ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
---|---|
管理番号 | 1366668 |
審判番号 | 不服2019-10686 |
総通号数 | 251 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-11-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-08-09 |
確定日 | 2020-09-24 |
事件の表示 | 特願2018-201206「円偏光板」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月13日出願公開、特開2019- 91023〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特願2018-201206号(以下「本件出願」という。)は、平成30年10月25日(先の出願に基づく優先権主張 平成29年11月10日)を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 平成30年12月26日付け:拒絶理由通知書 平成31年 3月 7日付け:意見書 令和 元年 5月15日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 元年 8月 9日付け:審判請求書 令和 元年 8月 9日付け:手続補正書 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和元年8月9日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 (1)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「屈曲可能な表示装置に用いられる円偏光板であって、 偏光子と、前記偏光子の一方の側に配置された少なくとも1種以上の位相差層とを備え、 屈曲前後で得られる反射光の色相が、a^(*)b^(*)色度座標におけるa^(*)座標軸及びb^(*)座標軸を挟んで符号が変化しないことを特徴とする円偏光板。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「屈曲可能な表示装置に用いられる円偏光板であって、 偏光子と、前記偏光子の一方の側に配置された少なくとも1種以上の位相差層とを備え、 下記条件で屈曲させた場合に屈曲前後で得られる反射光の色相が、a^(*)b^(*)色度座標におけるa^(*)座標軸及びb^(*)座標軸を挟んで符号が変化せず、 屈曲前後の前記反射光の色相において、a^(*)値及びb^(*)値の差分Δa^(*),Δb^(*)から、[(Δa^(*))^(2)+(Δb^(*))^(2)]^(1/2)より求められる色差値が1.2以上であることを特徴とする円偏光板。 (屈曲条件) 前記円偏光板をアルミニウム箔に貼り付けた評価用サンプルについて、前記アルミニウム箔側に直径5mmのマンドレルを押し当てながら、前記マンドレルの周面に沿って折り曲げた。屈曲後に屈曲状態を解消した。」 2 本件補正について (1)新規事項違反 本件補正により、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)は、「屈曲前後の前記反射光の色相において、a^(*)値及びb^(*)値の差分Δa^(*),Δb^(*)から、[(Δa^(*))^(2)+(Δb^(*))^(2)]^(1/2)より求められる色差値が1.2以上である」(当合議体注:下線は当合議体で強調のために付与した。以下同様。)構成を具備するものとなった。 しかしながら、本件出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、「本発明は、屈曲前後で色相の変化を小さくするだけではなく、屈曲前後で色相の変化が目立たなくなるような色の設計をするという考え方により、表示装置の視認性の向上が図れることを明らかにした。」(【0008】)、「本実施形態の円偏光板1A,1Bでは、屈曲前後の反射色相においてa^(*)値及びb^(*)値の差分Δa^(*),Δb^(*)から求められる色差値が、0以上5以下であることが好ましく、0以上3以下であることがより好ましい。なお、色差値は、[(Δa^(*))^(2)+(Δb^(*))^(2)]^(1/2)から算出される。」(【0171】)と記載されるにとどまり、屈曲前後の色差値を所定の値以上に設定するという記載ないし示唆はない(「0」は計算上の下限値であるから、「0以上」と記載されていることを根拠に、所定の値未満であることが好ましくない(所定の値以上に設定することが好ましい)という技術思想が記載ないし示唆されていると理解することはできない。)。また、【0288】【表1】の各実施例の記載を参酌しても、実施例11の「1.2」という値が,色差値の下限の境界値として記載されたものであると認めるに足りる技術思想は把握できない。 そうしてみると、本件補正は、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるということができない。 したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができないから、特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものである。 (2)独立特許要件違反 ところで、本件補正は、補正前の請求項1に係る発明における、「屈曲前後で得られる反射光の色相」の変化について、屈曲の条件及び変化の度合い、すなわち、屈折前後での色差値の下限値を限定する補正事項を含むものである。また、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0007】?【0009】)。したがって、特許法17条の2第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の限定的減縮)を目的とするものである。 そこで、事案に鑑みて、本件補正後発明が特許法17条の2条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)についても、以下、検討する。 3 独立特許要件違反についての判断 (1)引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由において引用された、特開2017-102443号公報(以下「引用文献1」という。)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。 なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 有機エレクトロルミネセンス表示装置に用いられる光学積層体であって、 表面保護層と偏光子と光学補償層とをこの順に備え、 該表面保護層が可撓性であり、有機エレクトロルミネセンス表示装置のカバーガラスを代替する機能を有し、かつ、偏光子の保護層として機能する、 光学積層体。 【請求項2】 前記表面保護層が単一の樹脂フィルムで構成されている、請求項1に記載の光学積層体。 【請求項3】 前記表面保護層が、表面側から順にハードコート層と樹脂フィルムとを含む、請求項1に記載の光学積層体。 【請求項4】 前記表面保護層が曲率半径3mm以下で20万回折り曲げ可能な屈曲性を有し、かつ、該表面保護層の視認側表面が、2H以上の鉛筆硬度と1000g荷重で300回往復摩擦しても傷を生じない耐擦傷性とを有する、請求項1から3のいずれかに記載の光学積層体。 【請求項5】 前記光学補償層が位相差フィルムで構成され、 該位相差フィルムの面内位相差Re(550)が100nm?180nmであり、かつ、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係を満たし、 該位相差フィルムの遅相軸と前記偏光子の吸収軸とのなす角度が35°?55°である、 請求項1から4のいずれかに記載の光学積層体。 ・・・中略・・・ 【請求項8】 請求項1から7のいずれかに記載の光学積層体を視認側に備え、該積層体の表面保護層が視認側に配置されている、有機エレクトロルミネセンス表示装置。 【請求項9】 少なくとも一部が曲率半径10mm以下で屈曲可能である、請求項8に記載の有機エレクトロルミネセンス表示装置。」 イ 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、光学積層体および該光学積層体を用いた有機エレクトロルミネセンス表示装置に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、スマートフォンに代表されるスマートデバイス、またデジタルサイネージやウィンドウディスプレイなどの表示装置が強い外光の下使用される機会が増加している。それに伴い、表示装置自体または表示装置に用いられるタッチパネル部やガラス基板、金属配線等の反射体による外光反射や背景の映り込み等の問題が生じている。特に、近年実用化されてきている有機エレクトロルミネセンス(EL)表示装置は、反射性の高い金属層を有するため、外光反射や背景の映り込み等の問題を生じやすい。そこで、位相差フィルム(代表的にはλ/4板)を有する円偏光板を視認側に反射防止フィルムとして設けることにより、これらの問題を防ぐことが知られている。 【0003】 ところで、有機EL表示装置の薄型化が継続して要望されている。さらに、近年、有機EL表示装置のフレキシブル化・屈曲可能化に対する要望が強まっている。 ・・・中略・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、非常に薄く、かつ、屈曲可能または折りたたみ可能な有機EL表示装置にも好適に適用され得る光学積層体を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明の光学積層体は、有機エレクトロルミネセンス表示装置に用いられる。この光学積層体は、表面保護層と偏光子と光学補償層とをこの順に備え、該表面保護層が可撓性であり、有機エレクトロルミネセンス表示装置のカバーガラスを代替する機能を有し、かつ、偏光子の保護層として機能する。 1つの実施形態においては、上記表面保護層は単一の樹脂フィルムで構成されている。別の実施形態においては、上記表面保護層は、表面側から順にハードコート層と樹脂フィルムとを含む。 1つの実施形態においては、上記表面保護層は曲率半径3mm以下で20万回折り曲げ可能な屈曲性を有し、かつ、該表面保護層の視認側表面は、2H以上の鉛筆硬度と1000g荷重で300回往復摩擦しても傷を生じない耐擦傷性とを有する。 1つの実施形態においては、上記光学補償層は位相差フィルムで構成され;該位相差フィルムの面内位相差Re(550)が100nm?180nmであり、かつ、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係を満たし;該位相差フィルムの遅相軸と上記偏光子の吸収軸とのなす角度が35°?55°である。 ・・・中略・・・ 本発明の別の局面によれば、有機エレクトロルミネセンス表示装置が提供される。この有機エレクトロルミネセンス表示装置は、上記の光学積層体を視認側に備え、該積層体の表面保護層が視認側に配置されている。 1つの実施形態においては、上記有機エレクトロルミネセンス表示装置は、少なくとも一部が曲率半径10mm以下で屈曲可能である。 【発明の効果】 【0007】 本発明の実施形態によれば、有機EL表示装置用光学積層体において、カバーガラスを代替する機能を有し、かつ、偏光子の保護層として機能する表面保護層を用いることにより、非常に薄く、かつ、屈曲可能または折りたたみ可能な有機EL表示装置にも好適に適用され得る光学積層体が得られ得る。」 ウ 「【発明を実施するための形態】 【0009】 ・・・中略・・・ 【0011】 A.光学積層体の全体構成 本発明の実施形態による光学積層体は、画像表示装置(例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置)、好ましくは屈曲可能(ベンダブル)な画像表示装置、より好ましくは屈曲可能な有機EL表示装置、さらに好ましくは折りたたみ可能(フォルダブル)な有機EL表示装置に用いられる。以下、簡単のため、光学積層体が屈曲可能または折りたたみ可能な有機EL表示装置に適用される場合について説明するが、光学積層体が液晶表示装置にも同様に適用され得ることは当業者に自明である。 【0012】 図1は、本発明の1つの実施形態による光学積層体の概略断面図である。本実施形態の光学積層体100は、表面保護層10と偏光子20と光学補償層30とをこの順に備える。表面保護層10は可撓性である。さらに、表面保護層10は、有機EL表示装置のカバーガラスを代替する機能を有し、かつ、偏光子20の保護層として機能する。加えて、詳細は後述するように、表面保護層は、従来のカバーガラスに比べて格段に薄い。したがって、本発明の実施形態においては、表面保護層自体が薄いこと、および、偏光子の外側保護フィルムを省略することができることにより、有機EL表示装置の顕著な薄型化に貢献することができる。有機EL表示装置の薄型化は、デザインの選択幅を広げるので、商業的な価値が大きい。さらに、有機EL表示装置の薄型化と表面保護層が可撓性を有することとの相乗的な効果により、好ましくは屈曲可能な(より好ましくは折りたたみ可能な)有機EL表示装置を実現することができる。図示例では、表面保護層10は、表面側から順にハードコート層11と樹脂フィルム12とを含む。樹脂フィルムの構成に応じて、ハードコート層は省略されてもよく、樹脂フィルムの両側にハードコート層が形成されてもよい。表面保護層10は、好ましくは、曲率半径3mmで20万回折り曲げ可能な屈曲性を有する。表面保護層がこのような屈曲性を有することにより、光学積層体を有機EL表示装置に適用した場合に屈曲可能または折り畳み可能な有機EL表示装置を実現することができる。さらに、表面保護層10の視認側表面(ハードコート層表面または樹脂フィルム表面)は、好ましくは、2H以上の鉛筆硬度と1000g荷重で300回往復摩擦しても傷を生じない耐擦傷性とを有する。表面保護層がこのような表面特性を有することにより、表面保護層が有機EL表示装置のカバーガラスの代替として良好に機能し得る。 【0013】 本実施形態においては、光学補償層30は、位相差フィルムで構成されている。この場合、当該位相差フィルムは、偏光子の保護層(内側保護層)としても機能し得る。その結果、光学積層体(結果として、有機EL表示装置)のさらなる薄型化に貢献し得る。なお、必要に応じて、偏光子と位相差フィルムとの間に内側保護層(内側保護フィルム)が配置されてもよい。位相差フィルムの面内位相差Re(550)は、好ましくは100nm?180nmであり、かつ、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係を満たす。位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は、好ましくは35°?55°である。 ・・・中略・・・ 【0015】 図1および図2のいずれの実施形態においても、光学補償層30の偏光子20と反対側に導電層(図示せず)が設けられてもよい。このような導電層を設けることにより、光学積層体は、表示セル(有機ELセル)と偏光子との間にタッチセンサが組み込まれた、いわゆるインナータッチパネル型入力表示装置に適用され得る。 【0016】 図1および図2のいずれの実施形態においても、光学積層体の周縁部(より具体的には、有機EL表示装置のベゼルに対応する位置)に印刷層(図示せず)が形成されてもよい。印刷層は、表面保護層10の偏光子20側(実質的には、樹脂フィルム12の偏光子20側)に形成されてもよく、光学補償層30の偏光子20と反対側に形成されてもよい。印刷層が光学補償層30の偏光子20と反対側に形成され、かつ、導電層および印刷層の両方が形成される場合には、代表的には、光学補償層と導電層との間に印刷層が形成され得る。 ・・・中略・・・ 【0018】 本発明の光学積層体の総厚みは、代表的には30μm?300μmであり、好ましくは40μm?250μmである。これは、カバーガラスと円偏光板とを用いる従来の構成におけるカバーガラスと円偏光板との合計厚み(代表的には800μm)に比べて格段に薄い。したがって、本発明の光学積層体は、有機EL表示装置の顕著な薄型化に貢献することができ、さらには屈曲可能なまたは折りたたみ可能な有機EL表示装置を実現することができる。 ・・・中略・・・ 【0020】 以下、光学積層体の構成要素について説明する。 【0021】 B.表面保護層 B-1.表面保護層の特性 上記のとおり、表面保護層10は、有機EL表示装置のカバーガラスを代替する機能を有し、かつ、偏光子20の保護層として機能する。以下、表面保護層の特性についての説明における「表面保護層」は、樹脂フィルム単独の場合には樹脂フィルムを、ハードコート層と樹脂フィルムとを含む場合にはこれらの積層体を意味する。表面保護層は、曲率半径3mm以下(例えば、3mm、2mm、1mm)で好ましくは20万回、より好ましくは30万回、さらに好ましくは50万回折り曲げ可能な屈曲性を有する。表面保護層がこのような屈曲性を有することにより、光学積層体を有機EL表示装置に適用した場合に屈曲可能または折り畳み可能な有機EL表示装置を実現することができる。表面保護層が樹脂フィルムの片側にハードコート層を有する場合、屈曲性の試験は、ハードコート層を内側にして折り曲げて行われる。屈曲性は、マンドリルを挟んで片側のチャックが180°折り曲げを繰り返す耐折試験機にて測定され得る。 【0022】 表面保護層は、好ましくは、折り曲げ後の復元性を有する。折り曲げ後の復元性とは、折り曲げた後に折れ痕が残ることなく元の状態に戻ることをいう。折り曲げ後の復元性は、例えば表面保護層(樹脂フィルムまたは積層体)を曲率半径1mmで180°の折り曲げを繰り返した後に折れ痕がつくまでの繰り返し回数で評価され得る。表面保護層は、好ましくは、当該条件で10000回以上という復元性を有する。 ・・・中略・・・ 【0025】 B-2.ハードコート層 ハードコート層11は、上記のとおり、樹脂フィルム12の構成に応じて、樹脂フィルムの片側(代表的には、表面側)に形成されてもよく、樹脂フィルムの両側に形成されてもよく、省略されてもよい。 ・・・中略・・・ 【0030】 B-3.樹脂フィルム 樹脂フィルムは、上記B-1項に記載の特性を満足し得る任意の適切な材料で構成され得る。 ・・・中略・・・ 【0033】 C.偏光子 偏光子20としては、任意の適切な偏光子が採用され得る。例えば、偏光子を形成する樹脂フィルムは、単層の樹脂フィルムであってもよく、二層以上の積層体であってもよい。 ・・・中略・・・ 【0039】 D.光学補償層 D-1.位相差フィルムで構成される光学補償層 図1に示すように光学補償層が位相差フィルムで構成される場合、当該位相差フィルムは、いわゆるλ/4板として機能し得る。位相差フィルムの面内位相差Re(550)は、好ましくは100nm?180nm、より好ましくは135nm?155nmである。 【0040】 位相差フィルムは、上述のとおり、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係を満たす。すなわち、位相差フィルムは、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散の波長依存性を示す。位相差フィルムのRe(450)/Re(550)は、好ましくは0.8以上1.0未満であり、より好ましくは0.8?0.95である。Re(550)/Re(650)は、好ましくは0.8以上1.0未満であり、より好ましくは0.8?0.97である。 【0041】 位相差フィルムは、代表的には屈折率特性がnx>nyの関係を示し、遅相軸を有する。位相差フィルム30の遅相軸と偏光子20の吸収軸とのなす角度は、上記のとおり35°?55°であり、より好ましくは38°?52°であり、さらに好ましくは42°?48°であり、特に好ましくは約45°である。当該角度がこのような範囲であれば、位相差フィルムをλ/4板とすることにより、非常に優れた円偏光特性(結果として、非常に優れた反射防止特性)を有する光学積層体が得られ得る。 【0042】 位相差フィルムは、nx>nyの関係を有する限り、任意の適切な屈折率楕円体を示す。好ましくは、位相差フィルムの屈折率楕円体は、nx>ny≧nzの関係を示す。なお、ここで「ny=nz」はnyとnzが完全に等しい場合だけではなく、実質的に等しい場合を包含する。したがって、本発明の効果を損なわない範囲で、ny<nzとなる場合があり得る。位相差フィルムのNz係数は、好ましくは0.9?2であり、より好ましくは0.9?1.5であり、さらに好ましくは0.9?1.3である。このような関係を満たすことにより、光学積層体を有機EL表示装置に用いた場合に、非常に優れた反射色相を達成し得る。 【0043】 位相差フィルムは、その光弾性係数の絶対値が、好ましくは2×10^(-12)(m^(2)/N)以上であり、より好ましくは10×10^(-12)(m^(2)/N)?100×10^(-12)(m^(2)/N)であり、さらに好ましくは20×10^(-12)(m^(2)/N)?40×10^(-12)(m^(2)/N)である。光弾性係数の絶対値がこのような範囲であれば、小さい厚みでも十分な位相差を確保しつつ有機EL表示装置の屈曲性を維持することができ、さらに、屈曲時の応力による位相差変化(結果として、有機EL表示装置の色変化)をより抑制することができる。 【0044】 位相差フィルムの厚みは、好ましくは1μm?70μmであり、より好ましくは1μm?20μmであり、さらに好ましくは1μm?10μmである。本発明の光学積層体は、所望の光学特性を維持しつつ従来のλ/4板よりも厚みが薄いフィルムを用いることができるので、光学積層体(結果として、有機EL表示装置)の薄型化に貢献することができる。 【0045】 位相差フィルムは、上記のような特性を満足し得る任意の適切な樹脂で形成される。位相差フィルムを形成する樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、シクロオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロースエステル系樹脂等が挙げられる。好ましくは、ポリカーボネート樹脂である。 ・・・中略・・・ 【0049】 位相差フィルムは、例えば、上記ポリカーボネート系樹脂から形成されたフィルムを延伸することにより得られる。ポリカーボネート系樹脂からフィルムを形成する方法としては、任意の適切な成形加工法が採用され得る。具体例としては、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、粉末成形法、FRP成形法、キャスト塗工法(例えば、流延法)、カレンダー成形法、熱プレス法等が挙げられる。押出成形法またはキャスト塗工法が好ましい。得られるフィルムの平滑性を高め、良好な光学的均一性を得ることができるからである。成形条件は、使用される樹脂の組成や種類、位相差フィルムに所望される特性等に応じて適宜設定され得る。 【0050】 樹脂フィルム(未延伸フィルム)の厚みは、得られる位相差フィルムの所望の厚み、所望の光学特性、後述の延伸条件などに応じて、任意の適切な値に設定され得る。好ましくは50μm?300μmである。 【0051】 上記延伸は、任意の適切な延伸方法、延伸条件(例えば、延伸温度、延伸倍率、延伸方向)が採用され得る。具体的には、自由端延伸、固定端延伸、自由端収縮、固定端収縮などの様々な延伸方法を、単独で用いることも、同時もしくは逐次で用いることもできる。延伸方向に関しても、長さ方向、幅方向、厚さ方向、斜め方向等、様々な方向や次元に行なうことができる。 【0052】 上記延伸方法、延伸条件を適宜選択することにより、上記所望の光学特性(例えば、屈折率特性、面内位相差、Nz係数)を有する位相差フィルムを得ることができる。 【0053】 1つの実施形態においては、位相差フィルムは、樹脂フィルムを一軸延伸もしくは固定端一軸延伸することにより作製される。固定端一軸延伸の具体例としては、樹脂フィルムを長手方向に走行させながら、幅方向(横方向)に延伸する方法が挙げられる。延伸倍率は、好ましくは1.1倍?3.5倍である。 【0054】 別の実施形態においては、位相差フィルムは、長尺状の樹脂フィルムを長手方向に対して所定の角度の方向に連続的に斜め延伸することにより作製され得る。斜め延伸を採用することにより、フィルムの長手方向に対して所定の角度の配向角(所定の角度の方向に遅相軸)を有する長尺状の延伸フィルムが得られ、例えば、偏光子との積層に際してロールトゥロールが可能となり、製造工程を簡略化することができる。なお、上記所定の角度は、光学積層体において偏光子の吸収軸と位相差層の遅相軸とがなす角度であり得る。当該角度は、上記のとおり、好ましくは35°?55°であり、より好ましくは38°?52°であり、さらに好ましくは42°?48°であり、特に好ましくは約45°である。 ・・・中略・・・ 【0060】 D-2.液晶配向固化層の積層体で構成される光学補償層 D-2-1.第1の液晶配向固化層 第1の液晶配向固化層31は、いわゆるλ/2板として機能し得る。第1の液晶配向固化層をいわゆるλ/2板とし、後述の第2の液晶配向固化層をいわゆるλ/4板とし、これらの遅相軸を偏光子の吸収軸に対して所定の方向に設定することにより、広帯域において優れた円偏光特性を有する光学積層体が得られ得る。第1の液晶配向固化層の面内位相差Re(550)は、好ましくは180nm?320nmであり、より好ましくは200nm?290nmであり、さらに好ましくは230nm?280nmである。 【0061】 第1の液晶配向固化層の屈折率楕円体は、代表的にはnx>ny=nzの関係を示す。第1の液晶配向固化層31の遅相軸と偏光子20の吸収軸とのなす角度は、上記のとおり好ましくは10°?20°であり、より好ましくは13°?17°であり、さらに好ましくは約15°である。第1の液晶配向固化層の遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度がこのような範囲であれば、第1の液晶配向固化層および第2の液晶配向固化層の面内位相差をそれぞれ所定の範囲に設定し、第2の液晶配向固化層の遅相軸を偏光子の吸収軸に対して後述のような所定の角度で配置することにより、広帯域において非常に優れた円偏光特性(結果として、非常に優れた反射防止特性)を有する光学積層体が得られ得る。 【0062】 第1の液晶配向固化層の厚みは、好ましくは1μm?7μmであり、より好ましくは1.5μm?2.5μmである。上記のとおり、液晶化合物を用いることにより、得られる光学補償層のnxとnyとの差を非液晶材料に比べて格段に大きくすることができるので、所望の面内位相差を得るための層厚みを格段に小さくすることができる。したがって、樹脂フィルムよりも格段に薄い厚みで樹脂フィルムと同等の面内位相差を実現することができる。 ・・・中略・・・ 【0109】 I.有機EL表示装置 本発明の光学積層体が適用され得る画像表示装置の一例として、有機EL表示装置について説明する。なお、本発明の光学積層体は、上記のとおり液晶表示装置にも適用され得る。図3は、本発明の1つの実施形態による有機EL表示装置の概略断面図である。有機EL表示装置300は、有機EL素子(有機EL表示セル)200と、有機EL素子200の視認側に光学積層体100または101を備える。 ・・・中略・・・ 【0111】 光学積層体100を用いる場合(光学補償層が位相差フィルム30で構成される場合)には、位相差フィルム30の遅相軸方向が有機EL表示装置の屈曲方向に対して好ましくは20°?70°、より好ましくは30°?60°、さらに好ましくは40°?50°、特に好ましくは45°近傍となるように、光学積層体100が配置され得る。光学積層体101を用いる場合(光学補償層が第1の液晶配向固化層31と第2の液晶配向固化層32との積層構造を有する場合)には、第1の液晶配向固化層31の遅相軸方向が有機EL表示装置の屈曲方向に対して好ましくは10°?20°、より好ましくは11°?19°、さらに好ましくは12°?18°、特に好ましくは15°近傍となるように、光学積層体101が配置され得る。・・・中略・・・いずれの実施形態においても、光学補償層の遅相軸方向と有機EL表示装置の屈曲方向との関係を調整することにより、屈曲による色変化が抑制された屈曲可能な有機EL表示装置を得ることができる。1つの実施形態においては、有機EL表示装置300(または有機EL素子200)の屈曲方向は、長手方向または長手方向に直交する方向(短手方向)である。このような実施形態においては、光学積層体の偏光子20の吸収軸を長手方向(または短手方向)に対して直交または平行に設定すれば、有機EL素子に積層される際、光学補償層の遅相軸を位置合わせする必要はなく、偏光子の吸収軸方向を位置合わせすればよい。このようにすれば、ロールトゥロールによる製造が可能となる。」 エ 「【実施例】 【0120】 以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。 【0121】 <実施例1> 1-1.位相差フィルム1 撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した縦型反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。9,9-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BHEPF)、イソソルビド(ISB)、ジエチレングリコール(DEG)、ジフェニルカーボネート(DPC)、および酢酸マグネシウム4水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸マグネシウム=0.438/0.537/0.025/1.005/1.00×10^(-5)になるように仕込んだ。反応器内を十分に窒素置換した後(酸素濃度0.0005?0.001vol%)、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。 第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力0.2kPaにした。その後、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、反応液をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレット化を行い、BHEPF/ISB/DEG=43.8/53.7/2.5[mol%]の共重合組成のポリカーボネート樹脂を得た。このポリカーボネート樹脂の還元粘度は0.430dL/g、ガラス転移温度は145℃であった。 得られたポリカーボネート樹脂を80℃で5時間真空乾燥した後、単軸押出機(いすず化工機社製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:240℃)、Tダイ(幅900mm、設定温度:240℃)、チルロール(設定温度:120?130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み125μmのポリカーボネート樹脂フィルムを作製した。 上記のようにして得られたポリカーボネート樹脂フィルムから幅250mm、長さ250mmの試料を切り出した。そして、この試料を、バッチ式二軸延伸装置(ブルックナー社製商品名「KARO-IV」)にて、延伸温度145.6℃、延伸倍率2.4倍で固定端一軸横延伸し、厚み58μmの位相差フィルム1を作製した。 【0122】 1-2.偏光子 (偏光子A1の作製) 吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)基材の片面にコロナ処理を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)を9:1の比で含む水溶液を25℃で塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。 得られた積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.0倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸処理)。 次いで、積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。 次いで、液温30℃の染色浴に、偏光板が所定の透過率となるようにヨウ素濃度、浸漬時間を調整しながら浸漬させた。本実施例では、水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液に60秒間浸漬させた(染色処理)。 次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。 その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。 その後、積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。 以上により、厚み5μmの偏光子A1を含む光学フィルム積層体を得た。 【0123】 1-3.円偏光板 (保護フィルムB1の作製) 保護フィルム(ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂フィルム:厚み40μm)の片面(偏光子と接着される面)にコロナ処理を施して用いた。 (保護フィルムB1へのハードコート処理) 15官能ウレタンアクリルオリゴマー(新中村化学社製、商品名:NK オリゴ UA-53H、重量平均分子量:2300)40部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)(大阪有機化学工業社製、商品名:ビスコート#300)40部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4-HBA)(大阪有機化学工業社製)16部、エトキシル化グリセリントリアクリレート(新中村化学社製 商品名:A-GLY-9E)4部、レベリング剤(DIC社製、商品名:GRANDIC PC-4100)5部、光重合開始剤(チバ・ジャパン社製、商品名:イルガキュア907)3部を混合し、固形分濃度が50%となるように、メチルイソブチルケトンで希釈してハードコート層形成用組成物を調製した。 保護フィルムB1上に、得られたハードコート層形成用組成物を塗布して塗布層を形成し、当該塗布層を90℃で1分間加熱した。加熱後の塗布層に高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cm^(2)の紫外線を照射して厚み5μmのハードコート層を形成した。 (保護フィルムに適用する接着剤の作製) N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)40重量部とアクリロイルモルホリン(ACMO)60重量部と光開始剤「IRGACURE 819」(BASF社製)3重量部を混合し、紫外線硬化型接着剤を調製した。 (偏光板の作製) 上記偏光子A1の片側に上記紫外線硬化型接着剤を介してハードコート層を有する保護フィルムB1を貼り合せた。次いで上記偏光子のもう片側に、上記紫外線硬化型接着剤を介して上記位相差フィルムを貼り合せた。ここで、位相差フィルムの遅相軸が偏光子の吸収軸に対して反時計まわりに45°となるように貼り合せ、円偏光板(光学積層体)を作製した。 【0124】 1-4.粘着剤 本実施例で使用する粘着層を以下の方法により作製した。 ((メタ)アクリル系ポリマーの調製) 攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた4つ口フラスコに、ブチルアクリレート(BA)99重量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(HBA)1重量部を含有するモノマー混合物を仕込んだ。さらに、前記モノマー混合物(固形分)100重量部に対して、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリルを0.1重量部を酢酸エチルと共に仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して窒素置換した後、フラスコ内の液温を55℃付近に保って7時間重合反応を行った。その後、得られた反応液に、酢酸エチルを加えて、固形分濃度30%に調整した、重量平均分子量160万の(メタ)アクリル系ポリマーの溶液を調製した。 (アクリル系粘着剤組成物の調製) 得られた(メタ)アクリル系ポリマー溶液の固形分100重量部に対して、イソシアネート系架橋剤(商品名:タケネートD110N、トリメチロールプロパンキシリレンジイソシアネート、三井化学(株)製)0.2重量部と、シランカップリング剤(商品名:KBM403、信越化学工業(株)製)0.08重量部を配合して、アクリル系粘着剤組成物を調製した。 【0125】 1-5.光学積層体1の作製 上記アクリル系粘着剤組成物を、シリコーン系剥離剤で処理された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(セパレータ)の表面に、ファウンテンコータで均一にて塗工し、155℃の空気循環式恒温オーブンで2分間乾燥し、セパレータ表面に厚さ25μmの粘着剤層を形成した。次いで、上記で得られた円偏光板の位相差フィルム側に上記粘着剤層を介してセパレータを貼り合わせ、当該セパレータを剥離した後PETフィルム(厚み38μm:屈曲性有機ELパネルを想定)を貼り合わせ、光学積層体1を作製した。 ・・・中略・・・ 【0130】 <実施例5?17> 表1に示す構成としたこと以外は実施例1と同様にして、光学積層体1と同様の層構成を有する光学積層体を作製した。なお、表1中の保護フィルムB2?B6は以下のとおりである。 ・保護フィルムB2:ポリアミドフィルム(ユニチカ製 「ユニアミドEX-25」、厚み25μm) ・保護フィルムB3:透明ポリイミドフィルム(I.S.T製 「トーメッド 」、厚み25μm) ・保護フィルムB4:透明ポリイミドフィルム(三菱瓦斯化学製 「ネオプリムL-AJFF-50」、厚み50μm) ・保護フィルムB5:ポリカーボネートフィルム(三菱エンジニアリングプラスチック製 ユーピロン「KH3520UR」、厚み40μm) ・保護フィルムB6:ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡製 「コスモシャインA4100」、厚み50μm) 【0131】 <実施例18> ハードコート層の形成材料を変更したこと以外は実施例1と同様にして、光学積層体1と同様の層構成を有する光学積層体を作製した。ハードコート層の形成材料は以下のとおりである。 実施例1記載のハードコート層形成用組成物100部に対してUV硬化型ポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアル社製 商品名:セルムスーパーポリマーSA2403P)6部とナノシリカ粒子(日産化学工業社製 商品名:オルガノシリカゾルMIBK-ST(平均粒径 10?15nm))20部添加したものを混合し、ハードコート層形成用組成物とした。 ・・・中略・・・ 【0138】 <評価> 1.鉛筆硬度 各実施例および各比較例で得られた光学積層体の保護フィルムのハードコート処理面(ハードコート処理されていない場合には保護フィルム表面)について、JISK 5600-5-4の鉛筆硬度試験に準じて(但し、荷重500g)、鉛筆硬度を測定した。 2.耐擦傷性(スチールウール(SW)評価) 各実施例および各比較例で得られた光学積層体の保護フィルムのハードコート処理面(ハードコート処理されていない場合には保護フィルム表面)について、学振型摩擦堅牢度試験機(テスター産業株式会社製、AB-301)を用いて、500g/cm^(2)の荷重をかけたスチールウール(日本スチールウール社製、ボンスター#0000)で300往復擦り、擦り跡やキズなどによる外観の変化を目視で評価した。評価基準は以下のとおりである。 ○:傷は認められなかった ×:傷を確認した 3.耐屈曲性評価 図5に180°耐折性試験機(井元製作所製)の概略図を示す。本装置は、マンドレルを挟んで片側のチャックが180°曲げを繰り返す機構となっており、マンドレルの直径により折り曲げ半径(曲率半径)を変えることができる。試験は、各実施例および比較例で得られた光学積層体(30mm×150mm)をハードコート側または保護フィルム表面が内曲げになるように装置にセットし、温度25℃、曲げ角度170°、折り曲げ半径1mm?3mm、曲げ速度1秒/回、重り100gの条件で曲げの繰り返しを実施した。光学積層体の破断までの回数で耐屈曲性を評価した。破断は目視にて評価した。評価基準は以下のとおりである。 A:100万回以上でも破断しない B:20万?50万回で破断 C:1?10万回未満で破断 D:1万回未満で破断 【0139】 【表1】 (当合議体注:上記【表1】は、便宜上、縦長のものを横長に配置するとともに、縦横寸法を調整して記載した。) 【0140】 表1から明らかなように、本発明の実施例の光学積層体は、鉛筆硬度、耐擦傷性および耐屈曲性のバランスに優れることがわかる。」 (2)引用発明 上記(1)によれば、引用文献1には、請求項1を引用する請求項4に係る光学積層体が記載され、当該光学積層体の「1つの実施形態」として、光学積層体100(【0012】?【0013】及び【図1】)が記載されている。 また、当該光学積層体の構成要素として、【0039】には、当該「1つの実施形態」について、「図1に示すように光学補償層が位相差フィルムで構成される場合、当該位相差フィルムは、いわゆるλ/4板として機能し得る」ことが記載されている。 さらに、【0111】には、「いずれの実施形態においても、光学補償層の遅相軸方向と有機EL表示装置の屈曲方向との関係を調整することにより、屈曲による色変化が抑制された屈曲可能な有機EL表示装置を得ることができる」と記載されている。 以上によれば、引用文献1には、次の光学積層体の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「有機エレクトロルミネセンス表示装置に用いられる光学積層体であって、 表面保護層と偏光子と光学補償層とをこの順に備え、 該表面保護層が可撓性であり、有機エレクトロルミネセンス表示装置のカバーガラスを代替する機能を有し、かつ、偏光子の保護層として機能し、 前記表面保護層が曲率半径3mm以下で20万回折り曲げ可能な屈曲性を有し、かつ、該表面保護層の視認側表面が、2H以上の鉛筆硬度と1000g荷重で300回往復摩擦しても傷を生じない耐擦傷性とを有し、 前記光学補償層が位相差フィルムで構成される場合、当該位相差フィルムは、いわゆるλ/4板として機能し得、 前記光学補償層の遅相軸方向と有機エレクトロルミネセンス表示装置の屈曲方向との関係を調整することにより、屈曲による色変化が抑制された屈曲可能な有機エレクトロルミネセンス表示装置を得ることができる、 光学積層体。」 (当合議体注意:「有機エレクトロルミネセンス表示装置」及び「有機EL表示装置」は、用語を前者に統一した。) (3)対比 本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 ア 偏光子 引用発明の「偏光子」は、その文言の意味するとおり、本件補正後発明の「偏光子」に相当する。 イ 位相差層 引用発明の「光学補償層」は、「前記光学補償層が位相差フィルムで構成される場合、当該位相差フィルムは、いわゆるλ/4板として機能し得」る。 したがって、引用発明の「光学補償層」は、その機能からみて、本件補正後発明の「位相差層」に相当する。 ウ 表示装置 引用発明の「有機エレクトロルミネセンス表示装置」は、その上位概念である、本件補正後発明の「表示装置」に相当する。 エ 円偏光板 引用発明の「光学積層体」は、「表面保護層と偏光子と光学補償層とをこの順に備え」る。そして、「前記光学補償層が位相差フィルムで構成される場合、当該位相差フィルムは、いわゆるλ/4板として機能し得」るものである。したがって、引用発明の「光学積層体」は、その積層構造と光学的な機能からみて、本件補正後発明の「円偏光板」に相当するといえる。 さらに、引用発明の「光学積層体」は、「屈曲による色変化が抑制された屈曲可能な有機エレクトロルミネセンス表示装置を得ることができる」ものである。 以上総合すると、引用発明の「光学積層体」は、本件補正後発明の「円偏光板」における、「屈曲可能な表示装置に用いられる」、「偏光子と、前記偏光子の一方の側に配置された少なくとも1種以上の位相差層とを備え」るという要件を満たす。 (4)一致点及び相違点 ア 一致点 本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。 「屈曲可能な表示装置に用いられる円偏光板であって、偏光子と、前記偏光子の一方の側に配置された少なくとも1種以上の位相差層とを備える円偏光板。」 イ 相違点 本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。 (相違点) 下記条件で屈曲させた場合に屈曲前後で得られる反射光の色相が、本件補正後発明では、[A]「a^(*)b^(*)色度座標におけるa^(*)座標軸及びb^(*)座標軸を挟んで符号が変化せず」、[B]「屈曲前後の前記反射光の色相において、a^(*)値及びb^(*)値の差分Δa^(*),Δb^(*)から、[(Δa^(*))^(2)+(Δb^(*))^(2)]^(1/2)より求められる色差値が1.2以上である」のに対して、引用発明では、屈曲による色変化が抑制されたものではあるものの、上記[A]及び[B]のように特定されていない点 (屈曲条件) 前記円偏光板をアルミニウム箔に貼り付けた評価用サンプルについて、前記アルミニウム箔側に直径5mmのマンドレルを押し当てながら、前記マンドレルの周面に沿って折り曲げた。屈曲後に屈曲状態を解消した。 (5)判断 引用文献1の【0043】には、「位相差フィルムは、その光弾性係数の絶対値が・・・中略・・・さらに好ましくは20×10^(-12)(m^(2)/N)?40×10^(-12)(m^(2)/N)である。光弾性係数の絶対値がこのような範囲であれば、小さい厚みでも十分な位相差を確保しつつ有機EL表示装置の屈曲性を維持することができ、さらに、屈曲時の応力による位相差変化(結果として、有機EL表示装置の色変化)をより抑制することができる。」と記載されている。この記載によれば、引用発明の「位相差フィルム」の光弾性係数は、屈曲時の応力による位相差変化による、有機EL表示装置の色変化を抑制する観点からは、小さい方が好ましいが、小さい厚みでも十分な位相差を確保する観点からは、大きい方が好ましいことが理解される。 ところで、L^(*)a^(*)b^(*)色空間における色差(ΔEab)は、2.0未満であれば、肉眼で識別することが困難であることが一般的に知られている(例えば、特開2010-139548号公報(【0061】)、特開2017-139286号公報(【0093】)及び特開2017-114735号公報(【0069】)等を参照。)。 そうすると、小さい厚みでも十分な位相差を確保すること(薄型化)を優先する当業者は、屈曲時の色変化が肉眼で認識できない範囲内(2.0未満の色差値)で、「位相差フィルム」の光弾性係数を設計すると考えられる。 ここで、屈曲時の色変化が、光学積層体の屈曲条件に依存することは技術常識であるから、屈曲条件をどのように設定するかが問題となる。そして,引用発明の「光学積層体」は、「屈曲による色変化が抑制された屈曲可能な有機エレクトロルミネセンス表示装置を得ることができる」ものであるところ、屈曲時のみならず屈曲解消時においても色変化を抑制すべきことは当然の課題といえる。そうしてみると、当業者は,「屈曲後に屈曲状態を解消した」条件で設計すると認められる。また、引用文献1の【0138】には、耐屈曲性評価において、折り曲げ半径1mm?3mmで曲げの繰り返しを実施したことが記載されている。したがって、引用発明の「光学積層体」において、当業者が「位相差フィルム」を選択する際に、上記相違点に係る屈曲条件を採用することは容易になし得たことである。 加えて、a^(*)b^(*)色度座標における、a^(*)座標軸及びb^(*)座標軸を挟んだ符号の変化を伴う色変化は、a^(*)座標については赤色と緑色の間の色変化、b^(*)座標軸については黄色と青色の間の色変化をそれぞれ意味し(原査定において、参考文献4として引用された、特開2008-509433号公報(【0083】?【0084】)を参照。)、これは、彩度ではなく色相の変化であり、かつ、互いに補色関係にある色変化と理解される。 そして、人の目の性質として、互いに補色関係にある色変化が、その他の色相(例えば、a^(*)b^(*)色度座標において、a^(*)座標軸及びb^(*)座標軸から遠い領域)における色変化や、彩度方向の色差と比較して敏感であることは、例えば、特開2013-219452号公報(【0041】?【0044】、【図2】)及び「M.R.Ruo, G.Cui,B.Rigg, COLOR research and application, Vol.26, No.5, pp.340-pp.341,The Development of the CIE 2000 Colour-Difference Formula:CIEDE2000」(特に、Fig.1)に記載された色識別楕円のa^(*)b^(*)色度図(色度座標)上の位置及び形状・面積から理解されるように先の出願時における当業者の技術常識である。 (当合議体注:L^(*)a^(*)b^(*)色空間を表すa^(*)b^(*)色度図(色度座標)における「色識別楕円」は、この範囲内の色度差であれば人の目で認識できない範囲を表す。上記論文のFig.1からは、a^(*)座標軸またはb^(*)座標軸の近傍では、色識別楕円の面積が小さく、かつ、楕円の長軸が座標軸に略平行であることが理解される。これは、彩度方向の色差よりも、a^(*)座標軸またはb^(*)座標軸を跨ぐような色変化、すなわち、色相方向の色差に対して、人の目が敏感であることを意味する。) そうすると、上記技術常識を心得た当業者が、引用発明の「光学積層体」において、屈曲前の「反射光の色相」の選択や、光学補償層の遅相軸方向と有機EL表示装置の屈曲方向との関係を調整(【0111】)して、屈曲による色変化が可能な限り人の目に敏感なものとならないように試行錯誤することは容易に想到し得たことである。そして、このようにされた「光学積層体」は、屈曲前後に多少の色変化(色差値)が発生したとしても、本件補正後発明の「屈曲前後で得られる反射光の色相が、a^(*)b^(*)色度座標におけるa^(*)座標軸及びb^(*)座標軸を挟んで符号が変化せず」との要件を満たすこととなる。 (6)発明の効果について 本件補正後発明の効果に関して、本件出願の明細書の【0020】には、「本発明の態様によれば、屈曲前後で色相の変化を目立たなくすることが可能な円偏光板、並びに、そのような円偏光板を備えた屈曲可能な表示装置を提供することが可能である。」と記載されている。 しかしながら、本件補正後発明の効果は、引用発明及び色度についての技術常識を心得た当業者にとって予測可能なものである。 (7)請求人の主張について 請求人は、審判請求書の「4.本願発明と引例との対比」において、概略、次の点を主張する。 ア 引用文献1の段落0111は、「光学補償層の遅相軸方向と有機EL表示装置の屈曲方向との関係を調整することにより、屈曲による色変化が抑制された屈曲可能な有機EL表示装置を得ることができる」ことが記載されているのであって、屈曲前後で光学補償層(円偏光板)の色相が変化することについては記載がありません。 イ 引用文献1では、光学補償層を屈曲させているときと、屈曲させていないときとの色変化を問題としています。引用文献1には、円偏光板を屈曲させることにより、屈曲後に屈曲状態を解消したとしても円偏光板の反射色相が屈曲前から変化してしまう、という本願発明の課題意識は記載も示唆もありません。 ウ 引用文献1においては、屈曲前後のa^(*)b^(*)の符号に関する記載はありません。 上記主張について検討する。 上記ア及びイについては、上記(5)([B])で説示したとおり、引用発明の「光学積層体」が、「屈曲可能な有機エレクトロルミネセンス表示装置」に採用される以上、屈曲条件として、屈曲前と屈曲時の色変化に加えて、屈曲前と屈曲後(屈曲解消時)における色変化についても問題とすることは当業者が容易に想到し得ることである。 また、上記ウについては、引用文献1には記載はないものの、色度についての技術常識を心得た当業者であれば、容易に想到し得る範囲内の事項といえる。 以上のとおり、請求人の上記主張はいずれも理由がない。 (8)小括 本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 4 補正の却下の決定のむすび 本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものである。あるいは、本件補正は同条6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものである。 したがって、本件補正は同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、[A]先の出願前に日本国内及び外国において頒布された刊行物である特開2017-102443号公報(引用文献1)に記載された発明に該当し、特許法29条1項3号の規定に該当し特許を受けることができない、あるいは、[B]先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 3 引用文献及び引用発明 引用文献1の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は、前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から、「屈曲前後の前記反射光の色相において、a^(*)値及びb^(*)値の差分Δa^(*),Δb^(*)から、[(Δa^(*))^(2)+(Δb^(*))^(2)]^(1/2)より求められる色差値が1.2以上である」点、及び「(屈曲条件)」である「前記円偏光板をアルミニウム箔に貼り付けた評価用サンプルについて、前記アルミニウム箔側に直径5mmのマンドレルを押し当てながら、前記マンドレルの周面に沿って折り曲げた。屈曲後に屈曲状態を解消した。」を除いたものである。そして、本願発明の構成を全て具備し、上記のとおりさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は、前記「第2」[理由]2で述べたとおり、引用文献1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 そうしてみると、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-07-15 |
結審通知日 | 2020-07-21 |
審決日 | 2020-08-07 |
出願番号 | 特願2018-201206(P2018-201206) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B) P 1 8・ 561- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 清水 督史、吉川 陽吾 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
河原 正 里村 利光 |
発明の名称 | 円偏光板 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |
代理人 | 加藤 広之 |