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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1366032
審判番号 不服2020-1143  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-28 
確定日 2020-09-29 
事件の表示 特願2017-250270「結晶性半導体膜および板状体ならびに半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月14日出願公開、特開2018- 93207、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年7月21日を国際出願日とする特願2016-535940号(優先権主張:平成26年7月22日,平成27年6月22日)の一部を平成29年12月26日に新たな特許出願としたものであって,平成31年3月11日付けで拒絶理由通知がされ,令和元年5月24日に意見書が提出されると同時に手続補正がされ,令和元年10月24日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年1月28日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(令和元年10月24日付け拒絶査定)の概要は,本願の請求項1,2,4,5,8に係る発明は,以下の引用例5の周知技術に照らし以下の引用例1?2に基づいて,本願の請求項1?4に係る発明は,以下の引用例3に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(理由2),というものである。

引用例一覧
1.特開2013-58637号公報
2.特許第5397794号公報
3.特許第5536920号公報
4.特開2014-127573号公報
5.Kazuaki Akaiwa and Shizuo Fujita,Electrical Conductive Corundum-Structuredα-Ga_(2)O_(3) Thin Films on Sapphire with Tin-Doping Grown by Spray-Assisted Mist Chemical Vapor Deposition,Japanese Journal of Applied Physics,2012年 6月14日,51,070203


第3 本願発明
ア 本願の請求項1?8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。)は,令和元年5月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
コランダム構造を有する酸化物半導体を主成分として含む結晶性半導体膜であって,前記酸化物半導体が,ガリウム,インジウムおよびアルミニウムから選ばれる1種または2種以上の酸化物を主成分として含み,膜厚が1μm以上であり,表面積が9mm^(2)以上であることを特徴とする結晶性半導体膜。」

イ なお,本願発明2?8の概要は以下のとおりである。
・本願発明2?3は,本願発明1を減縮した発明である。
・本願発明4?8は,本願発明1を適用した半導体構造及び半導体装置の発明である。


第4 引用例の記載と引用発明
1.引用例1について
(1)引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には,図1とともに次の事項が記載されている。(下線は当審による。以下同じ。)

「【0014】
(Ga_(2)O_(3)系半導体素子の構成)
図1は,第1の実施の形態に係るGa_(2)O_(3)系FETの断面図である。Ga_(2)O_(3)系FET10は,α-Al_(2)O_(3)基板2上に形成されたp型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3と,p型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3上に形成されたソース電極12及びドレイン電極13と,p型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3中にソース電極12及びドレイン電極13の下にそれぞれ形成されたコンタクト領域14,15と,α-Al_(2)O_(3)基板2のp型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3と反対側の面上の,コンタクト領域14とコンタクト領域15との間に形成されたゲート電極11とを含む。
【0015】
Ga_(2)O_(3)系FET10は,ノーマリーオフ型のトランジスタとして機能する。ゲート電極11に閾値以上の電圧を印加すると,p型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3のα-Al_(2)O_(3)基板2との界面近傍にチャネルが形成され,ソース電極12からドレイン電極13へ電流が流れるようになる。このとき,α-Al_(2)O_(3)基板2はゲート絶縁膜として機能する。
【0016】
α-Al_(2)O_(3)基板2は,α-Al_(2)O_(3)単結晶からなる絶縁性の基板であり,0.1μm以上,500μm以下の厚さを有することが好ましい。0.1μmよりも薄い場合は,ゲートリークが生じるおそれがあり,500μmよりも厚い場合は,閾値電圧が大きくなりすぎるためである。
【0017】
p型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3は,Mg,H,Li,Na,K,Rb,Cs,Fr,Be,Ca,Sr,Ba,Ra,Mn,Fe,Co,Ni,Pd,Cu,Ag,Au,Zn,Cd,Hg,Tl,Pb,N,P等のp型ドーパントを含むα-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)(0≦x<1)の単結晶膜である。p型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3は,例えば,1×10^(15)/cm^(3)以上,1×10^(19)/cm^(3)以下の濃度のp型ドーパントを含む。また,p型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3の厚さは,例えば,0.01?10μmである。
【0018】
ゲート電極11,ソース電極12,及びドレイン電極13は,例えば,Au,Al,Ti,Sn,Ge,In,Ni,Co,Pt,W,Mo,Cr,Cu,Pb等の金属,これらの金属のうちの2つ以上を含む合金,又はITO等の導電性化合物からなる。また,ゲート電極21は,異なる2つの金属からなる2層構造,例えばAl/Ti,Au/Ni,Au/Co,を有してもよい。
【0019】
コンタクト領域14,15は,p型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3中に形成されたn型ドーパントの濃度が高い領域であり,それぞれソース電極12及びドレイン領域13が接続される。p型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜3中のα-Al_(2)O_(3)基板2との界面近傍にチャネルを形成するためには,コンタクト領域14,15はこの界面と交わることが好ましい。その場合,コンタクト領域14,15の底部がα-Al_(2)O_(3)基板2中に存在する。
【0020】
コンタクト領域14,15は,例えば,1×10^(18)/cm^(3)以上,5×10^(19)/cm^(3)以下の濃度のn型ドーパントを含む。」

上記引用例1の図1として,次の図面が示されている。


(2)引用発明1
以上の摘記によれば,上記引用例1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「厚さが0.01?10μmであるp型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜」

2.引用例2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用例2には,表1とともに次の記載がある。
「【0018】
本発明の一実施形態の酸化物結晶薄膜の製造方法は,ガリウム化合物とインジウム化合物の少なくとも一方と水とを含む原料溶液を微粒子化して生成される原料微粒子を成膜室に供給する工程を備え,前記ガリウム化合物とインジウム化合物の少なくとも一方は,臭化物又はヨウ化物である。
この製造方法は,一例では,ガリウム化合物とインジウム化合物の少なくとも一方を含む原料と水とを含む原料溶液を微粒子化して生成される原料微粒子をキャリアガスによって成膜室に供給すると共に前記原料微粒子を前記成膜室内で反応させて前記成膜室内に載置された被成膜試料上に酸化物結晶の薄膜を形成する工程を備え,前記ガリウム化合物とインジウム化合物の少なくとも一方は,臭化物又はヨウ化物である。
以下,各工程について詳細に説明する。」
「【0034】
1.実験1
1-1.ミストCVD装置
まず,図2を用いて,本実施例で用いたミストCVD装置19を説明する。ミストCVD装置19は,下地基板等の被成膜試料20を載置する試料台21と,キャリアガスを供給するキャリアガス源22と,キャリアガス源22から送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23と,原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と,水25aが入れられる容器25と,容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と,内径40mmの石英管からなる成膜室27と,成膜室27の周辺部に設置されたヒータ28を備えている。試料台21は,石英からなり,被成膜試料20を載置する面が水平面から45度に傾斜している。成膜室27と試料台21をどちらも石英で作製することにより,被成膜試料20上に形成される薄膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。
【0035】
1-2.原料溶液の作製
表1に示す原料溶質を超純水中に溶解させることによって表1に示す濃度の原料溶液24aを作製した。この原料溶液24aをミスト発生源24内に収容した。なお,表1中アセチルアセトナートは「acac」と省略表記した
【0036】
1-3.成膜準備
次に,被成膜試料20として,1辺が10mmの正方形で厚さ600μmのc面サファイア基板を試料台21上に設置させ,ヒータ28を作動させて成膜室27内の温度を表1に示す温度にまで昇温させた。次に,流量調節弁23を開いてキャリアガス源22からキャリアガスを成膜室27内に供給し,成膜室27の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後,キャリアガスの流量を表1に示す値に調節した。キャリアガスとしては,窒素ガスを用いた。
【0037】
1-4.薄膜形成
次に,超音波振動子26を2.4MHzで振動させ,その振動を水25aを通じて原料溶液24aに伝播させることによって原料溶液24aを微粒子化させて原料微粒子を生成した。
この原料微粒子が,キャリアガスによって成膜室27内に導入され,成膜室27内で反応して,被成膜試料20の成膜面でのCVD反応によって被成膜試料20上に薄膜を形成した。
【0038】
1-5.評価
表1の実験No.1?17についての成膜速度と,形成された薄膜の半値幅を測定した結果を表1に示す。成膜速度は,膜厚を成膜時間で割って算出した。酸化ガリウムの半値幅は,α型酸化ガリウムの(0006)回折に対するロッキングカーブ半値幅である。また,二次イオン質量分析法(SIMS)によって炭素不純物濃度を測定し,表1の「不純物」の列に結果を示した。評価結果が○のものの炭素不純物濃度は,×のものに比べて1/100程度であった。」

上記引用例2の表1として次の表が記載されている。



以上の記載から,上記引用例2には次の事項が開示されているものと理解できる。
「1辺が10mmの正方形のc面サファイア基板上に膜厚700nm以下のα型酸化ガリウム結晶の薄膜を形成すること。」

3.引用例3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用例3には,次の記載がある。
「【0023】
本実施の形態のGa_(2)O_(3)系単結晶は,Ga_(2)O_(3)単結晶,又は,Al,In等の元素が添加されたGa_(2)O_(3)単結晶である。例えば,Al及びInが添加されたGa_(2)O_(3)単結晶である(Ga_(x)Al_(y)In_((1-x-y)))_(2)O_(3)(0<x≦1,0≦y≦1,0<x+y≦1)単結晶であってもよい。Alを添加した場合にはバンドギャップが広がり,Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。
【0024】
アクセプタ不純物としてFeを用いることにより,結晶品質の低下を抑えつつ,十分な量のアクセプタをドープし,高抵抗のGa_(2)O_(3)系単結晶を育成することができる。
【0025】
Ga_(2)O_(3)系単結晶の育成方法は特定の方法に限定されず,例えば,FZ法,EFG(Edge-defined Film-fed Growth)法,CZ(Czochralski)法等が用いられる。Ga_(2)O_(3)系単結晶の育成方法が限定されないのは,結晶品質の低下を抑えつつ高抵抗のGa_(2)O_(3)系単結晶を育成することができるという効果が,FeのGa_(2)O_(3)系単結晶への固溶限の高さや,蒸気圧の高さに起因することによると考えられる。」

「【0029】
また,本実施の形態のGa_(2)O_(3)系単結晶は,例えば,β-Ga_(2)O_(3)系単結晶であるが,α-Ga_(2)O_(3)系単結晶等の他の構造を有するGa_(2)O_(3)系単結晶であってもよい。同様に,Ga_(2)O_(3)系単結晶基板は,例えば,β-Ga_(2)O_(3)系単結晶基板であるが,α-Ga_(2)O_(3)系単結晶基板等の他の構造を有するGa_(2)O_(3)系単結晶基板であってもよい。」

「【0030】
以下に,Ga_(2)O_(3)系単結晶基板の製造方法の一例として,FZ法を用いる方法について説明する。
【0031】
図1は,実施の形態に係る赤外線加熱単結晶製造装置を表す。この赤外線加熱単結晶製造装置10は,FZ法によりGa_(2)O_(3)系単結晶5を育成するものであり,石英管11と,Ga_(2)O_(3)系単結晶からなる種結晶2を保持するシードチャック12と,シードチャック12に回転を伝え,上下に移動可能な下部回転軸13と,Ga_(2)O_(3)系多結晶からなる多結晶素材3を保持する素材チャック14と,素材チャック14に回転を伝え,上下に移動可能な上部回転軸15と,ハロゲンランプ16を収容し,ハロゲンランプ16の発する光を多結晶素材3の所定部位に集光する楕円鏡17と,を有する。
【0032】
石英管11には,シードチャック12,下部回転軸13,素材チャック14,上部回転軸15,種結晶2,多結晶素材3,及びGa_(2)O_(3)系単結晶5が収容される。石英管11は,酸素ガスと不活性ガスとしての窒素ガスとの混合ガスを供給されて密閉できるようになっている。
【0033】
上部回転軸15の上下位置を調節して種結晶2の上端と多結晶素材3の下端を接触させた状態で,ハロゲンランプ16の発する光をその接触部に集光させ,加熱し,溶解させる。そして,種結晶2と多結晶素材3の両方又は一方を適宜回転させながら,加熱部分を多結晶素材3の上方向に移動させ,種結晶2の結晶情報を引き継いだGa_(2)O_(3)系単結晶5を育成することができる。
【0034】
図1は,Ga_(2)O_(3)系単結晶5の育成途中の状態を表しており,加熱されて溶融した溶融部4の上側が多結晶素材3であり,下側がGa_(2)O_(3)系単結晶5である。
【0035】
次に,赤外線加熱単結晶製造装置10を用いてGa_(2)O_(3)系単結晶5としてのGa_(2)O_(3)単結晶を育成する具体的な工程を説明する。
【0036】
まず,β-Ga_(2)O_(3)単結晶からなる種結晶2と,純度99.999質量%のGa_(2)O_(3)粉末へFeを添加して作製された,Feを含むβ-Ga_(2)O_(3)多結晶からなる多結晶素材3とを別個に準備する。なお,Ga_(2)O_(3)粉末へ添加されるFeの原料としては,純粋なFeや,酸化Feを用いることができる。
【0037】
次に,石英管11中で種結晶2と多結晶素材3とを接触させてその部位を加熱し,種結晶2と多結晶素材3との接触部分で両者を溶融させる。溶解した多結晶素材3を種結晶2とともに結晶化させると,種結晶2上にFeを含むGa_(2)O_(3)系単結晶5としてのGa_(2)O_(3)単結晶が生成される。
【0038】
ここで,Ga_(2)O_(3)系単結晶5としてのGa_(2)O_(3)単結晶は,直径が10mm以上の真円を含む大きさと形状の主面を有するGa_(2)O_(3)単結晶基板を切り出すことができる大きさに育成される。
【0039】
次に,このGa_(2)O_(3)単結晶に切断等の加工を施すことにより,高抵抗のGa_(2)O_(3)単結晶基板が得られる。」

以上の記載から,上記引用例3には次の事項が開示されているものと理解できる。
「FZ法を用いて直径が10mm以上の真円を含む大きさと形状の主面を有するβ-Ga_(2)O_(3)単結晶を生成すること。」

4.引用例4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例4には,次の記載がある。
「【0015】
以下では,本発明の実施の形態を,添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は,本発明の第1実施形態に係る半導体装置1の模式的な平面図である。図2は,図1の切断面線II-IIから見た断面図である。図3は,図2の二点鎖線で囲まれた部分の拡大図である。
半導体装置1は,4H-SiC(絶縁破壊電界が約2.8MV/cmであり,バンドギャップの幅が約3.26eVのワイドバンドギャップ半導体)が採用されたデバイスである。なお,半導体装置1に採用されるワイドバンドギャップ半導体は,SiCに限らず,たとえば,GaN,Ga_(2)O_(3),ダイヤモンド等であってもよい。GaNは,その絶縁破壊電界は約3MV/cmであり,バンドギャップの幅が約3.42eVである。ダイヤモンドは,その絶縁破壊電界が約8MV/cmであり,バンドギャップの幅が約5.47eVである。」

以上の記載から,上記引用例4には次の事項が開示されているものと理解できる。
「Ga_(2)O_(3)がワイドギャップ半導体であること。」

5.引用例5について
原査定において周知技術を示す文献として引用された上記引用例5には,次の記載がある。(和訳は当審による。)
“Schematic illustration of the mist CVD system is shown in Fig. 1. Gallium(III) acetylacetonate and tin(II)chloride dihydrate were adopted as gallium and tin precursors, respectively. As a reaction source we used water solution of these precursors with addition of a small amount of hydrochloric acid, which helped to solve the precursors completely.Concentration of gallium precursor was fixed at 0.05 mol/L. Concentrations of tin precursor were changed as 0, 5.0 ×10^(-5), and 2.0 × 10^(-4)mol/L. The preliminary experiments revealed that carrier gases containing oxygen made a reaction with tin(II) chloride dihydrate and produced precipitations in the solution, which would cause a harmful influence on the CVD process.Therefore, nitrogen gas was used as carrier and dilution gases. The flow ratesof carrier and dilution gases were set at 3.0 and 0.5 L/min, respectively. Substrates were c-plane sapphire. The substrate temperature was set at 500 ℃. The growth time was kept at 30 min. As given above, in the presentexperiments we only changed the tin precursor concentrations in the source solutions,unchanging other growth parameters. The thicknesses of α-Ga_(2)O_(3) layers were 450-550 nm, without significant influence by tin doping.”(第70203-1頁右欄第13行?第70203-2頁左欄第4行)
(和訳:ミストCVDシステムの概略図を図1に示す。ガリウム及びスズ前駆体としてガリウム(III)アセチルアセトネート及びスズ(II)クロライドジヒドレートをそれぞれ採用した。反応源としてこれらの前駆体の水溶液を用い,前駆体を完全に溶解するのを助けるため少量の塩酸を添加した。ガリウム前駆体の濃度を0.05mol/Lに固定した。スズ前駆体の濃度は,0,5.0×10^(-5),および2.0×10^(-4 )mol/Lと変化させた。予備実験により,酸素を含有するキャリアガスが塩化スズ(II)二水和物と反応し,溶液中に沈殿が生じ,これがCVDプロセスに有害な影響を及ぼすことが明らかになった。そのため,窒素ガスをキャリア及び希釈ガスとして用いた。キャリアおよび希釈ガスの流量は,それぞれ3.0L/分および0.5L/分に設定した。基板はc面サファイアであった。基板温度は500℃に設定した。成長時間は30分に保った。上述したように,本実験で我々は,ソース溶液中のスズ前駆体濃度を変更し,他の成長パラメータは変えなかった。錫のドーピングによる有意な影響なく,α-Ga_(2)O_(3)層の厚さは450-550nmだった。)

“Figure 2 shows the X-ray diffraction (XRD)2θ/θ scan profiles of the films fabricated. For all samples,irrespective of the tin precursor concentrations, the XRD peaks derived fromα-Ga_(2)O_(3) (0006) and sapphire (0006) diffractions were observed, without any other peaks derived from other crystalline orientations and phases. Inorder to estimate the crystalline quality of α-Ga_(2)O_(3),we conducted XRD ω scan rocking curve measurements forthe α-Ga_(2)O_(3) (0006)diffraction.The full-width at half maximum (FWHM) of ω scans wereas small as 40 arcsec for all samples. This suggests that the α-Ga_(2)O_(3) thin films have high crystallinity even with tin doping.”(第70203-2頁左欄第5行?第16行)
(和訳:図2は,形成されたフィルムのX線回折(XRD)2θ/θスキャンプロファイルを示す。全てのサンプルについて,スズ前駆体の濃度に関係なく,他の結晶方位および結晶相に由来する他のピークを全く伴わずに,α-Ga_(2)O_(3)(0006)およびサファイア(0006)回折に由来するXRDピークが観察された。α-Ga_(2)O_(3)の結晶品質を推定するために,我々は,α-Ga2O3(0006)回折についてXRDωスキャンロッキングカーブ測定を行った。ωスキャンの半値幅(FWHM)は,すべてのサンプルについて40arcsecと小さかった。これは,α-Ga_(2)O_(3)薄膜が錫ドーピングを行っても結晶性が高いことを示している。)

以上の記載によれば,引用例5には次の事項が開示されているものと理解できる。
「ミストCVDシステムを用いて,c面サファイア基板上に厚さ450-550nmのα-Ga_(2)O_(3)薄膜を形成すること。」


第5 対比・判断
1.本願発明1について
1.1 対比
本願発明1と引用発明1とを比較する。
・引用発明1は「p型α-(Al_(x)Ga_(1-x))_(2)O_(3)単結晶膜」であるから,本願発明1と引用発明1は,ともに「コランダム構造を有する酸化物半導体を主成分として含む結晶性半導体膜」である点で一致する。また,両者はともに「ガリウム,インジウムおよびアルミニウムから選ばれる1種または2種以上の酸化物を主成分として含」む点で一致する。
・引用発明1の「単結晶膜」は「厚さが0.01?10μm」であるから,「厚さが1?10μm」の範囲において本願発明1の「膜厚が1μm以上であること」と一致する。

以上によれば,本願発明1と引用発明1の一致点,相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「コランダム構造を有する酸化物半導体を主成分として含む結晶性半導体膜であって,前記酸化物半導体が,ガリウム,インジウムおよびアルミニウムから選ばれる1種または2種以上の酸化物を主成分として含み,膜厚が1μm以上であることを特徴とする結晶性半導体膜。」である点。
<相違点>
本願発明1の「結晶性半導体膜」は,「表面積9mm^(2)以上である」のに対し,引用発明1の「単結晶膜」は,その表面積が特定されていない点。

1.2 相違点についての判断
(1)引用例2について
上述のとおり,引用例2には「1辺が10mmの正方形のc面サファイア基板上に膜厚700nm以下のα型酸化ガリウム結晶の薄膜を形成すること。」は記載されていが,当該「α型酸化ガリウム結晶の薄膜」の表面積は記載されていない。また,c面サファイア基板上にα型酸化ガリウムをミストCVD法により堆積した際,基板の表面積と一致する表面積を有するα型酸化ガリウム結晶が得られることが,技術常識から必ずしも自明であるとはいえない。よって,引用例2に「表面積が9mm^(2)以上である」「α型酸化ガリウム結晶の薄膜」が開示されていると認めることはできない。
(2)引用例3について
特許法29条2項適用の前提となる同条1項3号は,「特許出願前に…頒布された刊行物に記載された発明」については特許を受けることができないと規定するところ,上記「刊行物」に「物の発明」が記載されているというためには,同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが,発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項参照)に鑑みれば,当該刊行物に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に,当該発明の技術事項が開示されていることを要するものというべきである。(平成24年(行ケ)10314号,平成21年(行ケ)10180号)
上記を踏まえ,引用例3に記載された技術的事項について検討する。
上述のとおり,引用例3には「直径が10mm以上の真円を含む大きさと形状の主面を有するβ-Ga_(2)O_(3)単結晶を生成すること。」との技術的事項が記載され,具体的には,FZ法を用いて,β-Ga_(2)O_(3)単結晶からなる種結晶2と多結晶素材とを接触させて当該接触部を加熱溶融し,種結晶2の情報を引き継いだ単結晶を成長させることが記載されている(引用例3の段落[0033])。
また,引用例3の段落[0029]には,
「本実施の形態のGa_(2)O_(3)系単結晶は,例えば,β-Ga_(2)O_(3)系単結晶であるが,α-Ga_(2)O_(3)系単結晶等の他の構造を有するGa_(2)O_(3)系単結晶であってもよい。同様に,Ga_(2)O_(3)系単結晶基板は,例えば,β-Ga_(2)O_(3)系単結晶基板であるが,α-Ga_(2)O_(3)系単結晶基板等の他の構造を有するGa_(2)O_(3)系単結晶基板であってもよい。」
との記載がある。
しかしながら,引用例3には,直径が10mm以上の真円を含む大きさと形状の主面を有するα-Ga_(2)O_(3)系単結晶が得られたことについて,上記段落[0029]の形式的記載を超える具体的な説明は見られない。また,α-Ga_(2)O_(3)単結晶を種結晶とする溶融法によりβ-Ga_(2)O_(3)と同様の大きさの単結晶が成長できることが,技術常識に照らし自明であるとまではいえない。
よって,引用例3に「表面積が9mm^(2)以上である」「α-Ga_(2)O_(3)単結晶」が開示されていると認めることはできない。
(3)引用例4,5について
引用例5には,「ミストCVDシステムを用いて,c面サファイア基板上に厚さ450-550nmのα-Ga_(2)O_(3)薄膜を形成すること。」は記載されているが,当該「α-Ga_(2)O_(3)薄膜」の表面積は記載されていない。引用例4にも,α-Ga_(2)O_(3)の表面積については記載されていない。
(4)小括
したがって,本願発明1は,引用発明1及び引用例2?5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.引用例3を主引用例とした本願発明1の容易想到性について
上記1.2(2)のとおり,引用例3には「表面積が9mm^(2)以上である」「α-Ga_(2)O_(3)単結晶」が開示されていると認めることはできないから,本願発明1は引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.本願発明2?5,8について
上記第3,イのとおり,本願発明2?8は本願発明1と同じ技術的事項を備える発明である。
そうすると,本願発明1と同じ理由により,本願発明2,4,5,8は引用例1?2,5に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。同様に,本願発明2?4は引用例3に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

4.まとめ
上記1.?3.のとおり,本願発明1,2,4,5,8は,原査定で引用された引用例1,2,5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。また,本願発明1?4は,原査定で引用された引用例3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。したがって,原査定の理由2を維持することはできない。


第6 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-09-14 
出願番号 特願2017-250270(P2017-250270)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 綿引 隆山本 一郎  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 小田 浩
小川 将之
発明の名称 結晶性半導体膜および板状体ならびに半導体装置  

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