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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1364850
審判番号 不服2019-16600  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-09 
確定日 2020-08-06 
事件の表示 特願2018- 82205「通信システム、基地局装置および通信端末装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月 6日出願公開、特開2018-139434〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2011年(平成23年)12月20日(国内優先権主張 平成23年 1月 7日)を国際出願日とする特願2012-551815号の一部を,平成28年 4月12日に新たな特許出願とした特願2016-079402号の一部を,平成30年 4月23日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯の概略は以下のとおりである。

平成31年 4月10日付け:拒絶理由通知書
令和 1年 6月 7日 :意見書,手続補正書の提出
令和 1年 9月 4日付け:拒絶査定
令和 1年12月 9日 :拒絶査定不服審判の請求

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は,令和1年6月7日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項5に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりのものと認める。

「 複数の通信端末装置との間で無線通信可能な基地局装置であって,
通信可能な範囲内に存在する通信端末装置に対して,前記複数の通信端末装置のうち動作が制限された一部の通信端末装置である制限端末装置の制限される動作に関する動作制限情報をシステム情報として通知することを特徴とする基地局装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,
「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。」及び
「2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり,本願の請求項5に係る発明に対して,以下の引用例1が引用されている。

引用例1:Panasonic,Access restriction control for MTC Groups[online], 3GPP TSG-SA WG2#79E S2-103190,2010年 7月 6日,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_sa/WG2_Arch/
TSGS2_79E_Elbonia/Docs/S2-103190.zip>

第4 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用されたPanasonic,Access restriction control for MTC Groups(当審仮訳:MTCグループためのアクセス制限コントロール)[online], 3GPP TSG-SA WG2#79E S2-103190,2010年 7月 6日,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_sa/WG2_Arch/
TSGS2_79E_Elbonia/Docs/S2-103190.zip>には,以下の事項が記載されている。(下線は当審が付与。)

「・ Discussion
The signalling congestion and overload control issue was prioritized during the SA2#78 and SA#79 meetings as one of the key issue to be addressed in Release 10. Several network operators indicated their concerns about the signalling congestion or overload in the network entities due to the increased number of MTC Devices in the network. Section 5.12 of TR23.888 specifies the use cases and corresponding solution requirements.
TR23.888 v0.4.1 describes different solutions for signalling congestion and overload control. The discussed and documented solutions can be summarized in the following way:
・ SGSN/MME rejects signalling connection requests from MTC Devices (subclause 6.22):(中略)
・ RRC connection reject (subclauses 6.23 and 6.26):(中略)
・ Access control by broadcasting baring information (subclause 6.28): the network access restriction is broadcasted in the SIB to the MTC Devices, similar to the Access Class Baring. The access restriction can be applied to various grouping granularity, e.g. per MTC Group, MTC Feature, APN or PLMN. This solution has impacts on the RAN2 specifications, specifically to all NB/eNB that should be able to broadcast the access restriction with different granularity. With this solution the MTC Devices would not consume radio (RACH) resources because no RRC connection establishment is performed.」

(当審仮訳:
・ ディスカッション
シグナリングの輻輳と過負荷制御の問題は,SA2#78とSA#79の会議中に,リリース10で対処する重要な問題の1つとして優先されました。いくつかのネットワークオペレーターは,ネットワーク内のMTCデバイスの数の増加に起因するネットワークエンティティのシグナリングの輻輳又は過負荷に関する懸念を示しました。TR23.888のセクション5.12は,ユースケースと対応するソリューション要件を規定しています。
TR23.888 v0.4.1は,シグナリングの輻輳と過負荷制御の様々なソリューションについて説明しています。検討され文書化されたソリューションは,次のように要約できます:
・ SGSN / MMEはMTCデバイスからのシグナリング接続要求を拒否する(6.22節):(中略)
・ RRCコネクション拒否(6.23及び6.26節):(中略)
・ ベアリング情報のブロードキャストによるアクセス制御(6.28節):ネットワークアクセス制限は,アクセスクラスベアリングと同様に,SIBでMTCデバイスにブロードキャストされます。アクセス制限は,様々なグループの粒度,例えば,MTCグループ,MTC機能,APN又はPLMNごとに適用できます。このソリューションは,RAN2仕様に影響を与えます。特に,様々な粒度でアクセス制限をブロードキャストできる全てのNB/eNBに影響を与えます。このソリューションでは,RRC接続確立の処理が実行されないため,MTCデバイスは無線(RACH)リソースを消費しません。)

上記の記載,並びに当業者の技術常識を考慮すると,

「いくつかのネットワークオペレーターは,ネットワーク内のMTCデバイスの数の増加に起因するネットワークエンティティのシグナリングの輻輳又は過負荷に関する懸念を示しました。」及び「ネットワークアクセス制限は,アクセスクラスベアリングと同様に,SIBでMTCデバイスにブロードキャストされます。アクセス制限は,様々なグループの粒度,例えば,MTCグループ,MTC機能,APN又はPLMNごとに適用できます。」との記載によれば,MTCデバイスに適用されるネットワークアクセス制限について記載されているといえる。
そして,「ネットワークアクセス制限は,アクセスクラスベアリングと同様に,SIBでMTCデバイスにブロードキャストされます。」との記載,及び「アクセス制限をブロードキャストできる全てのNB/eNB」との記載によれば,eNBは,ネットワークアクセス制限を,SIBでMTCデバイスにブロードキャストできるといえる。
ここで,「TR23.888 v0.4.1は,シグナリングの輻輳と過負荷制御の様々なソリューションについて説明しています。検討され文書化されたソリューションは,次のように要約できます:」との記載から,当該eNBが3GPP規格(TR23.888)に準拠するものであることは明らかである。

以上を総合すると,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 MTCデバイスに適用されるネットワークアクセス制限を,SIBでMTCデバイスにブロードキャストできる3GPP規格に準拠するeNB。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると,

1 引用発明の「3GPP規格に準拠するeNB」が,MTCデバイスや音声通話機能を有するUEを含む複数の通信端末装置との間で無線通信可能であることは明らかであるから,引用発明の「3GPP規格に準拠するeNB」は,本願発明の「複数の通信端末装置との間で無線通信可能な基地局装置」に相当する。

2 引用発明の「MTCデバイス」は,ネットワークアクセス制限が適用されるから,本願発明の「動作が制限された」通信端末装置である「制限端末装置」に含まれる。更に,「1」で述べたとおり,引用発明の「3GPP規格に準拠するeNB」は,MTCデバイスや音声通話機能を有するUEを含む複数の通信端末装置との間で無線通信可能であるから,引用発明の「MTCデバイス」は,本願発明の「複数の通信端末装置のうち」の「一部の通信端末装置」といえる。
よって,引用発明の「MTCデバイス」は,本願発明の「複数の通信端末装置のうち動作が制限された一部の通信端末装置である制限端末装置」に含まれる。

また,引用発明の「SIB」は,本願発明の「システム情報」に相当する。更に,引用発明は,「SIBでMTCデバイスにブロードキャストできる」ものであるところ,「ブロードキャスト」された「SIB」は,MTCデバイスのみならず,通信可能な範囲内に存在する通信端末装置に受信されることは明らかであるから,引用発明の「ブロードキャスト」は,本願発明の「通信可能な範囲内に存在する通信端末装置に対して」「通知すること」に相当する。
更に,引用発明の「SIB」で「ブロードキャスト」される「MTCデバイスに適用されるネットワークアクセス制限」を受信したMTCデバイスが,受信した「ネットワークアクセス制限」の情報に従ってネットワークへアクセスする動作を制限されることは明らかである。したがって,引用発明の「MTCデバイスに適用されるネットワークアクセス制限」は,MTCデバイスがネットワークアクセス動作不可であることを示す動作制限情報といえるので,本願発明の「制限端末装置の制限される動作に関する動作制限情報」に含まれる。

したがって,引用発明の「MTCデバイスに適用されるネットワークアクセス制限を,SIBでMTCデバイスにブロードキャスト」することは,本願発明の「通信可能な範囲内に存在する通信端末装置に対して,前記複数の通信端末装置のうち動作が制限された一部の通信端末装置である制限端末装置の制限される動作に関する動作制限情報をシステム情報として通知すること」に相当する。

以上を総合すると,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,相違するところはない。

(一致点)
「 複数の通信端末装置との間で無線通信可能な基地局装置であって,
通信可能な範囲内に存在する通信端末装置に対して,前記複数の通信端末装置のうち動作が制限された一部の通信端末装置である制限端末装置の制限される動作に関する動作制限情報をシステム情報として通知することを特徴とする基地局装置。」

そして,本願発明の作用効果も,引用発明に基づいて当業者が予測し得る範囲のものであり,格別なものではない。

したがって,本願発明は,引用例1に記載された発明である。また,引用例1に記載された発明に基づき,本願発明をすることは当業者にとって容易である。したがって,本願発明は,特許法第29条第1項第3号,同条第2項の規定により,特許を受けることができない。

[請求人の主張について]
請求人は審判請求書の「(3-2)引用文献に記載された発明との対比」において,「 引用文献1の第1頁-第2頁のDiscussionには次のことが記載されています。
・文書TR23.888 v0.4.1は「SIBでアクセス制限をMTC装置に報知する」ものであった。
・本書(this paper,つまり引用文献1)は「ページングでアクセス制限をMTC装置に通知する」ものである。
・その詳しい手順は,次の通りである。
1) MTC装置は,SIMのMTC group index IDとMTC group paging IDを参照する。
2) MTC装置は,MTC group index IDを用いてpagingタイミング(frameとoccasion)を計算する。
3) MTC装置は,pagingタイミングでpagingメッセージを受信する。
4) MTC装置は,pagingメッセージにMTC group paging IDが含まれるかを確認する。
5) 含まれている場合,MTC装置はアクセス制限を適用する。
なお,実際のところ,pagingタイミングを計算するためには,「MTC装置がSIBを参照してPagingタイミングを計算するためのパラメータを取得する」工程が上記1)と2)の間に必要です。
これに対して,本願発明の手順は次の通りです。
A) 基地局装置は,通信端末装置(制限端末装置)に対して,制限される動作に関する動作制限情報をシステム情報として通知し,
B) 動作制限情報を通知された通信端末装置(制限端末装置)は,SIMに格納されている情報に基づき自装置が制限端末装置であるか否かを判断し,
C) 制限端末装置であると判断した場合は前記動作制限情報に従って動作する。
つまり,本願発明は,システム情報を参照して動作制限情報を把握でき,SIMを参照して制限端末装置を把握できるので,引用文献1に比べて動作制限情報を迅速・確実に適用することができます。引用文献1は,SIBを参照することに加えて,pagingタイミングの計算,pagingメッセージの受信とその確認など,本願発明に比べて余分な動作が必要です。
以上のことから,本願発明は,引用文献1に対して新規性を有し,引用文献1から容易に発明することは困難なので引用文献1に対して進歩性を有していると思料いたします。」と主張している。

しかしながら,「第4 引用発明」において検討したとおり,引用例1の摘記箇所には「 MTCデバイスに適用されるネットワークアクセス制限を,SIBでMTCデバイスにブロードキャストできる3GPP規格に準拠するeNB。」が記載されていると認められ,引用例1に記載された事項は,請求人が主張している「ページングでアクセス制限をMTC装置に通知する」ものに限られるわけではない。よって,「引用文献1は,SIBを参照することに加えて,pagingタイミングの計算,pagingメッセージの受信とその確認など,本願発明に比べて余分な動作が必要です。」との請求人の主張は,「第4 引用発明」において検討した引用発明(引用例1に記載された発明)に関するものではない。
また,請求人は,「本願発明の手順」として「 B) 動作制限情報を通知された通信端末装置(制限端末装置)は,SIMに格納されている情報に基づき自装置が制限端末装置であるか否かを判断し,
C) 制限端末装置であると判断した場合は前記動作制限情報に従って動作する。」ことを主張しているが,本願発明(請求項5に係る発明)は,B),C)に対応する発明特定事項を備えていないから,当該請求人の主張は,本願発明(請求項5に係る発明)に関するものではない。
したがって,上記の請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1に記載された発明である。また,引用例1に記載された発明に基づき,本願発明をすることは当業者にとって容易である。したがって,本願発明は,特許法第29条第1項第3号,同条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-05-27 
結審通知日 2020-06-02 
審決日 2020-06-17 
出願番号 特願2018-82205(P2018-82205)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桑原 聡一  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 相澤 祐介
本郷 彰
発明の名称 通信システム、基地局装置および通信端末装置  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉竹 英俊  

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