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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  G06F
管理番号 1367241
審判番号 無効2018-800118  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-09-26 
確定日 2020-10-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第5253605号発明「医薬品相互作用チェックシステム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件無効審判の請求に係る特許第5253605号(以下、「本件特許」という。)は、平成12年3月28日に出願された特願2000-089076号の一部が平成21年12月25日に特願2009-295717号として新たに特許出願され、その一部が平成24年6月21日に特願2012-140141号として新たに特許出願され、その請求項1ないし9に係る発明について、平成25年4月26日に特許権の設定登録がなされた。
その後、請求項1ないし9からなる一群の請求項について訂正審判(訂正2015-390054号。以下「訂正審判」という。)が請求され、平成27年7月10日付けで訂正認容審決がなされ、その謄本が同年同月21日に送達された。

本件無効審判の経緯は、次のとおりである。
平成30年 9月26日 本件無効審判請求、甲1?甲28
平成30年12月28日 答弁書、乙1?8
平成31年 3月14日付 審理事項通知書(1)
平成31年 4月 5日 上申書、甲29
平成31年 4月18日 請求人口頭審理陳述要領書(1)、甲30?33
平成31年 4月18日 被請求人口頭審理陳述要領書(1)、乙9?16
平成31年 4月25日付 審理事項通知書(2)
令和 元年 5月23日 請求人口頭審理陳述要領書(2)、甲34?37
令和 元年 5月23日 被請求人口頭審理陳述要領書(2)
令和 元年 5月31日 被請求人口頭審理陳述要領書(3)、乙17
令和 元年 5月31日 口頭審理
令和 元年 7月24日 乙18
令和 元年 8月 1日 上申書(請求人)
令和 元年 8月 9日 上申書(請求人)、甲38、甲39
令和 元年 8月30日 審理終結通知

第2 本件特許発明
訂正審判による訂正後の本件特許の請求項1ないし4、6、8、9の記載は次のとおりである。(以下、本件特許の請求項1に係る発明と「本件特許発明1」といい、以下、請求項2ないし4、6、8、9についても、同様に、「本件特許発明2」ないし「本件特許発明4」、「本件特許発明6」、「本件特許発明8」、「本件特許発明9」という。)

【請求項1】
ネットワーク接続されたいずれかの機器に、
一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と、前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で、相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互作用マスタを記憶する記憶手段と、
入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし、自己医薬品と相手医薬品の組み合わせが、前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断することにより、相互作用チェック処理を実行する制御手段と、
対象となる自己医薬品の名称と、相互作用チェック処理の対象となる相手医薬品の名称とをマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し、前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用チェック処理の結果を、前記マトリックス形式の該当する各セルに表示する表示手段と、
を備えたことを特徴とする医薬品相互作用チェックシステム。

【請求項2】
前記記憶手段に記憶する相互作用マスタは、相互作用が発生する組み合わせを、各医薬品の効能を定めた薬効コードの組み合わせとして格納することを特徴とする請求項1に記載の医薬品相互作用チェックシステム。

【請求項3】
前記記憶手段は、相互作用が発生する医薬品の各組み合わせに対して、作用・機序を含む詳細情報を関連付けた作用マスタをさらに記憶し、
前記制御手段は、前記相互作用チェック処理の結果が表示された各セルが指定されると、前記記憶手段に記憶した作用マスタに基づいて、相互作用についての詳細情報を前記表示手段に表示させることを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬品相互作用チェックシステム。

【請求項4】
前記記憶手段は、患者データを含む過去の処方データを蓄積した蓄積処方データをさらに記憶し、
前記相手医薬品は、蓄積処方データの各医薬品を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の医薬品相互作用チェックシステム。

【請求項6】
前記表示手段に表示されたマトリックス形式の各セルに表示される相互作用チェックの結果には、識別可能な記号で表示される併用注意と併用禁忌を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の医薬品相互作用チェックシステム。

【請求項8】
前記記憶手段は、相互作用マスタに登録された相互作用が発生する医薬品の組み合わせのうち、相互作用チェック処理を除外した医薬品の組合せについて格納する相互作用除外マスタを記憶し、
前記制御手段は、前記相互作用マスタに基づいて相互作用チェック処理を実行した後、前記相互作用除外マスタを検索して該当する医薬品の組み合わせを除外することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の医薬品相互作用チェックシステム。

【請求項9】
前記記憶手段は、相互作用が発生する医薬品の組み合わせについてのデータを格納する相互作用共通マスタとは別に、各医療施設に応じて作成した相互作用個別マスタを記憶し、
前記制御手段は、前記相互作用共通マスタに優先して、前記相互作用個別マスタに基づく相互作用チェック処理を実行することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の医薬品相互作用チェックシステム。

第3 無効理由
1 無効理由1(請求項1ないし4、6、8についての無効理由)
ア 無効理由1-1
本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づき、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
イ 無効理由1-2
本件特許の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明及び周知技術に基づき、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
ウ 無効理由1-3
本件特許の請求項6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証に記載された発明及び周知技術に基づき、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
エ 無効理由1-4
本件特許の請求項8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第28号証に記載された発明及び周知技術に基づき、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。

2 無効理由2(請求項9についての無効理由)
ア 無効理由2-1
本件特許の請求項9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第10号証に記載された発明及び周知技術に基づき、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
イ 無効理由2-2
本件特許の請求項9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、公知発明(甲第9号証、甲第9号証の2、甲第10号証、甲第14号証ないし甲第18号証により認定される、本件特許に係る特許出願前に日本国内において公然知られた発明)及び周知技術に基づき、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 両当事者の主張と証拠方法
1 請求人の主張する請求の趣旨及び理由
請求人は、本件特許の請求項1ないし4、6、8、9に記載された発明は、上記「第3」に示した理由により、特許法第29条第2項に違反して特許されたものであって同法第123条第1項第2号により無効とされるべきものであると主張し、これらの発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めている。

(1)無効理由1の主張の概要
ア 本件特許発明1について
(ア)相互作用マスタについて
甲1発明の「医薬品相互作用チェックテーブル105」は、本件特許発明1の『・・・相互作用マスタ』に相当する。
甲1発明の「医薬品相互作用チェックテーブル105」には、「自己テーブル部401」「自己医薬品」と、「相手テーブル部402」の「相手医薬品」とが1対1の関係で、つまり、本件特許発明1の『個別に』格納されている。「自己テーブル部401」の「自己医薬品」の添付文書から抽出された情報により、当該「自己医薬品」と相互作用が発生する医薬品が「相手テーブル402」の「相手医薬品」として格納され、この「相手医薬品」として格納された医薬品においても、同様に当該医薬品を「自己医薬品」とした添付文書から抽出された相互作用が発生する医薬品を「相手医薬品」として、「医薬品相互作用チェックテーブル105」に格納される。「処方される医薬品」に関しては、「自己医薬品テーブル102」と「相手医薬品テーブル103」にそれぞれ記憶され、「自己医薬品テーブル102」の「自己医薬品」と、「相手医薬品テーブル103」の「相手医薬品」との間で、相互作用が存在するかをチェックするのであるから、「処方される医薬品」に関していえば、双方向の相互作用チェックを行えるような「薬品相互作用チェックテーブル105」を備えているのであり、「自己医薬品テーブル102」の「自己医薬品」が、「処方される医薬品」のうちの一の「処方される医薬品」であり、「相手医薬品テーブル103」の「相手医薬品」が他の「処方される医薬品」の関係となる一方で、当該他の「処方される医薬品」が、「自己医薬品テーブル102」の「自己医薬品」となり、当該一の「処方される医薬品」が「相手医薬品テーブル103」の「相手医薬品」の関係になるから、甲1発明の「医薬品相互作用チェックテーブル105」は、結果的に、本件特許発明1の『2通りの主従関係』で、相互作用が発生する医薬品の組み合わせが格納されているものである。(審判請求書24?26頁)
薬品Aの添付文書に基づく情報と薬品Bの添付文書に基づく情報とは、必然的に別の情報として記憶され、このとき、薬品Aの添付文書に薬品Bの医薬品名でなくとも、薬品Bが属する医薬品群(例えば薬品Bの一般名、薬品Bの薬効+剤のような表記)との相互作用が記載されていれば、当該添付文書に基づいて、薬品Aの一般名コード及び薬効分類コード(これらは医薬品ごとに必ず存在する)、並びにBOXコードを自己テーブル部401に、相手方の医薬品群の概念から特定される(薬品Bの)一般名コード及び薬効分類コード及びBOXコードを相手テーブル部402に、これらの間の相互作用に関する情報をコメントテーブル部403に記憶することになり、薬品Bの添付文書に基づく情報についても、同じように、各コードの組み合わせとして、医薬品相互作用チェックテーブル105の各テーブル部に記憶することになる。したがって、医薬品相互作用チェックテーブル105には、薬品Aからみた薬品Bの場合と、薬品Bからみた薬品Aの場合とが、別の情報として(つまり、テーブルにおける別の行として)記憶されることは明らかである。(口頭審理陳述要領書(1)8?10頁)

(イ) 相互作用チェックについて
甲1発明では、「検索前処理801」で「・・・自己医薬品のそれぞれのコードを確定し、・・・相手医薬品のそれぞれのコードを確定し」、その後、「相互作用チェックテーブルの検索処理802」で、「・・・それぞれの検索でコードが存在する場合には、処方する自己医薬品には患者が服用する医薬品あるいは処方する医薬品(相手医薬品)との間に相互作用を有する組み合わせが存在することにな」るから、甲1発明は、「処方する自己医薬品」と「・・(相手医薬品)」との組み合わせが、「医薬品相互作用チェックテーブル105」に登録された組み合わせと合致するか否かを判断しているものである。そして、医薬品相互作用チェックを行うとの観点からすると「処方する医薬品」に関しては、各「処方する医薬品」を「自己医薬品」とした「検索処理」を行うことは当然のことであるから、一の「処方する医薬品」を自己医薬品とし、他の一の「処方する医薬品」を相手医薬品とした検索処理と、当該他の一の「処方される医薬品」を自己医薬品とし、当該一の「処方する医薬品」を相手医薬品とした「検索処理」がそれぞれ行われることは明らかである。そうすると、甲1発明の「検索処理」は、本件特許発明1の『・・・組み合わせと合致するか否かを判断する』『相互作用チェック処理』に相当する。(審判請求書26頁)
甲1発明の検索処理では、相互作用チェックの対象となる処方医薬品は、予め医薬品入力101の過程で入力された情報に基づき、自己医薬品テーブル102と相手医薬品テーブル103の両者に登録されており、処方された自己医薬品と相手医薬品の各コードを医薬品相互作用チェックマスタ104から抽出し、抽出した各コードの組み合わせが医薬品相互作用チェックテーブル105に存在するか否かを検索している。また、出力において、自己医薬品と相手医薬品を区別している。(口頭審理陳述要領書(1)10?13頁)

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2に係る限定により新たな相違点は生じない。(請求書29頁)

ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3に係る限定に係る相違点について、引用発明1において甲2?8、甲27に記載される技術事項を適用した際には、マトリックス形式の表示に加え、必要に応じて詳細を表示することも、容易想到である。(請求書30頁)

エ 本件特許発明4について
本件特許発明2に係る限定により新たな相違点は生じない。(請求書30?31頁)

オ 本件特許発明6について
本件特許発明6に係る限定に係る相違点について、甲6には、各セルに表示された相互作用チェックの結果に、併用禁忌と併用注意を識別可能な記号で表示する技術が記載されており、これを引用発明1にさらに適用することは、容易想到である。(請求書31?32頁)

カ 本件特許発明8について
本件特許発明8に係る限定に係る相違点について、甲28に記載の「例外ファイル」を用いるようにすることは、容易想到である。(請求書32?34頁)

(2)無効理由2の主張の概要
ア 甲10マニュアルの記載について
甲10マニュアルには、「服薬指導CD-ROMに共通に搭載された、相互チェックに利用されるデータベースとは異なる、医療施設(ユーザー)が登録した相互作用チェックのためのデータベースをメモリ(記憶部)に記憶し、CPU(制御部)は、服薬指導CD-ROMに共通に搭載された相互作用チェックに利用されるデータベース、及び医療施設(ユーザー)が登録した相互作用チェックのためのデータベースを用いて、相互作用チェックを実行する、医薬品相互作用チェックシステム」の技術事項(甲10発明)が記載されている。(審判請求書34?39頁、口頭審理陳述要領書(2)7?8頁)
2つの薬品間の相互作用について、いずれの添付文書から見るかによって、結果が異なる場合があることは、出願時の技術常識であり(甲1、2、4、5)、双方向チェックを行うシステムは出願時に周知(甲2)であったから、甲10発明も、双方向でのチェックを行うことを観念していると解することが自然であり、仮にそれが特定されていないと認定したとしても、当該相違点は技術常識によって容易に克服される。(口頭審理陳述要領書(1)19頁)
甲10発明はユーザ登録機能を有しており、そのことは、必然的に個別マスタを優先して処理することを意味しているというべきである。本件特許発明9にいう”優先して”が個別マスタと共通マスタの検索の順序を特定したものであるとしても、検索の順序は2通りしか存在せず、その特定は設計事項であり、設計の違いは、処理スピード及び検索結果に何らの差異を生じさせるものでない。(口頭審理陳述要領書(2)9?10頁)

甲10マニュアル記載の技術事項の「服薬指導CD-ROMに共通に搭載された相互作用チェックに利用されるデータベース(共通搭載DB)」、「共通搭載DBとは異なる、医療施設(ユーザー)が登録した相互チェックのためのデータベース(医療施設登録DB)」、「・・を用いて相互作用チェックを実行」は、本件特許発明9の「相互作用共通マスタ」、「相互作用個別マスタ」、「相互作用チェック処理を実行」に相当する。
システムが事前に備えている標準データよりユーザーが登録した個別データを優先してデータ処理に用いることは、周知技術である。この周知技術の適用は、相互作用チェックシステムの従来例に対しても、何ら技術的貢献を提供するものでない。(甲11、甲12、甲35、審判請求書39?40、46頁、口頭審理陳述要領書(2)8?9頁)

イ 甲9プログラムについて
本件特許発明9の構成要件G2「前記制御手段は、前記相互作用共通マスタに優先して、前記相互作用個別マスタに基づく相互作用チェック処理を実行する」の意味するところは、個別マスタに相互作用データがある場合には、個別マスタに基づく判断を優先させ、個別マスタの相互作用データを共通マスタの相互作用データに対して優位なものとして相互作用チェック結果として設定することにあると解される。このことは、明細書【0018】の記載と整合する。(審判請求書50?52頁、口頭審理陳述要領書(2)12頁)
アに加え、技術事項j(服薬指導CD-ROMに共通に搭載された、相互作用チェックに利用されるデータベースとは異なる、医療施設(ユーザー)が登録した相互作用チェックのためのデータベースをメモリ(記憶部)に記憶し、CPU(制御部)は、服薬指導CD-ROMに共通に搭載されたデータベースを用いた相互作用チェック処理に優先して、医療施設(ユーザー)が登録したデータベースを用いた相互作用チェック処理を実行する、医薬品相互作用チェックシステム)、技術事項k’(「服薬指導CD-ROM」に共通に搭載された、相互チェックに利用されるデータベースとは異なる、医療施設(ユーザ)が登録した相互作用チェックのためのデータベースをメモリ(記憶部)に記憶し、CPU(制御部)は、医療施設(ユーザ)が登録したデータベースを用いた相互作用チェックの結果がある場合には、当該結果を表示する、医薬品相互作用チェックシステム)は、本願出願日前の公知発明である。(甲10、甲15、甲18)(審判請求書48頁、口頭審理陳述要領書(2)11?12頁)

ウ 動機づけ、周知技術等
甲1発明は、薬物間の相互作用をチェックする点で上記技術事項j又はk’と共通し、チェック結果をユーザに提供するという共通の目的を有する。そして、相互作用チェックシステムのチェック結果をユーザに提供するという目的に鑑みれば、ユーザに応じた適切なデータを保有し、それに基づくチェック結果を提供することは、当業者が当然に認識していた課題であるといえる。(請求書52?58頁)

システムが事前に備えている標準データよりユーザーが登録した個別データを優先してデータ処理に用いることは、周知技術である。データベースの機能という観点からみれば、本件特許発明9の共通マスタと別に個別マスタを設けて、後者を優先的に利用される機能は、本件出願の10年以上前から存在している。この周知技術の適用は、相互作用チェックシステムの従来例に対して、何ら技術的貢献を提供するものでない。(甲11、甲12、甲35、甲2、甲10、甲15、甲22、請求書39?40及び46頁、口頭審理陳述要領書(1)20頁、口頭審理陳述要領書(2)4?5、8?9頁)

相互作用チェックシステムにおいて、相互作用が発生する対象の医薬品情報を登録することの課題は周知であり、だからこそ、その課題を解決する市販品が多く存在したといえる。相互作用チェックシステムにおいて、ユーザにおいて共通マスタに搭載されていない新たな相互作用を追加登録することの課題は周知であり、当業者は当然に当該課題を認識する。相互作用チェックシステムにおいて更新までの一定期間に医療機関などユーザにおいて新たに得られた相互作用に関する新たな情報を利用可能とすることは当業者における周知の課題である。甲1記載のシステムは、更新データの配布が一定期間毎に行われ、このデータを用いて「あらかじめ用意」された医薬品に関するデータをメンテナンスするものであり、つまり、医薬品に関するデータがリアルタイムに更新されるものではないことが理解されるから、この周知の課題を内在している。(審判請求書52?58頁、口頭審理陳述要領書(1)19から20、23?27頁、口頭審理陳述要領書(2)4?5、11?12頁)

医師や薬剤師であれば、最終的には、添付文書を必須の情報源とするのであり、相互チェック作用システムは、共通して、信頼できる情報への到達及びその後の専門的評価についての契機を与えることを主要な目的とするシステムである。相互作用チェックシステムにおいて、ユーザ登録を使用する目的は、共通マスタに相互作用情報が登録されていない医薬品の組み合わせについて、新たな相互作用情報が得られたときに、そのままでは”相互作用なし”という情報がユーザに与えられ得る状態でありユーザに添付文書などの確認や専門的評価をさせる契機が得られないリスクを解消することである。本願出願日当時の技術常識を踏まえれば、「ユーザ登録機能が存在すること」は、事実上、「『共通マスタにおいて”相互作用なし”』である場合に『個別マスタに登録された”相互作用あり”』というデータを優先して処理すること」を意味するといえる。(口頭審理陳述要領書(2)5?7頁)

2 被請求人の主張する答弁
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。

(1)無効理由1に対する反論の概要
ア 本件特許発明1について
(ア)相互作用マスタについて
本件特許発明1にいう『個別に格納』とは、相互作用が発生する「一の医薬品」と「他の一の医薬品」の組合せを自己医薬品と相手医薬品の「1対1」の関係で記憶するものであるから、そのためには、自己医薬品と相手医薬品を、予め、同じ基準ないし粒度で特定しておく必要があり、必然的に添付文書等の薬学的な解釈が求められる。
これに対し、甲1発明の「医薬品相互作用テーブル105」は、『相互作用情報』ではなく『相互作用の基礎情報』、すなわち、添付文書に記載された生の情報をコード化したデータを保有するものであるため、自己医薬品に対し、相手医薬品が広い範囲で特定されており、「1対多」の関係となっており、「個別に格納する」ものといえない。(答弁書40?48頁)
甲1に記載された「医薬品相互作用テーブル105」は、単に、自己医薬品と相手医薬品の薬効等の情報が組み合わされて格納されたテーブルであって、そこに双方向の相互作用チェックや『2通りの主従関係』といった思想は一切含まれていない。『2通りの主従関係』が成立するためには、その前提として、「一の医薬品」と「他の一の医薬品」の医薬品の対応関係がデータ構造上維持されていることが必要になるが、「医薬品相互作用テーブル105」は、添付文書の内容をコード化し、テーブル化したものであって、一般名、薬効分類、BOXの組合せで特定される自己医薬品に対し、相互作用を生じる医薬品を一般名、薬効分類、BOXのいずれか一つまたはそれらの組合せによって特定される範囲で包括的に記録する構造になっているため、「一の医薬品から見た他の医薬品」の組合せと「前記他の一の医薬品から見た一の医薬品」の組合せを観念することはできず、『2通りの主従関係』が成立することは、データ構造上論理的にあり得ない。(答弁書49?50頁)
「自己医薬品テーブル102」及び「相手医薬品テーブル103」と「医薬品相互作用チェックテーブル105」は独立した構成であり、両者は全く機能を異にしており、前者が後者の相互作用の基礎情報の検索過程において参照されることはなく、これらを一体と取り扱う理由はない。(答弁書50?51頁)
請求人主張を前提とすると、相手方医薬品は「相手医薬品テーブル103」のみに記憶されるのであるから、相手方医薬品から見ると『2通りの主従関係』は生じない。(答弁書51?52頁)

(イ) 相互作用チェックについて
第1に、本件特許発明1は「入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品と(する)」ものであるのに対し、甲1発明は、「入力された新規処方の一方を自己医薬品と(する)」ものであり、第2に、本件特許発明1は「自己医薬品と相手医薬品の組合せ」を検索するものであるのに対し、甲1発明は、「自己医薬品群のいずれかの医薬品と、相手医薬品群のいずれかの医薬品との組合せ」を検索するものであり、第3に、本件特許発明1は「前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断する」のに対し、甲1発明は、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのそれぞれについての検索が自己医薬品及び相手医薬品について順次行われており「相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断」する過程は存在せず、そのようなものといえない。(答弁書53?60頁)
甲1には、検索を、医薬品の主従を入れ替えて繰り返す、との記載も示唆もない。また、本件特許出願時において、医薬品の相互作用の確認を目的とするシステムを提供する当業者の間に、「医薬品相互作用チェックを行うとの観点からすると『処方する医薬品』に関しては、各『処方する医薬品』を『自己医薬品』とした『検索処理』を行うことは当然のことである」との技術常識はなく、現に、そのような検索機能を実装したシステムは存在していなかったし、上記主張を支持する証拠は何一つ存在していない。(答弁書60?61頁)
本件特許発明1は、予め薬学的判断を経た相互作用情報を「相互マスタ」に蓄積し、自己医薬品と相手医薬品の組合せから該当する情報を迅速に抽出するものであり、他方、甲1発明は、「相互マスタ」に相当するようなデータベースを保有することを回避することを指向するものであるから、両者は、全く異質な技術的思想に基づくものである。(答弁書61?67頁)

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2についても、請求人の主張は相違点を誤ったものであり、前提を欠き成り立たない。(答弁書91頁)

ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3についても、請求人の主張は相違点を誤ったものであり、前提を欠き成り立たない。本件特許発明3に係る限定に係る相違点についての請求人の主張についても、平成12年当時は、むしろ画面外に「詳細表示」ボタン等のインターフェースを設けることが主流であり、請求人の主張は、現在の技術水準により、当時の技術水準を置き換えるものであり、正に後知恵である。(答弁書93?94頁)

エ 本件特許発明4について
本件特許発明4についても、請求人の主張は相違点を誤ったものであり、前提を欠き成り立たない。(答弁書95?96頁)

オ 本件特許発明6について
本件特許発明6についても、請求人の主張は相違点を誤ったものであり、前提を欠き成り立たない。本件特許発明6に係る限定に係る相違点についての請求人の主張についても、甲6の表示は、本件特許発明6のマトリックス表示とは効果において異なるものであり、引用発明1に甲6を組み合わせても本件特許発明6に想到しない。(答弁書97?99頁)

カ 本件特許発明8について
本件特許発明8についても、請求人の主張は相違点を誤ったものであり、前提を欠き成り立たない。本件特許発明8に係る限定に係る相違点について、「相互作用除外マスタ」は「相互作用マスタ」と同一の構成を有するところ、甲28には、そもそも「相互作用マスタ」に相当する構成がなく「例外ファイル」の具体的構成が開示されていない。(答弁書102?104頁)

(2)無効理由2に対する反論の概要
ア 甲10マニュアルの記載について
甲10は、一方向の『相互作用の確認』を念頭においたシステムであり、双方向を観念していないから、甲10は「相互作用チェックシステム」を開示していない。甲10は、「服薬指導CD-ROMに搭載されたデータベースの具体的構造を開示していない。(答108?110頁)、本件特許発明の「相互作用チェック処理」は、自己医薬品と相手医薬品の組み合わせがマスタに格納された医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断することにより実行されるが、このような判断過程について甲10は開示していない。(答弁書110頁)

甲11?13はいずれも「相互作用マスタ」の具体的構成等を開示していない。(答弁書110?111頁)
甲11及び甲12を踏まえても、一般的に標準データよりも個別データを優先して処理することが周知技術であったとはいえず、せいぜい文字認識や文字変換の技術分野でそのような優先処理をすることがあることしか導かれない。全く異なる技術領域の技術を甲1発明に組み合わせる具体的な動機付けを請求人は主張立証していない。(答弁書110頁)

イ 甲9プログラムについて
技術事項j及びk’は、甲9プログラムから導かれない。(口頭審理陳述要領書(1)10?11頁)

アの反論に加えて、甲10の開示事項からは、一方向の『相互作用の確認』を行うことのみが明らかであり、双方向の『相互作用チェック』を行う発明事項は開示されておらず、引用発明2の構成に関する請求人の主張は前提を欠き成り立たない。甲10は、「服薬指導CD-ROMに搭載されたデータベースの具体的構造や本件特許発明の「相互作用チェック処理」に相当する判断過程を開示しておらず、請求人の理解には誤りがある。(答弁書121頁)
甲15は、甲9プログラムの挙動について、請求人が自らに都合のいい事象のみを切り貼りして、あたかも、客観的事実を報告するかのごとき外観を作出するものである。乙16から明らかであるとおり、甲9プログラムによる相互作用チェックに際しては、「相互作用個別マスタ」に格納された相互作用情報が、「相互作用共通マスタ」に登録された内容よりも、常に先に(上に)表示されない事例がある。(口頭審理陳述要領書(1)5?6頁)乙16の記載によれば、甲15の記載と異なり、「初期一覧における内容」が「個別に入力された内容」より先に(上に)表示されており、甲9プログラムにおいて「個別に入力された内容」が常に「初期一覧における内容」よりも先に(上に)表示されるわけではない。(口頭審理陳述要領書(1)9頁)
甲15では、甲10プログラムの「データベース」を「マスタ」と呼称しているが、「マスタ」はリレーショナルデータベースを採用するデータベース構造で一般的に用いられている用語である。しかし、甲9プログラムの「データベース」の構成は、証拠上一切開示されておらず、「マスタ」を想定できない。相互チェックを行うシステムだからといって、そのデータ構造を当然に推認できることにならない。(口頭審理陳述要領書(1)6?7頁)
甲15は、「相互作用個別マスタ」と「相互作用基本マスタ」が独立別個のマスタとして存在することを当然の前提としているが、そのような2つの「データベース」の存在はマニュアルにも開示されていない。単一マスタで「初期データ」と「ユーザ登録」された情報を管理するデータベース構成も想定し得る。(口頭審理陳述要領書(1)7?8頁)
逐次行われる検索処理の結果をあるテキストファイルに保存する際には、その先頭から末尾の方向に順次記録することが技術常識であるとの合議体見解は、裏づけを欠く。検索結果をどのように記録するかは、その検索結果をどのように利用するかに依存する事項であり、結局は、検索の後にどのような処理が控えているかを考慮しなければ決定できない。(口頭審理陳述要領書(1)9?10頁)

ウ 動機づけ等
甲1発明と引用発明2は、いずれも、相互作用が生じる医薬品の組み合わせを『2通りの主従関係』で『個別に格納』する「相互作用マスタ」を有しないから、これらを組み合わせても本件特許発明9に想到しない。また、引用発明2では相互作用チェックの概念が一方向の『相互作用の確認』を表すに過ぎず、相違点6を充足していないが、この点を措くとしても、その対象は、あくまで表示の優先である。これに対し、本件特許発明9は、個別マスタによる相互作用チェック処理を、共通マスタによる相互作用チェック処理に優先して実行することを特徴とするから、甲1発明に引用発明2を組み合わせても相違点6が補われることはない。(答弁書121?122頁)
甲2からは、更新データの配布が、可搬媒体で一定期間ごとに行われていたことは見て取れるものの、他方で、更新データの配布がそれ以外の態様で行われていなかったことを示すものではない。(口頭審理陳述要領書(1)11頁)
「医薬品の相互作用に関する新たな情報・・を紙にメモして保存したり他のシステムを用いて記録することはユーザである医療機関にとって負担になるから、医薬品の相互作用をチェックするためのシステムにおいてこのような情報を登録可能とすること」という課題(課題B)は、RINKs(甲21、甲22)という製品がわずか1つあるからといって、周知性は裏付けられないし、そもそも、本件特許出願の際に、課題とは認識されていない。(口頭審理陳述要領書(1)12頁)
甲1の記述は,可搬媒体によるデータの更新について何ら言及していない。(口頭審理陳述要領書(1)13頁)
甲1発明は「2通りの主従関係で」相互作用を確認する「相互作用マスタ」を備えていない。むしろ、甲1発明の検索手順を追えば、検索結果は「多対多」とならざるを得ず、甲1発明に如何なる発明を組み合わせても、本件特許発明9に想到することはない。(口頭審理陳述要領書(1)13頁)

3 証拠方法
(1)甲号証
甲1 特開平11-195078号公報
甲2 『相互作用チェック機能を有する市販ソフト(システム)の紹介』
甲3 『大学病院における医薬品情報提供(2)』
甲4 『薬品相互作用情報検索システムの開発』
甲5 『薬物間相互作用に関する入院患者への服薬指導の問題点と解決策』
甲6 閲覧結果報告書
甲7 『開局薬局での薬物間相互作用に関する服薬指導の問題点と解決策』
甲8 刊行物提出書
甲9 『-わかりやすい薬剤情報提供のための-写真付/服薬指導CD-ROM<1999年9月版>』(以下、単に「服薬指導CD-ROM」という。)の製品写真
甲9-2 『-わかりやすい薬剤情報提供のための-写真付/服薬指導CD-ROM<1999年9月版>』の盤面のコピー
甲10 服薬指導CD-ROMの操作マニュアル
甲11 特開平1-145789号公報
甲12 特開平3-296163号公報
甲13 平成28年(ワ)7678号特許権侵害差止訴訟事件(以下、単に「侵害事件」という。)(原告)上申書
甲14 『-わかりやすい薬剤情報提供のための-写真付/服薬指導CD-ROM<1999年3月版>』の操作マニュアル
甲15 服薬指導CD-ROMのCD-ROMに格納されたソフトウェアの相互作用チェック機能についての報告書
甲16 服薬指導CD-ROMのCD-ROMに格納されたファイル一覧の画面キャプチャ
甲17 「月刊薬事」10月号(1999年10月(41巻11号)
甲18 服薬指導CD-ROMの操作マニュアル同梱DVD
甲19 侵害事件(原告)上申書
甲20 侵害事件(原告)第7準備書面
甲21 『RINkS』の取り扱い説明書(表紙)の写真
甲22 『RINkS』の取り扱い説明書
甲22-2 『RINkS』納入先についての報告書
甲23 『ファーマシストver.1.0』の物品受領書
甲24 『ファーマシストver.1.0』の物品受領書
甲25 『ファーマシストver.1.0』のCD-ROMの写真
甲26 『ファーマシストver.1.0』の動作報告書
甲27 FINE DI Weekly第10巻第30号
甲28 特開平9-94287号公報
甲29 『ファーマシストver.1.0』のプログラムファイルを格納したCD-R
甲30 日本医薬品集1996年10月版
甲31 クラリシッド錠添付文書
甲32 EXCEL97/2000操作大事典
甲33 ファーマシストver.1.0についての報告書(補足版)
甲34 添付文書の読み方活かし方
甲35 特開平7-295619号公報
甲36 陳述書
甲37 陳述書
甲38 特開平8-275988号公報
甲39 特開平9-56785号公報

(2)乙号証
乙1 添付文書(ペルジビン錠)
乙2 添付文書(カルスロット錠)
乙3 添付文書(ロキソニン)
乙4 添付文書(クラリス錠2000)
乙5 添付文書(オーラップ錠)
乙6 広辞苑第六版
乙7 大辞林第三版
乙8 意見書
乙9 侵害事件被告第16準備書面
乙10 侵害事件被告第19準備書面
乙11 陳述書
乙12 陳述書
乙13 陳述書
乙14 陳述書
乙15 陳述書
乙16 報告書
乙17 ウェブサイト
乙18 判決正本

第5 当審の判断
1 無効理由1について
ア 甲第1号証(甲1発明)
甲第1号証には、次のとおりの記載がある。(下線部は、当審にて付与した。)
(ア)「【発明の属する技術分野】本発明は、医療機関において処方情報の監査処理をコンピュータ上で行う処方鑑査システムに係り、医師あるいは薬剤師が行う処方箋の発行や処方鑑査業務を効率的に行えるようにした医薬品相互作用チェック方法及びその装置に関する。」(【0001】)

(イ)「本発明は上記問題に着目してなされたもので、各医薬品に付される添付文書から抽出された医薬品に関する情報をコード化することによりデータの処理時間を短縮し、容易に医薬品相互作用のチェックを行うことができる医薬品相互作用チェック方法及びその装置を提供することを目的としている。」(【0008】)

(ウ)「図1は、本発明の装置の一形態を示す構成図である。本発明に係る装置は図1に示すように、医薬品相互作用チェック結果を表示するための表示装置10と、チェックする医薬品を入力するための入力装置11と、CPU及びメモリ等の処理部12と、あらかじめ用意された全ての医薬品に関するデータが作成記憶されているディスク13(記憶手段としてはこの他に、CD-ROM14、フロッピーディスク15を使用することもできる。)と、医薬品に関するデータ、あるいはチェックした医薬品の相互作用に関するデータ等をプリントアウトするための出力装置16とから構成されている。
図2は、医薬品相互作用チェック処理に使用される各機能ごとのデータの構成、すなわちファイル構成を示しており、それぞれがメモリ上では区分されてファイルとして記憶されている。自己医薬品テーブル102には、予め医薬品入力101の過程により入力された処方される医薬品(自己医薬品)の医薬品マスターコード(後述する)が記憶され、相手医薬品テーブル103には、処方履歴を基に抽出した患者が服用している医薬品(相手医薬品)及び処方される医薬品の医薬品マスターコード、調剤日、医療機関名が記憶される。医薬品相互作用チェックマスタ104には、予め医薬品固有の情報が全て記憶され、医薬品相互作用チェックテーブル105には、医薬品間の相互作用の有無をチェックする情報が記憶されており、自己医薬品に対する自己テーブル部401と相手医薬品に対する相手テーブル部402とを含む。また、医薬品相互作用コメントファイル106には、医薬品の相互作用の結果をコメントとして提供するための文字情報がコメントコードと共に記憶され、医薬品相互作用機序ファイル107には、医薬品相互作用の機序が文字情報として相互作用機序コードと共に記憶されている。
そして、前記のファイルに基づく医薬品相互作用チェック108の過程では、上記入力データ及び記憶データを基に自己医薬品及び相手医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコード(いずれも後述する)を医薬品相互作用チェックマスタ104から取得して、処方医薬品相互作用チェックマスタSの形態で一時記憶テーブル110に記憶され(図3を参照)、自己医薬品の前記各コードに対して相互作用を有する全ての医薬品(相手医薬品、相手飲食物等)と相互作用コメント等が処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶される(図4を参照)。図3に示すように、処方医薬品相互作用チェックマスタSの形態は、入力された処方医薬品の医薬品マスターコードに対応する医薬品名称、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードが記憶される構成となる。また、図4に示すように、処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態では、自己テーブル部401に入力された処方医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードが記憶され、相手テーブル部402に前記自己テーブル部のそれぞれのコードと相互作用を持つ医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードが記憶される。そして、コメントテーブル部403には、それぞれの相互作用に対するコメントと重篤区分に対応するレベルコードと相互作用の機序コードが記憶される。」(【0016】-【0018】)

(エ)「次に、医薬品相互作用のチェック方法の実施の一形態を図6に添って詳しく説明する。検索前処理801では、ステップ810において、前述したように処方される医薬品として入力装置11に入力された自己医薬品の医薬品マスターコードを基に、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードを医薬品相互作用チェックマスタ104から検索して(ステップ811)、処方薬品相互作用チェックマスタSの形態(図3を参照)で自己医薬品のそれぞれのコードを確定する。また、ステップ812において、処方履歴等を基に抽出された相手医薬品の医薬品マスターコードを基に一般名コード、薬効分類コード、BOXコードを医薬品相互作用チェックマスタ104から検索して(ステップ813)、処方医薬品相互作用チェックマスタSの形態で相手医薬品のそれぞれのコードを確定する。
相互作用チェックテーブルの検索処理802では、ステップ820において、医薬品相互作用チェックテーブル105から自己テーブル部401の検索が行われる。まず、検索前処理801で検索した自己医薬品の一般名コードが、医薬品相互作用チェックテーブル105の自己テーブル部401に存在するか否かの検索が行われる(ステップ821)。同様にして、薬効分類コードとBOXコードについても検索が行われ(ステップ822、823)、それぞれの検索で存在したコードに関するデータは処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶される。 また、ステップ824において、前記ステップ820で検索して一時記憶テーブル110に記憶したデータから相手テーブル部402の検索が行われる。まず、検索前処理801で検索した相手医薬品の一般名コードが前記一時記憶テーブル110の相手テーブル部402に存在しているかの検索が行われる(ステップ825)。同様にして薬効分類コードとBOXコードについても検索が行われ(ステップ826、827)、それぞれの検索でコードが存在する場合には、処方する自己医薬品には患者が服用している医薬品あるいは処方する医薬品(相手医薬品)との間に相互作用を有する組み合わせが存在することになる。
検索後処理803では、ステップ830において、前記相互作用チェックテーブルの検索処理802で相互作用を有する医薬品の組み合わせが存在した場合のコメントテーブル部403の作成が行われる。まず、相互作用を有する医薬品の組み合わせから相互作用コメントが確定され(ステップ830)、相互作用の重篤レベルに対応する重篤区分が確定する(ステップ832)。そして、同様に医薬品の組み合わせに対する相互作用機序が確定される(ステップ831)。
以上のように検索された医薬品相互作用チェック結果は、図7に示すような形態で表示装置10に画面表示される。表示欄901には、入力された自己医薬品名が、検索されたコードを基に医薬品相互作用チェックマスタから抽出され、表示される。また、表示欄902には、患者の処方履歴に記載された調剤日と医療機関名、及び、前記自己医薬品名に対して検索されたコードを基に相手医薬品名が、医薬品相互作用チェックマスタから抽出され、表示される。更に、表示欄903には、検索された相互作用コメントコードを基に相互作用コメントが相互作用コメントファイルから抽出されて表示され、表示欄904には、検索された機序コードを基に相互作用機序が医薬品相互作用機序ファイルから抽出され、表示される。そして、前記画面表示は、検索した相互作用コメントの重篤レベルコードに対応して、重篤のコメントの場合には色付けにより強調して表示するようにしている。尚、上記の表示画面及び検索過程におけるデータは、必要に応じて接続された出力装置16からプリントアウトすることができる。」(【0021】-【0024】)

(オ)「処方医薬品相互作用チェックテーブルの形態を示す図である。」(【図4】)


(カ)上記(ア)ないし(オ)より、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(甲1発明)
医薬品相互作用チェック装置であって、
医薬品相互作用チェック装置は医薬品相互作用チェック結果を表示するための表示装置10と、チェックする医薬品を入力するための入力装置11と、CPU及びメモリ等の処理部12と、あらかじめ用意された全ての医薬品に関するデータが作成記憶されているディスク13と出力装置16とから構成され、
自己医薬品テーブル102には、予め医薬品入力101の過程により入力された処方される医薬品(自己医薬品)の医薬品マスターコードが記憶され、相手医薬品テーブル103には、処方履歴を基に抽出した患者が服用している医薬品(相手医薬品)及び処方される医薬品の医薬品マスターコードが記憶され、
各医薬品に付される添付文書から抽出された医薬品に関する情報はコード化されており、
医薬品相互作用チェックマスタ104には、予め医薬品固有の情報が全て記憶され、医薬品相互作用チェックテーブル105には、医薬品間の相互作用の有無をチェックする情報が記憶されており、自己医薬品に対する自己テーブル部401と相手医薬品に対する相手テーブル部402とを含み、
医薬品相互作用コメントファイル106には、医薬品の相互作用の結果をコメントとして提供するための文字情報がコメントコードと共に記憶され、
医薬品相互作用機序ファイル107には、医薬品相互作用の機序が文字情報として相互作用機序コードと共に記憶され、
検索前処理801では、
処方される医薬品として入力装置11に入力された自己医薬品の医薬品マスターコードを基に、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードを医薬品相互作用チェックマスタ104から検索して自己医薬品のそれぞれのコードを確定し、
処方履歴等を基に抽出された相手医薬品の医薬品マスターコードを基に一般名コード、薬効分類コード、BOXコードを医薬品相互作用チェックマスタ104から検索して相手医薬品のそれぞれのコードを確定し、
相互作用チェックテーブルの検索処理802では、
医薬品相互作用チェックテーブル105から自己テーブル部401の検索が行われ、
検索前処理801で検索した自己医薬品の一般名コードが、医薬品相互作用チェックテーブル105の自己テーブル部401に存在するか否かの検索が行われ、同様にして、薬効分類コードとBOXコードについても検索が行われ、
それぞれの検索で存在したコードに関するデータは処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶され、
一時記憶テーブル110に記憶したデータから相手テーブル部402の検索が行われ、
検索前処理801で検索した相手医薬品の一般名コードが前記一時記憶テーブル110の相手テーブル部402に存在しているかの検索が行われ、同様にして薬効分類コードとBOXコードについても検索が行われ、
それぞれの検索でコードが存在する場合には、処方する自己医薬品には患者が服用している医薬品あるいは処方する医薬品(相手医薬品)との間に相互作用を有する組み合わせが存在することになり、
検索後処理803では、
前記相互作用チェックテーブルの検索処理802で相互作用を有する医薬品の組み合わせが存在した場合のコメントテーブル部403の作成が行われ、
検索された医薬品相互作用チェック結果は、表示装置10に画面表示され、
表示欄には、入力された自己医薬品名と、患者の処方履歴に記載された調剤日と医療機関名、及び、相手医薬品名と、相互作用コメントファイルから抽出された相互作用コメントと、医薬品相互作用機序ファイルから抽出された相互作用機序が表示される
医薬品相互作用チェック装置。

イ 本件特許発明1と甲1発明との対比
(ア)相互作用マスタについて
A 「一の医薬品」と「他の一の医薬品」
本件特許発明1の「一の医薬品」と「他の一の医薬品」は、いずれも「医薬品」という同一の文言を用いて記載されている。また、特許請求の範囲には、(イ)で後述する相互作用チェック処理について、入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とすること、及び、自己医薬品と相手医薬品の組み合わせが前記相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせと合致するか否かを判断すること、が記載されており、入力された新規処方データの「各医薬品」に当たる医薬品を「自己医薬品」にも「相手医薬品」にもすることとされ、その組み合わせが「相互作用マスタに登録した医薬品」の組み合わせと合致するかを判断するとされている。これらを踏まえれば、「相互作用マスタに登録した医薬品」、すなわち、「一の医薬品」と「他の一の医薬品」は、同一のレベルの概念であることを要するものである。
さらに、「相互作用マスタ」に登録された医薬品の組み合わせとの合致の有無を判断する「新規処方データの各医薬品」は、医師の交付する処方せんのデータを示すものと解されるところ、医師の交付する処方せんには販売名(商品名)か一般名が記載されるものであり、医薬品の有効成分すら特定できない薬効分類を基準とするものであると考えることはできない。このことから、相互作用チェック処理において「新規処方データの各医薬品」の組み合わせとの合致を判断する対象たる「相互作用マスタ」に格納される「一の医薬品」及び「他の一の医薬品」は、薬効分類などの上位レベルの概念でないことが、明らかである。(この点、本件特許発明2の「薬効コード」に対応して、本件明細書等には、「薬価基準収載用医薬品コード」の先頭7桁が例示されているところ(【0026】)、これにより薬効、有効成分及び投与経路が特定されており、「医薬品」については、薬効、有効成分及び投与経路を特定するコードである場合を含むものである。)
これに対し、甲1発明の「医薬品相互作用チェックテーブル105」に記憶される「医薬品間の相互作用の有無をチェックする情報」は、「各医薬品に付される添付文書から抽出された医薬品に関する情報」であり、「自己テーブル部401」の「自己医薬品」の添付文書から抽出された情報により、当該「自己医薬品」と相互作用が発生する医薬品の情報が「相手テーブル部402」の「相手医薬品」の情報として格納され、一方で、この「相手医薬品」として格納された医薬品においても、同様に当該医薬品を「自己医薬品」とした添付文書から抽出された相互作用が発生する医薬品の情報を「相手医薬品」の情報として、「医薬品相互作用チェックテーブル105」に格納され、さらに、医薬品の添付文書の相互作用の項目には、相互作用が発生する医薬品名だけでなく、「降圧剤」のような上位の薬効分類での記載がされる場合があり得、「A薬品」の「添付文書の情報」は、「A薬品」に対して「相互作用」が発生する医薬品の情報として、医薬品名ではなく、薬効分類のみの記載も含み得るものである。
以上を踏まえれば、本件特許発明1と甲1発明とは、「一の医薬品から見た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせ」を格納するものである点で共通するものの、甲1発明の「組み合わせ」は、本件特許発明1におけるものと異なり、「一の医薬品から見た他の一の医薬品」又は「前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品」についてのものとは必ずしもいえない。

B 「2通りの主従関係で」「個別に格納」
本件特許発明1における「個別」とは、「個々別々」ないし「一つ一つ。それぞれを別々に扱うこと」を意味するから、この文言は、相互作用が発生する組み合わせの情報が他の組み合わせの情報とは別のデータとして格納されていることを示している。
そして、「2通りの主従関係で」とは、一方の医薬品を主、他方の医薬品を従とするほか、他方の医薬品を主、一方の医薬品を従とすることを意味すると解されるところ、Aにおいて上述したことに加え、「個別」の意味に照らせば、「2通りの主従関係で」格納されるというためには、「相互作用マスタ」に「相互作用が発生する組み合わせ」が格納される「医薬品」同士の関係が「1対多」や「多対1」ではなく「1対1」で対応するものであることを要し、その際、A薬品から見たB薬品に関する相互作用の有無等の情報は、B薬品から見たA薬品に関する相互作用についてのものを含め他の相互作用の有無等の情報とは別のデータとして格納され、B薬品から見たA薬品に関する相互作用の有無等の情報も、A薬品から見たB薬品に関する相互作用についてのものを含め他の相互作用の有無等の情報とは別のデータとして格納されることを要するといえる。
これに対し、甲1発明の「医薬品相互作用チェックテーブル105」は、「医薬品間の相互作用の有無をチェックする情報」として、「一の医薬品から見た他の医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードかの少なくともいずれかについて、相互作用が発生する組み合わせ」及び「他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードかの少なくともいずれかについて、相互作用が発生する組み合わせ」を格納するものということができる。
以上を踏まえれば、本件特許発明1と甲1発明とは、「相互作用が発生する組み合わせ」を「個別」に格納するものである点で共通するものの、甲1発明は、本件特許発明1と異なり、「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合」と「前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合」とを「2通りの主従関係」で格納するものであるとは必ずしもいえず、両者は、以下の相違点1において相違するものである。

(イ)相互作用チェック処理について
本件特許発明1は「自己医薬品と相手医薬品との組み合わせ」と、「相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせ」についての合致の有無を判断するものである。
これに対し、甲1発明は、医薬品相互作用チェックテーブル105において、「自己テーブル部」に、「自己医薬品」に係る「一般名コード」、「薬効分類コード」、「BOXコード」が存在するかをそれぞれ検索し、いずれかのコードが存在していれば、処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態で「一時記憶テーブル110」に記憶し、「一時記憶テーブル110」に記憶したデータの「相手テーブル部」に、「相手医薬品」に係る「一般名コード」、「薬効分類コード」、「BOXコード」が存在するかをそれぞれ検索し、いずれかのコードが存在していれば、「自己医薬品」と「相手医薬品」とが相互作用を有する組み合わせが存在すると判断するものである。
以上を踏まえると、本件特許発明1と甲1発明とは、いずれも、「入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし、自己医薬品と相手医薬品の組み合わせについて、相互作用をチェックするためのマスタに基づいて相互作用をチェックするための処理」を実行する点で共通するものの、甲1発明の「検索処理」は、自己医薬品と相手医薬品と間で、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのいずれかの組み合わせが存在すれば相互作用を有する組み合わせであると判断するものであって、本件特許発明1と異なり、自己医薬品と相手医薬品との組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせとの、医薬品の組み合わせ同士の合致を判断しているとは必ずしもいえず、両者は、以下の相違点2において相違するものである。

(ウ)甲1発明では、「前記相互作用チェックテーブルの検索処理802で相互作用を有する医薬品の組み合わせが存在した場合のコメントテーブル部403の作成が行われ、検索された医薬品相互作用チェック結果は、表示装置10に画面表示される」のであるから、本件特許発明1と甲1発明とは『前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用チェック処理の結果を、表示する表示手段』を備える点で共通するものの、両者は、以下の相違点3において相違するものである。

(エ)本件特許発明と甲1発明とは、記憶手段、制御手段及び表示手段を備えた医薬品相互作用チェック装置である点で共通するものの、前者が「ネットワーク接続されたいずれかの機器」に記憶手段、制御手段及び表示手段を備えたものであるのに対し、後者はそうでなく、以下の相違点4において相違するものである。

(オ)以上によれば、本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
一の医薬品から見た他の医薬品の相互作用が発生する組み合わせを個別に格納する相互作用をチェックするためのマスタを記憶する記憶手段と、
入力された新規処方データの各医薬品を自己医薬品及び相手医薬品とし、自己医薬品と相手医薬品の組み合わせについて、上記マスタに基づいて相互作用をチェックするための処理を実行する制御手段と、
前記制御手段による自己医薬品と相手医薬品の間の相互作用をチェックするための処理の結果を、表示する表示手段と、
を備えた医薬品相互作用チェック装置

<相違点>
(相違点1)
相互作用をチェックするためのマスタが、本件特許発明1では、「一の医薬品から見た他の一の医薬品の場合と、前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品の場合の2通りの主従関係で、相互作用が発生する組み合わせを格納する」のに対し、甲1発明では、「一の医薬品から見た他の医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードかの少なくともいずれかについて、相互作用が発生する組み合わせを格納し、また、他の一の医薬品から見た医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードかの少なくともいずれかについて、相互作用が発生する組み合わせを格納する」点。

(相違点2)
相互作用をチェックするための処理が、本件特許発明1では、自己医薬品と相手医薬品との組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせが合致するか否かを判断するのに対し、甲1発明では、「自己テーブル部」に「自己医薬品の一般名コードが存在するか」、「自己医薬品の属する薬効分類コードが存在するか」、「自己医薬品に付与されたBOXコードが存在するか」をそれぞれ検索して、いずれかのコードが存在していれば、処方医薬品相互作用チェックテーブルTの形態で一時記憶テーブル110に記憶し、一時記憶テーブル110に記憶したデータの「相手テーブル部」に、「相手医薬品の一般名コードが存在するか」、「相手医薬品の属する薬効分類コードが存在するか」、「相手医薬品に付与されたBOXコードが存在するか」をそれぞれ検索して、いずれかのコードが存在していれば、「自己医薬品」と「相手医薬品」とが相互作用を有する組み合わせが存在すると判断するものである点。

(相違点3)
本件特許発明1では、『対象となる自己医薬品の名称と、相互作用チェック処理の対象となる相手医薬品の名称とをマトリックス形式の行又は列にそれぞれ表示し』、相互作用チェック処理の結果を、『前記マトリックス形式の該当する各セルに表示』しているのに対し、甲1発明では、マトリックス形式で表示していない点。

(相違点4)
本件特許発明1と甲1発明とは、いずれも、記憶手段、制御手段及び表示手段を備えた本件特許発明1は、「ネットワーク接続されたいずれかの機器」に記憶手段、制御手段及び表示手段を備えたものであるのに対し、甲1発明は、そうではない点。

ウ 本件特許発明1についての相違点の判断
事案に鑑み、相違点1及び相違点2について判断する。
(ア) 相互作用をチェックするための処理について、甲1発明においては、自己医薬品について、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのそれぞれについて検索を行い、相手医薬品についても、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのそれぞれについて検索を行うため、6回の検索が必要であり、一時記憶テーブルを必要とするのに対し、本件発明1においては、医薬品と医薬品の組み合わせ同士の合致を判断するため、1回の検索(双方向の検索をそれぞれ別の検索と考えても2回の検索)により行うことができる。
また、得られる検索結果について、本件特許発明1においては、処方された医薬品の組み合わせと相互作用をチェックするためのマスタに登録された医薬品の組み合わせとが合致したものを検索結果とするのに対し、甲1発明においては、医薬品相互作用チェックテーブル105に登録された自己医薬品と相手医薬品の一般名コードが一致するものだけではなく、自己医薬品と薬効分類コードやBOXコードの一致する他の医薬品の相互作用チェックテーブルも一時記憶テーブルに記憶し、相手医薬品の一般名コード、薬効分類コード、BOXコードが存在するかを検索するため、薬効分類コード、BOXコードのいずれかのみの一致するものも検索結果とし、本件特許発明1よりも多くの検索結果を得るものと解され、両発明において得られる検索結果は異なる。
このように、甲1発明は、添付文書の相互作用の項目に記載された医薬品の情報をそのままコード化してデータベースを構築し、相互作用をチェックするための処理において、データベースの各項目(一般名、薬効、BOX)それぞれについて検索を行うことにより漏れのない相互作用チェックを行うのに対し、本件特許発明1は、添付文書の相互作用の項目に記載された医薬品の情報に基づいて医薬品と医薬品との組み合わせについてデータベースを構築し、相互作用チェック処理においては、医薬品と医薬品との組み合わせのみで単純に検索するため、1回の検索(双方向の検索をそれぞれ別の検索と考えても2回の検索)で相互作用チェックできるというものであるから、両発明はその技術思想を異にするものである。
(イ) また、周知技術を示すために提示されたいずれの証拠方法も、相違点1及び相違点2に係る構成を開示するものでない。
(ウ) してみると、本件特許発明1の相違点1及び相違点2に係る構成について、当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。よって、相違点3及び相違点4について判断するまでもなく、無効理由1(無効理由1-1)は、理由がない。

エ 本件特許発明2、4について
ウに示したことに照らせば、本件特許発明2及び本件特許発明4についても、相違点1及び相違点2に係る構成について、当業者が容易に想到し得たものであるということはできないから、他の相違点について判断するまでもなく、無効理由1(無効理由1-1)は、理由がない。

オ 本件特許発明3について
ウに示したことに加え、副引例として提示された甲第7号証も、相違点1及び相違点2に係る構成を開示するものでない。
してみると、本件特許発明3の相違点1及び相違点2に係る構成について、当業者が容易に想到し得たものであるということはできないから、他の相違点について判断するまでもなく、無効理由1(無効理由1-2)は、理由がない。

カ 本件特許発明6について
ウに示したことに加え、副引例として提示された甲第6号証も、相違点1及び相違点2に係る構成を開示するものでない。
してみると、本件特許発明3の相違点1及び相違点2に係る構成について、当業者が容易に想到し得たものであるということはできないから、他の相違点について判断するまでもなく、無効理由1(無効理由1-3)は、理由がない。

キ 本件特許発明8について
ウに示したことに加え、副引例として提示された甲第28号証も、相違点1及び相違点2に係る構成を開示するものでない。
してみると、本件特許発明3の相違点1及び相違点2に係る構成について、当業者が容易に想到し得たものであるということはできないから、他の相違点について判断するまでもなく、無効理由1(無効理由1-4)は、理由がない。

ク 請求人の主張について
請求人は、甲1発明の「医薬品相互作用チェックテーブル」は、本件特許発明1の「相互作用マスタ」に相当する構成である旨主張している。(審判請求書24?26頁、口頭審理陳述要領書(1)8?10頁)また、請求人は、甲1発明の検索処理は、本件特許発明1の「相互作用チェック処理」に相当する旨主張している。(審判請求書26頁、口頭審理陳述要領書(1)10?13頁)
しかし、イにおいて上述したとおり、甲1発明の「医薬品相互作用チェックテーブル」に格納される「組み合わせ」は、本件特許発明1におけるものと異なり、「一の医薬品から見た他の一の医薬品」又は「前記他の一の医薬品から見た前記一の医薬品」についてのものとは必ずしもいえない。また、甲1発明の「検索処理」は、自己医薬品と相手医薬品と間で、一般名コード、薬効分類コード、BOXコードのいずれかの組み合わせが存在すれば相互作用を有する組み合わせであると判断するものであって、本件特許発明1と異なり、自己医薬品と相手医薬品との組み合わせと相互作用マスタに登録した医薬品の組み合わせとの、医薬品の組み合わせ同士の合致を判断しているとは必ずしもいえない。
請求人の主張は、本件特許発明1の文言の解釈を誤ったものであり、採用することができない。

キ 小括
以上のとおり、無効理由1は、いずれも理由がない。

2 無効理由2(本件特許発明9に係る無効理由)について
ア 主な甲各号証から認定される事項
(ア) 甲第1号証及び甲1発明について
甲第1号証の記載事項及び甲1発明の認定については、「1 ア」において上述したとおりである。

(イ) 甲第10号証、甲第10号証に記載された発明(無効理由2-1)について
A 甲第10号証は、1999年9月29日に発行された、服薬指導CD-ROMの操作マニュアルであって、次のとおり、記載されている。(下線部は、当審にて付与した。)

「[医薬品の情報源]医薬品の情報源としましては、添付文書情報を基本とし、緊急安全性情報、厚生省副作用情報などを参考にしております。」(1頁19?21行)

「[本システムの特徴]・・・また、本システムには、(6)薬価基準収載の全医薬品が登録されており、(7)ユーザー独自の指導文・写真の登録ができるほか、医薬品の追加登録も可能です。」(1頁26?27行)

「<第2版?第4版の改定経過>
・・・
「《システムな主な機能アップ》
◆第2版(1998年3月版)
◆第3版(1998年9月版)
1.相互チェックシステムの新設
・・・
第4版(1999年3月版)
・・・
2.相互作用チェック組合せのユーザー登録機能の追加・・・」(2頁)

「<第5版の発行にあたって>
平成9年9月に初版を発行して以来、今回の平成11年9月版で満2年を迎え、第5版を数える迄になりました。・・・このCD-ROMは、お陰様で全国に数多くの先生方に、保険調剤薬局や病棟業務において、また開業医の先生方など多方面でご利用頂き、大変評価を得たことに、ありがたく勇気づけられております。
このCD-ROMは、新薬の発売や添付文書の改訂等を、6か月毎に文例・写真データの新規収録、加筆、修正などを定期的に行って反映しております。また、医療現場のご要望に沿った使いやすさ、利用範囲を広げるためのシステムの機能アップなど、様々の工夫を盛り込んで改良して参りました。」(3頁1?8行)

「[旧版ユーザーの先生方へ]初版から第4版までのシステムで既に登録・保存されている患者情報や指導歴、ユーザー設定のデータは、いずれの版からも第5版のデータとして取り込め、そのままご利用いただけます。」(3頁37?39行)

「<ご利用にあたって>
・・・
「7.相互作用のチェック
〇1999年9月1日現在で薬価基準に収録されている医薬品の添付文書の「相互作用」欄に「併用禁忌(併用しないこと)」「原則併用禁忌(原則として併用しないこと)」として記載されている組合せを抽出し、処方箋を入手した時に、同一画面上、およびその患者さんが過去あるいは別の診療科から処方され現在服用している薬剤と、併用禁忌でないかどうかを自動的にチェックし、併用禁忌の場合は、60字以内でその理由を表示するシステムを導入、原則として注射剤も対象といたしました。なお、組合せ・禁忌理由の一覧印刷、およびユーザー登録ができますので、本マニュアルP80をご参照ください。
・・・
8.バックアップ
〇本システムは、基本的にユーザー登録型のデータベースシステムです。・・・」(操作マニュアル5?7頁)

「1.1 製品構成
本製品のパッケージには、以下のものが含まれています。まず、はじめに不足しているものがないことをご確認ください。
1.使用契約書(製品パッケージ裏表紙に印刷されています)
2.12cm CD-ROM 1枚
3.操作マニュアル(本書) 1冊
・・・」(10頁)

「2.1-2 Windows版の起動
1)本製品のCD-ROMをドライブに入れます。(本システムはCD-ROMがドライブにないと動作しません)。・・・」(15頁)

「◎相互作用のチェック
薬剤入力表右肩の「相互作用チェックしない」のチェックが付いていない限り、入力された薬剤同士が「併用禁忌」でないかどうかをチェックし、併用禁忌の場合は、その理由も表示します。常にチェックしない場合は、「初期設定」を変更(P80参照)してください。なお、チェックの範囲については<ご利用にあたって>の7.(P6)を、登録済みの組合せ一覧の表示・印刷、およびユーザー登録はP80を参照してください。・・・」(31頁14?19行)

「7.8 相互作用チェックと組み合わせ登録
1)「する」を選択すると、<処方薬入力>画面に入力された薬剤間はもちろん、その患者さんが過去に別の診療科で処方され、現在(あるい入力した調剤日)服用している薬剤とも併用禁忌でないかどうかをチェックし、併用禁忌の場合は、その理由を表示させることができます。
2)初期設定で「しない」ままにしておいても、<処方薬入力>画面で、その患者さんについてのみ「相互作用をチェックする」こともできます(P31またはP39の「特記」参照)。なお、チェックの範囲については<ご利用にあたって>の7.(P6)を参照してください。
3)相互作用をチェックする薬剤の組み合わせをユーザー登録する場合は、<登録>「する」をクリックすると、<相互作用組合せユーザー登録>画面が表示されますので、「新規登録」ボタンを押して、薬剤と禁忌理由(60字以内)を登録してください。
薬剤名の入力は、何文字か(ひらがな、カタカナ、一般名でも可)入力してリターンキーを押すと前方一致検索により「薬剤参照表」が表示されますので、ダブルクリック(または矢印キーで移動してリターン)で選択します。なお、薬剤がひとつしか該当しない場合は、「薬剤参照表」は表示されず、直接薬剤名全体が入力されます。ユーザー登録された組合せは「前頁」「次頁」ボタンで見ることができ、表示された組合せを「削除」ボタンで削除することもできます。」(80頁5?21行)

「<付録1 「注意事項」文例の中の相互作用に関する記載について>
相互作用の記載は、以下の基準で執筆いたしました。
A.薬物-薬物間相互作用
(注意事項欄の★以下に『他の薬との飲み合わせに注意』と記載しました)
1.収録対象の考え方
(1)厚生省医薬安全局の医薬品等安全性情報に記載された相互作用に関する主なもの
(2)緊急安全性情報に記載された相互作用に関する主なもの
(3)医薬品添付文書の『併用しないこと』に記載された主なもの
(4)その他」(88頁3?9行)

B これらの記載によれば、甲第10号証には、
「服薬指導CD-ROMに搭載されたデータを含む相互作用チェックに利用されるデータベースをメモリ(記憶部)に記憶し、CPU(制御部)は、このデータベースを用いて相互作用チェックを実行する、医薬品相互作用チェックシステムであって、
ユーザーによってこのデータベースに相互作用をチェックする薬剤の組み合わせを登録することが可能である、医薬品相互作用チェックシステム。」
の発明が記載されている。

C 請求人は、甲第10号証における「ユーザーが登録した相互作用チェックに利用されるデータベース」は、「服薬指導CD-ROMに共通に搭載された、相互作用チェックに利用されるデータベース(服薬指導CD-ROMに搭載されたデータを含む相互作用チェックに利用されるデータベース)」とは「異なる」ものであり、このことを含む発明が認定できる旨を主張している。(審判請求書34?39頁)
しかし、甲第10号証は、操作マニュアルであって、CD-ROMがドライブにないとシステムが動作しない旨を示す記載はあるものの、システムの動作にあたってユーザ登録に係るデータをCPU(制御部)により参照されるRAMやHDD等(記憶部)においてどのように記憶し管理するかについて、何ら記載していない。このことから、HDD上でユーザが登録されたデータを記憶するデータベースと服薬指導CD-ROMに搭載されたデータを含むデータベースとが異なるものとされていることを推認させる事実(例えば、CD-ROM上のデータを書換え可能なHDDに記憶させないまま実行させること等)を認定することができない。
このことから、甲第10号証は、ユーザが登録されたデータを記憶する、制御部であるCPUが参照する記憶部に記憶されたデータベースが、同様に制御部が参照する記憶部に記憶された服薬指導CD-ROMに搭載されたデータを含むデータベースと異なることを記載したものとなっておらず、甲第10号証に記載された発明の認定にあたって、このことを含む発明を認定することはできない。

(ウ) 公知発明(甲第9号証、甲第9号証の2、甲第10号証、甲第14号証ないし甲第18号証により認定される、本件特許に係る特許出願前に日本国内において公然知られた発明:無効理由2-2)について

A 本件特許に係る出願日前公知について
本件特許に係る出願日は、その親出願の出願日である2000年3月28日であるところ、提出された証拠によれば、服薬指導CD-ROMの操作マニュアル(甲第10号証)は、これに先立つ1999年9月29日に発行され、これが服薬指導CD-ROM(甲第9号証、甲第9号証の2、甲第18号証)と同梱されて販売されていたこと(甲第10号証)、服薬指導CD-ROMに、Fuku.exeというコンピュータプログラム(以下、「甲9プログラム」という。)のファイルが含まれており(甲第16号証)、これをコンピュータ上で動作させることにより医薬品相互作用チェックシステムが実現されること(甲第16号証、甲第15号証)、甲9プログラムに係る医薬品相互作用チェックシステムのそれ以前のバージョン(1999年3月版)の時点で複数の医療関係者に用いられ、甲9プログラムのバージョン(1999年9月版)は、これを受けて開発されたものであること(甲第10号証)、1999年11月に発行された医療関係者向けの雑誌においてそれが「販売中」であるとして広告宣伝されていたこと(甲第17号証)、が明らかである。
これらに照らせば、Bにおいて後述する、甲9プログラムに係る医薬品相互作用チェックシステムに係る発明が本件出願前に公知であったといえる。

B 公知発明の内容について
甲9プログラムに係る医薬品相互作用チェックシステムについての報告書(甲第15号証、乙第16号証)によれば、次のとおりのことが認められる。(下線部は、当審にて付与した。)

この医薬品相互作用チェックシステムにおける「処方薬入力」画面において「薬品追加」ボタンを押し、一つ目の薬品として「グラケーカプセル15mg」を入力し、二つ目の薬品として「ワーファリン錠1mg」を入力した場合、右端にスクロールバーが表示されたテキストウインドウが表示され、そのテキストウインドウにおいて、(a)「グラケーカプセル15mg」と「ワーファリン錠1mg」の薬剤の組合せに対応して「相互作用組合せユーザ登録」画面において入力された内容(以下、「個別に入力された内容」)と (b)「相互作用組合せユーザ登録」画面において「戻る」ボタンを押して遷移した「初期設定の画面」の「初期一覧」ボタンを押すと表示される「<1999年9月版>相互作用組合せ一覧」の表示中で「グラケーカプセル15mg」と「ワーファリン錠1mg」の薬剤の組合せに対応して示された内容(「初期一覧における内容」)とが、この順序で含まれるように表示されている(甲第15号証)ものの、他方で、「個別に入力された内容」は、「初期一覧における内容」よりも先に(上に)表示されない場合がある(乙第16号証)から、このシステムにおいては、「個別に入力された内容」の表示が常に「初期一覧における内容」よりも先に(上に)表示されるわけではないことが明らかである。

よって、公知発明としての甲9プログラムに係る医薬品相互作用チェックシステムとして、次の内容のものを認定することができる。

服薬指導CD-ROMに搭載されたデータを含む相互作用チェックに利用されるデータベースをメモリ(記憶部)に記憶し、CPU(制御部)は、このデータベースを用いて相互作用チェックを実行する、医薬品相互作用チェックシステムであって、
ユーザーによってこのデータベースに相互作用をチェックする薬剤の組み合わせを登録することが可能であり、
初期一覧における内容に対応する服薬指導CD-ROMに搭載されたデータと個別に入力された内容に対応するユーザによって登録された相互作用をチェックする薬剤の組み合わせに係るデータとが表示され、その際、「個別に入力された内容」の表示が常に「初期一覧における内容」よりも先に(上に)表示される場合があるが、常に先に(上に)表示されるわけではない、
医薬品相互作用チェックシステム。

C 請求人の主張について
請求人は、本件特許に係る特許出願前の公知発明について、下記の技術事項j、技術事項k’が本件特許に係る特許出願前の公知発明である旨を主張している。(審判請求書48頁、口頭審理陳述要領書(2)11?12頁)

技術事項j
服薬指導CD-ROMに共通に搭載された、相互作用チェックに利用されるデータベースとは異なる、医療施設(ユーザー)が登録した相互作用チェックのためのデータベースをメモリ(記憶部)に記憶し、CPU(制御部)は、服薬指導CD-ROMに共通に搭載されたデータベースを用いた相互作用チェック処理に優先して、医療施設(ユーザー)が登録したデータベースを用いた相互作用チェック処理を実行する、医薬品相互作用チェックシステム

技術事項k’
服薬指導CD-ROMに共通に搭載された、相互チェックに利用されるデータベースとは異なる、医療施設(ユーザ)が登録した相互作用チェックのためのデータベースをメモリ(記憶部)に記憶し、CPU(制御部)は、医療施設(ユーザ)が登録したデータベースを用いた相互作用チェックの結果がある場合には、当該結果を表示する、医薬品相互作用チェックシステム

しかし、技術事項j及び技術事項k’のうち、「服薬指導CD-ROMに共通に搭載された、相互作用チェックに利用されるデータベースとは異なる、医療施設(ユーザー)が登録した相互作用チェックのためのデータベースをメモリ(記憶部)に記憶」する点については、(イ)Cで上述したとおり、甲第10号証は、ユーザが登録されたデータを記憶する、制御部であるCPUが参照する記憶部に記憶されたデータベースが、同様に制御部が参照する記憶部に記憶された服薬指導CD-ROMに搭載されたデータを含むデータベースと異なることを記載したものとなっていない。また、このことが公知発明の認定の根拠として示された他の証拠において示されているということもできない。むしろ、甲第15号証と乙第16号証が示したところによれば、「個別に入力された内容」と「初期一覧における内容」の表示順序は一定していないから、これらのデータを読み出す順序は、処理毎に変更されており、つまり、異なるデータベースをプログラムが定めた一定の順序で常に読み出す制御を行っていないことは明らかである。よって、公知技術の内容として、ユーザが登録されたデータを記憶する、制御部であるCPUが参照する記憶部に記憶されたデータベースが、同様に制御部が参照する記憶部に記憶された服薬指導CD-ROMに搭載されたデータを含むデータベースと異なることを含む発明を認定することはできない。
また、技術事項jのうち、「CPU(制御部)は、服薬指導CD-ROMに共通に搭載されたデータベースを用いた相互作用チェック処理に優先して、医療施設(ユーザー)が登録したデータベースを用いた相互作用チェック処理を実行」する点についても、上述したとおり、甲第15号証と乙第16号証からみて、公知発明において、異なるデータベースをプログラムが定めた一定の順序で常に読み出す制御を行っていないことは明らかであるから、この点を認定することもできない。
よって、技術事項j、技術事項k’が本件特許に係る特許出願前の公知発明である旨の請求人の主張は、裏づけを欠いており、採用できない。

イ 対比
本件特許発明9と甲1発明とは、「1(2)」のイで上述した一致点において一致し、「1(2)」のイで上述した相違点1ないし相違点4、及び、次の相違点5において、相違している。

(相違点5)
本件特許発明9は、「記憶手段」が「相互作用が発生する医薬品の組み合わせについてのデータを薬効コードの組み合わせとして格納する相互作用共通マスタとは別に、各医療施設に応じて作成した相互作用個別マスタを記憶」するものであり、制御手段が「前記相互作用共通マスタに優先して、前記相互作用個別マスタに基づく相互作用チェック処理を実行する」ものであるのに対し、甲1発明は、相互作用共通マスタとは別に、各医療施設に応じて作成した相互作用個別マスタを記憶しておらず、かつ、前記相互作用共通マスタに優先して、前記相互作用個別マスタに基づく相互作用チェック処理を実行してもいない点。

相違点の判断
(ア)相違点1及び相違点2については、「1(2)」のウで上述したことに加え、アにおいて上述した甲第10号証や公知発明の認定の根拠として示された各証拠方法も、相違点1及び相違点2に係る構成を開示するものでない。
してみると、本件特許発明9の相違点1及び相違点2に係る構成について、当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。

(イ)相違点5について容易想到であるというためには、副引用発明として、少なくとも、「相互作用が発生する医薬品の組み合わせについてのデータを薬効コードの組み合わせとして格納する相互作用共通マスタ」に対応するデータベースとは異なる「各医療施設に応じて作成した相互作用個別マスタ」に対応するデータベースが存在し、後者のデータベースに基づく相互作用チェック処理を前者のデータベースに相互作用チェック処理に対して優先させる技術が本件特許に係る出願当時公知又は周知であったことを示す必要があるところ、このことを示す証拠方法は見当たらない。
この点、甲第10号証に記載された発明又は公知発明として、ア(イ)B又はア(ウ)Bにおいて上述した内容を認定することはできるものの、これらは、「相互作用が発生する医薬品の組み合わせについてのデータを薬効コードの組み合わせとして格納する相互作用共通マスタ」に対応するデータベースとは異なる「各医療施設に応じて作成した相互作用個別マスタ」に対応するデータベースが存在し、後者のデータベースに基づく相互作用チェック処理を前者のデータベースに相互作用チェック処理に対して優先させる技術ではない。
してみると、本件特許発明9の相違点5に係る構成について、当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。

(ウ)よって、相違点1及び相違点2、又は、相違点5に係る構成について、当業者が容易に想到し得たものということはできないから、他の相違点について判断するまでもなく、無効理由2(無効理由2-1及び無効理由2-2)は、理由がない。

(エ) 請求人の主張について
動機づけないし周知技術について、請求人は、甲1発明と(イ)において上述した甲第10号証に記載された発明または(ウ)において上述した公知発明とがいずれも薬物間の相互作用をチェックするものであって共通する、標準データよりユーザ登録による個別データを優先することやユーザ登録(特に更新と更新の間に発生した新たな情報のユーザ登録)を行うことが周知の課題である、甲1発明もこのようなユーザ登録を行うことについての周知の課題を内在している、等、縷々主張するが、いずれも、相違点5について容易想到とするに足りる内容を示すものとなっていない。

第6 むすび
以上のとおり、請求項1ないし4、6、8及び9に係る本件特許は、特許法第29条第2項に違反するものでないから、同法第123条第1項第2号によって無効とすべきものということはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-08-30 
結審通知日 2019-09-04 
審決日 2019-09-25 
出願番号 特願2012-140141(P2012-140141)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (G06F)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 佐藤 聡史
相崎 裕恒
登録日 2013-04-26 
登録番号 特許第5253605号(P5253605)
発明の名称 医薬品相互作用チェックシステム  
代理人 松下 外  
代理人 藤田 知美  
代理人 河合 章  
代理人 松下 外  
代理人 横井 知理  
代理人 笹本 摂  
代理人 辻田 朋子  
代理人 長沢 幸男  
代理人 飯島 歩  
代理人 藤田 知美  
代理人 飯島 歩  
代理人 横井 知理  
代理人 南山 知広  

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