ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B |
---|---|
管理番号 | 1366061 |
異議申立番号 | 異議2019-700247 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-04-01 |
確定日 | 2020-07-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6398260号発明「加飾シート及び加飾樹脂成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6398260号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?5について訂正することを認める。 特許第6398260号の請求項2ないし5に係る特許を取り消す。 特許第6398260号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6398260号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年3月28日に特許出願され、平成30年9月14日にその特許権の設定登録がされ、平成30年10月3日に特許掲載公報が発行された。その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである。 平成31年4月1日:特許異議申立人渡辺寛(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立て 令和元年6月10日付け:取消理由通知書 令和元年8月13日:特許権者による意見書の提出 令和元年11月25日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和2年1月28日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和2年3月10日:申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 令和2年1月28日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を独立形式に改め、さらに「前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む」と記載されているのを、「前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、多官能(メタ)アクリレートモノマーと、重量平均分子量2000?8000のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー20?30質量%とを含む」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3において、「請求項1又は2のいずれかに記載の加飾シート」とあるのを「請求項2に記載の加飾シート」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4において、「請求項1?3のいずれかに記載の加飾シート」とあるのを「請求項2又は3に記載の加飾シート」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5において、「前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、多官能(メタ)アクリレートモノマーと、重量平均分子量2000?8000のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー20?30質量%とを含み」という発明特定事項を付加する。 2.訂正の適否 (1)訂正前の請求項1?4は、請求項2?4が本件訂正の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとにされたものである。 (2)訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (3)訂正事項2は、訂正前の請求項2を独立形式に改め、さらに「前記電離放射線硬化性樹脂組成物」を「多官能(メタ)アクリレートモノマーと、重量平均分子量2000?8000のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー20?30質量%とを含む」ものに減縮するものであるから、請求項間の引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、本件特許明細書の段落【0025】、【0028】、【0035】及び【0091】?【0094】の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しないし、発明特定事項において直列的要素を追加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものにも該当しない。 申立人は、令和2年3月10日付け意見書第2ページ19行?第27行において、「今回の訂正は新たな数値範囲を導入する補正(原文ママ)でありますが、これは新たな技術的事項を導入するものであって許されません。・・・本件発明の明細書の実施例1?4は、マルテンス硬度の限定により得られる効果(凹凸感の評価、算術平均粗さRa、成形性評価、耐傷付き評価)を記載しているだけであって、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量や質量%は、上記効果に結びつく上限、下限の境界値として記載されていないことです。」と主張する。 しかしながら、質量%に係る数値範囲については、本件特許明細書の【0035】に、その数値範囲すべてが好適である旨明記されていること、及び当該数値範囲内である「30質量%」が本件特許明細書の【0092】に明記されていることから、当該訂正が新たな技術的事項を導入するものとはいえない。また、重量平均分子量に係る数値範囲については本件特許明細書の【0091】?【0094】において2000、5000、8000の三点が示されていることから、これらの数値間の数値範囲についても、実質的に記載されているものといえ、当該訂正が新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、申立人の主張を採用することはできない。 (4)訂正事項3は、択一的記載の要素を一部削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (5)訂正事項4は、択一的記載の要素を一部削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (6)訂正事項5は、「前記電離放射線硬化性樹脂組成物」について「多官能(メタ)アクリレートモノマーと、重量平均分子量2000?8000のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー20?30質量%とを含む」ものに減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、本件特許明細書の段落【0025】、【0028】、【0035】及び【0091】?【0094】の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しないし、発明特定事項において直列的要素を追加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものにも該当しない。 3.小括 上記のとおり、訂正事項1?5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号または第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?4]、[5]について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 基材シートの上に、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物により形成された、厚みが10μm以上の盛上部を有し、 前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、多官能(メタ)アクリレートモノマーと、重量平均分子量2000?8000のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー20?30質量%とを含み、 前記電離放射線硬化性樹脂の硬化物は、温度25℃及び相対湿度50%下におけるマルテンス硬度が10?120N/mm^(2)の範囲にある、加飾シートであり、 前記盛上物が、前記加飾シートの前記盛上部が形成されている側の表面の一部に形成され、且つ、前記表面の前記盛上部が形成されていない部分は前記電離放射線硬化性樹脂の硬化物で形成されていない、加飾シート。 【請求項3】 前記基材シートの前記盛上とは反対側に、表面保護層、プライマー層、装飾層、支持体シート、及び接着層からなる群から選択された少なくとも1種が積層されてなる、請求項2に記載の加飾シート。 【請求項4】 前記基材シートが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または電離放射線硬化性樹脂により形成されてなる、請求項2又は3に記載の加飾シート。 【請求項5】 少なくとも、成形樹脂層と、基材シートと、前記基材シートの上に電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物により形成された、厚みが10μm以上の盛上部とかこの順に積層されており、 前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、多官能(メタ)アクリレートモノマーと、重量平均分子量2000?8000のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー20?30質量%とを含み、 前記電離放射線硬化性樹脂の硬化物は、温度25℃及び相対湿度50%下におけるマルテンス硬度が10?120N/mm^(2)の範囲にある、加飾樹脂成形品であり、 前記盛上部が、前記加飾樹脂成形品の前記盛上部が形成されている側の表面の一部に形成され、且つ、前記表面の前記盛上部が形成されていない部分は前記電離放射線硬化性樹脂の硬化物で形成されていない、加飾樹脂成形品。」 第4 当審の判断 1 取消理由通知に記載した取消理由について 当審が令和元年11月25日付けで特許権者に通知した取消理由の理由1の要旨は、次のとおりである。 ≪理由1≫ 請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ≪引用例一覧≫ 甲1.特開2009-234159号公報 甲2.特開2008-280449号公報 甲3.特開2012-210786号公報 甲4.特開2012-213913号公報 甲5.特開2012-215065号公報 甲6.特開2013-72206号公報 甲7.特開2013-83139号公報 甲8.特開2013-226775号公報 甲9.特開2001-96674号公報 甲1?甲9は、特許異議申立書に添付された甲第1号証?甲第9号証である。 甲1?甲9の各々に記載された事項を、甲1記載事項?甲9記載事項といい、甲1に記載された発明を甲1発明という。 (1)請求項1に係る発明は、甲1発明及び甲2記載事項?甲9記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)請求項2に係る発明は、甲1発明及び甲2記載事項?甲9記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)請求項3に係る発明は、甲1発明及び甲2記載事項?甲9記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)請求項4に係る発明は、甲1発明及び甲2記載事項?甲9記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)請求項5に係る発明は、甲1発明及び甲2記載事項?甲9記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、請求項1?5に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 2 引用例の記載 (1) 甲1記載事項 ア 甲1には、以下の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 基材シートの上に盛上部を有する成形用加飾フィルムであって、該基材シート全面に対して、該盛上部の総面積が45%以下であり、且つ1つの盛上部の面積が2mm^(2)以下であることを特徴とする成形用加飾フィルム。 【請求項2】 前記盛上部間距離が0.2mm以上である請求項1に記載の成形用加飾フィルム。 【請求項3】 前記盛上部が、電離放射線硬化性樹脂組成物の架橋硬化したものである請求項1又は2に記載の成形用加飾フィルム。 【請求項4】 前記基材シートの裏面に着色層、接着剤層及びバッカ-層をその順に積層してなる請求項1?3のいずれかに記載の成形用加飾フィルム。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は、インサート成形又はサーモジェクト成形に用いられる成形用加飾フィルムに関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来から、樹脂成形物の表面を加飾した加飾成形品が各種用途で使用されている。・・・ また、特許文献2には、熱可塑性樹脂の基材シートの表面側に、電離放射線硬化性樹脂の硬化物で樹脂模様層を部分的に形成した加飾シートを用いて、サーモジェクト成形(射出成形同時加飾)する発明が開示されている。そして、特許文献3では、基材シートに未硬化の電離放射線硬化樹脂からなる表面保護層を設け、加熱圧により表面保護層側の面を賦形用型の微細凹凸により賦形し、その後に電離放射線を照射して微細凹凸模様を有する表面保護層を硬化させて、微細凹凸模様を有するインサートシートを製造する方法が提案されている。 さらに、特許文献4には、表面に微細凹凸を有する凹版の凹部に未硬化の電離放射線硬化型樹脂が充填され、その上から基体シートの片面に厚さ2μm以上の硬化した微細凹凸層が形成された凹凸インサートシートが提案されている。 しかしながら、これらのシートを用いてインサート成形すると真空成形時又は射出成形時に、或いはサーモジェクト成形すると射出成形時に、シート表面の凹凸模様に割れが発生するという問題があった。 【0003】 ・・・ 【特許文献2】特開2002-240078号公報 【特許文献3】特開2004-42409号公報 【特許文献4】特開2004-276416号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明は、このような状況下で、インサート成形の真空成形時又は射出成形時、或いはサーボジェクト成型の射出成形時に、加飾フィルム表面の凹凸模様に割れが発生しない成形用加飾フィルムを提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明者は、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、成形用加飾フィルム表面の凹凸模様を形成する盛上部の配置と大きさを改良することにより、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。 ・・・ 【発明の効果】 【0006】 本発明によれば、インサート成形の真空成形時又は射出成形時、或いはサーモジェクト成形の射出成形時に、加飾フィルム表面の凹凸模様に割れが発生しない成形用加飾フィルムを提供することができる。」 (ウ)「【発明を実施するための最良の形態】 【0007】 以下、本発明を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の成形用加飾フィルムの実施態様の断面を示す模式図である。 本発明の成形用フィルム10(以下、単に「加飾フィルム10」と呼ぶこともある)は、基材シート11の上に盛上部12を有し、基材シート11全面に対して、盛上部12の総面積が45%以下であり、且つ1つの盛上部の面積が2mm^(2)以下であることを特徴とする。基材シート11全面に対して、盛上部12の総面積を45%以下とするのは、各盛上部12が相互に近づき過ぎないようにするためであり、この観点から、盛上部12の総面積を40%以下とすることが好ましい。盛上部12の総面積の下限はないが、盛上部12の総面積があまりに小さいと視覚的に凹凸模様とは認識しにくくなるので、盛上部12の総面積は1%以上であることが好ましい。また、1つの盛上部の面積が2mm^(2)以下であることを要するのは、特定の盛上部12に応力集中するのを防ぐためである。1つの盛上部の面積の下限もないが、盛上部12の個々の面積があまりにも小さいと視覚的に凹凸模様とは認識しにくくなるので、1つの盛上部12の面積は、0.01mm^(2)以上であることが好ましい。 盛上部12の総面積と1つの盛上部の面積を上記のように限定することにより、インサート成形の真空成形時又は射出成形時、或いはサーモジェクト成形の射出成形時(以下、「加飾成形時」と呼ぶことがある)に、加飾フィルム10表面の凹凸模様に割れが発生することを防止することができる。 さらに、盛上部12間距離Lを0.2mm以上とすることにより加飾フィルム10表面に凹凸模様に割れが発生することをさらに好適に防止することができる。この観点から、盛上部12間距離を0.4mm以上とすることがさらに好ましい。ここで、盛上部12間距離Lは、図1で示すように、各盛上部12端部間の最短距離をいう。 【0008】 本発明の加飾フィルム10において、基材シート11上の各盛上部12の形状は、特に限定されず、円形、楕円形、三角形、四角形、5?10角形等の同一形状であっても良いし、異なる形状の集合であっても良い。また、各盛上部12が規則的に並んだような定形のパターン形状でも良いし、不定型な絵柄であると触感、マット感、光沢感及び意匠性に優れることから好ましく、規則的に並んだような定形のパターン形状であると、加飾成形時の応力が特定部分に集中し難く、表面の凹凸模様の割れがより発生し難くなる点で好ましい。 ・・・ 【0010】 本発明の加飾フィルム10に用いられる基材シート11として、熱可塑性樹脂シートが好適に使用される。加飾フィルム10を成形して使用する際に、成形性を得易いからである。・・・」 (エ)「【0013】 本発明の加飾フィルム10の上に配置される盛上部12は、電離放射線硬化性樹脂組成物が架橋硬化した硬化物であることが好ましい。耐摩耗性等の耐久性向上のためであり、特に、摩耗によって容易に消失したり傷付いたりすることを防止するためである。電離放射線硬化性樹脂組成物に用いる電離放射線硬化性樹脂としては、紫外線、可視光線や電子線等の電離放射線で架橋硬化する樹脂を用途に応じて使用すれば良い。 電離放射線硬化性樹脂は、具体的には、分子中にラジカル重合性不飽和結合、又はカチオン重合性官能基を有する、プレポリマー(所謂オリゴマーも包含する)及び/又はモノマーを適宜混合した電離放射線により硬化可能な組成物が好ましくは用いられる。これらプレポリマー又はモノマーは単体又は複数種を混合して用いる。 【0014】 上記プレポリマー又はモノマーは、具体的には、分子中に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等のラジカル重合性不飽和基、エポキシ基等のカチオン重合性官能基等を有する化合物からなる。また、ポリエンとポリチオールとの組み合わせによるポリエン/チオール系のプレポリマーも好ましくは用いられる。なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基の意味である。ラジカル重合性不飽和基を有するプレポリマーの例としては、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、エポキシ(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート系、シリコーン(メタ)アクリレート系等がしようできる。分子量としては、通常250?100,000程度のものが用いられる。 【0015】 ・・・ウレタン(メタ)アクリレート系プレポリマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンプレポリマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することによって得ることができる。・・・」 (オ)「【0017】 ラジカル重合性不飽和基を有するモノマーの例としては、分子中にラジカル重合基不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好適であり、中でも多官能性(メタ)アクリレートが好ましい。なお、ここで「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。多官能性(メタ)アクリレートとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有する(メタ)アクリレートであればよく、特に制限はない。・・・」 (カ)「【0021】 本発明の加飾フィルム10の上に配置される盛上部12は、上記の様な電離放射線硬化性樹脂組成物である液状組成物を用いて、シルクスクリーン印刷、グラビア盛上印刷、又は特許文献2に記載された成形版胴法等の印刷、或いは塗工法等の公知の形成方法により、基材シート11上に形成することができる。盛上部12の厚さは特に制限は無いが、通常1?200μm程度である。特に凹凸感、立体感を視覚的に強調する場合は10μm以上設けることが好ましい。 ・・・ 【0023】 本発明の加飾フィルム10の裏面に、所望により積層される着色層13は、絵柄層及び/又は隠蔽層からなる。絵柄層の絵柄は任意であるが、例えば、木目、石目、布目、砂目、皮紋模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、幾何学模様、文字、記号、全面ベタ等が、用途に合わせて、1種又は2種以上組み合わせて使用される。隠蔽層は通常全面ベタ層である。 着色層13形成用のインクは、バインダー等からなるビヒクル、顔料や染料等の着色剤、これに適宜加える各種添加剤からなるが、バインダーの樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、セルロース系樹脂、塩素化ポリプロピレン、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等より選択される1種単独の樹脂、又は2種以上の混合樹脂が用いられる。 また、着色剤としては、例えば、チタン白、亜鉛華、カーボンブラック、鉄黒、弁柄、クロムバーミリオン、カドミウムレッド、群青、コバルトブルー、黄鉛、チタンイエロー等の無機顔料、フタロシアニンブルー、インダスレンブルー、イソインドリノンイエロー、ベンジンイエロー、キナクリドンレッド、ポリアゾレッド、ペリレンレッド等の有機顔料(或いは染料も含む)、又はアルミニウム、真鍮、等の鱗片状箔粉からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔粉からなる真珠光沢(パール)顔料等が使用される。 着色層13は、グラビア印刷、シルクするリーン印刷、オフセット印刷等の印刷法、又はロールコート等の公知の塗工法等の従来公知の形成方法で形成すれば良い。 着色層13の厚さは、特に制限は無いが、通常0.5?20μm程度である。 【0024】 本発明においては、基材シート11又は着色層13の裏面側に、必要に応じ適宜、基材シート11又は着色層13と、バッカ-層15又は射出樹脂との接着性を向上させるために接着剤層14を設けても良い。接着剤層14の材料は、着色層13との密着性、印刷適正、成形適正を持つ樹脂の中から、広範囲に選択される。・・・また、接着剤層14は、上記樹脂等からなる接着剤を、グラビア印刷、ロールコート等の公知の印刷又は塗工法により形成する。また、接着剤層の厚さは特に制限は無いが、通常は1?50μm程度である。 【0025】 本発明の加飾フィルム10の接着剤層14の裏面に、所望により積層されるバッカ-層15の材料は、ABS樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂が好ましい。これらの樹脂の内、ABS樹脂及びポリプロピレン樹脂が特に好ましい。射出樹脂がポリプロピレン樹脂である場合はポリプロピレン樹脂が好ましい。バッカ-層15は、加飾フィルム10を補強し、一体化物の形態を保持するために積層されるので0.1?0.5mm程度のシートが用いられる。」 (キ)「【実施例】 【0030】 次に、本発明の実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。 なお、成形用加飾フィルム表面の割れ発生の有無は、下記の方法に従って測定した。 <成形用加飾フィルム表面の割れ発生の有無> 成形用加飾フィルムの凹凸模様に割れが発生したか否かを目視にて観察し、以下の基準で判断した。 ◎:真空成形後の成形用加飾フィルム及び射出成形後の成形品表面に割れは全く発生していなかった。 ○:真空成形後の成形用加飾フィルム及び射出成形後の成形品表面に微細な割れが認められたが、実用上問題なかった。 ×:真空成形後の成形用加飾フィルム及び射出成形後の成形品表面に目立つ割れが発生し、成形品の商品価値が低下した。 【0031】 実施例1?3及び比較例1 ポリメタクリル酸メチルを主成分とする厚さ75μmの無着色透明なアクリル樹脂シートからなる基材シート裏面に、夫々ポリブチルメタクリレート/塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(質量比:2/1)からなる絵柄層(厚さ1μm)、ポリメチルメタクリレート及びポリブチルメタクリレートの混合物及び無機顔料からなる隠蔽層(厚さ2μm)及び2液硬化型ウレタン樹脂系接着剤からなる接着剤層(厚さ10μm)を順次積層した後、ABS樹脂からなるバッカ-層(厚さ400μm)をドライラミネーションにより積層した後、ウレタンアクリレートプレポリマー 29質量部、ポリエチレングリコールジアクリレート 6質量部、エチルカルビトールアクリレート 8質量部、2?エチルヘキシルアクリレート 7質量部、シリコーンアクリレート 4質量部、光重合開始剤(メチルベンゾインフォーメート) 2質量部、溶剤(イソプロピルアルコール)適宜量からなる電離放射線硬化性樹脂組成物(無用剤タイプ)を、グラビア印刷により円形状の盛上部を多数配列した平面視パターンに印刷すると共に、紫外線を160W/cmの条件で照射して、グラビア番の版形状をい保ったまま架橋硬化させて、厚さ30μmで基材シート上に突出した盛上部12を形成して、4種類の成形用加飾フィルムを得た。1つの盛上部12は、直径1.0mmの円形であり、基材全面に対する総面積(%)、1つの盛上部の面積(mm^(2))及び盛上部間距離(mm)は表1の通りであった。 次に、これら4種類の成形用加飾フィルムを固定枠に固定し、成形用加飾フィルムの温度が160℃になるまで約300℃のヒーターで加熱した。加熱され軟化した成形用加飾フィルムを、上述のように、真空成形工程、トリミング工程及び温度約240℃でABS樹脂を射出樹脂とする射出成形工程を経て4種類のインサート成形品を得た。 これら4種類を真空成形後の成形用加飾フィルム及び射出成形後の成形品の凹凸模様の割れの発生の有無を評価した。結果を表1に示す。 【0032】 【表1】 【0033】 表1から分かるように、実施例1及び2の成形用加飾フィルムは、真空成形後の成形用加飾フィルム及び射出成形後の成形品表面に割れの発生は全くなく、良好であった。実施例3の成形用加飾フィルムは、真空成形後の成形用加飾フィルム及び射出成形後の成形品表面に微細な割れが認められたが、目立つことなく実用上問題なかった。 一方、比較例1の成形用加飾フィルムは、真空成形後の成形用加飾フィルム及び射出成形後の成形品表面に目立つ割れが発生し、成形品の商品価値が低下した。」 (ク)「【図1】 」 (ケ)図1からは、「「基材シート」上で「盛上部」が形成されていない部分には、何も存在しないこと」が看取される。 イ してみると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「熱可塑性樹脂により形成されている基材シートの上に、電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化したものにより形成された、厚みが10μm以上の盛上部を有し、 前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、2-エチルへキシルアクリレートと、分子量250?100,000のウレタン(メタ)アクリレート系のプレポリマー(所謂オリゴマーも包含する。)29質量部とを含み、 前記盛上部の総面積が、基材シート全面に対して45%以下であり、且つ1つの盛上部の面積が2mm^(2)以下であり、前記盛上部間の距離が0.2mm以上であり、前記基材シートで前記盛上部が形成されていない部分には何も存在していない、加飾フィルムであって、 前記基材シートの反対側に、着色層、バッカー層及び接着剤層が積層されてなる加飾フィルム。」 (2) 甲2記載事項 ア 甲2には、以下の記載がある。 (ア)「【発明の効果】 【0013】 本発明によると、皮革上の意匠が付与された、耐摩耗性に優れ、かつ硬化膜が割れることなく引っ張りに対して追従する模様を形成された皮革およびその製造方法を提供することができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0014】 本発明は、皮革上に紫外線硬化膜による凸模様が形成された皮革であって、該凸模様がマルテンス硬さの異なる少なくとも2種類の紫外線硬化膜により形成されている模様の形成された皮革に関する。 【0015】 ここでマルテンス硬さとは、圧子を、荷重をかけながら被測定物に押し込むことにより求められる、ISO14577に規定される物性値であり、非常に柔軟な膜や、厚みが薄い膜などに対し精度の高い測定値が得られることから、本発明の模様の形成された皮革の物性を正確に表すものとして最適な測定方法だと言える。 【0016】 このマルテンス硬さの測定は、例えば、超微小硬度計、フィッシャースコープPICODENTOR HM500(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)など、市販の装置を用いて行うことができる。 【0017】 具体的には、圧子を、試験荷重F[N]をかけながら被測定物表面に押し込み、その押し込み量h[mm]と圧子形状から、圧子が侵入した表面積As(h)[mm^(2)]を求め、式1によりマルテンス硬さHM[N/mm^(2)]を求める。 【0018】 [式1] HM=F/As(h) なお、本発明におけるマルテンス硬さの測定については、上記PICODENTOR HM500を使用し、10秒かけて最大荷重0.050mNとなるようにビッカーズ圧子を被測定物表面に押し込み、そのまま試験荷重を5秒間保持し、その後同様に荷重を減少させる条件を採用した。ビッカーズ圧子を用いた場合の表面積の算出式は式2の通りである。 【0019】 [式2] As(h)=k×h^(2) =26.43×h^(2) k:圧子固有の係数 h:圧子の押し込み量 【0020】 また、被測定物としては、実施例中の紫外線硬化型インクと同一組成である別途作成した硬化被膜を用いた。具体的には、ダイヤルゲージ法による厚みが100μmで、エンボス処理やコロナ処理などによる表面処理加工が施されていない平滑なポリエステルフィルム上に、バーコーターを用いて、紫外線硬化型インクを10μm厚で塗布し、硬化させたものを用いた。 ・・・ 【0023】 また上記の方法により測定されるマルテンス硬さについては、2種類の紫外線硬化膜のマルテンス硬さが2?60N/mm^(2)であり、かつ2種類の紫外線硬化膜のマルテンス硬さの差が10?50N/mm^(2)であることが好ましい。2種類の紫外線硬化膜のマルテンス硬さが2N/mm^(2)未満であると耐摩耗性が得られないおそれがあり、2種類の紫外線硬化膜のマルテンス硬さが60N/mm^(2)より大きいと皮革を引っ張ったときに紫外線硬化膜が追従できずに割れてしまうおそれがある。・・・」 (イ)「【0039】 また紫外線硬化型インクは、主に、反応性希釈剤、オリゴマー、光開始重合剤などから構成され、必要に応じて、光重合開始剤の開始反応を促進させるために増感剤やその他、分散剤、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、pH調整剤、消泡剤、浸透剤等の添加剤を加えることも当然可能である。 ・・・ 【0041】 反応性希釈剤は、インク中に50?85重量%含まれることが好ましい。50重量%未満の場合、インク粘度が高くなるため吐出不良を生じるおそれがあり、85重量%を超えると硬化に必要な他の薬剤が不足し硬化不良になるおそれがある。 【0042】 なかでも柔軟な硬化膜とするためには、単官能または2官能のアクリレートを使用することが好ましく、さらには硬化膜の柔軟性と強度や硬化速度を考慮すると、単官能と2官能のアクリレートを併用することがより好ましい。 ・・・ 【0044】 また、2官能アクリレートはインク中に20?70重量%含まれることが好ましく、30?50重量%含まれることがより好ましい。20重量%未満では硬化膜が硬化不良となるおそれがあり、70重量%を超えると硬化膜が硬くなりすぎ、皮革との追従性が獲られないおそれがある。 ・・・ 【0046】 オリゴマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレートが挙げられ、単独または複合して使用されても良い。 【0047】 この中でも特にウレタンアクリレートが接着性に優れている理由で好ましい。さらに好ましくは、ウレタンアクリレートのTgは-30?30℃の範囲であることが柔軟性のある硬化膜を作成するうえで好ましく、その効果を得るためにはインク中に10重量%以上、さらには15重量%以上添加することが好ましい。上限は特に限定されないが、あまりに多すぎるとインクの粘度が高くなりすぎて、インクの吐出ができなくなるおそれがあるため、40重量以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましい。」 (ウ)「【0070】 (2-b)硬化後のマルテンス硬さが硬い紫外線硬化型インク CN981(脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー サートマージャパン(株)製) 25重量部 SR9003(プロポキシ化(2)ネオペンチルグリコールジアクリレート サートマージャパン(株)製) 70重量部 イルガキュア184(1-ヒドロキシ-シクロへキシル-フェニル-ケトン チバスペシャルティケミカルズ(株))5重量部 【0070】 上記各材料をミキサーにて混合後、ビーズミルにて3時間分散して、ろ過することにより紫外線硬化型インクを作成した。なおこの紫外線硬化型インクのマルテンス硬さは25N/mm^(2)であった。」 イ してみると、甲2には次の事項(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されていると認められる。 「合成または人工皮革の表面に、紫外線硬化インクを硬化させた紫外線硬化膜による凸模様を形成するものにおいて、前記紫外線硬化膜の割れを防ぎ、摩擦に対しての耐久性を高めるために、凸模様を形成する紫外線硬化インクがSR9003(プロポキシ化(2)ネオペンチルグリコールジアクリレート:サートマージャパン(株)製)70重量部と、CN981(脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー:サートマージャパン(株)製)25重量部、イルガキュア184(1-ヒドロキシ-シクロへキシル-フェニル-ケトン チバスペシャルティケミカルズ(株))5重量部であり、前記紫外線硬化膜の硬化後のマルテンス硬度が25N/mm^(2)であること。」 (3) 甲3記載事項 甲3には、以下の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも熱可塑性樹脂層及びトップコート層を順に有する化粧シートであって、 (1)前記トップコート層は、電離放射線硬化型樹脂を含む最表層を有し、 (2)前記トップコート層の厚みが20μm以上であり、 (3)前記熱可塑性樹脂層の厚みが40?120μmであり、 (4)前記熱可塑性樹脂層の厚みに対するトップコート層の厚みの比率が20%以上である、 ことを特徴とする、化粧シート。 ・・・ 【請求項5】 前記最表層のマルテンス硬さが40?140N/mm^(2)である、請求項1?4のいずれかに記載の化粧シート。」 (イ)「【0064】 最表層の硬さは特に限定されないが、マルテンス硬さが40?140N/mm^(2)であることが好ましい。マルテンス硬さが上記範囲内であることによって、抉れ傷及び白化傷がより付き難くなる。」 (4) 甲4記載事項 甲4には、以下の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 樹脂基材(ア)上に、化粧シートが積層された床用化粧材であって、 (1)前記化粧シートが、少なくとも基材シート(イ)、透明性樹脂層及び表面保護層を順に積層してなり、前記化粧シートの前記基材シート(イ)側が前記樹脂基材(ア)側に位置するように、当該樹脂基材(ア)に積層してなり、 (2)前記表面保護層は、層厚が5?30μmであり、且つマルテンス硬さが50?210N/mm^(2)であり、 (3)前記樹脂基材(ア)は、JISK7161の規定に従って測定した引張弾性率が100?1600MPaである、 ことを特徴とする床用化粧材。 【請求項2】 前記表面保護層が、電離放射線硬化型樹脂を含有する、請求項1に記載の床用化粧材。」 (イ)「【0057】 表面保護層は、軟らかすぎると白化傷が発生しやすく、硬すぎると割れが発生しやすいという理由から、マルテンス硬さは、50?210N/mm^(2)である。また、表面保護層のマルテンス硬さは、好ましくは80?180N/mm^(2)であり、より好ましくは100?160N/mm^(2)である。」 (5) 甲5記載事項 甲5には、以下の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 基材シート上に、少なくとも透明性樹脂層及び表面保護層を有する床用化粧シートであって、 (1)前記透明性樹脂層は、前記表面保護層の下層に積層されており、且つマルテンス硬さが20N/mm^(2)以上であり、 (2)前記表面保護層は、層厚が30μm以上150μm未満であり、且つマルテンス硬さが40超?70N/mm^(2)である、 ことを特徴とする床用化粧シート。 【請求項2】 前記表面保護層が、電離放射線硬化型樹脂を含有する、請求項1に記載の床用化粧シート。」 (イ)「【0056】 表面保護層は、比較的高荷重での耐傷付き性を発揮しつつ、擦傷性にも優れ、かつ表面保護層がもろくならす、耐衝撃性にも優れるという理由から、マルテンス硬さは、40超?70N/mm^(2)である。また、表面保護層のマルテンス硬さは、好ましくは50?70N/mm^(2)である。」 (6) 甲6記載事項 甲6には、以下の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 木質基材上に化粧シートが積層された床用化粧材であって、 (1)前記木質基材は、1層の木質層又は2層以上の木質層からなり、前記化粧シートと接している木質層の表面密度が0.7g/cm^(3)以上であり、 (2)前記化粧シートは基材シート、絵柄模様層及び表面保護層を順に有し、 (3)前記基材シートの引張弾性率が1000MPa以上であり、 (4)前記表面保護層の厚さが15?60μmであり、 (5)前記表面保護層のマルテンス硬さが90?240N/mm^(2)である、 床用化粧材。 【請求項2】 前記表面保護層は、電離放射線硬化型樹脂を含有する、請求項1に記載の床用化粧材。」 (イ)「【0032】 表面保護層は最表層であり、本発明では、表面保護層の厚さが15?60μmであり、且つ、マルテンス硬さが90?240N/mm^(2)である。なお、表面保護層の厚さは、耐傷性向上の観点から20μm以上が好ましく、また耐衝撃性の観点から40μm以下が好ましい。15μm未満である場合、優れた耐傷性が得られなかったり、60μmより厚い場合、優れた衝撃性が得られない可能性がある。また、マルテンス硬さは耐傷性の観点から140N/mm^(2)以上が好ましく、耐衝撃性の観点から210N/mm^(2)以下が好ましい。90N/mm^(2)未満である場合、優れた耐傷性が得られなかったり、240N/mm^(2)より大きい場合、優れた耐衝撃性が得られない場合がある。」 (7) 甲7記載事項 甲7には、以下の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 基材シート上に、少なくとも透明性樹脂層、第1表面保護層、及び第2表面保護層がこの順に積層された床用化粧シートであって、 前記第1表面保護層、及び前記第2表面保護層が、電離放射線硬化型樹脂を含有し、 (1)前記第1表面保護層は、層厚が5?20μmであり、且つマルテンス硬さが40?100N/mm^(2)であり、 (2)前記第2表面保護層は、層厚が5?20μmであり、且つマルテンス硬さが110?160N/mm^(2)であり、 (3)前記第1表面保護層の層厚と、前記第2表面保護層の層厚との合計が20?40μmである ことを特徴とする床用化粧シート。」 (イ)「【0042】 上記第2表面保護層は、比較的高荷重での耐傷付き性を発揮しつつ、表面保護層がもろくならず耐衝撃性に優れ、さらに耐汚染性にも優れるという理由から、マルテンス硬さは、110?160N/mm^(2)である。かかる範囲の中でも、110?130N/mm^(2)であることが好ましい。」 (8) 甲8記載事項 甲8には、以下の記載がある。 (ア)「【0012】 以下、本発明を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の三次元成形用加飾シートの実施態様の断面を示す模式図である。本発明の三次元成形用加飾シート10(以下、単に「加飾シート10」と呼ぶこともある)は、基材シート11の上に電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる盛上部12を有しており、該盛上部12は基材シート11上の一部に存在する。また、図2も本発明の加飾シートの一つの態様の断面を示す模式図であり、図2に示される加飾シート10は、支持体層15上に、接着剤層14を介して、着色層13、基材シート11、及び盛上部12を順に有しており、該盛上部12は該基材シート11上の一部に存在する。なお、本発明の加飾シートは図1及び2に記載の様態に限定されるわけではない。」 (9) 甲9記載事項 甲9には、以下の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも絵柄層上に、透明熱可塑性樹脂フィルム層と、盛り上げ印刷層とを順次具備することを特徴とする化粧材。」 (イ)「【0018】 本発明の化粧材は、図1に例示する様に、所望の色彩模様による意匠表現のための絵柄層3と、立体感や材質感等の意匠表現や耐摩耗性の付与のための盛り上げ印刷層1とを、少なくとも具備してなる化粧材において、前記絵柄層3と、前記盛り上げ印刷層1との間に、透明熱可塑性樹脂フィルム層2を具備することによって、化粧材の表面に付着した汚染物質が絵柄層3や基材4中に浸透して染みを発生する現象を効果的に防止し、以て従来の同種の化粧材よりも格段に耐汚染性に優れ、汚染の激しい使用環境下にあっても長期間に亘り良好な意匠性を保持し得る化粧材を実現したものである。」 3 本件特許発明2について (1) 対比 甲1発明の「電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化させたもの」が本件特許発明2の「電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物」に相当し、以下同様に「2-エチルへキシルアクリレート」が「多官能(メタ)アクリレートモノマー」に、「ウレタン(メタ)アクリレートプレポリマー」が「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」に、「加飾フィルム」が「加飾シート」にそれぞれ相当する。 また、「前記盛上部の総面積が、基材シート全面に対して45%以下であり、且つ1つの盛上部の面積が2mm^(2)以下であり、前記盛上部間の距離が0.2mm以上であ」る甲1発明において、前記「盛上部」は、加飾フィルムの前記盛上部が形成されている側の表面の一部に形成されていることが明らかであり、「前記基材シートで前記盛上部が形成されていない部分には何も存在していない」ということは、加飾フィルムの表面の盛上部が形成されていない部分は、前記電離放射線硬化性樹脂を架橋硬化したもので形成されていないことも明らかであることから、甲1発明の「前記盛上部の総面積が、基材シート全面に対して45%以下であり、且つ1つの盛上部の面積が2mm^(2)以下であり、前記盛上部間の距離が0.2mm以上であり、前記基材シートで前記盛上部が形成されていない部分には何も存在していない」という構成が本件特許発明2の「前記盛上部が、前記加飾シートの前記盛上部が形成されている側の表面の一部に形成され、且つ、前記表面の前記盛上部が形成されていない部分は前記電離放射線硬化性樹脂の硬化物で形成されていない」という発明特定事項に相当する。 してみると、本件特許発明2と甲1発明とは、「基材シートの上に、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物により形成された、厚みが10μm以上の盛上部を有し、前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、多官能(メタ)アクリレートモノマーと、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとを含み、前記盛上物が、前記加飾シートの前記盛上部が形成されている側の表面の一部に形成され、且つ、前記表面の前記盛上部が形成されていない部分は前記電離放射線硬化性樹脂の硬化物で形成されていない、加飾シート。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1)前記電離放射線硬化性樹脂の硬化物について、本件特許発明2では「温度25℃及び相対湿度50%下におけるマルテンス硬度が10?120N/mm^(2)の範囲にある」のに対して、甲1発明ではマルテンス硬度が不明な点。 (相違点2)ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーについて、本件特許発明2では「重量平均分子量2000?8000」であるのに対して、甲1発明では「分子量が250?100,000」である点。 (相違点3)ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーについて、本件特許発明2では「20?30質量%」を含むのに対して、甲1発明では「29質量部」を含む点。 (2)相違点1について 上記相違点1について検討する。 甲2記載事項?甲7記載事項からみて、多層構造の皮革や化粧シート等の最表層として設けられる紫外線硬化膜の硬化後のマルテンス硬さを所定の範囲に設定することで、その割れを防ぎ、摩擦に対しての耐久性を高めることは、本件特許の出願前の周知技術であったといえる。 ここで、甲1発明は、「インサート成形の真空成形時又は射出成形時に、加飾フィルム表面の凹凸模様に割れが発生しない成形用加飾フィルムを提供することを課題とする」(甲1の段落[0006]の記載を参照。)ところ、前記「割れ」がさらに発生しがたくなるように、上記周知技術を踏まえ、その「盛上部」の「マルテンス硬度」の適宜な数値範囲を模索し、「温度25℃及び相対湿度50%下におけるマルテンス硬度が10?120N/mm^(2)の範囲にある」ように設定することは、当業者が容易になし得たことというべきである。 特に、甲2には、特定の紫外線硬化インクを硬化させて形成した紫外線硬化膜で形成した凸模様について「前記紫外線硬化膜の硬化後のマルテンス硬度が25N/mm^(2)であること。」が記載されており、甲2記載事項に触れた当業者が、甲2記載の紫外線硬化インクの配合及び紫外線硬化膜による凸模様のマルテンス硬度を参酌して、「温度25℃及び相対湿度50%下におけるマルテンス硬度が10?120N/mm^(2)の範囲にある」よう設定することは、容易に想到し得たものといわざるを得ない。 また、本件特許発明2が奏する「成形時における当該盛上部の割れが効果的に抑制されており、さらに、成形後における盛上部の凹凸形状による意匠性、耐傷付き性にも優れた加飾シート、及び当該加飾シートを利用した加飾樹脂成形品を提供することができる。」(本件特許明細書の段落【0009】を参照)という効果は、甲1発明及び上記周知技術から、当業者が予測し得た程度のことである。 特許権者は、令和1年8月13日に提出した意見書(以下、「意見書1」という。)の「5(4)理由1(新規性)について」及び「5(5)理由2(進歩性)について」において、マルテンス硬さに関し、甲2に記載の「2?60N/mm^(2)」、甲3に記載の「40?140N/mm^(2)」、甲4に記載の「50?210N/mm^(2)」、甲5に記載の「40超?70N/mm^(2)」、甲6に記載の「90?240N/mm^(2)」、甲7に記載の「110?160N/mm^(2)」という数値範囲から、本件発明1の「10?120N/mm^(2)」という範囲を選択することが動機付けられるものではなく、また、本件発明1は、「10?120N/mm^(2)」という範囲であることにより、上記効果が奏されることが、本件特許明細書の実施例1?4と比較例1、2との対比に実証される旨を主張している。 しかしながら、上記甲2記載事項?甲7記載事項に接した当業者であれば、その各々に記載されたマルテンス硬さの具体的な数値範囲に加え、「多層構造の皮革や化粧シート等の最表層として設けられる紫外線硬化膜の硬化後のマルテンス硬さを所定の範囲に設定することで、その割れを防ぎ、摩擦に対しての耐久性を高める」という技術を把握し、当該技術が本件特許の出願前の周知技術であったと認識し得ることは、上記したとおりである。 そして、本件特許明細書の段落【0090】?【0105】に記載された実施例1?4と比較例1、2は、電離放射線硬化性樹脂組成物の組成が全て異なっており、【表1】に示される、実施例1?4と比較例1、2の「成形性評価(盛上部の割れ)」や「耐傷付き性評価」の違いが、「盛上部を形成する硬化物のマルテンス硬度」の違いに起因するものであるとは必ずしも言えない。 ゆえに、上記主張は、当を得たものではなく、採用できない。 (3)相違点2について 上記相違点2について検討する。 高分子の分子量を計測する際に、「重量平均分子量」を採用することは、証拠を示すまでも無く慣用的技術手段にすぎない。 そして、市販されているウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量は、幅広い範囲にわたるものであることを勘案すると、甲1発明における分子量250?100,000のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーについて、市販のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを適宜選択して「重量平均分子量2000?8000」とすることは、単なる数値範囲の最適化・好適化にすぎず、当業者が容易になし得た設計変更というべきである。 また、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの重量平均分子量が2000?8000とすることが単なる数値範囲の最適化・好適化ではないとしても、本件特許の明細書(【0032】?【0033】、【0091】?【0105】)には、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが重量平均分子量2000?8000の範囲外にある場合との比較が示されておらず、技術常識を参酌しても当該数値範囲内において有利な効果の顕著性があるとはいえないから、当該数値範囲の上限及び下限に臨界的意義があるものとすることはできない。 (4)相違点3について 上記相違点3について検討する。 前述のとおり、甲2には、「合成または人工皮革の表面に、紫外線硬化インクを硬化させた紫外線硬化膜による凸模様を形成するものにおいて、前記紫外線硬化膜の割れを防ぎ、摩擦に対しての耐久性を高めるために、凸模様を形成する紫外線硬化インクがSR9003(プロポキシ化(2)ネオペンチルグリコールジアクリレート:サートマージャパン(株)製)70重量部と、CN981(脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー:サートマージャパン(株)製)25重量部、イルガキュア184(1-ヒドロキシ-シクロへキシル-フェニル-ケトン チバスペシャルティケミカルズ(株))5重量部であり、前記紫外線硬化膜の硬化後のマルテンス硬度が25N/mm2であること。」が記載されている。 ここで、甲2記載の紫外線硬化インクにおけるウレタンアクリレートオリゴマーの質量%を計算すると、25重量部(脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーの配合量)×100/(70重量部(プロポキシ化(2)ネオペンチルグリコールジアクリレートの配合量)+25重量部(脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーの配合量)+5重量部(1-ヒドロキシ-シクロへキシル-フェニル-ケトンの配合量))=25質量%となることから、甲2記載事項に触れた当業者が、甲2記載の紫外線硬化インクにおける脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーの配合量及び紫外線硬化膜による凸模様のマルテンス硬度を参酌して、ウレタンアクリレートオリゴマーの配合量を「20?30質量%」の範囲に設定することは、容易に想到し得たもとのといわざるを得ない。 (5)想到非容易性及び効果予測不可能性の主張ついて 特許権者は、令和2年1月28日に提出した意見書(以下、「意見書2」という。)の「5(4)(4-4)想到非容易性について」において、「・・・しかしながら、上述の通り、甲2?甲7のいずれにおいても、電離放射線硬化型樹脂に用いられるラジカル重合性不飽和基を有するプレポリマーに重量分子量2000?8000という特定の範囲のものを選択し且つ20?30質量%という特定範囲で使用することについて何らの示唆もされていない。・・・引用発明1において、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物について、上記相違点1の構成(温度25℃及び相対湿度50%下におけるマルテンス硬度を10?120N/mm^(2)の範囲に設定すること)とする共に、電離放射線硬化性樹脂組成物に含まれるウレタン(メタ)アクリレート系プレポリマーについて、上記相違点2の構成(重量平均分子量2000?8000という特定の範囲のものを用いること)と上記相違点3の構成(20?30質量%という特定範囲の含有量で用いること)との両方を更に組み合わせることは、到底、当業者の通常の創作能力の発揮によって成し得るものではない。」と主張する。 しかしながら、上述のとおり、甲2記載事項に触れた当業者が、市販の脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーを25質量%配合した紫外線硬化インクを硬化させた紫外線硬化膜による凸模様のマルテンス硬度が25N/mm^(2)であって紫外線硬化膜の割れを防ぐとともに摩擦に対する耐久性が高まるという効果を期待して、甲1発明における電離放射線硬化性樹脂組成物として、甲2記載の紫外線硬化性インクの如く構成することに何ら困難性はなく、その際に脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーを重量平均分子量2000?8000の範囲内とすることは、単なる数値範囲の最適化・好適化にすぎないか、あるいは、当該重量平均分子量の範囲に有利な効果の顕著性がみられないことから、その数値範囲から外れた重量平均分子量であっても同様の効果を奏するよう実験的に想到することに困難性があるとはいえないから、特許権者の主張を採用することはできない。 さらに特許権者は、意見書2の「5(4)(4-5)効果予測不可能性について」において、「本件発明2及び5によれば、本件特許明細書の実施例1?4に実証されている通り、加飾樹脂成形品において、「凹凸感の評価」(つまり、成形後における盛上部の凹凸形状による意匠性)、「成形性評価(盛上部の割れ)」(つまり、成形時における当該盛上部の割れの抑制)、及び「耐傷つき性評価」の全てにおいて優れた特性が発揮される。」とし、「甲2においては、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー25質量部とともに、分子量が不明の2官能アクリレート(プロポキシ化(2)ネオペンチルグリコールジアクリレート)70質量部を併用して得られるマルテンス硬度25N/mm^(2)の硬化物が、比較例2に示すとおり、凸部が単層では追従性が得られず割れまたは亀裂が認められる(表1、段落[0059])ことが示されていることに鑑みると、本件特許明細書の実施例1?4で実証される割れ抑制効果は、凸部(盛上部)が単層の場合でも得られるほどに極めて高いレベルで奏されているため、当業者が予測できる範囲を遙かに超えている。」と主張する。 しかしながら、本件特許発明2は、特に射出成形や真空成形に用途を限定していない「加飾シート」であって、射出成形品や真空成形品に適用すると仮定しても、射出成形後又は真空成形後の成形品に、基材シート及び電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布等してから硬化させることを含み得る技術思想であることを鑑みると、特許権者の主張は、請求項の記載に基づかない主張というべきであって、やはり採用することはできないものである。 (6)小括 したがって、本件特許発明2は、甲1発明及び甲2記載事項?甲7記載事項と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 本件特許発明3について 本件特許発明3と甲1発明とは、上記相違点1?3で相違し、その余の点で一致するところ、上記のとおり相違点1?3に係る構成は、甲2記載事項?甲7記載事項から当業者が容易に想到し得たものといわざるを得ない。 また、仮に、甲1発明の「前記基材シートの反対側に、着色層、バッカー層及び接着剤層が積層されてなる」という構成は、本件特許発明3の「基材シートの前記盛上部とは反対側に、表面保護層、プライマー層、装飾層、支持体シート、及び接着層からなる銀から選択された少なくとも1種が積層されてなる」という発明特定事項に相当しないとしても、射出成形や真空成形などに加飾シートを用いる際に、加飾シートの積層構成を、基材シートの盛上部とは反対側に、装飾層(着色層、絵柄層)、支持体シート(支持体層、基材)及び接着層を積層した構成とすることは、甲8記載事項や甲9記載事項から当業者が把握できるように、本件特許発明3に係る出願の出願前に周知の技術であり、その採否は、当業者が適宜決定し得たことである。 したがって、本件特許発明3は、甲1発明及び甲2記載事項?甲7記載事項と周知技術に基いて、又は、甲1発明及び甲2記載事項?甲9記載事項と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 本件特許発明4 本件特許発明4と甲1発明とは、上記相違点1?3で相違し、その余の点で一致するところ、上記のとおり相違点1?3に係る構成は、甲2記載事項?甲7記載事項から当業者が容易に想到し得たものといわざるを得ない。 したがって、本件特許発明4は、甲1発明及び甲2記載事項?甲7記載事項と周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6 本件特許発明5 甲1には、甲1発明の加飾フィルムに射出樹脂を射出して得た、インサート成形品に係る発明(以下「甲1’発明」という。)が記載されている。 ここで、甲1’発明の「射出樹脂」は、本件特許発明5の「成形樹脂層」に相当し、以下同様に、甲1’発明の「インサート成形品」は、本件特許発明5の「加飾樹脂成形品」に相当する。そうすると、本件特許発明5と甲1’発明とは、上記相違点1?3で相違し、その余の点で一致するところ、上記のとおり相違点1?3に係る構成は、甲2記載事項?甲7記載事項から当業者が容易に想到し得たことといわざるを得ない。 したがって、本件特許発明5は、甲1’発明及び甲2記載事項?甲7記載事項と周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 まとめ 以上のとおり、本件特許発明2?本件特許発明4及び本件特許発明5は、甲1発明あるいは甲1’発明及び甲2記載事項?甲7記載事項と周知技術に基いて、又は、甲1発明及び甲2記載事項?甲9記載事項と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。そうすると、本件特許発明2?本件特許発明4及び本件特許発明5は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件特許発明2?本件特許発明4及び本件特許発明5は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、本件特許発明1は、上述のとおり訂正により削除された。これにより特許異議申立人 渡辺 寛による特許異議の申立てについて、請求項1に係る申立ては、申立ての対象が存在しないこととなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 基材シートの上に、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物により形成された、厚みが10μm以上の盛上部を有し、 前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、多官能(メタ)アクリレートモノマーと、重量平均分子量2000?8000のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー20?30質量%とを含み、 前記電離放射線硬化性樹脂の硬化物は、温度25℃及び相対湿度50%下におけるマルテンス硬度が10?120N/mm^(2)の範囲にある、加飾シートであり、 前記盛上部が、前記加飾シートの前記盛上部が形成されている側の表面の一部に形成され、且つ、前記表面の前記盛上部が形成されていない部分は前記電離放射線硬化性樹脂の硬化物で形成されていない、加飾シート。 【請求項3】 前記基材シートの前記盛上部とは反対側に、表面保護層、プライマー層、装飾層、支持体シート、及び接着層からなる群から選択された少なくとも1種が積層されてなる、請求項2に記載の加飾シート。 【請求項4】 前記基材シートが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または電離放射線硬化性樹脂により形成されてなる、請求項2又は3に記載の加飾シート。 【請求項5】 少なくとも、成形樹脂層と、基材シートと、前記基材シートの上に電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物により形成された、厚みが10μm以上の盛上部とがこの順に積層されており、 前記電離放射線硬化性樹脂組成物が、多官能(メタ)アクリレートモノマーと、重量平均分子量2000?8000のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー20?30質量%とを含み、 前記電離放射線硬化性樹脂の硬化物は、温度25℃及び相対湿度50%下におけるマルテンス硬度が10?120N/mm^(2)の範囲にある、加飾樹脂成形品であり、 前記盛上部が、前記加飾樹脂成形品の前記盛上部が形成されている側の表面の一部に形成され、且つ、前記表面の前記盛上部が形成されていない部分は前記電離放射線硬化性樹脂の硬化物で形成されていない、加飾樹脂成形品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-05-27 |
出願番号 | 特願2014-70292(P2014-70292) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZAA
(B32B)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 高崎 久子 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
杉山 悟史 間中 耕治 |
登録日 | 2018-09-14 |
登録番号 | 特許第6398260号(P6398260) |
権利者 | 大日本印刷株式会社 |
発明の名称 | 加飾シート及び加飾樹脂成形品 |
代理人 | 立花 顕治 |
代理人 | 松井 宏記 |
代理人 | 山田 威一郎 |
代理人 | 田中 順也 |
代理人 | 立花 顕治 |
代理人 | 水谷 馨也 |
代理人 | 水谷 馨也 |
代理人 | 松井 宏記 |
代理人 | 山田 威一郎 |
代理人 | 田中 順也 |