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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01Q |
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管理番号 | 1365455 |
審判番号 | 不服2020-456 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-01-14 |
確定日 | 2020-09-08 |
事件の表示 | 特願2015-164547「アンテナ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 2日出願公開、特開2017- 46028、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成27年8月24日の出願であって,平成31年3月20日付けで拒絶理由が通知され,平成31年4月25日に意見書が提出され,令和元年7月22日付けで拒絶理由が通知され,令和元年9月20日に意見書及び手続補正書が提出され,令和元年10月11日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年1月14日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(令和元年10月11日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・請求項 1,2,4,6-9 ・引用文献等 1-4 ・請求項 5 ・引用文献等 1-5 <引用文献等一覧> 1.国際公開第2007/105348号 2.特開2002-217635号公報 3.特開2005-94748号公報 4.特開2007-306198号公報 5.特開2003-318634号公報 第3 本願発明 本願請求項1-9に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は,令和元年9月20日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される以下の発明である。 「【請求項1】 基板と, 前記基板に実装された縦型コイル及び横型コイルと, 前記縦型コイルと前記横型コイルを電気的に接続する手段と,を備え, 前記縦型コイルは,巻芯部と,前記巻芯部の端部に設けられた鍔部と,前記巻芯部に巻回されたワイヤとを備え,コイル軸が前記基板の主面に対して垂直であり, 前記横型コイルは,巻芯部と,前記巻芯部の端部に設けられた鍔部と,前記巻芯部に巻回されたワイヤとを備え,コイル軸が前記基板の前記主面に対して水平であり, 前記縦型コイルの前記鍔部と前記横型コイルの前記鍔部は,前記横型コイルの前記コイル軸方向に対向していることを特徴とするアンテナ装置。 【請求項2】 前記縦型コイルの前記鍔部と前記横型コイルの前記鍔部との間に配置された磁性体をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。 【請求項3】 前記磁性体は,前記縦型コイルの周囲を取り囲む環状構造を有していることを特徴とする請求項2に記載のアンテナ装置。 【請求項4】 前記横型コイルを複数備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアンテナ装置。 【請求項5】 前記複数の横型コイルは,前記縦型コイルを中心として放射状に配置されていることを特徴とする請求項4に記載のアンテナ装置。 【請求項6】 前記接続する手段は,前記縦型コイルと前記複数の横型コイルを直列に接続することを特徴とする請求項4又は5に記載のアンテナ装置。 【請求項7】 前記縦型コイルを複数備えることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載のアンテナ装置。 【請求項8】 前記縦型コイルは,前記巻芯部の一方の端部に設けられた第1の鍔部と,前記巻芯部の他方の端部に設けられた第2の鍔部を含み,前記第1の鍔部が前記基板と対向するように実装され, 前記第2の鍔部の径は,前記第1の鍔部の径よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアンテナ装置。 【請求項9】 前記縦型コイルは,前記巻芯部の一方の端部に設けられた第1の鍔部と,前記巻芯部の他方の端部に設けられた第2の鍔部を含み,前記第1の鍔部が前記基板と対向するように実装され, 前記第2の鍔部は,非磁性材料からなることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアンテナ装置。」 第4 引用文献,引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2007/105348号(以下,「引用文献1」という。下線は当審が付与。)には, 「[0043] 図1はこの第一の実施形態に係る携帯電子機器の要部を示す図である。図1(A)は斜視図,図1(B)は平面図である。図2は,図1に示した携帯電子機器をRFIDのリーダ ・ライタにかざした状態の磁束経路の例を示す模式図である。 [0044] 第一の実施形態の携帯電子機器280は,回路基板100と,回路基板100上に搭載されたアンテナコイル200を備える。回路基板100は,例えば長手方向の長さ寸法90mm,短手方向の幅寸法45mmの矩形状からなる回路基板が用いられる。アンテナコイル200は,フェライト等の磁性体コア201と,磁性体コア201の外周に巻回されたコイル202を備えている。磁性体コア201としては,長手方向の長さ寸法45mm,短手方向の幅寸法5mm,厚さ寸法2.4mmでQ=100の直方体状のコアを用いた。コイル202は,磁性体コア201の長手方向中間部にコイル非巻回部203を設けるようにして第一のコイル部202aと第二のコイル部202bに分割して巻回された1つのコイルであり,第一のコイル部202aと第二のコイル部202bは巻回方向が互いに異なつている。また,コイル202は磁性体コア201の長手方向両端部をそれぞれ1mmずつ露出するようにコイル非巻回部203の両側に7ターンずつ巻回されたものを用いた。 [0045] また,コイル非巻回部 203における磁性体コア201は,回路基板100と向き合う側面および回路基板100に対し垂直方向の両側面に A1等の金属薄膜からなる電極204が形成されている。すなわち,電極204は,コイル非巻回部203における磁性体コア201の回路基板100と向き合う側面に対向する側面を除いてすベての側面に形成されている。なお,電極204が形成されない側面は,後述するリーダ・ライタからの磁束が進入するための側面である。 [0046] 図2において,図中のφはリーダ・ライタからの磁束を示している。通常,図2に示すように携帯電子機器280の金属筐体300の主面側がリーダ・ライタの主面に対して平行になるようにかざす。図2から明らかなように,アンテナコイル200は,中間部にコイル非巻回部203を備えているため,軸方向に対してほぼ直交する向きの磁束を捕らえて鎖交することができる。すなわち,アンテナコイル200は第一のコイル部202aと第二のコイル部202bの巻回方向が互いに異なっているため,コイル非巻回部 203に進入したリーダ・ライタからの磁束(磁性体コア201の軸方向と直交する向きの磁束)は,コイル202の軸方向に沿って磁束をほぼ90°曲げられて第一のコイル部202aと第二のコイル部202bへと進入する。これにより,コイル202は第一のコイル部202aと第二のコイル部202bのいずれにおいても磁性体コア201の軸方向と直交する向きの磁束であるリーダ・ライタからの磁束を捕らえて鎖交することができる。」 「[0064] また,第一の実施形態においては,磁性体コア201は直方体状とされたが,本発明はこの実施形態に限定されるものではなく,円柱状や三角柱状など,他の形状であっても良い。さらに,図7に示すように,磁性体コア201はコイル非巻回部203において厚さ寸法方向の凸部203aを有していても良く,該凸部203aには凸部コイル205が巻回されていても良い。この構成によれば,磁性体コア201の集磁力を高めてより多くの磁束をアンテナコイル201内へ導き入れることができるため,起電力を高めて通信感度をより一層高めることが可能となる。」 「[0074] (第三の実施形態) 第三の実施形態に係る携帯電子機器について図13に基づいて説明する。 [0075] 図13は第三の実施形態に係る携帯電子機器の要部を示す図である。図13 (A)は斜視図,図13 (B)は平面図である。 [0076] 図13 (A)に示すように,第三の実施形態の携帯電子機器480は,回路基板300と,回路基板300上に搭載されたアンテナコイル400を備える。回路基板300は,例えば長手方向の長さ寸法90mm,短手方向の幅寸法45mmの矩形状からなる回路基板が用いられる。アンテナコイル400は,そのコイル軸方向が回路基板300の短手方向と同じとなるように,回路基板300に配置されている。なお,ここで,アンテナコイルのコイル軸方向とは,後述する磁性体コアのコイル軸方向と同一である。そして,アンテナコイル400は,フェライト等から形成された第一の磁性体コア401aと第二の磁性体コア401bを備えている。」 「[0079] 以上のように構成されたアンテナコイル400は,第一の磁性体コア401aと第二の磁性体コア401bが,コイルの形成されていない間隙を設けて並置されているので,コィル軸方向に対してほぼ直交する向きの磁束を捕らえて鎖交することができる。すなわち,第一のコイル部402aと第二のコイル部402bの巻回方向が互いに異なっているため,第一の磁性体コア401aと第二の磁性体コア401bとの間の隙間に進入したリーダ・ライタからの磁束(コイル軸方向と直交する向きの磁束)は,第一の磁性体コア401aおよび第二の磁性体コア401bのコイル軸方向に沿って磁束をほぼ90°曲げられる。これにより,第一の磁性体コア401aと第二の磁性体コア401bのいずれにおいてもコイル軸方向と直交するリーダ・ライタからの磁束を捕らえて鎖交することができる。さらに,本実施形態のアンテナコイル400は,第一の磁性体コア401aと第二の磁性体コア401bとの間に間隙が形成されているので,回路基板300に設置される他の物品が突出していてもよいため,アンテナコイル400を搭載する回路基板300の設計上の自由度が増す。」 [図1] [図2] [図7] [図13] の記載があるから,引用文献1には, 「回路基板100上に搭載されたアンテナコイル200を備え, アンテナコイル200は,フェライト等の磁性体コア201と,磁性体コア201の外周に巻回されたコイル202を備え, コイル202は,磁性体コア201の長手方向中間部にコイル非巻回部203を設けるようにして第一のコイル部202aと第二のコイル部202bに分割して巻回された1つのコイルであり,第一のコイル部202aと第二のコイル部202bは巻回方向が互いに異なつており,コイル202は磁性体コア201の長手方向両端部をそれぞれ1mmずつ露出するようにコイル非巻回部203の両側に7ターンずつ巻回され, 磁性体コア201はコイル非巻回部203において厚さ寸法方向の凸部203aを有していても良く,該凸部203aには凸部コイル205が巻回されていても良く,磁性体コア201の集磁力を高めてより多くの磁束をアンテナコイル201内へ導き入れることができる, ことにより,コイル202は第一のコイル部202aと第二のコイル部202bのいずれにおいても磁性体コア201の軸方向と直交する向きの磁束であるリーダ・ライタからの磁束を捕らえて鎖交することができる アンテナコイル200。」(以下,「引用発明1」という。) が記載されている。 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-217635号公報(以下,「引用文献2」という。下線は当審が付与。)には, 「【0005】 【課題を解決するための手段】この目的を達成するために本発明のアンテナ装置は,3個のコイルが互いに垂直方向に直列接続されたものである。」 「【0033】(実施の形態1)図1は,実施の形態1における本発明のアンテナ装置の回路図である。図1において,本発明のアンテナ装置は,長波(LF)帯の略100KHzの電波を受信するものである。その構成は,縦54mm横86mmのプリント基板(板体の一例として用いた)上に形成されている。11はコイルであり,プリント基板の外周に沿って略125回巻いてある。また,このコイル11の線径は0.8mmである。 【0034】12はプリント基板に対して横向きに設けられたコイルであり,5mm×10mm×0.55mmの大きさのフェライトコア13に上記線径のコイルが略500回巻いてある。このコイル12はコイル11の内部に実装しているので,小型化を図ることができる。 【0035】14はプリント基板に対して縦向きに設けられたコイルであり,5mm×10mm×0.55mmの大きさのフェライトコア15に上記線径のコイルが略500回巻いてある。このコイル14もコイル11の内部に実装しているので,小型化を図ることができる。 【0036】そして,これらのコイル11,12,14は直列に接続されて,その両端には固定コンデンサ16が接続され,134KHzの周波数に共振する並列共振回路が形成されている。このコンデンサ16もコイル11の内部に実装しているので,小型化を図ることができる。」 【図1】 の記載があるから,引用文献2には, 「プリント基板の外周に沿って巻かれたコイル11と,プリント基板に対して横向きに設けられフェライトコア13に巻かれたコイル12と,プリント基板に対して縦向きに設けられフェライトコア15に巻かれたコイル14を互いに垂直方向に直列に接続する」 ことが記載されている。 3.引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-94748号公報(以下,「引用文献3」という。下線は当審が付与。)には, 「【0014】 [第1実施例,図1?図9] 図1はチップコイル型アンテナ1の外観斜視図であり,図2はその垂直断面図である。チップコイル型アンテナ1は,縦巻タイプのチップコイル5を備えている。チップコイル5は,下鍔部51aと胴部51bとからなる磁性体コア51と,胴部51bに巻回された巻線52と,上面が平面状の非磁性材53とで構成されている。 【0015】 磁性体コア51の胴部51bは底部が下鍔部51aに接合し,かつ,下鍔部51aに対して垂直に設けられている。つまり,チップコイル5は,胴部51bの開放上面51baを上側にして,磁束φを上方に開放する開磁路タイプのコイルであり,アンテナコイルとして機能する。」 の記載があるから,引用文献3には, 「下鍔部51aと胴部51bとからなる磁性体コア51と,胴部51bに巻回された巻線52と,上面が平面状の非磁性材53とで構成され,胴部51bの開放上面51baを上側にして,磁束φを上方に開放する開磁路タイプのチップコイル5」 が記載されている(以下,「引用文献3記載事項」という。)。 4.引用文献4について 原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-306198号公報(以下,「引用文献4」という。下線は当審が付与。)には, 「【0003】 上記の各種装置に用いられるアンテナのうち最も一般的なものは,棒状の焼成フェライトコアにコイルを巻き回したバーアンテナである。またかかるコイルアンテナを回路基板に実装する態様としては,従来のピン実装方式と比べてスルーホールの穿設が不要であり,また多層基板への配線自由度の向上と実装密度の増大が可能であることから,表面実装(サーフェイスマウント)方式が広く行われている。 【0004】 一方,コイルの特性を評価する指標としては,インダクタンス成分を抵抗成分で除したQ特性(Q値)が一般に用いられている。かかるQ値が大きいほどインダクタ効率が高く,共振回路においてはよりシャープな共振特性の得られるコイルといえる。表面実装型のコイルアンテナにおいては,焼成フェライトなどの磁性材料からなるコアの軸方向の両端にフランジ状の鍔部を設け,その底面に実装端子を設けることで,ランドパターンとハンダ等にて接合することが一般的である。このとき,通電されたコイルの発する磁束がランドパターンと面直に交わることで電磁誘導の作用によって渦電流が生じ,かかる渦電流の形成する磁束によってコイルのインダクタンス成分が毀損されるという,いわゆる渦電流損失の発生がQ特性を低下させる要因として問題となっている。渦電流損失の発生する原理を以下に説明する。 【0005】 図5は従来のアンテナ装置110を示す斜視図である。アンテナ装置110は,回路基板120の上面に形成したランド121a,121bに対してコイルアンテナ130の鍔部131a,131bがそれぞれ接合されてなる。コイルアンテナ30は,磁性体からなるコアの軸方向の両端に鍔部が形成され,またコアの巻芯部にコイル132が巻成されてなることが一般的である。鍔部の下面にはそれぞれ導電性の実装端子(図示せず)がそのほぼ全面に設けられている。また実装端子にはコイル132を絡げるための絡げ部が形成されている。これにより実装端子を導電性のランドとハンダ付けすることでコイル132は信号ライン122と導通し,所定の波形の電圧を印加することができる。」 の記載があるから,引用文献4には, 「焼成フェライトなどの磁性材料からなるコアの軸方向の両端にフランジ状の鍔部を設け,棒状の焼成フェライトコアにコイルを巻き回した表面実装型のコイルアンテナ」 が記載されている(以下,「引用文献4記載事項」という。)。 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア.引用発明の「回路基板100」は,本願発明1の「基板」に相当する。 イ.引用発明の「第一のコイル部202a」,「第二のコイル部202b」は,回路基板100の主面に対して水平のコイル軸であるから,「横型」であり,磁性体コア201の外周に巻回されている。 したがって,引用発明の「磁性体コア201」は,本願発明1の「巻芯部」に相当し,引用発明の「第一のコイル部202a」と「第二のコイル部202b」は,本願発明1の横型コイルの「前記巻芯部に巻回されたワイヤ」に相当する。 ウ.引用発明の「凸部コイル205」は,厚さ寸法方向のコイルであるから,「縦型」であり,磁性体コア201の凸部203aに巻回されている。 したがって,引用発明の「磁性体コア201の凸部203a」は,本願発明1の「巻芯部」に相当し,引用発明の「凸部コイル205」は,本願発明1の縦型コイルの「前記巻芯部に巻回されたワイヤ」に相当する。 したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「基板と, 前記基板に実装された縦型コイル及び横型コイルと,を備え, 前記縦型コイルは,巻芯部と,前記巻芯部に巻回されたワイヤとを備え,コイル軸が前記基板の主面に対して垂直であり, 前記横型コイルは,巻芯部と,前記巻芯部に巻回されたワイヤとを備え,コイル軸が前記基板の前記主面に対して水平である, ことを特徴とするアンテナ装置。」 (相違点1) 本願発明1は,前記縦型コイルと前記横型コイルを電気的に接続する手段を備えるのに対し,引用発明の凸部コイル205は,第一のコイル202a,第二のコイル202bと接続する手段を備えているか記載がない点。 (相違点2) 本願発明1は,縦型コイル及び横型コイルがそれぞれ「巻芯部の端部に設けられた鍔部」を備え,「前記縦型コイルの前記鍔部と前記横型コイルの前記鍔部は,前記横型コイルの前記コイル軸方向に対向している」のに対し,引用発明の縦型コイルと横型コイルは,「巻芯部の端部に設けられた鍔部」がなく,一つの磁性体コア201に巻回されている点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑み,相違点2について検討する。 引用文献3に縦型コイルに鍔部を設けること,引用文献4に横型コイルに鍔部を設けることがそれぞれ記載されているとしても,引用発明は,凸部203aを有する1つの磁性体コア201に,第一のコイル部202aと第二のコイル部202bを巻回して横型コイルとし,凸部コイル205を巻回して縦型コイルとした単一の部材であって,引用発明の1つの磁性体コア201を分割して縦型コイルと横型コイルとを別々の部材とする動機付けがあるとはいえない。 また,引用文献1には,第三の実施形態として,巻回方向が互いに異なる第一の磁性体コア401aと第二の磁性体コア401bを,コイルの形成されていない間隙を設けて並置することにより,コイル軸方向と直交するリーダ・ライタからの磁束を捕らえて鎖交することができること,回路基板 300に設置される他の物品が突出していてもよいため,アンテナコイル400を搭載する回路基板300の設計上の自由度が増すことが記載されているものの,当該第三の実施形態は,コイルの形成されていない間隙に他の物品を設置することを想定したものであり,巻回方向が互いに異なることでコイル軸方向と直交するリーダ・ライタからの磁束を捕らえて鎖交することができるようにしたものであるから,当該第三の実施形態を考慮して2つの横型コイルを別部材として,間隙を設けて並置したとすると,間隙にはコア部がないから,コア部の凸部に巻回する凸部コイル205を設けることはできず,さらに,その間隙に縦型コイルを設置することは,他の物品を設置する自由度を減らすことになるから,第三の実施形態の目的を考慮すれば,縦型コイルを設置することは阻害要因である。 そうすると,引用発明に引用文献3記載事項及び引用文献4記載事項を適用したとしても,せいぜい引用発明の一つの磁性体コア201の各端部に鍔部が設けられるだけであり,基板の主面側には縦型コイルの鍔部が存在しないから,「前記縦型コイルの前記鍔部と前記横型コイルの前記鍔部は,前記横型コイルの前記コイル軸方向に対向している」構成とはならない。 したがって,上記相違点1について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 2.本願発明2-4,6-9について 本願発明2-4,6-9は,本願発明1をさらに限定するものであって,相違点1-2と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3.本願発明5について 本願発明5は,本願発明1をさらに限定するものであって,相違点1-2と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明1-9は,当業者が引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-08-20 |
出願番号 | 特願2015-164547(P2015-164547) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01Q)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 橘 均憲、赤穂 美香 |
特許庁審判長 |
北岡 浩 |
特許庁審判官 |
吉田 隆之 衣鳩 文彦 |
発明の名称 | アンテナ装置 |
代理人 | 緒方 和文 |
代理人 | 鷲頭 光宏 |