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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1365926
審判番号 不服2019-9035  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-04 
確定日 2020-09-29 
事件の表示 特願2016-543924「架橋電力ケーブルを脱ガスする方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月26日国際公開、WO2015/041885、平成28年11月24日国内公表、特表2016-536768、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2014年(平成26年)9月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年9月20日,米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 2月26日 :国内書面
平成30年 8月14日付け:拒絶理由通知書(起案日)
平成31年 2月21日 :意見書,手続補正書の提出
平成31年 2月27日付け:拒絶査定(起案日)(以下「原査定」という。)
令和 元年 7月 4日 :審判請求書,手続補正書の提出(以下この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
令和 2年 6月 1日 :上申書の提出

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1.(進歩性)本願請求項1-10に係る発明は,以下の引用文献1及び2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2013-534947号公報
2.T.Andrews,The Role of Degassing in XLPE Power Cable Manufacture,IEEE Electrical Insulation Magazine,IEEE,2006年,Vol.22, No.6,pp.5-16

第3 本件補正について
本件補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正における,請求項1に記載された電力ケーブルを脱ガスする温度を「少なくとも80℃」から「少なくとも90℃」とする補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,前記「少なくとも90℃」という温度は,当初明細書の【0004】に記載されているから,新規事項を追加するものではない。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1-10に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-10に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は,令和元年7月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。(下線は,本件補正で補正された箇所を示す。)
「【請求項1】
電力ケーブルを脱ガスする方法であって,前記ケーブルは,
(A)導体と,
(B)絶縁層と,
(C)半導体層と,を備え,前記半導体層は,前記半導体層の質量に基づく質量百分率で,
(1)0.9グラム毎立方センチメートル(g/cm^(3))未満の密度,1を超えるメルトインデックスを有する49?98%の架橋オレフィンブロックコポリマー(OBC)であって,前記OBCの質量に基づく質量百分率で,
(a)3?30個の炭素原子を含むモノマーから得られる5?50モルパーセント(mol%)の単位を含む35?80%の軟質セグメント,及び
(b)3?30個の炭素原子を含むモノマーから得られる0.2?3.5mol%の単位を含む20?65%の硬質セグメント,を含む,OBCと,
(2)2?51%の導電性充填剤と,を含み,
前記絶縁層及び半導体層は,互いに接触し,
前記方法は,前記ケーブルを少なくとも90℃の温度に少なくとも24時間の期間の間曝露するステップを含む,前記方法。
【請求項2】
前記ケーブルは,少なくとも100℃の温度に曝露される,請求項1に記載の前記方法。
【請求項3】
前記導電性充填剤は,カーボンブラックである,請求項1に記載の前記方法。
【請求項4】
前記カーボンブラックは,29ナノメートルを超える算術平均粒径を有する,請求項3に記載の前記方法。
【請求項5】
前記絶縁層は,ポリオレフィンを含む,請求項1に記載の前記方法。
【請求項6】
前記ポリオレフィンは,エチレン及び不飽和エステルのコポリマーである,請求項5に記載の前記方法。
【請求項7】
前記OBCは,エチレンマルチブロックインターポリマーである,請求項1に記載の前記方法。
【請求項8】
前記架橋OBCは,85℃を超える温度で0.1mmの探針貫入の熱機械的分析を呈する,請求項1に記載の前記方法。
【請求項9】
前記架橋OBCは,30%を超えるゲル含有量を呈する,請求項8に記載の前記方法。
【請求項10】
前記架橋OBCは,23℃,90℃,及び130℃で50,000オームcm未満の体積抵抗率を呈する,請求項9に記載の前記方法。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は,ワイヤーおよびケーブルに関する。一態様において,本発明は,柔軟なワイヤーおよびケーブル被覆材に関し,その一方で,別の態様において,本発明は,柔軟なワイヤーおよびケーブル被覆材を作製するためのオレフィンマルチブロックコポリマー(OBC)組成物に関する。さらなる別の態様において,本発明は,柔軟なワイヤーおよびケーブル被覆材を作製するための組成物における高コモノマー含有量のオレフィンマルチブロックコポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンマルチブロックコポリマー(OBC)は,今日において一般的に使用される均一分岐(homogeneously branched)ポリオレフィンエラストマーに比べて,より安定な電気伝導性を有する半導電性組成物を形成する。例えば,同程度のメルトインデックス(MI)および密度を有する2つのクラスのポリマーに由来する代表的な樹脂,すなわち,ENGAGE(商標)7447エチレン-ブテン均一分岐コポリマー(密度:0.865g/cc,MI:5)またはENGAGE(商標)8200エチレン-オクテン均一分岐コポリマー(密度:0.870g/cc,MI:5),とINFUSE(登録商標)9507オレフィンマルチブロックエチレン-オクテンコポリマー(密度:0.865g/cc,MI:5)との間には,電気伝導性および安定性における大きな違いが存在する。低い体積抵抗率(<500オーム・cm)と向上した機械的特性(加工も容易である)による高い性能とを示す半導電性組成物は,絶えず関心がもたれている。
【発明の概要】
【0003】
高コモノマーOBCは,ラメラ形態の溶融状態においてメソフェーズ分離する。これらのOBCは,低コモノマー含有量のOBCと比べ,より低いフィラー含有量の安定な導電ネットワークの形成において,さらなる優れた利点を提供する。高コモノマーOBCは,低コモノマーOBCよりも向上した機械的特性およびより容易な加工性を有する,高性能の電気伝導性組成物を形成することができる。具体的には,高コモノマーOBCでは,導電性フィラーが優先的に非晶性相に位置されるだけでなく,この相自体が高度に配向し,これにより,より安定な導電経路が形成され,所定の導電性目標を達成するためにフィラーをあまり必要としない。
【0004】
一実施形態において,本発明は, A.高コモノマーオレフィンマルチブロックコポリマー,およびB.導電性フィラー を含む組成物である。
【0005】
一実施形態において,本発明は,組成物の重量に対して重量パーセント(wt%)において,
A.70から99%の高コモノマーオレフィンマルチブロックコポリマー,B.30から1%の導電性フィラー,
C.任意選択により,OBC以外のエラストマー,
D.任意選択により,可塑剤,
E.任意選択により,硬化剤,および
F.任意選択により,1種または複数種の添加剤
を含む組成物である。一実施形態において,高コモノマーOBCは,1つまたは複数のハードセグメントと1つまたは複数のソフトセグメントとを含むエチレン/a-オレフィンマルチブロックインターポリマーであって,当該ハードセグメントおよびソフトセグメントが,異なるモルパーセント(mol%)のα-オレフィン含有量を有する,インターポリマーである。一実施形態において,当該OBCは,40,000グラム/モル(g/mol)より大きい(>)重量平均分子量(Mw),1.7から3.5までの分子量分布(Mw/MnまたはMWD),およびソフトセグメントとハードセグメントとの間における18.5mol%を超えるα-オレフィン含有量の差によって特徴付けられる。
【0006】
一実施形態において,導電性フィラーは,カーボンブラックおよび金属ファイバーのうちの少なくとも1つである。一実施形態において,OBC以外のエラストマーは,非OBCオレフィン,例えば,エチレン-プロピレンゴムなど,および非オレフィンエラストマー,例えば,シリコーンおよび/またはウレタンゴムなどのうちの少なくとも1つである。一実施形態において,可塑剤は,液体,例えば,液体可塑剤油または伸展剤(extender)である。一実施形態において,硬化剤は,過酸化物と,任意選択により硬化助剤およびスコーチ遅延剤のうちの1つまたは複数とを含む。一実施形態において,当該組成物は架橋される。一実施形態において,当該組成物は,物品,例えば,半導体シールド,絶縁層,保護ジャケットなどのワイヤーもしくはケーブル被覆材に形成される。一実施形態において,当該組成物は,フィルムまたはシート,例えば,エレクトロニックパッケージング用の静電気防止フィルムまたはシートに形成される。」

「【0021】
「高コモノマーOBC」および同様の用語は,少なくとも20,より典型的には少なくとも25,さらにより典型的には少なくとも30モルパーセント(mol%)のα-オレフィンコモノマー(例えば,C3?C12アルキルなど)含有量を有するエチレン/α-オレフィンOBCを意味する。当該コモノマーは,排他的でない場合,主に,コポリマーのソフトセグメントに位置される。」

「【0026】
オレフィンマルチブロックコポリマー
一実施形態において,マルチブロックコポリマーは,以下の式:
(AB)n
によって表すことができ,式中,nは,少なくとも1,好ましくは1を超える整数,例えば,2,3,4,5,10,15,20,30,40,50,60,70,80,90,100,またはそれ以上であり,「A」は,ハードブロックまたはハードセグメントを表し,「B」は,ソフトブロックまたはソフトセグメントを表す。好ましくは,A群およびB群は,分岐鎖状または星状ではなく,直鎖状に連結されている。「ハード」セグメントは,エチレンが95重量パーセントを超える量で,好ましくは98重量パーセントを超える量で存在する重合ユニットのブロックを意味する。換言すれば,ハードセグメント中のコモノマー含有量は,5重量パーセント未満,好ましくは2重量パーセント未満である。一実施形態において,ハードセグメントは,すべての,または実質的にすべてのエチレンを含む。一方,「ソフト」セグメントは,コモノマー含有量が5重量パーセントを超える,好ましくは,8重量パーセントを超える,10重量パーセントを超える,または15重量パーセントを超える重合ユニットのブロックを意味する。高コモノマーOBCの実施形態において,ソフトセグメント中のコモノマー含有量は,20重量パーセントを超える,25重量パーセントを超える,30重量パーセントを超える,35重量パーセントを超える,40重量パーセントを超える,45重量パーセントを超える,50重量パーセントを超える,または60重量パーセントを超える。
【0027】
いくつかの実施形態において,AブロックおよびBブロックは,ポリマー鎖に沿ってランダムに分布する。換言すれば,マルチブロックコポリマーは,通常,以下のような構造:AAA-AA-BBB-BB を有さない。一実施形態において,マルチブロックコポリマーは,通常,第三のタイプのブロックを有さない。一実施形態において,ブロックAおよびブロックBのそれぞれは,ブロック内にランダムに分布したモノマーまたはコモノマーを有する。換言すれば,ブロックAとブロックBのどちらも,異なる組成の2種以上のセグメント(またはサブブロック),例えば,残りのブロックとは異なる組成を有するチップセグメントなどを含まない。」

「【0032】
一実施形態において,高コモノマーOBCは,0.90グラム/立方センチメートル(g/cc)以下または0.89g/cc未満の密度を有する。そのような低密度OBCは,概して,非晶性で柔軟であり,ならびに良好な光学特性,例えば,可視光およびUV光の高透過率および低ヘーズ,を有するとして特徴付けられる。
【0033】
一実施形態において,高コモノマーOBCは,0.85g/ccから0.88g/ccの密度を有する。
【0034】
一実施形態において,高コモノマーOBCは,ASTMD 1238(190℃/2.16kg)によって測定した場合の0.1から100グラム/10分(g/10分),または0.5から50g/10分,または.1から30g/10分のメルトインデックス(MI)を有する。」

「【0037】
一実施形態において,高コモノマーOBCは,5から80重量%,または10から60重量%,または11から40重量%のハードセグメントを含有する。当該ハードセグメントは,コモノマー由来のユニットを含有しないかまたは0.5モル%未満において含有する。オレフィンマルチブロックコポリマーは,20から95重量%,または40から90重量%,または60重量%から89重量%のソフトセグメントも含有する。一実施形態において,当該コモノマーは,ブテンまたはオクテンである。コモノマー含有量は,核磁気共鳴(NMR)スペクトル分析によって測定する。」

「【0044】
本発明の実施において使用される導電性フィラーの総量は,組成物の少なくとも1重量%,好ましくは少なくとも10重量%,より好ましくは少なくとも20重量%を構成する。組成物中のフィラーの最大量における唯一の制限は,コストおよび性能などの実施上の配慮によって課せられる制限であるが,典型的には,一般的な総最大量は,組成物の50重量%未満,より典型的には36重量%未満を構成する。」

「【0083】
【表1】

【0084】
【表2】


【0085】
比較例1において,ソフトセグメントとハードセグメントとの間のモルパーセントでのα-オレフィン含有量の差(デルタC8)が約18.2モルパーセントである非相分離オレフィンマルチブロックコポリマーINFUSED9507(MI:5,密度:0.866g/cc)を,30%のXC-500カーボンブラックと混合する。当該試料を,90℃に設定されたオーブンにおいて老化(aged)させ,当該試料を約25日間老化させたときの体積抵抗率をモニターする。図1に示した体積抵抗率のデータは,比較的安定なコンパウンドが初期に約100オーム・cmであることを示しているが,老化期間(aging period)が10日を超えると,体積抵抗率は上昇し,すなわち,望ましくなくなり,当該試料の導電性は低下して約300オーム・cmに達している。
【0086】
対照的に,ソフトセグメントとハードセグメントとの間のデルタC8が27.7mol%であり,かつ同じレベルのカーボンブラックを有する相分離オレフィンマルチブロックコポリマーHC-OBC(密度:0.896g/cc,MI:9.5)を使用している実施例1は,体積抵抗値が<20オーム・cmと,著しく低い体積抵抗率,すなわち,高い導電率を示し,ならびに重要なことに,図1に示されるように,当該導電性は25日間の老化期間にわたって非常に安定である。」

(2)上記(1)から,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「ワイヤーと,
半導電性組成物からなるケーブル被覆材と,を備え,
半導体組成物は,密度0.896g/cc,MI9.5を有するHC-OBCを70%含み,
HC-OBCは,
オクテンを0.5mol%未満含むハードセグメントを54%含み,
オクテンを,ハードセグメントにおけるオクテンの含有mol%に27.7mol%加えた含有量含む,ソフトセグメントを46%含み,
カーボンブラックを30%含む,
ケーブル。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
「When using XLPE as cable insulation, it is possible to achieve a rated maximum conductor temperature of 90°C and a 250°C short circuit rating.」(第6ページ左欄第1行?第3行)(日本語訳は当合議体で作成した。以下同じ。:XLPEをケーブル絶縁として使用する場合,定格最大導体温度90℃,短絡定格250℃を達成することができる。)

「Consequently, all cables that are crosslinked using organic peroxides will retain some of the decomposition byproducts within their structure [3].」(第6ページ右欄第14行?第16行)(したがって,有機過酸化物を使用して架橋される全てのケーブルは,その構造内に分解副生成物の一部を保持する[3]。)

「These byproducts will,to some degree, affect the performance of cables and their associated accessories.」(第7ページ左欄第5行?第6行)(これらの副生成物は,ある程度まで,ケーブルおよびそれらに関連する付属品の性能に影響を及ぼす。)

「In this case, the cable must be thermally treated to reduce the methane content, at jointing, to below 30-50 ppm.」(第7ページ右欄第10行?11行)(この場合,接合時にメタン含有量を30-50ppm以下に低減するために,ケーブルを熱処理しなければならない。)

「The crosslinking byproducts are polar in nature and thus affect the dielectric properties of the XLPE.」(第9ページ左欄第6行?第7行)(架橋副生成物は極性を有するためXLPEの誘電特性に影響を及ぼす。)

「To ensure that the cables have the correct dielectric properties and that any voids are free of gas, cable manufacturers ensure that sufficient degassing (sometimes termed vaporization or conditioning) has occurred during the production process[3],[5]-[7].」(第10ページ左欄第13行?第17行)(ケーブルが正確な誘電特性を有し,いかなる空隙もガスを含まないことを保証するために,ケーブル製造業者は,製造プロセス[3],[5]-[7]の間に十分な脱ガス(時には気化またはコンディショニングと呼ばれる)がなされていることを保証する。)

「The temperatures used for practical degassing can range between 50°C and 80°C, with 60°C to 70°C being the most preferred range. The range between 70°C and 80°C has been shown to work reliably only for smaller MV cables. However, when degassing a cable (especially at high temperatures), very considerable care must be exercised not to damage the core.」(第10ページ右欄第7行?第12行)(実際の脱ガスに使用される温度は,50℃?80℃の範囲であり得,60℃?70℃が最も好ましい範囲である。70℃?80℃の範囲は,より小さい中圧のケーブルに対してのみ確実に作用することが示されている。しかしながら,ケーブルを脱ガスする場合(特に高温で),コアを損傷しないように非常に相当な注意を払わなければならない。)

「We see that the time requirement then could be expressed as 2.4 - 2.6 days/mm of polymer. If this requirement then were to be applied to the MV cable of Table 6, it would need 14 days instead of the 5 days calculated by the FEM.」(第13ページ左欄第15行?第18行)(時間要件は,ポリマーの2.4?2.6日/mmとして表すことができる。この要件が表6の中圧ケーブルに適用される場合,FEMによって計算された5日の代わりに14日を必要とする。)

(2)上記(1)から,上記引用文献2には次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア ケーブル絶縁に使用されるXLPEが含有する副生成物はXLPEの特性に影響を及ぼすため,加熱による脱ガス処理が必要である。

イ 脱ガスにおいては,50℃?80℃の範囲であり得,60℃?70℃が最も好ましい範囲である。特に高温で脱ガスする場合,コアを損傷しないように注意が必要である。

ウ 脱ガスの時間は,厚みに応じて数日間が必要とされる。

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明1の「ワイヤー」は,本願発明1の「導体」に相当する。

イ 引用発明1の「半導電性組成物からなるケーブル被覆材」は,本願発明1の「半導体層」に相当する。

ウ 引用発明1の「半導体組成物は,密度0.896g/cc,MI9.5を有するHC-OBCを70%含」む点は,本願発明1の「前記半導体層は,前記半導体層の質量に基づく質量百分率で,0.9グラム毎立方センチメートル(g/cm^(3))未満の密度,1を超えるメルトインデックスを有する49?98%の架橋オレフィンブロックコポリマー(OBC)であ」る点に相当する。

エ 引用発明1の「オクテン」は,本願発明1の「3?30個の炭素原子を含むモノマー」に相当する。
したがって,引用発明1の「HC-OBCは,オクテンを0.5mol%未満含むハードセグメントを54%含」む点と,本願発明1の「前記OBCの質量に基づく質量百分率で」,「3?30個の炭素原子を含むモノマーから得られる0.2?3.5mol%の単位を含む20?65%の硬質セグメント,を含む,OBC」である点は,後記の点で相違するものの,「前記OBCの質量に基づく質量百分率で,3?30個の炭素原子を含むモノマーを含む20?65%の硬質セグメント,を含む,OBC」である点で一致する。

オ 引用発明1の「HC-OBCは」,「オクテンを,ハードセグメントにおけるオクテンの含有mol%に27.7mol%加えた含有量含む,ソフトセグメントを46%含」む点は,本願発明1の「前記OBCの質量に基づく質量百分率で,3?30個の炭素原子を含むモノマーから得られる5?50モルパーセント(mol%)の単位を含む35?80%の軟質セグメント」,「を含む,OBC」に相当する。

カ 引用発明1の「カーボンブラックを30%含む」点は,本願発明1の「2?51%の導電性充填剤と,を含」む点に相当する。

したがって,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「導体と,
半導体層と,を備え,前記半導体層は,前記半導体層の質量に基づく質量百分率で,
0.9グラム毎立方センチメートル(g/cm^(3))未満の密度,1を超えるメルトインデックスを有する49?98%の架橋オレフィンブロックコポリマー(OBC)であって,前記OBCの質量に基づく質量百分率で,
3?30個の炭素原子を含むモノマーから得られる5?50モルパーセント(mol%)の単位を含む35?80%の軟質セグメント,及び
3?30個の炭素原子を含むモノマーからを含む20?65%の硬質セグメント,を含む,OBCと,
2?51%の導電性充填剤と,を含む,
ケーブル」

<相違点>
(相違点1)
本願発明1のOBCは,「3?30個の炭素原子を含むモノマーから得られる0.2?3.5mol%の単位を含む」硬質セグメントを含むのに対し,引用発明1のHC-OBCは「オクテンを0.5mol%未満含むハードセグメント」を含む点。

(相違点2)
本願発明1は,絶縁層を有し,絶縁層が半導体層と接しているのに対し,引用発明1は絶縁層について明記されていない点。

(相違点3)
本願発明1は,「ケーブルを少なくとも90℃の温度に少なくとも24時間の期間の間曝露」することによりケーブルの脱ガスを行う方法の発明であるのに対し,引用発明1においては脱ガスについて記載されていない点。

(2)相違点についての判断
事案にかんがみ,最初に上記相違点3について検討する。
引用文献2には,XLPEからなるケーブル絶縁を脱ガスすることが記載いる。
しかし,引用文献2における加熱は,50℃?80℃の範囲,好ましくは60℃?70℃であることから,90℃以上の温度で加熱することについては記載されていない。
したがって,当業者といえども,引用発明1及び引用文献1及び2に記載された技術的事項から,相違点3に係る,90℃以上の温度で加熱することにより脱ガスを行うとの構成を容易に想到することはできない。
本願発明1は,このような構成を備えることにより,本願明細書に記載された顕著な効果を奏するものと認められる。

(3)小括
上記(1),(2)のとおりであるから,他の相違点については検討するまでもなく,本願発明1は当業者であっても引用発明1と引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-10について
本願発明2-10は,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに限定したものであるから,本願発明1が,引用発明1と引用文献1及び2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないことから,本願発明2-10も,引用発明1と引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
1.理由1(特許法第29条第2項)について
上記第6で指摘したとおり,本件補正により,本願発明1-10は「ケーブルを少なくとも90℃の温度に少なくとも24時間の期間の間曝露するステップを含む」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1及び2に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由2を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-09-10 
出願番号 特願2016-543924(P2016-543924)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 井上 和俊
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 架橋電力ケーブルを脱ガスする方法  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 大森 規雄  
代理人 小林 浩  
代理人 片山 英二  

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