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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1364825
審判番号 不服2019-10528  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-08 
確定日 2020-08-05 
事件の表示 特願2016-536672「貴金属及び小細孔モレキュラーシーブを含む受動的NOxアドソーバ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年6月11日国際公開、WO2015/085303、平成29年1月12日国内公表、特表2017-501329〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)12月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年12月6日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成30年10月18日付け(発送日:同年10月23日)で拒絶の理由が通知され、平成31年1月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成31年3月29日付け(発送日:同年4月9日)で拒絶査定がされ、これに対し、令和元年8月8日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成31年1月23日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「低温度以下でNOxを吸着すること及び低温度より上の温度で吸着されたNOxを放出することに効果的な受動的NOxアドソーバであって、パラジウム、及び8つのテトラヘドラル原子の最大リングサイズを有する小細孔モレキュラーシーブを含む、受動的NOxアドソーバ。」

第3 拒絶査定の概要
平成31年3月29日付けの拒絶査定の概要は次のとおりである。

「この出願については、平成30年10月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
備考
●理由(特許法第29条第2項)について
・請求項1
・引用文献等1-4

<引用文献等一覧>
1.特開2000-230414号公報
2.特開2008-286001号公報
3.特開2002-349247号公報
4.特表2013-522011号公報」

また、平成30年10月18日付け拒絶理由通知書の概要は次のとおりである。

「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1
・引用文献等1-4

<引用文献等一覧>
1.特開2000-230414号公報
2.特開2008-286001号公報
3.特開2002-349247号公報
4.特表2013-522011号公報」

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2002-349247号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「内燃機関の排気浄化装置」に関して、図面(特に、図2を参照。)とともに次の記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

ア 「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記問題点の解決のために各種検討を行い、貴金属をセリア(CeO_(2) )のみに担持してなるトラップ成分を含有する低温NOxトラップ触媒(以下、セリアベース排気浄化触媒という)やゼオライトを含有する低温NOxトラップ触媒(以下、ゼオライト排気浄化触媒という)が低温時にNOxをトラップするときの条件に関し、流入する排気ガス中の水分量をコントロールすることで、上記問題点を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】すなわち、低温時にゼオライト排気浄化触媒にNOxをトラップさせる場合に、内燃機関から排出される水分量を減少させることでNOxのトラップ量を増加させることができるが、この場合にゼオライト排気浄化触媒に流入する排気ガス中の水分を完全に除湿するのではなく、ある程度の濃度の水分を残した状態で、この水分と共にNOxをトラップさせることで、温度上昇に伴うNOxの脱離を特に200℃程度までは大幅に抑制できることを見出したものである。
【0010】図1にその実験結果を示している。図1に示すように、NOxトラップ期間中(ゼオライト排気浄化触媒が低温の期間)の水分濃度が0%(完全除湿の状態)の場合、ゼオライト排気浄化触媒の温度が200℃以下でのNOx脱離割合(NOxトラップ量に対する脱離量の割合)が高く、半分以上が脱離するのに対し、水分濃度が増加すると、この200℃以下でのNOx脱離割合が急激に減少し、特に水分濃度を概略1%(もしくはそれ以上)にコントロールすることで、低温時のNOxの脱離を大幅に抑制できることが、本発明者らの検討によって明らかになった。尚、セリアベース排気浄化触媒についても図1と同様の実験結果が得られた。
【0011】このような背景の下、請求項1の発明では、内燃機関の排気通路に、貴金属をセリア(CeO_(2) )のみに担持してなるトラップ成分又はゼオライトを含有する低温NOxトラップ触媒を配置し、この低温NOxトラップ触媒により排気温度の低温時にNOxをトラップし、トラップしたNOxを高温時において脱離処理を行う内燃機関の排気浄化装置において、前記低温NOxトラップ触媒に流入する水分量をコントロールする手段を有し、この水分量コントロール手段により、前記低温NOxトラップ触媒に流入する水分量を、少なくとも内燃機関から排出される水分量よりも低減すると共に、かつ完全除湿ではない所定の水分濃度以上を供給するようにコントロールすることを特徴とする。」

イ 「【0040】また、ゼオライト排気浄化触媒13には触媒温度センサ16が設置されており、ゼオライト排気浄化触媒13の温度Tcatを検出して、ECU7に入力している。ゼオライト排気浄化触媒13は、主にゼオライトで構成されたものである。ここでゼオライトとしては、例えばβゼオライト、A型ゼオライト、Y型ゼオライト、X型ゼオライト、ZSM-5、USY、モルデナイト、フェリエライトを使用でき、これらのゼオライトをハニカム担体にコーティングして構成されたものである。尚、ゼオライト排気浄化触媒13に替えてセリアベース排気浄化触媒を使用しても良い。このセリアベース排気浄化触媒は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、及びその他の貴金属の群から選択される一種又は二種以上の貴金属をセリア(CeO2 )のみに担持してなるトラップ成分を含有する触媒である。このような触媒は、粉末状にした前記のトラップ成分をハニカム担体に直接コーティングしたり、ハニカム担体に施したアルミナ等のウォッシュコート上にトラップ成分をコーティングしたり、トラップ成分をアルミナ等と混合したものをハニカム担体にコーティングしたりして得ることができる。
【0041】このようなゼオライト排気浄化触媒13(又はセリアベース排気浄化触媒)では、触媒温度が100℃以下というような低い条件でもNOxをトラップすることができる。また、この触媒が昇温するに伴い、低温でトラップしたNOxは脱離するが、これは前述したように、NOxトラップ期間中の水分をコントロールすることで、特に200℃以下での脱離を抑制できることがわかった。
【0042】また、このゼオライト排気浄化触媒13は、その表層にさらに白金Pt、パラジウムPd、ロジウムRh等の貴金属を担持したアルミナをコーティングしたものでも良い。このようにすると、触媒が昇温し、NOxが脱離する場合に、NOxの浄化を触媒作用により促進することが可能となる。このNOxの浄化は、主に排気中の還元成分(HC、CO、H_(2) 等)や、ゼオライト排気浄化触媒13自体に吸着したHCとの反応による還元作用である。本実施形態では、ゼオライト排気浄化触媒13はその表層に貴金属の触媒を担持している構成であるとして説明する。尚、セリアベース排気浄化触媒を使用する場合、このセリアベース排気浄化触媒のNOxトラップ成分はもともと貴金属を含んでいるため、触媒が昇温して所定温度以上になった場合は還元触媒機能が活性化する。その結果、低温でトラップしたNOxが脱離するときには、排気中の還元成分(HC、CO、H_(2) 等)により脱離NOxが還元浄化される。」

ウ 「【0048】ゼオライト排気浄化触媒13は、100℃以下の低温でも排気ガス中のNOxをトラップすることが可能であり、流入する約1%の水分と共にNOxをトラップし、NOxの脱離を防止できる。その後、触媒の暖機が進み、ゼオライト排気浄化触媒13にトラップされたNOxも脱離することになるが、前述のように水分と共にトラップされたNOxは、約200℃程度まで脱離を抑制されているため、未浄化のまま放出されるNOxを大幅に低減できる。さらに、温度が上昇し、200℃を超える条件になると、ゼオライト排気浄化触媒13にトラップされていたNOxが脱離を開始するが、ゼオライト排気浄化触媒13の表層の貴金属触媒が200℃以上では活性状態となるため、この時排気ガス中に含まれるHC、CO、あるいはゼオライト排気浄化触媒13自体に吸着していたHCといった還元成分により、脱離したNOxが還元浄化されるため、未浄化のまま放出されるNOxを低減できる。」

エ 上記ウの記載事項から、ゼオライト排気浄化触媒13は、約200℃程度までNOxをトラップし、200℃を超える条件になるとトラップされていたNOxが脱離するものであり、受動的NOxアドソーバとしての機能を有しているといえる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献3には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「約200℃程度まででNOxをトラップすること及び200℃を超える条件でトラップされたNOxを脱離することに効果的なゼオライト排気浄化触媒13であって、パラジウム、及びゼオライトを含む、ゼオライト排気浄化触媒13。」

2 引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特表2013-522011号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「NOxの選択還元触媒のための無秩序なモレキュラシーブ担体」に関して、次の記載がある。

ア 「【0023】
本発明の態様は、触媒、前記触媒用として選択されたモレキュラーシーブ担体、及びNOxの選択触媒還元での前記触媒の使用を含む。
【0024】
本発明の一の実施態様によって、NOxの選択触媒還元のための触媒は、Cr、Mn、Fe、Co、Ce、Ni、Cu、Zn、Ga、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Re、Ir、Pt及びこれらの混合物から選択される一種以上の担体に担持される遷移金属を含み、前記担体は、少なくとも1つの無秩序を有するモレキュラーシーブを含む。
【0025】
モレキュラーシーブは、当業者によく知られている。ここで用いられるように、「モレキュラーシーブ」はガス又は液体用吸着剤として使用され得る、正確、且つ、均一な大きさの細孔を含む準安定(metastable)物質を意味することが理解される。前記細孔を介して通過するのに十分に小さな前記分子は吸着され、反面、より大きいな分子は吸着されない。モレキュラーシーブフレームワークは、一般に国際ゼオライト協会により認められるフレームワーク形態コードと定義され得る(http://www.iza-online.org/)。前記フレームワーク形態は、モレキュラーシーブ又はそのケージ配列を含むゼオライト構造、チャネルシステムの次元(dimensionality)、細孔開口の概略的な大きさを説明する。構成、フレームワークの形状(geometry:ゲオメトリー)、欠陥の数及び性質とも関連する。前記モレキュラーシーブの細孔大きさは、以下のように員環により定義され得る:大細孔環は、12-員環又はこれよりも更に大きいものであり、中細孔環は、10-員環であり、小細孔環は、9-員環又はこれよりも小さなものである。好ましくは、小細孔環は、8-員環又はこれよりも小さい。」

イ 「【0033】
例示的な実施例において、前記フレームワーク構造は、小細孔モレキュラーシーブである。小細孔モレキュラーシーブは、9個の四面体原子の最大リング大きさを有するものと定義される。好適な実施例において、少なくとも2つの異なるフレームワーク構造は、何れも小細孔モレキュラーシーブである。同様に、仮に2つ以上のフレームワーク構造があれば、何れも小細孔モレキュラーシーブであり得る。適切な小細孔モレキュラーシーブの例が表1に示される。」

ウ 「【0040】
好適な実施態様において、本発明の触媒は、担体上に担持されるCr、Mn、Fe、Co、Ce、Ni、Cu、Zn、Ga、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Re、Ir、Pt、及びこれらの混合物からなる群より選択される一種以上の遷移金属を含み、前記担体は、少なくとも2つの異なる小-細孔、3次元フレームワーク構造を含む少なくとも1つの連晶相を備えるモレキュラーシーブを含む。少なくとも2つの異なる小-細孔、3次元フレームワーク構造を含む少なくとも1つの連晶相を有する金属含有モレキュラーシーブは、特に低温(例えば、約350℃未満、好ましくは約250℃未満、例えば約150?約250℃又は約200?250℃)で例外的に優れたNOx還元性能(例えば、SCRの適用時に)を提供するということが見出された。驚いたことにも、2つの異なるフレームワークの連晶を含むモレキュラーシーブは、2つのうちの何れかのフレームワークだけで構成されたモレキュラーシーブよりも実質的に更に優れた性能を有する。例えば、AEI/CHAを含む金属含有モレキュラーシーブは、CHAフレームワークだけを備えるか、AEIフレームワークだけを備える金属含有モレキュラーシーブに比べて顕著に向上した低温NOx転換率を有する。
【0041】
ある実施例において、前記連晶は、それぞれが最大8員環を有する少なくとも2つの異なる小-細孔、3次元フレームワーク構造を含む。特に好適な実施例において、前記モレキュラーシーブは、第1の小-細孔、3次元フレームワーク構造と、第2の小-細孔、3次元フレームワーク構造を含む少なくとも1つの連晶相を備え、前記第1及び第2フレームワークは、約1:99?約99:1のモル比で存在する。前記組成物のモル比は、X線回折(XRD)分析のような分析技術により決定され得る。」

エ 「【0051】
本発明で用いるためのモレキュラーシーブ触媒は、適切な基材モノリス上にコーティングされるか、押出し形態の触媒として形成され得るが、好ましくは、触媒コーティングの形態で用いられる。一の実施態様において、前記モレキュラーシーブ触媒は、フロースルーモノリス基材(即ち、全体部分を通過して軸方向に沿って延びた多くの小さくて平行なチャネルを備えるハニカムモノリス触媒担体構造)又はウォールフロー(wall-flow)フィルタのようなフィルタモノリス基材などにコーティングされる。本発明で用いるための前記モレキュラーシーブ触媒は、適切なモノリス基材(例えば、金属又はセラミックフロースルーモノリス基材)又はフィルタリング基材(例えば、ウォールフローフィルタ)又は焼結金属又は部分フィルタ(例えば、WO01/80978又はEP1057519に開示されたもの)上に、例えばウォッシュコート部材としてコーティングされ得る。これとは異なり、本発明で用いるための前記モレキュラーシーブは、前記基材上で直接合成されるか、押出型フロースルー触媒中に形成され得る。
【0052】
押出型基材モノリスを製造するために、モノリス基材上にコーティングするための本発明で用いるためのモレキュラーシーブを含むウォッシュコート組成物は、バインダ(例えば、アルミナ)、シリカ、(非モレキュラーシーブ)シリカ-アルミナ、自然発生的なクレー(例えば、TiO2、ZrO2、SnO2、CeO2)又はこれらの混合物を含む。
【0053】
本発明の一の実施態様によれば、前記触媒を用いる方法は、前記触媒を化学工程で少なくとも1つの反応物に露出させる段階を含む。即ち、ガス内のNOxを還元させる方法は、NOxのような少なくとも1つの反応物を有するガス(排気ガス、排煙ガス)を触媒に露出させる段階を含む。ここで用いられるように、ガス内のNOxを還元させるための化学工程は、モレキュラーシーブ又はゼオライトを含む触媒を利用するあらゆる適切な化学工程を含むことができる。典型的な化学工程は、これに制限されるものではないが、NOx吸着剤触媒又は三元触媒(TWC)(例えば、NAC+(下流側)SCR又はTWC+(下流側)SCR)を備える窒素系還元剤、リーンNOx触媒、触媒媒煙フィルタ、又はこれらのうちの何れか1つの組み合わせを利用する選択触媒還元法のような排気ガス処理を含む。
【0054】
リーン燃焼内燃機関の排気ガス内のNOxを処理する方法は、リーンガス炉からのNOxを基礎原料(basicmaterial)に貯蔵した後、基礎原料からNOxを放出し、これをリッチガスを用いて周期的に還元させることである。基礎原料(例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は希土類)、及び貴金属(例えば、白金)、及び還元触媒要素(例えば、ロジウム)の組み合わせは、一般にNOx吸着剤触媒(NAC)、リーンNOxトラップ(LNT)、又はNOx貯蔵/還元触媒(NSRC)として言及される。ここで用いられるように、NOx貯蔵/還元触媒、NOxトラップ、及びNOx吸着剤触媒(又はこれらの頭字語(acronym))は、交換可能に使用され得る。
【0055】
ある条件で、周期的なリッチ再生過程で、NH3はNOx吸着剤触媒を経て生成され得る。NOx吸着剤触媒の下流にSCR触媒を追加することによって、システム全体のNOx還元効率が向上し得る。前記複合システムにおいて、前記SCR触媒は、リッチ再生過程でNAC触媒から放出されたNH3を貯蔵する能力を有し、貯蔵されたNH3を用いて一般的なリーン作動条件中にNAC触媒を通るNOx全体又は一部を選択的に還元する。ここで用いられるように、このような混合システムは、NAC+SCR又はLNT+SCRのような代表的な頭字語として表示され得る。」

オ 「【0061】
特定の実施態様において、前記方法は、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン、又はLPG又はLNGエンジンのようにリーン/リッチサイクルを有する車両内燃機関から発生する排気ガスを処理するために用いられる。」

カ 「【請求項7】
排気ガス又は排煙ガスのNOxを還元させる装置であって、
a)触媒と、
b)基材とを備えてなり、
前記触媒が、
i)Cr、Mn、Fe、Co、Ce、Ni、Cu、Zn、Ga、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Re、Ir、Pt、及びこれの混合物からなる群より選択される一種以上の遷移金属と、
ii)少なくとも2つの異なる小-細孔と、3次元フレームワーク構造を備えてなる少なくとも一種の連晶相を有するモレキュラーシーブを備えてなる担体と、
を備えてなり、
前記一種以上の遷移金属が、モレキュラーシーブの細孔の内部に存在し、及び/又はモレキュラーシーブの外部表面に存在してなるものであり、
前記触媒が前記基材の上に配置されてなり、
前記基材が、選択触媒還元(SCR)用フロースルーモノリス、選択触媒還元用ウォールフローフィルタ(SCRF)、及び/又はリーンNOxトラップとしての使用に適したものである、NOxを還元させる装置。」

キ アないしウの記載事項、特に段落【0025】、【0033】及び【0041】の記載事項からみて、8-員環である小細孔環は、8個の四面体原子の最大リング大きさを有する小細孔モレキュラーシーブであるといえる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用文献4には、以下の事項が記載されている。

「Cr、Mn、Fe、Co、Ce、Ni、Cu、Zn、Ga、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Re、Ir、Pt、及びこれの混合物からなる群より選択される一種以上の遷移金属と、8個の四面体原子の最大リング大きさを有する小細孔モレキュラーシーブを含む担体とを含むNOxの選択還元触媒とすること。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「約200℃程度まで」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「低温度以下」に相当し、以下同様に、「トラップ」は「吸着」に、「200℃を超える条件」は「低温度より上の温度」に、「脱離」は「放出」に、「ゼオライト排気浄化触媒13」は「受動的NOxアドソーバ」にそれぞれ相当する。
また、後者の「ゼオライト」と前者の「8つのテトラヘドラル原子の最大リングサイズを有する小細孔モレキュラーシーブ」とは、「ゼオライト」という限りで一致する。

したがって、両者は、
「低温度以下でNOxを吸着すること及び低温度より上の温度で吸着されたNOxを放出することに効果的な受動的NOxアドソーバであって、パラジウム、及びゼオライトを含む、受動的NOxアドソーバ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
「ゼオライト」に関し、前者は「8つのテトラヘドラル原子の最大リングサイズを有する小細孔モレキュラーシーブ」であるのに対し、後者の「ゼオライト」が「8つのテトラヘドラル原子の最大リングサイズを有する小細孔モレキュラーシーブ」であるか不明な点。

第6 判断
相違点について検討すると、引用文献4の記載事項は次のとおりである。
「Cr、Mn、Fe、Co、Ce、Ni、Cu、Zn、Ga、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Re、Ir、Pt、及びこれの混合物からなる群より選択される一種以上の遷移金属と、8個の四面体原子の最大リング大きさを有する小細孔モレキュラーシーブを含む担体とを含むNOxの選択還元触媒とすること。」
そして、引用発明と引用文献4の記載事項とは、内燃機関から発生する排気ガスを処理する技術である点で共通する。また、特に低温におけるNOx浄化に関する技術である点でも共通する。さらに、引用文献4の記載事項は、引用文献4の段落【0053】(第4 2 エを参照。)の記載事項から、引用文献4の記載事項は、NOx吸着剤触媒又は三元触媒を備える窒素系還元剤、リーンNOx触媒、触媒媒煙フィルタ、又はこれらのうち何れか1つの組み合わせを利用する選択触媒還元法のような排気ガス処理で用いることができるといえる。

そうすると、このような引用発明に引用文献4の記載事項を適用し、上記相違点にかかる本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

また、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献4の記載事項から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において
「当業者であっても、具体的にパラジウムを選択するための示唆も教示も存在しない引用文献1-3に記載の窒素酸化物吸収材料等においてパラジウムを具体的に選択するのは容易ではない。」と主張する。
しかしながら、引用文献3の段落【0042】(第4 1 イを参照。)には、「このゼオライト排気浄化触媒13は、その表層に白金Pt、パラジウムPd、ロジウムRh等の貴金属を担持したアルミナをコーティングしたものでもよい。」と記載されている。すなわち、「具体的にパラジウムを選択する」ものか否かに関わらず、引用文献3は、パラジウムを含むゼオライト排気浄化触媒13を開示するものと理解できる。そして、引用発明は、当該理解を踏まえ、引用文献3に開示されたものに基づき認定したものである。したがって、請求人の上記主張は当を得ない。
さらに、請求人が主張するとおり、引用文献3は「具体的にパラジウムを選択するための示唆も教示も存在しない」ものであると仮定し、さらに検討を進めると、
一般に低温の排気ガスを処理するための装置において、ゼオライトに担持する貴金属としてパラジウムを選択することは、例えば国際公開第2012/166868号(3ページ24行ないし4ページ3行(対応する日本語特許ファミリー文献(特表2014-519975号公報)の段落【0012】)を参照。)、特表平11-506698号公報(6ページ2行ないし7ページ8行を参照。)にみられるように周知技術であり、自動車の触媒に白金、ロジウム、パラジウムのような貴金属触媒が広く用いられていることも、例えば特開平9-4440号公報(段落【0044】を参照。)にみられるように周知の事項にすぎない。さらに、本願明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、段落【0010】に記載されるように「パラジウムが、特に好ましい。」と記載されているのみであって、「具体的にパラジウムを選択する」ことの技術的意義、あるいは貴金属としてパラジウムを選択することにより生じる、他の貴金属を採用した場合とは異なる効果又は顕著な効果についての具体的な記載を見出すことはできない。
そうすると、当該仮定においても、引用文献3に記載された発明において、「具体的にパラジウムを選択する」ことは、引用文献3に記載された発明から、上記周知技術或いは周知の事項を踏まえて当業者の通常の創作能力の範囲で適宜想到し得たことといえるから、請求人の主張は当を得ない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-03 
結審通知日 2020-03-10 
審決日 2020-03-24 
出願番号 特願2016-536672(P2016-536672)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小笠原 恵理  
特許庁審判長 渋谷 善弘
特許庁審判官 北村 英隆
水野 治彦
発明の名称 貴金属及び小細孔モレキュラーシーブを含む受動的NOxアドソーバ  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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