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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部無効 2項進歩性  C08J
管理番号 1367227
審判番号 無効2016-800013  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-02-02 
確定日 2020-09-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4580627号「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群及びその用途」の特許無効審判事件についてされた平成28年 9月13日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成29年(行ケ)第10029号、平成29年12月26日判決言渡)がされ、当該判決は確定したので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第4580627号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第4580627号の請求項1及び3に係る特許を無効とする。 特許第4580627号の請求項2に係る特許についての審判請求を却下する。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 一次審決までの主な手続の経緯
特許第4580627号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、平成15年7月16日を出願日とする特許出願であって、平成22年9月3日に特許権の設定登録がされたものである。
そして、平成28年9月13日付け審決(以下、「一次審決」という。)までの主な手続の経緯は次のとおりである。

平成28年2月2日:無効審判請求(請求人)
平成28年4月19日:審判事件答弁書(被請求人)
平成28年6月29日付け:審理事項通知書
平成28年7月19日:口頭審理陳述要領書(請求人及び被請求人)
平成28年8月9日:第1回口頭審理
平成28年8月30日付け:審理終結通知
平成28年9月13日付け:一次審決

2 一次審決
一次審決の結論は「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」というものである。

3 審決取消訴訟
請求人は、上記一次審決の取消しを求めて、平成29年1月23日に知的財産高等裁判所に訴えを提起した。
上記訴えは、知的財産高等裁判所において、平成29年(行ケ)第10029号事件として審理され、平成29年12月26日に、主文を「1 特許庁が無効2016-800013号事件について平成28年9月13日にした審決を取り消す。2 訴訟費用は被告の負担とする。」 とする判決(以下、「取消判決」という。)の言渡しがあり、その後確定した。

4 取消判決確定後における主な手続の経緯
取消判決確定後における主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年12月26日:訂正請求の申立て(被請求人)
平成31年1月16日付け:審理再開通知(訂正請求のための期間指定通
知含む。)
平成31年1月25日:訂正請求書(被請求人)
平成31年2月21日:手続補正書(被請求人)
平成31年3月1日:審尋(被請求人に対して)
平成31年3月15日:回答書(被請求人)
令和1年5月21日:審判事件弁駁書(請求人)
令和1年6月26日付け:訂正拒絶理由通知(被請求人に対して)
職権審理結果通知(請求人に対して)
令和1年7月29日:意見書(被請求人)
令和1年9月30日付け:審尋(請求人及び被請求人双方に対して)
令和1年10月15日:回答書(被請求人)
令和1年10月28日:回答書(請求人)
令和1年12月11付け:審決の予告
令和2年2月14日:訂正請求書及び上申書(被請求人)
令和2年4月21日付け(同年同月22日受理):審判事件弁駁書(請求人)

なお、平成31年1月25日に提出された訂正請求書による請求は、特許法第134条の2第6項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
訂正請求書において、被請求人が求めた訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微紛の含有量が0.1重量%以下であることを特徴とするエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群」とあるのを、「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微紛の含有量が0.1重量%以下であることを特徴とするエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群であり、
該エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物がホウ素化合物、(A)融点200℃以下の酸性物質及び(B)アルカリ金属を含有し、
該ホウ素化合物の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対してホウ素換算で0.001?1重量%であり、
該(A)融点200℃以下の酸性物質の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して0.001?0.05重量%であり、
該(B)アルカリ金属の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して金属換算で0.001?0.5重量%である、
積層体成形用エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項1を直接引用する請求項3についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群」とあるのを、「請求項1記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群」に訂正する。

なお、訂正前の請求項2及び3は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用していることから、訂正前の請求項1ないし3は一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項ごとにされており、特許法第134条の2第3項の規定に適合するものである。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものか否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明における「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物」が、「ホウ素化合物、(A)融点200℃以下の酸性物質及び(B)アルカリ金属を含有し、該ホウ素化合物の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対してホウ素換算で0.001?1重量%であり、該(A)融点200℃以下の酸性物質の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して0.001?0.05重量%であり、該(B)アルカリ金属の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して金属換算で0.001?0.5重量%である」ものであることを特定し、さらに、訂正前の請求項1に係る発明における「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群」の用途を「積層体成形用」と特定したものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり(本件特許の願書に添付した明細書の【0006】及び【0021】ないし【0024】)、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであることが明らかであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項2の引用を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものである。
したがって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に、「本件発明1」のようにいう。また、総称して、「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微紛の含有量が0.1重量%以下であることを特徴とするエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群であり、
該エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物がホウ素化合物、(A)融点200℃以下の酸性物質及び(B)アルカリ金属を含有し、
該ホウ素化合物の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対してホウ素換算で0.001?1重量%であり、
該(A)融点200℃以下の酸性物質の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して0.001?0.05重量%であり、
該(B)アルカリ金属の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して金属換算で0.001?0.5重量%である、
積層体成形用エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群を成形してなる層を少なくとも一層含有することを特徴とする積層体。」

第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人は、「特許第4580627号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、次の無効理由1、2、3及び5により、本件発明は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。
なお、請求人が審判請求書で主張するところの無効理由4、6及び7については、その後撤回されている。

(1)無効理由1(委任省令要件及び実施可能要件・特許法第36条第4項第1号)
発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより記載されておらず、また、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が本件発明1ないし3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(委任省令要件及び実施可能要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

(2)無効理由2(サポート要件・特許法第36条第6項第1号)
本件発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

(3)無効理由3(明確性要件・特許法第36条第6項第2号)
本件発明1ないし3は、明確でない。
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

(4)無効理由5(進歩性・特許法第29条第2項)
本件発明1ないし3は甲第1ないし3号証に記載された発明、設計事項及び周知慣用技術に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証:特開2000-63528号公報
甲第2号証:米国特許第6174949号明細書
甲第3号証:「TEST METHOD TO DETERMINE THE CONTENT OF FINES AND STREAMERS IN PLASTIC PELLETS、FEDERATION EUROPEENNE DE LA MANUTENTION(FEM)」(訳:プラスチックペレットにおける微粉・ストリーマーの詳細を測定するための試験方法、欧州物流機械連盟(FEM))
甲第4号証:特開平11-293079号公報
甲第5号証:特開2002-293948号公報
甲第6号証:米国特許出願公開2002/0135098号明細書
甲第7号証:米国特許出願公開2002/0100997号明細書
甲第8号証:米国特許出願公開2002/0028871号明細書
甲第9号証:「What'sCausing Your Gels? Plastics Technology」URL:http://www.ptonline.com/articles/what's-causing-your-gelsのホームページ印刷物
甲第10号証:特開2003-96173号公報
甲第11号証:特開2003-192779号公報
甲第12号証:特開2003-138022号公報
甲第13号証:特開2003-136527号公報
甲第14号証:特開2002-361806号公報
甲第15号証:長春石油化學股▲フン▼有限公司が管理している購入履歴データベースの一項目を印刷したもの(データベースの管理ソフトは、「長春 ERP SYSTEM:買付システム」)
甲第16号証:長春石油化學股▲フン▼有限公司が管理している請求履歴データベースの一項目を印刷したもの(データベースの管理ソフトは、「長春 ERP SYSTEM:買付システム」)
甲第17号証:旭電化工業株式会社(現在は株式会社ADEKA)が、長春石油化學股▲フン▼有限公司に宛てた請求書の写し
甲第18号証:SGS FarEast Ltd.Taiwanが作成した検査報告書(サンプリング/立会テスト報告)
甲第19号証:SGS FarEast Ltd.Taiwanが作成した補足報告書(サンプリング/立会テスト報告)
甲第20号証:SGS FarEast Ltd.Taiwanが作成したテスト報告書
甲第21号証:株式会社クラレの「EVAL」の商品説明書
甲第22号証:EVAL Companyof America(株式会社クラレの米国のグループ会社)の「Technical Bulletin No.100」(技術報告書No.100)、「MOISTUREABSORPTION AND DRYING OF EVAL RESINS(エバール樹脂の吸湿性と乾燥性)」
甲第23号証:特開2001-40034号公報
甲第24号証:株式会社クラレの「MATERIALSAFETY DATA SHEET」(材料安全性データシート)
甲第25号証:EVOHペレット製造試験及び篩分け試験の報告書(試料採取/テスト監督報告書)
甲第26号証の1:税関のホームページ「知的財産の輸入差止申立情報:特許権」の「エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂」の印刷物
甲第26号証の2:「特許第4580627号抵触性に関する鑑定意見書」、内田・鮫島法律事務所
甲第27号証:公正証書 平成23年11月18日、公証人大谷昴士作成、平成23年第495号
甲第28号証:欧州物流機械連盟のホームページ「About」URL:http://www.fem-eur.com/about/のホームページ印刷物
甲第29号証:欧州物流機械連盟のホームページ「About」-「MISSION&OBJECTIVES」URL:http://www.fem-eur.com/about/mission-objectives/のホームページ印刷物
甲第30号証:特開平11-60874号公報
甲第31号証:特開平11-43572号公報
甲第33号証:特開平9-327851号公報
甲第34号証:特許第2565508号公報
甲第35号証:特許第2667830号公報
甲第36号証:特公平5-41094号公報
甲第37号証:特開平11-342569号公報
甲第38号証:特開2001-253426号公報
甲第39号証:特開2001-200124号公報
甲第40号証:クラレ・エバール パンフレット
甲第41号証:審判事件答弁書(無効2016-800013)
甲第42号証:審理事項通知書(無効2016-800013)
甲第43号証:被請求人の口頭審理陳述要領書
甲第44号証:台湾特許I356069号
甲第45号証:台湾特許I356069号の出願経過
甲第46号証:ペレクトロン・ディダスター総合カタログ
甲第47号証:DeDusting tests for all bulk solids materials
甲第48号証:分級結果報告書-袋25kgのEVOHペレット群の全量検査
甲第49号証:分級結果報告書-袋25kgのEVOHペレット群の一部検査(サンプリング検査)
甲第49号証の1:EVOH25kg測定方法及び結果(甲第49号証の測定方法)
甲第50号証:EVOHペレット群を外部に取り出した後、銀色のプラスチックバックの内部を撮影した写真
甲第51号証:EVOHペレット群を外部に取り出した後、銀色のプラスチックバックの内部を撮影した写真
(以下、順に「甲1」のようにいう。)

第5 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、請求人が主張する上記無効理由1ないし3及び5はいずれも理由がない旨主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。

2 証拠方法
乙第1号証:クラレ・エバール、株式会社クラレ機能樹脂販売部、1996年4月
乙第2号証:クラレホームページ「どうして<エバール>は気体遮断性に優れているの?」更新日2003年9月17日。被請求人代理人が2016年4月14日に印刷。http://www.kuraray.co.jp/products/question/plastic/eval.htmlのホームページ印刷物
乙第3号証:日本合成化学、代表取締役社長の証明書(複写)
乙第4号証:本件発明者の浅野邦芳の宣誓書(複写)
乙第5号証:EVOH層界面での乱れに起因するゲルの発生メカニズムを説明するための模式図
乙第6号証:新版高分子辞典 高分子学会、高分子辞典編集委員会編集、朝倉書店発行、1988年11月25日初版第1刷、第421頁
乙第7号証:ポリビニルアルコール試験方法 JIS K 6726、日本工業標準調査会審議、平成6年6月1日改正、第12頁(複写)
乙第8号証:クラレホームページ「エバールの特性」更新日不明。被請求人代理人が2016年4月18日に印刷。
http://www.eval.jp/jp/%E7%89%B9%E6%80%A7.aspxのホームページ印刷物
乙第9号証:クラレエバール(2010年8月10日付)の外観写真
乙第10号証:特開2002-161212号公報
乙第11号証:クラレホームページ「エバール EVOHガスバリア性樹脂&フィルム」カタログ。更新日不明。被請求人代理人が2016年7月19日に印刷。http://www.eval.jp/media/122399/______evoh____________.pdfのホームページ印刷物
乙第12号証:国際公開第2005/014716号
乙第13号証:特開2002-370323号公報
乙第14号証:特開2001-234008号公報
乙第15号証:特開昭64-66262号公報
(以下、順に「乙1」のようにいう。)

第6 当審の判断
1 取消判決の拘束力
審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245頁)。
したがって、当審の審理は、取消判決の判断、特に以下の判断に拘束されるものである。

(1)本件発明の課題について
・「本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」の意義は明らかでないというほかなく、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、「成形物に溶融成形したときにEVOH層の界面での乱れに起因するゲルの発生がなく、良好な成形物が得られ」るという本件発明の課題は、理解できないというほかない。」(第74ページ第11ないし14行)

(2)甲1に記載されている発明(甲1発明)
・「酢酸水溶液に浸漬後、回分式塔型流動層乾燥器で窒素ガスに接触させて得たエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレット25kgを、ブレンダーに入れて、室温で10時間回転させて得られた内容物を取り出し100μmの篩にかけ、該篩を通過した微粉の重量が0?2g未満(0?0.008重量%未満)であるエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレット。」(第82ページ下から2行ないし第83ページ第3行)

2 本件明細書の記載
本件発明について、本件明細書には、次のとおりの記載がある。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下、EVOHと略記する)のペレット群及びそれを用いた積層体に関し、さらに詳しくは、成形時にEVOH層界面での乱れに起因するゲルの発生が抑制された成形性に優れたEVOHペレット群及びそれを用いた積層体に関する。」

(2)「【背景技術】
【0002】
一般にEVOHは、透明性、ガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性などに優れており、かかる特性を生かして、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等のフィルムやシート、或いはボトル等の容器などに成形されて利用されている。
【0003】
そして、かかるEVOHを溶融成形して各種成形品に加工するにあたっては、その成形時にEVOHのゲルや焼けが発生して成形物(特にフィルムやシート等)のロングラン性や外観性が低下することがある。
かかる対策として、EVOHに金属塩を配合することが試みられている。例えば、EVOHに周期律表第2属の金属塩とpka3.5以上で定圧下の沸点が120℃以下の酸性物質を特定量配合して、EVOHの粘度挙動をコントロールする方法(例えば、特許文献1参照。)やEVOHにホウ酸、酢酸ナトリウム及び酢酸マグネシウムを特定量含有させる方法(例えば、特許文献2参照。)等があり、また、一方では、ホウ酸カリウムやホウ酸カルシウムなどのホウ酸化合物をEVOHに配合することも検討されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開昭64-66262号公報
【特許文献2】特開平11-60874号公報
【特許文献3】特開平11-43572号公報」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1?3に開示の方法では、溶融したEVOHの熱安定性は改善されてロングラン成形により発生するゲルや焼けについては抑制されるものの、各種積層体に適用したときには押出機へのフィードの不安定性等によりEVOH層の界面での乱れに起因するゲル等が発生する恐れがあることが判明した。」

(4)「【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、かかる現況に鑑みてEVOHペレットのフィード部分での挙動について鋭意研究を重ねた結果、32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であるEVOHペレット群が上記のようなゲルの発生を抑制できることを見出して本発明を完成するに至った。
なお、本発明においては、EVOHがホウ素化合物を含有していること、また、EVOHが融点200℃以下の酸性物質(A)及びアルカリ金属(B)を含有し、かつその含有重量比(A/B)が1?50であること等が望ましい実施態様である。」

(5)「【発明の効果】
【0007】
本発明の、EVOHペレット群は特定の微粉を特定量以下に押さえているため、成形物に溶融成形したときにEVOH層界面での乱れに起因するゲルの発生がなく、良好な成形物が得られ、多層フィルムとして有用で、食品や医薬品、農薬品、工業薬品包装用のフィルム、シート、チューブ、袋、容器等の用途をはじめとして、各種成形用途に非常に有用である。」

(6)「【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のEVOHペレット群は、32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であることが必要で、かかる含有量が0.1重量%を越えるときには本発明の目的を達成することができないもので、かかるEVOHペレットに成形されるEVOHとしては、エチレン含有量が5?70モル%(さらには15?60モル%、特には20?55モル%、殊に25?50モル%)のものが好ましく、かかるエチレン含有量が5モル%未満では高湿時のガスバリア性が低下する傾向にあり、逆に70モル%を越えると通常のガスバリア性や耐油性・耐薬品性等が低下する傾向にあり好ましくない。
・・・(略)・・・
【0011】
該EVOHは、エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化によって得られ、該エチレン-酢酸ビニル共重合体は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより製造され、エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
・・・(略)・・・
【0013】
本発明で用いるEVOHペレットは、通常、エチレンと酢酸ビニルとをアルコール溶媒中で共重合させて、アルカリ等でケン化され、メタノール/水の凝固浴にストランド状に析出させた後切断されて得られる。
【0014】
そして、該EVOHペレットは、次に水洗されるのであるが、該水洗は、10?60℃の水槽中で実施される。かかる水洗によりオリゴマーや不純物が除去され、また、後述する酸性物質(A)とアルカリ金属(B)の含有量もこの水洗で調整することが可能である。通常かかる水洗は、EVOHペレット100重量部に対して200?1000重量部(好ましくは300?600重量部)の水で、20?50℃(25?35℃)で、0.5?5時間、1?5回(好ましくは1回)実施される。
【0015】
その後、公知の流動乾燥及び/又は静置乾燥等の方法により乾燥されてEVOHペレットとして実用に供されるのであるが、本発明においては、上述のようにかかるEVOHペレットを32メッシュ(目開き500μ)篩を通過させて、通過する微粉の割合が全体の0.1重量%以下(さらには0.05重量%以下、特には0.03重量%以下)とすることを最大の特徴とするもので、かかる微粉の割合が0.1重量%を越えるときは本発明の目的を達成することが困難となる。なお、かかる微粉の割合の下限は特に限定されないが、成形時のペレット同士の滑り性等を考慮すれば、0.0005重量%(さらには0.001重量%)とすることが好ましい。
【0016】
上記のように32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉を0.1重量%以下にするにあたっては、通常の方法で得られたEVOHペレットを篩にかけてかかる微粉を除去する方法、サイクロン等による風力分級する方法、溶剤で洗浄・乾燥して微粉を除去する方法、水を吹き付けた後に高温乾燥して微粉を融着させる方法等が挙げられる。
【0017】
かくして、本発明のEVOHペレット群が得られるのであるが、本発明では上記のEVOHペレット中に、ホウ素化合物を含有していること、あるいは融点200℃以下(さらには0?130℃、特には0?65℃)の酸性物質(A)及びアルカリ金属(B)を含有していることが本発明の作用効果をさらに顕著に得られる点で好ましく、これらを含有させる方法について説明する。
・・・(略)・・・
【0019】
かかるホウ素化合物の含有量は特に限定されないが、EVOHに対してホウ素換算で0.001?1重量%(さらには0.001?0.2重量%、特には0.02?0.1重量%)になるように含有させることが好ましく、かかる含有量が0.001重量%未満では添加効果に乏しく、逆に1重量%を超えると成形物中にゲルやスジが発生する傾向にあり好ましくない。
【0020】
EVOHにホウ素化合物を含有させるにあたっては、上記で得られたEVOHペレットをホウ素化合物の水溶液に接触させることで含有させることができ、通常は該水溶液に上記のEVOHペレットを投入して撹拌しながら、ホウ素化合物を含有させることが好ましい。
【0021】
また、融点が200℃以下の酸性物質(A)としては、酢酸(融点17℃)、アジピン酸(融点28℃)、リン酸(融点42℃)、安息香酸(融点122℃)、クエン酸(融点153℃)、コハク酸(融点185℃)等を挙げることができ、中でも酢酸やリン酸が好適である。
【0022】
さらに、アルカリ金属(B)としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属やマグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属を挙げることができ、EVOHに含有させるにあたっては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸や硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸等の無機酸の金属塩として含有させればよい。
【0023】
かかる酸性物質(A)の含有量は、EVOHに対して0.001?0.05重量%(さらには0.001?0.03重量%、特には0.002?0.01重量%)とすることが好ましく、かかる含有量が0.001重量%未満では添加効果に乏しく、逆に0.05重量%を超えると成形物中にゲルやスジが発生する傾向にあり好ましくない。
【0024】
また、アルカリ金属(B)の含有量は、EVOHに対して0.001?0.5重量%(さらには0.001?0.05重量%)とすることが好ましく、かかる含有量が0.001重量%未満では添加効果に乏しく、逆に0.5重量%を超えると着色の恐れがあり好ましくない。
【0025】
さらに、上記の酸性物質(A)とアルカリ金属(B)との含有重量比(A/B)を1?50(さらには1?20、特には1?10)とすることが好ましく、かかる重量比が1未満では成形時に熱分解による異臭が発生する恐れがあり、逆に50を越えると成形機内のスクリューやダイ内での腐食発生の恐れがあり好ましくない。
・・・(略)・・・
【0027】
かくして得られた本発明のEVOHペレット群は、かかるペレットを用いて溶融成形する際に、得られる成形物にゲルが発生しないという作用効果を有するもので、溶融成形方法としては、押出成形法(T-ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法が主として採用される。溶融成形温度は、150?300℃の範囲から選ぶことが多い。
また、該EVOHペレットは、積層体用途に多用され、特にEVOHからなる層の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を積層してなる積層体として用いられる。
【0028】
該積層体を製造するに当たっては、EVOHの層の片面又は両面に他の基材を積層するのであるが、積層方法としては、例えば該EVOHのフィルム、シートに熱可塑性樹脂を溶融押出する方法、逆に熱可塑性樹脂等の基材に該EVOHを溶融押出する方法、該EVOHと他の熱可塑性樹脂とを共押出する方法、更には本発明で得られたEVOHのフィルム、シートと他の基材のフィルム、シートとを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法等が挙げられる。」

(7)「【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
尚、例中、「部」とあるのは、「重量部」を意味し、「%」とあるのは、特に断りのない限り「重量%」を意味する。
【0036】
実施例1
エチレン含有量32モル%を、ケン化度99.6モル%、MFR3g/10分(210℃、荷重2160gでの測定)のEVOHを水/メタノール(1/1重量比)混合溶媒に均一に溶解させた後に、10℃水の凝固液中にストランド状に押出し析出させ、カッティングしてEVOHペレット得て、該ペレットを酢酸0.03%と酢酸ナトリウム0.04%含有させた水溶液に浸漬させ、さらにホウ酸の0.013%溶液に浸漬させて、EVOHに対してホウ酸をホウ素換算で0.03%、酢酸を0.045%、酢酸ナトリウムをナトリウム換算で0.015%(酢酸/ナトリウム=13/1)それぞれ含有するEVOHペレットを得た。
ついで、得られたEVOHペレットを32メッシュ(目開き500μ)の篩を通して分別し、32メッシュオンのEVOHペレット100部と32メッシュ通過EVOHペレット0.03部(0.03%)を混合して本発明のEVOHペレット群を得た。
【0037】
得られたEVOHペレット群を用いて、以下の要領で多層フィルムを作製して、以下の成形性の評価を行った。
〔多層フィルムの作製〕
上記のEVOHペレット(I)、ナイロン-6〔三菱エンジニアリングプラスチックス社製「NOVAMID 1022-1」〕(II)、ポリプロピレン〔日本ポリケム社製「FL6CK」〕(III)及び接着性樹脂〔三井化学社製「ADMER QF500」、無水マレイン酸変性ポリプロピレン〕(IV)を、フィードブロック式共押出多層フィルム成形機(グンゼ産業社製)に供給して、(II)/(I)/(IV)/(III)=10/10/10/120(μm;厚み)の層構成を有する多層フィルムを得た。
【0038】
(成形性)
上記の製造で48時間後に得られた多層フィルムから10cm×10cmの大きさのフィルムを採取して、EVOH層の乱れによるゲルの発生状態を目視観察して以下のように評価した。
◎・・・ゲルの発生が4個以下
○・・・ 〃 5?10個
×・・・ 〃 11個以上
【0039】
実施例2
EVOHとして、エチレン含有量40モル%、ケン化度99.4モル%、MFR15g/10分(210℃、荷重2160gでの測定)を用いて、実施例1に準じてEVOHペレットを得た後、該ペレットを酢酸0.05%と酢酸ナトリウム0.03%含有させた水溶液に浸漬させて、EVOHに対して酢酸を0.06%、酢酸ナトリウムをナトリウム換算で0.013%(酢酸/ナトリウム=20/1)それぞれ含有するEVOHペレットを用いた以外は同様に行って本発明のEVOHペレット群を得て、同様に評価を行った。
【0040】
実施例3
実施例1において、EVOHペレットを32メッシュ(目開き500μ)の篩を通して分別し、32メッシュオンのEVOHペレット100部と32メッシュ通過EVOHペレット0.08部(0.08%)を混合して本発明のEVOHペレット群を得て、同様に評価を行った。
【0041】
実施例4
実施例1において、EVOHの水/メタノール溶液をアンダーウェーターカッして球状のEVOHペレットを得た以外は同様に行って、32メッシュ(目開き500μ)の篩を通過する微粉の割合が0.02%の本発明のEVOHペレット群を得て、実施例1と同様に評価を行った。
【0042】
比較例1
実施例1において、32メッシュの篩で分別せずにEVOHペレット群の評価を行った。なお、かかるEVOHペレット群の32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の割合は0.2%であった。
【0043】
実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0044】
〔表1〕



(8)「【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の、EVOHペレット群は特定の微紛を特定量以下に押さえているため、成形物に溶融成形したときにゲルや焼けの発生がなく、良好な成形物が得られ、多層フィルム用途に有用で、食品や医薬品、農薬品、工業薬品包装用のフィルム、シート、チューブ、袋、容器等の用途をはじめとして、各種成形用途に非常に有用である。」

3 無効理由1(委任省令要件及び実施可能要件・特許法第36条第4項第1号)について
(1)委任省令要件について
ア まず、取消判決の拘束力について検討すると、上記第2のとおり、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の【0007】に記載された「成形物に溶融成形したときにEVOH層界面での乱れに起因するゲルの発生がなく、良好な成形物が得られ」るという本件発明の課題と思しきものが本件訂正の前後で変わる訳ではないし、しかも、本件訂正は本件明細書の発明の詳細な説明を訂正するものでもない。
したがって、本件訂正が認容されたところで、上記1(1)で述べるところの取消判決の拘束力は遮断されない。

イ 本件明細書の発明の詳細な説明の【0005】には、「上記の特許文献1?3に開示の方法では、溶融したEVOHの熱安定性は改善されてロングラン成形により発生するゲルや焼けについては抑制される」との記載がある一方、「各種積層体に適用したときには押出機へのフィードの不安定性等によりEVOH層の界面での乱れに起因するゲル等が発生する恐れがある」と記載されている。

ウ 本件明細書の発明の詳細な説明の【0038】には、EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの発生状態は、目視観察でき、10cm×10cmの大きさのフィルムにおいて、
「◎・・・ゲルの発生が4個以下
○・・・ 〃 5?10個
×・・・ 〃 11個以上」と記載されており、個数を数えられ、【0044】には、実施例1?4においては、これがいずれも10個以下であり、比較例1では11個以上であって、10個以下であれば、成形性が良好である旨評価されていることが認められる。

エ 本件明細書の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0004】のとおり、本件明細書に背景技術として記載されている乙15には、「その間フィルムにすじ状物の発生はなく、肉眼でみえるゲル状ブツ(ブツとはフィッシュアイの如き小さい塊状の欠点を指す)は、0.1?0.3個/m^(2)で、経時的に増加の傾向は認められなかった。」と記載されている(第7ページ左下欄下から8ないし4行)。

オ 上記イのとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」は、ロングラン成形により発生するゲルとは異なる原因で発生するゲルであると記載されているものの、本件明細書には、「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」が、乙15における「ゲル状ブツ」の原因となるゲルと、その形状、構造等がどのように異なるのかを明らかにする記載は見当たらない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明においては、上記ウのとおり、「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」は、目視観察できるものであるとされ、乙15における「ゲル状ブツ」は、上記エのとおり、肉眼で見ることができるものとされているところ、本件明細書には、「目視観察」の定義は見当たらず、後者は肉眼で見分けられ、前者は肉眼で見分けられないものを含む旨の特段の記載はないから、本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」と背景技術(乙15)における「ゲル」を、観察方法において区別することができるとは、理解できない。
このように、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」は、本件特許出願前の技術により抑制することができるとされているロングラン成形により発生するゲルとは異なる原因で発生する旨の記載があるものの、その記載のみでは、ロングラン成形により発生するゲルと区別できるかどうかは、明らかでないというほかない。
そうすると、本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」の意義は明らかでないというほかなく、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、「成形物に溶融成形したときにEVOH層の界面での乱れに起因するゲルの発生がなく、良好な成形物が得られ」るという本件発明の課題は、理解できないというほかない(取消判決の拘束力)。

カ また、仮に、本件訂正により、取消判決の拘束力が遮断されるとしても、本件発明の課題を理解するには、「EVOH層の界面の乱れに起因するゲル」の意義を明らかにする必要があり、そのためには、「ロングラン成形により発生するゲル」と「EVOH層の界面の乱れに起因するゲル」を区別する必要があることに変わりはない。
すなわち、本件発明が「該エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物がホウ素化合物、(A)融点200℃以下の酸性物質及び(B)アルカリ金属を含有し、該ホウ素化合物の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対してホウ素換算で0.001?1重量%であり、該(A)融点200℃以下の酸性物質の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して0.001?0.05重量%であり、該(B)アルカリ金属の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して金属換算で0.001?0.5重量%である」という発明特定事項を有することによって、「ロングラン成形により発生するゲル」が抑制されるとしても、本件明細書の発明の詳細な説明の【0038】及び【0044】によると、ゲルの発生が10個以下であればゲルの発生がないと評価していることからみて、「ロングラン成形により発生するゲル」の数はゼロにはならないと考えるのが自然である。してみると、「ロングランにより発生するゲル」と「EVOH層の界面の乱れに起因するゲル」を観察方法において区別する必要は依然としてあるというべきである。
そして、上記オのとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載では、「ロングランにより発生するゲル」と「EVOH層の界面の乱れに起因するゲル」を区別できるかどうかは明らかではない。
したがって、本件発明における「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」の意義は明らかでないというほかなく、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、「成形物に溶融成形したときにEVOH層の界面での乱れに起因するゲルの発生がなく、良好な成形物が得られ」るという本件発明の課題は、依然として理解できない。

キ したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の課題について、当業者が理解できるように記載されていないから、特許法施行規則第24条の2の規定に適合するものではない。

(2)被請求人の主張について
被請求人は、令和2年2月14日提出の上申書において、おおむね次のとおり主張する。

ア 審決の予告は、取消判決の拘束力を指摘して、本件発明の課題は理解できないというほかない旨述べるが、本件訂正発明は、取消判決が前提としたクレームとは発明の構成が異なるから、取消判決の拘束力は及ばない(上申書第2 4(1))。

イ 本件訂正発明は「長期間の連続成形を行う際に発生するゲル」と「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」が区別できるかどうかにかかわらず、いずれのゲルについても抑制し得る解決手段を開示したものであるから、本件訂正発明の課題を理解する上で、「長期間の連続成形を行う際に発生するゲル」と「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」を区別する必要がなく、両者のゲルの区別が困難であるかは、本件訂正発明の本質を理解する上で、全く無関係な事項である(上申書第2 4(2))。

ウ 審決の予告10頁(イ)は、本件明細書【0005】の「ゲルや焼けが抑制される」の意味を、「ゲルが全く発生しないことであるとするには無理がある」と判断し、その根拠として、ホウ素化合物を含有する甲第30号証の比較例3、7及び甲第31号証の比較例1においてもゲル等が発生して、「長期間の連続成形を行う際に発生するゲル」と「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」を区別する必要がある旨述べる。
しかし、甲第30号証の比較例3、7及び甲第31号証の比較例1は、本件訂正発明がロングラン成形時に発生するゲルや焼けを抑制するために適用している技術ではない。
したがって、甲第30号証の比較例3、7及び甲第31号証の比較例1においてゲル等が発生していることは、本件明細書の解釈に当たって無関係な事項であるから、審決の予告による「長期間の連続成形を行う際に発生するゲル」と「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」を区別する必要がある旨の判断には根拠がない(上申書第2 4(3))。

エ 審決の予告10頁(ア)は、被請求人が「長期間の連続成形を行う際に発生するゲル」と「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」を区別する必要がない旨を取消判決に係る訴訟においてすでに主張し、このような主張を踏まえた上で取消判決が確定したことを指摘するが、事実誤認である(上申書第2 4(4))。

そこで、上記主張について検討する。
アについて
取消判決の拘束力が遮断されないといえるのは、上記(1)アのとおりである。
したがって、主張アは採用できない。

イについて
本件発明の課題を理解する上で、「長期間の連続成形を行う際に発生するゲル」と「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」を区別する必要があることは、上記(1)のとおりである。
したがって、主張イは採用できない。

ウについて
証拠及び技術常識を踏まえてみても、本件発明について、「該エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物がホウ素化合物、(A)融点200℃以下の酸性物質及び(B)アルカリ金属を含有し、該ホウ素化合物の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対してホウ素換算で0.001?1重量%であり、該(A)融点200℃以下の酸性物質の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して0.001?0.05重量%であり、該(B)アルカリ金属の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して金属換算で0.001?0.5重量%である」という発明特定事項を有すれば、ロングラン成形により発生するゲルが必ずゼロになると理解することはできない。
また、そもそも、審決の予告は第10ページ(イ)において、本件明細書の発明の詳細な説明の【0038】の記載から、本件明細書の発明の詳細な説明の【0005】の「ゲルや焼けが抑制される」の意味を、「ゲルが全く発生しないことであるとするには無理がある」と判断しているのであり、甲第30号証の比較例3、7及び甲第31号証の比較例1は、この判断を裏付ける傍証として挙げているにすぎない。
したがって、上記発明特定事項を有していても、「ロングラン成形により発生するゲル」が全く存在しないということにはならず、「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」の発生が抑制されていることを判断するためには、「ロングラン成形により発生するゲル」と「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル」を区別する必要があるというべきである。
よって、主張ウは採用できない。

エについて
判決文第61ページ第20ないし22行によると、被請求人は、取消判決に係る訴訟において、「発明特定事項として『EVOH層の界面での乱れ』が規定されているわけではないから、EVOH層界面のゲルとそれ以外のゲルとの判別が必要であるとの原告の主張は成り立たない。」旨主張している。審決の予告に事実誤認があるということはできない。
よって、主張エは採用できない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明について、本件明細書の発明の詳細の説明の記載は、経済産業省令で定めるところにより当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1及び3に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

4 無効理由2(サポート要件・特許法第36条第6項第1号)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。

(2)判断
上記3(1)キのとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の課題について、当業者が理解できるように記載されていないから、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであると認めることはできないし、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるとも認められない。
したがって、本件発明について、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明について、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1及び3に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。

5 無効理由3(明確性・特許法第36条第6項第2号)について
「微紛」及び「0.1重量%」という記載を含め、本件特許請求の範囲の記載は、明確であり、篩分け中に新たな微粉が発生するとしても、本件発明の技術的範囲に属するかどうかを判別できないということはない。
したがって、本件特許の請求項1及び3に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものであるとはいえない。

6 無効理由5(進歩性・特許法第29条第2項)について
(1)甲1に記載された事項及び甲1発明
ア 甲1に記載された事項
甲1(特開2000-63528号公報)には、「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット」に関して、おおむね次のとおり記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物(以下、EVOHと略記する)ペレットに関し、更に詳しくは輸送時においてペレットの融着や割れ、欠け、微粉の発生が極めて少なく、溶融成形性に優れたEVOHペレットに関するものである。」

・「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、EVOHペレットの輸送に当たっては、通常アルミ内袋などによって防湿されたクラフト紙などに包装されるのであるが、かかる輸送時の温度変化や荷積みの状態、振動などによっては、該ペレットが融着を起こしたり、割れ、欠け、微粉が発生したりして、その結果安定した溶融成形が困難になってしまうという問題が発生することがあった。」

・「【0005】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明のEVOHペレットは、20℃における貯蔵弾性率が8×10^(7)?1×10^(9)(更には9×10^(7)?5×10^(8))Paのもので、該貯蔵弾性率が8×10^(7)Pa未満では輸送時にペレット間の融着が起こりやすくなり、逆に1×10^(9)Paを越えると輸送時にペレットの割れ、欠け、微粉が発生しやすくなるので不適当である。
【0006】尚、かかる貯蔵弾性率とは、10Hzの振動を与えた時に測定される値で、DMA(Dynamic Mechanical Analyzer)等で測定することができ、本発明においては、EVOHペレットを10?50℃まで、3℃/minの速度で昇温しながら、該DMAで連続的に貯蔵弾性率を測定して、20℃における測定値をEVOHペレットの貯蔵弾性率とした。」

・「【0022】更に、本発明の方法で得られるEVOHペレットから一旦フィルム、シート等の成形物を得、これに他の基材を押出コートしたり、他の基材のフィルム、シート等を接着剤を用いてラミネートする場合、前記の熱可塑性樹脂以外に任意の基材(紙、金属箔、一軸又は二軸延伸プラスチックフィルム又はシート、織布、不織布、金属綿状、木質等)が使用可能である。積層体の層構成は、EVOHの層をx(x_(1)、x_(2)、・・・)、他の基材、例えば熱可塑性樹脂層をy(y_(1)、y_(2)、・・・)とするとき、フィルム、シート、ボトル状であれば、x/yの二層構造のみならず、y/x/y、x/y/x、x_(1)/x_(2)/y、x/y_(1)/y_(2)、y_(2)/y_(1)/x/y_(1)/y_(2)等任意の組み合わせが可能であり、フィラメント状ではx、yがバイメタル型、芯(x)-鞘(y)型、芯(y)-鞘(x)型、或いは偏心芯鞘型等任意の組み合わせが可能である。」

・「【0027】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。尚、例中、「部」とあるのは、「重量部」を意味し、「%」とあるのは、特に断りのない限り「重量%」を意味する。
実施例1
エチレン含有量40モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体の40%メタノール溶液1、000部を耐圧反応器に入れ、撹拌しながら110℃に加熱した。続いて水酸化ナトリウムの6%メタノール溶液40部及びメタノール2、500部を連続的に仕込むと共に副生する酢酸メチル及び余分のメタノールを系から留出させながら2.5時間ケン化反応を行ない、酢酸ビニル成分のケン化度99.0モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物溶液を得た。次に含水率30%のメタノール水溶液600部を該溶液に共沸下で供給し、100?110℃、圧力3kg/cm^(2)Gで該溶液中の樹脂分の濃度が40%になるまでメタノールを留出させ、透明なメタノール/水均一溶液(溶液中のメタノールは40%)を得た。該ケン化物のメタノール溶液をノズルより水槽にストランド状に押出した。凝固終了後、ストランド状物をカッターで切断し、直径4mm、長さ4mmの白色のペレット(1)を製造した。該ペレット(1)のメタノール含有量は38%、酢酸(a)含有量は3000ppm、酢酸ナトリウム(b)含有量は15000ppmであった。
【0028】次いで、得られたペレット(1)100部を30℃の温水400部に投入して、約60分間撹拌して水洗し、水洗後1%酢酸水溶液400部に浸漬した。浸漬後のペレットの、メタノール含有量は5000ppm、酢酸(a)含有量は2500ppm、酢酸ナトリウム(b)含有量は500ppmであった。回分式塔型流動層乾燥器により、窒素ガスを120℃雰囲気中で22時間接触させて、メタノール含有量100ppm、酢酸(a)含有量200ppmで、酢酸ナトリウム(b)含有量500ppm〔(a)/(b)=0.4(重量比)〕のEVOHペレットを得た。かかるEVOHペレットの20℃における貯蔵弾性率は1×10^(8)Paであった。
【0029】得られたEVOHペレットについて、以下の要領でペレットの評価及び該ペレットを用いたEVOHフィルムの成形性の評価を行った。
・・・(略)・・・
(ロ) ペレットの割れ、欠け
EVOHペレット25kgを、ブレンダーに入れて、室温で10時間回転させ、取り出して目視で以下のとおり評価を行った。
○・・・ペレットの割れ欠けが全く見られず。
△・・・1?10個の割れ欠けが見られる。
×・・・11個以上の割れ欠けが見られる。
(ハ)微粉の発生
上記の方法で、室温で10時間回転させて得られた内容物を取り出し100μmのふるいにかけ、該ふるいを通過した微粉の重量を測定し、以下のとおり評価した。
○・・・0?2g未満
△・・・2?10g未満
×・・・10g以上」

・「【0030】一方、得られたEVOHペレットをTダイを備えた単軸押出機に供給し、厚さ40μmのEVOHフィルムの成形を96時間連続的に行って以下のとおり評価を行った。単軸押出機による製膜条件は下記の通りとした。」

・「【0031】(ニ)トルク変動
連続製膜中の押出機モーター負荷(スクリュー回転数40rpm)でのスクリュートルクA(アンペア)の変動により求めて、以下のとおり評価した。
○・・・±5%未満の変動
△・・・±5?±10%未満の変動
×・・・±10%以上の変動
(ホ) 吐出量変化
連続製膜中の押出機(40rpm)での吐出量の変動を求めて、以下のとおり評価した。
○・・・±5%未満の変動
△・・・±5?±10%未満の変動
×・・・±10%以上の変動」

・「【0032】(へ) 膜厚変化
MD(長手)方向のフィルムの厚みを1時間毎に測り、変動比を求めて、以下のとおり評価した。
○・・・±5%未満
△・・・±5?±10%未満
×・・・±10%以上
(ト) フィルム外観
フィルム100cm^(2)(10cm×10cm)当たりのフィッシュアイの数を測定して、以下のとおり評価した。
○・・・0?3個
△・・・4?20個
×・・・21個以上」

・「【0033】実施例2
実施例1と同様にして、ケン化度99.0モル%のEVOHを得た。次に含水率30%のメタノール水溶液600部を該溶液に共沸下で供給し、100?110℃、圧力3kg/cm^(2)Gで該溶液中の樹脂分の濃度が40%になるまでメタノールを留出させ、透明なメタノール/水均一溶液(溶液中のメタノールは40%)を得た。該ケン化物のメタノール溶液をノズルより水槽にストランド状に押出した。凝固終了後、ストランド状物をカッターで切断し、直径4mm、長さ4mmの白色のペレット(1)を製造した。該ペレット(1)のメタノール含有量は38%、酢酸(a)含有量は3000ppm、酢酸ナトリウム(b)含有量は15000ppmであった。次いで、得られたペレット(1)100部を30℃の温水400部に投入して、約60分間撹拌して水洗した。水洗後0.3%酢酸水溶液400部に浸漬した。浸漬後のペレットの、メタノール含有量5000ppm、酢酸(a)含有量1000ppm、酢酸ナトリウム(b)含有量は500ppmであった。回分式塔型流動層乾燥器により、窒素ガスを118℃雰囲気中で20時間接触させて、メタノール含有量120ppm、酢酸(a)含有量300ppmで、酢酸ナトリウム(b)含有量500ppm〔(a)/(b)=0.6(重量比)〕のEVOHペレットを得た。かかるEVOHペレットの20℃における貯蔵弾性率は9×10^(7)Paであった。かかるEVOHペレットを用いて、同様に評価を行った。」

・「【0034】実施例3
エチレン含有量30モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いた以外は実施例1に準じて実験を行い、白色のペレット(1)を製造した。該ペレット(1)のメタノール含有量は20%、酢酸(a)含有量は3000ppm、酢酸ナトリウム(b)含有量は15000ppmであった。
【0035】次いで、得られたペレット(1)100部を30℃の温水700部に投入して、約60分間撹拌して水洗した。水洗後1%酢酸水溶液400部に浸漬した。浸漬後のペレットの、メタノール含有量4000ppm、酢酸(a)含有量2300ppm、酢酸ナトリウム(b)含有量は400ppmであった。回分式塔型流動層乾燥器により、窒素ガスを120℃雰囲気中で20時間接触させて、メタノール含有量80ppm、酢酸(a)含有量200ppmで、酢酸ナトリウム(b)含有量400ppm〔(a)/(b)=5(重量比)〕のEVOHペレットを得た。かかるEVOHペレットの20℃における貯蔵弾性率は2×10^(8)Paであった。かかるEVOHペレットを用いて、同様に評価を行った。」

・「【0036】比較例1
実施例1において、EVOHペレット(1)100部を30℃の温水100部に投入して約60分間攪拌し水洗ペレットを得た。水洗後1%酢酸水溶液400部に浸漬した。浸漬後のペレットのメタノール含有量は7000ppm、酢酸(a)含有量は2500ppm、酢酸ナトリウム(b)含有量は700ppmであった。次に回分式塔型流動乾燥器により、窒素ガスを105℃雰囲気中で16時間接触させて、メタノール含有量2000ppm、酢酸(a)含有量300ppm、酢酸ナトリウム(b)含有量700ppm〔(a)/(b)=0.73(重量比)〕のEVOHペレットを製造した。かかるEVOHペレットの20℃における貯蔵弾性率は5×10^(7)Paであった。かかるEVOHペレットを用いて、同様に評価を行った。」

・「【0037】比較例2
実施例1において、EVOHペレット(1)100部を40℃の温水600部に投入して約60分間攪拌し水洗ペレットを得た、水洗後2%酢酸水溶液400部に浸漬した。浸漬後のペレットの、メタノール含有量4000ppm、酢酸含有量3000ppm、酢酸ナトリウム含有量は20ppmであった。回分式塔型流動乾燥器により、窒素ガスを135℃雰囲気中で36時間接触させて、メタノール含有量0.01ppm、酢酸(a)含有量10ppm、酢酸ナトリウム(b)含有量20ppm〔(a)/(b)=0.5(重量比)〕のEVOHペレットを製造した。かかるEVOHペレットの20℃における貯蔵弾性率は3×10^(9)Paであった。かかるEVOHペレットを用いて、同様に評価を行った。実施例及び比較例の評価結果を表1、2に示す。」

・「【0038】
【表1】



・「【0039】
【表2】



・「【0040】
【発明の効果】本発明の、EVOHペレットは特定の物性値を有しているため、ペレットの輸送時の温度変化や荷積みの状態、振動などによっても、該ペレットが融着を起こしたりせず、また、割れ、欠け、微粉の発生が少なく、溶融成形性にも優れ、溶融成形時のトルク変動や吐出量変化が少なく、更には厚みの均一性に優れたフィルムやシート等の成形物を得ることができ、食品や医薬品、農薬品、工業薬品包装用のフィルム、シート、チューブ、袋、容器等の用途に非常に有用である。」

イ 甲1発明
甲1の記載事項を整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「酢酸水溶液に浸漬後、回分式塔型流動層乾燥器で窒素ガスに接触させて得たエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレット25kgを、ブレンダーに入れて、室温で10時間回転させて得られた内容物を取り出し100μmの篩にかけ、該篩を通過した微粉の重量が0?2g未満(0?0.008重量%未満)であるエチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物ペレット。」(取消判決の拘束力)

(2)甲3に記載された事項
ア 甲3(「プラスチックペレットにおける微粉・ストリーマーの詳細を測定するための試験方法」欧州物流機械産業連盟(FEM))には、おおむね次のとおりの記載がある(原文の摘記は省略し、訳文のみを記す。)。

(ア)「プラスチックペレットにおける微粉・ストリーマーの詳細を測定するための試験方法」(請求人が提出した甲3の訳文(以下、単に「訳文」という。)第1ページ)

(イ)「1. 趣旨
本書の趣旨は、プラスチックペレットの空気輸送、混合、投与、スクリーニング、保存などのプロセスにおいて生じ得る微粉、ストリーマー(エンゼルヘア)、製品劣化量の分析法の決定・基準設定を行い、これらの問題の原因を究明することです。
上記基準の目的は、設計者・エンドユーザ双方の観点から、これらの問題を検討する際の客観的な基準ベースを設定することです。
本基準のベースとなる分析法により、微塵の詳細について現実的なデータが確実に提供されることが実証されています。本目的のために他の特別機器の使用または生産が行われた場合、当該メーカーは、本書に基づいてその機器の機能を正確に確認しなければなりません。」(訳文第1ページ)

(ウ)「2. はじめに
プラスチックのペレット化プロセス(押し出し・切断)およびその後の取扱手順(空気輸送、混合、保存、投与、スクリーニング、フィーディング、袋詰め)において、プラスチックペレットの劣化が生じることがあります。この劣化は、微粉、ストリーマー(「微細」と呼ばれることもある)およびミスカットもしくは破片の三サイズに分類され、それぞれの面積・サイズは非常に異なります。
製品の劣化は、主に、製品グレードの種類によります。すべてのプラスチック材にはミスカットや微粉がありますが、その一方で、ストリーマーは、ポリエチレンやポリプロピレンなどの一定のポリマーが劣化したときに生じます。
上記のすべての劣化が原因となり、プラスチックペレットから最終製品への変換に深刻な影響を及ぼします。ほとんどのポリマーメーカーでは、最終製品の質を向上させるため、ペレットクリーンシステムを採用しています。」(訳文第1ページ)

(エ)「3.1 微粉の定義
FEM 2482の対象となる微粉は、粒子サイズが500μm以下の粒子の断片と定義されています。この断片の下限はダウンストリームプロセスが必要か否かにより、次の表から選択しなければなりません。


(訳文第2ページ)

(オ)「3.2 ストリーマーの定義
・ 大きさが500μm以上の粒子断片で、通常のペレット形状と異なるものをストリーマーコンテント(例 ストリーマー、エンゼルヘア、フィルム、フォイル)といいます。
・ 過小ペレット、ミスカットまたは500μm以上破損ペレットは、本分析法の対象ではありません。」(訳文第2ページ)

(カ)「3.3 分離メカニズム
本書に示す分析プロセスでは、前項で定義した塵粉とストリーマー断片の粒子をすべて認識することを目的としています。分離メカニズムは、以下のとおりです。
粒子サイズがペレットの直径をかなり上回る場合、ストリーマーコンテントは、ドライスクリーニングによって決まります。
気相において微粉・ペレット間の粘着力(ファンデルワールス力、静電気力)が強いため、ペレット表面からの微粉分離が非常に困難となります。ただし、液相においてはこういった粘着力を克服するのがかなり容易となるので、この分類段階ではウェットプロセスが有効です。
全プロセスは、次の段階から構成されています。
1.固体間の粘着力の削減
2.懸濁液中の固体を効果的に分散
3.ペレットから微粉を分離
4.液体から微粉を分離
・ 上記1 液体を加えることで達成
・ 上記2 液体流により流動化(液体の密度が試験品より高い場合)または空気注入による浮上
・ 上記3 分離する粒子の異なるストークス速度または懸濁液流中のシーブにより実施
・ 上記4 フィルター、シーブもしくはシーブ一式により実施」(訳文第2及び3ページ)

(キ)「4. サンプル採取
プラスチックペレットの微粉コンテントは、通常の状況下において10?2000ppm(審決注:0.001?0.2質量%)の範囲内であることがあります。プラスチックペレットにおいては、1リットル以上のサンプルから信頼できる結果を得ることができます。
主にストリーマー(エンゼルヘアー)劣化についての測定を行う場合、ストリーマー群の影響を最小限にとどめるため、サンプルのサイズは最低50リットルでなければなりません。
ただし、本分析の第一段階に特に注意を払い、サンプルの充填、荷揚げおよび搬送の際に塵埃コンテントの分離プロセスが起こらないようにする必要があります。例えば、質量1kgのペレットサンプルでは、質量10mg?2000mgの微粉が生じることがあります。この少ない絶対質量を測定しなければなりませんが、塵埃群、塵埃塊などの影響は非常に大きくなります。したがい、生産に変化があったかもしくは絶対量が決定されているかにより、サンプル採集の見方が異なります。こういった場合のサンプル採集法は工場の環境に依存するところが大きく、機械工学プロセスの知識によってのみ適切に習得することができます(FEM2 481を参照)。」(訳文第3ページ)

(ク)「5. 微粉コンテント測定用の試験装置の概要
5.1 概要
以下に述べる測定器(図1を参照)の目的は、試験用サンプルのペレットからすべての塵埃を分離させることです。この測定器は、洗浄液を再循環モードで流して作動します。
上記の測定器の構成は、以下のとおりです。
・カラムC1 塵埃で汚染された製品に使用
・カラムC2 洗浄液から塵埃を分離
・カラムC1とカラムC2を上部で接続する排水管
・絞り弁を備えたポンプおよびC2とC1を下部で接続する流量計
C1内の洗浄液中にあるペレットを分散させることにより、塵埃がペレットから分離し、洗浄液と共に排水管を通ってC2に送られます。その後、測定した微粉断片により、孔サイズが並の吸水性樹脂の保水剤によって、塵埃が洗浄液から分離されます(セクション3の種類A?Cを参照)。」(訳文第3ページ)

(ケ)「5.3.4.2 浮上による分散(モード2)
・・・(略)・・・
ペレットから塵埃を確実に分離させペレットをC1に保持するには、カラムC1上部にシーブを設ける必要があります。このスクリーンは、分離する断片が大きめの場合これを許容するために選択しなければなりません(500μm、セクション3を参照)。
・・・(略)・・・
以下の表は、分散モード、製品の種類および洗浄液の組み合わせの内、適切とされているものの概要を示すものです。

」(訳文第5及び6ページ)

(コ)「

」(訳文第13ページ)

イ 以上の記載によると、甲3には、微粉の定義を粒子サイズが500μm以下の粒子の断片とすること、全てのプラスチック材には微粉があること及びそれによりペレットから最終製品への変換に深刻な影響を及ぼすことが記載されていると認められる。

(3)甲28及び29に記載された事項
ア 甲28には、「About FEM」の「What is FEM」に関して、おおむね次のとおりの事項が記載されている(原文の摘記は省略し、訳文のみを記す。)。

・「FEMとは。
FEMは、材料の処理や運搬、保管設備に関する欧州の製造業者同盟であり、1953年に設立された。FEMは、ブリュッセルに設立された、非営利事業者団体(ベルギー法に基づく非営利組織)であり、その目的は、FEMの会員やその同業者と、欧州組織や欧州パートナーとの関係を良好なものにすることである。
FEMの会員は、現在、EUの13カ国のほか、ロシアやトルコによって構成されている。これらの会員は、FEMの工業の共通化の促進や、世界市場における欧州の材料の処理や運搬、保管設備に係るリーダーシップの維持のために重要な原動力となる。
欧州の工業では、1年あたり、およそ600億ユーロの売り上げがある。そして、全体で見て、FEMは16万人の雇用者を抱える1000社以上の代表であり、これらは、欧州に存在する会社の80%以上に相当する。これは世界の工業製品の半数以上を占める。」(第1ページ第2ないし13行)

イ 甲29には、「MISSION OBJECTIVE」に関して、おおむね次のとおりの事項が記載されている(原文の摘記は省略し、訳文のみを記す。)。

・「使命
材料の処理や運搬、保管設備に係る欧州産業の技術的、経済的、政治的な利益を表明し、守ること。
市場の流行や技術開発をやりとりするための機会を提供すること。
お互いの利益のために、他の工業部門や国際貿易パートナーとの協力を行うこと。
目的
材料処理工業において、技術の発展、安全な運転、持続可能な開発をエネルギー効率の促進。
欧州や国際レベルにおいて、技術標準の積極的な構築。
工業における欧州法の制定の推進。
欧州や世界中において、材料の処理や保管設備の工業メーカー同士の相互協力の促進。」(第1ページ第2ないし14行)

(4)甲30及び31に記載された事項
ア 甲30に記載された事項
甲30には、「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物及びそれを用いた多層構造体」に関して、おおむね次のとおりの事項が記載されている。

・「【請求項1】 エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に、ホウ素化合物(A)をホウ素換算で0.001?1.0重量%、酢酸ナトリウム(B)、酢酸マグネシウム(C)を金属換算でいずれも0.001?0.1重量%含有させることを特徴とするエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物。
【請求項2】 更に酢酸を0.01重量%以下含有させることを特徴とする請求項1記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物。
【請求項3】 ホウ素化合物(A)をホウ素換算で0.005?0.5重量%、酢酸ナトリウム(B)、酢酸マグネシウム(C)を金属換算でいずれも0.001?0.05重量%含有させることを特徴とする請求項1あるいは2記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物。
【請求項4】 ホウ素とナトリウムの重量比(ホウ素/ナトリウム)が0.5?10.0であることを特徴とする請求項1?3いずれか記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物。
【請求項5】請求項1?4いずれか記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物からなる層の少なくとも片面に熱可塑性樹脂を積層してなることを特徴とする積層体。」

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物及びそれを用いた多層構造体に関し、更に詳しくは、溶融成形時のロングラン性に優れ、且つフィルム等に成形した時にフィッシュアイ等の発生が少なく、透明で、スジが少ない美麗な成形品を製造するのに好適なエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物及び経時的なスジの発生が少ない積層体を提供するものである。」

・「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、本発明者の検討によれば、特開昭64-66262号公報開示技術では、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物が溶融状態で長時間滞留すると、樹脂の分解が起こることから、ロングラン成形時に得られたフィルムが着色する現象が認められ、特にシート、ボトル、チューブなどの厚手の成形物では、着色が目立ち商品価値を著しく損なう欠点が有り、工業的に極めて重大な問題となっていた。また、該公報開示の方法で、特定の酸としてホウ酸を用いた場合には、得られた成形物中のフィッシュアイが多くなるという欠点もあった。
【0004】即ち、高度の機能、品質を有する成形物が要求されている昨今にあっては、溶融成形時のロングラン性が良好で、成形物の物性(フィッシュアイ、透明性、スジ)の良好なエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物が望まれているのである。
【0005】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者は、かかる事情に鑑みて鋭意研究した結果、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に、ホウ素化合物(A)をホウ素換算で0.001?1.0重量%、酢酸ナトリウム(B)、酢酸マグネシウム(C)を金属換算でいずれも0.001?0.1重量%含有させると、上記欠点を克服し、かつ上記用途に有用であることを見いだし本発明を完成するに至った。」

・「【0027】
【実施例】次に実施例を挙げて本発明の方法を更に詳しく説明する。以下「部」、「%」とあるのは特に断わりのない限り重量基準である。
実施例1
エチレン含量32モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体の40%メタノール溶液1000部を耐圧反応器に入れ、撹拌しながら110℃に加熱した。続いて水酸化ナトリウムの6%メタノール溶液40部及びメタノール2500部を連続的に仕込むとともに、副生する酢酸メチル及び余分のメタノールを系外から留出させながら、2.5時間ケン化反応を行い、酢酸ビニル成分のケン化度99.8モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物を得た。該エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物の水/メタノール溶液をストランド状に凝固浴中に押出しペレットAを製造した。次に該ペレットA100部を0.3%酢酸水溶液300部に浸漬し、30℃で1時間撹拌して、該酢酸水溶液による洗浄を更に1回繰り返した。洗浄して得られたペレットに水300部を加えて混合し、30℃で1時間撹拌した。該水洗は更に2回繰り返し、ペレットを濾別した。次に、ホウ酸0.052%、酢酸ナトリウム0.025%、酢酸マグネシウム0.007%を含有するイオン交換水溶液200部に上記で得られたペレットを浸漬して、ペレットを濾別し120℃で24時間乾燥してペレットBを得た。かくして得られたエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物(ペレットB)は、ホウ酸がホウ素換算で0.031%、酢酸ナトリウムと酢酸マグネシウムがそれぞれ金属換算で0.093%、0.022%含有されていた。」

・「【0037】
【発明の効果】本発明のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に、ホウ酸(A)をホウ素換算で0.05?0.3重量%、酢酸ナトリウム(B)、酢酸マグネシウム(C)を金属換算で0.001?0.02重量%含有しているので、溶融成形時のロングラン性、成形物のフィッシュアイ、透明性、スジ等の物性に優れる。」

イ 甲31に記載された事項
甲31には、「樹脂組成物およびその積層体」に関して、おおむね次のとおりの事項が記載されている。

・「【請求項1】 エチレン含有量が20?60モル%、ケン化度が90モル%以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)とホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種(B)からなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】 (B)の含有量がホウ素換算で(A)100重量部に対して0.001?1重量部であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】 更に酢酸(C)が(A)100重量部に対して0.05重量部以下含有されてなることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】 請求項1?3いずれか記載の樹脂組成物からなる層の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層を積層してなることを特徴とする積層体。
【請求項5】 熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項4記載の積層体。」

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エチレン-酢酸ビニル系共重合体ケン化物(以下、EVOHと略記する)樹脂組成物及びそれを用いた積層体に関し、更に詳しくは溶融成形時のロングラン性に優れ、フィッシュアイやスジが少なく外観性に優れ、かつ積層体としたときに層間接着性に優れた樹脂組成物及びそれを用いた積層体に関するものである。」

・「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、かかる特開昭59-192564号公報開示技術や特開昭55-12108号公報開示技術では、上記の成形物の外観性や溶融成形時のロングラン性については十分に考慮されておらず、更に層間接着性についても新なる改善が望まれるところである。
【0004】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者は、かかる現況に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、エチレン含有量が20?60モル%、ケン化度が90モル%以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)とホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種(B)からなる樹脂組成物が、かかる課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。」

・「【0021】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。尚、実施例中「部」、「%」とあるのは特に断りのない限り重量基準を示す。
実施例1
エチレン含有量35モル%、ケン化度99.5モル%、MI20g/10分(210℃、荷重2160g)のEVOH(A)のケン化後の水/メタノール溶液の多孔性析出物(EVOH(A)100部に対して水100部を含有)を0.5%の酢酸水溶液で洗浄し、更に水で洗浄後、0.2%の四ホウ酸カリウム(B)、0.1%の酢酸(C)を含有する水溶液中に投入し、30℃で5時間撹拌した後、110℃で8時間乾燥を行って、EVOH(A)100重量部に対して、ホウ素(B1)、酢酸(C)をそれぞれ0.03重量部、0.009重量部含有する本発明のEVOH組成物を得た。」

・「【0033】
【発明の効果】本発明のEVOH組成物は、ホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウムの少なくとも1種を含有しているため、溶融成形時のロングラン性に優れ、フィッシュアイが少なく、外観性にも優れた成形物が得られ、更には該成形物を積層体として、延伸や深絞りなどの二次加工後も該積層体の層間接着性にも優れ、各種の積層体とすることができ、食品や医薬品、農薬品、工業薬品包装用のフィルム、シート、チューブ、袋、容器等の用途に非常に有用で、特に延伸を伴う二次加工製品等に好適に用いることができる。」

(5)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、次の一致点で一致し、次の相違点で相違する。
<一致点>
「所定の篩を通過する微粉の割合が所定値より少ないEVOHペレット群。」

<相違点1>
本件発明1では、篩が「32メッシュ(目開き500μ)」であって、上記「所定値より少ない」が、「0.1重量%以下」であるのに対して、甲1発明では、篩が「149メッシュ(目開き100μ)」であって、上記「所定値より少ない」が「0.008重量%未満」である点。

<相違点2>
本件発明1では、「該エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物がホウ素化合物、(A)融点200℃以下の酸性物質及び(B)アルカリ金属を含有し、
該ホウ素化合物の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対してホウ素換算で0.001?1重量%であり、
該(A)融点200℃以下の酸性物質の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して0.001?0.05重量%であり、
該(B)アルカリ金属の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して金属換算で0.001?0.5重量%である」と特定されているのに対して、甲1発明では、そのようには特定されていない点。

<相違点3>
用途に関して、本件発明1では、「積層体成形用」と特定されているのに対して、甲1発明では、そのようには特定されていない点。

相違点の判断
(ア)相違点1について
a 上記(1)アによると、甲1には、微粉の発生が極めて少ないEVOHペレットは、溶融成形性に優れ(【0001】、【0003】及び【0029】ないし【0040】)、溶融成形時のトルク変動や吐出量変化が少なく、厚みの均一性に優れたフィルムやシート等の成形物を得ることができること(【0040】)が記載されており、甲1発明の課題は、ペレット群における微粉を所定値以下に保つことにより、EVOHペレットをフィルムに成形する際に、膜厚の変化等の影響をなくし、厚みの均一性に優れた成形物を得ることであると認められる。
上記(2)によると、甲3には、すべてのプラスチックペレットにつき、微粉が生じ、微粉の存在が原因となり、プラスチックペレットから最終製品への変換を行うに当たり、最終製品の質に深刻な影響を及ぼすこと(上記(2)ア(ウ))、ペレットから粒子サイズが500μm以下の粒子の断片である微粉を分離することにより、適切な質の製品を製造することができること(同(エ)及び(カ)ないし(ケ))が記載されているといえるのであって、甲3には、ペレットから微粉を取り除くことにより、プラスチックペレットから成形される最終製品の品質を向上させることが、課題として記載されていると認められる。そして、EVOHはプラスチックの一種であり、フィルムは、甲3における「最終製品」に含まれると認められるので、甲1発明と甲3に記載された事項は、最終製品の質の向上という点で、課題が共通するといえる。
そして、甲3には、粒子サイズが500μm以下の粒子の断片である微粉を、500μmのシーブ(篩)を用いて分離することが記載されている(同(ケ))ところ、粒子サイズが500μm以下であることが、欧州物流機械産業連盟の定めた規格であり(同(エ))、欧州物流機械産業連盟は、欧州の当該分野における会社の80%以上(1000社以上)が加盟する非営利事業者団体であると認められる(甲28及び29、上記(3))ことを考え合わせると、甲1発明の微粉を、甲3に記載された事項である「32メッシュ(目開き500μ)」の篩を用いて分離すること、すなわち、相違点のうち、甲1発明における「149メッシュ(目開き100μ)」の篩を、「32メッシュ(目開き500μ)」の篩にすることには、動機付けがあるといえる。
また、甲3には、上記のとおり、プラスチックペレットから微粉を取り除くことにより、成形される最終製品の品質を向上させることが、課題として記載されていると認められ、粒子サイズが500μm以下の粒子の断片である微粉を、500μmの篩を用いて分離することが記載されている。さらに、甲3には、プラスチックペレットの微粉コンテントは、通常の状況下において10?2000ppm(0.001?0.2質量%)の範囲内であること、例えば、質量1kgのペレットサンプルでは、質量10mg?2000mg(0.001?0.2質量%)の微粉が生じることがあること(上記(2)ア(キ))も記載されている。
そうすると、甲3に記載された事項から、プラスチックペレットから微粉を取り除くことにより、成形される最終製品の品質を向上させること、500μmの篩を用いて分離されるプラスチックペレットの微粉コンテントは、通常の状況下において0.001?0.2質量%程度であることが理解できるから、成形される最終製品の品質を考慮して、プラスチックペレットの微粉コンテントを0.001?0.2質量%の範囲内で設定することが可能であり、当業者が適宜採用する設計事項であると認められる。
したがって、甲1発明に甲3に記載された事項を組み合わせて相違点1に係る本件発明1の構成に至る動機付けがあるということができる。

(イ)相違点2について
甲30には、「溶融成形時のロングラン性に優れ、且つフィルム等に成形した時にフィッシュアイ等の発生が少なく、透明で、スジが少ない美麗な成形品を製造するのに好適なエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物及び経時的なスジの発生が少ない積層体を提供する」ために、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に、ホウ素化合物をホウ素換算で0.001?1.0重量%、酢酸ナトリウム、酢酸マグネシウム(当審注:ナトリウムやマグネシウムは、アルカリ金属として、本件明細書の【0022】に例示されている。)を金属換算でいずれも0.001?0.1重量%含有させること、酢酸(当審注:酢酸は、融点が200℃以下の酸性物質として、本件明細書の【0021】に例示されている。)を0.01重量%以下含有させることが記載されている。
甲31には、「溶融成形時のロングラン性に優れ、フィッシュアイやスジが少なく外観性に優れ、かつ積層体としたときに層間接着性に優れた樹脂組成物及びそれを用いた積層体」を提供するために、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に、ホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種(当審注:ホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウムはホウ素化合物である。)をホウ素換算でエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物100重量部に対して0.001?1重量部、酢酸をエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物100重量部に対して0.05重量部以下含有させることが記載されている。
甲30及び31に記載された事項によると、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物及びそれを用いた多層構造体に関し、溶融成形時のロングラン性に優れたエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物組成物を提供するために、「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物」に「ホウ素化合物」、「融点200℃以下の酸性物質」及び「アルカリ金属」を含有させ、該「ホウ素化合物」の含有量を、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対してホウ素換算で0.001?1重量%とし、「融点200℃以下の酸性物質」の含有量を、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して0.001?0.05重量%とし、「アルカリ金属」の含有量を、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して金属換算で0.001?0.5重量%とすることは、本件特許の出願前に、当業者にとって、周知慣用技術であるといえる。
そして、甲1発明は、EVOHペレットをフィルムに成形する際に、膜厚の変化等の影響をなくし、厚みの均一性に優れた成形物を得ることを発明の課題とするものであることから、溶融成形時のロングラン性を優れたものとすることは、甲1発明においても当然要求される課題である。
したがって、甲1発明に周知慣用技術を組み合わせて相違点2に係る本件発明1の構成に至る動機付けがあるということができる。

(ウ)相違点3について
甲1の【0022】には、甲1に記載されたEVOHペレットをフィルム又はシート状に成形してなる層を少なくとも一層含有させて積層体とすることが記載されている。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の構成に至る動機付けがあるということができる。

(エ)効果について
本件明細書の【0007】によると、本件発明1の効果は、EVOHペレット群を「成形物に溶融成形したときにEVOH層界面での乱れに起因するゲルの発生がなく、良好な成形物が得られ、多層フィルムとして有用」であることであるところ、上記3のとおり、「EVOH層の界面での乱れに起因するゲルの発生」の意義について理解することはできないから、この点についての本件発明1の効果は、「成形物に溶融成形したときに」、「良好な成形物が得られ、多層フィルムとして有用」という程度のことしか理解できない。表面に乱れがない単層フィルムは、その外観が良好になるはずであり、EVOH層を含む多層フィルムは、単層の表面の乱れがそのまま多層との界面に残存するといえるから、他の条件が全く同じであれば、EVOH層の表面に乱れがなければ、EVOH層の表面に乱れがある場合よりも、全体としてその外観が良好になるはずである。
また、本件明細書において、EVOH層の乱れによるゲルの発生(目視観察)に関し、実施例1?4(微粉の割合0.02?0.08質量%)は、比較例1(微粉の割合0.2質量%)よりもゲルの発生が少ないことが記載されているが(本件明細書【0042】ないし【0044】)、上記で述べたとおり、「EVOH層の乱れによるゲルの発生」の意義を理解することができないうえでの目視観察であるから、本件発明1の効果を検討するに際し、これを参酌することができない。
したがって、上記の本件発明1の効果は、当業者が予測可能なものであり、格別のものであるとはいえない。

(オ)そうすると、本件発明1は、甲1発明、甲3に記載された事項及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(6)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の積層体成形用エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群を成形してなる層を少なくとも一層含有することを特徴とする積層体の発明であるが、甲1の【0022】に、「EVOHペレットから一旦フィルム、シート等の成形物を得、これに他の基材を押出コートしたり、他の基材のフィルム、シート等を接着剤を用いてラミネートする」、「積層体の層構成は、EVOHの層をx(x_(1)、x_(2)、・・・)、他の基材、例えば熱可塑性樹脂層をy(y_(1)、y_(2)、・・・)とするとき、フィルム、シート、ボトル状であれば、x/yの二層構造のみならず、y/x/y、x/y/x、x_(1)/x_(2)/y、x/y_(1)/y_(2)、y_(2)/y_(1)/x/y_(1)/y_(2)等任意の組み合わせが可能であり、フィラメント状ではx、yがバイメタル型、芯(x)-鞘(y)型、芯(y)-鞘(x)型、或いは偏心芯鞘型等任意の組み合わせが可能である」とあるとおり、甲1には、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群を成形してなる層を少なくとも一層含有する積層体が記載されているといえる。
したがって、本件発明3は、甲1発明、甲1及び3に記載された事項及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(7)まとめ
したがって、本件特許の請求項1及び3に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

第7 結語
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1及び3に係る発明についての特許は無効とすべきものである。
また、本件特許の請求項2に係る特許は、訂正により削除された。これにより、本件特許の請求項2に係る特許についての審判請求は、その対象が存在しないものとなったため、特許法第135条の規定により却下する。
なお、無効理由3には理由がない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微紛の含有量が0.1重量%以下であることを特徴とするエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群であり、
該エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物がホウ素化合物、(A)融点200℃以下の酸性物質及び(B)アルカリ金属を含有し、
該ホウ素化合物の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対してホウ素換算で0.001?1重量%であり、
該(A)融点200℃以下の酸性物質の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して0.001?0.05重量%であり、
該(B)アルカリ金属の含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物に対して金属換算で0.001?0.5重量%である、
積層体成形用エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群を成形してなる層を少なくとも一層含有することを特徴とする積層体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2020-07-06 
結審通知日 2020-07-09 
審決日 2020-07-27 
出願番号 特願2003-275196(P2003-275196)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (C08J)
P 1 113・ 537- ZA (C08J)
P 1 113・ 536- ZA (C08J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中島 芳人  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加藤 友也
植前 充司
登録日 2010-09-03 
登録番号 特許第4580627号(P4580627)
発明の名称 エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群及びその用途  
代理人 森山 航洋  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 清水 紘武  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 清水 紘武  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 大友 良浩  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 森山 航洋  
代理人 大友 良浩  

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