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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B25B
管理番号 1365525
審判番号 不服2019-15578  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-20 
確定日 2020-08-20 
事件の表示 特願2018-51159「電動工具システム及び電動工具」拒絶査定不服審判事件〔平成30年8月9日出願公開、特開2018-122429〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成26年11月5日に出願された特願2014-225330号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成30年3月19日に新たな特許出願としたものであり、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成31年 1月16日付け:拒絶理由通知
平成31年 3月26日 :出願人と審査官との面接
平成31年 4月 5日 :出願人からファクシミリ(補正案)の送付
平成31年 4月16日 :出願人と審査官との電話応対
令和 1年 5月23日 :意見書及び手続補正書提出
令和 1年 8月13日付け:拒絶査定
令和 1年11月20日 :審判請求書及び上申書提出
令和 2年 5月26日 :審判請求人と審判合議体との面接
令和 2年 6月 4日 :上申書提出

2 本願発明
本願の請求項1-5に係る発明は、令和1年5月23日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
作業者が工具を用いて作業対象に対して作業を行うために使用される電動工具システムであって、
動力源によって駆動されて作業対象を被取付部材に締め付ける締付部と、 前記締付部が発生する振動と音との少なくとも一方を測定するセンサと、
前記締付部の締め付け力を測定する測定部と、を備え、
前記センサの測定結果に基づいて、前記工具の状態を判断し、
前記測定部の測定結果に基づいて、作業内容を前記作業者に対する作業指示と比較して前記作業内容を判定する、
電動工具システム。
【請求項2】
前記工具の状態の判断結果と、前記作業内容の判定結果と、の両方を表示する表示部を更に備える、
請求項1に記載の電動工具システム。
【請求項3】
前記締付部、前記センサおよび前記測定部を有する工具と、
前記表示部を有する管理装置と、を備える、
請求項2に記載の電動工具システム。
【請求項4】
前記測定部の測定結果を、設計図面データによる前記作業指示と比較して、前記作業内容の良否を判定する、
請求項1?3のいずれか1項に記載の電動工具システム。
【請求項5】
請求項1?3のいずれか1項に記載の電動工具システムに前記工具として用いられる電動工具であって、
前記締付部、前記センサおよび前記測定部を有し、
前記センサの測定結果と、前記測定部の測定結果と、の両方を出力する、
電動工具。」

3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。
(1)この出願の請求項1-5に係る発明は、下記の引用文献1または2に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2)この出願の請求項1-5に係る発明は、下記の引用文献1または2に記載された発明及び引用文献3に記載された事項並びに周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特表2008-531303号公報
引用文献2.特開2010-194664号公報
引用文献3.国際公開第2014/090782号
引用文献4.特開2013-215865号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.特開平9-76166号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6.特開2004-118304号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7.特開2014-166662号公報(周知技術を示す文献)

4 引用文献の記載及び引用発明

(1)引用文献1の記載及び引用発明
引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付した。以下同じ。また、丸数字(丸で囲った数字)は、「○1」のように代替表記する。)。
(ア)「【0002】
本発明の分野に属するネジ締め工具は、(機械またはマニピュレータに取付けられる工具を含む)固定式かまたは携帯式かを問わず、工業界において極めて一般的に用いられている。
【0003】
これらの工具は、想定される用途によっては電動モータまたは空気圧手段を備えることができる。
【0004】
これらの工具を用いて一般的に実施されるところとしては、これらの工具は適切なコネクタによって(電気ボックスの形態にある)電子制御装置に接続され、このような電子制御装置は各々が20の作業段階から構成され得る多数の作業サイクル(例えば、250サイクル)をプログラム化することを可能にしている。
【0005】
これらのサイクルは、電気ボックスによって構成されるキーボードによって直接プログラム化されてもよいし、または関連するプログラム化ソフトウエアによって(すなわち、電気ボックスを地上ネットワーク、イーサネット(登録商標)、または他の形式のネットワークによってプログラム化システムに接続させることによって)プログラム化されてもよい。
【0006】
これらのシステムは、例えば、最終ネジ締めトルク、ネジ締め速度、最終ネジ締め角度、作業のデータおよび時間、または実施されたネジ締めの品質(所定のパラメータに基づく良否)を表す曲線のような作業結果を記録することによって、この工具により施された作業のトレーサビリティ(traceability)を確実にすることができる。
【0007】
工具自体もまた、例えばLEDにより表示可能な「良/否」の報告によって、ネジ締め品質を示す手段を備えることができる。」

(イ)「【0011】
周知の技術によれば、工具に内蔵された電子機器を制御するための電力を供給するために、工具は電気的な部分に接続されている。このような場合、工具には小さな表示装置およびいくつかの制御ボタンが設けられている。」

(ウ)「【0037】
すなわち、締付けトルクを測定することによって、工具本体に構成要素を追加する必要もなく、または既存の構成要素を変更する必要もなく、摩耗状態を測定するために必要なデータが得られることとなる。」

(エ)「【0057】
図1を参照すると、この実施形態によるネジ締め工具は、工具の本体10内に取り付けられたモータ(図示せず)を備えている。モータ出力端1は第1ギア段21に連結され、この第1ギア段21は第2ギア段22に連結されている。後者のギア段は、ベルクランクギア3に連結されている(この場合のネジ締め軸はモータ軸と直交している。ネジ締め軸とモータ軸が同軸である他の実施形態も考えられるが、その場合にギア3は省略されることとなる)。ベルクランクギア3は、ネジ締め用のドエルが嵌め込まれる接続金具4を有するネジ締めヘッドを回転させるように構成されている。
【0058】
工具により加えられる締付けトルクに関するデータを伝達するため、それ自体は周知である方法によって、トルクセンサ(この場合、歪ゲージのブリッジ回路)が円筒支持体50に取り付けられている。
【0059】
図2の機能図では、モータ1および(前述した第1ギア段21および第2ギア段22を備える)減速機2を明らかにするために、機械部材が図式的に示されている。
【0060】
図示されるように、トルクセンサ5は、データを工具の制御ユニット52に伝達する測定マイクロコントローラに接続されている。
【0061】
トルクセンサ5によって得られるデータに基づいて、制御ユニットはコマンドユニット53によってモータ1の作動を制御することとなる。
【0062】
工具の回転部材(モータ、第1ギア段および第2ギア段、ベルクランクギア)の各々によって伝達される振動周波数を特定するため、制御ユニット52はトルクセンサにより得られる信号を処理する手段も備えており、そのため、測定された周波数の振幅を各部材に固有の非摩耗状態を特徴付けるような基準となる周波数の振幅と比較することができる。
【0063】
工具の回転部材の振動周波数は、トルクセンサにより得られる信号に含まれる周波数スペクトルの形態となっている。以下、このような信号について、さらに詳細に説明する。
【0064】
振動周波数の処理は、制御ユニット52に含まれる演算および記憶手段によって施されることとなる。基準となる周波数の振幅が、ここに記憶されて、演算手段を用いて測定された周波数の振幅と比較されることとなる。
【0065】
この実施形態によれば、制御ユニット52およびコマンドユニットはユニット6に内蔵されている。このユニット6は、図2では「ネジ締め用制御装置」と呼ばれ、工具から独立している。
【0066】
また、このネジ締め用制御装置は、
-制御装置を、例えばイーサネット(登録商標)型のようなデータ交換ネットワークに接続可能にする通信モジュール61と、
-表示装置62と、
を備えている。
【0067】
このような構成においては、制御ユニットが工具の部材の振動周波数の振幅が対応した基準となる周波数の振幅よりも大きくなることを検出したときに、所定の信号および/またはメッセージが、表示装置62に表示され、任意選択的に通信モジュールによって遠隔ステーションに送信されることとなる。
【0068】
このようなメッセージは、該当する不具合のある部材を提示し、任意選択的に施される必要のある保守および/または点検の種類を特定することとなる。
【0069】
ネジ締めトルクは、トルクセンサによって伝達される電圧に基づいて決定されることに留意されたい。」

(オ)上記(ア)には、本発明の分野に属するネジ締め工具が携帯式のものを含むこと及び工具自身にねじ締めの品質を示す手段を表示すること、また、上記(イ)には、工具に小さな表示装置及びいくつかの制御ボタンを設けることが記載されている。ねじ締め工具が携帯式であれば、その工具を携帯するのは、工具を使用する作業者であると当然に理解できるし、表示装置を確認する者、制御ボタンを操作する者は工具を操作する作業者であることが明らかであるため、引用文献1記載の工具には作業者が作業対象に対する作業に用いるものが含まれると理解できる。

してみると、上記(ア)、(エ)の記載及び(オ)の事項を参酌すれば、引用文献1には、
「作業者が作業対象に対する作業に用いる工具から独立しているネジ締め用制御装置及び当該制御装置と通信する遠隔ステーションを有するネジ締め工具のシステムであって、
モータにより回転させられるネジ締めヘッドと、
工具の回転部材の各々によって伝達される振動周波数を特定するために、トルクセンサにより得られる信号を処理する手段と、
トルクセンサが接続され、データを制御ユニットに伝達する測定マイクロコントローラと、を備え、
トルクセンサにより得られる信号を処理する手段によって特定された振動周波数の振幅が回転部材の各々に対応した基準となる周波数の振幅よりも大きくなることを検出したときに、該当する不具合のある回転部材を提示する、
ネジ締め用制御装置及び遠隔ステーションを有するネジ締め工具のシステム。」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(2)引用文献4の記載
(ア)「【0001】
本発明は、製品の製造工程におけるネジ締め作業に係る締結作業装置およびその方法に関する。」

(イ)「【0018】
パソコンp1は、ネットワークn1を介して、予めネジ締め作業指示情報3が記憶される製品情報データベース1と、締結(ネジ締め)作業時のネジ締め作業実測情報4が記憶される作業実績データベース2とに接続されている。
ネジ締め作業指示情報3は、ネジ締め作業時の電動ドライバ5の先端位置、ネジ締めトルクなどのネジ締め作業に際しての指示情報である。
ネジ締め作業実測情報4は、ドライバトルク測定装置14から得た電動ドライバ5のトルク情報、ドライバ先端座標測定装置15(図2参照)から得た電動ドライバ5の先端位置の情報などを有している。」

(ウ)「【0027】
情報処理部9は、入力部19と、ネジ締め作業指示情報検索・取得部20と、情報出力部21と、ドライバトルク値情報入力部22と、ドライバトルク値情報比較・判定部24と、ドライバ先端座標情報比較・判定部25と、制御部26とを有している。
入力部19は、入力装置10でのユーザ、例えば、作業者13の入力による情報やバーコードリーダ8から入力された情報などを受信する。
【0028】
ネジ締め作業指示情報検索・取得部20は、入力装置10もしくはバーコードリーダ8から、入出力インターフェース16を介して入力された情報(製品名、型式)を用いて、製品情報データベース1に記憶したネジ締め作業指示情報3を検索して取得する。
ドライバトルク値情報入力部22は、ドライバトルク測定装置14から取得した電動ドライバ5のトルクの情報が入力される。
ドライバ先端座標実測値入力部23は、ドライバ先端座標測定装置15から得た電動ドライバ5の先端位置の情報が入力される。
【0029】
ドライバトルク値情報比較・判定部24は、ネジ締め作業指示情報3に含まれる電動ドライバ5のトルク値の情報とドライバトルク測定装置14から得た電動ドライバ5のトルク値の情報とを比較し、合致しているか否か整合性を判定する。両者の差分(減算値)は、ドライバトルク誤差値402g(表2参照)として取得される。
ドライバ先端座標情報比較・判定部25は、目標ネジ締め作業情報であるネジ締め作業指示情報3に含まれる電動ドライバ5の先端位置情報と、ドライバ先端座標測定装置15から得た実際に作業した電動ドライバ5の先端位置情報とを比較し、両者が合致しているか否か整合性を判定する。両者の差分(減算値)は、ドライバ先端座標誤差値405g(表2参照)として取得される。」

(3)引用文献5の記載
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、トルク検出装置を有するエアーモータ又は電気モータにより駆動されるトルクコントロールレンチ(本明細書において、単に「トルクコントロールレンチ」又は「レンチ」ともいう。)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ボルトやナットを所望の締付トルク値に締め付ける方式として、従来より、○1エアーモータ又は電気モータにより駆動されるレンチにより所望の締付トルクよりも小さい締付トルク値に締め付けた後、手動のレンチにより所望の締付トルク値になるまで再度締め付ける方式、及び○2トルクコントロールレンチに配設したトルク検出装置により測定した締付トルク値を、トルクコントロールレンチにケーブルを介して接続したコントローラに送信し、測定した締付トルク値がコントローラに設定、記憶されている所望の締付トルク値に達したときにコントローラから作動停止機構に作動停止信号を出力し、レンチの作動を停止する方式、等が用いられていた。しかしながら、上記の方式のうち、○1の方式は、ねじ締付作業が2工程となることから作業効率が低く、さらに、作業者の負担が大きいという問題点を有していた。一方、○2の方式は、1台のトルクコントロールレンチに対して、締付トルク値や1工程のねじ締付本数等のねじ締付作業条件の設定をするための機能を有する高価なコントローラが1台必要となり、設備費が高くなるとともに、複数台のトルクコントロールレンチを使用する場合には、作業効率を低下させる要因となっていた。また、この方式においては、ねじの締め忘れ等の異常が生じた場合には、コントローラに設けた表示装置のランプを点灯したり、ブザーを鳴らすことにより作業者に異常を知らせるようにしているため、コントローラを作業者の近傍に設置しなければならず、工場の設備の配置に制約があった。」

(イ)「【0011】レンチ本体1の後部には、コントローラ8を配設する。このコントローラ8は、トルク検出装置7と接続線91を介して接続されるとともに、トルクコントロールレンチへ供給される高圧空気の供給、停止を行う作動停止機構10等の外部制御部と接続線93を介して、また、外部電源(図示省略)と接続線94を介して接続される。コントローラ8は、所望の締付トルク値を記憶する記憶手段と、トルク検出装置7により測定した締付トルク値と記憶手段に記憶されている締付トルク値とを比較し、測定した締付トルク値が記憶手段に記憶されている締付トルク値に達したときに作動停止機構10に作動停止信号を出力する比較手段と、1工程のねじ締付本数等のねじ締付作業条件を記憶する記憶手段と、ねじ締付作業の管理手段と、ねじ締付作業情報の表示装置83とを備えている。
【0012】この表示装置83は、ねじ締付作業の管理手段から得られるねじ締付作業におけるねじの締付状態の適正・不適正等の情報を作業者に知らせるために設けられるもので、図示の発光ダイオードのほか、ブザーを配設することができる。なお、表示装置83には、そのほか、コントローラ8のスイッチのON・OFF、コントローラ8に内蔵されているCPUの稼働状態等を表示することができる。また、コントローラ8を内蔵するコントローラケース81は、ビス82により、レンチ本体1に着脱可能に配設できるように構成する。また、コントローラ8に対する締付トルク値やねじ締付作業条件の設定は、専用の設定器又は汎用のパソコン等の外部設定器11を使用して行うようにし、このため、コントローラ8の適宜の位置には、外部設定器11を接続するための端子(図示省略)を形成するようにする。なお、このコントローラ8は、本実施例に示すように、トルクコントロールレンチに一体的に配設して用いられるほか、トルクコントロールレンチとは分離して、例えば、外部電源の位置に配設し、トルクコントロールレンチとは接続線を介して接続するようにしてもよい。」

(4)引用文献7の記載
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、電動工具およびその管理システムに係り、特に施工対象の状態等に応じて適切な施工を行うことのできる電動工具およびその管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からモータ等のアクチュエータにより先端工具を駆動させて、ボルトやナットの締め付けや、釘の打ち込み等を行う各種電動工具が広く用いられている。」

(イ)「【0015】
[電動工具]
図1は、実施の形態に係る電動工具1および管理システム50の機能構成を示す機能ブロック図である。また、図2は、実施の形態に係る電動工具1および管理システム50の制御系および電気系の構成例を示すブロック図である。
【0016】
図1および図2に示すように本実施の形態に係る電動工具1は、歯車列等の動力伝達機構25を介して先端工具27を駆動するアクチュエータAと、アクチュエータAの駆動制御を行う制御手段9と、動力伝達機構25に先端工具27を着脱自在に取り付けるチャック等の工具着脱手段26と、先端工具27により施工する対象の状態を検出する検出手段24と、検出手段24による検出結果およびアクチュエータAに関する情報を表示する表示手段Dと、検出手段24による検出結果およびアクチュエータAに関する情報を外部の管理システム50との間で送受信する送受信手段11(11A、11B)と、アクチュエータA、制御手段9、検出手段24、表示手段Dおよび送受信手段11A、11Bを駆動する電源29とを備える。」

(ウ)「【0030】
また、アクチュエータAとしてのモータ2は、トルクセンサ3をさらに備え、制御手段9を構成するマイクロコンピュータは、トルクセンサ3の検出結果および送受信手段11を介して外部の管理システム50から受信したトルク情報に基いて、モータ2のトルクを調整するように制御することができる。」

(エ)「【0037】
管理システム50は、電動工具1によって施工する対象に関するCAD情報を蓄積するデータベース51と、データベース51のCAD情報の読み書きを制御するCPUおよび演算用メモリ等で構成される制御手段55と、制御手段55によりデータベース51から読み出されたCAD情報を表示する表示モニタ53と、表示モニタ53に表示されたCAD情報に関する操作を行うキーボードやマウス等で構成される入力手段(入力装置)54と、電動工具1が備える先端工具27により施工する対象の状態を検出する検出手段24の検出結果を受信する受信手段(受信機)56と、受信手段56を介して受信された検出結果に基いて、施工状態の良否を判定する判定手段65と、判定手段65の判定結果およびデータベース51のCAD情報に基いて、施工に関する修正情報を電動工具1に対して送信する送信手段(送信機)57とを備える。」

(オ)「【0066】
図7は、施工データ等の表示画面400の例である。
【0067】
この表示画面400では、表示欄401に、施工対象Aについて、ボルト名とその施工データが表示されている。
【0068】
例えば、ボルトAについては締付トルク(10kgf・cm)、ボルトBについては締付トルク(23kgf・cm)と設定されている。なお、締め付けトルクと時間の関係は図8のように示される。なお、図8に締め付けトルクとして示されている値は、実質的には、歪みゲージに通電される電圧を検出したものが示される。このトルク波形は、締付トルクのピーク値Tが同じであっても、電動工具1としてのレンチの運転状態、ボルトの種類(例えば、剛性の大小等)等によってA1?A3のように変化するものである。
【0069】
このように、各ボルト毎に設定された締付トルクについては、表示画面400を電動工具1の表示モニタ5あるいは後述ヘッドマウントディスプレイ100または管理システム50の表示モニタ53に表示させることにより、施工者や管理者が把握することができる。」

5 対比
(1)請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)について
(ア)本願発明と引用発明との対比
引用発明の「作業者が作業対象に対する作業に用いる工具から独立しているネジ締め用制御装置及び当該制御装置と通信する遠隔ステーションを有するネジ締め工具のシステム」は、本願発明の「作業者が工具を用いて作業対象に対して作業を行うために使用される電動工具システム」に相当する。
引用発明の「モータにより回転させられるネジ締めヘッド」は、本願発明の「動力源によって駆動されて作業対象を被取付部材に締め付ける締付部」に相当する。
引用発明の「トルクセンサにより得られる信号を処理する手段」は、振動の一種である振動周波数を特定しているため、振動を測定している点で本願発明の「締付部が発生する振動」「を測定するセンサ」に一致する。
引用発明の「トルクセンサが接続され、データを制御ユニットに伝達する測定マイクロコントローラ」は、トルクセンサで測定された工具により加えられる締付けトルクに係るデータを制御ユニットへ伝達する働きを行っており、締め付け力を測定していることは明らかであって、本願発明の「締付部の締め付け力を測定する測定部」に相当する。
引用発明の「トルクセンサにより得られる信号を処理する手段によって特定された振動周波数の振幅が回転部材の各々に対応した基準となる周波数の振幅よりも大きくなることを検出したときに、該当する不具合のある回転部材を提示する」ことは、本願発明の「前記センサの測定結果に基づいて、前記工具の状態を判断」することに相当する。

してみると、本願発明と引用発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
一致点:
作業者が工具を用いて作業対象に対して作業を行うために使用される電動工具システムであって、
動力源によって駆動されて作業対象を被取付部材に締め付ける締付部と、
前記締付部が発生する振動を測定するセンサと、
前記締付部の締め付け力を測定する測定部と、を備え、
前記センサの測定結果に基づいて、前記工具の状態を判断する、
電動工具システム。

相違点:
本願発明が「前記測定部の測定結果に基づいて、作業内容を前記作業者に対する作業指示と比較して前記作業内容を判定する」のに対して、引用発明はそのような判定を行う機能を有するか不明な点。

(イ)相違点についての検討
引用文献1の【0037】(上記4(1)(ウ))には、締付けトルクを測定することによって、工具本体に構成要素を追加する必要もなく、または既存の構成要素を変更する必要もなく、摩耗状態を測定するために必要なデータを得ることが記載されているから、当該記載に接した当業者は、引用発明のトルクセンサについて、既存の構成要素として認識するといえる。一方、引用文献1の【0006】-【0007】(上記4(1)(ア))には、背景技術として、引用発明が属するネジ締め工具において、実施されたネジ締めの品質(「良/否」)等を記録及び表示することが記載されており、工具の既存の構成要素としてのトルクセンサによって、ネジ締めの品質の管理を行うことが示唆されている。
そして、ネジ締めの「良/否」の判定を行うためには、その判定の基準となる作業をあらかじめ設定しておく必要があるところ、引用発明の属するネジ締め工具の分野において、作業者に対する作業指示を、作業内容を判定するための基準として設定し、測定結果に基づいて作業内容を前記作業指示と比較して作業内容の良否を判定することは周知の事項(引用文献4-5、7の上記4(2)-(4)の記載を参照)である。
上記のとおり、引用文献1には、既存の構成要素であるトルクセンサによって、ネジ締めの品質の良否、すなわち作業内容の良否を判定することの示唆があり、作業内容の良否を判定する基準として、作業者に対する作業指示を設定することが周知の事項であるから、引用発明において、該周知の事項を参酌し、既存の構成要素であるトルクセンサによって、作業内容の良否を判定するに当たり、その判定の基準を作業指示として設定し、作業内容を作業指示と比較して作業内容を判定するように構成することは当業者にとって容易になしえたことである。

6 請求人の主張について
(1)請求人の主張の概要
ア.審判請求書における主張の概要
本願発明は、「工具の状態」と、「作業内容」との2つについて判定することによって、作業にエラーがあった場合に、「工具」に原因があるのか、ユーザによる「作業内容」に原因があるのか、を区別できる点に大きなメリットがあるところ、引用文献1、2には、そもそも「工具の状態」及び「作業内容」の両方を判断する、という技術を適用すべき動機付けはないというべきであり、引用文献1の構成に、引用文献4-7に記載の技術を適用すべき動機付けは存在しない(以下、「主張1」という。)。

イ.令和2年6月4日の上申書の主張の概要
引用文献1の工具は、電子制御装置があらかじめ作成されたプログラムにしたがって当該工具を制御することで、当該工具にプログラム化された作業サイクルで作業を実行させるような工具であって、作業者が工具を用いて作業対象に対する作業を行うような工具ではない(以下、「主張2」という。)。

(2)請求人の主張について
上記相違点についての検討で述べたとおり、引用文献1では、工具の状態を管理する他、既存の構成として認識されるべきトルクセンサによって、実施されたネジ締めの品質(所定のパラメータに基づく良否)作業結果を記録して工具により施された作業のトレーサビリティ(traceability)を確実にすること、実施されたネジ締めの品質(「良/否」)を判断することが示唆されており、引用発明のネジ締め用制御装置及び遠隔ステーションに接続されたネジ締め工具においても、工具の状態を判断するのに加えて、作業内容を判断及び記録することは想定されているものであって、動機付けが存在しないとはいえず、請求人の上記主張1は採用できない。
また、上記4(1)(オ)で認めたとおり、引用文献1には、作業者が作業対象に対する作業を行う工具も含まれることを示す記載があり、引用文献1に接した当業者であれば、作業者が作業対象に対する作業を行う工具を十分に認識できるため、上記主張2も採用できない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-06-11 
結審通知日 2020-06-16 
審決日 2020-06-30 
出願番号 特願2018-51159(P2018-51159)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 和人上田 真誠  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 栗田 雅弘
松原 陽介
発明の名称 電動工具システム及び電動工具  
代理人 特許業務法人北斗特許事務所  

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