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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1365337
審判番号 不服2019-1481  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-04 
確定日 2020-08-12 
事件の表示 特願2016-553256「多目的酵素洗剤及び使用溶液を安定化する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月14日国際公開、WO2015/070119、平成29年 1月26日国内公表、特表2017-503061〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年11月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年11月11日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月24日に手続補正書及び上申書が提出され、平成29年5月12日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年9月20日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年1月26日付けで拒絶理由(最後)が通知され、その指定期間内である同年4月17日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月28日に同年4月17日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、これに対し、平成31年2月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和元年11月7日付けで当審から拒絶理由が通知され、その指定期間内である令和2年1月23日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし13に係る発明は、令和2年1月23日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「 【請求項1】
多目的固体洗剤組成物であって:
60質量%から85質量%のアルカリ金属炭酸塩アルカリ性源;
0.01質量%から10質量%のプロテアーゼ酵素;
0.01質量%から30質量%のカゼイン及びゼラチンを含む、安定化剤;及び

を含み;
前記洗剤組成物に含まれるリンの量は0.5質量%未満であり、前記洗剤組成物に含まれるNTAの量は0.5質量%未満であり、
前記洗剤組成物は固体ブロックの形態であり;
前記洗剤組成物の使用溶液は、少なくとも9のアルカリ性pHを有し;及び
前記使用溶液は、65?80℃の温度にて、少なくとも20分間にわたって少なくとも30%のプロテアーゼ酵素活性を維持する、
多目的固体洗剤組成物。」

第3 令和元年11月7日付けの当審拒絶理由の内容
当審において通知した拒絶理由1、2は次のとおりである。
1(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 (実施可能要件)本願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断
1 理由1(サポート要件)について
(1)サポート要件について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
以下、この観点に立って、判断する。

(2)特許請求の範囲の記載
請求項1の記載は、上記第2に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、本願発明に関連して、以下の事項が記載されている。
ア「【0009】
従って、本発明の目的は、組成物の保存及び/又は輸送が制限されない、プロテアーゼ酵素及び安定化剤を有する固体安定化洗剤組成物を開発することである。さらに、そのような固体組成物は、その後、高い温度及びpHの使用条件下で適切な酵素安定性を維持することができる安定化された使用溶液を作製するのに適している。」

イ「【0033】
洗剤使用組成物
本発明における固体洗剤組成の代表的な範囲を、洗剤組成物の質量パーセントとして表1に示す。
【0034】
【表1】


【0035】
洗剤使用組成物は、有益には、本発明における改善された洗浄力のための安定化酵素を提供し、すなわち、少なくとも20分間にわたる高い温度を含む器物洗浄条件下で使用するための酵素の安定性を提供する。好ましくはプロテアーゼ酵素である用いられる様々な酵素は、(1若しくは複数の)安定化剤と組み合わされて、清浄化条件下、すなわち高い温度及びpHの条件下における清浄化組成物の安定性及び清浄化効果が制御される。態様では、安定化使用組成物は、少なくとも約60℃及び少なくとも約9のpHの温度及びpH条件下、少なくとも約65℃及び少なくとも約9のpHの温度及びpH条件下、並びに好ましくは、少なくとも約65?80℃及び約9から約11.5のpHの温度及びpH条件下で、酵素効果を維持する。酵素安定性は、酵素アッセイを用いて、そのような高い温度及びpH条件において、少なくとも約20分間以上にわたって使用溶液が少なくとも実質的に類似の洗浄力を維持することを示すことによって確認される。ある態様では、高い温度及びpH条件下での酵素安定性は、少なくとも約40分間、少なくとも約60分間、少なくとも約90分間、少なくとも約2時間、又はそれ以上にわたる。
【0036】
酵素安定化剤を用いた多目的洗剤使用組成物は、少なくとも約30%の酵素活性維持率、少なくとも約35%の酵素維持率、少なくとも約40%の酵素維持率、少なくとも約45%の酵素維持率、少なくとも約50%の酵素維持率、少なくとも約55%の酵素維持率、少なくとも約60%の酵素維持率、少なくとも約65%の酵素維持率、少なくとも約70%の酵素維持率、若しくは少なくとも約75%の酵素維持率、又はそれ以上という結果を、本明細書で示される長い時間にわたる高アルカリ性及び高温の条件にてもたらす。本発明によると、高アルカリ性及び高温の条件下での使用溶液中のそのような酵素活性の維持は、過去に達成されたことはなく、本発明の高い有益性を実証するものである。」

ウ「【0041】
固体多目的洗剤組成物は、好ましくは、プロテアーゼ酵素を含有する組成物に対して保存安定性を提供する固体ブロックである。業務用及び工業用作業における固化技術並びに固体ブロック洗剤の使用については、例えば、米国再発行特許第32762号明細書及び同第32818号明細書に開示されるものなどのSOLID POWER(登録商標)ブランドの技術に関して示され、Heileet al.によって米国特許第4595520号明細書及び同第4680134号明細書に開示されるように、炭酸ナトリウム水和物注型固体製品を含む。これらの参考文献の各々は、その全内容が参照により本明細書に援用される。作用機構において限定されるものではないが、固化機構は、灰分水和(ash hydration)又は炭酸ナトリウムと水との相互作用である。本発明によると、固体洗剤組成物は、プレス、押出し、又は注型による固体組成物、及びばらばらの粉末の形態のいずれをも含む。好ましい態様では、固体洗剤組成物は、プレス及び/又は押出し加工されている。
【0042】
洗剤組成物
本発明における方法は、アルカリ性洗剤組成物、好ましくは、アルカリ金属炭酸塩洗剤、(1若しくは複数の)酵素、及び安定化剤を含む、それから成る、並びに/又はそれらから本質的に成る水性使用溶液を用いる。洗剤組成物及び(1若しくは複数の)酵素の安定化使用溶液は、有益には、酵素及び/又は使用溶液自体の安定化をもたらす。他の態様では、酵素及び/又は安定化剤は、別々の組成物として配合され、並びに/又は使用の時点で、アルカリ性洗剤組成物、好ましくは、アルカリ金属炭酸塩洗剤、(1若しくは複数の)酵素、及び安定化剤を含む、それから成る、並びに/又はそれらから本質的に成る使用溶液が作製されるように提供されてよい。
【0043】
本技術分野で現在知られているほとんどの清浄化組成物とは異なり、この清浄化組成物は、効果的とするためにリン酸塩を含む必要がない。従って、本発明の清浄化組成物は、従来の清浄化組成物に対する環境にやさしい代替品を提供する。洗剤組成物は、清浄化組成物をより環境的に有益なものとするために、リン非含有及び/又はニトリロ三酢酸(NTA)非含有であってよい。リン非含有とは、組成物の総質量に基づいて、およそ0.5%未満、より特には、およそ0.1質量%未満、さらにより特には、およそ0.01質量%未満のリンを有する組成物を意味する。これには、リン酸塩、ホスホン酸塩、亜リン酸塩、又はこれらの混合物が含まれる。NTA非含有とは、組成物の総質量に基づいて、およそ0.5質量%未満、およそ0.1質量%未満、特には、およそ0.01質量%未満のNTAを有する組成物を意味する。ある態様では、組成物は、NTA非含有である場合、再付着防止及び汚れ除去剤として機能する塩素とも適合性を有し得る。しかし、本発明のある態様では、酵素との非適合性のために、組成物は塩素を含まない。
【0044】
アルカリ性源
洗剤組成物は、1つ以上のアルカリ性源の有効量を含む。1つ以上のアルカリ性源の有効量は、水が洗剤組成物に添加されて使用溶液が形成される際の、得られる使用溶液のpHを制御する量として見なされるべきである。使用溶液のpHは、充分な洗浄力特性を提供するために、アルカリ性範囲内に維持される必要がある。1つの実施形態では、使用溶液のpHは、およそ9からおよそ13である。使用溶液のpHが低すぎる場合、例えば、およそ9よりも低い場合、使用溶液は、適切な洗浄力特性を提供することができない。使用溶液のpHが高すぎる場合、例えば、およそ13よりも高い場合、使用溶液は、アルカリ性が強すぎて、清浄化されるべき面を攻撃又は損傷する恐れがある。
【0045】
好ましい実施形態によると、アルカリ性源は、約7から約12のpHを有する組成物を提供する。特定の実施形態では、清浄化組成物は、約8から約12のpHを有する。特定の実施形態では、清浄化組成物は、約9から約11.5のpHを有する。洗浄サイクルの過程にて、使用溶液は、約8から約11.5、好ましくは、約9から約11.5のpHを有する。本発明における使用溶液が酵素組成物を含むことから、pHは、酵素組成物の有効性のために最適であるpH範囲を提供するために、さらに調節されてよい。安定化酵素組成物が清浄化組成物に組み込まれた本発明の特定の実施形態では、最適pHは、約9.0から約11.5である。本発明の別の特定の実施形態では、約0.01から0.5質量%の活性成分濃度を有する使用溶液は、約9から約13のpHを有し、又は、好ましくは、約0.01から0.25質量%の活性成分濃度を有する使用溶液は、約9から約11.5のpHを有する。
【0046】
清浄化組成物の適切なアルカリ性源の例としては、これらに限定されないが、例えば、アルカリ金属炭酸塩などの炭酸塩を含む炭酸塩系アルカリ性源;例えば、アルカリ金属水酸化物を含む苛性系アルカリ性源が挙げられ;その他の適切なアルカリ性源としては、金属ケイ酸塩、金属ホウ酸塩、及び有機アルカリ性源が挙げられ得る。
【0047】
本発明における洗剤組成物は、好ましくは、アルカリ金属炭酸塩洗剤である。用いられてよい代表的なアルカリ金属炭酸塩としては、これらに限定されないが、ナトリウム若しくはカリウムの炭酸塩、炭酸水素塩、セスキ炭酸塩、及びこれらの混合物が挙げられる。」

エ「【0052】
本発明によると、洗剤組成物は、当業者であれば理解されるように、液体、又は例えば成型組成物を含む固体であってよい。ペースト及びゲルは、液体の一種と見なされてよい。粉末、凝集体、ペレット、錠剤、及びブロックは、固体の一種と見なされてよい。例えば、洗剤組成物は、ブロック、ペレット、粉末(すなわち、顆粒状乾燥物質の混合物)、凝集体、並びに/又は室温及び大気圧条件下での液体の形態で提供されてよい。粉末洗剤は、多くの場合、乾燥物質を混合することにより、又はスラリーを混合してそのスラリーを乾燥することにより作製される。ペレット及びブロックは、典型的には、洗剤組成物が圧縮されるモールド若しくは押出し機の形状又は構造によって決定されるサイズを備える。ペレットは、一般的には、約0.5cmから約2cmの平均径を有することを特徴とする。ブロックは、一般的には、約2cm超、好ましくは、約2cmから約2フィート(約60.96cm)の平均径を有することを特徴とし、約2cmから約1フィート(約30.48cm)の平均径を有してよい。好ましい実施形態によると、固体ブロックは、少なくとも50グラムである。
・・・
【0054】
酵素組成物
本発明における組成物及び方法に用いられる酵素組成物は、向上された汚れの除去、再付着の防止、及びさらに清浄化組成物の使用溶液の発泡低減のための酵素を提供する。酵素組成物の目的は、汚れた面に典型的に見られ、洗剤組成物によって洗浄水源中に除去されたデンプン又はタンパク質系物質などの付着性汚れを分解することである。酵素組成物は、基材から汚れを除去し、汚れが基材面上に再付着することを防止する。酵素は、消泡性などのさらなる清浄化及び洗浄力の有益性を提供する。本発明における使用溶液の洗浄力において、特定の作用機構に限定されないが、洗剤使用溶液中の酵素は、有益には、汚れの除去、特に、プロテアーゼ酵素を用いることによるタンパク質の除去を向上させ、汚れの再付着を防止し、及び例えば洗剤及び酵素組成物の使用溶液における泡の高さを含む発泡を低減する。低発泡性洗剤酵素使用溶液の有益性の組み合わせにより、器物洗浄用途に用いる場合のサンプ水(sump water)寿命の延長、及び器物(及びその他の物品)の清浄化の改善の両方が可能となる。
【0055】
洗剤組成物又は洗剤使用溶液に組み込まれてよい酵素の代表的な種類としては、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、クチナーゼ、グルコナーゼ、ペルオキシダーゼ、及び/又はこれらの混合物が挙げられる。本発明における酵素組成物には、植物、動物、細菌、真菌、又は酵母由来などの適切ないずれに由来するものであってもよい2つ以上の酵素が用いられてよい。しかし、本発明の好ましい実施形態によると、酵素は、プロテアーゼである。本明細書で用いられる場合、「プロテアーゼ」又は「プロテイナーゼ」の用語は、ペプチド結合の加水分解を触媒する酵素を意味する。
【0056】
当業者であれば確認されるように、酵素は、特定の種類の汚れに作用するように設計される。例えば、本発明の実施形態によると、器物洗浄用途では、器物洗浄機の高温で有効であり、タンパク質系汚れの低減に有効であることから、プロテアーゼ酵素が用いられてよい。プロテアーゼ酵素は、血液、皮膚の鱗屑、粘液、草、又は食品(例:卵、乳、ホウレンソウ、肉の残渣、トマトソース)などのタンパク質含有汚れの清浄化に特に有利である。プロテアーゼ酵素は、アミノ酸残基の高分子タンパク質連結を開裂することができ、基質を、水性使用溶液中に容易に溶解又は分散される小断片に変換する。プロテアーゼは、多くの場合、加水分解として知られる化学反応を通して汚れを分解するその能力により、洗剤酵素(detersive enzymes)と称される。プロテアーゼ酵素は、例えば、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、及びストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)から得ることができる。プロテアーゼ酵素は、セリンエンドプロテアーゼとして市販もされている。
【0057】
市販されているプロテアーゼ酵素の例は、以下の商品名の下で入手可能である:Esperase、Purafect、Purafect L、Purafect Ox、Everlase、Liquanase、Savinase、Prime L、Prosperase、及びBlap。
【0058】
本発明によると、酵素組成物は、特定の清浄化用途及び清浄化を必要とする汚れの種類に基づいて変更されてよい。例えば、特定の清浄化用途の温度は、本発明における酵素組成物のために選択される酵素に影響を与える。例えば、器物洗浄用途の場合、およそ60℃を超える温度、又はおよそ70℃を超える温度、又はおよそ65°?80℃の温度で基材が清浄化され、そのような高い温度で酵素活性を維持する能力のために、プロテアーゼなどの酵素が望ましい。」

オ「【0065】
タンパク質安定化剤
実施形態では、安定化剤は、酵素の安定性を高めるために、第四級窒素基を含む窒素含有基を含んでよい。好ましい態様では、安定化剤は、タンパク質系物質である。タンパク質又はタンパク質系物質としては、カゼイン、ゼラチン、又はコラーゲンなどが挙げられ得る。実施形態では、タンパク質安定化剤は、約100?2000ppm活性分、好ましくは、約100?2000ppm活性分、又はより好ましくは、約100?1000ppm活性分の濃度で使用溶液中に存在する。実施形態では、安定化剤の酵素に対する比率は、約10:1から約200:1、又は約10:1から約100:1である。
【0066】
一態様では、タンパク質安定化剤は、約10000から500000、約30000から250000、又は約50000から200000(カゼインの場合など)の平均分子量を有する。本発明における使用に適する代表的なタンパク質としては、例えば、カゼイン及びゼラチンが挙げられる。そのような代表的なタンパク質の組み合わせも、本発明において用いられてよい。市販物の例は、Amino 1000(GNC)であり、これは、カゼイン塩及びゼラチンのタンパク質と、ビタミンE及びダイズレシチンなどのその他の成分との組み合わせを提供する。ある態様では、タンパク質安定化剤は、本明細書で示される識別された範囲よりも低い分子量を有する小分子アミノ酸を含まない。」

カ「【0197】
ある実施形態では、清浄化組成物は、固体ブロックの形態であり、活性酸素のための活性化物質は、その固体ブロックと合わせられる。活性化剤は、1つの固体洗剤組成物を別のものと合わせるための様々な方法のいずれによって固体ブロックと合わせられてもよい。例えば、活性化剤は、固体の形態であり、固体ブロックと結びつけられるか、貼り付けられるか、糊付けされるか、又はそれ以外の方法で接着されてよい。別の選択肢として、固体活性化剤は、ブロックを取り囲んで包み込むように形成されてもよい。さらなる例として、固体活性化剤は、プラスチック又はシュリンクラッピング材又はフィルムなどにより、洗剤組成物のための容器又はパッケージによって固体ブロックと合わせられてもよい。」

キ「【0224】
実施例1
マルチサイクルスポット、膜、及び汚れ除去試験. プロテアーゼ酵素を含む洗剤使用溶液の安定性を評価するための試験を行って、ガラス及びプラスチックを清浄化する組成物の能力を試験した。表2に示す清浄化配合物を、コントロール洗剤として用いた。次に、本発明の態様における酵素及び潜在的安定化剤をこの洗剤にさらに含ませて改変した。
【0225】
【表2】

【0226】
コントロール配合物を用いて、代表的な酵素含有洗剤使用溶液が、ガラス及びプラスチック器物上の食品汚れを清浄化し、及び/又はその再付着を防止する能力について試験した。6つの10オンス(約177.6mL)Libbey耐熱ガラスタンブラー及び2つのプラスチックタンブラーを用いた。ガラスタンブラーは、業務用食器洗浄機で使用する前に清浄化した。プラスチックタンブラーは、新しいものを各マルチサイクル汚れ除去実験に用いた。
【0227】
食品汚れ溶液を、Campbell’s Cream of Chicken Soup及びKemp’s Whole Milkの1:1(体積比)混合物を用いて作製した。ガラス及びプラスチックタンブラーを、Campbell’s Cream of Chicken Soup:Kemp’s Whole Milkの1:1混合物汚れ中にこれらのコップを3回回転させることによって汚した。次に、コップを、約160°Fのオーブン中に約8分間置いた。
【0228】
食器洗浄機を15?17グレインの水で満たした後、ヒーターのスイッチを入れた。洗浄水温度を、約155°F?160°Fに調節した。最終リンス温度は、約180°F?185°Fに調節した。リンス圧力は、約20?25psiに調節した。食器洗浄機に、表3に示す通りの洗剤組成物、酵素、及び潜在的酵素安定化剤の使用溶液を投入した。試験した潜在的酵素安定化剤としては:グリセロール、加水分解タンパク質源(GNC Pro Performance、Amino 1000)、及び可溶性デンプン源としてのマッシュドポテトフレーク/バズ(Clear Value)を含めた。
【0229】
【表3】

【0230】
汚したガラス及びプラスチックタンブラーを、Raburnラックに置き(配置については以下の図表を参照;P=プラスチックタンブラー;G=ガラスタンブラー)、ラックを、食器洗浄機の内部に置いた。
【0231】
【表4】

【0232】
食器洗浄機をスタートし、自動サイクルを作動させた。サイクル終了時に、ガラス及びプラスチックタンブラーの上部を乾燥タオルで拭いた。ガラス及びプラスチックタンブラーを取り出し、スープ/乳による汚染手順を繰り返した。各サイクルの開始時に、適切な量の洗剤を洗浄タンクに添加して、リンスによる希釈に対する補充を行った。但し、酵素又は添加剤を用いた場合は、マルチサイクル試験のスタート時に、最初の1回分のみをサンプに投入したことには留意されたい。汚染及び洗浄の工程を、合計で7サイクル分繰り返した。
【0233】
次に、ガラス及びプラスチックタンブラーを、クマシーブリリアントブルーR染色、及びそれに続く酢酸/メタノール水溶液での脱色を用いて、タンパク質蓄積についてグレー
ド評価した。クマシーブリリアントブルーR染料を、0.05質量% クマシーブリリアントブルーR染料と40質量%メタノール、10質量%酢酸、及び約50質量%DI水とを混合することによって調製した。この溶液を、すべての染料が溶解するまで混合した。脱色溶液は、40質量%メタノール、10質量%酢酸、及び50質量%DI水から構成した。脱色後にガラス及びプラスチックタンブラー上に残ったタンパク質の量を、目視で1から5のスケールでレーティング付けした。
【0234】
1のレーティングは、脱色後にタンパク質が検出されなかったことを示すものであった。2のレーティングは、脱色後に、面の20%がタンパク質に覆われていたことを示すものであった。3のレーティングは、脱色後に、面の40%がタンパク質に覆われていたことを示すものであった。4のレーティングは、脱色後に、面の60%がタンパク質に覆われていたことを示すものであった。5のレーティングは、脱色後に、面の少なくとも80%がタンパク質で被覆されていたことを示すものであった。汚れ除去について試験したガラス及びプラスチックタンブラーのレーティングを平均して、平均汚れ除去レーティングを決定した。結果を、以下の表4?5及び図1?2に示す。未染色及び染色後のスコア付けしたガラス及びプラスチックタンブラーの写真を分析して、グレードスコアを決定した。サンプ滞留時間(sump dwell time)は、酵素及び/又は酵素を含有する使用溶液の安定性を評価するために、マルチサイクル試験のスタート前に、加熱温度及びpH条件でサンプ中に種々の配合物が残留された時間の量を意味する。
【0235】
【表5】

【0236】
【表6】

【0237】
T=40のサンプ滞留時間は、本発明の実施形態における効果のための最小データポイントであるため、すべての滞留時間が、染色後データポイントを提供するわけではない。本発明における清浄化組成物の使用の一態様では、約2時間までの滞留時間に基づいた清浄化性能を必要とすることが妥当である。
【0238】
この試験は、性能試験によって判断される、業務用器物洗浄機で用いられるプロテアーゼ酵素の安定性及び洗浄力効果に対するサンプ滞留時間(又はインキュベーション時間)の影響を示している。酵素と共に用いられるサンプへの様々な添加剤の効果を比較した。本明細書で言及される場合、「滞留時間」とは、本明細書で述べる実施例において、機械試験を開始する前のアイドルインキュベーション時間を意味する。リストに挙げた滞留時間は、従って、種々の試験サイクルに要する合計試験時間(例:マルチサイクル試験において、およそ1.5時間が必要)に追加されるものである。
【0239】
特に、本発明における洗剤使用溶液を用いたマルチサイクル清浄化の結果は、炭酸ナトリウム系配合物と共に配合され、サンプへの洗剤添加とマルチサイクル実験の開始との間の滞留時間がない場合に(配合2、T=0で示される)、酵素の添加によってタンパク質除去が向上することを示している。酵素を含む炭酸ナトリウム系洗剤によるタンパク質除去は、サンプへの洗剤添加とマルチサイクル試験の開始との間に40分間の遅延がある場合(T=40、配合2を参照)、急速に低下する。高分子量ジャガイモデンプンを含有する配合物5は、40分間の滞留時間有り及び無しにおいて同一に機能しており、このことは、本発明における酵素安定化剤の効果を示している。対照的に、特定のタンパク質(配合4)又は低分子量糖類(グリセロール、配合3)を含有する配合物は、40分間にわたって性能を維持することができなかった。これらの結果から、工業用食器洗浄条件下での酵素を含む炭酸ナトリウム系洗剤の性能は、ジャガイモデンプンなどの高分子量多糖類の添加によって維持することができることが示される。」

ク「【0254】
実施例5
配合物中の酵素活性のアッセイ(%維持率)を行って、器物洗浄用途に関する化学、温度、及びpHの条件を用い、ビーカー中で洗浄条件をシミュレートした。酵素活性は、洗剤中、具体的にはサンプ内の水性使用溶液中(高いpH、温度、及び希釈率の条件下である)におけるプロテアーゼ酵素の安定性の指標である。本発明における様々な酵素安定化剤を評価して、どの剤がプロテアーゼの安定性を大きく高めるかを特定した。
【0255】
プロテアーゼアッセイによる分析を、以下のようにして行った。このアッセイのために、様々な酵素安定化剤を含有する固体洗剤組成物を用いて、本明細書で評価される水性使用溶液を作製した。
【0256】
器物洗浄条件下での酵素活性を、標準的なプロテアーゼアッセイを用いて定量的に追跡した。サンプルを、実験台条件下で作製し、ここで、安定剤を含む洗剤配合物を水に溶解/懸濁し、撹拌水浴中で器物洗浄温度に維持した。酵素の添加を、ピペットを介して行い、酵素安定性を評価するための時間的経過を開始させた。様々な時間点でアリコートを取り出し、急速冷凍した。各シリーズにおいて、洗剤配合物、安定剤、及び酵素を室温で溶解し、充分に混合し、急速冷凍することによって、時間=0サンプルを作製した。サンプルを解凍し、プロテアーゼアッセイで使用するために、必要に応じてアッセイバッファーで希釈した。このアッセイでは、活性酵素含有量との相関を示す生成物を放出する市販の小分子ペプチジル基質(peptidyl substrate)に対するプロテアーゼの直接の反応をモニタリングした。生成物は、測定可能なダイナミックレンジのプレートリーダーを用いて検出した(機器の吸収上限>3.5)。酵素活性レベルを、検量線に対して評価し、反復試験における平均値を用いて、器物洗浄使用条件下でのプロテアーゼ安定性をマッピングした。各時間点での酵素維持率を、時間=0サンプルに対する酵素活性%として算出した。
【0257】
【表10】

【0258】
表9に示すように、評価した酵素安定化剤は、高いアルカリ性及び高い温度の条件での使用において、酵素安定性を向上させた。多くの場合において、安定化剤は、高アルカリ性及び高温の条件で20分間、少なくとも約30%の酵素維持率、少なくとも約35%の酵素維持率、少なくとも約40%の酵素維持率、少なくとも約45%の酵素維持率、少なくとも約50%の酵素維持率、少なくとも約55%の酵素維持率、少なくとも約60%の酵素維持率、少なくとも約65%の酵素維持率、少なくとも約70%の酵素維持率、又は少なくとも約75%の酵素維持率という結果をもたらす。
【0259】
表9にさらに示されるように、Amino 1000安定化剤は、評価中に見られた追加の有益性のために、4時間の時間点まで延長して評価した。しかし、その他のアミン及びデンプン/サッカリド安定剤から示されるように、効果(酵素の維持)が見られる2時間の結果から、充分な器物洗浄用途での効果が示される。本発明の測定によると、少なくとも70%の酵素維持率によって、特定の使用条件下(時間長さ、温度、及びpHの条件)での器物洗浄用途での効果のための酵素維持率が得られる。
【0260】
酵素及び酵素安定化剤を用いた本発明における洗剤組成物の有益な使用安定性は、本発
明における洗浄力及びその他の有益性のために充分な組成物安定性を提供する。有益なことには、本発明における安定化使用組成物は、洗浄サイクルの過程での機械中での使用と合わせて、サンプ中での長い滞留時間という状況下であってさえ、劇的に向上した酵素安定性を提供する。
【0261】
実施例6
種々の酵素安定化剤を、マルチサイクルスポット、膜、及び汚れ除去試験を用いて、汚れ除去についてさらに試験した。固体組成物を用いて、水性使用溶液を作製した。組成物がガラス及びプラスチックを清浄化する能力を試験するために、6つの10オンス(約177.6mL)Libbey耐熱ガラスタンブラー及び2つのNewportプラスチックタンブラーを用いた。ガラスタンブラーは、使用前に清浄化した。プラスチックタンブラーは、新しいものを各マルチサイクル実験に用いた。食品汚れ溶液を、実施例1に示した方法に従って作製した。ガラス及びプラスチックタンブラーを、Campbell’s Cream of Chicken Soup:Kemp’s Whole Milkの1:1混合物汚れ中にこれらのコップを3回回転させることによって汚した。次に、コップを、約160°Fのオーブン中に約8分間置いた。
【0262】
食器洗浄機を5グレインの水で満たした後、ヒーターのスイッチを入れた。洗浄水温度を、約155°F?160°Fに調節した。最終リンス温度は、約180°F?185°Fに調節した。リンス圧力は、約20?25psiに調節した。食器洗浄機に、洗剤組成物、酵素、及び/又は潜在的酵素安定化剤の使用溶液を投入した。
【0263】
汚したガラス及びプラスチックタンブラーを、Raburnラックに置いた(実施例1の方法で示した通り)。食器洗浄機をスタートし、自動サイクルを作動させた。サイクル終了時に、ガラス及びプラスチックタンブラーの上部を乾燥タオルで拭いた。ガラス及びプラスチックタンブラーを取り出し、スープ/乳による汚染手順を繰り返した。各サイクルの開始時に、適切な量の洗剤を洗浄タンクに添加して、リンスによる希釈に対する補充を行った。但し、酵素又は添加剤を用いた場合は、マルチサイクル試験のスタート時に、最初の1回分のみをサンプに投入したことには留意されたい。汚染及び洗浄の工程を、合計で7サイクル分繰り返した。
【0264】
次に、ガラス及びプラスチックタンブラーを、クマシーブリリアントブルーR染色、及びそれに続く酢酸/メタノール水溶液での脱色を用いて、タンパク質蓄積についてグレード評価した。クマシーブリリアントブルーR染料を、0.05質量%染料と40質量%メタノール、10質量%酢酸、及びおよそ50質量%DI水とを混合することによって調製した。脱色溶液は、40質量%メタノール、10質量%酢酸、及び50質量%DI水から構成した。脱色後にガラス及びプラスチックタンブラー上に残ったタンパク質の量を、目視で1から5のスケールでレーティング付けした。1のレーティングは、脱色後にタンパク質が検出されなかったことを示すものであった。2のレーティングは、脱色後に、面の20%がタンパク質に覆われていたことを示すものであった。3のレーティングは、脱色後に、面の40%がタンパク質に覆われていたことを示すものであった。4のレーティングは、脱色後に、面の60%がタンパク質に覆われていたことを示すものであった。5のレーティングは、脱色後に、面の少なくとも80%がタンパク質で被覆されていたことを示すものであった。
【0265】
汚れ除去について試験したガラスタンブラーのレーティングを平均して、ガラス面からの平均汚れ除去レーティングを決定し、汚れ除去について試験したプラスチックタンブラーのレーティングを平均して、プラスチック面からの平均汚れ除去レーティングを決定した。結果を表10に示し、ここで、残留酵素活性は、t=0の標準化(すなわち、100%酵素活性)に基づいて決定した。
【0266】
【表11】

【0267】
遅延時間と共に行ったマルチサイクル器物洗浄機試験の結果は、タンパク質/デンプン系安定剤の存在下での残留酵素活性についてのビーカーシミュレーションの結果と相関している。2つの方法の相関には、制限がある。器物洗浄の結果は、遅延時間と共に試験を完了させた後のガラス及びプラスチックのレーティングを示すが(約2時間);一方、ビーカーシミュレーションの結果は、40分での残留酵素活性を示す(遅延時間を含むマルチサイクル試験の開始時)。ビーカーシミュレーションの結果は、液/液界面での活性を示し、一方器物洗浄機の結果は、固/液界面(固体は、不溶性汚れ及び一般的器物を含む)に対する酵素活性を示す。これらの制限が伴っていても、安定化剤の存在及び非存在での残留酵素活性において、同じ傾向が観察されている。
【0268】
器物洗浄機試験により、食品汚れ微粒子が存在しているために完全には可溶化されず、器物面上の汚れと相互作用する酵素の固体‐溶液界面に本質的に関与する系において、器物面からの汚れ除去の度合いが明らかとなる。これらの結果は、酵素アッセイによる40分での30%を大きく超える残留酵素活性と共に、器物洗浄機試験における高いタンパク質除去効果によって示されるように、本発明における安定化酵素組成物を用いることで、
酵素活性の維持が向上されることを実証するものである。」

(4)本願発明の課題
本願発明の課題は、【0009】及び明細書全体の記載からみて、「組成物の保存及び/又は輸送が制限されない、高い温度及びpHの使用条件下で適切な酵素安定性を維持することができる、安定化された使用溶液を作製するのに適している、プロテアーゼ酵素及び安定化剤を有する固体安定化洗剤組成物を提供すること」にあるものと認められる。

(5) 対比・判断
ア 前提
本願発明の課題は、上記(4)のとおりであるから、本願発明に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するには、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、本願発明に係る多目的固体洗剤組成物が、高い温度及びpHの使用条件下で適切な酵素安定性を維持することができる、安定化された使用溶液を作製するのに適している、プロテアーゼ酵素及び安定化剤を有する固体安定化洗剤組成物を提供できることを当業者が理解できることが必要である。
以下、この点について検討する。

イ 判断
発明の詳細な説明中に、本願発明の多目的固体洗剤組成物が、60質量%から85質量%のアルカリ金属炭酸塩アルカリ性源を含むこと、0.01質量%から10質量%のプロテアーゼ酵素を含むこと、0.01質量%から30質量%のカゼイン及びゼラチンを含む、安定化剤を含むこと、前記洗剤組成物に含まれるリンの量は0.5質量%未満であり、前記洗剤組成物に含まれるNTAの量は0.5質量%未満であること、前記洗剤組成物は固体ブロックの形態であること、前記洗剤組成物の使用溶液は、少なくとも9のアルカリ性pHを有していることについて、一般的な記載はあるものの(摘記ア?カ)、具体的な裏付けのある実施例は記載されていない。
すなわち、実施例5、6には、洗剤組成物の使用溶液は、65?80℃の温度にて、少なくとも20分間にわたって少なくとも30%のプロテアーゼ酵素活性を維持することは、記載されているものの(摘記ク)、洗剤組成物が、60質量%から85質量%のアルカリ金属炭酸塩アルカリ性源を含むこと、0.01質量%から10質量%のプロテアーゼ酵素を含むこと、0.01質量%から30質量%のカゼイン及びゼラチンを含む、安定化剤を含むこと、前記洗剤組成物に含まれるリンの量は0.5質量%未満であり、前記洗剤組成物に含まれるNTAの量は0.5質量%未満であること、前記洗剤組成物は固体ブロックの形態であること、前記洗剤組成物の使用溶液は、少なくとも9のアルカリ性pHを有しているものであるのかは不明である。
また、実施例1には、配合例4としてプロテアーゼ酵素やカゼイン及びゼラチンを含む加水分解タンパク質を含む使用溶液が記載されているものの(摘記キ)、カゼイン及びゼラチンを含む加水分解タンパク質の配合量からみて、本願発明とは各成分の配合比が相違しており、しかも、酵素安定性の維持性能に劣るものである。
そうすると、発明の詳細な説明には、本願発明の規定を満たす多目的固体洗剤組成物を用いて洗浄を行った例は記載されていない。
そして、発明の詳細な説明には、当該本願発明の規定を満たす多目的固体洗剤組成物がどのような原理によって前記課題を解決することになるのかといった作用機序が記載されていない。
また、本願発明の規定を満たす多目的固体洗剤組成物であれば前記課題を解決できることが、本願出願時の技術常識に照らしても自明なものともいえない。
この点、請求人は、令和2年1月23日提出の意見書において実施例5及び6のベースとされた処方を開示しているものの、発明の詳細な説明には、実施例5及び6のベースに関しての記載は全く見当たらず、請求人は、なぜ当該処方が実施例5及び6のベースに該当するのみであるか釈明をしていない。よって、当該処方は、発明の詳細な説明に基づき、本願出願時の技術常識に照らせば、本願発明が課題を解決できることを裏付けるためのものではなく、全く新しい実施例を提出して、本願発明の効果を説明するものであるから、参酌すべきものではない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲を超えていると認められる。
よって、本願は、サポート要件に適合するものではない。

(6)審判請求人の主張について
請求人は、令和2年1月23日提出の意見書において、当該意見書で開示されたベースとなる処方に基づいて、上記の実施例の記載、特に実施例5及び6は、本願請求項1に記載する固体洗剤組成物が本願発明の課題を解決するものであることを実証しており、したがって、本願発明は、明細書の詳細な発明に記載された発明である旨を主張する。

しかし、本願発明が明細書の記載に十分サポートされていないのは、上記(5)イのとおりである。
そして、出願後にデータを提出してサポート要件に適合させることは原則として認められないのは、上記(5)イのとおりである。

(7)サポート要件についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、この出願の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。

(2)特許請求の範囲の記載について
上記「第2」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載について
本願の発明の詳細な説明の記載は上記1(3)のとおりである。

(4)判断
発明の詳細な説明中に、「多目的固体洗剤組成物であって:
60質量%から85質量%のアルカリ金属炭酸塩アルカリ性源;
0.01質量%から10質量%のプロテアーゼ酵素;
0.01質量%から30質量%のカゼイン及びゼラチンを含む、安定化剤;及び

を含み;
前記洗剤組成物に含まれるリンの量は0.5質量%未満であり、前記洗剤組成物に含まれるNTAの量は0.5質量%未満であり、
前記洗剤組成物は固体ブロックの形態であり;
前記洗剤組成物の使用溶液は、少なくとも9のアルカリ性pHを有し;及び
前記使用溶液は、65?80℃の温度にて、少なくとも20分間にわたって少なくとも30%のプロテアーゼ酵素活性を維持する、
多目的固体洗剤組成物。」として、具体的な記載は無い(理由1(3)ア?キ参照)。
そして、発明の詳細な説明に、当該本願発明の規定を満たす多目的固体洗剤組成物がどのような原理によって、前記洗剤組成物の使用溶液が、65?80℃の温度にて、少なくとも20分間にわたって少なくとも30%のプロテアーゼ酵素活性を維持することを満たすことに関する理論的な説明は一切記載されておらず、前記洗剤組成物の使用溶液が、65?80℃の温度にて、少なくとも20分間にわたって少なくとも30%のプロテアーゼ酵素活性を維持することを満たすこととベースとなる処方とが密接に関連するとの技術常識を踏まえると、「多目的固体洗剤組成物であって:
60質量%から85質量%のアルカリ金属炭酸塩アルカリ性源;
0.01質量%から10質量%のプロテアーゼ酵素;
0.01質量%から30質量%のカゼイン及びゼラチンを含む、安定化剤;及び

を含み;
前記洗剤組成物に含まれるリンの量は0.5質量%未満であり、前記洗剤組成物に含まれるNTAの量は0.5質量%未満であり、
前記洗剤組成物は固体ブロックの形態であり;
前記洗剤組成物の使用溶液は、少なくとも9のアルカリ性pHを有し;及び
前記使用溶液は、65?80℃の温度にて、少なくとも20分間にわたって少なくとも30%のプロテアーゼ酵素活性を維持する、
多目的固体洗剤組成物。」を当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができるとはいえない。

(5)審判請求人の主張について
請求人は、令和2年1月23日提出の意見書において、発明の詳細な説明の記載、特に実施例5及び6は、実施可能な程度に明確かつ十分に記載している旨を主張する。
しかし、発明の詳細な説明の記載が、本願発明を実施可能な程度に明確かつ十分に記載されていないのは、上記(4)のとおりである。

(6)実施可能要件についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、同法第49条の規定により、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-11 
結審通知日 2020-03-17 
審決日 2020-03-31 
出願番号 特願2016-553256(P2016-553256)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C11D)
P 1 8・ 537- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古妻 泰一  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
瀬下 浩一
発明の名称 多目的酵素洗剤及び使用溶液を安定化する方法  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 青木 篤  
代理人 南山 知広  
代理人 胡田 尚則  
代理人 鶴田 準一  
代理人 三橋 真二  
代理人 高橋 正俊  

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