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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1366905
審判番号 不服2019-4778  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-10 
確定日 2020-10-08 
事件の表示 特願2015- 28921「皮脂分泌抑制剤」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月22日出願公開、特開2016-150916〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年2月17日を出願日とする特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 5月29日付け:拒絶理由通知書
同年 8月 3日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月 9日 :刊行物等提出書の提出
平成31年 1月24日付け:拒絶査定
同年 4月10日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 2月13日付け:拒絶理由通知書
同年 4月15日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年4月15日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
未分化の皮脂腺細胞から成熟皮脂腺細胞への分化を抑制して未分化の皮脂腺細胞から分化した成熟皮脂腺細胞からのトリグリセリドの分泌を抑制する用途に用いられるトリグリセリド分泌抑制剤であって、有効成分として皮脂腺細胞分化抑制作用を有する化合物を含有し、前記化合物がフィチン酸であることを特徴とするトリグリセリド分泌抑制剤。」

第3 当審が通知した拒絶理由
当審が令和2年2月13日付けで通知した拒絶理由は、概略、以下のとおりのものである。

1.本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


<引用文献等一覧>
引用文献19.イノシトール/フィチン酸,2009年 9月 1日,
URL,http://matsumoto-trd.com/product/pdf/concept/b02.pdf
[retrieved on 2019-07-24]
引用文献20.特表2010-505800号公報
引用文献21.特表2012-532871号公報
引用文献22.特表2008-502618号公報
引用文献23.特表2004-505904号公報

第4 当審の判断
当審は、上記第3の当審が通知した拒絶理由の理由2のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献19に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 引用文献の記載事項
(1)引用文献19には、次の事項が記載されている。
(19a)「

」(2頁目、下側の図)

(19b)「緑線が通常肌の皮脂量です。イノシトールを1%配合したローションもフィチン酸を0.5%配合したローションも、脂性肌では皮脂抑制、乾燥肌では、皮脂量を通常レベルに引き上げます。」(2頁目の図の右側にある囲み内)

(2)引用文献20には、次の事項が記載されている。
(20a)「【0005】
皮脂腺は、房の形状をした房状腺である。皮脂腺は2つのタイプの細胞が見出される多数の細胞層から成る:腺の周縁に向かって位置し、盛んに分裂する未分化細胞(胚芽層)。これらの細胞は、およそ2週間で中心に移動して分化細胞、脂質合成に必要な酵素機能(enzymatic equipment)を含有する中心の分化細胞(皮脂腺細胞(sebocytes))となる。これらの細胞はもはや分裂しない。これらの細胞は1週間で皮脂が満たされたより大きな成熟細胞に変わり、その中の脂質は、最終的に大きな液胞を構成するように合成又は貯蔵される。」

(3)引用文献21には、次の事項が記載されている。
(21a)「【0125】
発明の有用性
皮脂腺機能亢進による皮脂産生の増加は、一般に、座瘡病因の引き金になっていると考えられているいくつかの要因の1つである。皮脂形成において、特異的上皮細胞型である脂腺細胞の段階的分化があり、それは基本始原細胞から発生し脂質形成細胞に至る。これらの細胞は腺排出口の方向へ向かう。大きくなったこれらの細胞は最終的に破裂し(ホロクリン分泌)、その脂質濃厚内容物(皮脂)が放出される。皮脂の全体的構成は、スクアレン(12%)、コレステロール(2%)、ワックスエステル(26%)およびジグリセリド/トリグリセリド/遊離脂肪酸(57%)からなる(Zouboulis et al., "An oral 5-lipoxygenase inhibitor, directly reduces sebum production". Dermatology. (2005) 210:36-38)を参照されたい)。遊離脂肪酸レベルは、皮脂内に存在するジグリセリドおよびトリグリセリドの細菌分解により増加し得る(Thiboutot D. "Regulation of human sebaceous glands" J.Invest Dermatol. (2004) 123:1-12を参照されたい)。」

(4)引用文献22には、次の事項が記載されている。
(22a)「【0002】
皮脂は、脂腺細胞(皮膚における脂腺の細胞)によって産生され、この後、皮膚表面に分泌される皮膚オイルである。皮脂は数多くの成分から構成され、約57%がトリグリセリドまたは脂肪酸である。皮脂の約12%がスクアレンであり、皮脂の約3%がステロールエステルであり、約25%がワックスエステルであり、約1%から約2%がコレステロールである。頻繁および望ましくない皮膚状態の1つが「脂性肌」(皮膚上の過剰な量の皮脂から生じる状態)である。脂性肌には、テカテカ光る望ましくない外観および不快な触感が伴い、また、様々な年齢群が冒される。過度な皮脂産生は美容上望ましくなく、ざ瘡の皮膚状態に関連している。従って、皮脂の抑制をもたらす美容的な生成物および方法は非常に望ましい。」

(5)引用文献23には、次の事項が記載されている。
(23a)「【0008】
【課題を解決するための手段】
皮脂は、約60%のトリグリセリド、25%のワックス(脂肪酸及びアルコールのエステル)、12%のスクアレン(コレステロール合成の中間生産物)、コレステロール、及び平衡のエステルからなる。」

(6)本願出願日前の1988年に頒布され、新たに引用された文献である「油化学,1988年,第37巻,第10号,827頁?831頁」(以下、「引用文献24」という。技術常識を示す文献)には、次の事項が記載されている。
(24a)「2 皮表脂質の組成
皮表脂質を皮脂と表皮細胞由来の脂質に分離することは不可能である。そこで,Kellum^(1))はヒト頭皮から脂せんを単離し,その脂質組成を検討した。その結果,脂せんではトリグリセリド,スクアレン,ワックスエステルが生成されることが明らかとなり^(2)),皮表脂質中のそれ以外の脂質は皮脂の分解成分かあるいは表皮細胞由来の脂質であることが判明した。皮表脂質の脂質組成の代表例をTable-1^(3))に示す。」(第827頁左欄下から9行?同欄下から1行)

(24b)「

」(第827頁の右欄のTable-1)

2 引用文献19に記載された発明
引用文献19には、上記1(1)(19a)の記載より「フィチン酸による皮脂の正常化」なるタイトルの図が掲載され、該図には、フィチン酸を配合しないローションでは脂性肌における皮脂量に経時変化がない(赤線で△のプロット:図中、一番上の線)のに対し、フィチン酸を0.5%配合したローションでは脂性肌における皮脂量が経時的に減少する(黄線で□のプロット:図中、上から2番目の線)ことが、上記1(1)(19b)の記載より「フィチン酸を0.5%配合したローションも、脂性肌では皮脂抑制」することが、それぞれ記載されている。
以上の記載からみて、引用文献19には、「フィチン酸を0.5%配合したローションからなる脂性肌における皮脂量を減少させるための剤」の発明(以下「引用発明19」という。)が記載されているものと認められる。

3 対比
本願発明と引用発明19とを対比する。
引用発明19の有効成分である「フィチン酸」は、本願発明の「フィチン酸」に相当する。
また、引用発明19の「脂性肌における皮脂量を減少させるための剤」は、本願発明において「未分化の皮脂腺細胞から成熟皮脂腺細胞への分化を抑制して未分化の皮脂腺細胞から分化した成熟皮脂腺細胞からのトリグリセリドの分泌を抑制する用途に用いられる」と規定されていることから、本願発明と「皮脂量を減少させるための剤」の限りにおいて共通していると認められる。
以上のことから、本願発明と引用発明19は、「有効成分としてフィチン酸を含有し、皮脂量を減少させるための剤」である点において一致し、以下の点において相違する。

<相違点1>
本願発明では「未分化の皮脂腺細胞から成熟皮脂腺細胞への分化を抑制して未分化の皮脂腺細胞から分化した成熟皮脂腺細胞からのトリグリセリドの分泌を抑制する用途に用いられる」ことが発明特定事項として規定されるのに対し、引用発明19ではそのような事項が規定されない点。
<相違点2>
引用発明19は脂性肌における皮脂量を減少させるためのものであるのに対し、本願発明では脂性肌について規定されない点。
<相違点3>
引用発明19は0.5%のフィチン酸を含むローションの形態であるのに対し、本願発明ではフィチン酸の配合量や剤の形態について規定されない点。
<相違点4>
皮脂の分泌抑制について、本願発明は、「トリグリセリド」の分泌抑制剤であると規定しているのに対して、引用発明19は、皮脂成分のうち特に「トリグリセリド」の分泌抑制剤であることについて規定されない点。

4 判断
そこで、上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用文献20には、上記1(2)(20a)の記載より、皮脂腺は未分化細胞(胚芽層)がおよそ2週間で中心に移動して脂質合成に必要な酵素機能(enzymatic equipment)を含有する中心の分化細胞(皮脂腺細胞(sebocytes))となり、これらの細胞は1週間で皮脂が満たされた成熟細胞に変わり、最終的に大きな液胞を構成するように皮脂が合成又は貯蔵されることが記載されている。
引用文献21には、上記1(3)(21a)の記載より、皮脂形成において脂腺細胞の段階的分化があり、それは基本始原細胞から発生し脂質形成細胞に至り、これらの細胞は最終的に破裂し(ホロクリン分泌)、その脂質濃厚内容物(皮脂)が放出されること、放出される皮脂の全体的構成がスクアレン(12%)、コレステロール(2%)、ワックスエステル(26%)およびジグリセリド/トリグリセリド/遊離脂肪酸(57%)であることが記載されている。
引用文献22には、上記1(4)(22a)の記載より、皮脂が脂腺細胞(皮膚における脂腺の細胞)によって産生され、皮膚表面に分泌される皮膚オイルであること、皮脂は数多くの成分から構成され、約57%がトリグリセリドまたは脂肪酸であり、皮脂の約12%がスクアレンであり、皮脂の約3%がステロールエステルであり、約25%がワックスエステルであり、約1%から約2%がコレステロールであることが記載されている。
引用文献23には、上記1(5)(23a)の記載より、皮脂が約60%のトリグリセリド、25%のワックス(脂肪酸及びアルコールのエステル)、12%のスクアレン(コレステロール合成の中間生産物)、コレステロール、及び平衡のエステルからなることが記載されている。
引用文献24には、上記1(6)(24a)?(24b)の記載より、皮表脂質の脂質組成の代表例としてTable-1が示され、そのTable-1には、ジグリセリドが平均2.2%、コレステロールが平均1.4%、脂肪酸が平均16.4%、トリグリセリドが平均41.0%、ワックスエステルが平均25.0%、コレステロールエステルが平均2.1%、スクワレンが平均12.0%であることが記載されている。
これら技術常識を示す引用文献20?24の記載から、皮脂は未分化の皮脂腺細胞から段階的に分化し、成熟皮脂腺細胞となり分泌されること(引用文献20?22)、分泌される皮脂成分はトリグリセリド及び遊離脂肪酸が57?60%であること(引用文献21?23)、さらに、皮脂の平均的な組成として、脂肪酸が平均16.4%、トリグリセリドが平均41.0%(その合計は57.4%)であり(引用文献24)、皮脂の主要成分がトリグリセリドであることは、本願出願時の当業者における技術常識であったと認められる。
そうすると、上記の技術常識に基づけば、引用発明19における皮脂の分泌量の抑制のメカニズムについて、未分化の皮脂腺細胞から成熟皮脂腺細胞への分化の抑制にあることを解明し、さらに、皮脂の主要成分であるトリグリセリドに着目して、「未分化の皮脂腺細胞から成熟皮脂腺細胞への分化を抑制して未分化の皮脂腺細胞から分化した成熟皮脂腺細胞からのトリグリセリドの分泌を抑制する用途に用いられる」なる事項を引用発明19において更に規定することは、当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について
本願明細書の背景技術、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段、発明の効果等(段落【0002】?【0005】、【0007】?【0009】)の記載から、本願発明は、トリグリセリドを含めた皮脂の分泌を抑制するものであり、その態様には、脂性肌における皮脂分泌抑制も包含するものと認められるから、相違点2は、両発明における実質的な相違点とはならない。

(3)相違点3について
本願明細書の段落【0024】、【0034】等(有効成分の含有量、化粧料としての態様)の記載から、本願発明は、引用発明19の「フィチン酸を0.5%配合したローション」の態様も包含するものと認められるから、相違点3は、両発明における実質的な相違点とはならない。

(4)相違点4について
上記(1)において述べたように、引用文献20?24の記載より、皮脂は未分化の皮脂腺細胞から段階的に分化し成熟皮脂腺細胞となり分泌されること(引用文献20?22)、分泌される皮脂成分は、トリグリセリド及び遊離脂肪酸が57?60%であること(引用文献21?23)、さらに、皮脂の平均的な組成として、脂肪酸が平均16.4%、トリグリセリドが平均41.0%(その合計は57.4%)であり(引用文献24)、皮脂の主要成分がトリグリセリドであることは、本願出願時の当業者における技術常識であったと認められる。
そうすると、皮脂の主要成分であるトリグリセリドに着目して「皮脂分泌抑制剤」を「トリグリセリド分泌抑制剤」と規定する程度のことは、当業者が容易になし得ることである。

(5)効果について
引用文献19には、脂性肌における皮脂の分泌抑制効果について記載されているが、皮脂分泌のメカニズム及び皮脂のどの成分が抑制されているか明記されていない。
しかしながら、引用発明19と本願発明は、有効成分として同じ「フィチン酸」を用いた剤であることから、当然、同様な皮脂分泌メカニズムで皮脂の分泌抑制が行われると理解することに何ら矛盾はなく、合理的であると認められる。
また、上記(1)において述べたように、皮脂の主要成分がトリグリセリドであることは、本願出願時の当業者における技術常識であったことを考慮すると、引用発明19の効果について、フィチン酸による皮脂の主要成分であるトリグリセリドの分泌抑制を含む効果であることは、当業者が当然に予測できる効果であり、本願発明の効果は、格別顕著な効果とは認められない。

(6)請求人の令和2年4月15日提出の意見書について
請求人は、「引用文献19には、前記いたしましたように、「未分化の皮脂腺細胞から成熟皮脂腺細胞への分化を抑制して未分化の皮脂腺細胞から分化した成熟皮脂腺細胞からのトリグリセリドの分泌を抑制する用途に用いられるトリグリセリド分泌抑制剤」が具体的に記載されていないのみならず、フィチン酸がトリグリセリドの分泌を抑制することが記載されていないことから、フィチン酸がトリグリセリド分泌抑制剤に特有の格別顕著に優れた効果を発現することが具体的に記載されていません。
したがって、引用文献19には、本願発明の動機づけとなり得る事項が具体的に記載されているものとは認められません。」及び「技術常識を示す文献として引用文献20(特表2010-505800号公報)、引用文献21(特表2012-532871号公報)、引用文献22(特表2008-502618号公報)および引用文献23(特表2004-505904号公報)が挙げられていますが、これらの引用文献には、フィチン酸がトリグリセリドの分泌を抑制することが具体的に記載されていません。・・・・・
したがって、これらの引用文献には、本願発明の動機づけとなり得る事項が具体的に記載されているものとは認められません。」とした上で、本願発明の効果についても特有の格別顕著に優れた効果を奏するものであり、引用文献19に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと主張している。
しかしながら、引用文献19及び引用文献20?24の技術常識については、上記(1)及び(4)で述べたとおりであり、効果についても上記(5)で述べたとおりであるから、上記請求人の主張は採用できない。

(7)まとめ
したがって、本願発明は、引用文献19及び技術常識(引用文献20?24)に基いて、当業者が容易になし得たものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献19及び技術常識(引用文献20?24)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-08-06 
結審通知日 2020-08-11 
審決日 2020-08-24 
出願番号 特願2015-28921(P2015-28921)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 片山 真紀  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 西村 亜希子
佐々木 秀次
発明の名称 皮脂分泌抑制剤  
代理人 赤松 善弘  
代理人 赤松 善弘  

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