時間」の数値範囲の下限について検討すると、訂正事項A-bにはゼロクロス時間の下限は特定されていない。したがって、訂正事項A-bによって特定される数値範囲は、例えば、試料2(実施例2)の「2.30秒」(表1参照)よりも小さいゼロクロス時間も含むものである。
ところで、上記「(ア)(c)」で摘示した表1には、ウィスカの成長抑制処理として熱処理を行った場合の試料1ないし4(実施例1ないし3と比較例1)の熱処理温度とZCT値が記載されているが、それらの値の関係からみて、上記熱処理温度と上記ZCT値との間には、単調増加あるいは単調減少のような単調性が認められない。したがって、実際に測定された「110°C」「130°C」「180°C」「200°C」以外の熱処理温度において、どのようなZCT値をとるのかを予測することは当業者といえども困難であるといわざるを得ない。
また、本件特許明細書等には、「60?180℃の温度範囲において、酸素雰囲気下で、タブ端子を熱処理することにより」(上記「(ア)(b)」参照)のように、試料1(実施例1)の上記「110°C」よりも低い熱処理温度で熱処理することが記載されている。しかしながら、熱処理温度を試料2(実施例2)の「130°C」から上記試料1(実施例1)の「110°C」に下げた場合、ZCT値は「2.30秒」から「2.35秒」に増加しており、かつ、熱処理を行っていない試料5(比較例2)の「2.50秒」に近付いていることからみて、熱処理温度を上記「110°C」よりも低い熱処理温度、すなわち、「60°以上110°未満」の温度としたとしても、ZCT値が試料2(実施例2)の「2.30秒」よりも小さくなる蓋然性は極めて低いといわざるを得ない。
そうすると、本件特許明細書等には、ウィスカの成長抑制処理として熱処理を行った場合において、ゼロクロス時間を2.30秒未満とする技術、すなわち、ウィスカの成長を抑制しつつも、ハンダ濡れ性を実施例2の2.30秒よりもさらに向上させる技術は記載も示唆もされていない。
さらに、上記「(ア)(d)」で摘示した表2には、ウィスカの成長抑制処理として溶剤処理を行った場合の試料6及び7(実施例4及び5)の処理溶剤とZCT値が記載されているが、いずれのZCT値も上記「2.30秒」を上回っており、ZCT値が「2.30秒」未満となる実施例は記載されておらず、かつ、それらの実施例からZCT値が「2.30秒」未満となる具体的な処理溶剤を推測することもできない。
以上のとおりであるから、本件特許明細書等には、「ゼロクロス時間」を「2.30秒」よりも小さい値とすることは記載も示唆もされていない。

次に、この点に関する被請求人の主張(反論)について検討する。
(i)被請求人は、平成30年8月9日付け意見書の「5」の「(6)「ゼロクロス時間」の下限値について」において、
「しかしながら、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の範囲には、「ゼロクロス時間が2.50秒以下である」実施態様、「ゼロクロス時間が2.85秒以下である」等の実施態様はもちろんのこと、「ゼロクロス時間が2.30未満である」実施態様も含まれていたものであり、ゼロクロス時間が2.30未満である実施態様が、訂正事項A-bないし訂正事項D-bによって新たにその範囲に含まれるようになったものではありません。すなわち、訂正事項A-bないし訂正事項D-bはいずれも、訂正前の特許請求の範囲の請求項1のうち、ゼロクロス時間が特定の値よりも大きい実施態様を請求項から除外することを意図したものであり、本件特許明細書にはゼロクロス時間を2.30秒未満とする実施態様が特許請求の範囲に含まれることは、訂正の前後を通して何ら変わりがありません。そのため、本件特許明細書にはゼロクロス時間を2.30秒未満とする技術の記載の有無に拘わらず、訂正事項A-bないし訂正事項D-bが法134条1項1号の要件を充足していることは明らかです。」
と主張する。
しかしながら、訂正前の特許請求の範囲にゼロクロス時間に関して何ら特定がなされていないからと言って、ゼロクロス時間の全ての数値範囲を実現可能にする技術が本件特許明細書等に開示されているということはできないから、被請求人の上記主張を採用することはできない。

(ii)被請求人は、平成30年8月9日付け意見書の「5」の「(6)「ゼロクロス時間」の下限値について」において、上記(i)の主張に続けて、
「また、ゼロクロス時間(ZCT値)がハンダ濡れ性の指標として技術的意味を有するのは、「○○秒以下」という上限のみであり、「○○秒以上」というように下限値を規定することは、ハンダ濡れ性に関する技術的課題の解決手段として何の意味も持ちません。現に、JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)(乙第3号証)の第276頁には、「それゆえ、t_(0)とAとの時間間隔がぬれが始まる時間である。多数の部品を同時にはんだ付けする工程で取り付けられる部品の場合、この時間は、フラックスの種類と供試品の熱特性に依存するが、2.5秒以下にすることが望ましい。」(傍点は被請求人による。)(当審注:引用箇所中の「2.5秒以下」には傍点が付されている。)との記載がありますが、この記載はただ単に「2.5秒以下」という数値範囲を示しているに留まらず、「ハンダ濡れ性」という概念は、ゼロクロス時間(ZCT値)がある一定値以下であるか否かという基準で評価されるという、当該技術分野における当然の技術常識を示しております(中略)。すなわち、明細書の実施例に接した当業者は、そこに記載されたそれぞれのZCT値について、その数値以下という技術的意味を読み取るのが通常であり、逆に、その数値以上ということに技術的意義を見いだすことは考えられません。よって、ゼロクロス時間(ZCT値)の下限値を規定することは、本件発明の技術的課題の解決手段として全く無意味という他ありませんので、その意味においても、この点が訂正要件違反の根拠とはなり得ないことは明らかです。」
と主張する。
しかしながら、本件特許明細書等に記載の課題は、「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できる」タブ端子を提供することであるから、ウィスカの発生が抑制できるか否かを考慮せずにハンダ濡れ性のみに着目して、「ゼロクロス時間(ZCT値)の下限値を規定することは、本件発明の技術的課題の解決手段として全く無意味」であるということはできない。特に、ウィスカの成長抑制処理とゼロクロス時間との間に、平成29年10月11日付け意見書の第3頁において被請求人が図示するような関係があることを勘案すると、ZCT値の値が小さくなればウィスカ成長抑制効果も小さくなり、「ハンダ濡れ性を損ねることなく」という課題は解決できているが、「ウィスカの発生が抑制できる」という課題が解決できない場合も生じうるのであるから、「ゼロクロス時間(ZCT値)の下限値を規定することは、本件発明の技術的課題の解決手段として全く無意味」であるということはできない。
したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。

(iii)被請求人は、平成30年8月9日付け意見書の「5」の「(6)「ゼロクロス時間」の下限値について」において、上記(ii)の主張に続けて、
「また、上記5(2)?(5)において説明したとおり、本件訂正発明はハンダ濡れ性を維持しつつウィスカ発生抑制処理がなされたタブ端子を得ようとするものであって、ハンダ濡れ性が優れたタブ端子を得ようとするものではありません。すなわち、訂正事項A-bの「ゼロクロス時間が2.50秒以下」や訂正事項B-bの「ゼロクロス時間が2.35秒以下」等の訂正事項は、可能な限りゼロクロス時間を0秒に近づけることを意図しているものではなく、ウィスカ発生抑制処理である酸化スズ形成処理において、酸化スズ形成度合いの上限を規定したものに他ならず、少なくとも本件訂正発明の技術的思想において「0秒以上、2.30秒未満」のゼロクロス時間の範囲に、格別の技術的重要性がないことは明らかです。換言すれば、訂正事項A-bは、タブ端子のゼロクロス時間が2.50秒を超えない程度に、タブ端子の溶接部に酸化スズ形成処理(熱処理)を行うことを規定したものであり、ウィスカ発生抑制と無関係にゼロクロス時間ができるだけ小さい値を有する(ハンダ濡れ性が非常に優れた)タブ端子を実現することを規定したものではありません。したがって、この意味においても、ハンダ濡れ性を実施例2の2.30秒よりもさらに向上させる技術が本件特許明細書に記載されているか否かが、訂正事項A-bないし訂正事項D-bの適否に影響しないことは明らかです。」(当審注:上記「ハンダ濡れ性を維持」「ハンダ濡れ性が優れた」「2.50秒を超えない程度」には、傍点が付されている。)
と主張する。
しかしながら、本件特許明細書等に記載の課題は、「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できる」タブ端子を提供することであり、数値範囲の技術的評価は上記課題を解決できているか否かでなされるべきものであるから、「0秒以上、2.30秒未満」というゼロクロス時間の数値範囲において、「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制でき」ているか否かを考慮することなく、「『0秒以上、2.30秒未満』のゼロクロス時間の範囲に、格別の技術的重要性がない」及び「ハンダ濡れ性を実施例2の2.30秒よりもさらに向上させる技術が本件特許明細書に記載されているか否かが、訂正事項A-bないし訂正事項D-bの適否に影響しない」とする被請求人の上記主張は採用することができない。
そして、「0秒以上、2.30秒未満」というゼロクロス時間の数値範囲において、「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制でき」ているか否かについて、本件特許明細書等には、当該「0秒以上、2.30秒未満」に含まれる実施例の記載はなく、上述したように「0秒以上、2.30秒未満」とするための具体的技術の開示もなく、さらに、ゼロクロス時間が「0秒以上、2.30秒未満」である場合のウィスカの長さや評価等についても何ら記載されていないのであるから、本件特許明細書等には、ゼロクロス時間を「0秒以上、2.30秒未満」とすることによって、「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できる」という課題を解決することは開示されていないと言わざるをえない。

(iv)被請求人は、平成30年8月9日付け意見書の「5」の「(6)「ゼロクロス時間」の下限値について」において、上記(iii)の主張に続けて、
特許第4954406号(乙第4号証)の請求項3、6、及び9に「ゼロクロスタイムが4.5秒以下である」という記載があること、及び、同じく特許第5337943号(乙第5号証)の請求項5に「はんだ濡れ性のゼロクロス時間が0.65秒以下である」という記載があることに基づく主張を行っているが、本件とは別の特許明細書等においてゼロクロス時間の下限値が特定されていないからといって、本件特許明細書等において、ゼロクロス時間を「0秒以上、2.30秒未満」とすることによって、「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できる」という課題を解決することが開示されているということはできないから、被請求人の上記主張を採用することはできない。

(エ)まとめ
以上を総合すると、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲には、「ゼロクロス時間」の上限を「2.50秒」とすることは記載も示唆もされておらず、また、「ゼロクロス時間」を「2.30秒」よりも小さい値とすることも記載も示唆もされていない。
したがって、上記訂正事項A-bは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであるとはいえない。
よって、上記訂正事項A-bを含む訂正事項Aは、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。

(3)訂正事項Bについて
ア 訂正の目的について
訂正事項Bは、
a)訂正前の請求項2が引用していた請求項1の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理であ」るという発明特定事項を含むように請求項2の記載を書き替える訂正事項(以下、「訂正事項B-a」という。)と、
b)「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.35秒以下である」という発明特定事項を付加する訂正事項(以下、「訂正事項B-b」という。)とを、
含むものである。
そして、請求項2の記載を独立形式に書き換える上記訂正事項B-aは、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、上記訂正事項B-bは、「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.35秒以下である」との発明特定事項を他の発明特定事項に対して直列的に付加するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
訂正事項B-aは、請求項2を独立形式に書き換えているだけであって、何ら実質的内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
また、訂正事項B-bは、上記「ア」に示したとおり、発明特定事項を直列的に付加することによって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項B-aは、訂正前の請求項1に記載されている事項であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
次に、訂正事項B-bについて検討する。
(ア)「ゼロクロス時間」の測定方法について
訂正事項B-bには、電解コンデンサ用タブ端子の「ゼロクロス時間」は「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定された」ものであることが特定されているが、この点については、上記「(2)ウ(ア)(c)」で摘示したように、本件特許明細書等に記載された事項である。

(イ)「ゼロクロス時間」の数値範囲について
(a)数値範囲の上限について
上記「(2)ウ(ア)(c)」で摘示した表1には、熱処理温度が「110°C」である試料1(実施例1)のZCT値が「2.35秒」でハンダ濡れ性が「○」であることが記載されており、また、上記「(2)ウ(ア)(d)」で摘示した表2には、処理溶剤が「ケイフッ化アンモニウム」である試料7(実施例5)のZCT値が「2.35秒」でハンダ濡れ性が「○」であることが記載されている。しかしながら、上記表1及び表2には、「2.35秒」よりも大きいZCT値が測定された試料3(実施例3:2.85秒)や試料6(実施例4:2.40秒)のハンダ濡れ性も「○」と記載されているから、ZCT値の上限が「2.35秒」であることを当該表1及び表2から読み取ることはできない。
また、本件特許明細書等の上記表1及び表2以外の記載をみても、「2.35秒」を数値範囲の上限とすることや、数値範囲の上限を「2.35秒」とすることに関する課題や効果、特に、臨界的意義について何ら記載されていない。
一方、上記「(2)ウ(ウ)(a)」で説示したように、本件特許明細書等には、熱処理温度が「180°C」である試料3(実施例3)のZCT値である「2.85秒」が、「ゼロクロス時間」の上限であることが示唆されているということができる。
以上を総合すると、本件特許明細書等には、「ゼロクロス時間」の上限が「2.35秒」であることは記載も示唆もされていない。

次に、この点に関する被請求人の主張(反論)について検討する。
(i)被請求人は、平成30年8月9日付け意見書の「5」の「(4)訂正事項B-b(ゼロクロス時間が2.35秒以下である)の根拠」において、
「上記のとおり、明細書の記載及び技術常識を踏まえると、当業者であれば、本件特許発明の効果(ウィスカ抑制とハンダ濡れ性との両立)がより一層奏されると考えられる好ましい実施形態によれば、タブ端子の熱処理条件は「80℃から150℃」の温度範囲で「15分?30分」の時間であると理解します。そして、実施例の表1に示された評価結果も踏まえると、110℃で20分間の熱処理を行った試料1(実施例1)が、ウィスカ長さが0.16mmと短く且つZCT値が2.35秒と小さく、特に好ましい実施態様であると理解できます。
以上を踏まえると、ハンダ濡れ性とウィスカ発生抑制とを両立できるタブ端子として記載されている試料1(実施例1)のZCT値を、本件特許発明の効果がより一層奏される実施態様、すなわち、ハンダ濡れ性とウィスカ発生抑制とをより一層高いレベルで実現できるタブ端子の指標とすることは、何ら新たな技術的事項を導入するものではありません。」
と主張する。
しかしながら、本件特許明細書等に記載の課題は、「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できる」タブ端子を提供することであることや、請求項2には酸化スズ形成処理がタブ端子を熱処理することにより行われることまでは特定されておらず、溶剤処理により行われることも含むものであることを勘案すると、試料1と同じウィスカ長さである試料3(実施例3)のZCT値(2.85秒)や、試料1よりも短いウィスカ長さである試料6(実施例4)のZCT値(2.40秒)を除外して、試料1のZCT値(2.35秒)を上限とすることに、合理的な根拠を見いだすことはできないから、被請求人の上記主張を採用することはできない。

(b)数値範囲の下限について
訂正事項B-bにはゼロクロス時間の下限は特定されていないから、訂正事項A-bと同様に、訂正事項B-bによって特定される数値範囲も、例えば、試料2(実施例2)の「2.30秒」(表1参照)よりも小さいゼロクロス時間も含むものである。
しかしながら、上記「(2)ウ(ウ)(b)」で説示したように、本件特許明細書等には、「ゼロクロス時間」を「2.30秒」よりも小さい値とすることは記載も示唆もされていない。
また、この点に関する被請求人の主張(反論)については、上記「(2)ウ(ウ)(b)」で検討した内容と同じであり、採用することはできない。

(ウ)まとめ
以上を総合すると、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲には、「ゼロクロス時間」の上限を「2.35秒」とすることは記載も示唆もされておらず、また、「ゼロクロス時間」を「2.30秒」よりも小さい値とすることも記載も示唆もされていない。
したがって、上記訂正事項B-bは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであるとはいえない。
よって、上記訂正事項B-bを含む訂正事項Bは、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。

(4)訂正事項Cについて
ア 訂正の目的について
訂正事項Cは、
a)訂正前の請求項3が引用していた請求項1の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理であ」るという発明特定事項を含むように請求項3の記載を書き替える訂正事項(以下、「訂正事項C-a」という。)と、
b)「前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてなる(但し、前記電解コンデンサ用タブ端子について、JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除く。)」という発明特定事項を付加する訂正事項(以下、「訂正事項C-b」という。)とを、
含むものである。
そして、請求項3の記載を独立形式に書き換える上記訂正事項C-aは、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、上記訂正事項C-bは、「前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてなる(但し、前記電解コンデンサ用タブ端子について、JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除く。)」との発明特定事項を他の発明特定事項に対して直列的に付加するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
訂正事項C-aは、請求項3を独立形式に書き換えているだけであって、何ら実質的内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
また、訂正事項C-bは、上記「ア」に示したとおり、発明特定事項を直列的に付加することによって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項C-aは、訂正前の請求項1に記載されている事項であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
次に、訂正事項C-bについて検討する。
(ア)溶接部の成分について
訂正事項C-bには、「前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてなる」ことが特定されているが、これは、本件特許の明細書の段落【0026】に記載された事項である。

(イ)「ゼロクロス時間」の測定方法について
訂正事項C-bには、電解コンデンサ用タブ端子の「ゼロクロス時間」は「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定された」ものであることが特定されているが、この点については、上記「(2)ウ(ア)(c)」で摘示したように、本件特許明細書等に記載された事項である。

(ウ)「ゼロクロス時間」の数値範囲について
訂正事項C-bには、「ゼロクロス時間」の数値範囲について、「2.50秒以上のものを除く」ことが特定されているが、本件特許明細書等には、「ゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除く」旨の直接的な記載はなされていない。
そこで、「ゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除く」ということが、「ゼロクロス時間が2.50秒未満である」ことと実質的に同じことであるから、「ゼロクロス時間が2.50秒未満である」ことが、本件特許明細書等に記載されているか否かについてさらに検討する。
(a)数値範囲の上限について
上記「(2)ウ(ウ)(a)」で説示したように、本件特許明細書等には、熱処理温度が「180°C」である試料3(実施例3)のZCT値である「2.85秒」が、「ゼロクロス時間」の上限であることが示唆されているということができる。そして、ハンダ濡れ性が「○」である上記試料3(実施例3)を除外することや除外する理由等について、本件特許明細書等には何ら記載されていない。また、「ゼロクロス時間」の上限が「2.85秒」よりも小さい値でなければならない他の理由も何ら記載されていない。そうすると、「ゼロクロス時間が2.50秒未満である」ことは、本件特許明細書等には記載されていない。

次に、この点に関する被請求人の主張(反論)について検討する。
(i)被請求人は、平成30年8月9日付け意見書の「5」の「(5)訂正事項C-b(ゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除く)の根拠」において、
「上記のとおり、本件特許の明細書に接した当業者は、技術常識に照らせば「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できるタブ端子」を実現するには、ウィスカの発生を抑制できるように酸化スズを形成しながら、従来のタブ端子(即ち、熱処理を行わなかった試料5)のZCT値と同程度の「2.50秒」を少なくとも備えている必要があると理解します。
すなわち、当業者であれば、従来のタブ端子(即ち、熱処理を行わなかった試料5)のZCT値と同程度の「2.50秒」よりも大きい値のZCT値を有するタブ端子は、「ハンダ濡れ性を損ねることなく、ウィスカの発生が抑制できるタブ端子」から除外されるべきものであると理解します。」
と主張する。
しかしながら、上記「(2)ウ(ウ)(a)(i)」で説示したとおり、本件特許の明細書に記載の「○」は「ハンダ濡れ性を損ねない」と解釈するのが普通であり、ZCT値が「2.85秒」である試料3(実施例3)のハンダ濡れ性は「○」であると評価されていることからみて、ZCT値が従来のタブ端子のZCT値(2.50秒)よりも大きいということのみをもって、「ハンダ濡れ性とウィスカ発生抑制とを両立し得ない」ということはできないし、従来のタブ端子のZCT値(2.50秒)を少なくとも備えている必要があるということもできない。
したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。

(b)数値範囲の下限について
訂正事項C-bにはゼロクロス時間の下限は特定されていないから、訂正事項A-bと同様に、訂正事項C-bによって特定される数値範囲も、例えば、試料2(実施例2)の「2.30秒」(表1参照)よりも小さいゼロクロス時間も含むものである。
しかしながら、上記「(2)ウ(ウ)(b)」で説示したように、本件特許明細書等には、「ゼロクロス時間」を「2.30秒」よりも小さい値とすることは記載も示唆もされていない。
また、この点に関する被請求人の主張(反論)については、上記「(2)ウ(ウ)(b)」で検討した内容と同じであり、採用することはできない。

(エ)まとめ
以上を総合すると、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲には、「ゼロクロス時間が2.50秒以上のものを除く」こと、又は、「ゼロクロス時間が2.50秒未満である」ことは記載も示唆もされていない。
したがって、上記訂正事項C-bは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであるとはいえない。
よって、上記訂正事項C-bを含む訂正事項Cは、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。

(5)訂正事項Dについて
ア 訂正の目的について
訂正事項Dは、
a)訂正前の請求項3が引用していた請求項2がさらに引用していた請求項1の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理であ」るという発明特定事項と、訂正前の請求項3が引用していた請求項2の「前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてな」るという発明特定事項とを含むように請求項3の記載を書き替える訂正事項(以下、「訂正事項D-a」という。)と、
b)「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.85秒以下である」という発明特定事項を付加する訂正事項(以下、「訂正事項C-b」という。)とを、
含むものである。
そして、請求項3の記載を独立形式に書き換える上記訂正事項D-aは、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、上記訂正事項D-bは、「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定されたゼロクロス時間が2.85秒以下である」との発明特定事項を他の発明特定事項に対して直列的に付加するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか否かについて
訂正事項D-aは、請求項3を独立形式に書き換えているだけであって、何ら実質的内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
また、訂正事項D-bは、上記「ア」に示したとおり、発明特定事項を直列的に付加することによって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項D-aは、訂正前の請求項1及び2に記載されている事項であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
次に、訂正事項D-bについて検討する。
(ア)「ゼロクロス時間」の測定方法について
訂正事項D-bには、電解コンデンサ用タブ端子の「ゼロクロス時間」は「JIS C-0053はんだ付け試験方法(平衡法)に準拠して測定された」ものであることが特定されているが、この点については、上記「(2)ウ(ア)(c)」で摘示したように、本件特許明細書等に記載された事項である。

(イ)「ゼロクロス時間」の数値範囲について
(a)数値範囲の上限について
上記「(2)ウ(ウ)(a)」で説示したように、明細書には、熱処理温度が「180°C」である試料3(実施例3)のZCT値である「2.85秒」が、「ゼロクロス時間」の上限であることが示唆されているということができる。
したがって、数値範囲の上限が「2.85秒」であることは、本件特許明細書等に記載された事項である。

(b)数値範囲の下限について
訂正事項D-bにはゼロクロス時間の下限は特定されていないから、訂正事項A-bと同様に、訂正事項D-bによって特定される数値範囲も、例えば、試料2(実施例2)の「2.30秒」(表1参照)よりも小さいゼロクロス時間も含むものである。
しかしながら、上記「(2)ウ(ウ)(b)」で説示したように、本件特許明細書等には、「ゼロクロス時間」を「2.30秒」よりも小さい値とすることは記載も示唆もされていない。
また、この点に関する被請求人の主張(反論)については、上記「(2)ウ(ウ)(b)」で検討した内容と同じであり、採用することはできない。

(ウ)まとめ
以上を総合すると、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲には、「ゼロクロス時間」を「2.30秒」よりも小さい値とすることも記載も示唆もされていない。
したがって、上記訂正事項D-bは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであるとはいえない。
よって、上記訂正事項D-bを含む訂正事項Dは、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。

(6)訂正の請求単位について
上記「(3)ウ(ウ)」で述べたとおり、請求項2に係る訂正事項Bは訂正要件を満たしていないから、上記訂正事項Bに含まれる引用関係の解消(訂正事項B-a)も認めることはできない。したがって、請求項2について、引用元の請求項と別の請求単位として扱わない。
また、上記「(4)ウ(ウ)」で述べたとおり、請求項3に係る訂正事項Cは訂正要件を満たしていないから、上記訂正事項Cに含まれる引用関係の解消(訂正事項C-a)も認めることはできない。したがって、請求項1を引用する請求項3について、引用元の請求項と別の請求単位として扱わない。
さらに、上記「(5)ウ(ウ)」で述べたとおり、請求項3に係る訂正事項Dは訂正要件を満たしていないから、上記訂正事項Dに含まれる引用関係の解消(訂正事項D-a)も認めることはできない。したがって、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3(訂正後の請求項17とその従属請求項である請求項18ないし23)について、引用元の請求項と別の請求単位として扱わない。
そうすると、本件訂正の請求単位は、請求項1ないし16からなる一群の請求項である。

(7)請求項1ないし16からなる一群の請求項に係る訂正の適否についての結論
上記「(2)」ないし「(5)」で説示したとおり、上記訂正事項A(訂正事項1)、訂正事項B(訂正事項13)、訂正事項C(訂正事項25)、及び訂正事項D(訂正事項34)は、いずれも特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものではない。
したがって、他の訂正事項について判断するまでもなく、請求項1ないし16からなる一群の請求項に係る訂正は、これを認めることができない。

第4 本件発明
上記「第3」のとおり、本件訂正の請求を認めることができないから、特許第4452917号の請求項1ないし16に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明16」という。)は、特許権の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであるところ、本件発明1ないし16はそれぞれ次のとおりのものである。

「【請求項1】
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線が溶接されてなる電解コンデンサ用タブ端子であって、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理である、電解コンデンサ用タブ端子。
【請求項2】
前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてなる、請求項1に記載のタブ端子。
【請求項3】
前記の酸化スズ形成処理が、タブ端子を熱処理することにより行われる、請求項1または2に記載のタブ端子。
【請求項4】
前記熱処理が、60?180℃の範囲において酸素雰囲気下で行われる、請求項3に記載のタブ端子。
【請求項5】
前記熱処理が、80?150℃の範囲において酸素雰囲気下で行われる、請求項3に記載のタブ端子。
【請求項6】
前記の酸化スズ形成処理が、溶剤処理により行われる、請求項1または2に記載のタブ端子。
【請求項7】
前記溶剤処理が、リード線端部にアルミ芯線を溶接した直後に行われるものである、請求項6に記載のタブ端子。
【請求項8】
前記溶剤が、珪酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、およびこれらの混合物からなる群から選択される無機酸塩を含んでなる水溶液である、請求項6に記載のタブ端子。
【請求項9】
前記溶剤が、さらにアンモニウム塩を含んでなる水溶液である、請求項8に記載のタブ端子。
【請求項10】
前記水溶液の濃度が、1?10重量%である、請求項8または9に記載のタブ端子。
【請求項11】
請求項1?10に記載のタブ端子の製造方法であって、
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線を溶接してタブ端子を準備する工程、および
前記溶接されたタブ端子を、熱処理する工程、
を含んでなる、タブ端子の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理が、60?180℃の範囲において酸素雰囲気下で行われる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理が、80?150℃の範囲において酸素雰囲気下で行われる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1?10に記載のタブ端子の製造方法であって、
芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線を溶接する工程、および
溶接直後に、前記溶接部分に溶剤を塗布して付着させる工程、
を含んでなり、
前記溶剤が、珪酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、およびこれらの混合物からなる群から選択される無機酸塩を含んでなる水溶液であり、
前記水溶液の濃度が、1?10重量%である、タブ端子の製造方法。
【請求項15】
前記溶剤が、さらにアンモニウム塩を含んでなる水溶液である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記溶接部分に溶剤を塗布する際の、溶接部分の温度が、80?250℃である、請求項14または15に記載の製造方法。」

第5 無効理由に対する当審の判断
1 請求項1ないし6、8ないし13に係る発明の特許について
事案に鑑み、まず無効理由1-2(特許法第29条第2項)から検討する。
なお、上記「第2」の「2(1)」のとおり、被請求人は、平成28年11月30日付けの訂正請求が認められないとした場合について、すなわち、上記本件発明1ないし6、8ないし13について、上記無効理由1-2に対する意見は特にないと陳述している。

(1)引用発明
ア 甲第1号証の記載事項
請求人が提出した甲第1号証(特開2000-277398号公報)には、「コンデンサ用リード線の製造方法」に関して、図面とともに以下の記載がある。(下線は当審で付与した。)
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、すずめっきされた銅線とアルミニウム線とが溶接されたコンデンサ用リード線の製造方法に関するものである。」

(イ)「【0004】本発明の課題は、ウィスカの発生を防止することができるコンデンサ用リード線の製造方法を提供することである。」

(ウ)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。すなわち、請求項1の発明は、すずめっきされた銅線とアルミニウム線とが溶接されたコンデンサ用リード線の製造方法であって、前記コンデンサ用リード線をアルカリ性洗浄液で洗浄する洗浄工程と、前記コンデンサ用リード線から前記アルカリ性洗浄液を除去する洗浄液除去工程と、前記コンデンサ用リード線を高温加熱して、溶接部にウィスカが発生するのを防止する乾燥工程とを含むコンデンサ用リード線の製造方法である。
【0006】請求項2の発明は、請求項1に記載のコンデンサ用リード線の製造方法において、前記洗浄工程は、温度90°C?99°Cで約12分間洗浄する工程であり、前記乾燥工程は、温度約150°Cで約21分間加熱する工程であることを特徴とするコンデンサ用リード線の製造方法である。」

(エ)「【0007】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。図1は、コンデンサ用リード線の一部を省略して示す図であり、図2は、リード線製造装置の概略構成図である。コンデンサ用リード線1は、図1に示すように、極めて純度の高いすずがめっきされた銅線10とアルミニウム線11とを溶接部12で溶接したものである。また、リード線製造装置2は、図2に示すように、洗浄装置20と、液回収装置21と、水洗装置22と、遠心分離器23と、エアブロー24と、乾燥装置25と、冷却装置26と、搬送装置27とを備えている。」

(オ)「【0008】前記洗浄装置20は、例えば、アルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)などの洗浄液によって、コンデンサ用リード線1を洗浄する洗浄槽である。この洗浄装置20は、温度90°C?99°Cの洗浄液でコンデンサ用リード線1を約12分間洗浄して、アルミニウム線11を脱脂したり、銅線10とアルミニウム線11とを溶接するときに発生するカーボンを除去する。」

(カ)「【0010】前記乾燥装置25は、コンデンサ用リード線1を加熱して乾燥するとともに、溶接部12にウィスカが発生するのを防止する装置である。この乾燥装置25は、コンデンサ用リード線1を温度約150°で約21分間加熱する。また、冷却装置26は、乾燥装置25内で加熱されたコンデンサ用リード線1を冷却する装置であり、搬送装置27は、コンデンサ用リード線1を搭載する搬送ユニット27aを循環駆動するコンベヤである。」

(キ)「【0011】次に、本発明の実施形態に係るコンデンサ用リード線の製造方法を説明する。図2に示すように、コンデンサ用リード線1が搬送ユニット27a内に図中A方向から搬入されると、この搬送ユニット27aを搬送装置27が図中B方向に搬送する。コンデンサ用リード線1は、洗浄装置20内で洗浄されて、アルミニウム線11が脱脂されるとともに、銅線10とアルミニウム線11とを溶接するときに発生するカーボンが除去される(洗浄工程)。そして、コンデンサ用リード線1は、液回収装置21内でエアを吹き付けられて、水洗装置22内で洗浄液が洗い流される(洗浄液除去工程)。次に、コンデンサ用リード線1は、遠心分離器23によって純水を除去された後に、エアブロー24によって純水が除去される。そして、コンデンサ用リード線1は、乾燥装置25内で加熱乾燥され、ウィスカの発生が防止される(乾燥工程)。その後に、コンデンサ用リード線1は、冷却装置26内で冷却されて、搬送ユニット27a内から図中C方向に搬出される。」

(ク)「【0012】本発明の実施形態に係るコンデンサ用リード線の製造方法は、以下に記載するような効果を有する。
(1) 本発明の実施形態では、コンデンサ用リード線1をアルカリ性の洗浄液で洗浄し、このコンデンサ用リード線1から洗浄液を除去した後に、このコンデンサ用リード線1を加熱している。その結果、アルカリ性の洗浄液で洗浄した後に、コンデンサ用リード線1を温度約150°Cで約21分間加熱して、溶接部12にウィスカが発生するのを防止することができる。」

(ケ)「【0014】本発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、種々の変形又は変更が可能であって、これらも本発明の範囲内である。例えば、本発明の実施形態では、コンデンサ用リード線1を温度150°Cで21分間加熱しているが、例えば、温度100°C?125°Cで4時間程度加熱してもよい。」

(コ)「【0015】
【発明の効果】以上詳しく説明したように、本発明によれば、コンデンサ用リード線をアルカリ性洗浄液で洗浄し、前記コンデンサ用リード線から前記アルカリ性洗浄液を除去し、前記コンデンサ用リード線を加熱して、溶接部にウィスカが発生するのを防止するので、ウィスカの発生を防止することができる。」

(サ)図1の記載からみて、すずめっきされた銅線10の端部にアルミニウム線11が溶接されている。

イ 甲第1号証に記載された発明(引用発明1ないし3)
(ア)引用発明1
乾燥装置25の乾燥工程において「コンデンサ用リード線1を温度約150°で約21分間加熱する」こと(上記「ア(カ)」)に着目して、上記「ア」の「(ア)ないし(エ)、(カ)ないし(サ)」の記載事項及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「すずめっきされた銅線10の端部に、アルミニウム線11が溶接されたコンデンサ用リード線1であって、前記コンデンサ用リード線1は温度約150°Cで約21分間加熱される、コンデンサ用リード線1。」

(イ)引用発明2
洗浄装置20の洗浄工程において「アルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)などの洗浄液によって、コンデンサ用リード線1を洗浄する」こと(上記「ア(オ)」)に着目して、上記「ア」の「(ア)ないし(オ)、(キ)ないし(シ)」の記載事項及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「すずめっきされた銅線10の端部に、アルミニウム線11が溶接されたコンデンサ用リード線1であって、前記コンデンサ用リード線1はアルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)などの洗浄液によって洗浄される、コンデンサ用リード線1。」

(ウ)引用発明3
上記引用発明1の「コンデンサ用リード線1」について、その製造方法に着目して、上記「ア」の「(ア)ないし(エ)、(カ)ないし(シ)」の記載事項及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。

「『すずめっきされた銅線10の端部に、アルミニウム線11が溶接されたコンデンサ用リード線1であって、前記コンデンサ用リード線1は温度約150°Cで約21分間加熱される、コンデンサ用リード線1』(引用発明1)の製造方法であって、
すずめっきされた銅線10の端部に、アルミニウム線11を溶接する工程、および、すずめっきされた銅線10とアルミニウム線11とが溶接されたコンデンサ用リード線1を、温度約150°Cで約21分間加熱する工程、を含んでなるコンデンサ用リード線1の製造方法。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「銅線10」は、本件発明1の「リード線」の「芯材」に相当し、また、引用発明1の前記「銅線10」は「すずめっきされた」ものであるから、その「表面にスズからなる金属層が形成されて」いるといえる。そうすると、引用発明1の「すずめっきされた銅線10」は、本件発明1の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線」に相当する。

(イ)引用発明1の「アルミニウム線11」は、本件発明1の「アルミ芯線」に相当する。

(ウ)引用発明1においては、コンデンサ用リード線1が「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことによって、すずめっきされた銅線10とアルミニウム線11の溶接部12も当然に加熱されると認められる。また、上記「(1)ア」の「(ウ)(カ)(ク)(コ)」によれば、そのような加熱によって「溶接部12にウィスカが発生するのを防止する」ことができ、ウィスカが発生するのを防止することは、ウィスカの成長を抑制することに他ならない。そうすると、引用発明1においても、本件発明1と同様に、「溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されて」いるということができる。

そうすると、本件発明1と引用発明1の一致点は、
「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、アルミ芯線が溶接されてなり、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなる」点
であり、次の各点において相違する。
<相違点1>
本件発明1のアルミ芯線は「圧扁部」を有するのに対して、引用発明1のアルミニウム線11がこれを有するか不明である点。

<相違点2>
本件発明1は「電解コンデンサ用タブ端子」であるのに対して、引用発明1は「コンデンサ用リード線」である点。

<相違点3>
本件発明1のウィスカ抑制処理は「酸化スズ形成処理」であるのに対して、引用発明1の「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことが「酸化スズ形成処理」であるか不明である点。

イ 判断
上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
コンデンサ用リード線に用いられるアルミニウム線に圧扁部を設けることは、本件優先日時点における周知技術にすぎず(請求人が提出した甲第3号証(特開平9-213592号公報)の【0002】、図3等及び甲第4号証(特開平9-139326号公報)の【0002】、図1等を参照のこと。)、これを引用発明1に適用することを妨げるべき事由は見当たらない。
そうすると、引用発明1に上記周知技術を適用して、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)相違点2について
すずめっきされた銅線とアルミニウム線が溶接されたコンデンサ用リード線をアルミ電解コンデンサ用のタブ端子とすることは、本件優先日時点における周知技術にすぎず(請求人が提出した甲第2号証(特開平9-45579号公報)の【0013】等、甲第3号証の【0002】等、甲第4号証の【0002】等を参照のこと。)、これを引用発明1に適用することを妨げるべき事由は見当たらない。
そうすると、引用発明1に上記周知技術を適用して、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)相違点3について
請求人が提出した甲第5号証(化学辞典)には「スズは室温では空気中で安定であるが、高温では酸素と反応してSnO_(2)となる。」(第715頁)と記載されており、甲第6号証(特開平9-274060号公報)には「錫メッキ層の表面には、時効によって、酸化錫の皮膜が形成される」(【0014】)及び「室温の大気中に放置してその時効によって形成される酸化皮膜の厚さ、通常大気中で150℃という高温雰囲気下に1時間放置したときに形成される酸化皮膜の厚さ」(【0020】)と記載されており、甲第7号証(「錫めっきコンタクトの温度サイクルによる劣化メカニズムとその加速試験法」と題する記事)には錫めっきコネクタについて「高温になると・・・露出した錫表面は高温のために急速に酸化される」(第56頁)と記載されており、甲第8号証(「端子圧着部における皮膜の電気的破壊についての一考察」と題する記事)にはCu-Sn-Fe-P合金にCu(銅)下地めっきとSn(スズ)めっきとを施したテスト端子を120°Cで1000時間放置した場合に「Snめっき材料ではほとんどが酸化錫(4[当審注:原文の表記はローマ数字])(SnO_(2))であった」(第82頁)と記載されており、それらの記載を総合すると、スズめっきを空気(大気)中で高温加熱すると、その表面に酸化スズ(SnO_(2))が形成されることは、本件優先日当時の技術常識であったものと認められる。
また、上記「(1)ア」の「(ウ)(キ)(ク)(コ)」によれば、引用発明1の上記「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことは、コンデンサ用リード線の洗浄工程後の乾燥工程で行われることである。そして、どのような雰囲気下で乾燥するのかについては、甲第1号証には断り(特定)はないものの、コンデンサ用リード線を洗浄した後の乾燥を、酸素を含む大気雰囲気下(すなわち、「酸素雰囲気下」)で行うことは極々一般的であるから、引用発明1の上記「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことを酸素雰囲気下で行うことはごく普通のことである。
そうすると、引用発明1の上記コンデンサ用リード線1は「極めて純度の高いすずがめっきされた銅線10とアルミニウム線11とを溶接部12で溶接したものである。」(上記「(1)ア(エ)」)から、上記技術常識に照らせば、引用発明1のように「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことによって、溶接部12に酸化スズが形成されることは当業者にとって明らかである。
したがって、引用発明1の「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことは、本件発明1の「酸化スズ形成処理」に当たるものであると認められるから、上記相違点3は実質的な相違点ではない。

(エ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と引用発明1とを対比すると、上記「(2)ア」で示した点で一致し、上記「(2)ア」で示した相違点1ないし3に加えて以下の点で相違する。
<相違点4>
本件発明2は「前記の酸化スズ形成処理により、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれてなる」のに対して、引用発明1の「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことにより、溶接部12に少なくともSnOまたはSnO_(2)が含まれることになるか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1ないし3について
上記「(2)イ」の「(ア)ないし(ウ)」で判断したとおりである。

(イ)相違点4について
上記「(2)イ(ウ)」で述べた上記技術常識に照らせば、引用発明1の「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことにより、溶接部12に酸化スズ(少なくともSnO_(2))が形成されることは当業者にとって明らかである。したがって、上記相違点4は実質的な相違点ではない。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲第1号証に記載された引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明3について
ア 対比
上記「(2)イ(ウ)」で述べたとおり、引用発明1の「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことは、「酸化スズ形成処理」に当たるものであると認められるから、引用発明1も、本件発明3と同様に「酸化スズ形成処理が、タブ端子を熱処理することにより行われる」ものである。
そうすると、本件発明3と引用発明1は、上記「(2)ア」で示した相違点1ないし3で相違し、その余の点で一致する。

イ 判断
(ア)相違点1ないし3について
上記「(2)イ」の「(ア)ないし(ウ)」で判断したとおりである。

(イ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明3は、甲第1号証に記載された引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明4及び5について
ア 対比
引用発明1は「温度約150°Cで約21分間加熱される」ものであり、その温度は本件発明4の「60?180℃」及び本件発明5の「80?150℃」の範囲内であるから、熱処理の温度の点に関しては、本件発明4及び5と引用発明1とは相違しない。
一方、甲第1号証には、上記「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことが、どのような雰囲気下で行われるかについては記載されていない。
そうすると、本件発明4及び5と引用発明1は、上記「(2)ア」で示した相違点1ないし3に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点5>
本件発明4及び5は「熱処理」が「酸素雰囲気下で行われる」のに対して、引用発明1の「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことが酸素雰囲気下で行われるか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1ないし3について
上記「(2)イ」の「(ア)ないし(ウ)」で判断したとおりである。

(イ)相違点5について
上記「(2)イ」の「(ウ)」で判断したとおり、甲第1号証にはどのような雰囲気下で乾燥するかについて特に断り(特定)がなく、かつ、コンデンサ用リード線を洗浄した後の乾燥を、酸素を含む大気雰囲気下(すなわち、「酸素雰囲気下」)で行うことは極々一般的であるから、引用発明1の上記「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことを酸素雰囲気下で行うことはごく普通のことである。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明4及び5は、甲第1号証に記載された引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と引用発明2とを対比する。
(ア)上記「(2)ア」の「(ア)(イ)」で述べたのと同様に、引用発明2の「すずめっきされた銅線10」は、本件発明6の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線」に相当し、引用発明2の「アルミニウム線11」は、本件発明6の「アルミ芯線」に相当する。

(イ)引用発明2において、「アルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)などの洗浄液によって洗浄される」ことは、「溶剤処理」であるということができるが、甲第1号証には、上記「洗浄液によって洗浄される」ことによって酸化スズが形成されることまでは記載されていない。

(ウ)引用発明2において、コンデンサ用リード線1が「洗浄液によって洗浄される」ことによって、すずめっきされた銅線10とアルミニウム線11の溶接部12も当然に洗浄液によって洗浄される。

そうすると、本件発明6と引用発明2の一致点は、
「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、アルミ芯線が溶接されてなり、前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、溶剤処理が施されてなる」点
であり、次の各点において相違する。
<相違点6>
本件発明6のアルミ芯線は「圧扁部」を有するのに対して、引用発明2のアルミニウム線11がこれを有するか不明である点。

<相違点7>
本件発明6は「電解コンデンサ用タブ端子」であるのに対して、引用発明2は「コンデンサ用リード線」である点。

<相違点8>
本件発明6の「溶剤処理」が「酸化スズ形成処理」(すなわち「ウィスカ抑制処理」)であるのに対して、引用発明2の「アルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)などの洗浄液によって洗浄される」ことが「酸化スズ形成処理」であるか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点6について
上記「(2)イ(ア)」で述べたのと同様に、コンデンサ用リード線に用いられるアルミニウム線に圧扁部を設けることは、本件優先日時点における周知技術にすぎず、これを引用発明2に適用することを妨げるべき事由は見当たらない。
そうすると、引用発明2に上記周知技術を適用して、上記相違点6に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)相違点7について
上記「(2)イ(イ)」で述べたのと同様に、すずめっきされた銅線とアルミニウム線が溶接されたコンデンサ用リード線をアルミ電解コンデンサ用のタブ端子とすることは、本件優先日時点における周知技術にすぎず、これを引用発明2に適用することを妨げるべき事由は見当たらない。
そうすると、引用発明2に上記周知技術を適用して、上記相違点7に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)相違点8について
本件発明6の「溶剤処理」について、本件特許の明細書には、「本発明に用いられる処理溶剤としては、珪酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、および硫酸塩からなる群から選択される無機酸塩を含む水溶液を用いることが好ましく、さらにアンモニウム塩を含む水溶液であることが好ましい。」(【0031】)及び「上記の処理溶剤を用いることにより、ハンダ濡れ性に悪影響を及ぼさない程度にスズを酸化することができる。」(【0032】)と記載されており、それらの記載からみて、電解コンデンサ用タブ端子を、珪酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、および硫酸塩からなる群から選択される無機酸塩を含む水溶液を用いて処理することにより、酸化スズが形成されると認められる。
一方、引用発明2に「非エッチング型弱アルカリクリーナ」として挙げられている「ファインクリーナ315」は、請求人が提出した甲第9号証(特開2004-253311号公報)の「アルカリ洗浄液は日本パーカライジング株式会社製のファインクリーナー315(ホウ酸ナトリウム(水和物);60?65質量%、縮合リン酸塩;25?30質量%、界面活性剤;5?10質量%、キレート剤;1質量%以下)の3%水溶液を用いた。」(【0041】)という記載によれば、縮合リン酸塩等を含み、アルカリ洗浄液(水溶液)として用いられるものであるから、引用発明2の洗浄液は、本件特許の明細書に記載の上記処理溶剤に含まれるものである。
そうすると、引用発明2においても、「アルミニウム及びその合金用の非エッチング型弱アルカリクリーナ(商品名:ファインクリーナ315)などの洗浄液によって洗浄される」ことによって、すずめっきされた銅線10とアルミニウム線11の溶接部12に酸化スズが形成され、ウィスカの成長が抑制されると認められる。
したがって、相違点8は実質的な相違点ではない。

(エ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明6は、甲第1号証に記載された引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7)本件発明8について
ア 対比
上記「(6)イ(ウ)」で述べたとおり、引用発明2の「洗浄液」は縮合リン酸塩等を含むファインクリーナ315を用いているから、本件発明8の「珪酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、およびこれらの混合物からなる群から選択される無機酸塩を含んでなる水溶液」に当たるものである。
そうすると、本件発明8と引用発明2は、上記「(6)ア」で示した相違点6ないし8で相違し、その余の点で一致する。

イ 判断
(ア)相違点6ないし8について
上記「(6)イ」の「(ア)ないし(ウ)」で判断したとおりである。

(イ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明8は、甲第1号証に記載された引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8)本件発明9について
ア 対比
本件発明9と引用発明2とを対比すると、上記「(6)ア」で示した相違点6ないし8に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点9>
本件発明9の溶剤が「さらにアンモニウム塩を含んでなる水溶液である」であるのに対して、引用発明2の洗浄液はアンモニウム塩を含んでいない点。

イ 判断
(ア)相違点6ないし8について
上記「(6)イ」の(ア)ないし(ウ)で判断したとおりである。

(イ)相違点9について
リン酸塩等の無機酸塩にさらにアンモニウム塩を含んでなる水溶液を、金属材料の脱脂処理液として用いることは、本件優先日時点における周知技術にすぎず(請求人が提出した甲第13号証(特開2000-144445号公報)の【0015】、表1及び2を参照のこと。)、かつ、引用発明2の洗浄液は、脱脂を目的の1つとするものであるから(上記「(1)ア(オ)」)、引用発明2の洗浄液に上記周知技術を適用してアンモニウム塩も含めるようにすることは、当業者が適宜なし得ることであり、そのようにすることの効果も、引用発明2及び上記周知技術の効果から当業者が予測し得る範囲内のものである。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明9は、甲第1号証に記載された引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9)本件発明10について
ア 対比
本件発明10と引用発明2とを対比すると、上記「(6)ア」で示した相違点6ないし8に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点10>
本件発明10は「前記水溶液の濃度が、1?10重量%である」のに対して、引用発明2は洗浄液の濃度が不明である点。

イ 判断
(ア)相違点6ないし8について
上記「(6)イ」の「(ア)ないし(ウ)」で判断したとおりである。

(イ)相違点10について
引用発明2における洗浄液は、ファインクリーナ315などを用いているが、甲第9号証の「アルカリ洗浄液は日本パーカライジング株式会社製のファインクリーナー315(ホウ酸ナトリウム(水和物);60?65質量%、縮合リン酸塩;25?30質量%、界面活性剤;5?10質量%、キレート剤;1質量%以下)の3%水溶液を用いた。」(【0041】)という記載によれば、ファインクリーナー315を用いたアルカリ洗浄液(水溶液)の濃度は3%としているから、引用発明2において、洗浄液(水溶液)の濃度を1?10重量%とすることは、当業者が普通になし得ることであって、格別のものではない。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明10は、甲第1号証に記載された引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10)本件発明11について
ア 対比
本件発明11と引用発明3とを対比する。
(ア)本件発明11の発明特定事項のうち、請求項11が引用する請求項1に記載されている発明特定事項(すなわち、本件発明1の発明特定事項)については、本件発明1についての対比結果(上記「(2)ア」)と同様であり、上記相違点1ないし3で相違し、その余の点で一致する。

(イ)本件発明11の発明特定事項のうち、請求項11に記載されている製造方法に関する発明特定事項については、まず、引用発明3の「すずめっきされた銅線10の端部に、アルミニウム線11を溶接する工程」は、加熱する対象となるコンデンサ用リード線1を「準備する」工程であるということができる。そうすると、本件発明11の「芯材表面にスズからなる金属層が形成されてなるリード線端部に、圧扁部を有するアルミ芯線を溶接してタブ端子を準備する工程」と引用発明3の「すずめっきされた銅線10の端部に、アルミニウム線11を溶接する工程」は、上記「(2)ア」で示した相違点1(アルミ芯線が圧扁部を有するか否か)及び相違点2(電解コンデンサ用タブ端子であるかコンデンサ用リード線であるか)以外の点では相違しない。
また、引用発明3の「温度約150°Cで約21分間加熱する工程」は、「熱処理する工程」であるということができる。そうすると、本件発明11の「前記溶接されたタブ端子を、熱処理する工程」と引用発明3の「すずめっきされた銅線10とアルミニウム線11とが溶接されたコンデンサ用リード線1を、温度約150°Cで約21分間加熱する工程」についても、上記相違点1及び相違点2以外に相違する点は認められない。

そうすると、本件発明11と引用発明3は、上記「(2)ア」で示した相違点1ないし3で相違し、その余の点で一致する。

イ 判断
(ア)相違点1ないし3について
上記「(2)イ」の「(ア)ないし(ウ)」で判断したとおりである。

(イ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明11は、甲第1号証に記載された引用発明3及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(11)本件発明12及び13について
ア 対比
引用発明3は「温度約150°Cで約21分間加熱する」ものであり、その温度は本件発明12の「60?180℃」及び本件発明13の「80?150℃」の範囲内であるから、熱処理の温度の点に関しては、本件発明12及び13と引用発明3とは相違しない。
一方、甲第1号証には、上記「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことが、どのような雰囲気下で行われるかについては記載されていない。
そうすると、本件発明12及び13と引用発明3とを対比すると、上記「(2)ア」で示した相違点1ないし3に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点11>
本件発明12及び13は「熱処理」が「酸素雰囲気下で行われる」のに対して、引用発明3の「温度約150°Cで約21分間加熱する」ことが酸素雰囲気下で行われるか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1ないし3について
上記「(2)イ」の「(ア)ないし(ウ)」で判断したとおりである。

(イ)相違点11について
相違点11は上記相違点5と実質的に同じであるから、上記「(5)イ(イ)」と同様の理由で、引用発明3の上記「温度約150°Cで約21分間加熱される」ことを酸素雰囲気下で行うことは、当業者がごく普通になし得ることである。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明12及び13は、甲第1号証に記載された引用発明3及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(12)請求項1ないし6、8ないし13に係る発明の特許についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし6、8ないし13は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、請求項1ないし6、8ないし13に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、無効理由1-1、2ないし4について検討するまでもなく、請求項1ないし6、8ないし13に係る発明の特許は無効とすべきものである。

2 請求項7に係る発明の特許について
上記「1」で検討した無効理由1-2の対象となっていない請求項7に係る発明(本件発明7)の特許に対しては、無効理由2ないし4が主張されており、まず、無効理由4(特許法第36条第6項第2号)について検討する。

(1)請求人の主張
審判請求書の「(1-4) 特許法第36条第6項第2号(特許法第123条第1項第4号)」(第10?11頁)において、請求人は、無効理由4について次のとおり主張する。(なお、4-aないしcという番号は当審で付与したものである。)

ア 無効理由4-a
「本件発明1は、「前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理である、」という構成要件を備えるものであり、ここで、「ウィスカ(成長)抑制処理」及び「酸化スズ形成処理」は、電解コンデンサ用タブ端子を製造するための一工程であると認められるため、本件発明1には、電解コンデンサ用タブ端子の製造方法が記載されていることは明らかである。また、本件特許の優先日前において、電解コンデンサ用タブ端子を、その構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在したとも認められない。
したがって、本件発明1、及びそれに従属する本件発明2乃至10は不明確である。」

イ 無効理由4-b
「また、本件発明1は、「前記リード線と前記アルミ芯線との溶接部に、ウィスカの成長抑制処理が施されてなり、前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理である、」という構成要件を備えるものであるが、酸化スズの「形成量」については規定されておらず、「酸化スズ形成処理」が、スズが空気に晒されて形成される酸化スズと比べて、どの程度更に酸化スズを形成する処理なのかが明らかでない。仮に、「前記のウィスカ抑制処理が、酸化スズ形成処理である」という構成要件から、酸化スズの形成量を、「ウィスカの成長を抑制することができる程度の量」と解釈した場合であっても、どの程度ウィスカの成長を抑制した場合に「ウィスカの成長を抑制することができる」と判断できるのかが明確でないため、この場合も、「酸化スズ形成処理」による酸化スズの「形成量」を特定することができない。
したがって、本件発明1、及びそれに従属する本件発明2乃至10は不明確である。」

ウ 無効理由4-c
「さらに、本件発明3は、「前記の酸化スズ形成処理が、タブ端子を熱処理することにより行われる」という構成要件を備え、本件発明6は、「前記の酸化スズ形成処理が、溶剤処理により行われる」という構成要件を備える。ここで、「熱処理」及び「溶剤処理」は、電解コンデンサ用タブ端子を製造するための一工程であると認められるため、本件発明3及び6には、電解コンデンサ用タブ端子の製造方法が記載されていることは明らかである。また、本件特許の優先日前において、電解コンデンサ用タブ端子を、その構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在したとも認められない。
したがって、本件発明3及びそれに従属する本件発明4乃至5並びに本件発明6及びそれに従属する請求項7乃至10は不明確である。」

(2)当審の判断
まず、上記無効理由4-cについて検討する。
本件発明1ないし10は「電解コンデンサ用タブ端子」という物の発明であり、請求項1に記載の「酸化スズ形成処理」に関して、上記請求項1を引用する請求項3には、「前記の酸化スズ形成処理が、タブ端子を熱処理することにより行われる」と記載され、また、同じく上記請求項1を引用する請求項6には「前記の酸化スズ形成処理が、溶剤処理により行われる」と記載されている。
そして、上記「タブ端子を熱処理することにより行われる」及び「溶剤処理により行われる」という事項は、電解コンデンサ用タブ端子の製造に関する技術的な特徴を表したものであるから、上記請求項3及び6にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本件特許の明細書には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
また、被請求人は、請求項3ないし10を削除する訂正事項を含む訂正を平成28年11月30日付けで請求したため、同日付けの審判事件答弁書において、上記無効理由4-cについての反論や、不可能・非実際的事情の主張は行っていない。
さらに、上記「第2」の「2(1)」で示したとおり、被請求人は、上記無効理由4に対して、平成28年11月30日付けの訂正請求が認められないとした場合について、意見は特にないと陳述した。
したがって、請求項3及び6に係る発明(本件発明3及び6)は明確でなく、上記請求項3を引用する請求項4及び5に係る発明(本件発明4及び5)並びに上記請求項6を引用する請求項7ないし10に係る発明(本件発明7ないし10)も明確でない。

(3)請求項7に係る発明の特許についてのまとめ
以上のとおりであるから、少なくとも無効理由4-cの点で、請求項7に係る発明(本件発明7)は明確でないから、請求項7に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。よって、無効理由2及び3について検討するまでもなく、請求項7に係る発明の特許は無効とすべきものである。

第6 むすび
上記「第5」の「1」で示したとおり、請求項1ないし6、8ないし13に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。また、上記「第5」の「2」で示したとおり、請求項7に係る発明の特許は、同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-12-03 
結審通知日 2018-12-13 
審決日 2018-12-26 
出願番号 特願2003-429116(P2003-429116)
審決分類 P 1 123・ 537- ZB (H01G)
P 1 123・ 121- ZB (H01G)
P 1 123・ 841- ZB (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 飯島 尚郎  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 國分 直樹
井上 信一
登録日 2010-02-12 
登録番号 特許第4452917号(P4452917)
発明の名称 電解コンデンサ用タブ端子  
代理人 砂山 麗  
代理人 永井 浩之  
代理人 浅野 真理  
代理人 江頭 あがさ  
復代理人 遠田 利明  
代理人 根本 浩  
代理人 斉藤 直彦  
代理人 勝浦 敦嗣  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 白井 徹  
代理人 柏 延之  
代理人 中村 行孝  
代理人 野呂 悠登  
代理人 高橋 三郎  

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