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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) B41J
管理番号 1366113
判定請求番号 判定2019-600037  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 判定 
判定請求日 2019-12-12 
確定日 2020-09-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第6580284号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「係合式のインクカートリッジ」は,特許第6580284号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は,「イ号写真及びイ号説明書に示す係合式のインクカートリッジは,特許第6580284号発明の技術的範囲に属しない,との判定を求める。」というものである。

第2 本件特許及び本件判定事件に係る手続の経緯等
本件特許発明に係る出願は,平成28年12月6日にされた特願2018-554613号の一部を新たな特許出願として,令和1年5月8日(パリ条約に基づく優先権主張:平成28年6月13日(中国))に出願されたものであって,令和1年9月6日にその特許権の設定登録がなされたものである。
その後,判定請求人株式会社キュリエ(以下,単に「請求人」という。)から,令和1年12月12日に本件判定の請求がされた。
その後,請求人より令和2年1月9日付(特許庁受領日は令和2年1月10日)で判定請求書を補正する手続補正書(以下,単に「判定請求書補正書」という。)が提出され,同年3月2日付で判定被請求人珠海納思達企業管理有限公司(以下,単に「被請求人」という。)より判定事件答弁書が提出された。
同年3月23日に当審から請求人に審尋及び判定事件答弁書に対する弁駁を求めるとともに,被請求人に審尋し,同年4月3日被請求人より回答書(以下,「被請求人回答書」という。)が提出され,同年4月22日付けで請求人から弁駁書が提出されたものである。
また,請求人より判定請求書と共に甲1ないし4号証が提出され,令和2年1月9日付手続補正書と共に,甲5ないし9号証が提出され,判定事件弁駁書と共に甲10ないし甲19号証(判定事件弁駁書に添付の甲1ないし10号証の番号をそれぞれずらして,甲10ないし甲19号証とした)が提出され,被請求人より,被請求人回答書と共に,乙1号証が提出されたものである。

第3 本件特許発明
特許第6580284号に係る願書に添付した特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,本件特許に係る発明は,その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項1に係る発明(以下,「本件特許発明という。)は,次のとおりのものである(判定請求書補正書の2から3頁の「7(3)」に倣い,構成要件ごとに分説し,記号AないしIを付した。以下,各構成要件につき,「構成要件A」などという。)
「【請求項1】
A:装着部に着脱可能に取り付けられる係合式のインクカートリッジであって,
B:(B1)前記装着部には,被接合面が設けられ,前記被接合面の鉛直方向に沿う下方に取付空間が設けられ,(B2)前記インクカートリッジには,前記取付空間に対向する接合部が設けられ,
C:水平方向において前記インクカートリッジが前記被接合面を指向する方向を+X軸方向とし,鉛直方向において上向きの方向を+Z軸方向とし,+X軸方向と+Z軸方向との両方に直交する方向をY軸方向とする場合,前記接合部が+X軸方向に延在し,
D:前記装着部には,取付ホルダーが内蔵され,前記被接合面が前記取付ホルダーに設けられ,
E:前記取付ホルダーは,-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられる第1斜面と第2斜面とを含み,前記第2斜面の前記インクカートリッジに接近する端を近端とし,前記第2斜面の前記インクカートリッジから離間する端を遠端とする場合に,前記第2斜面が前記近端から前記遠端に延在し,鉛直方向において前記遠端が前記近端よりも高く,前記被接合面が前記第2斜面の近端に位置しており,前記取付空間が前記被接合面と前記装着部との間に位置し,
F:前記インクカートリッジは,ケースを含み,前記ケースの前記被接合面に対向する側には可動部材が設けられ,前記可動部材は,操作部と回転部とを含み,前記可動部材は,前記回転部を介して前記ケースに接続され,前記可動部材には前記回転部に隣接して,Y軸方向に2つの前記接合部が設けられ,
G:前記インクカートリッジが取り付けられるとき,前記可動部材によって2つの前記接合部を前記被接合面に接合することにより,2つの前記接合部が前記取付空間に係合し,
H:前記インクカートリッジが取り出されるとき,前記可動部材が-X軸方向に回転することにより,2つの前記接合部を前記被接合面から離させる
I:ことを特徴とする係合式のインクカートリッジ。」

第4 当事者の主張
1 請求人の主張の概要
請求人の提出した判定請求書によれば,本件判定の請求は,その請求の趣旨を「イ号写真及びイ号説明書に示す係合式のインクカートリッジは,特許第6580284号発明の技術的範囲に属しない,との判定を求める」とするものであり,請求人は,請求の理由につき,判定請求書補正書及び判定事件弁駁書において,概略つぎのとおり主張している。
(1)イ号写真及びイ号説明書に示されたイ号は,本件特許発明に即して記載すると下記の構成を有する。
「a:装着部に着脱可能に取り付けられる係合式のインクカートリッジであって,
b:(b1)装着部には,被接合面が設けられ,被接合面の鉛直方向に沿う下方に取付空間が設けられ,(b2)インクカートリッジには,取付空間に対向する接合部材が設けられ,
c:接合部材が全体として+X軸方向に延在し,
d:装着部には,取付ホルダーが内蔵され,被接合面が取付ホルダーに設けられ,
e:取付ホルダーは,-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられる第1斜面と,第2斜面及び第3斜面と,を含み,第3斜面が第1の近端(-X端)からこれより低い位置(-Z側)にある第1の遠端(+X端)に傾斜して延在し,第2斜面が,第3斜面の遠端に一致する第2の近端(-X端)からこれより高い位置(+Z側)にある第2の遠端(+X端)に傾斜して延在し,被接合面が第3斜面上に位置しており,取付空間が被接合面と装着部との間に位置し,
f:インクカートリッジは,ケースを含み,ケースの+X側には可動部材が設けられ,可動部材は,操作部と回転部とを含み,可動部材は,回転部を介してケースに接続され,可動部材には回転部に隣接して,Y軸方向にそれぞれ+X,-Z方向に傾斜する接合面を有し,全体として+X軸方向に延在して形成される略三角形状の2つの接合部材が設けられ,
g:インクカートリッジが取り付けられるとき,可動部材によって2つの接合部材の接合面を被接合面に面接触して接合することにより,2つの接合部材が前記取付空間に挿入され,
h:前記インクカートリッジが取り出されるとき,前記可動部材が-X軸方向に回転することにより,2つの接合面を被接合面から離させる
i:ことを特徴とする係合式のインクカートリッジ。」

(2)本件特許発明とイ号との対比
本件特許発明とイ号の技術的対比すると,本件特許発明とイ号とは,少なくとも,つぎのように差異が生じる。
ア 本件特許では,1)+X,+Z方向に傾斜する第2斜面の近端側の一部,2)第2斜面及び+X,-Z方向に傾斜する第3斜面の境界上の一点又は極小部分,又は3)第2斜面の近端及びその近傍に位置する第3斜面を含む部分を被接合面とするのに対して(構成E),イ号では,第3斜面を被接合面とする(構成e)。
イ 本件特許では,被接合面に接合される接合部は,本件特許の図5?図10及び図18?図20に示されるように被接合面に接合される可動部材23の面部分233であり,可動部材に+X軸方向に延在して設けられるのに対し(構成C,F),イ号では,接合部材は,+X,-Z方向に傾斜する接合面を有し,全体として+X軸方向に延在する略三角形状に形成して設けられる(構成c,f)。
ウ 本件特許では,被接合面に2つの接合部を接合する,1)及び2)の場合には被接合面に2つの接合部を下方から当接して接合するのに対して(構成G),イ号では,被接合面に2つの接合部材の+X,-Z方向に傾斜する接合面を面接触して接合する(構成g)。

(3)イ号発明が本件特許発明の技術的範囲に属しないことの説明
ア 本件特許における「被接合面(第2斜面の近端)」を1)第2斜面の近端側の一部と解釈し,その被接合面に2つの接合部を下方から当接して接合するものと解釈する場合
上記(2)アについて,イ号における「第3斜面」は本件特許における「被接合面」とは明らかに異なり,上記(2)イについて,イ号における接合部材の接合面は,+X,-Z方向に傾斜し,接合部材全体として+X軸方向に延在する略三角形状に形成され,本件特許のような+X軸方向に延在する面部分は有しないから,本件特許の接合部とは明らかに異なり,上記(2)ウについて,イ号における2つの接合部材の+X,-Z方向に 傾斜する接合面を+X,+Z方向に傾斜する第2斜面の近端側の一部に下方から当接して接合することはできないから,イ号は少なくとも本件特許の構成C,E,F,Gを充足しない。
よって,イ号は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
イ 本件特許における「被接合面(第2斜面の近端)」を2)第2斜面及び第3斜面の境界上の一点又は極小部分と解釈し,その被接合面に2つの接合部を下方から当接して接合するものと解釈する場合
上記(2)アについて,イ号における「第3斜面」は,その遠端が第2斜面の近端と一致することから,本件特許における「被接合面」と一部重複する。しかしながら,上記(2)イについて,イ号における接合部材の接合面は,+X,-Z方向に傾斜し,接合部材全体として+X軸方向に延在する略三角形状に形成され,本件特許のような+X軸方向に延在する面部分は有しないから,本件特許の接合部とは明らかに異なり,上記(2)ウについて,イ号における2つの接合部材の接合面は,第3斜面に面接触して接合するよう第3斜面と平行に+X,-Z方向に傾斜し,第3斜面と,これと異なる方向に傾斜する第2斜面と,の境界上の一点又は極小部分に下方から当接して接合することはできないから,イ号は少なくとも本件特許の構成C,F,Gを充足しない。
なお,イ号において,接合部材の接合面は,インクカートリッジが装着部に取り付けられる際に,可動部材の傾きによっては接合面の下端が被接合面(第2斜面及び第3斜面の境界上の一点又は極小部分)におおよそ届き当接するほどの長さを有する(イ号写真の写真6参照)。しかし,実際のプリンタにおいて,第2斜面及び第3斜面の境界が製造公差或いは長期の使用による摩耗等により滑らかになっているため,接合部材の接合面が第3斜面に面接触して接合した際にさらに被接合面に当接して接合することはない。仮に,第2斜面及び第3斜面の境界が滑らかになっていないとし,インクカートリッジが装着部に取り付けられた際に,可動部材によって接合部材の接合面が第3斜面に面接触して接合するとともに被接合面(第2斜面及び第3斜面の境界上の一点)に当接したとしても,後述するように,イ号においては接合部材が装着部に対して及ぼす力が第3斜面から受ける反力と相殺することでインクカートリッジが装着部に安定的に固定されるのであり,接合部材が装着部に対して及ぼす力が被接合面から受ける反力と相殺することでインクカートリッジが装着部に安定的に固定されるのではない。斯かるイ号の固定原理は本件特許には開示されていないし,接合部と取付面(すなわち被接合面)との組み合わせによる固定原理でもないから(本件特許の【0021】),接合部材の接合面が第3斜面に面接触して接合する際に併せて-X側から被接合面(第2斜面及び第3斜面の境界上の一点)に当接したとしても,これをもって構成Gにおける「2つの前記接合部を前記被接合面に接合する」を充足するのではない。さもなければ,開示していない固定原理を採用した係合式のインクカートリッジに対して本件特許の効力が及ぶことになり特許制度の趣旨に著しく反することとなる。
よって,イ号は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
ウ 本件特許における「被接合面(第2斜面の近端)」を3)第2斜面の近端及びその近傍に位置する第3斜面を含む部分と解釈する場合
(ア)上記(2)アについて,イ号における「第3斜面」は本件特許における「被接合面」に含まれる。しかし,構成Cにおける「前記接合部が+X軸方向に延在し」及び構成Gにおける「前記インクカートリッジが取り付けられるとき,前記可動部材によって2つの前記接合部を前記被接合面に接合する」は「接合部」の構成を機能的,抽象的に表現しているため,その記載のみによっては接合部が如何なる構成を有し,上記(2)イ及びウについて,如何にして+X軸方向に延在する接合部を被接合面(第2斜面の近端及びその近傍に位置する+X,-Z方向に傾斜する第3斜面を含む部分)に接合するのかを明らかにすることはできない。斯かる場合,上記記載の構成に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて発明の技術的範囲を確定すべきであり,具体的には,明細書及び図面の記載から当業者が認識し得る技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を定めるのが相当である(平成21年4月27日大阪地裁判決「地震時ロック方法事件」)。
(イ)本件特許は,先行技術文献(中国出願CN200710146624.4)の図7C及び図14Bに示されるように,インクカートリッジを装着部50に挿入した際,ハンドル16の剛性によりその図面右側に設けられた接合部23が装着部50における溝51(接合孔に相当する)に挿入され,接触ピン52による図面上方への力を受けて接合部23が溝51の水平な上面に下方から接合することで,ハンドル16が装着部50の溝51に係止されてインクカートリッジ10が固定される場合に,特に「(3)長期間にわたって使用された後,接合部と接合孔とのそれぞれが摩耗によって変形し,例えば,接合部と接合孔との密着する境界面が滑らかになって,最終的に,接合部と接合孔とが完全に接合されなくなる。」ことでインクカートリッジを装着部に安定的に固定することができなくなるという問題,すなわち課題を掲げている(【0004】,【0005】)。斯かる従来技術に存在する技術欠陥に対して,本件特許は,装着部に水平面に対して傾斜する取付面を設ける,より具体的に,近端から遠端に延在し,鉛直方向において遠端が近端よりも高い取付面を設け,接合部と取付面との組み合わせによりインクカートリッジを装着部に固定することで,接合部と取付面とに摩耗が生じても安定的に固定することができるようにした(【0007】,【0021】)。
つまり,本件特許では,近端からこれより高い位置にある遠端に傾斜する第2斜面(の近端側の一部,近端上の一点又は極小部分)を被接合面として利用することで(図21),長期間にわたる使用により接合部と被接合面とに摩耗が生じ,被接合面が滑らかになったとしても,被接合面上に必ず鉛直方向を下方に向く最下端が形成されるから,ハンドル16によりその最下端の下方に+X軸方向に延在する接合部を入れ,接触ピン52の上方への力を受けて接合部を最下端に下方から当接して係止することでインクカートリッジを装着部に安定的に固定することができるようにしたと認められる。
(ウ)これに対して,イ号のように,第1の近端からこれより低い位置にある第1の遠端に傾斜する第3斜面を被接合面とする場合,その被接合面には鉛直方向を下方に向く最下端は形成され得ないから,斯かる被接合面に+X軸方向に延在する接合部を下方から当接して係止することはできず,インクカートリッジを装着部に安定的に固定することができない。
また,イ号における+X,-Z方向に傾斜する第3斜面(すなわち,被接合面)に2つの接合部材の+X,-Z方向に傾斜する接合面を面接触して接合することでインクカートリッジを固定すること(構成g)の技術的意義をより詳細に検討すると,インクカートリッジを装着部に装着すると,可動部材が幾らか-X軸方向に回転することで可動部材により接合部材に+X軸方向の力が加えられ,装着部の接触ピンがチップに接触してケースに+Z軸方向の力が加えられ,その結果,接合部材に+X,+Z方向の合力が加わることになる。ここで,可動部材の剛性を適切に設計することで,その合力の向きが第3斜面と垂直になり,第3斜面から受ける反力と相殺することで,インクカートリッジを装着部に安定的に固定することを可能としている。
さらに,本件特許では,接合部を+X,+Z方向に傾斜する第2斜面(の近端側の一部,近端上の一点又は極小部分)に接合した場合,可動部材を-X軸方向に回転すると同時にケースに-Z軸方向の力を加えて接合部を-X,-Z方向に駆動することでカートリッジを装着部から取り外す。これに対して,イ号では,+X,-Z方向に傾斜する接合部材の接合面をこれと平行な+X,-Z方向に傾斜する第3斜面に面接触して接合するから,可動部材を-X軸方向に回転することのみにより,装着部の接触ピンによりケースが+Z軸方向に駆動され,容易にカートリッジを装着部から取り外すことができる。斯かるイ号のインクカートリッジの固定及び取出原理については,本件特許には何ら記載も示唆もされていない。すなわち,当業者であれば「少なくとも第2斜面自体の近端側の一部又は近端上に必ず鉛直方向を下方に向く最下端が形成される」という技術思想を認識し得るのであって,当該技術思想を用いることなく「第3斜面と接合部が面接触して第3斜面に垂直な方向の力を及ぼす」という技術思想は認識し得ない。
従って,本件特許における「被接合面」は,3)「第3斜面」を含むものとは解釈され得ない。
イ号は,請求項1の上記構成要件のうちの少なくとも構成C,F,及びGを充足しないから,本件特許の請求項1の文言上,技術的範囲に属しない。

(4)被請求人の主張について
ア 被請求人の請求人写真の撮影方法に関する主張について
(ア)請求人が提出した写真4?写真6は,ITH-BKカートリッジの接合部とプリンタの装着部との装着状態を特定できるほどに十分鮮明である。
(イ)本件特許発明において,プリンタ側キャリッジの青色のレバー(回転レバー)は構成要件として含まれていない。また,可動部材の一部が中途で切断されていても,切断された可動部材の先端を操作部として操作してイ号製品をプリンタの装着部に装着することができる(写真4参照)。
(ウ)イ号製品では,可動部材の+Y側半部を切断したことで,本件特許発明における構成要件Gの「前記可動部材には前記回転部に隣接して,Y軸方向に2つの前記接合部が設けられ」を充足しない。
しかし,本件特許明細書の段落【0045】には「当業者は,1つの接合部233でも,または複数の接合部233でも,本発明の目的を達成できることが,理解できる。」と記載されていることからもわかるように,接合部の1つを切断して,残りの1つによりイ号製品を装着部に取り付けたとしても,同段落に「より具体的には,図18における可動部材23が取り付けられたインクカートリッジが同様に装着部に取り付けられ,且つ,可動部材23が前記いずれの実施例における取付面39にかみ合うことが可能であり」と記載されているように,イ号製品の装着部への固定原理が変わるものではない。
(エ)請求人が手続補正書に示した写真は,イ号製品をプリンタの装着部に装着した状態で接合部と装着部との装着状態を撮影できるよう,装着部から回転レバーを取り外し,可動部材の一部を切断したイ号製品を装着部に装着し,斯かる装着状態がユーザが通常装着する状態を再現していることを証明するために,イ号製品と同一構造のITH-LCカートリッジをイ号製品に並べて装着部の隣のスロットに装着し,ケースが傾斜することなくX軸方向及びZ軸方向について同じ位置に,可動部材が同じ傾きになっていることを確認して撮影し,その撮影した写真5(手続補正書第20頁)のうちの接合部と被接合面の部分を拡大して写真6 (手続補正書第20頁)として示したものであるから,写真5及び6は,インクカートリッジ及び装着部がそれぞれイ号製品(ITH-BKカートリッジ)及びエプソンプリンタの装着部であること,上記のイ号製品の加工及び装着部の細工以外の加工及び細工を施すことなくイ号製品をプリンタの装着部に,ユーザが通常装着する状態を再現して装着したことを客観的に示している。
イ 被請求人によるITH-LCカートリッジの撮影方法について
(ア)エプソンプリンタの装着部の構造より,ユーザが通常装着する状態でITH-LCカートリッジをプリンタの装着部に装着した場合にITH-LCカートリッジの接合部がプリンタの装着部の被接合面に接合する状態を装着部外から視認することができないが,どのようにして,特に答弁書第6頁の表G行の写真及び第7頁の写真を撮影したのかの撮影方法の説明がなされていなければ,それらの写真に示されるカートリッジ及び装着部がそれぞれITH-LCカートリッジ及びエプソンプリンタの装着部であること,何らの加工及び細工を施すことなくITH-LCカートリッジをプリンタの装着部に装着して撮影したこと,の客観的事実が示されていない。
被請求人は,装着部から取付フォルダを取り外し,それぞれを加工して左側面に孔部を形成し,取付フォルダを装着部に再度取り付けて表D行の上の写真を撮影した,さらにその装着部にITH-LCカートリッジを装着して装着部及び取付フォルダの孔部を介して表G行の写真を撮影したものと推察されるが,そうだとすると,装着部から一且取り外した取付フォルダを装着部に正しく取り付け,これにITH-LCカートリッジを正しく装着したことの客観的事実も示されていない。
(イ)請求人は,答弁書第6頁の表G行の写真及び第7頁の写真(接合写真と呼ぶ)が,「特許権者側はこれら切断及び取り外しを行うことなく,通常の使用及び装着状態で,かつ側面側から適切な角度で撮影を行ったことで得られたものであるか否か検証した結果を示す写真1ないし8によれば,写真10に示すように,装着部の第3斜面のおよそ全体に,イ号製品の接合部材に塗布した塗料が付着することから,ユーザが通常装着する状態でイ号製品をプリンタの装着部に装着した場合に接合部材(接合部)がプリンタの装着部の第3斜面に面接触することで,イ号製品が装着部に安定的に固定されるのであり,被請求人が示す接合写真のように接合部と装着部との間にV字状の間隙は生じない。
したがって,被請求人により示された接合写真は,ユーザが通常装着する状態において接合部の接合状態を撮影したものではない。
ウ 構成要件B,E,Gの充足性に関する被請求人の主張について
被請求人の「接合写真」に基づく「ITH-LCカートリッジがプリンタの装着部に装着された状態において,「2つの接合部は被接合面に接合し,取付空間に係合する」,「第2斜面の近端に位置する被接合面と接合部とが疑いようもなく接し合っている」と主張する。
(ア)「接合」とは「継ぎ合わすこと」を意味する(広辞苑第六版)ものであり,別々の物を継いで一つにすることを意味する。
しかし,「接合写真」はユーザが通常装着する状態において接合部の接合状態を撮影したものではなく,意図的に接合部を装着部の第3斜面(第2斜面の+X側に位置する傾斜面)から離した状態で撮影したものと推察され,接合部が被接合面に接合して,カートリッジが装看部に安定に一つに固定されたのではないから,単に接合部が装着部に「接し合うこと」で接合部が被接合面に接合するとの被請求人の主張は失当である。
(イ)「接合部は・・,取付空間に係合する」について,有体物である接合部が無体物である取付空間に係合するが何を意味するのかこれ自体では不明であるが,本件特許明細書の段落0045に「より具体的には,図18における可動部材23が取り付けられたインクカートリッジが同様に装着部に取り付けられ,且つ,可動部材23が前記いずれの実施例における取付面39にかみ合うことが可能であり」と記載され,図21では接合部233が第2斜面392の近端に下方から当接して係止されることでインクカートリッジが安定的に固定されることを示していることから,この装着原理は,+X方向に延在する可動部材23の接合部233を取付面39 (第2斜面の近端であり,最下点に位置する被接合面)に鉛直方向の下方から上方に向けて当接して係止することで「可動部材23が取付面39にかみ合う」ことと解されることから,「接合部は…,取付空間に係合する」は,接合部を,第2斜面の近端(最下端)に位置する被接合面の鉛直方向に沿う下方に設けられる取付空間に挿入することと解される。
これに対して,「接合写真」には,被請求人の主張するように接合部が第2斜面の近端に位置する被接合面に接し合っているとしても,接合部は,その先端を被接合面に水平方向から当接することで,被接合面の下方に設けられる取付空間に挿入(すなわち,係合)されていないのであるから,イ号製品は,構成要件B,E,Gを充足しない。
(ウ)仮に「接合写真」が,ユーザが通常装着する状態において接合部の接合状態を撮影したものであるとしても,接合部の先端及び被接合面(第2斜面の近端)は使用による摩耗,製造公差等により幾らか滑らかになっている。ここで,第2斜面と第3斜面とは約90度の角度をなし,被接合面を基準に第2斜面は+X側,第3斜面は-X側に位置し,接合部は+X方向に向かってその先端を装着部に当接している。
従って,接合部が接し合う被接合面はむしろ第3斜面の最下端の近傍,すなわち第3斜面上に位置していると認められる。
(エ)被請求人は,構成要件Eの「前記被接合面が前記第2斜面の近端に位置し」について,明細書及び図面の記載を参酌すると図21には「第2斜面の最下端に位置する被接合面と,インクカートリッジの接合部とが接合する」実施例が示されており,イ号製品と同様の形態により「被接合面と接合部とが接し合って」おり,図20の接合部の一例として示す「接合部233」の形状も,イ号製品の形状と一致していることを根拠に,「イ号製品の接合部及び接合形態は実施例に記載の形態そのものであり,イ号製品は明細書及び図面を参酌しても疑いようもなく請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。」と主張する。
しかし,明細書及び図面に記載の実施例として具現された請求項1に係る本件特許発明は,発明の課題,手段,及び効果を併せて参酌して,「ハンドル16によりその(第2斜面)最下端の下方に+X軸方向に延在する接合部を入れ,接触ピン52の上方への力を受けて接合部を最下端に下方から当接して係止することで,接合部に位置ずれが生じたり,接合部と取付面とに摩耗が生じたりしても,インクカートリッジを装着部に安定的に固定することができるようにしたもの」と認められるところ,図21には「第2斜面の近端の一例として第2斜面の最下端に位置する被接合面と,インクカートリッジの接合部とが接合する実施例が示されて」いるとしても,被請求人が示すイ号製品が「インクカートリッジを装着部に安定的に固定することができる」という効果を奏することを実証することなく,単に被接合面と接合部とが接し合っていることのみで,実施例が,「イ号製品と同様の形態により被接合面と接合部とが接し合っている」とするのは不当である。

2 被請求人の主張の概要
被請求人の提出した,判定事件答弁書によれば,答弁の趣旨を「イ号製品は,特許第6580284号請求項1に係る発明の技術的範囲に属する,との判定を求める」とするものであり,その理由として,被請求人は,判定事件答弁書及び被請求人回答書において,概略,以下のとおり主張している。
(1)請求人の提出したイ号写真及びイ号説明書に示されたイ号は,本件特許発明に則して記載すると下記の構成を有するものである。
ただし,請求人の提出したイ号写真の写真4,5及び6は,不鮮明な上,イ号製品及びプリンタ側のキャリッジが通常の使用及び装着状態とは異なる態様で撮影されている,具体的には,写真4ではイ号製品の可動部材の一部が中途で切断されており写真5及び6では,プリンタ側のキャリッジの青色のレバーが取り外されていることからユーザが通常装着する状態と明らかに異なる状態で撮影されたものであるため,被請求人側で通常の使用及び装着状態でかつ側面側から適切な角度で撮影を行った。

「a’:装着部に着脱可能に取り付けられる係合式のインクカートリッジであって,
b’:装着部には,被接合面が設けられ,被接合面の下方に取付空間が設けられており,インクカートリッジには取付空間に対抗する接合部が設けられ
c’:接合部は+X軸方向に延在しており,
d’:装着部内に取付ホルダーが内蔵されており,取付ホルダーには被接合面が設けられており,
e’:-Z軸方向に第1斜面,第2斜面が設けられており,第2斜面は近端から遠端に延在し,遠端が近端より高い位置にあり,被接合面は第2斜面の近端に位置しており,被接合面と装着部との間に取付空間が位置しており,
f’:インクカートリッジのケースには,操作部を有する稼働部材が設けられ,可動部材は回転部を介してケースに接続され,可動部材には回転部に隣接してY軸方向に2つの接合部が設けられ,
g’:インクカートリッジ取付の際,2つの接合部は被接合面に接合し,取付空間に係合し,
h’:インクカートリッジの取り外しの際,可動部材が-X軸に回転し,2つの接合部は被接合面から離れる
i’:装着部に着脱可能に取り付けられる係合式のインクカートリッジ。」
以上の通り,イ号製品は請求項1の構成要件A?Iを充足する。

(2)構成要件E及びGについて
ア 構成要件E及びGについては,拡大した写真からも明らかなとおり,第2斜面の近端に位置する被接合面と接合部とが疑いようもなく接し合っていることから,イ号製品は構成要件E及びGを文言上充足する。
イ 構成要件Eは,「前記被接合面が前記第2斜面の近端に位置し」と記載していることから,この請求項の解釈について明細書及び図面の記載を参酌すると( 特許法第70条第2項), 接合位置が本件特許図面の図21に一実施例として以下のとおり示されており,赤丸で示すように,第2斜面の近端の一例として第2斜面の最下端に位置する被接合面と,インクカートリッジの接合部とが接合する実施例が示されており,イ号製品と同様の形態により被接合面と接合部とが接し合っているし,接合部の一例として示す本件特許図面の図20の接合部233の形状も,イ号製品の形状と一致しているように,イ号製品の接合部と接合形態は,実施例の記載の形態そのものであり,イ号製品は明細書及び図面を参酌しても疑いようもなく本件特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。




(3)請求人の明細書記載要件の欠如に基づく主張について
請求人は,発明の明確性要件,サポート要件及び実施可能要件違反を主張しているが,本件判定請求の対象は記載要件に基づく特許無効ではなく,技術的範囲の属否を求める請求であるから,請求人のこれらの主張は失当である。

第5 当審の判断
1 イ号製品について
(1)請求人の提出した甲5号証に対応する写真1,甲6号証に対応する写真2及び甲9号証に対応する写真5には,X,Y,Zの座標軸が示されており,そのX軸,Z軸が,それぞれ,「水平方向においてインクカートリッジが被接合面を指向する方向」を「+X軸方向」,「鉛直方向において上向きの方向」を「+Z軸方向」となすよう示されており,また,Y軸についても,「+X軸方向と+Z軸方向との両方に直交する方向をY軸方向」として示されているところ,当該軸方向は,本件特許発明の特定事項として用いられている各軸方向に相当するものであるから,以下,当審のイ号製品の認定においても,当該写真について示されているX,Y,Zの座標軸を用いて認定する。

(2)請求人の提出したイ号を撮影した写真(令和2年1月9日付けの手続補正書による補正後のもの,以下同じ)の写真3(甲7号証)には,請求人がイ号としたインクカートリッジITH-BK(以下,「単にイ号製品」という。)が取り付けられるとされる装着部が撮影されており,写真5(甲9号証)には,装着部にイ号製品が取り付けられる状態が撮影されている。
また,「写真4」(甲8号証)には,イ号製品が装着部から外された状態が撮影されていることを合わせ見れば,イ号製品が「装着部に着脱可能に取り付けられる係合式のインクカートリッジ」であると認めることができる。

(3)写真4及び写真5によれば,イ号製品には,イ号製品が装着部に装着された際に被接合面に接合する接合部材を有する可動部材が存在することが看て取れる。
そして,写真1によれば,イ号製品が「ケース」を有するものであり,「可動部材」が「操作部」を有すること,「回転部」を介してイ号製品のケースに接続されること,「可動部材」が有する「接合部材」が「回転部」に隣接して,Y軸方向に2つ形成されていることが看て取れ,「可動部材」の「操作部」を操作することで,「可動部材」が,回転部を中心に反時計回りに回動する構造であることは,技術常識に照らせば明らかである。
写真4及び5においてイ号製品と並んで撮影されているイ号製品と同じ形状を有するインクカートリッジITH-LC(なお,当該インクカートリッジITH-LCが,イ号製品と同じ形状を有するものであることについては,判定請求答弁書において被請求人が当該インクカートリッジITH-LCを用いてイ号製品の構成を説明していることからも明らかといえる。)並びに写真1及び2から,写真4及び5において撮影されている可動部材が,その+Y側半分を切断し,切断面をグレー,接合部材を白で着色したものであると認められることに照らせば,写真1,写真2,写真4及び写真5によれば,イ号製品の可動部材が有する「接合部材」が「可動部材の+X軸側の表面から+X軸方向に突出する三角形状であると認められる。

(4)写真3,写真5及び写真6によれば,イ号製品が装着される装着部には,青色の部材である回転レバーを取り付ける部材(以下,イ号説明書において,請求人が用いる称呼である「ブラケット」という。)が備えられていること,当該「ブラケット」には,-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられる第1斜面と第2斜面とが形成されており,第1斜面及び第2斜面のインクカートリッジに接近する端を近端とし,第1斜面及び第2斜面のインクカートリッジから離間する端を遠端とする場合に,第1斜面及び第2斜面が近端から遠端に延在し,鉛直方向において遠端が近端よりも高く形成されていること,また,第2斜面の近端側先端部に続けて+Z軸-X軸方向に傾斜して延在する第3斜面が形成されていることが看て取れ,写真5によれば,インクカートリッジの可動部材が有する接合部材は,第3斜面に接合し,第3斜面に接合する接合部材は,第3斜面の鉛直方向に沿う下方(-Z軸方向)に位置していることから,第3斜面の鉛直方向に沿う下方に位置していることが看て取れる。

(5)上記(3)のとおり,イ号製品の可動部材の操作部を操作することで,可動部材が,回転部を中心に反時計回りに回動する構造であって,可動部材が有する接合部材は+X軸方向に突出する三角形状のものであり,上記(4)のとおり,イ号製品の可動部材が有する接合部材の+X軸方向に突出する三角形状の先端部分が,第2斜面の近端部から+Z軸-X軸方向に傾斜して延在する被接合面である第3斜面に対して,-X軸方向から接合しているものであるから,可動部材の反時計回りの回動動作により,可動部材が反時計回りに回転することで接合部材の先端部分が被接合面である第3斜面から外れる作用を奏するものであるものと認められる。

(6)上記(1)ないし(5)をまとめると,請求人の提出した証拠からは,つぎのイ号製品を認定することができる。

「(あ)装着部に着脱可能に取り付けられる係合式のインクカートリッジであって,
(い)水平方向においてインクカートリッジが被接合面を指向する方向を+X軸,鉛直方向において上向きの方向を+Z軸方向とし,+X軸方向と+Z軸方との両方に直交する方向をY軸方向とする場合に,接合部材が可動部材の+X軸側の表面よりも+X軸方向に突出する三角形状のものであり,
(う)装着部には,ブラケットが備えられ,ブラケットには,-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられる第1斜面と第2斜面とが形成されており,第1斜面及び第2斜面のインクカートリッジに接近する端を近端とし,第1斜面及び第2斜面のインクカートリッジから離間する端を遠端とする場合に,第1斜面及び第2斜面が近端から遠端に延在し,鉛直方向において遠端が近端よりも高く形成されるとともに,第2斜面の近端側先端部に続けて+Z軸-X軸方向に傾斜して延在する第3斜面が形成されており,
(え)インクカートリッジはケースを有するものであり,前記ケースの被接合面に対向する側に回転部を介して操作部を有する可動部材が接続されており,当該可動部材には,接合部材が回転部に隣接してY軸方向に2つ形成されており,
(お)インクカートリッジが装着部に取り付けられるとき,可動部材の2つの接合部材の三角形状の先端部分が第3斜面と接合し,2つの接合部材が第3斜面の-Z軸方向に沿う下方に位置し,
(か)インクカートリッジが装着部より取り外される際に,操作部を操作することで可動部材が回転部を中心に反時計回りに回動させて接合部材の先端部分が被接合面である第3斜面から外れるように構成されている
(き)係合式のインクカートリッジ」

(7)被請求人は,請求人が提出した写真4ないし6は不鮮明なうえ,写真4及び5に示すとおり,イ号製品及びプリンタ側のキャリッジが通常の使用及び装着状態と異なる形態で撮影されている旨主張している。
しかしながら,請求人が提出した写真4及び5には,イ号製品と同じ構造であるインクカートリッジITH-LCが並んで撮影されており,写真5には,青色レバーを取り外していないインクカートリッジの取付け箇所に当該インクカートリッジITH-LCがとりつけられており,イ号製品とインクカートリッジITH-LCとの可動部材の角度は同じであると看て取れることから,請求人の提出した写真4ないし6が通常の使用及び装着状態と異なる形態で撮影されているものとはいえないから,被請求人の主張は採用することができない。

2 本件特許発明とイ号製品との対比
(1)構成要件A及びIについて
上記のとおり,イ号製品は,「(あ)装着部に着脱可能に取り付けられる係合式のインクカートリッジであって」,「(き)係合式のインクカートリッジ」であるから,構成要件A及びIを充足する。

(2)構成要件Bについて
イ号製品の構成(う)によれば,「装着部」には「ブラケット」が備えられており,ブラケットに第3斜面が形成されていること,イ号製品の構成(お)によれば,「インクカートリッジが装着部に取付けられるとき,接合部材の三角形状の先端部分が第3斜面と接合し,2つの接合部材が第3斜面の-Z軸方向に沿う下方に位置」するのであるから,イ号製品の「装着部」に「被接合面」が設けられていること,当該被接合面の鉛直方向に沿う下方に接合部材が位置する空間が設けられているといえるから,イ号製品は,構成要件Bを充足する。

(3)構成要件Cについて
イ号製品は「(い)接合部材が可動部材の+X軸側の表面よりも+X軸方向に突出する三角形状のもの」であるから,構成要件Cの「前記接合部が+X軸方向に延在する」ことを充足する。

(4)構成要件D及びEについて
ア イ号製品の「装着部には,「ブラケット」が備えられ,「ブラケット」には,-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられる第1斜面と第2斜面とが形成されており,第1斜面及び第2斜面のインクカートリッジに接近する端を近端とし,第1斜面及び第2斜面のインクカートリッジから離間する端を遠端とする場合に,第1斜面及び第2斜面が近端から遠端に延在し,鉛直方向において遠端が近端よりも高く形成されるとともに,第2斜面の近端側先端部に続けて+Z軸-X軸方向に傾斜して延在する第3斜面が形成されて」いるという(う)の構成によれば,本件特許発明の構成要件Dのうち,「装着部」に「内蔵される」「取付ホルダー」を備えるものである点を充足し,構成要件Eのうち「取付ホルダー」に「-Z軸方向において間隔を隔てて順次に設けられる第1斜面と第2斜面とを含み,前記第2斜面の前記インクカートリッジに接近する端を近端とし,前記第2斜面の前記インクカートリッジから離間する端を遠端とする場合に,前記第2斜面が前記近端から前記遠端に延在し,鉛直方向において前記遠端が前記近端よりも高く」形成されているものである点を充足するものである。
イ しかしながら,イ号製品は,インクカートリッジが装着部に取り付けられるとき,「可動部材」の2つの三角形状の「接合部材」の三角形状の先端部分が「第3斜面」と接合する(イ号製品の構成(え)参照)のであって「ブラケット」の「第3斜面」が被接合面となるものであるから,当該イ号製品の「被接合面」は,「第2斜面」の近端部分ではなく,「第3斜面」であると認められる。
また,本件特許発明の構成要件Eの「第2斜面」に相当する斜面を「第3斜面で」あるとしたとしても,当該「第3斜面」は,+Z軸-X軸方向に傾斜して延在するもの,すなわち鉛直方向において近端が遠端よりも高く形成される斜面であるから,そのように対応関係をとったとしても,やはり,イ号製品の「接合部材」が接合する「被接合面」である「第3斜面」が,構成要件Eにいう「鉛直方向において遠端が近端よりも高く」形成される「第2斜面」とはいえないから,結局のところ「被接合面」が「第2斜面の近端に位置する」ものとはいえず,「被接合面」という要件を充足するものとはいえない。
なお,イ号製品の「ブラケット」の「第3斜面」が被接合面であることから,イ号製品は構成要件Dの「被接合面」が「取付ホルダーに設けられ」ているものである点を充足するものといえる。
ウ 被請求人は,「被接合面」が「第2斜面の近端に位置する」とは,被接合面が第2斜面そのものではなく,第2斜面の近端付近に位置する」ものを意味するものと主張しているとも考えられることから,本件特許発明の構成要件Eの「被接合面」が「第2斜面の近端に位置」するについて検討しておく。
(ア)本件特許の願書に添付した明細書(以下,「本件特許明細書」という。)には,本件特許発明に関して,つぎの記載がある。
a 「【0003】インクカートリッジは,インクジェットプリンタの消耗品であり,実際の使用において,インクカートリッジがプリンタの装着部に取り付けられる。現在,インクカートリッジと装着部との一般の固定方式として,インクカートリッジにハンドルを設け,ハンドルに凸の接合部を設けて,接合部を装着部における対応位置の接合孔に接合することにより,インクカートリッジの取り付けを完了させる。例えば,中国出願CN200710146624.4の図7Cと図14Bに示すものは,普通のインクカートリッジである。インクカートリッジ10において,ハンドルにおける接合部(第2接合部)23と装着部(ホルダーユニット)50における溝(第2装着部)51とが接合されるように,インクカートリッジが固定される。
【0004】しかし,以下のいくつかの場合に,インクカートリッジは,装着部に安定的に固定することができない。
(1)インクカートリッジのハンドルに製造誤差がある。
(2)インクカートリッジの着脱時,ハンドルを引く必要があり,長期間にわたって使用された後,ハンドルに位置ずれが生じ,接合部と接合孔とが完全に接合されなくなってしまう。
(3)長期間にわたって使用された後,接合部と接合孔とのそれぞれが摩耗によって変形し,例えば,接合部と接合孔との密着する境界面が滑らかになって,最終的に,接合部と接合孔とが完全に接合されなくなる。
【0005】以上の欠陥により,装着部がインクカートリッジを安定的に固定できない。さらに,インクカートリッジの欠陥により,チップに認識されなくなるか,インク供給口のシールが不完全になる。」
b 「【発明の概要】【0007】 従来技術に存在する技術欠陥に対して,本発明は,装着部に着脱可能に取り付けられる係合式のインクカートリッジであって,前記装着部には,水平面に対して傾斜する取付面が設けられ,前記取付面の前記インクカートリッジに接近する端を近端とし,前記取付面の前記インクカートリッジから離間する端を遠端とする場合に,前記取付面が,前記近端から前記遠端に延在し,鉛直方向において前記遠端が前記近端よりも高く,前記取付面の鉛直方向に沿う下方に取付空間が設けられ,前記インクカートリッジには,前記取付空間に対向する接合部が設けられ,前記接合部が前記取付空間内に係合するインクカートリッジを提供することを目的とする。」
c 「【発明の効果】【0021】本発明によれば,接合部と取付面との組み合わせにより,インクカートリッジと装着部との固定が完了される。このようにして,接合部に位置ずれが生じたり,接合部と取付面とに摩耗が生じたりしても,インクカートリッジを装着部に安定的に固定することができる。」
d 「【0025】更に,図3に示すように,取付ホルダー32には,水平面に対して傾斜する取付面39が設けられている。具体的には,図3に示す取付ホルダー32は,鉛直方向に第1斜面391と第2斜面392とを備え,第1斜面391と第2斜面392とが立設面によって接続され,図3に示す第2斜面392が取付面39とされるが,実際の使用中,第1斜面391と第2斜面392とのいずれも取付面39とされてもよい。具体的には,取付面39は,+X及び+Z軸方向へ徐々に上向きに傾斜し,取付面39の-X,-Z軸方向の端が近端393とされ,取付面39の+X,+Z軸方向の端が遠端394とされる。インクカートリッジが装着部に取り付けられた後,近端393がインクカートリッジに近く,遠端394がインクカートリッジから遠くなり,且つ+Z軸方向に遠端394が近端393よりも高く,即ち,遠端394が近端393の+Z軸方向に位置する。」
(イ)上記の記載によれば,本件特許発明は,「長期間にわたって使用された後,接合部と接合孔とのそれぞれが摩耗によって変形し,例えば,接合部と接合孔との密着する境界面が滑らかになって,最終的に,接合部と接合孔とが完全に接合されなくなる。」ことを解決しようとする課題とし,「装着部」に「水平面に対して傾斜する取付面」を設け,「取付面のインクカートリッジに接近する端を近端とし,取付面のインクカートリッジから離間する端を遠端とする場合」に,「取付面」が,「前記近端から前記遠端に延在し,鉛直方向において前記遠端が前記近端よりも高く」,「取付面の鉛直方向に沿う下方に取付空間が設けられ」,「インクカートリッジには,取付空間に対向する接合部が設けられ,接合部が取付空間内に係合する」ことにより,上記課題を解決するものであることが理解できる。
(ウ)以上のことからすれば,本件特許発明における「被接合面」が「水平面に対して傾斜する取付面」であること,また,「取付面」が「近端から遠端に延在し,鉛直方向において遠端が近端よりも高い」ものであること,「取付面」の鉛直方向に沿う下方に設けられた取付空間内に接合部が係合するものであることが理解できる。
(エ)以上によれば,「第2斜面の近端に位置して」いる「被接合面」とは,「第2斜面」そのものの「近端」部分であると解すべきである。
エ 構成要件Eの充足性についての被請求人の主張について
被請求人は,イ号製品が装着される装着部の「ブラケット」において,イ号製品の接合部材が接合する部分は,判定事件答弁書の7頁にイ号製品の接合部と被接合面との接続部を拡大した写真に示すとおり,イ号製品は,第2斜面の近端に位置する被接合面と接合部が接合する旨主張する。
そこで,イ号製品が,被請求人のいうように,第2斜面の近端に位置する被接合面で接合部が接合するものであるとした場合の構成要件Eの充足性について以下検討する。
(ア)被請求人が主張するイ号製品の「被接合面」について
被請求人の提示した写真によれば,被接合面とは,第2斜面そのものではなく,イ号製品のブラケットに形成されたものとして認定した第3斜面と第2斜面との延在する方向の線が交わる交点である第2斜面の最下端に位置する部分を被接合面とするものであると主張しているものと解される。
(イ)しかしながら,上記ウで検討したとおり,本件特許発明の構成要件Eにおいて規定される「第2斜面の近端に位置する被接合面」とは,「第2斜面」そのものの「近端」部分のことを意味するものと解されることは上記のとおりであるから,被請求人のいうように,イ号製品の被接合面が,「第3斜面と第2斜面との延在する方向の線が交わる交点である第2斜面の最下端に位置する部分を被接合面」であるとした場合には,構成要件Eを充足するものとはいえない。
また,被請求人が,構成要件Gの「取付空間」に関して,イ号製品の「2つの接合部材」が「取付空間に係合する」旨主張している根拠が,「第2斜面」の鉛直方向に沿った下方の空間に係合していることを理由とするものであると解したとしても,構成要件Gにおける「取付空間」とは,構成要件Bによれば「被接合面の鉛直方向に沿う下方」に「設けられる」ものであるところ,イ号製品の「被接合面」が「第2斜面」に存在するものと認められない以上,イ号製品が構成要件Gを充足するものとはいえない。
したがって,イ号製品が,被請求人の主張する被接合面において接合するものであるとした場合は,当該イ号製品は,依然として構成要件Eを充足するものとはいえないし,また,構成要件Gを充足するものではない。
(ウ)被請求人は,答弁書において,「構成要件Eは,「前記被接合面が前記第2斜面の近端に位置し」と記載していることから,この請求項の解釈について明細書及び図面の記載を参酌すると,接合位置が本件特許図面の図21に一実施例として以下のとおり示されており,赤丸で示すように, 第2斜面の近端の一例として第2斜面の最下端に位置する被接合面と,インクカートリッジの接合部とが接合する実施例が示されており,イ号製品と同様の形態により被接合面と接合部とが接し合っているし,接合部の一例として示す本件特許図面の図20の接合部233の形状も,イ号製品の形状と一致しているように,イ号製品の接合部と接合形態は,実施例の記載の形態そのものであり,イ号製品は明細書及び図面を参酌しても疑いようもなく本件特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。」と主張する。
しかしながら,図21の「接合部233」が,被請求人が主張するように「第2斜面の近端頂面」に当接するものであって,図21の「接合部233」が,被請求人が判定事件答弁書において示した第2斜面の鉛直方向下方に形成されている空間内に位置するものであるとすれば,被請求人の主張するイ号製品の接合部の接合形態とは異なるものとなるから,いずれにおいても被請求人の主張は採用することができない。
(エ)被請求人は,請求人が提出した写真4ないし6は不鮮明なうえ,写真4及び5に示すとおり,イ号製品及びプリンタ側のキャリッジが通常の使用及び装着状態と異なる形態で撮影されている旨主張しているが,被請求人が答弁書において示す写真に基づく主張のとおりイ号製品を認定したとしても,そのようなイ号製品が,構成要件E又はGを充足するものといえないことは,上記の検討のとおりである。
オ 小括
上記のとおりであるから,イ号製品は,構成要件Dを充足し,構成要件Eを充足しない。

(5)構成要件Fについて
イ号製品は「(え)インクカートリッジはケースを有するものであり,前記ケースの被接合面に対向する側に回転部を介して操作部を有する可動部材が接続されており,当該可動部材には,接合部材が回転部に隣接してY軸方向に2つ形成されて」いるから,構成要件Fを充足する。

(6)構成要件Gについて
ア 構成要件Gの「接合部」が「取付空間」に係合することについて
(ア)本件特許明細書の発明の詳細な説明には,「取付空間」に関して,「【0029】 更に,図7,9に示すように,ケース2の取付面39に対向する側には,可動部材23が設けられ,可動部材23は,弾性支持部231と,回転部232と,接合部233とを含み,具体的には,弾性支持部231とケース2との間に弾性部材24が設けられ,好ましくは,弾性部材24はばねであり,接合部233が+X軸方向へ延び取付空間395に進入して係合する。インクカートリッジの取り出しが必要である時,弾性支持部231に外力Fを与え,弾性支持部231が外力を受けたことに伴って,弾性部材24が圧縮されることにより,可動部材23が回転部232回りに回転する。可動部材23の回転に伴って,接合部233が取付空間395から取り出される。好ましくは,図6に示すように,弾性支持部231が操作部234にも接続され,外力Fが操作部234に与えられてから,操作部234が外力Fを弾性支持部231に伝達することにより,同様の目的を達する。」,「【0034】1つの変化例では,回転部232が省略されてもよい。これに応じて,インクカートリッジの取り出しが必要である時,依然として弾性支持部231に外力Fを与え,弾性支持部231が外力を受けて弾性部材24の圧縮を駆動することにより,可動部材23全体が-Z軸方向へ移動して,インクカートリッジに-X軸方向の作用力を与えて,インクカートリッジ全体が-X軸方向へ移動する。この場合,接触ピン31がインクカートリッジに+Z軸方向への弾性力を与えることにより,インクカートリッジが上方に跳ね上げ,接合部233が取付空間395から抜け出す。このようにしても,インクカートリッジの取り出しが完了することができる。」,「【0037】更に,上述した実施例にかかる取付面39のいずれも装着部とともに取付空間395を形成することができ,当業者は,図7,9に示す構成の模式図を参照して上述した実施例における接合部233と取付空間395との係合態様を理解することができる。具体的には,上述した実施例では,インクカートリッジの装着部からの取り出しの態様は,図7,9に示す実施例と類似するので,ここで重複しない。」,「【0043】 第3実施例のいくつかの変化として,取付面39が装着部に直接設けられ,即ち,図11における第1斜面391が取付面39とされるとともに,第2斜面392が装着部の一部(即ち,装着部における取付面に対応する対向面)であり,これに応じて,取付面39と対向面との間に取付空間395が形成され,接合部233が取付空間395内に係合する。より具体的には,図11は,可動部材23がケース2内に取り付けられた状態を示し,図16を参照して,可動部材23がケース2内に取り付けられ,摺動部236がケース2(図11では視線の原因で見えられない)に密着し,これに対して,図7,図11と比較して見えるに,図7における弾性部材24と図11における弾性部材24の設置態様が異なり,図7における弾性部材24の軸線方向がZ軸方向に設けられる一方,図11における弾性部材24の軸線方向がX軸方向に設けられる。図11に示す実施例における弾性部材24の設置態様を参照して,インクカートリッジの取り出しが必要である時,外力Gが回転レバー34に与えられ,回転レバー34が受けた外力を弾性支持部231に伝達して,弾性支持部231によって弾性部材24が圧縮されることにより,摺動部236がケース2に対して摺動し,弾性部材24全体が-X軸方向へ動いてから,接合部233が取付空間395から抜き出し,インクカートリッジが接触ピン31の弾性力で跳ね上げ,その後,インクカートリッジが装着部から取り出される。」,「【0044】1種の変化として,図17は,他の種類の可動部材23の構成の模式図を示す。図16と図17とを比較して見えるように,2種類の可動部材23は,接合部233が異なる点で相違し,図16における接合部233は,可動部材23の+X軸方向の端部に設けられる塊状の凸部のみである一方,図17における接合部233は,+X軸方向に延在する棒状物であり,且つ棒状物の+X軸方向の端部に塊状の凸部が形成される。当業者は,以下のことを理解することができる。即ち,図17に示す可動部材23と取付空間395との係合方式が,図16における可動部材23と取付空間395との係合方式に類似し,ただし,図17に示す可動部材23の強度が図16における可動部材23よりも高く,これに応じて,図17における可動部材23が取り付けられたインクカートリッジの取付及び取り出しの方式が第3実施例に類似するので,ここで重複しない。」と記載されている。
(イ)上述のとおり,本件特許明細書に記載されている実施例においては,「取付空間」が「取付面」を形成する斜面の鉛直方向下方に設けられるものであり,「接合部233」が「取付面」を形成する斜面の近端側の面に下方から接合するものであることに照らせば,本件特許発明の構成要件Gにおける「接合部」が「取付空間」内に係合するとは,「接合部233」が「取付空間」内に位置することとなることを意味するものと解すべきである。
イ イ号製品は,「(お)インクカートリッジが装着部に取り付けられるとき,可動部材の2つの接合部材の三角形状の先端部分が第3斜面と接合し,2つの接合部材が第3斜面の-Z軸方向に沿う下方に位置し」ているものであるところ,「第3斜面」である「被接合面」の鉛直方向下方に「取付空間」が設けられ,当該「取付空間」内に「接合部材」が位置するものといえるのであるから,イ号製品は,「接合部」が「取付空間」に係合するものであるといえる。
したがって,イ号製品は,構成要件Gを充足する。
ウ なお,上記(4)エ(イ)のとおり,被請求人が,構成要件Gの「取付空間」に関して,イ号製品の「2つの接合部材」が「取付空間に係合する」旨主張している根拠が,「第2斜面」の鉛直方向に沿った下方の空間に係合していることを理由とするものであると解したとしても,イ号の「被接合面」が「第2斜面」に存在するものと認められない以上,イ号において取付空間が第2斜面の鉛直下方であるとはいえず,イ号製品が構成要件Gを充足するものとはいえない。

(7)構成要件Hについて
イ号製品は「(か)インクカートリッジが装着部より取り外される際に,操作部を操作することで可動部材が回転部を中心に反時計回りに回動させて接合部材の先端部分が被接合面である第3斜面から外れるように構成されている」ものであるから,構成要件Hを充足する。

(8)均等主張について
請求人は,本件特許発明においては,構成要件Eの「第2斜面の近端(近端側の一部,近端上の一点又は極小部分)」を「被接合面」として利用し,これに構成要件C及びGの「可動部材によって+X軸方向に延在する2つの接合部を被接合面に下方から当接して接合すること」によりインクカートリッジが装着部に固定されること本件特許の本質部分であると解されることを理由として,均等論を考慮しても,イ号製品は本件特許発明の技術的範囲に属しない旨主張する。
これに対して,被請求人は,イ号製品は文言上明らかに充足するため,均等論については主張しない旨回答している。
ところで,イ号が本件特許発明と均等なものと判断するには,以下の5要件を全て満たすことが必要である(ボールスプライン事件判決 平成6年(オ)第1083号 平成10年2月24日 最高裁判決)。
要件1 特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分が発明の本質的な部分ではない。
要件2 前記異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏する。
要件3 前記異なる部分をイ号のものと置き換えることが,イ号の実施の時点において当業者が容易に想到することができたものである。
要件4 イ号が特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものではない。
要件5 イ号が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外される等の特段の事情がない。
そこで,事案に鑑みて,構成要件Eが上記要件を全て満たすものであるか検討する。
当審は,上記のとおり,イ号製品は,構成要件Eを充足しないと判断しているところ,上記(4)イのとおり,本件特許発明は,「第2斜面」そのものである「近端」部分を「被接合面」として利用することで,課題を解決するものであると認められるものであって,構成要件Eは本質的部分を構成するものと解されるから,少なくとも上記均等の要件1を満たすものではない。したがって,均等論を考慮したとしても,上記の判断を左右しない。

(9)まとめ
上記のとおりであるから,イ号製品は,本件特許発明の構成要件Eを充足しない。
また,イ号製品の被接合面を被請求人の主張するとおりのものであるとしても,構成要件Eを充足しないか,あるいは,構成要件Gを充足しない。
よって,イ号製品は,本件特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。
また,本件特許の請求項2ないし7に係る発明は,いずれも,請求項1を引用するものであるから,イ号製品は,本件特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しないのと同様,請求項2ないし7に係る発明の技術的範囲に属しない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,イ号製品は,特許第6580284号発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。

 
判定日 2020-08-25 
出願番号 特願2019-88075(P2019-88075)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (B41J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神谷 健一長田 守夫村田 顕一郎  
特許庁審判長 藤田 年彦
特許庁審判官 尾崎 淳史
清水 康司
登録日 2019-09-06 
登録番号 特許第6580284号(P6580284)
発明の名称 係合式のインクカートリッジ  
代理人 河野 登夫  
代理人 河野 英仁  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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