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審決分類 |
審判 全部申し立て 特174条1項 A23L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L |
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管理番号 | 1364961 |
異議申立番号 | 異議2020-700355 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-05-20 |
確定日 | 2020-08-17 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6607878号発明「ヨーグルト様飲料、容器詰め飲料およびヨーグルト様飲料の後味改善方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6607878号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6607878号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成29年3月30日に出願され、令和元年11月1日にその特許権の設定登録がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和2年5月20日に特許異議申立人笠原佳代子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明について 本件の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」という。まとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表示した。 「[請求項1] 乳酸と、 リン原子を有する化合物と、 ヨーグルト風味を呈する香料と、を含むヨーグルト様飲料であって、 当該ヨーグルト様飲料のpHが2.8以上4.0以下であり、 当該ヨーグルト様飲料全量に対する前記乳酸の含有量をA(質量%)とし、当該ヨーグルト様飲料全量に対する前記リン原子を有する化合物中のリン原子量をB(質量%)としたとき、A/Bの値が、1.2以上25以下であり、 Aの値が、0.0145質量%以上0.035質量%以下であり、 Bの値が、0.001質量%以上0.0051質量%以下であり、 前記リン原子を有する化合物が、リン酸であり、 波長650nmにおける吸光度が0.2以下である、ヨーグルト様飲料。 [請求項2] 当該ヨーグルト様飲料のブリックス値が10°以下である、請求項1に記載のヨーグルト様飲料。 [請求項3] 当該ヨーグルト様飲料の波長650nmにおける吸光度が0.02以下である、請求項1または2に記載のヨーグルト様飲料。 [請求項4] 当該ヨーグルト様飲料のクエン酸酸度が0.05質量%以上0.3質量%以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のヨーグルト様飲料。 [請求項5] クエン酸をさらに含んでおり、当該ヨーグルト様飲料のクエン酸酸度の値を100とした時に、前記クエン酸に由来するクエン酸酸度の値が60以上98以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のヨーグルト様飲料。 [請求項6] エタノールをさらに含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のヨーグルト様飲料。 [請求項7] 請求項1乃至6のいずれか一項に記載されたヨーグルト様飲料が透明な容器に充填された容器詰め飲料。 [請求項8] 乳酸と、リン原子を有する化合物と、ヨーグルト風味を呈する香料と、を含むヨーグルト様飲料の後味改善方法であって、 前記リン原子を有する化合物が、リン酸であり、 当該ヨーグルト様飲料の波長650nmにおける吸光度が0.2以下であり、 当該ヨーグルト様飲料のpHが2.8以上4.0以下となり、 当該ヨーグルト様飲料全量に対する前記乳酸の含有量をA(質量%)とし、当該ヨーグルト様飲料全量に対する前記リン原子を有する化合物中のリン原子量をB(質量%)としたとき、A/Bの値が、1.2以上25以下となり、Aの値が、0.0145質量%以上0.035質量%以下となり、 Bの値が、0.001質量%以上0.0051質量%以下となるように調整する工程を含む、ヨーグルト様飲料の後味改善方法。」 第3 特許異議申立理由の概要 申立人は、特許異議申立書において、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。 理由1(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?8に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(甲第1号証?甲第7号証参照)。 理由2(実施可能要件) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?8に係る発明についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(甲第2号証参照)。 理由3(明確性) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?8に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由4(新規事項) 本件特許の請求項1?8は、令和元年9月19日付けの手続補正書によってなされた請求項1及び8についての補正並びに令和元年8月19日付けの手続補正書によってなされた請求項4についての補正が、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、請求項1?8に係る発明についての特許は同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。 <引用文献等一覧> 甲第1号証:荒井威吉,玉木民子,海津夕希子,"タイプの異なるヨーグルトに対する消費者の嗜好傾向について",新潟青陵大学短期大学部研究報告,2009年,第39号,p.15-24 甲第2号証:広山均,"フレーバー -おいしさを演出する香りの秘密-",第1版第2刷,フレグランスジャーナル社,平成18年1月17日,p.188,220-221 甲第3号証:サントリー食品インターナショナル株式会社,"ニュースリリース 「サントリー南アルプスの天然水&ヨーグリーナ」新発売",サントリー食品インターナショナル株式会社のウェブサイト,掲載日2015年2月26日(2015年6月更新),検索日2020年5月8日,<URL:https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/d/sbf0246.html> 甲第4号証:アサヒ飲料株式会社,"中味も見た目もすっきりさわやか。透明なヨーグルト風味の乳性炭酸飲料「三ツ矢ヨーグル」11月15日(火)新発売",アサヒ飲料株式会社のウェブサイト,掲載日2016年11月1日,検索日2020年5月8日,<URL:https://www.asahiinryo.co.jp/company/newsrelease/2016/pick_1101.html> 甲第5号証:特開2016-144410号公報 甲第6号証:Andreas Ott,Alain Hugi,Marcel Baumgartner,Alain Chaintreau,"Sensory Investigation of Yogurt Flavor Perception: Mutual Influence of Volatiles and Acidity",Journal of Agricultural and FoodChemistry,ACS Publications,2000年,vol.48,No.2,p.441-450 甲第7号証:特開2009-5675号公報 以下、「甲第1号証」?「甲第7号証」をそれぞれ「甲1」?「甲7」という。まとめて、「甲号証」ということもある。 第4 特許異議申立理由についての判断 1.理由1(サポート要件)について (1)本件発明の課題について 本件明細書の[0005]には、「本発明者は、牛乳を用いなくてもヨーグルト風味が得られる飲料について鋭意検討を行った結果、・・・後味といった止渇性と、ヨーグルト感といった嗜好性との間にはいわゆるトレードオフの関係があることを見出した」ことが記載され、[0012]には、「本実施形態のヨーグルト様飲料において、止渇性とは、飲料を摂取した後の後味のすっきり感であり、特に夏場に止渇目的に摂取される際に好まれる性能である。また、嗜好性とは、一般のヨーグルト様飲料に求められるヨーグルト感、コクであり、いわゆるスポーツ飲料や果汁飲料などに求められる性能とは異なるものである」ことが記載され、[0006]には、「本発明の課題は、止渇性と嗜好性のバランスに優れたヨーグルト様飲料を提供することにある」ことが記載されている。 これらの記載及び本件発明の発明特定事項等を参酌すると、本件発明1?6の解決しようとする課題は「止渇性と嗜好性のバランスに優れたヨーグルト様飲料を提供すること」にあり、本件発明7の解決しようとする課題は「止渇性と嗜好性のバランスに優れたヨーグルト様飲料が透明な容器に充填された容器詰め飲料を提供すること」にあり、本件発明8の解決しようとする課題は「ヨーグルト様飲料の止渇性と嗜好性のバランスを改善することにより後味を改善する方法を提供すること」にあるものと認められる。 (2)本件明細書の記載について ア 乳酸及びその含有量Aについて 本件明細書の[0018]?[0019]には、乳酸は「酸味料及び静菌作用を有するものとして機能する」ものであること、及び「本ヨーグルト様飲料全量に対する乳酸の含有量Aの値は、・・・さらに好ましくは、0.0075質量%以上0.035質量%以下」であり、「こうすることで、本ヨーグルト様飲料について、ヨーグルト感という観点における嗜好性を向上させることができる」ことが記載されている。 イ リン原子を有する化合物(リン酸)及びリン原子量Bについて 本件明細書の[0020]?[0021]には、リン原子を有する化合物は「止渇性と上記嗜好性とを両立する観点」及び「本ヨーグルト様飲料全体のおいしさを向上させる観点」から選ばれたものであること、並びに「本ヨーグルト様飲料全量に対するリン原子を有する化合物中のリン原子量Bの値は、好ましくは、0.001質量%以上0.02質量%以下」であり、「こうすることで、本ヨーグルト様飲料について、後味という観点における止渇性を向上させることができる」ことが記載されている。 ウ A/Bについて 本件明細書の[0022]には、「本ヨーグルト様飲料は・・・A/Bの値が・・・制御されたもの」であり、「飲料中に必須成分として含まれている乳酸とリン原子を有する化合物中のリン原子の含有量について、そのバランスを制御したものであるといえる」こと、及び「こうすることで、後味という観点における止渇性と、ヨーグルト感という観点における嗜好性とを両立したヨーグルト様飲料を実現することができ」、「この理由は、明らかではないが、乳酸に由来する酸味と比べて、リン原子を有する化合物に由来する味の方が、人間の味覚に作用するスピードが速いため、結果として、乳酸に由来する乳味を保持しつつ、該乳酸に由来する酸味を、リン原子を有する化合物の味によりマスキングできているものと考えられる」ことが記載されている。 また、本件明細書の[0023]には、「A/Bの値は、・・・おいしさ、ヨーグルト感、後味のすっきりさを得る観点から、・・・より好ましくは、1.2以上である。後味をすっきりさせつつ、酸味を得る観点から、・・・好ましくは、25以下・・・である。また、A/Bの値は、止渇性と嗜好性とのバランスをより向上させる観点から、・・・好ましくは、1.0以上25以下であり、より好ましくは、1.2以上22以下である」ことが記載されている。 エ 香料について 本件明細書の[0025]には、「本ヨーグルト様飲料は、該飲料の嗜好性を向上させる観点から、ヨーグルトフレーバー等の香料・・・をさらに含んでいることが好ましい」ことが記載され、その配合量については「該飲料全量に対して、下限値は、好ましくは0.01質量%以上、・・・上限値は、好ましくは1質量%以下」であり、「当該配合量が上記範囲内であれば、好ましいヨーグルト様香味を得ることができる」ことが記載されている。 オ pHについて 本件明細書の[0015]には、「本ヨーグルト様飲料のpHは、2.8以上4.0以下である。こうすることで、ヨーグルト様飲料に特有な酸味がかった味わい、言い換えれば、ヨーグルトに似た独特の味わい(ヨーグルト感)を呈することができるという点において、飲料の嗜好性を向上させることができる」ことが記載されている。 また、「乳タンパク質の等電点は、一般に、pH4.6であることが知られている」ことから、「本ヨーグルト様飲料が酸性乳を含むタイプである場合」であっても、「該飲料のpHが上記数値範囲内となるように制御することにより、上記酸性乳中に含まれている乳タンパク質の水に対する溶解性が低減することを抑制できる。そのため、・・・乳タンパク質による影響で該飲料が白濁化することを防ぐことが可能となり、結果として、該飲料の透明性が低下することを抑制できる」ことが記載されている。 また、本件明細書の[0016]には、「本ヨーグルト様飲料のpHの上限値は、・・・該飲料の止渇性と嗜好性のバランスを向上させる観点から、好ましくは、pH3.8以下」であること、及び「本ヨーグルト様飲料のpHの下限値は、該飲料中の香気成分が劣化することを抑制する観点から、たとえば、pH2.8以上」であり、「pHの下限値が上記数値以上となるように制御された場合、結果として、該飲料の嗜好性を向上させることができる」ことが記載されている。 カ 吸光度について 本件明細書の[0013]には、「牛乳や酸性乳を含むタイプの従来のヨーグルト様飲料は、乳原料に由来する成分(乳タンパク質)による影響で白濁しているものがほとんどである」ため、「波長650nmにおける吸光度は、通常、1以上の値を示す場合が殆ど」であり、また、「止渇飲料の1種として知られている従来のスポーツ飲料の波長650nmにおける吸光度は、通常、0.2程度の値を示す場合がほとんどである」ことが記載されている。 また、これに対し、「本ヨーグルト様飲料は、止渇飲料としての需要を向上させるべく、従来のヨーグルト様飲料と比べて、その透明度を向上させた飲料」であり、「該飲料の波長650nmにおける吸光度が、好ましくは、0.2以下となるように・・・制御された高清澄な飲料である」こと、及び「本ヨーグルト様飲料は、従来のヨーグルト様飲料と比べて、極めて高い透明度を示」し、「従来のスポーツドリンクと同程度の透明性、または該スポーツドリンクよりも高い透明性を示すものであるといえる」ことから、「少なくとも該飲料の見栄えという点において、止渇飲料として消費者に好まれるレベルの透明性を示すものであるともいえる」ことが記載されている。 キ 実施例について 本件明細書の[0036]?[0042]には、[0051]の表1に示す配合比率となるように、各成分を所定の手順で配合することにより、実施例1?7及び比較例1、2のヨーグルト様飲料を作製したこと、及び得られたヨーグルト様飲料について評価を行い、結果を表1に示したことが記載されており、表1の配合組成からみて、実施例3?実施例7は本件発明1の実施例に相当する具体例であると理解できる。 また、本件明細書の[0043]及び[0044]には、それぞれブリックス値及び波長650nmにおける吸光度の測定方法が記載され、[0045]?[0050]には、官能評価の実施方法および評点の説明が記載され、[0051]の[表1]には、これらの評価結果を含む実施例1?7及び比較例1、2の実験データが記載されている。 [0045]?[0050]及び[0051]の[表1]には、以下のとおり記載されている。 「[0045] ・官能評価:実施例および比較例のヨーグルト様飲料を、それぞれ熟練した5名のパネラーが試飲し、以下の評価基準に従い、『おいしさ』、『ヨーグルト感』、『後味』、『コク』、『酸味の強さ』それぞれについて評価を実施し、その平均点を求めた。また、本評価試験においては、比較例1のヨーグルト様飲料を対照品(コントロール品)として用いた評価を実施した。そのため、比較例1のヨーグルト様飲料については基準値として4点と評価した。 [0046] 評価1(おいしさ) 7点:コントロール品と比べて、とてもおいしかった。 6点:コントロール品と比べて、おいしかった。 5点:コントロール品と比べて、ややおいしかった。 4点:コントロール品と同等のおいしさであった。 3点:コントロール品と比べて、おいしさという点にやや欠けていた。 2点:コントロール品と比べて、おいしさという点に欠けていた。 1点:コントロール品と比べて、おいしさという点にとても欠けていた。 [0047] 評価2(ヨーグルト感) 7点:コントロール品と比べて、ヨーグルト感という点において、とても優れた飲料であった。 6点:コントロール品と比べて、ヨーグルト感という点において、優れた飲料であった。 5点:コントロール品と比べて、ヨーグルト感という点において、やや優れた飲料であった。 4点:コントロール品と同等のヨーグルト感を呈する飲料であった。 3点:コントロール品と比べて、ヨーグルト感にやや欠ける飲料であった。 2点:コントロール品と比べて、ヨーグルト感に欠ける飲料であった。 1点:コントロール品と比べて、ヨーグルト感にとても欠ける飲料であった。 [0048] 評価3(後味) 7点:コントロール品と比べて、後味のスッキリさという点において、とても優れた飲料であった。 6点:コントロール品と比べて、後味のスッキリさという点において、優れた飲料であった。 5点:コントロール品と比べて、後味のスッキリさという点において、やや優れた飲料であった。 4点:コントロール品と同等の後味のスッキリさを示す飲料であった。 3点:コントロール品と比べて、後味のスッキリさにやや欠ける飲料であった。 2点:コントロール品と比べて、後味のスッキリさに欠ける飲料であった。 1点:コントロール品と比べて、後味のスッキリさにとても欠ける飲料であった。 [0049] 評価4(コク) 7点:コントロール品と比べて、コクという点において、とても優れた飲料であった。 6点:コントロール品と比べて、コクさという点において、優れた飲料であった。 5点:コントロール品と比べて、コクという点において、やや優れた飲料であった。 4点:コントロール品と同等のコクを示す飲料であった。 3点:コントロール品と比べて、ややコクに欠ける飲料であった。 2点:コントロール品と比べて、コクに欠ける飲料であった。 1点:コントロール品と比べて、とてもコクに欠ける飲料であった。 [0050] 評価5(酸味の強さ) 7点:コントロール品と比べて、酸味の強さという点において、とても優れた飲料であった。 6点:コントロール品と比べて、酸味の強さという点において、優れた飲料であった。 5点:コントロール品と比べて、酸味の強さという点において、やや優れた飲料であった 。 4点:コントロール品と同等の酸味の強さを示す飲料であった。 3点:コントロール品と比べて、やや酸味の強さに欠ける飲料であった。 2点:コントロール品と比べて、酸味の強さに欠ける飲料であった。 1点:コントロール品と比べて、とても酸味の強さに欠ける飲料であった。 [0051] [表1] 」 (3)本件発明1のサポート要件の判断 ア A、B及びA/Bについて 本件明細書の[0018]?[0023]には、本件発明1の発明特定事項である乳酸の含有量A、リン原子を有する化合物(リン酸)のリン原子量B及びそれらの比A/Bが、本件発明1の課題とする「止渇性と嗜好性のバランス」の観点から調整されるものであることが記載されており、本件発明1におけるA、B及びA/Bの数値範囲は上記段落において好ましいとされている範囲に特定されている。 また、本件明細書の[0022]には、「止渇性と嗜好性のバランス」がとれる一応の理由についても「乳酸に由来する酸味と比べて、リン原子を有する化合物に由来する味の方が、人間の味覚に作用するスピードが速いため、結果として、乳酸に由来する乳味を保持しつつ、該乳酸に由来する酸味を、リン原子を有する化合物の味によりマスキングできているものと考えられる」との説明が記載され、本件特許に係る出願の出願時における技術常識に照らして、特段矛盾するところはないといえる。 イ 吸光度について 本件明細書の[0013]には、「牛乳や酸性乳を含むタイプの従来のヨーグルト様飲料」の波長650nmにおける吸光度は、「通常、1以上の値を示す場合が殆ど」であり、また、「止渇飲料の1種として知られている従来のスポーツ飲料」の波長650nmにおける吸光度は、「通常、0.2程度の値を示す場合がほとんど」であることが記載されているから、本件発明1における吸光度の上限値は、上記従来技術に相当する飲料の吸光度を下回るものとして特定されたものであると理解することができる。 また、同段落に記載されているように「飲料の見栄えという点において、止渇飲料として消費者に好まれるレベルの透明性」を備えた飲料とすることにより、「止渇飲料としての需要を向上させる」効果が得られることも、飲料の分野において一般的なこととして理解することができる。 ウ pHについて 本件明細書の[0015]?[0016]には、pHの調整により、「ヨーグルト様飲料に特有な酸味がかった味わい、言い換えれば、ヨーグルトに似た独特の味わい(ヨーグルト感)」がもたらされ、「飲料の嗜好性を向上させることができる」こと、及び本件発明1の課題とする「止渇性と嗜好性のバランス」を向上させる観点からpHの上限が調整され、また、「飲料中の香気成分が劣化することを抑制する」観点からpHの下限が調整され、「結果として該飲料の嗜好性を向上させることができる」ことが記載されており、本件発明1におけるpHの数値範囲は上記段落において好ましいとされている範囲に特定されている。 また、本件明細書の[0015]には、「乳タンパク質の等電点は、一般に、pH4.6である」こと、及び「該飲料のpHが上記数値範囲内となるように制御することにより、上記酸性乳中に含まれている乳タンパク質の水に対する溶解性が低減することを抑制できる」ことが記載されており、本件特許に係る出願の出願時における技術常識に照らして、特段矛盾するものではないといえる。そして、「乳タンパク質による影響で該飲料が白濁化することを防ぐことが可能となり、結果として、該飲料の透明性が低下することを抑制できる」ことにより、[0013]に記載されているように「飲料の見栄えという点において、止渇飲料として消費者に好まれるレベルの透明性」が得られ、「止渇飲料としての需要を向上させる」効果が得られることも、飲料の分野において一般的なこととして理解することができる。 エ 香料について 本件明細書の[0025]には、「飲料の嗜好性を向上させる観点から、ヨーグルトフレーバー等の香料・・・をさらに含んでいることが好ましい」ことが記載されているところ、飲料の分野においてその嗜好性を向上させるために香料を添加することは一般的に行われていることといえる。 そうすると、本件発明1における「ヨーグルト風味を呈する香料」としては、本件発明1の課題とする「止渇性と嗜好性のバランス」を損なわない範囲で、「好ましいヨーグルト様香味を得ることができる」という観点から、公知の「ヨーグルトフレーバー等の香料」を適宜利用することができるものと理解することができる。 オ 官能評価について 本件明細書の[0045]には、実施例及び比較例のヨーグルト様飲料の官能評価が「それぞれ熟練した5名のパネラーが試飲し、以下の評価基準に従い、『おいしさ』、『ヨーグルト感』、『後味』、『コク』、『酸味の強さ』それぞれについて評価を実施し、その平均点を求めた」ものであることが記載され、「比較例1のヨーグルト様飲料を対照品(コントロール品)として用いた」ことも記載されている。 また、[0046]?[0050]に記載された評価基準を参照すると、いずれの評価も最高7点から最低1点までの7段階で評価されており、中央の4点が「コントロール品と同等」という基準の評価に設定されていることが読み取れ、基準点から上下とも3段階の刻みで優劣が評価されたものと理解することができる。 さらに、各評価項目については、 「評価2(ヨーグルト感)」は、[0015]等の記載を参酌すると、「ヨーグルトに似た独特の味わい(ヨーグルト感)」を評価したものであり、本件発明1の課題でいえば「嗜好性」に関する評価であること、 「評価3(後味)」は、[0012]等の記載を参酌すると、「後味のすっきり感」を評価したものであり、本件発明1の課題でいえば「止渇性」に関する評価であること、 「評価4(コク)」は、[0012]等の記載を参酌すると、「一般のヨーグルト様飲料に求められる・・・コク」を評価したものであり、本件発明1の課題でいえば「嗜好性」に関する評価であること、 「評価5(酸味の強さ)」は、[0015]?[0016]等の記載を参酌すると、「酸味がかった味わい」を評価したものであり、本件発明1の課題でいえば「止渇性と嗜好性のバランス」に関する評価であること、そして、 「評価1(おいしさ)」は、総合評価であり、本件発明1の課題である「止渇性と嗜好性のバランス」に関する評価であることを理解することができる。、 そうすると、官能評価は、いずれも官能評価に熟練したパネラー5名が実施し、さらに各パネラーの評価結果を平均することによりばらつきを吸収したものと解されるから、一定の信頼性が確保されているものと解することができる。 また、評価項目は、本件発明1の課題である「止渇性と嗜好性のバランス」を個別又は総合的に評価することができるものが選定されているということができ、基準点(4点)は「比較例1」であることが明確に特定されているとともに、基準点から上下とも各3段階の刻みで優劣が評価されたものと理解することができるところ、大凡、基準点から上下各3段階の刻みで点数化されていれば、個別の配合成分が本件発明1の課題とする「止渇性」及び「嗜好性」に寄与する程度や、組成を変化させた場合の変化の傾向、さらには従来技術に対する「止渇性」及び「嗜好性」の個別及び総合的な優位性等を確認し、本件発明1の課題解決の観点から適切な範囲を具体的に絞り込むために必要十分なデータが得られるものと理解することができ、一般的な飲料の官能評価からみても、過不足のない評価が行われているといえる。 カ 実施例について [0051]の表1に記載された配合組成からみて、実施例3?実施例7は本件発明1の実施例に相当する具体例であると理解できるところ、これらの官能評価の結果は、「評価2」?「評価5」の個別の評点がいずれも基準点(4点)以上であり、総合評価と解される「評価1」は4.4点?5.2点と、いずれも基準を上回っているから、実施例3?実施例7は、いずれも本件発明1の課題を解決することができるものであるといえる。 また、実施例3?7は、乳酸水溶液及びリン酸水溶液以外の配合成分の種類及び配合割合は同一であり、乳酸水溶液及びリン酸水溶液の配合割合のみを変化させたものであるから、本件発明1に特定される乳酸含有量A、リン原子量B及びA/Bが課題解決に及ぼす影響を知ることができるところ、Aは0.0145?0.0348、Bは0.00151?0.0051、A/Bは2.84?23.05の範囲で調整されているから、それぞれ本件明細書の[0019]、[0021]及び[0023]において好ましいとされる範囲が、実際に本件発明1の課題解決の上で好ましい範囲であることが実験データにより裏付けられているということができ、かつ、本件発明1に特定される「A/Bの値が、1.2以上25以下であり、Aの値が、0.0145質量%以上0.035質量%以下であり、Bの値が、0.001質量%以上0.0051質量%以下」であれば、本件発明1の課題を解決し得ると理解することができる。 また、実施例3?7は、pHが3.2?3.3であり、波長650nmにおける吸光度がn.d.(測定限界未満)?0.0037であるから、本件明細書の[0015]?[0016]に記載された好ましいとされるpH範囲の中央付近において、実際に本件発明1の課題が解決され、[0013]に記載されたような高い透明度を示す飲料が得られることが実験データにより裏付けられているということができ、[0015]?[0016]の記載及び本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌すると、本件発明1に特定される「pHが2.8以上4.0以下」の範囲であれば、本件発明1の課題を解決することができ、「波長650nmにおける吸光度が0.2以下」の透明度を示す飲料が得られると理解することができる。 キ 本件発明1についての判断 以上のことから、本件明細書の記載及び本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌すると、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものであるといえる。 (4)本件発明2?8のサポート要件の判断 本件発明2?7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるとともに、さらなる限定が付された発明であり、また、本件発明8は、配合成分の種類及び配合割合並びにpH、吸光度等の化学的及び物理的性質を実質的に本件発明1と同様になるように調整することを含む方法の発明であるから、本件発明1と同様のことがいえる。 よって、本件発明2?8は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものといえるから、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものであるといえる。 (5)申立人の主張について 特許異議申立書の第9?25頁に記載された項目について、以下、検討する。 ア 官能評価試験の客観性について 上記(3)オ「官能評価について」に記載したとおり、本件明細書に記載された官能評価試験は、熟練した5名のパネラーが実施し、その平均点で評価されているから、偏りの生じる恐れは少ないといえる。また、評価の基準点は明確に特定されており、上下各3段階で優劣を評価したことが読み取れるから、点数化が曖昧であるとまではいえず、本件発明1の課題解決を確認する上で意味のある評価が行われたものと理解することができる。 イ 「ヨーグルト風味を呈する香料」について 上記(3)エ「香料について」に記載したとおり、飲料の分野においてその嗜好性を向上させるために香料を添加することは一般的に行われていることであり、本件発明1における「ヨーグルト風味を呈する香料」についても、「好ましいヨーグルト様香味を得ることができる」という観点から、公知の「ヨーグルトフレーバー等の香料」を適宜、適量利用することができると理解することができる。よって、当業者は、「ヨーグルト風味を呈する香料」を用いる本件発明1が上記課題を解決し得ると認識できるといえる。 ウ 「酸性乳を含むタイプの飲料」にまで拡張ないし一般化できない点 本件明細書の[0002]及び[0014]等に記載されているように、ヨーグルト様飲料にヨーグルト感等の嗜好性をもたらす原料の一つとして酸性乳は周知のものであり、また、上記(3)ウ「pHについて」に記載したとおり、乳タンパク質の等電点についての技術常識を参酌すると、本件発明1に特定されるpHの範囲では飲料の白濁化を防ぐことが可能であるから、当業者は乳タンパク質を配合する場合であっても、その配合量やpHの調整により、止渇飲料として消費者に好まれるレベルの透明性を得ることができると理解することができる。よって、当業者は酸性乳を含むタイプの飲料であっても上記課題を解決し得ると認識できるといえる。 エ 任意濃度で「乳清発酵液を含有する飲料」にまで拡張ないし一般化することはできない点 本件明細書の[0028]等に記載されているように、本件発明1のヨーグルト様飲料には、本件発明1の課題が解決される範囲で周知の副成分を添加することがてきるものと理解することができ、また、上記ウ「『酸性乳を含むタイプの飲料』にまで拡張ないし一般化できない点」に記載したことと同様の理由により、乳タンパク質の等電点についての技術常識を参酌すると、乳清にタンパク質が含まれていても、その配合量やpHの調整により、止渇飲料として消費者に好まれるレベルの透明性を得ることができると理解することができる。よって、当業者は乳清発酵液を含有する飲料であっても上記課題を解決し得ると認識できるといえる。 オ 任意の量で乳固形分を含有する飲料にまで拡張ないし一般化することはできない点 上記エ「任意濃度で『乳清発酵液を含有する飲料』にまで拡張ないし一般化することはできない点」に記載したことと同様の理由により、当業者は乳固形分を含有する飲料であっても上記課題を解決し得ると認識できるといえる。 カ 任意のpH、酸度、甘味料にまで拡張ないし一般化することはできない点 上記エ「任意濃度で『乳清発酵液を含有する飲料』にまで拡張ないし一般化することはできない点」に記載したことと同様の理由により、当業者は配合量やpHの調整により、本件発明1の課題解決を阻害しない範囲で周知の副成分を含有させることができると理解することができる。よって、当業者はクエン酸、甘味料等を含有する飲料であっても上記課題を解決し得ると認識できるといえる。 キ 本件発明1及び8で特定されたA、B、A/Bの数値範囲の根拠が不明である点 上記(3)カ「実施例について」に記載したとおり、当業者は本件発明1に特定される「A/Bの値が、1.2以上25以下であり、Aの値が、0.0145質量%以上0.035質量%以下であり、Bの値が、0.001質量%以上0.0051質量%以下」の範囲であれば、本件発明1の課題を解決し得ると認識できるといえる。 ク 小括 よって、申立人の主張はいずれも採用することができない。 (6)理由1(サポート要件)のまとめ 以上のとおり、本件発明1?8は、いずれも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、本件発明1?8に係る特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。 よって、特許異議申立書に記載された理由1(サポート要件)によって、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。 2.理由2(実施可能要件)について (1)本件明細書の記載について 本件明細書には、上記1.(2)「本件明細書の記載について」に記載したとおりの事項が記載されている。 (2)本件発明1の実施可能要件の判断 上記1.(3)「本件発明1のサポート要件の判断」における検討を踏まえると、当業者は本件明細書の一般記載、官能評価を含む実施例の記載及び本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌することにより、配合する成分の種類や量を適宜選択、調整することにより、本件発明1に相当するヨーグルト様飲料を製造することができ、また、得られたヨーグルト様飲料は、実施例の官能評価結果に示されているような「止渇性及び嗜好性のバランスに優れたヨーグルト用飲料」として飲用に供することができるものであると理解することができる。 そうすると、本件明細書は、本件発明1に相当するヨーグルト様飲料を当業者が製造することができ、かつ使用することができるように記載されているということができる。 (3)本件発明2?8の実施可能要件の判断 本件発明2?7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるとともに、さらなる限定が付された発明であるから、本件発明1と同様のことがいえる。 また、本件発明8は、配合成分の種類及び配合割合並びにpH、吸光度等の化学的及び物理的性質を実質的に本件発明1と同様になるように調整することを含む方法の発明であるから、本件発明1と同様の理由により、その方法を使用することより、ヨーグルト様飲料の後味を改善することができるといえる。 よって、本件明細書は、本件発明2?7に相当するヨーグルト様飲料を当業者が製造することができ、かつ使用することができるように記載されているということができ、また、本件発明8に相当する方法を実施することができるように記載されているということができる。 (4)申立人の主張について 特許異議申立書の第26?27頁に記載された項目について、以下、検討する。 ア 「ヨーグルトフレーバーを含む香料」について 上記1.(3)エ「香料について」に記載したとおり、飲料の分野においてその嗜好性を向上させるために香料を添加することは一般的に行われていることであり、本件明細書に「ヨーグルトフレーバー」の成分や添加量について具体的な記載がなくとも、当業者は「好ましいヨーグルト様香味を得ることができる」という観点から、公知の「ヨーグルトフレーバー等の香料」を適宜、適量利用することができると理解することができる。 よって、本件の発明の詳細な説明が、当業者が発明を実施することができる程度に明確且つ十分に記載したものではないとはいえない。 イ 官能評価の「評価項目」について 上記1.(3)オ「官能評価について」における検討を踏まえると、当業者は本件明細書に記載された「ヨーグルト感」等の官能評価の評価項目が、いずれも本件発明1の課題である「止渇性と嗜好性のバランス」を個別又は総合的に評価することができるものであると理解することができ、また、評価は、熟練した5名のパネラーが、各項目とも基準点から上下各3段階の刻みで優劣を評価して採点し、その平均によって行われたものと理解することができるから、本件明細書における官能評価についての記載が不十分であるとまではいえない。 よって、本件の発明の詳細な説明が、当業者が発明を実施することができる程度に明確且つ十分に記載したものではないとはいえない。 ウ 小括 よって、申立人の主張はいずれも採用することができない。 (5)理由2(実施可能要件)のまとめ 以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであり、本件発明1?8に係る特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。 よって、特許異議申立書に記載された理由2(実施可能要件)によって、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。 3.理由3(明確性)について (1)本件発明1の明確性の判断 上記1.(3)エ「香料について」に記載したとおり、飲料の分野においてその嗜好性を向上させるために香料を添加することは一般的に行われていることであるから、本件発明1の発明特定事項である「ヨーグルト風味を呈する香料」については、本件明細書に具体的な記載がなくとも、当業者は「好ましいヨーグルト様香味を得ることができる」という観点から公知の「ヨーグルトフレーバー等の香料」を適宜、適量利用することができるものであると理解することができる。 よって、本件発明1の「ヨーグルト風味を呈する香料」という発明特定事項は、本件明細書の記載及び本件特許の出願時における技術常識を参酌すると、明確であるといえる。 また、本件発明1の他の発明特定事項も明確といえるから、本件発明1は明確である。 (2)本件発明2?8の明確性の判断 本件発明2?7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるとともに、さらなる限定が付された発明であり、また、本件発明8は、配合成分の種類及び配合割合並びにpH、吸光度等の化学的及び物理的性質を実質的に本件発明1と同様になるように調整することを含む方法の発明であるから、本件発明1と同様のことがいえる。 よって、本件発明2?8はいずれも明確である。 (3)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書の第27?28頁において、本件明細書に「ヨーグルト風味を呈する香料」の用語に関する定義や詳細な説明がなされていないこと、及び実施例で用いられている「ヨーグルトフレーバーを含む香料」の用語と整合していないこと等の理由により、本件発明1および8に記載された「ヨーグルト風味を呈する香料」を含むものとする特定は不明確である旨を主張しているが、上記のとおり、当業者は本件明細書の記載及び本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌することにより、その意味を理解することができるといえるから、本件発明1?8が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまではいえない。 よって、申立人の主張は採用することができない。 (4)理由3(明確性)のまとめ 以上のとおり、本件発明1?8は、いずれも特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものであるから、本件発明1?8に係る特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。 よって、特許異議申立書に記載された理由3(明確性)によって、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。 4.理由4(新規事項)について (1)本件発明1について 上記1.(3)エ「香料について」に記載したとおり、本件明細書の[0025]には、「飲料の嗜好性を向上させる観点から、ヨーグルトフレーバー等の香料をさらに含んでいることが好ましい」ことが記載されており、当該記載は本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)にも記載されていた事項である。 また、上記1.(2)キ「実施例について」に摘示したとおり、本件明細書の[0051]の[表1]には、実施例の配合成分の一つとして「ヨーグルトフレーバーを含む香料」が適量配合されたことが記載されており、当該記載は当初明細書等にも記載されていた事項である。 そして、上記3.(1)「本件発明1の明確性の判断」に記載したとおり、飲料の分野においてその嗜好性を向上させるために香料を添加することが一般的に行われていることであることを合わせて参酌すると、令和元年9月19日付けの手続補正書によって本件発明1の発明特定事項となった「ヨーグルト風味を呈する香料」については、実質的に当初明細書等の[0025]及び[0051]の表1に記載されていたものと同じものであり、「好ましいヨーグルト様香味を得ることができる」という観点から適宜選択できる公知の「ヨーグルトフレーバー等の香料」を意味するものと解することができるから、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるといえる。 よって、令和元年9月19日付けの手続補正書による、本件発明1に「ヨーグルト風味を呈する香料」という発明特定事項を導入する補正は、本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌すると、当初明細書等に記載された事項との関係で新たな技術的事項を導入するものではない。 (2)本件発明2?8について 本件発明2?7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるとともに、さらなる限定が付された発明であり、また、本件発明8は、配合成分の種類及び配合割合並びにpH、吸光度等の化学的及び物理的性質を実質的に本件発明1と同様になるように調整することを含む方法の発明であるから、本件発明1と同様のことがいえる。 よって、令和元年9月19日付けの手続補正書による本件発明2?8の補正は、本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌すると、当初明細書等に記載された事項との関係で新たな技術的事項を導入するものではない。 (3)令和元年8月19日付けの手続補正書による補正について 上記(1)「本件発明1について」における検討を踏まえると、令和元年8月19日付けの手続補正書による請求項4の補正は、本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌すると、当初明細書等に記載された事項との関係で新たな技術的事項を導入するものではない。 (4)理由4(新規事項)のまとめ 以上のとおり、令和元年9月19日付けの手続補正書による補正、及び令和元年8月19日付けの手続補正書による補正は、いずれも当初明細書等に記載された事項との関係で新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものであり、本件発明1?8に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たす補正をした特許出願に対してされたものである。 よって、特許異議申立書に記載された理由4(新規事項)によって、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-08-03 |
出願番号 | 特願2017-67339(P2017-67339) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(A23L)
P 1 651・ 55- Y (A23L) P 1 651・ 537- Y (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 西村 亜希子 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
関 美祝 天野 宏樹 |
登録日 | 2019-11-01 |
登録番号 | 特許第6607878号(P6607878) |
権利者 | アサヒ飲料株式会社 |
発明の名称 | ヨーグルト様飲料、容器詰め飲料およびヨーグルト様飲料の後味改善方法 |
代理人 | 速水 進治 |