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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1364875 |
異議申立番号 | 異議2019-700829 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-10-18 |
確定日 | 2020-06-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6503626号発明「医薬組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6503626号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、4について訂正することを認める。 特許第6503626号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6503626号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成26年3月25日(優先権主張 平成25年3月28日)に出願され、平成31年4月5日にその特許権の設定登録がされ、平成31年4月24日に特許掲載公報が発行された。 その特許についての本件特許異議の申立ての手続の経緯は、次のとおりである。 令和1年10月18日 :特許異議申立人 岡ヤエ子による特許異議 の申立て 令和1年12月23日付け:取消理由通知 令和2年2月10日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求 令和2年3月13日 :特許異議申立人による意見書の提出 令和2年3月27日付け :取消理由通知(決定の予告) 令和2年5月15日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和2年5月15日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という)の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「(a)ルリコナゾール、並びに(b)サリチル酸を含有することを特徴とする医薬組成物。」と記載されているのを、「30?60質量%の水を含み、(a)ルリコナゾール1質量%、並びに(b)サリチル酸を含有することを特徴とする医薬組成物であって、(b)サリチル酸の含有量が、(a)ルリコナゾール1質量%に対して、0.1?10質量%である、医薬組成物。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4に「(a)ルリコナゾールと(b)サリチル酸を混合することを特徴とする、ルリコナゾールの溶解性向上方法。」と記載されているのを、「30?60質量%の水と(a)ルリコナゾール 1質量%と(b)サリチル酸とを混合することを特徴とする、ルリコナゾールの溶解性向上方法であって、(b)サリチル酸の混合量が、(a)ルリコナゾール1質量%に対して、0.1?10質量%である、ルリコナゾールの溶解性向上方法。」に訂正する。 なお、訂正前の請求項1及び4は、それぞれ独立形式の請求項であるから、一群の請求項を形成するものではない。 また、令和2年2月10日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る、ルリコナゾール及びサリチル酸を含有する医薬組成物において、30?60質量%の水を必須成分として特定するとともに、ルリコナゾール及びサリチル酸の含有量を限定するものである。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 また、本件特許明細書の段落【0009】の記載(「・・・本発明に使用するルリコナゾールの含有量は、・・・本医薬組成物製剤全体に対して、0.1?10質量%が好ましい。」、段落【0011】の記載(「サリチル酸の含有量は特に限定されないが、ルリコナゾール1質量%に対して0.1?10質量%が好ましく、・・・」)、段落【0019】の記載(「本発明の水の含有量は、本発明の医薬組成物全体に対して30質量%?60質量%が好ましい。・・・」、更には、実施例1、16及び17の具体的な処方例に鑑みれば、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項4に係る、ルリコナゾールとサリチル酸を混合することを特徴とする、ルリコナゾールの溶解性向上方法において、30?60質量%の水を必須成分として特定するとともに、ルリコナゾール及びサリチル酸の混合量を限定するものである。 したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 また、本件特許明細書の段落【0009】の記載(「・・・本発明に使用するルリコナゾールの含有量は、・・・本医薬組成物製剤全体に対して、0.1?10質量%が好ましい。」、段落【0011】の記載(「サリチル酸の含有量は特に限定されないが、ルリコナゾール1質量%に対して0.1?10質量%が好ましく、・・・」)、段落【0019】の記載(「本発明の水の含有量は、本発明の医薬組成物全体に対して30質量%?60質量%が好ましい。・・・」、更には、実施例1、16及び17の具体的な処方例に鑑みれば、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。 3 独立特許要件 訂正前の請求項1及び4について特許異議の申立てがなされているので、訂正事項1及び2に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 4 小括 上記のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、4について訂正することを認める。 第3 本件訂正後の発明 1 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の請求項1?4に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」等といい、また、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。)。 なお、下線は、本件訂正による訂正箇所に対応して、合議体が付したものである。 「【請求項1】 30?60質量%の水を含み、(a)ルリコナゾール1質量%、並びに(b)サリチル酸を含有することを特徴とする医薬組成物であって、(b)サリチル酸の含有量が、(a)ルリコナゾール1質量%に対して、0.1?10質量%である、医薬組成物。 【請求項2】 (a)ルリコナゾール1質量%、(b)l-メントール、グリチルレチン酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、塩化デカリニウム、及びdl-カンフルからなる群から選択される少なくとも1種の成分、及び(c)水を含む液剤又はローション剤であって、 (b)l-メントールの含有量が0.3?3質量%、グリチルレチン酸の含有量が1質量%、イソプロピルメチルフェノールの含有量が3質量%、塩化ベンザルコニウムの含有量が0.05質量%、塩化デカリニウムの含有量が0.05?0.5質量%、dl-カンフルの含有量が4質量%である、液剤又はローション剤。 【請求項3】 ルリコナゾール1質量%、及び(b)l-メントール、グリチルレチン酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、及びdl-カンフルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含むクリーム剤であって、 (b)l-メントールの含有量が3質量%、グリチルレチン酸の含有量が1質量%、イソプロピルメチルフェノールの含有量が0.3?3質量%、塩化ベンザルコニウムの含有量が0.05質量%、dl-カンフルの含有量が0.4?4質量%である、クリーム剤。 【請求項4】 30?60質量%の水と(a)ルリコナゾール 1質量%と(b)サリチル酸とを混合することを特徴とする、ルリコナゾールの溶解性向上方法であって、(b)サリチル酸の混合量が、(a)ルリコナゾール1質量%に対して、0.1?10質量%である、ルリコナゾールの溶解性向上方法。」 2 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載について 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。 (本1) 「【背景技術】 【0002】 ・・・ 現在、治療効果の高い抗真菌剤として新規イミダゾール系抗真菌薬であるルリコナゾールが挙げられる。ルリコナゾールは強い抗真菌活性及び皮膚角層での高い薬物貯留性により、白癬、皮膚カンジダ症及び癜風に対し、既承認薬の臨床試験における薬剤塗布期間の半分の期間で優れた臨床効果を示すことが認められている(非特許文献1)。 しかしながら、ルリコナゾールは外用剤に一般的に使用される基剤成分の水に対する溶解度が低い。また、光に対する安定性が悪く、光によって着色する。・・・」 (本2) 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明はルリコナゾールの溶解性を向上させた医薬組成物を提供することである。」 (本3) 「【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者らは、上記課題を解決するため種々検討した結果、ルリコナゾールと、サリチル酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、グリチルレチン酸、l-メントール又はdl-カンフルを組み合わせることにより、ルリコナゾールの溶解性が向上することを見出し、本発明を完成した。 【0007】 すなわち本発明は、(1)(a)ルリコナゾール、並びに(b)サリチル酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、グリチルレチン酸、l-メントール及びdl-カンフルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有することを特徴とする医薬組成物、 (2)水を含有する(1)に記載の医薬組成物、 (3)液剤、ローション剤、乳剤、クリーム剤、水性ゲル剤またはエアゾール剤である(1)又は(2)に記載の医薬組成物、 (4)(a)ルリコナゾールと(b)サリチル酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、グリチルレチン酸、l-メントール及びdl-カンフルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を混合することを特徴とする、ルリコナゾールの溶解性向上方法、である。」 (本4) 「【0009】 本発明は、ルリコナゾールを含有する医薬組成物である。本発明に使用するルリコナゾールの含有量は、治療に必要な量を角質へ供給できれば特に限定されないが、本医薬組成物製剤全体に対して、0.1?10質量%が好ましい。 ・・・ 【0011】 サリチル酸の含有量は特に限定されないが、ルリコナゾール1質量%に対して0.1?10質量%が好ましく、2?10質量%がさらに好ましい。0.1質量%未満であるとルリコナゾールの溶解性が充分でないと考えられるからである。本発明の医薬組成物中に含まれるサリチル酸の含有量は、皮膚への刺激性の観点から、上限値は10質量%である。」 (本5) 「【0019】 本発明の水の含有量は、本発明の医薬組成物全体に対して30質量%?60質量%が好ましい。また、本発明の医薬液体組成物中に、さらにエタノールが含有されていることが望ましい。エタノールの含有量は、好ましくは本発明の医薬液体組成物全体に対して400質量%?80質量%、特に好ましくは60質量%?80質量%である。 【0020】 本発明の医薬組成物の剤型としては、液剤、ローション剤、乳剤、軟膏剤、クリーム剤、水性ゲル剤、エアゾール剤などの各種外用製剤として提供される。好ましい剤形は、液剤、ローション剤、乳剤、クリーム剤、水性ゲル剤、エアゾール剤であり、特に好ましいのはクリーム剤である。これら製剤は、常法により調製可能である。 【0021】 液剤またはローション剤は、ルリコナゾールとサリチル酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、グリチルレチン酸、l-メントール、dl-カンフルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を、水、エタノール、多価アルコール又はこれらの混液に溶解・分散させて調製することができる。また、このような液剤と適当な液化ガス(液化石油ガス、ジメチルエーテルなど)をアルミ製耐圧容器に入れてエアゾール剤を調製することもできる。さらに、このような液剤に適当なゲル化剤を配合して水性ゲル剤を調製することも可能である。 【0022】 クリーム剤、乳剤は、油分を溶解させた油相にルリコナゾールとサリチル酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、グリチルレチン酸、 l-メントール、dl-カンフルからなる群から選択される少なくとも1種の成分及び界面活性剤を添加して、ホモミキサー用容器に入れて脱気・加温する。ホッパーから加温した水相を添加し、高速攪拌(ホモジナイズ)した後、室温まで冷却することによってクリーム剤、乳剤を調製することができる。ここで、HLBの高い界面活性剤を用いればO/Wクリーム剤、乳剤が調製できるし、HLBの低い界面活性剤を用いればW/Oクリーム剤、乳剤が調製できる。 【0023】 軟膏剤は、室温で固体のポリエチレングリコールと室温で液状の多価アルコールをそれぞれ任意の量とり、加温融解後、ルリコナゾールとサリチル酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、グリチルレチン酸、l-メントール、dl-カンフルからなる群から選択される少なくとも1種を加え、分散させた後、室温まで冷却することによって調製できる。」 (本6) 「【実施例】 【0027】 表1、2に示す処方に従い、各成分を混合し、本発明の医薬組成物を調製した。なお、表1、2において、数値は全て質量%を意味するものとする。【0028】 【表1】 【0029】 【表2】 【0030】 <試験例1:溶解性試験> 実施例1?7及び比較例1の製剤を室温で撹拌し、ルリコナゾールの性状を目視により評価した。結果を表3に示した。 【0031】 【表3】 ・・・ 【0034】 以下表5?6に示す処方に従い、各成分を混合し、本発明の医薬組成物を調製した。なお、表5?6において、数値は全て質量%を意味するものとする。 【0035】 【表5】 【0036】 【表6】 【0037】 <試験例3:溶解性試験> 実施例11?23及び比較例3?6の製剤を25℃で24時間以上撹拌した後、ろ過液中のルリコナゾールをHPLC法で定量し飽和溶解度を求めた。また、下記の式に従い、溶解度向上倍率を算出した。 溶解度向上倍率(%)=各成分添加時のルリコナゾール飽和溶解度/ルリコナゾール単独の飽和溶解度 【0038】 結果を表7に示した。 【0039】 【表7】 【0040】 表7に示したように、ルリコン液1%インタビューフォームに溶解剤として記載されている中鎖脂肪酸トリグリセリドを配合した場合、組成物全体に対して1質量%の配合で溶解度を向上することが確認された(比較例6)。一方、本発明の組成物は、中鎖脂肪酸トリグリセリドよりも十分少ない量で、ルリコナゾールの溶解度を向上することが確認された(実施例11、13、15、17、19、21、23)。 【0041】 以下表8に示す処方に従い、各成分を混合し、本発明の医薬組成物を調製した。なお、表8において、数値は全て質量%を意味するものとする。 【0042】 【表8】 【0043】 <試験例4:溶解性試験> 実施例24?28及び比較例7の製剤を25℃で24時間以上撹拌した後、ろ過液中のルリコナゾールをHPLC法で定量し飽和溶解度を求めた。また、下記の式に従い、溶解度向上倍率を算出した。 溶解度向上倍率(%)=各成分添加時のルリコナゾール飽和溶解度/ルリコナゾール単独の飽和溶解度 【0044】 結果を表9に示した。 【0045】 【表9】 【0046】 表9に示したように、本発明の組成物はクリーム剤の基剤として汎用されている中鎖脂肪酸トリグリセリド中でルリコナゾールの溶解度を向上することが確認された(実施例24?28)。本結果より、本発明の組成物はクリーム剤においてルリコナゾールの溶解度を向上すると考えられる。 本発明の組成物は、ルリコナゾールの溶解度を向上することが分かった(実施例11?28)。 【0047】 <製剤例>クリーム剤 以下表10に示すクリーム剤を、常法に従い、調製した。なお、表10において、数値は全て質量%を意味するものとする。 【0048】 【表10】 」 第4 令和2年3月27日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消 理由について 1 取消理由の概要 上記(本1)及び(本2)によれば、本件発明が解決しようとする課題は、外用剤の基材成分として使用される水に対する溶解度が低いルリコナゾールの溶解性を向上させた医薬組成物を提供することであるところ、令和2年2月10日付けの訂正請求後の請求項1及び4に係る発明は、以下のア及びイの点で、技術常識に照らしても発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ア 溶媒が特定されていない点 本件発明1は、ルリコナゾール及びサリチル酸を含有する医薬組成物であるところ、本件発明2及び3とは異なり剤型の特定はなく、前記二つの成分を含有すること及びその含有割合のみで特定された、単なる医薬組成物の発明である。 上記(本5)の【0019】の記載によれば、本発明の医薬組成物において、水の好ましい含有量が30質量%?60質量%であることは分かるが、水が必須の成分であるとは認められない。実際、本発明の医薬組成物の剤形として例示される「軟膏剤」の場合には、水を含むものではないことは明らかである(上記(本5)【0020】【0023】)。 これに対して、サリチル酸を添加した実施例1、17及び18では、いずれも溶媒として水及びエタノールを用いた系における、ルリコナゾールの溶解度の向上が確認されている(上記(本6)の表1、2、3、6、7)が、水を含まない系(溶媒として中鎖脂肪酸トリグリセリドを使用)におけるルリコナゾールの溶解度を確認した実施例24?28では、ルリコナゾールに対しサリチル酸を添加したものはない(上記(本6)の表8、9)。 そして、溶媒に対する有効成分の溶解性は、溶媒の種類によって、異なることは技術常識であることを踏まえると、溶媒として水を用いる系において確認された、サリチル酸によるルリコナゾールの溶解性向上の結果を、溶媒として水を用いない場合まで、敷衍することはできない。 イ ルリコナゾール及びサリチル酸の含有量の特定は、相対的量比である点 上記(1)において説示したとおり、本件発明1における「サリチル酸の含有量が、ルリコナゾール1質量%に対して、0.1?10質量%である」との発明特定事項は、その文言及び両化合物の含有量に関する明細書の記載(上記(本4))からみて、2つの化合物の相対的量比を規定している、すなわち、質量比で、ルリコナゾール1に対してサリチル酸0.1?10を含有する、というものであると解される。 そうしてみると、本件発明1の医薬組成物には、例えば、ルリコナゾール100質量部、サリチル酸10質量部及び水0.01質量部からなる組成物も、その態様として包含されることとなるが、このような場合には、ルリコナゾールは水に溶解せず、本件発明の課題が解決されるものではないことは明らかである。 2 当審の判断 本件訂正によって、請求項1及び4において、溶媒として水を30?60質量%を含むこと、並びにルリコナゾール及びサリチル酸の含有量は、それぞれ1質量%及び0.1?10質量%であることが特定された。 そして、かかる訂正によって、上記1 ア及びイのサポート要件違反の指摘事項が解消されたことは、明らかである。 第5 令和2年3月27日付け取消理由通知(決定の予告)において採用し なかった特許異議申立理由について 1 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由の概要 申立人は、証拠として、以下の甲第1号証?甲第8号証(以下、「甲1」等と略記する)を提出するとともに、特許異議申立書において、以下の取消理由により、請求項1?4に係る特許は取り消されるべき旨主張している。 (取消理由1(新規性)) 本件特許発明1?4は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (取消理由2(進歩性)) 本件特許発明1?4は、甲1に記載された発明及び甲2?8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (取消理由3(サポート要件)) 本件特許発明1?4は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものであるから、請求項1?4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 <証拠> 甲1:特開2012-144449号公報 甲2:国際公開2009/031642号 甲3:国際公開2009/031643号 甲4:国際公開2009/031644号 甲5:国際公開2011/155640号 甲6:特表2012-523409号公報 甲7:特表2012-523410号公報 甲8:特表2013-503108号公報 2 文献の記載 (1)甲1に記載された事項及び甲1記載の発明(下線は、合議体が付した。) (1a)「【請求項1】 ルリコナゾール、並びに抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、抗白癬菌剤、殺菌剤、テルペノイド、鎮痒剤、抗炎症剤、ビタミン類、鎮痛剤、収斂保護剤、血管収縮剤、生薬、及び角質溶解剤からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有することを特徴とする、抗真菌医薬組成物。 (請求項2及び3は省略)」(特許請求の範囲) (1b)「【0006】 即ち、本発明は、 〔1〕ルリコナゾール、並びに抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、抗白癬菌剤、殺菌剤、テルペノイド、鎮痒剤、抗炎症剤、ビタミン類、鎮痛剤、収斂保護剤、血管収縮剤、生薬、及び角質溶解剤からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有することを特徴とする、抗真菌医薬組成物、 ・・・」 (1c)「【0008】 本発明の抗真菌医薬組成物に使用されるルリコナゾールは、イミダゾール系抗真菌剤として公知の化合物であり、特開平09-100279公報に開示されている方法により、製造することができる。また本発明の抗真菌医薬組成物においてルリコナゾールと共に使用することができる抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、抗白癬菌剤、殺菌剤、テルペノイド、鎮痒剤、抗炎症剤、ビタミン類、鎮痛剤、収斂保護剤、血管収縮剤、生薬、及び角質溶解剤の各薬剤は、平成10年5月15日医薬発第447号(みずむし・たむし用薬製造(輸入)承認基準等について)、及び第十五改正日本薬局方第二追補(日本薬局方の一部を改正する件、平成21年厚生労働省告示第425号)に記載されている公知の化合物である。 【0009】本発明の抗真菌医薬組成物中のルリコナゾールの配合割合は、該組成物の用途や製剤形態等に応じて適宜設定される。通常、抗真菌医薬組成物中のルリコナゾールの配合割合として、ルリコナゾールが総量で0.001?10重量%、好ましくは0.01?5重量%、特に好ましくは0.5?1重量%が良い。」 (1d)「【0014】 殺菌剤としては、アクリノール、アルキルポリアミノエチルグリシン、安息香酸ベルベリン、イソプロピルメチルフェノール、セチルピリジニウム、塩酸デカリニウム、塩酸ベンザルコニウム、塩酸クロルヘキシジン、セトリミド、レゾルシン、塩酸ベンゼトニウム、ヒノキチオール、安息香酸、クロロブタノール、酢酸、フェノール、ヨードチンキ、酢酸デカリニウム、グルコン酸クロルヘキシジン等が挙げられ、抗真菌作用をより一層効果的に増強して発現させるという観点から、好ましくは、アクリノール、アルキルポリアミノエチルグリシン、安息香酸ベルベリン、イソプロピルメチルフェノール、塩酸デカリニウム、塩酸ベンザルコニウム、塩酸クロルヘキシジン、レゾルシン、塩酸ベンゼトニウム、ヒノキチオール、安息香酸、クロロブタノール、酢酸、フェノール、ヨードチンキ、酢酸デカリニウム、グルコン酸クロルヘキシジンである。これらの殺菌剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。 【0015】 本発明の抗真菌医薬組成物中の殺菌剤の配合割合は、該組成物の用途や製剤形態、配合割合、殺菌剤の種類等によって異なるが、通常、抗真菌医薬組成物中に殺菌剤が0.0005?30重量%、好ましくは0.0051?20重量%が良い。 【0016】 テルペノイドとしては、ボルネオール、d‐メントール、l‐メントール、d,l‐メントール、d‐カンフル、d,l‐カンフル、ゲラニオール、シネオール、シネオール、アネトール、リモネン、オイゲノール、チモール、ハッカ油、竜脳等が挙げられ、抗真菌作用をより一層効果的に増強して発現させるという観点から、好ましくは、ボルネオール、d‐メントール、d,l‐メントール、d‐カンフル、d,l‐カンフル、チモール、ハッカ油、竜脳である。これらのテルペノイドは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。 【0017】 本発明の抗真菌医薬組成物中のテルペノイドの配合割合は、該組成物の用途や製剤形態、配合割合、テルペノイドの種類等によって異なるが、通常抗真菌医薬組成物中にテルペノイドが0.005?10重量%、好ましくは0.05?5重量%が良い。 (段落【0018】は省略) 【0019】 抗炎症剤としては、アラントイン、アルジオキサ、イクタモール、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、サリチル酸、ジメチルイソプロピルアズレン、インドメタシン、イプシロン-アミノカプロン酸、ベルベリン、プラノプロフェン、アズレンスルホン酸、ジクロフェナク、ブロムフェナク、サリチル酸メチル、グリチルリチン酸2カリウム等が挙げられ、抗真菌作用をより一層効果的に増強して発現させるという観点から、好ましくは、アラントイン、アルジオキサ、イクタモール、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、サリチル酸、ジメチルイソプロピルアズレン、サリチル酸メチル、グリチルリチン酸2カリウムである。これらの抗炎症剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。 【0020】 本発明の抗真菌医薬組成物中の抗炎症剤の配合割合は、該組成物の用途や製剤形態、配合割合、抗炎症剤の種類等によって異なるが、通常抗真菌医薬組成物中に抗炎症剤が0.001?20重量%、好ましくは0.004?10重量%が良い。本発明の抗真菌医薬組成物中の抗炎症剤の配合割合は、該組成物の用途や製剤形態、配合割合、抗炎症剤の種類等によって異なるが、通常抗真菌医薬組成物中に抗炎症剤が0.1?70重量%、好ましくは1?60重量%が良い。」 (1e)「【0029】 本発明の組成物における2薬剤の配合例としては、ルリコナゾール、クロルフェニラミン;ルリコナゾール、ジフェンヒドラミン;ルリコナゾール、塩酸ジフェニルピラリン;ルリコナゾール、ジフェニルイミダゾール;ルリコナゾール、塩酸ジフェンヒドラミン;ルリコナゾール、サリチル酸ジフェンヒドラミン;ルリコナゾール、マレイン酸クロルフェニラミン;ルリコナゾール、リドカイン;ルリコナゾール、ジブカイン;ルリコナゾール、塩酸プロカイン;ルリコナゾール、アミノ安息香酸エチル;ルリコナゾール、オキシポリエトキシドデカン;ルリコナゾール、塩酸ジブカイン;ルリコナゾール、塩酸リドカイン;ルリコナゾール、アクリノール;ルリコナゾール、アルキルポリアミノエチルグリシン;ルリコナゾール、安息香酸ベルベリン;ルリコナゾール、イソプロピルメチルフェノール;ルリコナゾール、塩酸デカリニウム;ルリコナゾール、塩酸ベンザルコニウム;ルリコナゾール、塩酸クロルヘキシジン;ルリコナゾール、レゾルシン;ルリコナゾール、塩酸ベンゼトニウム;ルリコナゾール、ヒノキチオール;ルリコナゾール、安息香酸;ルリコナゾール、クロロブタノール;ルリコナゾール、酢酸;ルリコナゾール、フェノール;ルリコナゾール、ヨードチンキ;ルリコナゾール、酢酸デカリニウム;ルリコナゾール、グルコン酸クロルヘキシジン; ルリコナゾール、d-メントール;ルリコナゾール、l-メントール;ルリコナゾール、d,l-メントール;ルリコナゾール、d-カンフル;ルリコナゾール、d,l-カンフル;ルリコナゾール、ハッカ油;ルリコナゾール、竜脳;ルリコナゾール、クロタミトン;ルリコナゾール、アラントイン;ルリコナゾール、アルジオキサ;ルリコナゾール、イクタモール;ルリコナゾール、グリチルリチン酸;ルリコナゾール、グリチルレチン酸;ルリコナゾール、サリチル酸;ルリコナゾール、ジメチルイソプロピルアズレン;ルリコナゾール、サリチル酸メチル;ルリコナゾール、グリチルリチン酸2カリウム;ルリコナゾール、酸化亜鉛;ルリコナゾール、クロルヒドロキシアルミニウム;ルリコナゾール、シコン;ルリコナゾール、トウキ;ルリコナゾール、尿素;ルリコナゾール、フタル酸ジエチル;が例示できる。」 (1f)「【0031】 また、本発明の抗真菌医薬組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、基材、担体や添加物を適宜選択し、1種又は2種以上を併用して配合することができる。それらの基材、担体又は添加物として、例えば、固形剤、半固形剤、液剤等の調製に一般的に使用される担体(水、水性溶媒、水性または油性基剤など)、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤などの各種添加剤を挙げることができる。以下に本発明の抗真菌医薬組成物に使用される代表的な成分を例示するが、これらに限定されるものではない。 【0032】 本発明の抗真菌医薬組成物に使用することができる基材又は担体成分としては、水、エタノール、その他水性溶媒、カルボキシメチルスターチナトリウム、結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、乳糖、ハードファット、オクチルドデカノール、グリセリン、軽質流動パラフィン、ゲル化炭化水素、ショ糖脂肪酸エステル、酒石酸、シリコン樹脂、ジエタノールアミン、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン、ジメチルポリシロキサン、スクワラン、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、メチルエチルケトン、ステアリン酸、ステアリン酸グリセリン、セタノール、セトステアリルアルコール,D-ソルビトール、炭酸水素ナトリウム、中鎖脂肪酸トリグリセリド、トウモロコシデンプン、パラフィン、パルミチン酸、パルミチン酸セチル、プロピレングリコール、プロピレングリコール脂肪酸エステル、1,3ブチレングリコール、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ミリスチン酸イソプロピル、パルチミン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸セチル、モノステアリン酸グリセリン、ワセリン等が挙げられる。 (段落【0033】及び【0034】は省略) 【0035】 本発明の抗真菌医薬組成物は、外用形態で使用可能である限り、その製剤形態については特に制限されない。本発明の抗真菌医薬組成物の剤型の具体例としては、クリーム剤、液剤、軟膏剤、ゲル剤、ローション剤、貼付剤、スプレー剤、エアゾール剤、ゼリー剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤、散剤等が挙げられる。これらの中で、好ましくはクリーム剤、液剤、軟膏剤、スプレー剤が挙げられる。特に好ましくは、クリーム剤、液剤、軟膏剤が挙げられる。 【0036】 本発明の抗真菌医薬組成物は、その剤型等に応じて、適当な基材、担体や添加剤を適宜選択し配合して、通常の方法に従って製造することができる。」 上記記載事項(1a)、(1b)及び(1e)によれば、甲1には、以下の二つの発明が記載されていると認める。 「ルリコナゾール及びサリチル酸を含む抗真菌医薬組成物。」(以下、「甲1発明A」という。) 「ルリコナゾール、並びにl-メントール、グリチルレチン酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、塩化デカリニウム、及びd,l-カンフルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む抗真菌医薬組成物。」(以下、「甲1発明B」という。) また、上記記載事項(1a)、(1b)、(1e)及び(1f)によれば、甲1には、以下の発明も記載されていると認める。 「ルリコナゾール及びサリチル酸を配合することで、抗真菌医薬組成物を製造する方法。」(以下、「甲1発明C」という。) (2)甲2に記載された事項 (2a)「[0005] 一般に抗真菌剤が白癬(足白癬、体部白癬もしくは股部白癬)、カンジタ症(間擦疹もしくは指間びらん症)、癜風または脂漏性皮膚炎等の治療に用いられていることは知られているが、脂漏性皮膚炎に用いる製剤は、適用する部位が頭髪近辺の頭皮であり、その使用量が体部の真菌症、手足部の真菌症に比して多くなるため、メチルエチルケトンといった溶剤は、刺激発現可能性と引火性などの問題から、使用が限定される状況にある。そのため、刺激などの副作用がなく、容易に投与できる製剤が求められていた。さらに、抗真菌作用についての効果を確保するためには、製剤に薬物が十分に溶解され、一相の溶液形態であることが好ましい。一般式(1)で示される化合物においては、水への溶解性が制限されているため、該化合物の溶解性を損なわず、一相の溶液形態の製剤化をどのように行うかが課題の一つになっている。」 (3)甲3に記載された事項 (3a)「[0003] 抗真菌効果に優れる抗真菌剤としては、例えば、一般式(1)で示される化合物の一種であるルリコナゾールが、治療期間の短縮を可能にする薬剤として注目を集めている(例えば、特開平09-100279号公報、特開平02-275877号公報を参照)。かかる化合物は、爪真菌症にも有用であり、ハイドロゲル様製剤である、爪真菌症用の製剤も既に知られている。(例えば、国際公開第03/105841号パンフレットを参照)これより、抗菌特性としても一般式(1)で示される化合物は優れたものであると言える。唯一、一般式(1)で示される化合物は、溶解性の面で水性媒体に難溶であり、溶解補助剤を製剤化には用いざるを得ず、かかる溶解補助剤によって生じる生物学的薬剤利用性の変動のコントロールの点が製剤化検討の大きな課題となっている。特に、粘度調整のためにセルロース系増粘剤などを共存させた場合に於いては、かかるセルロース系増粘剤の添加が角層貯留(以下、角層における薬剤の貯留乃至は保持ともいう)を高める作用も有しており、粘度調整の為にかかる増粘剤の配合量を変動させると、製剤の薬動力学的特性も変化し、生体利用性も変化してしまう場合があった。医薬には常に生物学的同等性を保持する必要があり、この様な薬動力学的特性の変化を補完し、生物学的同等性が維持できるシステムの開発が一般式(1)で示される化合物の製剤設計には求められていたと言える。」 (4)甲4に記載された事項 (4a)「[0007] また、皮膚外用剤として使用するのに適した真菌症の1つに脂漏性皮膚炎が挙げられるが、脂漏性皮膚炎に用いる製剤は、適用する部位が頭髪近辺の頭皮であるため、その使用量が体部の真菌症、手足部の真菌症に比して多くなるため、メチルエチルケトンといった溶剤は、刺激発現可能性と引火性などの問題から、使用が限定される状況にあり、刺激などの副作用がなく、容易に投与できる製剤が求められていた。さらに、効果を確保するためには、製剤に薬物が十分に溶解され、皮膚へ薬物が移行しやすい状態である一相の溶液形態であることが好ましい。一般式(1)で示される化合物においては、水への溶解性が制限されているため、どのように溶解性を損なわず、一相の溶液形態の製剤化を行うかが課題の一つになっている。」 (5)甲5に記載された事項(英語で記載されているため、合議体による日本語訳で示す。) (5a)「[0002] ルリコナゾールは、一般式(1)に表される構造を有する化合物(R_(1)=R_(2)=塩素原子)であり、優れた抗真菌活性を有している。ルリコナゾールは、これまで外用投与では治療不可能とされてきた爪真菌症の治療にも応用可能性が指摘されている(例えば、特許文献1を参照)。この様な爪真菌症の治療のための製剤(医薬製剤)としては、一般式(1)に表される化合物の含有量を更に高めることが望まれている。しかしながら、その結晶性の良さから、かかる化合物を高濃度に含有する製剤を作るために用いることの出来る溶剤はごく限られたものにならざるを得ない状況が存した。即ち、溶剤の種類によっては、5℃等の低温条件で結晶を析出したり、塗布時に結晶を析出するなどの不都合を生じる場合が存した。加えて、ルリコナゾールの溶液においては、SE体等の立体異性体を生じやすい状況が存した。この様な立体異性体が生じるのを防ぐ溶媒としては、クロタミトン、炭酸プロピレン及びN-メチル-2-ピロリドンが知られるのみであった(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、かかる溶剤においても、元来持っている抗炎症作用などの薬効によって、配合の制限が存する場合が存し、これらに代わる新たなルリコナゾール等の製剤用の溶媒の開発が望まれていた。特に、溶液製剤においては、結晶析出などによりその薬理効果は著しく減じられるため、この様な可溶化技術は重要な製剤化の要素となっていた。加えて、Z体のような立体異性体も考慮しなければならない状況も存する。」 (6)甲6に記載された事項 (6a)「【0002】 一般式(1)に表される化合物は、例えば、ルリコナゾールに代表されるように、優れた抗真菌活性を有しており、これまで外用投与では治療不可能とされてきた爪真菌症の治療にも応用可能性が指摘されている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、この様な爪真菌症の治療用製剤とする場合、一般式(1)に表される化合物の製剤中での可溶化状態の含有量を更に高めることが望まれている。特に爪白癬症の治療用製剤においては、通常の皮膚真菌症の治療に用いる製剤の2倍以上の、具体的には5質量%以上のルリコナゾールに代表される一般式(1)に表される化合物を可溶化することが望まれ、高濃度の一般式(1)に表される化合物を可溶化し製剤化する為の溶媒の開発が望まれている。しかしながら、その結晶性の良さから、かかる化合物を高濃度に含有する製剤を作るために用いることの出来る溶媒はごく限られたものにならざるを得ない状況が存した。即ち、溶媒の種類によっては、5℃等の低温条件で結晶を析出したり、塗布時に結晶を析出するなどの不都合を生じる場合が存した。」 (7)甲7に記載された事項 (7a)「【0002】 下記一般式(1)に表される構造を有する化合物は、優れた抗真菌活性を有している。ルリコナゾールは、一般式(1)に表される構造を有する化合物の一つであり、式中のR_(1)、R_(2)がともに塩素原子のものである。ルリコナゾール等の一般式(1)に表される化合物は、優れた抗真菌活性を有していることから、これまで外用投与では治療不可能とされてきた爪真菌症の治療にも応用可能性が指摘されている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、この様な爪真菌症の治療用製剤とする場合、一般式(1)に表される化合物の含有量を更に高めることが望まれている。特に爪白癬症の治療用製剤においては、通常の皮膚真菌症の治療に用いる製剤の2倍以上の、具体的には5質量%以上の一般式(1)に表される化合物を可溶化することが望まれ、高濃度の一般式(1)に表される化合物を可溶化し製剤化する為の溶媒の開発が望まれている。 【0003】 しかしながら、その結晶性の良さから、かかる化合物を高濃度に含有する製剤を作るために用いることの出来る溶媒はごく限られたものにならざるを得ない状況が存した。即ち、溶媒の種類によっては、5℃等の低温条件で結晶を析出したり、塗布時に結晶を析出するなどの不都合を生じる場合が存した。」 (8)甲8に記載された事項 (8a)「【0002】 ルリコナゾール(一般式(1)においてR_(1)=R_(2)=塩素原子)に代表される、一般式(1)に表される構造を有する化合物は、優れた抗真菌活性を有しており、これまで外用投与では治療不可能とされてきた爪真菌症の治療にも応用可能性が指摘されている(例えば、特許文献1を参照)。この様な爪真菌症の治療のための製剤としては、一般式(1)に表される化合物の含有量を更に高めることが望まれているが、その結晶性の良さから、かかる化合物を高濃度に含有する製剤を作るために用いることの出来る溶媒はごく限られたものにならざるを得ない状況が存した。即ち、溶媒の種類によっては、5℃等の低温条件で結晶を析出したり、塗布時に結晶を析出するなどの不都合を生じる場合が存した。加えて、ルリコナゾール等の立体異性体を有する一般式(1)に表される構造を有する化合物の溶液においては、SE体等の立体異性体を生じやすい状況が存し、この様な立体異性体が生じるのを防ぐ溶媒としては、クロタミトン、炭酸プロピレン及びN-メチル-2-ピロリドンが知られるのみであった(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、かかる溶媒においても、溶媒が元来持っている抗炎症作用などの薬効によって、配合が制限される場合が存し、これらに代わる新たなルリコナゾール等の製剤用の溶媒の開発が望まれていた。特に、溶液製剤においては、結晶析出などによりその薬理効果は著しく減じられるため、この様な可溶化技術は重要な製剤化の要素となっていた。加えて、Z体のような立体異性体も考慮しなければならない状況も存する。」 3 当審の判断 (1)取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について ア 本件特許発明1について (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明Aとを対比すると、両者は、 「ルリコナゾール及びサリチル酸を含む医薬組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1)本件特許発明1では、さらに30?60質量%の水を含むことが特定されているのに対し、甲1発明Aでは、かかる特定がなされていない点 (相違点2)本件特許発明1では、ルリコナゾール及びサリチル酸の配合量がそれぞれルリコナゾール1質量%及び0.1?10質量%であることが特定されているのに対し、甲1発明Aでは、かかる特定がなされていない点 (イ)判断 上記相違点1及び2は、実質的な相違点といえるから、本件特許発明1は、甲1発明Aではない。 以下、上記相違点1及び2について、当業者が容易に想到し得たといえるかどうか検討する。 ・相違点1について 上記(1f)によれば、甲1発明Aの抗真菌性医薬組成物は、外用形態で使用されることが想定されており、また、基材又は担体成分として水を用いることも記載されているから、甲1発明Aにおいて、基材又は担体として水を用い、外用剤の形態に応じて、水を所定量含有せしめることは、甲1に記載された事項及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が適宜なし得ることである。 ・相違点2について 上記(1c)によれば、ルリコナゾールの配合割合としては、ルリコナゾールが総量で0.001?10重量%、好ましくは0.01?5重量%、特に好ましくは0.5?1重量%が良いとされ、上記(1d)によれば、サリチル酸等の抗炎症剤の配合割合としては、0.01?20重量%、好ましくは0.004?10重量%が良いとされている。 しかしながら、甲1には、特に水を含む剤型において、ルリコナゾール及びサリチル酸の配合量をそれぞれ1質量%及び0.1?10質量%とすることについて示唆されていない。 これに対して、本件特許の発明の詳細な説明において、ルリコナゾール及びサリチル酸の配合量をそれぞれ1質量%及び10質量%とした実施例1、18並びにそれぞれ1質量%及び0.1質量%とした実施例17では、ルリコナゾールの水溶解性の向上が確認されている。また、実施例8では、ルリコナゾールの配合量を1質量%とし、サリチル酸の含有量を10質量%としたものについて、光安定性の向上が確認されている。 そして、かかる水溶解性及び光安定性の向上は、甲1発明A並びに甲1?8に記載された技術的事項及び優先日当時の技術常識からは、予測できない顕著なものである。 イ 本件特許発明2について (ア)対比 本件特許発明2と甲1発明Bとを対比すると、両者は、 「ルリコナゾール、並びにl-メントール、グリチルレチン酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、塩化デカリニウム、及びdl-カンフルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む医薬組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点3)本件特許発明2では、さらに水を含むとともに、その剤型が液剤又はローション剤であることが特定されているのに対し、甲1発明Bでは、かかる特定がなされていない点 (相違点4)本件特許発明2では、ルリコナゾールの配合量が1質量%、l-メントールの含有量が0.3?3質量%、グリチルレチン酸の含有量が1質量%、イソプロピルメチルフェノールの含有量が3質量%、塩化ベンザルコニウムの含有量が0.05質量%、塩化デカリニウムの含有量が0.05?0.5質量%、dl-カンフルの含有量が4質量%であると特定されているのに対し、甲1発明Bでは、かかる特定がなされていない点 (イ)判断 上記相違点3及び4は、実質的な相違点といえるから、本件特許発明2は、甲1発明Bではない。 以下、上記相違点3及び4について、当業者が容易に想到し得たといえるかどうか検討する。 ・相違点3について 上記(1f)によれば、甲1発明Bの抗真菌性医薬組成物は、外用形態で使用されることが想定されており、また、基材又は担体成分として水を用い、液剤やローション剤とすることも記載されているから、甲1発明Bにおいて、基材又は担体として水を用い、剤型を液剤又はローション剤とすることは、甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。 ・相違点4について 上記(1c)によれば、ルリコナゾールの配合割合としては、ルリコナゾールが総量で0.001?10重量%、好ましくは0.01?5重量%、特に好ましくは0.5?1重量%が良いとされている。また、上記(1d)によれば、イソプロピルメチルフェノール、塩酸デカリニウム、塩酸ベンザルコニウム等の殺菌剤の配合割合としては、0.0005?30重量%、好ましくは0.0051?20重量%が良いとされ、l‐メントール、d,l‐カンフル等のテルペノイドの配合割合としては、0.005?10重量%、好ましくは0.05?5重量%が良いとされ、さらに、グリチルレチン酸等の抗炎症剤の配合割合としては、0.001?20重量%、好ましくは0.004?10重量%が良いとされている。 しかしながら、甲1には、特に水を含む剤型において、ルリコナゾールの配合量を1質量%とし、l-メントールの含有量を0.3?3質量%、グリチルレチン酸の含有量を1質量%、イソプロピルメチルフェノールの含有量を3質量%、塩化ベンザルコニウムの含有量を0.05質量%、塩化デカリニウムの含有量を0.05?0.5質量%、dl-カンフルの含有量を4質量%とすることについて示唆されていない。 これに対して、本件特許の発明の詳細な説明の実施例2?7、11?16、19?23では、ルリコナゾールとそれ以外の成分の配合量を、相違点4に係る本件特許発明2の構成を満足するものについて、ルリコナゾールの水溶解性の向上が確認されている。また、実施例9及び10では、ルリコナゾールの配合量を1質量%とし、イソプロピルメチルフェノールの含有量を3質量%(実施例9)、dl-カンフルの含有量を4質量%(実施例10)としたものについて、光安定性の向上が確認されている。 そして、かかる水溶解性及び光安定性の向上は、甲1発明B並びに甲1?8に記載された技術的事項及び優先日当時の技術常識からは、予測できない顕著なものである。 ウ 本件特許発明3について (ア)対比 本件特許発明3と甲1発明Bとを対比すると、両者は、 「ルリコナゾール、並びにl-メントール、グリチルレチン酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、及びdl-カンフルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む医薬組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。(相違点5)本件特許発明3では、その剤型がクリーム剤であることが特定されているのに対し、甲1発明Bでは、かかる特定がなされていない点(相違点6)本件特許発明3では、ルリコナゾールの配合量が1質量%、l-メントールの含有量が3質量%、グリチルレチン酸の含有量が1質量%、イソプロピルメチルフェノールの含有量が0.3?3質量%、塩化ベンザルコニウムの含有量が0.05質量%、dl-カンフルの含有量が0.4?4質量%であると特定されているのに対し、甲1発明Bでは、かかる特定がなされていない点 (イ)判断 上記相違点5及び6は、実質的な相違点といえるから、本件特許発明3は、甲1発明Bではない。 以下、上記相違点5及び6について、当業者が容易に想到し得たといえるかどうか検討する。 ・相違点5について 上記(1f)によれば、甲1発明Bの抗真菌性医薬組成物は、外用形態で使用されることが想定されており、また、クリーム剤とすることも記載されているから、甲1発明Bにおいて、剤型をクリーム剤とすることは、甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。 なお、本件特許発明2と異なり、本件特許発明3では、「水」を含むことを発明特定事項としていないが、「クリーム剤」が基剤としての「水」を含むことは周知の技術的事項であり、実際、本件特許の発明の詳細な説明の表10におけるクリーム剤の製剤例においても、精製水が80%近くの配合割合で用いられている。このため、以下の相違点6の検討においては、本件特許発明3のクリーム剤は、当然に水を含んでいることを前提に検討する。 ・相違点6について 上記(1c)によれば、ルリコナゾールの配合割合としては、ルリコナゾールが総量で0.001?10重量%、好ましくは0.01?5重量%、特に好ましくは0.5?1重量%が良いとされている。また、上記(1d)によれば、イソプロピルメチルフェノール、塩酸ベンザルコニウム等の殺菌剤の配合割合としては、0.0005?30重量%、好ましくは0.0051?20重量%が良いとされ、l‐メントール、d,l‐カンフル等のテルペノイドの配合割合としては、0.005?10重量%、好ましくは0.05?5重量%が良いとされ、さらに、グリチルレチン酸等の抗炎症剤の配合割合としては、0.001?20重量%、好ましくは0.004?10重量%が良いとされている。 しかしながら、甲1には、特に水を含む剤型において、ルリコナゾールの配合量を1質量%とし、l-メントールの含有量を3質量%、グリチルレチン酸の含有量を1質量%、イソプロピルメチルフェノールの含有量を0.3?3質量%、塩化ベンザルコニウムの含有量を0.05質量%、dl-カンフルの含有量を0.4?4質量%とすることについて示唆されていない。 これに対して、本件特許の発明の詳細な説明の実施例2、4?7、11?16、19、20、23では、ルリコナゾールとそれ以外の成分の配合量を、相違点6に係る本件特許発明3の構成を満足するものについて、ルリコナゾールの水溶解性の向上が確認されている。また、実施例9及び10では、ルリコナゾールの配合量を1質量%とし、イソプロピルメチルフェノールの含有量を3質量%(実施例9)、dl-カンフルの含有量を4質量%(実施例10)としたものは、光安定性の向上が確認されている。 そして、かかる水溶解性及び光安定性の向上は、甲1発明B並びに甲1?8に記載された技術的事項及び優先日当時の技術常識からは、予測できない顕著なものである。 エ 本件特許発明4について (ア)対比 本件特許発明4と甲1発明Cとを対比すると、両者は、 「ルリコナゾール及びサリチル酸を混合する工程を含む方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点7)本件特許発明4では、さらに30?60質量%の水を含むことが特定されているのに対し、甲1発明Cでは、かかる特定がなされていない点 (相違点8)本件特許発明4では、ルリコナゾール及びサリチル酸の配合量がそれぞれルリコナゾール1質量%及び0.1?10質量%であることが特定されているのに対し、甲1発明Cでは、かかる特定がなされていない点 (相違点9)本件特許発明4は、ルリコナゾールの溶解性向上方法の発明であるのに対し、甲1発明Cは、抗真菌医薬組成物を製造する方法の発明であり、ルリコナゾールの溶解性向上について特定されていない点 (イ)判断 上記相違点7?9は、実質的な相違点といえるから、本件特許発明4は、甲1発明Cではない。 以下、上記相違点7?9について、当業者が容易に想到し得たといえるかどうか検討する。 ・相違点7について 上記(1f)によれば、甲1発明Cの抗真菌性医薬組成物は、外用形態で使用されることが想定されており、また、基材又は担体成分として水を用いることも記載されているから、甲1発明Cにおいて、基材又は担体として水を用い、外用剤の形態に応じて、水を所定量含有せしめることは、甲1に記載された事項及び優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が適宜なし得ることである。 ・相違点8について 上記(1c)によれば、ルリコナゾールの配合割合としては、ルリコナゾールが総量で0.001?10重量%、好ましくは0.01?5重量%、特に好ましくは0.5?1重量%が良いとされ、上記(1d)によれば、サリチル酸等の抗炎症剤の配合割合としては、0.01?20重量%、好ましくは0.004?10重量%が良いとされている。 しかしながら、甲1には、特に水を含む剤型において、ルリコナゾール及びサリチル酸の配合量をそれぞれ1質量%及び0.1?10質量%とすることについて示唆されていない。 ・相違点9について 甲1には、ルリコナゾールを含有する医薬組成物において、サリチル酸を配合することで、ルリコナゾールの水溶解性を向上させることについて、記載も示唆もない。 甲2?甲8の上記記載事項(2a)?(8a)から、ルリコナゾールの溶解性の向上が周知の課題であることはいえるが、当該課題を解決するための具体的な手段については、甲1にも、甲2?8にも開示ないし示唆されておらず、また、優先日当時の技術常識として当業者に知られていたと認めるに足る事情もないから、ルリコナゾールにサリチル酸を配合する工程を有する甲1発明Cが、ルリコナゾールの溶解性を向上させるものであることを、当業者が予期することはない。 これに対して、本件特許の発明の詳細な説明において、ルリコナゾール及びサリチル酸の配合量をそれぞれ1質量%及び10質量%とした実施例1、18並びにそれぞれ1質量%及び0.1質量%とした実施例17では、ルリコナゾールの水溶解性の向上が確認されている。また、実施例8では、ルリコナゾールの配合量を1質量%とし、サリチル酸の含有量を10質量%としたものについて、光安定性の向上が確認されている。 そして、かかる水溶解性及び光安定性の向上は、甲1発明C並びに甲1?8に記載された技術的事項及び優先日当時の技術常識からは、予測できない顕著なものである。 オ 特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、本件特許発明1?4が進歩性を有しないことについて、以下のように主張する。 本件特許発明の課題は、ルリコナゾールの溶解性を向上させた医薬組成物を提供することであるが、甲2?甲8の上記記載事項(2a)?(8a)からも分かるように、ルリコナゾールの難溶解性に起因して、ルリコナゾールの溶解性を向上させることは、本件特許の優先日前に周知の課題であったから、甲1に記載された発明において、溶解性の向上を確認することに困難性はない。 しかしながら、ルリコナゾールの溶解性の向上が周知の課題であるとしても、当該課題を解決するための具体的な手段については、甲1にも、甲2?8にも開示ないし示唆されておらず、また、優先日当時の技術常識として当業者に知られていたと認めるに足る事情もない。 よって、上記特許異議申立人の主張は、採用できない。 そして、上記ア?エにおいて述べたとおり、本件特許発明1?4は、ルリコナゾール及び所定の成分を所定量配合したことで、ルリコナゾールの溶解性の向上や光安定性の向上が図られており、かかる効果は、甲1及び甲2?8の記載からは、当業者が予測することができない顕著なものである。 カ 小括 以上のとおり、本件特許発明1?4は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲2?8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)取消理由3(サポート要件)について ア 本件特許発明1及び4について (ア)特許異議申立人の主張 ルリコナゾールの含有量が1質量%より大きい場合、又はルリコナゾール1質量%に対してサリチル酸が0.1質量%未満の場合の医薬組成物について、ルリコナゾールの溶解性を向上させることができることは示されていない。 (イ)判断 本件訂正後の請求項1及び4において、ルリコナゾール及びサリチル酸の含有量はそれぞれ1質量%及び0.1?10質量%と特定されたため、申立人の主張するサポート要件違反の取消理由は、解消している。 イ 本件特許発明2について (ア)特許異議申立人の主張 本件特許発明2に相当する、実施例2?7(表1)、11?16(表5)及び19?23(表6)の医薬組成物については、ルリコナゾールの溶解度向上倍率が101%超であったことが示されている(表7)が、これらの医薬組成物においては、溶媒として水以外にエタノールを50.0質量%以上含有する溶媒を用いており、エタノールの含有量が50.0質量%未満の溶媒を用いた場合に、ルリコナゾールの溶解性を向上させることができることは示されていない。 なお、令和2年3月13日付け意見書において、請求項2についてのサポート要件違反の理由として挙げられている「3.2.1 その理由1」(同意見書7ページ)は、訂正請求のなされていない請求項2について新たな取消理由を主張するものであって、採用できない。 (イ)判断 本件特許の発明の詳細な説明には、ルリコナゾールの水に対する溶解性の向上とは、どの程度の向上を意味するのかは明確には記載されていないが、上記記載事項(本6)における実施例・比較例の対比から、ルリコナゾールを1%含み、所定の基材・担体を含む系において、何も添加しない場合に比べて溶解度が向上したかどうか、すなわち、溶解度の向上は、絶対的な値の達成を意味するのではなく、相対的な向上を意図していると考えられる。 そして、特許異議申立人も認めているとおり、水以外にエタノールを62.3?69.265質量%(実施例2?7)又は50質量%(実施例11?16、19?23)を含む医薬組成物において、請求項2の(b)に列挙される成分を所定量添加することで、溶解性の向上が確認されており、エタノールの含有量が50質量%未満の医薬組成物であっても、何も添加しない場合に比べて当該成分を所定量添加することで溶解度の向上が図られることは、当業者であれば当然認識しうるものである。 ウ 本件特許発明3について (ア)特許異議申立人の主張 (主張1)本件特許発明3に相当する、実施例24?28(表8)の医薬組成物については、ルリコナゾールの溶解度向上倍率が100%超であったことが示されている(表9)が、イソプロピルメチルフェノールの含有量が0.3質量%超の場合、dl-カンフルの含有量が0.4質量%超の場合の医薬組成物について、ルリコナゾールの溶解性を向上させることができることは示されていない。 (主張2)また、本件特許の発明の詳細な説明には、「表9に示したように、本発明の組成物はクリーム剤の基剤として汎用されている中鎖脂肪酸トリグリセリド中でルリコナゾールの溶解度を向上することが確認された(実施例24?28)。本結果より、本発明の組成物はクリーム剤においてルリコナゾールの溶解度を向上すると考えられる。 本発明の組成物は、ルリコナゾールの溶解度を向上することが分かった(実施例11?28)。」(【0046】)との記載があるが、精製水を78質量%程度含有するクリーム剤(表10)においても、ルリコナゾールの溶解度を向上できることは示されていない。 (イ)判断 a 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、以下の事項が把握できる。 (a)上記記載事項(本1)及び(本2)によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、ルリコナゾールの溶解性を向上させ、かつ光による着色を抑制する医薬液体組成物を提供することである。 (b)上記記載事項(本4)によれば、本発明に使用するルリコナゾールの含有量は、本医薬液体組成物全体に対して、0.1?10質量%が好ましいことが記載されている。 (c)イソプロピルメチルフェノールの含有量は特に限定されないが、ルリコナゾール1質量%に対して0.3?3質量%が好ましい。0.3質量%未満であるとルリコナゾールの溶解性が充分でないと考えられるからである。本発明の医薬組成物中に含まれるイソプロピルメチルフェノールの含有量は、皮膚への刺激性の観点から、上限値は3質量%である(【0012】)。 (d)塩化デカリニウムの含有量は特に限定されないが、ルリコナゾール1質量%に対して0.05?0.5質量%が好ましい。0.05質量%未満であるとルリコナゾールの溶解性が充分でないと考えられるからである。本発明の医薬組成物中に含まれる塩化デカリニウムの含有量は、皮膚への刺激性の観点から、上限値は0.5質量%である(【0013】)。 (e)塩化ベンザルコニウムの含有量は特に限定されないが、ルリコナゾール1質量%に対して0.01?0.05質量%が好ましいが、特に0.05質量%が好ましい。0.01質量%未満であるとルリコナゾールの溶解性が充分でないと考えられるからである。本発明の医薬組成物中に含まれる塩化ベンザルコニウムの含有量は、皮膚への刺激性の観点から、上限値は0.05質量%である(【0014】)。 (f)グリチルレチン酸の含有量は特に限定されないが、ルリコナゾール1質量%に対して0.1?1質量%が好ましい。0.1質量%未満であるとルリコナゾールの溶解性が充分でないと考えられるからである。本発明の医薬組成物中に含まれるグリチルレチン酸の含有量は、皮膚への刺激性の観点から、上限値は1質量%である(【0015】)。 (g)l-メントールの含有量は特に限定されないが、ルリコナゾール1質量%に対して0.3?3質量%が好ましい。0.3質量%未満であるとルリコナゾールの溶解性が充分でないと考えられるからである。本発明の医薬組成物中に含まれるl-メントールの含有量は、皮膚への刺激性の観点から、上限値は3質量%である(【0016】)。 (h)dl-カンフルの含有量は特に限定されないが、ルリコナゾール1質量%に対して0.4?4質量%が好ましい。0.4質量%未満であるとルリコナゾールの溶解性が充分でないと考えられるからである。本発明の医薬組成物中に含まれるdl-カンフルの含有量は、皮膚への刺激性の観点から、上限値は4質量%である(【0017】)。 さらに、上記記載事項(本6)における実施例・比較例の結果からは、以下のことも示されているといえる。 (i)基材又は担体として、水及びエタノールを用いた系におけるルリコナゾールの溶解性について ルリコナゾールを1質量%含む系において、l-メントールを0.3又は3質量%(実施例7、15、16)、グリチルレチン酸を0.1又は1質量%(実施例5、19、20)、イソプロピルメチルフェノールを0.3又は3質量%、塩化ベンザルコニウムを0.05質量%(実施例4、23)又はdl-カンフルを0.4又は4質量%(実施例6、13、14)添加したものは、これらを添加しないもの(比較例1、3?6)に比して、溶解度の向上がみられたこと (j)基材又は担体として、中鎖脂肪酸トリグリセリドを用いた系におけるルリコナゾールの溶解性について ルリコナゾールを1質量%を含む系において、l-メントールを2質量%(実施例26)、グリチルレチン酸を1質量%(実施例27)、イソプロピルメチルフェノールを0.3質量%(実施例24)、塩化ベンザルコニウムを0.05質量%(実施例28)又はdl-カンフルを0.4質量%(実施例25)添加したものは、これらを添加しないもの(比較例7)に比して、溶解度の向上がみられたこと b 特許異議申立人の主張2について 事案にかんがみ、特許異議申立人の主張2から、検討する。 上記aにおいて述べたとおり、溶解性向上に資する成分の添加については、上記a(c)?(h)の一般的説示に加え、 ・基材又は担体として水及びエタノールを用いた場合(上記a(i)) ・基材又は担体として中鎖脂肪酸トリグリセリドを用いた場合(上記a(j)) のいずれの場合も、所定の成分を所定量添加することで、これらを添加しないものに比して、溶解性の向上がみられたことが確認されている。 そうしてみると、水及び中鎖脂肪酸トリグリセリドのような油性成分を含むクリーム剤においても、所定成分を所定量添加することで、これらを添加しないものに比して、ルリコナゾールの溶解性の向上が図られることは、当業者であれば認識できることである。 c 特許異議申立人の主張1について 請求項3における成分(b)として、イソプロピルメチルフェノール又はdl-カンフルを添加する場合に関連して、基材又は担体として中鎖脂肪酸トリグリセリドを用いた系の実施例では、これら二つの成分の添加量はそれぞれ0.3質量及び0.4質量%である(上記a(j))が、基材又は担体として水及びエタノールを用いた系の実施例では、これら二つの成分の添加量は0.3又は3質量%及び0.4又は4質量%である(上記a(i))。 上記bで述べたと同様、水及び中鎖脂肪酸トリグリセリドのような油性成分を含むクリーム剤において、基材又は担体として水及びエタノールを用いた系の実施例の結果も参酌すると、ルリコナゾールの溶解性の向上が図られることは、当業者であれば認識できることである。 エ 小括 以上のとおり、本件訂正後の請求項1?4についてのサポート要件違反の特許異議申立人の主張は、いずれも理由がない。 第6 まとめ 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正後の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正後の請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 30?60質量%の水を含み、(a)ルリコナゾール1質量%、並びに(b)サリチル酸を含有することを特徴とする医薬組成物であって、(b)サリチル酸の含有量が、(a)ルリコナゾール1質量%に対して、0.1?10質量%である、医薬組成物。 【請求項2】 (a)ルリコナゾール1質量%、(b)l-メントール、グリチルレチン酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、塩化デカリニウム、及びdl-カンフルからなる群から選択される少なくとも1種の成分、及び(c)水を含む液剤又はローション剤であって、 (b)l-メントールの含有量が0.3?3質量%、グリチルレチン酸の含有量が1質量%、イソプロピルメチルフェノールの含有量が3質量%、塩化ベンザルコニウムの含有量が0.05質量%、塩化デカリニウムの含有量が0.05?0.5質量%、dl-カンフルの含有量が4質量%である、液剤又はローション剤。 【請求項3】 ルリコナゾール1質量%、及び(b)l-メントール、グリチルレチン酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム、及びdl-カンフルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含むクリーム剤であって、 (b)l-メントールの含有量が3質量%、グリチルレチン酸の含有量が1質量%、イソプロピルメチルフェノールの含有量が0.3?3質量%、塩化ベンザルコニウムの含有量が0.05質量%、dl-カンフルの含有量が0.4?4質量%である、クリーム剤。 【請求項4】 30?60質量%の水と(a)ルリコナゾール1質量%と(b)サリチル酸とを混合することを特徴とする、ルリコナゾールの溶解性向上方法であって、(b)サリチル酸の混合量が、(a)ルリコナゾール1質量%に対して、0.1?10質量%である、ルリコナゾールの溶解性向上方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-06-04 |
出願番号 | 特願2014-61251(P2014-61251) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K) P 1 651・ 113- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岩下 直人、深谷 良範 |
特許庁審判長 |
井上 典之 |
特許庁審判官 |
滝口 尚良 渕野 留香 |
登録日 | 2019-04-05 |
登録番号 | 特許第6503626号(P6503626) |
権利者 | 大正製薬株式会社 |
発明の名称 | 医薬組成物 |
代理人 | 特許業務法人津国 |
代理人 | 特許業務法人 津国 |