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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02M
管理番号 1366906
審判番号 不服2019-6049  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-09 
確定日 2020-10-08 
事件の表示 特願2016- 51575「モータ制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月21日出願公開、特開2017-169336〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成28年3月15日の出願であって、平成30年6月25日付けで拒絶理由通知がなされ、同年9月3日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、平成31年2月5日付けで拒絶査定がされた。これに対して令和1年5月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、手続補正書が提出され、当審において令和2年2月19日付けで拒絶理由通知がなされ、同年4月13日付けで手続補正書と意見書が提出されたものである。


2.本願発明
本願の特許請求の範囲は、令和2年4月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ネットワークに接続されたモータ制御装置であって、
前記ネットワークを介した信号の送受信を行う通信回路と、
前記通信回路を介して受信する指令値に基づいてモータを駆動するモータ駆動指令値を出力するモータ制御部と、
前記モータ駆動指令値から、前記モータを駆動するモータ駆動信号を出力するモータ駆動回路と、
前記モータ駆動信号に基づいてスイッチングを行うことで前記モータを駆動する電力を供給するインバータ部と、
前記通信回路を介して受信する通信データからモータの駆動許可信号を出力する安全制御部と、
入力された前記モータ駆動信号を前記インバータ部へ遮断する遮断回路と、
冗長化された安全入力信号を受け付ける安全入力部と、
前記安全制御部はさらに、前記通信データに含まれる安全関連データを所定のプロトコルに基づいた処理を行う安全通信部と、
前記安全通信部が処理を行った前記安全関連データに前記モータを安全状態にする信号が含まれている場合に加え、前記安全通信部から通信異常が通知された場合に前記駆動許可信号を出力しない安全処理部とを備え、
前記遮断回路は、前記安全入力信号と、前記駆動許可信号との論理積が入力されるように構成されており、前記安全入力信号および前記駆動許可信号の少なくとも何れかが入力されていない状態で前記モータ駆動信号を遮断し、
前記モータ制御部は、前記遮断回路が前記モータ駆動信号を遮断している場合に、前記モータ駆動指令値を出力しないことを特徴とする、モータ制御装置。」


3.当審の拒絶の理由
当審において令和2年2月19日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

3-1.理由1(進歩性)
本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2乃至5に記載の技術事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3-2.理由2(サポート要件)
請求項1に「前記モータ制御部は、前記遮断回路が前記モータ駆動信号を遮断している場合に、前記モータ駆動指令値を出力しない」と記載されているが、発明の詳細な説明には対応する記載がなく、請求項1の記載と発明の詳細な説明の対応が不明りょうであるから、本件出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3-3.理由3(明確性)
請求項1には「前記駆動許可信号及び前記モータ駆動信号が入力され、前記駆動許可信号が入力されていない状態で、前記モータ駆動信号を前記インバータ部へ遮断する遮断回路」と記載されている、一方、「前記遮断回路に対する入力は、前記安全入力信号と、前記駆動許可信号との論理積が入力されるように構成されており」とも記載されている。してみると、遮断回路には、駆動許可信号のみが入力するのか、安全入力信号と駆動許可信号との論理積が入力するのか、或いは、駆動許可信号と論理積の両方が入力するのかが不明であり、遮断回路に対する入力を技術的に理解することができず、請求項1の記載は不明りょうであるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

引 用 文 献 等 一 覧
引用文献1.特開2013-5577号公報
引用文献2.特開2010-284051号公報
引用文献3.特開2008-118834号公報
引用文献4.特開2005-223998号公報
引用文献5.特開2005-103690号公報


4.当審の判断
(1)引用発明・引用文献の技術
ア.引用文献1
当審で通知した拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに以下の記載がある。(下線部は当審において付加した。以下同じ)

a.「【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークを介して外部コントローラと通信データの送受信を行う通信機能と、前記通信データによって設定される安全機能とを備えたインバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な産業用通信方式が規格化されている(例えば、PROFIBUS(登録商標)、EtherCAT(登録商標)、Ethernet/IP(登録商標)など)。また、通信方式には、安全関連の信号(非常停止や安全ブレーキ制御、電力遮断など)の安全通信に対応しているものがあり、それらに対応するためには装置内部に安全装置が必要となる。」

b.「【0012】
以下、本発明に係るインバータ装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係るインバータ装置のシステム構成を示すブロック図である。この図1において、プログラマブルコントローラ(PLC)、パーソナルコンピュータ(PC)等で構成される外部コントローラ1と安全通信対応のインバータ装置2とがネットワーク3を介して接続されている。ここで、ネットワーク3は、例えば、PROFIBUS(登録商標)、EtherCAT(登録商標)、Ethernet/IP(登録商標)などの産業用通信方式を採用して通信データの送受信を行う。
【0013】
外部コントローラ1は、インバータ装置2に対して、図2に示す通信メッセージM1を送信する。この通信メッセージM1のフレーム構成は、ネットワーク3内におけるインバータ装置2を表す固有のアドレスを格納するアドレス格納領域11と、メッセージのデータ形式などを示すヘッダを格納するヘッダ格納領域12と、インバータ装置2によって電動機を制御するための制御指令を格納する制御指令格納領域13と、安全機能を動作させるための安全機能設定信号を格納する設定信号格納領域14とで構成されている。ここで、通信メッセージM1の全体のエラー検出を行う場合には、フレームチェックシーケンスFCS等の誤り符号をメッセージフレームの最後に付加する。なお、通信メッセージは、上記のフレーム構成に限定されるものではなく、対応する通信規格によってメッセージのフレーム構成が異なる。
【0014】
インバータ装置2は、ネットワーク3に接続された通信機能に安全機能の一部が付加された通信処理部としての通信モジュール21と、この通信モジュール21から安全機能設定信号が入力される安全処理部としての安全モジュール22と、通信モジュール21から指令信号及び安全信号が入力されるとともに、安全モジュール22から安全信号が入力され、これらに基づいて電力変換器23を制御する制御装置24とを備えている。そして、電力変換器23から出力される駆動信号が電動機25に出力される。また、制御装置24には、表示装置26が接続されている。
【0015】
通信モジュール21は、ネットワーク3に接続して採用された通信方式に対応した手順で通信データの送受信を行う通信用IC21aと、この通信用IC21aに接続された通信機能及び安全機能の一部を実現する演算処理部としての中央演算処理装置(CPU)21bとで構成されている。
中央演算処理装置21bは、図3に示す通信・安全処理を実行する。この通信・安全処理は、図3に示すように、先ず、ステップS1で、ネットワーク3を介して外部コントローラ1からの通信メッセージM1を受信したか否かを判定し、通信メッセージM1を受信していないときには、通信メッセージM1を受信するまで待機し、通信メッセージM1を受信したときにはステップS2に移行する。
【0016】
このステップS2では、安全モジュール22が存在するか否かを判定する。この判定は、制御装置24の起動時に行われる起動時処理で通信モジュール21及び安全モジュール22の存在を確認したときの安全モジュール22の確認結果が通知されており、この確認結果に基づいて安全モジュール22が存在するか否かを判定する。
このステップS2の判定結果が、安全モジュール22が存在しない場合にはステップS4にジャンプし、安全モジュール22が存在する場合にはステップS3に移行して、受信した通信メッセージM1に安全機能設定信号が含まれているか否かを判定し、安全機能設定信号が含まれている場合には、後述するステップS6に移行し、安全機能設定信号が含まれていない場合には、ステップS4に移行する。
【0017】
ステップS4では、通信メッセージM1に含まれる制御指令に基づいて制御装置24の指令信号を生成し、次いでステップS5に移行して、指令信号を制御装置5へ送信してから前記ステップS1に戻る。
また、ステップS6では、通信メッセージM1の制御指令と安全機能設定信号とで構成されるデータ部分を制御指令と安全機能設定信号とに分割する分割処理を行ってからステップS7に移行する。
【0018】
このステップS7では、安全機能設定信号を安全モジュール22に送信し、ついでステップS8に移行して、安全機能設定信号のエラーチェックを行う。このエラーチェック結果でエラーが無いときには、ステップS10に移行して、安全機能設定信号に基づいて安全信号処理を行って、安全機能設定信号に対応した安全信号SS1を生成する。
次いで、ステップS11に移行して、生成した安全信号SS1を制御装置24へ送信してから前記ステップS4に移行する。
【0019】
また、前記ステップS9の判定結果が安全機能設定信号にエラーが有る場合には、ステップS12に移行して、電動機25を停止させる非常停止処理を行ってから前記ステップS1に戻る。
また、安全モジュール22は、演算処理部としての1つの中央演算処理装置(CPU)22aを備えている。この中央演算処理装置22aは、図4に示す安全処理を実行する。
【0020】
この安全処理は、図4に示すように、先ず、ステップS21で、通信モジュール21の中央演算処理装置21bから送信される安全機能設定信号を受信したか否かを判定し、安全機能設定信号を受信していないときにはこれを受信するまで待機し、安全機能設定信号を受信したときにはステップS22に移行する。
このステップS22では、受信した安全機能設定信号のエラーチェックを行い、次いでステップS23に移行して、安全機能設定信号のエラーチェック結果でエラーが有るか否かを判定し、エラーが無い場合には、ステップS24に移行して安全機能設定信号に基づいて安全信号処理を行って、安全機能設定信号に対応した安全信号SS2を生成する。
【0021】
次いで、ステップS25に移行して、生成した安全信号SS2を制御装置24へ送信してから前記ステップS21に戻る。
また、前記ステップS23で安全機能設定信号にエラーがあるときには、ステップS26に移行して、電動機25を停止させる非常停止処理を行ってから前記ステップS21に戻る。」

c.「【0048】
そして、制御装置24は、起動時処理が終了すると、図6に示す制御処理を実行する。この制御処理では、起動時処理で通信モジュール21の中央演算処理装置21b及び安全モジュール22の中央演算処理装置22aがともに正常であるときには、ステップS61からステップS63に移行して、通信モジュール21の中央演算処理装置21bから安全信号SS1を受信するとともに、安全モジュール22の中央演算処理装置22aから安全信号SS2を受信したか否かを判定する。安全信号SS1及びSS2を受信していないときには、これらを受信するまで待機し、安全信号SS1及びSS2を受信したときには、受信した安全信号SS1及びSS2を比較し(ステップS64)、安全信号SS1及びSS2に差があるか否かを判定する(ステップS65)。
【0049】
そして、受信した安全信号SS1及びSS2に差があるときには非常停止処理を行って電力変換器23による電動機25の駆動を停止してから制御処理を終了する。
しかしながら、安全信号SS1及びSS2に差がないときには、通信モジュール21の中央演算処理装置21bで実行する安全処理と、安全モジュール22の中央演算処理装置22aで実行する安全処理がともに正常であると判断してステップS66に移行する。このステップS66では、安全信号SS1及びSS2に安全処理が含まれているか否かを判定し、安全処理が含まれているときにはステップS67に移行して、安全処理に対応する各種安全動作を実行してから前記ステップS61に戻る。
【0050】
また、ステップS66の判定結果が安全信号SS1及びSS2に安全処理が含まれていない場合には、ステップS68に移行して、通信モジュール21の中央演算処理装置21bから指令信号を受信したか否かを判定し、指令信号を受信していないときには指令信号を受信するまで待機し、指令信号を受信したときには、ステップS69に移行して、指令信号に基づいて電力変換器23に対する制御信号を生成し、生成した制御信号を電力変換器23へ送信してから前記ステップS61へ戻る。」

d.「図1





・上記bの段落【0014】、図1(上記d)には、ネットワーク3に接続された通信機能に安全機能の一部が付加された通信処理部としての通信モジュール21と、この通信モジュール21から安全機能設定信号が入力される安全処理部としての安全モジュール22と、通信モジュール21から指令信号及び安全信号が入力されるとともに、安全モジュール22から安全信号が入力され、これらに基づいて電力変換器23を制御する制御装置24とを備えているインバータ装置2が、さらに、電力変換器23から出力される駆動信号が電動機25に出力されることが記載されている。また、段落【0013】、図1(上記d)には、インバータ装置2には、ネットワークを介して通信メッセージM1を送信する外部コントローラ1が接続されていることが記載されている。
してみると、引用文献1には、ネットワーク3に接続された通信モジュール21と、この通信モジュール21から安全機能設定信号が入力される安全モジュール22と、通信モジュール21から指令信号及び安全信号が入力されるとともに、安全モジュール22から安全信号が入力され、これらに基づいて電力変換器23を制御する制御装置24と、駆動信号を電動機25に出力する電力変換器23とを備え、ネットワークを介して通信メッセージM1を送信する外部コントローラ1が接続されているインバータ装置2、が記載されているといえる。
・上記bの段落【0013】には、通信メッセージM1のフレーム構成は、ネットワーク3内におけるインバータ装置2を表す固有のアドレスを格納するアドレス格納領域11と、メッセージのデータ形式などを示すヘッダを格納するヘッダ格納領域12と、インバータ装置2によって電動機を制御するための制御指令を格納する制御指令格納領域13と、安全機能を動作させるための安全機能設定信号を格納する設定信号格納領域14とで構成されていることが記載されている。
・上記bの段落【0015】には、通信モジュール21は、ネットワーク3に接続して採用された通信方式に対応した手順で通信データの送受信を行う通信用IC21aと、この通信用IC21aに接続された通信機能及び安全機能の一部を実現する演算処理部としての中央演算処理装置(CPU)21bとで構成されていることが記載されている。
・上記bの段落【0015】には、中央演算処理装置21bは、通信・安全処理として、ネットワーク3を介して外部コントローラ1からの通信メッセージM1を受信すること、さらに、段落【0016】、【0017】には、受信した通信メッセージM1に安全機能設定信号が含まれていない場合には、通信メッセージM1に含まれる制御指令に基づいて制御装置24の指令信号を生成し、指令信号を制御装置5(審判注:「制御装置24」の誤記と認められる。)へ送信することが記載されている。また、段落【0016】、【0017】、【0018】には、受信した通信メッセージM1に安全機能設定信号が含まれている場合には、通信メッセージM1の制御指令と安全機能設定信号とで構成されるデータ部分を制御指令と安全機能設定信号とに分割する分割処理を行って、安全機能設定信号を安全モジュール22に送信し、さらに、安全機能設定信号に基づいて安全信号処理を行って、安全機能設定信号に対応した安全信号SS1を生成し制御装置24へ送信することが記載されている。
してみると、引用文献1には、央演算処理装置21bは、ネットワーク3を介して外部コントローラ1からの通信メッセージM1を受信し、受信した通信メッセージM1に安全機能設定信号が含まれていない場合には、通信メッセージM1に含まれる制御指令に基づいて制御装置24の指令信号を生成し、指令信号を制御装置24へ送信し、また、受信した通信メッセージM1に安全機能設定信号が含まれている場合には、通信メッセージM1の制御指令と安全機能設定信号とで構成されるデータ部分を制御指令と安全機能設定信号とに分割する分割処理を行って、安全機能設定信号を安全モジュール22に送信し、さらに、安全機能設定信号に基づいて安全信号処理を行って、安全機能設定信号に対応した安全信号SS1を生成し制御装置24へ送信することが記載されているといえる。
・上記bの段落【0019】には、安全モジュール22は、演算処理部としての1つの中央演算処理装置(CPU)22aを備えていること、また、この中央演算処理装置22aは、安全処理を実行することが、さらに、この安全処理として段落【0020】、【0021】には、中央演算処理装置21bから送信される安全機能設定信号を受信し、安全機能設定信号に基づいて安全信号処理を行って、安全機能設定信号に対応した安全信号SS2を生成し制御装置24へ送信することが記載されている。
してみると、引用文献1には、安全モジュール22は、演算処理部としての1つの中央演算処理装置(CPU)22aを備え、該中央演算処理装置22aは、中央演算処理装置21bから送信される安全機能設定信号を受信し、安全機能設定信号に基づいて安全信号処理を行って、安全機能設定信号に対応した安全信号SS2を生成し制御装置24へ送信することが記載されているといえる。
・上記cの段落【0048】には、制御装置24は制御処理を実行することが、さらに、この制御処理として段落【0048】、【0049】には、通信モジュール21の中央演算処理装置21bから安全信号SS1を受信するとともに、安全モジュール22の中央演算処理装置22aから安全信号SS2を受信し、安全信号SS1及びSS2に安全処理が含まれているときには安全処理に対応する各種安全動作を実行することが、また、段落【0050】には、安全信号SS1及びSS2に安全処理が含まれていない場合には、指令信号を受信すると、指令信号に基づいて電力変換器23に対する制御信号を生成し、生成した制御信号を電力変換器23へ送信することが記載されている。
してみると、引用文献1には、制御装置24は、通信モジュール21の中央演算処理装置21bから安全信号SS1を受信するとともに、安全モジュール22の中央演算処理装置22aから安全信号SS2を受信し、安全信号SS1及びSS2に安全処理が含まれているときには安全処理に対応する各種安全動作を実行し、また、安全信号SS1及びSS2に安全処理が含まれていない場合には、指令信号を受信すると、指令信号に基づいて電力変換器23に対する制御信号を生成し、生成した制御信号を電力変換器23へ送信することが記載されているといえる。

以上総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「ネットワーク3に接続された通信モジュール21と、この通信モジュール21から安全機能設定信号が入力される安全モジュール22と、通信モジュール21から指令信号及び安全信号が入力されるとともに、安全モジュール22から安全信号が入力され、これらに基づいて電力変換器23を制御する制御装置24と、駆動信号を電動機25に出力する電力変換器23とを備え、ネットワーク3を介して通信メッセージM1を送信する外部コントローラ1が接続されているインバータ装置2において、
通信メッセージM1のフレーム構成は、ネットワーク3内におけるインバータ装置2を表す固有のアドレスを格納するアドレス格納領域11と、メッセージのデータ形式などを示すヘッダを格納するヘッダ格納領域12と、インバータ装置2によって電動機を制御するための制御指令を格納する制御指令格納領域13と、安全機能を動作させるための安全機能設定信号を格納する設定信号格納領域14とで構成されており、
通信モジュール21は、ネットワーク3に接続して採用された通信方式に対応した手順で通信データの送受信を行う通信用IC21aと、この通信用IC21aに接続された通信機能及び安全機能の一部を実現する演算処理部としての中央演算処理装置(CPU)21bとで構成されており、
中央演算処理装置21bは、ネットワーク3を介して外部コントローラ1からの通信メッセージM1を受信し、受信した通信メッセージM1に安全機能設定信号が含まれていない場合には、通信メッセージM1に含まれる制御指令に基づいて制御装置24の指令信号を生成し、指令信号を制御装置24へ送信し、また、受信した通信メッセージM1に安全機能設定信号が含まれている場合には、通信メッセージM1の制御指令と安全機能設定信号とで構成されるデータ部分を制御指令と安全機能設定信号とに分割する分割処理を行って、安全機能設定信号を安全モジュール22に送信し、さらに、安全機能設定信号に基づいて安全信号処理を行って、安全機能設定信号に対応した安全信号SS1を生成し制御装置24へ送信するものであり、
安全モジュール22は、演算処理部としての1つの中央演算処理装置(CPU)22aを備え、該中央演算処理装置22aは、中央演算処理装置21bから送信される安全機能設定信号を受信し、安全機能設定信号に基づいて安全信号処理を行って、安全機能設定信号に対応した安全信号SS2を生成し制御装置24へ送信するものであり、
制御装置24は、通信モジュール21の中央演算処理装置21bから安全信号SS1を受信するとともに、安全モジュール22の中央演算処理装置22aから安全信号SS2を受信し、安全信号SS1及びSS2に安全処理が含まれているときには安全処理に対応する各種安全動作を実行し、また、安全信号SS1及びSS2に安全処理が含まれていない場合には、指令信号を受信すると、指令信号に基づいて電力変換器23に対する制御信号を生成し、生成した制御信号を電力変換器23へ送信するものである、
インバータ装置2。」

イ.引用文献2
当審で通知した拒絶理由に引用された引用文献2には、図面とともに以下の記載がある。

a.「【0027】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。図1は、この実施形態の構成を示すブロック図である。
図1において、300は負荷としてのモータ200を駆動するインバータ装置である。このインバータ装置300は、端子台基板400、制御基板500及びドライブ基板600を備えている。
【0028】
端子台基板400には、外部からの遮断信号S1を二つに分岐して制御基板500に入力するための信号入力素子401,402が設けられている。図1では、これらの信号入力素子401,402をダイオードにより表示してある。
制御基板500には、一方の遮断信号S1の論理を反転させる反転回路501が設けられ、反転回路501の出力信号S2は、駆動信号発生回路としてのCPU510及び上アーム用遮断回路520に入力されている。また、他方の遮断信号S1は、そのままの論理で信号S3として、CPU510及び下アーム用遮断回路530に入力されている。
ここでは、信号S2,S3も信号S1と同様に遮断信号と呼ぶことにする。
【0029】
CPU510からは、3つの上アームゲート信号S4が出力される。これらのゲート信号S4は、上アーム用遮断回路520を介し、ゲート信号S6としてドライブ基板600内の上アーム用フォトカプラ610に入力されている。同様に、CPU510からは3つの下アームゲート信号S5が出力される。これらのゲート信号S5は、下アーム用遮断回路530を介し、ゲート信号S7としてドライブ基板600内の下アーム用フォトカプラ620に入力されている。
【0030】
また、各遮断回路520,530には故障検出回路540が接続されており、故障検出回路540の出力信号(フィードバック信号)S8がCPU510に入力されている。ここで、故障とは、例えば、遮断信号S2,S3やゲート信号S6,S7、フィードバック信号S8が、LowレベルまたはHighレベルのままで固定されるような状態を指すものとする。」

b.「【0035】
図1でも説明したように、CPU510からは、各3つの上アームゲート信号S4、下アームゲート信号S5が上アーム用遮断回路520、下アーム用遮断回路530に入力されている。各遮断回路520,530は、例えば出力イネーブルゲート付きの3ステートバッファからなっており、イネーブルゲートがLowアクティブ(負論理)の回路が上アーム用遮断回路520を構成し、イネーブルゲートがHighアクティブ(正論理)の回路が下アーム用遮断回路530を構成している。
上アーム用遮断回路520から出力されるゲート信号S6はドライブ基板600内の上アーム用フォトカプラ610に入力され、下アーム用遮断回路530から出力されるゲート信号S7は下アーム用フォトカプラ620に入力されている。」

c.「図2



ウ.引用文献3
当審で通知した拒絶理由に引用された引用文献3には、図面とともに以下の記載がある。

a.「【0014】
図1は、本発明の実施形態のインバータ装置の構成を示す図である。実施形態のインバータ装置1は、この実施例では、バッテリ101から入力される直流電圧から3相交流を生成してモータ102に供給するものとする。なお、インバータ装置1は、入力コンデンサCを備えている。
【0015】
インバータ装置1の電力変換部は、U相スイッチ回路10、V相スイッチ回路20、W相スイッチ回路30を含んで構成されている。スイッチ回路10、20、30は、それぞれ、互いに直列的に接続された上アームスイッチおよび下アームスイッチを含んで構成されている。すなわち、U相スイッチ回路10はスイッチング素子11、12を備え、V相スイッチ回路20はスイッチング素子21、22を備え、W相スイッチ回路30はスイッチング素子31、32を備える。各スイッチング素子は、例えば、MOSトランジスタまたはIGBT等のトランジスタである。また、各スイッチング素子にはそれぞれダイオードが接続されている。
【0016】
電流センサ(検出手段)13、23、33は、それぞれ、対応するスイッチ回路10、20、30を介して流れる電流を検出する。これらの電流センサは、特に限定されるものではないが、例えば、シャント抵抗であってもよいし、磁束を測定する非接触型のセンサであってもよい。
【0017】
制御部(制御信号生成手段)40は、スイッチング素子11、12、21、22、31、32を制御するための制御信号を生成する。これらの制御信号は、例えば、モータ102の回転数を所望の値にするように、或いはモータ102に所望のトルクを発生させるように生成される。そして、上アームスイッチング素子11、21、31を制御するための各制御信号は、それぞれ上アーム遮断回路70を介して対応する素子の制御端子へ導かれる。また、下アームスイッチング素子12、22、32を制御するための各制御信号は、それぞれ下アーム遮断回路60を介して対応する素子の制御端子へ導かれる。なお、後で詳しく説明するが、遮断回路60、70は、通常動作時は、これらの制御信号をそのまま通過させる。
【0018】
上記構成のインバータ装置1は、サージ電圧を低減する機能(サージ低減回路)を備える。サージ低減回路は、遮断信号生成回路50、下アーム遮断回路60、上アーム遮断回路70により構成される。
【0019】
遮断信号生成回路50は、過電流検出回路51および遅延回路52を備える。過電流検出回路51は、電流センサ13、23、33の出力信号を常にモニタしており、それらのうちの1つ以上の電流センサにおいて閾値を超える電流が検出されたときに、下アーム遮断信号を出力する。下アーム遮断信号は、下アーム遮断回路60へ与えられる。また、遅延回路52は、下アーム遮断信号を所定時間だけ遅延させることにより、上アーム遮断信号を生成する。上アーム遮断信号は、上アーム遮断回路70へ与えられる。
【0020】
下アーム遮断回路60は、3個のゲート回路(この実施例では、ANDゲート)を含んで構成される。各ゲート回路は、インバータ装置1が通常動作をしているときは、制御部40から出力される制御信号をそのまま通過させる。一方、過電流が発生して遮断信号生成回路50から下アーム遮断回路60へ下アーム遮断信号が与えられると、各ゲート回路は、制御部40から出力される制御信号を遮断する。そうすると、下アームスイッチング素子12、22、32は、オフ状態に制御される。
【0021】
上アーム遮断回路70の構成および動作は、基本的に、下アーム遮断回路60と同じである。すなわち、インバータ装置1が通常動作をしているときは、制御部40から出力される制御信号をそのまま通過させる。そして、過電流が発生して遮断信号生成回路50から上アーム遮断信号が与えられると、制御部40から出力される制御信号を遮断する。そうすると、上アームスイッチング素子11、21、31は、オフ状態に制御される。
【0022】
上記構成のインバータ装置1において、過電流検出回路51は、例えば、コンパレータにより実現される。そして、過電流検出回路51は、この実施例では、検出された電流が閾値以下であれば「H」を出力し、検出された電流が閾値を超えていれば「L」を出力する。」

b.「図1



エ.引用文献5
当審で通知した拒絶理由に引用された引用文献5には、図面とともに以下の記載がある。

a.「【0014】
図1は、本発明の第1の実施形態である安全システムの構成を示す。図において、1は第1の安全装置であり、2は第2の安全装置である。前記2つの安全装置1、2はコネクタ3で接続することができる。第1の安全装置1にはペンダント43、操作パネル47、外部操作装置48の各非常停止ボタン、扉開閉検出装置46、図示しない安全マットスイッチ、ライトカーテンの出力などのローカル安全信号9が接続されている。図示しない駆動装置は、図示しない駆動電源装置より駆動に必要な電源の供給を受けるが、駆動電源装置への電源は、第1の安全装置1より制御される継電器10で投入と遮断が行なわれる。
【0015】
第2の安全装置2には、図示しないPLCなどの制御装置に入力された非常停止、安全防護柵28の他の扉開閉検出装置、駆動電源遮断指令などのリモート安全信号を含むシリアル信号を、シリアルバス11で送信と受信を行なうインターフェース12が備わり、送受信情報はコネクタ3を介して第1の安全装置1に接続される。
第1の安全装置には論理演算回路4と、第2の安全装置2がコネクタ3を介して接続されているかを検出する装置検出回路7と、ローカル安全信号9とリモート安全信号の有効または無効の切替情報を設定する切替設定器8が備わっており、装置検出回路7の出力情報及び切替設定器8の設定情報は論路回路4へ接続されている。
【0016】
論理演算回路4にはローカル安全信号9及びリモート安全信号の入力有効又は入力無効を選択するローカル安全信号選択回路5と、リモート安全信号選択回路6とが含まれており、装置検出回路7出力情報と切替設定器8の設定情報で、リモート安全信号9とローカル安全信号の入力有効または入力無効の選択切替を行なう。さらに、論理演算回路4は、諸入力より論理演算で求められた駆動電源の投入/遮断制御信号を、第1の安全装置1より出力され、継電器10を継電、遮断する。尚、継電器10駆動のための増幅回路は図示していない。
【0017】
図2は論理演算回路4の一部である非常停止信号の論理演算回路図である。図において、13及び14はOR回路、15及び16はAND回路、17は継電器13駆動回路である。ローカル非常停止とリモート非常停止の双方とも非常停止スイッチが操作されていない状態を論理1、非常停止スイッチ操作されている状態を論理0として入力されているものとする。OR回路13の出力は、ローカル安全信号無効が論理0、すなわち入力有効であればローカル非常停止の論理状態を出力し、ローカル安全信号無効が論理1、すなわち入力無効であれば論理1が出力される。同様に、OR回路14の出力は、リモート安全信号無効が論理0、すなわち入力有効であればリモート非常停止の論理状態を出力し、リモート安全信号無効が論理1、すなわち入力無効であれば論理1が出力される。
【0018】
OR回路13、14の出力はAND回路15に入力され、その出力は、他の信号である安全マットスイッチ、ライトカーテンなどの論理演算回路の出力と共にAND回路16に入力され、全ての入力が論理1のときに論理1を出力して継電器10を通電励磁するため継電器駆動回路17で増幅される。
【0019】
この論理演算回路におけるローカル安全信号無効とリモート安全信号無効は装置検出回路7の出力情報と切替設定器8の設定情報を基づいて決められるようになっており、例えば図3の安全信号無効論理表ようになっている。この安全信号無効論理表にしたがってローカル安全信号無効及びリモート安全信号無効の論理が定められ、図2で示す安全回路に入力される。装置検出回路7の出力が論理0のとき、すなわち第2の安全装置が接続されていないときは、切替設定器8の設定に関わらず、ローカル安全信号は入力有効及びリモート安全信号は入力無効となる論理となる。装置検出回路7の出力が論理1のときでは、切替設定器8の設定に基づいてローカル安全信号無効及びリモート安全信号無効の論理が定められ、設定が0のときは、ローカル安全信号は入力有効及びリモート安全信号は入力無効、設定が1のときは、ローカル安全信号は入力無効及びリモート安全信号は入力有効、設定が2のときは。ローカル安全信号は入力有効及びリモート安全信号は入力有効となっている。」

b.「図1



c.「図2



d.「図3



(2)対 比
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明とを対比する。

a. 引用発明の「ネットワーク3」、「電動機25」は、本願発明の「ネットワーク」、「モータ」に相当する。
そして、引用発明の「インバータ装置2」は、ネットワーク3に接続され駆動信号によって電動機25を制御するものであるから、本願発明の「ネットワークに接続されたモータ制御装置」に相当する。
b.引用発明の「通信用IC21a」は、ネットワーク3に接続して通信データの送受信を行うものであるから、本願発明の「前記ネットワークを介した信号の送受信を行う通信回路」に相当する。
c.引用発明の「中央演算処理装置(CPU)21b」は、「通信用IC21a」が受信した通信メッセージM1に含まれる「電動機を制御するための制御指令」に基づいて制御装置24の「指令信号」を生成するものである。
してみると、引用発明の「制御指令」は、本願発明の「前記通信回路を介して受信する指令値」に相当し、また、引用発明の「指令信号」は、本願発明の「モータを駆動するモータ駆動指令値」に相当する。そして、引用発明の「中央演算処理装置(CPU)21b」は、本願発明の「前記通信回路を介して受信する指令値に基づいてモータを駆動するモータ駆動指令値を出力するモータ制御部」に相当する。
ただし、モータ制御部が、本願発明では「前記遮断回路が前記モータ駆動信号を遮断している場合に、前記モータ駆動指令値を出力しない」のに対して、引用発明ではその旨の特定がされていない点で相違する。
d.引用発明の「制御装置24」は、電動機を制御するための信号である指令信号を受信すると、指令信号に基づいて「制御信号」を生成するものである。そして、該「制御信号」は、下記eに説示するように「インバータ装置2」の「電力変換器23」のスイッチングのために用いられるものである。
一方、本願発明の「モータ駆動信号」は、「モータ駆動指令値」から出力されるものであって、また、「インバータ部」のスイッチングを行うために用いられるものである。
してみると、引用発明の「制御信号」は、本願発明の「前記モータを駆動するモータ駆動信号」に相当し、そして、引用発明の「制御装置24」は、本願発明の「前記モータ駆動指令値から、前記モータを駆動するモータ駆動信号を出力するモータ駆動回路」に相当する。
e.引用発明の「インバータ装置2」の「電力変換器23」は、制御装置24から「制御信号」が送信され電動機25に駆動信号を出力するものであり、「制御信号」に基づいてスイッチングが行われていることは明らかであるから、本願発明の「前記モータ駆動信号に基づいてスイッチングを行うことで前記モータを駆動する電力を供給するインバータ部」に相当する。
f.引用発明の「通信メッセージM1」は、本願発明の「通信データ」に相当する。
そして、引用発明の「中央演算処理装置21b」及び「中央演算処理装置(CPU)22a」は、通信用IC21aを介して「通信メッセージM1」の一部である安全機能設定信号を受信し、安全機能設定信号に対応した安全信号SS1及び安全信号SS2を生成し「制御部24」に送信するものである。そして、「制御装置24」は、安全信号SS1及び安全信号SS2に安全処理が含まれていると安全動作を実行するものであって、また、引用文献1の段落【0002】を参照すると、ネットワークを介した安全通信の安全関連の信号には非常停止や安全ブレーキ制御、電力遮断などを含むものであるから、安全信号SS1及び安全信号SS2によって電動機25の駆動を制御しているものと認められる。
してみると、引用発明の「中央演算処理装置21b」、「中央演算処理装置(CPU)22a」及び「制御装置24」と、本願発明の「前記通信回路を介して受信する通信データからモータの駆動許可信号を出力する安全制御部」とは、「前記通信回路を介して受信する通信データからモータの駆動を制御する安全制御部」の点では共通する。
ただし、モータの駆動を制御することが、本願発明では「モータの駆動許可信号を出力する」ことであるのに対して、引用発明ではその旨の特定がされていない点で相違する。
g.引用発明の「安全機能設定信号」は、「通信メッセージM1」に含まれるものであるから、本願発明の「前記通信データに含まれる安全関連データ」に相当する。
また、引用発明の「中央演算処理装置21b」及び「中央演算処理装置(CPU)22a」は、「安全機能設定信号」から「安全信号SS1」及び「安全信号SS2」を生成するものであって、その際に何らかの手順(プロトコル)に基づいて処理をしていることは明らかである。
してみると、引用発明の「中央演算処理装置21b」及び「中央演算処理装置(CPU)22a」は、本願発明の「前記通信データに含まれる安全関連データを所定のプロトコルに基づいた処理を行う安全通信部」に相当する。
h.上記fで検討したように、引用発明の「制御装置24」は、安全信号SS1及びSS2に安全処理が含まれているときには電動機の非常停止や安全ブレーキ制御、電力遮断などを制御するものであり、安全信号SS1及びSS2に含まれる安全処理はモータを安全状態にする信号と認められる。
してみると、引用発明の「制御装置24」と、本願発明の「前記安全通信部が処理を行った前記安全関連データに前記モータを安全状態にする信号が含まれている場合に加え、前記安全通信部から通信異常が通知された場合に前記駆動許可信号を出力しない安全処理部」とは、「前記安全通信部が処理を行った前記安全関連データに前記モータを安全状態にする信号が含まれている場合に、モータの駆動を制御する安全処理部」の点では共通する。
ただし、安全処理部が、本願発明では「前記安全通信部が処理を行った前記安全関連データに前記モータを安全状態にする信号が含まれている場合に加え、前記安全通信部から通信異常が通知された場合に前記駆動許可信号を出力しない」のに対して、引用発明では制御装置に関してその旨の特定がされていない点で相違する。
i.さらに、本願発明では「入力された前記モータ駆動信号を前記インバータ部へ遮断する遮断回路」を備えているのに対して、引用発明ではそのような遮断回路を備えていない点で相違する。
また、本願発明では「冗長化された安全入力信号を受け付ける安全入力部」を備えているのに対して、引用発明ではそのような安全入力部を備えていない点で相違する。
また、本願発明では「前記遮断回路は、前記安全入力信号と、前記駆動許可信号との論理積が入力されるように構成されており、前記安全入力信号および前記駆動許可信号の少なくとも何れかが入力されていない状態で前記モータ駆動信号を遮断」するものであるのに対して、引用発明ではその旨の特定がされていない点で相違する。

したがって、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「ネットワークに接続されたモータ制御装置であって、
前記ネットワークを介した信号の送受信を行う通信回路と、
前記通信回路を介して受信する指令値に基づいてモータを駆動するモータ駆動指令値を出力するモータ制御部と、
前記モータ駆動指令値から、前記モータを駆動するモータ駆動信号を出力するモータ駆動回路と、
前記モータ駆動信号に基づいてスイッチングを行うことで前記モータを駆動する電力を供給するインバータ部と、
前記通信回路を介して受信する通信データからモータの駆動を制御する安全制御部と、
前記安全制御部はさらに、前記通信データに含まれる安全関連データを所定のプロトコルに基づいた処理を行う安全通信部と、
前記安全通信部が処理を行った前記安全関連データに前記モータを安全状態にする信号が含まれている場合に、モータの駆動を制御する安全処理部とを備えた、
モータ制御装置。」

(相違点1)
「安全制御部」のモータの駆動を制御することが、本願発明では「モータの駆動許可信号を出力する」ことであるのに対して、引用発明ではその旨の特定がされていない点

(相違点2)
本願発明では「入力された前記モータ駆動信号を前記インバータ部へ遮断する遮断回路」を備えているのに対して、引用発明ではそのような遮断回路を備えていない点。

(相違点3)
本願発明では「冗長化された安全入力信号を受け付ける安全入力部」を備えているのに対して、引用発明ではそのような安全入力部を備えていない点。

(相違点4)
本願発明では「前記遮断回路は、前記安全入力信号と、前記駆動許可信号との論理積が入力されるように構成されており、前記安全入力信号および前記駆動許可信号の少なくとも何れかが入力されていない状態で前記モータ駆動信号を遮断」するものであるのに対して、引用発明ではその旨の特定がされていない点。

(相違点5)
安全処理部が、本願発明では「前記安全通信部が処理を行った前記安全関連データに前記モータを安全状態にする信号が含まれている場合に加え、前記安全通信部から通信異常が通知された場合に前記駆動許可信号を出力しない」のに対して、引用発明では制御装置に関してその旨の特定がされていない点。

(相違点6)
モータ制御部が、本願発明では「前記遮断回路が前記モータ駆動信号を遮断している場合に、前記モータ駆動指令値を出力しない」のに対して、引用発明ではその旨の特定がされていない点。


(3)判断
まず、相違点1、2、5、6について検討する。
モータの駆動の安全制御のために、モータ駆動回路とインバータ部の間にモータ駆動信号の遮断を行う遮断回路を設け、制御部(安全制御部)が、安全である間は該遮断回路にhighの信号(駆動許可信号)を入力しモータ駆動信号の遮断をしないようにし、一方、危険な状態が生じた際にはhigh信号を入力しない状態とすることでモータ駆動信号の遮断を行いモータの駆動を停止することは、引用文献2、引用文献3(上記「(1) イ 及び ウ」)に記載されるように周知の技術である。
また、遮断回路がモータ駆動信号を遮断している場合には、モータ駆動信号を生成する必要がなくなることから、モータ制御部がモータ駆動信号を生成するためのモータ駆動指令値を出力しないようにするか否かは設計的事項に過ぎない。
さらに、ネットワークを介して外部からの駆動信号でモータの制御を行う際に、通信異常が生じた場合にモータが暴走しないよう駆動を停止することは常套手段である。
してみると、引用発明におけるモータの駆動の安全制御に周知の技術の遮断回路を用い、安全処理を行う制御装置が安全信号SS1,SS2に安全処理が含まれている場合に加え、通信異常が通知された場合に駆動許可信号を遮断回路に入力しないようにし、また、遮断回路がモータ駆動信号を遮断している場合には、中央演算処理装置(CPU)21bがモータの駆動に関する信号を出力しないようにすることで、上記相違点1、2、5、6の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、相違点3、4について検討する。
ネットワーク系以外の安全入力信号を受け付ける安全入力部を設け、ネットワーク系の安全制御に関する信号とネットワーク系以外の安全入力信号の論理積でモータの安全制御を行うことは、引用文献5(上記「(1) エ 」)に記載されるように周知の技術であり、さらに、安全入力信号を冗長化させることは常套手段である。また、ネットワーク系の安全制御に関する信号としては、モータの駆動の安全制御に応じた信号を適宜選択なし得たものと認められる。
してみれば、引用発明において周知の技術を適用して、請求項1に係る発明の相違点3及び相違点4の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。


5.むすび
以上のとおりであって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2ないし5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-07-31 
結審通知日 2020-08-04 
審決日 2020-08-18 
出願番号 特願2016-51575(P2016-51575)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白井 孝治  
特許庁審判長 五十嵐 努
特許庁審判官 酒井 朋広
山澤 宏
発明の名称 モータ制御装置  
代理人 村上 尚  

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