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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A63F
管理番号 1364956
異議申立番号 異議2020-700194  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-23 
確定日 2020-08-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6600379号発明「スロットマシン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6600379号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6600379号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成25年5月10日に出願した特願2013-100264号の一部を平成30年4月17日に新たな特許出願(特願2018-79109号)として出願され、令和1年10月11日にその特許権の設定登録がされ、令和1年10月30日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年3月23日に特許異議申立人日本電動式遊技機特許株式会社は、請求項1について特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
本件特許の請求項1の特許に係る発明(以下「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(A?Sは、特許異議申立人の主張を考慮して、当審で付与した。)。
「【請求項1】
A 各々が識別可能な複数種類の識別情報を変動表示可能な可変表示部を備え、
B 前記可変表示部を変動表示した後、前記可変表示部の変動表示を停止することで表示結果を導出し、該表示結果に応じて入賞が発生可能なスロットマシンにおいて、
C 表示結果が導出される前に、特別遊技状態への移行を伴う特別入賞と、遊技用価値の付与を伴う付与入賞と、再遊技の付与を伴う再遊技入賞と、を含む複数種類の入賞について発生を許容するか否かを決定する事前決定手段と、
D 遊技者が表示結果を導出させるために操作する導出操作手段と、
E 表示結果を導出する制御を行う導出制御手段と、
F 前記特別入賞が発生したときに前記特別遊技状態に制御する特別遊技状態制御手段と、
G 前記特別遊技状態と異なる所定遊技状態に制御する所定遊技状態制御手段と、
H 前記所定遊技状態において前記特別入賞の発生を許容する旨が決定され、該決定により許容された特別入賞を発生させることができなかったときに、当該決定を次ゲーム以降に持ち越す持越手段と、
I 前記持越手段により前記特別入賞の発生を許容する旨の決定が持ち越されているときにおいて、持越遊技状態に制御する持越遊技状態制御手段と、
J 遊技者にとって有利な権利を付与する権利付与手段と、
K 前記導出操作手段の操作態様を特定可能に報知する報知手段と、
L 設定操作手段の操作に基づいて、遊技者にとっての有利度が異なる複数種類の設定値のうちから選択された設定値を設定する設定値設定手段と、
を備え、
M 前記導出制御手段は、
前記持越遊技状態において、事前決定手段の決定結果が前記再遊技入賞の発生を許容する決定結果となったときに、前記特別入賞が発生する特別表示結果よりも前記再遊技入賞が発生する再遊技表示結果を優先して導出する制御を行い、
N 前記持越遊技状態において前記事前決定手段の決定結果が所定付与入賞の発生を許容する所定結果となったときに、前記所定結果に対応する操作態様で前記導出操作手段が操作されることで前記特別表示結果を導出せず前記所定付与入賞が発生する所定付与表示結果を導出する制御を行い、前記所定結果に対応する操作態様以外の操作態様で前記導出操作手段が操作されることで前記特別表示結果及び前記所定付与表示結果以外の表示結果を導出する制御を行い、
O 前記報知手段は、前記権利付与手段により権利が付与され、前記事前決定手段の決定結果が前記所定結果となったときに、前記所定結果に対応する操作態様を特定可能に報知し、
P 前記スロットマシンは、
前記持越遊技状態において、1ゲームあたりに付与される遊技用価値の数の期待値は、前記報知手段により前記所定結果に対応する操作態様が特定可能に報知されているときには該操作態様により前記導出操作手段が操作されることにより前記持越遊技状態で遊技を開始するのに要する遊技用価値の数よりも大きくなり、
Q 前記持越遊技状態において遊技が行われる場合に、予め定められた設計値に基づく前記遊技用価値の増減率が担保されるように設計されており、
R 前記持越遊技状態において前記設定値設定手段により設定値が設定されても前記持越手段により前記特別入賞の発生を許容する旨の決定が持ち越されていること及び前記持越遊技状態に制御されていることを維持する
S ことを特徴とするスロットマシン。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として甲第1?5号証を提出し、本件発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。

<証拠方法>
甲第1号証:特許第5120760号公報
甲第2号証:特開2012-95857号公報
甲第3号証:特開2008-61737号公報
甲第4号証:特開2008-188348号公報
甲第5号証:特開2006-204461号公報

4 各甲号証の記載
(1)甲第1号証
特許異議申立人により提出された甲第1号証(特許第5120760号公報)には、以下の事項が記載されている。

(1-a)「【0001】
本発明は、メダルやコインを遊技媒体に使用するパチスロや、遊技媒体としてパチンコ球を使用するパチロット及び実体としての遊技媒体を使用せずに電子データやトークンと称される代用硬貨(遊技価値)によって遊技を行うスロットマシン(回胴式遊技機)などの遊技機等に関する。」

(1-b)「【0020】
請求項1に係る本発明の遊技機は、上記の目的を達成するために、複数個の図柄が描かれた図柄列を複数列変動させる変動表示ゲームで役の抽選を行って、複数の図柄列に対応して設けられた停止スイッチの操作により変動する図柄列を個々に停止させて、表示窓に複数の図柄を表示すると共に、リプレイ役の当選確率が低い通常リプレイ状態で、役の抽選によりボーナス役が内部当選すると、遊技状態をリプレイ役の当選確率が通常リプレイ状態よりも高いRT状態へ移行する遊技機において、ボーナス役が内部当選しているRT状態の変動表示ゲームで、ターゲット小役及びボーナス引き込み小役を含む複合小役を抽選により内部当選させる抽選手段と、内部当選した複合小役中のターゲット小役を入賞させる為の停止スイッチの操作順序を報知する報知手段と、変動表示ゲームにおける抽選手段の抽選結果及び停止スイッチの操作に応じて、複数の図柄列を所定位置に停止させる制御を行う制御手段とを具備し、前記ボーナス役は、ボーナス役が内部当選していない通常リプレイ状態の変動表示ゲームで、単独で内部当選すると、停止スイッチの操作順序やタイミングに拘わらず、何れか一つの有効ライン上に所定のボーナス役図柄が停止して必ず入賞するようになっており、前記制御手段は、ボーナス役が内部当選しているRT状態の変動表示ゲームで、抽選手段が複合小役を内部当選させた場合、停止スイッチが内部当選した複合小役に対応する所定順序で操作されたとき、停止スイッチの第一停止操作で、ボーナス役図柄及びボーナス引き込み小役図柄を兼ねる両役図柄を有効ライン上に停止させることなく、ターゲット小役図柄を有効ライン上に停止させ、その後の停止操作で前記複合小役中のターゲット小役を入賞させる一方、停止スイッチが前記所定順序と異なる順序で操作されたとき、停止スイッチの第一停止操作で、ターゲット小役図柄を有効ライン上に停止させることなく、前記両役図柄を有効ライン上に停止させ、その後の停止操作でボーナス引き込み小役又はボーナス役の何れかを入賞させ、前記報知手段は、AT状態において、停止スイッチの操作順序として前記複合小役中のターゲット小役を入賞させる為の前記所定順序を報知することを特徴とする。」

(1-c)「【0041】
10は、停止ボタン部(同義の名称として、「停止スイッチ」ともいう。)であり、回転しているドラム部2を停止させるときに使用する。この停止ボタン部10は、左停止ボタン10a、中停止ボタン10b及び右停止ボタン10cの3つのボタン群(なお、4つの場合も稀にある。)で構成され、ドラム部2が回転中に停止ボタン部10を操作することにより、それぞれのボタンに対応する左ドラム2a、中ドラム2b及び右ドラム2cを停止させることができる。なお、左ドラム2a、中ドラム2b及び右ドラム2cの3つのドラムの回転が所定速度(約80回転/分)に達して、停止ボタン部が操作可能になった時には、停止ボタン10a、停止ボタン10b及び停止ボタン10cに内蔵されているLEDが点灯するようになっている。また、左停止ボタン10a、中停止ボタン10b及び右停止ボタン10cを方向入力手段として用いる場合、それぞれ順に左方向、上方向、右方向入力に対応させることができる。」

(1-d)「【0073】
この主制御部100は、遊技者のスタートレバー9の操作に伴って、内蔵する乱数発生部103で継続して発生させている乱数(0?65535の値)の1つを抽出することにより内部抽選を実行し、複数個(通常は、20個又は21個)の図柄が描かれた3列(複数列)の図柄列であるドラム部2(左ドラム2a、中ドラム2b及び右ドラム2c)を回転させることにより図柄変動表示ゲームを開始する。例えば、この乱数抽選でベル、チェリー、スイカ又はプラム等の配当のある小役の何れかが内部当選し、遊技者が停止ボタン部10の停止操作を行うと、主制御部100は操作順に従ってドラム部2を所定位置に順次停止させる。その結果、窓部3の5つの有効ライン上のいずれかに、所定の図柄が並んで表示されれば入賞となる。但し、有効ラインは5つに限らず、メダルの投入枚数に応じて変わったり、設計仕様や遊技状態に応じて適宜増減される。」

(1-e)「【0080】
また、副制御部160は、選択ゲームを実行するか否かを確認し、遊技者がスペシャルボタンを連打すると、連打した回数に応じたパルス信号を受けとり、そのパルス数が所定数の8回以上に達すると、選択ゲーム抽選を行なって当たりとする数字(例えば、「0」又は「1」)を決定する。そして、選択ゲームを発動させると、表示演出装置11に「○又は×」や「左又は右」などを左停止ボタン10aと右停止ボタン10cにそれぞれ対応させて表示して、遊技者に選択操作を促す。例えば、選択ゲーム抽選結果で「0」が当選している場合に、遊技者が左停止ボタン10aを操作して対応する「○」や「左」を選択すると選択ゲームで当選となる。そして、副制御部160は、当選と判断すると、その後の変動表示ゲームにおいて、投入枚数や差枚数又は変動表示ゲームの回数に応じた数量の遊技媒体が増加するまで又はATストック抽選(1?127個)で当選した回数分だけ、AT機能(通知手段により補助情報を通知する機能)を発動させる。
・・・
【0083】
特に、副制御部160は、後述するように、ATストックが存在し、押し順小役(第一小役及び複数個の押し順規定小役中の複数一部)が内部当選した場合、当選中の第一小役図柄(例えば、ベル図柄)を有効ライン上に揃えるためのアシスト情報(補助情報)を表示演出装置11に表示する。これにより遊技者は、第一小役を容易に入賞させることが可能になる。」

(1-f)「【0089】
また、遊技者が所定数のメダルを投入後、スタートレバー9を操作すると、スタートSWセンサ110はスタート信号を出力し、主制御部100はこのスタート信号の受信を契機として乱数抽選等を行って変動表示ゲームを開始するとともに、ドラム部2に駆動パルス信号を出力するようになっている。なお、この1回のスタートレバー9の操作によって行われる遊技が1ゲームの変動表示ゲームとなっており、遊技者はボーナスゲーム(ビッグボーナス又はレギュラーボーナス)を獲得してメダルを増やすことを目的に遊技を繰り返す。なお、ボーナスゲームとは、例えば第一種特別役物(RB)、第一種特別役物連続作動又は第二種特別役物連続作動を意味する。」

(1-g)「【0092】
150は、段階設定部であり、後述する出玉率の段階設定操作を行うことにより、ホール側は、イベントや新装オープンでのメダル大量放出や収益改善のための回収状況に応じて、段階値1?6(又は、飛び番号の1,3,5,7等)の中から所望の設定値を選択することができる。」

(1-h)「【0106】
主制御部100は、変動表示ゲームのスタート信号を受信し、抽選結果が当選となって役が内部当選した場合には、有効ライン上にその役の図柄を可能な限り引き込む為の引込制御を行う。」

(1-i)「【0109】
図9の例では、リーチ状態において、右ドラム2cの図柄「7」が丁度4コマだけ上にあり、引込制御の対象となって有効ライン上に並ぶことになる。但し、この引込制御は4コマに限定されるものではなく、設計仕様又は法規制に適応させるように、引き込みコマ数をソフト制御で増減させることが可能である。なお、副制御部160は、一般遊技で乱数抽選結果が当選である場合、引込制御により所定の組み合わせで図柄が表示されるように、回転ドラムの回転を停止させる為の補助情報(操作順序や操作タイミングなどのアシスト情報:AT)を通知するのである。」

(1-j)「【0111】
主制御部100は、変動表示ゲームのスタート信号を受信し、抽選結果がハズレとなって役が不成立の場合(全ての役が内部当選していない場合)には、有効ライン上に入賞又は作動役(ボーナス、小役、リプレイ)の図柄を揃えないための回避制御を行う。」

(1-k)「【0146】
一方、図20(B)は、高確率再遊技状態(RT状態)で用いる抽選テーブルであり、リプレイタイムではリプレイの当選範囲がαだけ広がるのに対して、ハズレとなる範囲がαだけ狭くなることにより、リプレイの当選確率を「1/2」程度とする。これにより、3枚配当に相当するリプレイ当選の確率が大幅に上がる一方、ハズレとなる確率が下がるので、リプレイタイムにおいては結果的に遊技メダルの払い出し期待値が大幅に向上又は増大することになる。また、主制御部100が、このα値を増減させることにより、リプレイタイムの期待値を所望のものに設定できる。
【0147】
抽選テーブルの詳細図は省略するが、出玉率の段階設定値1?6及び投入メダル数(規定数)に対応した6つの抽選テーブル1、抽選テーブル2…抽選テーブル6があり、主制御部は段階設定部150により設定された段階設定値及び投入メダル数に応じて抽選テーブルを選択し、変動表示ゲームにおいてボーナスゲームや複数の小役の内部抽選を実行する。なお、内部抽選でボーナスゲームが当選する期待値は、一般に抽選テーブル1<抽選テーブル2<…<抽選テーブル6となっているので、遊技者は高設定台を追い求めるのである。但し、3枚専用機であれば、投入メダル数1枚の抽選テーブルは不要である。」

(1-l)「【0181】
主制御部100は、ドラムが3個すべて停止したときに、遊技メダルの投入枚数に応じた有効ライン上(図24参照)で入賞又は作動に係る図柄の組合せ表示判定を行う。この場合、投入枚数(3枚又は2枚)に拘わらず、有効ラインは同じである。
【0182】
(1)ボーナス役(RB:第1種特別役物):左ドラム2aに(五角形(赤)、五角形(青)、五角形(白))の何れか、中ドラム2bに(五角形(赤)、五角形(青)、五角形(白))の何れか、右ドラム2cに((五角形(赤)、五角形(青)、五角形(白))の何れかが有効ライン上に停止した場合の役名であり、獲得枚数は0枚でその後にレギュラーボーナスゲームが付与される。ボーナス役は、組合せ図柄が27種類(3×3×3)存在し、単独で内部当選すると、停止ボタン部10の停止操作順序やタイミングに拘わらず、何れか一つの有効ライン上に上記所定のボーナス役図柄が停止して必ず入賞するように図柄が配置されている。このレギュラーボーナスゲームは、最大8回で8回入賞すると終了するようになっているが、投入枚数が2枚で常に2枚小役が入賞するので、メダルの増減は一切ない。一方、レギュラーボーナスゲームの増減枚数の期待値を0枚として、当選した小役を取りこぼす様に構成すれば、通常時と同様にメダルが減るので、遊技者にとって不利な状態とすることができる。初期状態(RT0状態:リプレイ確率は約1/7.3)において、ボーナス役(RB)が内部当選(条件装置作動)すると、次のゲームからリプレイの当選確率が変動して高確率再遊技状態(RT1状態:リプレイ確率約1/1.8)となる。このボーナス役の作動によるレギュラーボーナスゲームが終了(作動終了)すると、リプレイの当選確率が変動して初期状態(RT0状態)に戻る。つまり、遊技者はRT0状態、RT1状態、レギュラーボーナスゲーム状態の何れかの遊技状態で変動表示ゲームを行うことになる。なお、この初期状態が、遊技における通常時の一般遊技となる(図26参照)。
【0183】
(2)赤7小役(FR1:第1ターゲット小役):左ドラム2aに赤7図柄、中ドラム2bにベル図柄、右ドラム2cにベル図柄が有効ライン上に揃って停止した場合の役名であり、獲得枚数(払出枚数)は15枚となる。抽選で赤7小役が内部当選すると、FR1(フルーツ1)の条件装置1個が作動する。FR1は、組合せ図柄が1種類で、単独で内部当選したと仮定すると、停止ボタン部10の停止操作順序やタイミングに拘わらず、何れか一つの有効ライン上に上記所定の赤7小役図柄が停止して必ず入賞するように図柄が配置されている。なお、後述するように、赤7小役は、RT0状態又はRT1状態において、押し順制御用の1枚小役左1?3、1枚小役中1?3、1枚小役右1?3の何れかと同時当選するようになっている。なお、第1ターゲット小役とは、入賞させるべき小役であり、遊技者にとって有利となる。
【0184】
(3)ベル小役(FR2:第2ターゲット小役):ベル図柄が有効ライン上に揃った場合の役名であり、獲得枚数は2枚となる。抽選でベル小役が内部当選すると、FR2(フルーツ2)の条件装置1個が作動する。FR2は、組合せ図柄が1種類で、単独で内部当選したと仮定すると、停止ボタン部10の停止操作順序やタイミングに拘わらず、何れか一つの有効ライン上にベル図柄が停止して必ず入賞するように図柄が配置されている。なお、後述するように、ベル小役は、RT0状態又はRT1状態において、押し順制御用の1枚小役左1?3、1枚小役中1?3、1枚小役右1?3の何れかと同時当選するようになっている。なお、第2ターゲット小役とは、入賞させるべき小役であり、遊技者にとって有利となる。
【0185】
押し順制御用の1枚小役とは、上述したボーナス役を引き込む為の小役(ボーナス引き込み小役)であり、本実施例では9種類存在し、停止ボタン部の押し順が正解すると同時当選している赤7小役(第1ターゲット小役)又はベル小役(第2ターゲット小役)が入賞する一方、不正解で1枚小役又は同時当選しているボーナス役が入賞する。なお、不正解の場合、ボーナス役が入賞する確率は2/3である。
【0186】
(4)1枚小役左1(FR3):左ドラム2aに四角形(茶)図柄、中ドラム2bに(五角形(赤)、五角形(青)、五角形(白))の何れかの図柄、右ドラム2cに(五角形(赤)、五角形(青)、五角形(白))の何れかの図柄(図柄組合せは9種類)が有効ライン上に揃って停止した場合の役名であり、獲得枚数は1枚となる。抽選で1枚小役左1が内部当選すると、FR3(フルーツ3)の条件装置1個が作動する。FR3は、組合せ図柄が9種類で、単独で内部当選したと仮定すると、四角形(茶)図柄を引き込めるタイミングで左停止ボタン10aを操作すると、他の停止ボタン部10の停止操作順序やタイミングに拘わらず、何れか一つの有効ライン上に所定の1枚小役左1図柄が停止して入賞するように図柄が配置されている。逆に、四角形(茶)図柄を引き込めないタイミングで左停止ボタン10aを操作すると、ハズレとなる。なお、1枚小役左1に対応付けて、第1停止操作が左停止ボタン10aを意味する押し順データとして1が記憶されている(2ビット2進数で01)。但し、押し順判別プログラムにより、1枚小役左1であれば、第1停止操作が左停止ボタン10aであることを導くようにロジックを組むことも可能であるが、処理時間がかかったり、必要とするデータ容量の関係で、一般的には押し順データを記憶するようにしている。
【0187】
(5)1枚小役左2(FR4):1枚小役左1とは左ドラム2aの図柄が四角形(青)図柄に変わっただけであり、他は同様なので説明を省略する。
【0188】
(6)1枚小役左3(FR5):1枚小役左1とは左ドラム2aの図柄が四角形(白)図柄に変わっただけであり、他は同様なので説明を省略する。
【0189】
(7)1枚小役中1(FR6):左ドラム2aに(五角形(赤)、五角形(青)、五角形(白))の何れかの図柄、中ドラム2bに四角形(茶)図柄、右ドラム2cに(五角形(赤)、五角形(青)、五角形(白))の何れかの図柄(図柄組合せは9種類)が有効ライン上に揃って停止した場合の役名であり、獲得枚数は1枚となる。抽選で1枚小役中1が内部当選すると、FR6(フルーツ6)の条件装置1個が作動する。FR6は、組合せ図柄が9種類で、単独で内部当選したと仮定すると、四角形(茶)図柄を引き込めるタイミングで中停止ボタン10bを操作すると、他の停止ボタン部10の停止操作順序やタイミングに拘わらず、何れか一つの有効ライン上に所定の1枚小役中1図柄が停止して入賞するように図柄が配置されている。逆に、四角形(茶)図柄を引き込めないタイミングで中停止ボタン10bを操作すると、ハズレとなる。なお、上述した通り、1枚小役中1に対応付けて、第1停止操作が中停止ボタン10bを意味する押し順データとして2が記憶されている(2ビット2進数で10)。
【0190】
(8)1枚小役中2(FR7):1枚小役中1とは中ドラム2bの図柄が四角形(青)図柄に変わっただけであり、他は同様なので説明を省略する。
【0191】
(9)1枚小役中3(FR8):1枚小役中1とは中ドラム2bの図柄が四角形(白)図柄に変わっただけであり、他は同様なので説明を省略する。
【0192】
(10)1枚小役右1(FR9):左ドラム2aに(五角形(赤)、五角形(青)、五角形(白))の何れかの図柄、中ドラム2bに(五角形(赤)、五角形(青)、五角形(白))の何れかの図柄、右ドラム2cに四角形(茶)図柄(図柄組合せは9種類)が有効ライン上に揃って停止した場合の役名であり、獲得枚数は1枚となる。抽選で1枚小役右1が内部当選すると、FR9(フルーツ9)の条件装置1個が作動する。FR9は、組合せ図柄が9種類で、単独で内部当選したと仮定すると、四角形(茶)図柄を引き込めるタイミングで右停止ボタン10cを操作すると、他の停止ボタン部10の停止操作順序やタイミングに拘わらず、何れか一つの有効ライン上に所定の1枚小役中1図柄が停止して入賞するように図柄が配置されている。逆に、四角形(茶)図柄を引き込めないタイミングで右停止ボタン10cを操作すると、ハズレとなる。なお、上述した通り、1枚小役右1に対応付けて、第1停止操作が右停止ボタン10cを意味する押し順データとして3が記憶されている(2ビット2進数で11)。
【0193】
(11)1枚小役右2(FR10):1枚小役右1とは右ドラム2cの図柄が四角形(青)図柄に変わっただけであり、他は同様なので説明を省略する。
【0194】
(12)1枚小役右3(FR11):1枚小役右1とは右ドラム2cの図柄が四角形(白)図柄に変わっただけであり、他は同様なので説明を省略する。
【0195】
(13)リプレイ(再遊技):3つのリプレイ図柄が有効ライン上に揃った場合の役名であり、これに対してメダルは獲得されず、フラグエリアにRPフラグを立て、これが単独当選した場合、又は他の小役やボーナス役と同時当選した場合にも、再遊技が必ず作動する。リプレイは組合せ図柄が1種類で、遊技者のスタートレバー9の操作により、次回のゲームはメダルを投入することなく行うことができる。なお、リプレイが作動しても、RT(再遊技の当選確率)の変動契機とはならない。」

(1-m)「【0200】
一方、一般遊技でRBが内部当選しても、RBの入賞を回避すると、ボーナス役が内部当選(RB内部中)しているRT状態となる(図26(A)斜線部参照)。このRT状態は、後述するようにハズレ(不当選)がないので、遊技者は有利な遊技状態で変動表示ゲームを行うことができる。
・・・
【0202】
RB内部中(図26(C)参照)において、RBの抽選は行わないので当選確率は0である。なお、RB内部中とは、RBフラグが立ち、既にRBが当っている状態である。このRB内部中は、リプレイの当選確率が変動した高確率再遊技状態(RT状態)となる。図26(B)に示したRBの置数12000及び不当選(ハズレ)であった置数15558の抽選領域が、新たにリプレイの当選領域となる。従って、元々のリプレイの置数8978に、置数12000及び置数15558を加えた36536が置数となり、リプレイの当選確率は36536/65536(約1/1.8)で、且つ不当選が0となる。すなわち、ハズレが無いRB内部中において、AT機能を発動させて、赤7小役やベル小役を入賞させる為の押し順を報知することにより、遊技者に効率よくメダルを獲得させるのである。
【0203】
RB内部中の期待値を計算すると、赤7小役が当選する確率は23000/65536であり、増加枚数は12枚(払出し15枚-投入3枚)であるから、4.2枚/ゲームとなる。一方、ベル小役が当選する確率は6000/65536であり、増加枚数は-1枚(払出し2枚-投入3枚)であるから、-0.09枚/ゲームとなる。リプレイが当選してもメダルを投入することなく次遊技ができるので、期待値に変動はない。よって、RB内部中にATが発動して、赤7小役及びベル小役を入賞させれば、平均して約4.1枚/ゲームだけ増加することになり、5号機における最高純増枚数を達成することができる。」

(1-n)「【0255】
主制御部100は、図22のステップS170のゲームメイン処理において、遊技者のスタートレバー9の操作(スタート信号の受信タイミング)に伴って乱数抽選(役の抽選又は図柄抽選)を実行し、このサブルーチンを呼び出した後、ドラム部2を回転させることにより図柄変動表示ゲームを開始する。」

(1-o)「【0265】
副制御部160は、遊技状態に応じて、表示演出装置11に表示する演出映像を切り替えて表示する。図45(A)は昼ステージ画面であり、ATの当選確率が低い状態で用いられる。図45(B)は夜ステージ画面であり、主にATの当選確率が高い状態で用いられるので、この画面が表示されると、遊技者はAT放出の期待感で気持ちが高揚する。副制御部160は、レア小役(例えば、中段チェリー、強スイカ、強ベルなど)が当選すると、その後にAT抽選(ATボーナスの放出抽選)及び高確抽選が行われる。この高確抽選で当選すると、昼の通常画面から夜の画面に切り替える一方、AT高確中にリプレイが当選するたびに所定の確率で転落抽選が行われるので、一般遊技中は昼の通常画面と夜の画面が所定の頻度で交互に表示される。一般に、これらの表示画面は、遊技者に正しいモード示唆を行う為に、低確率状態や高確率状態、RB内部当選中などの滞在モードに応じて、時刻や天候等が変更されるが、ガセ演出(フェイク演出)も適宜行うことによって遊技者の期待感を更に煽ることができる。また、各種当選役に応じた通常の告知演出が実行される。
・・・
【0268】
上述したAT抽選は、ナビ抽選(「ナビゲーション抽選」の省略名称)とも呼ばれており、AT機能が発動すると、押し順小役(ターゲット小役)を入賞させる為に、副制御部160は停止ボタン部10の操作順序を告知する。また、AT抽選で当選すると、AT機能を即座に発動するのではなく、ATストック(貯蔵又は蓄え)として加算して記憶しておき、所望のタイミングで一気に放出することにより、大量のメダルを遊技者に獲得させることが可能である。例えば、当選確率が非常に低い赤7揃いの特殊リプレイ(無効ラインである上段横ライン、中段横ライン又は下段横ラインに赤7図柄が揃ったように見える赤7リプレイ役)が当選した後のRT状態(高確率再遊技状態)で、50ゲーム1セットのATストックを全て放出し、更にART中にAT抽選を行えば、RTにより持ち玉を減らすことなく、延々にARTが継続するので大きな出玉の塊を作り出すことができる。」

(1-p)「【0281】
ARTが開始すると、図26(C)に示した(1)「RB+ベル小役+1枚小役」又は(2)「RB+赤7小役+1枚小役」が内部当選し、副制御部160はベル小役又は赤7小役を入賞させる操作順序を報知するので、遊技者はRT状態を保ったまま遊技を継続して大量のメダルを獲得することができる。なお、(3)「RB+リプレイ」が内部当選すると、必ず複数種類あるリプレイの何れか一つが入賞するので、次ゲームはメダルを投入する必要はない。入賞するリプレイ役を押し順に応じて変化させるようにすることも可能であり、例えば演出用の赤7リプレイ(赤7が真横に揃ったように見えるリプレイ)を入賞させる場合、転落リプレイを回避させる場合など、副制御部160は逆押しや回避手順などの押し順を報知するようになっている。

(1-q)【図26】(【図26】遊技状態遷移図、及び各種役の抽選確率を示す概念図である。)

以上の記載および、図面の図示内容を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「a1 回転させることにより図柄変動ゲームを開始する、複数個の図柄が描かれた3列の図柄列であるドラム部2を備え(【0073】)、
b1 ドラム部2を回転させることにより図柄変動表示ゲームを開始し、乱数抽選でベル、チェリー、スイカ又はプラム等の配当のある小役の何れかが内部当選し、遊技者が停止ボタン部10の停止操作を行うと、操作順に従ってドラム部2を所定位置に順次停止させ、窓部3の5つの有効ライン上のいずれかに、所定の図柄が並んで表示されれば入賞となる、スロットマシン(【0001】、【0073】)において、
ce1 遊技者のスタートレバー9の操作に伴って、内蔵する乱数発生部103で継続して発生させている乱数の1つを抽出する乱数抽選であり、役の抽選である内部抽選を実行し、複数個の図柄が描かれた3列の図柄列であるドラム部2を回転させることにより図柄変動表示ゲームを開始し(【0073】、【0255】)、遊技者が停止ボタン部10の停止操作を行うと、操作順に従ってドラム部2を所定位置に順次停止させ(【0073】)、抽選結果が当選となって役が内部当選した場合には、有効ライン上にその役の図柄を可能な限り引き込む為の引込制御を行い(【0106】)、
抽選結果がハズレとなって役が不成立の場合には、有効ライン上に入賞又は作動役の図柄を揃えないための回避制御を行い(【0111】)、遊技メダルの投入枚数に応じた有効ライン上で、その後に第一種特別役物(RB)を意味する(【0089】)レギュラーボーナスゲームが付与されるボーナス役と、獲得枚数が15枚の赤7小役と、獲得枚数が2枚のベル小役と、獲得枚数が1枚の1枚小役左1、1枚小役左2、1枚小役左3、1枚小役中1、1枚小役中2、1枚小役中3、1枚小役右1、1枚小役右2、1枚小役右3と、再遊技が必ず作動するリプレイとがある入賞又は作動に係る図柄の組合せの表示判定を行う(【0181】?【0184】、【0186】?【0195】)主制御部100を備え、
d1 回転しているドラム部2を停止させるときに使用する停止ボタン部であって、ドラム部2が回転中に停止ボタン部10を操作することにより、それぞれのボタンに対応する左ドラム2a、中ドラム2b及び右ドラム2cを停止させることができる停止ボタン部を備え(【0041】)、
f1 ボーナス役が内部当選すると、その後にレギュラーボーナスゲームが付与されるよう制御し(【0181】?【0182】)、
g1 ボーナス役の作動によるレギュラーボーナスゲームが終了すると、リプレイの当選確率が変動して遊技における通常時の一般遊技である初期状態(RT0状態)に戻るよう制御し(【0181】?【0182】)、
h1 一般遊技でRBが内部当選してもRBの入賞を回避すると、RBフラグが立ち、既にRBが当っている状態とし(【0200】)、
i1 RBフラグが立ち、既にRBが当っている場合、ボーナス役が内部当選(RB内部中)しているRT状態となるよう制御するものであり(【0200】、【0202】)、
j1 レア小役(例えば、中段チェリー、強スイカ、強ベルなど)が当選すると、その後にAT抽選及び高確抽選が行われ、AT抽選で当選すると、AT機能を即座に発動するのではなく、ATストックとして加算して記憶し、ATストックが存在し、例えば、ベル図柄等の第一小役図柄を含む押し順小役が内部当選した場合、遊技者が当選中の第一小役図柄を有効ライン上に揃えるためのアシスト情報を表示演出装置11に表示するよう制御する副制御部160を備え(【0083】、【0265】、【0268】)、
k1 表示演出装置11に表示されるアシスト情報は、引込制御により所定の組み合わせで図柄が表示されるように、回転ドラムの回転を停止させる為の操作順序や操作タイミングなどの情報であり(【0083】、【0109】)、
l1 内部抽選でボーナスゲームが当選する期待値が、一般に抽選テーブル1<抽選テーブル2<…<抽選テーブル6となっている抽選テーブルを設定することによる出玉率の段階設定操作を行うために、段階値1?6の中から選択された所望の設定値を(【0092】)設定する段階設定部150(【0147】)とを備え、
m1 主制御部100は、ARTが開始し、ボーナス役である第一種特別役物(RB)と、他の小役やボーナス役と同時当選した場合にも必ず再遊技が作動するリプレイが同時当選したものである、「RB+リプレイ」が内部当選すると、必ず複数種類あるリプレイの何れか一つが入賞する制御を行い(【0181】、【0195】、【0281】)、
n1 ボーナス役が内部当選しているRT状態の変動表示ゲームで、抽選手段が複合小役を内部当選させた場合、停止スイッチが内部当選した複合小役に対応する所定順序で操作されたとき、停止スイッチの第一停止操作で、ボーナス役図柄及びボーナス引き込み小役図柄を兼ねる両役図柄を有効ライン上に停止させることなく、ターゲット小役図柄を有効ライン上に停止させ、その後の停止操作で前記複合小役中のターゲット小役を入賞させる一方、停止スイッチが前記所定順序と異なる順序で操作されたとき、停止スイッチの第一停止操作で、ターゲット小役図柄を有効ライン上に停止させることなく、前記両役図柄を有効ライン上に停止させ、その後の停止操作でボーナス引き込み小役又はボーナス役の何れかを入賞させ、複合小役は、ターゲット小役及びボーナス引き込み小役を含み、抽選結果が当選となって役が内部当選した場合には、有効ライン上にその役の図柄を可能な限り引き込む為の引込制御を行い(【0020】)、
o1 副制御部160は、AT抽選で当選するとAT機能をATストックとして加算して記憶し、AT機能が発動すると、押し順小役(ターゲット小役)を入賞させる為に、停止ボタン部10の操作順序を告知するものであり(【0080】、【0268】)、
p1 前記スロットマシンは、RB内部中にATが発動して、複合小役中のターゲット小役である赤7小役及びベル小役を入賞させれば、平均して約4.1枚/ゲームだけメダルが増加するものであり(【0020】、【0183】、【0184】、【0202】、【0203】)、
q1 高確率再遊技状態(RT状態)で用いる抽選テーブルには、出玉率の段階設定値1?6及び投入メダル数(規定数)に対応した6つの抽選テーブル1、抽選テーブル2…抽選テーブル6があり、主制御部は段階設定部150により設定された段階設定値及び投入メダル数に応じて抽選テーブルを選択し、変動表示ゲームにおいてボーナスゲームや複数の小役の内部抽選を実行し、この時、抽選乱数の総数(65536)に対する、入賞毎の置数は、あらかじめ定められたものである(【0146】?【0147】、【図26】)、
s1 スロットマシン」

(2)甲第2号証
特許異議申立人により提出された甲第2号証(特開2012-95857号公報)には、以下の事項が記載されている。

(2-a)「【0001】
本発明は、各々が識別可能な複数種類の識別情報を変動表示可能な可変表示装置の表示結果に応じて所定の入賞が発生可能なスロットマシンに関する。」

(2-b)「【0210】
また、本実施例では、前述のように遊技状態フラグ、RTフラグ、RT残りゲーム数、当選フラグ、BB中のメダル払出総数は、RAM41cの領域のうち設定変更時に初期化されない重要ワークに割り当てられている。」

(2-c)「【0211】
このため、設定変更がされた場合には、設定値が新しく設定された設定値に更新され、新しい設定値に基づく確率にて内部抽選が行われることとなるが、遊技状態フラグの値、RTフラグの値及びRT残りゲーム数の値、当選フラグの値、BB中のメダル払出総数は、設定変更前のまま維持されるので、通常遊技状態において設定変更された場合には、設定変更前のRTの種類及び残りRTゲーム数が設定変更後も引き継がれることとなり、内部中において設定変更された場合には、内部中及び当該内部中の契機となった特別役の当選フラグが設定変更後も引き継がれることとなり、BB(RB)中において設定変更された場合には、BB(RB)及びBB中のメダル払出総数、すなわちBBの終了条件も引き継がれることとなる。」

(3)甲第3号証
特許異議申立人により提出された甲第3号証(特開2008-61737号公報)には、以下の事項が記載されている。

(3-a)「【0001】
本発明は、パチンコ店などの遊技場に配設されるスロットマシンなどの遊技機に関するものであり、更に詳しくは、遊技における設定が複数有り、これら設定から1つの設定を遊技における設定として選択できるスロットマシン等の遊技機に関するものである。」

(3-b)「【0053】
一方、通常モード以外の遊技中に設定変更された場合には、オン信号が入力された時点の設定値が、変更前の設定値と同一であるか否かの判定が行われる。この判定で、同一の設定値である場合には、RAM63に記憶された遊技データを初期化した後、オン信号が入力された時点の設定値をRAM63に記憶する。一方、異なる設定値となる場合には、RAM63に記憶された遊技データを初期化せずに、オン信号が入力された時点の設定値を新たな設定値としてRAM63に記憶する。そして、設定キー50を回転させ、キースイッチ108をオフにすると、設定変更モードが終了し、遊技モードへと移行する。」

(3-c)「【0063】
本実施形態では、設定値を変更する遊技モードとしてRTモードの例を取り上げているが、これに限定する必要はなく、例えばBB移行役が内部当選している遊技状態で設定値を変更することで、BB移行役が内部当選している遊技状態を維持し、またBBモードの終了後に移行するRTモードのリプレイ役の当選確率を変更することも可能である。」

(4)甲第4号証
特許異議申立人により提出された甲第4号証(特開2008-188348号公報)には、以下の事項が記載されている。

(4-a)「【0001】
本発明は、遊技の状況に応じて複数の遊技データを更新し、複数の遊技データに基づいて遊技を制御する、パチンコ遊技機や回胴式遊技機等の遊技機に関するものである。」

(4-b)「【0069】
次に、RAM初期化処理について説明する。RAM初期化処理は、RAM113に記憶されている遊技データを初期化する処理であり、上記の確率設定処理とともに行われる。CPU114は、電源投入時に確率設定指示スイッチ操作検出センサ81からの検出信号を受け取った場合、RAM初期化選択スイッチ操作検出センサ83からの検出信号が送られたか否かを判定する。CPU114は、RAM初期化選択スイッチ操作検出センサ83からの検出信号が送られたと判定すると、初期化モードが「1」であることを認識し、RAM113に記憶されている複数の遊技データのうち第一範囲の遊技データを初期化すると共に、当該初期化モードの内容を表す数字「1」をRAM初期化モード表示部92に表示させる。一方、CPU114は、RAM初期化選択スイッチ操作検出センサ83からの検出信号が送られていないと判定すると、初期化モードが「2」であることを認識し、RAM113に記憶されている複数の遊技データのうち第二範囲の遊技データを初期化すると共に、当該初期化モードの内容を表す数字「2」をRAM初期化モード表示部92に表示させる。」

(4-c)「【0096】
例えば、上記の実施形態では、RAM初期化選択スイッチを用いて、RT遊技状態に関する遊技データを含まない予め定められた複数の遊技データについての指定とRT遊技状態に関する遊技データを含む予め定められた複数の遊技データについての指定とを選択的に行う場合について説明したが、RAM初期化選択スイッチを用いて、大役内部中状態に関する遊技データを含まない予め定められた複数の遊技データについての指定と大役内部中状態に関する遊技データを含む予め定められた複数の遊技データについての指定とを選択的に行うようにしてもよい。また、RAM初期化選択スイッチを用いて、RT遊技状態に関する遊技データを含まない予め定められた複数の遊技データについての指定、大役内部中状態に関する遊技データを含まない予め定められた複数の遊技データについての指定、RT遊技状態に関する遊技データ及び大役内部中状態に関する遊技状態を含む予め定められた複数の遊技データについての指定を選択的に行うようにしてもよい。一般に、RAM初期化処理の際にRAM初期化選択スイッチを用いて初期化対象外とされ得る遊技データはどのような遊技状態に関する遊技データであってもよい。これにより、例えばRT遊技状態に関する遊技データを残したい、大役内部中状態に関する遊技データを残したいなど多様なニーズに応えることが可能になるので、遊技場における回胴式遊技機の使い方の幅を広げることができる。」

(5)甲第5号証
特許異議申立人により提出された甲第5号証(特開2006-204461号公報)には、以下の事項が記載されている。

(5-a)「【0001】
本発明は、遊技に必要な複数の図柄を変動表示および停止表示する表示手段と、この表示手段を制御するマイクロコンピュータ(以下、マイコンとする)等の制御手段と、この表示手段の制御によって基づく遊技に関連した演出を表示する演出表示手段と、を備えたスロットマシン、パチスロ遊技機、パチンコ遊技機、その他の遊技機に関する。」

(5-b)「【0052】
なお、一般遊技状態、持越状態、BB一般遊技状態におけるベルの小役は、入賞を許可する停止スイッチ7の押し順(以下、入賞許可順序とする)に応じて、さらに6つに分類される。すなわち、ベルの小役(入賞許可順序:「左-中-右」)、ベルの小役(入賞許可順序:「左-右-中」)、ベルの小役(入賞許可順序:「中-左-右」)、ベルの小役(入賞許可順序:「中-右-左」)、ベルの小役(入賞許可順序:「右-左-中」)、ベルの小役(入賞許可順序:「右-中-左」)である。ここで、「左」とは、停止スイッチ7Lによる停止操作を指し、「中」とは、停止スイッチ7Cによる停止操作を指し、「右」とは、停止スイッチ7Rによる停止操作を指す。これによると、例えば、入賞許可順序:「左-中-右」は、停止スイッチ7L、7C、7Rの順で停止操作されると、押し順が正解となり、入賞が許可される。さらに、一般遊技状態、持越状態、BB一般遊技状態のとき、これら6つのベルの小役は、1枚小役とともに当選する。すなわち、一般遊技状態、持越状態、BB一般遊技状態のときには、当選役の情報を記憶する成立フラグには、ベルの小役(入賞許可順序:「左-中-右」)かつ1枚小役、ベルの小役(入賞許可順序:「左-右-中」)かつ1枚小役、ベルの小役(入賞許可順序:「中-左-右」)かつ1枚小役、ベルの小役(入賞許可順序:「中-右-左」)かつ1枚小役、ベルの小役(入賞許可順序:「右-左-中」)かつ1枚小役、ベルの小役(入賞許可順序:「右-中-左」)かつ1枚小役、のように2つの当選役が格納される。これは、停止スイッチ7がベルの小役の入賞許可順序で停止操作されなかったとき、1枚小役を入賞役とするためである。」

以上の記載によれば、甲第5号証には以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。

「n5 持ち越し状態において、ベルの小役は1枚小役とともに当選し、停止スイッチ7の押し順が正解となった場合はベル小役の入賞が許可され、停止スイッチ7がベルの小役の入賞許可順序で停止操作されなかったとき、1枚小役を入賞役とするスロットマシン持ち越し状態において、ベルの小役は1枚小役とともに当選し、停止スイッチ7の押し順が正解となった場合はベル小役の入賞が許可され、停止スイッチ7がベルの小役の入賞許可順序で停止操作されなかったとき、1枚小役を入賞役とする
s5 スロットマシン」

5 当審の判断
(1)対比
本件発明と甲1発明とを対比する。

(a)甲1発明における「a1 回転させることにより図柄変動ゲームを開始する、複数個の図柄が描かれた3列の図柄列であるドラム部2」は本件発明の「各々が識別可能な複数種類の識別情報を変動表示可能な可変表示部」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Aを備えている。

(b)甲1発明における「b1 ドラム部2を回転させることにより図柄変動表示ゲームを開始し、乱数抽選でベル、チェリー、スイカ又はプラム等の配当のある小役の何れかが内部当選し、遊技者が停止ボタン部10の停止操作を行うと、操作順に従ってドラム部2を所定位置に順次停止させ、窓部3の5つの有効ライン上のいずれかに、所定の図柄が並んで表示されれば入賞となる、スロットマシン」は本件発明の「前記可変表示部を変動表示した後、前記可変表示部の変動表示を停止することで表示結果を導出し、該表示結果に応じて入賞が発生可能なスロットマシン」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Bを備えている。

(c)甲1発明の「有効ライン上に入賞又は作動役の図柄」が「揃」って「遊技メダルの投入枚数に応じた有効ライン上で」「表示」されることは、本件発明における、「入賞」が「発生」することに相当し、甲1発明の「第一種特別役物(RB)を意味するレギュラーボーナスゲーム」は特別な遊技状態であるので、「その後に」「レギュラーボーナスゲームが付与されるボーナス役」の「入賞又は作動に係る図柄の組合せ」が「遊技メダルの投入枚数に応じた有効ライン上で」「表示」されることは、本件発明の「特別遊技状態への移行を伴う特別入賞」に相当する。甲1発明の「獲得枚数(払出枚数)が15枚の赤7小役と、獲得枚数が2枚のベル小役と、獲得枚数が1枚の1枚小役左1、1枚小役左2、1枚小役左3、1枚小役中1、1枚小役中2、1枚小役中3、1枚小役右1、1枚小役右2、1枚小役右3」の「入賞又は作動に係る図柄の組合せ」が「遊技メダルの投入枚数に応じた有効ライン上で」「表示」されることは、いずれも本件発明の「遊技用価値の付与を伴う付与入賞」に相当し、甲1発明の「再遊技が必ず作動するリプレイ」の「入賞又は作動に係る図柄の組合せ」が「遊技メダルの投入枚数に応じた有効ライン上で」「表示」されることは、本件発明の「再遊技の付与を伴う再遊技入賞」に相当する。
また、甲1発明の上記「役」は、「遊技者のスタートレバー9の操作に伴って、内蔵する乱数発生部103で継続して発生させている乱数の1つを抽出することにより内部抽選を実行し、複数個の図柄が描かれた3列の図柄列であるドラム部2を回転させることにより図柄変動表示ゲームを開始」した後、「遊技者が停止ボタン部10の停止操作を行う」前に「内部当選」し、「役が内部当選した場合には、有効ライン上にその役の図柄を可能な限り引き込む為の引込制御を行」うが、「役が不成立の場合には、有効ライン上に入賞又は作動役の図柄を揃えないための回避制御を行」うのだから、本件発明の「表示結果が導出される前に」「複数種類の入賞について発生を許容するか否かを決定」をすることに相当しているといえる。
してみると、甲1発明における「ce1 遊技者のスタートレバー9の操作に伴って、内蔵する乱数発生部103で継続して発生させている乱数の1つを抽出する乱数抽選であり、役の抽選である内部抽選を実行し、複数個の図柄が描かれた3列の図柄列であるドラム部2を回転させることにより図柄変動表示ゲームを開始し、遊技者が停止ボタン部10の停止操作を行うと、操作順に従ってドラム部2を所定位置に順次停止させ、抽選結果が当選となって役が内部当選した場合には、有効ライン上にその役の図柄を可能な限り引き込む為の引込制御を行い、抽選結果がハズレとなって役が不成立の場合には、有効ライン上に入賞又は作動役の図柄を揃えないための回避制御を行い、遊技メダルの投入枚数に応じた有効ライン上で、その後に第一種特別役物(RB)を意味するレギュラーボーナスゲームが付与されるボーナス役と、獲得枚数が15枚の赤7小役と、獲得枚数が2枚のベル小役と、獲得枚数が1枚の1枚小役左1、1枚小役左2、1枚小役左3、1枚小役中1、1枚小役中2、1枚小役中3、1枚小役右1、1枚小役右2、1枚小役右3と、再遊技が必ず作動するリプレイとがある入賞又は作動に係る図柄の組合せの表示判定を行う主制御部100」は本件発明の「C 表示結果が導出される前に、特別遊技状態への移行を伴う特別入賞と、遊技用価値の付与を伴う付与入賞と、再遊技の付与を伴う再遊技入賞と、を含む複数種類の入賞について発生を許容するか否かを決定する事前決定手段」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Cを備えている。

(d)甲1発明における「d1 回転しているドラム部2を停止させるときに使用する停止ボタン部であって、ドラム部2が回転中に停止ボタン部10を操作することにより、それぞれのボタンに対応する左ドラム2a、中ドラム2b及び右ドラム2cを停止させることができる停止ボタン部」は本件発明の「D 遊技者が表示結果を導出させるために操作する導出操作手段」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Dを備えている。

(e)甲1発明の構成ce1における「遊技者が停止ボタン部10の停止操作を行うと、操作順に従ってドラム部2を所定位置に順次停止させ」る「主制御部100」は、本件発明の「E 表示結果を導出する制御を行う導出制御手段」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Eを備えている。

(f)上記(c)のとおり、甲1発明における「ボーナス役」の「入賞又は作動に係る図柄の組合せ」が「遊技メダルの投入枚数に応じた有効ライン上で」「表示」及び「レギュラーボーナスゲーム」は本件発明の「特別入賞」及び「特別遊技状態」に相当するので、甲1発明の構成e1、f1における「ボーナス役が内部当選すると、その後にレギュラーボーナスゲームが付与されるよう制御」する「主制御部100」は本件発明の「F 前記特別入賞が発生したときに前記特別遊技状態に制御する特別遊技状態制御手段」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Fを備えている。

(g)上記(c)のとおり、甲1発明における「レギュラーボーナスゲーム」は本件発明の「特別遊技状態」に相当し、甲1発明の「初期状態(RT0状態)」は「レギュラーボーナスゲームが終了(作動終了)」して「戻る」ものであるから、本件発明の「特別遊技状態と異なる所定遊技状態」に相当する。してみれば、甲1発明の構成e1、g1における「ボーナス役の作動によるレギュラーボーナスゲームが終了すると、リプレイの当選確率が変動して初期状態(RT0状態)に戻るよう制御」する「主制御部100」は、本件発明の「G 前記特別遊技状態と異なる所定遊技状態に制御する所定遊技状態制御手段」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Gを備えている。

(h)甲1発明の構成h1における「一般遊技」は、本件発明の構成Hの「所定遊技状態」に相当する。また、上記(c)のとおり、甲1発明における「RB」は「第一種特別役物(RB)」であり、これが「内部当選」することは、本件発明の「特別入賞の発生」が「許容する旨が決定され」ていることに相当し、甲1発明において「RBの入賞を回避」することは、本件発明の「決定により許容された特別入賞を発生させることができなかったとき」に相当するので、甲1発明の構成hにおける「一般遊技でRBが内部当選しても、RBの入賞を回避」し「RBフラグが立ち、既にRBが当っている状態」となることは、本件発明の構成Hの、「決定により許容された特別入賞を発生させることができなかったときに、当該決定を次ゲーム以降に持ち越す」ことに相当する。
してみれば、甲1発明の構成e1、h1における「一般遊技でRBが内部当選してもRBの入賞を回避すると、RBフラグが立ち、既にRBが当っている状態」とする「主制御部100」は本件発明の「H 前記所定遊技状態において前記特別入賞の発生を許容する旨が決定され、該決定により許容された特別入賞を発生させることができなかったときに、当該決定を次ゲーム以降に持ち越す持越手段」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Hを備えている。

(i)上記(h)のとおり、甲1発明では「一般遊技でRBが内部当選しても、RBの入賞を回避」した際には「RBフラグが立ち、既にRBが当っている状態」となり、甲1発明の構成i1では、「RBフラグが立ち、既にRBが当っている場合、ボーナス役が内部当選(RB内部中)しているRT状態となる」のだから、甲1発明の構成e1、i1における「RBフラグが立ち、既にRBが当っている場合、ボーナス役が内部当選(RB内部中)しているRT状態となるよう制御」する「主制御部100」は本件発明の「I 前記持越手段により前記特別入賞の発生を許容する旨の決定が持ち越されているときにおいて、持越遊技状態に制御する持越遊技状態制御手段」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Iを備えている。

(j)甲1発明における「ATストック」は、「存在し、例えば、ベル図柄等の第一小役図柄を含む押し順小役が内部当選した場合、遊技者が当選中の第一小役図柄を有効ライン上に揃えるためのアシスト情報を表示演出装置11に表示する」のだから、本件発明の「遊技者にとって有利な権利」に相当する。
してみれば、甲1発明の構成j1の「レア小役(例えば、中段チェリー、強スイカ、強ベルなど)が当選すると、その後にAT抽選及び高確抽選が行われ、AT抽選で当選すると、AT機能を即座に発動するのではなく、ATストックとして加算して記憶し、ATストックが存在し、例えば、ベル図柄等の第一小役図柄を含む押し順小役が内部当選した場合、遊技者が当選中の第一小役図柄を有効ライン上に揃えるためのアシスト情報を表示演出装置11に表示するよう制御する副制御部160」は本件発明の「遊技者にとって有利な権利を付与する権利付与手段」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Jを備えている。

(k)甲1発明の構成k1における「引込制御により所定の組み合わせで図柄が表示されるように、回転ドラムの回転を停止させる為の操作順序や操作タイミングなどの情報」を「表示演出装置11に表示する」ことは、本件発明の構成Kの「導出操作手段の操作態様を特定可能」に「報知」することに相当する。
してみれば、甲1発明の構成j1、k1における「引込制御により所定の組み合わせで図柄が表示されるように、回転ドラムの回転を停止させる為の操作順序や操作タイミングなどの情報」を、「表示演出装置11に表示するよう制御する副制御部160」は本件発明の「K 前記導出操作手段の操作態様を特定可能に報知する報知手段」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Kを備えている。

(l)甲1発明の構成l1では、「段階値1?6の中から所望の設定値を」選択して「設定」することにより、「内部抽選でボーナスゲームが当選する期待値が、一般に抽選テーブル1<抽選テーブル2<…<抽選テーブル6となっている、抽選テーブル」を設定し、「出玉率」を設定しているので、甲1発明の構成l1の「段階値1?6」は、これを設定することによって遊技者にとっての有利度が異なるものとなることは明らかであるので、本件発明の構成lの「遊技者にとっての有利度が異なる複数種類の設定値」に相当する。
してみれば、甲1発明における「l1 内部抽選でボーナスゲームが当選する期待値が、一般に抽選テーブル1<抽選テーブル2<…<抽選テーブル6となっている抽選テーブルを設定することによる出玉率の段階設定操作を行うために、段階値1?6の中から選択された所望の設定値を設定する段階設定部150」は本件発明の「L 設定操作手段の操作に基づいて、遊技者にとっての有利度が異なる複数種類の設定値のうちから選択された設定値を設定する設定値設定手段」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Lを備えている。

(m)甲1発明の構成m1の、「他の小役やボーナス役と同時当選した場合にも必ず再遊技が作動するリプレイ」が当選することは、本件発明の構成Mにおいて、「事前決定手段の決定結果が前記再遊技入賞の発生を許容する決定結果となったとき」に相当し、上記(c)のとおり、甲1発明における「再遊技が必ず作動」することは、本件発明において、「再遊技の付与を」必ず行うことに相当し、本件発明において「再遊技の付与を」必ず行うことは、「前記特別入賞が発生する特別表示結果よりも前記再遊技入賞が発生する再遊技表示結果を優先して導出する制御を行」うことに相当することは明らかである。
そうすると、甲1発明の構成m1における「主制御部100」が「ARTが開始し、ボーナス役である第一種特別役物(RB)と、他の小役やボーナス役と同時当選した場合にも必ず再遊技が作動するリプレイが同時当選したものである、「RB+リプレイ」が内部当選すると、必ず複数種類あるリプレイの何れか一つが入賞する制御を行う」ことは、本件発明の構成Mの「前記導出制御手段」は、「前記持越遊技状態において、事前決定手段の決定結果が前記再遊技入賞の発生を許容する決定結果となったときに、前記特別入賞が発生する特別表示結果よりも前記再遊技入賞が発生する再遊技表示結果を優先して導出する制御を行」うことに相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Mを備えている。

(n)甲1発明の構成n1において、「ボーナス役が内部当選しているRT状態」で「複合小役を内部当選」させた場合は、本件発明の「持ち越し状態」において「所定付与入賞の発生を許容する所定結果となったとき」に相当する。
また、甲1発明において、「前記所定結果に対応する操作態様で前記導出操作手段が操作される」こと、及び、「ボーナス役図柄及びボーナス引き込み小役図柄を兼ねる両役図柄を有効ライン上に停止させることなく、ターゲット小役図柄を有効ライン上に停止させ、その後の停止操作で前記複合小役中のターゲット小役を入賞させる」ことは、本件発明の、「停止スイッチが内部当選した複合小役に対応する所定順序で操作され」ること、及び「特別表示結果を導出せず前記所定付与入賞が発生する所定付与表示結果を導出する制御を行」うことに相当する。
さらに、甲1発明の、「停止スイッチが前記所定順序と異なる順序で操作され」ることは、本件発明の「前記所定結果に対応する操作態様以外の操作態様で前記導出操作手段が操作される」ことに相当し、甲1発明の「ターゲット小役図柄を有効ライン上に停止させることなく」は、本件発明の「前記所定付与表示結果以外の表示結果を導出する」ことに相当する。
そうすると、甲1発明における「n1 ボーナス役が内部当選しているRT状態の変動表示ゲームで、抽選手段が複合小役を内部当選させた場合、停止スイッチが内部当選した複合小役に対応する所定順序で操作されたとき、停止スイッチの第一停止操作で、ボーナス役図柄及びボーナス引き込み小役図柄を兼ねる両役図柄を有効ライン上に停止させることなく、ターゲット小役図柄を有効ライン上に停止させ、その後の停止操作で前記複合小役中のターゲット小役を入賞させる一方、停止スイッチが前記所定順序と異なる順序で操作されたとき、停止スイッチの第一停止操作で、ターゲット小役図柄を有効ライン上に停止させることなく、前記両役図柄を有効ライン上に停止させ、その後の停止操作でボーナス引き込み小役又はボーナス役の何れかを入賞させ、複合小役は、ターゲット小役及びボーナス引き込み小役を含み、抽選結果が当選となって役が内部当選した場合には、有効ライン上にその役の図柄を可能な限り引き込む為の引込制御を行い」と、本件発明の「N 前記持越遊技状態において前記事前決定手段の決定結果が所定付与入賞の発生を許容する所定結果となったときに、前記所定結果に対応する操作態様で前記導出操作手段が操作されることで前記特別表示結果を導出せず前記所定付与入賞が発生する所定付与表示結果を導出する制御を行い、前記所定結果に対応する操作態様以外の操作態様で前記導出操作手段が操作されることで前記特別表示結果及び前記所定付与表示結果以外の表示結果を導出する制御を行い、」は、「前記持越遊技状態において前記事前決定手段の決定結果が所定付与入賞の発生を許容する所定結果となったときに、前記所定結果に対応する操作態様で前記導出操作手段が操作されることで前記特別表示結果を導出せず前記所定付与入賞が発生する所定付与表示結果を導出する制御を行」う点、及び、「前記所定結果に対応する操作態様以外の操作態様で前記導出操作手段が操作され」ることで、「前記所定付与表示結果以外の表示結果を導出する」点において共通する。

(o)甲1発明における、「ATストック」、「押し順小役(ターゲット小役)」及び「停止ボタン部10の操作順序」は、本件発明の「権利」、「所定結果」及び「前記所定結果に対応する操作態様」に相当する。
してみれば、甲1発明の「o1 副制御部160は、AT抽選で当選するとAT機能をATストックとして加算して記憶し、AT機能が発動すると、押し順小役(ターゲット小役)を入賞させる為に、停止ボタン部10の操作順序を告知する」ことは、本件発明の「O 前記報知手段は、前記権利付与手段により権利が付与され、前記事前決定手段の決定結果が前記所定結果となったときに、前記所定結果に対応する操作態様を特定可能に報知」することに相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Oを備えている。

(p)甲1発明において、(o)によれば、「ターゲット小役」は本件発明の「所定結果」であり、(i)によれば、「RB内部中」は本件発明の「持越遊技状態」であり、「ATが発動」は、AT機能が発動していると言う意味なので、(o)によれば、本件発明の「報知手段により前記所定結果に対応する操作態様が特定可能に報知されているとき」に相当する。
そして、「赤7小役及びベル小役を入賞させれば、平均して約4.1枚/ゲームだけ増加し」は、「赤7小役及びベル小役を入賞」させた1ゲームあたり、投入したメダルの枚数と比べて約4.1枚多いメダルが獲得できている、つまり、本件発明の「1ゲームあたりに付与される遊技用価値の数の期待値は、」「遊技を開始するのに要する遊技用価値の数よりも」約4.1枚「大きくな」っていることを意味していることは明らかである。
してみれば、甲1発明における「p1 前記スロットマシンは、RB内部中にATが発動して、複合小役中のターゲット小役である赤7小役及びベル小役を入賞させれば、平均して約4.1枚/ゲームだけメダルが増加するものであ」ることは、本件発明の「P 前記スロットマシンは、前記持越遊技状態において、1ゲームあたりに付与される遊技用価値の数の期待値は、前記報知手段により前記所定結果に対応する操作態様が特定可能に報知されているときには該操作態様により前記導出操作手段が操作されることにより前記持越遊技状態で遊技を開始するのに要する遊技用価値の数よりも大きくな」ることに相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Pを備えている。

(s)甲1発明における「スロットマシン」は本件発明の「スロットマシン」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明の構成Sを備えている。

したがって、本件発明と甲1発明とは、
「A 各々が識別可能な複数種類の識別情報を変動表示可能な可変表示部を備え、
B 前記可変表示部を変動表示した後、前記可変表示部の変動表示を停止することで表示結果を導出し、該表示結果に応じて入賞が発生可能なスロットマシンにおいて、
C 表示結果が導出される前に、特別遊技状態への移行を伴う特別入賞と、遊技用価値の付与を伴う付与入賞と、再遊技の付与を伴う再遊技入賞と、を含む複数種類の入賞について発生を許容するか否かを決定する事前決定手段と、
D 遊技者が表示結果を導出させるために操作する導出操作手段と、
E 表示結果を導出する制御を行う導出制御手段と、
F 前記特別入賞が発生したときに前記特別遊技状態に制御する特別遊技状態制御手段と、
G 前記特別遊技状態と異なる所定遊技状態に制御する所定遊技状態制御手段と、
H 前記所定遊技状態において前記特別入賞の発生を許容する旨が決定され、該決定により許容された特別入賞を発生させることができなかったときに、当該決定を次ゲーム以降に持ち越す持越手段と、
I 前記持越手段により前記特別入賞の発生を許容する旨の決定が持ち越されているときにおいて、持越遊技状態に制御する持越遊技状態制御手段と、
J 遊技者にとって有利な権利を付与する権利付与手段と、
K 前記導出操作手段の操作態様を特定可能に報知する報知手段と、
L 設定操作手段の操作に基づいて、遊技者にとっての有利度が異なる複数種類の設定値のうちから選択された設定値を設定する設定値設定手段と、
を備え、
M 前記導出制御手段は、
前記持越遊技状態において、事前決定手段の決定結果が前記再遊技入賞の発生を許容する決定結果となったときに、前記特別入賞が発生する特別表示結果よりも前記再遊技入賞が発生する再遊技表示結果を優先して導出する制御を行い、
N’前記持越遊技状態において前記事前決定手段の決定結果が所定付与入賞の発生を許容する所定結果となったときに、前記所定結果に対応する操作態様で前記導出操作手段が操作されることで前記特別表示結果を導出せず前記所定付与入賞が発生する所定付与表示結果を導出する制御を行い、前記所定結果に対応する操作態様以外の操作態様で前記導出操作手段が操作されることで前記所定付与表示結果以外の表示結果を導出する制御を行い、
O 前記報知手段は、前記権利付与手段により権利が付与され、前記事前決定手段の決定結果が前記所定結果となったときに、前記所定結果に対応する操作態様を特定可能に報知し、
P 前記スロットマシンは、
前記持越遊技状態において、1ゲームあたりに付与される遊技用価値の数の期待値は、前記報知手段により前記所定結果に対応する操作態様が特定可能に報知されているときには該操作態様により前記導出操作手段が操作されることにより前記持越遊技状態で遊技を開始するのに要する遊技用価値の数よりも大きい、
S スロットマシン。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1](構成N)
前記持越遊技状態において前記事前決定手段の決定結果が所定付与入賞の発生を許容する所定結果となったときに、前記所定結果に対応する操作態様以外の操作態様で前記導出操作手段が操作されることに関し、本件発明では、「前記特別表示結果及び前記所定付与表示結果以外の表示結果を導出する制御を行」っている、つまり、特別表示結果も導出しないような制御を行っているのに対し、甲1発明では、「前記所定付与表示結果以外の表示結果を導出する制御を行」っている、つまり、特別表示結果を導出することも可能な制御を行っている点。

[相違点2](構成Q)
前記持越遊技状態において遊技が行われる場合に、本件発明では、「予め定められた設計値に基づく前記遊技用価値の増減率が担保されるように設計されて」いる(構成Q)のに対し、甲1発明では、「抽選乱数の総数(65536)に対する、入賞毎の置数」があらかじめ定められた「抽選テーブル」を用いて「変動表示ゲームにおいてボーナスゲームや複数の小役の内部抽選を実行」してはいるものの、「予め定められた設計値に基づく前記遊技用価値の増減率が担保されるように設計」されているかどうか不明な点。

[相違点3](構成R)
特別入賞の発生を許容する旨の決定の持ち越し及び持越遊技状態の制御に関し、本件発明は、「前記持越遊技状態において前記設定値設定手段により設定値が設定されても前記持越手段により前記特別入賞の発生を許容する旨の決定が持ち越されていること及び前記持越遊技状態に制御されていることを維持する」(構成R)のに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。

(2)判断

各相違点について検討する。

(2-a)[相違点1]についての検討
相違点1に関して、甲5発明における「持ち越し状態」、「ベルの小役」が「1枚小役とともに当選」すること、「停止スイッチ7の押し順が正解」すること、「ベル小役の入賞が許可され」ること、「ベルの小役の入賞許可順序で停止操作されなかった」こと及び「1枚小役を入賞役とする」ことは、本件発明の「持越遊技状態」、「所定付与入賞の発生を許容する所定結果」となること、「所定結果に対応する操作態様で前記導出操作手段が操作される」こと、「前記特別表示結果を導出せず前記所定付与入賞が発生する所定付与表示結果を導出する」こと、「前記所定結果に対応する操作態様以外の操作態様で前記導出操作手段が操作されること」及び「前記特別表示結果及び前記所定付与表示結果以外の表示結果を導出する」ことに相当する。
してみれば、「n5 持ち越し状態において、ベルの小役は1枚小役とともに当選し、停止スイッチ7の押し順が正解となった場合はベル小役の入賞が許可され、停止スイッチ7がベルの小役の入賞許可順序で停止操作されなかったとき、1枚小役を入賞役とするスロットマシン持ち越し状態において、ベルの小役は1枚小役とともに当選し、停止スイッチ7の押し順が正解となった場合はベル小役の入賞が許可され、停止スイッチ7がベルの小役の入賞許可順序で停止操作されなかったとき、1枚小役を入賞役とする」は本件発明の「N 前記持越遊技状態において前記事前決定手段の決定結果が所定付与入賞の発生を許容する所定結果となったときに、前記所定結果に対応する操作態様で前記導出操作手段が操作されることで前記特別表示結果を導出せず前記所定付与入賞が発生する所定付与表示結果を導出する制御を行い、前記所定結果に対応する操作態様以外の操作態様で前記導出操作手段が操作されることで前記特別表示結果及び前記所定付与表示結果以外の表示結果を導出する制御を行い、」に相当し、甲5発明は、本件発明の構成Nを備えているといえる。
しかしながら、「所定結果に対応する操作態様以外の操作態様で前記導出操作手段が操作されることで前記特別表示結果及び前記所定付与表示結果以外の表示結果を導出する」ことについて、甲1発明を説明する、甲第1号証の【0276】には以下の記載がある。
「【0276】
・・・例えば、第一停止操作を間違えて、不正解の左停止ボタン10aを操作すると、左側円内の文字「ANY」を「×」に変更して、1枚小役を入賞させる為に必要な情報を報知する。この場合、狙うべき中ドラム2bの四角形(青)を意味する「青」を拡大表示する(図48(C)参照)。中停止ボタン10bを正しいタイミングで操作すれば、四角形(青)図柄が引き込まれて1枚小役が入賞するので、仮にボーナス内部中であれば、ボーナス役の入賞を回避できる。この点は、進歩性を有する画期的なオリジナル技術である。」
つまり、甲第1号証に記載されたスロットマシンの発明では「停止スイッチが前記所定順序と異なる順序で操作されたとき、停止スイッチの第一停止操作で、ターゲット小役図柄を有効ライン上に停止させることなく、前記両役図柄を有効ライン上に停止させ、その後の停止操作でボーナス引き込み小役又はボーナス役の何れかを入賞させ」るという、複数の図柄列の停止制御(【0020】)に対し、「停止スイッチが前記所定順序と異なる順序で操作され」た際(「不正解の左停止ボタン10aを操作」した際)に、「ボーナス役」を「入賞させる」ことが可能である前提のもと、「ボーナス役」を「入賞させる」ことが遊技者にとって不利であるから、正しいタイミングで停止ボタンの操作を行うことによって、ボーナス役の入賞を回避させると言う遊技性を備えていることを意味している。
そしてこのような、所定結果に対応する操作態様以外の操作態様で導出操作手段が操作されることで、特別表示結果を導出する可能性を前提として、これを回避する情報を報知するという技術を備えた甲1発明に対し、特別表示結果及び所定付与表示結果以外の表示結果を導出する制御、つまり、特別表示結果を導出しない制御を行う甲5発明を適用することには阻害要因がある。
甲1発明と甲5発明は、表示結果の導出についての前提が異なり、これらを組み合わせることに阻害要因がある以上、甲1発明に甲5発明を適用する動機付けは存在しないし、相違点1が周知技術の適用や単なる設計事項とする理由もないので、本件発明の相違点1に係る構成は、甲1発明や甲5発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない。
また、甲第2号証ないし甲第4号証のいずれにも、そのような「持越遊技状態において前記事前決定手段の決定結果が所定付与入賞の発生を許容する所定結果となったときに、」「前記所定結果に対応する操作態様以外の操作態様で前記導出操作手段が操作されることで前記特別表示結果及び前記所定付与表示結果以外の表示結果を導出する制御を行」うという構成についての記載は無い。
したがって、本件発明の相違点1に係る構成は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

(2-b)[相違点2]についての検討
本件発明の構成Qの「前記持越遊技状態において遊技が行われる場合に、予め定められた設計値に基づく前記遊技用価値の増減率が担保されるように設計」について、特に「担保されるように設計」について、本件特許の、発明の詳細な説明の【0504】-【0505】には、以下の記載がある。
「【0504】
本実施例では、メイン制御部41が通常遊技状態、内部中、CBのうち内部中に制御していることを前提として設定1?6に応じたメダルの払出率が設定されることから、内部中以外の遊技状態に制御された場合には、メダルの払出率が設計通りの払出率と乖離してしまう可能性があることから、極力内部中に制御されることが好ましいが、メイン制御部41のデータが初期化された場合など、メダルの払出率が設計通りとなる遊技状態とは異なる遊技状態に変更されることがあり、このような場合に予め定められた設計値に基づく払出率を担保できなくなってしまう虞がある。
【0505】
これに対して本実施例では、設定変更の終了、すなわち遊技場の店員による操作が必要な設定変更状態の終了に伴って遊技を可能な状態に移行する際に、メイン制御部41が現在の遊技状態を特定可能な設定コマンドをサブ制御部91に対して送信し、サブ制御部91は、メイン制御部41から現在の遊技状態として内部中を示す設定コマンドを受信した場合のみ、通常の確率(ナビストック抽選確率A、上乗せ抽選確率A)に基づいてナビストック抽選及び上乗せ抽選を行う一方で、メイン制御部41から現在の遊技状態として内部中以外の遊技状態を示す設定コマンドを受信した場合には、遊技状態異常フラグを設定し、通常の確率とは異なる確率(ナビストック抽選確率B、上乗せ抽選確率B)に基づいてナビストック抽選及び上乗せ抽選を行うようになっている。これによりメイン制御部41側の遊技状態が内部中でない場合、すなわちメダルの払出率が設計通りの払出率と乖離してしまう可能性がある状況にも関わらず、通常のデータを用いてナビストック抽選や上乗せ抽選が行われることで、設計値に基づくメダルの払出率が担保できなくなってしまうことを防止できる。」
また、当該記載以外には、本件特許の発明の詳細な説明において「増減率が担保」されることについての記載は無い。
当該記載からは、「前記持越遊技状態において遊技が行われていない場合」である「内部中以外の遊技状態」において、「予め定められた設計値に基づく前記遊技用価値の増減率が担保される」ように「通常の確率とは異なる確率(ナビストック抽選確率B、上乗せ抽選確率B)に基づいてナビストック抽選及び上乗せ抽選を行う」ようにしていることが見て取れる。
してみると、「前記持越遊技状態において遊技が行われる場合に、予め定められた設計値に基づく前記遊技用価値の増減率が担保されるように設計」は、「前記持越遊技状態において遊技が行われる場合に、予め定められた設計値に基づく前記遊技用価値の増減率」(内部中に制御していることを前提として予め定められた設計値に基づく払出率)が担保されるように設計されていることを意味していることは明らかである。
これについて、特許異議申立人は「甲1発明における「q1 高確率再遊技状態(RT状態)で用いる抽選テーブルには、出玉率の段階設定値1?6及び投入メダル数(規定数)に対応した6つの抽選テーブル1、抽選テーブル2…抽選テーブル6があり、主制御部は段階設定部150により設定された段階設定値及び投入メダル数に応じて抽選テーブルを選択し、変動表示ゲームにおいてボーナスゲームや複数の小役の内部抽選を実行し、この時、抽選乱数の総数(65536)に対する、入賞毎の置数は、あらかじめ定められている」は、本件特許発明の「Q)前記持越遊技状態において遊技が行われる場合に、予め定められた設計値に基づく前記遊技用価値の増減率が担保されるように設計されており」に相当」し、「甲1発明が本件特許発明の構成Qを備えている。」と主張している。
しかしながら、甲1発明の構成q1は、事前に設定されたテーブルに基づく乱数抽選がされている等の、おおよそスロットマシンであれば通常備えているような技術事項を特定しているだけであり、甲1発明が本件発明のような「増減率が担保されるように設計」されているという構成を備えているわけではない。
また、甲第1号証ないし甲第5号証のいずれにも、そのような「増減率が担保されるように設計」されているという構成についての記載は無い。
したがって、本件発明の相違点2に係る構成は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

(2-c)[相違点3]についての検討
相違点3について、甲第2号証には、「スロットマシンにおいて、当選フラグは、RAM41cの領域のうち設定変更時に初期化されない重要ワークに割り当てられ、内部中において設定変更された場合には、内部中及び当該内部中の契機となった特別役の当選フラグが設定変更後も引き継がれる」ことが記載されており、甲第3号証には「スロットマシン等の遊技機に関し、通常モード以外の遊技中に設定変更され、異なる設定値となる場合には、RAM63に記憶された遊技データを初期化せずに、オン信号が入力された時点の設定値を新たな設定値としてRAM63に記憶し、例えばBB移行役が内部当選している遊技状態で設定値を変更することで、BB移行役が内部当選している遊技状態を維持」することが記載されており、甲第4号証には「回胴式遊技機において、RAM初期化処理は、RAM113に記憶されている遊技データを初期化する処理であり、RAM初期化処理の際にRAM初期化選択スイッチを用いて初期化対象外とされ得る遊技データはどのような遊技状態に関する遊技データであってもよい。」と記載されている。これらはいずれも、スロットマシン(回胴式遊技機)の技術分野において、「持越遊技状態において設定値が設定され」たとき、「持越手段により特別入賞発生を許容する旨の決定が持ち越されていること及び持越遊技状態に制御されていることを維持」する(甲第2号証、甲第3号証)、または、しても良い(甲第4号証)ことを意味している。
してみれば、特別入賞の発生を許容する旨の決定の持ち越し及び持越遊技状態の制御に関し、「前記持越遊技状態において前記設定値設定手段により設定値が設定されても前記持越手段により前記特別入賞の発生を許容する旨の決定が持ち越されていること及び前記持越遊技状態に制御されていることを維持する」ことは、甲第2号証?甲第4号証に記載されているように周知の技術であるといえる。
そして、甲1発明に対して、当該周知の技術を適用し、構成Rにかかる構成とすることについては、これを阻害する要因もなければ、作用効果に格別なものもない。
よって、本件発明の相違点3に係る構成は、甲1発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載される周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

(2-d)申立人の主張
特許異議申立人は、[相違点1](構成N)の構成に関し、「押し順不正解の場合に特別表示結果を導出可能とするか、導出不可能とするかは、そのスロットマシンのゲーム性等に合わせて当業者が適宜選択できる設計事項に過ぎない。」「仮にこの点が異なるとしても、押し順が不正解の場合、特別表示結果及び所定付与表示結果以外の表示結果を導出する制御を行うことは、例えば以下に示す甲第5号証に記載されているように周知の技術事項である。」と主張している。
しかしながら、仮に上記のとおり、「押し順不正解の場合に特別表示結果を導出可能とするか、導出不可能とするか」が一般的に設計事項であったり、「押し順が不正解の場合、特別表示結果及び所定付与表示結果以外の表示結果を導出する制御を行うこと」が周知技術であったりしたとしても、甲第1号証に記載の「進歩性を有する画期的なオリジナル技術」を称する「第一停止操作を間違え」た際に「狙うべき中ドラム2bの四角形(青)を意味する「青」を拡大表示」することの前提となる、「正しいタイミングで操作すれば、四角形(青)図柄が引き込まれて1枚小役が入賞するので、仮にボーナス内部中であれば、ボーナス役の入賞を回避できる」こと、換言すれば、正しいタイミングで操作をしないと、ボーナス役が入賞してしまうこと、つまり「押し順不正解の場合に特別表示結果を導出可能とする」と言う技術の適用を除外することの根拠は見いだせない。
よって、当該構成は、甲1発明や甲5発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない。

(2-e)相違点のまとめ
以上のとおり、本件発明の相違点1に係る構成、及び、相違点2に係る構成は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-07-28 
出願番号 特願2018-79109(P2018-79109)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A63F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森田 真彦  
特許庁審判長 ▲吉▼川 康史
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
井海田 隆
登録日 2019-10-11 
登録番号 特許第6600379号(P6600379)
権利者 株式会社三共
発明の名称 スロットマシン  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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