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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04M |
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管理番号 | 1365867 |
審判番号 | 不服2019-2908 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-03-04 |
確定日 | 2020-09-09 |
事件の表示 | 特願2016-574435「ナンバー・プレート情報に基づく車両通信識別子」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月 7日国際公開,WO2016/003430,平成29年 9月14日国内公表,特表2017-527156〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,2014年6月30日を国際出願日とする出願であって,平成30年2月8日付けで拒絶理由が通知され,平成30年5月14日付けで手続補正がなされ,平成30年10月29日付けで拒絶査定がされ,平成31年3月4日に拒絶査定不服審判が請求されると共に同時に手続補正がなされ,令和元年12月13日付けで当審が拒絶理由を通知し,令和2年3月6日付けで手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,令和2年3月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものと認める。 「車両またはネットワークの固定局に備えられた装置のための方法であって, 該車両または該固定局の近傍に存在する別の車両を決定するステップと, センサーから,該別の車両の通信識別情報を含む該別の車両の画像を受信するステップと, 前記通信識別情報に基づいて前記別の車両の通信識別子を生成するステップと, 少なくともメッセージの宛先アドレスを識別するために生成された前記通信識別子を含む,該メッセージを前記別の車両へ送信するステップと,を含む方法であり, 前記車両,前記別の車両,および,前記固定局は,前記装置をそれぞれ備え,車両対車両通信および車両対インフラステラクチャ通信を実現している, 方法。」 3.当審の拒絶理由 一方,当審において令和元年12月13日付けで通知した拒絶理由は, 「2(サポート要件)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 ■請求項1,15,29 (2)固定局から車両への通信について 固定局から車両への通信として,【0028】には,固定局がブロードキャストにより車両へ通信を行うことが記載されているだけであって,特定の車両へ通信を行うことは記載されていないから,固定局が,固定局のカメラの画像から宛先アドレスを識別するために生成した識別子を含むメッセージを車両に送信することは,発明の詳細な説明に記載されていない。 なお,請求人は,平成30年5月14日の意見書において,本願明細書【0011】【0013】【0028】の記載に基づくと主張しているが,下記のとおり,固定局が特定の車両へ通信を行うことは記載されていない。 【0011】には,車両の周囲環境として任意の固定局が含まれること,即ち車両から固定局への通信について記載されているだけであって,固定局から車両への通信について記載されていない。 【0013】には,近傍の車両の存在としてどのような情報を提供するかが記載されているだけであって,固定局が車両へ通信することについては記載されていない。 【0028】には,固定局がブロードキャストする他には,第1の車両110が固定局と通信すること,つまり,車両から固定局への通信について記載されているだけである。」 を含むものである。 4.判断 本願発明は,「前記固定局は,前記装置をそれぞれ備え」ており,「前記装置」とは, 「車両またはネットワークの固定局に備えられた装置のための方法であって, 該車両または該固定局の近傍に存在する別の車両を決定するステップと, センサーから,該別の車両の通信識別情報を含む該別の車両の画像を受信するステップと, 前記通信識別情報に基づいて前記別の車両の通信識別子を生成するステップと, 少なくともメッセージの宛先アドレスを識別するために生成された前記通信識別子を含む,該メッセージを前記別の車両へ送信するステップと,を含む方法」 の記載によれば, 「該車両または該固定局の近傍に存在する別の車両を決定するステップと, センサーから,該別の車両の通信識別情報を含む該別の車両の画像を受信するステップと, 前記通信識別情報に基づいて前記別の車両の通信識別子を生成するステップと, 少なくともメッセージの宛先アドレスを識別するために生成された前記通信識別子を含む,該メッセージを前記別の車両へ送信するステップと,を含む方法」を行う「装置」 である。 つまり,本願発明において,固定局が備えている「前記装置」が行う方法は,「該メッセージ」を「前記別の車両」へ送信するステップを含んでいる。 ここで,「前記別の車両」とは,決定した「近傍に存在する別の車両」である。 また,センサーから,「該別の車両の通信識別情報を含む該別の車両の画像」を受信するから,センサーが「該別の車両の画像」を撮影し,撮影した「該別の車両の画像」には「該別の車両の通信識別情報」が含まれており,「前記通信識別情報に基づいて前記別の車両の通信識別子」が生成される一方,「前記通信識別子」は,「メッセージの宛先アドレスを識別するため」に生成されたものである。 以上によれば,「前記装置」は,センサーが撮影した「該別の車両の画像」に含まれる「該別の車両の通信識別情報」に基づいて,メッセージの宛先アドレスを識別するために「前記別の車両の通信識別子」を生成し,「前記通信識別子を含む該メッセージ」を,センサーが撮影した「近傍に存在する別の車両」へ送信するものである。 結局,本願発明の「固定局」が備えている「前記装置」は,メッセージを,センサーが撮影した画像に基づいた通信識別子により宛先アドレスが識別される「センサーが撮影した別の車両」へ送信する動作を含んでいる。 一方,本願明細書(下線は,当審が付与。)には, 「【0028】 いくつかの例示的実施形態において,第1の車両110は,第2の車両130と通信する代りに,またはそれに加えて,固定局(例えば基地局,アクセス・ポイント,中継装置など)と通信することができる。例えば,固定局は,車両が固定局を通過するにつれて車両を識別するための1つ以上のセンサーおよび/またはカメラおよび/または画像/パターン認識プロセッサが備わったものであり得る道路沿いのインフラストラクチャ無線機を含み得る。例えば,固定局は,そばを通る車両の登録/ナンバー・プレート情報および/または無線識別子をブロードキャストし得る。固定局は,道路または交通情報をブロードキャストすることもできる。」 と記載されている。 つまり,固定局は,「車両を識別するための1つ以上のセンサー」と「画像認識プロセッサ」と「無線機」を備えて「無線識別子」をブロードキャストするから,「センサー」が撮影した「車両」から「画像認識プロセッサ」により「無線識別子」を生成し,「無線識別子を含むメッセージ」を送信することが記載されているとしても,メッセージの宛先は「ブロードキャスト」であって,メッセージを,個別の車両,すなわち,センサーが撮影した画像に基づいた通信識別子により宛先アドレスが識別されるセンサーが撮影した別の車両に対して,送信することは記載されていない。 ここで,「ブロードキャスト」とは,全ての端末に対して送信するものであって,特定の端末に対して送信するものではないから,結果として「センサーが撮影した別の車両」が受信する場合もあるが,「センサーが撮影した画像に基づいた通信識別子により宛先アドレスが識別されるセンサーが撮影した別の車両」という個別の車両へ送信するものとは明確に異なる。 なお, 「【0027】 第2の車両130の無線機125は,他の車両または固定(基地)局から送信されたメッセージを定期的にまたは連続的に受信または待つことができる。無線機125が,第2の車両130用の無線識別子を含む通信要求または招待を格納するメッセージを受信した場合,無線機126は,この要求に対する応答メッセージを送信することができる。応答メッセージは,第2の車両130についての追加情報,例えば位置情報,速度情報,通信能力情報,画像情報および/または他の情報を格納することができる。例えば,応答メッセージまたは後続するメッセージは,第2の車両130の速度および/または位置についての情報,または第2の車両130の今後のまたは予測される今後の位置および/または速度についての情報を含み得る。応答メッセージまたは後続するメッセージは,第2の車両130の通信能力についての情報を含み得る。いくつかの例示的実施形態において,車両110に送信された応答メッセージまたは後続するメッセージは,同様に第1の車両110の近辺にあり得る第2の車両130を取囲む他の車両の画像/映像を含み得る。いくつかの例示的実施形態において,第2の車両130は,要求情報内で指令を受信することができる。車両130は,必要に応じて命令に対し応答し得る。例えば,車両110からの要求は,第2の車両130についての一定の情報と共に要求に対し応答するよう,車両130に対する指令を含み得る。第2の車両130は,車両110に対する応答の中に,要求された情報を含み入れることができる。いくつかの例示的実施形態において,第1の車両110は,第2の車両130から応答メッセージを送信させることなく,無線識別子を含む情報を第2の車両130に送信することができる。」 の記載について検討すると,当該段落には「第2の車両130の無線機125」が「固定局」からメッセージを「受信」することが記載され,メッセージに格納されている内容については記載されているものの,受信したメッセージの「宛先」については記載されておらず,【0028】の記載を考慮すれば,固定局が「ブロードキャスト」したメッセージを「受信」すると解されるとしても,固定局が「第2の車両130の無線機125に対して送信」したメッセージを「受信」するとは解されない。 また,「固定局」から「第2の車両130用の無線識別子を含む通信要求」を受信した場合についても,【0028】の,固定局が無線識別子をブロードキャストし得るという記載を考慮すれば,固定局がブロードキャストした「通信要求の内容」が「第2の車両130用の無線識別子を含む通信要求」を受信した場合を記載しているだけであって,「通信要求の宛先」が「第2の車両130用の無線識別子」である通信要求を受信した場合を記載したものではない。 したがって,「固定局」から「第2の車両130用の無線識別子を含む通信要求」を「受信した場合」とは,「固定局」が「ブロードキャスト」した「通信要求の内容として第2の車両130用の無線識別子を含む通信要求」を結果として「第2の車両130の無線機125が受信した場合」であって,この場合に応答メッセージを送信することを記載しているにすぎず,固定局が「第2の車両130の無線機125に対して送信した通信要求を受信した場合」の動作について記載しているとは解されない。 「【0011】 いくつかの例示的実施形態において,車両は,1つ以上の光学センサーを含むセンサーを備えることができる。光学センサーは,近辺の他の車両の存在ならびに任意の固定通信局(例えば基本局,アクセス・ポイント)の存在を含めた,車両の周辺環境を形成または決定するために使用され得る。いくつかの例示的実施形態において,光学センサーは,あらゆる近傍の車両および/または固定通信局を決定するために使用可能な画像または他のデータを生成し得る。いくつかの例示的実施形態において,光学センサーとしては,スチールカメラ,ビデオカメラ,レーザー式撮像デバイス,レーザー式走査デバイス,または他のあらゆるタイプの撮像または光学的走査デバイスが含まれ得る。いくつかの例示的実施形態において,光学センサーとして,無線周波数撮像または走査デバイス,および/または音響または超音波デバイスが含まれ得る。1つ以上の光学センサーおよび/または1つ以上の画像から決定されるナンバー・プレート情報などの情報は,対応する近傍の車両および/または基地局と通信するために使用し得る識別子を生成する目的で使用可能である。近傍の車両の光学的特徴を決定することにより,これらの車両の発見も同様に達成され得る。発見は,1つ以上の他の車両が近傍にいることの決定を含むことができ,同様に1つ以上の他の車両の1つ以上の識別用光学的特徴の決定も含むことができる。」 の記載について検討すると,当該段落には,「車両が基地局と通信する際に,識別子を生成する」ことが記載されているもの,固定局から車両への通信について記載されていないことは,当審において令和元年12月13日付けで通知した拒絶理由に記載したとおりである。 さらに, 「【0012】 いくつかの例示的実施形態において,画像および/または映像内の画像認識は,1つ以上の近傍の車両を識別するためにナンバー・プレート情報を決定し得る。無線識別子(本明細書中では通信識別子とも呼ばれている無線ID)は,ナンバー・プレート情報から生成され得,次にこれらを用いて2つの車両間の無線リンクをセットアップすることができる。生成された無線識別子は,V2VおよびV2Iを含めたさまざまな通信システムにおいて使用され得る。通信システムは,例えば,IEEE802.11p車載無線通信(WAVE),専用狭域通信(DSRC)(例えばhttp://www.its.dot.gov/DSRC/を参照),無線ローカル・エリア・ネットワーク(WLAN),第3世代パートナシッププロジェクト(3GPP)規格,例えばロング・ターム・エボリューション(LTE)および/または他の無線技術に基づくものであり得る。いくつかの例示的実施形態において,近傍の車両のうちの1つ以上が,アクセス・ポイント,基地局,ノードBおよび/またはエボルブド・ノードBまたは任意の他のタイプの無線基地局または中間通信局であり得る。」 の記載について検討すると,当該段落には,「V2I通信システムにおいて生成された無線識別子が使用され得る」ことが記載されているが,上記【0028】に関して記載したように,固定局から無線識別子を含むメッセージをブロードキャストすることにより,結果として固定局周辺を通過している「全ての車両」に対して送信されることに関する記載であり,「無線識別子が使用され得る」という記載だけで,実施例に記載されていない当該無線識別子を有する車両に対する送信を行うものであると解することはできない。 また,その他の明細書の箇所にも,固定局が,メッセージを,センサーが撮影した画像に基づいた通信識別子により宛先アドレスが識別される「センサーが撮影した別の車両」へ送信することは記載されていない。 したがって,固定局が,「メッセージを,センサーが撮影した画像に基づいた通信識別子により宛先アドレスが識別されるセンサーが撮影した別の車両へ送信する動作を含」む「前記装置」を備えることは明細書に記載されていない。 5.請求人の主張 これに対する請求人の主張は, 「3.拒絶理由2(サポート要件欠如)について (1)請求項1,15,29について [2]固定局から車両への通信について 審判長殿は,固定局から車両への通信として,【0028】には,固定局がブロードキャストにより車両へ通信を行うことが記載されているだけであって,特定の車両へ通信を行うことは記載されていないから,固定局が,固定局のカメラの画像から宛先アドレスを識別するために生成した識別子を含むメッセージを車両に送信することは,発明の詳細な説明に記載されていない,と述べておられます。 しかしながら,本願発明の「装置」は,車両および固定局に備えることができるものであること,それにより,車両対車両通信および車両対インフラステラクチャ通信を実現するものであることは,発明の詳細な説明に記載されております。独立形式の請求項の記載を,「車両またはネットワークの固定局に備えられた装置のための方法であって,・・・前記車両,前記別の車両,および,前記固定局は,前記装置をそれぞれ備え,車両対車両通信および車両対インフラステラクチャ通信を実現している,方法。」等としましたので,当該拒絶理由は解消したと考えます。」 である。 しかし,請求人は,本願発明の「装置」を固定局に備えることに関し,記載されていると判断する明細書の根拠を主張しておらず,上記のとおり本願明細書の【0027】【0028】にも,その他の箇所にも,固定局が,メッセージを,センサーが撮影した画像に基づいた通信識別子により宛先アドレスが識別される「センサーが撮影した別の車両」へ送信することは記載されていないから,請求人の主張を採用することができない。 6.むすび 以上のとおりであるから,本件出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって,他の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-03-31 |
結審通知日 | 2020-04-07 |
審決日 | 2020-04-24 |
出願番号 | 特願2016-574435(P2016-574435) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(H04M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 西巻 正臣 |
特許庁審判長 |
北岡 浩 |
特許庁審判官 |
吉田 隆之 富澤 哲生 |
発明の名称 | ナンバー・プレート情報に基づく車両通信識別子 |
代理人 | 南山 知広 |
代理人 | 鶴田 準一 |
代理人 | 渡辺 陽一 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 胡田 尚則 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 森 啓 |