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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61J
管理番号 1365855
審判番号 不服2018-12451  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-18 
確定日 2020-09-09 
事件の表示 特願2016-563943「流体の閉じた移送のためのシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月29日国際公開、WO2015/164333、平成29年 6月 1日国内公表、特表2017-513613〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年) 4月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年 4月21日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略以下のとおりである。
平成29年10月19日:拒絶理由通知
平成30年 1月31日:意見書、手続補正書の提出
平成30年 5月10日:拒絶査定
平成30年 9月18日:審判請求、同時に手続補正書の提出
令和 1年10月17日:拒絶理由通知
令和 2年 1月29日:意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「シリンジアダプタであって、
第1端および第2端を有し、前記第1端が、第1の容器に固定されるように構成される、ハウジングと、
第1端および第2端を有するカニューレであって、該カニューレの第2端が、前記ハウジング内に配置された、前記カニューレと、
第1端および第2端を有するコレットであって、該コレットの少なくとも一部は、前記ハウジング内に受容され、前記コレットは、通路を画定する本体と、前記通路に受容されるシール部材と、ロック部材とを備え、前記ロック部材は、第1の弧状部分と、第2の弧状部分を含み、前記第1の弧状部分は、前記コレットの前記本体に複数のアームを介して弾性的に接続され、前記第2の弧状部分は、前記コレットの前記本体に複数のアームを介して弾性的に接続され、前記第1および第2の弧状部分は、前記複数のアームに対して、半径方向内方および半径方向外方に突出し、前記コレットは、前記ロック部材が、開かれて、相手コネクタを受容する第1の位置から、前記ロック部材の径方向外方への移動が規制される第2の位置に移動可能である、前記コレット、
を含み、
前記ハウジングの前記第2端は、前記コレットが前記第1の位置にあるとき、前記コレットの前記ロック部材を受け入れる環状凹部を画定することを特徴とするシリンジアダプタ。」

第3 拒絶の理由
令和1年10月17日の当審が通知した拒絶理由のうちの理由2は、次のとおりのものである。

本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献1及び引用文献2にそれぞれ記載された周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2013-66748号公報
引用文献2.国際公開第2014/003614号

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審において付与した。

A「【0001】
本発明は、流体移送デバイスの分野に関するものである。より詳細には、本発明は、容器間で有害薬剤を汚染なく移送するための装置及び方法に関するものである。」

B「【0011】
本発明の目的は、有害薬剤、又は有害薬剤若しくは薬剤の気化物によって汚染された空気の漏洩を防止し、周囲環境からの汚染物質が移送プロセス中に薬剤と接触するのを防止するように構成された、密閉システムの流体移送アセンブリを提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、同じ体積の有害薬剤及び空気が、圧力を平準化する構成によって流体移送アセンブリ内部で交換され、それによって使用者が有害薬剤に曝されることを防止する、密閉システムの流体移送アセンブリを提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、流体移送作業の任意の段階においても、使用者に対して針の先端などの鋭い物体を露出しない、流体移送アセンブリを提供することである。」

C「【0021】
本明細書では、流体移送構成要素は、例えば注射器、バイアル、輸液バッグ、様々なタイプのアダプタなどの任意の構成要素を意味し、液体の薬剤をある流体移送構成要素から別の流体移送構成要素へ、又は患者へ、収容し、輸送し、移送するために用いられる。」

D「【0055】
図1は、本発明の一実施例による、周囲を汚染せずに有害薬剤を移送するための装置10の斜視図を示す。装置10の近位部27は、本質的に従来の注射器である。それは、所望の体積の有害薬剤を、例えばバイアル14又は静脈内(IV)バッグなどの、薬剤が収容されている流体移送構成要素から引き出し、次いで別の流体移送構成要素に薬剤を移送するように構成されている。」

E「【0072】
図9に示されるように、コネクタ部25は、近位のキャップ113から近位に突出し、スロート26を囲むカラー124によって近位部27のスロート26に連結される。スロート26及びカラー124は、製造時に単一の要素として共に形成され、又は例えば糊付け又は溶接によって共に永久的に取り付けられ、又はネジ係合若しくはルアー・コネクタなどの連結手段と共に形成される。コネクタ部は、圧縮可能であり、且つ往復可能な二重膜シール・アクチュエータを含む。二重膜シール・アクチュエータは、第1の遠位の位置に配置された場合、針が隠される通常の弛緩構成(relaxed configuration)をとり、近位に移動された場合、圧縮されて針を露出する。コネクタ部25は、別の流体移送構成要素に解除可能に連結されるように構成され、その構成要素は、薬剤バイアル、静脈内バッグ、又は流体がそこを通り、流体移送構成要素間で移送される「流体移送アセンブリ」を形成するための静脈内ラインなどの標準的なコネクタを備える任意の流体容器であってもよい。
【0073】
図9に示されるように、コネクタ部25は、円筒形の中空の外側本体128と、本体128から径方向に突出し、流体移送構成要素の近位端が連結のためにそこを通して挿入される開口126で終端する遠位のショルダ部分129と、本体128の内部で往復移動可能な二重膜シール・アクチュエータ130と、円筒形のアクチュエータ・ケーシング137の中間の部分に、その近位端で連結された弾性のアーム133及び134と、コネクタ部25の内部119内に、その密閉された近位のキャップ113の中央部分から突出する針ホルダ115に保持された固定式の空気導管46及び液体導管48とを備える。針ホルダ115は、外側本体128及び近位のキャップ113の一部分であり、そこに針が接着される。
【0074】
導管46及び48は、針ホルダ115から遠位に延出し、アクチュエータ130の膜142を突き通す。導管46及び48の遠位端はそれぞれ、鋭い尖った端部46a及び48aを有し、さらにそれぞれ孔111及び112を設けられ、流体移送作業中に流体がそこを通って移送される。空気導管46の近位端は流体移送ユニット10の内部の中を延出するが、液体導管48の近位端は、液体導管が流体移送ユニット10のスロート26の内部と流体連通するように、コネクタ部25のキャップ113において、又はそこからわずかに近位に終端する。
【0075】
本明細書で上記に説明されたように、流体は、同じ体積の有害薬剤及び空気が流体移送アセンブリの内部で交換される圧力平衡構成によって移送される。流体移送ユニット10は、キャップ52からピストン34に延出する中空のピストン・ロッド30を備え、バレル24の内壁に密封式に係合し、バレル24に対して移動可能である。ピストン34は、可変の体積の2つのチャンバを画成する。それは、ピストン34とコネクタ部25との間の遠位の液体チャンバ38、及びピストン34とストッパ28との間の近位の空気チャンバ40である。空気導管46は、ピストン34を通過し、中空のピストン・ロッド30の内部に延出する。導管46を通って流れる空気は、ピストン・ロッド30の内部に入り、ピストン・ロッド30の遠位端に形成された孔50(図10Cに示される)を通って空気チャンバ40を出る。空気導管46よりもかなり短い導管48は、薬剤の溶液が液体チャンバ38に流入できるように構成されている。
【0076】
二重膜シール・アクチュエータ130は、矩形断面を有する近位のディスク形状の膜142、及びT字形断面を有する遠位の二重ディスク形状の膜143を含み、その膜143は、矩形の近位部分144及び近位部分144に対して径方向内側に配置される遠位部分147を有する。膜142及び143は、ケーシング137内に設置され、遠位部分147はケーシング137から遠位に突出する。等しい長さのアーム133及び134が、伸長され、実質的に長手方向に配置され、それぞれ連結点161’及び162’でケーシング37に取り付けられている。アーム33及び34は、それぞれ遠位の拡張要素161及び162で終端する。弾性のアーム133及び134は、そうすることが妨げられない限り、拡張要素161及び162の間の距離が、コネクタ部25の直径よりも拡張されるように設計される。拡張要素161及び162は、アクチュエータ130が第1の遠位の位置に配置された場合、ショルダ部分129内に受け入れられ、係合されるように構成される。アクチュエータ130が、この第1の位置にある場合、尖った端部46a及び48aが膜142及び143の間に保持され、使用者が尖った端部にさらされ、負傷するのを防止し、同時に導管46及び48の端部を周囲から密封し、それによって流体移送ユニット10の内部の汚染、及びユニット10の内部の中に含まれる有害な薬剤の周囲への漏洩を防止する。」

F「【0078】
図11及び図12は、それぞれ、バイアル・アダプタ160の斜視図及び断面図を示す。バイアル・アダプタ160は、コネクタ部25を薬剤バイアル14、又は適切な形状及び寸法にされたポートを有する任意のその他の構成要素に連結するために使用される中間の連結である。バイアル・アダプタ160は、流体移送デバイスの第1の実施例と共に使用することもできる。バイアル・アダプタを導入する主な理由のうちの1つには、市販の薬剤バイアルの最上部を密封する膜58の最上部の外表面が一般に円滑でないことがある。したがって、バイアル・コネクタを使用して、薬剤を汚染なく移送するのに必要な、コネクタ部25の遠位端での膜143の遠位部分147と円滑なシール同士の接触を行う。さらに、膜58が一般的に作製される材料は特性が十分でなく、即ちそれが針によって突き通される場合、数回刺通された後にくずれて(disintegrate)、漏れを起こす。
【0079】
バイアル・アダプタ160は、環状の近位のキャップ168を設けられたカラー部165、及びキャップ168から近位に突出する長手方向の延長部169を含む。長手方向の延長部169は、バイアル・アダプタを使用する第2の理由である。それは、従来の薬剤バイアルのネックよりもはるかに長く、したがって以下に説明するように、薬剤の移送ができるようにするためにコネクタ部25の遠位端で開口126に嵌入する。カラー部分165は、バイアル14のヘッド部20への固定を促進するための、その内側の面の凸リップ163と共に形成された複数の円周部のセグメント167から成る。長手方向の延長部169は、延長部169の直径よりも大きな直径を有する膜囲壁171によって近位に終端する。膜囲壁171は、近位の中央の開口172を有し、それによって、そこに保持される膜176がアクセス可能となる。
【0080】
膜176から遠位に延出する2つの長手方向のチャネル178及び179は、長手方向の延長部169の内部に形成され、それぞれ導管46及び48を受け入れるように構成される。膜囲壁171には、スロットがあり、コネクタ部25の、円筒形の中空の外側本体128の内側には、稜部又はピンがある(スロットも稜部も図には示されない)。連結する間、稜部/ピンは、スロット内に入り、摺動しなければならず、任意のその他の方向に対しては、稜部/ピンは、膜囲壁171に接触し、さらなる連結の動きを阻止する。稜部/ピン及びスロットは、導管46及び48が常に、長手方向の延長部169内のそれらの指定されたチャネルに入るように、それぞれの部分に配置される。長手方向の延長部169はキャップ68から遠位に突出するスパイク要素177によって遠位に終端する。スパイク要素77は、それぞれチャネル178及び179と連通する開口188及び189によって形成される。
【0081】
バイアル14は、中央の近位のシール58を有し、シール58は、収容された薬剤の外側への漏洩を防止するように構成される。遠位の力がバイアル・アダプタ160に加えられるとき、スパイク要素がバイアル14のシール58を突き通して、チャネル178及び179が薬剤バイアル14の内部と連通できるようにする。これが起こるとき、カラー部分165の円周部のセグメント167が、バイアル14のヘッド部20と確実に係合する。バイアル14の膜58が突き通された後に、それはスパイク177の周りを密封し、バイアルの外へ薬剤が漏洩するのを防止する。同時に、チャネル178及び179の頂部が膜176によって密封され、空気がバイアル14の内部に入り、又は薬剤がそこから出るのを防止する。

G「【0082】
図13から図16は、それぞれ、アクチュエータ30によって可能となる、固定された二重膜係合手順を示す。図示されるように、アクチュエータ130の遠位の膜143は、バイアル・アダプタ160の膜176と固定係合されるが、固定係合作業は、任意のその他の適切な流体移送構成要素と共に実行できることを理解されたい。手順は、以下のように実行される。ステップ1-バイアル・アダプタ160の膜囲壁171がコネクタ部25の遠位開口126の近くに配置される。ステップ2-二重膜係合手順が、コネクタ部25の遠位に移動する本体128によって開始され、バイアル・アダプタ160の膜囲壁171及び延長部169がコネクタ部25の内部119の遠位端に入るまで行われる。ステップ3-アクチュエータ30の膜143がバイアル・アダプタ160の固定膜176に接触し、本体128のさらなる遠位の移動によって押し付けられる。膜が互いに強固に押し付けられた後に、拡張要素161及び162がショルダ部分129から解除される。この段階では、膜143及び176は、拡張要素161及び162によって互いに押し付けられて保持され、アクチュエータ130が、相対的な近位の移動によりバイアル・コネクタ160から係脱することが防止される。ステップ4-導管46及び48の先端が膜143及び176を突き通し、バイアル14の内部と流体連通するまで、本体128のさらなる遠位の移動により、アクチュエータ130が本体128に対して近位に移動する。これらの4つのステップは、コネクタ部25がバイアル・アダプタ160に対して遠位に移動されるとき、1つの連続的な軸線方向の動作によって行われ、それらのステップは、コネクタ部25を固定して保持しバイアル・アダプタ160を遠位に移動することによってバイアル・アダプタ160からコネクタ部25を分離するために、逆に行うことができる。手順は4つの別個のステップを含むものとして本明細書に説明されるが、これは手順を説明するのを容易にするために過ぎないことを重要な点として強調しておきたい。実際には、本発明を使用した固定された二重膜係合(及び係脱)手順は、単一の円滑な軸線方向の移動を使用して実行されることが理解されよう。
【0083】
流体移送装置10が取り付けられるコネクタ部25を、バイアル14が取り付けられるバイアル・アダプタ160に連結する手順の第1のステップは、図13に示される。図13に示される段階では、二重膜シール・アクチュエータ130は、その第1の、コネクタ部25の遠位端で遠位の位置にあり、バイアル・アダプタ160の膜囲壁171の近くに移動させられる。図13に示される、流体移送装置10、コネクタ部25、バイアル・アダプタ160、及びバイアル14のすべての要素は、図9及び図12を参照して上記に説明されている。
【0084】
図14は、固定された二重膜係合手順の第2のステップを示す。自然な傾向により可撓性アーム133及び134が拡張された部分を側方に外側に向かって押し、拡張要素161及び162がショルダ部分129に保持されるとき、膜囲壁171の直径は、拡張要素161及び162との間の間隔よりも小さい。これによって、膜囲壁171が119の内部に難なく進入することができる。コネクタ部25がバイアル・アダプタ160の方向に押されると、拡張要素161及び162がショルダ部分129に保持され、膜囲壁171の側面によって内側に移動するのが防止される。ショルダ129の上方の表面131及び132は、それぞれアーム133及び134の遠位部分と接触し、それらがコネクタ部25の本体128に対して近位に移動するのを防止する。
【0085】
図15は、固定された二重膜係合手順の第3のステップを示す。コネクタ部25がさらに遠位に移動すると、T字型膜143の遠位の膜部分147が、膜囲壁171の中央の開口172(図11)に入る。遠位の膜部分147は、バイアル・アダプタの膜176に接触し、濃い領域194によって概略的に表されるように、2つの膜は、互いに対して圧縮される。膜が共に押し付けられている間、アクチュエータ130がコネクタ25の本体128へ上昇して入れるようになることが、拡張要素161及び162によって防止される。拡張要素161及び162は、バイアル・アダプタ60の膜囲壁171の外側表面によって、コネクタ25の本体28の壁の遠位のショルダ部分129から出ることが防止される。コネクタ部25及びバイアル・アダプタ160を共に押すためにより大きな力が加えられると、膜の圧縮量が増加して、膜囲壁171の側面が拡張要素61及び62を過ぎて移動するまで、長手方向の延長部169及び膜囲壁171が移動して119のさらに内部に入る。拡張要素161及び162は、もはや膜囲壁によって阻止されなくなった後に、径方向内側に移動でき、ショルダ部分129から解除され、膜囲壁171の遠位の下側面181に当接する。この段階で、2つの膜143及び147が固定結合及び圧縮結合の状態で互いにロックされる。
【0086】
図16は、固定された二重膜係合手順の第4のステップを示す。拡張要素161及び162は、コネクタ部25のショルダ部分129から解除され、コネクタ部の本体128の内壁によって側方に外側に移動するのが防止される。これによって、バイアル・アダプタの膜囲壁171が、二重シール・アクチュエータ130に固定して取り付けてられて維持される。コネクタ部25がバイアル・アダプタ160に対してさらに遠位に移動すると、二重膜シール・アクチュエータ130及び取り付けられたバイアル・コネクタ160がコネクタ部25の内部119において近位に移動する。導管46及び48はコネクタ部25の近位端で針ホルダ115に固く固定されるので、二重膜シール・アクチュエータ130が近位に移動すると、導管46及び48の尖った遠位端46a及び48aが、バイアル・コネクタ160内の長手方向のチャネル178及び179に入るまで、ダイアフラム143及び176を貫通して漸進的に押し出される。バイアル・コネクタ160がバイアル14に予め連結されているので、スパイク177はバイアル14の最上部で膜165を貫通し、したがってこの時点で2つの独立の流体通路がそれぞれ、バイアル14の内部、遠位の液体チャンバ38、流体移送装置10内の近位の空気チャンバ40の間で確立される。
【0087】
図16に示されるように、拡張要素161及び162の近位の内部表面が膜囲壁171の平らな下側面に係合し、外側に移動することが防止される。したがって、膜囲壁171が通常の取り扱いの下でコネクタ部から不意に係脱することが防止される。しかし、バイアル・アダプタが固定位置に保持されている間、流体移送装置に比較的大きな規模の垂直の力が加えられると、本明細書で下記に説明されるように、バイアル・アダプタが二重膜シール・アクチュエータから係脱する可能性がある。」

H「図9



I「図11



J「図16



K 摘記事項E、H、Jから、液体導管48の尖った端部48aは外側本体128及びショルダ部129内に配置されていることが看て取れる。

L 摘記事項E、Hから、二重膜シール・アクチュエータ130は、近位端及び遠位端を有することが看て取れる。

M 摘記事項G、Hから、拡張要素161及び162は、アーム133及び134に対して、半径方向内方および半径方向外方に突出していることが看て取れる。

N 摘記事項F、Iから、バイアル14のヘッド部20と係合するカラー部165の円周部のセグメント167は、弧状であり、キャップ168に2本のアームを介して弾性的に接続されることが看て取れる。

(2)上記記載、及び、認定事項から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は、注射器用のコネクタ部25に関するものである(摘記事項C、D、E)。
b コネクタ部25は、外側本体128及びショルダ部129を備え、該外側本体128及びショルダ部129が、近位のキャップ113と開口126とを有し、前記近位のキャップ113が装置10の近位部27に連結されるように構成される(摘記事項E)。
c コネクタ部25は、近位端及び尖った端部48aを有する液体導管48を備え、該液体導管48の尖った端部48aが、外側本体128及びショルダ部分129内に配置されている(摘記事項E、H、J、認定事項K)。
d コネクタ部25は、近位端及び遠位端を有する二重膜シール・アクチュエータ130を備え、該二重膜シール・アクチュエータ130は、外側本体128及びショルダ部分129内に配置される(摘記事項E、H、認定事項L)。
e 二重膜シール・アクチュエータ130は、円筒形のアクチュエータ・ケーシング137と、アクチュエータ・ケーシング137内に設置される膜143と、拡張要素161及び162とを備え、前記拡張要素161及び162は、拡張要素161と拡張要素162を含み、前記拡張要素161は、二重膜シール・アクチュエータ130の前記アクチュエータ・ケーシング137に弾性のアーム133を介して接続され、前記拡張要素162は、二重膜シール・アクチュエータ130の前記アクチュエータ・ケーシング137に弾性のアーム134を介して接続され、前記拡張要素161及び162は、前記アーム133及び134に対して、半径方向内方および半径方向外方に突出している(摘記事項E、G、H、認定事項M)。
f 二重膜シール・アクチュエータ130は、拡張された部分が外側に押され、バイアル・アダプタ160の膜囲壁171が内部に進入することができる遠位の位置から、前記拡張要素161及び162が外側に移動することが防止される近位に移動できる(摘記事項G)。
g 外側本体128及びショルダ部129の開口126は、二重膜シール・アクチュエータ130が遠位の位置にあるとき、前記二重膜シール・アクチュエータ130の拡張要素161及び162を受け入れるショルダ部分129を備えている(摘記事項E、G、H)。

(3)上記(1)、(2)から、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「注射器用のコネクタ部25であって、
近位のキャップ113と開口126とを有し、前記近位のキャップ113が装置10の近位部27に連結されるように構成される外側本体128及びショルダ部129と、
近位端及び尖った端部48aを有する液体導管48であって、該液体導管48の尖った端部48aが、外側本体128及びショルダ部分129内に配置された、前記液体導管48と、
近位端及び遠位端を有する二重膜シール・アクチュエータ130であって、該二重膜シール・アクチュエータ130は、前記外側本体128及びショルダ部分129内に配置され、前記二重膜シール・アクチュエータ130は、円筒形のアクチュエータ・ケーシング137と、アクチュエータ・ケーシング137内に設置される膜143と、拡張要素161及び162とを備え、前記拡張要素161は、前記二重膜シール・アクチュエータ130の前記アクチュエータ・ケーシング137に弾性のアーム133を介して接続され、前記拡張要素162は、前記二重膜シール・アクチュエータ130の前記アクチュエータ・ケーシング137に弾性のアーム134を介して接続され、前記拡張要素161及び162は、前記アーム133及び134に対して、半径方向内方および半径方向外方に突出し、前記二重膜シール・アクチュエータ130は、拡張された部分が外側に押され、バイアル・アダプタ160の膜囲壁171が内部に進入することができる遠位の位置から、前記拡張要素161及び162が外側に移動することが防止される近位に移動できる、前記二重膜シール・アクチュエータ130、
を備え、
前記外側本体128及びショルダ部129の開口126は、前記二重膜シール・アクチュエータ130が遠位の位置にあるとき、前記二重膜シール・アクチュエータ130の前記拡張要素161及び162を受け入れるショルダ部分129を備えている注射器用のコネクタ部25。」

(4)上記(1)の摘記事項I、認定事項Nから、引用文献1には、次の技術が記載されていると認められる。
「バイアル・アダプタであって、
キャップ168と、カラー部165とを備え、前記カラー部165は、弧状の円周部のセグメント167を含み、前記弧状の円周部のセグメント167は、前記キャップ168に2本のアームを介して弾性的に接続され、カラー部分165の円周部のセグメント167が、バイアル14のヘッド部20と係合するバイアル・アダプタ168。」

2 引用文献2
(1)引用文献2には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審において付与した。また、括弧内は、当審による仮訳である。

A「The invention relates to a connecting device for use in a medical fluid transfer arrangement, the connecting device comprising first and second generally cylindrical parts, the first part comprising a hollow piercing member comprising an inner channel and the second part comprising a bottle coupling member. The invention also concerns a method for applying the connecting device to a medical bottle.」(明細書1頁3行-7行)
(本発明は、医療用の流体移送装置に使用するための接続装置に関するものであって、当該接続装置は、第1及び第2のほぼ円筒形の部分を含み、第1の部分は、内部通路を有する中空穿刺部材を備え、第2の部分は、ボトル連結部材を備えている。また、本発明は、接続装置を医療用ボトルに適用するための方法に関する。)

B「The interlocking means may be of the reversible type that is designed so that it can be reopened without destroying or damaging the connecting device.」(明細書5頁22行-24行)
(連結手段は、接続装置を破壊または損傷することなく開放することができるようになっている可逆型のものであってもよい。)

C「The second part 3 of the bottle connector 1 is shown in Fig. 2b and is seen from the second end 7 which is the end that is arranged to be remote from the second end 5 of the firs part 2 when the bottle connector 1 is assembled.」(明細書13頁17行-19行)
(ボトルコネクタ1の第2の部分3は、図2Bに示されており、ボトルコネクタ1が組み立てられたときには、第1の部分2の第2の端部5から離れて配置される第2の端部7から見られる。)

D「The first end 6 of the second part 3 has an end wall 33 with an end opening 34.」(明細書14頁13行)
(第2の部分3の第1の端部6は、開口34を有する端壁33を有している。)

E「The second end 7 of the second part 3 is provided with hook elements 35. The hook elements 35 are configured to fit over a bottle neck to keep the bottle connector 1 locked to the bottle, in order to facilitate application of the bottle connector 1 to a bottle, the side wall of the second part 3 of the bottle connector 1 is divided into flexible tongues 36 that can be slightly bent outwardly as the bottle connector 1 is pressed down over a bottle neck. The flexible tongues 36 may be two or more, such as 2-30 flexible tongues. The hook elements 35 are arranged at the free ends of the flexible tongues 36. Alternatively, the side wall of the second part 3 may be provided with slits extending in the axial direction of the second part 3.」(明細書14頁19行-27行)
(第2の部分3の第2の端部7は、フック要素35が設けられている。フック要素35は、ボトルコネクタ1のボトルへの係止を保持するために、ボトル首部に適合するように構成されている。ボトルコネクタ1のボトルへの適用を容易にするために、ボトルコネクタ1の第2の部分3の側壁は、ボトルコネクタ1がボトル首部に押し下げられるときに僅かに外側に曲げられる、可撓性舌部36に分割されている。可撓性舌部36は、2つ以上、例えば2-30の可撓性の舌片であってもよい。フック要素35は、可撓性舌部36の自由端部に配置されている。あるいは、第2の部分3の側壁は、第2の部分3の軸線方向に延びるスリットを設けてもよい。)

F「The hook elements 35 on the second part 3 of the bottle connector 1 are configured to fit under the rim 44 around the bottle opening 43 in the medical bottle 41 to keep the bottle connector 1 securely locked in position over the bottle opening 43.
Fig. 5a shows the bottle connector 1 and the medical bottle 41 just before the bottle connector 1 is brought into contact with the bottle 41. The tip 40 of the piercing member 9 can be seen to protrude slightly past the edge of the second end 5 of the first part 2 of the bottle connector 1 but not past the edge of the second end 7 of the second part 3 of the bottle connector 1.
Fig. 5b shows the bottle connector 1 and the medical bottle 41 in the process of being pressed down onto the medical bottle 41 but before the hook elements 35 on the flexible tongues at the second end 7 of the second part of the bottle connector 1 have snapped into engagement with the rim 44 at the bottle neck 42.
While applying the second part 3 of the bottle connector 1 over the bottle neck 42, the bottle connector 1 is kept in the transport configuration by means of the locking protrusions 31 on the locking tongues 30 on the second part 3 of the bottle connector 1 being engaged with the first locking openings 17 in the first part 2 of the bottle connector 2.
After coupling of the bottle connector 1 to the bottle neck 42, the piercing member 9 on the first part of the bottle connector 1 is brought to penetrate the sealing member 45 in the bottle opening 43 by telescopically sliding or pushing the first part 2 in relation to the second part 3 and bringing the connecting device to assume the fluid transfer configuration shown in Fig. 5c and described in detail in connection with Figs. 4a and 4b.」(明細書17頁1行-22行)
(ボトルコネクタ1の第2の部分3のフック要素35は、ボトルコネクタ1がボトル開口部43の上に確実にロックされた状態を保持するように、医療ボトル41のボトル開口部43の周囲のリム44の下に適合するように構成されている。
図5aは、ボトルコネクタ1が医療ボトル41に接触する直前のボトルコネクタ1と医療ボトル41とを示している。穿刺部材9の先端部40は、ボトルコネクタ1の第1の部分2の第2の端部5の縁部を僅かに超えて突出しているが、ボトルコネクタ1の第2の部分3の第2の端部7の縁部を超えていないのが見える。
図5bは、医療用ボトル41上に押し下げられているが、ボトルコネクタ1の第2の部分の第2の端部7の可撓性の舌片上のフック要素35がボトル首部42のリム44に係合する前の工程におけるボトルコネクタ1と医療ボトル41とを示している。
ボトル首部42上にボトルコネクタ1の第2の部分3を適合すると、ボトルコネクタ1の第2の部分3の係止片30に形成した係止突部31がコネクタ2の第1部分2の第1係止孔17に係合することにより、ボトルコネクタ1は輸送形態に維持される。
ボトルコネクタ1をボトル首部42に結合した後、ボトルコネクタ1の第1の部分の穿刺部材9は、第1の部分2を第2の部分3に対して入れ子式にに摺動させるか又は押すことによって、ボトル開口部43のシール部材45に貫通され、接続装置を図5cに示され図4a、4bに詳細に記載された流体移送形態とする。)


G「Fig.2b



H「Fig.5b



I「Fig.5c



J 摘記事項D、E、Gから、可撓性舌部36は、フック要素35が設けられた弧状部分が端壁33に複数のアームを介して弾性的に接続されていることが看て取れる。

K 摘記事項E、F、G、H、Iから、ボトルコネクタ1の第2の部分3は、ボトルコネクタ1の第1の部分2内に移動可能に配置され、ボトルコネクタ1の第2の部分3が図5bに示された第1の位置にあるときに、フック要素35が設けられた可撓性舌部36が外側に曲げられてボトル首部42のリム44に係合することができ、ボトルコネクタ1の第2の部分3が図5cに示された第2の位置にあるときに、フック要素35が設けられた可撓性舌部36の外側への曲げが規制されていることが看て取れる。

(2)上記記載、及び、認定事項から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。
「医療用の流体移送装置に使用するための接続装置であって、
第1の部分2と、
第2の部分3であって、該第2の部分3は、前記第1の部分2内に配置され、前記第2の部分3は、端壁33と、フック要素35が設けられた可撓性舌部36とを備え、前記フック要素35が設けられた可撓性舌部36は、弧状部分を含み、前記弧状部分は、前記第2の部分3の端壁33に複数のアームを介して弾性的に接続され、前記第2の部分3は、前記フック要素35が設けられた可撓性舌部36が外側に曲げられてボトル首部42のリム44に係合する第1の位置から、フック要素35が設けられた可撓性舌部36の外側への曲げが規制されている第2の位置に移動可能である接続装置。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「注射器用のコネクタ部25」は、その文言の意味、機能又は構成等からみて、本願発明の「シリンジアダプタ」に相当する。
以下同様に、本願発明の「ハウジング」に関し、「近位のキャップ113」は「第1端」に、「開口126」は「第2端」に、「装置10の近位部27」は「第1の容器」に、「連結される」という態様は「固定される」という態様に、「外側本体128及びショルダ部129」は「ハウジング」に、それぞれ相当する。
本願発明の「カニューレ」に関し、「近位端」は「第1端」に、「尖った端部48a」は「第2端」に、「液体導管48」は「カニューレ」に、それぞれ相当する。
本願発明の「コレット」に関し、「近位端」は「第1端」に、「遠位端」は「第2端」に、「二重膜シール・アクチュエータ130」は「コレット」に、「二重膜シール・アクチュエータ130は、前記外側本体128及びショルダ部分129内に配置され」という態様は「コレットの少なくとも一部は、前記ハウジング内に受容され」という態様に、「円筒形のアクチュエータ・ケーシング137」は「通路を画定する本体」に、「アクチュエータ・ケーシング137」は「本体」に、「アクチュエータ・ケーシング137内に設置される膜143」は「通路に受容されるシール部材」に、「拡張要素161及び162」及び「拡張された部分」は「ロック部材」に、「アーム133」及び「アーム134」は「アーム」に、「バイアル・アダプタ160の膜囲壁171」は「相手コネクタ」に、「拡張された部分が外側に押され、バイアル・アダプタ160の膜囲壁171が内部に進入することができる遠位の位置」は「ロック部材が、開かれて、相手コネクタを受容する第1の位置」に、「拡張要素161及び162が外側に移動することが防止される近位」は「ロック部材の径方向外方への移動が規制される第2の位置」に、「移動できる」という態様は「移動可能」という態様に、それぞれ相当する。
さらに、「備え」という態様は「含み」という態様に、「遠位の位置」は「第1の位置」に、「ショルダ部分129」は「環状凹部」に、「備えている」は「画定する」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「拡張要素161」と本願発明の「第1の弧状部分」とは、「第1の係合部分」という点において共通し、以下同様に、「拡張要素162」と「第2の弧状部分」とは「第2の係合部分」という点において、「拡張要素161は、二重膜シール・アクチュエータ130のアクチュエータ・ケーシング137に弾性のアーム133を介して接続され」という態様と「第1の弧状部分は、コレットの本体に複数のアームを介して弾性的に接続され」という態様とは「第1の係合部分は、コレットの本体にアームを介して弾性的に接続され」という態様において、「拡張要素162は、二重膜シール・アクチュエータ130のアクチュエータ・ケーシング137に弾性のアーム134を介して接続され」という態様と「第2の弧状部分は、コレットの本体に複数のアームを介して弾性的に接続され」という態様とは「第2の係合部分は、コレットの本体にアームを介して弾性的に接続され」という態様において、「拡張要素161及び162は、アーム133及び134に対して、半径方向内方および半径方向外方に突出し」という態様と「第1および第2の弧状部分は、複数のアームに対して、半径方向内方および半径方向外方に突出し」という態様とは「第1および第2の係合部分は、複数のアームに対して、半径方向内方および半径方向外方に突出し」という態様において、それぞれ共通する。

してみると、本願発明と引用発明とは、以下の点において一致する。
「シリンジアダプタであって、
第1端および第2端を有し、前記第1端が、第1の容器に固定されるように構成される、ハウジングと、
第1端および第2端を有するカニューレであって、該カニューレの第2端が、前記ハウジング内に配置された、前記カニューレと、
第1端および第2端を有するコレットであって、該コレットの少なくとも一部は、前記ハウジング内に受容され、前記コレットは、通路を画定する本体と、前記通路に受容されるシール部材と、ロック部材とを備え、前記ロック部材は、第1の係合部分と、第2の係合部分を含み、前記第1の係合部分は、前記コレットの前記本体にアームを介して弾性的に接続され、前記第2の係合部分は、前記コレットの前記本体にアームを介して弾性的に接続され、前記第1および第2の係合部分は、前記複数のアームに対して、半径方向内方および半径方向外方に突出し、前記コレットは、前記ロック部材が、開かれて、相手コネクタを受容する第1の位置から、前記ロック部材の径方向外方への移動が規制される第2の位置に移動可能である、前記コレット、
を含み、
前記ハウジングの前記第2端は、前記コレットが前記第1の位置にあるとき、前記コレットの前記ロック部材を受け入れる環状凹部を画定することを特徴とするシリンジアダプタ。」

そして、本願発明と引用発明とは、以下の点において相違する。
[相違点]
第1、2の係合部分の形状、および前記係合部分に接続するアームの数に関して、本願発明は、それぞれ、形状は弧状であり、数は複数であるのに対して、引用発明は、いずれも明らかではない点。

第6 判断
1 相違点について
引用発明は、上記[相違点]に記載のとおり、拡張要素161及び162の形状やアームの数が不明である。
しかしながら、医療用の接続装置において、医療部材に係合する係合部分が弧状であり、前記弧状の係合部分が、複数のアームを介して弾性的に接続される技術は、引用文献1及び引用文献2に記載されたように周知技術である(以下、「周知技術」という。)。そして、引用発明を実施する際に、同様の医療用の接続装置である、拡張要素161及び162の形状やアームの数に対し、上記周知技術を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
また、本願発明の奏する効果は、引用発明及び上記周知技術の奏する効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 請求人の主張について
(1)令和2年1月29日付け意見書において、審判請求人は、引用文献1には「コネクタ部25の本体128に、拡張要素161及び162を受け入れる環状凹部を備えることは記載されていません。」と主張している(4頁20行-21行)。
しかしながら、上記第5にて示したように、引用発明の「外側本体128及びショルダ部129」が本願発明の「ハウジング」に相当し、引用発明の「ショルダ部129」は、外側本体128及びショルダ部129の端部に設けられた環状の凹部と認められるので、前記「ショルダ部129」は本願発明の「環状凹部」に相当する。
(2)上記意見書において審判請求人は、引用発明の「ショルダ部129は、開口126で終端する構造のものであることからすると、これを、あえて、開口で終端しないもの(本願請求項1に係る発明の環状凹部)に変更する動機はないと思料します。」と主張している(6頁39行-41行)。
しかしながら、「凹部」の「凹」とは、株式会社岩波書店広辞苑第六版によると「物の表面が部分的にくぼんでいること。くぼみ。」を意味しており、引用発明の「ショルダ部129」もその内面において外側本体128の内面からくぼんでいて、外側本体128及びショルダ部129の全周に渡っているものと認められるから、「環状凹部」といえる。
(3)上記意見書において審判請求人は、引用文献2記載の「可撓性舌部36」について、「可撓性舌部36は、ボトルコネクタ1を確実に係止するためのものであり、ボトルコネクタ1を係脱できるようにしたものではないと考えられます。」と主張している(7頁7行-9行)。
しかしながら、引用文献2記載の接続装置は、上記第4 2(1)Bに摘記したとおり、可逆型、すなわち係脱できるものである。
(4)上記意見書において審判請求人は、引用文献2記載の「可撓性舌部36」について、「この可撓性舌部36は、ボトルネックによって外側に曲がるようにされたものですので、引用文献1に記載された、可撓性アーム133及び134と拡張要素161及び162の機能とは異なっています(引用文献1には、上述したとおり、「自然な傾向により可撓性アーム133及び134が拡張された部分を側方に外側に向かって押し、拡張要素161及び162がショルダ部分129に保持されるとき、膜囲壁171の直径は、拡張要素161及び162との間の間隔よりも小さい。」(段落0084)と記載されています。)。したがって、当業者は、引用文献1の可撓性アーム133及び134と拡張要素161及び162に代えて、引用文献2の可撓性舌部36およびフック要素35を用いることを想起しないと思料します。」と主張している(7頁9行-17行)。
しかしながら、上記1に示したとおり、引用発明の実施に際し、上記周知技術と同様の医療用の接続装置である、拡張要素161及び162に対し、単なる形状等の上記周知技術を採用することは、当業者が容易になし得たことであり、また、それにより格別顕著な効果を奏するものともいえない。
(5)よって、請求人の主張は、いずれも当を得たものではなく、採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-24 
結審通知日 2020-03-31 
審決日 2020-04-23 
出願番号 特願2016-563943(P2016-563943)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61J)
P 1 8・ 113- WZ (A61J)
P 1 8・ 537- WZ (A61J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 落合 弘之家辺 信太郎  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 倉橋 紀夫
沖田 孝裕
発明の名称 流体の閉じた移送のためのシステム  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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