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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1366951
異議申立番号 異議2019-700170  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-28 
確定日 2020-08-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6391916号発明「光学用粘着剤層、粘着剤層付光学フィルムおよび画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6391916号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?16〕について訂正することを認める。 特許第6391916号の請求項1?8及び10?16に係る特許を取り消す。 特許第6391916号の請求項9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6391916号(以下「本件特許」という。)の請求項1?16に係る特許についての出願は、平成25年6月21日に特許出願され、平成30年8月31日にその特許権の設定登録がされ、平成30年9月19日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、平成31年2月28日に特許異議申立人森治から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和元年 6月17日付け:取消理由通知書
令和元年 8月16日付け:意見書(特許権者)
令和元年 8月16日付け:訂正請求書
令和元年 9月10日付け:訂正請求があった旨の通知書
令和元年12月 2日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和2年 1月31日付け:意見書(特許権者)
令和2年 1月31日付け:訂正請求書(この訂正請求書による訂正の
請求を、以下「本件訂正請求」という。)
令和2年 2月27日付け:訂正請求があった旨の通知書

なお、令和元年8月16日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。また、令和元年9月10日及び令和2年2月27日に特許異議申立人に対し訂正請求があった旨の通知をしたが、特許異議申立人は意見書を提出しなかった。

第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6391916号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?16について訂正することを求める、というものである。

(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「光学用粘着剤層を有すること粘着剤層付偏光フィルム」と記載されているのを、「光学用粘着剤層を有する粘着剤層付偏光フィルム」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2?16についても、同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「ベースポリマー(A)および帯電防止機能を有するイオン性化合物(C)を」と記載されているのを、「ベースポリマー(A)(但し、前記ベースポリマー(A)は、
(A)(A-1)下式(I)
【化1】


(式中、R_(1)は水素原子またはメチル基を表し、R_(2)は炭素数1?10のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1?14のアルキル基を表す)
で示される(メタ)アクリル酸エステル80?96重量%、
(A-2)分子内に1個のオレフィン性二重結合と少なくとも1個の芳香環を有する不飽和単量体3?15重量%、および、
(A-3)極性官能基を有する不飽和単量体0.1?5重量%
を含む単量体混合物から得られる共重合体であって、重量平均分子量(Mw)が100万?200万、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)で表される分子量分布が3?7であるアクリル樹脂を含まない)100重量部に対して帯電防止機能を有するイオン性化合物(C)として有機カチオン-アニオン塩を0.3?1重量部」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2?16についても、同様に訂正する。)。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を含有」と記載されているのを、「ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.02?1atomic%含有」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2?16についても、同様に訂正する。)。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「前記ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.02?1atomic%」と記載されているのを、「前記ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.02?0.5atomic%」に訂正する(請求項2の記載を引用して記載された、請求項3?16についても、同様に訂正する。)。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1?9のいずれか」と記載されているのを、「請求項1?8のいずれか」に訂正する(請求項10の記載を引用して記載された、請求項11?16についても、同様に訂正する。)。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1?10のいずれか」と記載されているのを、「請求項1?8または10のいずれか」に訂正する(請求項11の記載を引用して記載された、請求項12?16についても、同様に訂正する。)。

ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1?11のいずれか」と記載されているのを、「請求項1?8、10または11のいずれか」に訂正する(請求項12の記載を引用して記載された、請求項13?16についても、同様に訂正する。)。

ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1?12のいずれか」と記載されているのを、「請求項1?8、または10?12のいずれか」に訂正する(請求項13の記載を引用して記載された、請求項14?16についても、同様に訂正する。)。

コ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項15に「請求項1?14のいずれか」と記載されているのを、「請求項1?8、または10?14のいずれか」に訂正する(請求項15の記載を引用して記載された、請求項16についても、同様に訂正する。)。

サ 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項16に「請求項1?15のいずれか」と記載されているのを、「請求項1?8、または10?15のいずれか」に訂正する。

(3)本件訂正請求は、一群の請求項〔1?16〕に対して請求されたものである。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「光学用粘着剤層を有すること粘着剤層付偏光フィルム」という明瞭でない記載を、「光学用粘着剤層を有する粘着剤層付偏光フィルム」と訂正するものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項2?16についてみても、同じである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0068】、【0136】の記載(実施例2)に基づいて、特許請求の範囲の請求項1に記載された「ベースポリマー(A)および帯電防止機能を有するイオン性化合物(C)を」を「ベースポリマー(A)100重量部に対して帯電防止機能を有するイオン性化合物(C)として有機カチオン-アニオン塩を0.3?1重量部」と限定する訂正、及びベースポリマー(A)から特定のアクリル樹脂を除く訂正からなる。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項2?16についてみても、同じである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0051】及び特許請求の範囲の【請求項2】の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項1に記載された「ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を含有」を「ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.02?1atomic%含有」と限定する、訂正である。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項2?16についてみても、同じである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0051】の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項2に記載された「前記ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.02?1atomic%」を「前記ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.02?0.5atomic%」と限定する、訂正である。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項3?16についてみても、同じである。

(5)訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、特許請求の範囲の請求項9を削除する訂正である。
したがって、訂正事項5による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項5による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、訂正事項5による訂正で特許請求の範囲の請求項9を削除することに伴って、これと整合するように請求項10の記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項6による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項6による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項11?16についてみても、同じである。

(7)訂正事項7について
訂正事項7による訂正は、訂正事項5による訂正で特許請求の範囲の請求項9を削除することに伴って、これと整合するように請求項11の記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項7による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項7による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項12?16についてみても、同じである。

(8)訂正事項8について
訂正事項8による訂正は、訂正事項5による訂正で特許請求の範囲の請求項9を削除することに伴って、これと整合するように請求項12の記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項8による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項8による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項13?16についてみても、同じである。

(9)訂正事項9について
訂正事項9による訂正は、訂正事項5による訂正で特許請求の範囲の請求項9を削除することに伴って、これと整合するように請求項13の記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項9による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項9による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項14?16についてみても、同じである。

(10)訂正事項10について
訂正事項10による訂正は、訂正事項5による訂正で特許請求の範囲の請求項9を削除することに伴って、これと整合するように請求項15の記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項10による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項10による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項16についてみても、同じである。

(11)訂正事項11について
訂正事項11による訂正は、訂正事項5による訂正で特許請求の範囲の請求項9を削除することに伴って、これと整合するように請求項16の記載を改める訂正である。
したがって、訂正事項11による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項11による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(12)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正(訂正事項1?11による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?16〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の請求項1?8及び10?16に係る発明は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1?8及び10?16に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
偏光フィルムと、当該偏光フィルムの少なくとも片側に設けられた光学用粘着剤層を有する粘着剤層付偏光フィルムにおいて、
前記偏光フィルムは、偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し、かつ、前記光学用粘着剤層は、前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられており、
前記光学用粘着剤層は、ベースポリマー(A)(但し、前記ベースポリマー(A)は、
(A)(A-1)下式(I)
【化1】


(式中、R_(1)は水素原子またはメチル基を表し、R_(2)は炭素数1?10のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1?14のアルキル基を表す)
で示される(メタ)アクリル酸エステル80?96重量%、
(A-2)分子内に1個のオレフィン性二重結合と少なくとも1個の芳香環を有する不飽和単量体3?15重量%、および、
(A-3)極性官能基を有する不飽和単量体0.1?5重量%
を含む単量体混合物から得られる共重合体であって、重量平均分子量(Mw)が100万?200万、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)で表される分子量分布が3?7であるアクリル樹脂を含まない)100重量部に対して帯電防止機能を有するイオン性化合物(C)として有機カチオン-アニオン塩を0.3?1重量部含有する光学用粘着剤から形成されており、かつヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.02?1atomic%含有することを特徴とする粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項2】
前記光学用粘着剤層は、前記ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.02?0.5atomic%含有することを特徴とする請求項1記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項3】
前記ベースポリマー(A)が、モノマー単位として、アルキル(メタ)アクリレートを含有する(メタ)アクリル系ポリマーであることを特徴とする請求項1または2記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項4】
前記ベースポリマー(A)が、ヒドロキシル基を含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項5】
前記ベースポリマー(A)が、モノマー単位として、アルキル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシル基含有モノマーを含有する(メタ)アクリル系ポリマーであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項6】
前記ベースポリマー(A)が、カルボキシル基を含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項7】
前記ベースポリマー(A)が、モノマー単位として、アルキル(メタ)アクリレートおよびカルボキシル基含有モノマーを含有する(メタ)アクリル系ポリマーであることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル系ポリマーが、モノマー単位であるアルキル(メタ)アクリレートとして、ブチル(メタ)アクリレートを含有し、
前記ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.01?3(I^(-)/C_(3)H_(3)O_(2)^(-))含有することを特徴とする請求項3?7のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。」
「【請求項10】
さらに、前記光学用粘着剤が酸化防止剤(D)を含有することを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項11】
さらに、前記光学用粘着剤が架橋剤(E)を含有することを特徴とする請求項1?8または10のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項12】
さらに、前記光学用粘着剤がシランカップリング剤(F)を含有することを特徴とする請求項1?8、10または11のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項13】
前記偏光フィルムは、ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を含有するヨウ素系偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有するヨウ素系偏光フィルムであることを特徴とする請求項1?8、または10?12のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項14】
前記ヨウ素系偏光子は、ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を3?10重量%含有することを特徴とする請求項13記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項15】
前記ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)が、ヨウ素分子(I_(2))および/またはヨウ素イオン(I^(-)、I^(3-)、I^(5-))であることを特徴とする請求項1?8、または10?14のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項16】
請求項1?8、または10?15のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルムを少なくとも1つ用いたことを特徴とする画像表示装置。」

第4 取消の理由の概要
令和元年12月2日付け取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した取消の理由のうちの理由5(明確性要件)は、概略、請求項1?8及び10?16に係る発明は、いずれも、明確であるとはいえないから、請求項1?8及び10?16に係る特許は、いずれも、特許法36条6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。

第5 当合議体の判断
1 請求項1について
請求項1及び請求項1を引用する請求項13の記載によると、請求項1に係る発明は、「光学用粘着剤層」が「前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられており」、かつ「偏光フィルム」が、「ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を含有するヨウ素系偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有するヨウ素系偏光フィルム」である発明を含むものである。そうしてみると、請求項1に係る発明には、ヨウ素および/またはヨウ素イオンがヨウ素系偏光子から光学用粘着剤層中に転移する態様のもの(本件特許明細書【0057】)、すなわち、光学用粘着剤層のヨウ素および/またはヨウ素イオンの含有量が時間の経過とともに変化する態様のものが含まれることは、技術的にみて明らかである。
ところが、請求項1に係る発明においては、「0.02?1atomic%含有する」とされる「ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)」の分量が、いつの時点のものか特定されていない。また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?8及び10?16に係る発明においても、特定されていない。念のために発明の詳細な説明を参照しても、やはり、いつの時点で、光学用粘着剤層がヨウ素および/またはヨウ素イオンを0.02?1atomic%含有する状態となるのかが不明である。
したがって、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?8及び10?16に係る発明は、明確であるとはいえない。

2 請求項2について
請求項2に記載された、「前記ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.02?0.5atomic%含有する」という構成についてみても、同様である(いつの時点で、光学用粘着剤層がヨウ素および/またはヨウ素イオンを0.02?0.5atomic%含有する状態となるのかが不明である。)。
したがって、請求項2及び請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3?8及び10?16に係る発明は、明確であるとはいえない。

3 請求項8について
請求項8に記載された、「前記ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.01?3(I^(-)/C_(3)H_(3)O_(2)^(-))含有する」という構成についてみても、同様である(いつの時点で、(メタ)アクリル系ポリマーがヨウ素および/またはヨウ素イオンを0.01?3(I^(-)/C_(3)H_(3)O_(2)^(-))含有する状態となるのかが不明である。)。
したがって、請求項8及び請求項8を直接又は間接的に引用する請求項10?16に係る発明は、明確であるとはいえない。

4 請求項14について
請求項14に記載された、「ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を3?10重量%含有する」という構成についてみても、同様である(いつの時点で、ヨウ素系偏光子がヨウ素および/またはヨウ素イオンを3?10重量%含有する状態となるのかが不明である。)。
したがって、請求項14及び請求項14を引用する請求項15、16に係る発明は、明確であるとはいえない。

5 以上のとおり、請求項1?8及び10?16に係る発明は、いずれも、明確であるとはいえない。

6 特許権者の主張について
(1)特許権者は、令和2年1月31日付け意見書において、「取消理由通知書において指摘されてる「転移すること」については、本件特許発明1等(請求項1等)に記載されていない事項であります。従って、明確性要件の判断に際しては、本件特許発明等(請求項1等)に記載されていない「転移すること」に基づいて考慮の対象とすべきとされている、「測定時期が記載されていないこと」の記載がなくても、本件特許発明1等(請求項1等)を不明確とすることはできないものと思料します」(以下「主張1」という。)、「本件特許発明1(請求項1)に記載の各発明特定事項は、当業者はその発明を実施する段階で把握することができれば足りるものであり、「ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)」の含有量についても、測定時期が記載されていなくとも、発明の実施を行う段階で測定を行えば足りる事項であると思料します。即ち、当業者は、発明の実施の段階で「ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)」の含有量を把握できればよく、このように「ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)」の含有量を把握することが、第三者に不測の不利益を及ぼすこともないものと思料します」(以下「主張2」という。)などと主張する。

(2)主張1について
請求項1?8及び10?16に「転移する」という文言は記載されていない。しかしながら、請求項1?8及び10?16に係る発明には、ヨウ素および/またはヨウ素イオンがヨウ素系偏光子から光学用粘着剤層中に転移する態様のものが含まれることは、前記1で述べたとおり、技術的にみても明らかである。
したがって、主張1は採用できない。

(3)主張2について
特許権者がいう「発明の実施の段階」がいつの時点であるのか客観的に特定できない。また、ある者が、前記1の態様の粘着剤層付偏光フィルム(ヨウ素および/またはヨウ素イオンがヨウ素系偏光子から光学用粘着剤層中に転移する態様の粘着剤層付偏光フィルム)を生産する場合、生産直後における光学用粘着剤層のヨウ素および/またはヨウ素イオン含有量が0.02atomic%未満となるように生産したのであれば、生産直後の粘着剤層付偏光フィルムは、請求項1に係る発明に該当しない。しかしながら、時間が経過して、ヨウ素および/またはヨウ素イオンがヨウ素系偏光子から光学用粘着剤層中に転移し、光学用粘着剤層のヨウ素および/またはヨウ素イオン含有量が0.02?1atomic%になると、時間経過後の粘着剤層付偏光フィルムは、請求項1に係る発明に該当することになる。そうすると、請求項1において、いつの時点で、光学用粘着剤層がヨウ素および/またはヨウ素イオンを0.02?1atomic%含有する状態となるのかが不明であると、自らが生産した粘着剤層付偏光フィルムが請求項1に係る発明に該当しないと認識していた者や生産されてからある程度時間が経過した後にその者が生産した粘着剤層付偏光フィルムを譲渡された者に不測の不利益を及ぼすことになるから、「発明の実施の段階で‥‥「ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)」の含有量を把握することが、第三者に不測の不利益を及ぼすこともない」などとはいえない。
したがって、主張2も採用できない。

第6 むすび
1 請求項1?8及び10?16に係る発明は、いずれも、明確であるとはいえないから、請求項1?8及び10?16に係る特許は、いずれも、特許法36条6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、請求項1?8及び10?16に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 本件特許の請求項9は、本件訂正請求による訂正で削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、本件特許の請求項9に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

3 よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルムと、当該偏光フィルムの少なくとも片側に設けられた光学用粘着剤層を有する粘着剤層付偏光フィルムにおいて、
前記偏光フィルムは、偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有し、かつ、前記光学用粘着剤層は、前記透明保護フィルムを有しない側の偏光子に設けられており、
前記光学用粘着剤層は、ベースポリマー(A)(但し、前記ベースポリマー(A)は、
(A)(A-1)下式(I)
【化1】

(式中、R_(1)は水素原子またはメチル基を表し、R_(2)は炭素数1?10のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数1?14のアルキル基を表す)
で示される(メタ)アクリル酸エステル80?96重量%、
(A-2)分子内に1個のオレフィン性二重結合と少なくとも1個の芳香環を有する不飽和単量体3?15重量%、および、
(A-3)極性官能基を有する不飽和単量体0.1?5重量%
を含む単量体混合物から得られる共重合体であって、重量平均分子量(Mw)が100万?200万、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)で表される分子量分布が3?7であるアクリル樹脂を含まない)100重量部に対して帯電防止機能を有するイオン性化合物(C)として有機カチオン-アニオン塩を0.3?1重量部含有する光学用粘着剤から形成されており、かつヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.02?1atomic%含有することを特徴とする粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項2】
前記光学用粘着剤層は、前記ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.02?0.5atomic%含有することを特徴とする請求項1記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項3】
前記ベースポリマー(A)が、モノマー単位として、アルキル(メタ)アクリレートを含有する(メタ)アクリル系ポリマーであることを特徴とする請求項1または2記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項4】
前記ベースポリマー(A)が、ヒドロキシル基を含有することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項5】
前記ベースポリマー(A)が、モノマー単位として、アルキル(メタ)アクリレートおよびヒドロキシル基含有モノマーを含有する(メタ)アクリル系ポリマーであることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項6】
前記ベースポリマー(A)が、カルボキシル基を含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項7】
前記ベースポリマー(A)が、モノマー単位として、アルキル(メタ)アクリレートおよびカルボキシル基含有モノマーを含有する(メタ)アクリル系ポリマーであることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル系ポリマーが、モノマー単位であるアルキル(メタ)アクリレートとして、ブチル(メタ)アクリレートを含有し、
前記ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を0.01?3(I^(‐)/C_(3)H_(3)O_(2)^(‐))含有することを特徴とする請求項3?7のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項9】
削除
【請求項10】
さらに、前記光学用粘着剤が酸化防止剤(D)を含有することを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項11】
さらに、前記光学用粘着剤が架橋剤(E)を含有することを特徴とする請求項1?8または10のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項12】
さらに、前記光学用粘着剤がシランカップリング剤(F)を含有することを特徴とする請求項1?8、10または11のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項13】
前記偏光フィルムは、ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を含有するヨウ素系偏光子の片側にのみ透明保護フィルムを有するヨウ素系偏光フィルムであることを特徴とする請求項1?8、または10?12のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項14】
前記ヨウ素系偏光子は、ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)を3?10重量%含有することを特徴とする請求項13記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項15】
前記ヨウ素および/またはヨウ素イオン(B)が、ヨウ素分子(I_(2))および/またはヨウ素イオン(I^(-)、I^(3-)、I^(5-))であることを特徴とする請求項1?8、または10?14のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルム。
【請求項16】
請求項1?8、または10?15のいずれかに記載の粘着剤層付偏光フィルムを少なくとも1つ用いたことを特徴とする画像表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-17 
出願番号 特願2013-130713(P2013-130713)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (G02B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
宮澤 浩
登録日 2018-08-31 
登録番号 特許第6391916号(P6391916)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 光学用粘着剤層、粘着剤層付光学フィルムおよび画像表示装置  
代理人 特許業務法人ユニアス国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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