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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A24F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A24F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A24F
管理番号 1365362
審判番号 不服2019-4343  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-03 
確定日 2020-08-13 
事件の表示 特願2016-189525「喫煙材の加熱」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月26日出願公開、特開2017- 18138〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)8月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年9月6日 ロシア、2012年4月23日 英国、2012年6月15日 ロシア)を国際出願日とする特願2014-527606号の一部を平成28年9月28日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年9月30日 手続補正書(自発)の提出
平成29年7月19日付け 拒絶理由通知書
平成29年10月25日 意見書、手続補正書の提出
平成30年3月19日付け 拒絶理由通知書
平成30年6月27日 意見書、手続補正書の提出
平成30年11月26日付け 拒絶査定
平成31年4月3日 審判請求書、手続補正書の提出
平成31年4月19日 手続補正書(審判請求の請求の理由を補充するもの)

第2 平成31年4月3日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年4月3日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は補正箇所である。)。

「【請求項1】
喫煙材の少なくとも1つの成分を揮発させるために喫煙材を加熱するように構成されたヒーターを含み、該ヒーターは、第1の加熱シリンダーと第2の加熱シリンダーとを含み、前記第1加熱シリンダーは、その内部に配置された喫煙材の第1の領域を加熱するように構成され、前記第2加熱シリンダーは、その内部に配置された喫煙材の第2の領域を加熱するように構成され、前記第1加熱シリンダーと前記第2加熱シリンダーとは軸方向に位置合わせされており、各加熱シリンダーの横方向に延びた面は、その隣接する加熱シリンダーの横方向に延びた面に接触し、
さらに、前記第1加熱シリンダーと前記第2加熱シリンダーの内部に、喫煙材加熱チェンバーが画定され、該加熱チェンバーは喫煙材を取り外し可能に収容するように構成され、前記第1加熱シリンダーと前記第2加熱シリンダーは、喫煙材の第1の領域と喫煙材の第2の領域を独立して加熱するために、順々に作動させるように構成されている装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の平成30年6月27日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
喫煙材の少なくとも1つの成分を揮発させるために喫煙材を加熱するように構成されたヒーターを含み、該ヒーターは、第1の加熱シリンダーと第2の加熱シリンダーとを含み、前記第1加熱シリンダーは、その内部に配置された喫煙材の第1の領域を加熱するように構成され、前記第2加熱シリンダーは、その内部に配置された喫煙材の第2の領域を加熱するように構成され、前記第1加熱シリンダーと前記第2加熱シリンダーとは軸方向に位置合わせされており、
さらに、前記第1加熱シリンダーと前記第2加熱シリンダーの内部に、喫煙材加熱チェンバーが画定され、該加熱チェンバーは喫煙材を取り外し可能に収容するように構成され、前記第1加熱シリンダーと前記第2加熱シリンダーは、喫煙材の第1の領域と喫煙材の第2の領域を独立して加熱するために、順々に作動させるように構成されている装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1を特定するために必要な事項である「第1加熱シリンダー」及び「第2加熱シリンダー」について、「各加熱シリンダーの横方向に延びた面は、その隣接する加熱シリンダーの横方向に延びた面に接触」することの限定を付加する補正であって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の請求項1に関する本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

そこで、本件補正によって補正された請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について、以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である国際公開第2011/063970号には、図面とともに以下の記載がある(訳は、引用例のパテントファミリーである特表2013-511962号公報の記載に基づいて当審が作成したものである。また、下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)。

ア 引用例の記載
a)" 1. An electrically heated smoking system (103, 203) for receiving an aerosol-forming substrate (105, 205) the system comprising a heater for heating the substrate to form the aerosol, ...and the heating element is positioned towards the downstream end of the aerosol-forming substrate. "(20ページ2ないし8行)
(訳:1.エアロゾル形成基材(105、205)を収容する電気加熱式喫煙システム(103、203)は、前記基材を加熱して前記エアロゾルを生じさせるヒータを備え、前記ヒータは、加熱素子(113、213)を備え、前記電気加熱式喫煙システム(103、203)及び前記加熱素子(113、213)は、前記エアロゾル形成基材(105、205)が前記電気加熱式喫煙システムに収容される場合、前記加熱素子(113、213)が前記エアロゾル形成基材の長さに沿った一部の距離だけ延び、前記加熱素子が前記エアロゾル形成基材の下流端部の方へ位置決めされるように配置される、電気加熱式喫煙システム。)

b)" 9. An electrically heated smoking system according to any one of claims 1 to 3, ...and to be upstream of the first heating element (213). " (21ページ2ないし6行)
(訳:9.前記ヒータは、前記エアロゾル形成基材(205)が前記電気加熱式喫煙システムに収容される場合、前記エアロゾル形成基材の長さに沿った一部の距離だけ延び、前記第1の加熱素子(213)の上流側にある、第2の加熱素子(214)を更に備える、請求項1?請求項3のいずれかに記載の電気加熱式喫煙システム。)

c)" In one embodiment of the electrically heated smoking system, the heater further comprises a second heating element arranged, when the aerosol-forming substrate is received in the electrically heated smoking system: ... However, any separation between the first and second heating elements may be used, provided the first and second heating elements are not in electrical contact with each other. "(4ページ下から6行ないし5ページ18行)
(訳:電気加熱式喫煙システムの1つの実施形態において、ヒータは、エアロゾル形成基材が電気加熱式喫煙システムに収容された場合、エアロゾル形成基材の長さlに沿って部分的に距離yだけ延び、第1の加熱素子の上流に配置される第2の加熱素子を更に備える。第1の加熱素子、第2の加熱素子、又は両方の加熱素子は、エアロゾル形成基材の周囲に実質的に完全に又は部分的に広がることができる。別の実施形態において、ヒータは、エアロゾル形成基材が電気加熱式喫煙システムに収容され場合、エアロゾル形成基材の長さlに沿って部分的に距離yだけ延びる第2の加熱素子を更に備える。第2の加熱素子を第1の加熱素子の上流に配置すると、エアロゾル形成基材の別の場所を別の時間に加熱できる。このことは、例えばユーザが喫煙行動を中止及び再開したいと望む場合にエアロゾル形成基材は再加熱する必要がないので、やはり好都合である。更に、2つの別個の加熱素子を配置すると、エアロゾル形成基材に沿う温度勾配の制御、従ってエアロゾル発生の制御をより直接的に行うことができる。加熱素子は独立に制御可能であることが好ましい。更に別の加熱素子を第1の加熱素子と第2の加熱素子との間に設けることができる。例えば、ヒータは、3個、4個、5個、6個、又はそれ以上の加熱素子を備えることができる。第1の加熱素子と第2の加熱素子との間の隔離距離は、約0.5mmに等しいか又はそれ以上とすることが好ましい。つまり、第1の加熱素子の上流端部と第2の加熱素子の下流端部の間の隔離距離は、約0.5mmに等しいか又はそれ以上とすることが好ましい。しかしながら、第1の加熱素子と第2の加熱素子が相互に電気接触しない限りにおいて、第1の加熱素子と第2の加熱素子の間は任意の隔離距離を使用できる。)

d)"Each heating element may be in the form of a ring extending substantially partially or fully around the circumference of the aerosol-forming substrate. ... In composite materials, the electrically resistive material may optionally be embedded in, encapsulated or coated with an insulating material or vice-versa, depending on the kinetics of energy transfer and the external physicochemical properties required. " (6ページ下から6行ないし7ページ19行)
(訳:各加熱素子は、エアロゾル形成基材の周囲に実質的に完全に又は部分的に広がるリングの形態とすることができる。各加熱素子の位置は電気加熱式喫煙システムに対して、従ってエアロゾル形成基材に対して固定されることが好ましい。ヒータは、エアロゾル形成基材の上流端部を加熱する端部をもたないことが好ましい。このことはエアロゾル形成基材の上流端部に非加熱部をもたらす。各加熱素子は電気抵抗材料を含むことが好ましい。各加熱素子は、例えば、酸化アルミニウム(Al_(2)0_(3))及び窒化ケイ素(Si_(3)N_(4))等のセラミック焼結材料、又はプリント基板又はシリコンゴムの非弾性材料を含むことができる。もしくは、各加熱素子は、例えば、鉄合金又はニッケル・クロム合金の弾性金属材料を含むことができる。他の最適な電気抵抗材料としては、ドープセラミックス等の半導体、導電セラミックス(例えば、二珪化モリブデン)、炭素、黒鉛、金属、金属合金、及びセラミック材料と金属材料の複合材料を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。この複合材料は、ドープセラミックス又は非ドープセラミックスを含むことができる。適切なドープセラミックスの例としてはドープ炭化ケイ素を挙げることができる。適切な金属の例としては、チタニウム、ジルコニウム、タンタル、及び白金族の金属を挙げることができる。適切な金属合金の例としてはステンレス鋼、ニッケル合金、コバルト合金、クロム合金、アルミニウム-チタニウム-ジルコニウム合金、ハフニウム合金、ニオブ合金、モリブデン合金、タンタル合金、タングステン合金、スズ合金、ガリウム合金、及びマンガン合金、及びニッケル、鉄、コバルト、ステンレス鋼、Timetal(登録商標)、及び鉄-マンガン-アルミニウムベース合金をベースにした超合金を挙げることができる。Timetal(登録商標)は、Titaniumu Metals Corporation(1999 Broadway Suite 4300,Denver,Colorado)の登録商標である。複合材料において、電気抵抗材料は、所要のエネルギ伝達動力学及び外部物理化学的特性に応じて、随意的に絶縁材料に埋め込む、カプセル化する、又はコーティングすることができ、逆もまた同様である。)

e)"In addition to the heating element or elements, the atomiser may include one or more electromechanical elements such as piezoelectric elements. ... In that case, the substrate may form part of a separate smoking article and the user may puff directly on the smoking article. "(9ページ7ないし17行)
(訳:加熱素子に加えて、アトマイザは圧電素子等の1つ又はそれ以上の電気機械素子を含むことができる。別の方法として又は追加的に、アトマイザは、静電気、電磁気、又は空圧作用を利用する素子を含むこともできる。電気加熱式喫煙システムは、更に凝縮チャンバを備えることができる。もしくは、エアロゾル形成基材は、例えば、ガス基材、又は他の種々の形式の基材の組み合わせである、任意の他の種類の基材とすることができる。使用時に、基材は電気加熱式喫煙システム内に完全に収容できる。この場合、ユーザは電気加熱式喫煙システムのマウスピース上で吸煙することができる。もしくは、使用時に、基材は電気加熱式喫煙システム内に部分的に収容できる。この場合、基材は、別々の喫煙物品の一部を形成でき、ユーザは、喫煙物品上で直接吸煙できる。)

f)「図2




g)" Figure 2 shows a smoking article201 received in an electrically heated smoking system 203 according to a second embodiment of the invention.... In other words the upstream end 223 of the first heating element 213 is separated from the downstream end 229 of the second element 214 by a distance s. "(12ページ下から1行ないし14ページ21行)
(訳:図2は、本発明の第2の実施形態による電気加熱式喫煙システム203に収容される喫煙物品201を示す。本実施形態において、図1と同様に、喫煙物品201は細長い円筒形であり、連続的に配置され同軸に位置合わせされた、エアロゾル形成基材205及びフィルタプラグ207を備える。構成要素205及び207は、外側包装紙209で包装されている。本実施形態において、エアロゾル形成基材205は、固体基材の円筒形プラグの形態である。プラグの長さlは、喫煙物品の長さに対して略平行であり、同様にユーザが喫煙物品を吸煙する場合の電気加熱式喫煙システム内の空気流(図示せず)の方向に対して略平行である。プラグの周囲は長さに対して略直交する。フィルタプラグ207は、喫煙物品201の下流端部に配置され、本実施形態においはエアロゾル形成基材205から隔離距離211だけ離間している。前述のように、本発明では種々の形式喫煙物品を使用できる。喫煙物品は、図2に示す形態である必要はない。例えば、喫煙物品は、エアロゾル形成基材がその周囲に略直交する長さをもつ必要はない。図2に示す第2の実施形態において、電気加熱式喫煙システム203は、第1の加熱素子213及び該第1の加熱素子の上流の第2の加熱素子214を有するヒータを備える。本実施形態において、加熱素子213及び214はリング状である。つまり、ヒータは外部加熱素子である。加熱素子は抵抗であり、電流が加熱素子を流れると発熱する。図2において、喫煙物品201の上流端部は215で表記され、喫煙物品の下流端部は217で表記される。更に、エアロゾル形成基材の上流端部は219で表記され、エアロゾル形成基材の下流端部は221で表記される。更に、第1の加熱素子213の上流端部は223で表記され、第1の加熱素子213の下流端部は225で表記される。最後に、第2の加熱素子214の上流端部は227で表記され、第2の加熱素子214の下流端部は229で表記される。別の実施形態において、1つ又はそれ以上のヒータは内部ヒータとすることができる。内部ヒータはエアロゾル形成基材内に設置され、例えば、本出願人の同時係属出願の2009年10月29日出願の欧州特許出願番号09252501.3であり、その開示内容は引用により本明細書に組み込まれている。内部ヒータは図6から11を参照して以下に説明する方法で製造できる。別の実施形態において、ヒータは、エアロゾル形成基材内に設置され内部ヒータとして使用される温度センサを含むことができる。適切な内部ヒータの一例は、内部ヒータとして使用可能なPT抵抗温度センサである。PT抵抗温度センサは、Heraeus Sensor Technology(Reinhard-Heraeus-Ring,23D-63801,Kleinostheim,Germany)が製造している。2つのヒータは、互いに隣接して設置することができ、ホルダー内の所定位置に固定又は保持され、第1の加熱素子213及び該第1の加熱素子の上流の第2の加熱素子214を形成するようになっている。内部及び外部ヒータに関して、第1の加熱素子213の幅はx、第2の加熱素子214の幅はyである。本実施形態において、加熱素子213及び214は、同じ直径hをもつが、直径は同じである必要はない。加熱素子213及び214は、エアロゾル形成基材205の円筒形プラグの周囲を実質的に取り囲んで延びることができる。もしくは、前述のように、1つ又はそれ以上の加熱素子は、エアロゾル形成基材の内部に挿入された内部ヒータとすることができる。しかしながら、各加熱素子は、エアロゾル形成基材205の円筒形プラグの長さlに沿ってその一部だけに延びる。つまり、第1の加熱素子213の幅xはエアロゾル形成基材205のプラグの長さlよりも短く、第2の加熱素子214の幅yもエアロゾル形成基材205のプラグの長さlよりも短い。更に、両方の加熱素子は、全体としてエアロゾル形成基材205の円筒形プラグの長さに沿ってその一部だけを延びる。つまり、(x+y)はエアロゾル形成基材205のプラグの長さlよりも短い。第1の加熱素子213は、エアロゾル形成基材205の下流端部221の方へ位置決めされ、第2の加熱素子214は第1の加熱素子213の上流側にあり、第1の加熱素子から距離sだけ離れている。換言すると、第1の加熱素子213の上流端部223は、第2の加熱素子214の下流端部229から距離sだけ離れている。)

h)"In order to maximise g, so as to provide an efficient filtration zone and, at the same time, minimise f, so as to reduce the power requirements, the separation s of the heating elements 213, 214 should be minimised. ... the separation s between the upstream end 223 of the first heating element 213 and the downstream end 229 of the second heating element 214 should be greater than or equal to about 0.5 mm. "(15ページ下から7行ないし下から1行)
(訳:効率的な濾過ゾーンを提供するようにgを最大にすると共に、電力要求を低減するようにfを最小にするために、加熱素子213、214の隔離距離sは最小にする必要がある。しかしながら、前述のように、sはゼロまで低減してはいけないことが分かっている。実際には、喫煙行動の利点を最大にするために、第1の加熱素子213の上流端部223と第2の加熱素子214の下流端部229との間の隔離距離sは、0.5mmに等しいかそれよりも大きいことが必要である。)

i)「図3



j)"Figure 3 is a detailed view of a cross-section of an external heating element according to one embodiment of the invention. ... In the case in which there is no paper wrapper, the heatingelement 113, 213, 214 may be in physical contact with aerosol forming substrateto directly transfer heat to the aerosol forming substrate. "(16ページ8行ないし下から5行)
(訳:図3は、本発明の1つの実施形態による外部加熱素子の詳細断面図である。図4は、本発明の1つの実施形態の外部加熱素子の平らに広げた詳細図である。図5は、本発明の別の実施形態の外部加熱素子の平らに広げた詳細図である。図3,4、及び5の外部加熱素子は、図1及び図2の実施形態と共に使用できる。明瞭化のために図1、2、3、4、及び5のスケール比は同じではないことに留意されたい。図3は外部加熱素子113、213、214を通る断面である。図3に示すように、加熱素子113、213、214は直径hの不完全なリング状とすることができる。電圧V+の電気接続点はAであり、電圧V-の電気接続点はBである。リングは不完全であり、間隙又は隔離距離を形成して電気接続点A、Bを提供できる。図3において、2つの接続点AとBの間の間隙は、明瞭化のために誇張されている。しかしながら、2つの接続点の間隙又は間隔は、可能な限り小さいことが好ましいが、2つの接続点の電気的短絡は許されない。2つの接続点の間隙は0.5mm又は1mmとすることができる。図3において、エアロゾル形成基材105、205は、外部加熱素子の内部又はその内側に配置できる。図3において、エアロゾル形成基材105、205は、包装紙109、209で取り囲まれる。しかしながら、これは実際には任意である。エアロゾル形成基材が外側包装紙で取り囲まれる場合、加熱素子は、外側包装紙に対して物理的に接触でき、包装紙を介してエアロゾル形成基材に熱を効率的に伝達できる。包装紙が無い場合、加熱素子113、213、214はエアロゾル形成基材に対して物理的に接触でき、エアロゾル形成基材に直接的に熱を伝達する。)

k)"The provision of two heating elements in the embodiment of Figure 2 allows the user to stop and resume the smoking experience without needing to reheat any portion of the substrate. ... This method allows a fresh portion of the substrate to be heated for each heating sequence. One or more further heating elements may be provided between the downstream heating element and the upstream heating element."(17ページ下から11行ないし18ページ3行)
(訳:図2の実施形態の2つの加熱素子を備えると、ユーザは、基材のいずれかの部位を再加熱することなく、喫煙行動を中止及び再開することができる。1つの可能な使用方法を以下に示す。最初に、第1の加熱素子213(下流側)を喫煙行動の開始時に作動させる。その後、加熱素子213は以下の1つの事象で作動停止する。1)第1の加熱素子213の吸煙回数が所定の制限に達する。2)ユーザが喫煙行動を終了する。又は3)喫煙物品201が電気加熱式喫煙システム203から取り外される。その後、第2の加熱素子214(上流側)は以下の1つの事象で作動できる。1)ユーザが短時間の又は長時間の中断後に喫煙行動を再開したいと希望する。2)第1の加熱素子213の吸煙回数が所定の制限に達しているので、基材の新しい部位を加熱開始するために第2の加熱素子214を作動させる必要がある。この方法により各加熱シーケンスにおいて基材の新鮮な部位を加熱することが可能になる。下流側加熱素子と上流側加熱素子との間に、1つ又はそれ以上の別の加熱素子を設けることができる。)

l)上記f)の図2及び上記a)ないしc)の記載から、第1の加熱素子213(下流側)は、エアロゾル形成基材の一部分を加熱するとともに、第2の加熱素子214(上流側)は、その内側に配置されたエアロゾル形成基材の前記一部分とは異なる部分を加熱するように構成されていることが分かる。

m)上記f)の図2及び上記a)ないしc)の記載から、第1の加熱素子と第2の加熱素子とは、それぞれ上流側と下流側に並んで配置されていることが分かる。

n)上記i)の図3及び上記j)の記載から、リング状の第1の加熱素子及び第2の加熱素子は内側に空間を有しており、該空間においてエアロゾル形成基材を収容することが分かる。

o)上記c)及びk)の記載から、第1の加熱素子によるエアロゾル形成基材の下流の部分における加熱の後、第2の加熱素子により前記下流の部分とは異なる上流の部分の加熱を作動させることが分かる。

p)上記c)の記載「加熱素子は独立に制御可能であることが好ましい。」から、「第1の加熱素子」と「第2の加熱素子」とはそれぞれ独立して制御可能であることが分かる。

イ 引用発明
上記ア及び図面の記載からみて、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「エアロゾル形成基材を加熱してエアロゾルを生じさせるためのヒータを備え、
前記ヒータは、リング状の第1の加熱素子及び第2の加熱素子であり、
前記第1の加熱素子は、内側に配置されたエアロゾル形成基材の一部分を加熱するように構成され、前記第2の加熱素子は、内側に配置された前記エアロゾル形成基材の前記一部分とは異なる部分を加熱するように構成され、
前記第1の加熱素子は下流側、前記第2の加熱素子は上流側となるように並んで配置されており、
前記第1の加熱素子の上流端部と前記第2の加熱素子の下流端部の間の隔離距離は、相互に電気接触しない距離であって、
さらに、リング状の前記第1の加熱素子及び前記第2の加熱素子の内側に空間を有しており、該空間において前記エアロゾル形成基材を収容するように構成され、
前記第1の加熱素子と前記第2の加熱素子とはそれぞれ独立して制御可能であって、
前記第1の加熱素子による前記エアロゾル形成基材の前記一部分における加熱の後、前記第2の加熱素子による前記一部分とは異なる部分の加熱を開始させるように構成されている電気加熱式喫煙システム。」

(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「エアロゾル形成基材」は、本願補正発明における「喫煙材」に相当し、以下同様に、「エアロゾルを生じさせる」は「喫煙材の少なくとも1つの成分を揮発させる」に、「ヒータ」は「ヒーター」に、「備え」は「含み」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「エアロゾル形成基材を加熱してエアロゾルを生じさせるためのヒータ」は、「エアロゾルを生じさせるため」に「エアロゾル形成基材を加熱」するように構成された「ヒータ」に他ならないから、本願補正発明における「喫煙材の少なくとも1つの成分を揮発させるために喫煙材を加熱するように構成されたヒーター」に相当する。

イ 引用発明における「第1の加熱素子」、及び「第2の加熱素子」は、リング状の形状を有するものであるから、それぞれ本願補正発明における「第1の加熱シリンダー」、及び「第2の加熱シリンダー」に相当し、引用発明における「内側」は本願補正発明における「内部」に相当し、以下同様に、「一部分」は「第1の領域」に、「一部分とは異なる部分」は「第2の領域」に、それぞれ相当する。

ウ 引用発明における「前記第1の加熱素子は下流側、前記第2の加熱素子は上流側となるように並んで配置されて」いることは、上記(2)ア f)の図2を併せて参照すると、「上流側」、「下流側」は「第1の加熱素子」、「第2の加熱素子」における軸方向であるから、本願補正発明における「前記第1加熱シリンダーと前記第2加熱シリンダーとは軸方向に位置合わせされて」いることに相当する。

エ 引用発明における「空間」は、「第1加熱シリンダー」と「第2加熱シリンダー」の内側に設けられ、「エアロゾル形成基材」を収容するものであるから、本願補正発明における「喫煙材加熱チェンバー」に相当し、引用発明における「リング状の前記第1の加熱素子及び前記第2の加熱素子の内側に空間を有」することは、本願補正発明における「前記第1加熱シリンダーと前記第2加熱シリンダーの内部に、喫煙材加熱チェンバーが画定され」ることに相当する。
そして、引用発明における「該空間において前記エアロゾル形成基材を収容するように構成され」ることと、本願補正発明における「該加熱チェンバーは喫煙材を取り外し可能に収容するように構成され」ることとは、「該加熱チェンバーは喫煙材を収容するように構成され」るという限りにおいて一致する。

オ 引用発明における「前記第1の加熱素子と前記第2の加熱素子とはそれぞれ独立して制御可能であって、前記第1の加熱素子による前記エアロゾル形成基材の前記一部分における加熱の後、前記第2の加熱素子による前記一部分とは異なる部分の加熱を開始させるように構成されている」ことは、「第1の加熱素子」による加熱の後、「第2の加熱素子」による加熱を独立して順に開始することであるから、本願補正発明における「前記第1加熱シリンダーと前記第2加熱シリンダーは、喫煙材の第1の領域と喫煙材の第2の領域を独立して加熱するために、順々に作動させるように構成されている」ことに相当する。

カ 引用発明における「電気加熱式喫煙システム」は、「第1の加熱装置」及び「第2の加熱装置」からなる「ヒータ」を有するものであって、本願補正発明における「装置」に相当する。

したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「喫煙材の少なくとも1つの成分を揮発させるために喫煙材を加熱するように構成されたヒーターを含み、該ヒーターは、第1の加熱シリンダーと第2の加熱シリンダーとを含み、前記第1加熱シリンダーは、その内部に配置された喫煙材の第1の領域を加熱するように構成され、前記第2加熱シリンダーは、その内部に配置された喫煙材の第2の領域を加熱するように構成され、前記第1加熱シリンダーと前記第2加熱シリンダーとは軸方向に位置合わせされており、
さらに、前記第1加熱シリンダーと前記第2加熱シリンダーの内部に、喫煙材加熱チェンバーが画定され、該加熱チェンバーは喫煙材を収容するように構成され、前記第1加熱シリンダーと前記第2加熱シリンダーは、喫煙材の第1の領域と喫煙材の第2の領域を独立して加熱するために、順々に作動させるように構成されている装置。」

[相違点1]
本願補正発明においては、「各加熱シリンダーの横方向に延びた面は、その隣接する加熱シリンダーの横方向に延びた面に接触」するのに対して、引用発明においては、「前記第1の加熱素子の上流端部と前記第2の加熱素子の下流端部の間の隔離距離は、相互に電気接触しない距離」である点。

[相違点2]
「該加熱チェンバーは喫煙材を収容するように構成され」ることに関して、本願補正発明においては、「該加熱チェンバーは喫煙材を取り外し可能に収容するように構成」されるのに対して、引用発明においては、「該空間において前記エアロゾル形成基材を収容するように構成され」るものの、該空間において、前記エアロゾル形成基材を取り外し可能に収容するか不明である点。

以下、相違点について検討する。

[相違点1について]
引用例には、「電気抵抗材料は、所要のエネルギ伝達動力学及び外部物理化学的特性に応じて、随意的に絶縁材料に埋め込む、カプセル化する、又はコーティングすることができ、」と記載(上記(2)ア d)を参照。)され、第1の加熱素子及び第2の加熱素子が絶縁材料でコーティングされたものであることについての示唆がされていること、及び、特表2011-515080号公報における段落【0020】、特開平5-115272号公報における段落【0017】、特開2011-135901号公報における段落【0042】の記載などを併せてみれば、電気加熱式の喫煙具におけるヒーターを絶縁材料により被覆された電気抵抗材料で形成することは本願の優先日前において周知技術(以下、「周知技術1」という。)であって、ヒーターを絶縁材料により被覆することは、ヒーター同士のみならずヒーターと他の部材との電気接触による不具合を防止するためであることは技術常識からみて明らかである。
さらに、引用例には、「加熱素子213、214の隔離距離sは最小にする必要がある。」と記載(上記(2)ア h)を参照。)されているから、加熱素子213、214の隔離距離をできるだけ小さくすることについて示唆されている。
そうすると、引用発明において、第1の加熱素子と第2の加熱素子あるいは第1の加熱素子、第2の加熱素子と他の部材との電気接触を防止するために周知技術1を適用して、第1の加熱素子と第2の加熱素子とが絶縁材料の被覆を備えるものとすることに困難性はなく、さらに、第1の加熱素子と第2の加熱素子とを絶縁材料で被覆されたものとすれば、両者が接触したとしても電気接触が発生しないことは明らかであるから、加熱素子同士の隔離距離をできるだけ小さくすることが好ましいという上記引用例の記載による示唆に基づいて、第1の加熱素子の上流端部と第2の加熱素子の下流端部とを接触して配置することにより、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

[相違点2について]
引用例の記載「図2は、本発明の第2の実施形態による電気加熱式喫煙システム203に収容される喫煙物品201を示す。本実施形態において、図1と同様に、喫煙物品201は細長い円筒形であり、連続的に配置され同軸に位置合わせされた、エアロゾル形成基材205及びフィルタプラグ207を備える。」、「電気加熱式喫煙システム203は、第1の加熱素子213及び該第1の加熱素子の上流の第2の加熱素子214を有するヒータを備える。本実施形態において、加熱素子213及び214はリング状である。」(上記(2)ア g)を参照。)によると、喫煙物品201は、エアロゾル形成基材205を備えるとともに、電気加熱式喫煙システム203に収容されるものであり、第1の加熱素子及び第2の加熱素子は電気加熱式喫煙システム203が有するものである。
さらに、引用例の記載「3)喫煙物品201が電気加熱式喫煙システム203から取り外される。」(上記(2)ア k)を参照。)の記載から、喫煙物品201は、電気加熱式喫煙システム203から取り外し可能であるといえる。
そうすると、上記引用例の記載(上記(2)ア g)及びk))から、喫煙物品201が備えるエアロゾル形成基材205は、電気加熱式喫煙システム203が備える第1の加熱素子及び第2の加熱素子に対して取り外し可能に収容されるものといえるから、上記相違点2は実質的な相違点であるとはいえない。
仮に、上記相違点2が実質的な相違点であるとしても、ヒーターと喫煙材とを取り外し可能とすることは、本願の優先日前において周知技術(特開2011-135901号公報の図2及び図4、特開平5-115272号の図1及び図2など参照。以下、「周知技術2」という。)であり、引用発明において周知技術2を適用して、「リング状の前記第1の加熱素子及び前記第2の加熱素子の内側に」有する「空間」において「エアロゾル形成基材を取り外し可能に収容する」ようにすることにより、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願補正発明の効果は、全体としてみても、引用発明及び周知技術1、2から予測される範囲内であって格別顕著なものではない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1、または引用発明及び周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成30年6月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲における請求項1ないし15に記載されたとおりのものであるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1(2)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
(1)この出願の請求項1、2ないし4、8、9、11、14及び15に係る発明は、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用例1に記載された発明であるか、下記引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、または特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)この出願の請求項5ないし7、10、12及び13に係る発明は、本願の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用例一覧>
1.国際公開第2011/063970号
2.特表2010-506594号公報

3 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及びその記載事項は、前記第2 2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2 2で検討した本願補正発明から「第1加熱シリンダー」と「第2加熱シリンダー」についての「各加熱シリンダーの横方向に延びた面は、その隣接する加熱シリンダーの横方向に延びた面に接触」することの限定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明との相違点は、上記[相違点2]のみとなり、上記第2 2(3)における[相違点2について]の判断によると、本願発明は引用発明であるか、引用発明及び周知技術2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するか、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2020-01-31 
結審通知日 2020-02-25 
審決日 2020-03-09 
出願番号 特願2016-189525(P2016-189525)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A24F)
P 1 8・ 575- Z (A24F)
P 1 8・ 113- Z (A24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 光治沼田 規好  
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 紀本 孝
松下 聡
発明の名称 喫煙材の加熱  
代理人 森田 順之  
代理人 轟木 哲  

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