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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1365474
審判番号 不服2019-11221  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-27 
確定日 2020-09-08 
事件の表示 特願2017-117666「反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに反射防止層付き偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月28日出願公開、特開2017-227898、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年6月15日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年6月17日)の出願であって、平成30年12月21日付で拒絶理由が通知され、平成31年3月6日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、令和元年5月21日付で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して、同年8月27日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 原査定の概要
原査定の拒絶理由の概要は、本願の請求項1?14に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献2、5及び6、又は、引用文献4?6に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、原査定の拒絶理由の引用文献は、次のとおりであり、引用文献2又は引用文献4を主引用発明が記載された文献として引用し、引用文献5及び引用文献6は、周知技術を示す文献として引用している。

引用文献2:特開2009-282219号公報
引用文献4:特開2008-233667号公報
引用文献5:特開2006-220906号公報
引用文献6:特開2013-178534号公報


第3 本件発明
本願の請求項1?14に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明14」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である。
「 【請求項1】
透明フィルム基材の一方の主面に、屈折率が異なる複数の薄膜からなる反射防止層を備える反射防止フィルムであって、
透湿度が20?1000g/m^(2)・24hであり、
反射防止層表面の押込弾性率が20?100GPaであり、算術平均粗さRaが1.3nm以下である、反射防止フィルム。
【請求項2】
前記透明フィルム基材は、前記反射防止層の形成面側にハードコート層を備える、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記ハードコート層がアクリルウレタン系樹脂を含む、請求項2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記ハードコート層は、樹脂マトリクス中に微粒子が分散している防眩性ハードコート層である、請求項2または3に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記反射防止層上に防汚層を備える、請求項1?4のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
前記反射防止層は、酸化ニオブ薄膜と酸化シリコン薄膜との交互積層体である、請求項1?5のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
偏光子の一方の面に、請求項1?6のいずれか1項に記載の反射防止フィルムを備える反射防止層付き偏光板。
【請求項8】
請求項1?5のいずれか1項に記載の反射防止フィルムを製造する方法であって、
反射防止層を構成する薄膜が、スパッタ法により成膜される、反射防止フィルムの製造方法。
【請求項9】
反射防止層を構成する薄膜のスパッタ成膜時の圧力が0.4Pa以上である、請求項8に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項10】
反射防止層を構成する薄膜が、成膜室内に不活性ガスおよび反応性ガスを導入しながら反応性スパッタにより成膜される、請求項8または9に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項11】
反応性スパッタによる成膜が遷移領域となるように、前記反応性ガスの導入量の制御が行われる、請求項10に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項12】
放電のプラズマ発光強度を検知し、プラズマ発光強度に基づいて、前記反応性ガスの導入量の制御が行われる、請求項10または11に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項13】
放電電圧を検知し、放電電圧に基づいて、前記反応性ガスの導入量の制御が行われる、請求項10または11に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項14】
反射防止層を構成する薄膜のスパッタ成膜時のターゲット表面の磁束密度が20mT以上である、請求項8?13のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法。」


第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶理由において主引用発明が記載された文献として引用され、先の出願前の平成21年12月3日に頒布された刊行物である特開2009-282219号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。他の文献についても同様である。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルム及び反射防止フィルムを有する偏光板に関する。特に、後工程により発生する外観不良が少ないため、収率が良く、高密度かつ機械強度が強く、更に偏光板保護フィルムの外観不良や加水分解等の劣化の少ない環境耐久性に優れた反射防止フィルム及び反射防止フィルムを有する偏光板に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、収率が良く、緻密かつ耐擦傷性機械特性が強く、さらに透湿度及び揮発ガスの透過度が高く、高湿熱耐久性の高い反射防止フィルム及び反射防止フィルムを有する偏光板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、透明基材フィルムと、透明基材フィルムの一方の面上に形成されたハードコート層と、ハードコート層上に形成された反射防止層と、を順次積層してなる反射防止フィルムであって、反射防止フィルムは、温度23℃、乾燥状態でのアルゴンガスの気体透過度が、5.0×10^(-16)mol/m^(2)・s・Pa以上であることを特徴とする反射防止フィルムとしたものである。
【0009】
本発明の請求項2に係る発明は、反射防止層は、酸化ニオブを有する高屈折率透明薄膜層と酸化シリコンを有する低屈折率透明薄膜層とを4層以上交互に積層させ、反射防止層の最外層が低屈折率透明薄膜層であることを特徴とする反射防止フィルムとしたものである。
【0010】
本発明の請求項3に係る発明は、ハードコート層と反射防止層との間に、金属、または、2種類以上の金属からなる合金、または、金属化合物、または、それらの混合物よりなり、1層以上からなるプライマー層を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の反射防止フィルムとしたものである。
【0011】
本発明の請求項4に係る発明は、反射防止層上に防汚層を形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の反射防止フィルムとしたものである。
【0012】
本発明の請求項5に係る発明は、防汚層の表面の算術平均粗さRaが、1.0nm以上5.0nm以下であることを特徴とする請求項4に記載の反射防止フィルムとしたものである。

(中略)

【0014】
本発明の請求項7に係る発明は、反射防止フィルムは温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が、10g/m^(2)/day以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の反射防止フィルムとしたものである。
【0015】
本発明の請求項8に係る発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の反射防止フィルムを有することを特徴とする偏光板としたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、成膜時の生産安定性が高く、後工程における外観不良の発生の少ない、非常に収率の高い生産性を有し、耐擦傷性試験、鉛筆硬度試験などの機械特性に優れ、さらに適度なガス透過度、透湿性を有することから、高温環境下での耐久性に優れた反射防止フィルム及び反射防止フィルムを有する偏光板を提供することができる。」

イ 「【0018】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る反射防止フィルム100は、透明基材フィルム1、ハードコート層2、プライマー層3、反射防止層4が順次積層されている。さらに反射防止層4上に防汚層5が積層されている。
【0019】
本発明の実施の形態に係る透明基材フィルム1としては、偏光子を吸着させたポリビニルアルコールフィルムの表面保護層となる基材を用いることができる。

(中略)

【0020】
透明基材フィルム1上に、反射防止層4(後述する)の機械強度を十分に発揮させるためにハードコート層2を設けることができる。本発明の実施の形態に係るハードコート層2の材料は、電離線や紫外線硬化型の樹脂、あるいは、熱硬化性樹脂を使用することができ、例えば紫外線硬化型のアクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリル酸エステル類、メタクリルアミド等のアクリル系樹脂や有機珪素系樹脂やポリシロキサン樹脂を用いることができる。これらの材料の中には、硬化性を向上させるために、重合開始剤を添加してもよい。ハードコート層2の厚みとしては、物理膜厚0.5μm以上、好ましくは、3μm以上20μm以下である。また、ハードコート層2には、平均粒子0.01μm以上3μm以下の透明微粒子を分散させて、防眩処理を施すことができる。

(中略)

【0023】
ハードコート層2上に、プライマー層3を設けることができる。本発明の実施の形態に係るプライマー層3の材料は、例えば、シリコン、ニッケル、クロム、錫、金、銀、白金、亜鉛、チタン、タングステン、アルミニウム、ジルコニウム、パラジウム等の金属、または、これら金属の2種類以上を有する合金、または、これらの酸化物、弗化物、硫化物、窒化物などが挙げられ、これは混合物であってもよい。また、プライマー層3は2層以上を積層した構成であってもよい。

(中略)

【0025】
本発明の実施の形態に係る反射防止層4としては、波長550nmにおける光の屈折率が1.6未満でかつ波長550nmにおける光の消衰係数が0.5以下の低屈折率透明薄膜層単層からなるものや、波長550nmにおける光の屈折率が1.9以上の高屈折率透明薄膜層、光の屈折率1.6未満の低屈折率透明薄膜層、光の屈折率1.6?1.9程度の中屈折率透明薄膜層などの屈折率の異なる光学薄膜を積層した複数層からなるものなどが挙げられる。複数層からなる反射防止層4は反射率がきわめて低く、反射防止性能が高いため好ましい。複数層からなる反射防止層4としては、透明基材フィルム1側より順番に、高屈折率透明薄膜層、低屈折率透明薄膜層、高屈折率透明薄膜層、低屈折率透明薄膜層とを積層した構成のものが挙げられる。
【0026】
これらの光学薄膜層からなる反射防止層4は、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学気相成長(CVD)法などのドライコーティング方法で形成できる。膜厚均一性が高く、ピンホール等の欠陥が少ないため、視認性に優れ、緻密であり、耐擦傷性などの機械特性に優れた薄膜の形成が可能であるスパッタリング法を用いることが好ましい。中でも、より高い成膜速度と高い放電安定性により高生産性を得ることができることから、中周波領域の電圧印加により成膜を行うデュアル・マグネトロン・スパッタリング(DMS)法が最適である。
【0027】
反射防止層4として用いられる高屈折率透明薄膜層の材料としては、インジウム、錫、チタン、シリコン、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、マグネシウム、ビスマス、セリウム、タンタル、アルミニウム、ゲルマニウム、カリウム、アンチモン、ネオジウム、ランタン、トリウム、ハフニウム等の金属、あるいは、これら金属の2種類以上からなる合金、これらの酸化物、弗化物、硫化物、窒化物などが挙げられる。具体的には、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化セリウム等が挙げられるがこれに限られるものではない。また、複数積層する場合、必ずしも同じ材料を選択する必要はなく、目的にあわせて、適宜選択すればよい。中でも、スパッタリング法を用いる場合は、作製した薄膜のピンホールの少なさから、酸化ニオブが適している。
【0028】
反射防止層4として用いられる低屈折率透明薄膜層の材料としては、例えば、酸化シリコン、窒化チタン、弗化マグネシウム、弗化バリウム、弗化カルシウム、弗化ハフニウム、弗化ランタン等の材料が、挙げられるが本発明ではこれらに限定されるものではない。更に、複数積層する場合、必ずしも同じ材料を選択する必要がなく、目的にあわせて、適宜選択すればよい。特に、光学特性、機械強度、コスト、成膜適正などの面などから、酸化シリコンが最適な材料である。
【0029】
ここで、本発明の実施の形態で用いられるスパッタリング法においては、膜厚の均一制御性に優れ、ピンホール等の欠陥が少ないため、視認性が高く、更に後工程における外観不良も少ない、全生産段階において収率が高い利点を有する。更に、非常に緻密な膜を形成できるため、耐擦傷性等の機械特性に優れた反射防止層4の形成ができるという大きな利点を有する。一方で、このスパッタリング法を用いて成膜で形成した薄膜は、その膜の高密度性から、他の成膜方法に比べて、水蒸気のバリア性能が高いという特徴を持つ。
【0030】
必要に応じて、反射防止層4上の最表面層に防汚層5を設けることができる。

(中略)

【0031】
反射防止層4の最表面層上に防汚層5を設けた場合には、防汚層5表面の算術平均粗さRaは1.0nm以上5.0nm以下であることが好ましい。防汚層5表面の算術平均粗さRaは、下層の反射防止層4の膜の密度に反映したパラメーターとすることができ、防汚層5表面の算術平均粗さRaが1.0nm未満であると、下層である反射防止層4の膜の密度が高いため、反射防止フィルム100の温度23℃、乾燥状態でのアルゴンガスの気体透過度を5.0×10^(-16)mol/m^(2)・s・Pa以上とすることが困難となる。一方、防汚層5表面の算術平均粗さRaが5.0nmを超えると、反射防止層4の膜の密度が低く、十分な耐擦傷性や密着性等の機械特性を得ることができなくなる場合がある。

(中略)

【0040】
偏光板101の表面保護膜として汎用されているトリアセチルセルロースフィルム(透明基材フィルム1)の場合、厚さ100μmの水蒸気透過速度は温度25℃相対湿度90%で120g/m^(2)/day以上160g/m^(2)/day以下、温度40℃相対湿度90%で380g/m^(2)/dayとなる。このトリアセチルセルロースフィルム上に、様々な層を積層することで、水蒸気はトリアセチルセルロースフィルムを透過しにくくなる。特に、優れた機械特性を有し、緻密な膜を積層してなる反射防止層4の水蒸気透過速度は、ほぼゼロに近く、優れた水蒸気バリア性能を示す。特に、スパッタリング法で作製した膜は、緻密な膜が形成されるため、水蒸気バリア性能の高い膜が形成される。
【0041】
この時、反射防止層4の水蒸気バリア性能が高すぎると、反射防止フィルム100内部の水分が外部への逃げ道をなくし、反射防止フィルム100内部に滞り、耐久性を低下させる一要因となることから、環境耐久性を必要とする用途においては、反射防止フィルム100全体の水蒸気透過速度を適度に速めるように性能を改善する必要がある。
【0042】
本発明の実施の形態に係る反射防止フィルム100は、適度な透湿性を保持し、かつ、良好な密着性を有するために、温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が、10g/m^(2)/day以上であることが好ましく、35g/m^(2)/day以上250g/m^(2)/day以下であることがさらに好ましい。」

ウ 「【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0044】
図1に示すように、透明基材フィルム1に厚さ80μmのトリアセチルセルロースを用いた。透明基材フィルム1上に紫外線硬化型アクリル系樹脂を塗布し、乾燥・紫外線硬化させて5μmのハードコート層2を設けた後、40℃の1.5N-NaOH溶液にフィルムを2分間浸漬し、水洗し乾燥させた。次に、鹸化処理を施したハードコート層2上に、グロープラズマ処理を施し、プライマー層3として、スパッタリング法を用いて、SiO層を、膜厚3nmで成膜した。
【0045】
次に、反射防止層4はスパッタリング法を用いて、任意の成膜圧力条件にて、層構成をハードコート層3側からNb_(2)O_(5)/SiO_(2)/Nb_(2)O_(5)/SiO_(2)、各層の膜厚は、それぞれ15nm/25nm/105nm/85nmとなるように成膜を行った。反射防止層4を積層した後、気体透過度測定、水蒸気透過度測定、反射防止層表面の算術平均粗さRaを測定した。
【0046】
[実施例1]
反射防止層4の成膜条件を、SiO_(2)成膜時に導入されるAr流量とO_(2)の流量比をAr流量/O_(2)流量=8.2?11.7の間とし、Nb_(2)O_(5)成膜時に導入されるAr流量とO_(2)の流量比をAr流量/O_(2)流量=4.3?11.7の間とし、反射防止層4を形成した。
【0047】
[実施例2]
反射防止層4の成膜条件を、SiO_(2)成膜時に導入されるAr流量とO_(2)の流量比をAr流量/O_(2)流量=13.0?18.6の間とし、Nb_(2)O_(5)成膜時に導入されるAr流量とO_(2)の流量比をAr流量/O_(2)流量=6.8?18.6の間とし、反射防止層4を形成した。
【0048】
[比較例1]
反射防止層4の成膜条件を、SiO_(2)成膜時に導入されるAr流量とO_(2)の流量比とをAr流量/O_(2)流量=3.0?4.3の間とし、Nb_(2)O_(5)成膜時に導入されるAr流量とO_(2)の流量比をAr流量/O_(2)流量=1.6?4.3の間とし、反射防止層4を形成した。
【0049】
このように、作製した反射防止フィルム100の裏面(ハードコート層2が形成されていない面)に、図2に示すように、ヨウ素により染色した厚さ25μmの偏光膜(ポリビニルアルコールフィルム)10、厚さ80μmの透明基材フィルム1を貼り合わせ、反射防止機能付きの偏光板101を作製し、外観不良を目視にて確認した。
【0050】
[評価]
実施例1、2及び比較例1で得られたサンプルを以下の方法で評価した。結果は表1に示す。

(中略)

【0052】
(2)機械強度
スチールウール#0000を擦傷試験機に固定し、500gfの荷重をかけて、10往復の擦傷試験を各サンプルの反射防止層に対して行い、サンプルの磨耗状態(傷本数)を目視で観測した。判定基準を以下に示す。
◎:傷無し
○:傷10本未満
×:傷10本以上

(中略)

【0054】
(4)耐湿熱性試験
実施例1、2及び比較例1で作製した偏光板101を、粘着フィルムを介して、ガラスに貼り付け、温度60℃、相対湿度95%のドライ環境の条件下に設定した恒温恒湿槽内に500時間、保持し、耐久性の評価を行った。トリアセチルセルロースフィルムの加水分解などの劣化の有無を、目視にて及び酢酸臭の確認及び赤外分光測定におけるカルボニル基の吸収スペクトルの変化により判断した。
◎:劣化なし
○:一部劣化あり
×:劣化大


(中略)

【0057】
(7)水蒸気透過度
それぞれ、偏光膜10を貼り付ける前の、反射防止フィルム100において、温度40℃、相対湿度90%Rhの環境下における、水蒸気透過度を測定した。水蒸気透過度の測定は、JIS Z0208に順ずる方法を用いて測定した。
【0058】
(8)算術平均粗さ測定
反射防止フィルム100表面の算術平均粗さ測定(JIS B 0601)を、原子間力顕微鏡(AFM)NanoscopeIIIa(Digital Instruments社)を用いて行った。測定エリアは、1μm×1μmとした。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例1、2で作製した反射防止フィルムを有する偏光板においては、成膜時の生産安定性が高く、偏光板化した際に外観不良の発生が少なく、収率の高い生産性が確認でき、反射率0.2%以下の極めて低い反射防止機能を持ち、機械特性に優れ、さらに適度なガス透過度、透湿性を有することから、高温環境下での耐久性に優れたていることが確認できる。これに対し、比較例1で作製した反射防止フィルムを有する偏光板に関しては、光学特性、機械特性は優れているものの、外観不良の数が非常に多く、更に環境耐久性も劣る。」

(2)引用文献2に記載された発明
引用文献2の記載事項ウの表1(段落【0059】)からは、実施例1で作製した反射防止フィルムの水蒸気透過度が35g/m^(2)/dayであり、算術平均粗さが1.9nmであったことがわかる。そうすると、引用文献2の記載事項ウに基づけば、引用文献2には、実施例1の反射防止フィルムとして、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「透明基材フィルムに厚さ80μmのトリアセチルセルロースを用い、透明基材フィルム上に紫外線硬化型アクリル系樹脂を塗布し、乾燥・紫外線硬化させて5μmのハードコート層を設けた後、40℃の1.5N-NaOH溶液にフィルムを2分間浸漬し、水洗し乾燥させ、次に、鹸化処理を施したハードコート層上に、グロープラズマ処理を施し、プライマー層として、スパッタリング法を用いて、SiO層を、膜厚3nmで成膜し、次に、反射防止層の成膜条件を、SiO_(2)成膜時に導入されるAr流量とO_(2)の流量比をAr流量/O_(2)流量=8.2?11.7の間とし、Nb_(2)O_(5)成膜時に導入されるAr流量とO_(2)の流量比をAr流量/O_(2)流量=4.3?11.7の間とし、層構成をハードコート層側からNb_(2)O_(5)/SiO_(2)/Nb_(2)O_(5)/SiO_(2)、各層の膜厚は、それぞれ15nm/25nm/105nm/85nmとなるように積層して反射防止層を形成して作製した、水蒸気透過度が35g/m^(2)/dayであり、反射防止層表面の算術平均粗さRaが1.9nmである、反射防止フィルム。」

2 引用文献4
(1)引用文献4の記載事項
原査定の拒絶理由に主引用発明が記載された文献として引用され、先の出願前の平成20年10月2日に頒布された刊行物である特開2008-233667号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度で機械強度が強く、更に偏光板保護フィルムの加水分解等の劣化の少ない高耐久性の反射防止フィルムおよびこれを用いた偏光板に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、スパッタリング法においては、膜厚の均一制御性に優れ、ピンホール等の欠陥が少ないため、視認性が高く、生産段階においては収率が高い利点を有する。更に、非常に緻密な膜を形成できるため、耐擦傷性等の機械特性に優れた反射防止膜層の形成が可能であるという大きな利点を有する。
【0008】
一方で、このスパッタリング成膜で形成した薄膜は、その膜の高密度性から、他の成膜方法に比べて、水蒸気のバリア性能が高いという特徴を持つ。従って、本発明は、緻密かつ耐擦傷性機械特性が強く、さらに透湿度が高く、高湿熱耐久性の高い反射防止フィルムおよびこれを有する偏光板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、透明基材フィルム上に、ハードコート層、2層以上のプライマー層、反射防止層を順次積層した反射防止フィルムであって、該2層以上のプライマー層が、金属あるいは金属化合物単体もしくは混合物よりなり、かつ、該2層以上のプライマー層が、異なる組成であることを特徴とする反射防止フィルムである。
請求項2に記載の発明は、前記反射防止層が、屈折率の異なる光学薄膜層を複数積層してなることを特徴とする請求項1に記載の反射防止フィルムである。
請求項3に記載の発明は、前記反射防止層が、スパッタリング法を用いて形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の反射防止フィルムである。
請求項4に記載の発明は、前記ハードコート層と接する第一プライマー層が、表面に微小な凹凸を有しており、前記反射防止層と接する第二プライマー層と前記第一プライマー層の組成が異なることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の反射防止フィルムである。
請求項5に記載の発明は、前記透明基材フィルムが、トリアセチルセルロースフィルムであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の反射防止フィルムである。
請求項6に記載の発明は、前記2層以上のプライマー層を形成する前に、前記ハードコート層を設けた透明基材フィルムにアルカリ鹸化処理を施したことを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の反射防止フィルムである。
請求項7に記載の発明は、前記アルカリ鹸化処理を施した後に、前記ハードコート層表面に低温プラズマ表面処理を施したことを特徴とする請求項6に記載の反射防止フィルムである。
請求項8に記載の発明は、前記第二プライマー層の膜厚が10nm以下であり、かつ、前記第一プライマー層の膜厚が前記第二プライマー層の膜厚よりも薄いことを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の反射防止フィルムである。
請求項9に記載の発明は、前記反射防止層上に防汚層を積層したことを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の反射防止フィルムである。
請求項10に記載の発明は、温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が、20g/m^(2)/day以上であることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載の反射防止フィルムである。
請求項11に記載の発明は、請求項1?10のいずれかに記載の反射防止フィルムを有することを特徴とする偏光板である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐擦傷性などの機械特性に優れ、高湿熱耐久性の高い反射防止フィルムおよびこれを有する偏光板が提供される。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の反射防止フィルムの一実施形態の断面図である。
図1において、本発明の反射防止フィルム100は、透明基材フィルム1上に、ハードコート層2、第一プライマー層3、第2プライマー層4、反射防止層5が順次積層されている。さらに反射防止層5上に防汚層6が積層されている。
透明基材フィルム1としては、偏光子を吸着させたポリビニルアルコールフィルムの表面保護層となる基材を適用する。

(中略)

【0012】
透明基材フィルム1上に、反射防止層5の機械強度を十分に発揮させるためのハードコート層2を設けてもよい。このハードコート層2としては、電離線や紫外線硬化型の樹脂あるいは、熱硬化性樹脂が使用され、紫外線硬化型のアクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリル酸エステル類、メタクリルアミド等のアクリル系樹脂や有機珪素系樹脂やポリシロキサン樹脂が最適である。これらの材料の中には、硬化性を向上させるために、重合開始剤を添加してもよい。ハードコート層2の厚みとしては、物理膜厚0.5μm以上、好ましくは、3?20μmである。また、ハードコート層2には、平均粒子0.01?3μmの透明微粒子を分散させて、防眩処理を施しても良い。

(中略)

【0015】
この後、ハードコート層2に、第一プライマー層3、第二プライマー層4を順番に設ける。プライマー層の材料としては、例えば、シリコン、ニッケル、クロム、錫、金、銀、白金、亜鉛、チタン、タングステン、ジルコニウム、パラジウム等の金属、あるいは、これら金属の2種類以上からなる合金、これらの酸化物、弗化物、硫化物、窒化物などの金属化合物が挙げられ、これは混合物であってもよい。このとき、第一プライマー層3と第二プライマー層4は異なる組成の膜を形成することが望ましい。

(中略)

【0019】
反射防止層5としては、波長550nmにおける光の屈折率が1.6未満でかつ波長550nmにおける光の消衰係数が0.5以下の低屈折率透明薄膜層からなるものや、波長550nmにおける光の屈折率が1.9以上の高屈折率透明薄膜層、光の屈折率1.6未満の低屈折率透明薄膜層、光の屈折率1.6?1.9程度の中屈折率透明薄膜層などの屈折率の異なる光学薄膜を複数積層した物などが挙げられる。例えば、高屈折率透明薄膜層、低屈折率透明薄膜層を交互に積層したものとして、基材側より順番に、高屈折率透明薄膜層、低屈折率透明薄膜層、高屈折率透明薄膜層、低屈折率透明薄膜層と構成したものが挙げられる。
【0020】
高屈折率透明薄膜層の材料としては、インジウム、錫、チタン、シリコン、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、マグネシウム、ビスマス、セリウム、タンタル、アルミニウム、ゲルマニウム、カリウム、アンチモン、ネオジウム、ランタン、トリウム、ハフニウム無等の金属、あるいは、これら金属の2種類以上からなる合金、これらの酸化物、弗化物、硫化物、窒化物などが挙げられる。具体的には、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化セリウム等が挙げられるがこれに限られるものではない。また、複数積層する場合、必ずしも同じ材料を選択する必要なく、目的にあわせて、適宜選択すればよい。
【0021】
低屈折率透明薄膜層の材料としては、例えば、酸化シリコン、窒化チタン、弗化マグネシウム、弗化バリウム、弗化カルシウム、弗化ハフニウム、弗化ランタン等の材料が、挙げられるがこれに限られるものでなく、更に、複数積層する場合、必ずしも同じ材料を選択する必要なく、目的にあわせて、適宜選択すればよい。
【0022】
中屈折率透明薄膜層としては、例えば、酸化アルミニウム、弗化セリウムなどが挙げられる。
【0023】
これらの光学薄膜層からなる反射防止層5は、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着(CVD)法などのドライコーティング方法で形成できる。膜厚均一性が高く、ピンホール等の欠陥が少ないため、より視認性に優れた薄膜の形成が可能であり、緻密な膜の形成が可能であることから、耐擦傷性などの機械特性に優れた薄膜の形成が可能であることからスパッタリング法を用いることが好ましい。中でも、より高い成膜速度と高い放電安定性により高生産性を得ることができることから、中周波領域の電圧印加により成膜を行うデュアル・マグネトロン・スパッタリング(DMS)法が最適である。
【0024】
必要に応じて、反射防止層5の上、最表面層に防汚層6を設けても良い。

(中略)

【0027】
反射防止層5は複数の無機化合物を積層させているが、少なくともどれか1層が優れた水蒸気バリア性があると、そのフィルム全体の水蒸気バリア性能は高くなる。どれか一層フィルム内部からの水分の抜けは少なくなるため、全体の水蒸気透過度が速くなるように性能を改善する必要がある。
【0028】
すなわち、本発明においては、反射防止層5の水蒸気透過度を調整するとともに、ハードコート層2と反射防止層5との間に、薄膜成長方向を不規則にする第一プライマー層3、密着性を付与する第二プライマー層4を挟む事で、例えばスパッタリング法の大きな利点である緻密な膜の形成が可能な特徴を有したまま、緻密な膜ゆえの特徴であった低い透湿性を改善し、適度な透湿性かつ密着性が良い高耐久性能を有した反射防止膜の形成が可能とした。
【0029】
本発明の反射防止フィルムは、温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が、20g/m^(2)/day以上が好ましく、40?250g/m^(2)/dayがさらに好ましい。」

ウ 「【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
透明基材フィルム1に厚さ80μmのトリアセチルセルロースを用い、紫外線硬化型アクリル系樹脂を塗布し、乾燥・紫外線硬化させて5μmのハードコート層2を設けた後、40℃の1.5N-NaOH溶液にフィルムを2分間浸漬し、水洗し乾燥させた。
【0033】
鹸化処理を施したハードコート層2上に、グロープラズマ処理を施し、第一プライマー層3として、Al_(2)O_(3)膜を、スパッタリング法により成膜した。成膜は、電力7kW、アルゴンガス流量1300sccmの条件で2秒間成膜した。第二プライマー層4として、SiO層を、電力2.0kW、アルゴンガス流量300sccmの条件で、光学膜厚6nm成膜した。その後、反射防止層5として、成膜順に、TiO_(2)/SiO_(2)/TiO_(2)/SiO_(2)の4層設けた。TiO_(2)の成膜は、電力2.5kW、アルゴンガス流量300sccm、酸素ガス流量40sccm、SiO_(2)の成膜は、電力2.0kW、アルゴンガス流量300sccm、酸素ガス流量20sccm、それぞれ成膜中の真空層内の圧力は、0.5Paで行った。
【0034】
反射防止層各層の光学膜厚は、光学式の膜厚モニターにより、光量値を監視し、反射防止層の光学膜厚が、高屈折率透明薄膜層(TiO_(2))、低屈折率透明薄膜層(SiO_(2))、高屈折率透明薄膜層(TiO_(2))、低屈折率透明薄膜層(SiO_(2))として、それぞれ60nm/44nm/105nm/145nmとなるように成膜時間を設定した。
【0035】
このように、作成した反射防止フィルム100の裏面に、図2に示したように、ヨウ素により染色した厚さ25μmのポリビニルアルコールフィルム10、厚さ80μmのトリアセチルセルロース1を貼り合わせ、反射防止機能付きの偏光板101を作成した。
【0036】
[実施例2]
第一プライマー層3として、SiO_(2)膜を用いた以外は、実施例1と同じ条件で反射防止機能付きの偏光板を形成した。

(中略)

【0041】
[評価]
実施例、比較例で得られたサンプルを以下の方法で評価した。結果は表1に示す。
【0042】
(1)スチールウール擦傷試験
スチールウール#0000を擦傷試験機に固定し、500gfの荷重をかけて、10往復の擦傷試験を各サンプルの反射防止層に対して行い、サンプルの磨耗状態(傷本数)を目視で観測した。

(中略)

【0044】
(3)耐湿熱性試験
実施例および比較例で作成した偏光板を、粘着フィルムを介して、ガラスに貼り付け、温度60℃、相対湿度95%のドライ環境の条件下に設定した恒温恒湿槽内に保持し、耐久性の評価を行った。セルロースフィルムの加水分解などの劣化の有無を、目視にて及び酢酸臭の確認、及び赤外分光測定におけるカルボニル基の吸収スペクトルの変化により判断した。
【0045】
(4)水蒸気透過度
それぞれ、偏光板を貼り付ける前の、反射防止フィルムにおいて、温度40℃、相対湿度90%Rhの環境下における、水蒸気透過度を測定した。水蒸気透過度の測定は、JIS Z0208に順ずる方法を用いて測定した。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例1から2で作成した反射防止フィルムを備えた偏光板においては、耐擦傷性性能が良好なことから、密着性が良く、さらに、耐熱性および耐湿熱性において、1000時間以上偏光板や偏光板の保護フィルムに変質のない優れた耐久性を有していることが確認できる。一方、比較例1の第一プライマー層のみでは、密着性が弱いことが、比較例2の第二プライマー層のみでは、密着性は良いものの、耐熱および耐湿熱試験、特に耐熱試験においては、250時間程度で加水分解反応が起こっていることが確認できた。」

(2)引用文献4に記載された発明
引用文献4の記載事項ウの表1(段落【0046】)には、実施例1で作成した反射防止フィルムの水蒸気透過度が55.3g/m^(2)/dayであったことがわかる。そうすると、引用文献4の記載事項ウに基づけば、引用文献4には、実施例1の反射防止フィルムとして、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「透明基材フィルムに厚さ80μmのトリアセチルセルロースを用い、紫外線硬化型アクリル系樹脂を塗布し、乾燥・紫外線硬化させて5μmのハードコート層を設けた後、40℃の1.5N-NaOH溶液にフィルムを2分間浸漬し、水洗し乾燥させ、鹸化処理を施したハードコート層上に、グロープラズマ処理を施し、第一プライマー層として、Al_(2)O_(3)膜を、スパッタリング法により、電力7kW、アルゴンガス流量1300sccmの条件で2秒間成膜し、第二プライマー層として、SiO層を、電力2.0kW、アルゴンガス流量300sccmの条件で、光学膜厚6nmに成膜し、その後、反射防止層として、成膜順に、TiO_(2)/SiO_(2)/TiO_(2)/SiO_(2)の4層の成膜を、TiO_(2)の成膜は、電力2.5kW、アルゴンガス流量300sccm、酸素ガス流量40sccm、SiO_(2)の成膜は、電力2.0kW、アルゴンガス流量300sccm、酸素ガス流量20sccm、それぞれ成膜中の真空層内の圧力は、0.5Paで行い、反射防止層各層の光学膜厚は、高屈折率透明薄膜層(TiO_(2))、低屈折率透明薄膜層(SiO_(2))、高屈折率透明薄膜層(TiO_(2))、低屈折率透明薄膜層(SiO_(2))として、それぞれ60nm/44nm/105nm/145nmとなるように成膜時間を設定して作成した、水蒸気透過度が55.3g/m^(2)/dayである、反射防止フィルム。」

3 引用文献5の記載事項
原査定の拒絶理由に周知技術を示す文献として引用され、先の出願前の平成18年8月24日に頒布された刊行物である特開2006-220906号公報(以下、「引用文献5」という。)には、以下の記載事項がある。

「【0032】
これら微粒子を含有させることにより、低屈折率層(d)の表面は、微粒子に由来する凹凸を有する。この凹凸により、干渉による反射防止だけでなく、散乱による反射防止効果も加わることで、波長400?700nmにおける表面反射スペクトルを全体に低反射率化させることが可能となる。低屈折率層(d)の表面粗さは、中心線平均粗さRaが0.5?15.0nmが好ましく、さらに最大高さRmaxが5?150nmが好ましい。RaおよびRmaxがこの範囲より低いと散乱による反射防止効果が少なくなり、逆にこの範囲を超えると、ヘイズや耐擦傷性が悪くなり、また指紋が拭き取りにくくなるので好ましくない。」


第5 対比・判断
1 引用発明2に基づく判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。

(ア)透明フィルム基材
引用発明2の「透明基材フィルム」は、技術的にみて、本件発明1の「透明フィルム基材」に相当する。

(イ)反射防止層
引用発明2の「反射防止層」は、その「層構成をハードコート層側からNb_(2)O_(5)/SiO_(2)/Nb_(2)O_(5)/SiO_(2)、各層の膜厚は、それぞれ15nm/25nm/105nm/85nmとなるように積層して」形成されたものである。そして、「Nb_(2)O_(5)」及び「SiO_(2)」の各層は、技術的にみて、屈折率が異なる層であるといえる(引用文献2の段落【0027】及び段落【0028】の記載からも明らかである。)。したがって、引用発明2の「反射防止層」は、本件発明1の「屈折率が異なる複数の薄膜からなる反射防止層」に相当する。

(ウ)反射防止フィルム
引用発明2の「反射防止フィルム」は、前記(ア)の「透明基材フィルム」上に、「ハードコート層」を設けた後、「プライマー層」を成膜し、次に前記(イ)の「反射防止層」を形成して作製したものである。そうすると、引用発明2の「反射防止フィルム」は、本件発明1の「反射防止フィルム」に相当し、本件発明1の「透明フィルム基材の一方の主面に、屈折率が異なる複数の薄膜からなる反射防止層を備える」とする要件を満たしている。

(エ)透湿度
引用発明2の「反射防止フィルム」は、「水蒸気透過度が35g/m^(2)/day」である。そうすると、引用発明2の「反射防止フィルム」は、本件発明1の「透湿度が20?1000g/m^(2)・24h」であるとする要件を満たしている。

(オ)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明2とは、
「透明フィルム基材の一方の主面に、屈折率が異なる複数の薄膜からなる反射防止層を備える反射防止フィルムであって、
透湿度が20?1000g/m^(2)・24hである、反射防止フィルム。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1-1]「反射防止層」が、本件発明1は「表面の押込弾性率が20?100GPa」であるのに対し、引用発明2は、これが明らかでない点。
[相違点1-2]「反射防止層表面の算術平均粗さRa」が、本件発明1は「1.3nm以下」であるのに対し、引用発明2は「1.9nm」である点。

イ 判断
事案に鑑みて、[相違点1-2]について検討する。
引用文献2の記載事項イには、「反射防止層4の最表面層上に防汚層5を設けた場合には、防汚層5表面の算術平均粗さRaは1.0nm以上5.0nm以下であることが好ましい。防汚層5表面の算術平均粗さRaは、下層の反射防止層4の膜の密度に反映したパラメーターとすることができ、防汚層5表面の算術平均粗さRaが1.0nm未満であると、下層である反射防止層4の膜の密度が高いため、反射防止フィルム100の温度23℃、乾燥状態でのアルゴンガスの気体透過度を5.0×10^(-16)mol/m^(2)・s・Pa以上とすることが困難となる。一方、防汚層5表面の算術平均粗さRaが5.0nmを超えると、反射防止層4の膜の密度が低く、十分な耐擦傷性や密着性等の機械特性を得ることができなくなる場合がある。」(段落【0031】)と記載されている。当該記載は、直接「反応防止層」の算術平均粗さに関する記載ではないものの、反射防止フィルムの最表面の算術平均粗さRaについて、十分な耐擦傷性や密着性等の機械特性を得るために、5.0nm以下とすることが示唆されているといえる。また、引用文献5における「低屈折率層(d)の表面粗さは、中心線平均粗さRaが0.5?15.0nmが好ましく、さらに最大高さRmaxが5?150nmが好ましい。RaおよびRmaxがこの範囲より低いと散乱による反射防止効果が少なくなり、逆にこの範囲を超えると、ヘイズや耐擦傷性が悪くなり、また指紋が拭き取りにくくなるので好ましくない。」との記載に基づけば、ヘイズや耐擦傷性が悪くなり、また指紋が拭き取りにくくなることを避けるため、中心線平均粗さRaが15.0nmを超えないように設定することが示唆されているといえる。
(当合議体注:中心線平均粗さRaは、算術平均粗さRaとJISの版が異なるが、同一視することができる。)
しかしながら、「透湿度」を「20?1000g/m^(2)・24h」としつつ、反射防止層表面の算術平均粗さRaを「1.3nm以下」とすることについては、いずれの文献にも記載も示唆もされていない。引用文献2の記載事項ウには、反射防止層表面の算術平均粗さが「1.3nm」である実験例が記載されているが、比較例とされており、水蒸気透過度についての要件を満たさないものである。また、引用文献5にも、算術平均粗さRaが「1.3nm以下」である実施例は開示されておらず、他に、先の出願前において、「透湿度」を「20?1000g/m^(2)・24h」としつつ、算術平均粗さRaを「1.3nm以下」とすることが、当業者に知られていたことを示す根拠を見いだすことができない。
(当合議体注:引用文献2の【0031】には、防汚層表面の算術平均粗さRaの下限値として、1.0nmが記載されている。しかしながら、引用発明2において、反射防止層表面の算術平均粗さRaを「1.3nm以下」とした場合には、透湿度が本件発明1の要件を満たさなくなり、結局、本件発明1の構成に到らない、というのが引用文献2の記載から理解される事項である。)
そして、本願の明細書には、「反射防止層5表面の算術平均粗さRaは、3nm以下が好ましく、1.8nm以下がより好ましく、1.5nm以下がさらに好ましく、1.3nm以下が特に好ましい。算術平均粗さを小さくすることにより、耐擦傷性が向上する傾向がある。特に、反射防止層5表面の算術平均粗さが1.5nm以下であれば、皮脂等の汚れが付着した際の拭き取り性が向上する傾向がある。一方、反射防止層5表面の算術平均粗さが過度に小さいと、フィルム製造時等のロール搬送が困難となる傾向があるため、反射防止層5の表面の算術平均粗さは、0.3nm以上が好ましく、0.5nm以上がより好ましい。」(段落【0041】)と記載されており、算術平均粗さRaを「1.3nm以下」とすることによって、耐擦傷性の向上に加えて、皮脂等の汚れが付着した際の拭き取り性も向上することが記載されている。そして、本願の実施例及び比較例を参酌すれば、算術平均粗さRaを「1.3nm以下」とすることによって、顕著な効果の差異が生じることは明らかである。
したがって、当業者であっても、引用発明2の算術平均粗さRaについて「1.3nm以下」とすることが、容易になし得たということはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、[相違点1-1]について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明2、引用文献2及び引用文献5の記載に基づいて容易に発明できたものではない。

(2)本件発明2?14について
本件発明2?14は、本件発明1と同じ「算術平均粗さRaが1.3nm以下」とする要件を具備している。そうすると、本件発明2?14も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明2、引用文献2及び引用文献5の記載事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 引用発明4に基づく判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明4とを対比する。

(ア)透明フィルム基材
引用発明4の「透明基材フィルム」は、技術的にみて、本件発明1の「透明フィルム基材」に相当する。

(イ)反射防止層
引用発明4の「反射防止層」は、「成膜順に、TiO_(2)/SiO_(2)/TiO_(2)/SiO_(2)の4層」の成膜を、「高屈折率透明薄膜層(TiO_(2))、低屈折率透明薄膜層(SiO_(2))、高屈折率透明薄膜層(TiO_(2))、低屈折率透明薄膜層(SiO_(2))として、それぞれ60nm/44nm/105nm/145nm」となるように設定して作成されたものである。したがって、引用発明4の「反射防止層」は、本件発明1の「屈折率が異なる複数の薄膜からなる反射防止層」に相当する。

(ウ)反射防止フィルム
引用発明4の「反射防止フィルム」は、前記(ア)の「透明基材フィルム」に、「ハードコート層」を設けた後、「第一プライマー層」及び「第二プライマー層」を成膜し、その後、前記(イ)の「反射防止層」を作成してものである。そうすると、引用発明4の「反射防止フィルム」は、本件発明1の「反射防止フィルム」に相当し、本件発明1の「透明フィルム基材の一方の主面に、屈折率が異なる複数の薄膜からなる反射防止層を備える」とする要件を満たしている。

(エ)透湿度
引用発明4の「反射防止フィルム」は、「水蒸気透過度が55.3g/m^(2)/day」である。そうすると、引用発明4の「反射防止フィルム」は、本件発明1の「透湿度が20?1000g/m^(2)・24h」であるとする要件を満たしている。

(オ)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明4とは、
「透明フィルム基材の一方の主面に、屈折率が異なる複数の薄膜からなる反射防止層を備える反射防止フィルムであって、
透湿度が20?1000g/m^(2)・24hである、反射防止フィルム。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点2-1]「反射防止層」が、本件発明1は「表面の押込弾性率が20?100GPa」であるのに対し、引用発明4は、これが明らかでない点。
[相違点2-2]「反射防止層表面の算術平均粗さRa」が、本件発明1は「1.3nm以下」であるのに対し、引用発明4は、これが明らかでない点。

イ 判断
事案に鑑みて[相違点2-2]について検討する。
引用文献5には、前記1(1)イに記載したとおり、ヘイズや耐擦傷性が悪くなり、また指紋が拭き取りにくくなることを避けるため、中心線平均粗さRaが15.0を超えないように設定することが示唆されているといえる。しかしながら、算術平均粗さRaを「1.3nm以下」とすることについては、引用文献4及び引用文献5のいずれの文献にも記載も示唆もされていない。他に、先の出願前において、算術平均粗さRaを「1.3nm以下」とすることが、当業者に知られていたことを示す根拠を見いだすこともできない。
そして、本願の明細書には、算術平均粗さRaを「1.3nm以下」とすることによって、耐擦傷性の向上に加えて、皮脂等の汚れが付着した際の拭き取り性も向上することが記載されており、本願の実施例及び比較例を参酌すれば、算術平均粗さRaを「1.3nm以下」とすることによって、顕著な効果の差異が生じることは明らかである。
したがって、当業者であっても、引用発明4の算術平均粗さRaについて「1.3nm以下」とすることが、容易になし得たということはできない。
(当合議体注:引用文献5の【0032】には、低屈折率層表面の中心線平均粗さ(算術平均粗さ)Raの下限値として、0.5nmが記載されている。しかしながら、この場合に、本件補正後発明1の「透湿度が20?1000g/m^(2)・24hであり」という要件を満たしつつ、算術平均粗さRaを「1.3nm以下」とすることができるとまではいえない。)

ウ 小括
以上のとおりであるから、[相違点2-1]について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明4、引用文献4及び引用文献5の記載に基づいて容易に発明できたものではない。

(2)本件発明2?14について
本件発明2?14は、本件発明1と同じ「算術平均粗さRaが1.3nm以下」とする要件を具備している。そうすると、本件発明2?14も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明4、引用文献4及び引用文献5の記載事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-08-21 
出願番号 特願2017-117666(P2017-117666)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
宮澤 浩
発明の名称 反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに反射防止層付き偏光板  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  
代理人 新宅 将人  

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