• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
管理番号 1364812
審判番号 不服2018-8845  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-27 
確定日 2020-08-05 
事件の表示 特願2016-183152「積層を接合するためのステッチレスシームシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月26日出願公開、特開2017- 19287〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年(平成19年)8月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年8月17日、米国)を国際出願日とする特願2009-524616号の一部を、平成25年9月20日に新たな特許出願とした特願2013-195284号の一部を平成28年9月20日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年10月20日 :上申書、手続補正書の提出
平成29年10月27日付け:拒絶理由通知書
平成30年 1月31日 :意見書、手続補正書の提出
同年 2月20日付け:拒絶査定
同年 6月27日 :審判請求書の提出
令和 1年 5月 7日付け:拒絶理由通知書(当審)
同年 9月24日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?14に係る発明は、令和1年9月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載されている事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
a.機能的防液体性層を含む第一の積層体;
b.機能的防液体性層を含む第二の積層体;
c.前記第一の積層体を前記第二の積層体に連結する、不連続に溶着されたステッチレスシーム;
d.前記不連続に溶着されたシームと平行に位置し、かつ前記第一の積層体を前記第二の積層体に連結し液体不浸透性シームを提供する、連続的に溶着されたステッチレスシーム;及び
e.前記不連続に溶着されたステッチレスシームと前記連続的に溶着されたステッチレスシームを強化する補強材;
を含む防液体性ステッチレスシーム接合物であって、
前記不連続に溶着されたステッチレスシームは超音波熱溶接であり、前記補強材は、80℃乃至230℃の範囲の温度で溶融可能な少なくとも1種類の熱可塑性成分を含み、かつ前記防液体性ステッチレスシーム接合物は、前記不連続に溶着されたステッチレスシームの方向と垂直な方向に50mm/分の一定の変位を前記接合物に与えたときに、少なくとも200Nの破断時強度を有する、防液体性ステッチレスシーム接合物。」

第3 拒絶の理由
令和1年5月7日付けで当審が通知した拒絶の理由は、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された、下記の引用文献8に記載の発明及び下記引用文献1に記載された事項、並びに、周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献8.特開平4-50304号公報(主引例)
引用文献1.特開2002-220712号公報(副引例)
引用文献2.実願昭59-112789号(実開昭61-30098号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
引用文献3.実願昭59-100687号(実開昭61-16396号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開平8-199409号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.特表2005-535796号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6.特開平7-258906号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7.特開2001-88220号公報(周知技術を示す文献)
引用文献9.特開昭55-7483号公報(周知技術を示す文献)

第4 拒絶理由について
1.引用文献8の記載及び引用発明8
(1)引用文献8の記載
引用文献8には、以下の記載がある。(なお、下線は、当審で付した。以下同じ。)

摘記ア (1頁左欄4行及び12?17行)
「2.特許請求の範囲
・・・
(2)第1の素材と第2の素材とを接合部を介して熱融着してなり、この接合部に跨がる第3の素材を設け、この第3の素材と前記第1の素材とを熱融着して接合すると共に前記第3の素材と前記第2の素材とを熱融着して接合する素材の接合方法。」

摘記イ (1頁右欄7行?2頁左上欄8行)
「(発明が解決しようとする課題)
従来の衣服にあっては、各構成部分をミシン縫いにより、接合しているため、ミシンによる穴が生じ、気密性が要求される衣服にあっては、例えば、痴呆性老人用衣服、病衣では、前記穴を介して汚物が流れ出し、又、防塵性作業用衣、農薬散布作業用衣等にあっては、前記穴を介して有害物質が流入し、更に外科医用ガウンにあっては、前記穴を介して病気感染を引き起こすおそれが生じる等の問題点があった。
この問題点を改善するために、本発明者は、衣服を構成する部分の接合を熱融着してなるものを特願平2-123270号として開示した。
しかしながら、衣服を構成する部分の接合を単に熱融着しただけでは、接合部分の結合が弱いという問題点が生じた。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、衣服を構成する部分の接合を熱融着して形成し、且つ、接合部に跨がる継ぎ手部材を設け、この継ぎ手部材の跨がるそれぞれの部材と熱溶着して接合した衣服及び素材の接合方法を提供することを目的としている。」

摘記ウ (2頁右上欄12?18行)
「本発明の素材の接合方法は、第1の素材と第2の素材とを接合部を介して熱融着してなり、この接合部に跨がる第3の素材を設け、この第3の素材と前記第1の素材とを熱融着して接合すると共に前記第3の素材と前記第2の素材とを熱融着して接合するため、接合部の強度を保つことができる。」

摘記エ (2頁右上欄19行?同頁右下欄1行)
「(実施例)
本発明の一実施例を図面を参照して説明する。
第1図において、1は、衣服で、この衣服1は、痴呆性老人用、病人用、防塵性作業用、農薬散布作業用、外科医用等に用いられるものである。
衣服1は、第2図及び第3図に示されるように、前身ごろ2と後ろ身ごろ3とを一体化したもの、袖部4、4、襟部5、ベルト6、6、6、6の各構成部分からなっている。
そして、衣服1の素材は、不織布で形成されており、例えば、ポリエステル75%、レーヨン25%からなる。
勿論、市販されている各種の素材からなる不織布を用いても良いが、特に保温性、通気性、吸湿性に優れた不織布を用いると有効である。
次に、第2図のものを第3図に示す形態に構成し、衣服1の各構成部分を重ね合わせ、例えば、第3図及び第4図で図示の接合部A、A、B、B、C、C、C、C、Dを図示しない熱融着装置により、熱融着例えば超音波により熱融着する。」

摘記オ (3頁左上欄9行?同頁左下欄4行)
「第6図(a)?(d)は、衣服の裏面側に設けた接合部Aに跨がる継ぎ手部材10の接合方法を示したもので、(a)に示すように、前身ごろ2(第1の素材)と後ろ身ごろ3(第2の素材)とを熱融着する。
熱融着した前身ごろ2と後ろ身ごろ3を第6図(b)に示すように広げ、接合部Aに跨がる継ぎ手部材10(第3の素材)を接合部Aの上に載せる(第6図(c)参照)。
次に、継ぎ手部材10と前身ごろ2とを図示しない熱融着装置により、熱融着例えば超音波により熱融着して接合(接合部A’)すると共に継ぎ手部材10と後ろ身ごろ3とを前記と同様に熱融着して接合(接合部A’’)する(第6図(d)参照)。
即ち、第1の素材(例えば、前身ごろ2)と第2の素材(例えば、後ろ身ごろ3)とを接合部Aを介して熱融着してなり、この接合部Aに跨がる第3の素材(例えば、継ぎ手部材10)を設け、この第3の素材と第1の素材とを熱融着して接合すると共に第3の素材と第2の素材とを熱融着して接合して接合部の強度を図ることができる。
・・・
なお、本実施例では、熱融着する手段として、超音波融着について説明したが、本発明にあっては、これに限らず、例えば、高周波融着、ヒートシール等の熱融着でも良い。
又、本実施例では、素材の接合方法において、素材として不織布を説明したが、本発明にあっては、これに限らず、例えば、織布、合成繊維、フィルム等でも良く、熱融着できる素材を含むものであれば良い。」

摘記カ (3頁左下欄5行及び同頁同欄16行?同頁右下欄2行)
「(発明の効果)
・・・
又、本発明の素材の接合方法は、第1の素材と第2の素材とを接合部を介して熱融着してなり、この接合部に跨がる第3の素材を設け、この第3の素材と前記第1の素材とを熱融着して接合すると共に前記第3の素材と前記第2の素材とを熱融着して接合するため、接合部の強度を保つことができる等の効果を有する。」

摘記キ (3頁右下欄5行及び同頁同欄16?19行)
「1・・衣服、
2・・第1の素材(例えば、前身ごろ)
3・・第2の素材(例えば、後ろ身ごろ)
10・・第3の素材(例えば、継ぎ手部材10)」

摘記ク (第1図、第3図、第6図)





(2)引用文献8に記載された発明
上記(1)の記載、特に、請求項2の記載(上記摘記ア)、及び、2頁左下欄最下行?同頁右下欄1行の「熱融着例えば超音波により熱融着する」(上記摘記エ)なる記載によれば、引用文献8には、請求項2に記載の接合方法により得られた接合物として、以下の発明が記載されているといえる(以下、「引用発明」という。)

「第1の素材と第2の素材とを接合部を介して超音波熱融着してなり、この接合部に跨がる第3の素材を設け、この第3の素材と前記第1の素材とを超音波熱融着して接合すると共に前記第3の素材と前記第2の素材とを超音波熱融着して接合してなる接合物。」

2.対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 本願発明の「積層体」は「材」であるといえるから、引用発明の「第1の素材」と本願発明の「第一の積層体」、引用発明の「第2の素材」と本願発明の「第二の積層体」とは、それぞれ、「第1の材」、「第2の材」である限りにおいて一致する。
イ 引用発明の第1の素材と第2の素材との「接合部」は、「超音波熱融着」されるものであるから、これは、本願発明の、「(第一の積層体を前記第二の積層体に連結する)溶着されたステッチレスシーム」に相当するし、また、「超音波熱溶接」との特定を満足する。
ウ 引用発明の「第1の素材」と「超音波熱融着して接合」されると共に「第2の素材」と「超音波熱融着して接合」される「第3の素材」は、引用文献8の2頁右上欄15?18行の「第3の素材と前記第1の素材とを熱融着して接合すると共に前記第3の素材と前記第2の素材とを熱融着して接合するため、接合部の強度を保つことができる」なる記載(上記摘記ウ)からも明らかなとおり、接合部の補強のためのものであるから、これは、本願発明の「溶着されたステッチレスシームを強化する補強材」に相当する。
エ 引用発明は、病人用、防塵性作業用、外科医用等の気密性が要求される衣服用途に用いられるものであり(上記摘記エ)、従来、構成部分をミシン縫いにより接合している衣服では、ミシンによる穴が生じるために、気密性が要求される衣服、例えば、痴呆性老人用衣服、病衣では、前記穴を介して汚物が流れ出し、又、防塵性作業用衣、農薬散布作業用衣等にあっては、前記穴を介して有害物質が流入し、更に外科医用ガウンにあっては、前記穴を介して病気感染を引き起こすおそれが生じる等の問題点があったことから、気密性が要求される衣服の有するこれらの問題点を改善するために、衣服の構成部分を熱融着により接合する技術が開発されたが、当該技術では、接合部分の結合が弱いという問題が生じたことから、これを解決することを目的になされたものである(上記摘記イ)。
すなわち、引用発明の「第3の素材と前記第1の素材とを超音波熱融着して接合すると共に前記第3の素材と前記第2の素材とを超音波熱融着して接合してなる接合物」は、素材が超音波熱融着されることで、ミシンによる穴がなく気密性に優れ、汚物の流出や散布農薬といった液体の流入も生じないものであることを前提としており、これは、本願発明の「防液体性ステッチレスシーム接合物」に相当するといえる。

(2)してみると、本願発明と引用発明は、以下の点で一致し、以下の点で相違している。
<一致点>
第一の材;
第二の材;
前記第一の材を前記第二の材に連結する溶着されたステッチレスシーム;
ステッチレスシームを強化する補強材;
を含むステッチレスシーム接合物であって、
前記溶着されたステッチレスシームは超音波熱溶接である防液体性ステッチレスシーム接合物。

<相違点1>
本願発明では、第一の材及び第二の材について、それぞれ、「機能的防液体性層を含む第一の積層体」及び「機能的防液体性層を含む第二の積層体」であることが特定されているのに対し、引用発明では、第1の素材及び第2の素材が「機能的防液体性層を含む」、「積層体」であることは特定されていない点。
<相違点2>
前記第一の材を前記第二の材に連結する溶着されたステッチレスシームについて、本願発明では、「不連続に溶着されたステッチレスシーム」と、「前記不連続に溶着されたシームと平行に位置し、かつ」、「液体不浸透性シームを提供する、連続的に溶着されたステッチレスシーム」とを含むことが特定されているのに対し、引用発明では、接合部の構造は特定されていない点。
<相違点3>
補強材について、本願発明では、「80℃乃至230℃の範囲の温度で溶融可能な少なくとも1種類の熱可塑性成分を含む」ものであることが特定されているのに対し、引用発明では、かかる特定はされていない点。
<相違点4>
ステッチレスシーム接合物について、本願発明では、「不連続に溶着されたステッチレスシームの方向と垂直な方向に50mm/分の一定の変位を前記接合物に与えたときに、少なくとも200Nの破断時強度を有する」ステッチレスシーム接合物であると特定されているのに対し、引用発明では、かかる特定はされていない点。

3.判断
(1)相違点について
ア 相違点1について
上記2.(1)エでも述べたとおり、引用発明の接合物は、汚物や有害物質等の液体が通過しない、すなわち、気密性・防液体性が要求される衣服用途に用いられるものであるから、接合物を構成する素材である第1の素材及び第2の素材自体についても、気密性・防液体性の機能が要求されることは、当業者に自明の事項である。
そして、防水性(防液体性)衣料の素材として、防水性(防液体性)の層を含む積層体からなる素材は、本願の優先日前に周知であった(例えば、引用文献9の特許請求の範囲、9頁右上欄5?7行及び10頁左上欄1行?12頁左上欄9行(例1-6)、引用文献5の請求項10?11、28?30、【0034】、【0046】及び【0048】、国際公開第2005/000055号(以下「周知文献A」という。)の請求項17、46、明細書1頁14?18行及び同7頁21行?8頁3行、並びに、同8頁5?8及び14?22行の記載参照)。
そうすると、引用発明において、気密性・防液体性の機能が要求される接合物を構成する第1の素材及び第2の素材として、係る周知の防水性衣料の素材からなるものを採用し、本願発明の相違点1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、そのことによる効果(防液体性であること)も引用文献8の記載及び周知技術から当業者が予測し得ることである。

イ 相違点2について
引用発明は、病人用、防塵性作業用、外科医用等の気密性が要求される衣服用途に用いられるものである(上記摘記イ及びエ)し、また、引用文献8の1頁右欄20行?2頁左上欄8行及び3頁左下欄16行?右下欄2行(上記摘記イ及びカ)に記載のとおり、接合部の強度を保つ効果をねらったものでもある。
また、引用文献1には、引用文献8と同様に、手術用の外衣や、感染経路の遮断を必要とする保護用衣類、液密性や防塵性が要求される用途に適用可能な衣類の接合部の構造に関し、以下の記載があり、また、図6?10に、接合部が、シート縁に沿って延びる連続する接合線とその近傍に連続線と平行に位置する不連続の接合線を有する構造のものが例示されている。
「接合線を連続的に形成することにより、シートの接合部から血液などの物質が染み出すことを防止できる。その結果、患者と外衣の着用者(医師又は看護婦)との間での感染防止の効果を向上させることが可能となる。」(【0007】)
「好ましくは、連続する接合線の近傍に、不連続の接合部を複数設ける(併設する)。このような工夫により、例えば、超音波ミシンなどによって外衣を構成するシートを接合した場合に、シートの流れ方向と直行する方向に圧力が分散され、連続する接合線の局部に圧力が集中して破損することを防止できる。」(【0008】)
そうすると、引用発明において、気密性・防液体性のみならず、接合部の強度の点でもより優れた接合物となるように、引用文献1に示される接合部構造を採用し、本願発明の相違点2に係る構成を備えたものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、そのことによる効果(接合部の強度が増すこと)は、当業者が予測し得る範囲内のものである。

ウ 相違点3について
引用文献8には、接合物に使用される素材に関し、「織布、合成繊維、フィルム等でも良く、熱融着できる素材を含むものであれば良い」(3頁左下欄2?4行(上記摘記オ)と記載されているが、第3の素材が、80℃乃至230℃の範囲の温度で溶融可能な少なくとも1種類の熱可塑性成分を含むものであることについての記載はない。
しかしながら、第3の素材は「超音波熱融着して接合」されるものであるから、これが「(熱により)溶融可能な少なくとも1種の熱可塑性成分を含む」ものであることは当業者に自明であるし、第1と第2の素材に熱溶着して接合部の強度を保つため、すなわち、補強材として使用される引用発明の第3の素材のように、2つの素材間の接合部の強度を保つために使用される熱融着可能な補強材として、「80℃乃至230℃の範囲の温度」で溶融可能な少なくとも1種類の熱可塑性成分を含むものは、本願の優先日前に周知であった(例えば、引用文献2の10頁1?4行及び11頁最下行?12頁3行には、連結構造を強靱にするために使用される接着テープとして、融着可能な樹脂層が140℃以下、例えば105℃の融点を有するものが、また、引用文献3の10頁13?17行及び12頁12?17行(実施例)にも同様のものが、さらに、周知文献Aの明細書22頁5?19行には、溶着シームに適用される補強材として80?230℃の温度で溶融するものが記載されている。)。
そうすると、引用発明において、第1及び第2の素材間の接合部の強度を保つために超音波熱融着によりこれらの素材に接合して使用される第3の素材を、本願発明で特定される程度の温度範囲で溶融可能な少なくとも1種の熱可塑性成分を含むものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、本願明細書の記載を検討しても、補強材を80℃乃至230℃の範囲の温度で溶融可能な少なくとも1種類の熱可塑性成分を含むものとすることにより、格別予期し難い効果が奏されるとは認められない。

エ 相違点4について
引用文献8の1頁右欄20行?2頁左上欄8行及び3頁左下欄16行?右下欄2行(上記摘記イ及びカ)に記載のとおり、引用発明は、接合部の強度を保つことができる効果をねらったものであるから、引用発明をその接合部の破断時強度をより強いものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであり、その結果、引用発明を本願発明に特定される程度の破断時強度の接合物とすること(相違点4に係る本願発明の構成を備えたものとすること)は、当業者が適宜なし得ることと解される。
また、本願明細書の記載を検討しても、破断時強度についての本願発明の数値限定に格別の臨界的意義があるとも解されない。

(2)請求人の主張について
請求人は、令和1年9月24日提出の意見書の「5.」において、本願発明が進歩性を具備する旨主張するので、以下検討する。
ア 請求人は、引用文献2、3におけるホットメルトポリウレタン接着剤は、不連続に溶着されたステッチレスシームと連続的に溶着されたステッチレスシームの両方を強化することを意図していないし、引用文献2、3及び8の開示内容からは、当業者が引用文献8の接合部10を引用文献2、3の接着テープに置き換えるような動機付けを見出せない旨主張する。
そこで検討する。
上記2.(1)のウ及びエで述べたとおり、引用発明の「第3の素材」は、気密性・防液体性が要求される衣服用途において、第1の素材と第2の素材との接合部の強度を保つための補強材として用いられるものである。
また、引用文献2の接着テープは、防水性等の気密性が要求される生地素材や防塵衣といった気密性・防液体性が要求される衣服用途において、連結構造(接合部の構造)の強靱性(強度)を保つため、つまり補強材として用いられるものであるし(実用新案登録請求の範囲、5頁1行及び13頁5?9行)、引用文献3の接着テープも、防水衣や防塵衣等の気密性・防液体性が要求される用途において、継ぎ目構造(接合部の構造)を強い接着力(強度)を有するものとするため、つまり補強材として用いられるものである(実用新案登録請求の範囲、1頁12?14行及び4頁15行?5頁2行)。すなわち、引用文献2、3の接着テープは、引用発明の第3の素材と同様に、気密性・防液体性が要求される衣服用途における補強材として用いられるものである。
そうすると、引用発明において、第1及び第2の素材間の接合部の強度を保つために熱融着して使用される第3の素材として、技術分野の共通する引用文献2、3で採用されているような接着テープに関する技術を適用することの動機付けは十分にあるといえる。
よって、請求人の上記の主張も採用できない。

イ また、請求人は、本件実施例1及び2に、不連続に溶着されたステッチレスシーム(c)と連続的に溶着されたステッチレスシーム(d)を補強材(e)により強化することによる効果が実証されている一方で、引用文献のいずれにも、本件発明の構成と効果の関係が検証されていない旨主張する。
そこで検討するに、本願明細書の実施例1と実施例2の比較から、シームを構成する突き合わせ溶着物を、単一の連続溶着ラインと、連続溶着と垂直な方向約0.8mmに位置する不連続溶着の両方を有するものとすることで、単一の連続溶着ラインのみからなるもので確認された織物の外表面の亀裂や表布の分離は生じなかったこと、つまり、シームの強度が改善できたことは理解できる。
しかしながら、突き合わせ溶着物を、単一の連続溶着ラインと不連続溶着の両方を有するものとすることで、単一の連続溶着ラインのみからなるものと比べてシーム接合部の強度が改善できることは当業者に自明であるし、例えば、引用文献1の【0008】の「連続する接合線の近傍に、不連続の接合部を複数設ける(併設する)。このような工夫により、例えば、超音波ミシンなどによって外衣を構成するシートを接合した場合に、シートの流れ方向と直行する方向に圧力が分散され、連続する接合線の局部に圧力が集中して破損することを防止できる。」なる記載から明らかである。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

(3)小括
したがって、本願発明は、引用発明、すなわち、引用文献8に記載の発明及び引用文献1に記載の事項、並びに、本願の優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。


第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-03 
結審通知日 2020-03-10 
審決日 2020-03-26 
出願番号 特願2016-183152(P2016-183152)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中山 基志  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 渕野 留香
加藤 友也
発明の名称 積層を接合するためのステッチレスシームシステム  
代理人 胡田 尚則  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 三橋 真二  
代理人 三間 俊介  
代理人 青木 篤  
代理人 出野 知  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ